JPWO2020067522A1 - 累進屈折力レンズおよびその設計方法 - Google Patents

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Abstract

近方距離を見るための近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用部と、近用部と遠用部との間に設けられ且つ累進屈折機能を有する中間部と、を備えた累進屈折力レンズであって、遠用部、近用部および中間部のうち近用部および中間部に対して透過非点収差が付加され、透過非点収差が付加された近用部および中間部においては、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい部分を含む、累進屈折力レンズおよびその関連技術を提供する。

Description

本発明は、累進屈折力レンズおよびその設計方法に関する。なお、優先権の基礎となる日本国出願の特願2018−185993、特願2018−186038、特願2019−48645、特願2019−48646、特願2019−48647、特願2019−93366の記載内容は全て本明細書にて参照可能である。
図1Aは、累進屈折力レンズの概略構成を示す図である。
図1Aの左側の図に示すように、累進屈折力レンズは、レンズの図中上側部分に設けられた遠方の物体を見るための屈折力を有する部分、すなわち遠方視に用いる屈折力を有する遠用部と、レンズの図中下側部分に設けられた近方の物体を見るための屈折力を有する部分、すなわち近方視に用いる屈折力を有する近用部、および遠用部から近用部の間に設けられる中間部を、領域として有し、遠用部から近用部の間で屈折力が徐々に変化するレンズである。
屈折力が徐々に変化する領域を累進帯という。累進帯長は、屈折力の変化が始まる累進開始点と終了する累進終了点との間の距離として定義される。
遠用部は、累進屈折力レンズの、上記累進開始点および累進開始点の上方の領域である。近用部は、一般的には累進終了点およびその下方を含む、累進屈折力レンズの領域である。中間部は、遠用部と近用部との間の領域であり、屈折力が累進的に変化する領域である。
図1Aの右側の図は子午線に沿った屈折力の変化を示す図である。遠用部では、屈折力が略一定である。近用部では、近距離物体を見るために屈折力が略一定である。中間部では、徐々に屈折力が変化している。遠方の物体を見る屈折力と近方にある物体を見る屈折力との差を加入度数ADD(D)という。
図1Bは、透過平均屈折力MPの分布および透過非点収差ASの分布の一例を示す図である。なお、図1Bの左側の分布すなわち透過平均屈折力MPの分布は、図3Aに示す分布と同じである。また、図1Bの右側の分布すなわち透過非点収差ASの分布は、図4Aに示す分布と同じである。
ここで、現在の累進屈折力レンズの技術では、遠用部、近用部だけでなく、屈折力が変化する中間部において、主注視線上において実質的に非点収差をゼロにする。換言すれば、現在の累進屈折力レンズでは、主注視線に沿って非点収差が実質的にゼロである。主注視線の詳細な定義は後述する。
このような累進屈折力レンズでは、異なる屈折力を有する遠用部と近用部が同じレンズ内に存在するので、非点収差が生じ易い。従来の設計では、子午線に沿ってできるだけ非点収差を取り除くように設計されている。そのため、子午線以外の領域では平均屈折力が目標の屈折力からずれ、固有非点収差や歪みが生じ易い。
固有非点収差とは、中間部および近用部の子午線を挟んだ両側の側部で増加する、累進屈折力レンズにおいて不可避の非点収差のことであり、詳細な定義は後述する。
一方、累進屈折力レンズに起因する固有非点収差や歪みを低減するために、累進屈折力レンズの設計では、近年、透過設計の概念が用いられている。この設計方法は、レンズを透過する実際の光線(光線追跡)を考慮に入れて設計するというものである。透過設計は、レンズを通過して眼に入る光がつくる、非点収差および屈折力分布に注目する。この透過設計は、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1に記載の手法は、特許文献1の[請求項1]によれば以下のとおりである。
所定の処方情報に基づいて眼鏡レンズの目標透過度数分布を設定後、眼鏡レンズを仮設計して暫定透過度数分布を計算する。そして、目標透過度数分布と暫定透過度数分布との差分を算出する。そして、該差分に基づき、基準点から周縁に延ばした制御線上の各制御点における光学的な補正量を計算する。制御点同士を接続した閉曲線上にて第一の近似曲線を定義する。第一の近似曲線上に各制御点が位置するように該各制御点の補正量を調節したうえで第二の近似曲線を定義する。第二の近似曲線が表す光学的な補正量を非球面付加量に変換して補正対象面の各制御線上に付加する。そして、該各制御線間の該補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する。

特許第5784418号公報
上記の通り、特許文献1に記載の手法は煩雑である。そのため、より簡便な手法により明瞭な視野範囲を獲得する手法が望まれる。
そこで、本発明の一実施例は、より簡便な手法により、同程度の加入度数および遠用度数の従来の累進屈折力レンズに比べ、近用部の明瞭な視野範囲を広げる技術を提供することを目的とする。
本発明者らは、透過設計を利用しつつ、中間部と近用部を選択したうえでこれらの箇所に意図的に透過非点収差を付加するという手法を想到した。なお、この中間部は、子午線および/または主注視線を含む。また、この近用部は、子午線および/または主注視線ならびに近用部測定基準点N(測定基準点N)を含む。
子午線および/または主注視線ならびに測定基準点Nは、眼鏡装用者が頻繁に視線を通過させる箇所であり、そのような箇所に対して(しかも遠用部ではなく中間部と近用部を選択して)透過非点収差を付加することは通常だと行われない。
ところが本発明者らはこのような常識に囚われることなく、上記中間部および近用部を選択してこれらの箇所に透過非点収差を意図的に付加した。それにより、もちろん子午線および/または主注視線ならびに測定基準点Nでは透過非点収差が増加はするものの、透過非点収差の急峻な変化を和らげることができる。そして、結果的に、透過非点収差が0.50D以下となる明瞭な視野範囲を従来に比べて広く獲得でき、この明瞭な視野範囲に子午線および/または主注視線ならびに測定基準点Nを含ませることができる、という知見を得た。以降、特記無い限り「従来に比べ」とは、「同程度の加入度数および遠用度数の従来の累進屈折力レンズに比べて」ということを意味する。
上記知見に基づきなされたのが以下の態様である。
本発明の第1の態様は、
近方距離を見るための近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用部と、近用部と遠用部との間に設けられ且つ累進屈折機能を有する中間部と、を備えた累進屈折力レンズであって、
遠用部、近用部および中間部のうち近用部および中間部に対して透過非点収差が付加され、
透過非点収差が付加された近用部および中間部においては、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい部分を含む、累進屈折力レンズである。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
近用部および中間部に対して付加されるのは、絶対値がゼロを超え且つ0.25D以下の透過非点収差である。
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の態様であって、
乱視矯正のための屈折力を差し引いた後の遠用部の測定基準点Fにおける透過非点収差の値の絶対値が0.12D以下である。
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様のいずれかに記載の態様であって、
遠用部の測定基準点Fにおける透過非点収差の値から近用部の測定基準点Nにおける透過非点収差の値までの変化量Δ[D]の絶対値の量は、加入度数ADD[D]の0.07〜0.24倍の量である。
本発明の第5の態様は、第1〜第4の態様のいずれかに記載の態様であって、
透過非点収差と共に透過屈折力が付加される。
本発明の第6の態様は、
近方距離を見るための近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用部と、近用部と遠用部との間に設けられ且つ累進屈折機能を有する中間部と、を備えた累進屈折力レンズの設計方法であって、
遠用部、近用部および中間部のうち近用部および中間部に対して透過非点収差を付加し、
透過非点収差が付加された近用部および中間部においては、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい部分を含むようにする、累進屈折力レンズの設計方法である。
透過非点収差分布(縦軸y:レンズ鉛直方向、横軸x:レンズ水平方向、原点はレンズのプリズム参照点)において、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後、
透過非点収差が0.50D以下の領域であってy=−14.0mmである領域a1の水平幅は8mm以上であり、且つ、
透過非点収差が0.50D以下の領域であってy=−20.0mmである領域a2の水平幅は10mm以上であるのが好ましい。
y=−14.0mmにおいて、領域a1に最小の透過非点収差となる部分が存在し、且つ、
y=−20.0mmにおいて、領域a2に最小の透過非点収差となる部分が存在する
のが好ましい。
加入度数が1.5〜3.0Dであるのが好ましい。
レンズ上方から下方に向かって見たときに、透過非点収差の付加が開始した後は、透過非点収差の付加量は減少させないのが好ましい。
また、レンズ上方から下方に向かって見たときに、少なくとも累進開始点から測定基準点Nまでの主注視線上(子午線の場合は交わる水平線までの子午線上)では、透過非点収差の付加が開始した後に付加量が単調増加し且つ単調増加した付加量は減少しないようにするまたは減少するとしても付加量の10%以下もしくは0.12D以下であるのも好ましい。
本発明の他の一態様は、
第5の態様に記載の設計方法である設計ステップと、
設計ステップに基づいて累進屈折力レンズを製造する製造ステップと、
を有する、累進屈折力レンズの製造方法である。
本発明の他の一態様は、
近方距離を見るための近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用部と、近用部と遠用部との間に設けられ且つ累進屈折機能を有する中間部と、を備えた複数の累進屈折力レンズからなるレンズ群であって、
各累進屈折力レンズにおいて、遠用部、近用部および中間部のうち近用部および中間部に対して透過非点収差が付加され、
透過非点収差が付加された近用部および中間部においては、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい部分を含む、累進屈折力レンズ群である。
本発明の一実施例によれば、より簡便な手法により、同程度の加入度数および遠用度数の従来の累進屈折力レンズに比べ、近用部の明瞭な視野範囲を広げる技術を提供できる。
図1Aは、累進屈折力レンズの概略構成を示す図である。 図1Bは、透過平均屈折力MPの分布および透過非点収差ASの分布の一例を示す図である。 図2は、累進屈折力レンズにおける水平方向と垂直方向の透過の屈折力分布の一例を説明する図である。 図3Aは、従来の累進屈折力レンズに対応する透過平均屈折力の分布を示す図である。 図3Bは、従来の累進屈折力レンズに対応する垂直方向の屈折力(VP)、水平方向の屈折力(HP)、平均屈折力(MP)における子午線方向の透過の屈折力変化を示す図である。 図3Cは、y=−4.0mmにおける従来の累進屈折力レンズに対応する水平方向の透過屈折力、垂直方向の透過屈折力、およびそれらの平均値である透過平均屈折力の変化の概略図を示す図である。 図3Dは、y=−14.0mmにおける従来の累進屈折力レンズに対応する水平方向の透過屈折力、垂直方向の透過屈折力、およびそれらの平均値である透過平均屈折力の変化の概略図を示す図である。 図4Aは、従来の累進屈折力レンズに対応する透過非点収差の分布を示す図である。 図4Bは、従来の累進屈折力レンズに対応する子午線に沿った透過非点収差の変化を示す図である。 図4Cは、y=−4.0mmにおける従来の累進屈折力レンズに対応する水平方向の透過非点収差の変化の概略図を示す図である。 図4Dは、y=−14.0mmにおける従来の累進屈折力レンズに対応する水平方向の透過非点収差の変化の概略図を示す図である。 図5Aは、実施形態に対応する透過平均屈折力の分布を示す図である。 図5Bは、実施形態に対応する垂直方向の屈折力(VP)、水平方向の屈折力(HP)、平均屈折力(MP)における子午線方向の透過の屈折力変化を示す図である。 図5Cは、y=−4.0mmにおける実施形態に対応する水平方向の透過屈折力、垂直方向の透過屈折力、およびそれらの平均値である透過平均屈折力の変化の概略図を示す図である。 図5Dは、y=−14.0mmにおける実施形態に対応する水平方向の透過屈折力、垂直方向の透過屈折力、およびそれらの平均値である透過平均屈折力の変化の概略図を示す図である。 図6Aは、実施形態に対応する透過非点収差の分布を示す図である。 図6Bは、実施形態に対応する子午線に沿った透過非点収差の変化を示す図である。 図6Cは、y=−4.0mmにおける実施形態に対応する透過非点収差の変化の概略図を示す図である。 図6Dは、y=−14.0mmにおける実施形態に対応する透過非点収差の変化の概略図を示す図である。 図7Aは、実施形態における、最終的に得られる透過非点収差の分布図である。 図7Bは、従来の累進屈折力レンズにおける、最終的に得られる透過非点収差の分布図である。 図8は、設計面上の特定の領域に透過非点収差が付与されたパターン1を示す図である。 図9Aは、実施形態のパターン1に対応する透過平均屈折力の分布を示す図である。 図9Bは、実施形態のパターン1に対応する透過非点収差の分布を示す図である。 図9Cは、実施形態のパターン1に対応する垂直方向の屈折力(VP)、水平方向の屈折力(HP)、平均屈折力(MP)における子午線方向の透過の屈折力変化を示す図である。 図9Dは、実施形態のパターン1に対応する子午線に沿った透過非点収差の変化を示す図である。 図10は、設計面上の特定の領域に透過非点収差が付与されたパターン2を示す図である。 図11Aは、実施形態のパターン2に対応する透過平均屈折力の分布を示す図である。 図11Bは、実施形態のパターン2に対応する透過非点収差の分布を示す図である。 図11Cは、実施形態のパターン2に対応する垂直方向の屈折力(VP)、水平方向の屈折力(HP)、平均屈折力(MP)における子午線方向の透過の屈折力変化を示す図である。 図11Dは、実施形態のパターン2に対応する子午線に沿った透過非点収差の変化を示す図である。 図12は、設計面上の特定の領域に透過非点収差が付与されたパターン3を示す図である。 図13Aは、実施形態のパターン3に対応する透過平均屈折力の分布を示す図である。 図13Bは、実施形態のパターン3に対応する透過非点収差の分布を示す図である。 図13Cは、実施形態のパターン3に対応する垂直方向の屈折力(VP)、水平方向の屈折力(HP)、平均屈折力(MP)における子午線方向の透過の屈折力変化を示す図である。 図13Dは、実施形態のパターン3に対応する子午線に沿った透過非点収差の変化を示す図である。 図14Aは、従来の累進屈折力レンズにおいてADDを3.00Dに変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。 図14Bは、従来の累進屈折力レンズにおいてADDを3.00Dに変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。 図15Aは、実施形態においてADDを3.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.30Dに変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。 図15Bは、実施形態においてADDを3.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.30Dに変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。 図16Aは、従来の累進屈折力レンズにおいてADDを1.00Dに変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。 図16Bは、従来の累進屈折力レンズにおいてADDを1.00Dに変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。 図17Aは、実施形態においてADDを1.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.10Dに変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。 図17Bは、実施形態においてADDを1.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.10Dに変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。 図18Aは、実施形態においてADDを2.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.20Dに変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。 図18Bは、実施形態においてADDを2.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.20Dに変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。
本発明の一態様について、以下の流れに従い説明する。
1.本発明の技術的思想の要旨
2.定義
3.透過基本設計
4.従来の累進屈折力レンズ
5.実施形態(水平方向の屈折量>垂直方向の屈折力)
5−1.従来の設計と実施形態との、目標分布状態における比較
5−2.従来設計と実施形態との、最終的に得られたレンズ状態での比較
5−3.透過非点収差の付加パターン
5−3−1.パターン1
5−3−2.パターン2
5−3−3.パターン3
6.変形例(実施形態での透過非点収差の付加量およびADDのバリエーション等)
7.本発明の一態様に係る効果
本願各図の符号および線等の意味は共通である。そのため、初出の符号および線等のみ説明し、以降は省略することもある。
[1.本発明の技術的思想の要旨]
本発明の一実施形態の累進屈折力レンズおよびその関連技術についての説明の前に、本発明の技術的思想の要旨について説明する。
本発明の技術的思想が創出されたきっかけは、常識を覆し、眼鏡装用者が頻繁に視線を通過させる箇所に意図的に透過非点収差を付加したことにある。そしてその箇所とは、中間部および近用部である。なお、遠用部には該透過非点収差は付加しない。より正確に言えば、少なくとも遠用部に存在するフィッティングポイントまたはアイポイントFPには透過非点収差は付加しない。詳しくは後述の[2.定義]にて定義付けする。
このように透過非点収差の付加を行うことにより、もちろん子午線および測定基準点Nでは透過非点収差が増加する。但し、中間部および近用部全体において透過非点収差の急峻な変化は収まる。そして、結果的に透過非点収差が0.50D以下(乱視矯正のための屈折力を差し引いた後)となる明瞭な視野範囲を獲得できる。
つまり、本発明の一実施形態によれば、特許文献1に記載の手法よりも簡便な手法により、近用部の明瞭な視野範囲を広げられる。
なお、後述の実施形態にて示すデータを鑑みると、以下の態様を採用するのが好ましい。
明瞭な視野範囲の具体例は以下のとおりである。
つまり実施形態の好適な累進屈折力レンズにおいては、
透過非点収差分布(縦軸y:レンズ鉛直方向、横軸x:レンズ水平方向、原点はレンズのプリズム参照点)において、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後、
透過非点収差が0.50D以下の領域であってy=−14.0mmである領域a1の水平幅は8mm以上、および、
透過非点収差が0.50D以下の領域であってy=−20.0mmである領域a2の水平幅は10mm以上
の少なくともいずれかの条件を満たすのが好ましく、両条件を満たすのが更に好ましい。
また、以下の2つの式の少なくともいずれかを満たすのが好ましく、両式を満たすのが更に好ましい。
a1>1.7*(ADD)−10.3*(ADD)+22.6
a2>1.7*(ADD)−10.5*(ADD)+23.8
上記各式は、本明細書に記載の、本発明の一態様である実施形態、パターン1、2、3、バリエーションにおけるa1、a2の値と加入度数ADDとのプロットと、従来例におけるa1、a2の値と加入度数ADDとのプロットとを分離する近似曲線式である。
そして、
y=−14.0mmにおいて、前記領域a1に最小の透過非点収差となる部分が存在し、且つ、
y=−20.0mmにおいて、前記領域a2に最小の透過非点収差となる部分が存在するのが好ましい。
近用部および中間部に対して付加されるのは、絶対値がゼロを超え且つ0.25D以下の透過非点収差であるのが好ましい。なお、基礎出願に記載された主観評価の試験結果が示すように、少なくとも0.75D以下の透過非点収差の付加は許容される。
また、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後の遠用部の測定基準点Fにおける透過非点収差の値の絶対値が0.12D以下であるのも好ましい。つまり、遠用部には透過非点収差が付加されていないため透過非点収差の絶対値が低く、しかも中間部および近用部には透過非点収差が付加されていながらも明瞭な視野範囲を獲得できる。
実施形態に係る累進屈折力レンズの加入度数ADDには特に限定はない。ただ、加入度数ADDが高い(例えば1.5〜3.0Dの範囲内である)と、透過非点収差も増加する傾向にあるところ、加入度数ADDを高く設定したとしても実施形態を適用することにより、従来よりも明瞭な視野範囲を獲得できる、という大きな利点がある。
累進屈折力レンズにおいて、面形状にしても透過にしても、平均屈折力誤差と非点収差とはトレードオフの関係にある。その関係は、累進屈折力レンズの中心から外れるほど顕著になる。
後述の実施形態では、その二つのうち非点収差を重視、すなわち非点収差の増加を抑えるべく、上記のように、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後の水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい部分を含むよう設定している。
ちなみに、実施形態に対し、透過非点収差の付加パターンを3種類用意している(後述のパターン1、2、3)。なお、実施形態自体では、子午線上に透過非点収差を付加し、子午線近傍では面形状が滑らかになるように透過非点収差量を調整している。
パターン1(図8)においては、下方の側に向かって広がった扇型形状の領域において透過非点収差を付加する。
パターン2(図10)においては、設計面のほぼ下半分に対して一定量の透過非点収差を付加する。
パターン3(図12)においては、レンズ内に複数の制御点を設け、該制御点においてスプライン関数を用いた曲率の制御を行うことにより透過非点収差を付加する。
なお、実施形態に対し、透過非点収差の付加の各種パターンを適用した場合の結果も示している。
パターン1の場合における実施形態の結果は図9A〜図9Dに示す。
パターン2の場合における実施形態の結果は図11A〜図11Dに示す。
パターン3の場合における実施形態の結果は図13A〜図13Dに示す。
ちなみにパターン1〜3においては、レンズ上方から下方に向かって見たときに、透過非点収差の付加が開始した後は、透過非点収差の付加量は実質的に減少させない。つまり、パターン1(図8)のようにレンズ周縁まで付加量を増加させたり、パターン2(図10)およびパターン3(図12)のように所定の付加量まで増加させた後は一定の付加量にしたりする。言い方を変えると、レンズ上方から下方に向かって見たときに、透過非点収差の付加が開始した後に付加量は単調増加し且つ単調増加した付加量は減少しないまたは減少するとしても付加量の10%以下もしくは0.12D以下である。なお、レンズ加工によりレンズ周縁での付加量が変動し、その変動の際に該付加量が減少する可能性を鑑み、以下のように規定するのも好ましい。
「少なくとも累進開始点から測定基準点Nまで(子午線の場合は交わる水平線まで)では、透過非点収差の付加が開始した後に付加量が単調増加し且つ単調増加した付加量は減少しないまたは減少するとしても付加量の10%以下もしくは0.12D以下であるようにする。」
透過非点収差の付加が行われることにより透過屈折力の低下が生じる。平均屈折力は、球面屈折力+乱視屈折力/2で表される。例えば、垂直方向の屈折力を低下させることにより透過非点収差を付加する場合、垂直方向において、上記平均屈折力の式における乱視屈折力の値が低下することにより平均屈折力が低下する。これは、処方値の加入度数よりも低い値が加入度数として得られることを意味する。そこで、本実施形態においては、透過非点収差の付加に伴う屈折力の低下を補い、予定通りの加入度数を実現するよう、透過非点収差と共に透過屈折力も付加する。透過屈折力の付加量は、屈折力の低下分と予定された加入度数に応じて決定すればよい。
以降、明記は省略するが、本明細書に記載の透過平均屈折力分布図は全て、上記透過屈折力の付加が行われた後のものである。
透過非点収差と共に透過屈折力も付加することの一具体例としては、以下のとおりである。予め透過非点収差の付加量を決めておく。この透過非点収差の付加に伴う屈折力の変化を予め加味したレンズ設計を用意する。このレンズ設計に対し、予め決めておいた透過非点収差の付加を行うことにより、目標とする加入度数が得られるように設定してもよい。
その結果、本明細書に記載の全ての透過平均屈折力分布図において、透過非点収差の付加後であっても当初設定した加入度数を実現できている。
なお、透過非点収差の付加が行われた累進屈折力レンズであって、近用部の測定基準点Nにおいて、該付加による屈折力の変化分に起因する、レンズ袋等に記載された遠用度数S+加入度数ADDの値すなわち近用度数からのずれが一部でも補填されていれば、透過屈折力の付加が行われているとみなす。一例としては、該ずれが累進屈折力レンズに最終的に存在しない状態または存在したとしてもそのずれ量が±0.12Dの範囲内の状態は、透過屈折力の付加が行われているとみなす。
以下、一実施形態の累進屈折力レンズおよびその設計方法について詳細に説明する。なお、本明細書に記載された実施形態は、基礎出願における実施形態1に対応する。まず、実施形態を理解するために、各項目の定義付けについて説明する。
[2.定義]
本明細書では、一般的にレンズの屈折の程度を示す文言として、いわゆる度数、パワーの代わりに屈折力を用いる。
本明細書では、意味の違いを明確にして3種類の「非点収差」の用語を用いる。
まず、1つ目は「処方非点収差」である。処方非点収差は、眼の欠陥(眼の乱視)を補正するための処方データに関するものであり、処方データの円柱屈折力に相当する。
2つ目は「固有非点収差」である。固有非点収差は、光学レンズの表面形状に起因して生じる収差(非点収差)に関するものであり、光学レンズ設計で一般的に用いる「非点収差」という用語と同じ意味を有する。本明細書において、固有非点収差とは、本来、累進屈折力レンズの表面形状すなわち累進面を構成する非球面成分に起因して内在的に不可欠に生じる非点収差をいう。
3つ目は、「付加非点収差」である。付加非点収差は、実施形態の主たる構成要素であり、累進屈折力レンズの設計段階において、透過の目標の屈折力分布を設定する際に、処方非点収差(乱視矯正のための屈折力であって乱視度数)とは別に透過非点収差の分布に意図的に付加される非点収差をいう。説明の便宜上、本明細書においては付加非点収差のことを透過非点収差の付加ともいう。
本明細書において、付加される透過非点収差は、上記付加非点収差のことである。この付加非点収差は、累進屈折力レンズにおける物体側の面および眼球側の面の少なくともいずれかに面非点収差を付加することにより実現可能である。それにより、累進屈折力レンズ全体としての透過非点収差の付加が行われる。
なお、透過屈折力という表現も、累進屈折力レンズにおける物体側の面および眼球側の面の少なくともいずれかに面屈折力を付加したものを指す。
透過非点収差は、装用状態において累進屈折力レンズ上の所定の箇所での最大屈折力から最小屈折力を差し引いた値とする。
本明細書における「透過非点収差の付加量」の値は、付加される透過非点収差のうちの最大値を示す。後述の実施形態だと、レンズ上方から下方に見たときに、透過非点収差の付加の開始時にいきなり最大値(0.50D)を付加する一方、後述のパターン1、2、3だとそうではない。つまり、透過非点収差の付加量が0.50Dということは、あくまで最大値が0.50Dであって、パターン1、2、3のように透過非点収差の付加の開始部分から最大値到達部分までの間に0.50D未満の付加量となることを許容する表現である。
なお、この最大値の下限には特に限定は無いが、0.08Dとするのが好ましく、0.10Dとするのが更に好ましい。この最大値の上限は[1.本発明の技術的思想の要旨]で述べたように特に限定は無いが、0.75Dが好ましく、0.25Dであるのが更に好ましい。
「主注視線」とは、累進屈折力レンズにおける、遠方視に用いる遠用部、近方視に用いる近用部、および遠用部と近用部の間に位置する中間部において、物体を正面視したとき、視線が移動するレンズ表面上の軌跡線である。
「子午線」とは、累進屈折力レンズに設けられる2つの隠しマークの位置を結ぶ水平線に対して直交し、2つの隠しマークの位置の中点を通る垂直方向の線をいう。子午線は、本願各図に示す分布図のy軸に相当する。
眼は、近方視において視線は、鼻側(内側)に寄る。したがって、中間部および近用部における主注視線は、子午線に対して、鼻側(内側)に寄る。このような子午線に対して主注視線が鼻側による量を、内寄せ量という。したがって、内寄せ量が0の場合、主注視線は子午線に一致する。遠用部でも、主注視線は子午線に一致する。
本明細書では説明をわかりやすくするため、レンズの設計段階では内寄せ量を0に設定する例を挙げる。本明細書中では、レンズの設計段階のことを目標分布状態ともいう。その一方、レンズの設計および製造を経て得られたレンズに対しては内寄せ量を0より大きく設定する例を挙げる。本明細書中では、この状態のことを、最終的に得られたレンズ状態ともいう。但し、本発明はこれらの例に限定されない。
「遠用部測定基準点」は、装用者情報の処方データに記載される球面屈折力および円柱屈折力を累進屈折力レンズに与える点をいう。球面屈折力はいわゆる球面度数S(遠用度数S)を指し、円柱屈折力はいわゆる乱視度数Cを指す。遠用部測定基準点(以降、単に測定基準点F、点Fともいう。)は、例えば、子午線上に位置し、2つの隠しマークの位置を結ぶ水平線から遠用部の側に、8.0mm離間した位置にある点である。
「フィッティングポイントまたはアイポイント(FP)」は、累進屈折力レンズを装用した際に、真正面に向いたときに視線が通る位置である。一般的には、測定基準点Fよりも数mm下方の位置に配置される。屈折力の変化は、このFPから下方にて発生させる。累進力の変化が開始する点を累進開始点とも呼ぶ。実施形態においてはFPの更に下方の幾何中心GCと累進開始点とを一致させており、プリズム参照点とも一致させている。
[1.本発明の技術的思想の要旨]で述べた「遠用部には透過非点収差は付加しない」とは、少なくとも遠用部に存在するFPには透過非点収差は付加しないことを意味する。遠用部のレンズ周縁領域には軸外収差が生じるため、レンズ周縁領域に非球面補正を施す場合がある。そのため、遠用部全体に透過非点収差が付加されない状態をもたらす必要はない。好適には、「遠用部には透過非点収差は付加しない」とは、少なくとも測定基準点FとFP(好適には更に下方のGC)との間には透過非点収差は付加しないことを意味する。
「中間部および近用部に透過非点収差を付加する」とは、中間部の少なくとも一部に透過非点収差を付加し、且つ、近用部の少なくとも一部に透過非点収差を付加することを意味する。
透過非点収差の付加状態を数値で定義すると、遠用部の測定基準点F(図2中では符号16)における透過非点収差の絶対値Δ2から、中間部または近用部の任意の点における透過非点収差の絶対値Δ1に至るまでに値が増加している状態を指す。
後述の透過非点収差の付加のパターン1、3に示すように、必ずしも、累進開始点且つ幾何中心GCを通過する水平線よりも下方の領域全体に対して透過非点収差を付加せずともよい。
また、レンズ上方から下方に見たときに、必ずしも、FP直下、累進開始点直下、GC直下、またはプリズム開始点直下から透過非点収差の付加を開始しなくともよい。累進開始点と測定基準点Nとの間にて透過非点収差の付加を開始すればよい。中間部における遠用部寄りの部分には透過非点収差を付加せず、近用部寄りの部分のみに透過非点収差を付加してもよい。
但し、透過非点収差の付加を開始した部分から下方において、中間部および近用部を通過する主注視線(および/または子午線)上には透過非点収差を付加するのが好ましい。少なくとも、累進開始点から測定基準点Nまでの間の部分から測定基準点Nに至るまで全体に主注視線上に透過非点収差を付加するのが好ましい。子午線でいうと、少なくとも、累進開始点から測定基準点Nまでの間の部分(例えばGCから半径5mm内、好適には3mm内)から測定基準点Nと交わる水平線に至るまでの子午線全体上に透過非点収差を付加するのが好ましい。なお、FPおよび累進開始点は通常だと子午線上(y軸上)に存在するため、水平線を使用していないが、仮に子午線上に存在しない場合でも水平線を使用することにより、上記「子午線全体」を定義することは可能である。
「近用部測定基準点」は、装用者情報の処方データに記載される球面屈折力に対して加入度数ADDが付加された状態の点をいい、レンズ上方から下方に向かって見たときに最初に球面屈折力+ADDが実現される点をいう。近用部測定基準点(以降、単に測定基準点N、点Nともいう。)も、子午線上に位置する。
ちなみに、装用者情報の処方データは、累進屈折力レンズのレンズ袋に記載されている。つまり、レンズ袋があれば、装用者情報の処方データに基づいた累進屈折力レンズの物としての特定が可能である。そして、累進屈折力レンズはレンズ袋とセットになっていることが通常である。そのため、レンズ袋が付属した累進屈折力レンズも本発明の技術的思想が反映されているし、レンズ袋と累進屈折力レンズとのセットについても同様である。
また、測定基準点F、フィッティングポイントまたはアイポイントFP、測定基準点Nは、レンズ製造業者が発行するリマークチャート(Remark chart)またはセントレーションチャート(Centration chart)を参照することにより、位置の特定は可能となる。
なお、以降の図で示す透過平均屈折力の分布あるいは透過非点収差の分布の透過分布では、累進屈折レンズの累進面の各位置を光線が通過して形成される透過平均屈折力および透過非点収差を、光線が通過する該累進面の位置で示している。
また、透過平均屈折力または透過非点収差の透過分布において、レンズ表面で定義される遠用部に対応する透過分布上の場所のことを「遠用部に対応した部分」と表現する。説明の便宜上、「遠用部に対応した部分」を単に「遠用部」とも表現する。特記無い限り、「遠用部」は上記「遠用部に対応した部分」のことを指す。
なお、遠用部は、近方距離よりも遠くの距離を見るための領域であれば特に限定は無い。例えば、無限遠ではなく所定距離(1m程度)を見るための領域であってもよい。このような領域を備えた眼鏡レンズとしては、中間距離(1m〜40cm)ないし近方距離(40cm〜10cm)の物体距離に対応する中近(intermediate-near)レンズ、該近方距離内にて対応する近近(near-near)レンズが挙げられる。
上記のいずれの眼鏡レンズにせよ、中間部および近用部は、近用部および中間部の表面形状を調整した非点収差調整領域(図2に示す領域R)を含む。この眼鏡レンズを通して透過した光線がつくる透過非点収差の分布のうち中間部および近用部における最大屈折力位置は、水平方向の略同じ位置である。つまり、中間部および近用部における最大屈折力位置は、座標でいうとx軸の値が略同じである。
「最大屈折力位置」とは、水平方向の屈折力と水平方向に直交する垂直方向の屈折力とがそれぞれ最大屈折力となる位置である。水平方向の屈折力と垂直方向の屈折力がそれぞれ最大屈折力となる最大屈折力位置が略同じであるとは、2mm以内で離間する場合を許容範囲として含むことを意味する。
後述の実施形態によれば、中間部および近用部における水平方向の上記最大屈折力と垂直方向の上記最大屈折力との差は、遠用部測定基準点に対応した点における水平方向の屈折力と垂直方向の屈折力の差と異なる。該差の絶対値は、好ましくは0.25D以下である。
なお、非点収差調整領域内の子午線に沿った場所に対応した場所でも、上記最大屈折力の差が遠用部測定基準点に対応した点における水平方向の屈折力と垂直方向の屈折力の差と異なることが好ましい。
「透過非点収差が付加された近用部および中間部においては、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい部分を含む」とは、近用部および中間部での透過非点収差が付加された部分の少なくとも一部において、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい状態であることを意味する。もちろん、透過非点収差が付加された部分においては、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも常に大きい状態でもよい。また、近用部および中間部における、少なくとも主注視線(および/または子午線)上(好適には少なくとも累進開始点から測定基準点Nまで)において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい状態であるのも好ましい。
また、本明細書でいうy方向は、子午線に沿った方向であり、垂直方向である。装用状態でのレンズ上方を+y方向とし、レンズ下方を−y方向とする。x方向は、子午線に直交する方向であり、水平方向である。装用者と対向してみたときにレンズ右方を+x方向とし、レンズ左方を−x方向とする。
[3.透過基本設計]
以下、実施形態で用いる透過基本設計における透過非点収差の分布について説明する。透過基本設計自体については公知の技術(例えば特許文献1に記載の内容)を採用して構わない。
垂直方向(y方向)のタンジェンシャル透過屈折力(T)と、水平方向(x方向)のサジタル透過屈折力(S)との差から、透過非点収差を算出できる。その際、遠方視の場合における透過非点収差を、遠方視の場合のTとSとから算出するとともに、近方視の場合における透過非点収差も、近方視の場合のTとSとから算出する。
累進屈折力レンズの各位置を通過する光線がつくる非点収差の成分(遠方視および近方視各々におけるTとS)を用いて、平均屈折力MPの分布と非点収差ASの分布を作ることができる。この分布が、透過非点収差の分布および透過平均屈折力の分布である。
このような透過非点収差の分布および透過平均屈折力の分布が、目標として予め定めた透過非点収差の分布および透過平均屈折力の分布に近似するように、レンズ表面形状が調整される。
その際、透過非点収差の分布および透過平均屈折力の分布は、少なくとも、角膜−レンズ頂点間距離、前傾角、およびフロント角の情報を用いて、累進屈折力レンズの表面形状から算出される分布であることが好ましい。
透過の目標分布(非点収差の分布および平均屈折力の分布)に近似するレンズ表面形状が計算されると、加工機械によってレンズを製造することができる。
実施形態の累進屈折力レンズを説明する前に、実施形態と比較対象の従来の累進屈折力レンズを説明する。
[4.従来の累進屈折力レンズ]
図3および図4は、従来の透過の基本設計を行った累進屈折力レンズを説明する図である。図3A〜図3Dは、透過平均屈折力の分布と、垂直方向に沿った(子午線に沿った)および水平方向に沿った透過平均屈折力(MP)および非点収差(VP、HP)の変化を示す図である。なお、縦軸yはレンズ鉛直方向を示し、横軸xはレンズ水平方向を示し、原点はレンズのプリズム参照点を示す。
図4A〜図4Dは、透過非点収差の分布と、垂直方向に沿ったおよび水平方向に沿った透過平均屈折力および透過非点収差の変化を示す図である。
透過平均屈折力および透過非点収差を示す面は、レンズを通過する光線が投影される眼の側の仮想の遠点球面である。「仮想」という言葉は、面がレンズの実際の表面ではないことを意味する。ここでの透過平均屈折力および透過非点収差は、(レンズ表面の曲率半径の逆の意味での)表面平均屈折力および表面非点屈折力とは異なり、眼の側で発現する平均屈折力および固有非点収差である。
以下、図3および図4を用いて従来の累進屈折力レンズについて説明する。
図3Aは、従来の累進屈折力レンズに対応する透過平均屈折力の分布を示す図である。図3Aにて採用した条件を以下に列挙する。
・レンズ直径:60mm
・内寄せ量:0.0mm
・S(遠用部測定基準点における球面屈折力):+0.00D
・C(円柱屈折力):+0.00D
・ADD:2.00D
・累進帯長:18mm
矢印「A」および「B」は、所定の屈折力(例えば1.00D)以上の領域の水平幅を示す。
矢印「A」はy=−14.0mmの部分、すなわち近用部の代表部分に対応する。
矢印「B」はy=−20.0mmの部分、すなわち近用部の下方部分を表す代表部分に対応する。なお、y=−20.0mmは、フレームへのレンズの供給条件を考慮した場合、近用部を確保するのに下限値として十分である。
図3Bは、従来の累進屈折力レンズに対応する子午線に沿った透過の屈折力の変化を示す。縦軸はy方向の位置[mm]を示し、横軸は加入度数ADD[D]にしたがって値が変化する平均屈折力[D]を示す。
また、図3Bでは、垂直方向の屈折力(VP)のラインが点線、水平方向の屈折力(HP)のラインが破線、平均屈折力(MP)のラインが実線である。MPはVPとHPの平均である。
図3Bに示すMPの線によれば、y=4.0mmでの累進開始点から、平均屈折力が加入度数(ADD)2.00Dに達するy=−14.0mmの累進終了点までの累進帯長は18mmを示す。
累進開始点と累進終了点との間の領域は中間部に対応する。累進開始点の上方の領域は、遠用部に対応する。累進終了点の下方の領域は、近用部に対応する。
図3Cおよび図3Dは、y=−4.0mm、y=−14.0mmにおける従来の累進屈折力レンズに対応する水平方向の透過屈折力、垂直方向の透過屈折力、およびそれらの平均値である透過平均屈折力の変化の概略図を示す図である。縦軸は屈折力[D]を示し、横軸はx方向(水平方向)の位置[mm]を示す。中間部の代表値としてy=−4.0mm、近用部の代表値としてy=−14.0mmをそれぞれ設定している。
図3B〜図3Dは、子午線に沿って、透過非点収差がほとんどないことを示している。少なくとも透過非点収差は付加されていない。これは、後述の実施形態すなわち中間部および近用部に透過非点収差を付加する手法とは大きく異なる点である。
図4Aは、図3Aにて採用した条件下での従来の累進屈折力レンズに対応する透過非点収差の分布を示す図である。以降、明記無い限り、透過屈折力分布に対応する透過非点収差分布は、透過屈折力分布にて採用した条件下での分布とする。
領域「a」は、明瞭な視野範囲の指標として用いられる。明瞭な視野範囲は、装用者が累進屈折力レンズを通して明瞭に見ることができる視野の範囲である。明瞭な視野範囲は、透過非点収差の特定の等高線によって挟まれた非閉塞領域として定義される。この例では、明瞭な視野範囲を示す透過非点収差の値は0.50Dである。この値は0.50Dに限定されず、例えば0.25Dであってもよい。指標に用いる透過非点収差の値は、0.50Dを超えないことが好ましい。
詳しくは後述するが、領域「a」の矢印は、従来の累進屈折力レンズよりも、本発明の一態様に係る累進屈折力レンズだと明瞭な視野範囲が水平方向に広く確保可能であることを示すために使用する。
領域aの2つの矢印は、透過屈折力分布に係る図3Aにて述べたのと同様に、y=−14.0mm(近用部の代表部分:領域a1)であり、y=−20.0mm(近用部の下方部分を表す代表部分:領域a2)である。領域a1および領域a2をまとめて領域「a」とも称する。
図4Aの符号bの〇丸で囲まれた領域は、最大の透過非点収差が存在する領域に対応し、領域bの透過非点収差の値は最大である。なお、領域「b」は、領域「a」の側方の領域である。領域「b」は、領域「a」のx座標よりも絶対値が大きいx座標の領域である。また、領域「b」は、最大の透過非点収差の部分を含む領域でもある。
図4Bは、従来の累進屈折力レンズに対応する子午線に沿った透過非点収差の変化を示す図である。縦軸はy方向の位置[mm]を示し、横軸は透過非点収差(D)を示す。図4Bでは、子午線に沿った透過非点収差が、図3Bに対応して実質的にゼロであることを示している。
図4Cおよび図4Dは、y=−4.0mm、y=−14.0mmにおける従来の累進屈折力レンズに対応する、水平方向の透過非点収差の変化の概略図を示す図である。縦軸は透過非点収差[D]を示し、横軸はx方向の位置[mm]を示す。
図4Cおよび図4Dによれば、子午線に沿った透過非点収差(x=0.0mm)の値はほぼゼロである。これは、後述の実施形態すなわち中間部および近用部に透過非点収差を付加した後の透過非点収差分布とは大きく異なる点である。
以下、図2に示す累進屈折レンズ10の実施形態を説明する。以下の実施形態では、子午線上に透過非点収差を付加している。なお、説明の便宜上、上記(従来の累進屈折力レンズ)の欄にて説明した内容と重複する内容は記載を省略する。
[5.実施形態(水平方向の屈折量>垂直方向の屈折力)]
以下、本発明の実施形態について説明する。(本発明の技術的思想の要旨)の欄にて述べたように、実施形態では、非点収差を重視、すなわち非点収差の増加を抑えるべく、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きくなる部分を含むよう設定している。なお、実施形態では、0.50Dの透過非点収差を中間部および近用部の子午線上に付加している。
図5および図6は、図2に示す累進屈折レンズ10の一実施形態であって、透過非点収差の分布において、近用部および中間部に対応した部分に透過非点収差が付加され、垂直方向の屈折力が水平方向の屈折力よりも小さい実施形態を示す図である。
図5A〜図5Dは、実施形態における透過平均屈折力の分布の一例と、垂直方向および水平方向に沿った透過平均屈折力および透過非点収差の変化の一例を示す図である。
図6A〜図6Dは、実施形態における透過非点収差の分布の一例と、垂直方向および水平方向に沿った透過平均屈折力および透過非点収差の変化の一例を示す図である。
以下、図5および図6をより詳細に説明する。
図5Aは、実施形態に対応する透過平均屈折力の分布を示す。図5Aにて採用した条件は、上記(従来の累進屈折力レンズ)の欄にて採用した条件と同一であるため記載を省略する。
図5Bは、実施形態に対応する子午線に沿った透過の屈折力の変化を示す。縦軸はy方向の位置[mm]を示し、横軸は加入度数ADD[D]にしたがって値が変化する平均屈折力[D]を示す。
図5Bにおいて、平均屈折力(MP)はレンズ下方に向かって上昇している。その理由は以下のとおりである。
累進終了点であるy=−14.0mmにおいて、垂直方向の屈折力(HP)と水平方向の屈折力(VP)との差を0.50D設ける。実施形態では、少なくとも子午線上において、水平方向の屈折力(VP)が垂直方向の屈折力(HP)よりも高くなるように設定する。具体的には、累進開始点から下方の子午線に対して水平方向の屈折力を0.25D増加させ且つ垂直方向の屈折力を0.25D減少させ、透過非点収差を0.50D付加している。その際に、下方に向けて平均屈折力(MP)を増加させ、測定基準点Nにて平均屈折力がS+ADDの値(ここでは2.0D)となるように設定する。この設定により、中間部および近用部において0.50Dの透過非点収差が付加される。
この非点収差は、もともと累進部分に存在している固有非点収差を打ち消す方向に働くため、近用部の明瞭な視野領域が広がる。その理由としては以下のとおりである。
累進屈折力レンズだと、レンズ下方に向けて屈折力が増加する関係上、累進部分に存在している固有非点収差は、垂直方向の屈折力>水平方向の屈折力という関係を有する。
その一方、実施形態にて付加される透過非点収差は、水平方向の屈折力>垂直方向の屈折力という関係を有する。
結局、実施形態にて付加される透過非点収差が、累進部分に存在している固有非点収差を打ち消すことになる。
図5Cおよび図5Dは、それぞれy=−4.0mmおよびy=−14.0mmにおける水平方向の透過屈折力、垂直方向の透過屈折力、およびそれらの平均値であるの変化の概略図を示す。縦軸は屈折力[D]を示し、横軸はx方向の位置[mm]を示す。
図5Cおよび図5Dにおいて、子午線近傍である約x=−5.0mmからx=5.0mmまでの範囲内で、垂直方向の屈折力は、水平方向の屈折力よりも小さい。その一方、上記範囲外の領域では、垂直方向の屈折力は、水平方向の屈折力よりも大きい。
図5Dでは、周辺の領域に向かうほど垂直方向の屈折力が小さくなるため、近用部周辺の透過非点収差は小さくなる。このような透過非点収差の低減については、図4Aと図6Aとを比較して後述する。
換言すれば、付加される透過非点収差は0.50Dであり、中間部および近方部における子午線に沿って見ると、垂直方向の屈折力は水平方向の屈折力よりも小さい。これは、累進面に特有の歪みが解消される方向である。
図6Aは、実施形態に対応する透過非点収差の分布を示す。
図6Bは、実施形態に対応する子午線に沿った透過非点収差の変化を示す。縦軸は、y方向の位置[mm]を示し、横軸は、伝達された透過非点収差(D)を示す。
図6Bは、中間部および近用部において、所定量の0.50Dの透過非点収差が意図的に子午線に沿って付加されていることを示している。処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過の性能パラメータは、0.50Dである。
図6Cおよび図6Dは、それぞれy=−4.0mmおよびy=−14.0mmでの透過非点収差の変化の概略図を示す。縦軸は透過非点収差[D]、横軸はx方向の位置[mm]である。
図6Cおよび図6Dでは、約0.50Dの透過非点収差が子午線に沿って付加される。近用部の近用部基準点(N)が設定されるy=−14.0mmでは、透過非点収差の付加量0.50Dに達する。
実施形態では、透過非点収差が、眼の側で形成され、しかも近用部および中間部に対応した部分に付加されることを示す。さらに、一例では、近用部の1点に対応した部分において、垂直方向の屈折力は水平方向の屈折力よりも小さい。別の一例では、中間部および近用部の子午線(または主注視線)において、垂直方向の屈折力は水平方向の屈折力よりも小さい。換言すれば、透過非点収差が眼に対して与えられるように、垂直方向の屈折力が水平方向の屈折力よりも小さくなるように透過非点収差が付加される。
上記のように透過非点収差を付加することにより、近用部における拡大した明瞭な視野範囲の幅を制御することが可能になる。明瞭な視野範囲は、透過非点収差が所定の閾値以下である領域である。
(5−1.従来の設計と実施形態の、目標分布状態における比較)
従来の透過基本設計(図4A)を用いる従来の設計と、実施形態(図6A)とを、透過非点収差の分布において比較する。これらの分布は、最終的に得られるレンズの実際の表面を設計する際に基準として扱われ、透過非点収差の目標分布として使用される。
図4Aおよび図6Aは、従来の設計(図4A)と実施形態(図6A)との間の透過非点収差の分布の比較を示す。両方の透過非点収差の分布の領域「a」を参照すれば、実施形態の近用部の明瞭な視野範囲は従来の明瞭な視野範囲よりも広がっていることがわかる。
実施形態の透過非点収差の分布における明瞭な視野範囲の幅(画像測定による幅、以降同様)は、y=−14.0mm(a1)で10.65mm、y=−20.0mm(a2)で13.55mmである。
従来の設計では、y=−14.0mm(a1)で8.30mm、y=−20.0mm(a2)で10.00mmである。
以下の表1に、加入度数2.00Dの場合における、y=−14.0mm(a1)の位置およびy=−20.0mm(a2)の位置における明瞭な視野範囲の幅の結果をまとめたものを記載する。表1には、後述の他の結果も記載する。
Figure 2020067522
また、図6Aに示す周辺領域は、透過非点収差の値は大きくない。すなわち、図6Aに示す分布には、図4Aに示す側方領域である透過非点収差の分布における〇で囲まれた領域「b」では、1.50Dに等しい透過非点収差を有する領域は現れない。
つまり、従来設計の〇で囲まれた領域「b」の透過非点収差の値は1.50D以上であり、実施形態の透過非点収差の値は1.50D未満である。これより、実施形態は改良されたレンズといえる。
(5−2.従来設計と実施形態との、最終的に得られたレンズ状態での比較)
次に、目標分布としての透過平均屈折力の分布と透過非点収差の分布とに基づいて、最終的に得られるレンズの設計について説明する。そして、最終的に得られたレンズの透過非点収差の分布における従来設計と実施形態との比較を、図7Aおよび図7Bに示す。
なお、最終的に得られるレンズの表面構造としては両面複合累進レンズを採用する。その他の各種条件は以下のとおりである。具体的な設計内容は、後述の(累進屈折力レンズの設計方法)の欄に記載する。
・内寄せ量:2.5mm
・屈折率:1.60
・角膜−レンズ頂点間距離(CVD):12.0mm
・角膜頂点から眼球の回転中心までの距離:13.0mm
・瞳孔間距離(PD):64.0mm
・前傾角:10.0度
・フロント角(JIS B7281:2003):0.0°
以降、特記無い限り、最終的に得られるレンズについての各種条件は同様とする。但し、本発明は上記各条件に限定されない。
図7Aおよび図7Bは、実施形態の一例と従来の設計における、最終的に得られる透過非点収差の分布の比較を示す図である。両透過非点収差の分布の領域「a」を参照すれば、実施形態の近用部における明瞭な視野範囲は、最終的に得られるレンズであっても、従来例よりも広がっていることがわかる。
実施形態の透過非点収差の分布によれば、明瞭な視野範囲の幅は、y=−14.0mm(a1)で11.13mm、y=−20.0mm(a2)で15.00mmである。
従来の設計では、y=−14.0mm(a1)で7.74mm、y=−20.0mm(a2)で10.16mmである。
また、図7Aでは側方領域は大きい非点収差の値を示さない。である透過非点収差の分布における〇で囲まれた領域「b」を見る限り、図7Bでは側方領域の透過非点収差が1.75Dである領域は、図7Aの対応する分布ではほとんど現れていない。
つまり、従来の設計における、〇で囲まれた領域「b」の透過非点収差の値は1.75Dを超え、実施形態の対応する領域の透過非点収差の値はほぼ1.75D未満である。
以上、実施形態によれば、近用部において明瞭な視野範囲の幅あるいは面積を広げることができる。したがって、実施形態の累進屈折力レンズは、従来装用者が感じていたぼけを抑制することができる。
(5−3.透過非点収差の付加パターン)
さらに、このような透過非点収差を、子午線および/または主注視線に沿ってだけでなく、設計面全体に拡大する方法を、図8、図10、図12に示す3つのパターンに沿って説明する。
(5−3−1.パターン1)
パターン1は、累進屈折力レンズの非点収差調整領域R(図2参照)が、水平線HL(図2参照)に対して下方の側にあり、さらに、下方の側に向かって広がった扇型形状の領域であるパターンである。
図8は、設計面上の特定の領域に透過非点収差が付与されたパターン1を示す図である。図8の右側の図に示すように、透過非点収差の付加は、少なくとも近用部測定基準点Nで達成され得る。具体的には、レンズ上の点Nに対応した部分に0.50D]の透過非点収差が与えられる。
図8の左側の図は、直径60mmの設計面を示している。FPはフィッティングポイントまたはアイポイントに対応した点である(以下、この点を単に点FPと表す)。GCは幾何中心を意味する。
図8の右図は、子午線に沿った透過非点収差の変化を示しており、その位置は左側の図に対応している。図8に示す右側の図の縦軸はy方向の位置(mm)を示し、横軸は透過非点収差[D]を示す。yが正の領域にあるとき、透過非点収差は付加されないが、yが負の領域にあるとき、透過非点収差の付加量は増加し続け、点Nで0.50Dに達し、さらに増加を続ける。
非点収差は、弧e−d−f、線分e−GCおよび線分f−GCで囲まれた扇形領域AS_addに付与される。領域「AS_add」は、線分e−GCと線分f−GCとの成す角度αによって制御される。
レンズの上半分の領域「AS_0」(円弧a−b−cと線分a−cで囲まれた半円)に透過非点収差は付与されていない。
2つの扇形領域「As_int」がある。1つの「As_int」は円弧ae、線分a−GCおよび線分e−GCで囲まれ、他の「As_int」は円弧cf、線分c−GCおよび線分f−GCで囲まれている。扇形領域「As_int」は、領域「AS_add」と領域「AS_0」とを補間する領域である。したがって、この補間する領域の透過非点収差には、0.50D]より小さい非点収差が与えられる。
換言すれば、1つの点上の透過非点収差に1つの制約を課すことによって、眼に対して、透過非点収差の付加領域を示す円の扇形を得ることが可能である。もちろん、透過非点収差は、実際には、上述の領域(またはライン上)の任意の点に提供することができるので、複数の点に与えることができる。
パターン1で用いるパラメータは、透過非点収差の付加量と、非点収差が付加される領域の範囲を制御する角度αである。透過非点収差の付加量は0.50D]であり、角度αは30度である。角度αの値は、15°〜45°内のいずれかの角度であってもよい。
図9A〜Dは、実施形態の条件(VP<HP)にパターン1を適用した結果の一例を示す図である。
図9Aは、中間部および近用部において、垂直方向の屈折力(VP)<水平方向の屈折力(HP)であるときの、パターン1に対応する透過平均屈折力の分布を示す。
図9Bは、中間部および近用部において垂直方向の屈折力(VP)<水平方向の屈折力(HP)であるときの、パターン1に対応する透過非点収差の分布の一例を示す図である。
従来の設計(図4A)と実施形態(図9B)とを比較すると、透過非点収差の分布の領域「a」を見ると、図9Bに示す近用部の明瞭な視野範囲は、従来の設計よりも広がっていることがわかる。
双方の透過非点収差の分布の符号「b」が付された○領域を見ると、図9Bに示す透過非点収差の分布では、周辺領域は1.50D]の透過非点収差を有し、透過非点収差の値は小さい。非点収差が1.50D]の領域の占める比率は、従来の設計よりも小さい。
実施形態のパターン1での透過非点収差における明瞭な視野領域の幅は、y=−14.0mm(a1)で10.65mm、y=−20.0mm(a2)で15.97mmである。
従来の設計では、y=−14.0mm(a1)で8.30mm、y=−20.0mm(a2)で10.00mmである。
図9Cは、パターン1に対応する、垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力および平均屈折力の、子午線に沿った変化の一例を示す図である。図9Cによれば、少なくとも近用部においては垂直方向の屈折力は水平方向の屈折力よりも小さい。
図9Dは、パターン1に対応する、透過非点収差の子午線に沿った変化の一例を示す図である。図9Dによれば、中間部および近用部における子午線に沿って意図的に透過非点収差が付与されていることが示されている。
(5−3−2.パターン2)
パターン2は、累進屈折力レンズの非点収差調整領域R(図2参照)が、水平線HL(図2参照)に対して、下方の側にあるパターンである。なお、パターン1と同内容については記載を省略する。
図10は、設計面上の特定の領域に透過非点収差が付与されたパターン2を示す図である。図10の右側の図に示すように、1つの近用部測定基準点である点Nに対応した部分に透過非点収差が付加され、その結果、透過非点収差が設計面のほぼ下半分に与えられる。
非点収差は、円弧g−d−hと線分g−hで囲まれた領域「AS_add」に付与される。「AS_add」の領域では、透過非点収差の値は0.50D]である。透過非点収差は、レンズの上半分の領域「AS_0」(円弧a−b−cおよび線分a−cによって囲まれた半円)には付与されない。点a、点c、点h、点gで囲まれた「AS_int」のような矩形は、領域「AS_add」と領域「AS_0」とを補間する領域である。したがって、上記補間する領域の固有非点収差には、0.50D]より小さい非点収差が与えられる。
図11A〜図11Dは、実施形態の条件(VP<HP)にパターン2を適用した結果の一例を示す図である。
図11Aは、中間部および近用部において垂直方向の屈折力(VP)<水平方向の屈折力(HP)であるときの、パターン2に対応する透過平均屈折力の分布を示す。
図11Bは、中間部および近用部において垂直方向の屈折力(VP)<水平方向の屈折力(HP)であるときの、パターン2に対応する透過非点収差の分布を示す。
従来の設計(図4A)と実施形態(図11B)とを比較すると、透過非点収差の分布の領域「a」を見れば、図11Bに示す近用部の明瞭な視野範囲は従来の設計よりも広がっていることがわかる。
なお、透過非点収差の分布の「b」が付された○領域を見ると、従来の設計における透過非点収差の分布には非点収差1.50D]の領域はあるが、図11Bに示す透過非点収差の分布には非点収差1.50D]の領域は現れていない。
図11Bに示す透過非点収差における明瞭な視野範囲の幅は、y=−14.0mm(a1)では10.65mm、y=−20.0mm(a2)では13.55mmである。
従来の設計では、y=−14.0mm(a1)で8.30mm、y=−20.0mm(a2)で10.00mmである。
図11Cは、パターン2に対応する、垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力および平均屈折力の、子午線に沿った変化を示す。図11Cによれば、少なくとも近用部においては垂直方向の屈折力は水平方向の屈折力よりも小さい。
図11Dは、パターン2に対応する子午線に沿った透過非点収差の変化を示す。図11Dによれば、中間部および近用部における子午線に沿って意図的に透過非点収差が付与されていることが示されている。
(5−3−3.パターン3)
パターン3は、累進屈折力レンズの非点収差調整領域R(図2参照)は、水平線HL(図2参照)の下方の側で、水平方向に一定の幅を有する領域を含むケースである。
図12は、設計面上の特定の領域に透過非点収差が付与されたパターン3を示す図である。図12では、非点収差は曲率ベースで表され、1つの近用部測定基準点である点Nに対応した部分に透過非点収差が付加され、その結果、特定の領域に透過非点収差が与えられる。
図12の左側の図は、直径60mmの設計面を示している。図12の右側の図は、子午線に沿った透過における水平の曲率(C−h)と垂直の曲率(C−v)との差の変化を示し、その位置関係は左側の図に対応する。
図12の右側の図は、縦軸にy方向の位置[mm]をとり、横軸に曲率の差をとっている。yが正である領域では、曲率C−hと曲率C−vとの差はほぼゼロであり、すなわち透過非点収差は付加されていない。
非点収差は、円弧g−d−rと線分r−sと線分s−pと線分p−gで囲まれた領域「AS_add」に付与される。領域「AS_add」では、透過非点収差は、少なくとも点Nで達成され得る。例えば、レンズ上の点Nに対応した部分に0.50D]の透過非点収差が提供される。
パターン3では、スプライン関数を用いた曲率の制御により透過非点収差が付加されている。図12の左図の小円「cp」はスプライン関数の制御点である。制御点の多くは子午線付近に設定される。また、このパターンでは、点aと点cの接線にも制御点が配置される。
図13A〜図13Dは、実施形態の条件(HP<VP)にパターン3を適用した結果の一例を示す図である。
図13Aは、中間部および近用部において垂直方向の屈折力(VP)<水平方向の屈折力(HP)であるときの、パターン3に対応する透過平均屈折力の分布を示す。
図13Bは、中間部および近用部において垂直方向の屈折力(VP)<水平方向の屈折力(HP)であるときの、パターン3に対応する透過非点収差の分布を示す。
従来の設計(図4A)と実施形態(図13B)とを比較すると、透過非点収差の分布の領域「a」を見ると、図13Bに示す近用部の明瞭な視野範囲は従来の設計よりも広がっていることがわかる。
図13Bに示す非点収差の分布では、透過非点収差の分布に「b」が付された丸い領域を見ると、1.50D]の透過非点収差を有する領域が存在するが、周辺における透過非点収差は小さく、1.50D]の領域が占める割合は従来の設計よりも小さい。
図13Bに示す透過非点収差の分布における明瞭な視野範囲の幅は、y=−14.0mm(a1)では9.91mm、y=−20.0mm(a2)では13.55mmである。
従来の設計では、y=−14.0mm(a1)で8.30mm、y=−20.0mm(a2)で10.00mmである。
図13Cは、パターン3に対応する、垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力および平均屈折力の、子午線に沿った変化を示す。図13Cによれば、少なくとも近用部においては垂直方向の屈折力は水平方向の屈折力よりも小さい。
図13Dは、パターン3に対応する子午線に沿った透過非点収差の変化を示す。図13Dによれば、中間部および近用部における子午線に沿って意図的に透過非点収差が付与されていることが示されている。
[6.変形例(実施形態での透過非点収差の付加量およびADDのバリエーション等)]
本項目では、透過非点収差の付加量およびADDのバリエーションならびに同じADDの従来の累進屈折力レンズに対する比較を示す。
図14Aは、従来の累進屈折力レンズにおいてADDを3.00Dに変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。
図14Bは、従来の累進屈折力レンズにおいてADDを3.00Dに変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。
図15Aは、実施形態においてADDを3.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.30Dに変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。
図15Bは、実施形態においてADDを3.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.30Dに変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。
図14Bと図15Bとを比較すると、従来(図14B)に比べ、実施形態のバリエーション(図15B)の方が、近用部において明瞭な視野範囲の幅あるいは面積が広がっている。
ADD=3.00Dのとき、実施形態の透過非点収差の分布によれば、明瞭な視野範囲の幅は、y=−14.0mm(a1)で7.74mm、y=−20.0mm(a2)で10.04mmである。
従来の設計では、y=−14.0mm(a1)で6.44mm、y=−20.0mm(a2)で8.06mmである。
y=−14.0mm(a1)における、加入度数に応じた明瞭な視野範囲の幅を、後掲の他のバリエーションも含め、表2に記載する。
y=−20.0mm(a2)における、加入度数に応じた明瞭な視野範囲の幅を、後掲の他のバリエーションも含め、表3に記載する。
Figure 2020067522
Figure 2020067522
図16Aは、従来の累進屈折力レンズにおいてADDを1.00Dに変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。
図16Bは、従来の累進屈折力レンズにおいてADDを1.00Dに変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。
図17Aは、実施形態においてADDを1.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.10D]に変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。
図17Bは、実施形態においてADDを1.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.10D]に変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。
図16Bと図17Bとを比較すると、従来(図16B)に比べ、実施形態のバリエーション(図17B)の方が、近用部において明瞭な視野範囲の幅あるいは面積が広がっている。
ADD=1.00Dのとき、実施形態の透過非点収差の分布によれば、明瞭な視野範囲の幅は、y=−14.0mm(a1)で14.88mm、y=−20.0mm(a2)で16.94mmである。
従来の設計では、y=−14.0mm(a1)で13.54mm、y=−20.0mm(a2)で15.26mmである。
図18Aは、実施形態においてADDを2.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.20Dに変更したときの透過平均屈折力の分布を示す図である。
図18Bは、実施形態においてADDを2.00Dに変更し且つ透過非点収差の付加量を0.20Dに変更したときの透過非点収差の分布を示す図である。
従来の累進屈折力レンズにおいてADDが2.00Dであるときの透過平均屈折力の分布を示す図5Bと図18Bとを比較する。その結果、従来(図5B)に比べ、実施形態のバリエーション(図18B)の方が、近用部において明瞭な視野範囲の幅あるいは面積が広がっている。
ADD=2.00Dのとき、実施形態の透過非点収差の分布によれば、明瞭な視野範囲の幅は、y=−14.0mm(a1)で9.56mm、y=−20.0mm(a2)で11.74mmである。
従来の設計では、y=−14.0mm(a1)で8.30mm、y=−20.0mm(a2)で10.00mmである。
なお、透過非点収差の分布に係る本願各図を鑑みると、遠用部の測定基準点Fにおける透過非点収差の値から近用部の測定基準点Nにおける透過非点収差の値までの変化量Δ[D]の絶対値は、加入度数ADD[D]の0.07〜0.24倍であるのが好ましい。上記各変形例は、いずれもこの範囲内に収まる。なお、変化量Δ[D]の範囲は、加入度数ADD[D]の0.10倍〜0.20倍の量であることがより好ましく、0.12倍〜0.15倍の量であることが特に好ましい。
上記変化量Δに係る知見を得た経緯について述べる。
本発明者は、透過設計を利用しつつ、遠用部の測定基準点Fから近用部の測定基準点Nに至るまでにおいて透過非点収差を付加するという手法、そして、その付加される透過非点収差の値は加入度数ADDに応じて決定するという手法を想到した。
この手法により、もちろん子午線および測定基準点Nでは透過非点収差が増加はするものの、透過非点収差の急峻な変化を和らげることができる。そして、結果的に、透過非点収差が0.50D以下となる明瞭な視野範囲を広く獲得でき、この明瞭な視野範囲に子午線および測定基準点Nを含ませることができる、という知見を得た。
変化量Δ[D]とは、図2に記載のように、遠用部の測定基準点F(図2中では符号16)における透過非点収差の値Δ2から、近用部の測定基準点Nにおける透過非点収差の値Δ1に至るまでの増減量(=Δ1−Δ2)のことを指す。なお、変化量Δ[D]を、透過非点収差の最大付加量と定義しても構わない。
また、上記変化量Δ[D]の絶対値は、加入度数ADD[D]の0.07倍〜0.24倍に設定されている。このような変化量Δ[D]の設定は、同じ商品名(設計シリーズ)の眼鏡レンズに対して好適に適用することができる。その結果、装着者が、同じ眼鏡レンズ製造者の同じ商品名(設計シリーズ)の眼鏡レンズを再度選択して、加入度数ADD[D]を変更した眼鏡をつくり換える場合、眼鏡レンズの変更によるぼけ、揺れ感、歪み等の変化を感じることを抑制することができる。
以上の知見に基づき、上記変化量Δに係る規定が想到された。
[7.本発明の一態様に係る効果]
以上説明したように、実施形態、およびパターン1〜3のいずれを組み合わせた場合でも、従来に比べて近用部の明瞭な視野範囲を広げ、ぼけ、揺れ感、歪みを感じるといった欠陥を改善することができる。これは、透過非点収差の分布において、中間部および近用部の少なくとも主注視線上で、遠用部測定基準点Fに対応した点に付与される円柱屈折力(例えば乱視度数)に透過非点収差が加算されるように、近用部および中間部の表面形状は調整されたためである。
なお、一実施形態によれば、垂直方向の屈折力と水平方向の屈折力の差が、垂直方向に進むに連れて減少する部分で差の変化率と、垂直方向の屈折力と水平方向の屈折力の差が、増大する部分での差の変化率とは、互いに異なるように設定することも好ましい。
近用部は、図2に示すように、2つの隠しマークの位置を結ぶ水平線に対して下方側に設けられ、近用部および中間部の表面形状を調整する非点収差調整領域は、図8、20、22に示すように、水平線に対して、下方の側にあることが好ましい。これにより、中間部および近用部における装用者の感じる装着感をより向上させることができる。
この場合、図10に示すように、非点収差調整領域は、水平線の下方の側で、下方の側に向かって広がった扇型形状の領域であることが好ましい。これにより、中間部および近用部における装用者の感じる装着感を向上させることができる。
また、非点収差調整領域は、図12に示すように、水平線の下方の側で、水平方向に一定の幅を有する領域を含むことも好ましい。これにより、中間部および近用部における装用者の感じる装着感を向上させることができる。
以上、本発明の累進屈折力レンズ、およびその設計方法について詳細に説明したが、本発明の累進屈折力レンズ、およびその設計方法は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
例えば、これまでに述べてきた設計方法である設計ステップと、
設計ステップに基づいて累進屈折力レンズを製造する製造ステップと、
を有する、累進屈折力レンズの製造方法も、本発明の技術的思想が反映されている。
また、近方距離を見るための近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用部と、近用部と遠用部との間に設けられ且つ累進屈折機能を有する中間部と、を備えた複数の累進屈折力レンズからなるレンズ群であって、
各累進屈折力レンズにおいて、遠用部、近用部および中間部のうち近用部および中間部に対して透過非点収差が付加された、累進屈折力レンズ群も、本発明の技術的思想が反映されている。
これらの各態様に対しても、本明細書で述べてきた好適例を適用してももちろん構わない。
以上の結果、中間部および近用部に透過非点収差を加えると利点が得られる。この利点とは、例えば、近用部の明僚な視野範囲の拡大、中間部および近用部の両側の透過非点収差の低減、非点収差の変化率の低減等である。
<総括>
以下、本開示の「累進屈折力レンズおよびその設計方法」について総括する。
本開示の一実施例は以下の通りである。
近方距離を見るための近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用部と、近用部と遠用部との間に設けられ且つ累進屈折機能を有する中間部と、を備えた累進屈折力レンズであって、
遠用部、近用部および中間部のうち近用部および中間部に対して透過非点収差が付加され、
透過非点収差が付加された近用部および中間部においては、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい部分を含む、累進屈折力レンズ。
MP:平均屈折力、AS:透過非点収差、VP:垂直方向の屈折力、HP:水平方向の屈折力、ADD:加入度数、AX:円柱軸、Tf:遠方視のタンジェンシャル透過屈折力(T)、Tn:近方視のタンジェンシャル透過屈折力(T)、Sf:遠方視のサジタル透過屈折力(S)、Sn:近方視のサジタル透過屈折力(S)、GC:幾何学中心、F:遠用部測定基準点、FP:フィッティングポイント、N:近用部測定基準点、AS_0:透過非点収差が与えられていない領域、AS_int:透過非点収差の領域と透過非点収差ゼロの領域を補間する領域、AS_add:透過非点収差が与えられた領域。

Claims (6)

  1. 近方距離を見るための近用部と、前記近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間に設けられ且つ累進屈折機能を有する中間部と、を備えた累進屈折力レンズであって、
    前記遠用部、前記近用部および前記中間部のうち前記近用部および前記中間部に対して透過非点収差が付加され、
    透過非点収差が付加された前記近用部および前記中間部においては、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい部分を含む、累進屈折力レンズ。
  2. 前記近用部および前記中間部に対して付加されるのは、絶対値がゼロを超え且つ0.25D以下の透過非点収差である、請求項1に記載の累進屈折力レンズ。
  3. 乱視矯正のための屈折力を差し引いた後の前記遠用部の測定基準点Fにおける透過非点収差の値の絶対値が0.12D以下である、請求項1または2に記載の累進屈折力レンズ。
  4. 前記遠用部の測定基準点Fにおける透過非点収差の値から前記近用部の測定基準点Nにおける透過非点収差の値までの変化量Δ[D]の絶対値の量は、加入度数ADD[D]の0.07〜0.24倍の量である、請求項1〜3のいずれかに記載の累進屈折力レンズ。
  5. 透過非点収差と共に透過屈折力が付加された、請求項1〜4のいずれかに記載の累進屈折力レンズ。
  6. 近方距離を見るための近用部と、前記近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間に設けられ且つ累進屈折機能を有する中間部と、を備えた累進屈折力レンズの設計方法であって、
    前記遠用部、前記近用部および前記中間部のうち前記近用部および前記中間部に対して透過非点収差を付加し、
    透過非点収差が付加された前記近用部および前記中間部においては、乱視矯正のための屈折力を差し引いた後において、水平方向の屈折力の量が垂直方向の屈折力の量よりも大きい部分を含むようにする、累進屈折力レンズの設計方法。
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