JPWO2020008809A1 - アルミニウム合金材、及びアルミニウム合金材の製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金材、及びアルミニウム合金材の製造方法 Download PDF

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Abstract

Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成と、母相と、化合物とを含む組織とを有し、前記母相は、Alを主体とし、前記化合物は、AlとFeとを含み、相対密度が85%以上であり、任意の断面において、前記母相の平均結晶粒径が1100nm以下であり、前記化合物の平均長軸長さが100nm以下である、アルミニウム合金材。

Description

本開示は、アルミニウム合金材、及びアルミニウム合金材の製造方法に関する。
本出願は、2018年07月02日付の日本国出願の特願2018−126421に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
特許文献1は、アルミニウム合金からなる粉末を成形し、得られた粉末成形体にアルミニウム合金を含浸させた複合材料を開示する。詳しくは、Fe,Mg,Cuを合計で40質量%以下含み、Alを60質量%以上含有するアルミニウム合金からなる急冷凝固粉末を用いて、空隙率が20体積%の成形体を作製する。上記成形体を500℃で予熱後、成形体の空隙にアルミニウム合金(ADC12)を含浸させることで、上記複合材料が製造される。
特開2001−073055号公報
本開示のアルミニウム合金材は、
Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成と、
母相と、化合物とを含む組織とを有し、
前記母相は、Alを主体とし、
前記化合物は、AlとFeとを含み、
相対密度が85%以上であり、
任意の断面において、前記母相の平均結晶粒径が1100nm以下であり、前記化合物の平均長軸長さが100nm以下である。
本開示のアルミニウム合金材の製造方法は、
Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を急冷して、前記Feを固溶した粉末状又は薄片状の素材を製造する工程と、
400℃以下の温度で前記素材を温間成形して、相対密度が85%以上である緻密体を形成する工程と、
前記緻密体に400℃以下の温度で熱処理を施す工程とを備える。
別の本開示のアルミニウム合金材の製造方法は、
Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を急冷して、前記Feを固溶した粉末状又は薄片状の素材を製造する工程と、
前記素材を冷間成形して、相対密度が85%以上である緻密体を形成する工程と、
前記緻密体に400℃以下の温度で熱処理を施す工程とを備える。
図1は、AlとFeとを含む化合物の長軸長さの測定方法を説明する図である。
[本開示が解決しようとする課題]
高強度で、伸びにも優れるアルミニウム合金材が望まれている。更に、製造性にも優れることが好ましい。
特許文献1では、上述の空隙を有する成形体にアルミニウム合金を含浸させた複合材料とすることで、同一組成の溶製材よりも高い強度が得られるとする。しかし、上記複合材料では、アルミニウム合金を含浸させなければ高い強度を有することができない。また、特許文献1では、伸びに優れる構成について言及されていない。
更に、上記複合材料では、アルミニウム合金の含浸が必要であり、製造性に劣る。また、アルミニウム合金を含浸できるように、上述の成形体に開気孔を確実に設ける必要があり、成形性にも劣る。
そこで、本開示は、高強度で、伸びにも優れるアルミニウム合金材を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、高強度で、伸びにも優れるアルミニウム合金材を製造できるアルミニウム合金材の製造方法を提供することを別の目的の一つとする。
[本開示の効果]
本開示のアルミニウム合金材は、高強度で、伸びにも優れる。本開示のアルミニウム合金材の製造方法は、高強度で、伸びにも優れるアルミニウム合金材を生産性よく製造できる。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係るアルミニウム合金材は、
Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成と、
母相と、化合物とを含む組織とを有し、
前記母相は、Alを主体とし、
前記化合物は、AlとFeとを含み、
相対密度が85%以上であり、
任意の断面において、前記母相の平均結晶粒径が1100nm以下であり、前記化合物の平均長軸長さが100nm以下である。
上記母相の平均結晶粒径、上記化合物の平均長軸長さは、Al合金材の任意の断面で測定した大きさとする。上記平均結晶粒径、上記平均長軸長さの測定方法の詳細は、後述の試験例1で説明する。
本開示のアルミニウム合金材(以下、Al合金材と呼ぶことがある)は、以下の理由(a)〜(d)により、高強度で、伸びにも優れる。
(a)Feの含有量が上述の特定の範囲を満たし、Al合金材はFeを比較的多く含む。
(b)Feが主としてAlとの化合物、代表的にはAl13Feといった金属間化合物として存在する。また、上記化合物は、平均長軸長さが100nm以下という非常に微細な粒子である。上記化合物は、代表的には析出物である。
(c)母相は、平均結晶粒径が1100nm以下という非常に微細な結晶組織を有する。
(d)相対密度が85%以上と高く、Al合金材は緻密である。
詳しくは、本開示のAl合金材は、母相が非常に微細な結晶からなることで、粒界強化による強度向上効果が得られる。また、本開示のAl合金材は、Feを比較的多く含むものの、Feが主として非常に微細な化合物として存在する。これら化合物が微細な結晶組織に分散して存在することで、化合物の分散強化による強度向上効果が得られる。更に、本開示のAl合金材は、結晶の粒界強化及び化合物の分散強化がなされた組織を有するアルミニウム合金が緻密に存在する。これらのことから、本開示のAl合金材は、強度に優れる。代表的には、本開示のAl合金材は、同じ組成の溶製材の引張強さに比較して、8.5%以上、更には10%以上高い引張強さを有し、強度に優れる。Feの含有量や相対密度、製造条件等によっては、同じ組成の溶製材に比較して、引張強さを10%以上、更に30%以上高くすることができる。
また、本開示のAl合金材では、Feが主として化合物として存在するため、母相中のFeの含有量が比較的少ない。その結果、母相が延性的な変形挙動を示すことができる。また、上記化合物のサイズが十分に小さいことで応力集中が生じ難い。そのため、上記化合物が割れの起点に実質的にならない。このような本開示のAl合金材は、強度に優れつつ、破断伸びが1%以上、更に2%以上という高い伸びも有することができる。
本開示のAl合金材は、Feが主として非常に微細な化合物として適切に存在するため、強度と伸びとをバランスよく有する。このような本開示のAl合金材は、軽量化と高強度・高靭性とが望まれる各種の構造材料に好適に利用できると期待される。
更に、本開示のAl合金材は、後述する本開示の一態様に係るAl合金材の製造方法によって製造すると、製造性にも優れる。開気孔を有するように成形体を作製する必要が無く、所定の形状の成形体が得られ易い上に、上述の含浸工程も不要であるからである。
(2)本開示のAl合金材の一例として、
前記平均結晶粒径が600nm以下であり、前記平均長軸長さが35nm以下である形態が挙げられる。
上記形態では、結晶粒と、AlとFeとを含む化合物とがより微細である。そのため、上記形態は、結晶組織に上記化合物が均一的に分散し易く、化合物の分散強化と、微細な結晶粒による粒界強化とに基づいて、強度により優れる。また、上記形態は、上記化合物が割れの起点になり難く、伸びにもより優れる。
(3)本開示のAl合金材の一例として、
前記断面において一辺の長さが500nmである正方形の測定領域を複数とり、前記測定領域における長軸長さが5nm以上100nm以下である前記化合物の平均個数が10個以上である形態が挙げられる。
上記平均個数の測定方法の詳細は、後述の試験例1で説明する。
上記形態は、上述の非常に微細な化合物が上述の特定の範囲で存在しており、分散強化による強度向上効果を良好に得られて、強度に優れる。上記化合物をある程度含むものの、上述のように化合物が非常に微細であり、割れの起点になり難いため、上記形態は伸びにも優れる。
(4)上記(3)のAl合金材の一例として、
前記平均個数が80個以上175個以下である形態が挙げられる。
上記形態は、上述の非常に微細な化合物が上述の特定の範囲で存在するため、分散強化による強度向上効果を適切に得られて強度に優れる。また、上記形態は、上記化合物が多過ぎないため、伸びにも優れる。
(5)本開示のAl合金材の一例として、
引張強さが300MPa以上である形態が挙げられる。
上記形態は、同じ組成の溶製材よりも引張強さが高く、高強度である。
(6)上記(5)のAl合金材の一例として、
破断伸びが1%以上である形態が挙げられる。
上記形態は、引張強さが300MPa以上と高い上に破断伸びが1%以上と高く、高強度で、伸びにも優れる。
(7)本開示の一態様に係るアルミニウム合金材(Al合金材)の製造方法は、
Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を急冷して、前記Feを固溶した粉末状又は薄片状の素材を製造する工程と、
400℃以下の温度で前記素材を温間成形して、相対密度が85%以上である緻密体を形成する工程と、
前記緻密体に400℃以下の温度で熱処理を施す工程とを備える。
ここでの急冷とは、上記溶湯を凝固させる際の冷却速度が10,000℃/秒以上を満たすことをいう。この点は、後述する(8)のAl合金材の製造方法も同様である。
本発明者は、同じ組成の溶製材よりも高強度で、伸びにも優れるAl合金材を生産性よく製造可能な条件を検討した。その結果、可動鋳型を利用する従来の連続鋳造法や、固定鋳型を利用する従来の鋳造法よりも急冷が可能な方法を用いて製造した粉末状又は薄片状の素材は、緻密な成形体を良好に成形できるとの知見を得た。
詳しくは、溶湯を凝固させる際の冷却速度が10,000℃/秒以上であれば、Al中のFe原子が濃化して、AlとFeとの化合物を形成する時間及び析出する時間を与えずに、溶湯を凝固させることができる。得られた凝固材では、Feが母相を構成するAl中に実質的に固溶する。また、母相の結晶が成長する時間が実質的に無いために、上記凝固材における母相を構成する結晶が非常に微細である。このような急冷可能な方法として、例えば、いわゆる液体急冷凝固法やアトマイズ法等が挙げられる。液体急冷凝固法やアトマイズ法等では、上記凝固材として薄帯や粉末が得られる。上記凝固材からなる薄帯や粉末は、成形時に割れの起点となり得る粗大な析出物(上記化合物)が実質的に存在しない、又は非常に少ないため、成形性に優れると考えられる。上記薄帯を粉砕すれば、薄片や粉末が得られる。
また、本発明者は、上述の成形後に得られた成形体に比較的低温で熱処理を施すことで、固溶されていたFeを主としてAlとの化合物として析出できる上に、上記化合物を非常に微細にできるとの知見を得た。熱処理後のAl合金材は、非常に微細な結晶組織による粒界強化及び非常に微細な化合物の分散強化と、緻密なこととによって、同じ組成の溶製材よりも強度に優れる。
更に、上記熱処理時には、母相の主体であるAlに対して、Feの平衡固溶量が非常に小さくなる。そのため、熱処理後の母相が延性的な変形挙動を示す。また、熱処理後において上述の化合物のサイズが非常に微細である。そのため、熱処理後のAl合金材は変形時に応力集中が生じ難くなり、割れ難い。従って、熱処理後のAl合金材は、高い強度を有すると共に、伸びにも優れる。
上記(7)及び後述する(8)のAl合金材の製造方法は、これらの知見に基づくものである。
上記(7)のAl合金材の製造方法は、溶湯の急冷を経て製造した粉末や薄片を温間成形した後に比較的低温で熱処理を施す。このような上記の製造方法は、緻密である上に、非常に微細な結晶組織に上述の非常に微細な化合物が分散したAl合金材を製造できる。
詳しくは、成形加工に供する粉末や薄片は、Feの含有量が3質量%以上と多いものの、上述のようにFeが実質的に析出しておらず、かつ非常に微細な結晶組織を有する。このような粉末や薄片は成形性に優れており、相対密度が85%以上という緻密な成形体を良好に成形できる。
特に、成形加工が400℃以下の温間成形である。そのため、上記素材は、塑性変形性を高められ、成形性により優れる。また、加工温度が400℃以下であれば、成形過程での析出物(AlとFeとを含む化合物)及び母相の結晶粒の過度な成長が抑制され易い。そのため、次の熱処理後にも上記化合物や結晶粒が微細になり易い。
成形加工における加工温度が上記化合物の析出温度未満であれば、上記化合物が実質的に析出せず、上記素材は成形性に優れてより好ましい。
温間成形後の熱処理において、熱処理温度が400℃以下であれば、Feを主としてAlとの化合物として析出させつつ、上記化合物を非常に微細な粒子とすることができる。また、熱処理温度が400℃以下であれば、母相の結晶粒の成長を抑制して、熱処理後も非常に微細な結晶組織とすることができる。
上述の熱処理後に得られるAl合金材は、代表的には、相対密度が85%以上、断面における母相の平均結晶粒径が1100nm以下かつ上述の化合物の平均長軸長さが100nm以下である。このようなAl合金材は、上述のように高強度で伸びにも優れる。従って、上記(7)のAl合金材の製造方法は、高強度で伸びにも優れるAl合金材を製造できる。
また、上記(7)のAl合金材の製造方法は、以下の(I)〜(V)の理由により、高強度で伸びにも優れるAl合金材を生産性よく製造できる。
(I)成形過程では、成形性に優れる素材を用いることで、緻密な成形体が良好に成形される。
(II)成形加工に供する素材が塑性変形性に優れるため、成形型等の成形ツールの損傷が低減される。
(III)温間成形及び熱処理に必要な熱エネルギーが比較的少なくてよい。
(IV)開気孔を有するように成形する必要が無い。上述の含浸工程が不要である。
(V)熱処理前の成形体では、上述の化合物が実質的に存在しない、又は非常に少ない上に微細であり、結晶粒も非常に微細である。そのため、熱処理前の成形体は、最終形状にするための切削加工を行い易い。
(8)本開示の別の態様に係るAl合金材の製造方法は、
Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を急冷して、前記Feを固溶した粉末状又は薄片状の素材を製造する工程と、
前記素材を冷間成形して、相対密度が85%以上である緻密体を形成する工程と、
前記緻密体に400℃以下の温度で熱処理を施す工程とを備える。
上記(8)のAl合金材の製造方法は、上述の(7)のAl合金材の製造方法と同様に、溶湯の急冷を経て製造した素材を用いると共に、成形後、比較的低温で熱処理するため、高強度で伸びにも優れるAl合金材を製造できる。詳細は、上述の通りである。
特に、上記(8)のAl合金材の製造方法では、得られた粉末や薄片の成形加工が冷間成形である。冷間成形であれば、成形時に析出物(AlとFeとを含む化合物)が実質的に析出せず、結晶粒も実質的に成長しない。そのため、粗大な析出物や粗大な結晶粒に起因する成形性の低下を招き難く、成形加工を行うことができる。
また、上記(8)のAl合金材の製造方法は、上述の(7)のAl合金材の製造方法と同様に、良好な成形性、熱エネルギーの低減、含浸工程の省略、良好な切削加工性等によって、高強度で伸びにも優れるAl合金材を生産性よく製造できる。成形過程の加工温度が室温程度であれば、成形過程では熱エネルギーが不要であり、生産性がより高められる。
(9)上記(7)又は(8)のAl合金材の製造方法の一例として、
前記緻密体は、X線回折におけるAlとFeとを含む化合物のピーク強度がアルミニウム相のピーク強度に対して1/10以下である形態が挙げられる。
上記緻密体は、成形後においてAlとFeとを含む化合物の存在量が非常に少なく、アルミニウム相の単相に近いといえる。このような素材は、切削加工性に優れ、最終形状が複雑なAl合金材であっても、所定の形状に精度よく加工できる。従って、上記形態は、高強度で伸びにも優れ、形状精度にも優れるAl合金材を生産性よく製造できる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施の形態を詳細に説明する。
[アルミニウム合金材]
(概要)
実施形態のアルミニウム合金材(Al合金材)は、アルミニウム基合金(Al基合金)からなる成形体である。
実施形態のAl合金材は、定性的には、Feを比較的多く含むという特定の組成を有すると共に、Feが主として非常に微細な析出物として存在し、かつ母相が非常に微細な結晶組織であるという特定の組織を有する緻密な成形体である。定量的には、実施形態のAl合金材は、Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成を有する。また、実施形態のAl合金材は、Alを主体とする母相と、AlとFeとを含む化合物とを含む組織を有する。上記化合物は、母相中に分散する。上記Al合金材の断面において、母相の平均結晶粒径が1100nm以下であり、上記化合物の平均長軸長さが100nm以下である。更に、実施形態のAl合金材の相対密度が85%以上である。
以下、より詳細に説明する。
(組成)
〈Fe〉
実施形態のAl合金材は、添加元素としてFeを含むAl基合金、特にAlとFeとの二元合金からなるものである。Feは、以下の条件(a),(b)を満たす。
(a)Alに対する固溶量(平衡状態)であって、660℃、1気圧という条件におけるFeの固溶量が0.5質量%以下である。
(b)Feは、Alと金属間化合物を形成する。AlとFeとの二元の金属間化合物のうち、Feの元素比率が最も低い化合物(例、Al13Fe)の融点が1100℃以上である。
このようなFeを上述の特定の範囲で含むと共に、製造過程で、例えば溶湯を急冷すれば、母相を構成するアルミニウム相(Al)にFeを固溶することができる。また、この固溶材に例えば熱処理を施せば、Feが化合物として析出することができる(詳細は後述の製造方法参照)。上記化合物の融点は、Feの元素比率が最低なものでも1100℃以上であり、母相の融点よりも非常に高い。このような化合物は、安定性に優れることからも析出し易い。また、上記化合物は一般にAlよりも硬い。このような化合物は、母相に分散して存在することで、合金の強化相として作用し得る。
上記Al基合金におけるFeの含有量が3質量%以上であれば、Feを主としてAlとの化合物(析出物)として存在させることで、化合物の分散強化(析出強化)による強度向上効果が適切に得られる。特に、実施形態のAl合金材では、Feを3質量%未満の範囲で含むAl基合金におけるFeの固溶強化による強度向上効果に比較して、Feを含む化合物の分散強化による強度向上効果が適切に得られる。この理由は、実施形態のAl合金材では、上記化合物が非常に微細である上に、非常に微細な結晶組織に分散しているからである。Feの含有量が多いほど、上記化合物の量が多くなり易い。そのため、分散強化による強度向上効果が良好に得られ易い。その結果、Al合金材は強度により優れる。定量的には、Feの含有量が同じである溶製材の引張強さに対する引張強さの増加量が8.5%以上、更には10%以上、30%以上であることが挙げられる。
一方、上記Al基合金におけるFeの含有量が10質量%以下であれば、上記化合物が粗大になり難い。そのため、粗大な化合物に起因する割れの発生が低減される。その結果、Al合金材は強度に優れつつ、伸びを高め易い。また、Feの含有量がある程度少なければ、Al合金材は製造性に優れる。後述する実施形態のAl合金材の製造方法によって製造する場合には後述する成形性に優れる素材が製造され易い。
上記Feの含有量が3.5質量%以上、更に3.8質量%以上、4.0質量%以上であれば、Al合金材はより高強度である。上記Feの含有量が9.8質量%以下、更に9.5質量%以下、9.0質量%以下であれば、Al合金は伸びにより優れる。上記Feの含有量が3.5質量%以上9.8質量%以下、更に4.0質量%以上9.0質量%以下であれば、Al合金材は高強度と高靭性とをバランスよく備えられる。
なお、ここでのFeの含有量とは、Al合金材をなすAl基合金に含まれる量をいう。製造過程において、原料(代表的にはアルミニウム地金)に不純物としてFeを含む場合、Feの含有量が3質量%以上10質量%以下の範囲を満たすように、原料に対するFeの添加量を調整するとよい。
〈母相〉
上記Al基合金の母相は、AlとFeとを含む化合物といった析出物等を除く主たる相である。母相は、代表的には、アルミニウム相(Al)と、Alに固溶する元素と、不可避不純物とから構成される。
アルミニウム相(Al)におけるFeの固溶量が少ないことが好ましい。Feが主としてAlとの化合物として存在し、化合物量が多いことで、化合物の分散強化による強度向上効果を得易いからである。定量的には母相を100質量%として、母相中のFeの固溶量が0.5質量%以下であることが挙げられる。この場合、母相におけるAlの含有量は99.5質量%以上である。ここでの固溶量とは、後述する急冷状態(非平衡状態)での指標である。上記固溶量が0.5質量%以下と非常に少なければ、Feの含有量が下限値である3質量%の場合でも、Al基合金中のFeのうち、80質量%以上が上記化合物として存在する(({3−0.5}/3)×100≒83)。Feの含有量がより多いAl基合金であれば、Al基合金中のFeのうち、90質量%以上、更に95質量%以上が上記化合物として存在する。上記固溶量が0.45質量%以下、更に0.40質量%以下、0.35質量%以下であれば、化合物量がより多く、強度がより高くなり易い。
(組織)
上記Al基合金は、母相を構成する結晶粒が非常に微細であると共に、AlとFeとを含む化合物からなり、非常に微細な粒子を含むという微細組織を有する。母相が非常に微細な結晶組織を有することで粒界強化による強度向上効果が得られる。この結晶組織に非常に微細な化合物が分散していることで、化合物の分散強化による強度向上効果が得られる。これらの強度向上構造によって、実施形態のAl合金材は強度に優れる。また、母相中のFeの含有量(上述の固溶量)が少ないことで、Al合金材は延性的な挙動を示す。また、上記化合物が非常に微細であるため、割れの起点になり難い。このような実施形態のAl合金材は伸びにも優れる。
〈結晶粒〉
Al合金材の任意の断面において、母相を構成する結晶の平均結晶粒径が1100nm以下である。上記平均結晶粒径が1100nm以下であれば、結晶粒が非常に小さく、結晶粒界が多いといえる。その結果、すべり面が結晶粒界を介して不連続になり易く、すべりに対する抵抗が高められて粒界強化による強度向上効果が良好に得られる。上記平均結晶粒径が小さいほど、粒界強化による強度向上効果が得られ易く、強度が高くなり易い。また、結晶粒が非常に小さいことで上述の非常に微細な化合物が均一的に分散し易く、化合物の分散強化による強度向上効果も得られ易い。これらの効果は結晶粒が小さいほど得られ易い。強度の向上を望む場合には、上記平均結晶粒径は1000nm以下、更に800nm以下、700nm以下、特に600nm以下が好ましい。下限は特に設けないが、製造性等を考慮すると、上記平均結晶粒径は300nm以上、更に350nm以上であることが挙げられる。
〈化合物〉
《大きさ》
Al合金材の任意の断面において、AlとFeとを含む化合物の平均長軸長さが100nm以下である。上記平均長軸長さが100nm以下であれば、上記化合物がAl基合金中に連続しておらず、非常に短い粒子といえる。このような化合物は、孤立して存在し易く、上述の結晶組織に分散し易いといえる。上記平均長軸長さが短いほど、上記化合物が上記結晶組織に均一的に分散し易い。そのため、微細な化合物の分散強化による強度向上効果が得られ易い。また、上記平均長軸長さが短いほど、上記化合物が割れの起点となり難く、伸びにも優れる。強度や伸びの向上を望む場合には、上記平均長軸長さは95nm以下、更に80nm以下、50nm以下、特に35nm以下が好ましい。下限は特に設けないが、製造性等を考慮すると、上記平均長軸長さは10nm以上、15nm以上であることが挙げられる。
特に、母相の平均結晶粒径が600nm以下であり、AlとFeとを含む化合物の平均長軸長さが35nm以下であると、Al合金材は強度により優れる上に、伸びにもより優れる。この理由は、上述のように化合物の均一分散による分散強化、微細な結晶粒による粒界強化、割れの低減といった効果がより得られ易いからである。
《存在量》
Al合金材の任意の断面において、一辺の長さが500nmである正方形の測定領域を複数とり、上記測定領域における長軸長さが5nm以上100nm以下である上記化合物の平均個数が10個以上であることが好ましい。500nm×500nmの測定領域に、長軸長さが100nm以下という非常に微細な化合物が平均的に10個以上存在すれば、分散強化による強度向上効果が適切に得られる。そのため、Al合金材は強度に優れる。また、上記化合物によって結晶粒の成長も抑制でき、結晶粒がより微細になり易い。例えば上述の平均結晶粒径が600nm以下となり易い。その結果、粒界強化による強度向上効果が得られ易いことからも、強度が高くなり易い。更に、上記化合物をある程度含むものの、上記化合物が非常に微細である上に分散して存在するため、割れの起点になり難い。このようなAl合金材は伸びにも優れる。
上記測定領域における上述の非常に微細な化合物の平均個数が多いほど、分散強化、更には粒界強化による強度向上効果が得られ易く、強度が高くなり易い。上記平均個数が30個以上、更に50個以上、70個以上であると、強度がより高くなり易い。一方、上記平均個数がある程度少ないと、伸びが高くなり易い。上記平均個数が200個以下、更に190個以下、180個以下であると、伸びが高くなり易く、破断伸びが1%以上になり易い。
特に、上記測定領域における長軸長さが5nm以上100nm以下である上記化合物の平均個数が80個以上175個以下であることが好ましい。上記平均個数がより多いことで、上述のように分散強化、更には粒界強化による強度向上効果が得られ易く、強度がより高くなり易い。上記平均個数が多過ぎないことで、上記化合物を起点とする割れの発生が低減され、伸びがより高くなり易い。定量的には、引張強さが300MPa以上という高い強度と、破断伸びが2%以上という高い伸びとをバランスよく有するAl合金材とすることができる。上記平均個数が100個以上175個以下であると、引張強さが320MPa以上というより高い強度を有することができる。
なお、Al合金材の任意の断面において、上記測定領域における上述の非常に微細な化合物の平均個数が10個以上200個以下であれば、化合物の存在量の異方性が小さい又は実質的に無いといえる。このようなAl合金材では、上記化合物が均一的に分散しているといえる。
上述のFeの固溶量(質量%)の測定や、上述の化合物の組成の確認には、局所的な成分分析が可能な装置を用いることが挙げられる。上記装置として、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)による測定装置を付属する透過型電子顕微鏡(TEM)やSEM等が挙げられる。又は、所定量(0質量%〜1.5質量%程度)のFeを固溶した材料について、XRDによる構造解析を行い、X線回折ピークの回折角とFeの含有量との関係を検量して、Feの固溶量等を導出することが挙げられる。
《形状》
上記化合物の形状は、球状に近いと、上述の結晶組織に均一的に分散し易い上に、割れの起点にもなり難い。そのため、Al合金材は強度及び伸びの双方に優れて好ましい。後述する実施形態のAl合金材の製造方法によって製造すれば、上記化合物の形状は、代表的には球状に近い。ここでの球状に近いとは、以下のアスペクト比が1以上2以下、好ましくは1以上1.5以下であることが挙げられる。アスペクト比は、以下の短軸長さに対する長軸長さの比とする。Al合金材の任意の断面に存在する化合物について、この断面における化合物の最大長さL1(後述の図1)を長軸長さとする。この長軸方向に直交方向にとった長さのうち、最大の長さを短軸長さL2(図1)とする。アスペクト比L1/L2が1に近ければ、この化合物は、形状の異方性が小さい又は実質的に無いといえ、母相に均一的に分散し易い。
〈相対密度〉
実施形態のAl合金材は、相対密度が85%以上であり、緻密である。上述の非常に微細な結晶組織に非常に微細な化合物が分散した組織を有するAl基合金からなると共に、相対密度が85%以上と高いことで、Al合金材は高強度で、伸びにも優れる。相対密度が高いほど、Al合金材において、上述の特定の組成及び特定の組織を有するAl基合金の占有率が高く、空隙が少ない。空隙が少ないことで、空隙部分に応力集中することに起因する割れの発生が低減され易い。このことからも、Al合金材は強度に優れる上に伸びにも優れる。そのため、相対密度は90%以上が好ましく、更に92%以上、93%以上がより好ましい。後述する実施形態のAl合金材の製造方法を利用すれば、上述の特定の組成及び特定の組織を有するAl基合金からなり、相対密度が85%以上という緻密なAl合金材が容易に製造される。
ここでの相対密度とは、Al合金材の見かけ密度と真密度とを用いて、(見かけ密度/真密度)×100で求める。Al合金材の真密度は、例えば、Al合金材の組成分析を行い、Al基合金の組成に基づいて算出することが挙げられる。見かけ密度は、Al合金材の内部に含まれる気孔を含めて測定された質量及び体積を用いて、(質量/体積)×100で求められる単位体積当たりの質量である。相対密度の上限は100%である。相対密度が100%であれば、真密度を有するAl合金材である。
〈機械的特性〉
実施形態のAl合金材は、高強度で伸びにも優れる。
《強度》
強度に関して、例えば、実施形態のAl合金材の引張強さが、同じ組成の溶製材の引張強さの108.5%以上であることが挙げられる。換言すれば、同じ組成の溶製材の引張強さに対する引張強さの増加量が8.5%以上であることが挙げられる。このようなAl合金材は、同じ組成の溶製材よりも高強度である。上記増加量が大きいほど引張強さが高い。例えば、上記増加量が10%以上、更に30%以上であることが挙げられる。
なお、Feを3質量%以上10質量%以下を含み、残部がAl及び不可避不純物からなるAl基合金の溶製材の引張強さは、210MPa以上230MPa以下程度である(後述の試験例参照)。
引張強さが300MPa以上であれば、同じ組成の溶製材の引張強さよりも更に高い。この場合、上記増加量が30%以上であり、Al合金材は強度により優れる。引張強さは310MPa以上、更に315MPa以上、320MPa以上がより好ましい。一方、引張強さが高過ぎると、破断伸びが低くなり過ぎる傾向にある。引張強さは500MPa以下、更に450MPa以下であると、Al合金材は高強度で、伸びにも優れる。ここでの引張強さ、及び後述の破断伸びは室温(例、25℃)における値である。
《伸び》
伸びに関して、例えば、実施形態のAl合金材の破断伸びが1%以上であることが挙げられる。破断伸びが1%以上であれば、伸びに優れるといえる。破断伸びは1.5%以上、更に1.8%以上、2.0%以上がより好ましい。一方、破断伸びが高過ぎると、引張強さが低くなり過ぎる傾向にある。破断伸びは10%以下、更に5%以下であると、Al合金材は高強度で、伸びにも優れる。
特に、引張強さが300MPa以上であり、破断伸びが1%以上であるAl合金材は、高強度で、伸びにも優れて好ましい。
上述の平均結晶粒径、化合物の長軸長さや個数、Al合金材の引張強さ、破断伸びは、例えば、Feの含有量、相対密度、製造条件(例、熱処理条件)を調整することで変更できる。例えば、Feが上述の範囲で多いと、平均結晶粒径、化合物の長軸長さ、個数が大きくなる傾向にある。Feが上述の範囲で少ないとその逆の傾向にある。又は、例えば、Feが上述の範囲で多いと、引張強さが高くなる傾向にある。Feが上述の範囲で少ないと、破断伸びが高くなる傾向にある。
〈適用形態〉
実施形態のAl合金材は、種々の形状、大きさをとり得る。Al合金材が所定の形状、大きさとなるように、製造過程で、成形型の形状や、成形後の切削加工等を選択するとよい。Al合金材の代表的な形状として、線材、棒材、板材等の中実体、貫通孔を有する筒状体等が挙げられる。Al合金材の大きさは、用途等に応じて適宜選択できる。
(主な効果)
実施形態のAl合金材は、高強度で、伸びにも優れる。この効果を後述の試験例1で具体的に説明する。また、実施形態のAl合金材は、後述する実施形態のAl合金材の製造方法によって製造することで、製造性にも優れる。
[Al合金材の製造方法]
(概要)
実施形態のAl合金材は、例えば、以下の素材準備工程と、成形工程と、熱処理工程とを備える実施形態のAl合金材の製造方法(A)又は(B)によって製造することが挙げられる。製造方法(A),(B)は、端的に言うと、溶湯の急冷を経て製造した素材を成形し、成形された緻密体に比較的低温で熱処理を施す、というものである。但し、製造方法(A),(B)では、成形過程の加工温度が異なる。製造方法(A)は、溶湯の急冷を経て製造した素材を用いて、温間成形を行うことで緻密体を製造する。製造方法(B)は、上記素材を用いて、冷間成形を行うことで緻密体を製造する。
製造方法(A)
(素材準備工程)Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を急冷して、Feを固溶した粉末状又は薄片状の素材を製造する。
(成形工程)400℃以下の温度で上記素材を温間成形して、相対密度が85%以上である緻密体を形成する。
(熱処理工程)上記緻密体に400℃以下の温度で熱処理を施す。
製造方法(B)
(素材準備工程)Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を急冷して、Feを固溶した粉末状又は薄片状の素材を製造する。
(成形工程)上記素材を冷間成形して、相対密度が85%以上である緻密体を形成する。
(熱処理工程)上記緻密体に400℃以下の温度で熱処理を施す。
実施形態のAl合金材の製造方法(A),(B)では、Feの含有量が3質量%以上と比較的多いものの、溶湯を急冷することで、Feが実質的に析出しておらず、かつ非常に微細な結晶組織を有するものを成形加工に供する素材とする。このような素材は成形性に優れており、相対密度が85%以上という成形体(緻密体)を良好に成形でき、緻密体の製造性に優れる。上記素材は、粗大な化合物や粗大な結晶粒が実質的に存在せず、又は非常に少なく、成形時、粗大粒が破断の起点になって割れが生じるという現象が生じ難いからである。特に、製造方法(A)は、温間成形とするため、成形性をより高められる(詳細は後述する)。製造方法(B)は、冷間成形とするため、成形時に上述の化合物が析出したり、粗大に成長したりし難い。
また、実施形態のAl合金材の製造方法(A),(B)では、上記緻密体に比較的低温で熱処理を施すことで、母相に固溶されていたFeを非常に微細な析出物(AlとFeとを含む化合物)として析出することができる。更に、比較的低温の熱処理とすることで、母相の結晶粒の成長を抑制して、熱処理後も非常に微細な結晶組織とすることができる。従って、実施形態のAl合金材の製造方法(A),(B)は、非常に微細な結晶組織に非常に微細な化合物が分散したAl合金材、代表的には実施形態のAl合金材を製造できる。
以下、各工程を詳細に説明する。
(素材準備工程)
〈(A),(B)共通〉
この工程では、代表的には上述のAl基合金からなる溶湯を急冷することで、Feが実質的に固溶した固溶材を製造する。ここで、従来の連続鋳造法では、鋳造時の溶湯の冷却速度は1000℃/秒以下である。実用的には上記冷却速度は数百℃/秒以下程度である。固定鋳型を利用する鋳造法では、鋳造材の大きさにもよるが、通常、連続鋳造法よりも冷却速度が遅く、100℃/秒以下程度である。このような冷却速度で、例えばFeを3質量%以上含む溶湯を凝固すれば、鋳造時にAlとFeとを含む化合物が析出する。特に、上述の平均長軸長さが200nm以上、更に300nm以上、500nm以上といった粗大な化合物又は化合物の塊が析出する。結晶粒も大きくなり易く、上述の平均結晶粒径が1200nm以上、更には3000nm以上となり易い。このような鋳造材に例えばプレス加工を施すと、粗大な化合物や粗大な結晶粒が割れの起点となって成形性に劣る。実施形態のAl合金材の製造方法は、Feを3質量%以上含むことを鑑みて、溶湯の冷却速度を上記の従来の連続鋳造法よりも速くする。
《冷却速度》
定性的には、溶湯を凝固させる際の冷却速度は、Feが実質的に析出しない大きさである。定量的には、上記冷却速度は、10,000℃/秒以上である。上記冷却速度が速いほど、Feが析出し難く、AlとFeとを含む化合物からなる析出物を実質的に含まない固溶材(過飽和固溶体)が得られ易い。上記冷却速度が15,000℃/秒以上、更に20,000℃/秒以上、50,000℃/秒以上であれば、Feの析出がより効果的に低減される。
上述の溶湯の冷却速度は、溶湯の組成、溶湯の温度、固溶材の大きさ(粉末径、厚さ等)等に基づいて調整することが挙げられる。上記冷却速度の測定は、例えば、高感度の赤外線サーモグラフィカメラを用いて、鋳型に接した溶湯の温度を観測することで求めることが挙げられる。上記赤外線サーモグラフィカメラは、例えばフリアーシステムズ社製A6750(時間分解能:0.0002sec)が挙げられる。上記鋳型は、例えば後述するメルトスパン法では銅ロール等が挙げられる。上記冷却速度は(湯温−300)/t(℃/秒)で求める。t(秒)は、湯温(℃)から300℃まで冷却する間に経過する時間である。例えば、湯温が700℃であれば、上記冷却速度は400/t(℃/秒)で求める。
上記固溶材を粉末状又は薄帯状に製造すれば、粉末径が小さかったり、厚さが薄かったりすることで、10,000℃/秒以上といった冷却速度が達成され易い。また、粉末状の固溶材、又は薄帯状の固溶材、又は薄帯を短く砕いた粉末状や薄片状の固溶材は、そのままでも成形性に優れており、成形加工に供する素材として利用できる。製造方法(A),(B)は、上記粉末状又は薄片状の固溶材を素材に用いる。
《固溶材の製造方法》
薄帯状の固溶材を製造する方法として、いわゆる液体急冷凝固法がある。液体急冷凝固法の一例として、メルトスパン法が挙げられる。粉末状の固溶材を製造する方法として、アトマイズ法が挙げられる。アトマイズ法の一例として、ガスアトマイズ法が挙げられる。
メルトスパン法は、高速回転するロールやディスクといった冷却媒体上に原料の溶湯を噴射して急冷することで、過飽和固溶体が帯状に連続した薄帯を作製する方法である。メルトスパン法では、Feの含有量、薄帯の厚さ等にもよるが、上述の溶湯の冷却速度を100,000℃/秒以上、更に1,000,000℃/秒以上とすることができる。得られた薄帯は、裁断や粉砕して薄片や粉末とすることが挙げられる。薄片は、薄帯の長さよりも短いものである。薄片の長さは例えば薄帯の幅又は厚さと同等程度の長さでも、更に短くてもよい。上記冷却媒体の構成材料は、例えば銅等の金属が挙げられる。
アトマイズ法は、原料の溶湯をるつぼの底部の小孔から流出し、冷却能の高いガス又は水を高圧噴射して、溶湯の細い流れを飛散させて急冷することで、粉末を作製する方法である。上記ガスは、アルゴンガス、空気、窒素等が挙げられる。アトマイズ法では、上述の溶湯の冷却速度が10,000℃/秒以上となるように冷却媒体の種類(ガス種等)、溶湯の状態(噴射圧力や流速等)、温度等を調整する。Feの含有量、ガス圧等にもよるが、アトマイズ法では、上記冷却速度を50,000℃/秒以上、更に100,000℃/秒以上とすることができる。
上述の薄帯の厚さ又は薄片の厚さは、例えば100μm以下、更に50μm以下、40μm以下が挙げられる。アトマイズ粉の直径(粉末径)は、例えば20μm以下、更に10μm以下、5μm以下が挙げられる。
〈圧延工程〉
上記粉末状又は薄片状の固溶材は、上述のようにFeが実質的に析出しておらず、非常に微細な結晶組織を有するため、塑性加工性に優れており、いわゆる粉末圧延といった圧延を良好に施せるとの知見を得た。圧延後に得られた圧延材は、圧延前の固溶材よりも緻密であり、成形性にも優れる。この圧延材は、冷間成形であっても、緻密な成形体を良好に成形できるほどに成形性に優れるとの知見を得た。例えば、上記圧延材を粉砕した粉末や薄片は、冷間成形であっても、相対密度が85%以上という緻密な成形体が得られる。そこで、冷間加工で成形を行う製造方法(B)の一例として、粉末状又は薄帯状の固溶材に圧延を施した後、粉砕したものを素材に用いることが挙げられる。粉末圧延の条件は、所定の厚さの圧延材が得られるように加圧圧力、ロール間ギャップ等を調整するとよい。例えば、一対のロールを備えるロール圧延機を用いることが挙げられる。圧延条件は、各ロールの直径を50mmφ〜60mmφ程度、加圧力を5トン程度、ロール間のギャップを0mmとすることが挙げられる。
粉末圧延によって製造する圧延材の厚さは、適宜選択できる。圧延材の厚さは、例えば0.1mm以上1.5mm以下程度、更に0.3mm以上1.2mm以下程度であると、圧延材が形成され易い。また、この圧延材は、圧延後、粉砕して粉末状等とし易い。粉砕した粉末又は薄片の大きさは、成形可能な範囲で適宜選択できる。例えば、粉砕した粉末又は薄片の最大長さが圧延材の厚さと同等程度以下であること、特に50μm以下が挙げられる。
〈素材の組織〉
成形加工に供する素材においてFeが実質的に析出していないとは、定量的には、素材についてX線回折(XRD)を行い、AlとFeとを含む化合物のピーク強度がアルミニウム相のピーク強度に対して1/15以下であることが挙げられる。
ここで、XRDによる構造解析において、Feの全量が析出したと仮定したときの上記化合物のトップピーク強度とアルミニウム相(Al)のトップピーク強度との比率(上記化合物のトップピーク強度/Alのトップピーク強度)は理論的には体積比に相当する。理想的な比率では分母と分子との差がそれほど大きくない。一方、上記比率が1/15以下であれば、上記比率の分母(Alのトップピーク強度)に比較して、上記比率の分子(上記化合物のトップピーク強度)が非常に小さい。この状態は、Feが上記化合物として実質的に存在せず、固溶した状態といえる。
上述の溶湯の冷却速度を10,000℃/秒以上とすることで、上記比率が1/15以下である固溶材が得られ易い。上述の素材における上記比率は、上記固溶材における上記比率を実質的に維持し、上述の粉末圧延等が施されても実質的に変化しない。上記比率が小さいほど、Feの含有量における固溶量の割合が高く、上記化合物として存在する割合が低い。このような固溶材は成形性に優れるといえ、緻密な成形体を成形し易く好ましい。そのため、上記比率は1/20以下が好ましい。上記冷却速度をより速めたり、固溶材の大きさ(厚さや粉末径等)をより小さくしたりすると、上記比率が小さくなり易い。
上記素材において、AlとFeとを含む化合物を含む場合でも、上記化合物は非常に微細であり、非常に少ない。定量的には、素材の断面において、上記化合物の平均長軸長さが100nm以下、更に50nm以下、30nm以下であることが挙げられる。また、素材の断面において、複数の500nm×500nmの測定領域について、平均長軸長さが100nm以下である上記化合物の平均個数が150個以下、更に100個以下、50個以下であることが挙げられる。上記平均長軸長さについては上述の〈化合物〉のうち、《大きさ》の項、上記平均個数については《存在量》の項を参照するとよい。
上記素材における母相の結晶粒の大きさは、素材の断面において、平均結晶粒径が1100nm以下、更に1000nm以下、800nm以下であることが挙げられる。この平均結晶粒径については、〈結晶粒〉の項を参照するとよい。
(成形工程)
この工程では、上述の素材に温間又は冷間で成形加工を施して、相対密度が85%以上である成形体を製造する。緻密化することで、最終的に得られるAl合金材の内部空隙が低減される。そのため、空隙部分に応力集中することに起因する割れが生じ難く、高強度で伸びにも優れるAl合金材が製造される。
〈冷間加工〉
上述の素材が特に上述の圧延を経たものである場合、成形加工は、後述の温間成形でもよいが、冷間成形とすることが挙げられる。この理由の一つは、上述のように圧延を経た素材は緻密である上に成形性にも優れるからである。別の理由の一つは、冷間成形であれば、成形時に析出物(AlとFeとを含む化合物)が実質的に析出せず、結晶粒も実質的に成長しない。そのため、粗大な析出物や粗大な結晶粒に起因する成形性の低下が生じ難いからである。冷間成形は、例えば、一軸プレス装置等を用いたプレス成形が挙げられる。
冷間成形における加工温度は、例えば室温(5℃〜35℃程度)が挙げられる。加工温度が室温であれば、上述の析出物の析出や結晶粒の成長が防止される。この点で、冷間成形は成形性に優れる。また、成形過程で熱エネルギーが不要である。この点で、冷間成形は製造性にも優れる。上記加工温度を例えば150℃以下から選択される温度とすると、素材の塑性加工性が高められ、成形体が得られ易い。
印加圧力は、相対密度が85%以上となる範囲で選択することが挙げられる。定量的には、印加圧力は、0.1GPa以上、更に0.5GPa以上、0.8GPa以上、1.0GPa以上が挙げられる。成形体の内部気泡の膨張に起因する亀裂の発生防止、成形型の耐久性の向上等の観点から、印加圧力は2.0GPa以下が挙げられる。素材の組成、大きさ等にもよるが、成形圧力が高いほど、相対密度が高くなり易く、成形体が緻密になり易い。
成形後の成形体(緻密体)は、代表的には上述の素材の組織を実質的に維持しており、粗大な化合物や粗大な結晶粒が実質的に存在していない。
〈温間加工〉
上述の素材が特に上述の圧延を経ていないものである場合には、温間成形が好ましい。この理由は、素材の塑性加工性が高められ、成形体を成形し易いからである。温間成形は、例えば、一軸プレス装置等を用いたプレス成形、いわゆるホットプレスが挙げられる。
温間成形における加工温度は例えば400℃以下が挙げられる。上記加工温度が400℃以下であれば、素材の成形性が高められて緻密な成形体が良好に得られつつ、成形過程でAlとFeとを含む化合物や母相の結晶粒が過度に成長することが抑制される。ひいては、後述の熱処理後において、非常に微細な結晶組織に非常に微細な化合物が分散したAl合金材が得られ易い。上記加工温度が低いほど、上記化合物や結晶粒の成長が抑制され易い。そのため、上記加工温度は390℃以下、更に380℃以下でもよい。上記加工温度が375℃以下、好ましくは350℃以下であれば、上記化合物が実質的に析出しない又は析出し難い。そのため、上記化合物が実質的に析出していない又は非常に微細で少なく、後述するように切削加工性に優れる成形体(緻密体)が得られる。一方、上記加工温度が300℃以上であれば、上述の素材の塑性加工性がより高められる。上記加工温度が高いほど、上述の素材の塑性加工性が高められることから、上記加工温度は320℃以上でもよい。
印加圧力は、相対密度が85%以上となる範囲で選択することが挙げられる。定量的には、印加圧力は50MPa以上、更に100MPa(0.1GPa)以上、700MPa以上が挙げられる。印加圧力が1GPa以上、更に1.5GPa以上であれば、より緻密な成形体が得られ易い。上述の成形体の亀裂の発生防止、成形型の耐久性の向上等の観点から、印加圧力は2.0GPa以下が挙げられる。
加工温度が400℃以下であれば、成形後の成形体(緻密体)は、代表的には上述の素材の組織に近い組織を有し、上記化合物が存在しても非常に微細な上に存在量も少なく、結晶粒も非常に微細である。
〈相対密度〉
成形体(緻密体)の相対密度は、上述のように85%以上とする。最終的に得られるAl合金材の相対密度は、成形体の相対密度を実質的に維持する。そのため、成形体の相対密度が高いほど、相対密度が高く緻密なAl合金材、即ち、高強度で伸びにも優れるAl合金材が得られる。成形体の相対密度が90%以上、更に92%以上、93%以上であれば、より緻密で高強度、高靭性なAl合金材が製造される。
〈成形体の組織〉
成形体(緻密体)の組織は、上述のように素材の組織を実質的に維持する又は近い組織を有する。例えば、成形体は、XRDにおけるAlとFeとを含む化合物のピーク強度がアルミニウム相のピーク強度に対して1/10以下であることが挙げられる。上記比率が小さいほど、上述のようにFeが上記化合物として存在する割合が低い。そのため、上記比率が小さい成形体は、後述の熱処理後に切削加工を行う場合に比較して、切削加工性に優れる。例えば、最終形状が複雑な場合でも上記成形体に切削加工を施すことで、形状精度に優れるAl合金材を製造できる。上記比率は1/12以下、更に1/15以下であると、切削加工性により優れて好ましい。上記比率は、成形時の加工温度が低いほど小さくし易い。
〈その他の成形加工〉
その他の成形加工として、上述の素材を400℃以下の温度で押し出す温間押出が挙げられる。押出温度は、300℃以上400℃以下、更に380℃以下、350℃以下が好ましい。押出前の素材や押出条件等にもよるが、温間押出は、例えば相対密度が98%以上、更に99%以上、実質的に100%である非常に緻密な成形体(押出材)を形成できる。
上述の素材を金属管に収納して、金属管の両端を封止した封止材を押し出すことができる。封止材は、粉末等の飛散を防止できる上に形状を維持し易く、押し出し易い。上記金属管は、押出加工が可能な程度の加工性と、押出時に収納物の崩壊を防止可能な程度の強度とを有する適宜な金属からなるものが利用できる。例えば、純アルミニウム又はアルミニウム合金(例、JIS規格、合金番号A1070等)、純銅又は銅合金等からなる金属管が挙げられる。押出後、金属管に基づく表層は除去されてもよいし、残されていてもよい。上記表層を残す場合、上記表層を被覆層とする被覆Al合金材、例えば銅被覆Al合金材等が製造される。金属管の大きさは、収納物の量や大きさ、上記表層を被覆層とする場合には被覆層の厚さ等に応じて選択するとよい。
(熱処理工程)
この工程は、上述の素材(成形体)に熱処理を施して、Feを主としてAlとの化合物として析出させたり、上記化合物の大きさを調整したりする。特に、熱処理温度が比較的低いことで、熱処理後において、上記化合物は、非常に微細な析出物になり易い。また、熱処理温度が比較的低いことで、母相の結晶粒の成長が抑制されて、熱処理後も非常に微細な結晶組織とすることができる。即ち、上記微細な結晶組織に非常に微細な化合物が分散したAl合金材、代表的には高強度で伸びにも優れる実施形態のAl合金材が製造される。
熱処理条件は、AlとFeとの化合物の核生成が促進されることによって、母相からの上記化合物の析出が進行し、かつ上記化合物の粒成長が過度に起こらない条件とする。特に、母相の平均結晶粒径が1100nm以下であり、上記化合物の平均長軸長さが100nm以下であることを満たすように、上記熱処理条件を調整する。
熱処理温度は400℃以下とする。代表的には、上記熱処理温度は350℃超、又は温間成形を行う場合には温間成形の加工温度超とすることが挙げられる。上記熱処理温度は、上述の条件を満たす範囲で低いほど、上記化合物及び結晶粒の粗大化を抑制し易い傾向にある。例えば、上記熱処理温度は350℃超380℃以下が挙げられる。
保持時間は、例えば0.1時間以上6時間以下程度、更に1時間以上6時間以下程度、2時間以上4時間以下程度が挙げられる。
熱処理は、バッチ処理でも連続処理でもいずれも利用できる。バッチ処理は、雰囲気炉等の加熱容器に熱処理対象を封入した状態で加熱する処理である。連続処理は、ベルト炉等の加熱容器に熱処理対象を連続的に供給して加熱する処理である。連続処理では、所定の保持時間を確保できるように、ベルトの速度等のパラメータを調整することが挙げられる。
熱処理中の雰囲気は、例えば、大気雰囲気、又は低酸素雰囲気が挙げられる。大気雰囲気は、雰囲気制御が不要であり、熱処理作業性に優れる。低酸素雰囲気は、酸素含有量が大気よりも少ない雰囲気であり、Al合金材の表面酸化を低減できる。低酸素雰囲気は、真空雰囲気(減圧雰囲気)、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気等が挙げられる。
(主な効果)
実施形態のAl合金材の製造方法は、高強度で、伸びにも優れるAl合金材を製造できる。また、実施形態のAl合金材の製造方法は、以下の点から、高強度で、伸びにも優れるAl合金材を生産性よく製造できる。
(v)成形過程では、成形性に優れる素材を用いており、緻密な成形体が良好に成形される。そのため、成形体が生産性よく製造される。
(w)成形加工に供する素材が塑性変形性に優れる。そのため、成形型等の成形ツールの損傷が低減される。
(x)温間成形及び熱処理に必要な熱エネルギーが比較的少なくなり易い。
(y)熱処理前の成形体は切削加工性に優れる。そのため、最終形状への切削加工が行い易く、最終形状を精度よく有するAl合金材が製造され易い。
(z)開気孔を有するように成形する必要が無い。また、上述の含浸工程が不要である。
[試験例1]
Feの含有量が異なるAl合金材を表1,表2に示す種々の条件で作製し、得られたAl合金材の組織及び機械的特性を表3,表4に示す。
≪試料の作製≫
(液体急冷凝固法を利用する試料)
表1に示す試料No.1〜No.25のAl合金材は、以下のように作製する。
〈素材の準備〉
原料として、純アルミニウム(純度4N)と純鉄(純度3N)とを用意し、Feを含み、残部がAl及び不可避不純物からなるAl基合金の溶湯を作製する。Al基合金におけるFeの含有量が表1に示す量(2質量%〜12質量%の範囲から選択される量、質量%)となるように純鉄の添加量を調整する。上記溶湯を用いて、液体急冷凝固法、ここでは以下の条件のメルトスパン法によって、薄帯を作製する。
詳しくは、減圧したアルゴン雰囲気(−0.02MPa)で1000℃に昇温して、上記の原料を溶解して溶湯を作製する。表面周速50m/秒で回転する銅製ロールに上記溶湯を噴射して、薄帯を作製する。溶湯の冷却速度は80,000℃/秒〜100,000℃/秒である(≧10,000℃/秒)。薄帯の幅は2mm程度である。薄帯の厚さは30μm程度である。薄帯の長さは不定である。
試料No.6〜No.25では、上述の薄帯を粉砕して粉末状とし、この粉末を成形に供する素材とする。表1の「成形条件」の欄に「圧延+粉砕有り」と記載される試料No.1〜No.5では、上記薄帯に、後述のように圧延を施した後、粉砕することで作製した顆粒を成形に供する素材とする。
上記顆粒は以下のように作製する。上述の薄帯を粉砕して粉末状とし、この粉末に以下の粉末圧延を施した後、圧延材の厚さと同等程度以下の粒径となるように粉砕する。粉末圧延には、一対のロールを備えるロール圧延機を用いる。各ロールの直径は50mmφである。各ロールの長さは80mmである。圧延条件は、加圧圧力を5トン、ロール間のギャップをゼロ(ゼロギャップ)とする。圧延材の厚さは0.5mm〜1mm程度である。粉末粒径が1mm以下となるように、上記圧延材を粉砕して、顆粒が得られる。この顆粒は、質量50gの顆粒において、直径4mmφのオリフィスを自由落下する流動度が20秒以内を満たすものである。
得られた各試料の薄帯についてXRDによる構造解析を行うと、AlとFeとを含む化合物(主としてAl13Fe)のピークが見られた。上記化合物のピーク強度は、アルミニウム相のピーク強度に対して1/20以下である。また、各試料の薄帯の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)において、長軸長さが5nm以上の上記化合物が観測可能な倍率(ここでは30,000倍)で観察すると、100nmを超えるサイズの上記化合物が見られない。これらのことから、各試料の薄帯は、実質的にAl単相であり、Alの結晶構造を有するといえる。また、メルトスパン法等の適宜な方法を用いれば、Feが実質的に析出しておらず、Feの実質的に全量が固溶した固溶材(ここでは薄帯)が得られるといえる。なお、上記薄帯におけるFeの含有量は、例えば、赤外線吸光分析、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析等を行うことで確認することができる。
〈成形工程〉
試料No.1〜No.5では上述の顆粒を用いて成形体を作製する。試料No.6〜No.25では上述の上記薄帯を粉砕した粉末を用いて成形体を作製する。ここでは、アルゴン雰囲気中、印加圧力を0.1GPa、加工温度を表1に示す温度(150℃〜400℃の範囲から選択される温度、℃)、保持時間を30分間という条件で、相対密度が85%以上となるようにプレス成形を行う。このプレス成形によって、直径が10mmφであり、高さが3mmである円柱状の成形体を作製する。なお、成形時の加工温度が150℃の場合は冷間成形に相当する。成形時の加工温度が300℃〜400℃の場合は温間成形に相当する。
〈熱処理工程〉
得られた各試料の成形体に熱処理を施す。ここでの熱処理は、バッチ処理とし、窒素雰囲気、加熱温度を375℃(≦400℃)、保持時間を60分という条件とする。
(ガスアトマイズ法を利用する試料)
表2に示す試料No.26〜No.45のAl合金材は、以下のように作製する。
上述の試料No.1等と同様に、Feを含み、残部がAl及び不可避不純物からなるAl基合金(Feの含有量は表2に示す量、質量%)の溶湯を作製し、ガスアトマイズ法によって、アトマイズ粉を作製する。ここでは、公知の条件を利用し、溶湯の冷却速度は8,000〜10,000℃/秒未満と推定される。アトマイズ粉の平均粒径は100μm程度である。
上記アトマイズ粉を用いて、プレス成形を行って成形体を作製し、成形体に熱処理を施す。プレス成形の条件は、試料No.6〜No.25と同様であり、加工温度を表2に示す温度(℃)とする。熱処理条件は、上記試料No.1等と同じである。
(モールド鋳造法を利用する試料)
表2に示す試料No.46〜No.50のAl合金材は、公知の連続鋳造法(モールド鋳造法)によって製造した連続鋳造材に熱処理を施した溶製材である。詳しくは、上述の試料No.1等と同様に、Feを含み、残部がAl及び不可避不純物からなるAl基合金(Feの含有量は表2に示す量、質量%)の溶湯を作製し、銅鋳型を利用して、直径10mmφの丸棒状の連続鋳造材を作製する。この連続鋳造材を長さ3mmに切断して、直径が10mmφであり、高さが3mmである円柱材を得る。上記円柱材に熱処理を施す。熱処理条件は、試料No.1等と同じである。
Figure 2020008809
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≪成形体の組織、相対密度≫
試料No.1〜No.45の熱処理前の成形体、及び試料No.46〜No.50の熱処理前の連続鋳造材について、相対密度(%)、母相の平均結晶粒径(nm)、析出物の平均長軸長さ(nm)、析出物の平均個数(個)を調べ、その結果を表3,表4に示す。ここでの析出物とは、AlとFeとを含む化合物(ここではAlに対するFeの原子数の割合が0.1以上のものを意味する。主としてAl13Fe)である。表4の成形体(熱処理前)の欄に記載の上述の各項目について、試料No.46〜No.50では熱処理前の連続鋳造材について記載する。
試料No.1〜No.45について、プレス成形の成形型から成形体を抜き出す際に、所定の形状に抜き出せなかった試料は、表3,表4の「成形体密度」の欄に「保形不可」と記載する。保形不可の試料は、母相の平均結晶粒径、析出物の平均長軸長さ及び平均個数を測定しない。また、保形不可の試料は、後述の熱処理材の組織、機械的特性も測定しない。以下の説明において、熱処理前の成形体及び熱処理材に関する事項は、特段の断りが無い限り、保形不可の試料を除いて説明する。
相対密度は、成形体の見かけ密度と真密度とを用いて、(見かけ密度/真密度)×100から求める。成形体の見かけ密度は、成形体の内部に含まれる気孔を含めて測定した質量及び体積を用いて求める。成形体の真密度は、成形体の組成に基づいて求める。
母相の平均結晶粒径(nm)は以下のように求める。
上記成形体の任意の断面をSEMで観察し、この断面のSEM像から、5μm×5μmの測定領域をとる。1つの断面又は複数の断面から、合計30個以上の測定領域をとる。各測定領域に存在する結晶粒を全て抽出し、各結晶粒の断面積の等価面積円を求め、等価面積円の直径、即ち円相当径を各結晶粒の結晶粒径とする。抽出した結晶粒のうち、結晶粒径が大きい方から上位10%以内に含まれる結晶粒と下位10%以内に含まれる結晶粒とを除き、残り80%の結晶粒について結晶粒径の平均を求める。例えば、抽出した結晶粒が30個であれば、結晶粒径が大きい方から上位3個と、下位3個との合計6個を除いた残り24個の結晶粒について結晶粒径の平均を求める。求めた平均値を平均結晶粒径とし、平均結晶粒径を表3,表4に示す。
上記結晶粒の抽出、後述の化合物の抽出は、市販の画像処理ソフトウェアを利用して、SEM像を画像処理すると、容易に行える。なお、断面の観察には、金属顕微鏡を用いることもできる。顕微鏡の倍率は測定対象のサイズを明確に測定可能な範囲で調整する。また、断面の観察を行う際には適切な溶液処理で粒界エッチングを行うこと、電子線後方散乱回折法(EBSD)によって結晶方位の情報があるSEM像とすることが有効である。
上記析出物の平均長軸長さ(nm)は以下のように求める。
上記成形体の任意の断面をSEMで観察し、この断面のSEM像から、5μm×5μmの測定領域をとる。1つの断面又は複数の断面から、合計30個以上の測定領域をとる。各測定領域に析出するAlとFeとを含む化合物について最大長さを測定する。各化合物の最大長さは、以下のように測定する。
図1に示すように、上述の断面のSEM像において、2本の平行線P1,P2によって、AlとFeとを含む化合物からなる粒子1を挟み、これら平行線P1,P2の間隔を測定する。上記間隔は、平行線P1,P2に直交する方向の距離である。任意の方向の平行線P1,P2の組を複数とり、上記間隔をそれぞれ測定する。測定した複数の上記間隔のうち、最大値を粒子1の最大長さL1とする。
ここでは、上記化合物からなる粒子のうち、5nm以上の最大長さを有する粒子を抽出する。即ち、最大長さが5nm未満の粒子は抽出しない。各化合物の最大長さを各化合物の長軸長さとする。抽出した化合物のうち、長軸長さが大きい方から上位10%以内に含まれる粒子と下位10%以内に含まれる粒子とを除き、残り80%の粒子について長軸長さの平均を求める。例えば、抽出した化合物が30個であれば、長軸長さが大きい方から上位3個と、下位3個との合計6個を除いた残り24個の化合物について長軸長さの平均を求める。求めた平均値を平均長軸長さとし、平均長軸長さを表3,表4に示す。5nm以上の最大長さを有する化合物が観察されない試料については、「析出物 サイズ」の欄及び「析出物 平均個数」の欄に「析出なし」と記載する。
上記析出物の平均個数(個)は以下のように求める。
上述の成形体の断面のSEM像から、500nm×500nmの測定領域(以下、析出測定領域と呼ぶ)をとる。1つの断面又は複数の断面から、合計30個以上の析出測定領域をとる。ここでは、上述の5μm×5μmの測定領域から一つずつ、析出測定領域をとり、合計30個以上の析出測定領域をとる。各析出測定領域に存在するAlとFeとを含む化合物であって、長軸長さが5nm以上100nm以下である化合物の個数を測定する。各析出測定領域における化合物の個数のうち、個数が多い方から上位10%以内の個数を有する領域と下位10%以内の個数を有する領域とを除き、残り80%の領域について化合物の個数の平均を求める。例えば、析出測定領域が30個であれば、個数が多い上位3つの領域と、下位3つの領域との合計6つの領域を除いた残り24個の領域について化合物の個数の平均を求める。求めた平均値を平均個数とし、平均個数を表3,表4に示す。
試料No.1〜No.25の成形体について、上述の薄帯と同様にしてXRDによる構造解析を行うと、上記化合物のピークが見られたものの、上記化合物のピーク強度は、アルミニウム相のピーク強度に対して1/15以下である。詳しくは、試料No.1,No.2,No.6,No.7では、上記のピーク強度の比率が1/20以下である。その他の試料では、上記ピーク強度の比率が1/20超〜1/15以下であり、表3に示すように上記化合物の平均長軸長さが100nm以下であり、100nmを超えるサイズの上記化合物が見られない。このことから、試料No.1〜No.25の成形体は、実質的にAl単相である、又はAl単相に近いといえる。
≪熱処理材の組織、機械的特性≫
各試料の熱処理材(Al合金材)について、母相におけるFeの固溶量(Fe量、質量%)、母相の平均結晶粒径(nm)、析出物の平均長軸長さ(nm)、析出物の平均個数(個)、引張強さ(MPa)、破断伸び(%)を調べ、その結果を表3,表4に示す。
上記熱処理材における母相の平均結晶粒径、析出物の平均長軸長さ及び平均個数は、上述の成形体と同様にして求める。
Feの固溶量(質量%)は、ここではTEM−EDXを用いて求める。
詳しくは、上記熱処理材の断面をTEMで観察し、この断面のTEM像から母相を抽出して、母相中のFeの含有量を測定する。一つの断面から10個以上の測定領域をとり、各測定領域についてFeの含有量を求め、その平均値を表3,表4に示す。表4において「<0.1」とは、Feの固溶量が0.1質量%未満を意味する。
引張強さ(MPa)、破断伸び(%)は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法、1998年)に準拠して、汎用の引張試験機を用いて測定する。測定は、室温(例、25℃)で行う。
Figure 2020008809
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表3,表4から以下のことがいえる。
〈成形体について〉
(1)上述の液体急冷凝固法による素材を用いると、上述のガスアトマイズ粉を用いる場合に比較して、成形時の加工温度が350℃以下と比較的低くても、相対密度が85%以上という緻密な成形体が得られる。このことは、試料No.1〜No.20と試料No.26〜No.40とを比較することから裏付けられる。上記素材を用いる試料No.1〜No.20では、上記ガスアトマイズ粉を用いる試料No.26〜No.40に比較して、保形不可な試料が少ない上に、多くの試料の相対密度が85%以上である。また、このことから、溶湯の冷却速度を10,000℃/秒以上とすると、溶湯の冷却速度を10,000℃/秒未満とする場合に比較して、成形性に優れる素材が得られるといえる。
(2)成形時の加工温度が400℃であれば、上記素材でも上記ガスアトマイズ粉でも相対密度が85%以上という緻密な成形体が得られる(試料No.21〜No.25、No.41〜No.45参照)。
(3)上述の液体急冷凝固法による素材を用いた成形体では、上記ガスアトマイズ粉を用いた成形体に比較して、結晶粒が非常に微細である。また、AlとFeとを含む化合物が実質的に析出していない、又は析出していても上記化合物の平均長軸長さが非常に短く、分散して存在する。
詳しくは、上記ガスアトマイズ粉を用いる試料No.26〜No.45の成形体では母相の平均結晶粒径が1030nm以上であり、2000nm以上、更には3000nm以上の試料も多い。上記化合物の平均長軸長さは275nm以上であり、300nm以上、更には400nm以上の試料も多い。上記化合物の平均個数は、上述の析出測定領域に1個未満であり、平均長軸長さが100nm以下という非常に微細な化合物が極めて少ない。このことから、試料No.26〜No.45の成形体では、平均結晶粒径が2000nm程度以上という粗大な結晶組織に、平均長軸長さが300nm程度以上という非常に粗大な化合物が局所的に析出するといえる。
これに対し、上述の液体急冷凝固法による素材を用いる試料No.1〜No.25の成形体では、母相の平均結晶粒径が1100nm以下であり、800nm以下、更には600nm以下の試料も多い。AlとFeとを含む化合物の平均長軸長さは100nm以下であり、35nm以下の試料も多い。上記化合物の平均個数は、上述の析出測定領域に数個程度以上85個程度以下である。このことから、試料No.1〜No.25の成形体では、平均結晶粒径が1100nm以下という非常に微細な結晶組織に、上記化合物が実質的に析出していない、又は析出していても平均長軸長さが100nm以下という非常に微細な化合物が分散して存在するといえる。
(4)試料No.46〜No.50の連続鋳造材は、上記ガスアトマイズ粉を用いる試料No.26〜No.45の成形体に比較して、結晶粒及び上述の化合物の双方が大きい。上記化合物の平均個数は、上述の析出測定領域に1個未満であり、平均長軸長さが100nm以下という非常に微細な化合物が極めて少ない。定量的には、上記連続鋳造材では、母相の平均結晶粒径が9000nm程度以上という極めて粗大な結晶組織に、平均長軸長さが630nm以上という極めて粗大な化合物が局所的に析出するといえる。
〈熱処理材(Al合金材)について〉
(1)上述の液体急冷凝固法による素材を用いた試料No.1〜No.25の成形体に400℃以下の熱処理を施すと、熱処理前の組織に比較して、結晶粒及びAlとFeとを含む化合物が大きくなる。又は上記化合物が析出し、平均長軸長さが100nm以下の化合物の平均個数が多い。定量的には、試料No.1〜No.25の熱処理材のうち、多くの試料は、母相の平均結晶粒径が1100nm以下という非常に微細な結晶組織に、平均長軸長さが100nm以下という非常に微細な化合物が分散して存在する。なお、母相の主体であるアルミニウム相は、主としてfcc構造を有する。
(2)試料No.1〜No.25の熱処理材のうち、緻密である上に、母相の平均結晶粒径が1100nm以下という非常に微細な結晶組織に、平均長軸長さが100nm以下という非常に微細な化合物が分散して存在する試料は、高い引張強さと高い破断伸びとを有する。詳しくは、試料No.2〜No.4、No.12、No.17〜No.19、No.23,No.24の熱処理材(以下、これらの試料をまとめて、試料No.2等の熱処理材と呼ぶことがある)では、相対密度が85%以上である。多くの試料の相対密度が90%以上である。また、試料No.2等の熱処理材では、引張強さが250MPa以上であり、破断伸びが1%以上である。多くの試料は、引張強さが255MPa以上であると共に、破断伸びが2%以上であり、高い引張強さと高い破断伸びとをバランスよく有する。
(3)試料No.1〜No.25の熱処理材のうち、Feの含有量が2質量%では、相対密度が高く、母相の平均結晶粒径が1100nm以下であり、上述の化合物の平均長軸長さが100nm以下であるものの、引張強さが低くなり易い。この試験では、Feの含有量が2質量%の場合、250MPaを超える引張強さが得られない。Feの含有量が12質量%では、相対密度が85%未満であったり、保形不可であったり、上記化合物の平均長軸長さが100nm超になったりして、破断伸びが低い。このことから、Feの含有量は2質量%超12質量%未満が好ましい。
(4)上述のガスアトマイズ粉を用いた試料No.26〜45の熱処理材、及び溶製材である試料No.46〜50の熱処理材は、熱処理前の組織に比較して、結晶粒及び上述の化合物が大きく、平均長軸長さが100nm以下の化合物の平均個数が少ない。定量的には、これらの熱処理材は、母相の平均結晶粒径が1100nm以上、更には3000nm程度以上という粗大な結晶組織に、平均長軸長さが300nm程度以上という粗大な化合物が局所的に存在するといえる。このような粗大な結晶粒や粗大な化合物が存在することで、引張強さ及び破断伸びの少なくとも一方が低く、引張強さと破断伸びとのバランスが良くない。
なお、各試料の熱処理材の相対密度は、成形体の相対密度を実質的に維持する。
〈試料No.2等の熱処理材〉
以下、高強度で、伸びにも優れる試料No.2〜No.4、No.12、No.17〜No.19、No.23,No.24の熱処理材に着目する。
(1)試料No.2等の熱処理材について、試料No.47〜No.49の溶製材(熱処理材)のうち、Feの含有量が同じもの同士を比較すると、溶製材の引張強さに対する引張強さの増加量が8.5%以上である。また、破断伸びが1%以上、更に1.5%以上である。従って、試料No.2等の熱処理材は、上記溶製材よりも高強度で伸びにも優れる。
特に、試料No.2等の熱処理材のうち、試料No.12以外の試料では、上記引張強さの増加量が10%以上であり、上記溶製材よりも強度により優れる。試料No.2〜No.4,No.17〜No.19では、上記引張強さの増加量が30%以上であり、300MPa以上という高い引張強さを有しつつ、2%以上という高い破断伸びも有しており、強度により優れる上に伸びにも優れる。この理由の一つとして、以下の(α),(β)によって、非常に微細な結晶組織に非常に微細な化合物が均一的に分散し易かったため、と考えられる。
(α)母相の平均結晶粒径が600nm以下とより小さい上に、AlとFeとを含む化合物の平均長軸長さが35nm以下とより小さい。
(β)母相中のFeの固溶量が0.5質量%以下と非常に少ない上に、平均長軸長さが100nm以下の析出物の平均個数が10個以上、更に80個以上175個以下である。多くの試料では、上記析出物の平均個数が115個以上175個以下である。即ち、含有されるFeが主として、非常に微細な化合物として孤立した状態で存在する。
試料No.2〜No.4,No.17〜No.19の熱処理材について、Feの含有量が同じもの同士を比較すると、試料No.2〜No.4の熱処理材は、No.17〜No.19の熱処理に比較して、引張強さが高い。この理由の一つとして、以下が考えられる。試料No.2〜No.4の熱処理材は、No.17〜No.19に比較して、母相の平均結晶粒径及び上述の化合物の平均長軸長さが小さい。また、この非常に微細な化合物の平均個数が多く、結晶粒の粒界強化及び化合物の分散強化による強度向上効果が得られ易い。熱処理材の組織に相違が生じた理由の一つとして、製造条件の相違が考えられる。試料No.2〜No.4の熱処理材は、上述の溶湯の急冷による粉末等に更に圧延を施して粉砕したものを冷間成形することに対し、試料No.17〜No.19の熱処理材は上記粉末等を温間成形する。冷間成形することで、結晶粒及び化合物の成長が抑えられたと考えられる。
(2)試料No.2等の熱処理材において、Feの含有量が多いほど引張強さが高い傾向にあり、Feの含有量が少ないほど破断伸びが高い傾向にある。強度の向上理由の一つとして、以下が考えられる。Feの含有量が多いほど、非常に微細な析出物の平均個数が多く、化合物の分散強化による強度向上効果が得られ易い。また、上記微細な析出物(上述の化合物)が結晶粒の成長も抑制し易く、結晶粒が非常に微細であることで粒界強化による強度向上効果も得易い。破断伸びの向上理由の一つとして、Feの含有量が少ないほど、析出物が小さくなり易く、平均個数も少なく、上記析出物が割れの起点になることを抑制し易いため、と考えられる。
以上のことから、Feを3質量%以上10質量%以下含み、高強度で、伸びにも優れるAl合金材が示された。また、このAl合金材は、緻密であること(相対密度が85%以上、好ましくは90%以上)、母相が非常に微細な結晶組織であること(平均結晶粒径が1100nm以下)、Feが主として化合物として存在すると共に、この化合物が非常に微細であり(化合物の平均長軸長さが100nm以下)、上記結晶組織に分散して存在することが示された。更に、このようなAl合金材は、溶湯の急冷を経て製造した粉末等を用いて緻密な成形体(相対密度が85%以上)を作製し、この成形体に400℃以下の熱処理を施すことで製造できることが示された。いわば、このAl合金材は、粉末冶金法に準ずる製法で容易に製造でき、製造性にも優れる。
その他、上述の溶湯の急冷による粉末等は、Feが実質的に析出しておらず、成形性に優れることで、成形時の加工温度が400℃以下という比較的低温でも、相対密度が85%以上、更には90%以上という緻密な成形体を良好に得られることが示された。400℃以下の範囲で、成形時の加工温度が高いほど相対密度が高くなり易く、強度が高くなり易い(試料No.12と試料No.17とを比較参照)。上述の溶湯の急冷による固溶材に更に圧延を施して粉砕した粉末等は、成形性に更に優れており、成形時の加工温度が150℃以下の冷間成形でも、相対密度が90%以上という緻密な成形体が良好に得られることが示された。
また、上記熱処理温度を400℃以下という比較的低温とすることで、熱処理後において上述の化合物を非常に微細にできつつ、母相の結晶粒を非常に微細にできることが示された。上述の圧延材の粉砕物を冷間成形すると、上述の溶湯の急冷による粉末等を温間成形に供する場合に比較して、結晶粒及び化合物を小さくでき、非常に微細な化合物の平均個数を多くできることが示された。
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、試験例1において、Feの含有量、製造条件(溶湯の冷却速度、成形時の加工温度・印加圧力、熱処理条件等)、Al合金材の形状・寸法等を適宜変更できる。
1 化合物からなる粒子
P1,P2 平行線
L1 最大長さ(長軸長さ)
L2 短軸長さ

Claims (9)

  1. Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成と、
    母相と、化合物とを含む組織とを有し、
    前記母相は、Alを主体とし、
    前記化合物は、AlとFeとを含み、
    相対密度が85%以上であり、
    任意の断面において、前記母相の平均結晶粒径が1100nm以下であり、前記化合物の平均長軸長さが100nm以下である、
    アルミニウム合金材。
  2. 前記平均結晶粒径が600nm以下であり、前記平均長軸長さが35nm以下である請求項1に記載のアルミニウム合金材。
  3. 前記断面において一辺の長さが500nmである正方形の測定領域を複数とり、前記測定領域における長軸長さが5nm以上100nm以下である前記化合物の平均個数が10個以上である請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金材。
  4. 前記平均個数が80個以上175個以下である請求項3に記載のアルミニウム合金材。
  5. 引張強さが300MPa以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
  6. 破断伸びが1%以上である請求項5に記載のアルミニウム合金材。
  7. Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を急冷して、前記Feを固溶した粉末状又は薄片状の素材を製造する工程と、
    400℃以下の温度で前記素材を温間成形して、相対密度が85%以上である緻密体を形成する工程と、
    前記緻密体に400℃以下の温度で熱処理を施す工程とを備える、
    アルミニウム合金材の製造方法。
  8. Feを3質量%以上10質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を急冷して、前記Feを固溶した粉末状又は薄片状の素材を製造する工程と、
    前記素材を冷間成形して、相対密度が85%以上である緻密体を形成する工程と、
    前記緻密体に400℃以下の温度で熱処理を施す工程とを備える、
    アルミニウム合金材の製造方法。
  9. 前記緻密体は、X線回折におけるAlとFeとを含む化合物のピーク強度がアルミニウム相のピーク強度に対して1/10以下である請求項7又は請求項8に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
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