JPWO2019235613A1 - 薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御装置および鋳型内流動制御方法 - Google Patents

薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御装置および鋳型内流動制御方法 Download PDF

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Abstract

この鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御装置は、メニスカス部の短辺厚みが150mm以下、鋳造幅が2m以下の鋼の薄スラブ鋳造に用いる鋳型内流動制御装置であって、直流磁場発生ユニットと、吐出孔の底部と連ねて外部に開口するように底部に形成されたスリットを有する浸漬ノズルと、を備え、前記吐出孔及び前記スリットは直流磁場帯に存在し、前記直流磁場帯の磁束密度B(T)と、前記浸漬ノズルの下端から前記コアの下端までの距離L(m)とが、下記(1)式及び(2)式を満足する。0.35T≦B≦1.0T ・・・(1)式L≧0.06m ・・・(2)式

Description

本発明は、鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御装置および鋳型内流動制御方法に関する。
本願は、2018年6月7日に、日本に出願された特願2018−109150号、および、2018年11月9日に、日本に出願された特願2018−211091号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
スラブ厚が40〜150mmの薄スラブ(薄鋳片)を鋳造する薄スラブ鋳造方法が知られている。鋳造された薄スラブは、加熱された後、4段から7段程度の小規模な圧延機で圧延される。薄スラブ鋳造に用いる連続鋳造鋳型としては、漏斗状鋳型(ファンネル鋳型)を用いる方法と矩形の平行鋳型を用いる方法が採用されている。漏斗状鋳型は、鋳型下端部の開口部(溶鋼と凝固シェルが充填される部分)については矩形とし、鋳型メニスカス部の開口部については、短辺部の開口幅は鋳型下端部の短辺幅と同一としつつ、浸漬ノズルが挿入される部分の開口幅を拡げ、浸漬ノズルの下端よりも下方において開口部表面形状が徐々に狭くなる漏斗状に形成した形状の鋳型である。薄スラブの連続鋳造では、高速鋳造によって生産性を確保することが必要であり、工業的には5〜6m/分、最高10m/分の高速鋳造が可能となっている(非特許文献1参照)。
薄スラブ鋳造においては、上述のように鋳造厚みが一般的に150mm以下と薄く、その一方で鋳造幅は1.5m程度でありアスペクト比が高い。そして、鋳造速度が5m/分と高速鋳造であるため、スループットも高い。加えて、鋳型への溶鋼注湯を容易にするため、漏斗状鋳型が用いられることが多く、鋳型内流動はより複雑化する。そのため、ノズル形状を扁平化、また、ノズル吐出孔を多孔化し、吐出流を分割することでノズル吐出流速を低減することが一般的である(特許文献1参照)。さらに、複数のノズル吐出流それぞれを制動するため、複数の電磁石を鋳型長辺に配置し流動を制動する方法も提案されている(特許文献2、3参照)。
薄スラブ鋳造ではない通常の連続鋳造で用いられる浸漬ノズルは、有底円筒状の形状であり、浸漬部の両側面にそれぞれ吐出孔を有している。一方、浸漬ノズルの底部に、下方に向かって外部に開口するスリットを有するノズルが知られている(特許文献4、5参照)。スリットは、円筒底部及び左右の吐出孔の底部を連ねて開口する。浸漬ノズルを介して鋳型内に流出する溶湯は、左右の吐出孔に加えてこのスリットからも流出するので、吐出孔から流出する溶湯流速を相対的に低減させることができる。しかし、薄スラブ鋳造ではない通常の連続鋳造においては、浸漬ノズルの詰まり防止等を目的として、浸漬ノズルを通過する溶湯中にArガスを吹き込む結果、スリットからノズル吐出流とともに下向きに吹き込まれた気泡がそのまま上方に浮上するため、ノズル周りでボイリングしてしまい、うまく活用できていない。
また、薄スラブ鋳造ではない通常のスラブ連続鋳造においては、鋳型内電磁攪拌が使用されており、水平断面内で旋回流を形成している。一方、薄スラブ鋳造においては、このような鋳型内電磁攪拌は使用されない。これは、鋳型厚みが薄いため、旋回流の形成が困難と想定されること、すでに高速鋳造のため凝固シェル前面には十分な流動が付与されており、さらに湯面近傍で旋回流を付与すると、鋳型内流動が複雑化し、好ましくないと考えられたこと等によると思われる。
米国特許6152336号公報 日本国特開2001−47196号公報 米国特許9352386号公報 日本国特開2001−205396号公報 日本国特開2007−105769号公報
第5版鉄鋼便覧 第1巻製銑・製鋼 第454〜456頁 岡野忍ら著「鉄と鋼」61(1975),2982頁
前述のように、薄スラブ鋳造においては、ノズル吐出孔を多孔化し、吐出流を分割することでノズル吐出流速を低減するとともに、複数の電磁石を鋳型長辺に配置し流動を制動する方法が提案されている。しかしながら、ノズル吐出流を分割する際、乱流であるため一定の流動パターンが形成されているとはいいがたい。さらに、複数の電磁石を設けて磁場を形成すると、電磁石の端部は磁場が低下し、磁場分布が不均一となる。磁場が弱い部位を流体が容易にすりぬけるため、結果として、流動分布を安定して低減することは難しい。そのため、薄スラブ鋳造において、ノズル吐出流をどのように形成するか依然として解決できているとは言い難い。
そこで、本発明は、鋼の薄スラブ鋳造において、鋳型内流動を安定的に制御するとともに、鋳型内のメニスカスへの熱供給を有効に行うことにより、表面、内部品位ともに優れた鋳片の鋳造が可能な鋳型内流動制御装置および鋳型内流動制御方法を提供することを目的とする。
本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)本発明の第一の態様は、メニスカス部の短辺厚みが150mm以下、鋳造幅が2m以下の鋼の薄スラブ鋳造に用いる鋳型内流動制御装置であって、
鋳型幅方向の全幅において、鋳型厚み方向に向かう直流磁場を付与するコアを有する直流磁場発生ユニットと、前記鋳型幅方向の両側面に形成された吐出孔と、これらの吐出孔の底部と連ねて外部に開口するように底部に形成されたスリットとを有する浸漬ノズルと、を備え、前記吐出孔及び前記スリットは、前記直流磁場発生ユニットの前記コアが存在する高さ領域である直流磁場帯に存在し、前記直流磁場帯の磁束密度B(T)と、前記浸漬ノズルの下端から前記コアの下端までの距離L(m)とが、下記(1)式及び(2)式を満足する
ことを特徴とする鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御装置である。
0.35T≦B≦1.0T ・・・(1)式
L≧0.06m ・・・(2)式
(2)上記(1)に記載の鋳型内流動制御装置では、前記浸漬ノズルの側面に開口する部分の合計断面積と同じ断面積の円相当径である前記吐出孔の吐出孔径d(mm)、前記スリットのスリット厚みδ(mm)、及び、前記浸漬ノズルの内径D(mm)が、下記(3)式及び(4)式を満足してもよい。
D/8≦δ≦D/3 ・・・(3)式
δ≦d≦2/3×D ・・・(4)式
(3)上記(1)又は(2)に記載の鋳型内流動制御装置では、前記吐出孔は、吐出流が前記浸漬ノズルの軸方向に対し垂直方向となるように形成されてもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の鋳型内流動制御装置は、さらに、鋳型内の溶鋼表面で旋回流を付与することのできる電磁攪拌ユニットを有してもよい。
(5)上記(4)に記載の鋳型内流動制御装置では、前記鋳型の長辺壁を構成する銅板の厚みDCu(mm)、鋳片の厚みT(mm)、前記電磁攪拌ユニットの周波数f(Hz)、前記銅板の電気伝導度σCu(S/m)が下記(7A)式、(7B)式を満足するように調整されてもよい。
Cu<√(2/(σCuωμ)) ・・・(7A)式
√(1/(2σωμ))<T ・・・(7B)式
ただし、ω=2πf:角速度(rad/sec)、μ=4π×10-7:真空の透磁率(N/A2)、σ:溶鋼の電気伝導度である。
(6)本発明の第二の態様は、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の鋳型内流動制御装置を用いた薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御方法であって、浸漬ノズル内平均流速V(m/s)に対して、印加する直流磁場の磁束密度B(T)及び前記浸漬ノズルの下端から前記コアの下端までの距離L(m)が下記(5)式及び(6)式を満足する。
L≧LC=(ρV)/(2σB2) ・・・(5)式
0.1×B√((σDV)/ρ)≧0.1(m/s) ・・・(6)式
ただし、D:浸漬ノズル内径(m)、ρ:溶融金属の密度(kg/m3)、σ:溶融金属の電気伝導度(S/m)である。
(7)本発明の第三の態様は、上記(4)又は(5)に記載の鋳型内流動制御装置を用いた薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御方法であって、浸漬ノズル内平均流速V(m/s)に対して、印加する直流磁場の磁束密度B(T)及び前記浸漬ノズルの下端から前記コアの下端までの距離L(m)が下記(5)式、(6)式を満足する
ことを特徴とする鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御方法。
L≧LC=(ρV)/(2σB2) ・・・(5)式
0.1×B√((σDV)/ρ)≧0.1(m/s) ・・・(6)式
ただし、D:浸漬ノズル内径(m)、ρ:溶融金属の密度(kg/m3)、σ:溶融金属の電気伝導度(S/m)である。
(8)上記(7)に記載の鋳型内流動制御方法では、鋳型長辺の銅板厚みDCu、鋳片厚みT、前記電磁攪拌ユニットの周波数f(Hz)、銅板電気伝導度σCuが下記(7A)式、(7B)式を満足するように調整されてもよい。
Cu<√(2/(σCuωμ)) ・・・(7A)式
√(1/(2σωμ))<T ・・・(7B)式
ただし、ω=2πf:角速度(rad/sec)、μ=4π×10-7:真空の透磁率(N/A2)、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)である。
(9)上記(8)に記載の鋳型内流動制御方法では、鋳型内溶鋼表面の溶鋼攪拌流速VRが、下記(8)式を満たしてもよい。
R≧0.1×B√((σDV)/ρ) ・・・(8)式
ただし、溶鋼攪拌流速VRは鋳片断面のデンドライト傾角に基づいて定める。
本発明によれば、薄スラブ鋳造において、浸漬ノズル吐出流を最も制動効率が高いノズル吐出流とすることで、ノズル吐出流の制動を可能とし、ノズル吐出流の均一分散化とメニスカスへの熱供給が可能となる。その結果、表面、内部品位ともに優れた鋳片の鋳造が可能となる。すなわち、高スループットの条件で鋳型内流動を安定的に制御することができ、薄スラブ鋳造プロセスの生産性が飛躍的に改善される。併せて、高品位鋳片の製造が可能となる。
本発明の一実施形態に係る鋳型内流動制御装置を有する薄スラブ連続鋳造設備を示す図であり、(A)は平面模式図、(B)は正面模式図である。 浸漬ノズルの一例を示す図であり、(A)はA−A矢視正面断面図、(B)はB−B矢視側面断面図、(C)はC−C矢視平面断面図である。 磁場中を流動する導電性流体中の誘導電流の生成状況を示す図であり、(A1)(A2)は導体内の流動、(B1)(B2)は絶縁体内の流動の場合を示し、(A1)(B1)は正面断面図、(A2)(B2)は平面断面図である。 磁場中で浸漬ノズル吐出流に生成する誘導電流の状況を示す図であり、(A)は側面に吐出孔を有する場合、(B)は底部に吐出孔を有する場合、(C)は側面の吐出孔と底部のスリットの両方を有する場合である。 導電性溶融金属を用いた鋳造試験において、浸漬ノズルのスリットの有無、直流磁場の有無と、短辺流量比との関係を示す図である。 直流磁場の磁束密度と、ノズル内流速と、必要コア距離との関係を示す図である。 スリットを有する浸漬ノズルからの吐出流と対向流との関係を示す断面模式図である。 導電性溶融金属を用いた鋳造試験において、直流磁場の磁束密度と、ノズル内流速と、Arガス吹き込み有無と、対向流速との関係を示す図である。 スリット厚み比(δ/D)とノズル流速比(Vb/V)との関係を示す図である。 吐出孔径比(d/D)とノズル流速比(Va/V)との関係を示す図である。 鋳型内電磁攪拌について説明する図であり、(A)は鋳型内電磁攪拌を行わない場合の鋳型内溶鋼表面、(B)は鋳型内電磁攪拌を行う場合の鋳型内溶鋼表面、(C)は(B)の正面断面図である。 鋳型表皮深さと溶鋼電磁力表皮深さとに及ぼす、電磁攪拌周波数の影響を示す図である。 電磁攪拌条件を横軸とし、鋳型内攪拌流速に及ぼす影響を示した図であり、(A)は縦軸が鋳片のデンドライト傾角、(B)は縦軸がデンドライト傾角平均値から求めた攪拌流速である。
まず、鋳型下端付近における未凝固溶鋼プールにおいて、下方に向かう溶鋼流速がほぼ均一、すなわちプラグフローを形成するための電磁制動に適したノズル吐出流を形成する点について説明する。
本発明者らは、二次冷却帯のスプレーのような平板状のジェットでかつ鋳型内全幅にわたって運動量を形成できるノズル吐出流を形成することについて検討した。
前述のように、薄スラブ鋳造ではない通常の連続鋳造においては、浸漬ノズルの詰まり防止等を目的として、浸漬ノズルを通過する溶湯中にArガスを吹き込むことが行われている。その結果、浸漬ノズルの側面に設けた吐出孔の他に底部にスリットを設け、下向きにノズル吐出流を形成した場合、ノズル吐出流とともに下向きに吹き込まれた気泡がそのまま上方に浮上するため、ノズル周りでボイリングしてしまい、うまく活用できなかった。それに対し、メニスカス部の短辺厚みが150mm以下の薄スラブ鋳造においては、浸漬ノズルを通過する溶湯へのArガス吹き込みを行わない。そのため、Ar気泡がノズル吐出流により分散させることを考慮する必要がなく、下向きのノズル吐出流を活用することができる。本発明者らは第1にこの点に着目し、薄スラブ鋳造において、図2に示すように、浸漬ノズル2の底部にスリット4を設けることとした。即ち、浸漬ノズル2の吐出孔3は通常一般的に用いられる側面(鋳型幅方向11両側面)にそれぞれ吐出孔3を設けた2孔とし、かつその2孔の吐出孔3(以下「2孔部」ともいう。)を連続するように、浸漬ノズル2の底部と2つの吐出孔3の底部を連ねて外部に開口するスリット4を設ける。これにより、二次冷却帯のスプレーのような平板状のジェットでかつ鋳型内全幅にわたって運動量を形成できるノズル吐出流を形成することができる。
一方向に流動する溶鋼に対して、図3に示すように、溶鋼流24の流動方向に直角に直流磁場23を作用させた場合、流動溶鋼中に誘導起電力25が生じる。図面において、○中に×を付した記号は、直流磁場23の磁力線の方向が紙面に垂直に紙面の表から裏へ向かっていることを示している。誘導起電力25によって流動溶鋼中に誘導電流26が流れようとする。このとき、図3の(A2)のように、溶鋼の周りに導電体21が存在すれば、リターンパス28が導電体21内に形成されるため、実際に誘導電流26が流れ、電磁制動による制動力27が得られる。しかしながら、図3の(B2)に示すように、耐火物22のような絶縁体の流路内を溶鋼が流れる場合、流動溶鋼中に誘導起電力25が生じても、誘導電流のリターンパスが流れるルートが存在しないので、誘導電流が流れ得ず、制動力を打ち消してしまうことによる。すなわち、一般的に浸漬ノズルは非導電性の耐火物でできているため、浸漬ノズル内流動に直流磁場を作用させても電磁制動は得られない。電磁制動効率を高めるには誘導電流パス形成を考慮する必要があることが明らかである。
そこで、次の着眼点として、本発明者らは、浸漬ノズル内の溶鋼流れに電磁制動を作用させる手段について検討した。下記の構成a,b,cの浸漬ノズルに対し、ノズル吐出孔部に直流磁場を作用させた場合を考える。
構成a:図4の(A)に示される、両側面にノズル吐出孔3を設けた浸漬ノズル202
構成b:図4の(B)に示される、複数のノズル吐出孔3をノズル底面に設けた浸漬ノズル302
構成c:図4の(C)に示される、ノズル吐出孔3とノズル底部のスリット4を含む浸漬ノズル2
浸漬ノズル202を用いる構成aの場合、吐出孔内部の流動溶鋼に直流磁場23を作用させても、ノズル吐出孔部では電流パスを形成できず、ノズル外部で電流パスを形成することになる。
浸漬ノズル302を用いる構成bの場合、構成aと同様にノズル吐出孔部では電流パスは形成されず、また、隣接したノズル吐出孔間でも電流パスは形成されない。そのため、ノズル外で電流パスを形成することになる。
一方、浸漬ノズル2を用いる構成cの場合、ノズル吐出孔3とスリット4を含んだ全体でノズル吐出流12を形成することができる。このような構成によれば、ノズルの制約なく電流パスを形成することができるので、浸漬ノズル2内の吐出流に直流磁場23を作用させたときに誘導電流26を誘起することができ、制動力を作用させることが可能になる。
本発明者らは、このような浸漬ノズル2を用いるとともに、鋳型の全幅にわたって均一な直流磁界を厚み方向に印加することができる直流磁場発生ユニット5を設置することに想到した。これにより、直流磁場発生ユニット5の電磁石の鉄芯であるコア6が存在する高さ領域が直流磁場帯7となる。浸漬ノズル2は2つの吐出孔3と底部のスリット4からノズル吐出流を形成するため、直流磁場発生ユニット5の直流磁場帯7内に浸漬ノズル2の吐出孔3とスリット4の部分を配置する。このような吐出部の形状を有する浸漬ノズル2を用いる結果として、平板状のジェットを直流磁界帯内で形成することができる。従って、ジェット域だけでなくノズル吐出孔間を含む全体にわたって誘導電流が流れるため、極めて効率よく制動できる。尚、浸漬ノズル2は、その軸方向に垂直な断面が楕円形又は矩形であってもよい。
また、本発明者らは、鋳型内流動制御方法に関し、上記のように、平板状のジェットでかつ鋳型内全幅にわたって運動量を形成できるノズル吐出流を形成することに加え、ノズル吐出流の制動を図るため、浸漬ノズル2の下端からコア6の下端までの距離であるノズル下コア距離Lが以下の関係式を満足することが有効であることを見出した。
L≧LC=(ρV)/(2σB2) ・・・(5)式
ただし、ρ:溶融金属の密度(kg/m3)、σ:溶融金属の電気伝導度(S/m)である。
後述のように、2孔の吐出孔3とスリット4を有する浸漬ノズル2においては、吐出流の流速が浸漬ノズル内平均流速V(浸漬ノズルの鉛直方向直管部内の平均流速)とほぼ等しい流速となる。流速Vの流体が有する運動エネルギーEは
E=(ρV2)/2 ・・・(5A)式
と表現できる。また、磁束密度Bの磁場内を流速Vで横切る導電性流体にかかる制動力Fは
F=σVB2 ・・・(5B)式
となる。制動力Fによって流体の流速を流速Vから流速ゼロに制動するに必要な制動距離を必要コア距離LCとすると、
C=E/F=(ρV)/(2σB2) ・・・(5C)式
となることが予想される。そこで、薄スラブ鋳造の鋳型内溶鋼プールと浸漬ノズルを模擬したモデル実験の装置を用いて、導電性流体としてSn−10%Pb合金の液体を用いてノズル吐出流周囲に直流磁場を印加する実験を行った。具体的には、図4の(C)に示すような、2孔の吐出孔3とスリット4を施した浸漬ノズル2と、図4の(A)に示すような、スリットを有しない通常の2孔の吐出孔の浸漬ノズル202とを用いて、かつ磁束密度B=0.35T、浸漬ノズル下端からコア下端までの距離L=0.06mの条件で、コア下端から0.2m下方位置での短辺近傍下降流速を調査した。短辺近傍下降流速は、超音波ドップラー流速計を用いて測定した。なお、測定は各条件について1分間行いその時間平均値を測定値とした。流速計は厚み中央で短辺の内壁から20mmの位置にセットした。液体の温度を220℃としており、液体の電気伝導度σ=2100000S/m、液体の密度ρ=7000kg/m3である。上記(5C)式で計算されるLC=0.018mであり、L≧LCである。2種類の浸漬ノズルについて、磁束の有無の影響を調査した結果を、図5に示す。なお、図5の縦軸の「短辺流速比」は、測定した短辺近傍下降流速を平均流速(平均流量をプール断面積で除した値)で除した値を示しており、短辺流速比が1であればコア下端近傍において下降流速が鋳型幅方向で均一となっていることを示している。図4の(C)に示すような浸漬ノズル2を用いることで、短辺下降流速が磁場を印加しない条件においても低減できることに加え、上記(5)式を満足するように磁場を印加した条件では流速比がほぼ1、すなわち図1のプラグフロー29が形成されていることが明らかである。上記結果を踏まえ、溶鋼の場合の磁束密度B、ノズル内平均流速Vと、必要コア距離LCとの関係について、図6に示す。
次に、鋳型内のメニスカスへの熱供給手段について説明する。
鋳型内の溶鋼プール中に直流磁場を付与し、この直流磁場中に浸漬ノズルからの吐出流が流れるに際し、流動溶鋼中に誘導起電力が発生し、流動溶鋼中に誘導電流が流れる。誘導電流は閉ループとなる必要があることから、流動溶鋼の外側の静止溶鋼に流れ、閉ループの電流を形成する。静止溶鋼中に流れる誘導電流と直流磁場との作用で静止溶鋼には吐出流と反対方向に力が働き、前述したジェットの端部ではジェットを制動するための誘導電流がその周囲を逆向きに加速し、吐出流と逆向きの流れが生まれる。この流れは一般的に対向流と呼ぶ。その対向流はノズル吐出流に沿って形成され、ノズル側面に到達するとノズル側面に沿って上方に流れる。
そこで、本発明者らは、対向流起因の上昇流をメニスカスへの熱供給手段として活用する技術思想に想到した。
まず、低融点合金実験を行い、対向流の観察を行った。前述した低融点合金実験の条件で、ノズル周囲の液面近傍の状況が、印加する磁場、ノズル内流速、浸漬ノズル内へのArガス吹き込み有無によってどのように変化するかを詳細に観察した。その結果、印加する磁束密度を上げていくとある条件で、ノズル周囲の側面(2孔ノズル直上)に上昇流(対向流)が観察された。また、Arガス吹込み(液体金属の10%の体積流量)を行った条件では対向流が顕著となった。特に下向きジェットとともに吹き込まれたAr気泡がそのままノズル周囲で浮上することと、対向流とともにAr気泡が浮上することによる。薄スラブ鋳造ではノズル内にArガスを吹き込まないため、液体金属の流動と磁場の相互作用による流動のみを考えればよい。なお、ノズル周囲に形成される対向流はメニスカスまで上昇し、その後、ノズルから短辺に向かって流れる。
そこで次に、実際の溶鋼の薄スラブ連続鋳造において、ノズルから短辺に向かう流れを対向流とし、その流速を測定した。測定においては、以下の溶鋼流速計を用いた。流速計はモリブデンサーメット棒を溶鋼中に浸漬し、その端部に張り付けられたひずみゲージにより、浸漬部に作用する慣性力を測定し、流速に換算する。なお、測定は各条件について1分間行いその時間平均値を測定値とした。流速測定箇所はノズル側面から50mmの位置でメニスカスから50mm深さまで上記流速計を浸漬し測定した。鋳型サイズは、鋳造幅は1.2m、鋳造厚さ(メニスカス部の短辺厚み)は0.15mである。浸漬ノズル内平均流速Vは1.0又は1.6m/sとした。磁場の磁束密度Bを0.1〜0.5Tの範囲で変化させ、Arガス吹き込みの有無の条件と対向流の流速Uとの関係について調査した。浸漬ノズル2として、ノズル内径(浸漬ノズル2の鉛直方向直管部の内径)D、2孔の吐出孔3(孔径d)とスリット4(スリット厚みδ)を有し、d/D=0.5、δ/D=0.2である浸漬ノズルを用いた。浸漬ノズル2における吐出流12と対向流13の関係模式図を図7に示す。測定結果を図8に示す。対向流13の流速Uは、ノズル内平均流速Vの平方根に比例し、磁束密度Bに比例して変化すること、さらに、Arガス吹き込みを行った条件では対向流速がより顕著となることがわかる。ノズル内径Dを変化させて実験した結果、対向流の流速Uは、ノズル内径Dの平方根に比例することが判明した。なお、浸漬ノズル2の直管部の内周が真円ではない場合(例えば、楕円形又は矩形)、同じ断面積の円相当径をもって浸漬ノズル内径Dとする。
これらの結果から、磁束密度B、ノズル内平均流速V、ノズル内径D、液体金属の密度ρ、電気伝導度σを用いて、対向流の流速Uが以下の(6A)式のaB√((σDV)/ρ)によって決まることがわかった。ここでaはパラメータであり、Ar吹き込みを行わない条件では0.1、Ar吹き込みを行う条件では0.5とすると実験結果とよく対応した。また、対向流の流速Uを0.1m/s以上とすることにより、対向流起因の上昇流をメニスカスへの熱供給手段として活用できることもわかった。
U=aB√((σDV)/ρ)≧0.1(m/s) ・・・(6A)式
Arガス吹き込みなし:a=0.1、Arガス吹き込みあり:a=0.5
ただし、D:浸漬ノズル内径(m)、ρ:溶融金属の密度(kg/m3)、σ:溶融金属の電気伝導度(S/m)である。
薄スラブ鋳造ではAr吹き込みを行わないので、(6A)式にa=0.1を代入した以下の(6)式を満足する磁束密度Bを印加することで、ノズル周囲に上昇流を形成することができる。これにより、メニスカスへの熱供給に加えて、ノズル吐出流上方に上昇流を形成することで介在物の浮上促進が期待される。対向流を形成するには強磁場印加が必要となるが、薄スラブ鋳造においては、鋳造厚みが薄いため、長辺鋳型を構成する銅板の背面に電磁石を設置する際、その磁極間距離が短くなるため、好ましい。なお、印加する磁場の磁束密度の最大値は1Tとする。
0.1×B√((σDV)/ρ)≧0.1(m/s) ・・・(6)式
ただし、D:浸漬ノズル内径(m)、ρ:溶融金属の密度(kg/m3)、σ:溶融金属の電気伝導度(S/m)である。
このように、ノズル吐出流の形状を制御し、かつ均一磁場中に前述したノズル吐出孔を配置し、鋳型内に溶鋼を供給することで、ノズル吐出流の制動と同時にジェット端部にのみ形成する対向流がノズル側面のみに形成されることで、メニスカスへの熱供給手段および介在物浮上促進手段として活用することができる。その結果、浸漬ノズル吐出流を最も制動効率が高いノズル吐出流とすることで、ノズル吐出流の制動を可能とし、ノズル吐出流の均一分散化による鋳型内下降流速の均一化、対向流を活用したメニスカスへの熱供給、介在物の浮上促進が可能となる。従って、表面、内部品位ともに優れた鋳片の鋳造が可能となる。
また、本発明者らは、ノズル吐出孔からの吐出流が浸漬ノズルの軸方向に対し略垂直方向(85°〜95°)となるように形成される場合に、対向流をより好適に発生させることができ、メニスカスへの熱供給手段及び介在物浮上促進手段として好ましいことも見出した。
以下、上述の知見に基づきなされた本発明の一実施形態に係る鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御装置(以下、本実施形態に係る鋳型内流動制御装置と呼ぶ場合がある)について説明する。
本実施形態に係る鋳型内流動制御装置は、メニスカス部の短辺厚みが150mm以下、鋳造幅が2m以下である薄スラブ鋳造に用いられる。メニスカス部の短辺厚みの下限は特に限定されるものではないが、100mm超であってもよい。
本実施形態に係る鋳型内流動制御装置は、直流磁場発生ユニット5と、浸漬ノズル2とを有する。
直流磁場発生ユニット5は、鋳型1の幅方向全幅において、鋳型1の厚み方向に向かう直流磁場を付与するコア6を有する。
浸漬ノズル2は、鋳型1の幅方向の両側面に形成された吐出孔3と、これらの吐出孔3の底部と連ねて外部に開口するように底部に形成されたスリット4とを有する。
浸漬ノズル2の吐出孔3及びスリット4は、直流磁場発生ユニット5のコア6が存在する高さ領域内である直流磁場帯に存在するように配置される。
本実施形態では、薄スラブ鋳造において、鋳造速度は3〜5m/分である。浸漬ノズル内径Dは100mm程度であるから、その場合、ノズル内平均流速Vは1.0m/s〜2.0m/sであって、通常1.5m/s程度である。溶鋼の電気伝導度σ=650000S/m、溶鋼の密度ρ=7200kg/m3であることから、前記(6)式を満たすためには、印加する直流磁場の磁束密度B(T)が0.35T以上となればよい。一方、磁束密度Bの上限は1.0T程度となる。即ち、下記(1)式を満たせばよい。また、磁束密度が下記(1)式の範囲内にある条件下において、浸漬ノズル下端からコア下端までの距離L(m)が0.06m以上であれば前記(5)式を満たすことができる。即ち、下記(2)式を満たせばよい。そのため、溶鋼を薄スラブに鋳造する場合の本発明に係る鋳型内流動制御装置は、以下の関係式を満足することになる。
0.35T≦B≦1.0T ・・・(1)式
L≧0.06m ・・・(2)式
次に、好ましい浸漬ノズルの形状について説明する。
ここで、スリット4の厚みδ、浸漬ノズル2内径D、2孔部(吐出孔3)の吐出孔径dと、吐出孔3及びスリット4からの吐出流12の流速の好ましい関係を調査するため、水モデル実験を行い検討した。側面の吐出孔3の形状は円形+スリットであり、円形部とスリット部合計の面積を求め、同じ断面積の円相当径を吐出孔径dとした。また、矩形の吐出孔の場合にも同じように取り扱えばよい。実験ではノズル吐出孔3、スリット4周囲の流動状況を観察するとともに、それぞれの吐出孔、スリット前面の流速測定を行った。2孔部(吐出孔3)前面の流速Vaとノズル下端のスリット4前面の流速Vbを測定した。浸漬ノズル2のノズル内径部分の水の平均流速をVとする。その結果、スリット厚みδおよび2孔部の吐出孔径dとノズル内径Dとの関係は以下の関係式を満足することで、平板状のジェットでかつ鋳型内全幅にわたって運動量を付与するノズル吐出流を安定して形成できる。
D/8≦δ≦D/3 ・・・(3)式
δ≦d≦2/3×D ・・・(4)式
具体的には、まず、スリット厚みδがノズル内径Dの1/8未満だとスリット部全体からの吐出流が十分には形成されなかった。一方、スリット厚みδがノズル内径Dの1/3を超えると、逆にスリット部からの流れが主となり、2孔部の孔径dによっては逆に吸い込みが発生し、ノズル吐出流がやや不安定となった。次に2孔部の吐出孔径については、平板状のジェットの両端部の流速はスリット部よりも速いほうが好ましいため、好ましい下限値はスリット厚みの下限値よりも大きくする必要がある。これは短辺部への運動量、熱供給の目的からである。一方、好ましい上限値については、ノズル内径Dの2/3を超えると、スリットを設けた条件では吸い込み流が発生し、ノズル吐出流が不安定化することがわかった。そこで、従って、上記関係式を満足することで平板状のジェットでかつ鋳型内全幅にわたって運動量を付与する好ましいノズル吐出流を形成することができる。
d/D=0.4で一定としつつスリット厚み比δ/Dを変化させ、Vb/Vの関係を図9にプロットした。また、δ/D=0.25で一定としつつ吐出孔径比d/Dを変化させ、Va/Vの関係を図10にプロットした。Vb/V、Va/Vのいずれも、0.8〜1.3の範囲内にあれば、均一な流れを安定して実現することができる。図9、10から明らかなように、上記(3)式、(4)式を満足することにより、Vb/V、Va/Vのいずれも、0.8〜1.3の範囲内とすることができるので好ましい。
前述のように、本実施形態に係る鋳型内流動制御装置では、対向流起因の上昇流をメニスカスへの熱供給手段として活用する。高速のノズル吐出流を強磁場で制動する際に浸漬ノズル側面に沿って対向流が形成される。この流動はノズル側壁に沿って上昇し、鋳型内の溶鋼表面では、図11の(A)に示すように、対向流13は浸漬ノズル2から短辺に向かう流れとなり、メニスカスでは放射状に広がる。前述のように、実際の溶鋼の薄スラブ連続鋳造において、ノズルから短辺に向かう流れを対向流とし、その流速を測定することができた。
一方、鋳型内表面の幅中央では、浸漬ノズル左右側面に沿って上昇した流動がぶつかるため、同じく図11の(A)に示すように、淀み点30を形成する。淀み点30は溶鋼温度が低下することや介在物捕捉の起点となるため好ましくない。
鋳型内溶鋼表面に溶鋼の旋回流を形成することができれば、淀み点30を解消できる可能性がある。しかし、前述のように、薄スラブ鋳造においては、一般的なスラブ連続鋳造において用いられる鋳型内電磁攪拌は使用されていなかった。そこで、さらにメニスカス部に旋回流を形成する方法について検討した。
本発明者らは、150mm以下の鋳片厚みの薄スラブ鋳造において、鋳型内溶鋼表面部で攪拌流16を形成するための条件について検討した。
そのためには、まず、電磁攪拌ユニット8によって形成される交流磁場の表皮深さを鋳型長辺壁17を構成する銅板の厚みDCuよりも大きくすることが重要である。この条件は下記(7A)式で規定される。すなわち、導体中での電磁場の表皮深さが銅板厚みDCuよりも大となることが重要である。
Cu<√(2/(σCuωμ)) ・・・(7A)式
従来、鋳片厚みTが150mm以下の薄スラブ鋳造においては、鋳型内で旋回流が形成するように電磁攪拌推力を付与しても、鋳型内溶鋼に旋回流を形成することができなかった。これに対して本発明者らは、対向する2枚の長辺壁17のそれぞれの背面に設置した電磁攪拌ユニットが鋳型内で形成する電磁場が互いに干渉しないように、電磁攪拌ユニットが溶鋼中で形成する電磁力の表皮深さが鋳片厚みTよりも小さくなるような周波数とすることで、湯面レベルにおいて旋回流が形成されることをはじめて見出した。この条件は(7B)式で規定される。この式は、電磁力の表皮深さと鋳片厚みTとの関係を示したものであり、電磁力の表皮深さは導体中の電磁場の表皮深さの1/2で規定される。これは、電磁力は電流密度×磁束密度となるが、電流密度、磁場の導体内部への侵入は√(2/(σωμ))で記述されるため、その積の電磁力の表皮深さは1/2×√(2/(σωμ))となり、√(1/(2σωμ))で記述されることによる。
√(1/(2σωμ))<T ・・・(7B)式
上記(7A)式、(7B)式において、ω=2πf:角速度(rad/sec)、μ:真空の透磁率(N/A2)、DCu:鋳型銅板厚み(mm)、T:鋳片厚み(mm)、f:周波数(Hz)、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)、σCu:銅板電気伝導度(S/m)である。
(7B)式で規定されるような高い周波数で電磁攪拌を行うことによりはじめて、鋳片厚みが150mm以下の薄スラブ鋳造において、鋳型内に十分な流速の旋回流を形成することが可能となった。従来の鋳型内電磁攪拌においては、鋳型銅板でのエネルギーロスを低減するため、低い周波数を用いることが一般的であった。尚、溶鋼の電気伝導度と銅板の電気伝導度は、市販の電気伝導率計(電気伝導度計)を用いて測定すればよい。
鋳型表皮深さと溶鋼電磁力表皮深さに及ぼす電磁攪拌周波数の影響の一例を図12に示す。鋳型1の長辺壁を構成する銅板の厚みDCuが25mmのとき、電磁攪拌周波数fを20Hzより小さくすれば、(7A)式を満足することができる。鋳型内鋳片厚みTが150mmのとき、電磁攪拌周波数fを5Hzより大きくすれば、(7B)式を満足することができる。
このように、薄スラブ鋳造において鋳型内に電磁撹拌ユニットを設置し、さらに電磁攪拌ユニットに印加する交流電流の周波数を適正化することで、鋳片厚みが150mm以下の薄スラブ鋳造においても湯面レベル近傍で旋回流が形成される。これにより、淀み点30の発生を解消し、溶鋼温度が低下することや介在物捕捉の起点となることを防止することができる。
本発明者らは上記のように、150mm以下の鋳片厚みの薄スラブ鋳造において、メニスカス部で攪拌流を形成するための条件を明らかにした。そして、鋳型銅板材質、厚みが異なる鋳型を幾つか製作するとともに、電磁攪拌ユニットに印加する交流電流の周波数が異なる条件で鋳造を行った。加えて、鋳造した鋳片の幅中央部について、幅方向中央部から凝固組織を調査し鋳片表面から内部に向けて成長しているデンドライトの傾き角、すなわち、長辺表面の垂線に対する角度を測定するとともに、非特許文献2に記載の岡野の式を用いて攪拌流速VRを求めた。さらに対向流13の流速Uとの関係について調査した。対向流13の流速Uは、前記(6A)式で求めることができる。
電磁攪拌のコイル電流を変化させ、条件をNo.1からNo.8まで種々設定し、電磁攪拌コイルの厚み方向中心(メニスカス下75mm位置)でのシェル厚3mmでのデンドライト傾角を測定した結果を図13の(A)に示した。条件No.2,3,4であれば、デンドライト傾角は0°を挟んでプラスマイナス変動しているのに対して、条件No.1,5,6,7,8であれば、ばらつきはあるものの少なくとも一方向に傾いていることがわかる。デンドライト傾角の平均値から岡野らの式を用いて凝固シェル前面の攪拌流速VRを求めプロットした結果を図13の(B)に示す。この実験では、(6A)式でa=0.1として求めた対向流13の流速Uは、いずれも0.15m/sであったが、条件1,5,6,7,8はいずれも、攪拌流速VRが対向流速Uと同等か、それ以上となっていた。以上の結果から、攪拌流速VRと対向流速Uとの関係については、下記(8)式の関係を満足することで、メニスカス部での旋回流形成が安定化し、好適な結果を得られることがわかった。
R≧U=0.1×B√((σDV)/ρ) ・・・(8)式
以上の結果を踏まえ、電磁攪拌ユニットに通電する交流電流の周波数fと鋳型銅板の電気伝導度σCu、長辺の銅板厚みDCu、及び鋳片厚みTとの間の関係が(7A)式,(7B)式を満足するとともに攪拌流速VRが対向流速Uと同等かそれ以上の条件、(8)式を満足することで、メニスカス部での旋回流形成が安定化した。
鋳型内の溶鋼表面に攪拌流を形成するための電磁攪拌ユニット8については、鋳造方向におけるコア厚さが100mm以上であれば好ましい。そして、メニスカス部14がコア上端から下端の範囲内に入るものとする。メニスカス部14は通常は鋳型上端から100mmの位置となるので、コアの上端が鋳型上端から100mm位置を含んでその位置から上方であればよい。コアの下端位置については、電磁攪拌ユニット8の下方に配置される直流磁場発生ユニット5に干渉しない位置として定まる。
[実施例1]
図1に示す鋳型内流動制御装置を有する薄スラブ連続鋳造設備を用いて低炭素鋼を連続鋳造した。鋳型1のサイズは、1200mm幅、150mm厚であり、矩形鋳型形状である。鋳型内における鋳造速度3m/分で鋳造した。図1の(A)は鋳型内辺15を含む水平断面の模式図、図1の(B)は縦断面の模式図である。浸漬ノズル2は、図2に示すように、浸漬ノズル2の鋳型幅方向11両側面に吐出孔3を有し、浸漬ノズル2の底部と2つの吐出孔3の底部を連ねて外部に開口するスリット4(スリット厚みδ)を有する。ノズル側面の吐出孔3の形状は円形+スリットであり、円形部とスリット部合計の面積と同じ断面積の円相当径を吐出孔径dとした。ここではノズル形状を変化して鋳造した。
図1に示すように、直流磁場発生ユニット5を設けた。直流磁場発生ユニット5のコア6は、鋳型内湯面レベル(メニスカス部14)から300mm下方を高さ方向中心として配置した。これにより、鋳型幅方向11に均一な磁束密度分布を有する直流磁場23であって、鋳片の厚み方向に向かう直流磁場23を印加することができる。鋳型内における溶融金属通過空間の直流磁場帯7に最大0.8Tの直流磁場23が印加できる。直流磁場発生ユニット5のコア6の存在する高さ領域が直流磁場帯7となる。この直流磁場発生ユニット5のコア6厚みが200mmのため、湯面レベル(メニスカス部14)から鋳造方向に200〜400mmの範囲内にわたってほぼ同じ磁束密度の直流磁場23を最大0.8T印加することができる。なお、鋳型内湯面レベルは鋳型銅板上端から一般的に100mm程度下方に位置される。
鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズル2の位置(浸漬ノズル2の下端とコア6下端の距離L)については、条件によって変え結果を比較した。浸漬ノズル2の下端がコア6下端より下方となる場合は、Lの値をマイナスとして表示した。
鋳造条件は、浸漬ノズル内径D(浸漬ノズルの垂直方向に向かう直管部の内径)を100mmとしたため、ノズル内平均流速Vは1.16m/sとなる。条件の選定ならびに結果の評価にあたり、溶鋼の電気伝導度σ=650000S/m 溶鋼の密度ρ=7200kg/m3とした。薄スラブ鋳造であって浸漬ノズル内へのArガス吹き込みは行わないので、(6A)式においてa=0.1とした(6)式を用いた。
鋳片の介在物個数については、鋳片表面の欠陥指数と鋳片内部の介在物指数の2種類で評価した。
鋳片表面の欠陥指数については、全幅×鋳造方向長さ200mmのサンプルを鋳片の上面、下面それぞれから切り出した。そして、全幅×長さ200mmの表面内における介在物を表面から1mmおきに厚み20mmまで研削した。そして、100μm以上の介在物個数を調査し、その個数総和を指数化したものを欠陥指数とした。スリットを設けない2孔ノズルを用いて電磁力を印加しない条件で鋳造を行った際の比較例(比較例No.8)の条件を10としてその比で表示し、欠陥指数6以下を必要条件とし、欠陥指数5以下が良好、6超を不良とした。
鋳片内部の介在物指数については、上面側1/4厚部の幅中央を挟んで左右1/4幅部、1/2幅部からサンプルを切り出し、介在物個数をスライム抽出法で調査した。スリットを設けない2孔ノズルを用いて電磁力を印加しない条件(比較例No.8)で鋳造した条件を10として、その比で示し、介在物指数6以下が必要条件とし、介在物指数5以下が良好、6超を不良とした。
また、鋳造中の湯面レベルの変動や地金張り等の湯面状態についても併せて調査した。
結果を表1に示す。本発明の鋳型内流動制御装置に規定する範囲を外れている数値(浸漬ノズル条件、磁束密度B、ノズル下コア距離L)に下線を付している。また、本発明の鋳型内流動制御方法に規定する(5)式を外れる場合は「必要コア距離LC」の数値に下線を付し、(6)式を外れる場合は「対向流速U」の数値に下線を付している。
Figure 2019235613
本発明の条件を満たす実験例ではいずれも良好な結果を示した。発明例No.4、5はスリット厚みδが本発明好適範囲から外れ、発明例No.6、7は吐出孔径が本発明好適範囲から外れ、いずれも鋳造性がやや不安定となったが、本発明の効果を発揮することができた。
比較例No.8は、本発明の効果を説明するための基準とした例で、上記したように、スリットを設けない2孔ノズルを用いて電磁力を印加しない条件なので、湯面変動が大きかった。比較例9は、比較例8に同じくスリットを設けない2孔ノズルを用いた以外は、磁束密度B、ノズル下コア距離Lのいずれも本発明に規定した要件を満たすようにした例であるが、湯面が不安定で所望する評価を得ることができなかった。
比較例10、比較例11、比較例12はいずれも、磁束密度が(1)式を下限に外れている。そのため、比較例10、11は、浸漬ノズル下端からコア下端までの距離(ノズル下コア距離)Lの要件に関し、(2)式は満足したが、流動制御方法の要件である(5)式は満足しないものであった。比較例No.12のノズル下コア距離は、(2)式、(5)式のいずれも確保できなかった。その結果、比較例10〜12のいずれも、ノズル吐出流の制動が不十分な結果となるとともに、対向流速Uも不十分であった。
比較例No.15では、浸漬ノズルの下端位置がコア上端の上方に外れた条件である。比較例No.16は浸漬ノズルの下端位置がコア下端の下方に外れた条件である。これらの条件においては、吐出孔及びスリットは、コアが存在する高さ領域である直流磁場帯に存在しなかったため、いずれも本発明の効果を発揮することができなかった。
[実施例2]
前記実施例1で採用した条件に加え、鋳片厚みT=150mmの鋳型内メニスカス部位に電磁攪拌ユニット8を配置し、鋳型内溶鋼に旋回流を形成することにより、メニスカス部で攪拌流16を形成し、効果を確認した。そのために、鋳型銅板材質、鋳型銅板厚みDCuは表2に示す条件とし、電磁攪拌ユニットに通電する交流磁場の周波数fを表2のように変化させた条件で通電し鋳造した。(7A)式の右辺を「鋳型表皮深さ」、(7B)式の左辺を「溶鋼電磁力表皮深さ」として表2に示した。
浸漬ノズル2、直流磁場発生ユニット5の条件は、表1の発明例13の条件を採用した。浸漬ノズル内径D=100mm、スリット厚みδ=23mm、2孔ノズルの吐出孔径d=65mm、直流磁場発生ユニットで形成する磁束密度B=0.4Tとした。(6A)式にa=0.1を代入して算出した対向流速U=0.12m/sとなった。
上記条件で鋳造された鋳片のC断面凝固組織を採取し、幅中央部のシェル厚3mmでのデンドライト傾角を測定し、その傾角から岡野らの式を用いて攪拌流速VRを推定した。その結果を表2に示した。
鋳片表面の欠陥指数については、全幅×鋳造方向長さ200mmのサンプルを鋳片の上面、下面それぞれから切り出し、全幅×長さ200mmの表面内における介在物を表面から1mmおきに厚み20mmまで研削し、100μm以上の介在物個数を調査し、その個数総和を指数化したものを欠陥指数とした。2孔ノズルを用いて電磁力を印加しない条件で鋳造を行った条件(表1の比較例No.8)を10としてその比で表示し、介在物指数5以下が良好、それ以上を不良とした。
鋳片内部の介在物指数については、上面側1/4厚部の幅中央を挟んで左右1/4幅部、1/2幅部からサンプルを切り出し、介在物個数をスライム抽出法で調査した。2孔ノズルを用いて電磁力を印加しない条件で鋳造した条件(表1の比較例No.8)を10として、その比で示し、介在物指数5以下が良好、それ以上を不良とした。また、鋳造中の湯面レベルの変動や流動状態についても併せて調査した。
表2の発明例No.A0は鋳型内電磁攪拌を行っていない条件であり、表1の発明例No.13に対応する。
Figure 2019235613
その結果、鋳型内電磁攪拌を行った発明例No.A1〜A5のいずれも、良好な結果を得ることができた。中でも発明例No.A2は、鋳型表皮深さ((7A)式右辺)が鋳型銅板厚みDCuよりも大きく、かつ、溶鋼電磁力表皮深さ((7B)式左辺)が鋳片厚みT=0.15mよりも小さくするような周波数fとし、さらに攪拌流速VRが対向流速Uより大とすることで、湯面レベルにおいて効率よく旋回流が形成しており、欠陥指数、介在物指数のいずれも、最も良好な結果を得ることができた。
以上述べたように、薄スラブ鋳造においても、浸漬ノズル吐出流を最も制動効率が高いノズル吐出流とすることで、ノズル吐出流の制動を可能とし、ノズル吐出流の均一分散化とメニスカスへの熱供給が可能となる。さらに、メニスカス近傍において旋回流を付与することで幅中央部での淀むことなく旋回流が付与することができる。その結果、表面、内部品位ともに優れた鋳片の鋳造が可能となる。すなわち、高スループットの条件では鋳型内流動を安定的に制御することができ、薄スラブ鋳造プロセスの生産性が飛躍的に改善される。
本発明によれば、表面、内部品位ともに優れた鋳片の鋳造が可能となる。
1 鋳型
2 浸漬ノズル
3 吐出孔
4 スリット
5 直流磁場発生ユニット
6 コア
7 直流磁場帯
8 電磁攪拌ユニット
11 鋳型幅方向
12 吐出流
13 対向流
14 メニスカス部
15 鋳型内辺
16 攪拌流
17 鋳型長辺壁
21 導電体
22 耐火物
23 直流磁場
24 溶鋼流
25 誘導起電力
26 誘導電流
27 制動力
28 リターンパス
29 プラグフロー

Claims (9)

  1. メニスカス部の短辺厚みが150mm以下、鋳造幅が2m以下の鋼の薄スラブ鋳造に用いる鋳型内流動制御装置であって、
    鋳型幅方向の全幅において、鋳型厚み方向に向かう直流磁場を付与するコアを有する直流磁場発生ユニットと、
    前記鋳型幅方向の両側面に形成された吐出孔と、これらの吐出孔の底部と連ねて外部に開口するように底部に形成されたスリットとを有する浸漬ノズルと、
    を備え、
    前記吐出孔及び前記スリットは、前記直流磁場発生ユニットの前記コアが存在する高さ領域である直流磁場帯に存在し、
    前記直流磁場帯の磁束密度B(T)と、前記浸漬ノズルの下端から前記コアの下端までの距離L(m)とが、下記(1)式及び(2)式を満足する
    ことを特徴とする鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御装置。
    0.35T≦B≦1.0T ・・・(1)式
    L≧0.06m ・・・(2)式
  2. 前記浸漬ノズルの側面に開口する部分の合計断面積と同じ断面積の円相当径である前記吐出孔の吐出孔径d(mm)、前記スリットのスリット厚みδ(mm)、及び、前記浸漬ノズルの内径D(mm)が、下記(3)式及び(4)式を満足する
    ことを特徴とする請求項1に記載の鋳型内流動制御装置。
    D/8≦δ≦D/3 ・・・(3)式
    δ≦d≦2/3×D ・・・(4)式
  3. 前記吐出孔は、吐出流が前記浸漬ノズルの軸方向に対し垂直方向となるように形成されている
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳型内流動制御装置。
  4. さらに、鋳型内の溶鋼表面で旋回流を付与することのできる電磁攪拌ユニットを有する
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳型内流動制御装置。
  5. 前記鋳型の長辺壁を構成する銅板の厚みDCu(mm)、鋳片の厚みT(mm)、前記電磁攪拌ユニットの周波数f(Hz)、前記銅板の電気伝導度σCu(S/m)が下記(7A)式、(7B)式を満足するように調整される
    ことを特徴とする請求項4に記載の鋳型内流動制御装置。
    Cu<√(2/(σCuωμ)) ・・・(7A)式
    √(1/(2σωμ))<T ・・・(7B)式
    ただし、ω=2πf:角速度(rad/sec)、μ=4π×10-7:真空の透磁率(N/A2)、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)である。
  6. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳型内流動制御装置を用いた薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御方法であって、
    浸漬ノズル内平均流速V(m/s)に対して、印加する直流磁場の磁束密度B(T)及び前記浸漬ノズルの下端から前記コアの下端までの距離L(m)が下記(5)式及び(6)式を満足する
    ことを特徴とする鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御方法。
    L≧LC=(ρV)/(2σB2) ・・・(5)式
    0.1×B√((σDV)/ρ)≧0.1(m/s) ・・・(6)式
    ただし、D:浸漬ノズル内径(m)、ρ:溶融金属の密度(kg/m3)、σ:溶融金属の電気伝導度(S/m)である。
  7. 請求項4又は請求項5に記載の鋳型内流動制御装置を用いた薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御方法であって、
    浸漬ノズル内平均流速V(m/s)に対して、印加する直流磁場の磁束密度B(T)及び前記浸漬ノズルの下端から前記コアの下端までの距離L(m)が下記(5)式、(6)式を満足することを特徴とする鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御方法。
    L≧LC=(ρV)/(2σB2) ・・・(5)式
    0.1×B√((σDV)/ρ)≧0.1(m/s) ・・・(6)式
    ただし、D:浸漬ノズル内径(m)、ρ:溶融金属の密度(kg/m3)、σ:溶融金属の電気伝導度(S/m)である。
  8. 鋳型長辺の銅板厚みDCu(mm)、鋳片厚みT(mm)、前記電磁攪拌ユニットの周波数f(Hz)、銅板電気伝導度σCu(S/m)が下記(7A)式、(7B)式を満足するように調整される
    ことを特徴とする請求項7に記載の鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御方法。
    Cu<√(2/(σCuωμ)) ・・・(7A)式
    √(1/(2σωμ))<T ・・・(7B)式
    ただし、ω=2πf:角速度(rad/sec)、μ=4π×10-7:真空の透磁率(N/A2)、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)である。
  9. 鋳型内溶鋼表面の溶鋼攪拌流速VR(m/s)が、下記(8)式を満たす
    ことを特徴とする請求項8に記載の鋼の薄スラブ鋳造における鋳型内流動制御方法。
    R≧0.1×B√((σDV)/ρ) ・・・(8)式
    ただし、溶鋼攪拌流速VR(m/s)は鋳片断面のデンドライト傾角に基づいて定める。
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