明細書 抗体の製造方法 技術分野
本発明は、 複数の抗体または抗体断片を結合する多重特異性抗体の製造におい て目的とする型の抗体を優先的に製造する方法に関する。 より詳細には、 第一の 重鎖と結合していない第一の軽鎖と第二の軽鎖と結合していない第二の重鎖の接 触、 及び、 第一の軽鎖と結合していない第一の重鎖と第二の重鎖と結合していな い第二の軽鎖の接触を阻害することを含む抗体の製造方法に関する。 また、 本発 明は該方法を利用した抗体組成物の比活性を増加させる方法、 該方法により得ら れる抗体組成物、 並びに該方法において使用できるベクタ一、 該ベクターを含む ベクターキット、 及び該ベクターまたはべクタ一キットを含有する細胞に関する。 背景技術
抗体は一般的には、 2つの重鎖 (H鎖)と 2つの軽鎖 (L鎖)で形成されている。 1 つの H鎖と 1つの L鎖がジスルフィド架橋により L鎖- H鎖の対を形成し、 2つの L鎖- H鎖対が H鎖間の 2組のジスルフィド架橋により結合され、 抗体が形成され ている。 二特異性抗体 (bispec i f ic ant ibody; BsAb)は、 二機能性抗体
(biiunct ional ant ibody)と呼ばれることもあり、 2つの抗原決定基に特異的な 結合部位を有する 2種類の抗原と反応することができる多価抗体である。 BsAb は、 ハイブリッドハイブリドーマ、 即ちクアドローマ(Qiiadroma)と呼ばれる I種 類の異なるモノクローナル抗体産生細胞の融合体を用いて産生することができる (米国特許第 4, 474, 893号公報; R. Bos and W. Nieuwenhui tzen, Hybridoma 1992, 11 (1): 41-51)。 また、 2種類のモノクローナル抗体の Fab (抗原結合性)断 片、 または Fab'断片を化学的 (M. Brennan et al. , Science 1985, 229 (1708):
81-3) 、 または遺伝子操作により結合して作製することもできる。 さらに、 1つ の完全なモノクローナル抗体を共有結合することに作製することもできる(B. Karpovsky et al. , J. Exp. Med. 1984, 160 (6): 1686-701) 0
BsAb製造方法における問題点として、 免疫グロプリンの H鎖及び L鎖が無作 為に組み合わさるため、 10種類の異なる抗体分子が産生される可能性がある点 が挙げられる(M. R. Suresh et al. , Methods Enzymol. 1986, 121 : 210-28) 0 ク ヮドローマにより産生される 10種類の抗体のうち、 所望の二特異性を有する抗 体は、 正しい L鎖と H鎖が組合されており、 且つ、 異なる結合特性を有する 2組 の L鎖 · Η鎖ペアにより構成された 1種類の抗体のみである。 そこで、 クヮドロ —マから所望の二重特異性を有する抗体を存在する 10種類の抗体から選択的に 精製する必要がある。 精製は、 一般にァフィ二ティークロマトグラフィーを利用 して行われるが、 余計な手数を要し、 またその収量も少なくなつてしまうという 問題点がある(Y. S. Mass imo et al. , J. Immunol. Methods 1997, 201 : 57-66)。 このような問題点を解消し、 より大きな収量で BsAbを得る方法として、 例え ば、 Fal]' -チォ二ト口安息香酸 (TNB)誘導体と Fab' -チオール (SH)等の抗体断片を 化学的に連結する方法が知られている(Brennan et al. , Science 1985, 229 : 81)。 さらに、 化学的に連結させることができる Fab' - SH断片をより簡便に得る ための方法として、 大腸菌等の宿主から遺伝子組換技術により産生する方法が知 られている (Shalaby et al., J. Exp. Med. 1992, 175 : 217-25) 。 遺伝子組換 技術を用いることにより、 ヒト化抗体断片より構成される BsAbを得ることもで きる。 また、 ダイアポディ(Db)は、 遺伝子融合により構築された L鎖可変領域 (VL)と H鎖可変領域 (VH)が互いに結合できないくらいに短いリンカ一によって結 合されている 2種類の断片からなる BsAbである(P. Hol l iner et al. , Proc. Nat l. Acad. Sci. USA 1993, 90 : 6444-8 ; EP404, 097号; W093/11161号)。 この ような Dbをさらに改良したものとして単鎖(s ingle chain) Dbを挙げることがで きる(特願 2002-112369号公報)。 しかしながら、 抗体断片は、 完全長の抗体に比
ベ血清半減期が短く、 完全抗体のようにエフェクター機能も有していない。 その ため、 完全長の抗体の方が、 より診断や治療に適している場合があると考えられ ている。
産生された抗体 H鎖をへテロダイマーとして効率的に結合するための方法とし て、 抗体 H鎖のマルチマ一化ドメインの CH3 (定常領域の一部)ドメインに立体的 に相補的な変異を導入する方法が知られている(Ridgway et al. , Protein Eng. 1996, 9 : 617-21) この方法により製造された H鎖も、 依然として誤った【鎖と 対形成し得る。 そこで、 特許文献 「特表 2 0 0 1 - 5 2 3 9 7 1号公報」 には、 抗体結合ドメインを有するヘテロマ一性ポリぺプチドと結合した共通の L鎖を有 する多重特異性抗体を製造する方法が記載されている。 しかしながら、 任意の抗 体を 2つ選んだ場合、 同じ L鎖を含む可能性は低く、 該方法の実施が困難である ことから、 任意の異なる H鎖に対応し、 高いァフィ二ティ一を示す共通 L鎖をス クリ一ニングする方法も本発明者の一人により提案されている(特願 2003 - 012648)。
2つの異なる抗原に対する特異的結合能を有する BsAbは、 in vitro lXS in vivoにおける免疫診断、 治療及び免疫学的検定等の臨床分野において標的化薬 剤として有用である。 例えば、 BsAbの一方の腕を酵素免疫分析に使用する酵素 上の酵素反応を阻害しない部分のェピトープと結合するように、 そして他方の腕 を固定化用担体に結合するように設計してやることで、 担体上に酵素を結合する 媒体として使用することができる(Ha顏 erl ing et al. , J. Exp. Med. 1968, 128 : 1461-73) その他、 例えば、 抗体夕一ゲティング化血栓溶解療法を挙げる ことができる。 該療法として、 ゥロキナーゼ、 ストレプトキナーゼ、 組織プラス ミノーゲンァクチべ一夕一、 プロゥロキナーゼ等の酵素またはその前駆体等の蛋 白を、 血栓に含まれるフイブリン特異的に運搬する抗体を用いることが検討され ている(T. Kurokawa et al. , Bio/Technology 1989, 7 : 1163 ; 特開平 5- 304992 号公報)。 さらに、 癌ターゲティングに応用可能なマウス ·ヒト ·キメラ二重特
異性抗体 (特開平 2-145187号公報)、 種々の腫瘍を対象とした癌治療及び診断 (例 えば、 特開平 5-213775号公報;特開平 10 - 165184号公報;特開平 11- 71288号公 報;特表 2002-518041号公報;特表平 11-506310号公報; Link et al., Blood 1993, 81: 3343; T. Nitta et al., Lancet 1990, 335: 368-71; L. deLeij et al. , Foundation Nationale de Transfusion Sanguine, Les Ulis France 1990, 249-53; Le Doussal et al. , J. Nucl. Med. 1993, 34: 1662-71; Stickney et al., Cancer Res. 1991, 51: 6650- 5参照)、 真菌治療 (特開平 5- 199894号公 報)、 免疫応答誘導 (特表平 10- 511085号公報; Weiner et al. , Cancer Res. 1993, 53: 94-100)、 T細胞殺細胞作用の誘導 (Kroesen et al. , Br. J. Cancer 1994, 70: 652-61; Weiner et al. , J. Immunol. 1994, 152: 2385)、 免疫分析 (M. R. Suresh et al. , Pro Natl. Acad. Sci. USA 1986, 83: 7989- 93;特開平 5 - 184383号公報)、 免疫組織化学(C. Milstein and A. C. Cuello, Nature
1983, 305: 537)等に BsAbを使用することが報告されている。
抗体の抗原特異性を決定する H鎖及び L鎖の可変領域塩基配列を取得すること により、 特定の抗原に特異的な抗体を遺伝子工学的に作製することができる(L Xiang et al. , Mol. Immunol. 1990, 27: 809; C. R. Bebbington et al. ,
Bio/Technology 1992, 10: 169)。 抗原特異的 H及び L鎖を取得する方法として、 大腸菌を宿主とし、 ファージまたはファージミドを利用した方法が公知である (W.D. Huse et al. , Science 1989, 246: 1275; J. McCafferty et al., Nature 1990, 348: 552; A. S. Kang et al. , Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1991, 88: 4363) これらの方法では Fab を産生させて抗体ライブラリ一とするか、 または、 Fab若しくは一本鎖 Fvとファージコート蛋白質との融合蛋白質を産生させて抗 体ライブラリーとする。 最終的に、 抗原との結合性を調べることにより、 それら の抗体ライブラリ一から抗原特異的抗体及びその遺伝子を選択する。 発明の開示
二特異性抗体 (BsAb)発現の際、 knobs- into-holes技術の利用によって H鎖に ついては殆どがヘテロな組合せ (Ha- Hb)になるが、 一方それぞれの H鎖に対応す る L鎖が必ずしもそれぞれ目的の H鎖へ結合したもののみにはならない。 すなわ ち、 考えられる H鎖、 L鎖の組合せは HaLa- HbLb (目的型)、 HaLb-HbLa, HaLa- HbLa、 HaLb-HbLbの 4通り存在する。 従って、 二特異性ァゴニスト IgGを knobs - into-hol esを採用した 2種の H鎖と 2種の L鎖を単に発現させた場合、 生成す る IgGの見かけ上の比活性は非目的型 IgGの存在により、 期待されるよりも低減 されたものになってしまうことが予想される。 鎖によって発現量が異なる可能性 があるため、 また 目的型の H鎖と L鎖の親和性の強弱が異なる可能性があるた め、 目的型の IgGの生成率は一定ではないと考えられる。 また目的型 IgGの生成 IgG全体に対する比を確認する手段も無い。 これらのことはァゴニスト活性に基 づく抗体のスクリーニングを困難なものにしている。 この問題は、 全ての BsAb を含む多特異性抗体の作成時に発生する可能性が高い。
上記課題を解決する方法として、 本発明者らは、 knobs-into-hol esによって 一方の H鎖だけでは細胞より分泌されないことに着目し、 一方の H鎖及び L鎖 (Ha及び La) を発現させ、 その発現を抑制した後もう一方の H鎖及び L鎖 (Hb 及び Lb) を発現させ、 先に目的 HL分子 (HaLa及び HbLb)を構築した後に H鎖同 士を対合させる(H2L2)ことで目的型 BsAbの形成を優先させることができること を発見し、 本発明を完成した。 本発明により、 二特異性 IgG等の多重特異性抗体 の作製時に、 例えば、 抗体左腕 H鎖および L鎖 (Lef t HL)、 抗体右腕 H鎖および L鎖 (Right HL)それぞれを発現制御ベクターにより時間差で発現させる等、 対応 しない重鎖と軽鎖の接触を阻害することにより目的とする抗体を効率的に産生す ることができる。
より詳細には本発明により、
(1) 第一の H鎖と結合していない第一の L鎖と第二の L鎖と結合していない第二 の H鎖の接触を阻害し、 第一の L鎖と結合していない第一の H鎖と第二の H
鎖と結合していない第二の L鎖の接触を阻害することを特徴とする抗体の製 造方法、
(2) 抗体の第一の対と第二の対を異なる時期に発現させることを特徴とする抗体 の製造方法、
(3) 以下の工程を含む抗体の製造方法
(a)抗体の第一の H鎖と第一の L鎖を発現させ、 第一の対を作製する工程、
(b)抗体の第二の H鎖と第二の L鎖を発現させ、 第二の対を作製する工程、 及 び
(c)抗体の第一の対と第二の対を用いて抗体を作製する工程、
(4) 以下の工程を含む抗体の製造方法
(a)抗体の第一の H鎖と第一の L鎖の発現を誘導して第一の対を作製する工程、
(b)抗体の第一の H鎖と第一の L鎖の発現の誘導をとめる工程、
(c)抗体の第二の H鎖と第二の L鎖の発現を誘導して第二の対を作製する工程、 及び
(d)抗体の第一の対と第二の対を用いて抗体を作製する工程、
(5) 第一の H鎖と第二の H鎖のアミノ酸配列が異なり、 かつ第一の L鎖と第二の L鎖のアミノ酸配列が異なる抗体である上記(1)〜 (4)いずれかに記載の製造 方法、 .
(6) 抗体が二特異性抗体である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法、 (7) 第一の対同士又は第二の対同士では抗体が形成されにくい抗体であることを 特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法、
(8) 第一の対同士又は第二の対同士では抗体が形成されにくい抗体が、 knobs- i n t o-ho 1 e sが導入された抗体であることを特徴とする上記( 1)〜(7)のいず れかに記載の製造方法、
(9) 第一の発現調節因子により第一の H鎖及び第一の L鎖の発現が誘導されるべ クタ一、 および第二の発現調節因子により第二の H鎖及び第二の L鎖の発現
が誘導されるベクターを用いることを特徴とする抗体の製造方法、
(10)抗体組成物の、 第一の対と第二の対を含む抗体の割合を高くすることにより、 抗体組成物の比活性を増加させる方法、
(11)抗体の第一の対と第二の対を異なる時期に発現させることにより、 抗体組成 物の比活性を増加させる方法、
(12)抗体の第一の対と第二の対を異なる時期に発現させることにより、 第一の対 と第二の対を含む抗体以外の抗体の産生を抑制する方法、
(13)異なる 2種以上の発現誘導剤を用いることを特徴とする抗体の第一の対と第 二の対を異なる時期に発現させる方法、
(14)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法により製造される抗体、
(15)第一の H鎖、 第二の H鎖、 第一の L鎖、 第二の L鎖を同時期に発現させて作 製された抗体組成物と比較して、 第一の対と第二の対を含む抗体の割合が高 い抗体組成物、
(16)抗体の L鎖と H鎖がぺプチドリンカーで介されていないことを特徴とする上 記(15)記載の抗体組成物、
(17)発現誘導剤により抗体の L鎖または H鎖の発現が誘導されるべクタ一、
(18)、第一の発現調節因子により抗体の第一の L鎖及び第一の H鎖の発現が誘導さ れるベクターと、 第二の発現調節因子により抗体の第二の L鎖及び第二の H 鎖の発現が誘導されるベクターを含むベクタ一キット、
(19)上記(17)または(18)に記載のベクターを含有する細胞、 並びに
(20)抗体の第一の対と第二の対を異なる時期に発現することが可能な細胞、 が提供される。
1 . 抗体の製造方法
本発明は、 複数の抗体または抗体断片を結合する多重特異性抗体の製造におい て目的とする型の抗体を優先的に製造する方法に関する。 より詳細には、 二特異
性抗体 (BsAb)のような多重特異性抗体の製造においては、 第一の重鎖 (H鎖)と結 合していない第一の軽鎖 (L鎖)と第二の L鎖と結合していない第二の H鎖の接触、 及び、 第一の L鎖と結合していない第一の H鎖と第二の L鎖と結合していない第 二の L鎖の接触を阻害することにより目的型の BsAbを優先的に製造することが できる。 本発明では、 例えば、 まず(1)抗体の第一の H鎖と第一の L鎖を発現さ せ、 第一の H鎖 · L鎖対を作製し、 別に(2)抗体の第二の H鎖と第二の L鎖を発 現させ、 第二の H鎖 ' L鎖対を作製した後、 (3) (1)及び (2)の工程により作製さ れた 1つの対を用いて所望の BsAbを優先的に製造することができる。 そして、 三以上の特異性を有する抗体の製造を目的とする場合には、 BsAbを製造する場 合と同様に第一〜所望の数までの H鎖 · L鎖の対をそれぞれ発現し形成させた後 に、 作製された対を用いて所望の多重特異性抗体を製造することができる。 以下、 多重特異性抗体のうち BsAbを例として説明するが、 本発明の方法はその他の多 重特異性抗体にも同じように適用することができる。
本発明において、 目的とする多重特異性抗体が BsAbであれば、 「第一の重 (H) 鎖」 とは抗体を形成する 2つの H鎖のうちの一方の H鎖であり、 第二の H鎖は第 一の H鎖とは異なるもう一方の H鎖のことをいう。 つまり、 2つの H鎖のうち任 意にどちらか一方を第一の H鎖とし、 他方を第二の H鎖とすることができる。 同 様に、 「第一の軽 (L)鎖」 とは BsAbを形成する 2つの L鎖のうちの一方の L鎖で あり、 第二の L鎖は第一の L鎖とは異なるもう一方の L鎖のことを指し、 2つの L鎖のうちどちらか一方を任意に第一の L鎖とし、 他方を第二の L鎖とすること ができる。 通常、 第一の L鎖と第一の H鎖は或る抗原 (又はェピトープ)を認識す る同一の抗体より由来し、 第二の L鎖と第二の H鎖も或る抗原 (又はェピトープ) を認識する同一の抗体より由来するが、 これに限定されるわけではない。 ここで、 第一の H鎖 · L鎖で形成される L鎖- H鎖対を第一の対、 第二の H鎖 · L鎖で形成 される L鎖- H鎖対を第二の対と呼ぶ。 第二の対の由来となる抗体を作製する際 に用いられる抗原 (又はェピトープ)は、 第一の対の由来となる抗体を作製する際
に用いられるものとは異なっていることが好ましい。 即ち、 第一の対と第二の対 が認識する抗原は同じでもよいが、 好ましくは異なる抗原 (又はェピトープ)を認 識する。 この塲合、 第一の対及び第二の対の H鎖と L鎖は互いに異なるアミノ酸 配列を有していることが好ましい。 第一の対と第二の対が異なる抗原決定部位を 認識する場合、 該第一の対と第二の対は全く異なる抗原を認識してもよいし、 同 一抗原上の異なる部位(異なるェピ! プ)を認識してもよい。 又、 一方がタンパ ク質、 ペプチド、 遺伝子、 糖などの抗原を認識し、 他方が放射性物質、 化学療法 剤、 細胞由来トキシン等の細胞傷害性物質などを認識してもよい。 しかしながら、 特定の H鎖と L鎖の組合せで形成される対を有する抗体を作製したいと考えた場 合には、 その特定の H鎖と L鎖を第一の対及び第二の対として任意に決定するこ とができる。
抗体の H鎖又は L鎖をコ一ドする遺伝子は既知の配列を用いることも可能であ り、 又、 当業者に公知の方法で取得することもできる。 例えば、 抗体ライブラリ 一から取得することも可能であるし、 モノクローナル抗体を産生するハイプリド 一マから抗体をコードする遺伝子をクローニングして取得することも可能である。 抗体ライブラリ一については既に多くの抗体ライブラリ一が公知になっており、 又、 抗体ライブラリ一の作製方法も公知であるので、 当業者は適宜抗体ライブラ リーを入手することが可能である。 例えば、 抗体ファージライブラリーについて は、 Clackson et al. , Nature 1991, 352 : 624-8、 Marks et al., J. Mol. Biol. 1991, 222 : 58卜 97、 Waterhouses et al. , Nucleic Acids Res. 1993, 21 :
2265—6、 Gri f f i ths et al. , EMBO J. 1994, 13 : 3245 - 60、 Vaughan et al. , Nature Biotechnology 1996, 14 : 309-14、 及び特表平 20— 504970号公報等の文 献を参照することができる。 その他、 真核細胞をライブラリーとする方法
(W095/15393号パンフレット)やリポソーム提示法等の公知の方法を用いること が可能である。 さらに、 ヒト抗体ライブラリーを用いて、 パンニングによりヒト 抗体を取得する技術も知られている。 例えば、 ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体
(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、 抗原に 結合するファージを選択することができる。 選択されたファージの遺伝子を解析 すれば、 抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードする DNA配列を決定するこ とができる。 抗原に結合する scFvの DNA配列が明らかになれば、 当該配列を元 に適当な発現ベクターを作製し、 ヒト抗体を取得することができる。 これらの方 法は既に周知であり、 WO92/0丽、 W092/2079K W093/06213, W093/11236, W093/19172, W095/01438, W095/15388を参考にすることができる。
ハイプリドーマから抗体をコードする遺伝子を取得する方法は、 基本的には公 知技術を使用し、 所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として 使用して、 これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、 得られる免疫細胞を通常 の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、 通常のスクリーニング法により、 モノクローナルな抗体産生細胞 (ハイプリドーマ)をスクリーニングし、 得られた ハイプリドーマの mRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域 (V領域)の cDNA を合成し、 これを所望の抗体定常領域 (C領域)をコードする DNAと連結すること により得ることができる。
より具体的には、 特に以下の例示に限定される訳ではないが、 本発明の H鎖及 び L鎖をコードする抗体遺伝子を得るための感作抗原は、 免疫原性を有する完全 抗原と、 免疫原性を示さないハプテン等を含む不完全抗原の両方を含む。 例えば、 目的タンパク質の全長タンパク質、 又は部分べプチドなどを用いることができる。 その他、 多糖類、 核酸、 脂質等から構成される物質が抗原となり得ることが知ら れており、 本発明の抗体の抗原は特に限定されるものではない。 抗原の調製は、 当業者に公知の方法により行うことができ、 例えば、 バキュロウィルスを用いた 方法 (例えば、 W098/46777など)などに準じて行うことができる。 ハイプリドー マの作製は、 たとえば、 ミルスティンらの方法 (G. Kohler and C. Mi lstein, Methods Enzymol. 1981, 73 : 3- 46)等に準じて行うことができる。 抗原の免疫原 性が低い場合には、 アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、 免疫
を行えばよい。 また、 必要に応じ抗原を他の分子と結合させることにより可溶性 抗原とすることもできる。 受容体のような膜貫通分子を抗原として用いる場合、 受容体の細胞外領域部分を断片として用いたり、 膜貫通分子を細胞表面上に発現 する細胞を免疫原として使用することも可能である。
抗体産生細胞は、 上述の適当な感作抗原を用いて動物を免疫化することにより 得ることができる。 または、 抗体を産生し得るリンパ球を //? で免疫化し て抗体産生細胞とすることもできる。 免疫化する動物としては、 各種哺乳動物を 使用できるが、 ゲッ歯目、 ゥサギ目、 霊長目の動物が一般的に用いられる。 マウ ス、 ラット、 ハムスター等のゲッ歯目、 ゥサギ等のゥサギ目、 力二クイザル、 ァ カゲザル、 マントヒヒ、 チンパンジー等のサル等の霊長目の動物を例示すること ができる。 その他、 ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジエニック 動物も知られており、 このような動物を使用することによりヒト抗体を得ること もできる(W096/34096 ; Mendez et al. , Nat. Genet. 1997, 15 : 146 - 56参照)。 このようなトランスジエニック動物の使用に代えて、 例えば、 ヒトリンパ球を in で所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、 感作リンパ 球をヒトミエロ一マ細胞、 例えば U266と融合させることにより、 抗原への結合 活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平 1-59878号公報参照)。 また、 ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジエニック動物を 所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる
(W093/12227, W092/03918, W094/02602, W096/34096, W096/33735参照)。
動物の免疫化は、 例えば、 感作抗原を Phosphate- Buf fered Sal ine (PBS)また は生理食塩水等で適宜希釈、 懸濁し、 必要に応じてアジュパントを混合して乳化 した後、 動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。 その後、 好ま しくは、 フロイント不完全アジュパントに混合した感作抗原を 4〜21日毎に数回 投与する。 抗体の産生の確認は、 動物の血清中の目的とする抗体力価を慣用の方 法により測定することにより行われ得る。
ハイプリドーマは、 所望の抗原で免疫化した動物またはリンパ球より得られた 抗体産生細胞を、 慣用の融合剤 (例えば、 ポリエチレングリコール)を使用してミ エローマ細胞と融合して作成することができる(Goding, Monoclonal
Ant ibodies :- Principles and Pract ice, Academic Press, 1986, 59—103)。 必要 に応じハイプリドーマ細胞を培養 ·増殖し、 免疫沈降、 放射免疫分析 (RIA)、 酵 素結合免疫吸着分析 (ELISA)等の公知の分析法により該ハイプリドーマより産生 される抗体の結合特異性を測定する。 その後、 必要に応じ、 目的とする特異性、 親和性または活性が測定された抗体を産生するハイプリド一マを限界希釈法等の 手法によりサブクロ一ニングすることもできる。
続いて、 選択された抗体をコードする遺伝子をハイプリドーマまたは抗体産生 細胞 (感作リンパ球等)から、 抗体に特異的に結合し得るプローブ (例えば、 抗体 定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド等)を用いてクロ一二 ングすることができる。 また、 niRNAから RT- PCRによりクロ一ニングすることも 可能である。 免疫グロブリンは、 IgA、 IgD、 IgE、 IgG及び IgMの 5つの異なる クラスに分類される。 さらに、 これらのクラスは幾つかのサブクラス(アイソタ イブ)(例えば、 IgG_l、 IgG-2、 IgG-3、 及び IgG - 4; IgA - 1及び IgA - 2等)に分けら れる。 本発明において抗体の製造に使用する H鎖及び L鎖は、 これらいずれのク ラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、 特に限定され ないが、 IgGは特に好ましいものである。
ここで、 H鎖及び L鎖をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法により改変する ことも可能である。 例えば、 マウス抗体、 ラット抗体、 ゥサギ抗体、 ハムスター 抗体、 ヒッジ抗体、 ラクダ抗体等の抗体について、 ヒトに対する異種抗原性を低 下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、 例えば、 キ メラ抗体、 ヒト化抗体等を適宜作製することができる。 キメラ抗体は、 ヒト以外 の哺乳動物、 例えば、 マウス抗体の H鎖、 L鎖の可変領域とヒト抗体の H鎖、 L 鎖の定常領域からなる抗体であり、 マウス抗体の可変領域をコードする DNAをヒ
ト抗体の定常領域をコードする DNAと連結し、 これを発現べクタ一に組み込んで 宿主に導入し産生させることにより得ることができる。 ヒト化抗体は、 再構成 (reshaped)ヒト抗体とも称され、 ヒト以外の哺乳動物、 たとえばマウス抗体の相 補性決定領域(CDR; complementary determining region) を連結するように設計 した DNA配列を、 末端部にオーバ一ラップする部分を有するように作製した数個 のオリゴヌクレオチドから PCR法により合成する。 得られた DNAをヒト抗体定常 領域をコードする DNAと連結し、 次いで発現べクタ一に組み込んで、 これを宿主 に導入し産生させることにより得られる(EP239400; W096/02576参照)。 CDRを介 して連結されるヒ卜抗体の FRは、 相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成 するものが選択される。 必要に応じ、 再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な 抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸 を置換してもよい(K. Sato et al. , Cancer Res. 1993, 53 : 851-856) 0 上述のヒト化以外に、 例えば、 抗原との結合性等の抗体の生物学的特性を改善 するために改変を行うことも考えられる。 このような改変は、 部位特異的突然変 異 (例えば、 Kunkel (1985) Proc. Nat l. Acad. Sci. USA 82 : 488参照)、 PCR変 異、 カセット変異等の方法により行うことができる。 一般に、 生物学的特性の改 善された抗体変異体は 70%以上、 より好ましくは 80%以上、 さらに好ましくは 90%以上(例えば、 95%以上、 97%、 98%、 99%等)のアミノ酸配列相同性及び/ または類似性を元となった抗体の可変領域のアミノ酸配列に対して有する。 本明 細書において、 配列の相同性及び/または類似性は、 配列相同性が最大の値を取 るように必要に応じ配列を整列化、 及びギャップ導入した後、 元となった抗体残 基と相同(同じ残基)または類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基き同じダル ープに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合として定義される。 通 常、 天然のアミノ酸残基は、 その側鎖の性質に基いて(1)疎水性:ァラニン、 ィ ソロイシン、 ノルロイシン、 バリン、 メチォニン及びロイシン; (2)中性親水 性:ァスパラギン、 グルタミン、 システィン、 スレオニン及びセリン; (3)酸
性:ァスパラギン酸及びグルタミン酸; (4)塩基性:アルギニン、 ヒスチジン及 びリシン; (5)鎖の配向に影響する残基:ダリシンおよびプロリン;ならびに(6) 芳香族性:チロシン、 トリブトファン及びフエ二ルァラニンのグループに分類さ れる。
通常、 H鎖及び L鎖の可変領域中に存在する全部で 6つの相補性決定領域 (超 可変部; CDR)が相互作用し、 抗体の抗原結合部位を形成している。 このうち 1つ の可変領域であっても全結合部位を含むものよりは低い親和性となるものの、 抗 原を認識し、 結合する能力があることが知られている。 従って、 本発明の H鎖及 び L鎖をコードする抗体遺伝子は、 該遺伝子によりコードされるポリべプチドが 所望の抗原との結合性を維持していればよく、 H鎖及び L鎖の各々の抗原結合部 位'を含む断片部分をコ一ドしていればよい。
さらに、 本発明の方法において H鎖をコードする遺伝子は、 該遺伝子から発現 される抗体が、 第一の対同士又は第二の対同士では抗体が形成しにくいようにェ 夫されていることが好ましい。 例えば、 knobs- into- holes (特表 2001- 523971) は、 第一のポリペプチドの界面と第二のポリペプチドの界面で特異的かつ相補的 な相互作用を導入する(例えば、 非天然のジスルフィド結合が第一のポリべプチ ドと第二のポリぺプチド間に形成されるように、 第一のポリぺプチドの界面に遊 離チオール含有残基を、 第二のポリペプチドの界面中に相当する遊離チオール含 有残基を導入する)当業者に公知の技術であり、 該方法を用いることによりへテ 口マルチマー形成が促進され、 ホモマルチマー形成が抑制された H鎖を発現させ ることができる。
第一の H鎖と結合していない第一の L鎖と第二の L鎖と結合していない第二の H鎖の接触、 及び、 第一の L鎖と結合していない第一の H鎖と第二の L鎖と結合 していない第二の L鎖の接触を阻害するためには、 第一の H鎖と第二の L鎖を異 なる時期に発現させ、 第一の L鎖と第二の H鎖を異なる時期に発現させればよく、 例えば、 第一の対と第二の対を異なる時期に発現させる方法を採用することがで
きる。
上述の異なる時期に発現させるのに対して、 第一の対と第二の対を同時期に発 現した場合には、 通常、 第一の H鎖と結合していない第一の L鎖と第二の L鎖と 結合していない第二の H鎖の接触が阻害されず、 第一の L鎖と結合していない第 一の H鎖と第二の H鎖と結合していない第二の L鎖の接触が阻害されていないの で、 第一の H鎖と結合していない第一の L鎖と第二の L鎖と結合していない第二 の H鎖の結合が抑制されず、 第一の L鎖と結合していない第一の H鎖と第二の H 鎖と結合していない第二の L鎖の結合が抑制されてない状態となる。 本発明にお いて 「第一の対と第二の対を同時期に発現する」 とは、 第一の対と第二の対の発 現時期の少なくとも一部が重なっていることを意味し、 好ましくは、 第一の対と 第二の対の発現時期が一致していることを指す。
本発明において、 第一の対と第二の対を異なる時期に発現させる場合、 第一の 対が発現している時期と、 第二の対が発現している時期が完全に異なっている、 つまり、 第一の対が発現している時は第二の対は発現しておらず、 第二の対が発 現している時は第一の対は発現していないことが好ましい。 しかしながら、 本発 明はこれに限定されず、 第一の対が発現している時期と第二の対が発現している 時期の一部が重なっていても良い。 第一の H鎖と第二の L鎖の結合を抑制し、 第 二の H鎖と第一の L鎖の結合を抑制するその他の方法としては、 第一の H鎖と第 二の L鎖を異なる時期に発現させ、 第二の H鎖と第一の L鎖を異なる時期に発現 させればよい。 即ち、 本発明の方法においては、 第一の H鎖と第一の L鎖は同時 期に発現させることが好ましいが、 特に限定されず、 第一の H鎖と第一の L鎖を 異なる時期に発現させてもよい(第二の H鎖と第二の L鎖についても同様)。 その 場合、 例えば、 第一の H鎖と結合していない第一の L鎖と第二の L鎖と結合して いない第二の H鎖の接触を阻害し、 第一の L鎖と結合していない第一の H鎖と第 二の H鎖と結合していない第二の L鎖の接触を阻害すれば第一の H鎖と第二の L 鎖、 及び第一の L鎖と第二の H鎖の結合を阻害することができる。 例えば、 第一
の対と第二の対を異なる場所で発現させ、 それぞれの対を形成してから、 第一の 対と第二の対を接触させ、 抗体を作製してもよい。 そのような方法の一つとして、 第一の対と第二の対を異なる細胞中で発現させ、 対形成させた後に、 第一の対と 第二の対を発現する細胞を融合して抗体を作製させる方法が考えられる。
第一の対と第二の対を異なる時期に発現させる為の具体的な方法としては、 例 えば、 発現調節因子などを用いて第一の対と第二の対の発現を異なる時期に誘導 する方法を挙げることができる。 より具体的には、 第一の発現調節因子により第 一の対の発現が誘導されるべクタ一を構築し、 第二の発現調節因子により第二の 対の発現が誘導されるべクタ一を構築する。 この際、 第一の対と第二の対を一つ のベクター上に構築してもよいし、 異なる 2つ以上のベクター上に構築してもよ' レ^ 又、 H鎖と L鎖を同一のベクタ一上に構築してもよいし、 異なる 2つ以上の ベクターに構築してもよい。 次に、 構築したベクタ一を細胞に導入し、 まず第一 の発現調節因子により第一の対の発現を誘導する。 その後、 第二の発現調節因子 により第二の対の発現を誘導する。 この場合、 第二の対の発現を誘導する前に、 第一の対の発現を停止させておくことが好ましい。
発現調節因子は、 宿主細胞中での H鎖及び L鎖の発現を調節できるものであれ ば特に限定されず、 どのような種類のものを用いてもよい。 例えば、 発現調節因 子の不在下では発現が誘導されず、 発現調節因子の存在下では発現が誘導される ものでもよいし、 逆に、 発現調節因子の存在下では発現が誘導されず、 発現調節 因子の不在下で発現が誘導されるものでもよい。 発現調節因子は、 発現誘導剤な どの化合物でもよいし、 又、 温度 (熱)などの物理的な要因であってもよい。 発現 誘導剤の具体的な例としては、 テトラサイクリンなどの抗生物質、 ェクダイソン アナログなどのホルモン、 Cre (causes recombinat ion;相同組換え酵素)などの酵 素、 等を挙げることができる。 また、 誘導した H鎖及び/または L鎖の発現をと めるためには、 上述の発現調節因子として機能する発現誘導剤を除くことができ る。 温度 (熱)等の物理的要因を発現調節因子とした場合には、 発現が誘導されな
いような温度に戻すことにより誘導した H鎖及び/または L鎖の発現をとめるこ とができる。
発現調節因子により発現誘導されるベクターの構築は当業者に公知の方法で行 うことができる。 具体的な例としては、 市販されている発現誘導剤により発現が 誘導されるベクター(例えば、 pcDNA4/T0、 pIND : Invi trogen)に抗体の第一の対 又は第二の対をコードする遺伝子を導入することにより作製することが可能であ る。 通常、 第一の対を構成する H鎖及び L鎖の発現を誘導する第一の発現調節因 子と第二の対を構成する H鎖及び L鎖の発現を誘導する第二の発現調節因子は異 なる発現調節因子である。 また、 場合により、 第一の H鎖の発現を誘導する発現 調節因子と第一の L鎖の発現を誘導する発現調節因子も異なるものであってもよ レ (第二の H鎖及び L鎖の発現調節因子についても同様) 。 このようにして構築 された発現調節因子により抗体の第一または第二の対の発現が誘導されるべクタ —は、 抗体の第一の対と第二の対を異なる時期に発現することが可能となる。 又、 当該ベクターが導入された宿主細胞は、 抗体の第一の対と第二の対を異なる時期 に発現することが可能な細胞となる。
本発明の各抗体断片を発現させるためのベクターの構築に当たっては、 遺伝子 情報の転写及び翻訳を制御するプロモーター、 夕一ミネ一夕一等のュニットが必 要であり、 さらに各抗体断片の N末端に適当なシグナル配列を配置することが好 ましい。 プロモータ一としては、 lac、 trp、 ta λ ファ一ジ PL、 PR等に由来 するプロモータ一が利用可能である。 ターミネ一夕一としては、 trpA、 ファ一ジ、 rrnBリポソ一マル RNA由来のものを使用することができる。 適当なシグナル配 列としては、 宿主細胞からの融合蛋白質の分泌を可能にするリ一ダーぺプチド配 列が挙げられ、 pel lB分泌シグナルを例示することができる(Bet ter et al. , Science 1988, 240 : 1041-3 ; Sastry et al. , Proc. Nat l. Acad. Sci. USA 1989, 86 : 5728参照)。
本発明の抗体の第一の対と第二の対を異なる時期に発現することが可能なべク
ターを作製する為に用いられるベクターは特に限定されず、 どのようなベクタ一 を用いてもよい。 ベクターの具体的にな例としては、 哺乳動物由来の発現べクタ ― (例えば、 cDNA3 (Invi trogen) , pEGF-BOS (Nucle ic Ac ids Res. 1990,
18 (17): 5322)、 pEF、 pCDM8) 、 昆虫細胞由来の発現べクタ一 (例えば 「Bac-to- BAC baculovi rus express ion system] (Gibco BRL)、 pBacPAK8)、 植物由来の発 現ベクター(例えば ρΜΗ1、 pMH2)、 動物ウィルス由来の発現ベクター (例えば、 pHSV、 pMV、 pAdexLcw) レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、 pZIPneo)、 酵母由来の発現べクタ一(例えば、 「P icliia Express ion Ki t」 (Invi trogen) , pNVI K SP-Q01) , 枯草菌由来の発現ベクター(例えば、 PL608, pK画、 大腸菌 由来の発現べクタ一(M13系ベクター、 pUC系べクタ一、 pBR322、 pBluescript, pCR_Script)などが挙げられる。 又、 市販されている発現誘導剤により発現が誘 導されるベクターを用いてもよい。
本発明の抗体の第一の対と第二の対を異なる時期に発現することが可能な細胞 を作製する為に用いられる細胞は特に限定されず、 どのような細胞を用いてもよ い。 真核細胞を宿主として使用する場合、 動物細胞、 植物細胞、 真菌細胞を用い ることができる。 動物細胞としては、 (1)哺乳類細胞、 例えば、 CH0、 COS, ミエ 口一マ、 BHK (baby hams ter kidney) , HeLa、 Vero、 (2)両生類細胞、 例えば、 ァ フリカツメガエル卵母細胞、 または (3)昆虫細胞、 例えば、 sf 9、 sf2 K Tn5など が知られている。 植物細胞としては、 ニコティアナ cotiana属、 例えばニコ ティアナ ·タバカム、 cotiana tabacuii由来の細胞が知られており、 これを力 ルス培養すればよい。 真菌細胞としては、 酵母 (例えば、 サッカロミセス ·セレ ピシェ {Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス [SaccharoEyces)属の細 胞等)、 糸状菌 (例えば、 ァスペルギルス ·二ガー Aspergillus nlgei)等のァス ペルギルス
属の細胞等) などが知られている。 原核細胞を使用す る場合、 細菌細胞を用いる産生系がある。 細菌細胞としては、 大腸菌 ( ! COlD、 枯草菌等が知られている。 本発明においては、 糖鎖の付加、 立体構造の維持等の
観点から、 動物細胞を用いることが好ましく、 特に哺乳動物細胞を用いることが 好ましい。 これらの細胞に、 本発明の抗体の第一の対と第二の対 (場合により、 第一並びに第二の対の各々の H鎖及び L鎖)を異なる時期に発現することが可能 なべクタ一を導入することにより本発明の細胞を作製することができる。
構築した各対を発現するべクタ一の所望の宿主細胞への導入は、 用いるベクタ 一及び宿主細胞の種類に依存する。 原核細胞を宿主として使用する場合には、 例 えば、 カルシウムイオンを用いた方法 (Proc. Nat l. Acad. Sci. USA 1972, 69 : 2110)、 プロトプラスト法 (特開昭 63-24829号公報)、 エレクト口ポレーシヨン法 (Gene 1982, 17 : 107 ; Molecular & General Genet ics 1979, 168 : 111)等の方 法により宿主細胞へ導入することができる。 また、 宿主細胞が酵母である場合に は、 エレクト口ポレーシヨン法 (Methods in Enzymology 1990, 194: 182)、 スフ エロプラスト法 (Pro Nat l. Acad. Sci. USA 1984, 81 : 4889)、 酢酸リチウム 法 Bacteriol. 1983, 153 : 163)等が挙げられ、 植物細胞についてはァグロバ クテリウム法 (Gene 1983, 23 : 315 ; W089/05859等))、 超音波処理による方法 (W091/00358)等が公知である。 また、 動物細胞を宿主とした場合には、 エレクト ロボレ一シヨン法 (Cytoteclmology 1990, 3 : 133) , リン酸カルシウム法 (特開平 2 - 227075号公報)、 リポフエクシヨン法 (Proc. Nat l. Acad. Sci. USA 1987, 84: 7413 ; Virology 1973, 52 : 456)、 リン酸-カルシウム共沈法、 DEAE-デキス トラン法、 微小ガラス管を用いた DNAの直接注入法等が挙げられる。
上述のようにして取得された宿主細胞は、 例えば、 次のような方法で培養する ことができる。 宿主が原核生物や真核微生物である場合は、 培地は該生物が資化 し得る炭素源、 窒素源、 無機塩類等の生育に必要な物質を含有し、 形質転換体の 効率的な培養を可能にするものであれば天然培地、 合成培地のいずれでもよい。 培養は好気的条件、 嫌気的条件のいずれで行ってもよく、 生育温度、 培地の pH、 生育時間等の条件は、 用いる形質転換体の種類に応じ適宜当業者により決定され 得るものである。 また、 誘導性のプロモーターを用いた発現べクタ一については、
必要に応じてィンデューサ一を培地に添加すればよい(例えば、 lacプロモー夕 一であれば IPTG、 trpプロモーターであれば IM等)。 昆虫細胞を宿主細胞とし て用いる場合には、 培地としては TNM-FH培地 (Pharniingen)、 Si - 900 I I SFM培 地 (Li fe Technologies)、 ExCel l400及び ExCel l405 (JRH Biosciences)、 Grace' s Insect Medium (Nature 195 : 788 (1962) )等を用いることができ、 必要に応じゲ ンタマイシン等の抗生物質を添加してもよい。 宿主細胞が動物細胞である場合に は、 一般に使用されている RPMI 1640培地(The Journal of American Medical Associat ion 199 : 519 (1967) )、 Eagle の MEM培地(Science 122 : 501 (1952) )、 DMEM培地(Vi rology 8 : 396 (1959) )、 199培地(Proceeding of the Society for the Biological Medicine 73 : 1 (1950) )、 または、 これらの培地に BSA等を添 加した培地を使用することができる。 培養は通常の条件、 例えば、 pH6〜8、 30〜 40°C、 5 %C02存在下で行うことができる。 この際、 必要に応じカナマイシン、 ぺ ニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
抗体遺伝子を適当なベクターに組み込んで、 これを宿主に導入し、 遺伝子組換 え技術を用いて抗体を産生させる方法は当業者によく知られている(例えば、 Carl, A. K. Borrebaeck, James, W. Larrick, THERAPEUTIC MONOCLONAL
ANTIBODIES, Publ ished in the Uni ted Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
本発明の具体的な抗体の製造方法として、 例えば、 次のような方法が考えられ る。 最初に、 抗体左腕 H鎖および L鎖 (Lef t HL)をテトラサイクリン誘導型の pcDNA4 (Invi trogen)ベクタ一へ、 抗体右腕 H鎖および L鎖 (Right HL)をェクダイ ソン誘導型の plND (Invi trogen)ベクターへ組み込む。 全ての発現調節プラスミ ドを上述の適当な宿主細胞、 例えば、 C0S-7等の動物細胞に形質導入する。 その 後、 例えば、 一次誘導としてテトラサイクリンを培地へ添加し、 抗体左腕 HL分 子を細胞内で形成させる。 1〜2日間の一次誘導発現後、 一旦培地を洗浄するこ とにより、 最初の薬剤(ここではテトラサイクリン)を完全に除去する。 次に、 二
次誘導用の薬剤ェクダイソンアナログを含む新鮮な培地に置換し、 二次誘導発現 を例えば 2〜3日間行う。 その結果、 抗体右腕 HL分子が生成され、 既に細胞中に 存在していた左腕 HL分子と会合し完全体 BsAbが形成され、 培地中へ分泌される。 本発明の抗体の製造方法により、 第一の対と第二の対の両方を含む抗体以外の 産性を抑制し、 製造される抗体組成物中に含まれる第一の対と第二の対の両方を 含む抗体の割合を高めることができる。 即ち、 本発明の方法により、 製造される 抗体組成物の比活性を増加させることができる。
2 . 抗体
本発明により上述の方法で製造される抗体が提供される。 必要に応じ、 上記方 法により製造された抗体組成物中の抗体を、 通常のタンパク質の精製で使用され ている公知の方法により精製することができる。 例えば、 プロテイン Aカラムな どのァフィ二ティ一カラム、 クロマトグラフィーカラム、 フィルタ一、 限外濾過、 塩析、 透析等を適宜選択、 組合せることにより、 抗体を分離、 精製することがで きる (Ant ibodies : A Laboratory Manual, Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。 精製は、 例えば、 抗体の抗原結合活性を指標として 行うことができる。 抗体の抗原結合活性 (Ant ibodies : A Laboratory Manual, Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)の測定には公知の 手段を使用することができる。 例えば、 ELISA (酵素結合免疫吸着検定法)、 EIA (酵素免疫測定法)、 RIA (放射免疫測定法)または蛍光免疫法などを用いること ができる。
本発明で製造される多重特異性抗体は特に限定されないが、 通常、 第一の H鎖 と第二の H鎖のアミノ酸配列が異なっており、 第一の L鎖と第二の L鎖のアミノ 酸配列が異なっている二特異性抗体 (BsAb)である。 以下、 主として BsAbについ て述べるが、 その他の多重特異性抗体にも同様に適用することができる。 第一の 対と第二の対が認識する抗原は同じでもよいが、 好ましくは異なる抗原 (又はェ
ピトープ)を認識する BsAbである。 本発明においては、 全く異なる抗原を認識す る BsAbでもよいし、 同一抗原上の異なる部位(異なるェピトープ)を認識する BsAbでもよい。 又、 一方がタンパク質、 ペプチド、 遺伝子、 糖などの抗原を認 識し、 他方が放射性物質、 化学療法剤、 細胞由来トキシン等の細胞傷害性物質な どを認識してもよい。
本発明で製造される抗体は、 第一の対同士又は第二の対同士では抗体が形成さ れにくい工夫がされていることが好ましい。 そのような工夫の具体例としては、 knobs- into- holesを挙げることができる。 knobs- into- holesは、 ヘテロマルチ マ一形成を促進し、 ホモマルチマー形成を抑制するように、 第一のポリペプチド の界面と第二のポリペプチドの界面で特異的かつ相補的な相互作用を導入する
(例えば、 非天然のジスルフィド結合が第一のポリペプチドと第二のポリべプチ ド間に形成されるように、 第一のポリペプチドの界面に遊離チオール含有残基を、 第二のポリペプチドの界面中に相当する遊離チオール含有残基を導入する)方法 である(特表 2001-523971)。 knob s-in to- holesは当業者に公知の技術であり、 当 業者は適宜、 抗体に導入することが可能である。
又、 本発明で製造される抗体は、 H鎖と L鎖がリンカ一などで結合されていな い抗体であることが好ましく、 さらに好ましくは H鎖と L鎖間にジスルフィド結 合以外の共有結合が存在しない抗体であることが好ましい。
また、 抗体は抗原に結合することができれば、 抗体断片等の低分子化抗体また は抗体の修飾物などであってもよい。 抗体断片の具体例としては、 例えば、 Fab、 Fab' , F (ab' ) 2、 Fv、 ダイアポディなどを挙げることができる。 このような抗体 断片を得るには、 これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、 これを発現べク ターに導入した後、 適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、 M. S. Co et al. , J. Immunol. 1994, 152 : 2968-2976 ; M. Bet ter and A. H. Horwi tz, Methods Ensymol. 1989, 178 : 476-496 ; A. Pluckthun and A. Skerra, Methods Enzymol. 1989, 178 : 497-515 ; E. Lamoyi, Methods Enzymol. 1986, 121 : 652-
663 ; J. Rousseaux e t al. , Methods Enzymol. 1986, 121 : 663-669 ; R. E. B i rd and B. W. Walker, Trends Biotechnol. 1991, 9 : 132- 137参照)。
抗体の修飾物として、 ポリエチレングリコール (PEG)等の各種分子と結合した 抗体を使用することもできる。 又、 抗体に標識物質、 化学療法剤、 細菌由来トキ シン等の細胞傷害性物質などを結合することも可能である。 特に標識抗体は有用 であり、 酵素、 蛍光物質、 発光物質、 放射性同位体、 金属キレート等により抗体 を標識し、 検出する方法が公知である。 抗体修飾物は、 得られた抗体に架橋剤等 を用いて化学的な修飾を直接的に施すことによって得るこどができる。 また、 抗 体に対して低分子ハプテン(例えば、 ピオチン、 ジニトロフエニル、 ピリドキサ ール、 フルォレサミン等)を結合し、 低分子ハプテンを認識する結合成分により 間接的な標識を施すこともできる。 また、 本発明においては、 糖鎖を改変した抗 体などを用いることも可能である。 抗体の糖鎖改変技術は既に知られている(例 えば、 W000/61739, W002/31140など)。 本発明における 「抗体」 にはこれらの抗 体も包含される。
本発明の抗体は、 癌治療において使用することを目的とする場合には、 例えば、 抗体の一方の腕は腫瘍細胞抗原を認識するように調製し、 他方の腕は細胞傷害性 を誘起する分子を認識するように設計することができる。 腫瘍細胞抗原としては、 例えば、 1D10 (悪性 B細胞)、 AMOC-1 (pan carc inoma assoc i ated ant igen)、 CAMA1、 CD7、 CD15、 CD19, CD22、 CD38、 CEA、 EGF 受容体、 Id- 1、 L - Dl (大腸癌)、 MoV18、 p97、 pl85HER2、 OVCAR- 3、 神経細胞接着分子 (neural cel l adhes ion mol ecule ; NCAM)、 腎細胞癌、 メラノサイト刺激ホルモンアナログ、 葉酸結合蛋 白質 (FBP)等が挙げられる。 また、 細胞傷害性を誘起する分子としては、 CD3、 CD16, Fc r RI が例示される。 その他、 IFN- α、 サポニン、 ピン力アルカロイド、 リシンの Α鎖等の毒素と結合できるよう BsAbを設計することもできる。
また、 ヘテロ二量体を形成し、 リガンドとの結合によりその鎖間の距離または 角度等が変化することにより細胞内にシグナルを伝達する受容体 (例えば、 多く
のサイトカイン受容体)に対して結合するように構築することにより、 リガンド による受容体の二量体化を模倣できるァゴニスト抗体として本発明の抗体を利用 することができる。
その他にも、 ( CD30及びアルカリホスファターゼに結合し、 リン酸マイトマ イシンをマイトマイシンアルコールに変換する等の、 化学物質の変換を助ける酵 素と相互作用する抗体、 (2)繊維素溶解剤として使用できる、 フイブリン、 tPA、 uPA等に結合する抗体、 (3) 1^ 及び?(;受容体 ^1、 Fc r RI K または
Fc r RI I I)等に結合し免疫複合体を細胞表面受容体へ誘導する抗体、 (4) CD3等の T細胞上の抗原と、 HCV、 インフルエンザ、 HIV等の病原菌の抗原を認識する感染 性の疾患に使用できる抗体、 (5)腫瘍の検出に使用し得る腫瘍抗原と、 Ε0ΤϋΒΕ、 DPTA、 ハプテン等の検出可能な物質に結合性を有する抗体、 (6)ワクチンアジュ バントとして使用し得る抗体(Fanger et al. , Cri t. Rev. Immunol. 1992, 12 : 101-24参照)、 並びに(7)診断において使用し得るゥサギ IgG、 西洋ヮサビペルォ キシダーゼ (HRP)、 FITC、 /3 -ガラクトシダ一ゼ等の検出可能な物質と、 ホルモン、 フェリチン、 ソマトスタチン、 サブスタンス P、 CEA等を抗原とする抗体等が知 られており、 これらの公知の多重特異性抗体 (W089Z02922号パンフレツト、 EP314, 317号公報、 US5116964号公報参照)を含む様々な抗体を本発明の方法に より製造することができる。
以上のように、 本発明の抗体は、 従来知られている多特異性抗体と同様に、 免 疫診断、 治療及び免疫学的検定による診断等の臨床分野において有用である。 例 えば、 腫瘍細胞を殺す等の細胞障害性を誘起するため、 ワクチンアジュバントと して、 血栓溶解剤等の薬剤を適切に生体内において標的に対して運搬するため、 酵素により活性化されるプロドラッグを標的部位において確実に変換するため、 感染性の疾患の治療用に、 細胞表面受容体に対して免疫複合体を誘導するため、 免疫毒素等を腫瘍細胞等の標的細胞に運搬するため等、 様々な治療目的で使用す ることが考えられる。
本発明の抗体を医薬組成物として用いる場合には、 当業者に公知の方法で製剤 化することが可能である。 このような治療目的で使用される本発明の抗体を含む 医薬組成物は、 必要に応じ、 それらに対して不活性な適当な薬学的に許容される 担体、 媒体等と混和して製剤化することができる。 例えば、 滅菌水や生理食塩水、 安定剤、 賦形剤、 酸化防止剤(ァスコルビン酸等)、 緩衝剤(リン酸、 クェン酸、 他の有機酸等)、 防腐剤、 界面活性剤 (PEG、 Tween等)、 キレート剤 (EDTA等)、 結 合剤等を挙げることができる。 また、 その他の低分子量のポリペプチド、 血清ァ ルブミン、 ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、 グリシン、 グルタミン、 ァス パラギン、 アルギニン及びリシン等のアミノ酸、 多糖及び単糖等の糖類や炭水化 物、 マンニト一ルゃソルビ! ル等の糖アルコールを含んでいてもよい。 注射用 の水溶液とする場合には、 例えば生理食塩水、 ブドウ糖やその他の補助薬を含む 等張液、 例えば、 D-ソルビトール、 D-マンノース、 D-マンニトール、 塩化ナトリ ゥムが挙げられ、 適当な溶解補助剤、 例えばアルコール (エタノール等)、 ポリア ルコール(プロピレングリコール、 PEG等)、 非イオン性界面活性剤 (ポリソルべ —ト 80、 HC0-50)等と併用してもよい。
また、 必要に応じ本発明の Dbをマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロー ス、 ゼラチン、 ポリ [メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、 コロイドドラ、:)グデリバリーシステム(リボソーム、 アルブミンミクロスフエア、 マイクロエマルジョン、 ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる (" Remington' s Pharmaceut ical Science 16th edi t ion" , Oslo Ed. , 1980等参 照)。 さらに、 薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、 本発明の Dbに適用 し得る(Langer et al. , J. Biomed. Mater. Res. 1981, 15 : 167-277; Langer, Chern. Tech. 1982, 12 : 98 - 105 ;米国特許第 3, 773, 919号;欧州特許出願公開 (EP) 第 58, 481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22 : 547 - 556 ;EP第 133, 988 号)。
患者への投与は経口、 非経口投与のいずれでも可能であるが、 好ましくは非経
口投与であり、 具体的には、 注射剤型、 経鼻投与剤型、 経肺投与剤型、 経皮投与 型などが挙げられる。 注射剤型の例としては、 例えば、 静脈内注射、 筋肉内注射、 腹腔内注射、 皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。 ま た、 患者の年齢、 症状によって適宜投与方法を選択することができる。 投与量と しては、 例えば、 一回につき体重 lkgあたり 0. OOOlmgから lOOOmgの範囲で選ぶ ことが可能である。 あるいは、 例えば、 患者あたり 0. 001〜100000mg/bodyの範 囲で投与量を選ぶことができる。 しかしながら、 本発明はこれらの投与量および 投与方法等に制限されるものではない。
本発明の抗体は酵素免疫分析に用いることもできる。 このために.は、 抗体の一 方の抗体可変領域は酵素上の酵素活性を阻害しないェピトープを、 そして他方は 担体に結合するような担体を認識するように設計する。 例えば、 IgG、 フェリチ ン、 HRP及びホルモン等を認識する抗体を挙げることができる。
また、 本発明の抗体は//? vivolXS in r/ / における種々の疾病の免疫診断 に用いることも可能である。 例えば、 抗体の一方の対の抗体可変領域を腫瘍細胞 に特異的な抗原等を認識するようにし、 他方は検出可能なマーカーに結合するよ うに設計することができる。 検出可能なマ一カーとしては放射性同位体 (例えば、 ¾、 14C、 32P、 35S、 1251等)、 蛍光色素(フルォレセイン、 ルシフェリン等)、 化学 ルミネセンス化合物(ィソチオシァネー卜、 ローダミン等)、 アルカリホスファタ
—ゼ、 )3 -ガラクトシダーゼ、 HRP等の汎用の酵素等を挙げることができ、 抗体 のこれらの物質との結合及び検出は公知の方法に従って行うことができる
(Hunter et al. , Nature 1962, 144: 945 ; David et al. , Biochemi stry 1974, 13 : 1014; Pain et al. , J. Immunol. Meth. 1981, 40 : 219 ; Nygen, J.
Histochem and Cytochem 1982, 30 : 407参照)。 このように検出可能な物質に対 して反応性を有する本発明の抗体は、 拮抗的結合分析、 直接的及び間接的なサン ドイッチ免疫分析 (ELISA等)、 免疫沈降分析 (Zola, " Monoclonal Ant ibodies : A Manual of Techniques" , pp. 147-158, CRC Press Inc. (1987) )等を含む、 種々
の分析において用いることもできる。
本発明の抗体を上述のような診断等において使用する場合、 必要に応じ抗体を 不溶性担体に結合することもできる。 抗体を不溶性担体に結合する方法は周知で あり、 慣用の化学結合法または物理的吸着法により抗体を固相化することができ る。 不溶性担体としては例えば、 種々の合成樹脂、 多糖類、 ガラス、 金属等を素 材とした球状、 繊維状、 棒状、 トレイ等の容器状、 盤状、 セル及び試験管等の所 望の形態の担体を挙げることができる。
3 . 抗体組成物
本発明において抗体組成物とは、 複数種類の抗体を含む集団のことをいう。 抗体組成物において、 目的型の抗体の割合を高くするとは、 抗体組成物中に含 まれる、 第一の対と第二の対で形成される抗体の割合を高くすることを意味する。 つまり、 抗体組成物中の第一の H鎖と第二の L鎖で形成される対又は第二の H鎖 と第一の L鎖で形成される対を含む抗体の割合を低くすることを意味する。 即ち、 本発明の抗体組成物は、 一般的には、 より高い比活性を有するものである。
抗体の比活性の指標としては、 抗体の結合活性、 ァゴニスト活性、 アン夕ゴニ スト活性、 中和活性などを挙げることができる。 比活性を測定する為に用いる検 出指標としては、 抗体組成物中の目的とする抗体の量的および/又は質的な変化 が測定可能である限りどのような指標をも使用することができる。 例えば、 無細 胞系(cel l free assay)の指標、 細胞系(eel卜 based assay)の指標、 組織系の指 標、 生体系の指標を用いることができる。 無細胞系の指標としては、 本発明の抗 体の結合、 ァゴニスト作用、 アンタゴニスト作用、 中和作用等による酵素反応ま たはタンパク質、 DNA、 RNAの量的および/若しくは質的な変化を用いることがで きる。 酵素反応としては、 例えば、 アミノ酸転移反応、 糖転移反応、 脱水反応、 脱水素反応、 基質切断反応等を用いることができる。 また、 タンパク質のリン酸 ィ匕、 脱リン酸化、 二量体化、 多量体化、 分解、 乖離等、 さらに DNAまたは R Aの
増幅、 切断、 伸長も指標として用いることができる。 また、 シグナル伝達経路の 下流に存在するタンパク質のリン酸化を検出指標とすることもできる。 細胞系の 指標としては、 本発明の抗体の結合、 ァゴニスト作用、 アンタゴニスト作用、 中 和作用等による細胞の表現型の変化、 例えば、 産生物質の量的及び/又は質的変 化、 増殖活性の変化、 形態の変化、 特性の変化等を用いることができる。 産生物 質としては、 分泌タンパク質、 表面抗原、 細胞内タンパク質、 mRNA等を用いる ことができる。 形態の変化としては、 突起形成及び/又は突起の数の変化、 偏平 度の変化、 伸長度/縦横比の変化、 細胞の大きさの変化、 内部構造の変化、 細胞 集団としての異形性/均一性、 細胞密度の変化等を用いることができる。 細胞の 形態の変化は、 一般に顕鏡下での観察で確認することができる。 特性の変化とし ては、 足場依存性、 サイト力イン依存応答性、 ホルモン依存性、 薬剤耐性、 細胞 運動性、 細胞遊走活性、 拍動性、 細胞内物質の変化等を用いることができる。 細 胞運動性としては、 細胞浸潤活性、 細胞遊走活性がある。 また、 細胞内物質の変 化としては例えば、 酵素活性、 mRNA量、 Ca2+及び cAMP等の細胞内情報伝達物質 量、 細胞内蛋白質量等を用いることができる。 また、 受容体への本発明の抗体の 結合、 ァゴニスト作用、 アンタゴニスト作用、 中和作用によって誘導される細胞 の増殖活性の変化を指標とすることができる。 組織系の指標としては、 使用する 組織に応じた機能変化を検出指標とすることができる。 生体系の指標としては本 発明の抗体の結合、 ァゴニスト作用、 アン夕ゴニスト作用、 中和作用等による組 織重量変化、 血液系の変化、 例えば血球細胞数の変化、 タンパク質量、 酵素活性、 電解質量の変化、 また、 循環器系の変化、 例えば、 血圧、 心拍数の変化等を用い ることができる。
これらの検出指標を測定する方法としては、 特に制限はなく、 発光、 発色、 蛍 光、 放射活性、 蛍光偏光度、 表面プラズモン共鳴シグナル、 時間分解蛍光度、 質 量、 吸収スペクトル、 光散乱、 蛍光共鳴エネルギー移動等を用いることができる。 これらの測定方法は当業者にとっては周知であり、 目的に応じて、 適宜選択する
ことができる。 例えば、 吸収スペクトルは一般的に用いられるフォトメータ又は プレートリーダ等、 発光はルミノメータ等、 蛍光はフルォロメータ等で測定する ことができる。 質量は質量分析計を用いて測定することができる。 放射活性は、 放射線の種類に応じてガンマカウンターなどの測定機器を用いて、 蛍光偏光度は BEACON (宝酒造)、 表面プラズモン共鳴シグナルは BIAC0RE、 時間分解蛍光、 蛍光 共鳴エネルギー移動などは ARV0などにより測定できる。 さらに、 フローサイト メ一夕なども測定に用いることができる。 これらの測定方法は、 一つの測定方法 で 2種以上の検出指標を測定しても良く、 簡便であれば、 2種以上の測定を同時 および/または連続して測定することによりさらに多数の検出指標を測定するこ とも可能である。 例えば、 蛍光と蛍光共鳴エネルギー移動を同時にフルォロメ一 夕で測定することができる。
4. ベクタ一及び細胞
本発明により、 本発明の抗体の製造方法において使用することができる、 発現 誘導剤により抗体の L鎖または H鎖の発現が誘導されるべクタ一が提供される。 本発明の抗体の製造方法において使用できるベクタ一は、 好ましくは、 一つの発 現調節因子により対となる L鎖及び H鎖の両方が誘導されるものである。 ここで、 L鎖及び H鎖をコードする遺伝子は同じべクタ一中に組み込まれていでも、 別々 のべクタ一中に組み込まれていてもよい。 本発明はまた、 第一の L鎖及び第一の H鎖をコードするベクター、 並びに、 第二の L鎖及び第二の H鎖をコードするべ クタ一を含むベクタ一キットに関する。 該ベクターキットでは、 好ましくは第一 の L鎖 · H鎖と第二の L鎖 · H鎖は異なる発現調節因子により誘導される。 さら に、 必要に応じ、 第一の L鎖、 第一の H鎖、 第二の L鎖、 第二の H鎖の発現が 各々別の発現調節因子により誘導されるように本発明のベクター及びベクターキ ットを構築してもよい。
本発明は上記べクタ一またはベクターキットを含有する細胞を提供する。 該細
胞は好ましくは、 抗体の第一の H鎖及び L鎖からなる対と、 抗体の第二の H鎖と L鎖からなる対を異なる時期に発現するものである。 本発明のベクター及び細胞 については、 上記 「1 . 抗体の製造方法」 の項の記載を参照することができる。 図面の簡単な説明
図 1は、 ルシフェラーゼ定量法による IFNァゴニスト活性の比較を示すグラフ である。 2-3 : 同時誘導, 3-3 : テトラサイクリンで 1日誘導後、 ムリステロン A で 2日誘導発現, 4-4: テトラサイクリンで 1日誘導後、 ムリステロン Aで 3日 誘導発現, 5-3 : テトラサイクリンで 2日誘導後、 ムリステロン Aで 1日誘導発 現, 7-4: ムリステロン Aで 1日誘導後、 テトラサイクリンで 3日誘導発現。
図 2は、 サンドイッチ ELISA法による目的型抗体量の比較を示すグラフである。 各抗体サンプル濃度における吸光度を参照波長 655nmにて 405nmで計測した。 上 段は AI -His+抗体 +AR2- biot in、 下段は AR2_His+抗体 +AM-biot inを示す。 黒丸 (Closed circle) : 同時誘導発現サンプル, 白四角 (Open circle) : 時間差誘 導発現サンプル。 発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、 これらの実施例は本発 明をいかなる意味でも限定するものではない。
1. ヒト IFNヘテロ受容体 (AR1/AR2) に結合する二特異性 IgG抗体発現用プラス ミド構築
本抗体は 2種の H鎖と共に抗 AR1または抗 AR2いずれかの L鎖だけを発現させ、 L鎖を共通のものにした場合活性を失う為、 逆に阻害に働くことが考えられる。 つまり、 両 L鎖を発現させた際に目的の組合せの IgGが優先的に発現すれば IgG の見かけ上の比活性が上昇することが期待される。
二特異性 IgG抗体を産生する際に、 各 H鎖のへテロな組み合わせの分子を形成 させるために IgGlの knob- into- hole技術 [Ridway et al. , Protein Eng.
9 : 617-21 (1996) ]を参考に、 ヒト IgG4の CH3部分へのアミノ酸置換体を作製した。 aタイプ(ヒト IgG4 r a)は Y349C、 T366W置換体であり、 bタイプ(ヒト IgG4 r b) は E356C、 T366S, L368A、 Y407Vの置換体である。 さらに、 両置換体のヒンジ領 域にも置換 (-ppcpScp- -〉 -ppcpPcp-)を導入した。
AR1受容体を認識する抗体分子片腕 (便宜上右腕 HL分子と称する) の発現用 として、 テトラサイクリン誘導型ベクター pcDNA4 (Invi trogen) を用いた。 抗 体右腕 HL分子を構成する H鎖および L鎖それぞれの発現ュニット、 すなわち動 物細胞用シグナル配列(IL3ss) [Proc. Nat l. Acad. Sc i. USA. 81 ; 1075 (1984) ]の下 流に AR1受容体を認識するマウス抗体可変領域 (VHないし VL)とヒト IgG4 r a定 常領域ないし κ定常領域、 を組み込んだベクター (pcDNAl-24Hないし pcDNA卜 24L)を公知の遺伝子工学的手法に則り作製した。
AR2受容体を認識するもう一方の片腕 (便宜上左腕 HL分子と称する) はェク ダイソン類似体誘導型ベクター pIND (Invi trogen) を用いた。 抗体左腕 HL分子 を構成する H鎖および L鎖それぞれの発現ュニット、 すなわち動物細胞用シグナ ル配列(IL6ss) [EMBO. J. 6 ; 2939 (1987) ]の下流に AR2受容体を認識するマウス 抗体可変領域 (VHないし VL)とヒト IgG4ァ b定常領域ないし κ定常領域、 を組み 込んだベクタ一 (PIND2-7Hないし PIND2- 7L)を同様に作製した。 各々のプラスミ ド DNAは巿販プラスミド精製キット (QIAprep Spin Miniprep Ki t, QIAGEN)を用 いて単離した。 各プラスミド溶液は、 使用するまで 4°Cで保存した。
2. 二特異性 IgG抗体の動物細胞での時間差 HL発現
2-1. DNA溶液の調製
抗体右腕 HL分子発現用ベクター (pcDNAl- 24Hそして pcDNA卜 24L) はテトラ サイクリンにより発現誘導がかかる。 テトラサイクリンが存在し.ない状況下で発
現を完全に抑制する為に Tetリブレッサー(TetR)をコードするプラスミド PCDNA6/TR (Invi trogen)が要求される。 ここで、 発現した TetRは 2量体で PCDNA4/T0上の 2つの Tetオペレーター配列 (Tet02)に結合し、 目的遺伝子の転 写を抑制する。 そして、 添加したテトラサイクリンが TetR 2量体と結合し、 構 造変化により TetRが Tetオペレータ一から離れることにより、 CMV/Tet02プロ モーターによる目的遺伝子の転写が誘導される。 また、 抗体左腕 HL分子発現用 ベクタ一 (PIND2-7Hそして PIND2-7L) は、 昆虫ホルモンであるェクダイソン類 似化合物 (ムリステロン Aあるいはボナステロン A) により発現誘導がかかる。 このとき、 ェクダイソン類似化合物と反応し誘導を行なぅェクダイソンレセプ夕 一とレチノィド Xレセプターを恒常的に発現するプラスミド pVgRXR
(Invi trogen)が要求される。 ここで、 ェクダイソンアナログの添加により、 その 類似体と、 ェクダイソンレセプ夕一とレチノィド Xレセプターのへテロ 2量体が pINDベクターのェクダイソン/ダルココルチコィド (5XE/GRE)プロモーターに結 合して目的遺伝子発現が活性化する。 従って、 動物細胞のトランスフエクシヨン の為に pcDNAl- 24H、 pcDNA卜 24L、 pi匿 - 7H、 p画- 7L、 pcDNA6/TRそして pVgRXRからなる計 6種類のプラスミド DNA混液を調製した。
2-2. 動物細胞のトランスフエクシヨン
アフリカミドリザル腎臓由来培養細胞 COS- 7株 (Invi trogen)を用いた場合、 細 胞を DMEM+10%FCS培地へ懸濁し、 1 x lOVmlの細胞密度で接着細胞用 6- wel 1プ レート(CORNING)の各 wel lへ lmlずつ蒔きこみ、 37°Cにて 5% C02インキュべ一 夕一内で一晩培養した。 2— iで調製したプラスミド DNA混液をトランスフエクシ ヨン試薬 FuGENE 6 (Roche) (Invi trogen) 1. 5 1と Opt i- MEM I培地
(Invi trogen) 250 i 1の混液へ加えて室温 20分間静置したものを各 wel lの細胞 へ投入し、 4〜5時間 37でにて 5% C0
2ィンキュベ一夕一内でィンキュベ一トし た。
ヒト胎児腎臓由来培養細胞 HEK293H株 (Invitrogen)を用いた場合、 細胞を DMEM+10%FCS培地へ懸濁し、 5xi0
5/mlの細胞密度で接着細胞用 12- wellプレー ト(CORNING)の各 wellへ lmlずつ蒔きこみ、 37°Cにて 5% C0
2 インキュベータ一 内で一晩培養した。 2-1で調製したプラスミド DNA混液をトランスフエクシヨン 試薬 Lipoiectamine 2000 (Invitrogen)
と Op U - MEM I培地
(Invitrogen) 250 ^1の混液へ加えて室温 20分間静置したものを各 wellの細胞 へ投入し、 4〜5時間 37°Cにて 5% C02インキュベーター内でインキュベートし た。
2-3. 二特異性 IgG抗体の発現誘導
2- 2の通りトランスフエクシヨンした細胞培養液から培地を吸引除去し、 l g/mlのテトラサイクリン塩酸塩 (和光純薬)を含む 1ml CH0-S-SFM- II (Invitrogen)培地を投入し、 37°Cにて 5% C02インキュベーター内で 1日培養 して、 抗体右腕 HL分子の第一次発現誘導を行なった。 その後、 培地を吸引除去 し、 一旦 lml CHO- S- SFM-II培地にて洗净した後、 のムリステロン A (Invitrogen)ないしボナステロン A (Invitrogen)を含む lml CHO- S-SFM- II培地 を投入し、 37°Cにて 5% C02インキュベータ一内で 2日ないし 3日培養して、 抗 体左腕腕 HL分子の第二次発現誘導を行ない、 培地中へ二特異性 IgG抗体を分泌 させた。 培養上清は回収された後、 一旦遠心 (約 2000g、 5分間、 室温)して細胞 を除去して、 必要に応じマイクロコン- 50 (Millipore) で濃縮を行った。 該サン プルは使用するまで 4 で保存した。
2-4. 発現抗体の精製
2-3にて調製された抗体発現上清サンプルをプロテイン A樹脂(rmp Protein A Sepharose FAST FLOW, Amersham biosciences)を用いて精製した。 すなわち、 該 上清 4mlに対し TBS緩衝液で置換した樹脂 50 1を添加し、 一晩 4°Cで転倒混和
し、 抗体を樹脂へ吸着させた。 一旦遠心 (3000 g, 10 分)して上清を除去した後、 丁88緩衝液500 1に懸濁し、 0.22 mフィルターカップ (Mill ipore)へ移した。 遠心(3000 g, 1分)と TBS緩衝液による洗浄を 3回繰り返した後、 溶出緩衝液 (10mM HC1, 150inM NaCl, and 0.01% Tween20) 100 zlにて溶出した。 溶出液へ 150mM NaClを含む 1M Tris溶液 1を添加し中和した。 該溶液は使用するまで 4 °Cで保存した。
2-5. ヒ卜 IgG濃度の定量
Goat affinity purified antibody to human IgG Fc (Cappel)を coating bufferにて 1 ig/mLに調製し、 96- wellィムノプレート MaxiSorp Surface (NALGE NUNC International)に固相化した。 Diluent buffer (D. Β· )にてブロッキング処 理した後、 D.B.を用いて適当に希釈した培養上清サンプルないし精製抗体サンプ ルを添加した。 また、 抗体濃度算出のためのスタンダードとして、 1000 ng/mLか ら 2倍系列で!). B.にて 11段階希釈した ChromPure Human IgG, whole molecule (Jackson ImmunoRe search, 11.1 mg/mL)を同様に添加した。 3回洗浄した後、 Goat ant i -human IgG, alkaline phosphatase (Biosource)を反応させた。 5回洗 浄した後、 Sigma 104® phosphatase substrate (Sigma Chemical)を基質として 発色させ、 吸光度リーダ一 Model550 (Bio- Rad Laboratories)により、 参照波長 655 nmとして 405 nmの吸光度を測定した。 Microplate Manager III (Bio-Rad Laboretories) ソフトウェアを用いて、 スタンダードの検量線から培養上清中の ヒト IgG濃度を算出した。
3. レポータージーンアツセィ法によるヒ卜 IFNァゴニス卜活性測定
ヒト肝癌由来培養細胞 HuH-7 (国立衛生試験所)に IFN刺激応答因子の下流にル シフェラ一ゼ遺伝子を有するプラスミド pISRE_Luc(Stratagene)を導入した形質 転換細胞を用いて、 未精製抗体の IFNァゴニスト活性 (Relative Luciferase
Uni t :RLU)を調査した。 活性測定はルシフェラ一ゼ定量システム Bright-Glo™ Luci ferase Assay System (Pr omega)を用いて添付マニュアル記載の方法に従い行 なった。 陽性対照として、 ヒト IFN o! (rhIFN- aA, CALBIOCHEM)を用いた。 結果 を図 1に示す。 誘導型べクタ一で時間差誘導発現をかけたもの(3- 3, 4-4, 5-3, および 7-4)は、 誘導型ベクターで全てを同時に誘導発現かけたもの(2-3)に対し 5倍から 1 0倍の比活性上昇が認められた。 すなわち、 時間差で各 HL分子を発 現させることで、 目的外の組合せの余計な IgGの生成割合が抑えられた結果、 比 活性が上昇した可能性が強く示唆された。 4. サンドイッチ ELISA法による目的抗体発現量の解析
96- wel l Ni-NTA HisSorb Plate (QIAGEN)へ、 Hisタグ標識された各受容体 (ARl-Hisないし AR2- His)を Di luent buf fer (D. B. )にて 500ng/mlに希釈したも の 100 lを添加し一晩 4°Cで吸着させた。 一旦上清を吸引除去した後、
SuperBlock™ Blocking Buf fer in TBS (PIERCE) 200 i lを添加し、 室温 60分 ブロッキング処理した。 3回洗浄した後、 D. B.で希釈した精製抗体 (31. 25〜
500ng/ml)を添加し、 室温 60分インキュベートした。 抗体としては、 一つはトラ ンスフエクシヨン後同時にテトラサイクリンとボナステロン Aにて誘導発現させ たもの (同時誘導) 、 もう一つはテトラサイクリンで 1日誘導かけた後にボナス テロン Aで 2日誘導発現させたもの (時間差発現) を用いた。 3回洗浄した後、 それぞれに対応するピオチン化 2次抗原 (すなわち AM- Hisに対しては AR2 - biot in、 AR2- Hisに対しては ARHDiot in) を D. B.にて 500ng/mlに希釈したもの 100 1を添加し、 室温 60分ィンキュペートした。 3回洗浄した後、 D. B.で 3000 倍に希釈された AP-s terptavidine (ZYMED)を添加し、 室温 60分インキュベート した。 5回洗浄した後、 Sigma 104(R) phosphatase substrate (Sigma
Chemical )を基質として発色させ、 吸光度リーダー Mode 1550 (Bio-Rad
Laboratories)により、 参照波長 655 nmとして 405 nmの吸光度を測定した。
その結果、 ELISA 2種類の方策 (AR1- His+抗体 +AR2- biot inおよび AR2- His+抗 体 +AR卜 biot in) 双方において時間差で各 HL分子を発現誘導させた方が、 両 HL 分子を同時に発現させる方法よりも単位抗体量あたり約 2倍強高い結合度を示し、 目的型抗体比率の優位性を示唆した (図 2参照) 。 産業上の利用の可能性
本発明は、 複数の抗体または抗体断片を結合する多重特異性抗体の製造におい て目的とする型の抗体を優先的に製造する方法を提供するものである。 より詳細 には、 例えば二特異性抗体 (BsAb)の製造において、 本発明の方法を採用すること により、 第一の重鎖と結合していない第一の軽鎖と第二の軽鎖と結合していない 第二の重鎖の接触、 及び、 第一の軽鎖と結合していない第一の重鎖と第二の重鎖 と結合していない第二の軽鎖の接触を阻害し、 目的型 BsAbを効率的に産生する ことができる。 即ち、 本発明の多重特異性抗体の製造方法により、 製造される抗 体組成物中に含まれる正しい重鎖と軽鎖の対から形成されている抗体の割合を高 め、 免疫診断、 治療及び免疫学的検定による診断等の臨床分野において有用な多 重特異性抗体の比活性を増加させることができる。