明 細 書 皮膚の分離無細胞化方法、 無細胞化真皮マトリックス及びその製造方法並びに 無細胞化真皮マトリックスを用いた複合培養皮膚 技術分野
本発明は、 採取した皮膚を分離無細胞化する方法及び当該分離無細胞化方法 により得られる無細胞化真皮マトリックス、 或いは当該分離無細胞化方法を利 用した無細胞化真皮マトリックスの製造方法に関し、 また当該無細胞化真皮マ トリックスを担体とした複合培養上皮及び皮膚に関する。 背景技術
培養皮膚は、 1 975年に Rh e i nwa 1 dと G r e e nによって表面細 胞をシート状に培養する方法が開発されて以来 (例えば、 Rheinwald JG & Gre en H : Serial cultivation of human epidermal kerat inocytes : the Cell format ion of keratinizing colonies from single eel Is. Cell. 1975:6:33 1-344参照。 ) 、 熱傷や創傷などの欠損した皮膚の再建手段として研究が進め られてきた。 G r e e nらの培養表皮シートは、 1 98 1年に0' Conn o rらにより初めて臨床に適用された培養皮膚である (例えば、 0' Connor NE, Mul 1 iken JB, Banks - Schlegel S, et al : Grafting of burns with cultured epi thel ium prepared from autologous epidermal eel Is. Lancet. 1981 ; 1 :7 5-78参照。 ) 。 しかし、 真皮成分を含まないことから全層皮膚欠損創では滲出 液や細菌の汚染により生着率が悪く、 生着しても水疱や潰瘍を生じやすいこと が大きな問題点となっている (例えば、 Nanchahal J & Ward CM : New grafts
for old? A review of alternatives to autologous skin. Brit J Plast Su rg. 1992:45:354- 363参照。 ) 。 そのため、 培養皮膚における真皮成分の重要 性が認識され、 今日まで様々な真皮材料を細胞の足場 (担体) とした培養皮膚 が開発されてきた。
現在、 表皮細胞を組み込んだ培養皮膚の主な担体には、 バイクリル (V i c r y 1 :登録商標) 等の生体吸収性の合成高分子や (例えば、 Hansbrough JF. , Morgan JL. , Greenleaf GE., et al : Composite grafts of human keratin ocytes grown on a polyglact in mesh cultured fibroblasts dermal substit ute function as a bi layer skin replacement in ful 1-thickness wounds on athymic mice. Burn Care Rehabil. 1993: 14:485- 494参照。 ) 、 コラーゲン ゲル (例えば、 Bell E., Ehrlich HP., Buttle DJ. , et al : Living tissue formed in vitro and accepted as skin-equivalent tissue of ful 1-thickne ss. Science. 1981 ;211 : 1052-1054参照。 ) 、 C— GAG等のコラーゲンスポ ンジ (例えば、 Boyce ST. , Christ ianson D. , Hansbrough JF. : Structure o f a collagen - GAG skin substitute optimized for cultured human epiderma 1 keratinocytes. J Biomed Mater Res. 1988:22:939- 957参照。 ) といった、 生体由来材料から成る人工真皮、 さらに生体皮膚組織由来の無細胞真皮マトリ ックス (A c e l l u l a r De rma l Ma t r i x : ADM) (例え ば、 Livesey SA, Herndon DN, Hoi lyoak MA, et al : Transplanted acel lula r allograft dermal matrix. Potential as a template for the reconstruct ion of viable dermis. Transplantation. 1995:60:1-9、 Wainwright DJ. Use of an acel lular dermal matrix(Al loDerm) in the management of ful 1-Thi ckness burns. Burns. 1995:21 :243-248参照。 ) などが使用されている。 バイ クリル (登録商標) とは、 グリコール酸と乳酸とを 9 : 1の割合で共重合した
生体吸収性合成高分子 (ポリダラクチン一 910) であり、 吸収性のある縫合 糸ゃネットとして臨床使用されている。 このポリダラクチンを担体として線維 芽細胞を組み込んだ人工真皮が、 De rmag r a f t (登録商標) であり、 Han s b r oughらは D e rma g r a f t (登録商標) に表皮細胞を組 み込んだ複合型培養皮膚を作製し、 報告した。 また、 C一 GAG (Co 1 1 a ge n-G l yc o s ami nog l yc an) とま、 1980年に Yann a sらが、 コラーゲンとグリコサミノダリカンの一種であるコンドロイチン 6 硫酸を共重合したコラーゲンスポンジとして開発したものである。 1988年 に Boy c eらは C— GAGに表皮細胞を播種した培養皮膚を作製し、 報告し た。
上記の担体のなかでも、 ADMは生理的な真皮構造を有することから、 培養 皮膚の担体として用いた場合、 最も生体に近似した皮膚モデルとなり得る。 し かし、 ADMはもともと植皮あるいは培養表皮との同時移植において、 欠損し た真皮部分を再構築させるための代用真皮として開発されたものである。 これ を担体とした培養皮膚については現在様々な研究が試みられているが、 基礎研 究段階であることからヒトへの臨床報告はほとんどなく、 実用化には至ってい ない。 その基礎研究のひとつとして、 同種皮膚の無細胞化法が挙げられる。 同 種皮膚の無細胞化にはさらにいくつかの方法があり、 表皮基底膜をはじめとし て、 真皮内に含まれる種々の細胞外マトリックスを温存させることが可能であ る。 しかし、 無細胞化方法によって基底膜成分の温存程度が異なり、 それが培 養細胞にどの程度の影響を与えているかは不明な点が多い。
同種皮膚の様々な分離無細胞化方法のなかでも、 1 M塩化ナトリゥム処理に て真皮層から表皮層を剥離する方法が、 最も基底膜の温存程度が良好であるこ とが知られている。 しかし、 同種皮膚の個体差により、 1M塩化ナトリウム処
理のみでは、 表皮層の剥離が困難なことがあり、 また処理時間も 18〜24時 間と長い。 さらに真皮マトリックス内を完全に無細胞化するためには、 真皮内 の残存細胞を除去する必要がある。 真皮内細胞の除去方法には、 界面活性剤で ある SDSなどを用いることがよく知られている。 米国で製品化されている同 種無細胞化真皮マトリックス、 A 1 1 oD e r m (登録商標、 米国し i f e C e 1 1社) は、 1M塩化ナトリウムと SDSで処理したものである (例えば 、 Livesey SA, Herndon DN, Hoi lyoak MA, et al : Transplanted acel lular allograft dermal matrix. Potential as a template for the reconstruct io n of viable dermis. Transplantation. 1995;60:ト 9、 Wainwr ight DJ. Use o f an acel lular dermal matrix(Al loDerm) in the management of fulト Thick ness burns. Burns. 1995 ;21 :243- 248参照。 ) 。 しかし、 界面活性剤である S DSによる処理方法は、 基底膜あるいは真皮にダメージを与える可能性がある
発明の開示
したがって、 本発明は、 培養皮膚としての担体に適した ADMの作製法、 つ まり、 基底膜をはじめとする種々の細胞外マトリックスを温存することができ 、 表皮層が容易に剥離され、 かつ、 真皮マトリックスにダメージを与えない分 離無細胞化方法、 当該分離無細胞化方法により得られる無細胞化真皮マトリッ クス、 或いは当該分離無細胞化方法を利用した無細胞化真皮マトリックスの製 造方法を提供することを目的とし、 また当該無細胞化真皮マトリックスを担体 とした複合培養皮膚をはじめとする複合培養上皮を提供することを目的とする 本発明の発明者らは、 培養皮膚としての担体に適した ADMの作製法を検討
し、 1 M塩化ナトリウム処理に先立って、 同種皮膚を凍結融解することにより 、 表皮層の剥離を容易に行うことができること、 また、 真皮内細胞の除去法と して、 P B Sによる流水洗浄法が適していることを見出し、 本発明を完成させ るに至った。 また、 前記方法を、 ヒト同種皮膚のみならず他の哺乳動物の皮膚 に適用した場合にも、 良好な A D Mが得られることを見出した。
従って、 本発明は、 採取した皮膚を凍結融解した後、 高張食塩水で処理する ことにより表皮と真皮とに分離する工程、 及び、 分離した真皮を洗浄する工程 を含むことを特徴とする皮膚の分離無細胞化方法である。
また、 本発明は、 採取した皮膚を凍結融解した後、 高張食塩水で処理するこ とにより表皮と真皮とに分離する工程、 及び、 分離した真皮を洗浄する工程に より、 分離無細胞化したことを特徴とする無細胞化真皮マトリックスである。 また、 本発明は、 採取した皮膚を凍結融解した後、 高張食塩水で処理するこ とにより表皮と真皮とに分離する工程、 及び、 分離した真皮を洗浄する工程を 含むことを特徴とする無細胞化真皮マトリックスの製造方法である。
また、 本発明は、 上記無細胞化真皮マトリックスを基質とする複合培養皮膚 である。
さらに、 本発明は、 上記無細胞化真皮マトリックスを基質とする複合培養上 皮である。
本願の開示は、 2 0 0 3年 1 2月 2 5日に出願された特願 2 0 0 3— 4 3 0 4 9 2号及び 2 0 0 4年 1月 3 0日に出願された特願 2 0 0 4— 2 4 3 5 1号 に記載の主題と関連しており、 それらの開示内容は引用によりここに援用され る。 図面の簡単な説明
図 1は、 ヒト同種皮膚 (上段) 及び方法 1〜5により得られた無細胞化真皮 マトリックスの組織像 (H E染色、 倍率 1 0 0倍) (下段) を示す図面代用写 真である。 写真①〜⑤に示すサンプルはそれぞれ方法 1〜 5により得られた。 1 1は表皮細胞、 1 2は表皮、 1 3は真皮線維芽細胞、 1 4は真皮を表す。 図 2は、 方法 1〜5により得られた無細胞化真皮マトリックスにおける I V 型コラーゲンの染色像 (免疫染色、 倍率 2 0 0倍) を示す図面代用写真である 。 写真 1〜 5に示すサンプルはそれぞれ方法 1〜 5により得られた。
図 3は、 方法 1〜 5により得られた無細胞化真皮マトリックスにおけるラミ ニンの染色像 (免疫染色、 倍率 2 0 0倍) を示す図面代用写真である。 写真 1 〜 5に示すサンプルはそれぞれ方法 1〜 5により得られた。
図 4は、 無細胞化真皮マトリックスを担体とした複合型培養皮膚の作製法を 示す概念図である。
図 5は、 方法 1〜 5により得られた無細胞化真皮マトリックスを担体とした 複合型培養皮膚の組織像 (H E染色、 倍率 2 0 0倍) を示す図面代用写真であ る。 写真 1〜5に示すサンプルはそれぞれ方法 1〜 5により得られた。 1 5は 表皮層を表す。
図 6は、 方法 1〜 5により得られた無細胞化真皮マトリックスを担体とした 複合型培養皮膚における I V型コラーゲンの染色像 (免疫染色、 倍率 2 0 0倍 ) を示す図面代用写真である。 写真 1〜5に示すサンプルはそれぞれ方法 1〜 5により得られた。
図 7は、 本発明の複合型培養皮膚移植像 (移植直後 (上段) 及び 2 2日目 ( 中段) ) を示す図面代用写真、 及び、 本発明の複合型培養皮膚移植後 (1 3日 目) の皮膚断面 (H E染色、 倍率 1 0 0倍) (下段) を示す図面代用写真であ る。 1 6は培養皮膚、 1 7は移植床を表す。
図 8は、 本発明の無細胞化真皮マトリックスを担体とした培養粘膜組織 (H E染色、 倍率 200倍) を示す図面代用写真である。 18は口腔粘膜上皮細胞 を、 19は真皮を表す。
図 9は、 本発明の無細胞化真皮マトリックスを担体とした培養小腸組織 (H E染色、 倍率 200倍) を示す図面代用写真である。 20は小腸粘膜上皮細胞 を、 21は真皮を表す。
図 10は、 ブ夕皮膚 (上段) 及び実施例 6により得られた無細胞化真皮マト リックスの組織像 (HE染色、 倍率 100倍) (下段) を示す図面代用写真で ある。
図 1 1は、 実施例 6により得られた無細胞化真皮マトリックスにおける I V 型コラーゲン (上段) 及びラミニン (下段) の染色像 (免疫染色、 倍率 100 倍) を示す図面代用写真である。 発明を実施するための最良の形態
ヒト同種皮膚を初めとする哺乳動物の皮膚は、 細胞成分や生理的皮膚構造を 有することから最も優れた創傷被覆材であるが、 同種又は異種の細胞を含むた め移植後数週間以内に免疫学的拒絶反応により表皮細胞層が脱落してしまう。 そこですベての細胞を除去することで免疫学的拒絶を抑制し永久生着を可能と したものが、 無細胞真皮マトリックス (A c e l l u l a r De rma l Ma t r i x : ADM) である。
皮膚組織の分離無細胞化には様々な方法が報告されている。 1972年に O l i v e rらはトリプシンによるタンパク質分解酵素処理によってブ夕皮膚を 無細胞化した (Oliver RF. , Grant RA, and Kent CM. : The fate of cutaneo usly and subcutaneously implanted trypsin purified dermal collagen in
the pig. Br J exp Path. 1972;53:540-549) 。 1 987年に G r i n n e 1 らは皮膚の凍結融解を行い、 その後ピンセットを用いて真皮から表皮を剥離す る物理的方法により皮膚の分離無細胞化を行った (Grinnel F., Toda K. , and Lamke-Seymour C. : Reconstruct ion of human epidermis in vitro is acco mpanied by transient activation of basai kerat inocyte spreading. Exp C ell Res. 1987;172:439-449) 。 また、 S a s a m o t oらは 1 990年にデ イスパーゼ処理によりラット皮膚の ADMを作製した (Sasamoto Y., Alexamd er JW. , and Babcock GF. : Prolonged survival of reconstituted skin gra fts without immunosuppression. J Burn Care Rehabi 1. 1990; 11 :190-200) 。
本発明の分離無細胞化方法と関連する方法としては、 Ta k am i らが 1 9 96年にディスパーゼとデタ一ジェントである T r i t o nX- 100を組み 合わせた無細胞化法を報告した (Takami Y. , Matuda T. , Yoshitake Μ. , et a 1 : Dispase/detergent treated dermal matrix as a dermal substitute. Bu rns. 1996;22:182-190) 。 また、 A 1 1 oD e rm (登録商標、 米国 L i f e Ce 1 1社) は、 1M塩化ナトリウムにより表皮層を剥離した後、 デ夕ージ ェントである S D Sを用いて真皮内残存細胞を溶解除去したものである (Live sey SA, Herndon DN, Hoi lyoak MA, et al : Transplanted acel lular al logr aft dermal matrix. Potential as a template for the reconstruct ion of v iable dermis. Transplantation. 1995:60:1 - 9; Wainwright DJ. Use of an acel lular dermal matrix(Al loDerm) in the management of fulト Thickness burns. Burns. 1995;21:243-248) 。 上記の凍結融解を行う物理的方法は、 真 皮内細胞を完全に除去するのが難しく、 さらに過度の凍結融解やピンセッ卜に よる物理的な表皮剥離によって、 真皮コラーゲンや基底膜構造が破壊されてし
まう。 また、 トリプシンやディスパーゼといったタンパク質分解酵素を用いた 化学的方法は、 基底膜のみならずコラーゲン繊維から成る真皮組織を変性ある いは分解する作用があるため、 無細胞化にはその処理時間が重要である。 これ に対し 1 M塩化ナトリゥムによる処理は、 基底膜や真皮組織を完全に温存させ ることができるが、 さらに真皮内残存細胞を除去する必要がある。
真皮内細胞の除去には SDSや T t i t o nX— 100といったデ夕一ジェ ントを用いる方法の他に、 PBSで洗浄除去する方法も報告されている。 Ma r s h a l 1 らは 1 M塩化ナトリウム処理の後、 真皮部分を P B Sで 4〜 8週 間もの長期間洗浄することにより基底膜温存型の ADMを作製した (Marshall L. , Ghosh MM. , Boyce SG. , et al. : Effct of glycerol on intracellular virus survival ; Implications for the clinical use of glycerol-presse rved cadaver skin. Burns. 1995;21:356-361) 。 デタージェント処理では短 時間で基底膜を保持した ADMを作製できるが、 化学成分を用いることから真 皮マトリックスに何らかのダメージが生じる可能性がある。 Wa 1 t e rらは 、 塩化ナトリウム、 次いで SDSで作製した ADMが、 通常の皮膚組織と比べ て基底膜をはじめとした種々の細胞外マトリックスが減少していることを示し ている (Walter RJ. , Matsuda T., Reyes HM. , et al : Characterization of acel lular dermal matrices (ADMs) prepared by two different methods. Bu rns. 1998;24:104-113) 。 ただし、 それが塩化ナトリウムによるものなのか S D Sによるものなのかについては明らかにされていない。 し力、し、 後述の実施 例では、 塩化ナトリウム処理の後に PB S処理した ADMに比べて、 SDS処 理した ADMでは基底膜あるいは真皮内血管基底成分の減少がみられた。 すな わち、 細胞外マトリックスの減少が、 SDSによるものであることが明らかに なった。
生生体体のの皮皮膚膚でではは基基底底膜膜のの破破綻綻がが水水泡泡症症ななどど様様々々なな疾疾患患をを惹惹起起すするるここととかからら、、 基基底底膜膜のの重重要要性性ににつついいてていいくくつつもものの報報告告ががああるるがが ((YYaanncceeyy KKBB.. :: AAddhheessiioonn mmoo lleeccuulleess.. IIII :: IInntteerraacctt iioonnss ooff kkeerraatt iinnooccyytteess wwiitthh eeppiiddeerrmmaall bbaasseemmeenntt mmee mmbbrraannee.. JJ IInnvveesstt DDeerrmmaattooll.. 11999955;;110044::11000088--11001144)) 、、 複複合合型型培培養養皮皮膚膚ににおおいい ててももそそのの重重要要性性はは例例外外ででははなないい。。 基基底底膜膜はは緻緻密密板板 (( ll aamm ii nn aa dd ee nn ss aa )) 、、 透透明明板板 ((ll aamm ii nn aa ll uu cc ii dd aa)) 、、 線線維維細細網網板板 (( ff ii bb rr oo rr ee tt ii cc uu 11 aa rr 11 aamm ii nn aa)) のの 33層層構構造造かからら成成りり、、 II VV型型ココララーーゲゲンン、、 ララミミ ニニンン、、 フフイイブブロロネネククチチンン、、 へへパパラランン硫硫酸酸、、 ェェンン夕夕ククチチンンがが主主成成分分でであありり、、 そそしし ててへへミミテテススモモゾゾーームム ((hh eemm ii dd ee ss mmoo ss oommee
![Figure imgf000012_0001](https://patentimages.storage.googleapis.com/04/fa/6f/844fb4e39052d6/imgf000012_0001.png)
ル (an c ho r i ng f i b r i 1 ) といった接着繊維とともに、 表皮細 胞と真皮との接着を強めている。 また、 基底膜は表皮細胞との接着を強固にす るだけではなく、 物質透過に対する障壁効果や表皮細胞の配列や分化を調節す る機能を有している。 培養皮膚としての担体を目的とした ADMには、 これら の基底膜構造を完全に温存させることが望ましいと考えられよう。
0 j e hらは基底膜温存型の ADMと C一 GAGに表皮細胞を播種し表皮層 形成の比較をしたところ、 ADMのほうが表皮層形成程度が良好であったこと を示している (Ojeh.N.0., Frame. J.D. , F.R.C.S., et al : In vitro charac terizat ion of an Artf icial dermal scaffold. Tissue Engineering. 2001 :7 :457-472) 。 また、 Ra 1 s t o nらは基底膜温存型の ADMは非温存型の A DMよりも、 表皮細胞の接着や表皮層形成程度が高いことを報告した (Ralsto n DR, Layton C, Dal ley AJ, et al : The requirement for basement membra ne antigens in the product ion of human epidermal/dermal composites in vitro. British Journal of Dermatology 1999;140:605-615) 。 後述する実施 例では基底膜の温存程度の違いによる表皮層形成には顕著な差はみられなかつ
たが、 表皮層の接着性には明らかな差がみられた。 また、 表皮細胞による基底 膜の新規形成は認められなかった。 これらの結果から、 培養皮膚の担体として の ADM作製法には基底膜成分を温存できる 1 M塩化ナトリゥムを用いる方法 が適しており、 真皮内細胞の除去には PB S洗浄による方法が基底膜温存の安 定性が高いことが明らかとなった。
さらに、 ADMに線維芽細胞および表皮細胞を組み込んだ複合型培養皮膚は 、 1 997年に Gh o s hらが報告したが (Ghosh MM, Boyce S, Layton C, e t al: A Comparison of Methodologies for the Preparation of human Epider maト Dermal Composites. Annals of Plastic Surgery. 1997;39:390-404) 、 その後現在に至るまで、 同様の研究は同種皮膚の無細胞化法、 ADMの滅菌法 、 培養細胞の組み込み法などに焦点が当てられており (Manimalha Balasubram ani, T Ravi Kumar, Mary Babu : Skin substitutes:a review. Burns. 2001; 27:534-544) 、 現在、 ADMに表皮細胞 (k e r a t i n o c y t e) を組み 込んだ培養皮膚の生体への移植報告について確認されているものは、 Ch a k r a b a r t yらによるヌ一ドマウスを用いた例のみである (Chakrabarty KH , Dawson RA, Harris P, et al : Development of autologous human dermal- epidermal composites based on sterilized human al lodermis for clinical use. British Journal of Dermatology 1999;141:811-823) 。 また、 培養上 皮に関しても、 泉らによる A 1 1 oDe rmに口腔粘膜細胞を組み込んだ培養 上皮をマウスへ移植した報告があるのみである (Izumi K, Feinberg SE, Tera shi H, et al : Evaluation of transplanted tissue-engineered oral muco sa equivalents in severe combined immunodef icient mice. Tissue Eng. 20 03; 9:163-174) 。 つまり、 複合型培養皮膚の臨床的完全移植例は、 今回、 本 発明の発明者らが初めて成し得たものである。 また、 本 ADMは口腔粘膜上皮
細胞や小腸上皮細胞との親和性が認められたことから、 皮膚だけでなく様々な 上皮細胞を用いた組織再生医療への応用も期待される。
以下、 本発明の分離無細胞化方法について説明する。 本発明の分離無細胞化 方法は、 ヒトを含む同種又は異種哺乳動物から採取された皮膚を用いて、 基底 膜等をはじめとする細胞外マトリックスを真皮に温存させた状態で当該皮膚の 表皮と真皮とを分離し、 さらに、 分離した真皮を無細胞化する方法である。 こ こで、 本発明に用いられる同種又は異種哺乳動物から採取された皮膚とは、 熱 傷の治療等として植皮等の処置が必要なヒトその他の動物と同種又は異種の動 物から採取された皮膚であり、 同種の動物由来であることが好ましく、 自家で あるか否かは問わない。 ヒト同種皮膚を用いる場合、 手術後若しくは同種皮膚 採取後に不要となった余剰皮膚、 或いは死体より得られる皮膚等も利用可能で あり、 またスキンバンク等に凍結保存されている皮膚も用いることができる。 当該皮膚は、 平均 0 . 3 8 mm厚 (平均約 0 . 0 1 5インチ厚) 程度の分層皮 膚として使用するのが好適である。 また、 本発明においては異種の動物由来の 皮膚を用いることも可能であり、 このような哺乳動物として、 ブ夕、 ゥシ、 サ ル、 ゥサギ、 ラット、 マウス、 ャギ、 ヒッジ、 ゥマ等を挙げることができるが 、 本発明においてはブ夕皮膚を用いることが好ましい。 これらの皮膚も、 平均 0 . 3 8 mm厚 (平均約 0 . 0 1 5インチ厚) 程度の分層皮膚として使用する のが好適である。
本発明において、 採取した皮膚の表皮と真皮への分離は、 採取した皮膚を、 凍結融解する工程、 高張食塩水で処理する工程により行われる。 この処理によ り、 基底膜等をはじめとする細胞外マトリックスが真皮に残された状態で、 表 皮と真皮とを容易に分離することができる。
凍結融解する工程において、 凍結は採取した皮膚を好ましくは一 2 以下
、 さらに好ましくは— 2 0〜一 8 O :の温度で 2 4〜4 8時間、 次いで好まし くは液体窒素を用い— 1 9 O t:以下、 さらに好ましくは一 1 9 0〜― 2 0 0 ^ の温度で保持することにより行われる。 保持する時間に特に限定はなく、 好ま しくは 4 8時間以上であり、 半永久的に保持することが可能である。 融解は凍 結した皮膚を 2 0〜 3 7での温度で 5分以上、 好ましくは 5〜 1 0分保持する ことにより行われることが好ましい。
また、 本発明において、 高張食塩水とは、 好ましくは 0 . 8〜2 . 0 Μ、 さ らに好ましくは 0 . 9〜 1 . 5 Μ、 最も好ましくは 0 . 9〜 1 . 1 Mの塩溶液 である。 高張食塩水として、 塩化ナトリウム水溶液、 塩化カリウム等を挙げる ことができるが、 好ましくは塩化ナトリウム水溶液である。 高張食塩水は、 任 意に、 他の付加的成分、 例えばビタミン、 保存料、 抗生物質等を含み得る。 高張食塩水による処理とは、 当該高張食塩水に皮膚を浸漬することを含み、 好ましくは当該混合溶液への浸漬及び当該混合溶液中での震盪を含む。 浸漬 · 震盪の温度は、 処理される皮膚の実質的な変性が発生しない温度であればよく 、 一般的には 2 0〜3 7 で行なわれるがこれに限定されない。 処理時間は、 8〜 1 2時間程度で充分であるが、 分離の状況を勘案して、 より短くすること もでき、 また若千長めに設定してもよい。
本発明における分離工程は、 皮膚を高張食塩水処理する前に凍結融解処理を 加えることにより表皮層剥離時間を短縮することが可能であり、 本工程により 、 ヒトを含む同種又は異種哺乳動物から採取された皮膚は、 基底膜が真皮に温 存された状態で、 真皮コラーゲンや基底膜構造が破壊されることなく真皮と表 皮とが完全に分離される。
次いで、 得られた真皮は、 洗浄工程により無細胞化される。 洗浄には、 通常 、 等張緩衝液、 等張食塩水等の等張液、 又は滅菌水等を用いることが可能であ
るが、 本発明においては等張緩衝液を用いることが好ましい。 本工程は、 トラ ンズゥエル (T r an sWe l l, Ca t No. 3403 :登録商標、 C ORN I NG社製) などのデバイスに代表される三次元培養が可能なカルチヤ 一インサートシャーレを用いて、 分離された真皮を透過性のある膜上に置き、 真皮上部、 つまり、 基底膜側から等張緩衝液を持続的に流すことにより真皮内 細胞を物理的に除去する工程である。 トランズゥエルのようなデバイスは、 分 離された真皮に対し、 流動的に PBSを流しかけることができるため好ましく 使用される。 等張緩衝液としては、 いずれのものを使用しても良く、 本発明に おいては、 PBS (Pho s ph a t e Bu f f e r e d S a l i ne : リン酸緩衝化生理食塩水) 、 HBSS (Hank s ' B a l an c e d S a l t S o l u t i on :ハンクスの平衡塩類溶液) 等を挙げることができ 、 PBSが好ましく用いられる。 等張食塩水としては、 いずれのものを使用し ても良く、 本発明においては、 塩化ナトリウム水溶液、 塩化カリウム水溶液等 を挙げることができる。 本工程で用いられる等張液又は滅菌水等は、 任意に、 他の付加的成分、 例えばビタミン、 保存料、 抗生物質等を含み得る。
洗浄時の等張緩衝液を流す方法は、 ピぺット操作により真皮が液中に完全に 浸潰するまで真皮表面に等張緩衝液を直接流しかけ、 その後、 さらに真皮が液 中に完全に浸漬した状態で真皮表面に等張緩衝液を流しかけることが好ましい 。 等張緩衝液の流量は、 シャーレとして 100mmシャーレを用いた場合、 1 0〜30m 1 5〜: L 0秒であることが好ましく、 15〜30mlZ5〜: 10 秒であることがより好ましく、 15〜25mlZ5〜l 0秒であることが特に 好ましい。 洗浄時の温度は、 洗浄される真皮の実質的な変性が発生しない温度 であればよく、 一般的には 20〜37 X:で行なわれるがこれに限定されない。 洗浄時間は、 1週間程度で充分であるが、 無細胞化の状況を勘案して、 より短
くすることもでき、 また若干長めに設定してもよい。
本発明における無細胞化工程は、 真皮に等張緩衝液等を流しかける方法によ るものであり、 この流水法により細胞の除去に要する期間を短縮することが可 能であり、 本工程により、 正常の真皮マトリックス構造を保持しながら、 確実 に無細胞化した真皮マトリックスを得ることができる。
好適な分離無細胞化方法の具体例においては、 同種哺乳動物から採取された 皮膚を、 凍結 (温度一 8 0 °C、 2 4時間、 次いで液体窒素を用いて温度一 1 9 6 、 4 8時間) 、 融解 (温度 3 7 、 5分) した後、 1 M塩化ナトリウムに 皮膚を浸し、 3 7 :、 1 2時間震盪し、 基底膜が真皮に温存された状態で真皮 と表皮とを分離する。 次いで、 分離された真皮部分を、 トランズゥエルを用い て上部から P B Sを流すことにより、 3 7 、 1週間、 持続洗浄する。 この処 理により実質的に真皮内の全ての細胞成分 (皮膚付属器の細胞、 血管系の細胞 、 線維芽細胞、 神経系の細胞、 その他) が除去され、 真皮は基底膜が温存され たコラーゲン主体の真皮マトリックスとなる。
また、 本発明の無細胞化方法においては、 上述した工程の他に、 採取した皮 膚を 0 . 1〜 1 0 %程度のアジ化ナトリウム水溶液中に数分〜数日浸漬するこ とにより滅菌する工程を含んでいても良い。 また、 本発明の無細胞化方法のい ずれかの段階において、 採取した皮膚、 分離後の真皮、 又は無細胞化した後の 真皮をガンマ線又は電子線を照射することにより滅菌する工程等を含んでいて も良い。 本発明の無細胞化方法は、 さらに他の任意の工程を含み得る。
かくして無細胞化された真皮 (マトリクッス) は、 そのままで本発明の無細 胞化真皮マトリックスとして利用することもでき、 また、 これを冷蔵保存して 使用することもできる。
また、 好ましくは、 上記により得られた無細胞化真皮マトリックスに関し、
当該真皮マトリックスの一部を細菌 ·真菌培養し、 細菌 ·真菌の発育のないこ とを確認する。 より好ましくは、 へマトキシリン ·ェォシン染色による病理学 的検査により、 実質的に真皮コラーゲン構造に異常が無い事と実質的に完全に 無細胞であることを確認する。 更に好ましくは、 免疫化学的染色により、 I V 型コラーゲン及びラミニンの存在を確認することにより、 実質的に基底膜が温 存されていることを確認する。
上記の無細胞化方法 無細胞化真皮マトリックス製造方法は、 従来法に比べ 、 基底膜等の細胞外マトリックスが温存され、 正常の真皮マトリックス構造を 保持しながら、 確実に無細胞化できる、 優れた方法である。
上記により製造した無細胞化真皮マトリックスは、 基底膜等の細胞外マトリ ックスが温存され、 実質的に無細胞であり、 かつ正常の真皮内コラーゲン構造 の損傷は極めて少なく、 3次元的な真皮内コラーゲン構造を保持されている。 また、 本発明において、 当該無細胞化真皮マトリックスは、 ヒトを含む哺乳 動物に用いることが可能であり、 特にヒト同種又は異種無細胞化真皮マトリッ クスとして、 従来のコラーゲンマトリックスに代わる移植可能な複合培養皮膚 の担体として使用し得る。
さらに、 本発明の無細胞化真皮マトリックスを担体として、 同種又は異種の 培養口腔粘膜上皮細胞、 培養上皮細胞等を組み込んだ、 皮膚以外の培養組織を 得ることもできる。
本発明の無細胞化真皮マトリックスの製造法は、 真皮に基底膜を残した状態 で、 表皮を容易に剥離することが可能であり、 さらに正常の真皮マトリックス 構造を保持しながら、 確実に無細胞化できる、 優れた方法である。 本発明の方 法によって作成したヒト同種又は異種無細胞化真皮マトリックスは、 組織再生 医療や培養組織を用いた研究のための、 培養上皮組織に最適なマトリックス (
担体) 、 つまり、 培養細胞の接着や培養細胞の重層化に最適なマトリックスと して使用することが可能である。 また、 本発明の無細胞化真皮マトリックスは 、 皮膚のみならず、 粘膜、 腸管上皮の培養組織の担体とすることも可能であり 、 広く上皮組織一般に応用されるものである。 さらに、 本発明の無細胞化マト リックスを用いた複合培養皮膚は、 コラーゲンゲル又はコラーゲンスポンジ等 の動物のコラーゲンマトリックス、 従来の A DM及びバイクリル等の人工物か らなる担体を使用したものに比べ、 培養細胞を重層化した後の接着性、 培養組 織としての安定性等に優れ、 臨床的にも使用することができる。 実施例
以下に、 実施例により本発明を更に詳しく説明するが、 本発明が当該実施例 にのみ限定されるものではないことは言うまでもない。
[実施例 1 ]
本発明の無細胞化真皮マトリックスの製造方法の特徴と利点を検討するため に、 従来報告されている分離無細胞化の方法との比較検討を行った。
(1) 方法 1 (1M NaC 1 +PBS)
手術時あるいは同種皮膚採取後に不要となった余剰皮膚 (分層皮膚:平均約 0. 38 mm厚: 0. 015インチ厚) を、 液体窒素を用いて凍結 (温度— 8 0T:、 24時間、 次いで温度一 196 、 48時間) 、 融解 (温度 37T:、 5 分) した後、 1M NaC 1に浸し、 37 、 12時間インキュベートした。 この処理により、 表皮と真皮は、 真皮に基底膜が残った状態で容易に分離され た。
得られた真皮部分を、 トランズゥエルを用いて PBS (37で) で 1週間、 持続洗浄した。 この処理により真皮内の全ての細胞成分 (皮膚付属器の細胞、
血管系の細胞、 線維芽細胞、 神経系の細胞、 その他) が除去され、 真皮は基底 膜が温存されたコラーゲン主体の真皮マトリックスとなった。
( 2 ) 方法 2 (1M NaC l +T r i t onX- 100)
余剰皮膚を、 液体窒素を用いて凍結、 融解後、 1M NaC lとデ夕ージェ ントである Tr i t on X— 100 (商品名) を、 順次、 用いる方法。 すな わち、 分層皮膚を表皮と真皮に分離する際においては、 凍結融解に続いて 1M NaC 1処理を行い、 分離した真皮の無細胞化処理においては Tr i t on X- 100によって処理を行う方法。
(3) 方法 3 (1M NaC 1 +SDS)
余剰皮膚を、 液体窒素を用いて凍結、 融解後、 1M NaC 1とデ夕ージェ ントである SDS (Sod i um Dod e c y l Su l f a t e : ドデシ ル硫酸ナトリウム) を、 順次、 用いる方法。 すなわち、 分層皮膚を表皮と真皮 に分離する際においては、 凍結融解に続いて 1M NaC 1処理を行い、 分離 した真皮の無細胞化処理においては SDSによって処理を行う方法。
(4) 方法 4 (ディスパ一ゼ)
余剰皮膚を、 液体窒素を用いて凍結、 融解後、 分層皮膚を表皮と真皮に分離 する際に、 タンパク質分解酵素であるディスパーゼのみを用いる方法。
(5) 方法 5 (トリプシン + Tr i t o nX- 100)
余剰皮膚を、 液体窒素を用いて凍結、 融解後、 タンパク質分解酵素であるト リブシンとデタ一ジェントである T r i t on X— 100 (商品名) を、 順 次、 用いる方法。 すなわち、 分層皮膚を表皮と真皮に分離する際においては、 凍結融解に続いてトリプシン処理を行い、 分離した真皮の無細胞化処理におい ては T r i t on X— 100によって処理を行う方法。
上記 5種類の方法により得た ADMの性状を確認した。 図 1は、 HE染色後
のヒト同種皮膚、 及び、 方法 1〜 5により得た ADMの断面写真である。 ヒト 同種皮膚の断面写真において、 青紫色に染色されている部分は、 表皮細胞又は 真皮線維芽細胞の細胞核である。 ヒト同種皮膚においては、 表皮層及び真皮線 維芽細胞が確認できた。 一方、 方法 1〜5により得た ADMの全てにおいては 表皮層が剥離され、 また、 真皮線維芽細胞が除去されていることが確認できた 。 つまり、 得られた ADMは、 それぞれ完全に無細胞化していた (図 1、 表 1 ) 。
また、 基底膜成分である I V型コラーゲン及びラミニンを免疫化学的に染色 し、 基底膜の温存の程度を確認した。 図 2及び図 3は、 免疫化学的染色後の方 法 1〜5により得た ADMの断面写真であり、 茶褐色に染色された部分が I V 型コラーゲン又はラミニンである。 図 2及び図 3において、 方法 1及び 2によ り得た A D Mでは茶褐色に強く染色された部分が多数見られ、 方法 3により得 た ADMは染色された部分が若干見られ、 方法 4及び 5により得た ADMは染 色された部分が見られなかった。 つまり、 方法 1、 2及び 3の 1M NaC 1 を用いて表皮剥離処理を行った ADMで、 基底膜の温存が確認された (図 2及 び図 3、 表 1) 。 その中でも、 方法 1により得た ADMにおいて最も高い温存 が確認された。 これに対し、 方法 4及び 5によるタンパク質分解酵素処理を行 つた ADMでは、 基底膜が殆ど分解されていた。
Temperature/ Cell TypelV
Method Time Removal Collagen Laminin 凍結融解 ※直
① +1M NaCl 37°C/12hrs good + + + + + +PBS 37°C/lweeks
凍結融解 ※
② +1M NaCl 37°C/12hrs good + + +
+TritonX-100 37°C/4 hr + + 凍結融解 ※l
③ +lMNaCl 37°C/12hrs good + + +
+SDS 37°C/1 hr
^ 凍結融解 ※
^ +デイスパーゼ 37°C/12hrs good 一 一 凍結融解 «1
(D +トリプシン 37°C/4hrs good 一 一
+TrironX-100 37°C/4hrs
-80°C/2 h +-196°C/48h +37°C/5min 表 1 各種 ADMの特性 なお、 表 1において、 評価は視覚的観察によるものであり、 各評価項目の判 定基準は下記の通りである。 ぐ細胞の除去 (Ce l l Remov a l) >
good : ADMから細胞が完全に除去された。
< I V型コラーゲン (Ty p e I V Co l 1 a g e n) >
+ + +: I V型コラーゲンが基底膜部および真皮内において最も強く染色さ れた。
++: I V型コラーゲンが基底膜部のみにおいて染色された。
一: I V型コラーゲンが基底膜部および真皮内において染色されなかった。 ぐラミニン (Lam i n i n) >
++:ラミニンが基底膜部および真皮内において強く染色された。
+: ラミニンが基底膜部の一部において染色された。
-: ラミニンが基底膜部および真皮内において染色されなかった。
[実施例 2 ]
図 4に従い、 実施例 1で得られた各 ADMに線維芽細胞、 次いで、 表皮細胞 を播種し、 1週間気相培養することにより表皮細胞を重層化させ、 複合型培養 皮膚を得た。
HE染色を行うことにより得られた各複合型培養皮膚の性状を確認した。 図 5は、 HE染色後の各複合型培養皮膚の断面写真である。 方法 1により得た A DMを担体とした複合型培養皮膚は、 表皮細胞が十分に重層化しており、 また 、 表皮細胞と ADMとの間での剥離が見られず接着性が良好であった。 方法 2 及び 3により得た ADMを担体とした複合型培養皮膚は、 表皮細胞の重層化の 程度がやや低いが、 表皮細胞と ADMとの間での剥離は見られず接着性は良好 であった。 方法 4により得た ADMを担体とした複合型培養皮膚は、 表皮細胞 の重層化の程度がやや低く、 また、 表皮細胞と ADMとの間で剥離が見られた 。 方法 5により得た ADMを担体とした複合型培養皮膚は、 表皮細胞の重層化 は良好であつたが、 表皮細胞と ADMとの間で完全に剥離していた。 つまり、 各 ADMに播種した表皮細胞は、 すべての試験区において表皮細胞が重層化し 、 角質層が形成された。 また、 ADMへの表皮細胞の接着性の評価においては 、 方法 1、 2及び 3の 1M NaC 1を用いた基底膜温存型の ADMでは、 全 ての試験区において ADMと表皮層との接着が確認された。 これに対し、 方法 4によるディスパ一ゼ、 及び、 方法 5によるトリプシン処理により得た ADM
では、 表皮細胞層と A D Mとの接着力が脆弱であり、 表皮層と A D Mとの間で 剥離が見られ、 接着しなかった。
さらに、 方法 1〜5により得た複合型培養皮膚を免疫化学的に染色し、 I V 型コラーゲンの存在を確認した。 図 6は、 免疫化学的染色後の各複合型培養皮 膚の断面写真である。 方法 1〜3により得た A D Mを担体とした複合型培養皮 膚において、 I V型コラーゲンの染色が確認されたが、 方法 4及び 5により得 た A D Mを担体とした複合型培養皮膚においては、 I V型コラーゲンの染色が 確認されなかった。 つまり、 表皮細胞による基底膜構造の新規構築は見られな かった (図 6 ) 。 本発明の分離無細胞化方法により作成した AD Mは、 表皮細 胞重層化後の接着性、 培養組織としての安定性に優れたものであった。
[実施例 3 ]
図 4に従い、 本発明の複合型培養皮膚と、 従来から開発されている担体を用 いた複合型培養皮膚とに線維芽細胞、 次いで、 表皮細胞を播種し、 1週間気相 培養することにより表皮細胞を重層化させ、 複合型培養皮膚を得た。 なお、 表 2中、 動物のコラーゲンマトリックスとは、 ゥシ由来のコラーゲンゲル又はコ ラーゲンスポンジをいう。 また、 従来の AD Mとは、 凍結融解による物理的方 法やトリプシン、 ディスパ一ゼなどのタンパク質分解酵素、 あるいは S D Sや T r i t o n X 1 0 0などのデタージェントを用いた化学的方法により得られ た AD Mをいう。
次いで、 得られた複合型培養皮膚を H E染色し観察することにより、 表皮細 胞重層化後の接着性、 培養組織としての安定性の比較を行った。
本発明の複合型培養皮膚が最も優れた重層化表皮層の接着性を示した (表 2 ) 。 本発明の複合型培養皮膚は、 従来の担体を使用したものに比べ、 表皮細胞 重層化後の接着性、 培養組織としての安定性に優れたものであった。
表 2 ADMと従来の担体との比較 なお、 表 2において、 各評価項目の判定基準は下記の通りである。 ぐ基底膜 >
+ :基底膜が AD M自体に残存していた。
― :基底膜が残存していなかった。
<表皮細胞の接着性 >
+ + :担体に表皮細胞が接着し易かった。
+ :担体に表皮細胞が接着し難かった。
一 :担体に表皮細胞が接着しなかった。
ぐ重層化表皮層の接着性 >
+++ :担体に重層化表皮層が強く接着していた。
+ + :担体に重層化表皮層が接着していた。
+:担体に重層化表皮層が接着していたが、 接着力が弱かった。
一:担体に重層化表皮層が接着しなかった。
<重層化>
+ :気相培養により担体への表皮細胞の重層化が観察された。
[実施例 4]
重症熱傷例の創部の一部に実施例 2で得られた本発明の複合型培養皮膚を H BSS (Hank s ' B a l an c e d S a l t S o l u t i on :八 ンクスの平衡塩類溶液) で 3回洗浄した後、 1時間以内に患部に移植した。 移 植枚数は 4枚でそれぞれ 5 X 5 cmであった。 移植方法はピンセットでシヤー レから無菌的に培養皮膚を取り出し、 表皮面を上にして患部に移植した。 移植 後 22日の所見では培養皮膚は完全に生着し、 表皮が形成された (図 7) 。 移 植後 13日の培養皮膚の HE染色像では移植床と培養皮膚の接着は良好で、 培 養皮膚真皮内に新生血管が形成され、 表皮細胞は正常皮膚組織とほぼ同等の形 態を有していた。
[実施例 5]
実施例 1で得られた本発明の無細胞化真皮マトリックスを担体として、 線維 芽細胞は使用せずに培養口腔粘膜上皮細胞又は培養小腸上皮細胞を組み込んだ 培養組織を 1週間気相培養することにより得た。 得られた培養組織を HE染色 することにより観察した。 図 8は、 培養口腔粘膜組織の断面写真であり、 口腔 粘膜上皮細胞は ADMに接着し、 重層化した。 また、 図 9は、 培養小腸組織の 断面写真であり、 小腸粘膜上皮細胞は ADMに接着し、 重層化した。 培養口腔
粘膜組織、 培養小腸組織ともに、 接着性は良好であり、 ADMは種々の細胞の 担体として使用可能である。
[実施例 6 ]
本発明の無細胞化真皮マトリックスとして、 原料にブ夕皮膚を用いた例を示 す。
ブ夕より採取した皮膚 (分層皮膚:平均約 0. 38 mm厚: 0. 015イン チ厚) を、 液体窒素を用いて凍結 (温度— 80で、 24時間、 次いで温度一 1 96 、 48時間) 、 融解 (温度 37で、 5分) した後、 1M N a C 1に浸 し、 37 、 12時間インキュベートした。 この処理により、 表皮と真皮は、 真皮に基底膜が残った状態で容易に分離にされた。
得られた真皮部分を、 トランズゥエルを用いて PBS (37t:) で 1週間、 持続洗浄した。 この処理により真皮内の全ての細胞成分 (皮膚付属器の細胞、 血管系の細胞、 線維芽細胞、 神経系の細胞、 その他) が除去され、 真皮は基底 膜が温存されたコラーゲン主体の真皮マトリックスとなった。
上記により得た ADMの性状を確認した。 図 10は、 HE染色後のブ夕皮膚 、 及び、 ブ夕 ADMの断面写真である。 ブ夕皮膚の断面写真において、 青紫色 に染色されている部分は、 表皮細胞又は真皮線維芽細胞の細胞核である。 ブ夕 皮膚においては、 表皮層及び真皮線維芽細胞が確認できた。 一方、 ブ夕 ADM においては表皮層が剥離され、 また、 真皮線維芽細胞が除去されていることが 確認できた。 つまり、 得られた ADMは完全に無細胞化していた (図 10) 。
また、 基底膜成分である I V型コラーゲン及びラミニンを免疫化学的に染色 し、 基底膜の温存の程度を確認した。 図 1 1は、 免疫化学的染色後のブ夕 AD Mの断面写真であり、 茶褐色に染色された部分が I V型コラーゲン又はラミ二 ンである。 図 1 1において、 ブタ ADMでは茶褐色に強く染色された部分が見
られ、 基底膜の温存が確認された (図 1 1) 。
[実施例 7 ]
図 4に従い、 本発明のブ夕 ADMにヒト線維芽細胞、 次いで、 ヒト表皮細胞 を播種し、 1週間気相培養することにより表皮細胞を重層化させ、 複合型培養 皮膚を得た。 表皮細胞は十分に重層化し、 ADMへの接着性も良好であった。
[実施例 8]
本発明のブ夕 ADMを用いた複合型培養皮膚は、 HBSS (Hank s ' B a l an c e d S a l t S o l u t i on :ハンクスの平衡塩類溶液) 等で洗浄した後、 重症熱傷例の創部への移植片として用いることができる。 移 植方法としては、 ピンセットでシャーレから無菌的に培養皮膚を取り出し、 表 皮面を上にして患部に移植すれば良い。
[実施例 9]
本発明の無細胞化真皮マトリックスを担体として、 線維芽細胞は使用せずに ヒト培養口腔粘膜上皮細胞又はヒト培養小腸上皮細胞を組み込んだ培養組織を 1週間気相培養することにより得た。 口腔粘膜上皮細胞及び小腸粘膜上皮細胞 共に ADMに接着し、 重層化した。 ブ夕 ADMは種々の細胞の担体として使用 可能である。