明 細 書
精製リパーゼの製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、各種エステル化反応、エステル交換反応などに好適に使用することが できる精製リパーゼの製造方法、エステル交換反応に好適に使用することができるェ ステル交換用リパーゼの製造方法、これらの方法により得られるリパーゼを用いる油 脂のエステル交換方法及び該リパーゼを含有するリパーゼ組成物に関する。
[0002] (発明の背景)
リパーゼは、脂肪酸などの各種カルボン酸とモノアルコールや多価アルコールなど のアルコール類とのエステル化反応、複数のカルボン酸エステル間のエステル交換 反応などに幅広く使用されている。このうち、エステル交換反応は動植物油脂類の改 質をはじめ、各種脂肪酸のエステル、糖エステルやステロイドの製造法として重要な 技術である。これらの反応の触媒として、油脂加水分解酵素であるリパーゼを用いる と、室温ないし約 70°C程度の温和な条件下でエステル交換反応を行うことができ、従 来の化学反応に比べ、副反応の抑制やエネルギーコストが低減化されるだけでなぐ 触媒としてのリパーゼが天然物であることから安全性も高い。また、その基質特異性 や位置特異性により目的物を効率良く生産することができる。
一方、リパーゼの生産菌培養の際に消泡のため通常培地にシリコーンを添加する ので、添加したシリコーンが採取したリパーゼ中に混入してしまう。このようなリパーゼ を用いて油脂のエステル交換を行うと、得られるエステル交換油脂中にシリコーンが 持ち込まれることがあり、シリコーンを含有する油でフライをすると泡立ちが大きくなる との問題がある。一方、リパーゼの生産菌培養時に、リパーゼが色素などを産生する ことがあり、このようなリパーゼを用いて油脂のエステル交換を行うと、得られるエステ ル交換油脂が着色したり、風味が劣化する場合がある。
そこで、シリコーンやリパーゼに由来すると思われる各種の不純物を高度に除去し た精製リパーゼが求められている。
さらにリパーゼ活性が向上したエステル交換用リパーゼが求められている。
発明の開示
[0003] 従って、本発明は、(精製)リパーゼの製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、又、 (エステル交換用)リパーゼの製造方法を提供することを目的とする 本発明は、又、上記製造方法で得られるリパーゼを用いる油脂組成物の製造方法 を提供することを目的とする。
本発明はまた、上記製造方法で得られるリパーゼを含有するリパーゼ組成物を提 供することを目的とする。
[0004] 本発明は、リパーゼを長鎖脂肪酸トリグリセリド及び中鎖脂肪酸トリグリセリドと混合 すると、リパーゼ中の各種不純物が効率良くトリグリセド中に移行し、リパーゼを精製 できるとの知見に基づいてなされたのである。
すなわち、本発明は、(a)リパーゼに、長鎖脂肪酸トリグリセリドと中鎖脂肪酸トリダリ セリドとを接触させて該リパーゼを精製する工程;及び
(b)精製リパーゼを採取する工程;
を含む、 (精製)リパーゼの製造方法を提供する (本発明の第 1の態様)。
[0005] 本発明は、(a)リパーゼに、グリセリンの脂肪酸部分エステル及び Z又はグリセリン 縮合物の脂肪酸部分エステルを接触させる工程;及び
(b)接触後、リパーゼを採取する工程;
を含む、 (エステル交換用)リパーゼの製造方法を提供する (本発明の第 2の態様)。 本発明はまた、上記製造方法により製造されるリパーゼの存在下、油脂をエステル 交換することを特徴とする油脂組成物の製造方法を提供する。
本発明はまた、上記方法により製造されるリパーゼと、該リパーゼに対し 0.5〜5倍 質量のトリグリセリドとを含有するリパーゼ組成物を提供する。
発明を実施するための最良の形態
[0006] 先ず、本発明の第 1の態様について説明する。
[長鎖脂肪酸トリグリセリド]
本発明で用いる長鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、構成脂肪酸の炭素数が 14〜24、 好ましくは 16〜18のトリグリセリドであるのが好ましい。構成脂肪酸は飽和でも不飽和
でもよく、直鎖でも分岐鎖でもよい。トリグリセリドを構成する 3つの脂肪酸は、 3つ全て が同一でもよぐ 2つの構成脂肪酸が同じで残りの 1つが異なっていてもよぐ 3つ全 てが互いに異なっていてもよい。このうち、炭素数 16〜22の不飽和脂肪酸が好ましく 、特に炭素数 16〜18の直鎖不飽和脂肪酸が好ましい。特に、菜種油、大豆油、ヒマ ヮリ油、紅花油、コーン油からなる群から選ばれるのが好ましい。これらの長鎖脂肪酸 トリグリセリドは単独でも使用することができるし、 2種以上を併用することもできる。 本発明で用いることのできる長鎖脂肪酸トリグリセリドは、公知の製法で製造するこ ともできるし、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば日清オイリオグ ループ社 (株)から商品名キャノーラ油で販売されている。
[0007] [中鎖脂肪酸トリグリセリド]
本発明で用いる中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、構成脂肪酸の炭素数力 〜 12、 好ましくは 8〜10のトリグリセリドであるのが好ましい。構成脂肪酸は飽和でも不飽和で もよぐ直鎖でも分岐鎖でもよい。トリグリセリドを構成する 3つの脂肪酸は、全て同一 でもよく、 2つの構成脂肪酸が同じでもよぐ 3つ全てが互いに異なっていてもよい。こ のうち、炭素数 8〜10の飽和脂肪酸が好ましい。これらの中鎖脂肪酸トリグリセリドは 単独でも使用することができるし、 2種以上を併用することもできる。
本発明で用いることのできる中鎖脂肪酸トリグリセリドは、公知の製法で製造するこ ともできるし、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば日清オイリオグ ループ (株)から商品名 ODOで販売されてレ、る。
本発明の精製リパーゼを油脂のエステル交換用触媒として使用する場合、本発明 において使用する長鎖脂肪酸トリグリセリド及び/又は中鎖脂肪酸トリグリセリドは、 エステル交換する油脂と同じであるのが好ましい。
[0008] 本発明において、長鎖脂肪酸トリグリセリドと中鎖脂肪酸トリグリセリドとを、質量比に して、 99 : 1〜1: 99の割合で使用するのが好ましぐ 95 : 5〜50 : 50の割合で使用する のがより好ましレ、。 90 : 10〜80: 20の割合で使用するのが更に好ましレ、。このような割 合で使用すると、操作性が向上するので好ましい。
本発明において、リパーゼの全質量に対して 2倍〜 100倍、好ましくは 5〜10倍の質 量のトリグリセリドを接触させるのが好ましい。このような量で使用すると、酵素の洗浄
効果が高まるので好ましレ、。
[0009] [リパーゼ]
本発明において使用できるリパーゼとしては、リポプロテインリパーゼ、モノァシルグ リセ口リパーゼ、ジァシルグリセロリパーゼ、トリァシルグリセロリパーゼ、ガラクトリパー ゼ、フォスフォリパーゼ等が挙げられる。これらのうち、トリァシルダリセロリパーゼが好 ましい。
これらのリパーゼを産生する微生物としては、細菌、酵母、糸状菌、放線菌等特に 限定されるものではなレ、が、シユードモナス属(Pseudomonas sp.)、アルカリゲネス属 (Alcaligenes sp.)、ァスロバクター属 (Arthrobacter sp.)、スタフイロコッカス属 (Staphy lococcus sp.)、トノレ口プンス j¾ (Torulopsis sp.)、エステエリ、ンァ属 (Escherichia sp.)、 マイコトノレラ属 (Mycotorula sp.)、プロピオニノ クテリゥム属 (Propionibacterum sp.)、 クロモノ クテジゥム属 (Chromobacterum sp.)、キサン卜モナス属 (Xanthomonas sp.)、 ラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)、クロストリディウム属(Clostridium sp.)、キャンデ イダ属 (Candida sp.)、ジォトリカム属 (Geotrichum sp.)、サッカロマイコプシス属 (Sacc hromycopsis sp.)、ノカノレァ ァ)禹 (Nocardia sp.)、フザリウム属 (Fuzanum spj、 /ス ぺノレギノレス属 (Aspergillus sp.)、ぺニシリウム属 (Penicillium sp.)、リゾムコーノレ属 (Rhi zomucor sp.),ムコーノレ属 (Mucor sp.) ,リゾプス属 (Rhizopus sp.) ,フイコマイセス属 ( Phycomyces sp.)、プチニァ属 (Puccinia sp.)、バチノレス属 (Bacillus sp.)、ストレフ。トマ イセス属(Streptmyces sp.)などが挙げられる。
本発明では、これらのうち、アルカリゲネス属、シユードモナス属、リゾムコール属、 ムコール属、サーモマイセス属、リゾプス属又はぺニシリウム属由来のリパーゼが好ま しく、さらに Rhizomucor miehei及びァノレカリゲネス属の Alcaligenes sp.由来のリパーゼ が好ましい。
本発明で用いるリパーゼは、位置特異性を有していても有していなくてもよレ、。位置 特異性を有している場合、 1,3-特異性であるのが好ましい。
[0010] 本発明で用いるリパーゼは、陰イオン交換樹脂、フエノール吸着樹脂、疎水性担体 、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂等の担体に固定化されている形態であってもよい し、担体に固定化されていない粉末状形態であってもよいが、担体に固定化されて
いない粉末状形態であるのが好ましい。このような粉末状の場合(以下、単に粉末リ パーゼという)、本発明の製造方法により得られる精製リパーゼの酵素活性が更に高 くなるので好ましい。
前記リパーゼが粉末リパーゼである場合、その粒径は任意とすることができる力 そ の 90質量%以上が粒径 l〜100 z m、好ましくは 10〜70 x mであるのが好ましレ、。こ のような範囲にあると、操作性が良いので好ましい。なお、粉末リパーゼの粒径は、例 えば HORIBA社の粒度分布測定装置 (LA_ 500)を用いて測定することができる。 また、反応の前後において、リパーゼの水分量が 0.1〜10%に調整されているのが 好ましレ、。このような範囲にあると、操作性が良いので好ましい。
本発明で用いるリパーゼは、商業的に入手できるものを使用することができる。この ようなリパーゼとしては、例えば、名糖産業 (株)から、商品名リパーゼ QLM、リパー ゼ PL、 NOVOZYMESからリパーゼ RM、リパーゼ TLで販売されている。
本発明で用いるリパーゼが粉末状である場合、例えば、リパーゼ含有水溶液をスプ レードライ又はフリーズドライすることによつても得ることができる。
ここで、リパーゼ含有水溶液としては、菌体を除去したリパーゼ培養液、精製培養 液、これらから得たリパーゼ粉末を再度水に溶解 ·分散させたもの、市販のリパーゼ 粉末を再度水に溶解 ·分散させたもの、市販の液状リパーゼ等が挙げられる。さらに 、リパーゼ活性をより高めるために塩類等の低分子成分を除去したものがより好ましく
、また、粉末性状をより高めるために糖等の低分子成分を除去したものがより好まし レ、。
リパーゼ培養液としては、例えば、大豆粉、ペプトン、コーン 'ステープ カー、 K H
PO、(NH ) SO、 MgSO · 7Η Ο等含有する水溶液があげられる。これらの濃度と しては、大豆粉 0.:!〜 20質量%、好ましくは 1. 0〜: 10質量%、ペプトン 0. :!〜 30質 量%、好ましくは 0. 5〜: 10質量%、コーン 'ステープ'リカー 0.:!〜 30質量%、好まし くは 0. 5〜: 10質量0 /0、 Κ ΗΡΟ 0. 01〜20質量0 /0、好ましくは 0.:!〜 5質量0 /0であ る。又、 (NH ) SO fま 0. 01〜20質量0 /0、好ましく fま 0. 05〜5質量0 /0、 MgSO · 7
Η〇は 0. 01〜20質量%、好ましくは 0. 05〜5質量%である。培養条件は、培養温 度 ίま 10〜40°C、好ましく ίま 20〜35°C、通気量 fま 0. 1〜2. 0WM、好ましく ίま 0. 1
〜1. 5WM、攪拌回転数は 100〜800卬 m、好ましくは 200〜400卬 m、 pHは 3. 0 〜10· 0、好ましくは 4. 0〜9· 5に制御するのがよい。
[0012] 菌体の分離は、遠心分離、膜濾過などで行うのが好ましい。また、塩類や糖等の低 分子成分の除去は、 UF膜処理により行うことができる。具体的には、 UF膜処理を行 レ、、リパーゼを含有する水溶液を 1Z2量の体積に濃縮後、濃縮液と同量のリン酸バ ッファーを添カ卩するという操作を 1〜5回繰り返すことにより、低分子成分を除去したリ パーゼ含有水溶液を得ることができる。
遠心分離は 200〜20, 000 X g、膜濾過は MF膜、フィルタープレスなどで圧力を 3 . 0kg/m2以下にコントロールするのが好ましレ、。菌体内酵素の場合は、ホモジナイザ 一、ワーリンダブレンダー、超音波破砕、フレンチプレス、ボールミル等で細胞破砕し 、遠心分離、膜濾過などで細胞残さを除去することが好ましい。ホモジナイザーの攪 拌回転数は 500〜30, 000卬 m、好まし <は 1 , 000〜15, 000卬 m、ワージングブレ ンダ一の回転数は 500〜: 10, 000卬 m、好まし <は 1, 000〜5, 000卬 mである。攪拌 時間は 0. 5〜: 10分、好ましくは:!〜 5分がよい。超音波破砕は l〜50KHz、好ましく は 10〜20KHzの条件で行うのが良レ、。ボールミルは直径 0. 1〜0. 5mm程度のガラ ス製小球を用いるのがよい。
本発明では、リパーゼ含有水溶液としては、固形分として 5〜30質量%含むものを 用いるのが好ましい。
[0013] スプレードライ等の乾燥工程の直前に、リパーゼ含有水溶液の pHを 6〜7.5に調整 するのが好ましい。特に pHを 7.0以下に、さらに pHを 6.5〜7.0の範囲となるように調 整するのが好ましい。 pH調整は、スプレードライなどの乾燥工程の前のいずれかの 工程において行ってもよぐ乾燥工程の直前の pHが上記範囲内となるように、予めリ パーゼ含有水溶液の pHを調整しておいてもよい。 pH調整には、各種アルカリ剤や 酸を用いることができる力 S、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いるの が好ましい。
又、乾燥工程前の途中の工程において、リパーゼ含有水溶液を濃縮してもよい。濃 縮方法は、特に限定されるものではなレ、が、エバポレーター、フラッシュエバポレータ 一、 UF膜濃縮、 MF膜濃縮、無機塩類による塩析、溶剤による沈殿法、イオン交換
セルロース等による吸着法、吸水性ゲルによる吸水法等があげられる。好ましくは UF 膜濃縮、エバポレーターがよい。 UF膜濃縮用モジュールとしては、分画分子量 3, 0 00〜: 100, 000、好ましく ίま 6, 000〜50, 000の平莫また ίま中空糸莫、材質 ίまポリ アクリル二トリル系、ポリスルフォン系などが好ましい。
[0014] スプレードライは、例えば、ノズノレ向流式、ディスク向流式、ノズル並流式、ディスク 並流式等の噴霧乾燥機を用いて行うのがよい。好ましくはディスク並流式が良ぐアト マイザ一回転数は 4, 000〜20, 000卬 m、カロ熱は人口温度 100〜200。C、出口温 度 40〜: 100°Cで制御してスプレードライするのが好ましい。
又、フリーズドライ (凍結乾燥)も好ましぐ例えば、ラボサイズの少量用凍結乾燥機 、棚段式凍結乾燥により行うのが好ましい。さらに、減圧乾燥により調製することもで きる。
[0015] 本発明の(a)工程において、長鎖脂肪酸トリグリセリド及び中鎖脂肪酸トリグリセリド とリパーゼとを接触させることにより該リパーゼを精製する。接触は、例えば、リパーゼ に、長鎖脂肪酸トリグリセリドと中鎖脂肪酸トリグリセリドとの混合物を添加して、周囲 温度において、 0·5〜100時間、攪拌することにより行うこと力 Sできる。攪拌することによ り、より純度の高い精製リパーゼを得ることができる。
(a)工程後、濾過等によりリパーゼをトリグリセリドから採取する力 (a)工程におい て、さらに濾過助剤と接触させるのが好ましい。濾過助剤と接触させることにより、操 作性が良くなるので好ましい。本発明で用いることのできる濾過助剤としては、 日本 製紙ケミカル (株)から商品名 KCフロックで発売されているもの等があげられる。
[0016] (a)工程において、トリグリセリドに加えて、グリセリンの脂肪酸部分エステル及び/ 又はグリセリン縮合物の脂肪酸部分エステルとを接触させてもよい。グリセリンの脂肪 酸部分エステル及び/又はグリセリン縮合物の脂肪酸部分エステルと接触させること により、得られる油脂組成物の色や臭レ、も良好となるので好ましい。
[グリセリンの脂肪酸部分エステル及びグリセリン縮合物の脂肪酸部分エステル] グリセリンの脂肪酸部分エステルとしては、モノグリセリド及びジグリセリド等があげら れる。ここで、使用できるモノグリセリドとしては、炭素数 8〜22の脂肪酸とグリセリンと のエステルがあげられる。具体的には、ォレイン酸モノグリセリド、リノール酸モノダリ
セリド、ステアリン酸モノグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド等があげられる。このう ち、ォレイン酸モノグリセリドが好ましい。 2種以上のモノグリセリドを併用してもよい。 ジグリセリドとしては、炭素数 8〜18の脂肪酸とグリセリンとのエステルがあげられる。 具体的には、ォレイン酸ジグリセリド、リノール酸ジグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド 、パルミチン酸ジグリセリド等があげられる。このうち、ォレイン酸ジグリセリドが好まし レ、。 2種以上のジグリセリドを併用してもよい。
[0017] (gl)グリセリンの脂肪酸部分エステル及び/又はグリセリン縮合物の脂肪酸部分 エステルと(g2)トリグリセリドとは、質量比(gl)Z(g2)にして、 1 : 99〜99 : 1の割合で 使用するのが好ましぐ 1 : 99〜60 : 40の割合で使用するのがより好ましレ、。 (gl)モノ グリセリド及び Z又はジグリセリドと(g2)トリグリセリドとは、質量比(gl) Z (g2)にして 、 0.1 : 99.9〜99 : 1の割合で使用するのが好ましぐ 0.1 : 99.1〜90: 10の割合で使用す るのがより好ましい。このような割合で使用すると、良好な色のエステル交換油が得ら れるので好ましい。
グリセリンの脂肪酸部分エステルとグリセリン縮合物の脂肪酸部分エステルとを併用 する場合、グリセリンの脂肪酸部分エステルとグリセリン縮合物の脂肪酸部分エステ ノレとは、質量比にして、 99 : 1〜1: 99の割合で使用するのが好ましぐ 99 : 1〜50 : 50の 割合で使用するのがより好ましい。モノグリセリドとジグリセリドとを併用する場合、 1 : 9 9〜90: 10の割合で使用するのがより好ましい。このような割合で使用すると、操作性 が向上するので好ましい。
[0018] グリセリン縮合物の脂肪酸部分エステルとしては、炭素数 8〜 18の脂肪酸とのエステ ルがあげられる。具体的には、ポリグリセリンォレイン酸エステル等があげられる。この うち、デカグリセリンォレイン酸エステルが好ましい。 2種以上のグリセリン縮合物の脂 肪酸部分エステルを併用してもよい。
グリセリンの脂肪酸部分エステル及び/又はグリセリン縮合物の脂肪酸部分エステ ノレは、菜種油等の液状油脂を加水分解し、分子蒸留する等の当業者に公知の方法 で製造することもできるし、市販品を使用することができる。例えば、モノグリセリドとし て、太陽化学 (株)より商品名サンソフト 8090で発売されているものを使用することが できる。
(a)工程において、濾過助剤とグリセリンの脂肪酸部分エステル及び/又はグリセリ ン縮合物の脂肪酸部分エステルとを併用するのが繰り返し反応の点で好ましい。
[0019] このようにして製造した精製リパーゼはそのまま使用することができる力 トリグリセリ ドに浸漬又は湿潤させたリパーゼ組成物として使用するのが取り扱い性の観点から 好ましレ、。ここで、リパーゼ組成物中のトリグリセリドの質量は、該リパーゼに対し 0.5 〜5倍であるのが好ましぐ 1〜3倍であるのがより好ましい。
[0020] 次に、本発明の第 2の態様について説明する。
ここでは、グリセリンの脂肪酸部分エステルとしては、炭素数 8〜22、好ましくは 14〜 18の脂肪酸とグリセリンとのモノグリセリドである力、、又は炭素数 8〜18、好ましくは 14 〜18の脂肪酸とグリセリンとのジグリセリドであるのが好ましい。
(a)工程において、トリグリセリドをカ卩えてもよい。グリセリンの脂肪酸部分エステルと しては、モノグリセリド及びジグリセリド等があげられる。ここで、使用できるモノダリセリ ドゃジグリセリドとしては、本発明の第 1の態様について記載したものをもちいることが できる。 (gl )グリセリンの脂肪酸部分エステル及び/又はグリセリン縮合物の脂肪酸 部分エステルと(g2)トリグリセリドを用いることができ、これらは本発明の第 1の態様に ついて記載したものをもちいることができる。又、グリセリン縮合物の脂肪酸部分エス テルやリパーゼについても、本発明の第 1の態様について記載したものをもちいるこ とができる。すなわち、本発明の第 1の態様について記載した [グリセリンの脂肪酸部 分エステル及びグリセリン縮合物の脂肪酸部分エステル]についての記載内容及び [ リパーゼ]についての記載内容力 本発明の第 2の態様についても適用される。
[0021] 本発明の第 2の態様の(a)工程において、グリセリンの脂肪酸部分エステル及び/ 又はグリセリン縮合物の脂肪酸部分エステルとリパーゼとを接触させることによりよりリ パーゼ活性の高いエステル交換用リパーゼを得ることができる。接触は、例えば、リ パーゼに、グリセリンの脂肪酸部分エステル及び/又はグリセリン縮合物の脂肪酸部 分エステルを添カ卩して、周囲温度において、 0.5〜100時間、攪拌することにより行うこ とができる。攪拌することにより、よりリパーゼ活性の高いエステル交換用リパーゼを 得ること力 Sできる。
(a)工程後、濾過等によりリパーゼをグリセリンの脂肪酸部分エステル及び/又はグ
リセリン縮合物の脂肪酸部分エステル力 採取するが、(a)工程において、さらに濾 過助剤と接触させるのが好ましい。濾過助剤としては、本発明の第 1の態様について 記載したものを用いることができる。 (a)工程において、さらにトリグリセリドと接触させ るのが好ましい。ここで、トリグリセリドとしては、長鎖脂肪酸トリグリセリド及び/又は中 鎖脂肪酸トリグリセリドであるのが好ましい。
本発明で用いることのできる長鎖脂肪酸トリグリセリド及び中鎖脂肪酸トリグリセリドと しては、本発明の第 1の態様について記載したものを用いることができる。すなわち、 本発明の第 1の態様について記載した [長鎖脂肪酸トリグリセリド]及び [中鎖脂肪酸ト リグリセリド]についての記載内容が、本発明の第 2の態様についても適用される。 本発明の第 2の態様によると、原料リパーゼに較べて、そのエステル交換活性が少 なくとも 2〜10倍、望ましくは 2〜5倍以上上昇したエステル交換用リパーゼを製造す ること力 Sできる。ここで、エステル交換活性は、 S. Negishi, S. Shirasawa, Y. Arai, J. Su zuki, S. Mukataka, Enzyme Microb. Technol, 32, 66-70(2003)の開示に従い測定し た。すなわち、トリオレインとトリカプリリンをそれぞれ 5gを用いてエステル交換を行い 、エステル交換の度合いをガスクロマトグラフィーを用いて測定してエステル交換活 性を算出した。
このようにして製造したエステル交換用リパーゼはそのまま使用することができるが 、グリセリンの脂肪酸部分エステル及び/又はグリセリン縮合物の脂肪酸部分エステ ルに浸漬又は湿潤させたリパーゼ組成物として使用するのが取り扱い性の観点から 好ましい。ここで、リパーゼ組成物中のグリセリンの脂肪酸部分エステル及び/又は グリセリン縮合物の脂肪酸部分エステルの質量は、該リパーゼに対し 0.5〜5倍であ るのが好ましぐ 1〜3倍であるのがより好ましい。
本発明の第 1及び第 2の態様により得られるリパーゼは、エステル交換用リパーゼと して好適に使用することができる。このリパーゼを用レ、、定法によりトリグリセリドなどの エステル交換反応を効率的に行うことができる。詳細には、エステルとエステルとの反 応の他、エステルとアルコール又はカルボン酸との反応に使用することができる。さら に、本発明のリパーゼは、アルコールとカルボン酸とからエステルを合成する反応に あ使用すること力 Sでさる。
[0023] より具体的には、エステル交換は、エステルに、アルコール性水酸基を分子内に少 なくとも 1つ有する化合物、カルボン酸又はエステルに作用させることにより行うが、ェ ステル交換の対象とするエステルとしては、炭素数 4〜22のトリグリセリドがあげられる 。具体的には、菜種油、大豆油、ひまわり油、コーン油、米油、紅花油、ゴマ油、アマ 二油、パーム油及びその分別油、ヤシ油、ォリーブ油、キャノーラ油、つばき油、力力 ォ脂、シァ脂、サル脂、ィリッペ脂などの植物油、魚油、牛脂、豚脂などの動物脂等 力あげられる。このうち、菜種油、中鎖トリグリセリドが好ましい。
アルコール性水酸基を分子内に少なくとも 1つ有する化合物としては、各種モノァ ノレコール、植物ステロール、多価アルコール、ァミノアルコールなど種々の化合物力 S あげられる。具体的には、短鎖、中鎖、長鎖の飽和、不飽和、直鎖、分岐アルコール 、グリコーノレ類、グリセリン、エリスリトール類といった多価アルコールがあげられる。こ れらのうち、グリセリンが好ましい。
[0024] カルボン酸としては、短鎖、中鎖、長鎖の飽和、不飽和、直鎖、分岐カルボン酸が あげられる。これらのうち、炭素数 6〜30の脂肪酸、例えば、オクタン酸、デカン酸、ラ ゥリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ォレイン酸、リノール酸、リノレイ ン酸などがあげられる。これらは 1種又は 2種以上を併用して用いることができる。これ らのうち、不飽和脂肪酸が好ましぐ特に共役リノール酸を用いるのが好ましい。 エステル交換の条件は、例えば、特開平 13— 169795号公報などに記載の条件に 準じて行うことができる。一例をあげると、中鎖トリグリセリド ODO (日清オイリオグノレー プ (株))と菜種油とを本発明のエステル交換用リパーゼでエステル交換して中鎖脂 肪酸トリグリセリドを得ることができる。
なお、(a)のぺニシリウム属(Penicillium sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパ ーゼを使用する場合には、基質の合計質量に対して 0.:!〜 5質量%の水を予め添 カロして反応を開始させて反応を行うのがよい。
[0025] 本発明の製造方法により得られるリパーゼは、ろ過して再生することにより、繰り返し 使用すること力 Sできる。再生したリパーゼを使用する場合、再生したリパーゼのみを使 用することもできるし、本発明により得られた未使用のリパーゼと併用することもできる
本発明の第 1の態様によれば、シリコーン等の不純物含量を低減した精製リパーゼ を得ることができる。特に、シリコーンの含有量を lOOppm以下に低減したリパーゼを 得ること力 Sできる。また、風味、色の良好な油脂組成物を得ることができる。また、フラ ィ時の泡立ちを抑制した、調理作業性の良好な油脂組成物を得ることが出来る。 本発明の第 2の態様によれば、エステル交換活性が向上したリパーゼを得ることが できる。また、風味 '色 ·臭いの良好な油脂組成物を得ることができる
実施例
[0026] 実施例 1
名糖産業社製リパーゼ QLM20gに対して菜種油 90g、 ODO(日清オイリオグループ 株) 10g、ろ過助斉 IJKCフロック(日本製紙ケミカル株) 20gを添加して 25°Cで 5時間攪拌 した後ろ過した。菜種油 90g、 ODO (日清オイリオグノレープ株) 10gを他の油、溶剤に変 えて同様の実験を行い、処理後のリパーゼのシリコーン含量を HPLC (島津製作所)で 測定した。
次いで、 ODO(日清オイリオグループ株) 150g、菜種油(日清オイリオグノレープ株) 85 Ogに、得られたリパーゼ 0.5%を添加し、 15時間攪拌し、エステル交換反応を行った。 反応終了後、リパーゼを濾過した。その後、得られた油を定法で脱酸、脱色及び脱 臭し、エステル交換油を調製した。
得られたエステル交換油の色をロビーボンドで測定し、油の風味を訓練されたパネ ラーにより比較した。
結果
下記の表のように長鎖脂肪酸トリグリセリドと中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合して前 処理することでシリコーンを低減させることができた。
また、本発明の製造方法により得られた精製リパーゼを用いてエステル交換反応を 行うと色風味ともに良好な油脂が得られることが分った。
[0027] [表 1]
シリコーン (ppm) —エステル交換油の色 エステル交換油の風味 処理前 5000 1 1 Y5R X 菜種油/ ODO=9/1* 100以下 5Y2R 〇
ODOのみ 1800 8Y3R 厶
菜種油のみ 2300 9Y4 厶
へキサン 3000 7Y3R X
THF 1800 10Y5 X 才クタン酸 4000 10Y4R X
* :実施例
[0028] 実施例 2
各種リパーゼ 20gに対して菜種油 90g、 ODO (日清オイリオグループ株) 10g、モノダリ セリド (サンソフト 8090太陽化学) 100g、ろ過助剤 KCフロック(日本製紙ケミカル株) 20g を添加して 25°Cで 5時間攪拌した後ろ過した。粉末リパーゼ RMと TLは、市販の酵素 溶液 (パラターゼ、リポザィム TL100L)を限外ろ過後スプレードライヤーを用いて粉末 化して製造した。得られたリパーゼについて、実施例 1と同様にしてエステル交換油 を製造して、その色を測定し、油の風味を評価した。
[0029] [表 2] エステル交換油 エス亍ル交換油の風 リパーゼ シリコーン (ppm) の色 味 リパーゼ QLM (名糖産業) 100以下 7Y3R o o o o o
リパーゼ PL (名糖産業) 80以下 6Y3R
リパ一ゼ RM(NOVOZYMES) 50以下 8Y2R
リパーゼ TL(NOVOZYMES) 50以下 8Y3R
リパーゼ D (天野 ENZYME) 50以下 7Y2R 実施例 3
リパーゼ QLM20gに対して菜種油と ODO(日清オイリオグループ株)を 9/1で混合し たトリグリセリド、モノグリセリド (サンソフト 8090太陽化学)をあわせて 100g、ろ過助剤 K Cフロック(日本製紙ケミカル株) 20gを添加して 60°Cで 3時間攪拌した後ろ過した。この 時トリグリセリドとモノグリセリドの割合を変化させた。得られたリパーゼについて、実施 例 1と同様にしてエステル交換油を製造して、その色を測定し、油の風味を評価した
[0031] [表 3]
トリグリセリド /モノグ
リセリドの比率 シリコーン (ppm) エステル交換油の色 エステル交換油の風味
100以下 5Y2R
100以下 5丫 2R
52111 1///// / 100以下 4Y2R
o 25111 100以下 6Y2R
100以下 6Y4R
100以下 5Y3R
[0032] 実施例 4
名糖産業社製リパーゼ PL20gに対して菜種油 90g、 ODO(日清オイリオグノレープ株) 10g、ろ過助剤 KCフロック(日本製紙ケミカル株) 20gを添加して 25°Cで 5時間攪拌した 後ろ過した。得られたリパーゼについて、実施例 1と同様にしてエステル交換油を製 造して、その色を測定し、油の風味を評価した。
[0033] [表 4]
結果
シリコーン (ppm) エステル交換油の色 エステル交換油の風味
80以下 5Y3R o
シリコーン (ppm) エステル交換油の色 エステル交換油の風味 処理前 3000 12Y6R X
菜種油/ ODO-9/1 100以下 6Y3R 00 00000
[0034] 実施例 5
リパーゼ QLM20gに対して菜種油 90g、 OD〇(日清オイリオグノレープ株) 10g、菜種油 を加水分解後分子蒸留により得たジグリセリド 200g、ろ過助斉 IjKCフロック(日本製紙 ケミカル株) 20gを添カ卩して 25°Cで 5時間攪拌した後ろ過した。得られたリパーゼにつ いて、実施例 1と同様にしてエステル交換油を製造して、その色を測定し、油の風味 を評価した。
[0035] [表 5] シリコーン (ppm) エス于ル交換油の色 エステル交換油の風味
100以下 5Y3R O
[0036] 実施例 6
各種リパーゼ 20gに対して菜種油 90g、 ODO (日清オイリオグループ株) 10g、モノダリ
セリド (サンソフト 8090太陽化学) 100g、ろ過助剤 KCフロック(日本製紙ケミカル株) 20g を添加して 25°Cで 5時間攪拌した後ろ過した。粉末リパーゼ RMと TLは、市販の酵素 溶液 (パラターゼ、リポザィム TL100L)を限外ろ過後スプレードライヤーを用いて粉末 化して製造した。
次いで、 OD〇(日清オイリオグループ株) 150g、菜種油(日清オイリオグノレープ株) 85 0gに、得られたリパーゼ 0.5%を添加し、 15時間攪拌し、エステル交換反応を行った。 反応終了後、リパーゼを濾過した。その後、得られた油を定法で脱酸、脱色及び脱 臭し、エステル交換油を調製した。
得られたリパーゼのエステル交換活性を、 Negishi, S. Shirasawa, Y. Arai, J. Suzuki, S. Mukataka, Enzyme Microb. Technol, 32, 66-70(2003)の開示に従い測定し、相対 値で表した。
[表 6] リパーゼ 処理前活性 処理後活性 リパーゼ QLM (名糖産業) 1 3.1
リパーゼ PL (名糖産業) 1 2.8
リパーゼ RM (ノボザィム社) 1 4.1
リバ一ゼ TL (ノボザィム社) 1 2.6
[0038] 実施例 7
リパーゼ QLM20gに対して菜種油と ODO(日清オイリオグループ株)を 9/1で混合し たトリグリセリド、モノグリセリド (サンソフト 8090太陽化学)をあわせて 100g、ろ過助剤 K Cフロック(日本製紙ケミカル株) 20gを添加して 60°Cで 3時間攪拌した後ろ過した。この 時トリグリセリドとモノグリセリドの割合を変化させた。得られたリパーゼについて、実施 例 6と同様にしてエステル交換油を製造し、そのエステル交換活性を測定した。
[0039] [表 7]
卜リグリセリド /モノグ
リセリドの比率 処理前活性 処理後活性
1 /0* 1 1.8
2/1 1 2.1
1 /1 1 2.5
1 /2 1 3.7
1 /5 1 4.0
1 /10 1 3.6
*比較例
[0040] 実施例 8
リパーゼ QLM20gに対して菜種油 90g、 OD〇(日清オイリオグノレープ株) 10g、菜種油 を加水分解後分子蒸留により得たジグリセリド 200g、ろ過助斉 IjKCフロック(日本製紙 ケミカル株) 20gを添カ卩して 25°Cで 5時間攪拌した後ろ過した。得られたリパーゼにつ いて、実施例 6と同様にしてエステル交換油を製造し、そのエステル交換活性を測定 した。
[0041] [表 8] 処理前活性 処理後活性
菜種油/ ODO/DGA=9/1 /20 1 5.2