<第1実施形態>
以下、図面を用いて第1実施形態の視機能検査システムについて説明する。
第1実施形態の視機能検査システムは、図1に示すように、コンピュータ11と入力デバイス18とモニタ19とを有する。
コンピュータ11は、視機能検査システムの各部を制御する視機能検査プログラムがインストールされたコンピュータである。コンピュータ11は、図1に示すように、データ読込部12、記憶装置13、CPU14、メモリ15および入出力I/F16、バス17を有している。データ読込部12、記憶装置13、CPU14、メモリ15および入出力I/F16は、バス17を介して相互に接続されている。さらに、コンピュータ11には、入出力I/F16を介して、入力デバイス18(キーボード、ポインティングデバイスなど)と、表示装置の一例であるモニタ19とがそれぞれ接続されている。なお、入出力I/F16は、入力デバイス18からの各種入力を受け付けるとともに、モニタ19に対して表示用のデータを出力する。
データ読込部12は、上記の視機能検査プログラムを外部から読み込むときに用いられる。例えば、データ読込部12は、着脱可能な記憶媒体からデータを取得する読込デバイス(光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスクの読込装置など)や、公知の通信規格に準拠して外部の装置と通信を行う通信デバイス(USBインターフェース、LANモジュール、無線LANモジュールなど)で構成される。
記憶装置13は、例えば、ハードディスクや、不揮発性の半導体メモリなどの記憶媒体で構成される。記憶装置13には、視機能検査プログラムや、プログラムの実行に必要となる各種のデータが記録されている。
CPU14は、コンピュータ11の各部を統括的に制御するプロセッサである。このCPU14は、上記の視機能検査プログラムの実行によって、視標決定部21、検査結果記憶部22、分析部23、光学特性算出部24の各部として機能する。それぞれの詳細は後述する。なお、視標決定部21、検査結果記憶部22、分析部23、光学特性算出部24の各部は、専用の回路によってハードウェア的に構成されていても良い。
メモリ15は、視機能検査プログラムでの各種演算結果を一時的に記憶する。このメモリ15は、例えば揮発性のSDRAMなどで構成される。
モニタ19は、例えば、液晶表示装置や有機EL表示装置などである。モニタ19は、被験者が着席した位置から例えば、1m程度の距離で、被験者が着席した際の視線(例えば、地上1.2m)程度の高さに設置することが挙げられる。
以上説明した構成の視機能検査システムの動作について説明する前に、まず、視機能検査の概要について説明する。
視機能検査は、被験者の視機能を補正する光学部材に関する情報を取得するための検査である。ここで、視機能の補正には、視認性を向上させることを目的とした補正に限らず、視認性の低下を伴う補正や、視機能を変化させる補正や、視機能を最適化する補正などが含まれる。視機能検査では、例えば、順次モニタ19に表示される視標(詳細は後述する)を被験者が目視し、被験者による視標の視認性(例えば、視標が見える/見えない、眩しさを感じる/感じない等)が検査される。このときの光環境は、例えば、モニタ19の見易さを考慮し、室内において、暗幕により外光を遮断し、室内照明を点灯した環境である。
なお、視機能検査は、不快グレアを想定した視認性検査と、減能グレアを想定した視認性検査を含む。不快グレアとは、隣接する部分の輝度差が著しい場合や、眼に入射する光量が急激に増した時に不快を感じる状態を示す。また、減能グレアとは、眼組織において生じる散乱光により、網膜像のコントラストが低下し、視力低下をきたす状態を示す。
本発明におけるグレア部分とは、視標に近接して、同一視野内に入る位置に設けられる妨害光であり、視標の周囲を切れ目なく囲むような形の光源であっても、視標の周囲に複数個の光源を個々に配置した形でもよい。なお、妨害光とは、不快グレア、減能グレアの要因となる光である。
不快グレアとしては、例えばリング、多角形リングが挙げられ、その大きさや太さは目的に応じて任意に設定可能である。また、減能グレアとしては、円形または多角形の形の複数の光源を視標に近接して配置することが挙げられる。配置する位置は、視標の上下、左右に1乃至複数列に直線に光源を並べる形、視標を中心にして複数本の放射状に光源を並べる形などがある。いずれの場合でも、視標に対して左右、及び又は上下対称に配置した形で整列させることが好ましい。個々の光源の大きさ及び個数は、任意に設定可能である。
それぞれの視認性検査の詳細は後述する。
次に、視標について説明する。
本発明における視標とは、具体的には、ランドルト環、正弦波縞、ガボール視標、円視標、楕円視標、四角視標、アルファベット視標、スネルレン視標、ひらがな視標、数字視標、動物視標、Teller Acuity Cards II(乳幼児の縞を好んで見るという性質から作られた乳幼児用の視標)等が挙げられる。
本実施形態では、図2および図3に示す2種類の視標を使用する。図2に示す視標は注目部分である円部分Aとその背景部分とを有する。上述した不快グレアを想定した視認性検査に用いる。図2に示す視標を用いた視認性検査では、被験者は、視標から一定の距離離れた位置から見て、円部分Aについての眩しさを判定する。なお、図2では、1つの円部分Aを示すが、2以上の複数の円部分Aが視標としてモニタ19に表示されてもよい。
図3に示す視標は注目部分であるランドルト環Bとその背景部分とを有する。前述した視標の外側に更に妨害光としてリング状のグレア部分Cを設け、上述した減能グレアを想定した視認性検査に用いる。ここでいうランドルト環とは、視力の判定に用いるものであるが、上下左右にとどまらず何れかの方向が1箇所欠けたリング状である。図3に示す視標を用いた視認性検査では、被験者は、視標から一定の距離離れた位置から見て、ランドルト環Bの欠けた方向を判定する。なお、図3では、ランドルト環Bとグレア部分Cとの1組を示すが、2以上の複数組が視標としてモニタ19に表示されてもよい。
なお、被験者による判定結果の取得はどのような方法で行われても良い。例えば、被験者が口頭で判定結果を述べ、検査者が聞き取りを行ったうえで、上述した入力デバイス18および入出力I/F16を介して判定結果を入力する構成であっても良いし、上述した入力デバイス18の少なくとも一部を被験者の近傍に用意し、被験者がこの入力デバイス18および入出力I/F16を介して判定結果を入力する構成であっても良い。また、音声認識の技術を利用して、被験者の声に基づき判定結果を入力する構成としても良い。
本実施形態では、視標は上述したモニタ19に表示される。視標決定部21は、モニタ19にどのような視標を表示するかを決定し、バス17および入出力I/F16を介して、モニタ19に決定した視標を表示させる。モニタ19における画面の明るさ(輝度)は、例えば最大輝度が300cd/m2程度である場合、50%以下で行うことも可能である。視標決定部21の決定内容の詳細は後述する。
視機能検査システムは、このような視機能検査を実行するとともに、視機能検査の結果に基づいて、被験者の視機能を補正するための光学部材の光学特性を得るためのものである。光学部材とは、機械・器具の一部をなしている部分品で、光の現象および性質に関連したもの(例えば、光学レンズ、光学フィルタ、など)であり、本実施形態では、光学部材の一例として、光学レンズを対象とした視機能検査システムについて説明する。
以上説明した視機能検査システムの動作について図4および図5に示すフローチャートを参照して説明する。
ステップS1において、CPU14は、各部を制御して視機能検査を行う。視機能検査の詳細は、図5に示すフローチャート(ステップS11からS18)を参照して説明する。
視機能検査には上述したように、不快グレアを想定した視認性検査と、減能グレアを想定した視認性検査とがある。図5に示すステップS11からステップS13においては、一定背景に提示された視標の円状の注目部分の明るさを変え、被験者が眩しさを感じる明るさを調べることにより、不快グレアを想定した視認性検査を行う。この検査は、例えば、3分程度の所要時間で行うことができる。一方、図5に示すステップS14からステップS18においては、一定背景に提示された視標の注目部分であるランドルト環Bと、その外側に配置されるリング状のグレア部分との少なくとも一方の明るさを変え、被験者がランドルト環Bの欠けた方向を視認できる明るさの閾値を調べることにより、減能グレアを想定した視認性検査を行う。この検査は、例えば、10分程度の所要時間で行うことができる。
ステップS11において、CPU14は、円状の注目部分を含む視標を用いた基準検査を行う。基準検査とは、被験者の視機能を補正する光学部材に関する情報を取得するための検査の基準となる検査である。ステップS11の基準検査は、後述するステップS12におけるNDフィルタの効果の検査およびステップS13におけるカラーフィルタ効果の検査の対照となる検査である。
CPU14は、視標決定部21により、図2で説明した円状の注目部分を含む視標を順次モニタ19に表示する。本実施形態では、一例として、視標決定部21が、円状の注目部分の明るさを暗い状態から明るい状態に一定の提示時間で順次変化させてモニタ19に表示する。例えば、視標決定部21は、図6に示すように、一定背景に提示された円状の注目部分の明るさを、A−0、B−0、C−0、D−0の順に順次明るい状態に変化させる。被験者は、視標から一定の距離離れた位置から見て、少しでも眩しさを感じた場合には「眩しさを感じた」と判定する。この眩しさは、不快グレアによるものであり、視機能検査において一定背景と円状の注目部分との輝度差が著しい状態を示す。基準検査が終了すると、CPU14は、「眩しさを感じた」と判定した視標よりも円状の注目部分の明るさが一段暗い視標を検査結果として検査結果記憶部22に記憶し、ステップS12に進む。
なお、視標決定部21は、例えば、A−0、B−0、C−0、D−0の明るさの異なる4つの注目部分を同時にモニタ19に表示し、被験者は、4つの注目部分を比較して判定しても良い。
ステップS12において、CPU14は、NDフィルタ効果の検査を行う。NDフィルタ効果の検査とは、光量のみを少なくして行う検査である。NDフィルタ効果の検査では、その結果を上述したステップS11における基準検査と比較することにより、被験者の視機能に対する光量の影響に関する情報を取得することができる。NDフィルタ効果の一例としては、いわゆるサングラスによる遮光効果がある。ここでいう、サングラスとは、眩しさを軽減するために、特定の波長ではなく、全ての波長を平均的にカットしたレンズを有する眼鏡を示す。
CPU14は、視標決定部21により、ステップS11で説明した基準検査で用いた円状の注目部分を含む視標に対して、例えば明るさを50%とした視標を順次モニタ19に表示する。具体的には、図6を用いて説明した各視標(A−0、B−0、C−0、D−0)について、図7に示すように、その明るさを50%としたA−N1、B−N1、C−N1、D−N1を視標決定部21がモニタ19に順次提示する。被験者は、ステップS11と同様に判定を行う。NDフィルタ効果の検査が終了すると、CPU14は、「眩しさを感じた」と判定した視標よりも円状の注目部分の明るさが一段暗い視標を検査結果として検査結果記憶部22に記憶し、ステップS13に進む。
なお、視標決定部21は、例えば、A−N1、B−N1、C−N1、D−N1の明るさの異なる4つの注目部分を同時にモニタ19に表示し、被験者は、4つの注目部分を比較して判定しても良い。そして、視標決定部21は、被験者による判定結果を、一覧にしてモニタ19に表示しても良い。
ステップS13において、CPU14は、カラーフィルタ効果の検査を行う。カラーフィルタ効果の検査とは、モニタ19の分光特性を変えて行う検査である。カラーフィルタ効果の検査では、その結果を上述したステップS11における基準検査と比較することにより、被験者の視機能に対する光量の影響をあらわす第1の影響と、色刺激の刺激値の組み合わせの影響をあらわす第2の影響とに関する情報を取得することができる。カラーフィルタ効果の一例としては、いわゆるカラーレンズを有する眼鏡による効果がある。ここでいう、カラーレンズとは、特定の波長をカットした分光透過率のレンズを有する眼鏡用の光学レンズを示す。
CPU14は、視標決定部21により、ステップS11で説明した基準検査で用いた円状の注目部分を含む視標に対して、色刺激の刺激値の組み合わせが異なる視標を順次モニタ19に表示する。例えば、視標決定部21は、図6を用いて説明した各視標(A−0、B−0、C−0、D−0)について、図8に示すように、Rの色刺激値を50%としたA−C1、B−C1、C−C1、D−C1をモニタ19に順次提示する。さらに、視標決定部21は、図8に示すように、Gの色刺激値を50%としたA−C2、B−C2、C−C2、D−C2を順次提示した後、Bの色刺激値を50%としたA−C3、B−C3、C−C3、D−C3をモニタ19に順次提示する。なお、各視標は、Rの刺激値を50%とした場合には青色、Gの刺激値を50%とした場合には赤色、Bの刺激値を50%とした場合には黄色となる。被験者は、ステップS11およびステップS12と同様に判定を行う。カラーフィルタ効果の検査が終了すると、CPU14は、「眩しさを感じた」と判定した視標よりも円状の注目部分の明るさが一段暗い視標を検査結果としてそれぞれ検査結果記憶部22に記憶し、ステップS14に進む。なお、ステップS13では、色刺激の刺激値の組み合わせが異なる3パターンの視標を用いて検査を行うため、検査結果も3種類となる。また、3種類の検査結果は、被験者の視機能に起因して差異のあるものとなる。
なお、視標決定部21は、例えば、互いに異なる色の複数の注目部分を同時にモニタ19に表示し、各注目部分の明るさを変化させ、被験者は、各色の明るさを判定しても良い。また、注目部分が提示されていない部分は、グレーで提示されても良い。
ステップS14において、CPU14は、ランドルト環Bのサイズ検査を行う。この検査は、以降行う視機能検査において、被験者が欠けた方向を容易に認識することができるランドルト環Bのサイズを選択するための検査である。
CPU14は、視標決定部21により、ランドルト環Bを有する視標を順次モニタ19に表示する。本実施形態では、一例として、視標決定部21は、ランドルト環Bの大きさを順次変化させてモニタ19に表示する。例えば、視標決定部21は、図9に示すように、一定背景に提示されたランドルト環Bの大きさを、a−S、b−S、c−S、d−Sの順に順次変化させる。被験者は、視標から一定の距離離れた位置から見て、欠けた方向を容易に認識することができるランドルト環Bのサイズを判定する。ランドルト環Bのサイズ検査が終了すると、CPU14は、検査結果記憶部22により結果を記憶し、ステップS15に進む。
ステップS15において、CPU14は、ランドルト環Bを用いた基準検査を行う。この基準検査は、被験者の視機能を補正する光学部材に関する情報を取得するための検査の基準となる検査である。ステップS15の基準検査は、後述するステップS17におけるNDフィルタの効果の検査およびステップS18におけるカラーフィルタ効果の検査の対照となる検査である。
CPU14は、視標決定部21により、ステップS14で決定したサイズのランドルト環Bを順次モニタ19に表示する。本実施形態では、一例として、視標決定部21は、ランドルト環Bの明るさを明るい状態から暗い状態に順次変化させてモニタ19に表示する。例えば、視標決定部21は、図10に示すように、一定背景に提示されたランドルト環Bの明るさを、a−01、b−01、c−01、d−01の順に順次暗い状態に変化させる。被験者は、視標から一定の距離離れた位置から見て、視認性を判定する。基準検査が終了すると、CPU14は、「視認できない」と判定した視標よりもランドルト環Bの明るさが一段明るい視標を検査結果として検査結果記憶部22に記憶し、ステップS16に進む。
なお、CPU14は、例えば、「視認できない」と判定したランドルト環Bの明るさと、「視認できる」と判定したランドルト環Bの明るさとの境界を示す閾値付近で、単純・変形上下法を用いてコントラストを変化させても良い。そして、CPU14は、刺激値の折り返し平均値を算出し、算出した平均値を用いて輝度コントラスト値および輝度平均値を決定しても良い。
ステップS16において、CPU14は、リング状のグレア部分をランドルト環Bの外側に追加して基準検査を行う。この基準検査は、被験者の視機能を補正する光学部材に関する情報を取得するための検査の基準となる検査である。ステップS16の基準検査は、上述したステップS15の検査と同様に、後述するステップS17におけるNDフィルタの効果の検査およびステップS18におけるカラーフィルタ効果の検査の対照となる検査である。
CPU14は、視標決定部21により、図3で説明したランドルト環Bを含む視標とその外側に配置されるリング状のグレア部分とを順次モニタ19に表示する。このとき、視標決定部21は、グレア部分の明るさは一定である一方、ランドルト環Bの明るさは明るい状態から暗い状態に順次変化させる。本実施形態では、視標決定部21は、例えば、図11に示すように、一定背景に提示された一定の明るさのグレア部分に対して、ランドルト環Bの明るさを、a−02、b−02、c−02、d−02の順に順次暗い状態に変化させる。被験者は、視標から一定の距離離れた位置から見て、視認性を判定する。一般に、視認性は、グレア部分が追加されることで悪化する。この視認性の低下は、減能グレアによるものである。減能グレアは、眼内において生じる散乱光により、網膜像のコントラストが低下し、視機能低下をきたす状態を示す。基準検査が終了すると、CPU14は、「視認できない」と判定した視標よりもランドルト環Bの明るさが一段明るい視標を検査結果として検査結果記憶部22に記憶し、ステップS17に進む。
ステップS17において、CPU14は、上述したステップS12と同様に、NDフィルタ効果の検査を行う。
CPU14は、視標決定部21により、ステップS16で説明した基準検査で用いたランドルト環Bを含む視標とその外側に配置されたリング状のグレア部分とに対して、例えば、明るさを50%として順次モニタ19に表示する。具体的には、視標決定部21は、図11を用いて説明した各視標(a−02、b−02、c−02、d−02)について、図12に示すように、その明るさを50%としたa−N1、b−N1、c−N1、d−N1を順次提示する。被験者は、ステップS15およびステップS16と同様に判定を行う。NDフィルタ効果の検査が終了すると、CPU14は、「視認できない」と判定した視標よりもランドルト環Bの明るさが一段明るい視標を検査結果として検査結果記憶部22に記憶し、ステップS18に進む。
ステップS18において、CPU14は、上述したステップS13と同様に、カラーフィルタ効果の検査を行う。
CPU14は、視標決定部21により、ステップS16で説明した基準検査で用いたランドルト環Bを含む視標とその外側に配置されたリング状のグレア部分とに対して、色刺激の刺激値の組み合わせを異なるものとして順次モニタ19に表示する。例えば、視標決定部21は、図11を用いて説明した各視標(a−02、b−02、c−02、d−02)について、図13に示すように、Rの色刺激値を50%としたa−C1、b−C1、c−C1、d−C1を順次提示する。さらに、視標決定部21は、図13に示すように、Gの色刺激値を50%としたa−C2、b−C2、c−C2、d−C2を順次提示した後、Bの色刺激値を50%としたa−C3、b−C3、c−C3、d−C3を順次提示する。被験者は、ステップS15からステップS17と同様に判定を行う。カラーフィルタ効果の検査が終了すると、CPU14は、「視認できない」と判定した視標よりもランドルト環Bの明るさが一段明るい視標を検査結果として検査結果記憶部22にそれぞれ記憶して視機能検査を終了し、図4に示すステップS2に進む。
なお、ここまで説明した視機能検査は一例であり、この例に限定されない。例えば、不快グレアを想定した視認性検査と、減能グレアを想定した視認性検査とのうち、何れか一方のみを行う構成としても良いし、順番を入れ替えて行う構成としても良い。また、不快グレアを想定した視認性検査と、減能グレアを想定した視認性検査との両方において、NDフィルタ効果の検査と、カラーフィルタ効果の検査との両方を行う例を示したが、何れか一方のみを行う構成としても良い。
また、例えば、減能グレアを想定した視認性検査では、ランドルト環Bを含む視標とその外側に配置されたリング状のグレア部分とを例示したが、グレア部分はリング状以外の形状や、円形または矩形等の複数の図形の組み合わせでも良い。例えば、視標決定部21は、「文字を読み易くする」、または「複雑な背景から注目するものを見つけ易くする」などの視認性検査の目的に応じて、グレア部分の形状を決定しても良い。この場合、検査結果記憶部22は、互いに異なる複数のグレア部分の形状を示す形状データを予め記憶することが好ましく、視標決定部21は、形状データを用いて、視認性検査の目的に応じてグレア部分の形状を決定することが好ましい。
また、減能グレアは、ランドルト環Bとともにモニタ19に表示される代わりに、白熱灯やLED照明などの1つまたは2以上の複数の光源、または少なくとも1つの光源と光源の光を反射する1つまたは複数の反射体とを用いて実現されても良い。例えば、1つまたは複数の光源がモニタ19に対して調整可能な位置に配置され、視標決定部21は、視認性検査の目的に応じて、グレア部分として点灯させる光源、モニタ19に対する位置および明るさなどを決定する。例えば、太陽光環境下や夜間ヘッドライト投光環境下の視認性を想定する場合は、高輝度出力が可能な光源を用いる。
図4に示すステップS2において、CPU14は、分析部23によりCA図を用いた分析を行う。CA図とは、縦軸を輝度コントラスト値(Contrast)とし、横軸を輝度平均値(Average Luminance)とした視認性の二次元評価図であり、輝度コントラスト値と輝度平均値との相関を示す座標系である。CA図については、発明者らが特許第3963299号において詳細に開示している。
輝度コントラスト値とは、視標の注目部分の輝度と背景部分の輝度とのコントラストを示す値である。図2に示した視標においては、注目部分である円状の部分と、背景部分との輝度のコントラストを示す値が輝度コントラスト値に相当する。一方、図3に示した視標においては、上述したように、ランドルト環Bが注目部分であり、ランドルト環Bの外側かつリング状のグレア部分の内側が背景部分である。また、輝度平均値とは、注目部分および背景部分を含む視標の輝度平均値を示す値である。本実施形態では、輝度平均値の一例として、対数輝度平均値を用いる。なお、輝度コントラスト値および輝度平均値は、どのような算出方法で算出されたものであっても良い。
なお、ステップS1の視機能検査(より詳しくは、図5のステップS11からS13,S15からS18)では、輝度コントラスト値と、輝度平均値と、視標の色刺激の刺激値との組み合わせの少なくとも1つが異なる視標を被験者に順次提示した。また、ステップS11およびステップS12で用いた視標は、輝度コントラスト値および輝度平均値が異なる視標となる。ステップS16およびステップS17についても同様である。また、ステップS1の視機能検査において、ステップS13およびステップS18では、色刺激の刺激値の組み合わせが同一の視標を被験者に順次提示した後に、先に提示した視標とは色刺激の刺激値の組み合わせが異なる視標を被験者に順次提示した。
また、上述した視機能検査の変形例として、NDフィルタ効果の検査において、明るさを例示した50%に限らず、複数段階に変化させて検査する構成としても良い。また、カラーフィルタ効果の検査において、色刺激の刺激値の組み合わせは何通りであっても良い。また、視標の提示順は、それぞれ、輝度コントラスト値が大きい状態から小さい状態への変化であっても良いし、輝度コントラスト値が小さい状態から大きい状態であっても良い。また、ステップS1の視機能検査において、基準検査、NDフィルタ効果の検査、カラーフィルタ効果の検査の順に検査を行う例を示したが、輝度コントラスト値を固定し、図6のA−0、図7のA−N1、図8のA−C1、A−C2、A−C3の順に視標を順次提示しても良い。この場合、輝度コントラスト値が固定の状態で、基準、NDフィルタ効果、カラーフィルタ効果(3種類)の検査が行われる。さらに、輝度コントラスト値と、輝度平均値と、視標の色刺激の刺激値との組み合わせをランダムに変更した視標を順次提示しても良い。
ステップS2における分析部23は、まず、ステップS1の視機能検査(より詳しくは、図5のステップS11,S12,S13,S15からS18)の結果に基づいて輝度コントラスト値および輝度平均値を算出し、CA図にプロットする。具体的には、分析部23は、視機能検査の結果として検査結果記憶部22に記憶した視標の輝度画像を作成する。そして、分析部23は、その輝度画像に対してマトリックスを用いた畳み込み演算を施した上で、輝度コントラスト値および輝度平均値を算出する。演算の詳細は、上述した特許第3963299号において詳細に開示しているため省略する。
図14は、図5のステップS11およびS12の結果に基づくCA図を示す。点P1は、ステップS11における基準検査の結果をプロットしたものである。点P1は、円状の注目部分の明るさを順次明るくした際に、被験者が眩しさを感じない境界を示す。この点P1をプロットすると、CA図において境界線L1が決定する。境界線L1は、点P1を通る所定の直線であり、実験および演算の手法によって定まる。境界線L1が定まる根拠として、2015年日本建築学会大会学術講演会梗概集(関東)40200で報告されている研究が挙げられる。以降の各境界線についても同様である。そして、図14において、CA図の境界線L1の下方の領域は、被験者が視認性を有する領域であり、境界線L1の上方の領域は、被験者が視認性を有さない領域である。
点P2は、ステップS12におけるNDフィルタ効果の検査の結果をプロットしたものである。点P2は、ステップS12におけるNDフィルタ効果の検査において、円状の注目部分の明るさを順次明るくした際に、被験者が眩しさを感じない境界を示す。なお、点P1および点P2は、図14に示すように、直線L01上に存在する。この点P2をプロットすると、境界線L2がCA図において定まる。境界線L2は、境界線L1が点P2を通るように平行移動することで定めることができる。なお、境界線L2を定める際に、境界線L1の平行移動と合わせて、境界線L1の傾きや形状を全体的に、または、部分的に補正しても良い。そして、図14において、CA図の境界線L2の下方の領域は、被験者が視認性を有する領域であり、境界線L2の上方の領域は、被験者が視認性を有さない領域である。図14に示すように、ステップS11における円状の注目部分を含む視標を用いた基準検査を対照とすると、ステップS12におけるNDフィルタ効果の検査の結果においては、被験者が視認性を有する領域が変化し、NDフィルタ効果により被験者の視認性が変化する。なお、図14に示した矢印は、被験者の視認性が改善した例を示す。
図15は、図5のステップS11およびS12に加えて、ステップS13の結果に基づくCA図を示す。点P1、点P2、境界線L1、境界線L2は、図14と同様である。点P3は、ステップS13におけるカラーフィルタ効果の検査の結果のうち、もっとも効果が高かったものをプロットしたものである。ステップS13においては、色刺激の刺激値の組み合わせが異なる3種類の視標を用いて検査を行った。そのうち、もっとも効果が高い、すなわち、眩しさを感じた注目部分の明るさがもっとも明るい視標を示す検査結果に基づいて、上述した点P3をプロットする。点P3は、ステップS13におけるカラーフィルタ効果の検査において、円状の注目部分の明るさを順次明るくした際に、被験者が眩しさを感じない境界を示す。なお、点P3も、点P1および点P2と同様に、直線L01上に存在する。この点P3をプロットすると、境界線L3がCA図において定まる。境界線L3は、境界線L1が点P3を通るように平行移動することで定めることができる。なお、境界線L3を定める際にも、境界線L1の平行移動と合わせて、境界線L1の傾きや形状を全体的に、または、部分的に補正しても良い。そして、図15において、CA図の境界線L3の下方の領域は、被験者が視認性を有する領域であり、境界線L3の上方の領域は、被験者が視認性を有さない領域である。図15に示すように、ステップS11における円状の注目部分を含む視標を用いた基準検査を対照とすると、ステップS13におけるカラーフィルタ効果の検査の結果においては、被験者が視認性を有する領域が変化し、カラーフィルタ効果により被験者の視認性が変化する。なお、図15に示した矢印は、被験者の視認性が改善した例を示す。
図16は、図5のステップS15およびS16の結果に基づくCA図を示す。点R1は、ステップS15におけるランドルト環Bを用いた基準検査の結果をプロットしたものである。点R1は、ランドルト環Bの明るさを順次暗くした際に、被験者が視標を視認できなくなる境界を示す。この点R1をプロットすると、境界線L4がCA図において定まる。境界線L4が定まる根拠として、2015年日本建築学会大会学術講演会梗概集(関東)40238で報告されている研究が挙げられる。そして、図16において、CA図の境界線L4の下方の領域は、被験者が視認性を有する領域であり、境界線L4の上方の領域は、被験者が視認性を有さない領域である。
点R2は、ステップS16におけるリング状のグレア部分を追加した基準検査の結果をプロットしたものである。点R2は、ステップS16における検査において、ランドルト環Bの明るさを順次暗くした際に、被験者が視標を視認できなくなる境界を示す。なお、点R1および点R2は、図16に示すように、直線L02上に存在する。この点R2をプロットすると、境界線L5がCA図において定まる。境界線L5は、境界線L4が点R2を通るように平行移動することで定めることができる。なお、境界線L5を定める際にも、境界線L4の平行移動と合わせて、境界線L4の傾きや形状を全体的に、または、部分的に補正しても良い。そして、図16において、CA図の境界線L5の下方の領域は、被験者が視認性を有する領域であり、境界線L5の上方の領域は、被験者が視認性を有さない領域である。図16に示すように、ステップS15におけるランドルト環Bを用いた基準検査を対照とすると、ステップS16におけるリング状のグレア部分を追加した基準検査の結果においては、被験者が視認性を有する領域が減少し、被験者の視認性が悪化する。
図17は、図5のステップS15およびS16に加えて、ステップS17の結果に基づくCA図を示す。点R1、点R2、境界線L4、境界線L5は、図16と同様である。点R3は、ステップS17におけるNDフィルタ効果の検査において、ランドルト環Bの明るさを順次暗くした際に、被験者が視標を視認できなくなる境界を示す。なお、点R3も、図17に示すように、直線L02上に存在する。この点R3をプロットすると、境界線L6がCA図において定まる。境界線L6は、境界線L4が点R3を通るように平行移動することで定めることができる。なお、境界線L6を定める際にも、境界線L4の平行移動と合わせて、境界線L4の傾きや形状を全体的に、または、部分的に補正しても良い。そして、図17において、CA図の境界線L6の下方の領域は、被験者が視認性を有する領域であり、境界線L6の上方の領域は、被験者が視認性を有さない領域である。図17に示すように、ステップS16におけるリング状のグレア部分を追加した視標を用いた基準検査を対照とすると、ステップS17におけるNDフィルタ効果の検査の結果においては、被験者が視認性を有する領域が変化し、NDフィルタ効果により被験者の視認性が変化する。なお、図17に示した矢印は、被験者の視認性が改善した例を示す。
図18は、図5のステップS15からS17に加えて、ステップS18の結果に基づくCA図を示す。点R1、点R2、点R3、境界線L4、境界線L5、境界線L6は、図17と同様である。点R4は、ステップS18におけるカラーフィルタ効果の検査の結果のうち、もっとも効果が高かったものをプロットしたものである。ステップS18においては、色刺激の刺激値の組み合わせが異なる3種類の視標を用いて検査を行った。そのうち、もっとも効果が高い、すなわち、視認できるランドルト環Bの明るさが最も低い(暗い)検査結果に基づいて、上述した点R4をプロットする。点R4は、ステップS18におけるカラーフィルタ効果の検査において、ランドルト環Bの明るさを順次暗くした際に、被験者が視標を視認できなくなる境界を示す。なお、点R4も、図18に示すように、直線L02上に存在する。この点R4をプロットすると、境界線L7がCA図において定まる。境界線L7は、境界線L4が点R4を通るように平行移動することで定めることができる。なお、境界線L7を定める際にも、境界線L4の平行移動と合わせて、境界線L4の傾きや形状を全体的に、または、部分的に補正しても良い。そして、図18において、CA図の境界線L7の下方の領域は、被験者が視認性を有する領域であり、境界線L7の上方の領域は、被験者が視認性を有さない領域である。図18に示すように、ステップS11におけるリング状のグレア部分を追加した基準検査を対照とすると、ステップS18におけるカラーフィルタ効果の検査の結果においては、被験者が視認性を有する領域が変化し、カラーフィルタ効果により被験者の視認性が変化する。なお、図18に示した矢印は、被験者の視認性が改善した例を示す。
図14から図18を用いて説明したCA図を、分析部23は、入出力I/F16を介してモニタ19に表示しても良い。このようなCA図をモニタ19に表示することにより、検査者や被験者に、視機能検査の結果を視覚的に提示することができる。
ステップS3において、CPU14は、光学特性算出部24により光学特性を算出する。光学特性としては、X値、Y値、Z値、またはL*a*b*などが挙げられる。
本実施形態では、上述したように、被験者の視機能を補正するための光学部材として眼鏡用のレンズの光学特性を求める。X値、Y値、Z値は、CIE(国際照明委員会)により定められた表色系の1つで、本件では光学レンズの光学特性を示す評価値の1つとして使用する。
光学特性算出部24は、まず、ステップS1の視機能検査の結果に基づき、光学特性の算出の元となる視標を選択する。上述したように、ステップS1の視機能検査においては、ステップS11、ステップS12、ステップS13、ステップS15、ステップS16、ステップS17、ステップS18の7処理において、検査結果記憶部22に検査結果が記憶されている。光学特性の算出に用いる検査結果の選択はどのように行われても良い。例えば、光学特性算出部24は、図14から図18で説明したCA図において、被験者が視認性を有する領域が最も大きいものを選択しても良い。その後、光学特性算出部24は、被験者の利用目的に応じて検査結果を選択しても良い。以下では、一例として、ステップS18のカラーフィルタ効果の検査において、Bの刺激値を50%とした場合(黄色)の視標を元として光学特性を算出する場合について説明する。
光学特性の算出の元となる視標を選択すると、光学特性算出部24は、その視標に相当する光源の分光分布を求める。ここで、光源とは光を発生するものであり、電球や太陽などの発光体だけでなく、反射光も含む。本実施形態では、モニタ19が光源に相当し、視標に相当する光源の分光分布は、視標を提示した際のモニタ19の分光分布により求めることができる。
図19にステップS18のカラーフィルタ効果の検査において、検査結果記憶部22に検査結果として記憶された視標のうち、Bの刺激値を50%とした場合(黄色)の視標を表示した際のモニタ19の分光分布(以下、分光分布Aと称する)を示す。また、図20に、被験者が視認したい環境における支配的な光源の分光分布(以下、分光分布Bと称する)を示す。なお、図20には、一例として、ある光源の分光分布を示す。そして、図21に2つの分光分布を記載した図を示す。なお、図19から図21において、それぞれの横軸は光の波長を示し、それぞれの縦軸は各波長における分光放射輝度または分光放射照度を示す。
光学特性算出部24は、分光分布Bを分光分布Aに変換するための分光透過率を算出する。ここで、分光透過率とは、透過した光束の分光密度と入射した光束の分光密度比を示す。光学特性算出部24は、所定間隔の光の波長ごとに、(分光分布Aの縦軸の数値)/(分光分布Bの縦軸の数値)を求めることにより、光の波長ごとの分光透過率を算出する。なお、分光透過率を算出する光の波長の間隔は、等間隔であっても良いし、非等間隔であっても良い。例えば、被験者が重要視する波長帯については狭い波長の間隔で詳細な分光透過率を算出し、それ以外の波長帯については広い波長の間隔で大まかな分光透過率を算出しても良い。図22に算出した分光透過率の一例を示す。なお、分光透過率の上限値は1.00とし、算出した分光透過率が1.00を超えるものに関しては、算出結果を1.00に置き換える。そして、光学特性算出部24は、この分光透過率に相当するX値、Y値、Z値を算出する。
なお、光学特性算出部24は、被験者の視機能を補正するための光学部材の分光透過率の波長依存特性を求めるにあたり、その波長領域を、視標のR、G、B各光の主たる発光波長領域に対応した3つの波長領域から構成されるという前提を設定し、さらに、3つの波長領域における各透過率平均値を、視標のR、G、Bの各刺激値と同一の数値と定義する処理を行っても良い。
CPU14は、光学特性算出部24によりX値、Y値、Z値を算出すると、一連の処理を終了する。
以上説明したように、第1実施形態によれば、注目部分の輝度と背景部分の輝度との輝度コントラスト値と、注目部分および背景部分を含む視標の輝度平均値と、視標の色刺激の刺激値との組み合わせの少なくとも1つが異なる視標を被験者に順次提示して視機能検査を行い、検査結果に基づいて、輝度コントラスト値と輝度平均値との相関を示す座標系において、色刺激の刺激値の組み合わせ毎に、被験者が視認性を有する領域と視認性を有しない領域との境界を求める。したがって、光学部材の光学特性と視認性との関係を推測することができるため、検査時を含む多様な光環境を考慮した視機能検査を実現することができる。
また、第1実施形態によれば、視標は表示装置に表示される。したがって、被験者は、複数の光学レンズを試用することなく、比較的短時間で、視機能検査を行うことができる。
<第2実施形態>
以下、図面を用いて本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明し、第1実施形態と同様の部分については説明を省略する。
第2実施形態の視機能検査システムは、第1実施形態の視機能検査システムと同様の構成を有する。ただし、第2実施形態の視機能検査システムは、被験者の視認性に関する目標情報を取得し、取得した目標情報に基づいて目標値を算出し、算出した目標値に基づいて光学特性を算出する。
本実施形態の視機能検査システムの動作について図23に示すフローチャートを参照して説明する。
ステップS21において、CPU14は、上述した図4のステップS1(より詳しくは図5のステップS11からS18)と同様に、各部を制御して視機能検査を行う。
ステップS22において、CPU14は、入出力I/F18を介して目標情報を取得する。目標情報とは、被験者をとりまく環境における光源を示す情報である。具体的には、被験者が視認したいところ、被験者が視認性に問題を感じる、または、感じると推測される場面や状況を撮影した画像などが考えられる。被験者が視認性に問題を感じる場面や状況とは、例えば、被験者が日常生活において、眩しさまたは暗さを感じる、案内のサインなどの注目部分の識別が難しい、柱や階段などの注目部分の立体感を得にくいなどの場面や状況である。同様に、被験者が視認性に問題を感じると推測される場面や状況とは、研究者や医療従事者などが実験や被験者からの聞き取りに基づき推測可能な場面や状況である。いずれの場合も、このような場面や状況を予め撮影した画像を目標情報として取得することにより、被験者ごとに異なる視機能に合わせた光学部材の光学特性を算出することが可能となる。なお、いずれの画像も、どのように撮影したものであっても良いが、上述したCA図への利用を鑑み、輝度画像への変換または近似が可能なもの(例えば、RGB画像、YCbCr画像など)であることが望ましい。
また、上述した画像以外にも、被験者をとりまく環境における光源を示す情報であれば、どのようなものであっても良い。例えば、被験者が視認したいところ、被験者が視認性に問題を感じる、または、感じると推測される場面や状況を示す評価値や数値などが考えられる。被験者が視認性に問題を感じる場面や状況を示す評価値とは、例えば、被験者が日常生活において、眩しさまたは暗さを感じる、案内のサインなどの注目部分の識別が難しい、柱や階段などの注目部分の立体感を得にくいなどの場面や状況において測定した照度や輝度である。同様に、被験者が視認性に問題を感じると推測される場面や状況を示す評価値とは、研究者や医療従事者などが実験や被験者からの聞き取りに基づき推測可能な場面や状況において測定した照度や輝度である。いずれの場合も、このような場面や状況において予め測定した評価値を目標情報として取得することにより、被験者ごとに異なる視機能に合わせた光学部材の光学特性を算出することが可能となる。なお、いずれの評価値も、どのように測定又は算出したものであっても良いが、上述したCA図への利用を鑑み、輝度コントラスト値および輝度平均値への変換または近似が可能なもの(例えば、照度、輝度など)であることが望ましい。
ステップS23において、CPU14は、分析部23によりCA図を用いた分析を行う。CA図の詳細は、第1実施形態と同様である。
分析部23は、まず、ステップS22で取得した目標情報に基づき、目標値を算出する。目標値とは、目標情報に対応する輝度コントラスト値および輝度平均値である。分析部23は、目標情報が画像である場合には、その画像を輝度画像へ変換または近似する。例えば、目標情報がRGB画像である場合には、分析部23は、周知の方法によりRGB表色系の画像をXYZ表色系の画像に変換し、Y画像を輝度画像とする。そして、分析部23は、輝度画像において注目部分と背景部分とを設定し、それらの領域の輝度値に基づいて、輝度コントラスト値および輝度平均値を算出する。
一方、目標情報が評価値である場合には、分析部23は、その評価値を輝度コントラスト値および輝度平均値へ変換または近似する。例えば、分析部23は、目標情報が照度である場合には、公知の式により照度を輝度に変換した後、注目部分の輝度と背景部分の輝度との比を輝度コントラスト値とし、注目部分および背景部分の輝度の平均値を輝度平均値とする。
図24は、ステップS21において、不快グレアを想定した視認性検査が行われた場合の視機能検査の結果に基づくCA図を示す。点P1、点P2、点P3、境界線L1、境界線L2、境界線L3は、第1実施形態の図15と同様である。点C1は、上述した目標値(輝度コントラスト値および輝度平均値)をCA図上にプロットしたものである。点C1は、CA図上において、被験者が視認性を欲するポイントを示す。
一方、図25は、ステップS21において、減能グレアを想定した視認性検査が行われた場合の視機能検査の結果に基づく別のCA図を示す。点R1、点R2、点R4、境界線L4、境界線L5、境界線L7は、第1実施形態の図16と同様である。点D1は、上述した目標値(輝度コントラスト値および輝度平均値)をCA図上にプロットしたものである。点D1は、CA図上において、被験者が視認性を欲するポイントを示す。
ステップS24において、CPU14は、光学特性算出部24により光学特性(例えば、X値、Y値、Z値)を算出する。
光学特性算出部24は、ステップS21において、不快グレアを想定した視認性検査が行われた場合、図24に示すように、ステップS24で算出した目標値(輝度コントラスト値および輝度平均値)に対応する点C1が、境界線L3に関して視認性を有する領域に含まれるように、点C1をCA図上の横軸の負の方向に点P4まで移動する。この点P4は、目標値に対応する点C1を、被験者が視認性を有する領域に含ませるための境界となる。そして、光学特性算出部24は、この点P4から光学特性を求める。具体的には、まず点P4と点C1との対数輝度平均の差T、すなわち、輝度平均値の比を算出し、点P3に相当する視標の分光分布に前記比を乗じることにより点P4に相当する視標の分光分布を求める。その後、点P4に相当する分光分布から、第1実施形態で説明した方法と同様の処理にて、光学特性を求めることができる。
光学特性算出部24は、ステップS21において、減能グレアを想定した視認性検査が行われた場合、図25に示すように、ステップS24で算出した目標値(輝度コントラスト値および輝度平均値)に対応する点D1が、視認性を有する領域に含まれるように境界線L9をCA図において定める。境界線L9は、第1実施形態で説明した境界線L4が、視認性を有する領域に点D1を含むように平行移動することで定まる。次に、光学特性算出部24は、図25に示すように、境界線L9と、第1実施形態で説明した直線L02とが交差する点R5を求める。この点R5は、目標値に対応する点D1を、被験者が視認性を有する領域に含ませるための境界となる。そして、光学特性算出部24は、この点R5から光学特性を求める。具体的には、まず点R5と点R4との輝度平均値の比を算出し、点R4に相当する視標の分光分布に前記比を乗じることにより点R5に相当する視標の分光分布を求める。その後、点R5に相当する分光分布から、第1実施形態で説明した方法と同様の処理にて、光学特性を求めることができる。
そして、光学特性算出部24は、第1実施形態と同様に、光源の分光分布に基づきX値、Y値、Z値を算出すると、一連の処理を終了する。
以上説明したように、第2実施形態によれば、被験者の視認性に関する目標情報として、被験者をとりまく環境における光源を示す情報を取得し、目標情報に基づいて、座標系における目標値を算出する。そして、視機能検査の検査結果と、算出した目標値とに基づいて、光学部材の光学特性を算出する。したがって、実生活で被験者が視認したい対象物の条件をCA図にプロットして分析を行うことにより、被験者の視機能を補正する、つまり被験者が視認したい対象物を視認できるようにする光学部材の光学特性を算出することができる。
なお、上記した各実施形態において、CA図における分析には様々な可能性が考えられる。例えば、被験者が光学レンズなどの光学部材を使用する環境において支配的な光源の分光分布を求め、光学部材の光学特性の算出に用いることにより、使用環境における視認性をシミュレーションすることが可能である。また、光学レンズなどの光学部材の光学特性ごとにCA図を作成することが可能であるため、使用に関する様々なシミュレーションも可能である。
また、上記した各実施形態で示した各視標は、一例であり、本発明はこの例に限定されない。目的に応じて使用する視標を使い分けることで、精度の高い検査の実施が可能となる。例えば、上記した各実施形態では、視標の注目部分として、円状の部分やランドルト環を例示したが、それ以外の図形、文字や絵文字などの形状でも良く、ガボール視標や縞視標などでも良い。そして、視標決定部21は、「文字を読み易くする」、または「複雑な背景から注目するものを見つけ易くする」などの視認性検査の目的に応じて、注目部分の形状を決定する。例えば、視標決定部21は、視認性検査の目的が「文字を読み易くする」の場合、ランドルト環、ひらがな視標などの視標に決定することが好ましい。一方、視標決定部21は、視認性検査の目的が「複雑な背景から注目するものを見つけ易くする」の場合、円視標、ガボール視標や縞視標などの視標に決定することが好ましい。
検査の目的毎に使用される視標の例を表1に示す。
但し、対象者が幼児或いは精神遅滞を伴う障害者の場合は、検査目的と視標の関係は上記とは異なり、動物視標又はTeller Acuity Cards IIを使用することが好ましい。
なお、検査結果記憶部22は、互いに異なる複数の注目部分の形状を示す形状データを予め記憶することが好ましく、視標決定部21は、形状データを用いて、視認性検査の目的に応じて注目部分の形状を決定することが好ましい。
また、上記した各実施形態においては、モニタ19の具体例として、液晶表示装置や有機EL表示装置を例示したが、本発明はこの例に限定されない。分光分布が既知または計測可能であればどのようなものであっても良い。例えば、RGBの三原色以外の光源(例えば、Yellow)を有する表示装置であっても良い。また、バックライト方式の表示装置であっても良いし、自発光型の表示装置であっても良いし、投影型の表示装置であっても良い。
また、上記した各実施形態では、光学部材の一例として、光学レンズを例に挙げたが、本発明はこの例に限定されない。例えば、ルーペ型の光学レンズであっても良いし、個人に合わせて光の波長をコントロールする光学部材として、照明および窓ガラスなどから入射する光量を調整するカバーやフィルムであっても良い。また、照明器具、ディスプレイ、建物や乗り物などの窓ガラスなどの対象物自体に設置するカバー、フィルタ、フィルムであっても良い。さらに、床、壁、天井などの建材や塗料についても応用可能である。
また、上記した各実施形態では、被験者の視機能を補正する光学部材に関する情報を取得する視機能検査システムについて説明したが、以下のような応用も可能である。
例えば、上記した各実施形態で説明した視機能検査の結果に基づき、特性の異なる複数の光学部材から被験者の視機能を補正する光学部材を選択する光学部材の選択方法も本発明の具体的態様として有効である。図26は、光学部材の選択方法の一例を示すフローチャートである。
ステップS31からステップS33の各工程においては、上記した第1実施形態のステップS1からステップS3の各工程と同様の処理が行われる。
ステップS34では、ステップS33で算出された光学特性(例えば、X値、Y値、Z値やL*a*b*)に基づいて光学部材の選択が行われる。例えば、予め用意された複数の光学部材について、予め用意された光学特性(例えば、X値、Y値、Z値)を対応づけたテーブルが参照される。そして、ステップS33で算出された光学特性(例えば、X値、Y値、Z値やL*a*b*)に対応する、或いはそれに近い光学特性の光学部材が選択される。
上記した光学部材の選択方法により、被験者の視機能を補正する光学部材を選択することができる。
また、上記した各実施形態で説明した視機能検査の結果に基づき、被験者の視機能を補正する光学部材を製造する光学部材の製造方法も本発明の具体的態様として有効である。図27は、光学部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
ステップS41からステップS43の各工程においては、上記した第1実施形態のステップS1からステップS3の各工程と同様の処理が行われる。
ステップS44では、ステップS43で算出された光学特性(例えば、X値、Y値、Z値)に基づいて、或いはそれに近い光学特性に基づいて光学部材の製造条件が決定される。
ステップS45では、ステップS44で決定された製造条件にしたがって、光学部材の製造が行われる。
上記した光学部材の製造方法により、被験者の視機能を補正する光学部材を製造することができる。
また、上記した各実施形態で説明した視機能検査の結果に基づき、被験者の視機能を補正する表示部材を製造する表示部材の製造方法も本発明の具体的態様として有効である。ここで、表示部材とは、例えば、コンピュータの各種モニタ、スマートフォンなどのモニタ、タブレットPCのモニタ、テレビのモニタ、拡大読書器(CCTV/Closed Circuit TV)のディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイなどが考えられる。図28は、表示部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
ステップS51からステップS53の各工程においては、上記した第1実施形態のステップS1からステップS3の各工程と同様の処理が行われる。
ステップS54では、ステップS53で算出された光学特性(例えば、X値、Y値、Z値)に基づいて、或いはそれに近い光学特性に基づいて表示部材の製造条件が決定される。
ステップS55では、ステップS54で決定された製造条件にしたがって、表示部材の製造が行われる。
上記した表示部材の製造方法により、被験者の視機能を補正する表示部材を製造することができる。
また、上記した各実施形態で説明した視機能検査の結果に基づき、被験者の視機能を補正する照明装置を製造する照明装置の製造方法も本発明の具体的態様として有効である。図29は、照明装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。
ステップS61からステップS63の各工程においては、上記した第1実施形態のステップS1からステップS3の各工程と同様の処理が行われる。
ステップS64では、ステップS63で算出された光学特性(例えば、X値、Y値、Z値)に基づいて、或いはそれに近い光学特性に基づいて照明装置の製造条件が決定される。
ステップS65では、ステップS64で決定された製造条件にしたがって、照明装置の製造が行われる。
上記した照明装置の製造方法により、被験者の視機能を補正する照明装置を製造することができる。
なお、上述した図26から図29のフローチャートでは、第1実施形態のステップS1からステップS3の各工程と同様の処理を行って光学特性(例えば、X値、Y値、Z値)を算出する例を示したが、第2実施形態のステップS21からステップS24の各工程と同様の処理を行って光学特性(例えば、X値、Y値、Z値)を算出する構成としても良い。
また、上記した各実施形態では、コンピュータ11と入力デバイス18とモニタ19から構成される視機能検査システムを例示したが、上記した各実施形態における各部が一体として製造される視機能検査装置も本発明の具体的態様として有効である。また、上記した各実施形態で説明した視機能検査の結果に基づいて光学特性を算出する光学特性算出装置も本発明の具体的態様として有効である。
また、上記した各実施形態では、一連の処理を視機能検査システム内で完結する例を示したが、各処理の担い手を分割する構成としても良い。例えば、図30に示すように、コンピュータ111と入力デバイス118とモニタ119とを有する視機能検査システムと、コンピュータ211と入力デバイス218とモニタ219とを有する光学特性算出システムとで各処理を分割する構成としても良い。このような構成であれば、例えば、医療機関などに視機能検査システムを備えて視機能検査のみを行い、分析専門の会社などに光学特性算出システムを備えて分析や光学特性の算出を行うことができる。
図30のコンピュータ111は、データ読込部112、記憶装置113、CPU114、メモリ115、入出力I/F116、バス117、通信部101の各部を備える。データ読込部112、記憶装置113、メモリ115、入出力I/F116、バス117の各部の構成は、それぞれ、第1実施形態の図1のデータ読込部12、記憶装置13、メモリ15、入出力I/F16、バス17と略同様である。図30のコンピュータ111の各部は、CPU114により統括的に制御される。通信部101は、コンピュータ111と外部の装置との間を有線または無線で通信するための送受信部である。CPU114は、記憶装置113に記憶された視機能検査プログラムの実行によって、視標決定部121および検査結果記憶部122として機能する。そして、視標決定部121および検査結果記憶部122は、第1実施形態のステップS1または第2実施形態のステップS21と同様に、視機能検査を行う。そして、視機能検査の結果は、バス117および入出力I/F116を介して、通信部101から出力される。
一方、図30のコンピュータ211は、データ読込部212、記憶装置213、CPU214、メモリ215、入出力I/F216、バス217、通信部201の各部を備える。データ読込部212、記憶装置213、メモリ215、入出力I/F216、バス217の各部の構成は、それぞれ、第1実施形態の図1のデータ読込部12、記憶装置13、メモリ15、入出力I/F16、バス17と略同様である。図30のコンピュータ211の各部は、CPU214により統括的に制御される。通信部201は、コンピュータ211と外部の装置との間を有線または無線で通信するための送受信部である。CPU214は、記憶装置213に記憶された光学特性算出プログラムの実行によって、分析部223および光学特性算出部224として機能する。そして、分析部223および光学特性算出部224は、第1実施形態のステップS2、ステップS3、第2実施形態のステップS22、ステップS23、ステップS24の少なくとも1つと同様に、CA図の分析や光学特性の算出を行う。なお、分析部223および光学特性算出部224は、通信部201により受信した視機能検査の結果を、入出力I/F216およびバス217を介して取得し、取得した視機能検査の結果に基づいて、CA図の分析や光学特性の算出を行う。
なお、視標決定部121、検査結果記憶部122、分析部223、光学特性算出部224の各部は、専用の回路によってハードウェア的に構成されていても良い。
また、視機能検査プログラムや光学特性算出プログラムも、本発明の具体的態様として有効である。これらのプログラムは、コンピュータにより読み取り可能な媒体に記憶されたものであっても良いし、Web上のサーバなどに記憶され、インターネットを介してコンピュータにダウンロード可能なものであっても良い。
また、上記した各実施形態の技術は、さらに、医療機器や医療装置への応用の可能性も考えることができる。
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。