JPWO2020138186A1 - 塗料組成物キットおよびその用途 - Google Patents

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Abstract

シロキサン系結合剤(A)、カオリン(B)およびモース硬度が5以上の顔料(C)を含有する第1剤と、亜鉛粉末(X)を含有する第2剤とを有する塗料組成物キット。

Description

本発明は、塗料組成物キットおよびその用途に関する。
無機ジンクリッチペイントは、バインダー成分としてシリケートの加水分解縮合物等の無機系樹脂を含み、亜鉛粉末を多量に含む塗料組成物であり、例えば1液1粉末型の塗料組成物キットが知られている。無機ジンクリッチペイントは、亜鉛による犠牲防食作用や腐食環境中でのバリヤー性の高い酸化被膜の形成によって、鋼材の腐食を防ぐことができ、船舶や橋梁等の大型鉄鋼構造物の防食用途に広く使用されている。
無機ジンクリッチペイントの一例は、バインダー成分としてシリケートの加水分解縮合物を含み、水分によって硬化が進むことが知られている。
ところで、無機ジンクリッチペイントは、鋼材のボルト締め結合部に、接合面のすべり摩擦力を高めるために塗布されることがある。このような場合、すべり係数としては0.4〜0.5が一般的であるが、特許文献1には、すべり係数が0.5を超えるジンクリッチ塗料組成物が開示されている。
特開2003−306638号公報
本発明者らが検討したところ、無機ジンクリッチペイントの塗膜のすべり係数を高くするために、亜鉛粉末と体質顔料や特殊顔料とを混合した混合粉末を有する塗料組成物キットを製造しようとした場合、混合粉末製造時に分級しなければならず、顔料によっては粉末同士の混合不良が起きやすく、分級が困難となって時間が掛かり、コストも高くなって経済的ではないことがわかった。
一方、バインダー成分を含有する第1剤と亜鉛粉末を含有する第2剤とを有する塗料組成物キットにおいて、第1剤中に前記顔料を分散させると、貯蔵安定性が悪化するという問題があることがわかった。例えば、塗膜のすべり係数を高くするために特許文献1に記載の高硬度顔料を第1剤中に添加すると、貯蔵安定性が悪化する。無機ジンクリッチペイントとしては、12ヵ月という長期に亘って貯蔵することが必要となることがあり、第1剤の貯蔵安定性が悪化することは問題となる。
本発明の課題は、長期貯蔵安定性に優れるとともに、例えば鋼材のボルト締め接合部におけるすべり係数に優れる塗膜を形成することのできる塗料組成物キットを提供することにある。
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有する塗料組成物キットにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の[1]〜[10]に関する。
[1]シロキサン系結合剤(A)、カオリン(B)およびモース硬度が5以上の顔料(C)を含有する第1剤と、亜鉛粉末(X)を含有する第2剤とを有する塗料組成物キット。
[2]前記シロキサン系結合剤(A)の重量平均分子量(Mw)が、500〜10,000である前記[1]に記載の塗料組成物キット。
[3]前記シロキサン系結合剤(A)が、テトラアルコキシシランおよびアルキルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物(A1)の縮合物である前記[1]または[2]に記載の塗料組成物キット。
[4]前記顔料(C)が、黄色酸化鉄、カリ長石およびシリカから選択される少なくとも1種を含む前記[1]〜[3]のいずれかに記載の塗料組成物キット。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗料組成物キットにおける前記第1剤と前記第2剤とを少なくとも混合して得られた塗料組成物。
[6]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗料組成物キットにおける前記第1剤と前記第2剤とを少なくとも混合する工程を有する、塗料組成物の製造方法。
[7]前記[5]に記載の塗料組成物から形成された塗膜。
[8]基材と、前記[7]に記載の塗膜とを有する、塗膜付き基材。
[9]前記基材が、鉄鋼構造物を構成する鋼材である前記[8]に記載の塗膜付き基材。
[10]鋼材と、前記鋼材のボルト締め接合部における接合面に形成された前記[7]に記載の塗膜とを有する、塗膜付き鋼材。
本発明によれば、長期貯蔵安定性に優れるとともに、例えば鋼材のボルト締め接合部におけるすべり係数に優れる塗膜を形成することのできる塗料組成物キットを提供することができる。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本明細書において、本発明の一実施形態に係る塗料組成物キットを「本実施形態の塗料組成物キット」ともいい、本実施形態の塗料組成物キットにおける第1剤と第2剤とを少なくとも混合して得られた塗料組成物を「本実施形態の塗料組成物」ともいい、本実施形態の塗料組成物から形成された塗膜を「本実施形態の塗膜」ともいう。
本明細書において、「すべり係数」とは、「鋼構造接合部設計指針」(第3版、社団法人日本建築学会、2012年)の「付7 すべり係数評価試験法」に基づいて測定されたすべり係数をいう。
[塗料組成物キットおよび塗料組成物]
本実施形態の塗料組成物キットは、第1剤と第2剤とを有する。
第1剤は、シロキサン系結合剤(A)、カオリン(B)およびモース硬度が5以上の顔料(C)を含有する。
第2剤は、亜鉛粉末(X)を含有する。
本実施形態の塗料組成物キットは、分包型キットであり、一実施態様において、液状の第1剤と粉末状の第2剤とからなる1液1粉末型のキットである。
≪第1剤≫
本実施形態では、シロキサン系結合剤(A)を含む第1剤が、カオリン(B)およびモース硬度が5以上の顔料(C)を含有することから、第2剤の調製時に、亜鉛粉末(X)とカオリン(B)およびモース硬度が5以上の顔料(C)とを混合して分級する工程を必要としない。
第1剤は、液状であることが好ましい。
<シロキサン系結合剤(A)>
第1剤は、シロキサン系結合剤(A)を含有する。シロキサン系結合剤(A)は、通常、シリケートの縮合物であり、具体的にはシリケートを加水分解縮合して得られる化合物である。
シロキサン系結合剤(A)としては、例えば、テトラアルコキシシランおよびアルキルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物(A1)の縮合物が挙げられ、具体的には前記化合物(A1)および/またはその低縮合物の、部分加水分解縮合物が挙げられる。
前記テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ−n−プロピルオルトシリケート、テトラ−i−プロピルオルトシリケート、テトラ−n−ブチルオルトシリケート、テトラ−sec−ブチルオルトシリケートが挙げられ;前記アルキルトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のメチルトリアルコキシシランが挙げられる。
前記化合物(A1)の低縮合物としては、例えば、メチルポリシリケート、エチルポリシリケート等の、前記テトラアルコキシシランの低縮合物が挙げられる。低縮合物とは、縮合度2〜20(ケイ素原子数2〜20)の縮合物をいう。
前記低縮合物としては、テトラエチルオルトシリケートの低縮合物が好ましく、テトラエチルオルトシリケートの低縮合物としては、例えば、「エチルシリケート45」、「エチルシリケート40」および「エチルシリケート48」(以上、コルコート(株)製)、「シリケート45」および「シリケート40」(以上、多摩化学工業(株)製)、「TES40WN」(以上、旭化成ワッカーシリコーン(株)製)が挙げられる。シロキサン系結合剤(A)としては、エチルシリケート40(商品名;コルコート(株)製)の部分加水分解縮合物が特に好ましい。
第1剤中に含まれるシロキサン系結合剤(A)の重量平均分子量(Mw)は、通常は500〜10,000、好ましくは700〜9,000、より好ましくは800〜5,000である。シロキサン系結合剤(A)のMwが500以上であれば、本実施形態の塗料組成物の乾燥性が高くなると共に、本実施形態の塗膜の防食性が高くなる傾向にある。一方、シロキサン系結合剤(A)のMwが10,000以下であれば、第1剤の貯蔵安定性が良好となり、また本実施形態の塗料組成物が過厚膜に塗装された場合に塗膜割れが発生しにくい傾向にある。
シロキサン系結合剤(A)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。GPC法によって得られる値は、ポリスチレンを標準物質として作成された検量線を使用して求めた値(ポリスチレン換算値)である。
第1剤は、1種または2種以上のシロキサン系結合剤(A)を含有することができる。
シロキサン系結合剤(A)は、従来公知の方法を利用して製造することができ、例えば、前記化合物(A1)および/またはその低縮合物を有機溶剤中で適量の水および必要に応じて触媒の存在下で重量平均分子量(Mw)が所望の値になるように部分加水分解縮合反応させることにより製造することができる。
有機溶剤としては、例えば、後述する<有機溶剤>欄に記載の有機溶剤が挙げられる。
水の使用量は、前記化合物(A1)および/またはその低縮合物100質量部に対して、通常は5〜11質量部、好ましくは5.5〜9質量部である。
触媒としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸;蟻酸;ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジマレエート、ジオクチルスズマレエート、オクチル酸スズ等の有機スズ化合物;リン酸、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノデシルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジデシルホスフェート等のリン酸又はリン酸エステル;ジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタニウム等の有機チタネート化合物;トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム等の有機アルミニウム化合物;テトラブチルジルコネート、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトライソブチルジルコネート、ブトキシトリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物が挙げられる。これらの中でも、第1剤の貯蔵安定性が良いという点から、無機酸が好ましく、塩酸がより好ましい。
触媒を使用する場合のその使用量は、前記化合物(A1)および/またはその低縮合物100質量部に対して、通常は0.01〜2.0質量部、好ましくは0.02〜1.0質量部である。
シロキサン系結合剤(A)の製造時に、後述するホウ素化合物を用いることができる。シロキサン系結合剤(A)にホウ素化合物由来の構造を導入することにより、本実施形態の塗料組成物の乾燥硬化性を向上させることができる。
ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、三酸化ホウ素が挙げられる。
ホウ素化合物を使用する場合のその使用量は、前記化合物(A1)および/またはその低縮合物100質量部に対して、通常は0.3〜11質量部、好ましくは1.5〜7質量部である。
シロキサン系結合剤(A)の含有割合は、前記シロキサン系結合剤(A)の質量をSiO2の質量に換算し(すなわち、前記シロキサン系結合剤(A)の質量を前記シロキサン系結合剤(A)に含まれるSi原子の物質量(mol)と同量のSiO2の質量に換算し)、本実施形態の塗料組成物の固形分量を100質量%とすると、通常は1〜15質量%、好ましくは2〜10質量%、より好ましくは3〜8質量%である。
また、シロキサン系結合剤(A)の含有割合は、前記シロキサン系結合剤(A)の質量をSiO2の質量に換算し(すなわち、前記シロキサン系結合剤(A)の質量を前記シロキサン系結合剤(A)に含まれるSi原子の物質量(mol)と同量のSiO2の質量に換算し)、第1剤の固形分量を100質量%とすると、通常は10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%である。
シロキサン系結合剤(A)の含有割合が前記範囲にあると、本実施形態の塗膜は、防食性、耐割れ性、および基材との付着性に優れる。
なお、本実施形態の塗料組成物または第1剤の固形分とは、溶剤等の揮発成分を含有する塗料組成物または第1剤を熱風乾燥機中で下記条件下で加熱した残分(加熱残分)を意味する。塗料組成物および第1剤の加熱残分は、JIS K 5601 1−2の規格(加熱温度:125℃、加熱時間:60分)に従い測定することができる。
シロキサン系結合剤(A)の加水分解率は、好ましくは35〜75%、より好ましくは38〜55%である。シロキサン系結合剤(A)の加水分解率が前記範囲内にあることによって、より優れた貯蔵安定性を有する第1剤を得ることができ、また、乾燥性や、過厚膜とした場合の耐割れ性にもより優れた塗料組成物を得ることができる。
加水分解率(%)は、シロキサン系結合剤(A)が前記化合物(A1)および/またはその低縮合物の、部分加水分解縮合物である場合に、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシランおよび前記低縮合物に含まれる反応基(アルコキシ基)の反応率を意味し、以下の式1によって算出することができる。
加水分解率(%)=(W/18×2/(S/E))×100 (式1)
式1において、Wはシロキサン系結合剤(A)調製時に用いた水の質量(g)であり、Sはテトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシランおよび前記低縮合物の質量(g)であり、Eはテトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシランおよび前記低縮合物の反応基当量である。
<カオリン(B)>
第1剤は、カオリン(B)を含有する。理由は定かではないが、塗膜のすべり係数を向上させるためにモース硬度が5以上の顔料(C)をシロキサン系結合剤(A)を含有する第1剤に含めると、その長期貯蔵安定性が低下するところ、第1剤にカオリン(B)をさらに含めることで、第1剤が優れた長期貯蔵安定性を示し、また第1剤と第2剤との混練性が良好となる。この結果、塗料組成物の安定的な供給が可能となる。ここで貯蔵安定性の指標として、例えば、顔料沈降性および/またはゲル化が挙げられる。
カオリン(B)は、通常、天然に産出される粘土(鉱物名:カオリナイト(化学式:Al23・2SiO2・2H2O))から製造される層状型の無機顔料である。カオリン(B)は、通常、鱗片状の薄く平らな形状を有している。カオリン(B)としては、特に限定されないが、例えば、湿式カオリン、乾式カオリン、焼成カオリンが挙げられる。
カオリン(B)のメディアン径は、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.2〜5μmである。本明細書において、メディアン径は、レーザー回折法により測定される。
第1剤は、1種または2種以上のカオリン(B)を含有することができる。
カオリン(B)の含有割合は、第1剤の固形分100質量%中、通常は5〜80質量%、好ましくは10〜50質量%である。カオリン(B)の含有割合が5質量%以上であれば、第1剤の貯蔵安定性がより良好となる傾向にあり、一方、80質量%以下であれば、本実施形態の塗膜のすべり係数が低下しにくい傾向にある。
また、カオリン(B)の含有割合は、本実施形態の塗料組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.5〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%である。
<モース硬度が5以上の顔料(C)>
第1剤は、モース硬度が5以上の顔料(C)(以下「顔料(C)」ともいう)を含有する。第1剤が顔料(C)を含有することによって、本実施形態の塗膜のすべり係数が高くなる。
顔料(C)のモース硬度は、5以上であり、好ましくは5以上8以下、より好ましくは5.5以上7.5未満である。モース硬度は、10段階モース硬度計に従って測定することができる。
顔料(C)としては、例えば、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄などの酸化鉄類;カリ長石、正長石、微斜長石、曹長石、灰長石などの長石類;シリカ、軽石が挙げられ、すべり係数が高く、さらに貯蔵安定性が優れるという点から、黄色酸化鉄、カリ長石、シリカが好ましい。
顔料(C)の形状は、特に限定されないが、球状、針状、板状、鱗片状、繊維状等の様々な形状のものが使用できる。一実施態様において、顔料(C)のメディアン径は、0.1〜50μmである。
黄色酸化鉄は、通常、針状の粒子である。黄色酸化鉄のメディアン径は、好ましくは0.1〜30μm、より好ましくは0.2〜20μmである。
カリ長石は、通常、正長石から粉砕して得られる貝殻状断口を有する粒子である。カリ長石のメディアン径は、好ましくは1〜50μm、より好ましくは2〜30μmである。
シリカとしては、平均1次粒子径が1μm以下の微粉末シリカが好ましい。微粉末シリカの平均1次粒子径は、好ましくは5〜100nmである。微粉末シリカの比表面積は、好ましくは50m2/g以上である。微粉末シリカは表面を処理したものでも、処理してないものでもよい。本明細書において、ナノサイズの平均1次粒子径は、電子顕微鏡にて観察される1次粒子の長径の個数の平均値である。
一実施態様において、塗膜のすべり係数の観点から、顔料(C)は、微粉末シリカを含むことが好ましく、黄色酸化鉄および/またはカリ長石と、微粉末シリカとを含むことがより好ましい。
第1剤は、1種または2種以上の顔料(C)を含有することができる。
顔料(C)の含有割合は、第1剤の固形分100質量%中、通常は5〜70質量%、好ましくは10〜50質量%である。顔料(C)の含有割合が5質量%以上であれば、本実施形態の塗膜のすべり係数が高くなる傾向にあり、一方、70質量%以下であれば、第1剤の貯蔵安定性が低下しづらい傾向にある。
また、顔料(C)の含有割合は、本実施形態の塗料組成物の固形分100質量%中、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜6質量%である。
<硬化促進剤(D)>
第1剤は、硬化促進剤(D)を含有することができる。
硬化促進剤(D)としては、例えば、ホウ酸、三酸化ホウ素等のホウ素化合物、シュウ酸、塩化第二鉄、塩化亜鉛が挙げられる。これらの中でも、ホウ酸、三酸化ホウ素等のホウ素化合物が、貯蔵安定性および耐割れ性の観点から好ましい。
硬化促進剤(D)は、例えば、基材上に塗布された塗料組成物を硬化させて塗膜を形成する際の硬化触媒として作用する。
第1剤は、1種または2種以上の硬化促進剤(D)を含有することができる。
硬化促進剤(D)を使用する場合のその含有割合は、第1剤の固形分100質量%中、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。硬化促進剤(D)の含有割合が前記範囲にあると、シロキサン系結合剤(A)の貯蔵安定性が向上し、また本実施形態の塗料組成物の乾燥性および塗膜の耐割れ性も優れる傾向にある。
<有機樹脂(E)>
第1剤は、本発明の目的および効果を損わない範囲で、シロキサン系結合剤(A)以外の有機樹脂(E)を含有してもよい。有機樹脂(E)としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂等のブチラール樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。
ポリビニルブチラール樹脂としては、例えば、エスレックBM−1、エスレックBM−2、エスレックBL−1(商品名;積水化学(株)製)が挙げられ、アクリル樹脂としては、例えば、ダイヤナールBR−106(商品名;三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
第1剤は、1種または2種以上の有機樹脂(E)を含有することができる。
有機樹脂(E)を使用する場合のその含有割合は、塗料組成物の塗装作業性や塗膜の耐割れ性の抑制の点から、第1剤の固形分100質量%中、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜8質量%である。
<増粘剤(F)>
第1剤は、一般的に知られている増粘剤(F)を含有することができる。増粘剤(F)は、第1剤と後述する第2剤との混練性を良好なものとすることができる。
増粘剤(F)としては、従来公知の増粘剤を制限なく使用することができる。増粘剤(F)としては、例えば、ポリアマイドワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス等の有機系増粘剤;ベントナイト、第4級アンモニウム塩等で表面を処理したベントナイト(有機ベントナイト)等の無機系増粘剤が挙げられる。
第1剤は、1種または2種以上の増粘剤(F)を含有することができる。
増粘剤(F)を使用する場合のその含有割合は、本実施形態の塗料組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
<有機溶剤>
第1剤は、希釈用、貯蔵安定性向上、およびポットライフ向上等のために、通常、有機溶剤を含有する。
有機溶剤としては、例えば、グリコールエーテル系溶剤、ケトン系溶剤および酢酸エステル系溶剤から選択される少なくとも1種の有機溶剤(S1)が挙げられる。有機溶剤(S1)を含まない第1剤と比べて、有機溶剤(S1)を含む第1剤は、シロキサン系結合剤(A)の貯蔵安定性が向上する。これは、シロキサン系結合剤(A)が有することのあるシラノール基が有機溶剤(S1)の酸素原子との水素結合によって安定化され、その縮合反応が抑制されるためであると推測される。
グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられ、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。酢酸エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられ、酢酸エチルが好ましい。これらの中でも、グリコールエーテル系溶剤が好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルがより好ましい。
第1剤は、1種または2種以上の有機溶剤(S1)を含有することができる。
第1剤は、塗装された前記組成物の乾燥性の調整等のために、有機溶剤(S1)以外の有機溶剤(S2)を含んでいてもよい。
有機溶剤(S2)としては、例えば、アルコール系溶剤、芳香族系溶剤、セロソルブ系溶剤等の、塗料分野で通常使用されている有機溶剤が挙げられる。アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。芳香族系溶剤としては、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエンが挙げられる。セロソルブ系溶剤としては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブが挙げられる。
第1剤は、1種または2種以上の有機溶剤(S2)を含有することができる。
第1剤中の有機溶剤の含有割合は、特に限定されないが、通常は10〜80質量%、好ましくは25〜60質量%である。
<第1剤の調製>
第1剤は、例えば、シロキサン系結合剤(A)、カオリン(B)およびモース硬度が5以上の顔料(C)、必要に応じて前述した成分(D)〜(F)、有機溶剤等を混合して得られる。
≪第2剤≫
<亜鉛粉末(X)>
第2剤は、亜鉛粉末(X)を含有する。亜鉛粉末(X)としては、形状、大きさ等は特に限定されるものではなく、塗料分野で従来公知のものを使用することができる。
亜鉛粉末(X)としては、例えば、金属亜鉛の粉末、および亜鉛合金の粉末が挙げられる。亜鉛合金としては、例えば、亜鉛と、アルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金が挙げられる。亜鉛粉末(X)を構成する粒子の形状としては、球状や鱗片状などの様々な形状が挙げられる。
亜鉛粉末(X)のメディアン径は、1〜30μmである。
第2剤は、1種または2種以上の亜鉛粉末(X)を含有することができる。
亜鉛粉末(X)の含有割合は、本実施形態の塗料組成物の固形分100質量%中、通常は30〜98質量%、好ましくは50〜97質量%、より好ましくは65〜95質量%である。亜鉛粉末(X)の含有割合が前記範囲にあると、本実施形態の塗膜は長期に渡って防錆性に優れる。したがって、本実施形態の塗料組成物は、いわゆる無機ジンクリッチペイントとして有用である。
≪その他の成分≫
第1剤および/または第2剤、あるいは本実施形態の塗料組成物は、様々な塗膜特性を確保する目的で、顔料分散剤、カオリン(B)および顔料(C)以外の体質顔料、着色顔料、防錆顔料、付着付与剤等のその他の成分をさらに含有することができる。その他の成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
[塗料組成物キットの使用形態、塗料組成物の製造方法]
本実施形態の塗料組成物キットは、一実施態様において、塗料製造業者が第1剤および第2剤をそれぞれ製造して、別個に塗装業者に提供し、塗装業者が第1剤と第2剤とを塗装前に両者を混合して、得られた塗料組成物を塗装する。なお、本実施形態の塗料組成物キットは、例えば、上述した各成分等から選ばれる少なくとも1種の成分を含有する第3剤等をさらに有することもできる。
本実施形態では、カオリン(B)および顔料(C)は第1剤に含まれる。これらの顔料を亜鉛粉末(X)を含有する第2剤に含める場合、顔料粉末の混合・分級工程が必要となり、また、貯蔵後に粉末同士の分級工程が必要となることがある。本実施形態は、一実施態様において、第2剤において亜鉛粉末(X)とカオリン(B)および顔料(C)等とを混合する工程や分級する工程を必要としないため、製造工程を簡略化できる。
本実施形態の塗料組成物は、本実施形態の塗料組成物キットにおける前記第1剤と前記第2剤とを少なくとも混合することにより、得ることができる。例えば、第1剤および第2剤を撹拌機を用いて充分に撹拌および均一化する。
本実施形態の塗料組成物は、乾燥性に優れる。前記塗料組成物を用いることにより、防食性および厚膜での耐割れ性に優れるとともに、すべり係数が高い塗膜を形成することができる。
本実施形態の塗膜は、本実施形態の塗料組成物から形成され、防食・防錆塗膜として有用である。本実施形態の塗膜付き基材は、基材と、本実施形態の塗膜とを有する。例えば、本実施形態の塗料組成物を基材面に塗装し、硬化させることにより、本実施形態の塗膜および塗膜付き基材を得ることができる。
基材としては、例えば、鋼材等の従来公知の基材が挙げられ、具体例としては、船舶等の船舶構造物、橋梁、タンク等の土木構造物、石油掘削プラント等のプラント構造物、パイプラインなどの鉄鋼構造物;家屋、ビル等の建築構造物;ガードフェンス、産業機械等の屋外器具が挙げられる。これらの基材表面に、最初の防食塗膜として本実施形態の塗料組成物が塗装される。通常、本実施形態の塗料組成物が塗装される基材は、ISO 8501−1における除錆度Sa2 1/2以上に相当する条件で、ブラスト処理が行われる。また、必要に応じて、本実施形態の塗料組成物から得られる塗膜上へ、下塗り塗料、中塗り塗料および上塗り塗料が塗布される。
一実施態様において、前記基材としては、具体的にはボルト締め施工可能な鋼材が挙げられ、本実施形態の塗料組成物は、鋼材のボルト締め接合部における接合面に塗布される。この接合面では、本実施形態の塗料組成物が塗装された塗膜上へは、他の塗料は塗装されず、本実施形態の塗料組成物からなる塗膜が塗装された接合面同士が接合して、すべり係数0.5以上の摩擦力が発揮される。
本実施形態の塗料組成物の塗装方法としては、通常、エアースプレー、エアレススプレーが挙げられる。塗装後の塗料組成物の硬化方法としては、特に制限はなく、従来公知の硬化方法を適用することができる。例えば、基材上に塗布された塗料組成物は、空気中に(必要に応じて加熱しながら)放置すると、溶剤が揮発し、シロキサン系結合剤(A)が塗料組成物中の水または空気中の水分(湿気)によって加水分解縮合反応することにより、硬化する。一実施態様において、塗装条件は、通常は5〜40℃である。
本実施形態の塗膜の平均乾燥膜厚は、好ましくは40μm以上、より好ましくは40〜120μmである。被塗物である基材の状態および用途に応じて、前記塗膜の平均乾燥膜厚は薄膜である40μm未満であってもよい。なお、本実施形態の塗膜は、平均乾燥膜厚が120μmを超える厚膜である場合、例えば120μm超200μm以下でも、耐割れ性に優れている。
本実施形態の塗膜のすべり係数は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.55以上であり、上限は特に限定されないが、0.8であってもよい。すべり係数が0.5以上と高い塗膜により、例えば、ボルト締め接合作業時に、安全上、鋼材の継ぎ手部に用いられる添接板等の補強材のサイズを大きくする必要がなくなり、また締め付けるボルト数を増やす必要もなくなるため、作業コストの点で好ましい。
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。以下の説明において、特に言及しない限り、「質量部」は「部」と記載する。
表中に記載した各成分の詳細は以下のとおりである。
・アルキルシリケート「エチルシリケート40」:コルコート(株)製
・亜鉛粉末「F−500」:本荘ケミカル(株)製
・カオリン「ASP 200」:BASFジャパン(株)製
・タルク「FC−1タルク」:(株)福岡タルク工業所製
・マイカ「マイカパウダー325メッシュ」:(株)福岡タルク工業所製
・炭酸カルシウム「カルファイン200M−C」:丸尾カルシウム(株)製
・黄色酸化鉄「TSY−1」:戸田工業(株)製
・カリ長石「UNISPAR PG−K10」:
Sibelco Malaysia Sdn Bhd製
・微粉末シリカ「AEROSIL R972」:日本アエロジル(株)製
・アクリル樹脂「ダイヤナールBR−106」:三菱ケミカル(株)製
・ポリビニルブチラール樹脂「エスレックBM−2」:積水化学(株)製
・ポリアマイドワックス「ディスパロン A630−20X」:楠本化成(株)製
・有機ベントナイト「BENTONE SD−2」:Elementis Specialties,Inc.製
[調製例]
28.00部のエチルシリケート40と、39.42部のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)と、6.92部のエタノール(工業用エタノール)と、1.56部の脱イオン水と、触媒として0.10部の35%塩酸とを容器(1)に仕込み、さらに1.00部の三酸化ホウ素を容器(1)に仕込んで、25℃で1時間30分攪拌した後、16時間放冷した。
さらに、別の容器(2)にて、1.00部のアクリル樹脂と、5.00部のキシレンとを仕込み、25℃で30分撹拌して、アクリル樹脂ワニスを準備した。
次に、16時間放冷した容器(1)に10.00部のカオリンと、6.00部の黄色酸化鉄と、1.00部の微粉末シリカとを25℃にて撹拌しながら仕込み、最後に予め容器(2)にて準備した6.00部のアクリル樹脂ワニスを仕込んで、均一になるまで25℃にてディスパー撹拌し、第1剤(I−1)を調製した。
さらに各原料の種類および仕込量を、表1−1および1−2に記載のように変更した以外は第1剤(I−1)の調製と同様の操作を行い、第1剤(I−2)〜(I−16)、(cI−1)〜(cI−4)を調製した。
<シロキサン系結合剤(A)の重量平均分子量(Mw)>
初期(調製後1日程度経過後)の第1剤(I−1)〜(I−16)、(cI−1)〜(cI−4)中のシロキサン系結合剤(A)の重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定した。
GPCの測定条件は、以下のとおりである。前記第1剤をそれぞれ少量取りテトラヒドロフランを加えて希釈し、得られた溶液をメンブレムフィルターで濾過して、GPC測定サンプルを得た。
・装置 :日本ウォーターズ社製 2695セパレ−ションモジュール
(Aliance GPC マルチシステム)
・カラム :東ソー社製 TSKgel Super H4000
TSKgel Super H2000
TSKgel Super H2000
上記3本を直列につないで測定。
・溶離液 :テトラヒドロフラン(THF)
・流速 :0.6ml/分
・検出器 :Shodex RI−104
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:ポリスチレン
<シロキサン系結合剤(A)の加水分解率>
シロキサン系結合剤(A)の加水分解率は、前述した式1に基づき算出した。
[実施例1〜16、比較例1〜4]
第2剤と、調製後、23℃で1ヵ月貯蔵した第1剤とを、表1−1および1−2に記載された割合(質量部)でポリエチレン製容器に仕込み、ハイスピードディスパーで10分間分散処理を行い、塗料組成物を調製した。
Figure 2020138186
Figure 2020138186
[評価試験]
<貯蔵安定性>
調製例で得られた第1剤(I−1)〜(I−16)、(cI−1)〜(cI−4)について、23℃で12ヵ月間貯蔵後の状態から、表2に記載の基準で貯蔵安定性を評価した。
また、23℃で1ヵ月、6ヵ月および12ヵ月経過した第1剤(I−1)〜(I−16)、(cI−1)〜(cI−4)中のシロキサン系結合剤(A)の重量平均分子量(Mw)を、前記GPC法で測定した。
<乾燥性>
サンドブラスト鋼板(150mm×70mm×2.3mm、Sa2 1/2以上)に、実施例および比較例で得られた各塗料組成物を乾燥膜厚が75μmになるようにエアースプレーで塗布し、25℃、70%相対湿度の条件で乾燥しながら、1時間毎にメチルエチルケトン(MEK)にて塗膜を50回ラビングして塗膜が溶けなくなるまでの時間を測定し、表2に記載の基準で乾燥性を評価した。
<防食性>
サンドブラスト鋼板(150mm×70mm×2.3mm、Sa2 1/2以上)に、実施例および比較例で得られた各塗料組成物を乾燥膜厚が75μmになるようにエアースプレーで塗布し、25℃、70%相対湿度の条件で7日間乾燥して試験塗板を作成し、屋外暴露(広島県大竹市)を2年行った後の試験塗板(一般部、カット部)に生じたサビ、フクレの発生程度を、表2に記載の基準で評価した。
<耐割れ性>
サンドブラスト鋼板(150mm×70mm×2.3mm、Sa2 1/2以上)に、実施例および比較例で得られた各塗料組成物を乾燥膜厚が200μmになるようにエアースプレーで塗布し、25℃、70%相対湿度の条件で7日間乾燥させ、耐割れ性試験用塗板を作成し、表面状態を観察し、表2に記載の基準にて耐割れ性を評価した。
<すべり係数>
グリッドブラスト処理を行ったSM490板の両面に、実施例および比較例で得られた各塗料組成物を乾燥膜厚が75μmになるようにエアースプレーで塗布し、1ヶ月間乾燥させて、塗装試験体を得た。作製した塗装試験体をトルシア形高力TCボルト(M22)にて締め付け、引張試験機を用いて、すべり係数を測定し、表2に記載の基準にて評価した。
Figure 2020138186

Claims (10)

  1. シロキサン系結合剤(A)、カオリン(B)およびモース硬度が5以上の顔料(C)を含有する第1剤と、
    亜鉛粉末(X)を含有する第2剤と
    を有する塗料組成物キット。
  2. 前記シロキサン系結合剤(A)の重量平均分子量(Mw)が、500〜10,000である請求項1に記載の塗料組成物キット。
  3. 前記シロキサン系結合剤(A)が、テトラアルコキシシランおよびアルキルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物(A1)の縮合物である請求項1または2に記載の塗料組成物キット。
  4. 前記顔料(C)が、黄色酸化鉄、カリ長石およびシリカから選択される少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗料組成物キット。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗料組成物キットにおける前記第1剤と前記第2剤とを少なくとも混合して得られた塗料組成物。
  6. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗料組成物キットにおける前記第1剤と前記第2剤とを少なくとも混合する工程を有する、塗料組成物の製造方法。
  7. 請求項5に記載の塗料組成物から形成された塗膜。
  8. 基材と、請求項7に記載の塗膜とを有する、塗膜付き基材。
  9. 前記基材が、鉄鋼構造物を構成する鋼材である請求項8に記載の塗膜付き基材。
  10. 鋼材と、前記鋼材のボルト締め接合部における接合面に形成された請求項7に記載の塗膜とを有する、塗膜付き鋼材。
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