本発明は、路面の状態に影響されず、操舵角等に対して適切な操舵トルクを実現するための車両用操向装置であり、トーションバー等の捩れ角を、操舵角等に応じた値に追従するように制御することにより所望の操舵トルクを実現している。
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
先ず、本発明に係る車両用操向装置の1つである電動パワーステアリング装置に関連する情報を検出する各種センサの設置例について説明する。図3は、EPS操舵系と各種センサの設置例を示す図であり、コラム軸2にはトーションバー2Aが備えられている。操向車輪8L,8Rには路面反力Fr及び路面情報μが作用する。トーションバー2Aを挟んでコラム軸2のハンドル側には上側角度センサが設けられ、トーションバー2Aを挟んでコラム軸2の操向車輪側には下側角度センサが設けられており、上側角度センサはハンドル角θ1を検出し、下側角度センサはコラム角θ2を検出する。操舵角θhはコラム軸2の上部に設けられた舵角センサで検出され、ハンドル角θ1及びコラム角θ2の偏差から、下記数1及び数2によってトーションバーの捩れ角Δθ及びトーションバートルクTtを求めることができる。なお、Ktはトーションバー2Aのバネ定数である。
トーションバートルクTtは、例えば特開2008−216172号公報で示されるトルクセンサを用いて検出することも可能である。なお、本実施形態では、トーションバートルクTtを操舵トルクTsとしても扱うこととする。
次に、本発明の構成例について説明する。
図4は本発明の構成例(第1実施形態)を示すブロック図であり、運転者のハンドル操舵はEPS操舵系/車両系100内のモータでアシスト制御される。目標操舵トルクTrefを出力する目標操舵トルク生成部200には、操舵角θhの他に、車速Vs及び右切り/左切り判定部500から出力される右切り又は左切りの操舵状態STsが入力される。目標操舵トルクTrefは変換部400で目標捩れ角Δθrefに変換され、目標捩れ角Δθrefは、トーションバー2Aの捩れ角Δθ及びモータ角速度ωmと共に捩れ角制御部300に入力される。捩れ角制御部300は、捩れ角Δθが目標捩れ角Δθrefとなるようなモータ電流指令値Imcを演算し、モータ電流指令値ImcによりEPSのモータが駆動される。
右切り/左切り判定部500は、モータ角速度ωmを基に操舵が右切りか左切りかを判定し、判定結果を操舵状態STsとして出力する。即ち、モータ角速度ωmが正の値の場合は「右切り」と判定し、負の値の場合は「左切り」と判定する。なお、モータ角速度ωmの代わりに、操舵角θh、ハンドル角θ1又はコラム角θ2に対して速度演算を行って算出される角速度を用いても良い。
図5は目標操舵トルク生成部200の構成例を示しており、目標操舵トルク生成部200は、基本マップ部210、微分部220、ダンパゲイン部230、オフセット補正部240、乗算部250並びに加算部251及び252を備え、操舵角θhは基本マップ部210、微分部220及びオフセット補正部240に入力され、車速Vsは基本マップ部210、ダンパゲイン部230及びオフセット補正部240に入力され、右切り/左切り判定部500から出力される操舵状態STsはオフセット補正部240に入力される。
基本マップ部210は、基本マップを有し、基本マップを用いて、車速Vsをパラメータとするトルク信号(第2トルク信号)Tref_aを出力する。基本マップはチューニングにより調整されており、例えば、図6(A)に示されるように、トルク信号Tref_aは、操舵角θhの大きさ(絶対値)|θh|が増加するにつれて増加し、車速Vsが0[km/h]の時は0で、車速Vsが増加するにつれて増加するようになっている。なお、図6(A)において、符号部211は操舵角θhの符号(+1、−1)を乗算部212に出力しており、操舵角θhの大きさからマップによりトルク信号Tref_aの大きさを求め、これに操舵角θhの符号を乗算し、トルク信号Tref_aを求める構成となっているが、図6(B)に示されるように、正負の操舵角θhに応じてマップを構成しても良く、この場合、操舵角θhが正の場合と負の場合とで変化の態様を変えても良い。また、図6に示される基本マップは車速感応であるが、車速感応でなくても良く、車速Vsが0のとき、トルク信号Tref_aは0ではなく微小な値でも良い。
微分部220は、操舵角θhを微分して角速度情報である舵角速度ωhを算出し、舵角速度ωhは乗算部250に入力される。
ダンパゲイン部230は、舵角速度ωhに乗算されるダンパゲインDGを出力する。乗算部250にてダンパゲインDGを乗算された舵角速度ωhは、トルク信号(第3トルク信号)Tref_bとして加算部252に入力される。ダンパゲインDGは、ダンパゲイン部230が有する車速感応型のダンパゲインマップを用いて、車速Vsに応じて求められる。ダンパゲインマップは、例えば、図7に示されるように、車速Vsが高くなるに従って徐々に大きくなる特性を有する。ダンパゲインマップは操舵角θhに応じて可変としても良い。なお、ダンパゲイン部230及び乗算部250でダンパ演算部を構成している。
オフセット補正部240は、据切り(車速0km/h)状態における、操舵トルクのオフセット値によるアシストの発生を抑制するためのトルク信号(第1トルク信号)Tref_cを算出する。手放し状態において検出される操舵トルクにオフセット値が含まれる場合、据切り状態において目標操舵トルクを0[Nm]とすると、オフセット値が存在するためにアシストが発生することがある。そこで、このオフセット値に基づいて、操舵角θhに応じた特性(以下、「オフセット対策特性」とする)を設定し、オフセット対策特性を用いてトルク信号Tref_cを算出する。図8にオフセット補正部240の構成例を示す。オフセット補正部240はオフセット補正演算部241及び車速感応ゲイン部242を備える。
オフセット補正演算部241は、オフセット対策特性を図9に示されるようなヒステリシス特性として定義し、操舵角θh及び操舵状態STsに基づき、トルク信号(基本トルク信号)Tref_sを演算する。図9において、横軸は操舵角θh[deg]、縦軸はトルク信号Tref_s[Nm]であり、Ahysはヒステリシス幅であり、実線は右切り操舵の場合の特性、破線は左切り操舵の場合の特性を示しており、操舵角+θh2で右切りから左切りに操舵方向を変化させ、操舵角−θh2で左切りから右切りに操舵方向を変化させた例である。図9に示されるように、右切り操舵の場合、トルク信号Tref_sは、操舵角θhが−θh1からθh2の間ではヒステリシス幅Ahysで一定で、−θh2から−θh1の間では一定の割合(傾き)a=2Ahys/(θh2−θh1)で変化し、左切り操舵の場合、トルク信号Tref_sは、操舵角θhがθh1から−θh2の間ではヒステリシス幅Ahysの負数−Ahysで一定で、θh2からθh1の間では傾きaで変化する。操舵トルクのオフセット値によるアシストの発生を抑えるために、ヒステリシス幅Ahysの値はオフセット値よりも大きい値に設定する。なお、オフセット対策特性は、図9に示されるような直線的に変化するヒステリシス特性ではなく、曲線的に変化するヒステリシス特性でも良い。また、右切り操舵の場合と左切り操舵の場合とで対称的な特性となっているが、非対称な特性でも良い。例えば、オフセット値が右切り操舵と左切り操舵で異なる場合、非対称な特性とする。
車速感応ゲイン部242は、車速に応じたゲイン(車速感応ゲイン)をトルク信号Tref_sに乗算することにより、トルク信号Tref_cを出力する。車速感応ゲインは、車速Vsが大きくなるに従って小さくなるように設定される。例えば、図10に示されるように、車速Vsが0km/hの時(停車時)に車速感応ゲインを1.0とし、その後、車速Vsが大きくなるに従って、一定の割合で車速感応ゲインは小さくなり、車速VsがVs1(例えば2km/h)になったら、減少する割合を小さくし、車速VsがVs2(例えば6km/h)の時に車速感応ゲインは0となるようにする。なお、車速Vsが0km/hの時の車速感応ゲインの値は1.0以外でも良く、車速感応ゲインが減少する割合が変わる箇所は複数でも良く、車速感応ゲインの変化は直線的な変化ではなく、曲線的な変化でも良い。
このように、オフセット補正演算部241によりオフセット対策特性にヒステリシス性を持たせ、車速感応ゲイン部242によりオフセット対策特性を車速感応とすることによって、オフセット値による影響を軽減するトルク信号Tref_cを生成し、トルク信号Tref_cにより、操舵トルクのオフセット値によるアシストの発生を抑制することができる。なお、車速感応ゲイン部242の代わりに、ヒステリシス幅Ahysを車速Vsに応じて可変とすることにより、オフセット対策特性を車速感応としても良い。この場合、車速感応ゲイン部242は不要となる。また、オフセット対策特性をヒステリシス特性以外の特性としても良い。
トルク信号Tref_c、Tref_b及びTref_aは、加算部252及び251で順次加算され、目標操舵トルクTrefとして出力される。
なお、舵角速度ωhは、操舵角θhに対する微分演算により求めているが、高域のノイズの影響を低減するために適度にローパスフィルタ(LPF)処理を実施している。また、ハイパスフィルタ(HPF)とゲインにより、微分演算とLPFの処理を実施しても良い。更に、舵角速度ωhは、操舵角θhではなく、上側角度センサが検出するハンドル角θ1又は下側角度センサが検出するコラム角θ2に対して微分演算とLPFの処理を行って算出しても良い。舵角速度ωhの代わりにモータ角速度ωmを角速度情報として使用しても良く、この場合、微分部220は不要となる。
変換部400は、トーションバー2Aのバネ定数Ktの逆数の符号を反転した−1/Ktの特性を有しており、目標操舵トルクTrefを目標捩れ角Δθrefに変換する。
捩れ角制御部300は、目標捩れ角Δθref、捩れ角Δθ及びモータ角速度ωmに基づいてモータ電流指令値Imcを演算する。図11は捩れ角制御部300の構成例を示すブロック図であり、捩れ角制御部300は、捩れ角フィードバック(FB)補償部310、捩れ角速度演算部320、速度制御部330、安定化補償部340、出力制限部350、減算部361及び加算部362を備えており、変換部400から出力される目標捩れ角Δθrefは減算部361に加算入力され、捩れ角Δθは減算部361に減算入力されると共に、捩れ角速度演算部320に入力され、モータ角速度ωmは安定化補償部340に入力される。
捩れ角FB補償部310は、減算部361で算出される目標捩れ角Δθrefと捩れ角Δθの偏差Δθ0に対して補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθが追従するような目標捩れ角速度ωrefを出力する。補償値CFBは単純なゲインKppでも、PI制御の補償値など一般的に用いられている補償値でも良い。目標捩れ角速度ωrefは速度制御部330に入力される。捩れ角FB補償部310と速度制御部330により、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθを追従させ、所望の操舵トルクを実現することが可能となる。
捩れ角速度演算部320は、捩れ角Δθに対する微分演算により捩れ角速度ωtを算出し、捩れ角速度ωtは速度制御部330に入力される。微分演算として、HPFとゲインによる擬似微分を行っても良い。また、捩れ角速度ωtを別の手段や捩れ角Δθ以外から算出し、速度制御部330に入力するようにしても良い。
速度制御部330は、I−P制御(比例先行型PI制御)により、目標捩れ角速度ωrefに捩れ角速度ωtが追従するようなモータ電流指令値Imca1を算出する。減算部333で目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtとの差分(ωref−ωt)を算出し、その差分を、ゲインKviを有する積分部331にて積分し、積分結果は減算部334に加算入力される。捩れ角速度ωtは比例部332にも入力され、ゲインKvpによる比例処理を施され、減算部334に減算入力される。減算部334での減算結果がモータ電流指令値Imca1として出力される。なお、速度制御部330は、I−P制御ではなく、PI制御、P(比例)制御、PID(比例積分微分)制御、PI−D制御(微分先行型PID制御)、モデルマッチング制御、モデル規範制御等の一般的に用いられている制御方法でモータ電流指令値Imca1を算出しても良い。
安定化補償部340は補償値Cs(伝達関数)を有しており、モータ角速度ωmよりモータ電流指令値Imca2を算出する。追従性及び外乱特性を向上させるために、捩れ角FB補償部310及び速度制御部330のゲインを上げると、高域の制御的な発振現象が発生してしまう。この対策として、モータ角速度ωmに対し、安定化するために必要な伝達関数(Cs)を安定化補償部340に設定する。これにより、EPS制御システム全体の安定化を実現することができる。安定化補償部340の伝達関数(Cs)として、例えば1次のHPFの構造を用いた擬似微分とゲインにより設定した、下記数3で表わされる1次フィルタを使用する。
ここで、K
staはゲインで、fcは遮断周波数であり、fcとして例えば150[Hz]を設定する。sはラプラス演算子である。なお、伝達関数として、2次フィルタ、4次フィルタ等を使用しても良い。
速度制御部330からのモータ電流指令値Imca1及び安定化補償部340からのモータ電流指令値Imca2は加算部362で加算され、モータ電流指令値Imcbとして出力される。
出力制限部350は、モータ電流指令値Imcbの上下限値を制限して、モータ電流指令値Imcを出力する。図12に示されるように、モータ電流指令値に対する上限値及び下限値を予め設定し、入力するモータ電流指令値Imcbが、上限値以上の場合は上限値を、下限値以下の場合は下限値を、それ以外の場合はモータ電流指令値Imcbを、モータ電流指令値Imcとして出力する。
このような構成において、本実施形態の動作例を図13〜図15のフローチャートを参照して説明する。
動作を開始すると、右切り/左切り判定部500は、モータ角速度ωmを入力し、モータ角速度ωmの符号を基に操舵が右切りか左切りかを判定し、判定結果を操舵状態STsとして、目標操舵トルク生成部200に出力する(ステップS10)。
目標操舵トルク生成部200は、操舵状態STsと共に、操舵角θh及び車速Vsを入力し、目標操舵トルクTrefを生成する(ステップS20)。目標操舵トルク生成部200の動作例については、図14のフローチャートを参照して説明する。
目標操舵トルク生成部200に入力された操舵角θhは基本マップ部210、微分部220及びオフセット補正部240に、操舵状態STsはオフセット補正部240に、車速Vsは基本マップ部210、ダンパゲイン部230及びオフセット補正部240にそれぞれ入力される(ステップS21)。
基本マップ部210は、図6(A)又は(B)に示される基本マップを用いて、操舵角θh及び車速Vsに応じたトルク信号Tref_aを生成して、加算部251に出力する(ステップS22)。
微分部220は操舵角θhを微分して舵角速度ωhを出力し(ステップS23)、ダンパゲイン部230は図7に示されるダンパゲインマップを用いて車速Vsに応じたダンパゲインDGを出力し(ステップS24)、乗算部250は舵角速度ωh及びダンパゲインDGを乗算してトルク信号Tref_bを演算し、加算部252に出力する(ステップS25)。
オフセット補正部240では、操舵角θh及び操舵状態STsはオフセット補正演算部241に、車速Vsは車速感応ゲイン部242にそれぞれ入力される。オフセット補正演算部241は、操舵角θhに対して、図9に示されるオフセット対策特性を用いて、操舵状態STsに応じてヒステリシス補正を実施し(ステップS26)、トルク信号Tref_sを生成し、車速感応ゲイン部242に出力する。車速感応ゲイン部242は、車速Vsに応じて、図10に示される特性により車速感応ゲインを決定し、トルク信号Tref_sに乗算し、トルク信号Tref_cとして加算部252に出力する(ステップS27)。なお、オフセット補正演算部241におけるオフセット対策特性を、ヒステリシス幅Ahys並びに操舵角θh1及びθh2で定義しても良いし、操舵角θh1又はθh2の代わりに傾きaを用いて定義しても良い。
そして、加算部252にてトルク信号Tref_b及びTref_cが加算され、その加算結果にトルク信号Tref_aが加算部251にて加算され、目標操舵トルクTrefが演算される(ステップS28)。
目標操舵トルク生成部200で生成された目標操舵トルクTrefは変換部400に入力され、変換部400で目標捩れ角Δθrefに変換される(ステップS30)。目標捩れ角Δθrefは捩れ角制御部300に入力される。
捩れ角制御部300は、目標捩れ角Δθrefと共に、捩れ角Δθ及びモータ角速度ωmを入力し、モータ電流指令値Imcを演算する(ステップS40)。捩れ角制御部300の動作例については、図15のフローチャートを参照して説明する。
捩れ角制御部300に入力された目標捩れ角Δθrefは減算部361に、捩れ角Δθは減算部361及び捩れ角速度演算部320に、モータ角速度ωmは安定化補償部340にそれぞれ入力される(ステップS41)。
減算部361では、目標捩れ角Δθrefから捩れ角Δθを減算することにより、偏差Δθ0が算出される(ステップS42)。偏差Δθ0は捩れ角FB補償部310に入力され、捩れ角FB補償部310は、偏差Δθ0に補償値CFBを乗算することにより偏差Δθ0を補償し(ステップS43)、目標捩れ角速度ωrefを速度制御部330に出力する。
捩れ角Δθを入力した捩れ角速度演算部320は、捩れ角Δθに対する微分演算により捩れ角速度ωtを算出し(ステップS44)、速度制御部330に出力する。
速度制御部330では、目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtの差分が減算部333で算出され、その差分が積分部331で積分(Kvi/s)されて減算部334に加算入力される(ステップS45)。更に、捩れ角速度ωtは比例部332で比例処理(Kvp)され、比例結果が減算部334に減算入力され(ステップS45)、減算部334の減算結果であるモータ電流指令値Imca1が出力され、加算部362に入力される。
安定化補償部340は、入力したモータ角速度ωmに対して、数3で表される伝達関数Csを用いて安定化補償を行い(ステップS46)、安定化補償部340からのモータ電流指令値Imca2は加算部362に入力される。
加算部362ではモータ電流指令値Imca1及びImca2の加算が行われ(ステップS47)、加算結果であるモータ電流指令値Imcbは出力制限部350に入力される。出力制限部350は、予め設定された上限値及び下限値によりモータ電流指令値Imcbの上下限値を制限し(ステップS48)、モータ電流指令値Imcとして出力する(ステップS49)。
捩れ角制御部300から出力されたモータ電流指令値Imcに基づいてモータを駆動し、電流制御が実施される(ステップS50)。
なお、図13〜図15におけるデータ入力及び演算等の順番は適宜変更可能である。
本実施形態でのオフセット補正部の効果について、シミュレーション結果を基に説明する。
シミュレーションでは、トーションバーにおいて検出される操舵トルクに0.05[Nm]のオフセットが発生していると想定する。また、据切り状態の操舵であるとして、車速Vsが0km/hの基本マップを使用する。よって、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_aの値は0[Nm]となる。微分部220は、微分演算として、HPFとゲインによる擬似微分を行う。
先ずは、オフセット補正部による補正がない場合の操舵角と操舵トルクの時間応答のシミュレーション結果について説明する。
図16にシミュレーション結果を示す。図16において、横軸は時間[sec]、縦軸は、図16(A)では操舵角[deg]、図16(B)では操舵トルク[Nm]である。図16(A)では、操舵角が初期の0degからの時間応答を示しており、図16(B)では、目標操舵トルクの時間応答を細線で、検出される操舵トルクの時間応答を太線で示しており、目標操舵トルクは0[Nm]から、操舵トルクは−0.05[Nm]から開始している。捩れ角制御部300による捩れ角制御により、大きさが0.05[Nm]のオフセットを持った操舵トルクが、目標操舵トルク0[Nm]に追従するように調整されるので、図16(B)に示されるような時間応答になり、その結果、操舵トルクのオフセット値によるアシストが発生し、操舵角が、図16(A)に示されるように変化する。即ち、オフセット値があることにより手放し状態において操舵トルクが0.0[Nm]にならないことと、捩れ角制御が目標捩れ角に捩れ角を追従させようとすることにより、操舵トルクのオフセット値による操舵角変化が発生したものと推測される。
次に、オフセット補正部による補正がある場合の操舵角と操舵トルクの時間応答のシミュレーション結果について説明する。このシミュレーションでは、オフセット対策特性での傾きaは0.1[Nm/deg]とした。
図17にシミュレーション結果を示す。図17における軸の設定等は、図16と同じである。図17(A)から、オフセット補正部による補正を行うことにより、操舵角は、初期段階では若干変化するが、その後は、オフセット値0.05[Nm]を傾きa=0.1[Nm/deg]で除算した値である0.5[deg]で釣り合い、ハンドルがホールドしていることがわかる。つまり、オフセット補正部による補正により、操舵トルクのオフセット値によるアシストの発生が抑制されている。
第1実施形態での目標操舵トルク生成部200は基本マップ部210、ダンパ演算部(ダンパゲイン部230及び乗算部250)及びオフセット補正部240を備えているが、操舵トルクのオフセット値によるアシスト発生の抑制のみに特化し、オフセット補正部240のみを備える構成としても良い。この場合の目標操舵トルク生成部の構成例(第2実施形態)を図18に示す。目標操舵トルク生成部600では、オフセット補正部240から出力されるトルク信号Tref_cが、目標操舵トルクTrefとして出力されることになる。なお、目標操舵トルク生成部を、基本マップ部210又はダンパ演算部とオフセット補正部240を組み合わせた構成としても良い。
第1及び第2実施形態での捩れ角制御部から出力されるモータ電流指令値Imcに、従来のEPSにおいて操舵トルクに基づいて演算される電流指令値(以下、「アシスト電流指令値」とする)を、例えば、図2に示される電流指令値演算部31から出力される電流指令値Iref1又は電流指令値Iref1に補償信号CMを加算した電流指令値Iref2等を加算して良い。
第1実施形態に対して、上記の内容を適用した構成例(第3実施形態)を図19に示す。アシスト制御部700は、電流指令値演算部31、又は、電流指令値演算部31、補償信号生成部34及び加算部32Aから構成される。アシスト制御部700から出力されるアシスト電流指令値Iac(図2における電流指令値Iref1又はIref2に相当)と、捩れ角制御部300から出力されるモータ電流指令値Imcは、加算部710で加算され、加算結果である電流指令値Icは電流制限部720に入力され、最大電流を制限された電流指令値Icmに基づいてモータを駆動し、電流制御が実施される。
第1〜第3実施形態のうち、基本マップ部210を備える目標操舵トルク生成部200において、基本マップ部210の前段又は後段に位相補償を行う位相補償部260を挿入しても良い。つまり、図5中の破線で囲まれた領域Rの構成を、図20(A)又は(B)に示されるような構成にしても良い。位相補償部260において、位相補償として位相進み補償を設定し、例えば、分子のカットオフ周波数を1.0Hz、分母のカットオフ周波数を1.3Hzとした1次フィルタで位相進み補償を行う場合、スッキリしたフィールを実現することができる。目標操舵トルク生成部に関しては、操舵角に基づいた構成であるならば、上述の構成に限られない。
また、EPS制御システムが安定している場合は、安定化補償部を省略しても良い。出力制限部も省略可能である。
図1及び図3では本発明をコラム型EPSに適用しているが、本発明はコラム型等の上流型に限られず、ラック&ピニオン等の下流型EPSにも適用可能である。更に、目標捩れ角に基づくフィードバック制御を行うということでは、トーションバー(バネ定数任意)及び捩れ角検出用のセンサを少なくとも備えるステアバイワイヤ(SBW)反力装置等にも適用可能である。本発明を、トーションバーを備えたSBW反力装置に適用した場合の実施形態(第4実施形態)について説明する。
まずは、SBW反力装置を含むSBWシステム全体について説明する。図21はSBWシステムの構成例を、図1に示される電動パワーステアリング装置の一般的な構成に対応させて示した図である。なお、同一構成には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
SBWシステムは、ユニバーサルジョイント4aにてコラム軸2と機械的に結合されるインターミディエイトシャフトがなく、ハンドル1の操作を電気信号によって操向車輪8L,8R等からなる転舵機構に伝えるシステムである。図21に示されるように、SBWシステムは反力装置60及び駆動装置70を備え、コントロールユニット(ECU)50が両装置の制御を行う。反力装置60は、舵角センサ14にて操舵角θhの検出を行うと同時に、操向車輪8L,8Rから伝わる車両の運動状態を反力トルクとして運転者に伝達する。反力トルクは、反力用モータ61により生成される。なお、SBWシステムの中には反力装置内にトーションバーを有さないタイプもあるが、本発明を適用するSBWシステムはトーションバーを有するタイプであり、トルクセンサ10にて操舵トルクTsを検出する。また、角度センサ74が、反力用モータ61のモータ角θmを検出する。駆動装置70は、運転者によるハンドル1の操舵に合わせて、駆動用モータ71を駆動し、その駆動力を、ギア72を介してピニオンラック機構5に付与し、タイロッド6a,6bを経て、操向車輪8L,8Rを転舵する。ピニオンラック機構5の近傍には角度センサ73が配置されており、操向車輪8L,8Rの転舵角θtを検出する。ECU50は、反力装置60及び駆動装置70を協調制御するために、両装置から出力される操舵角θhや転舵角θt等の情報に加え、車速センサ12からの車速Vs等を基に、反力用モータ61を駆動制御する電圧制御指令値Vref1及び駆動用モータ71を駆動制御する電圧制御指令値Vref2を生成する。
このようなSBWシステムに本発明を適用した第4実施形態の構成について説明する。
図22は第4実施形態の構成を示すブロック図である。第4実施形態は、捩れ角Δθに対する制御(以下、「捩れ角制御」とする)と、転舵角θtに対する制御(以下、「転舵角制御」とする)を行い、反力装置を捩れ角制御で制御し、駆動装置を転舵角制御で制御する。なお、駆動装置は他の制御方法で制御しても良い。
捩れ角制御では、第1実施形態と同様の構成及び動作により、捩れ角Δθが、操舵角θh等を用いて目標操舵トルク生成部200及び変換部400を経て算出される目標捩れ角Δθrefに追従するような制御を行う。モータ角θmは角度センサ74で検出され、モータ角速度ωmは、角速度演算部951にてモータ角θmを微分することにより算出される。転舵角θtは角度センサ73で検出される。また、第1実施形態ではEPS操舵系/車両系100内の処理として詳細な説明は行われていないが、電流制御部130は、図2に示される減算部32B、PI制御部35、PWM制御部36及びインバータ37と同様の構成及び動作により、捩れ角制御部300から出力されるモータ電流指令値Imc及びモータ電流検出器140で検出される反力用モータ61の電流値Imrに基づいて、反力用モータ61を駆動して、電流制御を行う。
転舵角制御では、目標転舵角生成部910にて操舵角θhに基づいて目標転舵角θtrefが生成され、目標転舵角θtrefは転舵角θtと共に転舵角制御部920に入力され、転舵角制御部920にて、転舵角θtが目標転舵角θtrefとなるようなモータ電流指令値Imctが演算される。そして、モータ電流指令値Imct及びモータ電流検出器940で検出される駆動用モータ71の電流値Imdに基づいて、電流制御部930が、電流制御部130と同様の構成及び動作により、駆動用モータ71を駆動して、電流制御を行う。
目標転舵角生成部910の構成例を図23に示す。目標転舵角生成部910は、制限部931、レート制限部932及び補正部933を備える。
制限部931は、操舵角θhの上下限値を制限して、操舵角θh1を出力する。捩れ角制御部300内の出力制限部350と同様に、操舵角θhに対する上限値及び下限値を予め設定して制限をかける。
レート制限部932は、操舵角の急変を回避するために、操舵角θh1の変化量に対して制限値を設定して制限をかけ、操舵角θh2を出力する。例えば、1サンプル前の操舵角θh1からの差分を変化量とし、その変化量の絶対値が所定の値(制限値)より大きい場合、変化量の絶対値が制限値となるように、操舵角θh1を加減算し、操舵角θh2として出力し、制限値以下の場合は、操舵角θh1をそのまま操舵角θh2として出力する。なお、変化量の絶対値に対して制限値を設定するのではなく、変化量に対して上限値及び下限値を設定して制限をかけるようにしても良く、変化量ではなく変化率や差分率に対して制限をかけるようにしても良い。
補正部933は、操舵角θh2を補正して、目標転舵角θtrefを出力する。例えば、目標操舵トルク生成部200内の基本マップ部210のように、操舵角θh2の大きさ|θh2|に対する目標転舵角θtrefの特性を定義したマップを用いて、操舵角θh2より目標転舵角θtrefを求める。或いは、単純に、操舵角θh2に所定のゲインを乗算することにより、目標転舵角θtrefを求めるようにしても良い。
転舵角制御部920の構成例を図24に示す。転舵角制御部920は、図11に示される捩れ角制御部300の構成例において安定化補償部340及び加算部362を除いた構成と同様の構成をしており、目標捩れ角Δθref及び捩れ角Δθの代わりに目標転舵角θtref及び転舵角θtを入力し、転舵角フィードバック(FB)補償部921、転舵角速度演算部922、速度制御部923、出力制限部926及び減算部927が、それぞれ捩れ角FB補償部310、捩れ角速度演算部320、速度制御部330、出力制限部350及び減算部361と同様の構成で同様の動作を行う。
このような構成において、第4実施形態の動作例を図25のフローチャートを参照して説明する。
動作を開始すると、角度センサ73は転舵角θtを検出し、角度センサ74はモータ角θmを検出し(ステップS110)、転舵角θtは転舵角制御部920に、モータ角θmは角速度演算部951にそれぞれ入力される。
角速度演算部951は、モータ角θmを微分してモータ角速度ωmを算出し、右切り/左切り判定部300に出力する(ステップS120)。
その後、図13に示されるステップS10〜S50と同様の動作を実行し、反力用モータ61を駆動し、電流制御を実施する(ステップS130〜S170)。
一方、転舵角制御においては、目標転舵角生成部910が操舵角θhを入力し、操舵角θhは制限部931に入力される。制限部931は、予め設定された上限値及び下限値により操舵角θhの上下限値を制限し(ステップS180)、操舵角θh1としてレート制限部932に出力する。レート制限部932は、予め設定された制限値により操舵角θh1の変化量に対して制限をかけ(ステップS190)、操舵角θh2として補正部933に出力する。補正部933は、操舵角θh2を補正して目標転舵角θtrefを求め(ステップS200)、転舵角制御部920に出力する。
転舵角θt及び目標転舵角θtrefを入力した転舵角制御部920は、減算部927にて目標転舵角θtrefから転舵角θtを減算することにより、偏差Δθt0を算出する(ステップS210)。偏差Δθt0は転舵角FB補償部921に入力され、転舵角FB補償部921は、偏差Δθt0に補償値を乗算することにより偏差Δθt0を補償し(ステップS220)、目標転舵角速度ωtrefを速度制御部923に出力する。転舵角速度演算部922は転舵角θtを入力し、転舵角θtに対する微分演算により転舵角速度ωttを算出し(ステップS230)、速度制御部923に出力する。速度制御部923は、速度制御部330と同様にI−P制御によりモータ電流指令値Imctaを算出し(ステップS240)、出力制限部926に出力する。出力制限部926は、予め設定された上限値及び下限値によりモータ電流指令値Imctaの上下限値を制限し(ステップS250)、モータ電流指令値Imctとして出力する(ステップS260)。
モータ電流指令値Imctは電流制御部930に入力され、電流制御部930は、モータ電流指令値Imct及びモータ電流検出器940で検出された駆動用モータ71の電流値Imdに基づいて、駆動用モータ71を駆動し、電流制御を実施する(ステップS270)。
なお、図25におけるデータ入力及び演算等の順番は適宜変更可能である。また、転舵角制御部920内の速度制御部923は、捩れ角制御部300内の速度制御部330と同様に、I−P制御ではなく、PI制御、P制御、PID制御、PI−D制御等、実現可能で、P、I及びDのいずれかの制御を用いていれば良く、更に、転舵角制御部920及び捩れ角制御部300での追従制御は、一般的に用いられている制御構造で行っても良い。転舵角制御部920については、目標角度(ここでは目標転舵角θtref)に対して実角度(ここでは転舵角θt)が追従する制御構成であれば、車両用装置に用いられている制御構成に限定されず、例えば、産業用位置決め装置や産業用ロボット等に用いられている制御構成を適用しても良い。
第4実施形態では、図21に示されるように、1つのECU50で反力装置60及び駆動装置70の制御を行っているが、反力装置60用のECUと駆動装置70用のECUをそれぞれ設けても良い。この場合、ECU同士は通信によりデータの送受信を行うことになる。また、図21に示されるSBWシステムは反力装置60と駆動装置70の間には機械的な結合を持たないが、システムに異常が発生した場合に、コラム軸2と転舵機構をクラッチ等で機械的に結合する機械的トルク伝達機構を備えるSBWシステムにも、本発明は適用可能である。このようなSBWシステムでは、システム正常時はクラッチをオフにして機械的トルク伝達を開放状態とし、システム異常時はクラッチをオンにして機械的トルク伝達を可能状態とする。
上述の第1〜第4実施形態での捩れ角制御部300及び第3実施形態でのアシスト制御部700は、直接的にモータ電流指令値Imc及びアシスト電流指令値Iacを演算しているが、それらを演算する前に、先ず出力したいモータトルク(目標トルク)を演算してから、モータ電流指令値及びアシスト電流指令値を演算するようにしても良い。この場合、モータトルクからモータ電流指令値及びアシスト電流指令値を求めるには、一般的に用いられている、モータ電流とモータトルクの関係を使用する。
なお、上述で使用した図は、本発明に関して定性的な説明を行うための概念図であり、これらに限定されるものではない。また、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。また、ハンドルと、モータ又は反力モータの間に任意のバネ定数を有する機構であれば、トーションバーに限定しなくても良い。
本発明の主たる目的は、操舵トルクのオフセット値によるアシスト発生の懸念を解消するための目標操舵トルクの実現手段についてであり、目標操舵トルクに対する操舵トルクの追従性の実現手段に関しては、上記の変換部、捩れ角制御部に限定しなくても良い。