明 細 書
頭表座標を脳表座標に変換する方法と、その変換データを利用する経頭 蓋的脳機能測定装置
技術分野
[0001] 本発明は、近赤外分光分析法 (NIRS)や経頭蓋磁気刺激装置 (TMS)及びその 他の経頭蓋的脳機能測定'刺激法において測定'刺激に力かる脳表座標を推定す る方法とそのソフトウェア 'プログラムと、この方法により推定された脳表座標を用いて 測定'刺激結果を表示する経頭蓋的脳機能測定装置に関するものであり、より詳細 には、頭表の任意の点又はその集合としての頭表面に展開された測定データを、そ の直下の脳表上に投影して表現する方法とそのソフトウェア 'プログラムと装置に関 するものである。
背景技術
[0002] 経頭蓋的脳機能測定'刺激法において、測定'刺激の対象となる脳表位置を知る ためには、その都度、核磁気共鳴装置 (MRI)等の脳画像撮像法を用いて脳の構造 画像を得る必要があるが、このような脳画像撮像は煩雑であり、特殊な設備を要する ため、より簡便に頭表と脳表の位置的対応を知る方法が望まれている。
[0003] これまでにも脳波研究分野において、頭表上の電極装着位置とその直下にある脳 表構造を対応付けようとする研究はなされてきた。これらの方法で最も代表的なもの は球形フィッティング法である(非特許文献 1, 2参照。 )0球形フィッティング法は脳表 及び頭表を同一中心を持つ球に当てはめる方法である。球形フィッティング法によれ ば、頭表を表す球の半径を rl、脳表を表す球の半径を r2とすると、任意の頭表上の 点は (rl, Φ , 0 )という極座標点として表現でき、この頭表点に対応する脳表点は rl を r2に置き換えることによって求められる。
[0004] この球形フィッティング法は脳波研究に適したものである。しかし、球形フイツティン グ法は、非球形の頭表及び脳表を球に当てはめるため、空間的に歪みが生じるとい う問題があった。脳波研究では脳波の信号源推定は 3次元空間で低空間分解能で 行なわれるため、脳表と頭表の対応にずれがあっても特に実用上の問題はないが、
他の経頭蓋的脳機能測定 ·刺激法においては、さらに高い空間分解能を持つ投影 法が望まれている。
MRI等の撮像により脳画像が存在する場合でも、任意の頭表上の点とその直下の 脳表上の点を対応させる基本的方法は確立されておらず、正確な投影法の開発が 望まれている。
非特 §午文献 1 : Towle, V. L., Bolanos, J., Suarez, D., Tan, Κ·, urzeszczuk, R.,
Levin, D. Ν·, Cakmur, R., Frank, S. A. and Spire, J. P. 1993. The spatial location of EEG electrodes: locating the best-fitting sphere relative to cortical anatomy.
Electroencephalogr. Clin. Neurophysiol. 86: 1—6.
非特許文献 2 : Lagerlund, Τ· D" Sharbrough, F. W" Jack, C. R. Jr., Erickson, B. J., Strelow, D. C., Cicora, K. M. and Busacker, N. E. 1993. Determination of 10—20 system electrode locations using magnetic resonance image scanning with markers. Electroencephalogr. Clin. Neurophysiol. 86: 7—14.
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 本発明は、このような技術の現状を鑑みてなされたものであって、第 1の目的は、頭 表と脳表を含む頭部 3次元画像上における頭表上の任意の点に対応する脳表上の 対応投影点を求めることにより、経頭蓋的脳機能測定 ·刺激法で得られたデータを脳 表上に正確に投影できるようにすることである。
[0006] 本発明の第 2の目的は、被験者の頭部 3次元画像が得られな 、状態にぉ 、ても、 頭表上の基準点を媒介として、頭表上の位置を確率的分布として任意の 3次元脳座 標上に変換できるようにすることである。
本発明の第 3の目的は、経頭蓋的脳機能測定装置において測定データを脳表上 に正確に表示できるようにすることである。
課題を解決するための手段
[0007] 第 1の目的を達成するための本発明は、 3次元頭部画像上の任意の頭表位置をそ の直下の脳表位置に投影し、投影点の 3次元座標位置を求めることを特徴とする頭 表座標を脳表座標に変換する方法とそのソフトウェア 'プログラムである。
脳と頭表の構造には個人差があるため、本発明の方法で頭表上の点と脳表上の点 に対応化がなされた場合でも、異なる被験者間において、経頭蓋的脳機能測定'刺 激法で得られたデータを統合するためには、複数被験者間でのデータ統合を可能と できることが望まし 、。
[0008] そのために、脳表上の位置を標準化可能なフォーマットで表現するために、複数の 被験者について求めた脳表座標を標準脳に正規ィ匕することが好ましい。
そのような標準脳としては、当該分野で一般的に用いられている MNI (Montreal Neurological Institute)座標や Talairach座標を利用するのが好まし!/、が、他の座標系 を用いることちでさる
[0009] 任意の頭表位置をその直下の脳表位置に投影する方法をいろいろな角度から検 討する中で、極小距離探索法、垂線投射法、又は頭表 ·基準点線分連結法により、 任意の頭表上の点をその直下の脳表位置に正確に対応付けることが可能であり、ソ フトウヱァ'プログラムとして実行できるという新知見を得た。それぞれの方法は、用途 に応じて、最適なものを用いることができる。
[0010] また、任意の頭表位置をその直下の脳表位置に投影する方法をいろいろな角度か ら検討する中で、任意の頭表上の点を、頭表上の基準点に対する相対的位置関係 として記述することが可能であり、ソフトウェア ·プログラムとして実行できるという新知 見を得た。この方法は、単独で用いて任意の点の頭表上に表現することも可能であり 、極小距離探索法、垂線投射法、又は頭表 ·脳内部参照点線分連結法と組み合わ せて、脳表上に投影された位置として表現することも可能である。
[0011] 本発明の好ましい一態様は、頭表位置をその直下の脳表位置に投影するために、 頭表位置に設置した複数のマーカーと脳表面画像とを同時に撮像し、各マーカーの 位置する頭表位置直下の脳表位置を極小距離探索法により求める方法に基づくソフ トウエア.プログラムである。
[0012] 極小距離探索法においては、 3次元頭部画像上の頭表上の任意の点から半径の 異なる等距離球を描き、その球と脳表上の接点を求める。頭表が脳表の凸部近傍に 位置する場合は、 1点の極小距離を持つ点を求めることができる。頭表が脳表の凹部 近傍に位置する場合は 2点以上の極小距離を持つ点が求まる。この場合は、これら
の点の重心を仮想極小点と想定し、当該頭表点から仮想極小点を通る直線を引き、 その直線と脳表の交点を、当該等表点の直下の点と定める。これらの工程は全てソ フトウェア ·プログラムとして実行可能である。極小距離探索法は特に未処理の頭部 画像データを処理する場合に有効である。
[0013] 極小距離探索法は、未処理の頭部画像データ処理に限定されるものではなぐス ムージング処理された頭表、脳表画像処理にも有効である。スムージング処理は MR Icro等の一般的に普及して 、る脳画像処理プログラムや、他の 3次元画像処理プロ グラムで行なうことが可能である。
[0014] 本発明は、極小距離探索法を活用するための、頭表及び脳画像の凸多面体'凸包 フィッティング、並びに多面体 ·包体フィッティング法を含んでいる。頭表及び脳画像 を凸多面体 ·凸包にフィッティングさせた場合、頭表にフィットした凸多面体 ·凸包の 任意の点に対して、脳表にフィットした凸多面体 '凸包に最短距離を持つ 1点が定ま る。このとき得られた最短距離を直線として表し、フィッティング前の頭表及び脳表元 画像に重ね合わせて、直線との交点を求めることによって、より正確な脳表、頭表点 の座標を求めることも可能である。
[0015] 一般的に、多面体 ·包体の任意の点から、その内部にある凸多面体 *凸包に対して 最短距離を取る点力 ^点定まることを利用し、頭表を凸多面体 ·凸包よりも複雑な多 面体 '包体にフィッティングすることもできる。この場合も、極小距離検索法により、頭 表上の任意の点に対応する脳表上の 1点を求めることが可能である。
[0016] 脳表構造は頭表構造に比較して複雑であるため、脳表を多面体,包体にフイツティ ングし、頭表を凸多面体 '凸包にフィッティングすることも有効である。この場合は、脳 表にフィットした多面体 ·包体を拡大し、頭表にフィットした凸多面体 ·凸包を内部に 有するような位相変換を行なうことにより、極小距離探索法を用いて、頭表上の任意 の点に対応する脳表上の 1点を求めることが可能である。これらの工程は全てソフトゥ エア ·プログラムとして実行可能である。
[0017] 本発明の好ましい他の態様は、頭表位置をその直下の脳表位置に投影するため に、頭表位置に設置した複数のマーカーと脳表面画像とを同時に撮像し、各マーカ 一の位置する頭表位置直下の脳表位置を垂線投射法により求める方法に基づくソフ
トウエア.プログラムである。
[0018] 垂線投射法においては、 3次元頭部画像上の頭表の任意の点に接する平面を描き 、その平面上の接点から脳表上に垂線を下ろし、脳表との交点を投影点として求める 。本方法は、未処理頭部画像及びスムース化された頭部画像にも利用できるが、凸 多面体 ·凸包にフィットした頭表画像を利用する際により有効である。凸多面体'凸包 にフィットした頭表画像上の任意の点から脳表上に垂線を下ろす際、脳表の元画像 に重ね合わせて、垂線との交点を求めることによって、より正確な脳表、頭表点の座 標を求めることも可能である。これらの工程は全てソフトウェア ·プログラムとして実行 可能である。
[0019] 本発明の好ましいさらに他の態様は、頭表位置をその直下の脳表位置に投影する ために、頭表位置に設置した複数のマーカーと脳表面画像とを同時に撮像し、各マ 一力一の位置する頭表位置直下の脳表位置を頭表'脳内部参照点線分連結法によ り求める方法に基づくソフトウェア ·プログラムである。
[0020] 頭表 ·基準点連結法においては、 3次元頭部画像上の頭表の任意の点から、頭表 で囲まれる脳内部の参照点に対して直線を描き、その直線と脳表の交点を当該頭表 点の投影点と定める。脳内部の参照点は任意の点、又は点の集合である。例えば、 頭表あるいは脳表の重心点を参照点に設定することも有効である。あるいは、参照点 を前交連等の特定脳構造に設定することも可能である。あるいは、参照点を任意の 頭表上の点を中心とする近傍頭表面の重心点に設定し、当該等表点をずらすことに より、基準点の集合を得ることも可能である。本方法は、未処理頭部画像、スムース 化された頭部画像、多面体 ·包体にフィットした頭表画像のいずれにも利用可能であ る。これらの工程は全てソフトウェア ·プログラムとして実行可能である。
[0021] 本発明において、上記の 3次元頭部画像上での任意の頭表点の脳表への投影法 は、 1点のみならず、点の集合として頭表表面の一定領域さらには全体を投影するよ うに拡張でき、この工程をソフトウェア ·プログラムとして実行することもできる。
本発明にお 、て、上記の 3次元頭部画像上での任意の頭表点を脳表へ投影する 方法は、任意の脳表点を頭表上に投影する際にも応用可能であり、この工程をソフト ウェア ·プログラムとして実行することもできる。
[0022] 第 2の目的を達成するために、これらの方法を用いて、予め頭表上の基準点を各種 3次元脳表座標上に表現しておくとともに、複数の被験者についてそれらの基準点 および脳表上投影点の確率分布を求めておくことによって、補助的脳画像撮像なし に、任意の頭表位置を任意の 3次元座標上に確率的誤差情報を付加した形で表現 し、ソフトウェア ·プログラムに組み入れることを可能にした。
[0023] 頭表上の基準点としては、好ましくは International Federation of Societies for
Electroencephalography and Clinical Neurophysiology力 S推奨す 国際 10— 20シスァ ム基準点、及びその拡張法を用いるが、他の相対脳表座標系も用いることもできる。 本発明にお 、て、上記の 3次元頭部画像上での任意の頭表点を脳表へ投影する 方法を用いて、頭表と脳表の距離分布を得ることも可能である。
[0024] 頭表上の基準点以外の任意の点についても、基準点との相対的位置関係力 記 することがでさ 。奸 しくは International Federation of societies for Electroencephalography and Clinical Neurophysiology力 S推奨す 国際 10— 20シスァ ム基準点、及びその拡張法を用いるが、他の相対脳表座標系における基準点も用い ることもできる。また、上記では頭表位置に複数のマーカーを設置している力 マーカ 一は設置しないで、 3次元頭部画像上から耳根部、後頭結節などの特徴点を抽出し た後、国際 10— 20システムの基準点、その他の相対座標系の基準点を 3次元頭部 画像上で求めて、これを仮想的なマーカーとすることもできる。
[0025] 頭表上の基準点以外の任意の点に対する脳表上の投影点を、頭表上基準点の脳 表上投影点との相対的位置関係力 記述することができる。頭表上の基準点以外の 任意の点を頭表座標系に表現し、これを脳表に投影することも可能であり、また、基 準点の脳表上投影点を利用して、脳表上の座標系の位置として記述することも可能 である。
[0026] 第 3の目的を達成するための本発明の経頭蓋的脳機能測定装置は、被検体の頭 表面から内部に電磁波又は放射線を照射する照射点と、その照射された電磁波又 は放射線と脳との相互作用を前記頭表面上で検出する検出点とを備えたプローブと 、前記プローブの検出点が検出した信号をもとに脳の状態を解析するデータ処理装 置とを備えており、前記データ処理装置は、本発明の方法により頭表座標を脳表座
標に変換したデータをもって頭表面上の位置を脳表座標に変換する座標変換部を 備え、前記検出点が検出した信号による解析データを、前記照射点と検出点とにより 定まる頭表面上の位置を前記座標変換部により脳表座標に変換するとともに、前記 検出点が検出した信号による解析データを変換された脳表座標上に表示するもので める。
[0027] 経頭蓋的脳機能測定装置の一例は光計測装置であり、そこではプローブは光を照 射する送光点と被検体中を透過及び Z又は反射した後に外部に放出される光を受 光する受光点とを備えて 、る。
好ましい光計測装置の一例は、送光点と受光点とを頭表面上にそれぞれ複数個ず つ配置したマルチチャンネル光計測装置である。
[0028] 送光点力 被検体に照射される光は、生体に対する透過性の高い近赤外領域の 光であることが好ましい。
照射点と検出点とが離れている場合、その検出点が検出する脳表上の位置に対応 する頭表面上の位置は照射点と検出点の 2点を結ぶ直線の中央の位置とすることが できる。
本発明の経頭蓋的脳機能測定装置の他の好ましい態様は、プローブにおける照 射点と検出点との距離が、本発明の方法により求められた頭表と脳表間の距離分布 に基づいて、照射点力 の電磁波又は放射線が脳の表面で相互作用して検出点で 検出される感度が最大になるように設定されて ヽるものである。
発明の効果
[0029] 本発明により頭表座標を脳表座標に変換することにより、頭表上の任意の点を脳表 上に投影することが可能となり、経頭蓋的脳機能測定'刺激法で得られたデータを脳 表上に高精度で投影することがソフトウェア ·プログラム上で可能となる。このように、 本発明は、従来の球形フィッティング法とその応用法に伴う歪みの問題を解決するこ とがでさる。
[0030] 本発明は、経頭蓋的脳機能測定 ·刺激法で得られたデータ処理に極めて高い拡張 性をもたらすものである。本発明による方法を用いて、経頭蓋的脳機能測定'刺激法 で得られたデータを脳表上に投影することにより、脳機能研究で通常用いられる正規
化可能なフォーマットにデータを変換できるようになった。この正規ィ匕を経て、複数被 験者間でのデータ統合も簡便に行なえるようになり、さらにはこのデータを他の脳機 能測定法で得られたデータと統合、比較することも可能となった。このように本発明は 、 NIRSや TMS等の経頭蓋的脳機能測定'刺激法の普及に対して、基盤となる新技 術を提供するものであり、脳機能研究とその臨床応用の発展に大きな貢献をもたらす ものである。
[0031] また本発明において、頭表上の基準点とそれらの 3次元脳表投影点の対応付けを 予め行なっておくことによって、 3次元頭部画像撮像なしに、経頭蓋的脳機能測定- 刺激法で得られたデータを脳表上に投影することが可能となる。し力も、その投影に 関する空間誤差情報を明確に把握することが可能となる。
[0032] 頭表基準点の脳表 3次元座標への変換は、複数被験者の測定データを基にして、 確率分布として表現できる。また、確率分布の中心を用いれば、 1つの基準脳表点に 対して、 1点の対応脳表 3次元座標位置を求めることもできる。
[0033] 頭表上の任意の点について、近傍 3点の頭表基準点との相対位置関係を求めれ ば、当該基準点の脳表投影点の位置関係を参照して、当該頭表を直下の脳表上に 投影させることが可能である。この工程もソフトウェア 'プログラム上で実行できる。 このようにして本発明に基づくソフトウェア ·プログラムによれば、 3次元頭部画像が 得られる場合でも得られな ヽ場合でも、頭表上の点を脳表上へ投影することが可能と なる。 3次元頭部画像撮像なしで、任意の頭表位置を脳表上に投影する方法はこれ までなぐ本発明は全く新規な効果をもたらすものである。これまでにも NIRS測定デ ータの 2次元マップを脳表上に表現するソフトウェア 'プログラムは存在していた力 2 次元マップにおける各ピクセルを 3次元座標上のボタセルに正確に対応付ける方法 には基づいておらず、本発明はより正確な脳機能画像解析を実現する上で、極めて 有効である。
[0034] 本発明の経頭蓋的脳機能測定装置によれば、解析データを脳表座標上に正しく 表示できるようになる。例えば、 NIRSデータの場合、 2次元平面上の点もしくはマツ プとして測定データが展開されて 、ると 、う現状にぉ 、て、 2次元相対座標上に表現 された NIRS測定データを正確に 3次元空間の脳表上に投影し、 3次元座標軸上の
データとして展開することができるので、極めて有効な表示となる。
発明を実施するための最良の形態
[0035] 図 1は経頭蓋的脳機能測定装置の実施例としてのマルチチャンネル光計測装置を 概略的に表わしたものであり、被検体に光を照射する送光点 4と被検体中を透過及 び Z又は反射した後に外部に放出される光を受光する受光点 6とが配置面上にそれ ぞれ複数個ずつ配置されたプローブ 12と、プローブ 12の受光点 6が受光した光をも とに解析するデータ処理装置 18とを備えている。
[0036] 14は各送光点に測定用の光を供給する送光点ごとの光源であり、 LED (発光ダイ オード)や LD (レーザダイオード)などの発光素子を用いることができる。各光源 14か らの光はそれぞれ光ファイバなどの導光路を介してそれぞれの送光点 4に導かれる。 この場合、送光点 4は導光路の光送光端面となる。
[0037] 16は各受光点が受光した光を検出する検出器であり、フォトダイオードやフォトトラ ンジスタなどの受光素子のほか、光電子増倍管などを使用することができる。各受光 点からの光は光ファイバなどの導光路を介して各検出器 16に導かれる。この場合、 受光点は導光路の光入射端面となる。
ただし、送光点 4に発光素子を配置したり、受光点 6に受光素子を配置してもよい。
[0038] プローブ 12における送光点 4と受光点 6の配置は特に限定されるものではなぐここ では一例として配置面を互いに隣接する三角形力もなる領域に分割するグリッド 22 上の点に送光点 4又は受光点 6が位置し、各三角形において一つの辺については 送光点 4どおし又は受光点 6どうしが位置し、他の二つの辺については送光点 4と受 光点 6が 1個ずつ位置するように設定されている。この実施例では、グリッド 22により 分割される配置面上の領域は正三角形である。
[0039] 18はプローブ 12の受光点 6が受光した光をもとに解析するデータ処理装置であり 、 20はデータ処理装置 18で処理された結果を表示する表示装置である。
送光点 4と受光点 6は頭表面上に配置される。頭表面上の基準点の位置座標と、そ れぞれの基準点の位置の直下にある脳表面上の位置座標がデータとしてデータ処 理装置 18に保持されている。一対の送光点 4と受光点 6において、送光点 4から照射 された光が脳表面で反射し受光点 6で受光されたとき、その脳表面上の点はその一
対の送光点 4と受光点 6点を結ぶ頭表面上の点の直下の点である。その脳表面上の 点の座標は、データ処理装置 18において頭表面上の基準点の位置座標とその直下 にある脳表面上の位置座標との関係を示すデータデータを基にして求められる。
[0040] この実施例のマルチチャンネル光計測装置において、送光点 4と受光点 6の各組 のデータ収集は、光源 14と検出器 16の作動を送光点 4と受光点 6の各組ごとに順次 切り替えることにより、互いに混信することなく実行することができる。
[0041] 図 2は、本方法による統合的経頭蓋脳機能測定'刺激データ解析ソフトウェア 'プロ グラムのフローチャートである。このフローチャートで示されたソフトウェア.プログラム は本発明の好ま U、実施例である。
[0042] V、ま、解析データとして NIRS二次元マップデータ、任意の測定点のデータ及び T MSの刺激位置データが用意されているものとする。まず、どれかの解析データを選 択し、その解析データ中の測定点と頭表基準点との相対的位置を計算する。次に頭 表へのデータ投影方法を選択する。頭表へのデータ投影方法としては、極小距離探 索法、垂線投影法及び頭表 ·参照点線分連結法が用意されている。これらのデータ 投影方法の詳細は図 3—図 5により後述する。投影先脳画像として標準テンプレート 又は MRI画像を選択し、その選択した脳画像の脳表上に、先に選択したデータ投影 方法によりデータを投影する。その投影したデータを表示するために、確率的データ 表現法として最適推定位置表現法と任意の確率分布表現法の内から選択し、その 表現法により脳表での投影データを表示する。
[0043] 図 3により極小距離探索法を説明する。
いま、 MRI画像データが 3次元の画素値データとして用意されているものとする。ま ず、 MRI画像データから脳表及び頭表の輪郭となる部分を抽出する。次に、各々の 画素値データを座標データに変換して 3次元の数値データのリストを得る。さらに、脳 表輪郭の座標データについて、脳表輪郭を包み込む、凸包フィッティングを行う。こ の凸包について、頭表上の任意の点から最小距離を持つような凸包上の点を検索し て、線分で結ぶ。この結果得られた最小距離を持つ線分を脳表方向に延長して直線 を得る。さらにまた、上記で得られた脳表輪郭の座標データを参照して、この直線と 最も近接する脳表輪郭点を探索する。この探索の結果得られた脳表輪郭点を、任意
の頭表点に対応する脳表投影点として決定する
[0044] 図 4により垂線投影法を説明する。
いま、 MRI画像データが 3次元の画素値データとして用意されているものとする。ま ず、 MRI画像データから脳表及び頭表の輪郭となる部分を抽出する。次に、各々の 画素値データを座標データに変換して 3次元の数値データを得る。さらに、頭表輪郭 の座標データについて、頭表上の任意の点に対する接平面を求める。この接平面に 対する法線を生成する。さらにまた、上記で得られた脳表輪郭の座標データを参照し て、この法線と最も近接する脳表輪郭点を探索する。この探索の結果得られた脳表 輪郭点を、任意の頭表点に対応する脳表投影点として決定する。
[0045] 図 5により頭表 ·参照点線分連結法を説明する。
いま、 MRI画像データが 3次元の画素値データとして用意されているものとする。ま た、脳の内部参照点の位置が座標データとして用意されているものとする。まず、 M RI画像データから脳表及び頭表の輪郭となる部分を抽出する。次に、各々の画素値 データを座標データに変換して 3次元の数値データを得る。さらに、頭表輪郭の座標 データについて、頭表上の任意の点と脳の内部参照点とを結ぶ線分を求める。上記 で得られた脳表輪郭の座標データを参照して、この線分と最も近接する脳表輪郭点 を探索する。この探索の結果得られた脳表輪郭点を、任意の頭表点に対応する脳表 投影点として決定する。
[0046] このソフトウェア 'プログラムは単独で使用することも可能である力 一部をモジユー ルとして他のプログラムに組み込むことも可能であり、あるいは、プログラム全体を他 のプログラムに組み込んで、より統合的なソフトウェア.プログラムを構築することも可 能である。
実施例 1
[0047] 頭表上の国際 10— 20システムの 19基準点について、脳表上の投影点を求めた。
すなわち、被験者の頭表上の 10— 20システム基準点にマーカーを置き、 MRI画像 撮像を行い、頭部 3次元画像を得た。この頭部 3次元画像について、極小距離探索 法を用いて、頭表上基準点に対応する脳表上の投影点を求めた。
[0048] さらに、この測定を 17人の被験者に対して行い、全ての被験者間のデータを統合
して、 MNI標準脳座標で確率分布として表した。すなわち、各被験者の頭部画像を MNI標準脳に正規ィ匕し、正規ィ匕変換後の 10— 20システム基準点脳表投影点の位 置の確率分布を標準偏差として表現した。表 1にその結果を示す。
[表 1]
国際 10-20基準点の脳表投影点の MNI
脳座標位置
上記のように、本発明によれば、各被験者にお!、て、任意の頭表位置を脳表上に 高精度で投影させることが実現できた。また、複数被験者間のデータ統合も実現でき た。このデータは、 MNI標準脳座標上に展開された理想的な脳において、各基準点 の脳表上の投影点は表に示された座標を中心に分布し、標準偏差を半径として表現 される球の中に 61%の点が分布する、という確率的推定を与えるものである。
[0050] このような誤差情報は、研究、臨床上の応用において、極めて有用な情報である。 すなわち、徒に最適値を提示するのではなぐ推定方法の有効範囲を示すことが重 要である。本発明によって始めて、 MRI画像撮像なしに、頭表上の点を脳表に投影 させる際の誤差情報が得られた。
実施例 2
[0051] 本発明による方法で、図 1の測定装置を用いて、実際の NIRS測定によって得られ た脳活性データを、 MRI画像撮像なしに、脳表上に投影させた。
脳活性データとしては 10名の被験者のリンゴの皮むき時における前頭前野の酸ィ匕 ヘモグロビン濃度変化を用いた。 NIRSの測定プローブの装着位置と国際 10— 20シ ステムの 19基準点に対しての相対位置を計測しておき、 NIRS測定プローブの頭表 上における位置を得た。
[0052] 次に、 10名の被験者について、その座標情報を統合し、頭表上における NIRS測 定プローブの平均位置座標を得た。これらの平均位置を、既に脳表への投影位置が 確定して!/、る国際 10— 20システムの 19基準点との相対的位置情報を参照にして、 代表的被験者の脳表画像上に投影させた。図 6にその結果を示す。脳活性の度合 いは右側の活性バーで表示された酸素化ヘモグロビン濃度の上昇で示されて 、る。
[0053] 本発明以外の方法により、 NIRS測定データを脳表上に重ね合わせるソフトウェア も販売されているが、投影方法の設定が不明瞭であり、見栄えよく重ね合わせるだけ の機能にとどまつている。一方、本発明による方法では、実測値に基づいた厳密な投 影法を実現しており、研究、臨床目的に使用しうる品質が得られている。
また、表 1で示したデータを参照すれば、当該領域においては、 5mmから 10mm の空間精度で投影法が有効であるという情報が得られ、得られた結果について、空 間誤差を検討することが可能となった。
実施例 3
[0054] 本発明による方法で、 NIRSと機能的核磁気共鳴装置 (fMRI)の同時測定データ の比較を行なった。 MRSの測定プローブと装着位置を示すための位置マーカーを 装着した状態で、被験者にリンゴの皮を剥く真似を行なった際の運動野の活性を NI RSと fMRIで同時測定した。本発明における極小距離検索法を用いて、 MRS測定
領域を被験者の脳表画像上に投影させた。 fMRIによる測定では、還元型へモグロ ビン濃度に有意な低下がみられた領域を調べた。 NIRS測定では、酸化へモグロビ ン濃度の変化を測定した。なお、 fMRIでは、還元型ヘモグロビン濃度低下を、また NIRSでは、酸化ヘモグロビン濃度の上昇によって、脳の活性ィ匕を測定する。両者の 間には定性的な相関があることが知られている。図 7にその結果を示す。左側が fMR Iデータであり、濃灰色で示された領域に有意な活性が認められる。右側が NRISの 活性データで、脳活性の度合いは右側の活性バーで表示された酸素化へモグロビ ン濃度の上昇で示されて!/ヽる。
[0055] 本発明以外の方法により、 NIRS測定データと fMRIの測定データを同じ脳構造画 像に高精度で重ねあわせることに成功した。複数の測定法を用いた脳機能測定は近 年極めて盛んになりつつある力 NIRSデータを他の脳機能測定法と比較する標準 的な方法はまだ確立されておらず、本発明は、その確立を実現するための基本技術 を提供しうることが示された。
実施例 4
[0056] 本発明による方法で、頭表と脳表の距離分布を得た。まず、 MRI撮像により、被験 者頭部の 3次元画像を得た。次に、その頭表上の全ての点力も極小距離探索法を用 いて、頭表と脳表の距離を測定し、その距離情報を脳表上にプロットした。図 8にそ の結果を示す。
[0057] 頭表と脳表の距離情報は、 NIRS計測に有用である。一般的に NIRS測定におい て、プローブ間隔 (送光点と受光点の間の間隔)を広く設定するほど、脳の深部の活 性を測定することが可能である。本発明によって、頭表と脳表の距離を得たことによつ て、 NIRSプローブ間隔設定に有用な情報が得られた。また、 TMSの磁気刺激強度 は頭表と脳表の距離が lcm増すごとに 30%減衰することが知られている。 TMS磁 気刺激強度の最適化にぉ 、て、頭表と脳表の距離情報を得ることは極めて有用であ り、本発明はこの最適化に有用な情報を提供することが示された。
産業上の利用可能性
[0058] 本発明は、近赤外分光分析法 (NIRS)や経頭蓋磁気刺激装置 (TMS)及びその 他の経頭蓋的脳機能測定'刺激法において測定された結果を脳表座標を用いて表
示する方法や装置に利用することができる。
図面の簡単な説明
[0059] [図 1]一実施例のマルチチャンネル光計測装置を概略的に示すブロック図である。
[図 2]—実施例のソフトウェア 'プログラムを概略的に示すフロー'チャート図である。
[図 3]—極小距離探索法を概略的に示すフロー ·チャート図である。
[図 4]一垂線投射法を概略的に示すフロー ·チャート図である。
[図 5]—頭表 ·参照点線分連結法を概略的に示すフロー ·チャート図である。
[図 6]MRI画像撮像なしで、頭表基準点との相対位置を参照することによって、脳表 上に投影させた MRS脳活性データを示す図である。
[図 7]NIRSと fMRIの同時測定時における脳活性データを示す。左側が fMRIデー タで、右側が NRISの活性データである。
[図 8]頭表と脳表の距離分布を示す図であり、黒点は国際 10— 20基準点を示す。 符号の説明
[0060] 4 送光点
6 受光点
12 プローブ
18 データ処理装置
14 光源
16 検出器
20 表示装置