G a N光触媒 技術分野
本発明は光触媒に関し、 とくに、 紫外光照射により光触媒作用を発現する G a N (窒化ガリウム) 光触媒と、 可視光照射でも光触媒作用を発現する G a Nに I 明
n N (窒化インジウム) を混合した光触媒に関する。 背景田技術
光触媒は、 紫外光照射下において環境汚染物質や悪臭成分 ·雑菌などの有機物 質を分解する触媒作用を有するため、 近年、 光触媒物質を構造物の表面に塗布す る応用が広がっている。 構造物の表面に塗布された光触媒物質は、 太陽光によつ て環境汚染物質や悪臭成分 ·雑菌などの有機物を分解するので構造物の汚れが自 然に落ち、 所謂セルフクリーニング効果を生ずる。 構造物は屋外の建造物に限ら ず、 病院施設、 例えば、 病院の手術室の床、 壁、 空気清浄機、 或いはカテーテル 等の手術用器具の被覆にも使用され、 病院内感染の原因とされる耐性菌の殺菌の ために利用され始めている。
光触媒作用は、 半導体物質が光を吸収して生成する自由電子及びホールが、 水 や有機物質を酸化及び還元する作用として定義されている。 光触媒作用を有する 半導体物質の条件の一つは、 バンドギャップエネルギーが、 水からの酸素発生電 位と水からの水素還元電位との差に対応するエネルギー (約 1 . 3 e V) 以上で あり、 且つ、 伝導帯の下端が水からの水素還元電位よりもマイナスであり、 価電 子帯の上端が水からの酸素発生電位よりプラス側にあることである。 図 1 9は、 各種半導体の伝導帯の下端及び価電子帯の上端のポテンシャルを、 水からの水素 還元電位を 0として示した図である。 図から、 光触媒作用を有する半導体物質の 候補としては、 金属酸化物半導体、 硫化物半導体及び窒化物半導体があることが わかる。 このため従来から金属酸化物半導体と硫化物半導体について光触媒作用 が検討されてきたが、 硫化物半導体は半導体自身が光触媒作用で溶解 (光溶解)
してしまうために使用不可能であり、 また、 金属酸化物半導体は光溶解しないが 、 そのほとんどは失活等の理由により実用可能な光触媒活性を有さず、 現状で実 用可能な金属酸化物半導体は、 チタン酸ストロンチウム (S r T i O 3 ) と酸ィ匕 チタン (T i 02 ) 光触媒のみであり、 また、 製造コストの点から、 T i 02 光 触媒が、 現状では実用可能な唯一の光触媒である。
上記のように、 T i 02 光触媒は実用性に優れた光触媒であるが、 T i O 2 光 触媒よりも光触媒活性が大きな光触媒が好ましいことは言うまでもない。 例えば 北向き、 日陰等の太陽光が届きにくい場所では T i 02 光触媒は十分なセルフク リ一ユング効果が発揮できないが、 より光触媒活性が大きな光触媒物質を実現で きれば、 十分なセルフクリーニング効果を得ることができる。 また、 光触媒物質 を工業的に用いる場合には、 光触媒活性が大きい程好ましく、 例えば、 水から酸 素、 或いは水素を工業的に製造する場合には、 光触媒活性がより大きな光触媒を 用いることによって、 同一の光エネルギーからより多くの酸素、 或いは水素を製 造できる。
また、 S r T i 03 光触媒や T i 02 光触媒は、 そのパンドギャップエネルギ 一が紫外領域のフオトンエネルギー (3 . 2 e V) に対応しており、 従って、 太 陽光のうち、 有効に利用できるのは紫外光のみであり、 紫外光のエネルギー割合 は全太陽光エネルギーの内の約 3 %にしかすぎず、 太陽光の利用効率が極めて悪 い。 このため、 可視光照射でも光触媒活性を有する光触媒が開発されている (特 開 2 0 0 2— 6 6 3 3 3号公報参照) 。 この可視光でも光触媒活性を有する光触 媒は、 金属酸化物半導体の酸素 (O) の一部を窒素 (N) で置き換えて、 価電子 帯の上端の電位をマイナス側に上昇させることにより、 バンドギヤップエネルギ 一を小さくして可視光を吸収できるようにしたものである。 し力 しながら、 上記 に説明したように、 今後、 光触媒は極めて大量に、 且つ、 様々な用途に使用され ることが予測されるため、 資源枯渴の観点からも、 上記引用文献の物質に限らず 他の物質からなる、 可視光でも光触媒効果を有する光触媒が必要であることは言 うまでもない。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、 紫外光照射により光触媒作用を 発現する従来の光触媒よりも光触媒活性が高い新規の光触媒を提供することを第
1の目的とする。 また、 可視光でも光触媒効果を有する新規の光触媒を提供する ことを第 2の目的とする。 発明の開示
本発明者らは、 発光 ·受光材料として広く使用されている G a Nが、 紫外光照 射下において、 従来の光触媒である S r T i O3 光触媒、 又は、 T i O2 光触媒 よりも大きな光触媒活性を有することを見出して本発明に到った。 また、 GaN に I nNを混合した混晶薄膜は、 可視光でも光触媒活性を有することを見出して 本発明に到ったものである。
本発明の光触媒は G a Nからなることを特徴とする。 G a Nは閃亜鉛鉱型結晶 構造を有し、 パンドギャップエネルギー 3. 4 eVを有する。 GaNは紫外光照 射によって還元作用を発現し、 この還元作用は、 S r T i O3 光触媒や T i o2 光触媒よりも大きい。 例えば、 硝酸銀水溶液中の GaNに紫外線を照射すれば銀 (Ag) が析出し、 この A gの析出速度は、 S r T i 03 光触媒又は T i O2 光 触媒よりも大きい。 また、 GaNは紫外線照射によって酸化作用を発現する、 例 えば、 メチレンブルー溶液中の G a Nに紫外線を照射すれば、 メチレンブルーが 酸ィ匕されて脱色する。 また、 上記水溶液中の GaNに紫外光を照射しても光溶解 することがなく、 また、 失活することがない。 GaI^ S r T i 03 光触媒又は T i O2 光触媒よりも大きな光触媒活性を有する光触媒である。
従って、 紫外光照射下で環境汚染物質や悪臭成分 ·雑菌などの有機物質を従来 よりも早く分解することができる。
本発明の GaN光触媒は、 薄膜形状であることを特徴とする。 この構成によれ ば、 抗菌タイル、 医療機器あるいは自動車のボディといった様々な形状を有する 物体の表面を G a N光触媒で被覆することができる。
本発明の薄膜形状を有する G a N光触媒は、 極性面を制御したサフアイャ基板 と、 サフアイャ基板上に堆積した GaN薄膜とから成る。 この構成によれば、 サ フアイャ基板の極性面を選択して、 G a N薄膜の表面を G a極性面または N極性 面のいずれかに制御でき、 光触媒作用の強さを用途に合わせて選択することがで き、 高度な応用が可能になる。
さらに、 本発明の G a N光触媒は、 G a Nに I n Nを混合して混晶薄膜を形成 し、 バンドギャップエネルギーを小さくすることにより、 可視光でも光触媒作用 を有するようにしたことを特徴とする。 この構成によれば、 吸収できる光波長の 範囲が可視光まで広がり、 太陽光下で使用する場合に光利用効率が増加する。 また、 0 & ^^に1 11 ^を混合した031^光触媒は、 基板と、 基板上に堆積した GaN薄膜と、 GaN薄膜上に堆積したGaNと I n Nの混晶薄膜とから成るこ とを特徴とする。 この構成によれば、 GaN薄膜がバッファ層として働き、 Ga Nと I nNの混晶薄膜の結晶性が向上し、 光触媒活性がさらに大きくなる。 本発明の G a N光触媒は、 紫外光照射下での光触媒活性が従来の光触媒よりも 大きいので、 環境汚染物質や悪臭成分 ·雑菌などを分解する極めて高効率な光触 媒として利用することができる。 また、 その形状を薄膜形状とすることができる ので極めて広範な用途に使用することができる。 サファイアを基板とする薄膜形 状の GaN光触媒は、 光触媒活性の強さを選択できるので、 用途に合わせた最適 な光触媒として利用することが可能である。 また、 0 & 1^に1 11^[を混合した0 a N光触媒は可視光でも光触媒活性を有するので、 太陽光利用効率が高く、 また 、 GaN薄膜からなるバッファ層を有する構成にすれば、 さらに光触媒活性が大 きくなる。 図面の簡単な説明
図 1は第 1の実施の形態の G a N光触媒が紫外光照射下で還元作用を有するこ とを示す写真である。
図 2は第 1の実施の形態の G a N光触媒が G a Nが紫外光照射下で酸化作用を 有することを示す写真である。
図 3は光触媒の光触媒活性を比較するための方法を示す図である。
図 4は光触媒活性の比較に用いた T i O2 と S r T i O3 の試料の表面を示す 写真で、 (a) は紫外光照射前の、 (b) は紫外光照射後の試料表面を示す。 図 5は T i〇2 と S r T i 03 の紫外光照射による A gの析出量をフォトンェ ネルギーをパラメータ一として比較した図であり、 横軸はフォトンエネルギー、 縦軸は E PMA (E l e c t r o n P r o b e Mi c r o An a 1 y z e
r ) による Agの蛍光 X線の検出強度 (c o u n t p e r s e c ) であり、 〇は S r T i〇3 に析出した A gの検出強度、 ·は T i O2 に析出した A gの検 出強度である。
図 6は光触媒活性の比較に用いた G a Nと S r T i 03 の試料の表面を示す写 真であり、 (a) は紫外光照射前、 (b) は紫外光照射後の試料表面を示す。 図 7は GaNと S r T i 03 の紫外光照射による A gの析出量をフォトンエネ ルギーをパラメータ一として比較した図であり、 横軸はフオトンエネルギー、 縦 軸は EPMAによる Agの蛍光 X線検出強度であり、 秦は G a Nに析出した A g の検出強度、 〇は S r T i O3 に析出した A gの検出強度である。
図 8は第 2の実施の形態の薄膜形状の G a N光触媒の構成を示す図である。 図 9は薄膜形状の G a N光触媒の作製に用いる装置の構成を示す図である。 図 10は第 3の実施の形態の、 表面が G a極性を有する GaN薄膜と、 表面が
N極性を有する G a N薄膜の表面の走査型電子顕微鏡 (SEM) 像である。 図 1 1は硝酸銀水溶液中に浸した、 G a極性を有する G a N薄膜と N極性を有 する G a N薄膜の紫外光照射前後の表面状態を示す写真である。
図 12は銀が析出した、 G a極性を有する G a N薄膜と N極性を有する GaN 薄膜の表面の走査電子顕微鏡像、 及び E PMAによる元素分析結果を示す図であ る。
図 13は第 4の実施の形態の I nの組成比 Xの異なる I nx G a x N混晶薄 膜の光透過特性を示す図であり、 横軸はフオトンエネルギー、 縦軸は吸収係数 α の 1 2乗を示している。
図 14は組成比 Xの異なる I n x Ga !-χ Ν混晶薄膜の光触媒活性による A g の析出状態を示す S EM像である。
図 15は I nの組成比 Xによる光触媒活性の違いを定量的に示す図であり、 横 軸は I nのモル比を示し、 縦軸は A gの蛍光 X線強度の平均値 (c o un t p e r s e c) 不してレヽ O0
図 16は第 5の実施の形態の G a N光触媒の構成を示す図である。
図 17は GaN薄膜上の I nx G a !-x 混晶薄膜の組成比 xによる光触媒活性 の違いを示す図である。 横軸は I nの組成比 Xを示すと共に、 結晶粒径を示して
いる。 縦軸は EPMAによる A gの検出強度を示している。
図 18は I nx Ga !-x 混晶薄膜の厚みを変化させた場合の A gの蛍光 X線検 出強度を示す図である。
図 19は各種半導体の伝導帯の下端及び価電子帯の上端のポテンシャルを、 水 からの水素還元電位を 0として示した図である。 発明を実施するための最良の形態
本発明は以下の詳細な説明及び本発明の幾つかの実施の形態を示す添付図面に よって、 よりょく理解されるものとなろう。 なお、 添付図面に示す実施例は本発 明を特定又は限定するものではなく、 本発明の趣旨の説明及び理解を容易とする ためだけのものである。 第 1の実施の形態
初めに本発明の第 1の実施の形態の G a N光触媒について説明する。 本発明の 第 1の実施の形態の G a N光触媒は G a N粉末から成る。 以下、 実施例に基づい て説明する。
市販 (フルゥチ化学製;純度 3 N) の G a N粉末を使用した。
還元作用の確認は、 G a N粉末を、 0. O lmo l /リツトル濃度の硝酸銀水 溶液中に分散し、 この水溶液に 50 OW高圧 Hgランプ (紫外光強度: 26mW /cm2 ) による紫外光照射を 60分行った後、 A gの析出を肉眼で確認するこ とによって行った。
また、 酸化作用の確認は、 G a N粉末をメチレンブルー色素水溶液中に分散し 、 この水溶液に 50 OW高圧 Hgランプ (紫外光強度: 26mWZcm2 ) によ る紫外光照射を 60分行った後、 メチレンブルー色素の脱色を肉眼で確認するこ とによって行った。
図 1は、 G a Nが紫外光照射下で還元作用を有することを示す写真である。 図 1において、 (a) は、 G a Nの粉末を分散させた硝酸銀水溶液を示しており、 この水溶液は黄色を呈している。 この黄色は G a Nの粉末の色に基づくものであ る。 (b) は (a) の水溶液に紫外光照射した後の水溶液を示している。 水溶液
は黒色の粒子が浮遊している無色透明の液体になった。 黒色の粒子は G a Nの粉 末上に銀が析出したものであることがわかった。 (c ) は G a Nの粉末を入れな い、 すなわち硝酸銀のみの水溶液を示している。 この水溶液にも同様に紫外光を 照射したが変化は見られなかった。 この結果から、 G a Nは紫外光照射下で還元 作用を有することが分かる。
図 2は、 G a Nが紫外光照射下で酸化作用を有することを示す写真である。 図 2において、 (a ) はメチレンブルー水溶液を示し、 (b ) はメチレンブルー水 溶液に G a Nの粉末を分散させた水溶液を示している。 メチレンブルーの青と G a Nの黄色が混合し、 黄緑色に見える。 (c ) 及ぴ (d ) は、 (a ) 及び (b ) の水溶液に紫外光を照射した後の水溶液を示している。 (a ) と (c ) との色の 比較から、 メチレンブルー水溶液は、 紫外光照射によって全く変化しない。 一方 、 (b ) と (d ) との色を比較すると、 紫外光照射によって、 黄緑色の水溶液か ら黄色の水溶液に変わつた。 これはメチレンブルー色素が酸化されて脱色したこ とを示している。 この結果から、 G a Nは紫外光照射下で酸化作用を有すること が分かる。
次に、 G a Nの光触媒活性が、 従来の光触媒、 すなわち S r T i 03 及ぴ T i 0 2 の光触媒活性よりも大きいことを説明する。
図 3は光触媒活性の比較に用いた方法を説明する図である。 図 3 ( a ) に示す ように、 透明石英製の容器 1に硝酸銀水溶液 2を入れ、 硝酸銀水溶液 2中に比較 する 2つの光触媒試料 3 , 4を硝酸銀水溶液 2の深さ方向に並べて配置し、 光束 5を照射する。 光束 5の進行方向を x、 水平方向を y、 垂直方向を zとすると、 光束 5は z方向に同一の波長を有し、 y方向に連続して波長が分散した光束であ り、 z方向の長さは、 光触媒試料 3 , 4を完全に覆う長さである。 光束 5は、 X eランプ光源からの光を、 グレーティング、 凹面鏡、 ミラー、 レンズ及びスリツ ト等から成るプリズムボックスに通して形成した。 y方向の波長分散は 2 . 8 e Vの可視光から 3 . 5 e Vの紫外光領域に!:つている。
光束 5を所定の時間照射し、 光触媒試料 3, 4の表面に A gを析出させる。 次に、 図 3 ( b ) に示すように、 光触媒試料 3 , 4を透明石英製の容器 1から 取り出し、 光触媒試料 3 , 4の表面に析出した A g粒子の濃度分布を、 E P MA
(E l e c t r o n P r o b e M i c r o An a l y z e r ) により 光 X線強度として、 光束 5の y方向の長さ Kに沿って測定する。 y方向の長さ の それぞれの位置は照射した光のそれぞれの波長に対応し、 それぞれの位置の E P MAの A gの検出強度 (蛍光 X線強度) は、 照射した光のそれぞれの波長におけ る光触媒活性の大きさに比例する。 この方法によれば、 全く同一の条件で、 且つ 、 連続した光のそれぞれの波長において、 光触媒の光触媒活性を比較しているの で、 正確な光触媒活性の比較ができる。
次に、 図 3で説明した方法により比較した、 従来の光触媒、 すなわち S r T i o3 と T i O2 の光触媒活性を説明する。
S r T i O3 光触媒として S r T i 03 (00 1 ) 面単結晶基板を用い、 T i 02 光触媒としてルチル構造の T i 02 ( 1 1 1 ) 面単結晶基板を用いた。 硝酸 銀水溶液は 0. O l mo l Zリットル濃度であり、 X eランプ光源から形成した 光束を 2 4時間照射した。
図 4は比較に用いた S r T i O3 (0 0 1 ) 面と T i O2 ( 1 1 1 ) 面の光照 射前後の状態を示す写真であり、 図 4 (a) は光照射前、 図 4 (b) は光照射後 である。 図から、 光照射後においては y方向に沿って、 すなわち光波長分散方向 に沿って A gが濃度分布を有して析出していることがわかる。 なお、 図 4 (b) において、 試料の左端に見られる汚れ様のものは硝酸イオンを含んだ水酸化物で あり、 析出した A gではない。
図 5は、 S r T i 03 と T i O2 の光触媒活性の測定結果を示す図である。 横 軸は照射した光のフォトンエネルギー (P h o t o n e n e r g y) を示し、 縦軸は X e光単位強度あたりの E PMAの Ag検出強度 ( (A g i n t e n s i t y /X e i n t e n s i t y) 0 5 ) を示す。 〇は S r T i 03 に析出 した A gの検出強度 (c o u n t p e r s e c ) 、 秦は T i O2 に析出した Agの検出強度である。 なお、 E PMAの Ag検出強度は単位面積あたりに析出 した A gの量に比例する。
図から、 S r T i 03 、 T i O2 とも可視光領域では還元作用がなく、 紫外光 領域では S r T i 03 の方が T i Ο2 よりも光触媒活性 (還元活性) が大きいこ とがわかる。 また、 ピーク値 (3. 4 e V) で比較すると、 S r T i 03 の方が
T i O2 よりも約 2. 9倍、 光触媒活性が大きいことがわかる。
次に、 図 3で説明した方法により比較した、 S r T i O3 と G a Nの光触媒活 性を説明する。
S r T i 03 光触媒として S r T i O3 (001) 面単結晶基板を用い、 Ga N光触媒としてサフアイャ (A 12 O3 ) (0001) 面基板上に 150 nm厚 の G a N薄膜を堆積したものを用い、 他の実験条件は図 4の場合と同一である。 なお、 G a N薄膜の堆積は第 2の実施の形態で説明する堆積方法で堆積した。 図 6は比較に用いた S r T i 03 (001) 面と G a N面の光照射前後の状態 を示す写真であり、 図 6 (a) は光照射前、 (b) は光照射後である。 図から、 光照射後においては y方向に沿って、 すなわち光波長分散方向に沿って A gが濃 度分布を有して析出していることがわかる。 なお、 G a Nの光溶解は全く生じな かった。
図 7は GaNと S r T i O3 の光触媒活性の測定結果を示す図である。 横軸は 照射した光のフォトンエネルギーを示し、 縦軸は X e光単位強度あたりの EPM Aの A g検出強度であり、 ·は GaNに析出した A gの検出強度、 〇は S r T i 03 に析出した A gの検出強度である。 図から、 GaN、 S r T i 03 とも可視 光領域では還元作用がなく、 紫外光領域では G a Nの方が S r T i O3 よりも光 触媒活性 (還元活性) が大きいことがわかる。 ピーク値 (3. 4 e V) で比較す ると、 GaNの方が S r T i O3 よりも光触媒活性が約 6. 2倍大きいことがわ かる。
図 5及ぴ図 7の結果から、 GaNは、 T i〇2 よりも光触媒活性が約 18倍大 きいことがわかる。 第 2の実施の形態
本発明の第 2の実施の形態は、 G a N光触媒が薄膜形状である。 図 8は本発明 の第 2の実施の形態の薄膜形状の G a N光触媒の構成を示す図である。 第 2の実 施の形態の薄膜形状の GaN光触媒 10は、 基板 1 1と基板 1 1上に堆積した G aN薄膜 12とカゝら成る。
以下に実施例に基づいて説明する。
初めに、 薄膜形状の G a N光触媒の作製方法について説明する。 図 9は、 薄膜 形状の G a N光触媒の作製に用いた装置の構成を示す模式図である。 図の装置は 、 MO CVD (Me t a l Or g a n i c Ch em i c a l Va p o r De p o s i t i o n) 装置である。 図において、 MO CVD装置 21は、 排気 ガス 22を排気口 23を介して排気する図示しない排気装置によって圧力制御可 能なチャンバ一 24を備えており、 チャンバ一 24は、 基板 25を保持するサセ プター 26と、 ガス導入口 27及ぴ 28から導入する原料ガス 29及び 30を混 合ガス 31として収束し、 基板 25の表面に供給するインナ一管 32とを備えて いる。 また、 チャンバ一 24の外壁は、 冷却水 33の導入口 34及び冷却水 33 の排出口 35を有する冷却装置 36を有し、 さらにその外側に高周波加熱コイル 37を有している。 また、 チャンバ一 24は、 試料導入口 38を介して接続され る試料準備室を備えている。
上記に示した図 9の装置を用いて、 薄膜形状の G a N光触媒を以下のようにし て作製した。 原料ガスとして、 H2 ガスと N2 ガスで希釈したトリメチルガリウ ム (TMG) をガス導入口 28より導入し、 H2 ガスと N2 ガスで希釈したアン モニァガスをガス導入口 29より導入し、 基板温度 1080°Cで、 サファイア基 板 25上に約 1 / mの厚さの G a N薄膜を堆積した。 この薄膜形状の G a N光触 媒は上記図 5, 7から明らかなように T i 02 の約 18倍の光触媒活性を示す。 第 3の実施の形態
本発明の第 3の実施の形態の G a N光触媒は、 薄膜形状であり、 且つ、 GaN 薄膜の表面極性が G a極性であるか、 または N極性であるか、 何れか一つを選択 できる。
以下、 実施例に基づいて説明する。
表面が G a極性を有する GaN薄膜は、 サファイア (0001) 基板表面を、 一気圧の H2 ガス中で 1000°Cで 10分間加熱することから成る H2 タリー二 ング処理を施して、 サファイア (0001) +c面を露出させ、 GaNを堆積す ることで作製した。 また、 表面が N極性を有する GaN薄膜は、 サファイア (0 001) 基板表面を H2 クリーニング処理し、 さらに硝酸水溶液で表面を窒化し
てサファイア (0001) —c面を露出させ、 GaNを堆積することで作製した (特開 2005— 026407参照) 。
図 10は、 上記の方法で作製した、 表面が G a極性を有する GaN薄膜と、 表 面が N極性を有する GaN薄膜の表面の走査型電子顕微鏡 (SEM) 像である。 図 10 (a) は G a極性を有する GaN薄膜の表面を示し、 同図 (b) は N極性 を有する GaN薄膜の表面を示す。 図 10 (a) 及ぴ (b) 力、ら、 共に平坦な表 面を有する薄膜が得られていることがわかる。 なお、 図 10 (b) において、 像 がリング状に見えるのは、 S EMのアーチファタト (a r t i f a c t) による もので、 また六角形の像は G a Nのウルッ鉱型結晶構造によるものである。
次に、 上記のようにして作製した極性面を制御した GaN薄膜を、 0. 01m o 1/リツトル濃度の硝酸銀水溶液中に浸積し、 強度 1 OmWZcm2 の紫外光 を 2〜3分照射して、 銀の析出により、 還元作用を評価した。
図 1 1は、 硝酸銀水溶液中に浸した、 G a極性を有する G a N薄膜と N極性を 有する GaN薄膜の紫外光照射前後の表面状態を示す写真である。 図 1 1 (a) は紫外光照射前の G a極性を有する G a N薄膜と N極性を有する G a N薄膜の表 面状態を示す図であり、 図 1 1 (b) は紫外光照射後の、 G a極性を有する G a N薄膜と N極性を有する GaN薄膜の表面状態を示す図である。 なお、 図 1 1 ( a) 及ぴ (b) において、 左側が G a極性を有する GaN薄膜であり右側が N極 性を有する G a N薄膜である。 図 1 1 (b) は、 同図 (a) に比べて表面が変色 しており、 紫外光照射によつて銀が薄膜表面に析出したことがわかる。
図 12は、 銀が析出した、 G a極性を有する G a N薄膜と N極性を有する G a N薄膜の表面の走査電子顕微鏡 (SEM) 像及び EPMAによる元素分析結果を 示す図である。 図 12 (a) は G a極性を有する G a N薄膜の S EM像及び EP MAによる Agの検出強度 (蛍光 X線強度) を示し、 図 12 (b) は N極性を有 する GaN薄膜の SEM像及ぴ EPMAによる A gの検出強度を示す。 なお、 図 12 (a) 及び (b) の白い析出物を EPMAにより元素分析した。
SEM像に見られる白い析出物は EPMAによる元素分析の結果、 銀の析出物 であることがわかった。 また、 銀の析出量は、 図 12の Agのピーク高さに見ら れるように、 G a極性を有する G a N薄膜の方が N極性を有する G a N薄膜より
も多いことがわる。 この結果から、 薄膜形状の G a N光触媒は、 その表面の極性 によって、 光触媒作用の大きさが異なることがわかる。
G a極性を有する G a N薄膜及び N極性を有する G a N薄膜の表面にそれぞれ 1分子層のペンタセン薄膜を蒸着し、 空気中で 1 OmW/cm2 の紫外光を 30 分照射したところ、 ペンタセン薄膜が消失した。 また、 有機物の分解反応の強さ は、 G a極性を有する G a N薄膜の方が N極性を有する G a N薄膜よりも強いこ とを確認した。 第 4の実施の形態
本発明の第 4の実施の形態の G a N触媒は、 Gaf^ I nNを混合してパンド ギャップエネルギーを小さく したた混晶薄膜を有し、 可視光でも光触媒作用を有 する。
以下、 実施例に基づいて説明する。
図 9に示した MOCVD装置を使用し、 原料ガスとして、 TMGと TMI n ( トリメチルインジウム) を所定の比で混合し、 H2 ガスと N2 ガスで希釈して用 いた。 TM I nの TMGに対するモル比は 0. 1から 0. 5の範囲である。 チヤ ンバー内圧力は大気圧であり、 基板温度が 650°Cから 780°Cの範囲でサファ ィャ基板上に約 0. 85 111から1. 0 μιηの範囲で堆積し、 組成式 I n x G a i-x Nで表される I nの組成比 xの異なる試料を複数作製した。
図 13は I nの組成比 Xの異なる I n x Ga N混晶薄膜の光透過特性を示 す図であり、 横軸は光フオトンエネルギー、 縦軸は吸収係数 αの 1 2乗を示し ている。 この光透過特性曲線の勾配から混晶薄膜の吸収端波長がわかり、 吸収端 波長からバンドギャップエネルギーがわかる。 図中に矢印と共に示した数値は、 このようにして求めたバンドギャップエネルギーと I ηの組成比 Xを示している 。 なお、 I nの組成比は、 X線回折装置を用いて求めた。
図 13からわかるように、 I nの組成比 Xを増加するに従って、 バンドギヤッ プエネルギーが減少し、 x = o . 18の場合には 2. 8 eVまで小さくなること がわかる。 すなわち、 G a Nのバンドギャップエネルギーは約 3. 2 eVであり 、 このエネルギーは紫外線領域のフォトンエネルギーに対応し可視光を吸収しな
いが、 x = 0. 18、 すなわち、 I n。, 18G a。.82Nのバンドギャップエネルギ 一は約 2. 8 eVであり、 このエネルギーは 440 nmの可視光 (紫) のフォト ンエネルギーに対応するので可視光を吸収できることがわかる。
次に、 I nの組成比 Xの異なる I nx Ga !-χ Ν混晶薄膜の光触媒活性の違い を示す。 Xの異なる I n x G a , Ν混晶薄膜を 0. O lmo lZリツトル濃度 の AgNO3 溶液中に浸漬し、 Hgランプの光を、 420 nm以下の光をカット するフィルターを通すことにより、 420 nm以上の可視光とし、 この可視光を 10分間照射した。 照射後、 これらの混晶薄膜の A gの析出状態を SEM (走査 電子顕微鏡) で測定した。
図 14は、 組成比 Xの異なる I n x Ga i-X N混晶薄膜の光触媒活性による A gの析出状態を示す S EM像である。 図 14の (a) , (b) , (c) 及び (d ) はそれぞれ、 1 11の組成比が0. 047、 0. 078、 0. 14及ぴ0. 18 である。 各図に見られる白い析出物は析出した A g粒子である。 図 14 (e) は 、 図 14 (d) に示した I nの組成比が 0. 18の試料表面を直線 Lに沿って E PMAにより元素分析を行った結果を示しており、 図のジグザグの線は、 Agの 蛍光 X線強度を示している。 図 14 (d) の大きな白い析出物の位置と図 14 ( e ) の A gの蛍光 X線強度がピークとなる位置が一致することから白い析出物は 析出した Ag粒子であることがわかる。 図 14 (a) から、 I nの組成比が小さ い場合には Agの析出がほとんど生じず、 図 14の (b) , (c) 及び (d) か ら I nの組成比が大きくなるに従って A g粒子の析出が増加していることがわか る。 すなわち、 照射した光は 420 nm以上の可視光であるので、 I nの組成比 が小さい試料では可視光を吸収できないので光触媒作用が生じず、 I nの組成比 が大きい試料では可視光を吸収できるので光触媒作用が生じ、 AgN03 が還元 されて A g粒子が析出することがわかる。
次に、 I nの組成比 X (モル比) による光触媒活性の違いを定量的に示す。 E PMAを用いて図 14の各 (a) , (b) , (c) , (d) の試料の一定面積 ( 100 μ ηιΧ 100 ^rn) について A gの蛍光 X線強度の平均値を測定した。 図 1 5は I nの組成比 Xによる光触媒活性の違いを定量的に示す図であり、 横軸は I nのモル比を示し、 縦軸は上記蛍光 X線強度の平均値を示している。 図 1 5に
おいて、 I nの組成比 0. 15の試料のバンドギャップエネルギー E gは約 42 0 nmの光波長のフォトンエネルギーに対応している。 図 15から、 I nの組成 比 0. 1 5以上の GaNと I nNの混晶薄膜は、 可視光においても光触媒活性を 有することがわかる。 すなわち、 GaNに I nNを混合して混晶薄膜を形成し、 パンドギャップエネルギーを小さくしても、 光触媒活性は失われることがなく、 可視光に対しても光触媒活性を有することがわかる。 この結果から、 太陽光を光 源とした場合には、 太陽光の内の紫外光成分と可視光成分の両方によって光触媒 活性が生じるので、 極めて太陽光の利用効率が高い光触媒であることがわかる。 第 5の実施の形態
本発明の第 5の実施の形態の G a N光触媒は、 上記第 4の実施の形態の G a N 光触媒に比べて、 約 3倍の光触媒活性が得られるものである。
図 16は本発明の第 5の実施の形態の G a N光触媒の構成を示す図である。 こ の実施の形態の G a N光触媒 40は、 基板 41と、 基板 41上に堆積した G a N 薄膜 42と、 GaN薄膜 42上に堆積した I nx G a卜 混晶薄膜 43とからな る。 基板 41は GaNとの格子不整合が小さい単結晶基板が好ましく、 例えば、 サフアイャ (0001) 基板が好ましい。 また、 上記の各薄膜は図 9に説明した 装置を用いて、 第 2, 第 3の実施の形態で説明した方法で製造できる。
以下、 実施例に基づいて説明する。
サフアイャ (0001) 基板上に GaN薄膜を約 600 nm堆積し、 G a N薄 膜上に約 800 nm厚さの I nx G a 1 混晶薄膜を I nの組成比 xを種々変え た試料を作製した。 これらの試料を上記第 4の実施の形態と同一の測定条件、 す なわち、 これらの混晶薄膜を 0. 0 lmo 1 リットル濃度の AgN03 溶液中 に浸漬し、 Hgランプの光を 420 nm以下の光をカツトするフィルターを通し て 420 nm以上の可視光とし、 この可視光を 10分間照射し、 照射後、 EPM Aを用いて、 これらの試料の一定面積 (Ι Ο ΟμπιΧ Ι Ο Ο μπι) についての A gの蛍光 X線強度の平均値を測定した。
図 17は G a N薄膜上の I n x G a x 混晶薄膜の組成比 xによる光触媒活性 の違いを示す図である。 横軸は I nの組成比 Xを示すと共に、 結晶粒径を示して
いる。 縦軸は EPMAによる A gの検出強度を示している。 結晶粒径は X線回折 装置で測定した。
図から、 I nの組成比 Xを減らすと結晶粒径が增大すると共に、 Agの検出強 度が増大することがわかる。 111の組成比 が0. 1の場合に約 80 c p sの最 大の A gの検出強度が得られることがわかり、 また、 図 15のサフアイャ (00 01) 基板上に直接 G a N薄膜を堆積した場合の最大の A gの検出強度は約 25 c p sであるので、 G a N薄膜をバッファ層とすることによって光触媒活性が約 3. 2倍向上することがわかる。 この効果は、 G a N薄膜をバッファ層とするこ とによって I nx Ga i-X 混晶薄膜の結晶性が向上したためと推定される。 図 18は組成比 Xを固定し、 I nx Ga i -, 混晶薄膜の厚みを変化させた場合 の A gの検出強度を示す図である。 この図から、 I nx Ga i-X 混晶薄膜の厚さ は少なくとも 800 nm以上が好ましいことがわかる。 産業上の利用可能性
以上の説明から理解されるように、 本発明の G a N光触媒は、 紫外光照射下に おいて環境汚染物質や悪臭成分 ·雑菌などの有機物を分解する光触媒活性が従来 の光触媒に比べて大きいので、 構造物表面のセルフクリーニング、 病院施設、 医 療器具等の殺菌に使用すれば極めて有効である。 また、 I nNを混合した本発明 の G a N光触媒は、 紫外光から可視光の広い光波長領域で光触媒活性を有するの で、 屋外で使用した場合に、 極めて高効率の光触媒として有用である。
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