明 細 精製ヒトァクチビン及びその製造方法 技術分野
本発明は、 新規精製ヒトァクチビン、 詳しくは純度が改善したヒ トァクチビン 及びその製造方法に関し、 特に、 粗ヒトァクチビン Aからヒトァクチビン Aを単 離、 精製する方法、 更にはこのようにして得られうる高純度に精製されたヒトァ クチビンや医薬製剤の形態にある当該ヒトァクチビンに関するものである。
背景技術
ヒトァクチビンは、 医薬品としての開発が期待されており、 特にヒトァクチビ ン Aは、 骨粗鬆症改善治療薬等医薬品その他の用途が期待できる有用物質である ヒトァクチビン Aはヒト白血病細胞株 THP-1 ( IF0 50147) の培養上清より単離 、 精製されたアミノ酸 1 1 6個のポリペプチド鎖 2本から成るホモダイマータン パク質である。 分子量は、 約 2 5 0 0 0ダルトンであり、 ポリぺプチド鎖毎に 9 個のシスティン残基 (Cys) が存在 (ダイマーで合計 1 8個) 、 合計 9個の分子 内、 分子間ジスルフィ ド結合を形成している (Biochemical and Biophysical Re search Communications, 142, 1095-1103, 1987参照。 ) 。
本発明者等は、 特に、 ヒトァクチビン Aの生産、 精製手段として以下に示した 4種類の方法を発展させてきた。 即ち
( 1 ) ヒト骨髄性白血病細胞 ΊΉΡ- 1 ( IF0 50147) をホルボールエステルを用いて 刺激後に得た培養上清から、 硫安分画と 4段階のカラムクロマトグラフィ一によ り得る方法 (細胞工学、 別冊 4、 P48-58、 1987年参照。 ) ;
( 2 ) ヒトァクチビン Aの c D N Aを組み込んだ発現べクタ一を導入して得たヒ トァクチビン A高生産遺伝子組み換え C H 0細胞由来培養上清から、 酸有機溶媒 沈殿/冷却層分離と逆相 HPLCを組み合わせることにより得る方法 (Biochemical and Biophysical Research Communications, 151, 230-235, 1988;及び特開平 1 - 3 0 0 8 9 8号公報参照。 ) ;
( 3 ) 上記と同じ方法で得られた培養上清から、 ヒ
質であるフォリス夕チンをリガンドに用いたァフィ二ティ一クロマトグラフィ一 により取得する方法 (特開平 2 _ 2 5 5 0 9 8号公報参照。 ) ;及び
( 4 ) ヒトァクチビン Aの c D N Aを組み込んだ発現べクタ一を導入したヒトァ クチビン A高生産遺伝子組み換え微生物の、 菌体中に蓄積される不溶性顆粒より 可溶化、 リフォ一ルディングして得た粗ヒトァクチビン A溶液から逆相 HPLCによ り得る方法 (国際出願公開第 W O 9 7 / 2 3 6 3 8号公報参照。 ) の 4種類の方 法である。
上記 4種類の方法で得たヒトァクチビン Aは動物実験用サンプルとしては十分 に高純度であった。 しかし、 ヒトァクチビン Aを医薬品として開発するには、 ヒ 卜に投与するに足る極めて高純度の医薬品原体を、 適切な製造コス卜で工業生産 し得る実用的な精製工程を作り上げる必要があるが、 上記方法ではヒトァクチビ ン Aをヒ卜に投与し得るに十分な純度まで精製することが困難であった。 即ち、 上記 4種類の生産方法で使用されたクロマトグラフィ一類をいくら組み合わせて も、 宿主又は培地由来の抗原性物質や発熱性物質等、 ヒトァクチビン A遺伝子の 翻訳ミスや翻訳後修飾不適切に基づく類縁体、 及び精製工程で生じるヒトァクチ ビン A分解物、 修飾物等を高度に除去することは不可能であった。
このような情況下に、 高純度に精製されたヒトァクチビンの製造方法が求めら れている。
発明の課題
本発明の課題は、 粗ヒトァクチビン、 特に粗ヒトァクチビン Aから医薬用途に 適した高純度のヒトァクチビン Aを簡便に単離、 精製でき、 かつ工業生産規模で ヒトァクチビンを製造できる方法の開発並びに高純度ヒトァクチビンの製造、 及 び提供にある。
発明の開示
本発明者等は上記課題解決に向けて鋭意検討を行った結果、 粗ヒ
として粗ヒトァクチビン Aについて検討を行った。
ヒトァクチビン Aの高生産遺伝子組み換え微生物培養中の不溶性顆粒体よりリ フォ一ルディングした粗ヒトァクチビン A溶液から、 ヒトァクチビン Aとその類
縁物質との電気的性質の差異を利用して分離するイオン交換クロマトグラフィー を確立することが最も適当と考えた。 その理由として、 イオン交換クロマトグラ フィ一は、 逆相クロマトグラフィーに比較してスケールアップが容易であり、 夕 ンパク質の工業的な大規模製造に最も適する方法であると考えた。
ところで、 江藤等は粗ヒトァクチビン Aを、 DEAE-トヨパール (東、ノ -製) 、 及 び Mono- Q (アマシャムフアルマシア) Γィォテク製) の 2種類の担体を使用する陰ィオン交換ク口 マ卜グラフィーで精製している (Biochemical and Biophysical Research Co醒 nications, 151, 230-235, 1988参照。 ) 。 しかし、 大量精製用カラム充填剤で ある DEAE— トヨパールを使用して精製した場合、 得られたヒトァクチビン Aの夕 ンパク質純度は約 2。/0と低く、 高性能な高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 力 ラムである Mono- Qを使用した場合でも約 5 5 %のタンパク質純度にとどまってい る。 何れも医薬品に適した純度のタンパク質純度を達成するためには全く不充分 な精製能力であった。 加えて、 何れのカラムを用いた場合でもヒトァクチビン A の回収率は低く (前者の回収率約 5 6 %、 後者の回収率約 6 3 %) 、 又希薄な溶 液で回収されるために、 そのまま工業的な生産に使用するのは不可能と結論した 。 以上のように、 従来知られた一般的な精製技術を使用して、 ヒトァクチビン A のイオン交換クロマトグラフィ一を工業的生産規模で実施することが極めて困難 なことは全く明らかだった。
本発明者等は、 上記課題を解決するために、 更に研究を進めた結果、 粗ヒトァ クチビン A溶液から、 必要により低分子不純物を除去後、 陽イオン交換クロマト グラフィ一を含む精製工程を使用することにより、 ヒトァクチビン Aを高度に精 製する方法を見出し、 この知見に基づき本発明を完成するに到った。
より詳しくは、 本発明によれば、 粗ヒトァクチビン、 特に粗ヒトァクチビン A 溶液に、 残留する場合必要によりリフォールディング試薬を一般的な方法により 除去した後、 好ましくは高濃度有機溶媒を含有させて、 カオトロビックイオン、 及び極めて低い pH緩衝液で平衡化された陽イオン交換カラムに負荷し、 カオトロ ピックィオンの濃度勾配溶出法によって、 電気的性質の異なる類縁体を高度に分 離除去し、 高純度のヒトァクチビン Aを得ることができる。
即ち、 ヒトァクチビン A遺伝子を導入した微生物を培養し、 産生されたヒトァ
クチビン A不溶性顆粒の可溶化、 リフォールディングより得られた活性な粗ヒト ァクチビン A溶液を精製する場合、 好ましくは低分子不純物を除去した後、 好ま しくは、 これを高濃度の有機溶媒、 極めて低い p H、 及びカオトロピックイオン の性質をもつ塩を組み合わせた条件の陽イオン交換クロマトグラフィ一に負荷し 、 カオトロピックイオン濃度勾配溶出により、 特に好ましくは宿主由来タンパク 質、 リフォールデイングしなかった会合凝集体、 及び電気的性質の異なる類縁体 の何れも効果的に除去することができ、 しかも濃縮ヒトァクチビン Aを高回収率 で取得可能である。
即ち、 本発明は粗ヒトァクチビンを、 陽イオン交換クロマトグラフィー、 特に 濃度勾配溶出法による陽イオン交換クロマトグラフィ一を含有する精製工程に付 して精製することにより純度が改善されたヒトァクチビンを製造する方法である 。 当該濃度勾配溶出法はカオトロピックイオンの濃度勾配溶出法が好ましい。 ヒトァクチビンの代表例としてヒトァクチビン Aを挙げることができる。 更に、 本発明には下記の内容も含まれる :
[1] 上記製造方法において、 水溶性有機溶媒の存在下及び/又は酸性下に陽ィ オン交換カラムクロマトグラフィーを行う上記製造方法。
[2] 上記 [1]の精製法において有機溶媒が低級アルコール、 ァセトニトリル、 ジ メチルスルホキシド及びジメチルホルムアミ ドの少なくとも 1種を含み、 その濃 度が低くとも 2 0容量%、 より好ましくは 2 0〜 6 0容量%である上記製造方法
[3] 上記製造方法において、 粗ヒトァクチビンが、 電気的に異なるその類縁体 、 宿主由来タンパク質、 宿主及び/又は培地由来の抗原性物質、 発熱物質等、 リ フオールディングに際してリフォ一ルディングしなかった会合凝集体、 遺伝子翻 訳ミスや翻訳後修飾不適切に基づく類縁体、 及び精製工程で生じるヒトァクチビ ン分解物、 修飾物等の少なくとも 1種を含む上記製造方法。
[4] 上記製造方法において、 粗ヒトァクチビンが、 ヒトァクチビン遺伝子を導 入した微生物を培養し、 産生されたヒトァクチビン不溶性顆粒の可溶化、 リフォ —ルディングより得られた活性な粗ヒトァクチビン由来の不純物の少なくとも 1 種を含有する粗ヒトァクチビンである上記製造方法。
[5] 上記製造方法において、 精製工程として低分子不純物を除去する精製工程 を組合せた上記製造方法。
[6] 精製工程として、 更にアルカリ性下に陰イオン交換クロマトグラフィ一に よる精製工程を含有する上記製造方法。
[7] 上記 [6]の製造方法において、 クロマトグラフィーが天然多糖をベースマト リックスとした陰イオン交換クロマトグラフィーを含む上記製造方法。
[8] ヒトァクチビン遺伝子を導入した微生物を培養し、 産生されたヒトァクチ ビン不溶性顆粒の可溶化、 リフオールディングより得られた活性な粗ヒトァクチ ビン溶液から低分子不純物を除去した後、 これを高濃度の有機溶媒とカオトロピ ックイオンを含む極めて低い p Hで平衡化された陽ィオン交換クロマトグラフィ 一に負荷し、 カオトロピックイオン濃度勾配溶出を行うことにより、 宿主由来夕 ンパク質、 リフォ一ルディングしなかった会合凝集体、 及び電気的性質の異なる 類縁体を効果的かつ高度に除去した濃縮ヒトァクチビンを高回収率で製造する方 法。
[9] 上記 [8]の製造方法において、 低分子物質の不純物を除去した後、 下記 2ェ 程を組み合わせることにより、 更に効率良く精製を行い粗ヒトァクチビン溶液か ら高純度のヒトァクチビンを製造する方法。
( i ) 当該一部精製物を極めて高い p H条件で平衡化された天然多糖をべ一スマ トリックスとした陰イオン交換クロマトグラフィーに負荷し、 塩濃度上昇、 p H 低下、 及び有機溶媒を添加した緩衝液へ置換することにより、 宿主由来タンパク 質、 リフォールデイングしなかった会合凝集体、 電気的性質の異なる類縁体の何 れも概ね除去した濃縮ヒトァクチビン Aを定量的に回収する工程;、
( i i ) 上記 (i ) で得られた回収画分の緩衝液を置換した後、 有機溶媒を含む 極めて高い p Hで平衡化された陰イオン交換クロマトグラフィ一に負荷し、 塩濃 度勾配、 及び p H勾配 (p H低下) を施すことにより、 宿主由来タンパク質、 及 び電気的性質の異なる類縁体の何れも概ね除去した濃縮ヒトァクチビンを高回収 率で得る工程;及び上記 (i i ) で得られた回収画分の緩衝液を置換した後、 前 記陽ィオン交換クロマトグラフィ一の精製工程を行う製造方法。
[10] 上記本発明及び [1]乃至 [9]の製造方法において得られた純度が改善したヒ
トァクチビン及び純度が低くとも 99 %の高純度ヒ
[11] その純度が低くとも 99%で、 不純物として電気的性質を異にするヒトァ クチビン類縁体を実質的に含まないヒトァクチビン。
[12] 上記本発明及び [1]乃至 [9]の製造方法並びに上記 [10]及び [11]においてヒ トァクチビンがヒトァクチビン Aである発明。
[13] 上記本発明及び本発明により得られる、 又は得られうる純度が改善したヒ トァクチビン、 特にこのようなヒトァクチビン Aを含有する骨粗鬆症改善治療薬 その他の医薬製剤。
図面の簡単な説明
(図 1)
本発明の実施例 1で実施の陽イオン交換クロマ卜グラフィ一の結果を示す図で ある。 横軸は保持時間 (分) を表す。
1. 8mM HC 1に溶解したヒトァクチビン A6mgを陽イオン交換クロマ トグラフィ一 (リソース— S ;アマシャムフアルマシア/ ィォテク製) に負荷し、 塩濃度勾配溶 出に供した。 図中、 「一」 部分を回収した。
図中、 aは N a C 1濃度勾配溶出法、 bは N a C 104濃度勾配溶出法による。 (図 2)
実施例 2において実施の陰イオン交換クロマトグラフィ一の結果を示す図であ る。 横軸は保持時間 (分) を表す。
2 OmM NaC lを含む 20mM 1 , 3—ジァミノプロパン/ H C丄に溶 解したヒトァクチビン A 36mgを陰イオン交換クロマトグラフィー (Q—セフ ァロース F F;アマシャムフアルマシアハ、、ィォテク製) に負荷し、 12 %ァセトニトリル、 0. 1M NaCl、 2 OmM 1, 3—ジァミノプロパン/ H C 1に置換した。 図 中、 「一」 部分を回収した。
(図 3)
実施例 2において 2回目の実施の陰イオン交換クロマトグラフィ一の結果を示 す図である。 横軸は保持時間 (分) を表す。
2 OmM 1, 3—ジァミノプロパン/ HC 1に溶解したヒトァクチビン A6 m gを陰イオン交換クロマトグラフィー (リソース Q;アマシャムフアルマシアハ、、ィォテク製)
に負荷し、 塩濃度と pHの勾配溶出に供した。 図中、 「一」 部分を回収した。 (図 4)
実施例 2において実施の陽イオン交換クロマトグラフィ一の結果を示す図であ. る。 横軸は保持時間 (分) を表す。
1. 8mM HC 1に溶解したヒトァクチビン A6mgを陽イオン交換クロマ トグラフィ一 (リソース一 S ;ァマシャムフアルマシアハ、、ィォテク製) に負荷し、 塩濃度勾配溶 出に供した。 図中、 「―」 部分を回収した。
(図 5)
実施例 2で実施の精製されたヒトァクチビン A画分の逆相 HPLCの結果を示す図 である。 横軸は保持時間 (分) を表す。
精製されたヒトァクチビン A7 /gを逆相 HPLC (NucleosilC 8; GLサイェン ス製) に負荷し、 ァセトニトリル濃度勾配に供した。 保持時間約 1 7. 5分に検 出されたピークはヒトァクチビン Aによる。
(図 6)
実施例 2で実施の精製されたヒトァクチビン A画分の陽イオン交換 HPLCの結果 を示す図である。 横軸は保持時問 (分) を表す。
精製されたヒトァクチビン A 1 2 /gを陽イオン交換 HPLC (SP-NPR;東ソ一製 ) に負荷し、 塩濃度勾配溶出に供した。 保持時間約 1 0分に検出されたピークは ヒトァクチビン Aによる。
(図 7)
実施例 2で実施の精製されたヒトァクチビン A画分の陰ィォン交換 HPLCの結果 を示す図である。 横軸は保持時間 (分) を表す。
精製されたヒトァクチビン A 1 2〃gを陰イオン交換 HPLC (DEAE- NPR;東ソー 製) に負荷し、 塩濃度勾配溶出に供した。 保持時問約 7分に検出されたピークは ヒトァクチビン Aによる。
(図 8)
実施例 2で実施の精製されたヒトァクチビン Aの SDS- PAGEの結果を示す図であ る。
精製されたヒトァクチビン A2 l jug 及び 2 1 ngを定法に従った SDC- PAGE
(Phast System ; アマシャムフアルマシア/ Γィォテク製) に供した。 分子量約 26000の易動 度に検出されたバンドはヒトァクチビン Aによる。
レーン 1 ; 6種分子量の標準タンパク質 (94000, 67000, 43000 , 30000, 20000, 及び 14400) 混合溶液 (分子量キヤリブレーシ ヨンキット LMW;アマシャムフアルマシアハ、、ィォテク製) 、 レーン 2 ;精製されたヒトァクチ ビン A 21〃g、 及びレーン 3 ;精製されたヒトァクチビン A21 ngo (図 9)
実施例 2及び従来法 (特開平 2 _ 255098号公報参照。 ) で得られたタン パク質純度比較の結果を示す図である。
実施例 2及び従来法 (特開平 2— 255098号公報参照。 ) で得られたヒト ァクチビン A 12 を8?-^!1カラムを使用する陽ィォン交換1^ に供し、 タン パク質純度を比較した。
図中、 aは実施例 2, bは従来法による。
実施の形態
本発明の実施の形態について、 以下に精製ヒトァクチビン Aの製造を中心に詳 細に説明する。
本発明に使用する出発物質である粗ヒトァクチビンには、 粗ヒトァクチビン A 等各種ァクチビンの粗生成物が含まれる。 従って、 各種不純物で通常の精製手段 では分離困難な不純物を少なくとも 1種含む粗ヒトァクチビンであればよい。 不 純物の種類としては特に制限されないが、 電気的に異なるその類縁体、 宿主由来 タンパク質、 宿主及び/又は培地由来の抗原性物質、 発熱物質等、 リフォールデ イングに際してリフォールデイングしなかった会合凝集体、 遺伝子翻訳ミスや翻 訳後修飾不適切に基づく類縁体、 及び精製工程で生じるヒトァクチビン分解物、 修飾物等何れも効果的に分離できる点で優れており、 特に電気的性質を異にする 類縁体の高度分離に適している。
上記ヒトァクチビン A精製原料に含有される類縁物質について具体的には、 上 記した通り、 大きく分けて、 培養が終了した段階で既に含まれている類縁物質 ( 大腸菌が誤ったアミノ酸を取り込んだしまったり、 タンパク質が合成された後に 大腸菌の持つ酵素によって異常な修飾を受けることに原因) 、 精製途中に生じる
類縁物質 (リフォールディングゃクロマトグラフィーにおいて修飾を受けること に原因) の 2通りがある。 本発明で使用する精製技術は、 リフォールデイングの 最中に生じてしまう修飾物 (特に高 p H値下で生じる脱アミ ド反応物、 例えば分 子内のァスパラギンがァスパラギン酸に変化したもの) をヒトァクチビン Aから 分離除去するのに、 特に効果を発揮する。 従って、 本発明の精製について、 特に ヒトァクチビン Aを微生物に変性状態で生産させ、 人為的にリフォールディング させた場合に特に有効である。
被精製物としてヒトァクチビン Aの場合を例として、 以下に説明する。
ヒトァクチビン Aの遺伝子を組み込んだ微生物から得られる不溶性顆粒体を還 元変性抽出後、 国際出願公開第 WO 9 7 / 2 3 6 3 8号公報に記載の方法に基づ いてリフォ一ルディングした粗ヒトァクチビン A溶液を使用することができる。 この場合、 まず、 粗ヒトァクチビン A溶液から低分子の不純物を分離する方が好 ましく、 その場合の低分子不純物の除去方法については低分子不純物の除去方法 として知られている方法を採用することができ、 簡便には例えば限外濾過法、 ゲ ル濾過クロマトグラフィー法、 透析法等、 一般的に緩衝液置換する方法を使用す ればよい。 その際、 事前に粗ヒ トァクチビン A溶液を希釈し、 分子分画量 1 0 0 0 0程度の膜を使用した濃縮操作により、 出発原料中の不純物の種類や含量に関 係なくスケールアップが可能となる。
本発明の精製ヒトァクチビンの製造方法は、 粗ヒトァクチビンを、 濃度勾配溶 出法による陽イオン交換クロマトグラフィー、 特にカオトロピックイオンの濃度 勾配溶出法により、 精製して、 純度を改善したヒ トァクチビンを製造する方法で ある。
カオトロピックイオンとはタンパク質の高次構造を壊す効果をもつ塩類のこと である。 N a S C Nや N a C 1 04のように、 低分子非電解質、 蛋白等の水に対 する溶解度を高める、 蛋白や核酸の高次構造を破壊して変性させる等の性質を持 つイオン (蛋白質 ·酵素の基礎実験法、 PP63 (改訂第 2版;堀尾武ー編、 南光堂 、 1994年参照。 ) であり、 このような性質は、 塩が解離して生じたイオンによつ て水の構造が破壊され、 疎水性物質と水が接触したときに生じる、 水のェントロ ピ一の減少が抑制されるためであると考えられている。
このように低分子除去した画分を酸性下、 望ましくは pH2〜4程度 (より望 ましくは pH2. 5〜3. 5程度) に調整した後、 水溶性有機溶媒、 好ましくは 高濃度水溶性有機溶媒 (例えば、 20 ~ 60 %の有機溶媒、 好ましくはエタノー ル、 イソプロパノール等炭素数 1〜4の低級アルコール、 ァセトニトリル、 ジメ チルスルホキシド及びジメチルホルムアミ ド等) と 0. 2M以下のカオトロピッ クイオンの性質をもつ塩 (例えば、 NaC104、 KC1〇4等の過塩素酸塩、 NaSCN、 KS CN等のチォシアン酸塩等) を含む酸性下、 望ましくは pH 2 ~4程度 (より望ましくは pH2. 5〜3. 5程度) で平衡化された陽イオン交 換カラム (例えば、 リソース一 S;ァマシャムフアルマシアハ、'ィォテク製) に負荷し、 塩濃度勾 配によって溶出する。 塩濃度勾配は 10カラム容量以上かけて 0. 2〜0· 4M 程度まで塩濃度を上げることで、 電気的性質の異なる類縁体等が効果的に除去さ れた高濃度のヒトァクチビン Aを高回収、 製造可能となる。
尚、 上記の陽イオン交換クロマトグラフィーでの精製負担を軽減する為、 陽ィ オン交換クロマトグラフィ一適用前に、 好ましくは以下のように 2段階の陰ィォ ン交換クロマトグラフィーを用いて原料由来の不純物ゃリフォールディングまで に生成した不純物を概ね除去しておくことが精製効率を上げるために極めて有利 である。
低分子不純物を除去した後 (望ましくは、 ゲル濾過クロマトグラフィー法によ り、 pH9. 5〜10. 5程度の緩衝液に置換) 、 5 OmM以下の塩 (例えば、 NaC 1使用。 ) を含む pH9. 5〜: L 0. 5程度の緩衝液 (例えば、 20 mM 1, 3-ジァミノプロパン/ HC 1使用。 ) で平衡化された天然多糖をベースマト リックスとした陰イオン交換カラム (例えば、 Q—セファロ一ス FF;アマシャムフアル マシアハ' ォテク製) に 6mg/mlゲル程度負荷し、 5カラム容量程度の平衡化緩衝 液で洗浄した後、 水溶性有機溶媒 (例えば、 5〜 25%の濃度で、 エタノール、 イソプロパノール等炭素数 1〜4の低級アルコール、 ァセトニトリル、 ジメチル スルホキシド及びジメチルホルムアミ ド等の使用。 ) と 0. 1M以上の塩 (例え ば、 NaC 1使用。 ) を含む pH8. 5〜9. 5程度の緩衝液 (例えば、 20m M 1,3-ジァミノプロパン/ HC1) に置換することにより、 モノマ一や会合 凝集体を概ね除去し、 かつ lmg/ml以上に濃縮されたヒトァクチビン A画分
を得ることができる。 この画分を pH9. 5〜10. 5程度の緩衝液 (例えば、 2 OmM 1,3-ジァミノプロパン/ HC 1) に置換した後、 有機溶媒 (例えば 、 5〜25%の有機溶媒、 好ましくはメタノール、 イソプロパノール等低級アル コール、 ァセトニトリル、 ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミ ド等) と 5 OmM以下の塩 (例えば、 NaC l使用。 ) を含む ρΉ9. 5〜10. 5程 度の緩衝液 (例えば、 20mM 1, 3-ジァミノプロパン/ HC 1) で平衡化さ れた陰イオン交換カラム (例えば、 リソース一 Q;アマシャムフアルマシアハ'、ィォテク製) に 5 mg/mlゲル程度負荷する。 10カラム容量以上かけて塩濃度を 0. 1 M以上 に上げるのと同時に pHを 8. 5〜9. 5程度まで下げることにより、 陽イオン 交換クロマトグラフィ一で分離除去困難な類縁体を除去することができる。 最終精製工程として、 この画分を例えば実施例 1に従った陽イオン交換クロマ トグラフィ一精製することにより、 電気的性質が単一なヒトァクチビン Aを高濃 度状態で高回収、 製造できる。 かつ、 これらクロマトグラフィーに用いる充填剤 の粒径は大きく、 直線的にカラム容量を向上させることでスケールアツプが可能 である。
尚、 最終的に得られた画分の純度について、 逆相 HPLC (例えば、 NucleosilC 8 ; GLサイ Iンス製使用。 ) 、 陰イオン交換 HPLC (例えば、 DEAE- NPR;東リ-製使用。 ) 、 陽イオン交換 HPLC (例えば、 SP- NPR;東、ノ-製使用。 ) 、 及び SDS- PAGE等で確 認できる。
このようにして得られるような高純度のヒトァクチビンは、 前記のような医薬 製剤の形態で容易に使用することができるが、 製剤の製造については製剤の分野 で通常利用可能な製剤技術を使用して行うことができる。
好適な実施の形態
以下、 実施例により本発明を具体的に説明する。
(実施例 1 )
ヒトァクチビン A遺伝子を導入した組み換え大腸菌から得られる変性ヒトァク チビン Aを国際出願公開第 WO 97/23638号公報記載内容に従ってリフォ —ルディングした。 このリフォールデイング溶液 25 Oml (タンパク質 12m g) に H20を等量添加した後、 分子分画量 10000の膜 (フィルトロン製 「
オメガ」 ) を使用して初期容量の約 13分の 1になるまで濃縮した。 この膜濃縮 操作において、 タンパク質を 1 1. 5mg回収し (回収率 96%) 、 逆相 HPLCで 求めた画分のタンパク質純度は 68%であった。
これを 1. 8mM HC 1で平衡化されたセフアデックス G— 25M (2.60 X 20 cm;アマシャムフアルマシア; Γィォテク製) に負荷し、 A280で検出されたタンパク質を 1 1 . 3mg回収した (回収率 98%) 。 この画分 5mgを 40%ァセトニトリル、 0. 18M NaC 104、 20 mMクェン酸ナトリウム、 pH3. 0緩衝液に 平衡化されたリソース一 S (0.5 X 5 cm;アマシャムフアルマシアハ、'ィォテク製) に負荷し、
6 mlの平衡化緩衝液で洗浄した後、 流速 1. 5 m 1 /m i nで 1 1分後に 0. 24 Mになるような N a C 104濃度勾配に供した。 A280にて検出されたタンパ ク質を 3. 7mg回収した (回収率 74%;図 1 bのクロマトグラフィー参照。 尚、 溶出塩として、 NaC 104の代わりに NaC 1を用いた陽イオン交換ク ロマトグラー'ィ一を実施したところ (塩の種類と濃度以外は全て同じ) 、 NaC 104を用いた場合に比べて前方に分離されていた不純物の分離能が低下し (図 1 aのクロマトグラフィ一参照。 ) 、 それだけ回収率も低下した (回収率 51 %
(実施例 2)
実施例 1と同じ条件を使用して、 リフォ一ルディング溶液から膜濃縮画分 37 . Omgを得た。 これを、 30mM N a C 1を含む 20 mM 1 , 3 -ジアミノブ 口パン/ HC 1で平衡化されたセフアデックス G— 25M (1.6^ x 10 cm;アマシ ャムフアルマシア ィォテク製) に負荷し、 A280で検出されたタンパク質を 36. 3mg回収 した (回収率 98%) 。 この画分 36. Omgを 30mM N a C 1を含む 20 mM 1 , 3-ジァミノプロパン/ HC 1 (p H 10 ) で平衡化された Q—セファ ロース FF (1.6 φ X 3 cm;アマシャムファルマシアハ、、ィ才テク製) に負荷し、 置換した。 約 3 Omlの平衡化緩衝液で洗浄した後、 0. 3M NaC Is 12%ァセトニトリ ル、 20mM 1,3-ジァミノプロパン/ HC 1 (pH9. 0 ) 緩衝液へ置換す ることにより、 A280で検出されたタンパク質を 34. 9mg回収した (回収率 9
7 %;図 2参照。 ) 。
この回収画分について、 逆相 HPLC (NucleosilC 8 ; GLサイエンス製) 、 陰イオン交 換 HPLC (DEAE- NPR;東、ノ-製) 、 及び陽イオン交換 HPLC (SP- NPR;東、ノ-製) より得 られるタンパク質純度は各々 97%、 65%、 75%であった。 この画分 34m gを 20mM 1, 3-ジァミノプロパン/ HC 1 ( p H 10 ) で平衡化されたセ フアデックス G— 25M (1.6^ X 17 cm;アマシャムフアルマシア; ィォテク製) に負荷し、 A2 80で検出されたタンパク質 33. 3 mgを回収した (回収率 98%) 。 この画分 5mgを 10%ァセ トニトリル、 30mM NaC l、 2 OmM 1, 3-ジアミ ノプロパン/ HC 1、 H 9. 8で平衡化されたリソース一 Q (0.5 X 5cm;ァ マシャムフアルマシア ィォテク製) に負荷した。
約 6 m 1の平衡化緩衝液で洗浄した後、 流速 1. 5 m 1 /m i nで 1 1分後に 10%ァセ 卜二卜 リル、 0. 3M Na C 1, 20 mM 1, 3-ジァミノプロパ ン /HC 1、 pH9. 0緩衝液組成になるような NaC 1濃度勾配、 及び pH勾 配に供した。 この操作を 2回繰り返し、 A280で検出されたタンパク質を合計で 5 . 5mg回収した (回収率 55%;図 3参照。 ) 。
この画分について、 陰イオン交換 HPLC (DEAE- NPR;東、ノ-製) 、 及び陽イオン交 換 HPLC (SP- NPR;東、ノ-製) で求めたタンパク質純度は各々 99%、 88 %であつ た。 これを 1. 8mM HC 1で平衡化されたセフアデックス G— 25M (1.6 φ X 5 cm;アマシャムフアルマシア) ィォテク製) カラムに負荷することにより、 A280で検出さ れたタンパク質を 5. 4mg得た (回収率 98%) 。 この画分 5mgを実施例 1 に従ってリソース一 S (0.50 X 5 cm;アマシャムフアルマシアハ、、ィォテク製) に負荷し、 A280 で検出されたタンパク質を 3. 9mg回収した (回収率 78%;図 4参照。 ) 。 これを 1. 8mM HC 1で平衡化されたセフアデヅクス G— 25M
5 cm;アマシャムフアルマシアハ、、ィォテク製) に負荷し、 A280で検出されたタンパク質を 3. 9 mg回収した (回収率 99%) 。 この画分について、 逆相 HPLC (NucleosilC 8 ; GLサイ Iンス製) 、 陰イオン交換 HPLC (DEAE-NPR;東リ-製) 、 陽イオン交換 HPLC (S P-NPR;東、ノ -製) 、 及び SDS-PAGEを実施した結果を図 5〜8に示した。 逆相 HPLC (図 5参照。 ) 、 陽イオン交換 HPLC (図 6参照。 ) 、 及び陰イオン交換 HPLC (図 7参照。 ) において、 ヒトァクチビン Aのピーク以外にピークは認められず、 こ れ等分析手法において、 不純物が検出されなかったことを確認した。 又、 SDS-PA
GE (図 8参照。 ) においても、 ヒトァクチビン Aを 2 . l〃g負荷したレーンに おいて (レーン 2 ) 、 ヒトァクチビン A以外のバンドは検出されなかった。 ヒト ァクチビン Aを 2 1 n g負荷したレーン 3でヒトァクチビン Aのバンドが検出さ れたことと併せて、 レーン 2に含まれる不純物は 1成分として、 0 . 1 %以下で あることを確認した。
尚、 表 1には実施例 1に記載した膜濃縮操作を含めた本実施例の結果概要、 表 2には図 5〜 8の各種 HPLC、 及び SDS- PAGE分析条件をそれぞれ示した。
従来の精製法 (特開平 2— 2 5 5 0 9 8号公報参照。 ) により得られた精製ヒ トァクチビン Aと本実施例 2で得られた精製ヒトァクチビン Aのタンパク質純度 を、 陽イオン交換 HPLCを使用して比較した (図 9参照。 ) 。 従来法 (図 9 b ) で は、 精製ヒ トァクチビン Aの他に約 2 %の不純物が残留したが、 本実施例 2 (図 9 a ) による精製ヒ トァクチビン Aには不純物は検出されず、 純度は低くとも 9 9 %と考えられ、 本精製法の有用性が示された。
【表 1】 ヒ
(*);実施例 1に従って膜濃縮を実施した精製結果
【表 2】 各種 HPLC分析、 及び SDS- PAGE分析条件
( 1 ) 逆相 HPLC
カラム : Nucleosil 300-5C8 (4.6 瞧 φ X 100腿 ; GLサ仃ンス製)
Α溶媒: 0. 1 3%ヘプ夕フルォロ酪酸
B溶媒: 0. 1 3%ヘプタフルォロ酪酸、 80%ァセトニトリリレ
溶出プログラム : —時間 一 A溶媒 B溶媒 ―
0分 6 5% 35%
1 6 2 5 75
1 7 1 0 90
18 0 1 00
22 0 1 0 0
^i : 1 m 1/m l n
負荷量:ヒトァクチビン A Ί S
検出: UV吸収 (280nm)
HPLCシステム:低圧グラジ. ント用 HPLCシステム (日立製作所製)
(2) 陽イオン交換 HPLC
カラム : SP- NPR (4.6 腿 φ X 30 mm;東ソ-製)
A溶媒: 40%ァセトニトリル、 2 OmMクェン酸ナ卜リウム (pH 3. 0) B溶媒: 40%ァセトニトリル、 0. 1M NaC 104、 2 0 mM
クェン酸ナトリウム (pH 3. 0)
溶出プログラム : —時間 一 A溶媒 ― B溶媒
0分 7 0% 3 0%
1 70 30
5 0 50
0 1 0 0
1 3 0 1 00
ヒトァクチビン A 7 g
流速、 検出、 HPLCシステムは上記 ( 1 ) _と同じ。
(3) :換 HPLC
カラム DEAE-NPR (4.6 匪 φ χ 30 匪、 東リ-製)
A溶媒 1 0%ァセトニトリル、 2 OmM 1 , 3- d i ami no p r o p an e/HC l ( H 1 0 )
B溶媒 1 0%ァセトニトリル、 0. 5M NaC l、 20 mM
1, 3 - d i am l n o p r o p a n e H C 1 vp H 9 ) 溶出プログラム:一時間 ― A溶媒— B溶媒 _
0分 1 0 0% 0%
1 1 00 0
1 1 0 1 00
1 3 0 1 00
流速、 検出、 負荷量、 及び HPLCシステムは上記 (2) と同じ。
(4) SDS-PAGE
全自動電気泳動システム、 PhastSystem ( シャムフアル 7シ)7 /、ィォテク製) ュ- -ザ一マ二ユア ルに記載された SDS- PAGE法に従った (染色はジァミン銀染色法) 。 ―
上記図 8、 表 1及び 2の結果から明らかなように、 本発明の製造方法における 精製法を利用すれば高純度に精製されたヒトァクチビンを製造、 取得できること が分かる。 その純度についても、 図 8の電気泳動分析の結果からは、 1, 000 分の 1のオーダ一で不純物を含まないと考えられるので、 その純度は低くとも 9
9. 9%、 即ち 99. 9%以上の高純度と考えられる。
発明の効果
粗ヒ卜ァクチビンを、 濃度勾配溶出法による陽イオン交換クロマトグラフィー を含有する精製工程に付する本発明の製造方法により、 従来法では得られなかつ たような高純度のヒトァクチビンを工業的に製造することができるので、 医薬用 途への使用が期待できる。