JPWO2019139100A1 - 圧電体膜の製造方法 - Google Patents

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Abstract

水熱合成法を用いて、厚膜化でき、生産性に優れたニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜の製造方法と、その配向膜を用いた圧電体及び機能性装置を提供する。反応容器内において、水酸化アルカリと、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とを含む水含有溶媒中に、基体を浸漬し、加熱及び加圧して、基体上にペロブスカイト系の結晶構造を有するニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を堆積すること、ニオブ/タンタル系酸化物は、平均組成式(Nb1−xTa(式中、0≦x≦1である。)で表される酸化ニオブ、酸化タンタルの単体、固溶体またはそれらの混合物であり、それらは水和物でもよく、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、式A(Nb1−xTa)O(式中、Aはアルカリ金属の1種または2種以上であり、2種以上のアルカリ金属の割合は任意であり、0≦x≦1である。)で表されるニオブ/タンタル酸アルカリを含む結晶である。

Description

本発明は、圧電体膜の製造方法、とりわけニオブ/タンタル酸アルカリ系の圧電体膜の水熱合成法による製造方法に関する。
圧電体はアクチュエータ素子、圧力センサ、超音波振動子などに広く利用されるほか、最近では振動発電デバイスへの応用にも注目が集まっている。現在使用されている圧電体としてはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系が主流であるが、環境負荷の観点から非鉛系の圧電体が模索されており、様々の非鉛系圧電体のうち、ペロブスカイト構造を有するニオブ/タンタル酸アルカリ系圧電体は、優れた圧電特性、機械結合性及び高いキュリー温度を有していることから、上記応用の有力な候補である。
また、従来の圧電体膜は、主に化学気相堆積法、スパッタリング法などの気相プロセスや、ゾルゲル法などの液相プロセスによって製膜されているが、いずれも500℃以上1000℃近くまでの高温製膜あるいはプロセス温度(ゾルゲル法では非結晶相を結晶化するプロセス)が必要である。そのため、ニオブ/タンタル酸アルカリ系圧電体では、蒸気圧の高いKやNaが揮発するなどのため、組成ずれを生じるという問題がある。これに対して、水熱合成法を用いるとニオブ/タンタル酸アルカリ系圧電体を300℃以下の低いプロセス温度で製膜でき、KやNaの蒸発はほとんど起きず、定比組成の膜を安定して得られる利点がある(特許文献1、非特許文献1)。
特開2012-106902号公報
舟窪他「水熱合成法の特徴を活かした非鉛圧電体膜の作製と応用」(Ceramic Data Book 2013 Vol. 41, 118-121)
従来の水熱合成法によるニオブ/タンタル酸アルカリ系圧電体膜は、密閉容器(オートクレーブ)内で作製されるが、一回のバッチ処理で製膜できる膜厚は数μm程度が限界であり、生産性が劣るので、圧電体膜の厚膜化に問題があった。また、従来の水熱合成法による圧電膜は配向性が低いという問題もあった。
そこで、本発明は、上記の利点を有する低温製膜できる水熱合成法を用いる方法において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系圧電体膜の厚膜化を可能にするニオブ/タンタル酸アルカリ系圧電体膜の製造方法を提供すること、並びに厚膜のニオブ/タンタル酸アルカリ系圧電又は焦電体膜及びそれを利用した圧電又は焦電素子及び機能性装置を提供することを目的とする。
本発明は、上記目的を達成するために鋭意努力した結果、反応容器内において、水酸化アルカリと、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とを含む水含有溶媒中に、基体を浸漬し、加熱及び加圧して、基体上にペロブスカイト系の結晶構造を有するニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を堆積することで、上記目的を達成できることを見出して、完成されたものである。以下に本発明の好ましい態様の例を限定の意図なく記載する。これらの態様を任意に組み合わせることができることは明らかである。特に、請求の範囲に記載した態様の組合せは好ましい。
本発明の第一の側面によれば、反応容器内において、水酸化アルカリと、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とを含む水含有溶媒中に、基体を浸漬し、加熱及び加圧して、前記基体上にペロブスカイト系の結晶構造を有するニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を堆積すること、前記ニオブ/タンタル系酸化物は、平均組成式(Nb1−xTa(式中、0≦x≦1である。)で表される酸化ニオブ、酸化タンタルの単体、固溶体またはそれらの混合物であり、それらは水和物でもよく、前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、式A(Nb1−xTa)O(式中、Aはアルカリ金属の1種または2種以上であり、2種以上のアルカリ金属の割合は任意であり、0≦x≦1である。)で表されるニオブ/タンタル酸アルカリを含む結晶であることを特徴とする、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法が提供される。
上記のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法によれば、従来より厚膜のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜の商業的な製造が可能にされる。また、以下に開示されるようにニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜の配向性を高めることも可能である。本発明の第二の側面によれば、60μm以上、好ましくは70μm以上(前記式中のA=Kの場合、さらにはAの96モル%以上がカリウムである場合は、110μm以上、好ましくは140μm以上)からmmオーダーまでの膜厚を有するニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜及びそれを利用した新規な圧電又は焦電素子及び機能性装置が提供される。本発明は、ニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜の厚膜化におけるブレイクスルーを成すものである。
以下に本発明の第一の側面(以下では、単に本発明ともいう。)の代表的な実施態様あるいは好ましい実施態様のいくつかを例示すると、本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法は、バッチ処理を繰り返してもよいが、1回のバッチ処理で堆積されるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の膜厚は、1μm以上、3μm以上、10μm以上、15μm以上、さらに20μm以上であることができる。反応装置を大型化するなどの工夫をすれば、この膜厚はさらに厚くすることが可能である。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を堆積し、得られるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の膜厚が3μm以上、10μm以上、20μm以上、さらにそれ以上であることができる。特に、本発明の製造方法で得られるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、好ましくは60μm以上、70μm以上、100μm以上、140μm以上、150μm以上、200μm以上、300μm以上であることができ、さらには1mm以上あるいは2mm以上のmmオーダーであってよい。ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の膜厚の上限は用途及び経済性によって決めればよいが、例えば、数mm以下、1mm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下でもよい。1つの好ましい態様において、得られるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の膜厚が60μm以上であり、前記式A(Nb1−xTa)O中のA=Kの場合、さらにAの96モル%以上がカリウムである場合は110μm以上であることが好ましい。別の1つの好ましい態様において、得られるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の膜厚が70μm以上であり、前記式A(Nb1−xTa)O中のA=Kの場合、さらにAの96モル%以上がカリウムである場合は140μm以上であることが好ましい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、基体は平面及び/又は曲面を含む表面を有してよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、基体上に堆積するニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の量が、消費されるニオブ/タンタル系酸化物の1モルを基準として4ミリモル以上、又は消費されるニオブ/タンタル系酸化物の0.5質量%以上であることができる。さらには4.0質量%以上、20質量%以上であってよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、水酸化アルカリと非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とのモル比は、例えば、1:1.0×10−4〜1:1.0×10、さらには1:1.0×10−2〜1:1.0×10であってよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、水酸化アルカリが、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウム及び/又は水酸化リチウム、特に水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムであってよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、原料に水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムを含む場合、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムとの合計に対する水酸化カリウムのモル比([KOH]/([KOH]+[NaOH]))が、0.0〜1.0、さらには0.6〜1.0あるいは0.75〜1.0であってよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムと水酸化リチウムとの合計に対する水酸化リチウムのモル比([LiOH]/([KOH]+[NaOH]+[LiOH])が、0〜0.1であってよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、水含有溶媒あるいは水中の水酸化アルカリの濃度は、例えば、0.1〜30モル/L、さらには0.1〜20モル/Lであってよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、基体がペロブスカイト系の結晶構造を有してよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、基体が、半導体、金属、プラスチック、セラミックスから選ばれる材料からなり、表面にペロブスカイト系の結晶構造のバッファ層を有する基体であってよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、基体が導電性基体であってよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、CaO、CuO、MnO、Sb、BaO、ZrO及びTiO2から選ばれる酸化物をさらに含むことができる。これらの酸化物はニオブ/タンタル酸アルカリに固溶できる酸化物であり、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜において固溶体であってよいが、混合物をなしていてよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、反応容器が密封容器であり、反応容器内の温度を50〜300℃の温度に加熱してよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、反応容器が密封容器であり、反応容器内をマイクロ波を用いて加熱してよい。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が一軸配向又はエピタキシャル配向した結晶を含むことができる。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が自己分極(分極処理なしで分極方向が揃っている)していることができる。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を、水中から取り出した後、100〜750℃の温度でアニールすることができる。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が圧電体膜であることができる。
本発明の第二の側面では、上記の製造方法で製造される一軸配向又はエピタキシャル配向したニオブ/タンタル酸アルカリ系膜であってよい。
また、本発明の第二側面では、A(Nb1−xTa)O(式中、Aはアルカリ金属の1種または2種以上であり、2種以上のアルカリ金属の割合は任意であり、0≦x≦1である。)で表され、一軸配向又はエピタキシャル配向した結晶を含むニオブ/タンタル酸アルカリ系膜であって、前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が、60μm以上、好ましくは70μm以上(ただし、A=Kの場合、さらにはAの96モル%以上がカリウムである場合は、110μm以上、好ましくは140μm以上)の厚さを有するか及び/又は曲面を含む基体上に形成されていることを特徴とするニオブ/タンタル酸アルカリ系膜であってよい。
本発明の第二の側面(以下、単に本発明ともいう。)のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が自己分極(分極処理なしで分極方向が揃っている)していることができる。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜がペロブスカイト系の結晶構造を有する基体上に形成されていることができる。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜において、基体がニオブ/タンタル酸アルカリ系膜と接する導電性表面を有することができる。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜において、基体が半導体、金属、プラスチック、セラミックスから選ばれる材料を含み、その材料とニオブ/タンタル酸アルカリ系膜との間にペロブスカイト構造のバッファ層を有する基体であることができる。
また、本発明の第二側面では、圧電特性を利用する機能性装置であって、圧電素子が上記のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜と電極とを含む圧電素子を含み、機能性装置が、医療用超音波プローブ、超音波トランスミッタ、超音波センサ、焦電発電装置、振動発電装置、アクチュエータから選ばれることを特徴とする機能性装置であってよい。
本発明の機能性装置は、2〜100MHzの超音波を発信又は受信できる超音波プローブ用トランスデューサを含むことができる。
本発明の機能性装置は、超音波プローブ用トランスデューサを用いて、皮膚の表面下深度20mm以内の領域を画像診断することができる超音波造影装置であることができる。
本発明の機能性装置は、超音波プローブ用トランスデューサを用いて、人体の組織に対して医療的処置を行うことができる医療用装置であることができる。
本発明の機能性装置は、200Hz以下の共振周波数において1μW・G−2・mm−3以上の出力電力密度を有する発電装置であることができる。
本発明の第一の側面及び第二の側面において、上記の各態様は任意に組み合わせられることが理解されるべきである(請求の範囲の記載が参照される)。
本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法によれば、水熱合成法を用いて、従来得られていたニオブ/タンタル酸アルカリ系膜と同等の結晶性及び圧電特性を有するニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を製膜し、従来の出発原料から製膜できる膜厚と比べて、同様の製造条件において、得られる膜厚を増加させ、析出効率を向上することができる。また、得られるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の配向性を向上させることもできる。
また、本発明によれば、従来提供されていない膜厚のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜が提供される。さらに、従来と比べて低周波数、高出力の圧電又は焦電素子など、その圧電又は焦電特性を利用して新しい用途(例えば、人体の皮膚表面近傍の画像診断などの医療用途)のための機能性装置が提供される。
図1は、本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法に用いる反応装置の例の模式断面図である。 図2は、模式的な圧電体素子10を示す横断面図である。 図3は、超音波プローブ1の例を模式的に示す。 図4は、焦電発電装置10の例を模式的に示す。 図5(a)(b)は、実施例及び比較例で用いた原料の非晶質Nb2O5及び結晶Nb2O5のX線回折チャートである。 図6は、実施例1及び比較例1で得られたKNN膜のX線回折チャートである。(a)及び(b)は実施例1及び比較例1それぞれの膜厚10μm及び5μmのKNN膜、(c)及び(d)は実施例及び比較例で同じ膜厚2μmのKNN膜についてのX線回折チャートである。 図7(a)(b)は、実施例1〜2及び比較例1〜2で得られたKNN膜の膜厚と反応時間との関係を示すグラフである。 図8は、実施例1及び比較例1で得られたKNN膜の微細構造を観察したSEM写真である。(a)及び(b)は比較例1で得られた膜厚2μm及び5μmのKNN膜、(c)及び(d)は実施例1で得られた膜厚2μm及び10μmのKNN膜である。 図9は、実施例1及び比較例1で得られたKNN膜の微細構造(平面)及び膜厚(横断面)を観察したSEM写真である。(a)及び(b)は比較例1で得られた膜厚5μmのKNN膜、(c)及び(d)は実施例1で得られた膜厚10μmのKNN膜であり、(a)及び(c)は微細構造(平面)、(b)及び(d)は膜厚(横断面)を観察している。 図10は、実施例及び比較例で得られたKNN膜における原料のアルカリ比とKNN膜のアルカル比との対応関係を示すグラフである。 図11は、実施例及び比較例で得られたKNN膜における原料のアルカリ比とKNN膜の膜厚との対応関係を示すグラフである。 図12は、実施例8で得られたKNN膜のSEM断面写真を示す。 図13は、実施例1〜2及び比較例1〜2で得られたKNN膜の膜厚と反応時間との関係を示す別のグラフである。(a)は、アルカリ濃度7mol/Lの実施例1及び比較例1で得られたKNN膜、(b)は、アルカリ濃度6mol/Lの実施例2及び比較例2で得られたKNN膜である。 図14は、実施例及び比較例の圧電素子の比誘電率及び誘電損失を示すグラフである。 図15は、実施例及び比較例の圧電素子の誘電分極ヒステリシス曲線を示すグラフである。 図16は、実施例及び比較例の圧電素子の電界誘起歪を示すグラフである。 図17は、KNN膜の堆積後(as depo.)膜と600℃熱処理膜について発電特性とx=K/(K+Na)比との関係を示す。 図18は、実施例及び比較例の圧電素子におけるアニール温度と誘電分極ヒステリシス曲線との関係を示すグラフである。(a)は堆積後、(b)〜(e)はアニール温度が異なる。 図19は、実施例及び比較例の圧電素子におけるアニール温度と電界誘起歪特性との関係を示すグラフである。(a)は堆積後、(b)〜(e)はアニール温度が異なる。 図20(a)(b)は、それぞれ比較例及び実施例の圧電素子におけるアニール温度と比誘電率及び誘電損失との関係を示すグラフである。 図21は、実施例14で得られたKNN膜の膜厚を結晶質酸化ニオブを用いた場合と比較して示す。 図22(a)(b)は、結晶質酸化タンタルのX線回折チャート及びSEM写真、図22(c)(d)は、実施例16で得られた非晶質酸化タンタルのX線回折チャート及びSEM写真を示す。 図23(a)は、実施例18及び比較例11で得られたKNN膜のX線回析チャートを示し、図23(b)は、実施例1及び比較例1で得られたKNN膜のX線回析チャートを示す。 図24は、実施例19で得られたKNN膜のX線回析結果を示す。 図25は、実施例20で得られたKNNT配向膜のNb/(Nb+Ta)比及びK/(K+Na)比を示す。 図26は、実施例22で得られたKNLNT膜の圧電特性を示す。 図27は、as depo.のKNN膜と600℃で熱処理したKNN膜を用いた圧電素子のP-Eヒステリシス曲線と、電界に対するe31,fを示す。 図28は、as depo.のKNN膜と600℃で熱処理したKNN膜を用いた圧電素子の分極処理電界に対するe31,fを示す。 図29は、KNN膜のe31,fの膜厚との関係を示す。 図30は、as depo.のKNN膜と600℃で熱処理したKNN膜を用いた圧電素子のAFM(d33)を示す。 図31の上図は、熱処理温度を変えたときのP-Eヒステリシス曲線のシフト量の変化を示す。as depo.のKNN膜から熱処理温度が上昇するに従い、シフト量が減少している。図31の下図は、膜中の水の量とP-Eヒステリシス曲線のシフト量との関係を示す。 図32は、格子内OH-の量と(a)製膜温度及び(b)水含有溶媒との関係を示す。 図34は、実施例26で観測された発電特性の変化と、圧電素子の基礎特性から計算される出力電力の変化(破線)を示す。 図34は、マイクロ波加熱可能な反応装置を模式的に示す。
(ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法)
本発明の第一の側面は、反応容器内において、水酸化アルカリと、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とを含む水含有溶媒中に、基体を浸漬し、加熱及び加圧して、基体上にペロブスカイト系の結晶構造を有するニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を堆積すること、前記ニオブ/タンタル系酸化物は、平均組成式(Nb1−xTa(式中、0≦x≦1である。)で表される酸化ニオブ、酸化タンタルの単体、固溶体またはそれらの混合物であり、それらは水和物でもよく、前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、A(Nb1−xTa)O(式中、Aはアルカリ金属の1種または2種以上であり、2種以上のアルカリ金属の割合は任意であり、0≦x≦1である。)で表されるニオブ/タンタル酸アルカリを含む結晶であることを特徴とするニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法にある。
図1に、本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法に用いる反応装置の例の断面を模式的に示す。図1において、密閉式の反応容器1内には水含有溶媒、ここでは水2が収容され、水2の中には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリが溶解されているとともに、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物3がこの例では粉末として添加されている。また、反応容器1には上方から基体4が懸下されて、水(アルカリ水溶液)2に浸漬されている。
図1に示す反応装置において、密閉式の反応容器1を加熱すると、反応容器1の内部は加熱されると加圧状態になり、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物のアルカリ水溶液2への溶解度が増加して、次第にアルカリ水溶液2に溶解するとともに、不均一反応により、基体4の表面にニオブ/タンタル酸アルカリの不均一核が生成し、さらにその上へのニオブ/タンタル酸アルカリの堆積が進んで基体4の表面にニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が形成される。
本発明において、反応容器は、水含有溶媒と、その水含有溶媒中に水酸化アルカリと非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とを含み、反応容器内部を加熱及び加圧できる密閉式の容器であるが、オートクレーブと呼ばれる容器であることができる。反応容器は、また、容器内の水含有溶媒中に1又は複数の基体を浸漬できる構造を有するが、基体の保持方法は限定されず、例えば、容器の蓋に設置された取付具5に取り付けられる構造であることができる。水含有溶媒中に浸漬される基体4の方向などは縦、横など適宜設定することができる。
本発明で用いる水含有溶媒は、水を含む溶媒であり、水のほか、水と有機溶媒との混合溶媒であってよいが、特にイオン交換水が好ましい。水と混合して用いる有機溶媒としては、アルコール、ケトン、カルボン酸,エーテルなど水と溶解性あるいは混和性のある有機溶媒が好ましい。溶媒中の水含有量を少なくすることで、水熱合成において生成物中の最も懸念される不純物である格子内OHイオンの量を低減することができる。また、水含有溶媒を用い、溶媒中の水の濃度を変えることで、生成するニオブ/タンタル酸アルカリ系膜に取り込まれる水(OHイオン)の量を変えることができ、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の自己分極の程度を制御できる。なお、取り込まれる水(OH)の量は、製膜温度を高くして、低減すること、制御することができる。
本発明で用いる水酸化アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウムのいずれでもよいが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムのいずれか1種以上、特に水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合物、及び水酸化ナトリウムと水酸化カリウムと水酸化リチウムの混合物が好ましい。水酸化アルカリとして水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの両方を含むと、圧電特性の向上、絶縁性の向上、析出速度の向上で好ましい。
水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウム及び/又は水酸化リチウムを用いる場合、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの合計に対する水酸化カリウムのモル比([KOH]/([KOH]+[NaOH]))は、0.0〜1.0の全範囲であることができる。図10に示されるように、この原料のアルカリモル比と生成物のアルカリモル比とは、正比例関係ではなく、特定の範囲で生成物のアルカリモル比が急激に増加する特異な比例関係を示すが、原料のアルカリモル比の全範囲において生成物のアルカリモル比が単調増加する関係にある。しかし、図11に示されるように、原料の上記アルカリモル比の0.0〜1.0の全範囲において、本発明による膜厚の増加を観察することができた。
原料の水酸化ナトリウムと水酸化カリウムのモル比([KOH]/([KOH]+[NaOH]))は、0.6〜1.0の範囲、さらには0.75〜1.0の範囲であることは好ましい。これらの好ましい範囲において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製膜厚さが特に大きいことが可能である(図10参照)。また、原料の上記アルカリモル比が、例えば、0.0〜1.0の範囲、さらには0.6〜1.0、特に0.75〜0.95の範囲であると、薄膜をセンサ・アクチュエータの用途に用いる上で好ましい。水酸化ナトリウムと水酸化カリウムと水酸化リチウムの混合物においても、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムのモル比([KOH]/([KOH]+[NaOH]))は、0.6〜1.0の範囲、さらには0.75〜1.0の範囲であることが好ましい。
水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウム及び/又は水酸化リチウムを用いる場合、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムと水酸化リチウムの合計に対する水酸化リチウムのモル比([LiOH]/([KOH]+[NaOH]+[LiOH]))は、例えば0〜0.5、さらには0〜0.1、0〜0.05、0〜0.03であってよい。
本発明で用いる水中の水酸化アルカリの濃度は、0.1〜30モル/L、0.1〜20モル/L、1〜10モル/L、特に3〜8モル/Lであってよく、これらの範囲の上限値及び下限値は独立して組み合わせてもよい。水酸化アルカリの濃度がこれらの範囲内であると、ニオブ/タンタル系酸化物との反応性が高くなり、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の核生成及び堆積速度が高く、また膜厚も大きくできると考えられる。
本発明において、水酸化アルカリは反応(加熱・加圧)時に反応容器内の水(以下の記載では、水は水含有溶媒であってもよい。)に溶解していればよく、反応容器に注入する水に予め溶解させてもよいし、反応容器に収容されている水に添加して溶解させてもよいし、その組合せでもよい。
本発明の第一の側面で用いる非晶質ニオブ/タンタル系酸化物は、平均組成式が(Nb1−xTa(式中、0≦x≦1である。)で表される酸化物の単体、固溶体またはそれらの混合物をいうが、これらは水和物でもよい。
本発明の第一の側面で用いるニオブ/タンタル系酸化物は、結晶質ではなく、非晶質であることを特徴とする。本発明では、従来の結晶質のニオブ/タンタル系酸化物ではなく、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物を用いると、理由は不明であるが、驚くべきことに、結晶質を用いた場合と比べて、その他は同じ条件において基体上に堆積できるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の膜厚及び析出効率が、顕著に向上することを見出した(実施例参照)。ただし、本発明の製造方法において、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とともに結晶質ニオブ/タンタル系酸化物を用いることは必要ではないが、排除されない。
ニオブ/タンタル系酸化物が非晶質であることは、X線回析によりニオブ/タンタル系酸化物の特性ピークが認められないことによって確認される。ニオブ/タンタル系酸化物の特性ピークが認められないとは、粉末X線回折測定結果より明確なピークが存在せずにハローが存在することをいう(図5参照)。
非晶質ニオブ/タンタル系酸化物は、例えば、N. Kumada et al., “Hydrothermal synthesis of NaNbO3--morphology change by starting compounds--, Journal of the Chemical Society of Japan 119(6)483-485 2011に記載されている製造方法によって製造できる。すなわち、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物は、容器内で酸化ニオブ/タンタルに炭酸カリウムなどのアルカリを加え加熱して溶融させる。それらを冷却させた後、得られる(白色)粉末または塊を純水に溶かす。溶解しないものをろ紙で取り除き、ろ液にHNO3などの酸の水溶液を加え、(白色)粉末を沈殿させる。これらの沈殿した粉末をろ過し、蒸留水で洗浄した後、乾燥させる。この方法で合成した非晶質ニオブ/タンタル系酸化物は水和物であるが、乾燥機を用いて例えば200℃、24時間放置すると、得られた粉末は非水和物になる(X線回析による確認のほか、熱重量分析との減量と一致も確認される)。
非晶質ニオブ/タンタル系酸化物の固溶体を作製する場合、原料として用いる結晶質のニオブ/タンタル系酸化物は、融解させるので、固溶体である必要はなく、酸化ニオブと酸化タンタルの混合物でよい。
また、反応容器内に添加する非晶質ニオブ/タンタル系酸化物は、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の意図する組成を実現するための平均組成を満たす限り、固溶体と混合物とで相違はない。原料組成の制御という観点からは酸化ニオブと酸化タンタルとの混合物は好ましく用いられる。
本発明において非晶質ニオブ/タンタル系酸化物の添加量は、水酸化アルカリと非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とのモル比が、1:1.0×10−4〜1:1.0×10、さらには1:1.0×10−2〜1:1.0×10となる量であってよい。非晶質ニオブ/タンタル系酸化物の添加量が、この範囲の下限値より多い量であると溶液中に溶解したニオブ/タンタルが一定量存在できるので好ましく、この範囲の上限値より少ない量であると、溶解したニオブ/タンタルが均一核生成を起こさずに溶液中に存在するので好ましい。上記のモル比は、1:1.0×10-3〜1:1.0×10、さらには1:1.0×10〜1:1.0×10であってよい。
非晶質ニオブ/タンタル系酸化物は、粉末状であると、加熱及び加圧時のアルカリ水溶液への溶解性(アルカリ水溶液との反応性)が高いので好ましいが、塊状などその他の形状であってもよい。
非晶質ニオブ/タンタル系酸化物は、反応容器内に予め入れておき、その反応容器に水(又はアルカリ水溶液)を添加してもよいし、あるいは反応容器に水(又はアルカリ水溶液)を入れておき、それに非晶質ニオブ/タンタル系酸化物を添加してもよい。
本発明の製造方法では、得られる膜は、式A(Nb1−xTa)O(式中、Aはアルカリ金属の1種または2種以上であり、2種以上のアルカリ金属の割合は任意であり、0≦x≦1である。)で表されるニオブ/タンタル酸アルカリを含む結晶であるが、CaO、CuO、MnO、Sb、BaO、ZrO、TiO2等の酸化物を含むことができ、それによって圧電特性などの特性を改良することができる。これらの酸化物は、アルカリ水溶液中に添加することで、水熱合成後にニオブ/タンタル酸アルカリ系膜中に主に固溶体及び/又は混合物として取り込まれる。複合酸化物を形成していてもよい。これらの酸化物の添加量は、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の特性を改良する量であれば、特に限定されず、酸化物の種類にもよるが、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を基準にして、30重量%以下でよく、例えば、1〜20重量%、1〜10重量%は好ましいが、2重量%以上あるいは0.01〜1重量%が好ましいときもある。これらの酸化物の添加量は、上記式で表されるニオブ/タンタル酸アルカリに固溶することが知られている量であることは好ましい。しかし、添加量が固溶限界内であっても、全部が固溶せず、混合物になってもよい。
本発明の製造方法において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を堆積させる基体は、限定されないが、ペロブスカイト系の結晶構造を有する基体であることが好ましい。基体がペロブスカイト系の結晶構造を有すると、ニオブ/タンタル酸アルカリと結晶構造が同じであるので、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が堆積しやすく、さらには一次配向膜やエピタキシャル膜を形成することもできるので好ましい。
好ましく用いられるペロブスカイト系の結晶構造を有する基体としては、ペロブスカイト型酸化物を挙げることができ、ペロブスカイト型酸化物は、ABO(式中、AはLi, Na, K, Rb, Mg, Ca, Sr, Ba, Pb, Bi, La, Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho, Er,Tm,Yb,Lu, Yなどから選ばれ、Bは、Mg,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe, Co, Ni, Cu,Zn,Zr, Nb, Mo, Ru, In, Sn, Hf, Ta, W, Ir, Pb, Biなどから選ばれる。A,Bは複数であることができ、酸化物は固溶体を含む。)で表される酸化物であり、たとえば、BaTiO, PbTiO, KNbO、PbVOなどが挙げられる。
また、その他のペロブスカイト系の結晶構造を有する基体としては、CuAu構造、ReO構造、KNiF構造、SrTi構造およびSrTi10構造、BiTi12構造、タングステンブロンズ構造を持つもの、あるいはNaCl構造、ダイヤモンド構造、閃亜鉛鉱構造、ZnS構造、高温型クリストバル石構造、CaF構造、C-希土構造、Y構造を持つ基体などがある。
さらに、本発明において用いる基体の結晶格子定数が生成すべきニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の結晶格子定数と同じか近似するものであれば、格子整合性が高いので、好ましい。結晶格子定数がニオブ/タンタル酸アルカリの結晶格子定数との差は、10%以下、さらには5%以下であることが好ましい。ニオブ酸アルカリの結晶格子定数は0.388〜0.405nm程度、タンタル酸アルカリの結晶格子定数は0.395〜0.405nm程度であるので、基体の結晶格子定数がそれぞれ0.350〜0.405nm程度あるいは0.380〜0.450nm程度、さらには0.370〜0.405nm程度あるいは0.380〜0.425nm程度である基体は好ましい。基体と、膜との格子整合性が高いと、一次配向膜、さらにはエピタキシャル膜を形成することができるので好ましい。また、基体と、膜との格子整合性が高いと、堆積できる膜厚が増加し、製膜速度を向上させる利点もある。
本発明において用いる基体は、導電性を示すものが好ましい。基体が導電性を示すと、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が堆積しやすくなる。特に導電性を示すペロブスカイト系の結晶構造を有する基体が好ましく、例えば、Nb:SrTiO、La:SrTiOなどがある。本発明では、ニオブ/タンタル系酸化物を原料とすることで、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の膜厚を顕著に増大できるが、さらに導電性を示すペロブスカイト系の結晶構造を有する基体(又はバッファ層)を用いることで製膜速度をより向上させることができるので、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の厚膜化がより現実的なものにされる効果がある。
また、導電性を示すものでなくても、格子定数や化学種が膜のそれに近いKTaOなどのペロブスカイト系の結晶構造を有する基体(又はバッファ層)を用いることで、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の膜厚を増大でき、さらに製膜速度をより向上させることができる。格子定数や化学種が膜の格子定数や化学種に近い材料としては、例えば、KTaOなどがある。基体をKTaOにすると、同じペロブスカイト系の結晶構造を有するLaAlO,SrTiOなどと比べて得られる膜厚が増大する。格子定数や化学種が膜の格子定数や化学種に近い基体と導電性を示す基体(バッファ層)を好ましく組み合わせることができる。
本発明において用いる基体は、ペロブスカイト系の結晶構造を有する基体のほか、他のセラミックス、金属、プラスチックなどからなる基体でもよい。これらの基体を用いる場合には、基体表面にペロブスカイト系の結晶構造を有し、さらには導電性を有するバッファ層を含むことが好ましい。そのようなバッファ層としては、SrRuO、BaSrRuO、LaNiO、LaNiO、LaSrCoOなどを挙げることができる。
反応容器内の水(又はアルカリ水溶液)中に基体を浸漬させることは、上記したように、適当な保持手段を用いて行うことができる。本発明は水熱合成法であるので、膜を堆積させる基体の表面は水(又はアルカリ水溶液)中に浸漬させる必要がある。膜を堆積させたくない基体の表面は保護膜やマスク剤で覆ってもよい。
また、基体表面をニオブ/タンタル酸アルカリが堆積しやすい領域と、堆積しにくい領域とで組合せれば、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の選択成長が可能である。また、本発明では、水熱合成法であるから、基体の表面が平坦でなく、曲面であっても、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を堆積させることが可能である。本発明では、基体の表面が平坦面のみならず曲面であっても、一軸配向又はエピタキシャル配向したニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を堆積することができる。
反応容器内に、順番にかかわりなく、水(上記のように水含有溶媒であってよい。)と、その水中に溶解された水酸化アルカリと、水中に添加された非晶質ニオブ/タンタル系酸化物と、水中に浸漬された基体とを準備してから、反応容器を密封したのち、容器内を加熱することで、反応容器内は加圧されて、基体上にニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が析出、堆積する。
水酸化アルカリとニオブ/タンタル系酸化物との反応は、下記の反応式:
2AOH+(Nb,Ta)⇒2A(Nb,Ta)O+H
(式中、Aはアルカリ金属であり、1種または2種以上であることができる。)
で表される反応である。
ANbOとATaOは、相互に全固溶体を形成することができるし、その類似する結晶構造と元素特性から圧電体特性においても両者は同様の特性を有することが知られている。そのため本発明の水熱合成反応においてNbとTaは相互に置換可能な元素であり、同様に作用するものと考えられる。
A(Nb,Ta)Oは、基体表面に生成(堆積)するほか、反応容器内の水(アルカル水溶液)中に粉末としても生成する。実際には、殆どは(アルカル水溶液)中で粉末として生成し、基体表面に堆積する量は限られている。
本発明によれば、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物を原料として用いると、意外なことに、結晶質ニオブ/タンタル系酸化物を用いる場合と比べて、堆積できる膜厚が顕著に増大し、析出効率も向上することが見出された。これは、従来技術における重要課題であったニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜の厚膜化におけるブレイクスルーを成すものであり、厚い膜厚のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜を含む圧電又は焦電素子の実用化を現実的なものとする。
また、従来、結晶質のニオブ/タンタル系酸化物を原料として用いると、バッチ処理において基体上に堆積する膜の膜厚は数μm程度が限界であったが、本発明によって非晶質ニオブ/タンタル系酸化物を原料として用いると、意外なことに、基体上に堆積する膜の膜厚は明らかに増大した。本発明の製造方法によれば、10μm以上、12μm以上、15μm以上、17μm以上、さらには20μm以上も可能である。この製膜できる膜厚の顕著な向上は、析出効率の向上との相乗効果で、膜厚が厚いニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を含む圧電又は焦電素子及び機能性装置の実用化をさらに現実的なものにする。
本発明の製造方法において、基体上に堆積する、消費されるニオブ/タンタル系酸化物の1モルを基準として4ミリモル以上、又は消費されるニオブ/タンタル系酸化物の0.5質量%以上であることができる。さらに、10ミリモル以上又は1.25質量%以上であることもできる。さらに、100ミリモル質量%以上又は20質量%以上であることもできる。
基体上に堆積せず、粉末になったA(Nb,Ta)Oは、例えば、ニオブ/タンタル系酸化物に再生するなど、再利用してもよい。
基体上に堆積するニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、一次配向膜、さらにはエピタキシャル膜であることができる。ある結晶基体の上に他の結晶膜が成長する場合に、結晶膜と結晶基体とで結晶の一つの結晶軸がほぼ合致して成長していることを一次配向膜、結晶の二つの結晶軸がほぼ合致して成長していることをエピタキシャル膜という。結晶粒ごとにエピタキシャル成長した”ローカルエピタキシャル成長“させた一軸配向膜や、エピタキシャル成長した結晶粒が実質的な大きさを有する単結晶のエピタキシャル膜も形成可能である。
反応の加熱温度は、限定するわけではないが、300℃以下の低温であることができる。下限は室温(約30℃)以上でよいが、一般的には50〜300℃、さらには100〜250℃の範囲が好ましい。このように水熱合成法によれば、反応温度がニオブ/タンタル酸アルカリのキュリー温度より低くできるので、製膜後の冷却時に膜にクラックが入るなどの欠点がなく、より厚い良質の膜を得ることができる。
製膜温度を高くすると、水熱合成において生成物中の最も懸念される不純物である格子内OHイオンの量を低減することができ、また、製膜温度によって格子内OHの量を制御すること、圧電特性を調整することができる。
本発明の製造方法によれば、製膜温度はニオブ/タンタル酸アルカリのキュリー温度より低いが、自己分極して、分極処理なしでも優れた圧電特性を示すニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜を得ることができる。
反応容器内の加熱は、オートクレーブによるほか、マイクロ波を照射して行ってもよい。マイクロ波加熱によれば、通常の加熱の時と比べて、顕著に製膜速度が向上する。例えば、反応装置として、マイクロ波加熱可能な反応装置(例えば、"flexiWAVE", Milestone General(登録商標))内に、耐アルカリ性、耐圧性の反応容器(テフロン/PEEKの二重容器)を設置して、反応容器内に入れた水にマイクロ波を照射し、光ファイバで容器内の温度を観測しながら、設定温度に加熱してよい。
反応時の圧力は、密閉式反応容器を加熱することで、反応容器内部の圧力が上昇する圧力でよい。通常、5.0×10〜3.5×10Pa程度と考えられるが、限定されるものではない。
このように、反応容器内の水中に水酸化アルカリと非晶質ニオブ/タンタル系酸化物と基体が存在する状態で、反応容器内を加熱すると、密閉式の反応容器内の圧力が上昇し、ニオブ/タンタル系酸化物が溶解して、不均一反応で基体表面にニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が堆積する。
反応時間は、原料が反応できる時間であればよく、限定されない。製造設備や原料組成にもよるが、一回のバッチ処理において、例えば、1〜72時間程度、さらに1.5〜36時間程度、特に1.5〜24時間程度でよい。本発明の製造方法における反応時間は、本発明を限定するわけではないが、最終膜厚が従来の結晶質原料を用いる場合より顕著に厚くなり、最終膜厚になるまでの時間は従来と比べて長くなる傾向がある。本発明の製造方法における製膜速度は、従来の結晶質ニオブ/タンタル系酸化物を用いる場合の製膜速度と同等であってよく、本発明は製膜速度によって限定されない。
本発明の製造方法によって作製されるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、ペロブスカイト系の結晶構造を有し、一軸配向又はエピタキシャル配向しており、圧電体特性を示す。本発明によって作製されるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の圧電体特性は、従来の結晶質のニオブ/タンタル系酸化物を用いる水熱合成法で得られる膜の圧電体特性と比べて、相違がなく、同等であることが確認されている(実施例、図14〜16などが参照される)。
本発明の製造方法によって作製されるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、式A(Nb1−xTa)Oで表されるニオブ/タンタル酸アルカリの一軸配向又はエピタキシャル配向している配向膜であるが、ニオブ/タンタル酸アルカリの結晶は好ましく単一結晶であることができるが、異相を含んでもよい。
本発明の製造方法によれば、一回のバッチ処理で得られるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、従来の結晶質のニオブ/タンタル系酸化物を用いた場合には膜厚は数μm程度が上限であったが、例えば10μm以上、12μm以上、15μm以上も可能であり、さらには20μm以上も可能であると考えられる。一回のバッチ処理が終了後にバッチ処理を複数回繰り返せば、より厚い膜厚のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を、膜質及び圧電体特性を損なうことなく得ることが可能であり、またそれによって圧電体特性に関しては膜厚が厚い分だけ向上も可能である。複数のバッチ処理により膜厚を、30〜60μm、特に60μm以上、70μm以上、さらには100μm以上、150μm以上、200μm以上、1mm以上あるいは2mm以上のミリメートルオーダーにしてもよい。膜厚の上限は求める素子又は装置の特性に応じて決めればよいが、例えば、3mm以下、1mm以下、500μm以下、300μm以下などであってもよい。ニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜の膜厚を上記のように大きくでき、また結晶性に優れていると、従来の圧電又は焦電素子では実現できなかった圧電又は焦電特性を好ましく実現できる。
本発明の製造方法によって製膜したニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、配向性に優れ、しかも自己分極(分極処理なしでも分極方向が揃っている)していることができる。自己分極しているので、ポーリング分極処理なしでも、圧電素子として使用できる。なお、ニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜の配向性は堆積基体を選択することでも向上させることができる。
得られたニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、ポストアニールすることができ、ポストアニールによれば結晶膜質が向上する。ポストアニールの温度は、例えば、100〜900℃、100〜750℃、特に500〜750℃でよい。
高温でポストアニールして結晶膜質を向上させたニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、自己分極が消失するので、圧電又は焦電素子として使用するために分極処理を行ってよい。
本発明の第一の側面の製造方法によれば、一軸配向又はエピタキシャル配向した結晶を含むニオブ/タンタル酸アルカリ系膜及びこれを用いた圧電又は焦電素子や機能性装置が提供される。
本発明によって得られるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、各種の圧電素子などに応用される。代表的には、図2の圧電体素子10の例に示すように、基体11は下部電極12を有し、その上にニオブ/タンタル酸アルカリ系膜13、さらに上部電極14を有するが、基体11と下部電極12との間には必要に応じてバッファ層15を有してもよい。
本発明の製造方法によって得られるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、圧電体膜として、圧電アクチュエータ素子、圧力センサ、超音波振動子、振動発電デバイスなどに広く適用される。
(配向膜、圧電素子、機能性装置)
本発明の第二の側面によれば、式A(Nb1−xTa)O(式中、Aはアルカリ金属の1種または2種以上であり、2種以上のアルカリ金属の割合は任意であり、0≦x≦1である。)で表され、一軸配向又はエピタキシャル配向した結晶を含むニオブ/タンタル酸アルカリ系膜であって、前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が、60μm以上、好ましくは70μm以上(ただし、式中のAの96モル%以上、特に100%がKの場合は140μm以上)の厚さを有するか及び/又は曲面を含む基体上に形成されていることを特徴とするニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が提供される。
本発明の第二の側面(以下、単に本発明ともいう。)において、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の組成A(Nb1−xTa)O及びその成分は、第一の側面で説明したと同様であってよい。
アルカリAは、カリウム、ナトリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム、バリウムから選ばれる1種又は2種以上であってよいが、カリウムとナトリウムの2種、又はカリウムとナトリウムとリチウムの3種であるか、これらを含むことが好ましい。カリウムまたはナトリウム単独と比較して、アルカリAの含有種が2種、3種と増えることで圧電特性が向上することから、用途に合った圧電特性の設計が可能である。
アルカリがカリウムとナトリウムの2種を含む場合、x=K/(K+Na)は0〜1であってよいが、特に0.4〜0.6、さらには0.8〜0.9あることが好ましい。
アルカリがリチウムを含む場合、y=Li/(K+Na+Li)が0〜0.1、特に0〜0.05であることが好ましい。
ニオブ/タンタル(Nb,Ta)は、ニオブ又はタンタルの単独であるか、ニオブとタンタルの両方を含んでよい。ニオブ単独であることは好ましいが、ニオブとタンタルの両方を含み、0≦x≦0.5、特に0.2≦x≦0.3であってよい。ニオブとともにタンタルを含むことで圧電特性が向上することから、両方含んでいることが好ましい。
本発明の第二の側面のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、一軸配向又はエピタキシャル配向した結晶を含む配向膜であり、60μm以上、好ましくは70μm以上(ただし、上記式中のA=Kの場合、さらにはAの96モル%以上がカリウムである場合は、110μm以上、好ましくは140μm以上)の厚さを有するか及び/又は曲面を含む基体上に形成されていることを特徴とする。
ある結晶基体の上に他の結晶膜が成長する場合に、結晶膜と結晶基体とで結晶の一つの結晶軸がほぼ合致して成長していることを一次配向膜、結晶の二つの結晶軸がほぼ合致して成長していることをエピタキシャル膜という。結晶粒ごとにエピタキシャル成長した”ローカルエピタキシャル成長“の一軸配向膜や、エピタキシャル成長した結晶粒が実質的な大きさを有する単結晶のエピタキシャル膜も形成可能である。基体上に成長した一軸配向又はエピタキシャル配向膜は、成長のために用いた基体から分離して一軸配向又はエピタキシャル配向膜単体とし、また分離した一軸配向又はエピタキシャル配向膜に他の膜や基体を接合したものであってもよい。ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が一軸配向膜又はエピタキシャル配向膜であることにより、優れた圧電特性を有することができる。
本発明の第二の側面で提供されるニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、60μm以上、好ましくは70μm以上(ただし、上記式中のA=Kの場合、さらにはAの96モル%以上がカリウムである場合は、110μm以上、好ましくは140μm以上)の厚さを有するか及び/又は曲面を含む基体上に形成されていることにより、従来にない圧電又は焦電素子及びそれを応用した機能性装置が提供されるものであり、非鉛系圧電又は焦電体の厚膜化においてブレイクスルーをなすものである。従来、非鉛系圧電体では、ニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜が注目されているが、CVDやスパッタなどの気相法、ゾルゲル法では、いずれも500℃以上の高温成膜又はプロセス温度が必要であり、蒸気圧の高いKやNaが揮発して組成ずれが生ずるという問題がある。300℃以下の温度で製膜できる水熱合成法では、従来、製膜速度が低いために、60μm以上、好ましくは70μm以上(上記式中のA=Kの場合、さらにはAの96モル%以上がカリウムである場合は、110μm以上、好ましくは140μm以上)の厚膜化がされていなかった。本発明の第二の側面によって提供される膜厚60μm以上、好ましくは70μm以上(上記式中のA=Kの場合、さらにはAの96モル%以上がカリウムである場合は、110μm以上、好ましくは140μm以上)のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、上記の厚い膜厚と良好な配向性を有することで、従来にない2〜100Hzの低周波の共振振動数を有することができ、また高い出力を有することができるので、従来のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜を用いる圧電素子では実現できなかった新しい用途(機能性装置)を実現することができる。
また、ニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜が曲面を含む基体上に形成されていることによっても、従来のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜を用いる圧電素子では実現できなかった、新しい用途(機能性装置)を実現することができる。
このように、本発明の第二の側面により新しく提供される機能性装置としては、例えば、医療用超音波プローブ、超音波トランスミッタ、超音波センサ、焦電発電装置、振動発電装置、アクチュエータがある。これらの機能性装置は、膜厚60μm以上、好ましくは70μm以上(上記式中のA=Kの場合、さらにはAの96モル%以上がカリウムである場合は、110μm以上、好ましくは140μm以上)又は曲面を有することにより、特に低周波の共振振動数あるいは高い圧電パワーを特徴とする従来にない機能性装置である。
超音波プローブは、超音波を送信し、反射してきた超音波を受信して画像や血流情報として表示する超音波検査装置における超音波の送受信を行う部品である。本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、従来のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜と比べて膜厚が大きいので、1〜100MHz、さらに2〜100MHzの低い周波帯の超音波を送受信できる特徴がある。
図3に模式的に超音波プローブ20の例を示すが、超音波プローブ20は、バッキング材21、振動子(圧電素子)22、音響整合器23、音響レンズ24を含む。バッキング材21は、振動子の背面に設置されていて、後方への超音波の伝搬を吸収、余分な振動を抑制して超音波のパルス幅を短くする役目がある。振動子22は、超音波の送受信を行う部品である。音響整合器23は、振動子22は生体と比べて音響インピーダンスが大きく、そのままでは超音波が反射してしまうため、振動子22と生体の中間的な音響インピーダンスをもつ物質を間に入れて反射を最小限に抑える部材である。音響レンズ24は、超音波ビームを集束させる役割があり、シリコンゴムが多く使われている。
医療用超音波プローブは、医療用途において、人体などの生体に、超音波を送信し、反射してきた超音波を受信して画像や血流情報として表示するのが医療用超音波診断装置であり、超音波の送受信を行う部分がプローブである。
従来の医療用超音波プローブは、腹部、心臓、血管、眼球など身体の深部の画像診断に用いられているが、皮膚がんの診断には使えない。本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜を、プローブ20の振動子(圧電素子)22に用いることで、共振振動周波数を2〜100MHzの低い周波数帯として、皮膚近傍(例えば、深度0〜10mm)の画像診断が可能にされる。
また、本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、膜厚が厚いので高出力の超音波を発生することができるので、例えば、内視鏡を血管内の狭窄部に挿通するための機械走査装置として利用でき、また高出力(2〜100MHzの共振周波数において振動速度1m/s以上の高振幅)の超音波を照射して血管内の血栓を破砕する超音波医療装置などにも利用できる。
超音波トランスミッタとは、電気信号を音響振動に変換し媒体に音波を放射する送波用電気音響変換器。多くの場合,受波用の変換器としても用いられ,音響振動を電気信号に変換する機能も有する。
超音波センサは、超音波を発射してから物体に反射して戻ってくる超音波を受信して、目的物を検知したり、戻ってくる迄の時間を測定して目的物までの距離測定をするセンサが超音波センサである。発信器としては、振動子(圧電素子)に信号電圧を加え、振動子の共振振動周波数の超音波をスピーカ(送波器)から空中に放射する。受信器としては、空中からの超音波の波動をマイクロホン(受波器)で受信して振動子が電気出力を発生させる。送波器と受波器を合わせて超音波トランジューサ(電気音響変換素子)という。電気音響変換素子は原理的には一つの素子が送波器にも受波器にも働くが、送波と受波では空気の振動振幅も大幅に異なり、しかもインピーダンスを変えたほうが効率がよいので、別個のトランジューサを利用するのが通常である。マイクロコンピュータを用いて、発信器と受信器を制御し、検知、距離測定を行う。本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、従来の水熱合成法によって製造されたニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜と比べて、高出力(数10kHzの周波数帯において振動速度として1〜3m/sが見込まれる)であり、PZTより遙かに高い高振幅出力であるので、非鉛系圧電素子を用いた超音波センサとして有望である。このような超音波センサは、高出力であるので、自動車における障害物の検知、距離測定に有利に利用できる。
焦電発電装置とは、図4に模式的に示す焦電発電装置30の例を参照すると、焦電素子31は強誘電体32を電極33の間に挟持してなる。この焦電素子31に時間変化する熱源34が作用すると、温度変化に対応して強誘電体32に変動する電圧が発生して発電が行われる。本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、従来の水熱合成法によって製造されたニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜と比べて、高い圧電特性を有することから、非鉛系圧電素子を用いた焦電発電装置として有望である。
振動発電装置とは、振動子(圧電素子)に機械的な外力、振動が加わることにより、振動子の振動を電力に変換して取り出す発電装置である。本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、従来の水熱合成法によって製造されたニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜と比べて、高出力(200Hz以下の共振周波数において1.7μW・G−2mm−3の出力電力密度)であり、PZTにより近い出力であるので、非鉛系圧電素子を用いた振動発電装置として有望である。
アクチュエータとは、圧電素子に電圧を印加することにより圧電体自身を変位させ(逆圧電効果)、機械的な力を発生させる装置である。本発明のニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜は、従来の水熱合成法によって製造されたニオブ/タンタル酸アルカリ系配向膜と比べて、高い圧電特性を有することから、非鉛系圧電素子を用いたアクチュエータとして有望である。
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1:a-Nb2O5の作成、7mol/L)
非晶質の酸化ニオブ(a-Nb2O5)を次の手順で調製した。白金るつぼ中の酸化ニオブNb2O5(関東化学株式会社から入手の試薬、結晶質:10g)と炭酸カリウムK2CO3(52g)の混合物を950℃に1時間加熱して融解させてから放冷して得られた白色ケーキを蒸留水(500mL)溶解させた。溶液をろ過して固形物を除去後に、硝酸HNO3(200mL)を脱イオン水HO(200mL)に溶解した酸性水溶液を添加して、白色粉末を沈殿させた。沈殿物を濾別し、脱イオン水で洗浄し、50℃で乾燥した。得られたのは非晶質の酸化ニオブであり、水和していた(a-Nb2O5・nH2O)。図5に、得られた非晶質の酸化ニオブと、結晶質の酸化ニオブのX線回折チャートを示す。
次に、調製した非晶質の酸化ニオブを用いて、下記のようにして水熱合成法で(K,Na)NbO膜(KNN膜)を作製した。
図1に示すような内部をテフロンコートした(登録商標)オートクレーブ(内容積70mL)に、脱イオン水を用いて用意した水酸化カリウム7mol/L、水酸化ナトリウム7mol/LをK:Na=9:1の比で混合したアルカリ水溶液20mLと、作製した非晶質酸化ニオブ(a-Nb2O5)0.25gとを入れ、さらに蓋に懸垂された長さ7.5mm、幅5mm、厚み0.5mmのSrRuO3//SrTiO3基板(SrRuO3の厚さ50nm)がアルカリ水溶液に浸漬するようにして、オートクレーブの蓋を閉じ、オートクレーブを密閉した。
密閉したオートクレーブを240℃に6時間加熱して水熱合成反応を行った後、取り出した基板を脱イオン水で複数回洗浄し、150℃で乾燥して、膜厚約11μmの(K,Na)NbO3(KNN膜)を得た。
得られたKNN膜についてpanalytical社製Axios advanceで分析すると、K/(K+Na)=0.88であった。図6にKNN膜のX線回析チャートを示すが、ペロブスカイト構造の(K,Na)NbO膜が得られていること、エピタキシャル膜であることが確認される。ただし、図6では、反応時間が短いKNN膜の膜厚が2μmのときと(図6(c)(d))、膜厚がほぼ最大膜厚10μmのとき(図6(a)(b))のX線回析チャートを示す。なお、図6では、後記の比較例1の対応するKNN膜の膜厚が2μmと最大膜厚5μmのときのX線回析チャートも示しているが、得られるKNN膜の結晶に原料が非結晶か結晶かによって相違は認められない。
KNN膜の上記膜厚約11μmは、実施例1の条件において、反応時間を変えたときの最大膜厚である。図7(a)に反応時間と得られる膜厚との関係をグラフで示す。反応時間が6時間程度までは反応時間の増加とともに膜厚が増大しているが、その後約11μmの最大膜厚に到達すると、その後は反応時間が増加しても膜厚は増加しなかった。
図8(c)(d)及び図9(c)(d)に得られたKNN膜の平面及び縦断面のSEM写真を示す。図8(c)(d)の平面図は、膜厚が2μmと10μmで異なるときの平面写真であるが、膜厚の増加とともに結晶粒径が増大していることが認められる。
また、上記の方法で製造した非晶質の酸化ニオブ(水和物)を200℃で仮焼して水和水を除去した非晶質の酸化ニオブ(非水和物;a-Nb2O5)について、X線回折で非水和物であることを確認した上で、上記と同様の手順でKNN膜を作製したが、結果は水和物の場合と同様であり、結果に相違は認められなかった。以下の実施例では、非晶質の酸化ニオブ(水和物)を用いたが、単に非晶質の酸化ニオブと記載する。
(実施例2:6mol/L)
実施例1と同様にして、ただし、KNN膜の水熱合成における水酸化カリウム、水酸化ナトリウムの濃度を7mol/Lから6mol/Lに変更して、実施例2のKNN膜を作製した。最大膜厚が得られる反応時間は16時間であった。
得られたKNN膜は、実施例1と同様の組成を有するペロブスカイト構造の(K,Na)NbO膜(K/(K+Na)=0.88)であり、最大膜厚は約17μmであった。
図7(a)に、実施例2で得られたKNN膜についても、反応時間と膜厚との関係をグラフで示す。実施例2のKNN膜は実施例1と比べて膜厚の堆積速度は遅かったが、最大膜厚は反応時間約16時間で約17μmに達し、それ以上は増大しなかった。
図7(a)を参照すると、各アルカリ濃度6mol/Lにおいて、非晶質原料の場合に結晶質原料の場合と比べて、製膜時間が3倍長くなり、膜厚が3倍以上になっている。同じ膜厚を得るためのニオブ原料の量は、非晶質において結晶質より1/3以下である。
(実施例3:原料の量、析出効率)
実施例2において、非晶質ニオブ原料を0.25gから0.10g及び0.05gに減らして同様にKNN膜を堆積した。得られたKNN膜の膜厚はいずれも約17μmであった。したがって、非晶質原料を用いると、結晶質原料と比べてニオブ原料の使用効率を高くすることができる。
同一条件での基板の寸法15x15mmへの製膜においてKNN膜の堆積効率を計算すると、原料が結晶質0.25g、非晶質0.25g、非晶質0.05gのとき、それぞれ1.38%、4.04%、20.2%であった。析出効率は、結晶質原料に対して約22倍に向上できている。
(実施例4〜7:χ=K/(K+Na)比)
実施例1と同様にして、ただし、KNN膜の水熱合成におけるオートクレーブ内の水酸化カリウム7mol/L、水酸化ナトリウム7mol/Lとの混合比K:Naを、1:0、7:3、8:2、10:0として、χ=K/(K+Na)比が異なるKNN膜を作製した。反応時間は最大膜厚が確認されるまでの時間とした。
得られたKNN膜は、いずれも、実施例1と同様に、ペロブスカイト構造の(K,Na)NbO膜であった。
図10に、実施例1及び実施例4〜7で得られたKNN膜におけるχ=K/(K+Na)の比χを、原料における[KOH]/([KOH]+[NaOH])の比と対応させてグラフで示す。原料における[KOH]/([KOH]+[NaOH]) の比の増加とともに、KNN膜におけるχ=K/(K+Na)の比も増加するが、特に[KOH]/([KOH]+[NaOH])の比が約0.7〜0.9の範囲でKNN膜におけるχ=K/(K+Na)の比が急激に増加している。
図11に、実施例1及び実施例4〜7で得られたKNN膜における最大膜厚を、原料における[KOH]/([KOH]+[NaOH]) の比と対応させてグラフで示す。図11には、後述の比較例(結晶質酸化ニオブを原料とした場合)の対応する結果も示しているが、実施例では対応する比較例と比べて、すべての[KOH]/([KOH]+[NaOH])比において、最大膜厚が増大していることが認められる。また、[KOH]/([KOH]+[NaOH])比が約0.7〜1.0、特に0.75〜1.0において最大膜厚も、従来例に対する膜厚の増加も、比較的に大きい。
(実施例8:7回堆積)
実施例1と同様にして、添加する水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの溶液を混合比K:Na=9:1とし、製膜時間を16時間に変更してKNN膜を堆積した。さらに、製膜後溶液および残留粉末を取り出し、上記と同じ条件で、新しい非晶質ニオブ原料および混合溶液をオートクレーブ内に添加して堆積を続ける操作を合計7回繰り返した。得られたKNN膜は0.13mmであった。
また、非晶質ニオブ原料を結晶質原料に代える以外は同様にして7回KNN膜を堆積したところ、得られたKNN膜の膜厚は50μm未満であった。
図12に、得られたKNN膜のSEM断面写真を示す。(a)は非晶質ニオブ原料、(b)は結晶質ニオブ原料で得られたKNN膜である。
(比較例1〜2:実施例1〜2の対照)
実施例1〜2と同様にして、ただし、KNN膜の水熱合成における原料酸化ニオブを非晶質酸化ニオブではなく、結晶質酸化ニオブを用いて、それぞれ比較例1〜2のKNN膜を作製した。反応時間は最大膜厚が確認されるまでの時間とした。
結晶質酸化ニオブは、市販の試薬(関東化学株式会社)であるが、図2のX線回折チャートに示されるように、Nb2O5結晶の特性ピークが認められる。
得られたKNN膜は、実施例1〜2のKNN膜と同様のペロブスカイト構造の(K,Na)NbO膜であった。
しかし、得られたKNN膜の最大膜厚は、図7(b)に示すように、比較例1及び2のいずれにおいても約5.5μmで、殆ど差がなかった。
図13(a)(b)に、図7(a)(b)のチャートを原料が結晶質であるか非晶質であること以外は同じ条件である、実施例1と比較例1との対比(図13(a))、実施例2と比較例2との対比(図13(b))を示す。図13(a)(b)から、同じ合成条件において、原料を結晶質から非晶質に変えることで、最大膜厚が顕著に増大することが認められる。
(比較例3〜6:χ=K/(K+Na)比)
比較例1と同様にして、ただし、KNN膜の水熱合成におけるオートクレーブ内の水酸化カリウム7mol/L、水酸化ナトリウム7mol/Lとの混合比K:Naを、1:0、7:3、8:2、10:0として、χ=K/(K+Na)比が異なるKNN膜を作製した。反応時間は最大膜厚が確認されるまでの時間とした。
得られたKNN膜は、いずれも、比較例1と同様に、ペロブスカイト構造の(K,Na)NbO膜であった。
図10のKNN膜におけるχ=K/(K+Na)の比と原料における[KOH]/([KOH]+[NaOH])の比と対応させたグラフ、及び、図11のKNN膜における最大膜厚と原料における[KOH]/([KOH]+[NaOH])の比と対応させたグラフに、実施例1、2、4〜7と対応させて比較例1、2〜6の結果も示す。
本発明の実施例において、すべての原料組成において比較例と比べて、原料を結晶質から非晶質に変えることで、最大膜厚が増大することが認められる。
(実施例9及び比較例7:圧電素子の作成、圧電特性)
実施例1及び比較例1と同様にして、SrRuO3を製膜したSrTiO3基板上にペロブスカイト構造のKNN膜を堆積した後、管状炉を用いて600℃で10分間アニールして得たKNN膜上に白金電極をスパッタで堆積して、KNN膜を上下電極で挟持した、実施例9及び比較例7の圧電素子を作製した。
ただし、実施例9及び比較例7の圧電素子におけるKNN膜の膜厚は、比較対象の膜厚を同等になるようにし、それぞれ2.0μmと2.4μmであった。
これらの圧電素子の圧電特性の測定には、セイコーインスツルメント社製原子間顕微鏡SPA400と強誘電体評価システムは株式会社東陽テクニカ社製のFCAを組み合わせた装置を用いた。圧電定数d33の測定における交流電圧の周波数は3.2Hzであった。
実施例9及び比較例7の圧電素子において得られた比誘電率及び誘電損失、電圧分極ヒステリシス特性、電界誘起歪の結果を、それぞれ、図14、図15、図16に示す。いずれも、実施例9と比較例7とにおいて、圧電特性は同等であることが示されている。
(実施例10:K/Na比と圧電(発電)特性の相関)
実施例2と同様にして、ただし水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの比率を変えてSrRuO3を製膜したSrTiO3基板上にペロブスカイト構造のKNN膜を堆積した。得られたKNN膜の堆積後(as depo.)膜と600℃熱処理後膜について、発電特性を測定した結果を図17に示す。
図17によれば、発電特性の性能指標(FOM=(d33)2/(9εr))は、KNN膜のx=K/(K+Na)比に依存して変化している。また、性能指数は(FOM=(d33)2/(9εr))は、x=0.88付近で最も高く、600℃熱処理後膜ではx=0.2付近からx=0.8付近まで広く高い値であるが、どちらの膜もx=1.0では大きく低下している。
(実施例11及び比較例8:圧電特性)
実施例9及び比較例7と同様にして、実施例11及び比較例8の圧電素子を作製した。ただし、実施例11及び比較例8の圧電素子におけるKNN膜の膜厚は、それぞれ10μmと5μmのものを作製した。
実施例11及び比較例8の各圧電素子について実施例9及び比較例7と同様にして、電圧分極ヒステリシス曲線性、電界誘起歪を測定し、結果を図18(a)〜(e)及び図19(a)〜(e)に示す。膜厚が変化(増大)しても、実施例の圧電素子の圧電特性は比較例の圧電特性と同等であることが示されている。
(実施例12:アニール温度)
実施例9と同様にして、実施例12の圧電素子を作製した。ただし、実施例12の圧電素子におけるKNN膜は、水熱合成後にアニールしないもの、アニール温度をそれぞれ500℃、600℃、700℃、750℃にしたものとした。これらの圧電素子の圧電特性を測定した結果を図20に示す。
(実施例13:アニール処理の前後の厚さ)
実施例1と同様にして、SrRuO3を製膜したSrTiO3基板(SrRuO3//SrTiO3)上にペロブスカイト構造のKNN膜を堆積した後、管状炉を用いて200℃で10分間アニールしてKNN膜を得た。このKNN膜について、アニール処理の前後で厚さを測定して、未アニール処理では8〜10μm程度であるが、アニール処理後では12μm程度の膜厚が得られた。
(実施例14:低温製膜KNN膜)
実施例13と同様にして、ただし、製膜温度240℃を200℃、150℃に変えて、KNN膜を得た。いずれの温度においても、240℃におけると同様にペロブスカイト構造のエピタキシャルKNN膜が確認された。150℃の低温で非晶質原料を用いてKNN膜を製膜できた。図21に、上記の温度で得られたKNN膜の膜厚を、原料として結晶質酸化ニオブを用いた場合と対比して示す。非晶質原料を用いると、いずれの製膜温度でも結晶質原料を用いるよりもKNN膜の膜厚が増大している。
(実施例15及び比較例9:7mol/L圧電特性)
実施例9と同様にして実施例15の圧電素子を作製した。ただし、KNN膜は実施例2及び比較例2と同様の方法で作製した。
実施例15及び比較例9でKNN膜の膜厚を同じにした圧電素子の圧電特性を実施例9に記載した方法で評価したが、両者に特性の実質的な相違は認められなかった。
(実施例16及び比較例10:KNT膜)
実施例1と同様にして、ただし酸化ニオブに変えて酸化タンタルを用いて、実施例16の(K,Na)TaO(KNT膜)を作製した。即ち、非晶質Ta2O5の調製についても、非晶質Ta2O5を用いたKNT膜の作製についても、実施例1と同様にした。
非晶質の酸化タンタル(a-Ta2O5)を次の手順で調製した。白金るつぼ中の酸化タンタルTa2O5(関東化学株式会社から入手の試薬、結晶質:10g)と炭酸カリウムK2CO3(156g)の混合物を950℃に1時間加熱して融解させてから放冷して得られた白色ケーキを蒸留水(500mL)溶解させた。溶液をろ過して固形物を除去後に、硝酸HNO3(200mL)を脱イオン水HO(200mL)に溶解した酸性水溶液を添加して、白色粉末を沈殿させた。沈殿物を濾別し、脱イオン水で洗浄し、50℃で乾燥した。得られたのは非晶質の酸化タンタルであり、水和していた(a-Ta2O5・nH2O)。得られたた非晶質の酸化タンタル(水和物)を200℃で仮焼して水和水を除去した非晶質の酸化タンタル(非水和物;a-Ta2O5)を得た。X線回折で、非水和物であることを確認した。図22(c)(d)は、得られた非晶質の酸化タンタルのX線回折チャート及びSEM写真を示し、図22(a)(b)は、対応する結晶質の酸化タンタルのX線回折チャート及びSEM写真を示す。
次に、調製した非晶質酸化タンタルを用い、実施例1における非晶質酸化ニオブ0.25gのモル数と同じになる量0.416gとして、実施例1と同様の手順で(アルカリ溶液濃度7mol/L、K:Na=9:1、水熱条件:240℃,6h)、実施例16の(K,Na)TaO膜(KNT膜)を作製した。
この実施例16のKNT膜のχ=K/(K+Na)比は0.480であり、KNT膜の最大膜厚は約600nmであった。
また、非晶質酸化タンタルに変えて市販の結晶質酸化タンタルを用いる以外は上記と同様にして、比較例10の(K,Na)TaO膜(KNT膜)を作製した。この比較例10のKNT膜のχ=K/(K+Na)比は0.570であり、KNT膜の最大膜厚は約100nmであった。
(実施例17:KTaO3基板)
実施例1と同様であるが、ただし、基板としてLaAlO3, SrTiO3, KTaO3を用い、かつ原料a-Nb2O5の仕込み量を0.25gとして、KNN膜を製膜した。基板がLaAlO3, SrTiO3ではKNN膜がやっと製膜できる程度であったが、基板がKTaO3では実施例1に近い膜厚約7μmのKNN膜を製膜できた。基板KTaO3について、原料仕込み量を0.25gから1g(4倍)にするとKNN膜の膜厚も約4倍の良好なエピタキシャル膜が得られた。
さらに、LaAlO3, SrTiO3, KTaO3の表面にバッファ層としてSrRuO3層を形成した基板を用いて(原料仕込み量0.25g)、KNN膜を製膜したところ、SrRuO3//SrTiO3、SrRuO3//KTaO3基板では実施例1と同様の膜厚(約11μm)が得られ、SrRuO3//LaAlO3基板では膜厚(約5μm)が得られた。
(実施例18及び比較例11:インコネル基板)
市販のインコネル(登録商標)金属基板の表面にスパッタ法でLaNiO3膜を50nm、次いでSrRuO3膜を50nm堆積したバッファ層(SrRuO3/LaNiO3)を有する金属基板を用いて、実施例1及び比較例1と同様の手順で、実施例18及び比較例11のKNN膜を作製した。
実施例18及び比較例11で得られたKNN膜は、膜厚がそれぞれ8.5μm及び4.6μmであった。図23(a)に実施例18及び比較例11で得られたKNN膜のX線回析チャートを示す。実施例18では、膜厚は比較例11と比べて明らかに増加しているが、結晶性は比較例11と同じある。
図23(a)によれば、KNN膜は、極めて僅かに{110}ピークが観察されるが、ほぼ完全な{100}配向の単相である。LaNiO3膜の{100}自己配向性に基づくものである。
また、上記のKNN膜の堆積を4回繰り返して膜厚約30μmのKNN膜を作製した。この膜の配向性を半値幅(FWHM)で評価すると、厚みの増加に伴って、半値幅(FWHM)が23°から14°に減少し、配向度が向上していることが確認された(配向度99.5%)。
参考のために、図23(b)に実施例1及び比較例1で得られたKNN膜のX線回析チャートを示す。実施例18及び比較例11で得られた金属基板上に作製したKNN膜の結晶性は、実施例1及び比較例1で得られたSrRuO3//SrTiO3基板上のKNN膜と同様である(図23(a)と図23(b)とのピークの違いは基板の差に基づくものである)。
また、上記と同様にして製膜後に、500℃で熱処理したKNNT膜(A=K/(K+Na)=0.9、C=Nb/(Nb+Ta)=0.87)において、圧電定数d33=70pm/Vが観察された。Ta置換により圧電定数が向上した。
(実施例19:Pt基板に{111}配向)
インコネル(登録商標)金属基板の表面にスパッタ法でPt膜を約500nm、次いでSrRuO3膜を50nm堆積したバッファ層(SrRuO3/Pt)を有する金属基板を用いて、実施例1と同様の手順で、実施例19のKNN膜を作製した。
得られたKNN膜のX線回析結果を図24に示す。KNN膜が{111}配向していることが観測される。Pt膜が{111}自己配向性を有している結果であるが、Pt膜及びSrRuO3が{111}配向していることは別途確認されている。
(実施例20:KNNT膜)
実施例16と同様にして、ただし、粉末原料として酸化ニオブ(a-Nb2O5)及び酸化タンタル(a-Ta2O5)を用いて、KOH:NaOH=9:1で一定とし、Nb/Taの組成比を0〜1.0と連続的に変化させて、(K,Na)(Nb,Ta)O3膜(以下KNNT膜ともいう。)を作製した。得られたKNNT膜はエピタキシャル配向結晶膜である。
仕込み組成比C=Nb2O5/(Nb2O5+Ta2O5)、仕込み組成比A=[KOH]/([KOH]+[NaOH]=0.9に対して、得られたKNNT配向膜のNb/(Nb+Ta)比及びK/(K+Na)比を、図25に示す。Nb/(Nb+Ta)比は0.68から1.0まで連続的に変化し、K/(K+Na)比は0.83から0.92まで連続的に変化している。
(実施例21:KNLN膜)
実施例1と同様にして、ただし、基体として(100)La:SrTiO3、粉末原料として(a-Nb2O5)、アルカリとして水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムを用いて、240℃で、(K,Na,Li)NbO3膜(以下、KNLN膜ともいう。)を作製し、エピタキシャル配向結晶膜が得られることを確認した。
仕込み比[KOH]/([KOH]+[NaOH])は0.9で一定とし、Liの仕込み比A=[LiOH]/([KOH]+[NaOH]+[LiOH])を0.00、0.01、0.02, 0.03, 0.04, 0.05, 0.06, 0.07, 0.08, 0.09, 0.10と連続的に変化させて、得られたKNLN膜をX線回折分析した。KNLN膜はすべての組成でエピタキシャル膜であるが、Aが0.05以上になるとK、Na、Li、Nb、Oから成る異相ピークが観察された。また、面外格子間隔がA=0.04近傍から変化しているので、結晶構造が変化している可能性がある。SEM観察によれば、異相は四角錘及び三角柱の形状であった。
全ての仕込み比Aで製造された膜は緻密であるが、Aの増加に伴い膜厚は減少した。
仕込み比Aの増加(A=0からA=0.04)に伴い誘電率は350から200に低下する傾向があるが、誘電損失は広い範囲で0.3以下であった。
膜厚が10μmであるとき、A=0.01近傍で強誘電性は最大となり、その自発分極値Prは約35μC/cm2を示した。
(実施例22:KNLNT膜)
実施例20及び21と同様にして、ただし、基板として(100)La:SrTiO3、粉末原料として(a-Nb2O5)及び酸化タンタル(a-Ta2O5)(仕込み組成比C=Nb2O5/(Nb2O5+Ta2O5)=0.8)、アルカリとして水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウム(仕込み組成比[KOH]/([KOH]+[NaOH])=0.9、A=[LiOH]/([KOH]+[NaOH]+[LiOH]=0.01)を用いて、240℃で、(K,Na,Li)(Nb,Ta)O3膜(以下、KNLNT膜ともいう。)を作製し、エピタキシャル配向結晶膜が得られることを確認した。
得られたKNLNT膜(K/Na=0.9, Li/(K+Na+Li)=0.01,Nb/Ta=0.8)の圧電特性を図26に示す。圧電特性d33は121pm/Vであった。
(実施例23:自己分極)
実施例1と同様にして、実施例23のKNN膜を製膜した。得られたKNN膜を用いて実施例11と同様に圧電素子(膜厚10μm)を作製し、圧電特性を評価した。圧電特性として、P-Eヒステリシス曲線の測定と、分極処理電界に対する圧電定数、e31,fを評価した。後者は、分極処理として測定周波数1kHz、測定電圧5Vp-pのパルス電圧を印加して、e31,fを測定した。
また、得られたKNN膜を酸素含有気流中600℃で10分間熱処理した。図27に、as depo.のKNN膜と600℃で熱処理したKNN膜を用いて作製した圧電素子について測定したP-Eヒステリシス曲線と、分極処理電界に対するe31,fを示す。図27の上図に見られるように、as depo.のKNN膜はP-Eヒステリシス曲線が大きくマイナスの電界側にシフトしていて(図27上左図)、ポーリング電界による分極処理なしで、またポーリング電界に依存しない圧電特性(e31,f)を示すことから(図27上右図)、自己分極していることが確認される。なお、as depo.のKNN膜における自己分極は膜厚が約2μmから22μmまで観測され、e31,fの値の膜厚依存性はほぼ無かった。
図28に、as depo.のKNN膜と600℃で熱処理したKNN膜を用いて作製した圧電素子について測定した強誘電特性e31,f を示す。(a)は膜厚2.8μmのas depo.KNN膜、(b)は膜厚2.5μmの600℃熱処理KNN膜、(c)は(a)と(b)の特性の比較、(d)は強誘電特性の値である。
図29に、as depo.のKNN膜を用いて作製した圧電素子について測定したe31,fの膜厚依存性を評価した結果を示す。図29によれば、e31,fは膜厚に依存していない。
図30に、as depo.のKNN膜と600℃で熱処理したKNN膜を用いて作製した圧電素子について測定したAFM(d33)を示す。熱処理(アニール)することで、KNN膜の圧電特性が向上している。図30において、白抜き四角形(□)は(K0.5Na0.5)NbO3について文献で報告されているAFM(d33)の値であり、実施例23で得られたKNN膜は、as depo.のKNN膜でも既報の値と匹敵する値であり、熱処理すると既報の値と比べて優れた値である。
一方、図27の下図に見られるように、600℃で熱処理したKNN膜はP-Eヒステリシス曲線にシフトがなく(図27下左図)、また分極電圧に依存するe31,fから(図27下右図)、自己分極がないこと、圧電特性には分極処理が必要であることが確認される。
また、as depo.膜と600℃熱処理膜の圧電素子(膜厚10μm)を用いて、e31,fについて特性評価をした結果、自己分極したas depo.膜は従来知られている熱処理膜とほぼ同じ値であることが確認された。
図31の上方のグラフに、熱処理温度を変えたときのP-Eヒステリシス曲線のシフト量の変化を示す。as depo.のKNN膜から熱処理温度が上昇するに従い、シフト量が減少している。
また、as depo.膜を真空中で加熱して、加熱温度と膜中から放出されるOH量を測定したところ、100℃以下からOH放出が始まり、200℃前後に低いOH放出ピークがあり、500℃付近で大きなOH放出ピークが観察された。化学吸着しているOHの放出は200℃前後にピークがあり、結晶内に取り込まれているOHの放出は500℃付近にピークがある。
図31の下方のグラフに、上記OH放出量から計算した膜中の水の量とP-Eヒステリシス曲線のシフト量との関係を示す。P-Eヒステリシス曲線のシフト量は膜中の水の量と相関があることが分かる。
(実施例24:水/アルコール混合溶媒)
実施例1と同様にして、ただし加熱温度を240℃に代えて200℃と180℃で堆積したKNN膜について、赤外線吸収分析(FTIR)をしたときの吸収強度パターンを実施例1の加熱温度が240℃の場合を含めて、図32(a)に示す。図32(a)において吸収強度は任意単位であり、吸収パターンだけが意味を有する。図32(a)によると、180℃で堆積したKNN膜はOHを多く含み、OHの量が200℃で堆積したKNN膜、240℃で堆積したKNN膜の順で少なくなっていることが分かる。
実施例1と同様にして、すなわち、加熱温度を240℃にして、ただし、オートクレーブ内の水溶媒を水/アルコール混合溶媒(混合重量比8.0/1.6)に代えてKNN膜を堆積した。
実施例1において水溶媒中に生成したKNN粉体と、実施例1及び実施例24で得られたKNN膜とについて、試料を昇温して脱ガス質量スペクトル(TDS)で水分量を評価した結果を図32(b)に示す。図32(b)によれば、結晶内に取り込まれているOHが放出されるピーク(400〜500℃付近)における水分量が、KNN膜ではKNN粉体と比べて2.8分の1と少なく、水/アルコール混合溶媒で得られたKNN膜では水溶媒で得られたKNN膜と比べて5分の1以下に低減している。したがって、水/アルコール混合溶媒を用いることで、KNN膜中の水分量が大幅に減少していること、KNN膜中の水分量は溶媒の組成を変えて制御できることが確認される。
(実施例25:疲労特性)
実施例22と同様に、as depo.、300℃熱処理、600℃熱処理のKNN膜の両面を電極で挟持して作製した圧電素子の一端を固定して、カンチレバーを作成し、圧電素子に電圧10V、周波数1kHzの交流電圧を印加してカンチレバー(圧電素子)の駆動を繰り返して、疲労特性を評価した。いずれにおいても、10,000,000サイクル後も圧電性は変化が認められなかった。
また、300℃熱処理、600℃熱処理したKNN膜の圧電素子について、250℃で熱処理したが、特性劣化、脱分極は観察されなかった。
(実施例26:ポリスルホン箔基板)
実施例2と同様にして、ただし、基板として可撓性のポリスルホン箔(500μm厚)上にLaNiO3膜(100nm厚)を堆積した基板(LaNiO3/Pt/Ti/ポリスルホン)を用い、アルカリとして水酸化カリウムだけを用いて、製膜温度150℃で、厚さ10μmのKNbO3膜を製膜し、ペロブスカイト構造単相であるKNbO3膜が得られた。
また、3.0cmx0.75cmのポリスルホン箔上にスパッタでPt/Ti膜を下部電極として堆積してから、その上にLaNiO3膜(100nm厚)を堆積した基板(LaNiO3/Pt/Ti/ポリスルホン)を用い、KNbO3膜を上記と同様にして厚さ10μm製膜し、その上にPt電極を上部電極として蒸着して、圧電素子モデルを作製した。得られた圧電素子モデルは曲率半径10mmまで曲げることができ、KNbO3膜にマクロな剥離やクラックはなかった。
この圧電素子モデルにおいて圧電特性に起因する電界-電界誘起歪(S-E)曲線が観測され、有機基板上で圧電特性を示すことから、圧電素子であることが確認された。この素子の圧電特性d33は約30pm/Vであり、有機圧電体PVDFのd33=23pm/Vと比べても優れている。
さらに、50μmのインコネル上に作製した、KNN/SrRuO3/インコネル圧電素子に振動を与えて発電の出力電圧を測定すると、周波数105Hzで出力電圧約9Vが観測された。
図33に、観測された発電特性の変化と、圧電素子の基礎特性から計算される出力電力の変化(破線)を示しており、非常によく一致していることが分かった。また、最大出力電力は約3.6μWであった。
発電素子の出力電力密度は1.7μW/G2/mm3であり、従来KNN膜において報告されている200Hz以下の周波数帯での出力電力密度(0.5μW/G2/mm3以下)と比べても大きい。
(実施例27:U字形、巻回の基板)
長さ3cm、幅0.75cm、厚さ50μmのインコネル(登録商標)金属箔の表面にSrRuO3膜を50nm堆積したバッファ層(SrRuO3)を有する金属箔(SrRuO3//金属箔)を用い、この金属箔を曲率半径約5.3mmのU字形に曲げ、金属箔の端部をテフロンの溝に埋め込んで作成した基板を用いて、実施例1と同様の手順で、KNN膜を作製した。膜厚は約14μmであった。
また、上記と同様の金属箔(SrRuO3//金属箔)を用い、最大直径が約0.8cmのゼンマイの形状(2周半の巻回)に曲げ加工した基板を用いて、実施例1と同様の手順で、KNN膜を作製した。膜厚は約12μmであった。
上記のいずれにおいてもKNN膜は、{100}及び{110}配向した結晶が混在しているが一軸配向したペロブスカイト構造の配向膜であり、SrRuO3膜は{100}配向していた。またこれらの湾曲基板上に製膜したKNN膜の圧電特性は、P-Eヒステリシス曲線における残留分極及び抗電界、I-V特性、漏れ電流のいずれにおいても、基板が平坦である場合と同等の良好な圧電特性を示した。
(実施例28:マイクロ波加熱)
実施例1においてはオートクレーブ内を電気発熱体によって240℃に加熱して製膜したが、実施例28では、図34(a)〜(c)に示すように、オートクレーブに代えて、マイクロ波加熱可能な反応装置("flexiWAVE", Milestone General(登録商標))40内に配置した耐アルカリ性、耐圧性の反応容器(テフロン/PEEKの二重容器)41内に入れた水溶液42にマイクロ波を照射し、光ファイバで容器内の温度を観測しながら、設定温度220℃に加熱して、その他は実施例1と同様の条件で。基板43に製膜した。
マイクロ波加熱で得られたKNN膜の組成、結晶性、配向性、圧電特性は、通常の加熱で得られたKNN膜と同様であった。
その結果、マイクロ波加熱を用いると、通常加熱の場合と比べて製膜時間を大幅に短縮でき、例えば、従来数時間を要した膜厚のKNN膜を1時間以下の短時間で製膜できた。
1: 反応容器
2: 水(アルカリ水溶液)
3: ニオブ/タンタル系酸化物
4: 基板
5: 取付具
10:圧電素子
11:基板
12:下部電極
13:ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜
14:上部電極
15:バッファ層
20:超音波プローブ
21:バッキング材
22:振動子(圧電素子)
23:音響整合器
24:音響レンズ
30:焦電発電装置
31:焦電素子
32:強誘電体
33:電極
34:熱源
【0010】
[図22]図22(a)(b)は、結晶質酸化タンタルのX線回折チャート及びSEM写真、図22(c)(d)は、実施例16で得られた非晶質酸化タンタルのX線回折チャート及SEM写真を示す。
[図23]図23(a)は、実施例18及び比較例11で得られたKNN膜のX線回析チャートを示し、図23(b)は、実施例1及び比較例1で得られたKNN膜のX線回析チャートを示す。
[図24]図24は、実施例19で得られたKNN膜のX線回析結果を示す。
[図25]図25は、実施例20で得られたKNNT配向膜のNb/(Nb+Ta)比及びK/(K+Na)比を示す。
[図26]図26は、実施例22で得られたKNLNT膜の圧電特性を示す。
[図27]図27は、as depo.のKNN膜と600℃で熱処理したKNN膜を用いた圧電素子のP−Eヒステリシス曲線と、電界に対するe31.fを示す。
[図28]図28は、as depo.のKNN膜と600℃で熱処理したKNN膜を用いた圧電素子の分極処理電界に対するe31.fを示す。
[図29]図29は、KNN膜のe31.fの膜厚との関係を示す。
[図30]図30は、as depo.のKNN膜と600℃で熱処理したKNN膜を用いた圧電素子のAFM(d33)を示す。
[図31]図31の上図は、熱処理温度を変えたときのP−Eヒステリシス曲線のシフト量の変化を示す。as depo.のKNN膜から熱処理温度が上昇するに従い、シフト量が減少している。図31の下図は、膜中の水の量とP−Eヒステリシス曲線のシフト量との関係を示す。
[図32]図32は、格子内OH−の量と(a)製膜温度及び(b)水含有溶媒との関係を示す。
[図33]図33は、実施例26で観測された発電特性の変化と、圧電素子の基礎特性から計算される出力電力の変化(破線)を示す。
[図34]図34は、マイクロ波加熱可能な反応装置を模式的に示す。
発明を実施するための形態
[0044]
(ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法)

Claims (28)

  1. 反応容器内において、水酸化アルカリと、非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とを含む水含有溶媒中に、基体を浸漬し、加熱及び加圧して、前記基体上にペロブスカイト系の結晶構造を有するニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を堆積すること、前記ニオブ/タンタル系酸化物は、平均組成式(Nb1−xTa(式中、0≦x≦1である。)で表される酸化ニオブ、酸化タンタルの単体、固溶体またはそれらの混合物であり、それらは水和物でもよく、前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜は、式A(Nb1−xTa)O(式中、Aはアルカリ金属の1種または2種以上であり、2種以上のアルカリ金属の割合は任意であり、0≦x≦1である。)で表されるニオブ/タンタル酸アルカリを含む結晶であることを特徴とする、ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の製造方法。
  2. 前記基体が平面及び/又は曲面を含む表面を有し、得られるニオブ/タンタル酸アルカリ系膜の膜厚が70μm以上(前記式中のAの96%以上がカリウムである場合は140μm以上)である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記水酸化アルカリと前記非晶質ニオブ/タンタル系酸化物とのモル比が、1:1.0×10−4〜1:1.0×10である、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記水酸化アルカリが、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウム及び/又は水酸化リチウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
  5. 前記水酸化カリウムと前記水酸化ナトリウムとの合計に対する前記水酸化カリウムのモル比([KOH]/([KOH]+[NaOH]))が、0.6〜1.0である、請求項4に記載の製造方法。
  6. 前記水酸化カリウムと前記水酸化ナトリウムと前記水酸化リチウムとの合計に対する前記水酸化リチウムのモル比([LiOH]/([KOH]+[NaOH]+[LiOH])が、0〜0.1である、請求項4に記載の製造方法。
  7. 前記水含有溶媒中の前記水酸化アルカリの濃度が0.1〜30モル/Lである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
  8. 前記水性溶媒中にCaO、CuO、MnO、Sb、BaO、ZrO及びTiO2から選ばれる酸化物の原料をさらに含み、前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が、CaO、CuO、MnO、Sb、BaO、ZrO及びTiO2から選ばれる酸化物をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
  9. 前記基体がペロブスカイト系の結晶構造を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
  10. 前記基体が、半導体、金属、プラスチック、セラミックスから選ばれる材料からなり、その表面にペロブスカイト系の結晶構造のバッファ層を有する基体である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
  11. 前記基体が導電性基体である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
  12. 前記反応容器が密封容器であり、前記反応容器内の温度を50〜300℃の温度に加熱する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
  13. 前記加熱を、マイクロ波を用いて行う、請求項1〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
  14. 前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が、一軸配向又はエピタキシャル配向した結晶を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
  15. 前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が分極処理なしで分極方向が揃っている、請求項14に記載の製造方法。
  16. 前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜を、前記水含有媒中から取り出した後、100〜750℃の温度でアニールする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の製造方法。
  17. 前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が圧電特性を示す、請求項1〜16のいずれか一項に記載の製造方法。
  18. 請求項1〜17のいずれか一項に記載の製造方法で製造されることを特徴とする一軸配向又はエピタキシャル配向したニオブ/タンタル酸アルカリ系膜。
  19. 式A(Nb1−xTa)O(式中、Aはアルカリ金属の1種または2種以上であり、2種以上のアルカリ金属の割合は任意であり、0≦x≦1である。)で表され、一軸配向又はエピタキシャル配向した結晶を含むニオブ/タンタル酸アルカリ系膜であって、前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が、70μm以上(前記式中のAの96モル%以上がカリウムである場合は140μm以上)の厚さを有するか及び/又は曲面を含む基体上に形成されていることを特徴とするニオブ/タンタル酸アルカリ系膜。
  20. 前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜が分極処理なしで分極方向が揃っている、請求項18又は19に記載のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜。
  21. 前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜がペロブスカイト系の結晶構造を有する基体上に形成されている、請求項18〜20のいずれか一項に記載のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜。
  22. 前記基体が前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜と接する導電性表面を有する、請求項21に記載のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜。
  23. 前記基体が半導体、金属、プラスチック、セラミックスから選ばれる材料を含み、その材料と前記ニオブ/タンタル酸アルカリ系膜との間にペロブスカイト構造のバッファ層を有する基体である、請求項18〜22のいずれか一項に記載のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜。
  24. 圧電又は焦電特性を利用する機能性装置であって、前記圧電又は焦電素子が請求項18〜23のいずれか一項に記載のニオブ/タンタル酸アルカリ系膜と電極とを含む圧電素子を含み、前記機能性装置が、医療用超音波プローブ、超音波トランスミッタ、超音波センサ、焦電発電装置、振動発電装置、アクチュエータから選ばれることを特徴とする機能性装置。
  25. 前記機能性装置が、2〜100MHzの超音波を発信又は受信できる超音波プローブ用トランスデューサを含む、請求項24に記載の機能性装置。
  26. 前記機能性装置が、前記超音波プローブ用トランスデューサを用いて、皮膚の表面下深度20mm以内の領域を画像診断することができる超音波造影装置である、請求項24に記載の機能性装置。
  27. 前記機能性装置が、前記超音波プローブ用トランスデューサを用いて、人体の組織に対して医療的処置を行うことができる医療用装置である、請求項24に記載の機能性装置。
  28. 前記機能性装置が、200Hz以下の共振周波数において1μW・G−2mm−3以上の出力電力密度を有する発電装置である、請求項24に記載の機能性装置。
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