発根ゴマ抽出物及び毛髪用化粧料 技術分野
本発明は、 毛髪の白髪化を予防あるいは改善する白髪予防改善剤を含む毛髪化 粧料及び医薬組成物又は育毛剤に関する。 背景技術 明
ヒ トの頭皮は、 日光、 紫外線、 温度変化、 化学物質、 細菌汚染などの多くの環 境ス ト レスに曝されている。 また解剖学的に書は、 精神的緊張に伴って帽状腱膜
(galea aponeurotica) が頭蓋骨に圧着されて頭皮の緊張が高まり、 これが頭皮 血管を圧迫して血流量低下を来たす説も唱えられている。 いずれにしてもこのよ うなス トレスは、 頭皮を構成する細胞に対して抑制的にはたらき、 細胞が蛋白を 合成してその立体構造を完成させるなどの正常機能が弱体化する。 ヒ ト頭皮の毛 包組織は、 外毛根鞘、 内毛根鞘、 毛母細胞、 毛包メラノサイ ト、 毛乳頭、 皮脂腺 などから構成された複雑な組織であり、毛髪を生産する臓器とも解釈されている。 そのうち、毛包メラノサイ ト hair-follicular melanocyteは、毛母細胞が集団を作 つている毛球部 hair bulbの中で、 毛乳頭との境界部付近に多く認められ、 その 樹状突起を毛母細胞の集団内に伸ばしている。 毛包メラノサイ トでは、 細胞質内 のメラノソームがメラニンを合成し、 そのメラノソームを毛母細胞に供給してい る。 この毛母細胞が毛髄ゃ毛皮質へと分化することにより、 メラニンを含んだ毛 髪が完成する。 毛包メラノサイ トは、 毛周期 hair cycleに連動して毛包メラノサ ィ ト周期 hair-follicular melanocyte cycleを繰り返す。 すなわち、 毛周期退行期 では、 毛包メラノサイ トも退行期に入り、 成熟型のメラノソームは消失し、 少数 の未熟なメラノソームを含むのみである。 毛周期休止期では、 毛髪の根元は、 角 化が進んでクラブ型に膨らむ。 この時期では、 毛母細胞も毛包メラノサイ トも、 また毛乳頭も消失する。
又毛髪の色は、 前術したとおり毛包メラノサイ ト内のメラノソームの成熟度、
メラノソームが合成するメラニンの種類や質や量、 メラノソームの毛母細胞への 移行度、 毛皮質細胞やその角化層におけるメラノソームの分布密度、 形態、 崩壊 の有無などに依存する。 メラノソームが合成するメラニンは、 黒色のユウメラ二 ン eumelanin (真性メラニンともいう) と黄褐色のフエオメラニン pheomelanin (仮性メラニンともいう) に大別される。 黒色の髮ではユウメラニンが主体をな し、 金髪 blondではフエォメラニンが主体をなし、 褐色髮などでは両メラニンが 混在する。
日本人の黒い毛髪は、毛母細胞と共存している毛包メラノサイ トがメラニン(正 確にはユウメラニン (eumelanin) ) を合成し、 これを毛母細胞に供給し、 この毛 母細胞がメラ二ン含有の毛皮質細胞に分化することにより完成する。 加齢と共に 起こる白髪については、 薄毛や禿とならんで一般の関心が高いが、 その成因につ いては不明の点も多い。 細胞レベルでは、 白髪は、 毛根部に存在する毛包メラノ サイ トの機能低下あるいは細胞死 (アポトーシス) によりメラニン供給が停止し たため起こるのであり、 ストレスや加齢がその誘因と思われている。 細胞動態か らみると、 毛包メラノサイ トは、 毛包の毛周期と連動してメラノサイ ト周期を繰 り返している力 毛包メラノサイ トの生命力は毛母細胞のそれよりも弱く、 ス ト レスや老化その他の要因で傷つき易い。 白髪についての電子顕微鏡的研究では、 毛包メラノサイ トが完全に死滅したわけではなく、 その細胞質内の空胞出現ゃメ ラノゾームの著しい減少が観察されていて、 その機能低下が示唆されている。 白髪防止の試みは育毛よりも難事とされ、 白髪防止製品は育毛剤に比べて数少 ない。 現行の白髪防止改善剤は、 メラノサイ トのメラニン産生増強もしくはチロ シナーゼ活性増強を指標に、 無作為スクリーニングゃ特定した物質についてその 有効性を述べたものが多い。 例えば、 ベンソフエノン誘導体がメラノーマ培養細 胞に対してメラ二ン生成増加およびチロシナーゼ活性促進効果を起こすとしてこ れを利用したもの(特許文献 1 )、多様な細胞機能増進作用を持つサイタリ ック A
M Pを増加させる化学物質がメラノサイ トの活性化を起こすとしてこれを利用し たもの(特許文献 2 )、サイクリ ック AM Pもしくはその誘導体が毛根メラノサイ ト活性化を起こすとしてこれを利用したもの (特許文献 3 )、特定のクロモン誘導 体が毛包メラノサイ トの活性化を起こすとしてこれを利用したもの(特許文献 4 )、
広葉樹の木質から単離したルグニンがメラノサイ 卜のチロシナーゼ活性促進を起 こすとしてこれを利用したもの (特許文献 5)、 血管収縮作用 ·細胞増殖作用をも つエンドセリンがメラノサイ 卜の増殖およびメラニン産生増加を起こすとしてこ れを利用したもの(特許文献 6)、 アデノシン環状リン酸化合物およびフォルスコ リンまたはその誘導体がメラノサイ トの活性化を起こすとしてこれを利用したも の(特許文献 7)、熱帯植物のコパイパの抽出物が培養メラノーマ細胞のメラニン 産生を促進するとしてこれを利用したもの(特許文献 8)、 アデノシンリン酸化合 物 (AMP、 ADP、 ATP) が毛包メラノサイ トの増殖とチロシナーゼ活性上 昇を起こすとしてこれを利用したもの (特許文献 9) などが挙げられるが、 実用 面で白髪改善効果を確認していない。
ところで、 生物組織細胞が常温度より 5〜 1 0°C高温に曝されたときに細胞内 に生成され、 細胞を庇護する機能を有する熱ショック蛋白 (h e a t— s h o c k r o t e i n, 以下、 「HSP」 ともいう。) は、 本来、 高温で合成が誘導さ れる一群の蛋白であるが、 高温以外のさまざまな環境ストレスでも誘導されるの でス トレス蛋白とも呼ばれる。 環境ストレスとしては、 物理学的には温度変化、 紫外線、 放射線、 気圧変化など、 化学的にはさまざまな化学物質、 薬物、 毒物、 金属イオンなど、 生物学的には細菌、 ウィルス、 炎症、 虚血、 栄養不足、 低酸素、 活性酸素などが挙げられる。 HSPは、 これらの環境の悪条件に対応する生体の 防御機構に関与すると考えられている。
HS Pの主な分子生物学的機能は、 細胞内で合成されたばかりでまだ立体構造 をとつていない新しい蛋白に結合し、 その分子間会合形成による変性を防いで正 しい立体構造が完成するようにしたり、 変性した蛋白の分解や再生を促したりす ることなど、 いわゆるシャペロン (付き添い役) 機能である。
HS Pは、 分子量の大きさを付して呼ばれ、 分子量が 90, 000、 70, 0
00、 60, 000 (質量ではそれぞれ、 90 kD a、 70 kD a、 60 k D a ) などと大きいものがよく知られており、 それぞれ HS P 90、 HSP 70、 HS
P 60などと呼ばれている。 一方、 分子量が 50, 000以下の小さい HS Pも 存在し、 これらは s ma 1 1 HSP (sHSP) と呼ばれ、 細胞死 (アポト一シ ス) を回避する機能や幼若細胞の分化を支援する機能が近年注目されている。 s
H S Pは、 動物細胞や酵母では多くないが、 植物細胞では多く存在するとされて いる。 一般に、 H S Pは、 細菌から高等動植物まで広く生物界に存在し、 しかも 相同性が高い。 この蛋白は、 細胞の生存に必須得の分子であるから、 生物進化の 歴史の中で、 種を超えて良く保存されてきたものと考えられる。 H S Pのうち、 分子量 2 7, 0 0 0である H S P 2 7や分子量 2 5, 0 0 0でぁる11 3 ? 2 5の 機能については、 アポト一シス抑制機能 (非特許文献 1など)、 シャペロン機能に より蛋白合成の機能低下を回復させる機能 (非特許文献 2など)、 腫瘍壊死因子 TNFの壊死作用を阻害する機能 (非特許文献 3、 4など)、 幼若細胞の分化を支 援する機能 (非特許文献 5 )、 子宫内膜で受精卵の着床と発育、 胎盤の維持を支援 する機能 (非特許文献 6 ) などの報告がある。 しかし H S P 2 7や H S P 2 5な どが白髪改善予防や育毛の作用を有することは知られていない。
一方、 白髪と並んで、 薄毛や脱毛症に対抗する育毛剤への需要も大きい。 脱毛 症の分類としては、 1 ) 生理的脱毛症 (男性型脱毛症 male pattern alopeciaま たはアンドロゲン性脱毛症 androgenetic alopecia, 加齢に伴う脱毛症、 など)、 2 ) 先天性脱毛症、 3 ) 後天的脱毛症 (円形脱毛症 alopecia areataや皮膚疾患 に伴った脱毛症など) に大別され、 そのうち育毛剤の対象となるものは、 生理的 脱毛症や後天的脱毛症の一部である。 生理的あるいは後天的の脱毛症の発生機序 を組織あるいは細胞の面から分析すると、 脱毛は頭皮毛包の毛周期休止期におい て毛髪を維持する毛根鞘細胞の活性低下、 その結果として起こる抜け毛の増加、 成長期毛包での毛母細胞や毛乳頭細胞の活性低下あるいは、 その結果として毛髪 生成能の低下などにより発生する。 十分な数の毛髪を維持するためには、 休止期 毛包の毛根鞘細胞が活性を保って毛髪の脱落を防ぎ、 成長期毛包の毛母細胞やそ れを支える毛乳頭細胞が活性を保って常に毛髪を合成すること、 毛乳頭や結合織 性毛包の毛細血管が活性を保って十分な血行を維持すること、 など必要である。 市販の各種の育毛剤の有効成分は、 機能上、 1 ) 毛包細胞の活性化、 2 ) 男性ホ ルモン抑制、 3 ) 頭皮の血行促進、 4 ) 頭皮の一般的ケア、 などに分類できる。 1 ) の毛包細胞の活性化を目指すものとしては、 ペンタデカン酸グリセリ ド、 プ ロシア二ジン、 など、 2 ) 男性ホルモン抑制を目指すものとしては、 ァロマター ゼ、 ジェチルスチルべステロール、 グリチルリチン酸ジカリウムなど、 3 ) の血
行促進を目指すものとしてはミノキシジル、 ビタミン E、 ナイァシン、 塩化カル プロニゥム、 ニンニクエキスなど、 4) の頭皮ケアを目指すものとしては、 ァロ ェエキス、 ブラセンタエキス、 ヒノキチオール、 アミノ酸などが挙げられ、 それ ぞれが目的別の有効性を謳っている。
一方、 発芽ゴマを利用した毛髪化粧料としては、 37°Cで培養して発芽させた ゴマから含水低級アルコール (メチルアルコールなど) でリグナン配糖体を抽出 し(特許文献 1 0)、 これをビタミン類または細胞賦活剤とを組み合わせることに より、 毛髪化粧効果を得たというもの (特許文献 1 1) があるが、 ゴマの培養中 に与える光線や温度変化などの物理的刺激がゴマ抽出物中に白髪改善効果を有す る抗ヒートショ ックプロテイン (HSP) 抗体、 抗線維細胞増殖因子 (FGF) 抗 体、 抗メラノサイ ト刺激ホルモン (MSH) 抗体からなる群のいずれか 1種又は 2 種以上の抗体に反応性を有する物質を誘導することは何らの記载も示唆もない。 また、 発芽させたゴマから含水アルコール抽出で得たリダナン配糖体とチロシナ ーゼ活性阻害剤とを組み合わせた皮膚外用剤が開示されている (特許文献 12及 び 1 3) 力 発芽させた含水メタノール抽出物は単独でチロシナーゼ活性阻害効 果を有しており、 また、 上記皮膚外用剤はこれを他のチロシナーゼ活性阻害剤と 組み合わせて相乗的な美白効果を期待するものであり、 チロキシナーゼを活性化 させる必要がある白髪防止改善作用とは全く逆の効果を有するものである。 発明の開示
本発明は、 メラニン合成能低下を来たしている毛包メラノサイ ト、 あるいは皮 膚ゃ組織のメラニン生産細胞活性を亢進させ、 メラニン合成能を回復させて、 毛 髪の白髪化を防止あるいは改善する白髪防止改善剤又は育毛剤を提供することを 課題とする。
本発明者は、 熱ショック蛋白 (HS P) 及び線維芽細胞増殖因子 (FGF) 及 びメラノサイ ト刺激性因子 (MSH) に着目した。 そして、 ヒ 卜の頭皮組織につ いての免疫組織化学的研究により、 HSPのうち、 sHS Pである、 分子量 25,
000の HSP 25、 および分子量 27, 000の H S P 27と反応性を有する 抗体と反応する物質が、 ヒ トの頭皮の毛球細胞に存在すること、 そしてこれら抗
体と反応する物質をゴマの新根から取得することが出来ること、 H S P 2 5およ び H S P 2 7と反応する抗体 (抗 H S P抗体) と結合性を有する物質を含むゴマ 新根抽出物が、 白髪予防改善作用、 育毛促進作甩を有することなどを見出した。 さらに免疫組織化学的研究を進めることにより、 細胞増殖因子である F G F 2お よび F G F 4と反応性を有する抗体 (抗 F G F抗体) と結合する物質がヒ トの頭 皮の毛球細胞および毛根鞘細胞に存在すること、 これらの特定抗体に対して結合 する物質を生産させるためには温度ショックを与えるなど特定の条件下でゴマを 発根させることが必要なこと、 この発根ゴマ抽出物が、 育毛作用を有すること等 を見出した。
また、 上記の特定条件に加えて光の照射下で培養したゴマの新根 (直根) の一 部の細胞がメラノサイ ト刺激ホルモン抗体 (抗 MSH抗体) と反応性を有する物 質を生成し、他の細胞がメラニンを生成する、 という新たな発見をした。 さらに、 この条件下で培養した発根ゴマの抽出物は上述した抗 H S P抗体及び抗 F G F抗 体に反応し、 白髪に対して再メラニン化を起こすことより、 白髪防止改善作用、 育毛促進作用を有することを見出した。
ここで、 上記抗 MSH抗体反応性を有する物質の発見に至る契機について付言 する。 本願発明者らは、 当初. 抗 H S P抗体、 抗 F G F抗体と反応性を有する物 質の探索を目的として研究を行っていた。 ゴマ培養に際しては、 熱ショック以外 のショック因子が関わることを避けるため、 培養中のゴマには窓からの日光が当 たらないよう、窓のカーテンを閉め切った条件下で行っていた。 しかし、或る夜、 窓のカーテンを閉め忘れたため、 朝日の直射日光が培養中の発根ゴマに当たる、 という失敗をしてしまった。 そのゴマの新根を仔細に観察すると、 通常は純白の 新根が、 かすかに黄ばんでいるように見えた (実施例 6、 および図 1 1参照)。 こ のかすかな変色を直射日光による傷害と解釈し、 この発根ゴマを廃棄しようとし たが、それを思いとどまり、組織学的にこの黄ばみの正体を解明することにした。 ただちにこの発根ゴマをホルマリン固定し、 パラフィン包埋して組織切片を作製 した。 ゴマ新根の着色がもしゃメラニンによるかと思い、 期待外れは覚悟しつつ も、このゴマ新根の組織切片に Fontana銀法によるメラニン染色を施したところ、 ゴマ新根の表皮細胞の細胞質が黒色に染まり、 メラニン陽性であることを発見し
た (実施例 7、 および図 1 3参照)。
再確認のため、 ゴマの培養を、 最初から日光が当たる場所で行ったが、 ゴマ新 根の顕微鏡所見は、 同じであった。 黒ゴマと白ゴマを比較すると、 顕微鏡所見で は、 白ゴマのほうがメラニン量は多かった。 光を厚紙などで遮った状態でゴマを 培養した場合、 メラニン量は、 明らかに減少した (図 1 5参照)。 直射日光に当た りつつ発根したゴマを肉眼的に観察すると、 この着色は、 新根の根元の部分に起 こることが分かった。
発根ゴマ表皮細胞にメラニンが作られたことは、 新根組織のどこかにメラノサ イ ト刺激ホルモン産生細胞が存在することを示唆する。 本願発明者は、 まさかと 思いつつも、 これらゴマ新根の組織切片につき、 アルファ · メラノサイ ト刺激ホ ノレモン ( a -melanocyte stimulating hormone) (以下、 α— M S H ) ίこ対する几 体である抗ァノレファ · メラノサイ ト刺激ホルモン抗体 nit- a -melanocyte stimulating hormone antibody) を利用して免疫組織化学的染色 (以下、 免疫染 色とする) を試みたところ、 ゴマ新根内部に、 細胞質が α— M S H抗体陽性に染 まる細胞を発見した (実施例 8、 および図 1 4参照)。
次に、 透過型電子顕微鏡によりメラニンおよび α— M S H分泌細胞を確認する ため、 直射日光に当りつつ発根したゴマ新根を、 通常の電子顕微鏡的方法により 観察したところ、 ゴマ新根の根元に近い部分の表皮細胞で、 細胞質内および核膜 に沿ってメラニンと思われる高電子密度物質を認めた (実施例 9、 および図 1 6 a参照)。先に光学顕微鏡観察でひ一 M S H抗体陽性細胞を認めていたゴマ新根部 分を電子顕微鏡的方法により観察したところ、 豊富なゴルジ装置および分泌顆粒 を含む細胞を見出した (実施例 9、 および図 1 6 b参照)。
ここで植物解剖学的にゴマ新根組織を解説すると、 ゴマが十分吸水して発根が 始まると、 胚軸から先ず幼根 radicle が突出し、 殻を破って外に伸びだして新根 となる。 新根は、 直根 taproot (または主根 main root) とも呼ばれ、 その組織構 造は、 最表層が表皮 epidermis, その内方が皮層 cortex、 皮層の最内層の細胞が 内皮 endodermis である。 皮層の内側から直根中心までの部分が中心柱 stele
(central cylinder)である。 中心柱では、 表層に内鞘 pericycleが、 その内方には 維管束 vascular bundleが形成されている。 維管束は、 水や無機栄養分の通り道
となる木部 xylem、 有機栄養分の通り道となる篩部 phloem、 ならびに両者の間 を埋める柔細胞 parenchyma cellから形成されている(図 1 2参照)。
これらの構造をもとに、 メラニンおよび α— M S Hについての免疫染色標本を 検討すると、 メラニン陽性細胞は、 表皮細胞であり、 ひ一 M S H陽性細胞は、 内 皮細胞 (もしくは内鞘細胞) と思われる。 本発明においてゴマ新根細胞中に新発 見した a— M S Hは、 ゴマ内部で生成し、 これが新根の表皮細胞に作用してメラ ニンを生産させたものと思われる。 新根の中心柱は、 新根のライフラインとも言 うべき維管束の形成に関与する前形成層 procambium、 および、 根の伸長や分化 をもたらす側方分裂組織 lateral meristem of root, という重要な幼若細胞群を含 む。 表皮に形成されたメラニンは、 中心柱内のこれらの幼若細胞群を光線傷害か ら防御しているものと考えられる。 そしてこの発根ゴマから抽出した抽出物は抗 H S P、 抗 F G F抗体に反応するとともに抗 MSH抗体に反応し白髪を黒化する という効果を有していることを見出した。
ここでメラノサイ ト刺激ホルモン (MSH)について付言する。
メラニンは、 動物,植物などの高等生物に限らず、 微生物など生物界に広く存 在する高分子色素であり、メラノサイ トより合成され、過剰な光の吸収に役立つ。 人体では、 メラノサイ トは、 光線が当たる皮膚に限らず、 古くから、 身体内部の 至る所、 たとえば通常は光線が当たらない口腔、 咽頭、 副鼻腔、 食道などに確認 されている (非特許文献 7 )。 このような部位にあるメラノサイ トの機能について は、 たとえば、 口腔粘膜の場合、 口の中にやけどしそうな熱いものが入ってきた ときなどにもメラノサイ トがメラニン産生を起こすところから、 メラニンは、 光 あるいは紫外線を遮る物質であるほか、 局所に加わった各種のス トレスや傷害性 因子による組織傷害を緩和する、 あるいは傷害から回復させるために作動する生 体物質のひとつと考えられる。
メラノサイ トを刺激してメラニン合成を起こすものがメラノサイ ト刺激ホルモ ン (MSH)と呼ばれるペプチドホルモン (サイ ト力イン) であり、 α、 0、 yの 3 形が存在する。 近年の研究によれば、 MSH ならびにその近縁物質は、 後述のと おり、 さまざまなその他の生理機能をもつことが判明しつつある。
そのうちの a— M S Hは、 動物種差がなく、 その一次構造は同一で、 N末端の
W ser がァセチル化された 1 3個のアミノ酸残基で構成された直鎖のポリペプチド である。 α— M S Hがゴマを含む植物で発見された報告は、 検索した範囲では見 つからない。 脊椎動物では、 MSHは、 ACTH(adrenocorticotrophic hormone副 腎皮質刺激ホルモン)や j3 -ェン ドルフィン(]3 -endorphin)などの共通前駆体蛋白 であるプロピオメラノコルチン (proopiomelanocortine) (以下、 POMC)から細胞内 プロセシングにより作られることが知られている。 哺乳類の POMC 遺伝子は皮 膚、消化管、肺、腎、胎盤、精巣、卵巣など種々の組織で発現し、傍分泌 (paracrine) されて局所の細胞に多様な機能を発揮していると考えられている(非特許文献 8 )。 抗体を利用したゲル濾過クロマトグラフィ一法により、 脳下垂体以外の組織であ る精巣、 十二指腸、 腎、 結腸、 肝、 肺、 胃、 脾などで微量ながら POMC を検出 した報告がある(非特許文献 9 )。
また、 MSH作用のほとんどが ACTHの作用と共通すること、 両者には共通の アミノ酸配列を含むものがあることなどより、 MSHと ACTHを合わせてメラノ コルチン (melanocortine)と総称されることがある。 近年、 MSH あるいはメラノ コルチンのレセプター (受容体) は、 メラノサイ トに留まらず、 人体各部の細胞 に発見され始め、その機能や医療あるいは健康維持の利用法が注目を浴びている。 たとえば、 マクロファージで発現していることから、 抗炎症性ペプチドとして の利用が(非特許文献 1 0 )、脂肪組織にも発現しているところから脂肪分解作用 が (非特許文献 1 1 ) 、 中枢神経では海馬、 視床、 視床下部、 脳幹や大脳皮質な どに発現しているところから学習、 記憶、 視覚、 聴覚や行動全身などの高次脳神 経活動に関与する作用が(非特許文献 1 2 )、 また α—M S Hがマウス脳内の腫 瘍壊死因子一 α— TNF(tumor necrosis factor-alpha)を抑制したところから脳虚 血に対する脳庇護作用が (非特許文献 1 3 ) 、移植心の保護作用から移植医学へ の利用が (非特許文献 1 4 )、 また POMCから細胞内プロセシングによりメラノコ ルチンを作るプロセシング酵素のひとつである PC1力 s、腌臓のランゲルハンス島 のインスリン細胞 (/3細胞) に局在するところから糖尿病の抑制 (非特許文献 1
5 )、また α— M S Hと TGF β 2 (transforming growth factor-beta 2)の両者を併 用することにより実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎を抑制できたことより自己免 疫性炎症性疾患への利用 (非特許文献 1 6 )などがそれぞれ報告されており、 炎症
治療、 肥満抑制、 脳活動支援、 糖尿病などの内分泌性疾患、 脳卒中、 臓器移植、 自己免疫性疾患などの広範な医療領域や健康維持に対処する医薬組成物や飲食品 への利用も可能である。 このように M S Hの作用を制御することによって多様な 効果を得ることができる。
特許文献 1 :特開平 1 1 - 5 7 2 0号公報
特許文献 2 :特許第 2 9 3 7 4 4 6号明細書
特許文献 3 :特開平 8— 6 7 6 1 2号公報
特許文献 4 :特開平 9— 1 8 8 6 0 8号公報
特許文献 5 :特開平 6— 2 5 6 1 4 5号公報
特許文献 6 :特開平 6— 7 8 2 2 4号公報
特許文献 7 :特開平 4一 3 6 0 8 3 6号公報
特許文献 8 :特開 2 0 0 0 - 1 6 9 3 4 8号公報
特許文献 9 :特開平 6— 4 8 9 2 5号公報
特許文献 1 0 :特許第 3 1 2 0 8 2 7号明細書
特許文献 1 1 :特開平 1 0 - 2 7 9 4 4 0号公報
特許文献 1 2 :特開平 1 0 - 2 7 9 4 6 0号公報
特許文献 1 3 :特開平 1 0 - 2 7 9 4 6 2号公報
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本発明は、 このような背景においてなされたものであって以下のような構成か らなる。
(1) 抗ヒートショ ックプロテイン (HS P) 抗体、 抗線維細胞増殖因子 (FGF) 抗体、 抗メラノサイ ト刺激ホルモン (MSH) 抗体からなる群のいずれか 1種又は 2種以上の抗体に反応性を有することを特徴とする発根ゴマ抽出物。
(2) 抗ヒートショックプロテイン (HS P) が HS P25及び/又は HS P 2 7である (1) 記載の発根ゴマ抽出物。
(3) 抗線維細胞増殖因子 (FGF) が FGF2及びノ又は FGF4である (1) 又は (2) 記載の発根ゴマ抽出物。
(4) 抗メラノサイ ト刺激ホルモン(MSH)がひ一 MSHである( 1 )乃至(3) 記載の発根ゴマ抽出物。
(5) H S P25及び/又は H S P 27抗体、 FGF2及び 又は FGF4抗体、 α — MS Η抗体からなる群のいずれか 1種又は 2種以上の抗体に反応性を有するこ とを特徴とする発根ゴマ抽出物。
(6) (1) 乃至 (5) 記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする毛 髮用化粧料。
(7) (1) 乃至 (5) 記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする白 髪予防及び 又は改善剤。
(8) (1) 乃至 (5) 記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする医薬 用組成物。
(9) (1)乃至(5)記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする育毛促進 剤。
(1 0) (1) 乃至 (5) 記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする飲食 Po
なお、 本明細書において 「発根ゴマ」 とは、 次のような定義で使用する。
一般に発芽 (germination, sprouting, seedling) と呼ばれている現象は、 植物 生理学の成書 (非特許文献 1 7)では emergence of the radicle through the seed coat (種子殻からの幼根の出現) と定義されているところから、 発芽は、 発根と してよい。 し力 し、発根ということばは一般的でないので、本明細書では、以後、 時に応じ、 発根 (発芽) と、 両者を併記することもある。 ゴマの種子の殼を破つ て伸びだした新根は、 ゴマの場合、 直根 taproot (または主根 primary root) と 呼ばれることもある。 図面の簡単な説明
第 1図は、 ヒ ト頭皮の H S P 27免疫染色標本で認めた毛根組織の顕微鏡写真 である。 (200倍)。 毛母細胞の細胞質が H s p陽性を示して、 この白黒写真で は喑調に示されている(矢印)。
第 2図は、 ヒ ト頭皮の FGF— 2免疫染色標本で認めた毛根組織の顕微鏡写真 である。 (400倍)。 毛乳頭細胞の細胞質が F G F— 2陽性を示して、 この白黒 写真では暗調に示されている(矢印)。
第 3図は、 ヒ ト胎盤の HS P 27免疫染色標本で認めた脱落膜細胞の顕微鏡写真 である。 (400倍)。 脱落細胞の細胞質が H s p 27陽性を示して、 この白黒写 真では暗調に示されている(矢印)。
第 4図は、 ヒ ト胎盤の HS P 27免疫染色標本で認めた絨毛栄養細胞の顕微鏡 写真である。 (400倍)。細胞性栄養細胞 cytotrophoblast (矢印)および合胞性栄養 細胞 syncytiotrophoblast (矢頭)の細胞質が H s p 27陽性を示して、 この白黒写真 では暗調に示されている。
第 5図は、 発根ゴマの H S P 2 7免疫染色標本で認めた新根先端部組織の顕微 鏡写真である。 (2 0 0倍)。 新根先端の表層細胞の細胞質が H s p 2 7陽性を示 して、 この白黒写真では暗調に示されている(矢印)。
第 6図は、 発根ゴマの M I B 1免疫染色標本で認めた新根先端部組織の顕微鏡 写真である。 (2 0 0倍)。 新根の先端部及び髄部の増殖期の細胞の核が M I B 1 陽性を示して、 この白黒写真では喑調に示されている(矢印)。
第 Ί図は、 発根ゴマの F G F一 2免疫染色標本で認めた新根先端部組織の顕微 鏡写真である。
( 1 0 0倍)。新根先端の表層及び髄部の細胞の細胞質が F G F— 2陽性を示して、 この白黒写真では喑調に示されている(矢印)。
第 8図は、 発根ゴマの F G F一 2免疫染色標本で認めた新根先端部組織の顕微 鏡写真である。 (5 0倍)。 原始葉脈に相当する樹枝状構造が F G F— 2陽性を示 して、 この白黒写真では喑調に示されている(矢印)。
第 9図は、 ヒ ト毛髪の発根ゴマ抽出物 · ローショ ンにより黒化した部分の Fontana銀法によるメラニン染色で真っ黒に染まった標本顕微鏡写真を示す( 1 0 0倍)。
第 1 0図は、 ヒ ト毛髪の発根 マ抽出物 · ローションにより毛根部が黒化した 毛髪の先端部の顕微鏡写真を示す (1 0 0倍)。 先端部には黒化が及んでおらず、 白髪のままである。
第 1 1図は、 発根ゴマの拡大写真である。 a : 日中は光線を当てながら培養し た発根ゴマ。 b : 日中は光線を当て、 夜間に低温ショックを与えて培養した発根 ゴマ。 c :日中は光線を遮断し、夜間に低温ショックを与えて培養した発根ゴマ。 光線を当てながら培養した発根ゴマでは、 新根の基部に淡黄褐色の着色が認めら れるカ S (矢印)、光線を遮断して培養した発根ゴマでは、同部は白色である(矢頭)。
(尺度は、 1 目盛が 1 ミリ)
第 1 2図は、 発根ゴマの組織構造を示す略図である。
第 1 3図は、 a:光線を当てながら培養した発根ゴマのマッソン ' フォンタナ 法によるメラ二ン染色標本の顕微鏡写真である。 ゴマの新根基部の淡黄褐色の部 分の表皮細胞に黒色の陽性所見が認められる (四角で囲んだ部分)。撮影倍率は 1
0 0倍。
b : メラニン染色陽性の細胞の拡大写真である。 マッソン . フォンタナ法によ つて生じた黒色の銀粒子が表層の細胞だけでなく第 2層、 第 3層の細胞にも認め られる (四角で囲んだ部分)。 撮影倍率は 4 0 0倍。
第 1 4図は、 a:光線を当てながら培養した発根ゴマの抗ひ一メラノサイ ト刺 激ホルモン (a— M S H) 抗体を用いた免疫染色標本の顕微鏡写真である。 ゴマ 新根基部の皮質深層の一層の細胞の細胞質が褐色(当該写真では黒色)に着色し、 a— M S Η陽性所見が認められる(四角で囲んだ部分)。撮影倍率は 1 0 0倍。 b : 発根ゴマの抗^一 M S H抗体を用いた免疫染色標本で、 陽性の細胞の拡大写真で ある。 皮質最深層の細胞の細胞質が褐色 (当該写真では黒色) に着色し、 ο;— M S H陽性所見が認められる (四角で囲んだ部分)。 撮影倍率は 4 0 0倍。
第 1 5図は、 a:光線を遮断して培養した発根ゴマのマッソン . フォンタナ法 によるメラニン染色標本の顕微鏡写真である。 ゴマ新根の基部では、 その表皮細 胞に僅かな黒色の陽性所見が認められるのみである (四角で囲んだ部分)。撮影倍 率は 1 0 0倍。 b : メラニン染色標本の細胞の拡大写真である。 マッソン . フォ ンタナ法によって生じた黒色の銀粒子が表層の細胞の核周囲に少数認められるが (四角で囲んだ部分)、 第 2層、 第 3 層の細胞にはほとんど認められない。 撮影 倍率は 4 0 0倍。
第 1 6図は、 光線を当てながら培養した発根ゴマの透過型電子顕微鏡写真であ る。 a : 表皮細胞の細胞質内にメラニンと思われる高電子密度の細顆粒が 多数認められる。 また核膜に沿って均一無構造の高電子密度物質の沈着が認めら れる。 b:新根基部の皮質最深層細胞の細胞質の一部を示す。 ゴルジ装置(△) が著しく発達しており、その付近に分泌物と思われる高電子密度の輪状構造(丄) が認められる。 写真倍率は 3 4、 5 0 0倍。
c :新根基部の皮質最深層細胞の α— M S Η免疫電子顕微鏡写真を示す。 その細胞質内に直径 120〜: L50nmの高電子密度の小型顆粒(矢印でそのうちの 1 個を示す) を多数みとめ、 この小型顆粒が a— M S H陽性であることから α— M S H顆粒と断定した (図 1 6 c参照)。 写真倍率は 3 4 , 5 0 0倍。
第 1 7図は、 光線を当てながら培養した発根ゴマの抽出物を、 白毛を含む眉部
に 2ヶ月間 塗布した後抜去した眉毛サンプルの拡大写真である。 白髪のまま のもの 1本 (a)、 および根元が黒化しているが先端部は白髪のままのもの 1本 (b) を示す。 白髪のままのものは、 毛根端が棒状に膨れている点から、 ヘアサイクル 休止期のものである。 途中から黒化したものは、 毛根端がカップを逆さまにした ように膨れている点から、 ヘアサイクル成長期のものである。
第 18図は、 抽出溶媒を変更することによる抗 MSH抗体と反応する物質の抽 出量の変動を示す。
第 19図は、 抽出溶媒に酢酸又は冷水を採用した場合の酢酸濃度の変動による 抗 MS H抗体と反応する物質の抽出量変化を示す。
第 20図は、 発根条件に与える水質の影響を検討した結果を示す。
発明を実施するための最良の形態
1. 抗 HS P抗体、 抗 FGF抗体に反応性を有する発根ゴマ抽出物の調製
ヒ ト頭皮には、 前述のごとく紫外線その他の種々のストレスが加わって毛包 細胞に悪影響を与えている。 このストレスから毛母細胞や毛包メラノサイ トを守 るため、 生体防御機構として毛包には熱ショック蛋白 (ス トレス蛋白) が産生さ れている可能性が考えられる。 熱ショック蛋白の種類は多いが、 髪の育成には女 性ホルモンが関連していることが知られているので、 熱ショック蛋白の中でも、 特に女性ホルモンに関連している熱ショック蛋白である HS P 25および HS P 27に着目し、 検討したところ、 抗 HS P 27および抗 HS P 25抗体に反応す る物質がヒ ト頭皮の毛球の細胞に存在していることを免疫組織化学的に見出した (実験例 1参照)
さらに抗 HS P 25および抗 HS P 27抗体と女性ホルモンとの関連性を知る ため、 ヒ ト胎盤組織につき抗 HSP 25および抗 HSP 27抗体との反応性を検 討したところ、 HS P 25および HS P 27が胎盤の脱落膜細胞 decidual cellの 胞体および胎盤絨毛の栄養細胞 trophoblastの胞体に存在していることを免疫組 織化学的に見出した。 (実験例 2参照)。
他方、 毛髪化粧料の原料の面からは、 昔から髪に良いとされるゴマに注目し、
ゴマを温度変動のストレスをかけた状態で発根させて抗 HS P 25および抗 H S P 27抗体に反応する物質が産生されることを見出した (実施例 1参照)。 抗 HS P 25あるいは抗 HSP 27抗体に反応する物質がゴマ新根(最初に出 てくる根)細胞に証明されたことは、これらがゴマ新根の幼若細胞をストレスから 庇護し、 シャペロンとしてその蛋白合成を支援し、 さらに細胞死 (アポトーシス) 予防に作用しているものと思われる。
抗 HS P 25および抗 HS P 27抗体に反応する物質は、 温度差を与えながら ゴマを発根させて、 そのゴマの新根細胞より得たものを使用できる。 ゴマ新根か ら抽出して得ることができる抗 HS P 25あるいは抗 HS P 27抗体と反応性を 有する物質を含有する抽出液を頭皮に補給することにより、 メラニン合成が弱く なったり停止したりあるいは細胞死に傾いている毛包メラノサイ トの活性を回復 させ、 白髪を予防改善することができる。 すなわち、 植物細胞のもつス トレス回 避成分である HS P 25あるいは HS P 27をヒ トに利用し、 毛母細胞や毛包メ ラノサイ ト細胞の賦活作用に優れた毛髪化粧料とすることができる。
HS P 25あるいは HSP 27は、メラニン合成能が低下したり、停止したり、 又は細胞死の傾向にある毛包メラノサイ トの活性を回復し、 毛髪の白髪化を予防 改善する。 したがって、 HS P 25あるいは HS P 27を、 白髪を有する頭皮に 適用することにより、 白髪の黒化を誘導することができる。
抗 HSP 25ゃ抗 HSP 27抗体と反応する物質は、 蛋白であるところから、 その化粧料として利用する際の溶媒は、 蛋白を凝固するものは不向きである。 ま た抗 HSP 25ゃ抗 HSP 27抗体と反応する物質は、 分解や変性を受け易いた め、 それを防ぐための工夫、 例えばマイクロカプセルやリボソームで庇護する、 あるいはフリーズドライする、 などして、 これを化粧料として安定して提供する ことができる。
本発明で使用するゴマは、 その細胞が生きているものであればよく、 具体的に は、 生ゴマ (種ゴマ) を使用する。 天日千しや燻蒸などの処理が施されているも のは、 その細胞が死滅しており利用できない。
本発明で用いる発根ゴマを製造するには、 温度管理、 給水、 換気、 採光などに
適切な配慮が必要である。 種ゴマが春先に畑に蒔かれた時の自然環境といえる、 日中は暖かく夜間は冷え込む、 という寒暖の差の中で根を伸ばすという自然界で の発根状況に近似させた条件を選択することが好ましい。 一般に、 熱ショック蛋 白は、 細胞が 1 o °cの温度差に数時間さらされると生成するとされているので、 本発明の発根ゴマの作製にはこの温度差を利用すれば良い。 給水や換気などの条 件は、 使用する種ゴマにより適宜設定すればよい。 一般には、 水分は、 ゴマが乾 かない程度にあれば良く、 水を用いる場合は水が変質しないよう適宜に換水する が、 水の代わりにミストや水蒸気を利用することもできる。 使用する水は、 水道 水でも良いが、 水道水の水質に問題がある場合は地下水を使用するほうが良く、 また、 各種ミネラルウォータ、 海洋深層水、 温泉水などを使用しても良い。 発根 したゴマの酸素要求度は、 時間経過と共に高まるので、 時期ゃゴマの密度に対応 した酸素補給が望ましい。
なお、 ゴマの成分として広く知られているセサミンは、 ゴマ発根から 2日ない し 3日目には消失しているため、 本発明における発根ゴマではこ.の成分について は期待できない。 ゴマ油についても、 発根ゴマを電子顕微鏡で観察すると、 一部 の細胞の細胞質内に脂肪の微細滴を少数認めることがあるが、 脂肪滴が微細であ る点より、 これらは、 ゴマ油ではなく、 病理学的には、 栄養不足や酸素不足など に基づく脂肪変性と解釈される。
ゴマが発根し、 新根が 2〜3ミリに達したら培養を中止し、 新根を傷めない よう注意して、 新根のホモジネートを作るが、 新根は傷つき易く、 もし、 これが 傷つく と、細胞から H S Pなどの有効成分が失われ易いので、それを避けるため、 新根を分離せず、 発根ゴマ全体をそのままホモジネートしても良い。 今回行った 免疫組織化学的研究では、 新根以外の細胞に抗 F G F 2および抗 F G F 4抗体と 反応する物質を新根以外の組織にも発見したので、 むしろ発根ゴマ全体をホモジ ネートするほうが望ましい。 発根ゴマをホモジネートする際、 有効成分の分解や 変性を防ぐ処置が必要である。 処置の一例としては、 ホモジネート操作を低温で なるべく短時間内に完成させること、 有効成分の抽出溶媒としては、 水その他の 中性溶媒(例えば 5 O mM T r i s— H C 1緩衝液等)を用いるのが好ましいが、 アルコールその他の有機溶媒を用いる場合は、 有効成分を変質させない濃度とす
ることが必要である。 ホモジネートを濾過あるいは遠心沈殿し、 濾液あるいは上 澄みを発根ゴマ抽出物とするが、 発芽ゴマ抽出物と呼称しても良い。 この抽出物 を原料として、 毛髪化粧料に配合することができる。 発根ゴマ抽出物は、 変質分 解しやすいので、 その原液は、 冷凍保存することが好ましい。 通常はこのような 発根ゴマ抽出物中には抗 H S P 25、 抗 HSP 27、 抗 FGF 2あるいは抗 FG F 4抗体と反応する物質が抽出物 1 m 1当たり 0. 01 p g〜100 ;u g含有し ている。
抗 HS P 25、 抗 HSP 27、 抗 F G F 2あるいは抗 F G F 4抗体と反応する 物質を含有する発根ゴマ抽出物を毛髪化粧料として提供できる。 発根ゴマ抽出物 を毛髪化粧料に配合する場合、 その配合量は、 発根状態、 抽出物の抽出法、 抽出 効率や有効成分安定化処理法などにより異なるし、 また、 使用対象や化粧料剤型 により異なるので、 諸事情により適宜設定することができる。 例えば、 発根ゴマ の湿質量とほぼ等質量の発根ゴマ抽出物を製造した場合、 毛髪化粧料へは、 同抽 出物を 10〜30質量%の比率で配合することができる。
毛髪化粧料には、 植物油のような油脂類、 高級脂肪酸、 高級アルコール、 シリ コーン、 ァニオン界面活性剤、 カチオン界面活性剤、 両性界面活性剤、 非イオン 界面活性剤、 防腐剤、 糖類、 金属イオン封鎖剤、 水溶性高分子のような高分子、 増粘剤、 粉体成分、 紫外線吸収剤、 紫外線遮断剤、 香料、 pH調整剤等を含有さ せることができる。 また、 ビタミン類、 皮膚賦活剤、 血行促進剤、 活性酸素消去 剤、 抗炎症剤、 殺菌剤等の他の薬効成分、 生理活性成分を含有させることもでき る。
本発明の発根ゴマ抽出物を含有する組成物は、 例えば水溶液、 油剤、 乳液、 け んだく液等の液剤、 ゲル、 クリーム等の半固形剤の形態で適用可能である。 従来 から公知の方法でこれらの形態に調製し、 ローション剤、 乳剤、 ゲル剤、 クリー ム剤、 エアゾル剤等の種々の剤型とすることができる。 これらを頭皮に塗布、 噴 霧等により適用することができる。特にこれら剤型の中で、 ローション剤、乳剤、 クリーム剤、 エアゾル剤等が適している。 通常、 化粧料において使用される製剤 化方法にしたがって、 これらの剤型として製造することができる。
ゴマは、 本来、 食品であるから、 大豆から作るもやし同様、 発根ゴマを食品あ
るいはサプリメントとして利用することも出来る。 その際、 フリーズドライなど の処理を行うことにより、 有効成分の生理活性が低下しないようにすることが好 ましい。
食品としては、 そのまま、 又は種々の栄養成分を加えて、 若しくは飲食品中に 含有せしめて、 白髪の予防又は治療に有用な保健用食品又は食品素材として食さ れる。適当なでんぷん、植物油脂などの助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、 食用に適した形態、 例えば、 顆粒状、 粒状、 錠剤、 カプセル、 ペース トなどに成 形して食用に供してもよく、 また種々の食品、 例えば、 パン、 発酵乳製品に添加 して使用したり、 清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。
2 . 抗 MSH抗体と反応性を有する発根ゴマ抽出物の製造
本願発明者らは、 培養したゴマの免疫組織化学的研究により、 その新根に抗《 — M S H抗体陽性細胞を見出した。 発根したゴマをホモジネートして発根ゴマ抽 出物を作り、 これを白髪を有する男性の頭皮や眉毛部に塗布したところ、 強い白 髪改善効果が確認された (実施例 6、 図 7参照)。
実施例 6で言う 「光線を当てながら行うゴマ培養」 とは、 培養中のゴマから新 根が殻の外に現れた段階で、 これに光線、 たとえば、 太陽光線、 紫外線、 各種の 人工燈光線などを当てることを指す。 .先述のように、 新根は、 根の伸長および分 化に携わる未分化な幼若細胞を多く含み、 これらは、 光線傷害を受け易い。 した がって、 ゴマ新根に抗ひ— M S H抗体と反応する物質を適切に生産させるための 光線の種類、 強度、 照射時間のスケジュールなどは、 ゴマ新根の生育状況を観察 しつつ決めなければならない。 (実施例 7参照)
発根ゴマに当てる光線強度は、 5 0 0〜5 0, 0 0 0ルクスの範囲で決めれば よい。 (室内の通常照明の明るさは 1 , 0 0 0〜2, 0 0 0ルクス、太陽光線は 1 万〜 1 0万ルックスとされている)。無論、光照射を必要としない生産条件であつ ても; 抗 α— MSH 抗体と反応する物質を含有する条件で培養し調製された発根 ゴマ抽出物であれば本願発明に包含される。 なお、 本願明細書は抗 a— M S Η抗 体と反応する物質を α— M S Hと記載する場合がある。
本発明抗 α— M S H抗体と反応する成分を含有する発根ゴマ抽出物を得るた めに使用するゴマは、 上記抗 H S. P抗体、 抗 F G F抗体と反応性を有するゴマ抽
出物生産と同様でよい。
本抗 M S H抗体と反応性を有する発根ゴマを製造するには、 上記の光照射条件 のほか、 前記の抗 H S P抗体、 抗 F G F抗体と反応性を有する抽出物を生産する ときと同様に、 温度管理、 給水、 換気、 などに適切な配慮が必要である。 ゴマの 培養温度は、 種ゴマが春先に畑に蒔かれた時の自然環境に近似させた条件を選択 することが好ましく、 2 5〜3 0 °Cが適正である。 ひ一 M S Hがス ト レスホルモ ンのひとつである点より、 ゴマ培養中、 低温 (あるいは高温) ショックなどのよ うなショック、 あるいはなんらかのス ト レスを与えることは好ましいが、 特に限 定するものではない。
温度を変えて培養することによりショックを与える方法として、 通常のゴマの 培養においては適正温度とされている 2 5〜 3 0 °Cでの培養、 及びこの適正温度 の下限より 5〜2 0 °C、 好ましくは 5〜 1 0 °C低い温度である 5〜2 0 °C、 好ま しくは 1 5〜 2 0 °Cでの培養を行う。 適正温度での培養及び低温での培養の順番 は特に限定するものではないが、 まず適正温度で培養してゴマを発根させた後に 低温で培養し、 必要に応じて適正温度での培養に戻すことが好ましい。 低温での 培養時間は、 特に限定するものではないが、 1〜 1 0時間の範囲、 好ましくは 3 〜7時間、 より好ましくは 5 ~ 6時間である。
水や換気などの条件は、使用する種ゴマにより適宜設定すればよい。一般には、 水分は、 ゴマが乾かない程度にあれば良く、 水を用いる場合は水が変質しないよ う適宜に換水するが、 水の代わりにミストや水蒸気を利用することもできる。 使 用する水は、 水道水でも良いが、 水道水の水質に問題がある場合はほかの適切な 水を使用するほうが良く、 また、 ミネラル成分や有機成分を含む水、 例えば地下 水、 ミネラルウォーター、 海洋深層水あるいは温泉水など、 を使用しても良い。 発根したゴマの酸素要求度は、 時間経過と共に高まるので、 時期ゃゴマの密度に 対応した酸素補給が望ましい。
発根ゴマの「抽出物」 とは、望ましくは、発根ゴマのホモジネート(homogenate) から得た濾過液、あるいはそれを遠心沈殿して得た上澄み (supernatanりであるが、 これ以外の方法で水性溶媒を用いて抽出しても良い。 遠心沈殿による場合は、 遠 心分離機、 好ましくは冷凍高速遠心分離機により、 回転数は 5, 0 0 0〜 1 0 ,
0 0 0 G、 持続時間は 1 0〜 3 0分間処理して得られるものである。 好ましい分 離条件は、 発根ゴマの種類、 生育状況、 ホモジネート状況や遠心分離機の種類な どにより適宜決めなければならないが、 目標とする分離条件は、 発根ゴマのホモ ジネートから、 殻破片、 核や細胞壁破片を沈查として除き、 抗 α— M S H抗体と 反応する物質を含むゴルジ装置や分泌顆粒あるいは細胞質内可溶性分画 (soluble fraction)を残した上澄みを得ることである。
本発明において用いる発根ゴマ抽出物は、 抗 a— M S H抗体と反応する物質を 含有する。 本発明者は、 本明細書においてこれらの物質を、 ひメラノサイ ト刺激 ホルモン (ひ 一 M S H) と通称して言及するが、 この用語は、 メラノサイ ト刺激 ホルモン全般についても用いるものとする。
また、 抗 α— M S H抗体と反応する物質は、 光線照射のもとで培養した発根ゴ マ由来のものであることが好ましいが、 他の植物及び動物由来のもの、 あるいは 酵母などの微生物由来のものであっても、同様の効果を期待できる限りにおいて、 それを使用することができる。
a一 M S Hは、 実験室で細胞からこれを抽出する場合は酢酸緩衝液を用いるこ とが多い。 本発明実施例において開示するように、 冷水による抽出に特に好まし い効果が得られている。 発根ゴマ抽出液は、 抗 a— M S H抗体と反応する物質の ほ力 、 前記したように熱ショック蛋白や線維芽細胞増殖因子など、 毛包に有用な 蛋白を含んでいるため、 毛髪化粧料の溶媒としては、 好ましくは蛋白を凝固する ものは使用しないほうが良い。 また、 これらの有用な蛋白は、 分解や変性を受け 易いため、 それを防ぐための工夫、 例えば、 有機溶媒を使用する場合はその濃度 を低くする、 あるいはマイクロカプセルやリボソームで庇護する、 あるいはフリ —ズドライする、 あるいは真空加温処理などして、 これを化粧料として安定して 提供することができる。
培養されたゴマ新根から得ることができる抗 α— M S H抗体と反応する物質を 含有する抽出液を頭皮に補給することにより、 メラニン合成能が低下している毛 包メラノサイ トの活性を回復させ、白髪を防止改善することができる。すなわち、 植物細胞のもつメラノサイ ト刺激ホルモンのひとつである抗ひ一M S H抗体と反 応する物質をヒ 卜に利用し、 毛包メラノサイ ト細胞の賦活作用に優れた白髪防止
改善毛髪化粧料とすることができる。 尚、 本発明において好適に用いられる発根 ゴマは、 新根の長さが 1〜 10 mm、 好ましくは 3〜 5 mmのものであるが、 特 に限定されるものではない。
尚、 上述したようにゴマの成分として広く知られているセサミンは、 ゴマ発根 から 2日ないし 3日目には消失しているため、 本発明における発根ゴマではこの 成分については期待できない。 ゴマ油も、 発根の過程でエネルギー源として消費 されて消失するため、 本発明における発根ゴマ抽出物内には含まれない。
ゴマが発根し、 新根が 3〜5ミリに達したら培養を中止し、 新根を傷めないよ う注意して、 新根のホモジネートを作るが、 新根を分離せず、 発根ゴマ全体をそ のままホモジナイズしても良い。 抗 α— MSH抗体と反応する物質は、 ゴマ新根 に含まれ、 生化学的にも安定した性質を持つが、 本発明者が先に行った免疫組織 化学的研究では、 線維芽細胞増殖因子を新根以外の組織にも発見したので、 むし ろ.発根ゴマ全体をホモジナイズするほうがよい。発根ゴマをホモジナイズする際、 ホモジネートには、 a— MS Η以外の物質で a— MS Ηと作用機序は異なるもの の、 白髪防止改善作用をもつ有効成分である HS P 25、 HS P 27、 あるいは 育毛作用をもつ FGF 2などの蛋白も含まれるので、 これらの蛋白の効果を無駄 にしないためには、 それの分解や変性を防ぐ処置をとることが好ましい。 その目 的のためには、 簡単には、 発根ゴマをいつたん冷凍し、 ホモジナイズする温度を 氷点近くまで下げればよい。
特に望ましくは、 発根ゴマのホモジネート(homogenate)から得た濾過液、 ある いはそれを遠心沈殿して得た上澄み (supernatant)である力 これ以外の方法で水 性溶媒を用いて抽出しても良い。 この発根ゴマ抽出物を原料として、 毛髪化粧料 に配合することができる。 発根ゴマ抽出物の原液を保存する場合は、 冷凍するな どして有効成分の分解や変性を防ぐことが望ましい。 通常はこのような発根ゴマ 抽出物中には抗 α-MSH抗体及び Z又は抗 HS P 25、 抗113 ? 27、 抗?0? 2あるいは抗 F GF 4抗体と反応する物質が抽出物 1 m 1当たり 0. 01 p g〜 100 μ g含有している。
本発明は、 また光線をあてながら培養した発根ゴマ由来の抗 a— MS H抗体と 反応する物質を含む白髪防止改善剤を提供する。 この白髪防止改善とは、 機能低
下した毛包メラノサイ トを刺激してその機能を回復させて、 白髪の発生を防止し たり、 白髪になったものを回復させることを意味する。
本発明は更に、 抽出物の製造過程で蛋白変性防止の工夫を加えれば、 H S P 2 5 、 H S P 2 7 、 F G F 2などの有用な蛋白をも含有する発根ゴマ抽出物を毛髪 化粧料として提供できる。 H S P 2 5及び/または H S P 2 7は、 毛包メラノサ ィ トのアポトーシスを予防することにより本発明と同様に白髪予防及び改善効果 を有するものであり、 また F G F 2は毛乳頭の活性化することにより育毛効果を 有するものであ'る。
発根ゴマ抽出物を毛髪化粧料に配合する場合、 その配合量は、 発根状態、 培養 中に当てた光線の種類や量、 抽出物の抽出法、 抽出効率や有効成分安定化処理法 などにより異なるし、 また、 使用対象や化粧料剤型により異なるので、 諸事情に より適宜設定することができる。 例えば、 発根ゴマの湿質量とほぼ等質量の発根 ゴマ抽出物を製造した場合、 毛髪化粧料へは、 同抽出物を 1 0〜 5 0質量%の比 率で配合することができる。有効成分の生理活性を保っため、発根ゴマ抽出物は、 冷凍保存する、 フリーズドライする、 あるいはマイクロカプセルやリボソームで 庇護する、 あるいは殺菌目的で真空加温処理するなどしてもよい。
本発明の毛髪化粧料には、 植物油のような油脂類、 高級脂肪酸、 高級アルコー ル、 シリコーン、 ァニオン界面活性剤、 カチオン界面活性剤、 両性界面活性剤、 非イオン界面活性剤、 防腐剤、 糖類、 金属イオン封鎖剤、 水溶性高分子のような 高分子、 増粘剤、 粉体成分、 紫外線吸収剤、 紫外線遮断剤、 香料、 p H調整剤等 を含有させることができる。 また、 ビタミン類、 皮膚賦活剤、 血行促進剤、 活性 酸素消去剤、 抗炎症剤、 殺菌剤等の他の薬効成分、 生理活性成分を含有させるこ ともできる。
本発明は更に、 光線を当てながら培養した発根ゴマ抽出物を必須成分として含 有することを特徴とする医薬組成物を提供する。
本発明の毛髪化粧料及び医薬用組成物は、 例えば水溶液、 油剤、 乳液、 懸濁液 等の液剤、 ゲル、 クリーム等の半固形剤の形態で適用可能である。 従来から公知 の方法でこれらの形態に調製し、 ローション剤、 乳剤、 ゲル剤、 クリーム剤、 ェ ァゾル剤等の種々の剤型とすることができる。 これらを頭皮に塗布、 嘖霧等によ
り適用することができる。 特にこれら剤型の中で、 ローション剤、 乳剤、 クリー ム剤、 エアゾル剤等が適している。 通常、 化粧料及び医薬用組成物において使用 される製剤化方法にしたがって、 これらの剤型として製造することができる。 更に、 ゴマは、 本来、 食品であるから、 大豆から作るもやし同様、 発根ゴマを 食品あるいはサプリメントとして利用することも出来る。 その際、 冷凍あるいは フリーズドライなどの処理を行うことにより、 有効成分の生理活性が低下しない ようにすることが好ましい。 また衛生的見地から、 殺菌目的で真空加温処理して もよい。
食品としては、 そのまま、 又は種々の栄養成分を加えて、 若しくは飲食品中に 含有せしめて、 白髪の予防又は治療に有用な保健用食品又は食品素材として食さ れる。適当なでんぷん、植物油脂などの助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、 食用に適した形態、 例えば、 顆粒状、 粒状、 錠剤、 カプセル、 ペーストなどに成 形して食用に供してもよく、 また種々の食品、 例えば、 パン、 発酵乳製品に添加 して使用したり、 清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。 尚、 抽出物の 形態で使用することもできる。
以下、 実験例、 参考例及び実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、 本 発明はこれら実施例に限定されるものではない。 参考例 1
発根ゴマの新根の良否判定法
ゴマ新根の組織あるいは細胞の生育の良否判定は、 発根ゴマの有効成分生成の 良否を判定するだけでなく、 もしも新根が変性した場合は、 皮膚刺激性物質が生 じたり して有害となることもあり得るので、 重要である。 ゴマ新根が最も陥りや すい傷害は、 病理学的に見た場合、 新根細胞の変性あるいは壊死である。 ゴマ新 根の変性あるいは壊死の原因は、 ゴマ発根に用いた水質の不具合、 当てた光線の 不適、 酸素の過不足、 温度の不適、 カビなどの微生物の繁殖による汚染、 その他 の要因である。 新根細胞の変性や壊死は、 肉眼での判定は不確実であり、 組織標 本を作製して顕微鏡的に判定することが確実である。 顕微鏡的所見では、 変性と しては細胞質の水腫状変性や脂肪変性(微細脂肪滴の出現)、壊死としては液化壊
死が認められる。 変性や壊死が起こっていないかどうかを見るためには、 発根し たゴマの一部をサンプルとして採取し、 ホルマリン固定、 エタノール脱水、 パラ フィン包埋を経て組織切片を作製し、 へマトキリン 'ェォジン二重染色を施し、 顕微鏡で観察すればよい。 もし、 有効成分の生成状況の判定を行う場合は、 組織 切片についての免疫組織化学的判定が有効であるが、 その手技は煩雑であり、 必 要経費も高い。 したがって、 便法としては、 まず、 肉眼的にゴマ新根の状態を観 察して、 メラニンによるかすかな淡黄色の着色を確認し、 ついでへマトキリン ' ェォジン二重染色標本による判定により、 ゴマ新根の組織細胞が正常に育ってい るかどうかを判定し、 有効成分が生成されたであろう推測することも一方法であ る。 実験例 1
ヒ ト頭皮の毛包における H S P 25、 HS P 27、 ?0? 2ぉょび 0 4に ついての免疫組織化学的検討:
ヒ ト頭皮の手術材料を 10%ホルマリ ン液で固定し、 自動脱水包埋装置にかけ たのちパラフィンに包埋してパラフィンブロックを作製した。 ミクロ トームを用 い、 このパラフィンブロックから 5ミクロン厚の頭皮組織切片を作製し、 これを スライ ドグラスに貼付して乾燥した。同組織切片をキシロールで脱パラフィンし、 抗 HS P 25抗体 (フナコシ SPA-801)、 抗 H S P 27抗体 (コスモバイオ SC—
1049)、 抗 FGF— 2抗体 (コスモバイオ SC-79G) および抗 FGF— 4抗体 (コ スモバイオ SC-1361) をそれぞれ用いて、 各組織切片につき、 一般的な免疫染色 法である ABC法(Avidin-Biotin complex法)により免疫組織化学的染色(以下、
「免疫染色」 とする) を行った。 染色した頭皮組織標本につき顕微鏡的に毛包組 織を検討したところ、 毛球を構成する細胞の細胞質が褐色に染まり、 HSP 25 および HS P 27陽性所見を示しているのを発見した (図 1)。 HS P 25と HS
P 27についての染色標本では、 両者の間に差を見出すことは出来なかった。 外 毛根鞘細胞の細胞質が HS P 27陽性を示すことは既に知られているが、 毛球の 構成細胞が HSP陽性を示すことは新しい知見である。 毛包組織の HS P 25の 免疫染色は、 これまでに報告を見ない。 毛球内メラノサイ トが HS P 25あるい
は HS P 27に陽性であるか否かについては、 メラノサイ 卜の細胞質が黒色であ るため、 免疫染色による褐色の有無が識別できず、 判定不能であった。 FGF— 2についての免疫染色では、 毛球および毛根鞘を構成する細胞が陽性所見を示し ていたほか、 毛乳頭の細胞も陽性を示していた (図 2)。 FGF— 4についての免 疫染色では、 FGF— 2類似の陽性所見を示していたが、 毛乳頭の細胞は陰性所 見を示した。 実験例 2
ヒ ト胎盤における H S P 25および HS P 27についての免疫染色による検 討:
HS P 25および HS P 27が女性ホルモン依存性の熱ショック蛋白である点 から、 女性ホルモンの支援のもとで胎児を安全に育む胎盤につき、 HS P 25お よび HS P 27の局在を確かめることにした。 新鮮なヒ ト胎盤を 10%ホルマリ ン液で固定し、 脱落膜を含む胎盤組織片を切り出し、 実施例 1と同様の方法で、 胎盤の組織切片を作製し、 HS P 25および HS P 27についての免疫染色を行 つた。 顕微鏡的に検討したところ、 脱落膜細胞 (decidual cell)の細胞質 (図 3) お よび胎盤絨毛栄養細胞 (trophoblast)の細胞質 (図 4) が褐色に染まり、 HS P 2 5—および HS P 27—陽性所見を呈していた。 実施例 1
温度ショックを与えた発根ゴマの製法:
黒色および白色のゴマは、 種専門店より購入した。 種ゴマをステンレス篩に敷 きつめ、 ざっと水洗いし、 この篩を平らなブラスティック容器に入れ、 ミネラノレ ウォータ一をゴマが十分に浸るまで加えた。これを 25°Cでは約 40時間、 30°C では約 30時間培養すると、 過半数のゴマの新根が 1〜2ミリに達する。 この時 点で低温ショックとして、 1 5 °Cで 5〜 6時間培養した。 新根の長さが 2〜 3ミ リに達したところで培養を中止し、 発根ゴマの新根を傷めないよう注意して軽く 水を切り、 — 20°Cに冷凍した。
実施例 2
発根ゴマの耝織細胞における HS P 25, HS P 27、 FGF— 2、 FGF— 4および M I B 1についての免疫染色による検討:
実施例 1において低温ショックを与えて作製した発根ゴマを約 1グラム、 サン プルとして採取し、 これを食塩添加リン酸緩衝 10%ホルマリン液で固定し、 実 施例 1と同様の方法で、 発根ゴマの組織切片を作製して、 HS P 25、 HS P 2 7、 FGFおよび FGF— 4についての免疫染色を行った。 さらに、 発根ゴマの 組織内で、 核分裂を行っている増殖細胞群を認識するため、 核分裂期核内蛋白で ある M I B1に対する抗 K i _ 67抗体 (コスモバイオ PR0229) を用いた免疫 染色も行った。
染色した発根ゴマの組織標本を顕微鏡で観察すると、 HS P 25および HS P 27についての染色標本では、 両者とも、 ゴマ新根の先端部の表層細胞の細胞質 が褐色に染まり、 HS P 25と HS P 27にっき陽性所見を呈していた (図 5) 核分裂期の核内蛋白抗原 MI B 1についての免疫染色では、 新根先端部の表層細 胞だけでなく、 先端部全体およびこれに連なる髄部の細胞の核がそれぞれ M I B 1陽性を示した (図 6)。 この染色結果から、 核分裂をしながら増殖している細胞 のうち、 低温ストレスから新根先端部ゃ髄質の増殖細胞群を庇護するため、 最表 層の細胞が HS P 25や HS P 27を産生したものと考えられた。
一方、 FGF— 2についての染色標本では、 陽性細胞は、 新根の表層および髄質 の細胞の細胞質および核に分布し(図 7)、 さらに枝分かれして子葉内部に樹枝状 あるいは原始葉脈に相当する構造に分布していた (図 8)。 FGF— 2は、 塩基性 線維芽細胞増殖因子であり、 動物組織においては、 血管新生因子としての作用な どさまざまな中胚葉細胞への増殖作用が知られているが、 植物における発現につ いては、 報告をみない。 発根ゴマ組織内で、 FGF— 2陽性細胞が原始葉脈に相 当する構造に一致して染色された顕微鏡像から見て、 これらの細胞は、 組織内栄 養輸送にかかわつている可能性が高い。 動物 (ラッ ト) の毛包では、 FGF— 2 は、培養した毛乳頭細胞を刺激して増殖させることが報告されており(Matsuzaki T, Inamatsu M, Yoshizato K: Hair induction oy dermal papula cells cultured with conditioned medium of keratinocytes. In, van Neste DJJ & Randall VA
(Eds), Hair Resarch for the Next Millenium (Proceedings of the First Tricontinental Meeting of Hair Research Societies), October 1995, Belgium, p447-51)、 また、 今回の実施例 1におけるヒ ト頭皮毛包の F G F— 2染色でも、 毛乳頭細胞が陽性所見を示した点から、 F G F— 2がヒ ト頭皮の毛包毛乳頭に関 わっている可能性がある。 一方、 F G F— 4についての免疫染色では、 F G F— 2と異なり、 新根ゴマに強い陽性部は発見できず、 髄質細胞に弱い陽性所見が認 められた。 文献上、 F G F— 4のノックアウ トマウスでは胎生期の細胞集塊の成 育が出来ず胎児死亡が起こる(Feldman B et al. Science 267:246-9, 1995)ことか ら、 幼若細胞の発育にかかわつている増殖因子とされている。 今回の発根ゴマで は F G F— 4の陽性度が弱かった理由に付いては、 発根ゴマの発育が進行してい て、 原始的な幼若期を過ぎていたためと考えられる。 実施例 3
発根ゴマ抽出物の製造
実施例 1により作製した冷凍発根ゴマから抽出物製造の過程を説明する。 まず 発根ゴマの湿質量を秤量し、 その質量と同量の冷ミネラルウォーターを加え、 氷 冷下で高速ホモジネーター (ヒスコトロン) で、 最高 1 5, 0 0 0 r p mの回転 数でホモジナイズした。 ホモジネートを冷凍超遠心分離機で 4 °C、 1 0, 0 0 0 gで 3 0分間、 遠心沈殿した。 上澄みは、 黒ゴマの場合でもほぼ無色透明な水溶 液となった。 この上澄みを発根ゴマ抽出物とし、 小容器に分注して— 2 0 °Cで冷 凍保存した。 実施例 4
発根ゴマ抽出物を含む頭皮用ローションの白髪改善作用を見る実験:
実施例 3で作製した発根ゴマ抽出物原液をミネラルウォーターで 4倍に希釈し、 これを発根ゴマ抽出物の頭皮用ローションとした。同ローションを 2 mlずつ小容 器に分注して凍結保存したものを多数準備し、 頭皮塗布に際しては、 これを 1本 ずつ解凍して使用することにした。 白髪混じりの頭髪をもつ被験者に 1 日 1回、 シャンプーのあとに頭皮に塗布させた。 発芽ゴマ液塗布を 2ヶ月間続けた後、 一
定の小部分から集中して頭髪を抜去し、 頭髪の変化をまず肉眼的に観察した。 観 察の結果、 白髪のままのものと、 根元が黒くなつているものが認められた。 白髪 のままのものは、 毛根端がクラブ型に膨れているところから、 毛周期の上では休 止期の頭髪と考えられる。 毛根端が膨れていない頭髪では、 全長が白髪のままの ものと根元に近い部分が黒変しているものとが認められた。 黒変している部分が メラニンによるものか否かを検討するため、 この頭髪を食塩添加リ ン酸緩衝 1 0 %ホルマリン液で固定し、 スライ ドグラスにゼラチン液で貼付け、 Fontana銀 染色によりメラニン染色を施し、 顕微鏡で観察した。 その結果、 頭髪の根元の黒 変している部分は、 毛皮質が毛髄と全く区別できないほど強く黒変しており、 こ の黒変部分がメラニンを含んでいることが証明できた(図 9 )。黒変していない白 髪先端部では、 毛皮質は灰色で髄質のみが断続的に黒色であった (図 1 0 )。 メラ ニン陽性と判定した黒変した毛根部の長さは 1〜1 . 2 c mであり、 毛髪の伸び が平均で 1 日 0 . 3〜0 . 4 m mであることからすると、 2ヶ月間の発根ゴマロ ーシヨンの塗布が、 この白髪の毛根部を再メラニン化したもの推定した。 休止期 の頭髪では黒化するものが見つからなかった理由は、 休止期頭髪では、 毛包メラ ノサイ トが消失しているため、 発根ゴマ抽出物 ' ローションの塗布によっても、 メラニンの再生産が起こらなかったため、 と推測した。 また、 成長期の頭髪で黒 化するものと黒化しないものが見られた理由は、 非活動化した毛包メラノサイ ト の回復は、 それが早いものと遅いものがあり、 早いものでは使用 2ヶ月で白髪の 黒化が観察された、と推測した。回復が遅い毛包メラノサイ トの場合であっても、 発根ゴマローションの塗布を 2ヶ月以上連用することにより回復する可能性は考 えられる。 本発明の発根ゴマローションの連日塗布により、 白髪改善の兆しが顕 れるのは、 早い場合は 2ヶ月であるが、 遅い場合は 3— 4ヶ月、 あるいはそれ以 上の月日を要すると思われる。 白髪の改善は、 休止期の毛髪では起らないため、 休止期毛包が多くなる高齢者では、 若年者よりも回復に月日を要すると想像され る。 実施例 5
抜け毛検査による育毛効果判定:
発根ゴマ抽出物塗布による育毛効果を判定するため、 抜け毛検査を実施した。
3 0歳代 1名、 4 0歳代 2名の男性に、毎日、夜のシャンプーのあとと朝の 2回、 実施例 6で使用したものと同じ発根ゴマ抽出物を含む頭皮用ローションを毎回 1 一 1 . 5 m 1づっ頭皮に塗布する実験を 2ヶ月続けた。 実験開始前と終了後と各 1回、 抜け毛数算定を行った。 方法は、 型のごとく、 ストッキングの布地をフィ ルターとして洗髪用流しに敷き、 シャンプーのあと、 抜け毛総数を数えた。 実験 開始前の測定では、 被験者 3名の抜け毛総数は、 それぞれ 1 2 0、 9 8、 9 2本 であったが、 実験後ではそれぞれ 6 6、 7 0、 6 1本となり、 抜け毛の減少は明 らかであった。 この実験から、 発根ゴマ抽出物を含む頭皮用ローションは、 毛周 期休止期の短縮を予防し、 育毛効果があることが証明された。 実施例 6
発根ゴマの製法 (光線を当てながらの培養、 および、 光を遮っての培養) 種子ゴマ (以下、 ゴマ) は、 種専門店より購入した。 ゴマを、 光線を当てなが ら培養するものと、 光線を遮って培養するものとに分け、 別々のステンレス製の 篩に敷きつめ、 ざっと水洗いした後、 篩をブラスティック容器に入れ、 ミネラル ウォーターあるいは海洋深層水をゴマが十分に浸るまで加え、 約 1 5時間、 ゴマ に吸水させた。 その後、 小型空気ポンプで水に給気をしながら 2 5 °Cでゴマを培 養した。 光を当てながら培養するゴマの場合は、 新根が殻を破って現れ始めたら 日光に当たるようにした。
光の当てかたは、 夏季では直射日光が長時間ゴマに当たらないようにして明る い窓際に置いたが、 冬季では窓ガラスを透った直射日光を当ててもよい。 対照実 験である光を当てないゴマの培養の場合は、 厚手の黒い紙で作つたカバーをゴマ 培養容器にかぶせて光を遮って行った。 いずれの場合も、 約 4 0時間培養して新 根の長さが 2〜3ミリに達したら、 低温ショックを与えるため、 給気しながら 1
5 °Cで 5〜6時間培養した。 その後再び 2 5 °Cの培養条件に戻し、 新根の長さが
3〜5ミリに達したところで培養を中止し、 新根を傷めないよう注意して簡単に 水洗いした。 発根ゴマ抽出物を作る分は、 発根ゴマを— 2 0 °Cに冷凍した。 顕微 鏡的組織標本を作る分は、 食塩添加燐酸緩衝 1 0 %ホルマリン液に入れてホルマ
リ ン固定した。 光を当てながら培養したゴマの新根は、 淡黄色を示したが、 光を 遮って培養したゴマの新根は白かった。 (図 1 1参照)
なお、 発根ゴマの組織構造を.図 1 2に示す。 実施例 7
発根ゴマのメラニン染色
実施例 6で作製してホルマリン液で固定した発根ゴマ約 1グラムを試料カセッ 卜に入れ、自動組織脱水包埋装置にかけて脱水およびパラフィン浸透を行つた後、 パラフィンに包埋してパラフィンブロックを作製した。 ミクロ トームを用い、 こ のパラフィンブロックから 5ミクロン厚の発根ゴマの組織切片を作製し、 スライ ドグラスに貼付して乾燥した。 同切片を、 通常の方法で脱パラフィン、 エタノー ル系列、 水道水へと処理し、 マッソンのフォンタナ銀法によりメラニン染色を施 した。 染色した標本を顕微鏡観察すると、 光を当てながら培養したゴマ新根の表 皮細胞の細胞質が強く黒色に染まり、 メラニン陽性であることを確認した (図 1 3参照)。
一方、 光を遮って培養した発根ゴマの標本では、 ゴマ新根の表皮細胞のメラ二 ン陽性所見は極めて弱かった (図 1 5参照)。 ゴマでは、 ヒ トに認められるメラノ ゾームは認められないので、表皮細胞がメラニンを産生しているものと思われる。 黒ゴマと白ゴマとでメラニン陽性度を比較すると、 その程度は、 白ゴマのほうが 強かった。 実施例 8
発根ゴマの a _M S H免疫染色による検討
実施例 6で作製してホルマリン液で固定した発根ゴマを、 実施例 7と同様の方 法で処理して組織切片を作製し、 抗 a— M S H抗体 (コスモバイオ ΑΒ946) 用い て通常の A B C法による免疫染色を行った。 染色した組織標本を顕微鏡で観察す ると、 光を当てながら培養したゴマでは、 新根の中心柱最外層の内鞘細胞 pericycle (または皮層最内層の内皮細胞 endodermis)の細胞質が褐色に染まり、 α— M S H陽性を示した (図 1 4参照)。 光を遮って培養したゴマでは、 新根のひ
一 M S H陽性細胞は、 その数が少なく、 個々の細胞の陽性度は弱かった。
実施例 7でのメラニン染色および本実施例 3の a—M S H免疫染色の結果から、 光を当てながら培養した発根ゴマの新根内部の α— M S H分泌細胞から分泌され た α— M S Hが、 ゴマ新根の表皮細胞に作用してメラニンを産生させたものと推 測された。 培養中の低温ショックが α— M S Η産生に与える影響については、 低 温ショックを与えて培養したゴマのほうが、 低温ショックを与えず培養したゴマ よりも α—M S H陽性度が強い傾向を示したことから、 低温ショックは、 抗 α— M S Η抗体と反応する物質産生を促進した可能性が考えられる。 実施例 9
発根ゴマの電子顕微鏡による検討
実施例 7および実施例 8で証明した発根ゴマの新根のメラ二ン染色陽性細胞お よび α— M S H陽性細胞を、 透過型電子顕微鏡を用いて確認するため、 直射日光 に当てて発根させたゴマ新根の新鮮な組織片を、 通常の透過型電子顕微鏡試料作 製法により、 ダルタールアルデヒ ド ·オスミウム二重固定し、 上昇エタノール系 列により脱水し、 プロピレンオキサイ ドによりエタノールを置換し、 電子顕微鏡 用エポキシ樹脂製剤 (以下、 エボン) を浸透させてカプセル包埋し、 エボンを熱 重合させてエボンブロックを作製し、 ゥノレトラトームとダイアモンドナイフを用 いてエボンプロックから発根ゴマ新根の超薄組織切片を作製し、 銅製ダリ ッドに 載せ、 ウラン,酢酸鉛二重電子染色し、 日立電子顕微鏡による観察を行った。 ゴマ新根の根元に近い着色部分の表皮細胞を観察すると、 細胞質内にメラニン と思われる直径 0.5〜0.05 ミクロンの高電子密度で不定形をした多数の小型顆粒、 および核膜に沿ラ高電子密度物質が観察された (図 1 6 a参照)。 実施例 3におい て光学顕微鏡で α— M S H陽性細胞を認めていたゴマ新根部分を電子顕微鏡的に 観察したところ、 豊富なゴルジ装置および分泌顆粒を含む細胞を見出した (図 1 6 b参照)。
また、 免疫電子顕微鏡技術を用いて α— M S H陽性細胞を確認するため、 直射 日光に当てて発根させたゴマ新根の新鮮な組織片を、 食塩添加燐酸緩衝液 0.4% バラフオルム固定液で固定し、 実施例 1と同様の方法で、 発根ゴマの組織切片を
作製して、 α— MSHについての免疫染色を行った。 光学顕微鏡により α— MSH 陽性細胞を確認した上で、 同組織標本をエタノールおよびプロ ピレンォキサイ ド で脱水し、 エボンを浸透させ、 予め重合させたエボンブロックを α— MSH陽性 細胞の上に接着し、 エボンの熱重合を完了させた。 α— MS Η陽性細胞を含んだ エボンブロックをスライ ドグラスから剥離し、 このエボンブロックを用い、 上記 同様の方法で超薄切片を作製し、 電子染色をせず、 日立電子顕微鏡による観察を 行った。 電子顕微鏡上、 a— MSH陽性細胞の細胞質内に直径 120〜150nmの高 電子密度の小型顆粒を多数みとめ、 この小型顆粒が α— MSH陽性であることか ら ct— MS Η顆粒と断定した (図 1 6 c参照)。 実施例 10
発根ゴマ抽出物の製造
実施例 6により作製した発根ゴマから抽出物製造の過程を説明する。 まず発根 ゴマの湿質量を秤量し、それと同量のミネラルウォーター(もしくは海洋深層水) を加え、 高速ホモジネーター (ヒスコ トロン) で、 最高 15, O O O r pmの回 転数でホモジナイズした。 ホモジネートを超遠心分離機で 4°C、 8000 Gで 2 0分間、 遠心沈殿した。 上澄みは、 黒ゴマの場合でもほぼ無色透明な水溶液とな つた。 この上澄みを発根ゴマ抽出物とし、 小容器に分注して一 20°Cで冷凍保存 した。 実施例 1 1
発根ゴマ抽出物を含むローションの白髪改善効果
実施例 6および実施例 9で作製した発根ゴマ抽出物原液をミネラルウォーター で 2倍希釈して発根ゴマ抽出物ローションとし、これを 2 mlずつ小容器に分注し て凍結保存した。 同ローションの白髪改善効果を白髪交じりの毛髪および眉毛で 検討した。 眉毛は、 1箇所から 2〜3本ずつ生えている頭髪と異なり、 1本ずつ 独立して生えている上、 その長さが短く、 その根元の色変化がつぶさに観察でき る点で好都合である。 小容器に分注して凍結保存しておいた同ローションを、 毎 回、 1個ずつを解凍して使用することにした。 白髪混じりの頭髪をもつ男性被験
者に 1日 1回、 シャンプーのあとに同ローションを頭皮に塗布させた。 眉毛部で は、 同ローションを 1—2滴擦り込ませた。
発根ゴマ液塗布を 2ヶ月間続けた後、 頭髪の場合は一定の小部分から集中して 抜去し、 眉毛の場合は白毛あるいは色変化が起こった毛のみを抜去し、 肉眼的に 観察した。 頭髪には白髪のままのもの、 灰白色のもの、 根元がさまざまな程度に 黒くなつているものなどが認められた。 眉毛は、 頭髪よりも直径が太いため、 変 化がより明瞭に観察できた。 図 1 7に抜去した白毛のままの眉毛と根元が黒くな つた眉毛の例を示した。 白毛のままの眉毛は、 毛根端が膨れている点から、 ヘア サイクルの上では休止期のものと判断された。 ヘアサイクル休止期においては、 メラノサイ トサイクルも休止期に入り、 毛根端では毛包メラノサイ 卜が消失して いるため、 メラニンの再生産が起こらなかった、 と推測される。
一方、 毛の根元のほうが黒くなつているものは、 毛根端がカップを逆さまにし たように膨れている点から、 ヘアサイクルの上では成長期のものと判断された。 この白毛は、 メラニン産生を中止していたものの、 発根ゴマローション塗布によ りメラニン産生を再開したものと思われる。 途中まで黒変した毛根部の長さは 1 — 1 . 2 c mであり、毛の成長が平均で 1 日 0 . 3〜0 . 4 m mであることから、 2ヶ月間の発根ゴマローションの塗布期間内のいずれかの時期に、 毛包メラノサ ィ トのメラニン産生の再開が起こったものと推定される。一方、頭髪においては、 毛端の形から成長期と判断される頭髪でも、 まったく黒化しないもの、 さまざま な程度に黒化するものなどが見られた。
変化が多様である理由は、 非活動化した毛包メラノサイ トの回復には早いもの と遅いものとがあり、 回復が早いものでは同ローションの 2ヶ月間の使用期間内 にメラニン再産生が起こったが、 回復が遅いものではそれが不十分であった、 と 推測した。 毛包メラノサイ トの回復が遅い毛包であっても、 同ローションの塗布 を 2ヶ月以上連用することにより回復する可能性は考えられる。 したがって、 本 発明の発根ゴマローションの連日塗布により、 白髪改善の兆しが顕れるのは、 早 い場合は 2ヶ月以内であるが、 遅い場合は 3〜4ヶ月、 あるいはそれ以上を要す ると思われる。 休止期の白髪ではその再メラニン化は起り得ないが、 休止期白髪 が脱落し、世代交代によって生えてくる新生頭髪では再メラニン化が起こり得る。
従って、 休止期毛包の含有率が高くなる高齢者では、 白髪の回復には若年者より も長い月日を要すると思われる。 実施例 1 2
ゴマに照射する光線として蛍光灯を使用した製造例
植物ィンキュベータを利用し、 ゴマに当てる光線として蛍光灯光線を使用し、 強度を変化させて、 蛍光灯光線が発根ゴマにメラニンおよび抗 α—M S H抗体と 反応する物質の産生を起こすか否かを実験した。
準備: 蛍光灯 (東芝蛍光ランプ メロウ 5 w、 光源色 E X— W ( 3波長形白 色)) を照射光源とする植物インキュベータ (トミー工業製 CFH - 305) (以下、 ィンキュベータという)を購入した。このィンキュベータは、培養装置内の温度、 照度および湿度があらかじめ時間を区切って自由に設定できる。 従って、 今回の 実験では、 ゴマ種子が畑に蒔かれた季節の自然環境を想像して、 6ステップの培 養条件を設定した。 ゴマの培養容器は、 実施例 6と同様のステンレス篩と水を入 れるポリ容器を用いた。 培養用の水は、 水道水を用いた。 インキュベータ内には このゴマ培養容器を棚 1段に 2個ずつ、 2段まで置いた。 1個の篩の中でゴマが 重ならないように蒔く場合の最大乾燥質量は、 1 8 gであった。
培養条件: 午前 9時半、 ゴマの吸水開始。 インキュベータ内温度は、 室温と 同じ 25°C、 照度は 0。
ステップ 1 . 3 0分間かけて午前 1 0時には、インキュベータ内を、温度 2 5 °C、 照度 2 0 0 0ルックスになるようにした。 湿度は、 全ステップを通して 6 0 %と した。
ステップ 2 . 2時間かけて正午には、 インキュベータ内を、 温度 3 0 °C、 照度 2 0 0 0ルックスにした。
ステップ 3 . 3時間かけて午後 3時には、 インキュベータ内を温度 3 0 °C、 照度 4 0 0 0ルックスにした。
ステップ 4 . 9時間かけて午前 0時には、 インキュベータ内を温度 2 0 °C、 照度 0ノレックスにした。
ステップ 5 . 以後 6時間、 午前 6時まで、 インキュベータ内を温度 2 0 °C、 照度
0ルックスに維持した。
ステップ 6 . 3時間半かけて、 午前 9時半にはインキュベータ内を温度 2 5 °C、 照度 2 0 0 0ルックスにした。
以下、 ステップ 1〜 6を繰り返した。
ゴマの肉眼所見:
培養第 2日目 (培養開始後 2 4時間目) の朝には、 一部のゴマに発根が認めら れた。
培養第 3日目 (培養開始後 4 8時間目) の朝には 8 0 %以上のゴマに発根が認 められ、 新根の長さは最大 5 m mに達していた。
発根ゴマの免疫染色とその評価:
発根ゴマの一部をサンプルとして燐酸緩衝 1 0 %ホルマリン固定液に入れて固 定し、 実施例 2および実施例 3と同様の方法でマッソンのフォンタナ銀法による メラニン染色ならびに FGF2、 H S P 25、 H S P 27およびひ一 M S Hについて の免疫染色を行った。 各染色標本についての顕微鏡的評価では、 今回の植物イン キュベータで蛍光灯光線を当てながら培養したゴマの新根は、 実施例 1による室 内で自然光線を当てながら培養したゴマの新根と較べると、 FGF2、 H S P 25、 H S P 27および a— M S Hについての免疫染色標本では、両者はほぼ同様の染色 結果を示した。しかし、マッソンのフォンタナ銀法によるメラニン染色標本では、 今回得られた新根のほうが実施例 1の場合よりも強い陽性所見を示した。 その理 由は、 自然界を想定して決めた最高照度 4 0 0 0ルックスという明るさ力 実施 例 6における室内の照度より強かったためと解釈した。 実施例 1 3
発根ゴマの培養条件、 抽出条件の相違による抗 M S H抗体と反応性を有する物 質の変動
実施例 6と同様にして植物ィンキュベ一ターを用いて発根ゴマの培養を行った ( 培養開始 2日後にゴマを回収し抽出に用いた。 培養条件は下記の条件とした。 条件 1 2003年 6月 16日発根開始 黒ゴマ エアレーシ 3ンなし 水道水 湿度 60%
条件 2 2003年 6月 23日発根開始 白ゴマ エアレーシヨンなし 水道水 湿度 60% 条件 3 2003年 9月 8 日発根開始 黒ゴマ エアレーシヨンあり 海洋深層水 湿 度 35%
条件 4 2003年 9月 29日発根開始 黒ゴマ エアレーシヨンあり 海洋深層水 湿度 60% 抽出方法
発根させたゴマは直ちに凍結乾燥 (凍結乾燥機 FRD-80、 岩城硝子株式会社、 千 葉) し、 試験開始までフリーザーにて保管した。 乾燥させた発根ゴマはミルで粉 砕した後、 抽出に使用した。 発根ゴマ粉砕物約 5gは高速溶媒抽出装置 ASE-200 (日本ダイオネタス株式会社、 大阪) を用い、 抽出条件設定は PREHEAT 2min, HEAT Omin, STATIC 5min, FLUSH% 60vol, PURGE 60sec, CYCLE 3, PRESSURE 1500psi, TEMPERATURE 0°C (熱水の場合 100°C) として、 抽出 した。 抽出溶媒 (冷水、 熱水、 10%エタノール、 50%エタノール、 100%エタノー ル、 50%1,3 ブチレングリコール、 1%酢酸溶液、 3%酢酸溶液、 5%酢酸溶液) は 蒸留水製造装置 GSR-200 (アドバンテック東洋株式会社、 東京) で調製した蒸留 水を用い、 有機溶媒は市販 (特級) のものを用いた。 抽出溶液はロータリ一エバ ポレーター NE (東京理化器械株式会社、 東京) を用いて濃縮し、 凍結乾燥した。 抽出物は、 乾燥質量から換算し、 回収率 4〜7%であった。
抗 a -MSH 抗体と反応する物質の定量は、 a -MSH EIA kit (PHOENIX PHARMACEUTICALS, INC.)を用いて行った。 各抽出物をキット付属の溶媒に て 10mg/mlの濃度で溶解し、 不溶性部分を遠心除去し、 上清を測定に用いた。 抗 M S H抗体と反応する物質の含量
冷水、 熱水、 10%エタノール、 50%エタノール、 100%エタノール、 50%1,3-ブ チレングリ コールで抽出した発根ゴマ中の抗 M S H抗体と反応する物質をひ
-MSHの EIA法で測定した。 測定には条件 1のゴマを用いた。 その結果、 冷水中 の o! -MSH量が最も多かった(図 1 8 )。
また、 酢酸溶液に α -MSH が溶解することから、 冷水と酢酸溶液で抽出した発
根ゴマ中の抗《— MSH抗体と反応する物質量を同様に比較した。 測定には条件 3 のゴマを用いた。 その結果、 酢酸溶液よりも冷水で抽出されやすいことがわか つた(図 19)。
上記方法に示した 4種の条件で発根させたゴマ中の抗 a—MS H抗体と反応する 物質量を EIAで測定した。条件 1と条件 2の比較より白ゴマの方が α-MSH量が 多いことが考えられる。 また、 エアレーシヨンし海洋深層水を用いた条件 3が最 も α-MSH量が多かった(図 20)。
実施例 6で得た発根ゴマ抽出物を用い、 下記 「表 1」 に示す処方に従い、 本発 明のドリンク剤を調製した。
実施例 14 実施例 1 5 成 分
ブドウ糖果糖糖液 1 3 2.5
1Z5濃縮果汁 リンゴ 6 7.5
1/5濃縮果汁 パイナップル 6
1Z5濃縮果汁 ホワイ トグレープ 3
1Z5濃縮果汁 グレープフルーツ 2
ァップノレエッセンス 0.04 クェン酸 0.20 0.25 ぺクチン 0.1 5 0.15 発根ゴマ抽出物 4.5 4.5
水 0 QQ/oに調整 00%に調整 常法に従って、 各成分を混合し、 実施例 14では糖度 16、 酸度 0.63、 pH
3.4、 実施例 15では糖度 6、 酸度 0.63、 pH 3.26のドリンク剤を得た。 こ れを 95°Cで 30秒間加熱し、 ドリンク剤用容器に充填し、 所望の発根ゴマ抽出 物配合ドリンク剤を得た。 このドリンク剤は 1日 30〜360ミリ リ ツ トル服用 することにより、 すぐれた白髪改善と育毛促進効果が発揮される。
産業上の利用可能性
本発明により、 メラニン合成能が低下したり、 停止したり、 又は細胞死の傾向 にある毛包メラノサイ トの活性を回復することにより、 毛髪の白髪化を予防ある いは改善する白髪予防改善剤、 及び白髪の予防、 改善に有用な毛髪用化粧料、 育 毛促進剤が提供される。 また、 医薬品や飲食品へ利用して白髪の予防や治療に資 することができる。