JP2023010186A - ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をaサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料を簡易に製造すること。【解決手段】本実施形態に係る方法は、ビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料と、チタン原料とを含むアルカリ水溶液中に、基体を浸漬して、ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料を前記基体上に堆積させることを特徴とする。【選択図】図2

Description

本発明は、ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法に関する。
強誘電体ペロブスカイト材料は、その誘電特性、強誘電特性、圧電特性から様々な用途に使用される。現在使用されている材料としてはAサイトに鉛原子とジルコニウム原子を含むチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が主流であるが、その他にも、Aサイトにビスマス原子とカリウム原子を含むチタン酸ビスマスカリウム(BKT)や、Aサイトに鉛原子を含むチタン酸鉛のような強誘電体ペロブスカイト材料もその応用が期待されている。
しかし、このような強誘電体ペロブスカイト材料の理想的な単結晶を得ることは難しい。例えば、チタン酸ビスマスカリウムは、チタン酸ビスマスカリウムの粉末を焼結して製造されるが、得られる焼結体は多結晶であり、また500~1200℃の高温で焼結するのでビスマスやカリウムが揮発するという問題があり、圧電体の分極値は30μC/cm2程度にすぎず、PZTの75μC/cm2には遠く及ばず、チタン酸バリウム(BT)の35μC/cm2にも及ばないので、実用化も、開発行為もされていない。
チタン酸ビスマスカリウムをパルスレーザー堆積法(PLD)で製膜することで、圧電特性を向上させることが提案されている(特許文献1)。しかしながら、PLD法は、非常にゆっくりと堆積させる方法であり、研究目的では利用されているが、圧電体の商業的生産に利用することは困難である。さらに、PLD法においても、堆積温度は500℃以上の高温であり、ビスマスやカリウムの揮発の問題は完全には解決されず、得られる圧電体は多くの二次相を含み、さらに厚膜化が難しいため、目的とする圧電体特性は得られていない。
特開2019‐79948号公報
そこで、本発明は、上記の課題を解決し、ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料を簡易に製造できる製造方法を提供する。
本発明は、上記目的を達成するために鋭意努力した結果、液相合成法を用いることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成したものである。
本発明によれば、ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料を低温かつ低圧で製造できる。このように、簡易に強誘電体ペロブスカイト材料を製造でき、様々な基体に強誘電体ペロブスカイト材料を製造することができる。
図1は、正方晶強誘電体ペロブスカイト材料の結晶構造を模式的に示す図である。 図2は、本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法に用いる反応装置の例の模式断面図である。 図3は、模式的な圧電素子を示す横断面図である。 図4は、表面弾性波フィルターの例を模式的に示す図である。 図5は、超音波プローブの例を模式的に示す図である。 図6は、焦電発電装置の例を模式的に示す図である。 図7は、実施例のビスマス前駆体溶液の温度と蒸気圧の関係を示す図である。 図8は、実施例1のBKT膜のX線回析チャートを示す図である。 図9は、実施例1のBKT膜の堆積時間と蛍光X線強度の関係を示す図である。 図10は、実施例1のBKT膜の堆積時間と膜厚の関係を示す図である。 図11は、実施例1のBMT膜の電気特性結果を示す図である。 図12は、実施例2のPT膜のX線回析チャートを示す図である。 図13は、実施例2のPT膜の逆格子マッピング測定結果(MRD hybrid)を示す図である。 図14は、実施例2のPT膜のSEM観察断面写真である。 図15は、実施例2のPT膜の比誘電率(εr)と誘電損失(tanδ)を示す図である。 図16は、実施例2のPT膜の電気特性結果を示す図である。
(ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料)
ペロブスカイト材料は、ABO3で表され、本実施形態は、このAサイトにビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子を含むペロブスカイト材料であって、強誘電体であるペロブスカイト材料の製造方法に関する。このような強誘電体ペロブスカイト材料として、チタン酸ビスマスカリウムやチタン酸鉛がある。
本実施形態のチタン酸ビスマスカリウム(BKT)は、(Bi0.50.5)TiO3で表され、正方晶ペロブスカイト構造を有する。チタン酸ビスマスカリウムはAサイトにBiとK,BサイトにTiが存在する化合物(結晶)である。酸素欠陥は存在しないでよいが、存在してもよい。
また、本実施形態のチタン酸鉛(PT)は、PbTiO3で表され、正方晶ペロブスカイト構造を有する。チタン酸鉛はAサイトにPb,BサイトにTiが存在する化合物(結晶)である。酸素欠陥は存在しないでよいが、存在してもよい。
本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、液相合成法で製造するので、H2O又はOH基を含み得るが、H2O又はOH基を除去又は減少させても、従来技術の強誘電体ペロブスカイト材料と比べて、理想的な又は理想的なものに近い強誘電体ペロブスカイト材料の結晶構造を有している。H2O又はOH基の含有量は、製造条件によるが、チタン酸ビスマスカリウムの全重量を基準にして10000ppm以下、さらには8000ppm以下、7000ppm以下、5000ppm以下、4000ppm以下、3000ppm以下の程度である。H2O又はOH基の含有量は、アニールして任意の含有量、1000ppm以下、100ppm以下、特に0ppmにすることができる。
以下、チタン酸ビスマスカリウムは、(Bi0.50.5)TiO3又は(Bi,K)TiO3又はBKTとして表し、チタン酸鉛は、PbTiO3又はPTとして表す。
強誘電体ペロブスカイト材料は、正方晶以外の結晶構造もとり得るが、本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、正方晶の結晶構造をとる。
図1に本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料の構造(空間群P4mm)を示す。図1において、チタン原子の周りを6個の酸素原子が取り囲んで角に酸素原子が存在する正八面体を形成し、その正八面体が縦横に配列した三次元結晶構造の正八面体の間の空間(八個の正八面体によって取り囲まれる空間)にビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子が配置されて、ビスマス原子、カリウム原子、及び鉛原子は、酸素原子及びチタン原子の列(面)と平行に並ぶ面を構成している。正方晶であり、結晶格子軸であるa軸、b軸、c軸どうしの角度はいずれも直角(90°)であり、結晶格子定数はa=b<cである。c軸方向に電荷が偏位していることによって、圧電特性が発揮される。したがって、一般的には、c/a比が大きい方が分極値もより大きくなり得る。
本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、分極軸方向に一軸配向している。ある結晶基体の上に他の結晶膜が成長する場合に、結晶膜と結晶基体とで結晶の一つの結晶軸がほぼ合致して成長していることを一軸配向膜、結晶の二つの結晶軸がほぼ合致して成長していることをエピタキシャル膜という。本実施形態において、一軸配向はエピタキシャル配向を含む概念である。結晶粒ごとにエピタキシャル成長した”ローカルエピタキシャル成長“の一軸配向膜や、エピタキシャル成長した結晶粒が実質的な大きさを有する単結晶のエピタキシャル膜も形成可能である。基体上に成長した一軸配向又はエピタキシャル配向膜は、成長のために用いた基体から分離して一軸配向又はエピタキシャル配向膜単体とし、また分離した一軸配向又はエピタキシャル配向膜に他の膜や基体を接合したものであってもよい。強誘電体ペロブスカイト材料が一軸配向又はエピタキシャル配向していることにより、優れた圧電特性を有することができる。
強誘電体ペロブスカイト材料が分極軸方向に一軸配向していることで、多結晶である焼結体と比べて、分極特性が顕著に優れることができる。多結晶体であっても分極処理(特定方向に所定の電圧を印加)することで、結晶方向を平均としてある方向に配向させることができるが、多結晶体では配向に限界があり、圧電特性も制約される。これに対して、本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は分極軸方向に一軸配向している、特には単結晶であるので、強誘電体ペロブスカイト材料の理想的な分極特性を実現することが可能である。分極方向は、図1を参照して説明したc軸方向である。c軸は、格子定数が等しい他の二軸(a軸、b軸))と比べて格子定数が大きい軸方向である。一軸配向していることは、X線回折により結晶方向を解析して確認でき、X線解析ピークのロッキングカーブの半値幅が25°以下であることが好ましい。
本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、圧電体として使用可能である。圧電体とは、物質に圧力(力)を加えると、圧力に比例した分極(表面電荷)が現れ、また逆に電界を印加すると変形する物質を言う。圧電体の中には、焦電性を持つ焦電体、強誘電性を持つ強誘電体が含まれる。焦電体とは、温度変化によって誘電体の分極(表面電荷)が変化する物質をいう。強誘電体とは、外部に電場がなくても電気双極子が整列しており、かつ双極子の方向が電場によって変化できる物質を指す。焦電体、強誘電体は、圧電性を示すことが知られている。
(強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法:液相合成法)
本実施形態は、ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料の新規な製造方法を提供する。本実施形態の製造方法は、液相合成法である。本実施形態の液相合成法は、低温、特に300℃以下で、BKTやPTを作製できる特徴がある。
本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法は、ビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料と、チタン原料とを含むアルカリ水溶液中に、基体を浸漬して、ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料を基体上に堆積させることを特徴とする。
図2に、本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法に用いる反応装置の例の断面を模式的に示す。図2において、反応容器1内にはアルカリ水溶液2が収容され、このアルカリ水溶液2に、ビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料3と、チタン原料4が添加されている。また、反応容器1には上方から基体5が懸下されて、アルカリ水溶液2に浸漬されている。反応容器1は、外部雰囲気と連通する部位1aを有しており、開放型となっている。すなわち、反応容器1内の圧力は、外部雰囲気の圧力と等しく、常圧(大気圧)となる。BKTを製造する場合には、原料3として、ビスマス原料及びカリウム原料を添加し、PTを製造する場合には、原料3として鉛原料を添加する。
図2に示す反応装置において、アルカリ水溶液2を加熱すると、ビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料3、チタン原料4のアルカリ水溶液2への溶解度が増加して、次第にアルカリ水溶液2に溶解するとともに、不均一反応により、基体5の表面に強誘電体ペロブスカイト材料の不均一核が生成し、さらにその上への強誘電体ペロブスカイト材料の堆積が進んで基体5の表面に強誘電体ペロブスカイト材料(の膜)が形成される。
本実施形態において、反応容器は、開放式の容器である。反応容器は、また、容器内のアルカリ水溶液中に1又は複数の基体を浸漬できる構造を有するが、基体の保持方法は限定されず、例えば、容器の蓋に設置された取付具6に取り付けられる構造であることができる。アルカリ水溶液中に浸漬される基体5の方向などは縦、横など適宜設定することができる。
本実施形態で用いるアルカリ水溶液は、アルカリと水を含み、さらに有機溶媒を含んでいてもよい。水と混合して用いる有機溶媒としては、アルコール、ケトン、カルボン酸,エーテルなど水と溶解性あるいは混和性のある有機溶媒が好ましい。アルカリ水溶液中の水含有量を少なくすることで、液相合成において生成物中の最も懸念される不純物である格子内OHイオンの量を低減することができる。また、アルカリ水溶液の水の濃度を変えることで、生成する強誘電体ペロブスカイト材料に取り込まれる水(OHイオン)の量を変えることができ、強誘電体ペロブスカイト材料の自己分極の程度を制御できる。なお、取り込まれる水(OH-)の量は、製膜温度を高くして、低減すること、制御することができる。水としては、イオン交換水を用いることが好ましい。
アルカリとしては、水溶液にアルカリ性を付与できるものであれば特に限定はないが、アルカリ金属またはアルカリ土塁金属の水酸化物が好ましく用いられ、例えば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムが用いられ、特に水酸化カリウムを用いることが好ましい。
アルカリ水溶液のpHは8以上であればよく、10以上であることが好ましい。
本実施形態で用いるアルカリの濃度は、0.1~30モル/L、0.1~20モル/L、2~18モル/L、特に8~15モル/Lであってよく、これらの範囲の上限値及び下限値は独立して組み合わせてもよい。アルカリの濃度がこれらの範囲内であると、ビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料との反応性が高くなり、強誘電体ペロブスカイト材料の核生成及び堆積速度が高く、また膜厚も大きくできると考えられる。
本実施形態において、アルカリは反応(加熱)時に反応容器内の水(以下の記載では、水は水含有溶媒であってもよい。)に溶解していればよく、反応容器に注入する水に予め溶解させてもよいし、反応容器に収容されている水に添加して溶解させてもよいし、その組合せでもよい。
本実施形態で用いるビスマス原料は、ビスマスの酸化物、硝酸塩、水酸化物など、アルカリ水溶液中でビスマスイオンを供給することができる物質の単体、固溶体またはそれらの混合物をいうが、これらは水和物でもよい。ビスマス原料として、例えば、(Bi(NO33・5H2O)を用いることができる。
本実施形態で用いるカリウム原料は、カリウムの水酸化物、塩化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩など、アルカリ水溶液中でカリウムイオンを供給することができる物質の単体、固溶体またはそれらの混合物をいうが、これらは水和物でもよい。カリウム原料としては、例えば、水酸化カリウムを用いることができる。なお、アルカリ水溶液のアルカリとして水酸化カリウムを用いている場合には、この水酸化カリウムをカリウム原料として併用することができる。
本実施形態で用いる鉛原料は、鉛の水酸化物、塩化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩など、アルカリ水溶液中で鉛イオンを供給することができる物質の単体、固溶体またはそれらの混合物をいうが、これらは水和物でもよい。鉛原料としては、例えば、硝酸鉛を用いることができる。
本実施形態で用いるチタン原料は、チタンの酸化物、硝酸塩、チタニウムブトキシド、チタン(IV)ビス(アンモニウムラクタト)ジヒドロキシドなど、水酸化カリウム水溶液中でチタンイオンを供給することができる物質の単体、固溶体またはそれらの混合物をいうが、これらは水和物でもよい。チタン原料として、例えば二酸化チタンを用いることができる。
BKTを製造する場合には、ビスマス原料の添加量は、カリウム原料(水酸化カリウム)とビスマス原料とのモル比が、1:1.0×10-5~1:1.0×102となる量であってよい。ビスマス原料の添加量が、この範囲の下限値より多い量であると溶液中に溶解したビスマスが一定量存在できるので好ましく、この範囲の上限値より少ない量であると、溶解したビスマスが均一核生成を起こさずに溶液中に存在するので好ましい。上記のモル比は、1:1.0×10-5~1:1.0×102、1:1.0×10-4~1:1.0×103、さらには1:1.0×10-2~1:1.0-1であってよい。
ビスマス原料とチタン原料とのモル比は、1:1.0×10-5~1:1.0×103であってよい。上記のモル比は、1:1.0×10-3~1:1.0×102、1:1.0×10-1~1:1.0×10、さらには1:0.2~1:8であってよい。
本実施形態においてチタン原料の添加量は、カリウム原料(水酸化カリウム)とチタン原料とのモル比が、1:1.0×10-5~1:1.0×102となる量であってよい。チタン原料の添加量が、この範囲の下限値より多い量であると溶液中に溶解したチタンが一定量存在できるので好ましく、この範囲の上限値より少ない量であると、溶解したチタンが均一核生成を起こさずに溶液中に存在するので好ましい。上記のモル比は、1:1.0×10-5~1:1.0×102、1:1.0×10-4~1:1.0×101、さらには1:1.0×10-3~1:1.0×10-1であってよい。
本実施形態においてビスマス原料とチタン原料の添加量は、同じモル数であること、同じモル数に近いことが好ましが、カリウム原料(水酸化カリウム)に対するモル比が上記の範囲内であれば、異なるモル数であってもよい。
PTを製造する場合には、鉛原料とチタン原料とのモル比は、1:1.0×10-5~1:1.0×103であってよい。上記のモル比は、1:1.0×10-3~1:1.0×102、1:1.0×10-1~1:1.0×10、さらには1:0.2~1:8であってよい。
ビスマス原料、鉛原料及びチタン原料は、粉末状であると、加熱時のアルカリ水溶液への溶解性(アルカリ水溶液との反応性)が高いので好ましいが、塊状などその他の形状であってもよい。
ビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料、及びチタン原料は、反応容器内に予め入れておき、その反応容器に水(又はアルカリ水溶液)を添加してもよいし、あるいは反応容器に水(又はアルカリ水溶液)を入れておき、それにビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料、及びチタン原料を添加してもよい。
本実施形態の製造方法では、得られる強誘電体ペロブスカイト材料は、CaO、CuO、MnO2、Sb23、BaO、ZrO2、TiO2等の酸化物を含むことができ、それによって圧電特性などの特性を改良することができる。これらの酸化物は、アルカリ水溶液中に添加することで、液相合成後に強誘電体ペロブスカイト材料膜中に主に固溶体及び/又は混合物として取り込まれ、複合酸化物を形成する。これらの酸化物の添加量は、強誘電体ペロブスカイト材料の特性を改良する量であれば、特に限定されず、強誘電体ペロブスカイト材料を基準にして、30重量%以下でよく、例えば、1~20重量%、1~10重量%は好ましいが、2重量%以上あるいは0.01~1重量%が好ましいときもある。これらの酸化物の添加量は、強誘電体ペロブスカイト材料に固溶することが知られている量であることは好ましい。しかし、添加量が固溶限界内であっても、全部が固溶せず、混合物になってもよい。
本実施形態の製造方法において、強誘電体ペロブスカイト材料を堆積させる基体は、限定されないが、ペロブスカイト系の結晶構造を有する基体であることが好ましい。基体がペロブスカイト系の結晶構造を有すると、強誘電体ペロブスカイト材料と結晶構造が同じであるので、強誘電体ペロブスカイト材料が堆積しやすく、さらには一軸配向膜やエピタキシャル膜を形成することもできるので好ましい。
好ましく用いられるペロブスカイト系の結晶構造を有する基体としては、ペロブスカイト型酸化物を挙げることができ、ペロブスカイト型酸化物は、ABO3(式中、AはLi, Na, K, Rb, Mg, Ca, Sr, Ba, Pb, Bi, La, Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho, Er,Tm,Yb,Lu, Yなどから選ばれ、Bは、Mg,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe, Co, Ni, Cu,Zn,Zr, Nb, Mo, Ru, In, Sn, Hf, Ta, W, Ir, Pb, Biなどから選ばれる。A,Bは複数であることができ、酸化物は固溶体を含む。)で表される酸化物であり、たとえば、BaTiO3, PbTiO3, KNbO3、PbVO3などが挙げられる。
また、その他のペロブスカイト系の結晶構造を有する基体としては、Cu3Au構造、ReO3構造、K2NiF4構造、Sr3Ti27構造およびSr4Ti310構造、Bi4Ti312構造、タングステンブロンズ構造を持つもの、あるいはNaCl構造、ダイヤモンド構造、閃亜鉛鉱構造、ZnS構造、高温型クリストバル石構造、CaF2構造、C-希土構造、Y23構造を持つ基体などがある。
さらに、本実施形態において用いる基体の結晶格子定数が生成すべき強誘電体ペロブスカイト材料の結晶格子定数と同じか近似するものであれば、格子整合性が高いので、好ましい。結晶格子定数が強誘電体ペロブスカイト材料の結晶格子定数との差は、10%以下、さらには5%以下であることが好ましい。強誘電体ペロブスカイト材料の結晶格子定数は0.3890~0.3973nm程度であるので、基体の結晶格子定数が0.3501~0.4370nm程度、より好ましくは3670~0.4172nm、さらには3773~0.4092nm、特に0.3851~0.4012nmである基体は好ましい。基体と、強誘電体ペロブスカイト材料との格子整合性が高いと、一軸配向膜、さらにはエピタキシャル膜を形成することができるので好ましい。また、基体と、強誘電体ペロブスカイト材料との格子整合性が高いと、堆積できる強誘電体ペロブスカイト材料が増加し、製膜速度を向上させる利点もある。
本実施形態において用いる基体は、導電性を示すものが好ましい。基体が導電性を示すと、強誘電体ペロブスカイト材料が堆積しやすくなる。特に導電性を示すペロブスカイト系の結晶構造を有する基体が好ましく、例えば、Nb:SrTiO3、La:SrTiO3などがある。
また、導電性を示すものでなくても、格子定数や化学種が膜のそれに近いSrTiO3などのペロブスカイト系の結晶構造を有する基体(又はバッファ層)を用いることで、強誘電体ペロブスカイト材料を増大でき、さらに成長速度をより向上させることができる。格子定数や化学種が強誘電体ペロブスカイト材料の格子定数や化学種に近い材料としては、例えば、SrTiO3などがある。基体をSrTiO3にすると、同じペロブスカイト系の結晶構造を有するLaAlO3、KTaO3などと比べて得られる強誘電体ペロブスカイト材料が増大する。格子定数や化学種が強誘電体ペロブスカイト材料の格子定数や化学種に近い基体と導電性を示す基体(バッファ層)を好ましく組み合わせることができる。
本実施形態において用いる基体は、ペロブスカイト系の結晶構造を有する基体のほか、他のセラミックス、金属、プラスチックなどからなる基体でもよい。これらの基体を用いる場合には、基体表面にペロブスカイト系の結晶構造を有し、さらには導電性を有するバッファ層を含むことが好ましい。そのようなバッファ層としては、SrRuO3、(Ba,Sr)RuO3、LaNiO3、La2NiO5、(La,Sr)CoO3などを挙げることができる。
反応容器内のアルカリ水溶液中に基体を浸漬させることは、上記したように、適当な保持手段を用いて行うことができる。本実施形態は液相合成法であるので、膜を堆積させる基体の表面はアルカリ水溶液中に浸漬させることが好ましい。膜を堆積させたくない基体の表面は保護膜やマスク剤で覆ってもよい。
また、基体表面を強誘電体ペロブスカイト材料が堆積しやすい領域と、堆積しにくい領域とで組合せれば、強誘電体ペロブスカイト材料の選択成長が可能である。また、本実施形態では、液相合成法であるから、基体の表面が平坦でなく、曲面であっても、強誘電体ペロブスカイト材料を堆積させることが可能である。本実施形態では、基体の表面が平坦面のみならず曲面であっても、一軸配向又はエピタキシャル配向した強誘電体ペロブスカイト材料を堆積することができる。
反応容器内に、ビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料と、チタン原料とを含むアルカリ水溶液と、アルカリ水溶液中に浸漬された基体とを準備してから、反応容器を密封又は開放させて、容器内を加熱することで、基体上にチタン酸ビスマスカリウムが析出、堆積する。
基体上に堆積する強誘電体ペロブスカイト材料は、一軸配向膜、さらにはエピタキシャル膜であることができる。
反応容器内のアルカリ水溶液を30℃~300℃に加熱することが好ましい。反応の加熱温度は、限定するわけではないが、300℃以下、100℃以下、80℃以下、70℃以下の低温であることができる。このように本実施形態の液相合成法によれば、反応温度が強誘電体ペロブスカイト材料のキュリー温度より低くできるので、製造後の冷却時にクラックが入るなどの欠点がなく、良質の強誘電体ペロブスカイト材料を得ることができる。
製膜温度を高くすると、液相合成において生成物中の最も懸念される不純物である格子内OHイオンの量を低減することができ、また、製膜温度によって格子内OH-の量を制御すること、圧電特性を調整することができる。
本実施形態の製造方法によれば、製膜温度は強誘電体ペロブスカイト材料のキュリー温度より低いが、自己分極して、分極処理なしでも優れた圧電特性を示す強誘電体ペロブスカイト材料配向膜を得ることができる。
反応容器内の加熱は、反応容器に備え付けられたヒータによるほか、ホットスターラーを用いたり、マイクロ波を照射して行ってもよい。マイクロ波加熱によれば、通常の加熱の時と比べて、顕著に製膜速度が向上する。例えば、反応装置として、マイクロ波加熱可能な反応装置(例えば、"flexiWAVE", Milestone General(登録商標))内に、耐アルカリ性の反応容器(テフロン(登録商標)/PEEKの二重容器)を設置して、反応容器内に入れた水にマイクロ波を照射し、光ファイバで容器内の温度を観測しながら、設定温度に加熱してよい。
このように、ビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料と、チタン原料とを含むアルカリ水溶液中に基体を浸漬させた状態で、開放型の反応容器内を加熱すると、常圧においてビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料と、チタン原料とが溶解して、不均一反応で基体表面にビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料が堆積する。
反応時間は、原料が反応できる時間であればよく、限定されない。製造設備や原料組成にもよるが、一回のバッチ処理において、例えば、1~100時間程度でよい。
本実施形態の製造方法によって作製されるチタン酸ビスマスカリウムは、従来の焼結法やPLD法で作製されるチタン酸ビスマスカリウムと比べて、作成中にビスマスやカリウムが揮発することを防ぐことができるので、得られるチタン酸ビスマスカリウムは理想的なチタン酸ビスマスカリウムにより近いものであることができ、またチタン酸ビスマスやチタン酸カリウム、酸化ビスマス、酸化チタンなどの第二次相の生成も防ぐことができるので、その圧電特性において従来法によるものよりも格段と優れることができ、PZTに代替する非鉛系圧電体として有用なものである。
また、本実施形態の製造方法は、常圧で実施できるので、耐圧性の低い反応容器を用いることができ、また、基体として耐圧性の低い基体を用いることができる利点がある。
また、本実施形態の製造方法は、100℃以下のような低温で実施できるので、基体として耐熱性の低い基体を用いることができる利点がある。
本実施形態の製造方法によって作製される強誘電体ペロブスカイト材料は、一軸配向又はエピタキシャル配向している配向膜であるが、強誘電体ペロブスカイト材料の結晶は好ましく単一結晶であることができるが、異相を含んでもよい。
本実施形態の製造方法によって製膜した強誘電体ペロブスカイト材料は、配向性に優れ、しかも自己分極(分極処理なしでも分極方向が揃っている)していることができる。自己分極しているので、ポーリング分極処理なしでも、圧電素子として使用できる。なお、強誘電体ペロブスカイト材料の配向性は堆積基体を選択することでも向上させることができる。
得られた強誘電体ペロブスカイト材料は、ポストアニールすることができ、ポストアニールによれば結晶質が向上する。ポストアニールの温度は、例えば、100℃~800℃未満、100℃~750℃、特に500~700℃でよい。本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、800℃近くまでの高温でアニールしても優れた圧電特性を失わない。
本実施形態の製造方法によれば、一軸配向又はエピタキシャル配向した結晶を含む強誘電体ペロブスカイト材料及びこれを用いた圧電素子や圧電機能性装置が提供される。
本実施形態によって得られる強誘電体ペロブスカイト材料は、各種の圧電素子などに応用される。代表的には、図3の圧電体素子10の例に示すように、基体11は下部電極12を有し、その上に強誘電体ペロブスカイト材料膜13、さらに上部電極14を有するが、基体11と下部電極12との間には必要に応じてバッファ層15を有してもよい。
本実施形態の製造方法によって得られるチタン酸ビスマスカリウム圧電体は、ノイズフィルター、圧電アクチュエータ素子、圧力センサ、超音波振動子、振動発電デバイスなどに広く適用される。
(配向膜、圧電素子、圧電機能装置)
本実施形態によれば、強誘電体ペロブスカイト材料を用いて構成された圧電素子、圧電機能装置が提供される。
本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、一軸配向又はエピタキシャル配向した結晶(膜)であってよい。ある結晶基体の上に他の結晶膜が成長する場合に、結晶膜と結晶基体とで結晶の一つの結晶軸がほぼ合致して成長していることを一軸配向膜、結晶の二つの結晶軸がほぼ合致して成長していることをエピタキシャル膜という。結晶粒ごとにエピタキシャル成長した”ローカルエピタキシャル成長“の一軸配向膜や、エピタキシャル成長した結晶粒が実質的な大きさを有する単結晶のエピタキシャル膜も形成可能である。基体上に成長した一軸配向又はエピタキシャル配向膜は、成長のために用いた基体から分離して一軸配向又はエピタキシャル配向膜単体とし、また分離した一軸配向又はエピタキシャル配向膜に他の膜や基体を接合したものであってもよい。強誘電体ペロブスカイト材料が一軸配向膜又はエピタキシャル配向膜であることにより、優れた圧電特性を有することができる。
本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料圧電体は、限定されないが、10nm~数mm、30nm~100μm、さらには50nm~20μmの膜厚の配向膜であってよい。また、本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料圧電体は、数mm~数10mm以上の最小寸法を有する塊状であってよい。
強誘電体ペロブスカイト材料は曲面を含む基体上に形成されてよく、従来の強誘電体ペロブスカイト材料を用いる圧電素子では実現できなかった、新しい用途(圧電機能性装置)を実現することができる。
また、本実施形態により得られる強誘電体ペロブスカイト材料を用いた新しい圧電機能性装置として、例えば、ノイズフィルター、医療用超音波プローブ、超音波トランスミッタ、超音波センサ、焦電発電装置、振動発電装置、アクチュエータなどが提供される。
ノイズフィルターには、例えば、SAW(Surface Acoustic Wave;弾性表面波)フィルターや、バルク弾性波フィルターがある。バルク弾性波フィルターは、バルク弾性波と呼ぶ圧電膜の共振振動を利用した高周波フィルタで,例えば、共振器の下部に空洞を設けて圧電膜を振動しやすくした構造のものがある。現在,高周波フィルタにはSAW(surface acoustic wave;弾性表面波)フィルタが使われることが多い。
SAWフィルターは、電気信号として入力された高周波信号を圧電体基板の圧電効果により数μm程度の波長の表面波に変換し、その表面波を圧電体基板上に伝搬させ所望の周波数をフィルタリングした後、再び電気信号として取り出す受動部品である。携帯電話などの移動体通信に使用される周波数帯は100MHz~3GHzを中心とした、VHF帯及びUHF帯である。さまざまな周波数には、「くし形電極」の間隔と長さと圧電体や電極の物性を変えることによって、中心周波数や帯域を決めて対応している。図4(a)に示すように、圧電基板21の表面にAlなどの軽い金属薄膜で電極指周期λの励振側の櫛型電極22と,受信側の櫛型電極23をパターン形成し,圧電効果を使ってSAWを櫛型電極22で励振,櫛型電極23で受信することで,電気的な入出力を行うことができる。この櫛型電極によるSAWの励振,受信という一連の動作を通して,fo=v/λの関係にある周波数成分foのみが選択されるため,フィルター機能を持たせることができる.ここでvは素子の振動速度である。図4(b)は1ポートSAWフィルター、図4(c)は2ポートSAWフィルターを示し、図4(b)の櫛型電極32、図4(c)の励振電極34及び受信電極35のSAW移動方向の両側に、反射器33を設けた例である。
超音波プローブは、超音波を送信し、反射してきた超音波を受信して画像や血流情報として表示する超音波検査装置における超音波の送受信を行う部品である。本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、圧電特性が優れており、PZTにも代替できる可能性がある。
図5は、模式的に超音波プローブ40の例を示すが、超音波プローブ40は、バッキング材41、振動子(圧電素子)42、音響整合器43、音響レンズ44を含む。バッキング材41は、振動子の背面に設置されていて、後方への超音波の伝搬を吸収、余分な振動を抑制して超音波のパルス幅を短くする役目がある。振動子42は、超音波の送受信を行う部品である。音響整合器43は、振動子42は生体と比べて音響インピーダンスが大きく、そのままでは超音波が反射してしまうため、振動子42と生体の中間的な音響インピーダンスをもつ物質を間に入れて反射を最小限に抑える部材である。音響レンズ44は、超音波ビームを集束させる役割があり、シリコンゴムが多く使われている。
医療用超音波プローブは、医療用途において、人体などの生体に、超音波を送信し、反射してきた超音波を受信して画像や血流情報として表示するのが医療用超音波診断装置であり、超音波の送受信を行う部分がプローブである。
超音波トランスミッタとは、電気信号を音響振動に変換し媒体に音波を放射する送波用電気音響変換器。多くの場合、受波用の変換器としても用いられ、音響振動を電気信号に変換する機能も有する。
超音波センサは、超音波を発射してから物体に反射して戻ってくる超音波を受信して、目的物を検知し、戻ってくる迄の時間を測定して目的物までの距離測定をするセンサが超音波センサである。発信器としては、振動子(圧電素子)に信号電圧を加え、振動子の共振振動周波数の超音波をスピーカ(送波器)から空中に放射する。受信器としては、空中からの超音波の波動をマイクロホン(受波器)で受信して振動子が電気出力を発生させる。送波器と受波器を合わせて超音波トランジューサ(電気音響変換素子)という。電気音響変換素子は原理的には一つの素子が送波器にも受波器にも働くが、送波と受波では空気の振動振幅も大幅に異なり、しかもインピーダンスを変えたほうが効率がよいので、別個のトランジューサを利用するのが通常である。マイクロコンピュータを用いて、発信器と受信器を制御し、検知、距離測定を行う。このような超音波センサは、高出力であるので、自動車における障害物の検知、距離測定に有利に利用できる。
焦電発電装置とは、図6に模式的に示す焦電発電装置50の例を参照すると、焦電素子51は強誘電体52を電極53の間に挟持してなる。この焦電素子51に時間変化する熱源54が作用すると、温度変化に対応して強誘電体52に変動する電圧が発生して発電が行われる。本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、高い圧電特性を有することから、焦電発電装置として有望である。
振動発電装置とは、振動子(圧電素子)に機械的な外力、振動が加わることにより、振動子の振動を電力に変換して取り出す発電装置である。本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、高出力であり、振動発電装置として有望である。
アクチュエータとは、圧電素子に電圧を印加することにより圧電体自身を変位させ(逆圧電効果)、機械的な力を発生させる装置である。本実施形態の強誘電体ペロブスカイト材料は、高い圧電特性を有することから、アクチュエータとして有望である。
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(Bi前駆体溶液の蒸気圧の測定)
図7は、オートクレーブ内にビスマス前駆体溶液を収容し、このビスマス前駆体溶液の温度とオートクレーブ内の圧力の関係を測定した結果を示すグラフである。参照用として、図7には水の温度と蒸気圧の関係も併記してある。また、表1にいくつかの温度における蒸気圧の数値を示す。表1の数値は、大気圧を基準として表したゲージ圧力である。ビスマス前駆体溶液として、オートクレーブ(内容積70mL)に、脱イオン水を用いて用意した10mol/Lの水酸化カリウム水溶液20mLと、硝酸ビスマス(Bi(NO33・5H2O)0.25g及び二酸化チタン(TiO2)0.15gとを入れたものを使用した。
Figure 2023010186000002
図7に示すように、ビスマス前駆体溶液は70℃以下の低温下において、蒸気圧が非常に低い。このことから、本実施形態で用いる液相合成では、オートクレーブのような密閉型の反応容器を用いずとも、開放型の反応容器を用いることにより、ビスマスの揮発を抑制しつつ、十分に反応させることができるとの知見が得られた。
[実施例1:チタン酸ビスマスカリウム(Bi,K)TiO3(BKT)の製造]
下記のようにして液相合成法で(Bi,K)TiO3(BKT)を作製した。
図2に示すような外部雰囲気と連通する部位1aを確保した開放型の反応容器(内容積70mL)に、脱イオン水を用いて用意した10mol/Lの水酸化カリウム水溶液20mLと、硝酸ビスマス(Bi(NO33・5H2O)0.25g及び二酸化チタン(TiO2)0.15gとを入れ、さらに蓋に懸垂された長さ7.5mm、幅5mm、厚み0.5mm及び長さ15mm、幅7.5mm、厚み0.5mmの(001)SrRuO3//(001)SrTiO3基板(SrRuO3の厚さ70nm)を水酸化カリウム水溶液に浸漬させた。
開放型の反応容器内の溶液を70℃まで昇温し、70℃で数日間(1日又は3日)加熱して、大気圧下で液相合成反応を行った後、取り出した基板を脱イオン水で複数回洗浄し、140℃で乾燥して、(Bi,K)TiO3(BKT)膜を得た。
(BKTの同定)
得られたBKT膜のX線回析(XRD)チャートを図8に示す。図8に示すXRDチャートより、正方晶のペロブスカイト構造を有し、基板の配向性に従った、(100)配向した(Bi,K)TiO3膜であることが示された。また、第二相として代表的なBi4Ti312やK0.5Bi4.5Ti415などに伴うピークは存在しなかった。
図8に示すXRDチャートは、製膜温度70℃において製膜時間を1日(24時間)、3日(72時間)に変えた場合であるが、(00l)(Bi,K)TiO3に起因するピークのみ観測され、これは製膜時間を変化させても(100)cSrRuO3//SrTiO3の方位に従って(100)配向した(Bi,K)TiO3膜が得られていることを示している。
(BKT膜の体積時間と膜厚)
図9は、大気圧合成したBKT膜の堆積時間と蛍光X線強度の関係を示す。蛍光X線分析の測定結果より製膜時間の増加につれて、BiとKの強度が増加している。蛍光X線分析のBi Lα線の強度と過去に測定した断面SEMから見積もった関係式より、BKT膜の膜厚を算出した結果を図10に示す。図10に示すように、大気圧合成したBKT膜の膜厚は、製膜時間の増加に対して増加することが示された。
(圧電素子の作成、圧電特性)
3日間かけて大気圧合成したBKT膜(42nm)上に白金電極を電子ビーム蒸着法で堆積して、BKT膜を上下電極で挟持して、圧電素子を作製した。
圧電素子の圧電特性の測定には、Polytec社製コンパクトレーザドップラ振動計NLV-2500と強誘電体評価システムは株式会社東陽テクニカ社製のFCEを組み合わせた装置を用いた。圧電歪定数(d33)の測定における交流電圧の周波数は10kHzであった。
図11に、実施例の圧電素子の分極‐電界特性(P-Eヒステリシスループ)及び歪-電界特性(S-Eカーブ)を調べた結果を示す。図11に10kHzで電界印加した際のP-Eヒステリシスループとともに、S-Eカーブを示す。電界にほぼ比例する圧電歪(電界誘起歪)を示し、印加した電圧と変位量の傾きから計算により求めた圧電係数d33は57.7pm/Vである。なお、図11では、2種の曲線のどちらが電界誘起歪と分極であるか図面中に指示した。
図11に示すように、BKT膜の強誘電性に起因するP-Eヒステリシスループ及びS-Eカーブが得られた。また、実施例の圧電素子では、自己分極しており、「分極処理」をしないでも、つまり、自発分極の向きを揃えるために高電圧を印加する必要なく、低い印加電圧で比較的に高い圧電性を示していることから、BKT膜は「自己分極」していることが認められる。また、圧電素子は低い印加電圧でも圧電特性に優れることが認められる。また、実施例の圧電素子は、非常に優れた角型比のヒステリシスを示している。
[実施例2:チタン酸鉛PbTiO3(PT)の製造]
下記のようにして液相合成法でPbTiO3(PT)を作製した。
図2に示すような外部雰囲気と連通する部位1aを確保した開放型の反応容器(内容積70mL)に、脱イオン水を用いて用意した10mol/Lの水酸化カリウム水溶液20mLと、硝酸鉛(Pb(NO32)1.204g及び二酸化チタン(TiO2)0.287gとを入れ、さらに蓋に懸垂された長さ7.5mm、幅5mm、厚み0.5mm及び長さ15mm、幅7.5mm、厚み0.5mmの(001)cSrRuO3//(001)SrTiO3基板(SrRuO3の厚さ70nm)を水酸化カリウム水溶液に浸漬させた。
開放型の反応容器内の溶液を70℃まで昇温し、70℃で3日間加熱して、大気圧下で液相合成反応を行った後、取り出した基板を脱イオン水で複数回洗浄し、50℃で乾燥して、PbTiO3(PT)膜を得た。
(PTの同定)
得られたBKT膜のX線回析(XRD)チャートを図12に示す。図12に示すXRDチャートより、正方晶のペロブスカイト構造を有し、基板の配向性に従った、PbTiO3膜であることが示された。また、(00l)PbTiO3に起因するピークのみ観測された、ペロブスカイト単相かつエピタキシャル成長した膜であることが示された。
PT膜の逆格子マッピング測定(MRD hybrid)を図13に示す。図13に示す結果から、PT膜は、SrTiO3単結晶基板およびバッファ層であるSrRuO3と整合したエピタキシャル膜であることが示された。
得られたPT膜をSEM(日立ハイテクノロジーズS-4800)で観察した断面写真を図14に示す。PT膜は、平滑な膜表面を有しており、膜厚約200nmであった。
図15は、PT膜に200mVの交流電圧を印加して、比誘電率(εr)と誘電損失(tanδ)を測定した結果である。比誘電率(εr)は非常に小さく、誘電損失(tanδ)も低周波数領域で上昇するものの、全体に小さい。比誘電率(εr)は広い周波数域において200以下であり、誘電損失(tanδ)も広い周波数域において0.5以下、さらには0.1以下である。
図16に、実施例の圧電素子の分極‐電界特性(P-Eヒステリシスループ)及び歪-電界特性(S-Eカーブ)を調べた結果を示す。図16に10kHzで電界印加した際のP-Eヒステリシスループとともに、S-Eカーブを示す。電界にほぼ比例する圧電歪(電界誘起歪)を示し、印加した電圧と変位量の傾きから計算により求めた圧電係数d33は61pm/Vである。なお、図16では、2種の曲線のどちらが電界誘起歪と分極であるか図面中に指示した。
図16に示すように、PT膜の強誘電性に起因するP-Eヒステリシスループ及びS-Eカーブが得られた。また、実施例の圧電素子では、自己分極しており、「分極処理」をしないでも、つまり、自発分極の向きを揃えるために高電圧を印加する必要なく、低い印加電圧で比較的に高い圧電性を示していることから、PT膜は「自己分極」していることが認められる。また、PT膜は低い印加電圧でも圧電特性に優れることが認められる。
1…反応容器、2…水(アルカリ水溶液)、3…ニオブ原料、4…タンタル原料、5…基体、6…取付具、10…圧電素子、11…基体、12…下部電極、13…強誘電体ペロブスカイト材料膜、14…上部電極、15…バッファ層、21…圧電基板、22…櫛型電極(励振側)、23…櫛型電極(受信側)、31…圧電基板、32…櫛型電極、33…反射器、34…励振電極、35…受信電極、40…超音波プローブ、41…バッキング材、42…振動子(圧電素子)、43…音響整合器、44…音響レンズ、50…焦電発電装置、51…焦電素子、52…強誘電体、53…電極、54…熱源。

Claims (8)

  1. ビスマス、カリウム、又は鉛を含む原料と、チタン原料とを含むアルカリ水溶液中に、基体を浸漬して、ビスマス原子、カリウム原子、又は鉛原子をAサイトに含む強誘電体ペロブスカイト材料を前記基体上に堆積させることを特徴とする、
    強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法。
  2. 前記強誘電体ペロブスカイト材料は、チタン酸ビスマスカリウムであり、
    ビスマス原料と、カリウム原料と、チタン原料とを含むアルカリ水溶液中に、基体を浸漬して、前記基体上にチタン酸ビスマスカリウムを堆積させることを特徴とする、
    請求項1に記載の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法。
  3. 前記強誘電体ペロブスカイト材料は、チタン酸鉛であり、
    鉛原料と、チタン原料とを含むアルカリ水溶液中に、基体を浸漬して、前記基体上にチタン酸鉛を堆積させることを特徴とする、
    請求項1に記載の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法。
  4. 常圧において前記基体上に前記強誘電体ペロブスカイト材料を堆積させる、
    請求項1~3のいずれか一項に記載の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法。
  5. 前記アルカリ水溶液を加熱して、前記基体上に前記強誘電体ペロブスカイト材料を堆積させる、
    請求項1~4のいずれか一項に記載の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法。
  6. 前記アルカリ水溶液を30℃~300℃に加熱する、
    請求項5に記載の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法。
  7. アルカリ水溶液中のアルカリの濃度が0.1~30モル/Lである、請求項1~6のいずれか一項に記載の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法。
  8. 前記アルカリ水溶液として、水酸化カリウム水溶液を使用する、
    請求項1~7のいずれか1項に記載の強誘電体ペロブスカイト材料の製造方法。
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