明細書
凝集抑制作用を有するシヌクレイン変異体 技術分野
本発明は、 新規なヒト αシヌクレイン変異体に関する。 背景技術
ひシヌクレインは 140残基からなる熱に安定な蛋白質である。 パーキンソン病 患者脳の Lew小体に aシヌクレイン凝集物の蓄積がみられる事から、 多くの神 経変性疾患と同様、 異常蛋白質の蓄積と神経細胞死との関連性が注目されている。 ひシヌクレインは生体内では特定の立体構造をとらず、 natively unfolded protein familyに属するとされている。
aシヌクレインは一次構造上 3つの領域に分けられ、 その内中央領域を構成す る 35 アミノ酸残基が、 アルツハイマー病患者脳に見られる老人斑の第二の構成 成分 AC (Non-amy Ιοϊάβ component of Alzheimer s disease amyloid)でめり、 シ一ト形成能が高く、 凝集に特に深く関わる領域である事実が示されてきた (Ueda K, Fukushima H, Masliah E, Xia Y, Iwai A, Yoshimoto M, Otero DA, Kondo J, Ihara Y, Saitoh T. Proc. Natl Acad Sci U S A. 1993 ;90 (23) :11282-6., Iwai A, Yoshimoto M, Masliah E, Saitoh T., Biochemistry. 1995 ;34(32) :10139-45., Han H, einreb PH, Lansbury PT Jr. Chem Biol. 1995 (3) :163-9. ) 。
また、 NAC領域よりも上流の位置において、 家族性パーキンソン氏病にみられ る遺伝性点変異、 Ala50Proおよび Ala53Thrによりシヌクレインの凝集が促進さ れる事が示唆されている (Linda Narhi, Stephen J. Wood, Shirley Steavenson, Yij ia Ji ng, Gay May Wu, Dan Anaf i, Stephen A. Kaufman, Francis Martin, Karen Sitney, Paul Denis, Jean-Claude Louis, Jette Wypych, Anja Leona Biere, and Martin Citron, J. Biol. Chem. , 1999; 274: 9843 - 9846., Rochet J-C, Conway LA, Lansbury P.T, Biochemistry (2000) 39, 10619-626., Conway K. A, Harper J. D, Lansbury P.T, Nature Medicine (1998) 4, 1318-1320., Li. J., Uversky V. N, Fink A.L, Biochemistry (2001) 40, 11604-613) 。 しか し、 これまで系統的な変異ひシヌクレイン構築に基づく蛋白質化学的解析による
同分子の凝集 ·線維化機構の解明は行われていない。
本発明は、 野生型ヒト Q!シヌクレインの凝集を抑制する作用を有する変異ヒト aシヌクレインを提供することを目的とする。 発明の開示
本発明者は、 シヌクレインの凝集に関与する可能性のあるアミノ酸残基を 種々検討した結果、 凝集形成能の低下したヒト αシヌクレイン変異体を発見する ことに成功して本発明を完成した。
すなわち、 本発明は、 凝集形成能が低下している変異ヒト αシヌクレインを提 供する。 特に、 本発明は、 野生型ヒト シヌクレインのアミノ酸配列 (配列番号 1 ) において、 以下の少なくとも 1つのアミノ酸残基が置換されている配列を有 する、 変異ヒト ο;シヌクレインを提供する: 6 8番目のグリシン; 6 9番目のァ ラニン; 7 0番目のパリン; 7 1番目のバリン; Ί 2番目のトレオニン; 7 4番 目のパリン; 7 7番目のパリン;および 8 2番目のパリン。
好ましくは、 本発明の変異ヒト αシヌクレインは、 配列番号 1に記載のァミノ 酸配列において、 以下に挙げるアミノ酸置換の少なくとも 1つを含有する: 6 8 番目のグリシンをトレオニンまたはバリン; 6 9番目のァラニンをトレオニンま たはバリンまたはリジン; 7 0番目のバリンをトレオニンまたはプロリンまたは フエ二ルァラニン; 7 1番目のバリンをトレオニンまたはリジン; 7 2番目のト レオニンをパリンまたはグルタミン酸; 7 4番目のバリンをトレオニン; 7 7番 目のバリンをトレオニン;および 8 2番目のバリンをリジン。 また好ましくは、 本発明の変異ヒトひシヌクレインは、 配列番号 1に記載のアミノ酸配列において、 Al a69Lys I Val70Thr I Val71Lys I Thr72Glu の 4箇所のアミノ酸残基の置換を 有する。 また好ましくは、 本発明の変異ヒトひシヌクレインは、 配列番号 1に記 載のアミノ酸配列において、 Ala69Lys I Val 70Thr I Val 71Lys I Thr72Gluおよ び Val 82Lysの 5箇所のアミノ酸残基の置換を有する。
別の観点においては、 本発明は、 上述の本発明の変異ヒト αシヌクレインをコ ードする遺伝子、 該遺伝子を導入した組み換えプラスミド、 および該組み換えプ ラスミドにより形質転換された形質転換体を提供する。
本発明はまた、 変異型ヒトひシヌクレインの製造方法であって、
(a) 請求項 6に記載の遺伝子をプラスミドに導入して組み換えプラスミドを調製
し、
(b) (a)の組み換えプラスミドを用いて宿主を形質転換して形質転換体を調製し; そして
(c) (b)の形質転換体を培養して変異型ヒト αシヌクレインを産生させる, の各工程からなる方法を提供する。
さらに別の観点においては、 本発明は、 以下のアミノ酸配列:
Gln-Val-Thr-Asn-Val-Gly-Gly-Al a-Thr-Thr-Thr-Gly-Val-Thr-Al a-Val-Al a-Gln (配列番号 2 2 )
のうち 1 0またはそれ以上の連続するアミノ酸配列を有するペプチドを提供する。 好ましくは、 本発明のペプチドは、 以下のアミノ酸配列:
Va 1 -Gl y-G 1 y-Al a-Thr-Thr-Th r-Gly-Va 1 -Thr (配列番号 2 3 )
を有する。
また別の観点においては、 本発明は、 野生型ヒト シヌクレイン、 .Al a53Thr 変異ヒト シヌクレインまたは Al a50Pro変異ヒト シヌクレインの凝集を抑制 するための組成物であって、 上述の本発明の変異ヒト αシヌクレインまたは本発 明のペプチドを含むことを特徴とする組成物を提供する。 本発明はまた、 細胞、 組織または生物において、 野生型ヒト αシヌクレイン、 Al a53Thr 変異ヒト シ ヌクレインまたは Al a50Pro変異ヒト αシヌクレインの凝集を抑制する方法であ つて、 細胞、 組織または生物を、 上述の本発明の変異ヒトひシヌクレインまたは 本発明のぺプチドと接触させることを含む方法を提供する。 図面の簡単な説明
図 1は、 野生型および Α53Τ変異型 aシヌクレインの線維形成の時間変化を示 す (WT;野性型《シヌクレイン、 A53T; Al a53Thr変異 αシヌクレイン、 Α30Ρ; Al a30Pro 変異ひシヌクレイン) 。
図 2は、 野生型および本発明の変異型 aシヌクレインの線維形成の時間変化を 示す (WT;野性型 αシヌクレイン、 V70T; Val 70Thr 変異 αシヌクレイン、 V70P; Val 30Pro変異 αシヌクレイン、 V70T/V71T; Val 70Thr/Val 71Thr二重変異 シヌクレイン) 。
図 3は、 野生型および変異型 シヌクレイン、 ならびに野生型または A53T変 異型 0!シヌクレインと本発明の変異型ひシヌクレインとの混合試料について、 凝
集塊形成を評価したグラフである(be f ore :初期値, af ter 145hr後、 WT;野性型、 V70P; Val 70Pro 変異型、 V70T/V71T; Val 70Thr/Val 71T r 二重変異、 A53T; Al a53Thr変異、 WT x V70T/V71T;野性型と Val 70Thr/Val 71Thr二重変異との混 合試料、 A53T X V70T/V71T ; Al a53Thrと Val 70Thr/Val 71Thr二重変異との混 合試料) 。
図 4は、 野生型および変異型ひシヌクレイン、 ならびに野生型または A53T変 異型 シヌクレインと本発明の変異型ひシヌクレインとの混合試料について、 線 維形成の時間変化を示すグラフである (WT X V70T/V71T:野性型 シヌクレイン と Val 70Thr/Val 71Thr 二重変異 aシヌクレインとの混合試料、 A53T x V70T/V71T: Al a53Thr変異 αシヌクレインと Val 70Thr/Val 71Thr二重変異 αシヌ クレインとの混合言式料) 。 発明の詳細な説明
本発明の変異型ヒト シヌクレインは、 野生型ヒト シヌクレインをコードす る遺伝子から遺伝子工学的手法を用いて製造することができる。 野生型ヒト αシ ヌクレインのアミノ酸配列およびこれをコ一ドする遺伝子の配列を、 それぞれ配 列番号 1および 2に示す。
これにはまず部位特異的変異法をもちいて野生型ヒトひシヌクレインをコード する遺伝子の変異目的部位の塩基配列を、 目的とするアミノ酸残基に対応する塩 基配列に変更して、 変異型のヒト シヌクレイン遺伝子を調製する。 この部位特 異的変異法は、 野生型の遺伝子 DNAが組み込まれたプラスミドの一本鎖 DNAを铸 型にして、 変異させようとする塩基配列を含む合成ォリゴヌクレオチドをプライ マーとして変異型の遺伝子を合成するものであり、 各種市販キットを用いて合成 することができる(TAKARA Mutan expres s Kmなど)。
本発明においては、 野生型のヒトひシヌクレイン遺伝子の一本鎖とァニーリン グ可能であるが置換しょうとする目的部位に対応する塩基配列が相違するオリゴ ヌクレオチドを化学合成し、 この合成ォリゴヌクレオチドをプライマ一とし、 か っ該野生型のヒトひシヌクレイン遺伝子が組み込まれたプラスミドの一本鎖 DNA を铸型として、 変異型のヒト αシヌクレイン遺伝子を合成することができる。 次いで、 変異型ヒト シヌクレインをコードする遺伝子を発現ベクター系に揷 入して、 発現用宿主べクタ一系を構築する。 本発明において用いられる宿主とし
ては、 例えば大腸菌、 酵母、 枯草菌などが挙げられるが、 特にこれらに限定され るものではない。
また、 本発明のペプチドは、 慣用の固相または液相のペプチド合成技術により 製造することができる。
本発明の変異型ヒトひシヌクレインの凝集形成能は、 アミロイドをはじめとす る蛋白質凝集にもとづく線維形成観測において一般的に用いられている方法によ り測定することができる。 例えば、 aシヌクレインを約 2 mg/ml になるように 調製して、 37°Cでインキュベーションし、 一定時間ごとにァリコ一トを採取する。 この採取した試料に対して、 線維構造に特異的に結合する蛍光色素チオフラビン T (T f T) を終濃度 2 5 Mで含む 1 O mMT r i s _ H c l、 p H 7 . 4の 緩衝液溶液に加え 1 0 0 X 1として、 直ちに蛍光スぺクトルを観測する (Ex 440nm, Em 450-550nm) 。 T f Tの蛍光強度の増加を追跡することにより、 線維 形成速度を測定することができる。
また、 本発明の変異型ヒト シヌクレインならびに本発明のぺプチドが野生型 αシヌクレインまたは家族性パーキンソン氏病患者で見出された 2種の変異ひシ ヌクレイン、 Al a30Proおよび Ala53Thrの凝集形成を抑制する能力は、 これらの ヒトひシヌクレインと本発明の変異型ヒトひシヌクレインを混合した試料を用い て、 上述のように線維形成速度を測定し、 その変動を定量することにより測定す ることができる。
このようにして開発した変異ヒト シヌクレインおよびペプチドを用いて、 パ 一キンソン氏病に代表されるレビ一小体が沈積する神経変性疾患であるシヌクレ ォパシーの進行の抑制が期待される。 具体的には、 本発明の変異ヒト シヌクレ インあるいはペプチドを直接患部に投与する方法、 これらの構造遺伝子を含む発 現ベクターにより恒常的あるいは一過性として患部で発現させる方法、 さらにこ れらの変異ヒトひシヌクレインあるいはペプチドに Protein Transduct ion Domain (PTD)とよばれる細胞透過性を付与するペプチド残基を遺伝子的あるいは 化学的に結合させることにより、 患部近傍に投与 ·吸収させる方法によりその治 療効果が期待される。
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て 本明細書の一部としてここに引用する。 また, 本出願が有する優先権主張の基礎 となる出願である日本特許出願 2 0 0 3 - 2 0 2 6 9 9号の明細書および図面に
記載の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。 実施例
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが, これらの実施例は本発明 の範囲を制限するものではない。 実施例 1
変異ヒト シヌクレイン遺伝子の作成
ヒトひシヌクレイン遺伝子のクローニング
大腸菌発現べクタ一として PTYB1 を利用した。 Ndel サイトをデザインしたプ ライマーと、 Kpnl サイトとインティンの構造遺伝子の塩基配列を一部含むよう にデザインしたプライマー を用いて、 ヒト骨髄 cDNA ライブラリ一 (Human Bone Marrow) に対して PCR を行い、 ヒト由来ひシヌクレインの構造遺伝子を増 幅した。
PCR forwardプライマ一:
5 ' -CGC CAT ATG GAT GTA TTC ATG AAA GGA CTT TCA AAG G-3 ' (配列番号 3 ) PCR reverse プライマ一:
5 ' -GGT ACC CTT GGC AAA GCA GGC TTC AGG TTC GTA GTC TTG ATA-3 ' (配列番 号 4 )
PCRの反応条件は変性 : 95°C (1 分間)、 アニーリング: 55°C a 分間)、 伸長: 72°C (1分間)で 35サイクリレ行った。 PCR産物をァガロースゲルで電気泳動にかけ た後、 ジ一ンクリーン Πキット (Bi o 1 0 1 社) を用いて DNAを精製した。 これを pGEM- Tにサブクロ一ニングした。 このプラスミドを大腸菌 DH5 a - MCRに 形質転換し、 LB/ アンピシリン(100 g/ml) / IPTG (0. 5mM) / X- Gal (80 g/ml)の プレートにてカラーセレクションを行った。 得られたホワイトコロニーを培養後、 プラスミドを抽出し、 DNA シークェンスの解析を行った。 αシヌクレインの構造 遺伝子の挿入が確認できたプラスミドを持つコロニーを再び培養し、 抽出したプ ラスミドを Nde\、 Kpnlで制限酵素消化した。 得られた DNA断片を上記同様に精 製した。 これを同様の制限酵素で調製した発現ベクター pTYBl にクローニングし、 シヌクレインの C末端にィンティン〜キチン結合ドメインが連結された融合蛋 白質を発現させるためのベクタ一、 pTYBl/ひ- synを構築した。
このプラスミドを大腸菌 DH5 a- MCRに形質転換、 培養後、 プラスミドを抽出し、 DNAシークェンスの解析を行い変異の入っていないことを確認した。 部位特異的変異導入
クローニングベクター pGEM-T に αシヌクレイン遺伝子を挿入したプラスミド に対し、 Nco\および /Ιサイトをデザインしたプライマーを用いて PCRを行い、 シヌクレイン遺伝子断片を増幅した。
PCR forwardプライマー 1: Ncolサイトをデザインしたプライマー
5, -CCA TGG ATG TAT TCA TGA AAG GAC TTT CAA AGG CCA-3' (配列番号 5 ) PCR reverse プライマー 2: Ιサイトをデザインしたプライマ一
5, -CCT GCA GTA TTT CTT AGG CTT CAG GTT CGT AGT CTT G-3 ' (配列番号 6 ) 増幅斬片を TAクローニングした後、 Nco\および による制限酵素消化に より切り出し、 同様に処理した発現用ベクター pTrc99A にライゲーシヨンさせ pTrc99A/ a syn を作成した。 このプラスミドに対し、 および &wl サイトをデザインしたプライマ一を用いて PCRを行い aシヌクレイン遺伝子断片 を増幅した。
PCR forwardプライマ一 3 : EMl U-JVdelサイトをデザインしたプライマ一 5 ' - CCAAGCTTCATATGGATGTATTCATGAAAGGACTTT- 3 ' (配列番号 7 )
PCR reverse プライマー 4 : サイトをデザインしたプライマ一
5 ' - GGT ACC CTT GGC AAA GCA GGC TTC AGG TTC GTA GTC TTG ATA -3 ' (配列 番号 8 ) ,
増幅断片を ΤΑクローニングした後、 ndl l lおよび wIによる制限酵素消化 により切り出し、 同様に処理した変異導入用ベクター pKF19k とライゲ一シヨン させて pKF19k/ o; syn を得た。 これを大腸菌 DH5ひに形質転換した後にプラスミ ドを抽出し、 遺伝子配列を確認した。 以下に示す変異導入用オリゴヌクレオチド を用いて、 TAKARA Mutan Super Express Kmキットによりひシヌクレイン遺伝子 に変異導入をおこなって、 それぞれの変異体遺伝子配列を含むプラスミド (以下、 pKF19k/変異 Qi syn と総称する) を得た。 また、 2以上の変異を導入する場合に は、 これらのォリゴヌクレオチドを適宜組み合わせた。 これを大腸菌 MV1 18 株 に形質転換し、 変異導入をシークェンス解析により確認した。
変異導入用オリゴヌクレオチド:
G68T 5' -CAAATGTTGGAACAGCAGTGGTGAC- 3, (配列番号 9)
G68V 5' -CAAATGTTGGAGTGGCAGTGGTGAC- 3' (配列番号 10)
A69T 5' -GTTGGAGGAACAGTGGTGACGGG- 3' (配列番号 11 )
A69V 5' -GTTGGAGGAGTGGTGGTGACGGG- 3' (配列番号 12)
V70T 5 ' -GGAGGAGCAACAGTGACGGGTG-3 ' (配列番号 13)
V70P 5 ' -GGAGGAGCACCTGTGACGGGTG-3 ' (配列番号 14)
V70F 5' -GGAGGAGCATTTGTGACGGGTG-3' (配列番号 15)
V70T/V71T
5' -CAAATGTTGGAGGAGCAACAACAACGGGTGTGACAGCAG-3' (配列番号 16')
T72V 5 ' -GAGCAGTGGTGGTGGGTGTGACAG-3 ' (配列番号 17)
V74T 5' -GGTGACGGGTACAACAGCAGTAG-3' (配列番号 18)
V77T 5' -GTGTGACAGCAACCGCCCAGAAGAC-3' (配列番号 19)
V82K 5' -CCCAGAAGACAAAAGAGGGAGCAGG-3' (配列番号 20)
A69K I V70T I V71K I T72E
5 ' -GTGACAAATGTTGGAGGAAAAACAAAAGAAGGTGTGACAGCAGTAGCC-3, (配列番号 21 ) 変異 シヌクレイン生産用ベクタ一の構築
各 pKF19k/変異 Q!synプラスミドを Nde\およぴ 1にて制限酵素消化し、 同 様に処理したインティン融合発現べクタ一 PTYB1 とライゲーシヨンさせて、 それ ぞれの変異 Kシヌクレイン生産用ベクター (以下、 pTYBl/変異 a syn と総称す る) を構築し、 野生型と同様に大腸菌 DH5o!- MCRに形質転換した。 実施例 2
変異シヌクレインの製造
坂口フラスコを用い、 450ml の LB培地(アンピシリン終濃度 100 g/ml)で 37°C、 ー晚振とう培養した pTYBl/変異ひ- synをもつ大腸菌 ER2566をフアーメン タ一中の LB培地(7L、 エイノール (消泡剤) lml、 を含む)に植菌した。 エアレ一シ ヨン 7L/minで、 37 で培養を開始し、 0D6。。が 0.5〜0.8 に達した段階で終濃度 0.3mM となるように IPTG を添加して、 インティン〜キチン結合ドメイン融合 α シヌクレインの発現を誘導した。 誘導開始後、 温度を 15°Cに下げ、 さらに 16時 間培養を行った。 培養した菌体を遠心分離(5000g、 4°C、 10 分)で集菌し、 さら に得られた菌体を 0.85 NaCl溶液で 2回洗浄した。
精製方法
培養後、 集菌、 洗浄して得られた菌体を 20mM Tris-HCl (pH8.0) , lmM EDTA, 50mM NaCl に懸濁後、 フレンチプレス(llOMPa)で破砕し遠心分離(20, 000 X g, 4°C, 30 分)を行った。 あらかじめ 20mM Tris-HCl ( pH8.0), lmM EDTA, 500mM NaCl で平衡化しておいたキチンカラム(volume; 約 10ml)に、 遠心後得られた上 清を流した。 その後、 20mM Tris-HCl ( pH8.0), lmM EDTA, 1M NaCl, 0.1% Tween 20をカラムの 10倍量使い、 未吸着蛋白質を洗い流した。 続いて 20mM Tris-HCl (pH 7.4)を 30ml流しカラムの塩濃度を下げ、 20mM Tris-HCl (pH 7.4),50mM DTT を 30ml流した状態で、 4°C下に 16時間放置してインティンの自己分解反応をさ せた。 その後、 20mM Tris-HCl (pH 7.4)を 30ml流し、 得られたサンプルを 20mM Tris-HCl (pH 7.4)に対して三回透析を行い、 最後に非還元 SDS- PAGEにより精製 の確認を行った。 実施例 3
CDスぺクトルによる aシヌクレインの構造変化の観測
精製された αシヌクレインを約 100 /g/mlになるように調製して、 温度変化に おけるひシヌクレインの構造変化を CDスぺクル測定により観察した。 温度変化 は 3-90°Cで、 低い温度から順に 3°C、 15°C、 25° ( 、 40°C、 60°C、 90°Cにてスぺク トルの測定を行った。 また各温度において任意の時間に複数回スペクトラムを測 定し、 その温度における熱が十分ひシヌクレインに伝わり、 構造状態が一定とな つていることを確認した。 そののちに、 蛋白質溶液由来の CDスペクトラムとし て決定した。 この蛋白質溶液由来の CDスペクトルから、 蛋白質が溶解している 緩衝液(20mM Tris-HCl (pH 7.4), 50mM NaCl)由来の CDスぺクトルを差し引き、 コンピュータープログラムによりスムージングを行った。 その結果、 変異ひシヌ クレインは野生型 αシヌクレインと比較して凝集形成能が低下していた。 実施例 4
蛍光プローブによる構造変化の観測
精製された αシヌクレインを約 lOO^g/mlになるように調製して、 温度変化に おけるひシヌクレインの構造変化を 20 Mチォフラビン T,または 50 8 -ァニ リノ -卜ナフタレンスルホン酸 (ANS) を加えチオフラビン Tの場合は Ex 440nm,
Em 450- 550亂 ANS の場合は Ex 380nm, Em 400- 600雇での蛍光スぺクル測定に より観察した。 温度変化は 3-90°Cで、 低い温度から順に 3°C、 15° (:、 25°C、 40°C、 60°C、 90°Cにてスペクトルの測定を行った。 また各温度において任意の時間に複 数回スぺクトラムを測定し、 その温度における熱が十分 aシヌクレインに伝わり、 構造状態が一定となっていることを確認した。 そののちに、 蛋白質溶液由来の蛍 光スペクトラムとして決定した。 この蛋白質溶液由来の蛍光スペクトルから、 蛋 白質が溶解している緩衝液(20 M Tr i s-HCl (pH 7. 4) , 50mM NaCl)由来の蛍光ス ぺクトルを差し引き、 コンピュータープログラムによりスムージングを行った。 その結果、 変異 αシヌクレインは野生型 αシヌクレインと比較して凝集形成能が 低下されていた。 実施例 5 '
変異ひシヌクレインの凝集塊ならびに線維形成の解析
精製された野性型ならびに本発明にて構築した変異 αシヌクレイン、 および家 族性パーキンソン氏病患者で見出された 2種の変異ひシヌクレイン、 Al a30Pro および Ma53Thrを約 2 mg/mlになるように調製して、 37°Cでインキュベーショ ンした。 一定時間ごとにそれぞれ 1 0 ^ 1ずつ採取した。 この採取した試料に対 して、 線維構造に特異的に結合する蛍光色素チオフラビン T (T f T) を終濃度 2 5 Mで含む 1 O mMT r i s—H e 1、 p H 7 . 4の緩衝液溶液に加え 1 0 0 1として、 直ちに蛍光スペクトルを観測した (Ex 440nm, Em 450-550ηι) 。 線維形成速度ならびにその量は T f Tの蛍光強度の増加を指標に観測した。 この 方法はアミロイドをはじめとする蛋白質凝集にもとづく線維形成観測において一 般的に用いられている方法である。
家族性パ一キンソン氏病患者で見出された 2種の変異ひシヌクレイン、 Al a30Proおよび Ala53Thrは試料インキュべ一ション直後から、 また野性型 αシ ヌクレインでは約 1 2時間後から蛍光強度が顕著に増加し、 線維形成が観測され た。 その後、 この 3種の αシヌクレインの線維形成は進み、 蛍光強度 5 0を超え る多量の線維形成が観測された。 その結果を図 1に示す。 これに対し、 本発明に より構築された変異 シヌクレインである Va OThr, Val 70Pro および同時に 2箇所にアミノ酸置換が施された Val 70Thr/Val 71Thr は線維形成能力が低下し ていた。 すなわち図 2に示すように、 Val 70Thr, および Val 70Pro変異 シヌク
レインの線維形成速度は野性型の約 5 0 %以下であった。 また最終的な線維形成 量は Val70Thrでは野性型の約 5 0 %、 Va OProでは約 2 0 %であった。
また、 V74T、 V77T、 V82K、 ならびに A69K I V70T I V71K / T72E の 4箇所が 置換されたひシヌクレインおよび A69K I V70T I V71K I T72E I V82Kの 5箇所 が置換された αシヌクレインは、 いずれも Val 71Thr の線維形成能力と同程度の 線維形成能力を示した。 その線維形成能力は野生型ひシヌクレインの線維形成能 力と比べ、 速度、 最終到達量は約 5 0 %程度であった。
さらに驚くべきことに 2箇所の変異が施された Val70Thr/Val 71Thrの線維形成 はほとんど観測されなかった。 1 0 0時間後の線維形成量は野性型の 1 0 %以下 であった。 このように、 これらの変異 aシヌクレインは野生型 aシヌクレインと 比較して線維形成能が低下していた。
またこの実験において溶液に形成されている シヌクレイン凝集塊の総量 (線 維および非線維成分の和) を溶液の濁度を 3 3 ,0 nm の散乱により計測すること で評価した。 その結果を図 3に示す。 野性型ではインキュベーション前に比較し て凝集塊が顕著に形成されていることが観測される。 さらに家族性パーキンソン 氏病患者で見出された変異 aシヌクレイン Ala53Thr では野性型よりも多くの凝 集塊が形成されていることが観測された。 これに対して、 本発明により構築され た変異 シヌクレインである Val70Pro および同時に 2箇所にアミノ酸置換が 施された Va 0Thr/Val 71Thr は凝集塊形成能力が低下していた。 すわわち、 Val70Pro変異ひシヌクレインの凝集塊の量は野性型の約 8 0 %以下であった。 さらに驚くべきことに二箇所の変異が施された Val 70Thr/Val 71Thrの凝集塊の量 は野性型の約 1 5 %であった。 このように、 これらの変異ひシヌクレインは野生 型 αシヌクレインと比較して凝集形成能が低下していた。 実施例 6
変異ひシヌクレインによる野性型ならびに家族性パーキンソン氏病患者で見出さ れた変異 シヌクレイン Ala53Thrの凝集塊および線維形成の抑制
精製された野性型ならびに本発明にて構築した 2 箇所の変異が施された Val70T r/Val71Thr変異ひシヌクレイン 1 m g /m 1と、 野性型あるいは家族性 パーキンソン氏病患者で見出された変異 aシヌクレイン Al a53Thrを l mg/mlに なるように混合し、 総蛋白質濃度 2 m g/m lに調製して、 37°Cでインキュべ一
シヨンした。 一定時間ごとにそれぞれ 1 0 x 1ずつ採取した。 この採取した試料 に対して、 線維構造に特異的に結合する蛍光色素チオフラビン T (T f T) を終 濃度 2 5 Mで含む 1 O mMT r i s—H e 1、 p H 7 . 4の緩衝液溶液に加え 1 0 0 1として、 直ちに蛍光スぺクトルを観測した (Ex 440nm, Em 450- 550ηι) 。 線維形成速度ならびにその量は T f Tの蛍光強度の増加を指標に観測 した。
その結果、 野生型ひシヌクレインおよび家族性パ一キンソン氏病患者で見出さ れた変異ひシヌクレイン Al a53Thr が含まれているにもかかわらず、 T f Tを指 標とする線維形成はほとんど観測されなかった。 野性型単独でィンキュベーショ ンした場合には約 4 8時間後に最大線維形成量に到達するのに対して、 野性型 α シヌクレインと Val70Thr/Val 71Thrを混合した試料においては、 同時間ではまつ たく線維は形成されていなかった。 1 0 0時間のィンキュベーション後において も野性型単独でインキュベーションした場合の約 1 5 %以下であった (図 4 ) 。 さらに家族性パーキンソン氏病患者で見出された変異ひシヌクレイン Ala53Thr 単独でィンキュベーションした場合にはィンキュベ一ション直後から急激に線維 が形成され、 同じく 48時間後には最大線維形成量に到達するにもかかわらず、 家族性パーキンソン氏病患者で見出された変異 αシヌクレイン Al a53Thr と本発 明にて構築した二箇所の変異が施された Val70Thr/Val71Thrとを混合した試料に おいては、 1 2 5時間インキュベーション後もまったく線維は形成されていなか つた。
このように、 本発明にて構築した変異 Q!シヌクレインは野生型 0!シヌクレイン および家族性パーキンソン氏病患者で見出された変異 シヌクレインの線維形成 を抑制することが示された。 またこの実験において溶液に形成されているひシヌ クレイン凝集塊の総量 (線維および非線維成分の和) を溶液の濁度を 3 3 O nm の散乱により計測することで評価した (図 3 ) 。 その結果、 野性型単独あるいは 家族性パーキンソン氏病患者で見出された変異ひシヌクレイン Al a53Thr単独で は多くの凝集塊が形成されていることが観測されるのに対して、 本発明にて構築 した二箇所の変異が施された Val 70Thr/Val 71Thrと混合した試料においては、 野 性型および Al a53Thr のいずれと混合した系において、 凝集塊の形成が大幅に減 少していた。 このように、 本発明にて構築した変異ひシヌクレインは野生型 シ ヌクレインおよび家族性パーキンソン氏病患者で見出された変異ひシヌクレイン
の凝集塊形成能力を抑制することが示された。
これは本発明によって構築された変異ひシヌクレインが、 αシヌクレインの線 維および凝集塊形成によって引き起こされるパーキンソン氏病に代表される各種 シヌクレオパシー神経変性疾患の有効な治療薬であること、 ならびに新たな治療 薬の開発のための重要な分子であることを示している。 実施例 7
部分構造べプチドによる野性型 aシヌクレインの線維形成の抑制
精製された野生型の a;シヌクレイン 2 mg/m 1の溶液に、 NH2_Va Gly- G 1 y-Al a-Thr-Th r-Thr-G 1 y-Va 1 -Th r-COOHである 10残基からなる合成 αシヌク レイン部分構造ペプチドを 0. 2mgZml溶解し、 37°Cでインキュベーション した。 一定時間ごとにそれぞれ 10;½ 1ずつ採取した。 この採取した試料に対し て、 線維構造に特異的に結合する蛍光色素チオフラビン T (T f T) を終濃度 2 5 /Mで含む 1 OmMT r i s— He 1、 pH7. 4の緩衝液溶液に加え 100 II 1として、 直ちに蛍光スペクトルを観測した (Ex 440nm, Em 450-550nm) 。 線 維形成速度ならびにその量は T f Tの蛍光強度の増加を指標に観測した。
その結果、 シヌクレイン部分構造べプチドは野生型ひシヌクレインの線維形 成能力を約 20 %低下させることができ、 このべプチドが抗線維形成能力を有す ることが示された。 産業上の利用性
凝集形成能が低下した本発明の変異ヒトひシヌクレインは、 パーキンソン氏病 病因の検討および治療、 ならびに遺伝子治療法開発研究において有用である。