明 細 書
HCVウィルスタンパク質をコードする DNAを保有する組換えワクチニァ ウイ/レス DIs株、およびその利用
技術分野
[0001] 本発明は、 HCVウィルスタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコードする D NAをゲノム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィルス DIs 株に関する。
背景技術
[0002] ヮクチ-ァウィルスは、種痘として多数の人に接種され、天然痘の撲滅に貢献して きたウィルスである。 200以上のウィルス蛋白をコードする遺伝子を持つ大きな 2本鎖 DNAウィルスで、ゲノムの全長は約 200kBpにおよび、細胞質で複製するために DNA と mRNA合成に関与する酵素群を自らがコードして 、ると 、う特徴がある。
[0003] し力しながら、コードする遺伝子のかなりの部分はウィルス複製には必須ではなぐ 欠損させてもウィルスは増殖することができる。また、ヮクチ-ァウィルスは、ほとんど すべての哺乳類由来培養細胞に感染し、増殖することができる (非特許文献 1参照) 。更に、高い発現量を持つ、 目的蛋白質が培養細胞により正しく翻訳後修飾されるな ど、外来遺伝子導入、発現ベクターとしてワクチ-ァウィルスは分子生物学や免疫学 の研究に広く応用されるようになってきている。また、長年にわたり種痘として用いら れてきた歴史を持っため、ヒトに投与された場合の安全性に関する研究結果も蓄積 されている。そのため、組換えワクチニァウィルスを生ワクチンとして用いようという研 究も数多くの研究室で進められて 、る。
[0004] し力しながら、組換えワクチ-ァウィルスを生ワクチンとして用いるためには、その副 作用につ 、ても十分な注意を払う必要がある。種痘の最も重篤な副作用の例が種痘 後脳炎である。最も安全といわれ世界中で広く使用されたリスター株でも、その発症 率は百万人あたり数人と低いとはいえ、発症した場合の致死率は 10%から 40%にも 及ぶ。このような重篤な副作用を除くため、世界中で高度弱毒化ワクチニァ株の開発 研究がなされた。 1950年代に国立予防衛生研究所 (現在の国立感染症研究所)に
おいて北村敬らによって行われたヮクチ-ァウィルスの弱毒化研究はその先駆けで ある。 日本で用いられていたワクチン株、大連株 (DI株)を一日卵継代を用いて長期に わたり継代培養し、確立された弱毒株が DIs株である。一日卵技術は発生開始 24時 間目の-ヮトリ胎児に直接ウィルスを接種する方法で、当時、国立予防衛生研究所 の吉野亀三郎により開発されたものである。これによりヘルぺスウィルスや狂犬病ウイ ルスなど広い範囲のウィルスを培養、増殖させることができた。この最新技術で得ら れた DI株の変異株は親株より小さなボックを漿尿膜上に示し、 DIs株と名付けられた。 DIs株は、親株である DI株とは異なり、孵化鶏卵ゃニヮトリ胎児繊維芽細胞 (CEF)では 増殖する力 他のほとんどの哺乳類細胞には感染はしても細胞内で増殖しないという ユニークな性質を示した (非特許文献 2参照)。従って人に接種しても善感せず、実用 的な弱毒化ヮクチ-ァ株となることはできな力 た (非特許文献 3参照)。
[0005] 近年に榭立された類似の弱毒ワクチ-ァウィルスは、その強い細胞性免疫の誘導 能から感染性疾患に対する組換え生ワクチンとして利用しょうという研究が急速に進 展しつつある。特に、 1975年に Mayrらによって榭立された MVA(modified vaccinia An kara)株 (非特許文献 4参照)は、 HIVの一部の蛋白を組み込んだ組換えウィルスが強 い細胞性免疫を誘導することが確かめられ、 AIDSに対する組換え生ワクチンとして臨 床治験の段階に達しようとしている (非特許文献 5参照)。また、 Paolettiらにより 1992年 に榭立された NYVACは、ヮクチ-ァウィルスのゲノムから 18の遺伝子を人工的に欠 損させて弱毒化したもので (非特許文献 6参照)、同様の組換え生ワクチンとしての応 用研究が進展して ヽる (非特許文献 7参照)。
[0006] C型肝炎ウィルス (HCV)は、従来非 A非 B型肝炎ウィルスと呼ばれて!/、たウィルスで 、 1989年に米国のカイロン社によって遺伝子がクローユングされた、プラス一本鎖 RN Aをゲノムとするウィルスである(非特許文献 8参照)。その後、カイロン社を含む複数 のグループにより全塩基配列が決定され、 3種類の構造蛋白と 6種類の非構造蛋白 が存在することが明らかにされてきた。
[0007] 現在ウィルスキャリアは、我が国では 150万人以上!/、ると!/、われて!/、る。 HCV感染者 は高い確率で慢性肝炎から肝硬変、肝細胞癌へと移行するため、感染防御ばかりで なく既感染者の発症予防やウィルス排除のための効果的なワクチン開発の確立が社
会的に強く求められている。
C型肝炎の治療には従来インターフェロンが用いられている力 治療効果が患者に よってまちまちである点や、発熱などの副作用が強い点が問題となっている。
[0008] ウィルス感染にお!ヽては、ウィルス特異的細胞傷害性 T細胞 (CTL)がウィルス排除 に重要な役割を果たしている力 HCV感染者においても、血中および肝組織中に H CV特異的 CTLが存在することが明らかにされている(非特許文献 9および 10参照)。 しかしながら HCVは CTL応答が弱ぐ CTL応答力ものエスケープが HCV感染の慢性 ィ匕に関与していると考えられる。従って HCV感染者の体内で、 HCVに対する強い CT Lを誘導することが、ウィルスの生体からの排除に極めて有効であることが示唆された
[0009] し力しながら、弱毒ワクチ-ァウィルスを C型肝炎治療に応用した例はこれまでのと ころ知られていな力つた。さらに、 HCVに対して強く CTLを誘導し得る有用なワクチン も知られていなかった。
[0010] 非特許文献 1: Moss, B.著、「Poxviridae. In "Fields Virology" (B. N. Fields, D. M. K nipeおよび P. M. Howley,編)」、第 4版、 Philadelphia ^ Lippincott— Raven Publishers ^ 2 001年、 pp. 2849-2883
非特許文献 2 : Tagaya, I.外 2名著、「A new mutant of dermovaccinia virus.」、 Nature 、 1961年、 Vol.192, p.381-382
非特許文献 3 :北村敬 著、中公新書「天然痘が消えた」、中央公論社、 1982年 非特干文献 4: Mayr, A.外 2名 、「 Abstammung, Eigenschaften und Verwenaung de s attenuierten Vaccinia- Stammes MVA.」、 Infection ^ 1975年、 Vol. 3、 p.6-14.
非特許文献 5 : Hanke, T.外 8名著、「Development of a DNA- MVA/HIVA vaccine for Kenya.」、 Vaccineゝ 2002年、 Vol.20, p.1995- 1998.
非特許文献 6 : Tartaglia, J.外 11名著、「 NYVAC: a highly attenuated strain of vacci nia virus. J , Virology, 1992年、 Vol.188, p.217-232.
特許文献 7 : Kazanji, M.外 7名着、「Immunogenicity and protective efficacy of reco mbinant human T- cell leukemia/lymphoma virus type 1 NYVAC and naked DNA vac cine candidates in squirrel monkeys (Saimiri sciureus).」、 J. Virol.、 2001年、 Vol.75、
p.5939- 5948.
非特許文献 8 : Science, 1989年、 Vol. 244、 p.359- 362
非特許文献 9 : Hepatology、 1993年、 Vol.18、 p.1039- 1044
非特許文献 10 : J. Immunol, 1992年、 Vol.149, p.3339-3344
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0011] 本発明は上記状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、 HCVに対して感染 予防もしくはウィルス排除のための効果的なワクチンの提供を課題とする。より詳しく は、 HCVに対して強く CTLを誘導し得る有用なワクチンの提供を課題とし、より具体 的には、 HCVウィルスタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコードする DNAを ゲノム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィルス DIs株の 提供を課題とする。
課題を解決するための手段
[0012] 本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。まず、本発明者らは、 DIs 株の遺伝子構造の解析を行い、 DIs株のゲノム DNAの左端に 1箇所の大きな欠損が あることを見出した。そして、該欠損部位を挟む領域の中央に挿入されるトランスファ 一ベクターを構築し、相同組換えによって目的外来遺伝子と大腸菌由来の薬剤耐性 遺伝子 XGPRTが挿入されるようなウィルスベクターを設計した。
[0013] このようにして設計された DIs株のウィルスベクターとしての有用性を確認するため、 外来遺伝子として T7 polymeraseを組み込んだウィルスを細胞に感染させ、 T7 promo terの下流にルシフェラーゼ遺伝子をつないだプラスミドをトランスフエタトしたところ、 強いルシフェラーゼ活性が観察された。またいずれの細胞でも CPE (cytopathic effec ts)は観察されず、さらに感染細胞で増殖せず、細胞傷害性も殆ど見られないことか ら、ウィルスベクターとして極めて有用であることが示唆された。
また DIs株に外来遺伝子として HCVタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコ ードする DNAを挿入したところ、 CTLが誘導されることが分力つた。
[0014] CTL応答が弱いためにウィルスを完全に生体力も排除することが困難であった HC Vだが、ヮクチ-ァウィルスの強い免疫誘導能を応用し、 HCVがコードする蛋白の全
部または一部を DIsに組み込み、これらの組換えウィルスを投与することによって、 H CVがコードする蛋白に対する強!、CTL応答を誘導することができると考えられる。ま た、本発明の組換えウィルスは、 C型肝炎に対する効果的な生ワクチンとなる可能性 が考えられる。
さら〖こ本発明者らは、両末端の一部の配列を除く DIsの全塩基配列を決定すること に成功した。これにより、より効率的な糸且換え DIsの作製が可能となった。
即ち本発明は、 HCVウィルスタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコードす る DNAをゲノム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィルス DIs株〖こ関し、より詳しく〖ま、
〔1〕 HCVウィルスタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコードする DNAをゲ ノム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィルス DIs株、 〔2〕 HCVウィルスタンパク質が HCV非構造タンパク質である、〔1〕に記載の組換え ヮクチ-ァウィルス DIs株、
〔3〕 前記タンパク質をコードする DNA力 ゲノム DNAの非必須領域上に保有された ものである、〔1〕または〔2〕に記載の組換えワクチ-ァウィルス DIs株、
〔4〕 非必須領域が対 DI株欠損領域もしくは該領域の近傍領域である、〔3〕に記載 の組換えワクチ-ァウィルス DIs株、
〔5〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の組換えワクチ-ァウィルス DIs株のゲノム DNA、 〔6〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分とし て含む、 C型肝炎ウィルスワクチン、
〔7〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の組換えワクチンウィルス DIs株を有効成分として含 む、ウィルス特異的細胞傷害性 T細胞応答誘導剤、
を提供するものである。
さらに本発明は、以下の〔8〕〜〔11〕を提供するものである。
〔8〕前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株の、 C型肝炎ウィルスワクチンの製造におけ る使用、
〔9〕前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株の、ウィルス特異的細胞傷害性 T細胞応答 誘導剤の製造における使用、
〔10〕前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株を個体 (対象者、被検者、患者等)へ投与 する工程を含む、ウィルス特異的細胞傷害性 T細胞応答を誘導する方法、
〔11〕前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株を個体へ投与する工程を含む、 C型肝炎を 予防もしくは治療する方法。
図面の簡単な説明
[0016] [図 1]ヮクチ-ァウィルス DIs株のゲノムの解析と同定された欠損部位を示す図である
。ゲノムの右端に近い部位 15.4kbpが欠損していた。欠損部分を挟む 1.9kbpのフラグ メントを増幅し、トランスファーベクターの相同組換え領域として使用した。
[図 2]DIsトランスファーベクター pDIsmH5の構造を示す図である。 mH5プロモーターの 下流のマルチクローユングサイト (MCS)に目的の外来遺伝子を挿入する。
[図 3]相同組換えによる組換え DIs作成の模式図: DIsを CEFに感染させた後トランスフ ァーベクターを感染細胞内にトランスフエクシヨンすると、低い確率ではあるがウィルス 複製の過程でウィルスの DNAポリメラーゼがベクター側に組み込まれた DIsの領域を 複製するため、目的遺伝子が組み込まれた DIsが生成する。この際に薬剤耐性遺伝 子 XGPRTも同時に組み込まれるため、 MPA存在下でプラークアツセィを行うと目的と する DIsのみが増幅する。
[図 4]HCVの構造領域を発現する組換え DIs/J228を投与したマウスにおける液性免 疫の誘導を示すグラフである。上段は HCVの core、下段は HCVの E2を用いた結果を 示す。左列は静脈へのウィルス注入、右列は腹腔へのウィルス注入の結果を示す。
[図 5]HCVの構造、非構造領域を発現する組換え DIsを投与したマウスにおける細胞 性免疫誘導の結果を示すグラフである。縦軸は ELISPOT法による IFN- γ陽性 T細胞 数を示す。構造領域は 4つに、 NS5A領域は 2つに分割し、それぞれの領域に対応す る overlappingペプチドで刺激した T細胞で IFN- yを分泌する細胞数を測定した。な お、構造領域は 1が coreに、 2力 1に、 3、 4が E2に対応している。
発明を実施するための最良の形態
[0017] 本発明は、 HCVウィルスタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコードする D NA (本明細書において「HCVウィルス DNA」と記載する場合あり)をゲノム DNA上に保 有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィルス DIs株を提供する。
[0018] HCVウィルス(C型肝炎ウィルス)は、一般的に、種々のタイプ (遺伝子型)が知られ ている(例えば、 lb,2a,2b等)。本発明における HCVウィルスは、特定のタイプに属す るウィルスに制限されず、これら全てのタイプに属するウィルスを指す。
[0019] 本発明の組換えウィルス株は、その特徴として、ヮクチ-ァウィルス DIs株ゲノム上 へ HCVタンパク質をコードする DNAが挿入された (組み込まれた)ゲノム構造を有す るヮクチ-ァウィルス DIs株である。
[0020] 本発明において用いられる、 HCVタンパク質とは、 HCVゲノム上に存在する遺伝子 によってコードされるタンパク質 (本明細書にぉ 、て「HCVタンパク質」と記載する場 合あり)、もしくは該タンパク質の部分ペプチドを指す。本発明の上記タンパク質には 、例えば、構造タンパク質、調節タンパク質、およびアクセサリータンパク質等が含ま れる。
[0021] 本発明において、 DIs株ゲノム DNA上に保有される HCVタンパク質をコードする DN Aとしては、 CTL活性を有する HCV由来のタンパク質をコードする DNAであることが好 ましい。上記 DNAとしては、例えば、コアタンパク質を発現する領域、構造タンパク質 全体(コアタンパク質および 2つのエンベロープタンパク質; core、 El、 E2)を発現する 領域、プロテアーゼタンパク質(非構造タンパク質 (NS2, NS3, NS4A, NS4B, NS5B)) を発現する領域、および NS5Aと呼ばれるインターフェロン感受性を規定して 、る領域 に含まれる DNAを挙げることができる。
[0022] 上記の構造タンパク質、および非構造タンパク質に分類させる各タンパク質のァミノ 酸配列および該アミノ酸配列をコードする塩基配列に関する情報は、当業者におい ては、それぞれのタンパク質の名称を基に、公知の文献あるいは公共のデータべ一 スから容易に取得することができる。これら情報を基に上記タンパク質もしくは該タン パク質の部分ペプチドをコードする DNAについて、適宜クローユングし、本発明の DIs 株の作製に用いることは可能である。
[0023] 本発明において用いられる HCVウィルスタンパク質としては、後述の実施例に示す ように、好ましくは、非構造タンパク質であり、より好ましくは NS5A (配列番号: 12に記 載の塩基配列によってコードされるタンパク質)である。その他、上記 NS5A以外にも、 例えば、本発明において用いられる HCVウィルスタンパク質として、 NS2 (配列番号:
13に記載の塩基配列によってコードされるタンパク質)、 NS3 (配列番号: 14に記載 の塩基配列によってコードされるタンパク質)、 NA4A (配列番号: 15に記載の塩基配 列によってコードされるタンパク質)、 NS4B (配列番号: 16に記載の塩基配列によつ てコードされるタンパク質)、または、 NS5B (配列番号: 17に記載の塩基配列によって コードされるタンパク質)等を挙げることができる。
[0024] 本発明の好まし 、態様にぉ 、ては、上記タンパク質をコードする DNAもしくは該 DN Aの断片をゲノム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィル ス DIs株である。
[0025] 本発明において DIsウィルス株ゲノム DNAにおける、 HCVウィルスタンパク質をコー ドする DNAを挿入する領域としては、特に制限されないが、例えば、 DIs株と親株のヮ クチ-ァウィルス株とのゲノムを比較した際に、 DIs株において欠損しているゲノム領 域を好適に挙げることができる (該領域を「対 DI株欠損領域」と記載する場合あり)。 本発明における「対 DI株欠損領域」は、例えば、 DIs株のゲノム DNAの制限酵素切断 ノ ターンを親株の DI株と比較することにより、ゲノム上のどの領域が上記領域である かを調べることができる。該領域は通常、 DIs株の複製には不必要である。なお、 DIs ウィルス株ゲノム DNAとしては、より具体的には、配列番号: 11に記載された塩基配 列を好適に示すことができる。ヮクチ-ァウィルスのコペンハーゲン株のゲノム DNA ( GenBankァクセッション番号: M35027)における該「欠損領域」は判明している。該「欠 損領域」は、具体的には、コペンノ、一ゲン株のゲノム DNAにおいて、 5'側から数えて 17145-32562位に相当する領域 (配列番号: 18)である。当業者においては、本明細 書にお 、て開示された情報を基に、上記「欠損領域」が親株 (大連株)のゲノム DNA 上のどの領域に相当するかについて、適宜知ることが可能である。
[0026] 本発明の好まし 、態様にぉ 、ては、 HCVウィルス DNA力 上記の対 DI株欠損領域 もしくは該領域の近傍領域上に保存された (挿入された)組換えワクチ-ァウィルス DI s株を提供する。
[0027] 本発明における「欠損」領域の一例としては、例えば、図 1において黒線で示された 15.4 kbpの領域を挙げることができる。この「欠損」領域には、ウィルス増殖に必須と 考えられている遺伝子は存在せず、宿主域遺伝子 (host range genes)と呼ばれるもの
のうち 2つ (K1Lと C7L)が存在している。例えば、 K1Lを欠損させると、この欠損ウィル スは例えば RK13等の細胞における増殖能を失う。
[0028] また、上記「欠損」領域は、図 1で示される 15.4kbpの領域に、厳格に制限されるもの ではない。例えば、この「欠損」領域を含むさらに広い領域の「欠損」、あるいは、上記
15.4kbp未満の「欠損」であっても、本発明の上記「欠損」に含まれる。
[0029] 本発明にお 、て上記「欠損」領域への DNAの「挿入」とは、上記「欠損」領域に対応 する DNA力 本発明の HCVウィルス DNAによって置換された状態であってもよぐま た、「欠損」領域に対応する DNA上へ HCVウィルス DNAが挿入 (付加)された状態で あってもよい。
[0030] 本発明における「組換えワクチ-ァウィルス」とは、通常、組換え弱毒化ヮクチ-ァゥ ィルスを指す。組換え弱毒化ウィルスとは、例えば、遺伝子の改変がなされる(特定 の遺伝子を欠失する)ことによって、もしくは、長期に継代することによって、野生型よ り毒性が弱められたウィルスを指す。本発明においては、ヮクチ-ァウィルス大連株( DI株)を高度に弱毒化した DIs株が好適に用いられる。
[0031] また、 DIs株以外にも、弱毒株として例えば、 MVA弱毒株が知られている(上記非特 許文献 4参照)。 DIs株は、該 MVA弱毒株と比較して、例えば、以下の点で優れてい るものと考えられる。
(1) MVAは一部の哺乳類細胞で増殖する力 DIsは殆ど増殖しない。
(2) MVAには複数の領域の欠損および重複があるため、野生株には存在しない新た な蛋白が複数生成しており、これらの因子が何らかの未知の影響を宿主に与える可 能性が否定できないが、 DIsでは欠損は 1箇所のみであり、このような影響を考慮する 必要がない。
[0032] また本発明にお 、て、 HCVウィルスタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコ ードする DNA(「HCVウィルス DNA」と記載する場合あり)を、 DIs株ゲノム上へ挿入す る(組み込む)際の該ゲノム上の部位は、特に制限されないが、該ゲノム上の「非保存 領域」であることが好ましい。即ち、本発明の好ましい態様においては、 HCVウィルス DNAが、ゲノム DNAの非保存領域上に保存された (挿入された)組換えヮクチ-ァゥ ィルス DIs株を提供する。
[0033] 上記「非保存領域」とは、ウィルスの増殖に必須と考えられて ヽる遺伝子が存在しな い領域を指す。前述のように、ヮクチ-ァウィルスは、ゲノムの全長が約 200 kbpであり 、コードする遺伝子のかなりの部分はウィルス複製には必須ではなぐ欠損させてもゥ ィルスは増殖することができる。本発明者らは、 DIs株の全塩基配列を決定し、 DIs株 ゲノムの左端に 1ケ所大きな 15.4 kbpに及ぶ欠損(単に「DIs株欠損領域」と記載する 場合あり)があることを明らかにした。なお、この 15.4kbpに及ぶ欠損領域は、通常のヮ クチ-ァウィルスには存在する力 配列番号: 11に記載された DIs株のゲノム DNAに は存在しない領域である。
[0034] 本発明において「非保存領域」とは、例えば、 DIs株ゲノム上の上記「欠損」領域 (例 えば、上記 15.4 kbpの欠損領域、もしくは該領域の近傍領域)を好適に示すことがで きる。尚、本発明において「該領域の近傍領域」とは、通常、該領域の近傍の染色体 上の領域を指す。本発明において「近傍」とは特に制限されるものではないが、通常 、当該領域の末端から、 5 kbp以内の領域、より好ましくは 1 kbp以内の領域を指す。
[0035] 本発明の組換えウィルスは、例えば、以下のような方法で作製することができる。本 発明の組換えウィルスの作製の際には、例えば、配列番号:11に記載の DIsのゲノム 配列に関する情報を適宜利用することができる。 DIs株ゲノムの非保存領域もしくは 該領域の近傍 DNA領域力 なる DNA断片へ、 HCVウィルス DNAが挿入された構造 を含むベクター(トランスファーベクター)を作製する。次いで、該ベクターを DIs株へ 導入し、相同組換え機構を利用し、該ウィルス DNAを DIsゲノム上へ挿入させる。上 記方法においては、適宜、選択マーカーを保有させたトランスファーベクターを用い ることができる。選択マーカーとしては、公知の種々のマーカーを利用することができ る。例えば、選択マーカーの一例として、 XGPRT遺伝子、 LacZ遺伝子等が挙げられ る。これらマーカー遺伝子を利用した組換えウィルス (DNA)体の選択方法もまた公知 である。また、ウィルスの相同組換え体の選択には、 DIs株が唯一増殖可能な CEFを 好適に使用することにより効率よく行うことができる。
[0036] 上記 HCVウィルス DNA (HCV遺伝子)の塩基配列および該遺伝子によってコードさ れるタンパク質のアミノ酸配列は既に公知であり、当業者においては、該配列に関す る情報について、例えば、文献データベース、または公共の遺伝子 (ゲノム)データ
ベースを利用して容易に取得することができる。 HCV遺伝子 (ゲノム)の情報は、 NCB Iの提供するデータベースから、ァクセッション番号: D89815 (http://www.ncbi.nlm.ni h.gov:80/entrez/viewer.fcgi?db=nucleotide&val=2943783)によって、適宜取得するこ とがでさる。
[0037] 所望のゲノム上の領域に対して、外来 DNAを挿入させる方法は、これまでに種々の 方法が知られている。当業者においては、これらの方法を利用して、組換えウィルス を適宜作製することができる。本発明の組換え DIs株の作製方法として、より具体的に は、後述の実施例に記載された方法を例示することができる。
[0038] また本発明によって提供される組換えワクチ-ァウィルス DIs株のゲノム DNAまたは 該ゲノム DNAの部分断片 DNAもまた、本発明に含まれる。該部分断片 DNAとは、好 ましくは、 HCVウィルス DNAが挿入された DNA領域を含む部分断片 DNAである。
[0039] さらに本発明は、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分として含む、 C型肝炎ウィルスワクチンを提供する。
本発明におけるワクチンは、通常、 C型肝炎ウィルスの排除または C型肝炎の治療 のために使用される。ワクチンは抗原を含んでいる力、または抗原を発現可能であり 、これにより抗原に対する免疫応答を誘導することができる。 C型肝炎ウィルスの排除 または C型肝炎の治療のために、本発明のワクチンは、所望の形態で用いることがで きる。
[0040] 本発明のワクチンには、有効成分である本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株 以外に、例えば、担体等が含まれていてもよい。担体の種類は、通常、投与の形態 に応じて決めることができる。本発明のワクチンは、例えば、局所、経口、鼻腔内、静 脈内、腹腔内、皮下または筋肉内投与を含む、投与に適当な方法で製剤化すること ができる。皮下注射のような非経口投与については、担体として、好ましくは、水、生 理食塩水、アルコール、脂肪、ワックス又は緩衝液等を挙げることができる。経口投与 のためには、前述の担体又は固形担体、例えばマン-トール、ラタトース、デンプン、 ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スク ロース、および炭酸マグネシウム等を、適宜使用することができる。
[0041] また本発明のワクチンを、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株、およびアジュ
バントを含む組成物として製剤化することも可能である。アジュバントとしては、例えば
、アルミニウム塩、菌体内毒素、カルメット-ゲラン杆菌(BCG)、リボソーム、ミクロスフィ ァ(例えば、経口投与ワクチンに使用されるマイクロカプセルィ匕ポリマー等)、および フロイント完全アジュバントまたはフロイント不完全アジュバント等が挙げられる力 こ れらに限定されない。「アジュバント」とは、抗原の免疫原性を上昇させる物質を指す
[0042] 本発明のワクチンの個体への投与は、特に制限されるものではないが、例えば、局 所、経口、鼻腔内、静脈内、腹腔内、皮下または筋肉内投与で行うことができる。投 与量は、個体 (患者)の年齢、体重、症状等を考慮して、当業者 (医師'獣医師等)に おいては、適宜、決定することができる。
[0043] 本発明のワクチンが接種可能な動物としては、免疫系を有し、かつ HCVに感染し得 るあらゆる宿主生物が挙げられ、例えば、ヒトおよび一部の霊長類を挙げることができ る。
[0044] また、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株は、個体へ導入されると、ウィルス特 異的細胞傷害性 T細胞 (CTL)の応答を誘導する作用を有する。従って本発明は、本 発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分として含む、ウィルス特異的細胞 傷害性 T細胞 (CTL)応答誘導剤を提供する。
[0045] 細胞傷害性 T細胞(CTL; cytotoxic T lymphocyte)とは、細胞溶解性(キラー) T細 胞、細胞傷害性 Tリンパ球ともいわれ、標的細胞を破壊する能力をもち、ウィルス感染 細胞や腫瘍細胞の排除に役立って 、ると考えられて 、る。
[0046] 本発明の上記 CTL応答誘導剤も、有効成分である本発明の組換え DIs株以外に、 上述の担体等を適宜、含有させることが可能である。
[0047] また本発明は、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株、もしくは本発明の薬剤を 個体 (例えば、患者等)へ投与することを特徴とする、ウィルス特異的細胞傷害性 T細 胞応答を誘導する方法、並びに、 C型肝炎を予防もしくは治療する方法に関する。 本発明の予防もしくは治療方法における個体とは、好ましくはヒトであるが、特に制 限されず、免疫系を有する非ヒト動物であってもよい。
個体への投与は、一般的には、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射など
当業者に公知の方法により行うことができる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方 法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能 である。
[0048] さらに本発明は、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株の C型肝炎ウィルスワク チンの製造における使用、並びに、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株のウイ ルス特異的細胞傷害性 T細胞応答誘導剤の製造における使用に関する。
[0049] なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に 組み入れられる。
実施例
[0050] 以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって制 限されるものではない。
〔実施例 1〕 DIs株の遺伝子構造の解析
ヮクチ-ァウィルス DIs株を用いて組換えウィルスを作成するため、 DIs株のゲノム上 に存在する変異の同定を行った。親株の DIE株および DIs株よりゲノム DNAを精製し、 Hindlllで消化してできる断片をァガロースゲル電気泳動で比較した結果、ゲノムの 5' 端付近に約 15kbpの欠損が存在することが明らかとなった。この欠損の付近を増幅す るため、 2本の PCRプライマー
Vac H- C [5' - ATAATGTAGCTCCTTCATCAATCATACATT]/配列番号: 1 Vac H- F [5,- AGGAGGTGGTGTAATAGACGAAGATTATAG]/配列番号: 2 を合成した。 DIsのゲノム DNAをテンプレートとして PCR増幅を行い、プラスミド pUC19 の EcoRI部位に挿入して増幅されたフラグメントの配列決定を行 ヽ、親株と比較して 5' 端より 17.1kbpと 32.5kbpの間の部分が欠損していることを明らかにした(Ishii K., Ueda Y., Matsuo K., Matsuura Y., Kitamura T., Kato K., Izumi Y., bomeya K., Ohsu Τ·, Honda M. and Miyamura T. (2002) Structural analysis of vaccinia virus DIs strain: A pplication as a new replication-deficient viral vector. Virology in press) (|≤31)。なお 、ここで作成したベクターを pUc/DIsと呼ぶ。
[0051] この 15.4kbpの欠損領域には、ウィルス増殖に必須と考えられている遺伝子は存在 しないが、 host range genes (宿主域遺伝子)と呼ばれるもののうち 2つ(K1Lと C7L)が
存在している。宿主域遺伝子は、その機能は未だ明らかではないが、ヮクチ-ァウイ ルスが感染、増殖できる培養細胞の範囲を規定していることが明ら力となっている (Pe rkus, M. E., uoebel, S. J., Davis, S. W., Jonnson, G. P., Limbach, K., Norton, E. K ., and Paoletti, E. (1990). Vaccinia virus host range genes. Virology 179, 276-286.) 。例えば、 KILを欠損させると、この欠損ウィルスは RK13細胞での増殖能を失う。従つ て、これらの宿主域遺伝子の欠損力 DIs株がほとんどの哺乳類細胞で増殖できない 理由であると考えられる。実際、後に述べる組換えウィルス作成の手法を用いてこれ らの宿主域遺伝子を DIs株に組み込んだところ、組換えウィルスは HeLa、 RK13、 CV- 1細胞など、調べた哺乳類細胞のいずれでも増殖能を回復していた (Ishii K., Ueda Y ., Matsuo K., Matsuura Y., Kitamura T., Kato K., Izumi Y., bomeya K., Ohsu Τ·, H onda M. and Miyamura T. (2002) Structural analysis of vaccinia virus DIs strain: Ap plication as a new replication— dencient viral vector.. Virology 302 (2002) 433—444)。
[0052] 〔実施例 2〕組換え DIs株作成手法の確立
DIs株をウィルスベクターとして、ある!/ヽは組換え生ワクチンとして用いるためには、 同ウィルスへ外来遺伝子を組み込む手法を確立することが必須である。ヮクチ-ァゥ ィルスはゲノムのみでは感染性がなぐまたゲノムサイズが約 200kbpあり、外来遺伝 子をゲノム中に直接挿入することは現在の遺伝子工学技術では非常に困難である。 そのため、トランスファーベクターを使用し、感染細胞内で相同組換えをおこさせるこ とにより外来遺伝子を挿入する方法が一般に用いられる(ウィルスゲノムの一部と同じ 配列を持つプラスミドが感染細胞内に存在する場合、ゲノム複製の際に一定の頻度 で、プラスミド上の配列と、それに対応するゲノム上の配列の交換がおこる。この現象 が相同組換えである。)。従って、 DIsゲノムの一部をプラスミドにサブクローユングし、 この DIs配列内に目的の外来遺伝子を挿入することで、このプラスミドを DIsに外来遺 伝子を挿入するトランスファーベクターとして用いることができる。
[0053] DIsに外来遺伝子を挿入する場合には、挿入することにより DIsの感染、増殖に影響 の出ない場所を選択する必要がある。そのためには、先に決定した欠損部位に外来 遺伝子を挿入する方法が、 DIsに影響を及ぼさな 、部位として好適であると考えられ る。以上の理由力も上記の pUc/DIsをトランスファーベクターとして用いることとした。 p
Uc/DIs中の DIs由来の配列の内部に、ヮクチ-ァウィルス由来のプロモーターとその 下流に目的の外来遺伝子を挿入することにより、この外来遺伝子を DIsに組み込むト ランスファーベクターとして使用することができる。そのため、ヮクチ-ァウィルスのプ 口モーター配列の pUc/DIsの DIs由来配列への挿入を行った。 pBluescript SK (-)ベタ ターの HindIII〜SmaI部位に、ヮクチ-ァウィルスの H5R遺伝子のプロモーター配列 [5
GCGAGAAATAATCATAAATAZ配列番号: 3]を合成して挿入し、生成したベクタ 一を BssHIIで切断した。 240bpのフラグメントを精製した後に末端を Hindlllに変換し、 PUC19に挿入した DIs由来配列中に存在する Hindlll部位に挿入した。このワクチ-ァ ウィルスプロモーター mH5の下流に存在する Smal、 BamHI、 NotI、 Sacl、 SacIIを外来 遺伝子の挿入部位 (マルチクロー-ングサイト)として使用できる。
[0054] 上記のプラスミドに薬剤選択マーカーを挿入するため、 E.coli由来の酵素 XGPRT(h ypoxantine— guanine phosphoribosyl transferase)遺 is十の上 にワクテニフウイノレス プロモーター p7.5を付カ卩し、 pUC19に挿入した DIsフラグメント中に存在する Mlul部位 に挿入した。挿入した配列を配列番号: 4に示す。この手法は、プリン合成の阻害剤 である MPA (mycophenolic acid)存在下では GMP合成が阻害され、ヮクチ-ァウィル スの DNA合成も阻害されるためにウィルス増殖ができないが、培地中に MPA(micoph enoic acid)、 xantine、 nypoxantineをそれそれ 25 μ g/ml、 250 μ g/ml、 15 μ g/ml添カロし てある場合、 XGPRT遺伝子をゲノム内に持つウィルスのみが増殖するため、この 3種 の薬剤を含有する培地でウィルスを培養することにより目的の組換えウィルスを取得 することができる (小島朝人 「ワクシニアウィルスベクター」 ウィルス実験プロトコ一 ル (1995) 343-353 メジカルビユー社)。ウィルスの相同組換えおよび組換えウィル スの選択には、 DIsが唯一増殖することができる CEFを用いる点が肝心である。
[0055] 本発明者らは、ヮクチ-ァウィルスの p7.5 promoterの下流に XGPRT遺伝子を挿入 し、更に mH5 promoterの下流にマルチクロー-ングサイトをつないで外来遺伝子を 容易に挿入できるようにしたユニットを作成した。このユニットを、 DIsの遺伝子が欠損 して 、る部分を挟む領域の中央に挿入したトランスファーベクターを構築し、相同組 換えをおこすと、 目的とする外来遺伝子と共に XGPRT遺伝子が挿入されるように設
計した(図 2)。完成したトランスファーベクターを、 pDIsgptmH5と名付けた。
[0056] 上記の pDIsgptmH5のマルチクロー-ングサイトに、 HCVの種々の蛋白領域を挿入 したトランスファーベクターを作成した。例えば、 HCV lbの cDNAより構造蛋白領域約 2.4kbpを PCRにより増幅して挿入することにより、 HCV lbの core、 El、 E2を発現する 組換え DIsを作成することができる。また、非構造領域である NS3、 NS5Aに相当する 1. 9kbp、 1.3kbpのフラグメントを PCRにより増幅して挿入することにより、 HCV lbの NS3、 NS5Aを発現する組換え DIsを作成することができる。増幅に用いたプライマーのリスト を以下に示す。
[0057] core/El/E2
Forward: AAAGATCTCATGAGCACGAATCCTAAACCTCAAAGA (配列番号: 5) Reverse: AAAGATCTTTACAGACCTACAAGAACCGCACCCCCG (配列番号: 6) [0058] NS3
Forward: AAAGATCTCATGGCGCCCATCACGGCCTACTCCCAA (配列番号: 7) Reverse: AAAGATCTTTAAGTGACGACCTCCAGGTCAGCCGAC (配列番号: 8) [0059] NS5A
Forward: AAAGATCTCATGTCCGGCTCGTGGCTAAGGGATGTT (配列番号: 9) Reverse: AAAGATCTTTAGCAGCAGACGACGTCCTCACTAGCC (配列番号: 10 )
[0060] ヮクチ-ァウィルス DIs株約 106pfo(plaque forming unit)を含む 500 μ 1のウィルス液を 、 CEF(chick embryo fibroblast)細胞約 107個が播かれた 80mmシャーレに接種し、 15 分ごとに 8回震盪することによりウィルスを細胞に感染させた。その後、 1mlの 10%FCS(f etal calf serum)を含む DMEM(Dalbecco- modified Eagle培地)を加え、 37°C、 5%CO条
2 件下にて 2時間培養した。培地を取り除き、 PBS(phosphate-buffered serine)で洗浄し て力 0.05%トリプシン溶液 0.5mlをカ卩え、細胞を遊離させた後、細胞懸濁液を 2000rp mで 3分遠心して細胞を回収し、 400 1の1¾3に懸濁した。この細胞懸濁液にトランス ファーベクター 10 gを溶解し、 Gene Pulser II(Bio Rad社)を用いて 0.4cmキュベット中 、 250v、 500 FDで 1回電圧をかけ電気穿孔法を行った。細胞を 10%FCSを含む DME M 2mlに懸濁し、 35mmシャーレに播いて 37°C、 5%CO条件下にて 7日間培養した。感
染細胞を培地とともに回収し、凍結乾燥 3回、超音波処理 2分行った後、同じ培地で 1 0、 100、 1000倍希釈した。 35mmシャーレに 106個の細胞を播き、培地(10%FCSを含む DMEM)に MPA、 xantineゝ hypoxantineをそれぞれ 25 μ g/ml, 250 μ g/ml, 15 μ g/ml添 カロして一晩培養した後、上記の希釈細胞液を接種した。 15分ごとに 8回震盪すること によりウィルスを細胞に感染させ、希釈細胞液を除いてから、 1%軟寒天添加培地(1 0%FCSを含む DMEM。 MPA、 xantine, hypoxantineを含む) 2mlをカ卩え、固化させてか ら 37°C、 5%CO条件下にて 7日間培養した。形成されたプラーク部分をパスツールピ
2
ペットでピックアップし、 200 /z lの 10%FCSを含む DMEMに懸濁し、 2分間超音波処理 を行ってウィルスを寒天より放出させた。この培養液を同じ培地で 10、 100、 1000倍希 釈し、上記と同様のプラークアツセィ操作をさらに 2回繰り返して組換えウィルスを純 化した後、 CEF細胞に感染させてスケールアップを行った。このウィルスには外来遺 伝子も同時に組み込まれているため、 目的とする組換えウィルスを効率良く選別する ことができる(図 3)。
[0061] 〔実施例 3〕 DIs株のウィルスベクターとしての応用
上記の手法を用いて、外来遺伝子としてバタテリオファージの T7 polymeraseを組み 込んだ組換え DIsを作成した。このウィルスを各種の哺乳類細胞 (HeLa、 BHK、 CHO 、 CV-1、 HepG2)に感染させ、その後 T7 promoterの下流にルシフェラーゼ遺伝子を つな 、だプラスミドをトランスフエタトしたところ、 、ずれの細胞でも強 、ルシフェラー ゼ活性が観察された。また、いずれの細胞でも、数日間培養しても CPEは観察されな 力つ 7こ (Ishii K., Ueda Y., Matsuo K., Matsuura Y., Kitamura T., Kato K., Izumi Υ·, Someya K., Ohsu T., Honda M. and Miyamura T. (2002) Structural analysis of vacci nia virus DIs strain: Application as a new replication-deficient viral vector.. Virology 302 (2002) 433-444)。
[0062] さらに、各種哺乳類細胞に、 DIE及び DIsを moi=0.05で感染させ、 48時間後に感染 細胞を回収した。超音波破砕後に段階希釈し、 CEF細胞上でプラークを作らせること により、それぞれのウィルスの各種哺乳類細胞での増殖能を測定した。表 1の数値は 、感染させたウィルス量を 1とした場合に 48時間後に何倍にウィルスが増殖したかを 示す。
[0063] [表 1]
HeLa1 CV-11 RK13' CHO1 CEF1
DIE 7890 1578 842 <1 9474
DIs <1 <1 <1 N. D. 1600
[0064] 表 1から明らかなように、 DIsは CEF細胞でのみ増殖し、他の哺乳類細胞では増殖 能を持たな力つた。
これらの結果から、組換え DIsに組み込まれた外来遺伝子は感染細胞中で効率よく 発現すること、一方親株同様、組換え DIsは感染細胞で増殖せず、細胞傷害性もほと んど見られないことが確認され、ウィルスベクターとして極めて有用であることが示唆 された。
[0065] 〔実施例 4〕 DIs株の組換え生ワクチンとしての可能性
ワクチニァウィルスはそれ自体強 ヽ細胞性免疫誘導能を持ち、組換えウィルスの外 来遺伝子産物に対しても細胞性免疫を誘導する。従って、弱毒株である DIsも外来遺 伝子産物に対する免疫を誘導できる可能性は高いと考えられる。 DIsを難治性感染 症に対する組換え生ワクチンとして応用しょうと 、う試みも進みつつある。
[0066] 本発明者らは、感染症研究所エイズセンターの本多グループと共同し、 HIV-1の ga gを組み込んだ組換え DIsを作成した。このウィルスの細胞性免疫誘導能が調べられ 、 106pfoの組換えウィルスをマウスに 2回尾静注し、 CTLを測定したところ、 2回目の静 注の 2週間後から強い CTL活性が観察された (Ishii K., Ueda Y., Matsuo K., Matsuur a Y., Kitamura T., Kato K., Izumi Y., Someya K., Ohsu T., Honda M. and Miyamura T. (2002) Structural analysis of vaccinia virus DIs strain: Application as a new repli cation-deficient viral vector.. Virology 302 (2002) 433-444)。この結果は、組換え DI sが外来遺伝子産物に対する細胞性免疫を誘導できることを示している。
[0067] 〔実施例 5〕 HCVの構造領域を発現する組換え DIsを投与されたマウスでの抗体価の 上昇
5週令の Balb/cマウスに 106pfoの HCVの構造領域を発現する組換え DIsを投与し、
抗体値を上昇させるかどうか確認した。同量のウィルスを、初回投与から 2週後と 6週 後の合計 3回投与し、 7週目に採血して血中の抗体価を測定した。抗原は、組換えバ キュロウィルスを用いて発現させた HCVの coreと E2を用いた (相崎他、バキュ口ウィル ス発現系を用いた HCV遺伝子の発現、日本臨床平成 7年増刊号、 80-84)。それぞれ を発現する組換えバキュロウィルスを moi=lで Sf-9細胞 107個に感染させ、 72時間後 に回収して 1%ΝΡ-40に懸濁し、 2分間超音波処理を行い 16000rpm、 5分遠心して上 清を抗原とした。各溶液を 0.05M炭酸バッファー (pH9.6)で 1000倍に希釈して ELISAプ レート (住友ベークライト)に固定し、採血した血清を希釈したものを一次抗体、 horse radish peroxidaseが結合した抗マウス抗体を二次抗体として常法に従!、ELISAを行!ヽ 抗体価を測定した(図 4)。図 4に示すように、ウィルス投与方法が静脈からの注入 (i.v -)及び腹腔への注入 (i.p.) Vヽずれでも抗体価が上昇して ヽることが確認され、組換え ウィルスの投与により目的蛋白に対する液性抗体を誘導できることが確認された。
[0068] 〔実施例 6〕HCVの構造、非構造領域を発現する組換え DIsを投与されたマウスでの 細胞性免疫誘導能
5週令の Balb/cマウスに 106pfoの HCVの構造、非構造領域を発現する組換え DIsを 投与し、細胞性免疫を誘導するかどうか確認した。同量のウィルスを、初回投与から 2週後と 6週後の合計 3回投与し、 7週目に脾臓を摘出し、脾細胞を分離した。細胞 のペレットに lysis buffer (重炭酸カリウム 1.0mM、塩化アンモ-ゥム 0.15M、 EDTA- 2Na 0.1mM)3mlを加え、マイルドに混和して溶血させた。 5x10— 5Mの 2 メルカプトエタノ ールを含む RPMI 1640培地で洗浄し、 5x10— 5Mの 2 メルカプトエタノール、 lng/mlの P MA、 500ng/mlのィオノマイシン、 10%FCSを含む RPMI1640に懸濁し、生細胞数を測 定して 5xl04/mlに濃度を調整した。抗インターフェロン一 γ抗体をコートした 96well pi ateで一晩培養した後、細胞液を捨て、インターフェロン γを分泌する細胞数を DIA CLONE社の ELISPOTキットを用いて測定した(図 5)。その結果、組換え DIs投与によ り目的蛋白に対する細胞性免疫を誘導できること、誘導能は構造領域よりも非構造 領域である NS5Aを発現する組換え DIsの方が強いことが判明した。
産業上の利用可能性
[0069] ワクチニァウィルスには、強い免疫誘導能という利点と、神経病原性という欠点が共
存していた力 DIs株の病原性は親株のヮクチ-ァウィルスと比べ非常に低い。また、 DIs株が弱毒化されて 、る理由は、 15kbp以上にも及ぶ大きなゲノムの欠損であるた め、ウィルス培養中あるいはワクチンとして接種後に欠損を回復し毒性が復帰した株 が出現する可能性はまず考えられな 、。
また本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株は、強い免疫誘導能を有し、 HCVウイ ルスタンパク質に対する強 、CTL応答を誘導することができ、組換えワクチンとして非 常に有用である。