明 細 書
樹脂光導波路モジュール
技術分野
[0001] 本発明は、低損失で高品質な樹脂光導波路モジュールに関するものである。
発明の背景
[0002] 情報通信システムの基盤技術として光通信技術が浸透してレ、くにつれて光導波路 は、光ネットワーク用キーデバイスとして益々その重要性が高まると同時に、電子回 路配線基板等の分野への応用に向けて開発が進められている。光導波路デバイス の普及には低価格化と量産化が要望されており、樹脂製光導波路がその有力な候 補として開発されている。導波路用の樹脂材料としては、フッ素化ポリイミド樹脂、フッ 素化アクリル樹脂、重水素化ポリシロキサン樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、全フッ素化 脂環式樹脂、シリコーン樹脂等が用いられ、近赤外の光通信波長帯域である 1. 3— 1. 5ミクロン帯での透明性を確保するために、 C一 H結合を C一 D結合や C一 F結合に 置換した樹脂材料が用いられている。なかでも、フッ素化ポリイミド樹脂は近赤外領 域での透過特性がすぐれており、そのうえ、最も耐熱性が高ぐ強度も確保できるとこ ろから、樹脂光導波路用の材料としては最も適している。
[0003] 従来、フッ素化ポリイミド樹脂導波路の作製方法としては、シリカガラス材料で作製 される光導波路と同様な方法、即ち、シリコン等の基板上に下部クラッド層、コア層を 成膜し、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチング(RIE、 Reactive Ion Etching )の技法によりリッジ型コアパターンを形成し、さらに上部クラッドを形成して導波路を 坦め込む方法が一般的に知られている。 (特許文献 1参照)詳しくはシリコン等の基 板上にクラッド用フッ素化ポリアミド酸ワニスをスピンコート法等により成膜し、加熱後 その上にコア用フッ素化ポリアミド酸ワニスを同じくスピンコート法等成膜し加熱後フォ トリソグラフィと反応性イオンエッチング(RIE、 Reactive Ion Etching)の技法によ りリッジ型コアパターンを形成し、さらにこの上にクラッド用フッ素化ポリアミド酸ワニス を同じくスピンコート法等により成膜し加熱して、リッジ型導波路が形成される。
[0004] しかしながら、このような方法で作製された、樹脂基板を用いた樹脂光導波路チッ
プとファイバアレイとのモジュール化において、石英製ファイバアレイを用いた場合、 温度変化、高温高湿下における保存により光損失が悪化 ·変動し、さらには接合部 にクラックが発生するという問題が発生し、長期信頼性に欠け、ファイバアレイとのモ ジュールとしては実用に供することができないという問題があった。
[0005] 特許文献 1 :特開 2002— 71989号公報
発明の概要
[0006] 本発明の目的は、フッ素化ポリイミドなどの樹脂基板上に形成された樹脂導波路の モジュールにおいて、温度変化、高温高湿下における保存により損失への影響が無 レ、、低損失で高品質な信頼性を兼ね備えた樹脂導波路モジュールを提供することで ある。
本発明に依れば、樹脂基板上に形成された樹脂導波路であって、ファイバアレイと のモジュール化にぉレ、て、ファイバアレイの部材の熱膨張率が樹脂基板の熱膨張率 と実質的に同等であることを特徴とする樹脂光導波路モジュールが提供される。 詳細な説明
[0007] フッ素化ポリイミドなどの樹脂基板上に形成された樹脂導波路のファイバアレイとのモ ジュールィ匕において、ファイバアレイの部材の熱膨張率が樹脂基板の熱膨張率と近 似したファイバアレイを用いることにより、本発明の上記目的が達成されるものである
[0008] また、フッ素化ポリイミド基板上に形成された樹脂導波路と、ファイバアレイとのモジュ ール化にぉレ、ては、ファイバアレイの部材がフッ素化ポリイミドであるファイバアレイを 用レ、、導波路基板のフッ素化ポリイミドとファイバアレイの部材であるフッ素化ポリイミ ドの熱膨張率の差が 20ppm/K以下、より好ましくは 1 Oppm/K以下であるものを 使用とすることにより、温度変化、高温高湿下における保存により損失への影響が無 レ、、低損失で高品質な信頼性を兼ね備えた樹脂導波路モジュールを作製することが できる。
[0009] 光導波路用樹脂基板材料としてはフッ素化ポリイミド樹脂、全フッ素化ポリイミド樹 脂、重水素化ポリシロキサン樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などが使 用できる。
[0010] 光導波路用基板としては、量産化のための取り扱いが簡便な樹脂製基板開発され ているが、その中でも 300°C以上のガラス転移温度を持ち、さらに高透明性であるフ ッ素化ポリイミド基板が好適である。このフッ素化ポリイミド基板上に形成された樹脂 導波路であって、ファイバアレイとのモジュールィ匕において、既存の石英製ファイバ アレイを用いた場合、温度変化、高温高湿下における保存により光損失が悪化-変 動し、さらには接合部にクラックが発生という問題が発生し、長期信頼性に欠け、ファ ィバアレイとのモジュールとしては実用に供することができず、モジュール作製上の 問題となっていた。
[0011] この原因は導波路基板のフッ素化ポリイミドとファイバアレイの部材である石英の熱 膨張率の差による、ファイバアレイと樹脂導波路の光軸ずれ、応力の発生により生じ ていると考えられる。なお、これまでは実用に供せるフッ素化ポリイミド基板上に形成 された樹脂導波路が実現できていなかったため、これを用いたモジュールィ匕の検討 はなされておらず、この問題はこれまでは顕在化してレ、なかった新規な問題点である ことが判明した。
[0012] 樹脂導波路を実用に供するためには、信頼性の観点から、 Telcordia規格の温度 サイクル試験 (一 40°C— 85°Cの範囲)、高温高湿試験(85°C、 85%)等で特性変化 力 S小さいこと、生じないことが好ましい。
[0013] 発明者らはこの温度変化、高温高湿下における保存により光損失の悪化 ·変動を 防ぐ方法を検討した結果、ファイバアレイの部材がフッ素化ポリイミドであるファイバァ レイを用いることにより、温度変化、高温高湿下における保存により光損失の悪化 ·変 動を防ぐことが可能になることを見出したものである。
[0014] ファイバアレイの部材としてフッ素化ポリイミドが好ましい理由としては、 300°C以上 のガラス転移温度を持ち高い熱安定性を有すること、樹脂導波路の基材と同じ材料 系とすることにより、モジュール化の際の応力低減および回避が可能となり、導波路と アレイとの密着力向上が計れること、熱膨張率の制御が容易であり、樹脂導波路の 基材であるフッ素化ポリイミドとの熱膨張率をあわせることができるためである。
[0015] ファイバアレイを構成するフッ素化ポリイミドとしては以下のものが挙げられる。フッ 素化ポリイミドの製造に使用されるテトラカルボン酸およびその誘導体の具体的な例
としては次のようなものがある。ここではテトラカルボン酸としての例を挙げる。 2, 2-ビ ス(3, 4—ジカルボキシフエ二ノレ)へキサフルォロプロパン、 3, 3,, 4, 4'—テトラカル ボキシジフエニルエーテル、 3, 3' , 4, 4'—ベンゾフエノンテトラカルボン酸、 3, 3 ' , 4 , 4,—テトラカルボキシジフヱニルスルホン、ピロメリット酸などがあげられる。これらテト ラカルボン酸およびその誘導体を単独で用いても良レ、し、混合して用いても良レ、。
[0016] ジァミン成分としては、例えば、次のジァミン、または、そのジイソシァネート誘導体 等が使用される。 2, 2,_ビス(トリフルォロメチル)—4, 4,—ジアミノビフエニル、 2, 2- ビス(p—ァミノフエニル)へキサフルォロプロパン、 2, 2'—ジメチルベンジジン、 3, 3, —ジメチルベンジジン、 4, 4 '一ォキシジァニリン等が挙げられる力 これらを単独で用 いても良いし、混合して用いても良レ、。具体的な組成としては、得られるフッ素化ポリ イミドの線熱膨張率とガラス転移温度を測定して好適なものを選択する事ができる。
[0017] 導波路基板のフッ素化ポリイミドの熱膨張率は約 60 80ppmZK、これに対して、 石英の熱膨張率は約 lppm/Kであり、熱膨張率の差は 60ppm/K以上と非常に 大きぐこの部材の組み合わせで作製したモジュールは温度変化により光軸ずれを 起こし、温度変化、高温高湿下における保存により光損失の悪化'変動を起こす。
[0018] 本発明は、導波路基板のフッ素化ポリイミドとファイバアレイの部材であるフッ素化 ポリイミドの熱膨張率を近似化することが重要であるが、両者の熱膨張率の差として は 20ppm/K以下であって、より好ましくは lOppm/K以下である。 21ppm/K以 上では熱膨張率の差が大きぐ温度変化により光軸ずれを起こし、光損失の悪化'変 動を起こし、不適当である。
[0019] 本発明により、導波路基板、導波路、ファイバアレイの構成部材がすべてフッ素化 ポリイミドの低損失で高品質な樹脂光導波路モジュールを作製することができる。 ま た、他の樹脂基板を使用するときにおいても、導波路基板の樹脂とファイバアレイの 部材との熱膨張率を近似化することが、性能が良く品質の安定した光導波路を製造 するために好適である。
[0020] 本発明でいう樹脂光導波路モジュールの例としては、 1 X 8スプリツター、マルチモ ード干渉型合波器、方向性結合器、アレイ型光導波路格子、 WDMなどが挙げられ る。
[0021] 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限 定されるものではない。
[0022] 〔実施例 1〕
4インチのフッ素化ポリイミド基板を使用し樹脂製の 1 X 8スプリツターを製作する。 基板は厚さ 0. 5mm、直径 100mmであり、熱膨張率は 80ppmZKである。
[0023] 光導波路に用いた樹脂はフッ素化ポリイミドである。この基板に、クラッド用のフッ素 化ポリアミド酸ワニスをスピンコーティング装置により塗布した後、不活性雰囲気に保 持したオーブンを用いて焼成して下部クラッド層を 15ミクロン成膜し、次にコア用フッ 素化ポリアミド酸ワニスをスピンコーティング装置により塗布した後、不活性雰囲気に 保持したオーブンを用いて焼成し、コア層を 7ミクロン成膜した。使用したコア層は屈 折率が(1. 51)であり、コアークラッドの比屈折率差は 0. 33%とした。このコア層上に マスク層としてシリコンをマグネトロンスパッタにより 0. 5ミクロン成膜した。このマスク 層上にはさらにレジスト層を成膜し、 1 X 8スプリツターのパターンをフォトマスクを用い 、ァライナによって露光し、パターニングされたレジスト層を形成した。
[0024] 次にレジスト層に保護されていないマスク層のシリコンを RIE装置を用いて、 CFガ
4 スを流入させながらエッチングした。引き続いて Oガスを流入させてマスク層のシリコ
2
ンに保護されていないコア層部分をエッチングにより除去し、次に、基板をフッ酸を含 有する剥離液に浸漬し、マスク層を除去した。さらに下部クラッドと同種のフッ素化ポ リイミド樹脂をスピンコーティング装置により塗布した後、不活性雰囲気に保持したォ 一ブンを用いて焼成して、厚さ 18ミクロンの上部クラッド層を形成した。 1 X 8スプリツ ターのチップのサイズは幅 5mm X長さ 17mmである。コアのサイズは 7 X 7 μ mであ る。ダイサ一にて切り出した I X 8スプリツターのチップは、入射側には 1芯ファイバー アレイを、出射側には 8芯ファイバーアレイを UV硬化型接着剤を用いて接続した。
[0025] なお、ファイバーアレイの部材には熱膨張率 80ppm/Kの導波路基板と同じフッ 素化ポリイミド材料のものを使用した。ファイバーアレイのサイズは幅 5mm X長さ 10 mmである。接続後のモジュールとして、 22°Cでの光特性は波長 1550nmにおいて 、損失 10. 8dB、偏波依存損失 0. 2dB、各ポートにおける出力偏差は 0. 4dBであ つた。
[0026] このモジュールを恒温恒湿器(エスペック製)に入れ、 70°Cおよび一 40°Cでの光特 性を評価した。 70°Cでの損失、偏波依存損失、各ポートにおける出力偏差はそれぞ れ、 11. OdB、 0. 4dB、 0. 5dBであった。また、 _40。Cではそれぞれ 10. 7dB、 0. 3 dB、 0. 4dBであった。温度変化においても光特性の悪化、変動は小さぐ実用に供 せる良好な光学特性を示した。また、一 40°Cと 70°Cの間の温度サイクル 500回後に おいてもチップとファイバアレイとの接合部にクラックは認められな力、つた。
〔比較例 1〕
実施例 1と同様な方法で 1 X 8スプリツターを作製し、石英製ファイバーアレイを使 用しモジュールを作製した。 22°Cでの光特性は波長 1550nmにおいて、損失 11. 0 dB、偏波依存損失 0. 3dB、各ポートにおける出力偏差は 0. 5dBであった。このモジ ユールを恒温恒湿器(エスペック製)に入れ、 70°Cおよび一 40°Cでの光特性を評価し た。 70°Cでの損失、偏波依存損失、各ポートにおける出力偏差はそれぞれ、 12. 2d B、 1. 0dB、 1. 2dBであった。また、 _40。Cではそれぞれ 11. 9dB、 0. 8dB、 1. 2d Bであった。温度変化において光特性の悪化、変動は大きぐ実用に供せる良好な 光学特性を示さなかった。また、 _40°Cと 70°Cの間の温度サイクル 50回後において 、チップとファイバアレイとの接合部にクラックが認められた。
[0027] 〔実施例 2〕
4インチのフッ素化ポリイミド基板を使用し、樹脂光導波路と誘電体多層膜フィルタ から構成される WDM (Wavelength Division Multiplexing)素子を制作する。 基板は厚さ 0. 5mm、直径 100mmであり、熱膨張率は 80ppm/Kである。
[0028] 実施例 1と同様な方法で光導波路部分を作製し、次にダイサ一によりフィルタ挿入 のための溝をコアパターンの Y分岐部分に作製し、 UV硬化型接着剤を用いてフィル タを固定した。 WDMのチップのサイズは幅 4mm X長さ 10mmである。コアのサイズ は 7 X 7 x mである。ダイサ一にて切り出した WDMのチップは、 1芯ファイバーアレイ 、および 2芯ファイバーアレイを UV硬化型接着剤を用いて接続した。なお、ファイバ 一アレイの部材には熱膨張率 80ppmZKの導波路基板と同じフッ素化ポリイミド材 料のものを使用した。
[0029] ファイバーアレイのサイズは幅 4mm X長さ 10mmである。接続後のモジュールとし
て、 22°Cでの挿入損失は各波長 1310nm、 1490nmおよび 1550nmにおレ、てそれ ぞれ、 1. 5dB、 1. 8dB、 1. 4dBであった。このモジュールを恒温恒湿器(エスペック 製)に入れ、 70°Cおよび一 40°Cでの光特性を評価した。 70°Cでの挿入損失は、各波 長 1310nm、 1490nmおよび 1550nmこおレヽてそれぞれ、 1. 8dB、 2. OdB、 1. 6d Bであった。また、— 40。Cではそれぞれ 1. 7dB、 2. OdB、 1. 7dBであった。温度変 化においても光特性の悪化、変動は小さぐ実用に供せる良好な光学特性を示した 。また、 _40°Cと 70°Cの間の温度サイクル 500回後においてもチップとファイバーァ レイとの接合部にクラックは認められず十分な耐久性が確認できた。