JPWO2019088208A1 - ヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデル - Google Patents

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Abstract

肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、(a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して0.01重量%以下、(b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下、及び(c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上、から選ばれる1以上の特性を有する調整飼料で飼育することにより得られる動物を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデルは、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎症状を安定して呈する。

Description

本発明は、げっ歯類動物に特定の処理を施すことにより得られるヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデル、特定の処理を施したげっ歯類動物をヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデルとして使用する方法、このモデルの作製方法、及びこのモデルを用いたヒト非アルコール性脂肪性肝炎の予防、改善、又は治療剤のスクリーニング方法に関する。
肝疾患の原因としては、肝炎ウィルス、アルコール、自己免疫、原発性胆汁性胆管炎などの他に、肥満、糖尿病、高トリグリセリド血症、長期経静脈栄養などによる過剰栄養摂取、内分泌障害、低βリポ蛋白血症、飢餓・再補充症候群などの生活習慣や生活習慣病が知られている。近年、生活習慣に起因する非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)が増加し、問題になっている。NAFLDは、肝細胞に脂肪が沈着するだけの単純性脂肪肝と、肝臓の脂肪化に伴い炎症を起こし線維化が進行する非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)を含む。単純性脂肪肝とは異なりNASHは肝硬変やさらに肝臓癌に進行することから、単純性脂肪肝からNASHへの進展機序の解明および両者の正確な鑑別は、特に大きな課題である。
NASHの発症メカニズムの研究や、NASHの予防又は治療の研究には、NASH症状を示す動物モデルが必要である。従来、NASHの動物モデルとして、コリン及びメチオニン欠乏飼料で飼育したラットが知られている(非特許文献1)。しかし、筋肉量の低下により体重が減少するため、継続的なNASH症状の観察や、薬効評価には使い難い。
また、コリン欠乏メチオニン含有飼料でラットを飼育することによりNASHを誘発できることも知られている。しかし、種差の影響が強く、この飼料をマウスに与えても、NASHに特徴的な線維化は観察されない(非特許文献1)。
また、これらのモデル動物の肝臓は非ヒト動物の肝臓であるため、ヒトNASHを完全に再現した動物モデルではなく、肝臓での代謝活性も非ヒト動物型である。従って、ヒトのNASHの薬効評価に適したモデルとは言い難い。
ここで、特許文献1は、肝障害免疫不全非ヒト動物にヒト肝細胞を移植して初代キメラ非ヒト動物を作製し、この初代キメラ非ヒト動物の肝臓からヒト肝細胞をコラゲナーゼ灌流法により分離し、新たな肝障害免疫不全非ヒト動物に移植して得たキメラ非ヒト動物では、ヒト肝細胞に大滴性の脂肪沈着及びヒト肝細胞の膨潤が観察され、ヒト肝細胞の周囲に好中球を中心とした炎症性細胞が集積し、線維化像も観察され、NASHの症状を呈することを開示している。特許文献1が教える継代移植キメラ非ヒト動物は、その肝臓の大部分がヒト肝細胞で置換されているため、ヒトNASHを再現した動物モデルとして使用できることが期待された。
しかし、特許文献1が教えるキメラ非ヒト動物のNASH症状は再現性が低く、NASH治療薬のスクリーニングなどに広く用いるための動物モデルとしては実用し難い。また、この方法では、ヒトの肝細胞を移植することによりNASHを作製するために、ヒト肝細胞が移植された非NASH群、つまりコントロール群を設定することができないという難点もある。
国際公開2008/001614号公報
日薬理誌(Folia Pharmacol.Jpn.)144,69-74(2014)
本発明は、ヒトNASH症状を安定して呈するげっ歯類動物モデル、このモデルの作製方法、ヒトNASH症状を安定して呈するげっ歯類動物をヒトNASHモデルとして使用する方法、及びこのようなげっ歯類動物を用いてヒトNASH治療剤をスクリーニングする方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ね、肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、コリン又はその塩の配合量が0.01重量%以下、メチオニンの配合量が0.5重量%以下、脂肪含有量が25 kcal%以上に調整された配合飼料で飼育することにより、実施例の項目で示す通り、肝臓において、大滴性の脂肪沈着、線維化、炎症性細胞の浸潤、肝細胞のBallooning (風船様腫大)、マロリーボディなどのNASHに特徴的な病変が認められることを発見した。特に、Ballooning、マロリーボディなどは実験動物などには出現しにくく、ヒトNASHに特異的な病変であるとの報告があるため(PLoS One. 2014 Dec 23; 9(12):e115922. doi: 10.1371/journal.pone.0115922. eCollection 2014.)、このげっ歯類動物は、ヒトNASHを再現したモデルとして使用できることが判明した。
また、本発明者は、上記調整飼料でヒト肝細胞キメラげっ歯類動物を飼育することにより、げっ歯類動物のアラニントランスアミナーゼ(ALT)濃度は変化せず、ヒトALT1濃度が増大することを見出した。肝細胞が障害を受けると、細胞質内の酵素が細胞外に漏出して血液内に入る。ALTは肝臓に最も多く含まれるため、血液中のALT活性は肝障害の指標となる。従って、上記調整飼料は、ヒト肝細胞キメラげっ歯類動物に残存するレシピエント動物の肝細胞に障害を誘発せずに、ヒト肝細胞に特異的に肝障害を誘発できることが判明した。この点でも、上記調整飼料は、ヒトNASHに特徴的な症状を誘発できることが分かる。
また、上記調整飼料でヒト肝細胞キメラげっ歯類動物を飼育することにより、再現性をもってNASH症状を導入できることを確認した。このため、上記調整飼料で飼育したヒト肝細胞キメラげっ歯類動物は、NASHの病態の研究や薬効スクリーニングなどのための動物モデルとして実用できることが判明した。
ヒト肝細胞キメラげっ歯類動物において、肝臓に生着したヒト肝細胞は、その他の組織又は器官のげっ歯類動物細胞や、肝臓に残存するげっ歯類動物の肝細胞との相互作用により機能する。このため、さまざまな障害に対してマウス肝細胞とヒト肝細胞とで感受性が異なる可能性が生じ、ヒト肝細胞に特異的に障害を与えるのは困難な場合が多い。例えば、実施例の項目で示すように、正常なマウスに四塩化炭素(CCl4)を投与することにより作成される炎症及び線維化は一般的に肝炎又は肝硬変モデルとして使用されるが、ヒト肝細胞キメラマウスにCCl4を投与するとヒト肝細胞よりもはるかに強くマウス肝細胞に障害及び壊死が惹起されるため、ヒト肝細胞障害による肝炎又は肝硬変モデルを得ることは難しい。
このような状況下で、ヒト肝細胞キメラげっ歯類動物に、上記調整飼料を与えることで、ヒト肝細胞に特異的に障害を与え、ヒトNASHに特徴的な病変を強く発現できたことは驚くべきことである。
また、非特許文献1にも記載されている通り、調整飼料による病変の誘発にはげっ歯類動物の間でも種差がある。この点でも、調整飼料の投与により、ヒト肝細胞で置換されたげっ歯類動物の肝臓にNASHを誘発できたことは驚くべきことである。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記の〔1〕〜〔14〕を提供する。
〔1〕 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、下記(a)、(b)、及び(c)の1以上の特性を有する調整飼料で飼育することにより得られる動物を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデル。
(a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して、0.01重量%以下
(b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下
(c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上
〔2〕 キメラげっ歯類動物が初代キメラげっ歯類動物、又は継代移植キメラげっ歯類動物である〔1〕に記載のヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデル。
〔3〕 調整飼料で1週間以上飼育する〔1〕又は〔2〕に記載のヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデル。
〔4〕 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、下記(a)、(b)、及び(c)の1以上の特性を有する調整飼料で飼育することにより得られる動物を、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデルとして使用する方法。
(a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して、0.01重量%以下
(b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下
(c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上
〔5〕 キメラげっ歯類動物が初代キメラげっ歯類動物、又は継代移植キメラげっ歯類動物である〔4〕に記載の方法。
〔6〕 調整飼料で1週間以上飼育する〔4〕又は〔5〕に記載の方法。
〔7〕 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、下記(a)、(b)、及び(c)の1以上の特性を有する調整飼料で飼育する工程を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデルの作製方法。
(a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して、0.01重量%以下
(b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下
(c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上
〔8〕 キメラげっ歯類動物が初代キメラげっ歯類動物、又は継代移植キメラげっ歯類動物である〔7〕に記載の方法。
〔9〕 調整飼料で1週間以上飼育する〔7〕又は〔8〕に記載の方法。
〔10〕 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、下記(a)、(b)、及び(c)の1以上の特性を有する調整飼料で飼育する工程を含む方法により得られる動物に被験物質を投与する工程と、投与前後の非アルコール性脂肪性肝炎の症状の程度を比較するか、又は被験物質を投与したキメラげっ歯類動物と被験物質を投与していないキメラげっ歯類動物との間で非アルコール性脂肪性肝炎の症状の程度を比較する工程とを含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎治療剤のスクリーニング方法。
(a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して、0.01重量%以下
(b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下
(c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上
〔11〕 キメラげっ歯類動物が初代キメラげっ歯類動物、又は継代移植キメラげっ歯類動物である〔10〕に記載の方法。
〔12〕 調整飼料で1週間以上飼育する〔10〕又は〔11〕に記載の方法。
〔13〕 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、下記(a)、(b)、及び(c)の1以上の特性を有する調整飼料で飼育することにより得られる動物の、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデルとしての使用。
(a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して、0.01重量%以下
(b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下
(c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上
〔14〕 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換された継代移植キメラげっ歯類動物を含む、ヒト単純性脂肪肝モデル。
本発明のヒトNASH動物モデルは、肝臓の全部又は一部がヒト肝細胞で置換されているため、従来のげっ歯類動物NASHモデルと異なり、ヒトNASHに特徴的な種々の症状を呈し、ヒトNASHを正確に再現したモデルである。また、本発明のヒトNASH動物モデルは、移植したヒト肝細胞が特異的に障害を受けており、このことも、ヒトNASHに特徴的な病変を呈することを裏付けている。また、従来のヒト肝細胞を有するげっ歯類動物のNASHモデルは、NASH症状に再現性が認められなかったが、本発明のヒトNASH動物モデルのNASH症状は再現性がある。
また、通常飼料を与えたヒト肝細胞キメラげっ歯類動物は、単純性脂肪肝は有するが、NASHに進展しないため、本発明のヒトNASH動物モデルは、この単純性脂肪肝を有するヒト肝細胞キメラげっ歯類動物をコントロール動物として用いることができる。なお、初代キメラげっ歯類動物が単純性脂肪肝の症状を呈することは、本発明者らが見出し、特許文献1に報告しているが、継代移植キメラげっ歯類動物が単純性脂肪肝の症状を呈することは、本発明で見出したことである。
このように、本発明のヒトNASH動物モデルは、再現性高くヒトNASH病態を形成し、コントロール動物と比較できる点において、特許文献1で報告したヒト肝細胞キメラげっ歯類動物を用いたNASHモデルよりも優れたモデルといえる。
これらのことから、本発明のモデルは、ヒトNASHの病態を正確に反映した病態モデル動物として、NASHの発症メカニズムの研究やその予防又は治療剤のスクリーニングなどに好適に使用できる。
継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した場合の、血中ヒトアルブミン濃度の推移を示すグラフである。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した場合の、血漿中のヒトALT活性及びマウスALT活性の推移を示すグラフである。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片のヘマトキシリン・エオジン染色像(倍率40倍)である。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片のヘマトキシリン・エオジン染色像(倍率400倍)である。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.IVTJFC)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片のヘマトキシリン・エオジン染色像(倍率400倍)である。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片のシリウスレッド染色像である。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.IVTJFC)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片のシリウスレッド染色像である。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片のシリウスレッド染色像から算出した線維化領域の比率を示すグラフである。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片の抗F4/80抗体免疫染色像である。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片の抗F4/80抗体免疫染色像から算出したマクロファージ/クッパー細胞陽性領域の比率を示すグラフである。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片の抗αSMA抗体免疫染色像である。 継代移植キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片のTUNEL染色像である。 初代キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.IVTJFC)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片のヘマトキシリン・エオジン染色像(倍率400倍)である。 初代キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.IVTJFC)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片のシリウスレッド染色像である。 初代キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.IVTJFC)を、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料又は通常飼料で飼育した後の、肝臓切片の抗F4/80抗体免疫染色像である。 ヒト肝細胞キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)またはSCIDマウスへのCCl4投与群又は非投与群の、血漿中の全ALT活性及びヒトALT活性を示すグラフである。 ヒト肝細胞キメラマウス(ヒト肝細胞Lot No.BD195)にCCl4の投与を投与した後の、肝臓切片のヘマトキシリン・エオジン染色像である。
(1)ヒトNASHげっ歯類動物モデル・その作製方法
本発明のヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルの作製方法は、肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、(a)コリン又はその塩の配合量が0.01重量%以下、(b)メチオニンの配合量が0.5重量%以下、及び(c)脂肪含有量が25 kcal%以上、からなる群より選ばれる少なくとも1の特性を有する調整飼料で飼育する工程を含む方法である。
ヒト肝細胞キメラげっ歯類動物
肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物は、免疫不全肝障害げっ歯類動物にヒト肝細胞を移植することにより作製できる(初代キメラ動物)。また、継代移植キメラげっ歯類動物は、初代キメラげっ歯類動物の体内で増殖したヒト肝細胞を上記の免疫不全肝障害げっ歯類動物と同種の免疫不全肝障害げっ歯類動物に移植することにより得ることができる。キメラげっ歯類動物体内で増殖したヒト肝細胞の移植は、1回又は複数回行うことができる。
げっ歯類動物
げっ歯類動物としては、マウス、ラットのようなネズミ、モルモット、リス、ハムスターなどが挙げられるが、実験動物として汎用されているマウス、ラットのようなネズミが使用し易い。
雄、雌の何れでもよいが、雄が好ましい。
免疫不全肝障害げっ歯類動物
免疫不全肝障害げっ歯類動物は、異種動物由来の細胞に対して拒絶反応を示さない免疫不全であるとともに、そのげっ歯類動物本来の肝臓の細胞が障害を受けている動物である。その動物本来の細胞が障害を受けていることにより、ヒト肝細胞を移植すれば、その肝機能は移植されたヒト肝細胞によって保たれ、ヒト肝細胞の個体内機能を正確に反映した動物となる。また、移植するヒト肝細胞が増殖し易くなる。
免疫不全肝障害動物は、同一個体に、肝障害誘発処理を施すとともに、免疫不全誘発処理を施すことにより作製することができる。肝障害誘発処理としては、四塩化炭素、黄リン、D-ガラクトサミン、2-アセチルアミノフルオレン、ピロリジジンアルカロイドのような肝障害誘発物質の投与や、放射線照射、外科的な肝臓の部分切除などが挙げられる。免疫不全誘発処理としては、免疫抑制剤の投与や胸腺摘出などが挙げられる。
また、免疫不全肝障害動物は、遺伝的免疫不全症の動物に、肝障害誘発処理を施すことによっても作製できる。遺伝的免疫不全症動物としては、T細胞系不全を示す重症複合免疫不全症(SCID:severe combined immunodeficiency)の動物、遺伝的な胸腺の欠損によりT細胞機能を失った動物、RAG2遺伝子を公知のジーンターゲッティング法(Science,244:1288-1292,1989)やゲノム編集技術によりノックアウトした動物などが挙げられる。具体的には、SCIDマウス、RAG2ノックアウトマウス、IL2Rgc/Rag2ノックアウトマウス、NODマウス、NOGマウス、ヌードマウス、ヌードラット、X線照射したヌードラットにSCIDマウスの骨髄を移植して得られる免疫不全ラット(特開2007-228962号、Transplantation. 60(7):740-7, 1995)などが挙げられる。
また、免疫不全肝障害動物は、遺伝的肝障害動物に免疫不全誘発処理を施すことによっても作製できる。遺伝的肝障害動物としては、肝細胞特異的に発現するタンパク質のエンハンサー、及び/又はプロモーターの支配下に連結された肝障害誘発タンパク質遺伝子を用い、公知のトランスジェニック法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77;7380-7384,1980)により作製したトランスジェニック動物が挙げられる。このような動物では、肝障害誘発タンパク質が肝臓特異的に発現するため、肝障害を有するものとなる。肝臓特異的に発現するタンパク質としては、血清アルブミン、コリンエステラーゼ、ハーゲマン因子などが挙げられる。肝障害誘発タンパク質としては、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)、ティッシュープラスミノーゲンアクチベーター(tPA)などが挙げられる。また、例えばフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ遺伝子のような肝機能を担う遺伝子をノックアウトすることによっても遺伝的肝障害を有する動物を得ることができる。また、アルブミンエンハンサープロモーター下にチミジンキナーゼ遺伝子を導入したマウスにガンシクロビルを投与することにより肝障害を起こすこともできる。
さらに、免疫不全肝障害動物は、遺伝的免疫不全動物と、それと同種の遺伝的肝障害動物とを交配させることによっても作製することができる。
遺伝的免疫不全肝障害動物としては、肝障害遺伝子及び免疫不全遺伝子が、それぞれホモまたはヘテロ接合体である動物を用いることができる。
移植に用いるヒト肝細胞は、ヒト肝組織から、コラゲナーゼ灌流法のような常法によって単離したものを用いることができる。例えば14歳以下の小児のヒトの肝細胞を使用することにより、ヒト肝細胞による高置換率が達成される。また、in vivoで活発な増殖能を有する増殖性肝細胞を使用すれば、レシピエントげっ歯類動物の体内で急速に増殖し、正常な肝機能を発揮しうるヒト肝細胞集団を短時間で形成することができる。このような増殖性ヒト肝細胞としては、本発明者らが発明したヒト小型肝細胞(特開平8-112092号など)などが挙げられる。また、Clip細胞のような肝前駆細胞や、iPS細胞、ES細胞のような多能性幹細胞から得たヒト肝細胞も用いることができる。
ヒト肝細胞は、免疫不全肝障害動物の脾臓を経由して肝臓へ移植することができる。また、直接門脈から移植することもできる。移植するヒト肝細胞の数は、1〜200万個程度とすることができる。
免疫不全肝障害動物の性別は特に限定されない。また、移植時の免疫不全肝障害動物の日齢は、特に限定されないが、マウスが低週齢のときにヒト肝細胞を移植すると、マウスの成長とともにヒト肝細胞がより活発に増殖することができる点で、生まれた直後〜6週齢程度の動物を使用するのが好ましい。
移植後の動物を、常法により、飼育すればよい。例えば移植後3〜30週間程度飼育することにより、肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換された初代キメラ動物が得られる。
次に、継代移植キメラ動物の作製方法について説明する。キメラ動物体内で増殖したヒト肝細胞は、例えば、キメラ動物の肝臓組織をコラゲナーゼ処理することにより回収することができる。コラゲナーゼの細胞毒性は、げっ歯類動物肝細胞に対する方が、ヒト肝細胞に対するより高いため、コラゲナーゼ処理時間を調節することにより、キメラ動物の肝細胞に障害を与え、ほぼヒト肝細胞だけを分離することができる。
回収された肝細胞の中には、キメラ動物体内で増殖したヒト肝細胞の他、肝非実質細胞や、レシピエント動物の肝細胞も少量含まれる。従って、回収した肝細胞をそのまま移植に使用してもよいが、ヒト肝細胞あるいはレシピエント動物肝細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いてヒト肝細胞の純度を上げることもできる。
初代キメラ動物から分離したヒト肝細胞のげっ歯類動物の肝臓への移植、増殖方法は、初代キメラ動物の作製と同様である。
本発明では、初代キメラげっ歯類動物、及び継代移植キメラげっ歯類動物の何れも使用することができる。継代移植キメラげっ歯類動物は、1回継代移植したものでもよく、2回以上継代移植したものでもよい。例えば、2〜4回継代移植したキメラげっ歯類動物を用いることができる。何れも、調整飼料で飼育することにより、十分にヒトNASH症状を導入することができる。
調整飼料
本発明で使用する調整飼料がコリン又はその塩の配合量を抑えたものである場合、コリン又はその塩の配合量は、調整飼料の全量に対して(即ち、最終濃度が)、0.01重量%以下が好ましく、0.001重量%以下がより好ましく、コリン又はその塩を配合しない、又は実質的に配合しないことが最も好ましい。これにより、NASH症状を十分に誘発することができる。また、コリン又はその塩を配合しなくても、生育に支障はない。
ここでいうコリン又はその塩の配合量は、飼料へのコリン又はその塩の添加量である。げっ歯類動物を飼育するための飼料中の素材が本来微量のコリン又はその塩を含む可能性はあるが、その含有量は、通常、無視できる。
コリンは、下記式(1)
Figure 2019088208
で示される第4級アンモニウムカチオンである。
コリン塩としては、それには限定されないが、塩化物、水酸化物、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩のような無機塩;酒石酸塩、酒石酸水素塩(重酒石酸塩)、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩のような有機酸塩に代表される有機塩が挙げられる。調整飼料中では、コリンは、通常、塩として存在する。
本発明で使用する調整飼料がメチオニン配合量を抑えたものである場合、メチオニン配合量は、調整試料の全量に対して(即ち、最終濃度が)、0.5重量%以下が好ましく、0.2重量%以下がより好ましく、0.1重量%以下がさらにより好ましい。また、メチオニン配合量は、0.03重量%以上、0.05重量%以上、又は0.1重量%以上とすることができる。この範囲であれば、NASH症状を誘導しつつ、筋肉量の低下による体重の減少を抑制して、実験動物として実用できるものとなる。
ここでいうメチオニン配合量は、飼料へのメチオニンの添加量である。げっ歯類動物を飼育するための飼料中の素材が本来微量のメチオニンを含む可能性はあるが、その含有量は、通常、無視できる。また、ペプチドを構成するメチオニンは、ここでいうメチオニン配合量に含まない。
本発明で使用する調整飼料が脂肪含有量を増大させたものである場合、脂肪含有量は、飼料中のタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量(100 kcal%)に対して、25 kcal%以上、中でも40 kcal%以上、中でも50 kcal%以上、中でも60 kcal%以上とすることが好ましい。これにより、NASH症状を十分に誘発することができる。また、脂肪含有量は、飼料中のタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量(100 kcal%)に対して、120 kcal%以下、中でも90 kcal%以下、中でも70 kcal%以下、中でも60 kcal%以下とすることができる。この範囲であれば、NASH症状を誘導しつつ、実験動物として実用できるものとなる。
また、本発明で使用する調整飼料が脂肪含有量を増大させたものである場合、脂肪含有量は、調整飼料の全量に対して、10重量%以上、中でも20重量%以上、中でも30重量%以上、中でも35重量%以上とすることが好ましい。これにより、NASH症状を十分に誘発することができる。また、脂肪含有量は、調整飼料の全量に対して、70重量%以下、中でも60重量%以下、中でも50重量%以下とすることができる。この範囲であれば、NASH症状を誘導しつつ、実験動物として実用できるものとなる。
本発明において、調整飼料における「脂肪」は、植物性油脂、動物性油脂、及び鉱物性油脂の何れも包含する。
植物性油脂としては、それには限定されないが、コーン油、大豆油、ゴマ油、菜種油、米油、糠油、椿油、ベニバナ油、ヤシ油、綿実油、ひまわり油、エゴマ油、アマニ油、オリーブ油、落花生油、アーモンド油、アボガド油、ヘーゼルナッツ油、ウォルナッツ油、グレープシード油、カカオ脂、ピーナッツバターなどが挙げられる。動物性油脂としては、鯨油、鮫油、肝油、馬油、豚脂、牛脂、馬脂、乳脂、それらの硬化油脂などが挙げられる。
本発明で使用する調整飼料は、(a)コリン又はその塩の含有量が0.01重量%以下、(b)メチオニンの含有量が0.5重量%以下、及び(c)脂肪含有量が25 kcal%以上の何れか1つ、又は2つ以上の特性を有していればよい。具体的には、(a)、(b)、(c)、(a)と(b)、(a)と(c)、(b)と(c)、及び(a)と(b)と(c)の何れでも良い。中でも、(a)と(b)と(c)の組み合わせが好ましい。
本発明で使用する調整飼料は、上記(a)、(b)、及び/又は(c)を満たす範囲で、動物用飼料に通常含まれる、タンパク質、炭水化物、無機質、ビタミンなどの栄養素を含むことができる。
キメラげっ歯類動物は、初代キメラ動物及び継代移植キメラ動物の何れの場合も、ヒト肝細胞置換率が30%以上、中でも50%以上、中でも70%以上になった状態で調整飼料を投与し始めることが好ましい。また、ヒト肝細胞置換率が80%以上、又は90%以上になった状態や、げっ歯類動物の全ての肝細胞がヒト肝細胞で置換された状態で、調整飼料を投与し始めても良い。
ヒト肝細胞置換率は、例えば、キメラ動物の肝臓切片を作製し、染色(例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色)してヒト肝細胞の面積比を測定するか、又はヒト肝細胞特異的な抗体(例えば、サイトケラチン8/18抗体又はSTEM121抗体)を用いて免疫染色を行い、ヒト肝細胞面積比(ヒトサイトケラチン8/18又はSTEM121陽性面積比)を測定することにより求めることができる。キメラ動物の肝臓切片を肝臓の全7葉から採取し、ヒト肝細胞面積比の平均値を求めることで、ヒト肝細胞置換率を正確に把握できる。外側右葉切片のヒト肝細胞置換率は、全7葉の切片のヒト肝細胞置換率の平均値と相関性が高いため、外側右葉切片を用いてヒト肝細胞置換率を求めることもできる。
また、ヒト肝細胞置換率は、キメラ動物の血中ヒトアルブミン濃度を測定し、予め作成しておいた検量線に当て嵌めることにより推定することもできる。
キメラげっ歯類動物を調整飼料で飼育する際、調整飼料を自由摂食させてもよく、強制摂食させてもよい。
また、調整飼料の投与期間は、1週間以上、2週間以上、3週間以上、又は4週間以上とすることができる。また、40週間以下、30週間以下、20週間以下、又は10週間以下とすることができる。この範囲であれば、十分にNASH症状を誘発することができる。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
上記のようにしてヒトNASH症状を呈するヒト肝細胞キメラげっ歯類動物が得られ、この動物は、ヒトNASHモデル(ヒトNASHげっ歯類動物モデル)として使用することができる。
ヒトNASHは、ヒトのアルコール性肝疾患以外の脂肪蓄積性の肝疾患(非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD))の中でも、肝臓において、少なくとも脂肪滴の沈着、炎症性細胞浸潤、及び線維化の症状を示す疾患をいう。
肝臓への脂肪滴の沈着は少しでも認められればよいが、肝臓切片を染色(例えば、Oil Red O染色)して観察される脂肪滴の面積比が5%以上であることが好ましく、33%を超えることがより好ましく、66%を超えることがさらにより好ましい。Nonalcoholic Steatohepatitis Clinical Research Networkが定めるNAFLD activity スコア (NASスコア)(Hepatology. 2005 Jun;41(6):1313-21.)は、脂肪滴の面積比が5%以上33%以下のとき「1」、33%超66%以下のとき「2」、66%超のとき「3」である。
肝臓での炎症性細胞浸潤は、少しでも認められればよいが、肝臓切片を染色(例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色、マッソントリクローム染色)した場合に、肝臓小葉内に×200倍視野当たり、炎症病巣が1個以上認められることが好ましく、2個以上認められることがより好ましく、4個以上認められることがより好ましい。上記NASスコアでは、肝臓小葉の×200倍視野当たりの炎症病巣が1個以上2個未満のとき「1」、2個以上4個以下のとき「2」、4個超のとき「3」である。
肝臓の線維化は少しでも認められればよいが、肝臓切片を染色(例えば、シリウスレッド染色、マッソントリクローム染色)した場合に、類洞周囲及び肝臓小葉中心部、又は門脈周囲に認められることが好ましく(NASスコアFibrosis stage「1」)、類洞周囲及び門脈周囲の両方に認められることがさらにより好ましく(NASスコアFibrosis stage「2」)、架橋性の線維化が観察されることがさらにより好ましく(NASスコアFibrosis stage「3」)、肝硬変が観察されることがさらにより好ましい(NASスコアFibrosis stage「4」)。
上記方法により得られるNASH症状を呈するキメラげっ歯類動物の肝臓では、上記病変の他に、鉄の沈着、肝細胞のアポトーシスも認められ得る。鉄の沈着は、例えば、肝臓切片の鉄染色やヘマトキシリン・エオジン染色により確認することができる。肝細胞のアポトーシスは、例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色においてアポトーシス小体として確認される。また、アポトーシスにより生じるDNA断片をTUNEL(TdT-mediated dUTP nick end labeling)法、あるいは活性化 Caspase 3の免疫染色によって検出することにより確認することもできる。
また、酸化ストレスは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)からNASHへ症状が進行する原因の一つであるとされている。酸化ストレスをもたらすタンパク質として、CYP2E1及び4-hydroxy-2-nonenal (4-HNE)が知られている。CYP2E1はフリーラジカルを発生させる酵素の一つであり、4-HNEは脂質過酸化酵素である。NASH症状を呈するキメラげっ歯類動物の肝臓では、CYP2E1や4-HNEなどの酸化ストレスをもたらすタンパク質の発現又は発現増強が認められ得る。CYP2E1及び4-HNEの発現は、それぞれ、ヒトCYP2E1及びヒト4-HNE抗体を用いた肝臓切片の免疫染色により確認することができる。
また、NASH症状を呈するキメラげっ歯類動物の肝臓では、肝細胞のBallooning(風船様腫大)、マロリーボディなどのヒトNASHに特徴的な病変が認められ得る。肝細胞のBallooning、及びマロリーボディは、肝臓切片を染色(例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色、アザンマロリー染色、マッソントリクローム染色)することにより確認することができる。NASスコアは、肝臓での肝細胞のBallooning変性が少数認められるとき「1」、多数認められるとき「2」である。
さらに、血液、血漿、又は血清において、肝臓に多く存在するヒトアラニントランスアミナーゼ(ALT)活性の向上が認められ得る。ALTはα-ケトグルタル酸のα-ケト基とL-アラニンのアミノ基の転移反応を触媒してピルビン酸とグルタミン酸を生成し、この反応に共役して、乳酸脱水素酵素(LDH)がβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)をβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(NAD)に変えることから、吸光度を指標にNADHの減少速度を測定することにより、ALT活性値を求めることができる。
ALT活性値の測定では、マウス肝細胞由来のALTかヒト肝細胞由来のALTかを区別できないが、ALT活性値の測定に加えて、ヒトALT1濃度をELISAなどにより測定すれば、ALT中に占めるヒト肝細胞由来のALTの比率を把握することができる。
(2)ヒトNASHの予防、治療、又は改善剤のスクリーニング方法
本発明のヒトNASHの予防、治療、又は改善剤のスクリーニング方法は、上記説明した本発明のヒトNASHげっ歯類動物モデルに被験物質を投与する工程と、被験物質投与前後のNASH症状の程度を比較するか、又は被験物質の投与群と非投与群との間でNASH症状の程度を比較する工程とを含む方法である。
被験物質投与前後のNASH症状の程度の比較は、ヒトNASHに認められる上記症状の何れについて行ってもよい。即ち、肝臓における、脂肪滴の沈着、炎症性細胞浸潤、線維化、鉄の沈着、肝細胞のアポトーシス、酸化ストレスをもたらすタンパク質の発現、肝細胞のBallooning、マロリーボディ、ALT活性の何れについて行ってもよい。中でも、脂肪滴の沈着、炎症性細胞浸潤、及び/又は維線化について行うのが好ましい。脂肪滴の沈着、炎症性細胞浸潤、及び線維化の1以上に加えて、鉄の沈着、肝細胞のアポトーシス、酸化ストレスをもたらすタンパク質の発現、肝細胞のBallooning、マロリーボディ、及びALT活性の1以上についても比較することにより、一層精度の高いスクリーニングが行える。
これらの症状が緩和又は改善されていれば、その被験物質はヒトNASHの治療又は改善に有効であると判定することができる。何れかのNASH症状が有意に緩和又は改善されていれば、その被験物質はヒトNASHの治療又は改善に有効であると判定することができるが、1.3倍以上、1.5倍以上、又は2倍以上の緩和又は改善を指標とすることもできる。また、疾患の治療又は改善に有効な薬剤は、通常、その疾患の予防にも有効であるため、このような被験薬剤は、ヒトNASHの予防にも有効であると判定することができる。
被験物質は、特に制限されず、低分子化合物、アミノ酸、核酸、脂質、糖類、天然物の抽出物などが挙げられる。
被験物質の投与経路は、特に制限されず、経口投与、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経皮投与などが挙げられる。
被験物質の投与量、及び投与回数などの投与スケジュールは、効果の有無を判定できるように、被験物質ごとに定めることができる。
被験物質を投与した後、例えば1〜8週間後に、NASH症状の程度を確認し、非投与群のNASH症状の程度と比較することができる。或いは、被験物質の投与前後でNASH症状の程度を比較することもできる。
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)初代ヒト肝細胞キメラマウスの作製
免疫不全肝障害マウスの作製
レシピエント動物として使用したuPA-Tg(+/+)/SCID(+/+)マウスは、株式会社フェニックスバイオにて繁殖させたものを用いた。このマウスは、下記方法により作製したものである。
先ず、特開2013-230093号の実施例1、2に記載した方法でuPA-Tgマウス(hemizygote, +/-)を作製した。
uPA遺伝子は、マウス肝臓からAGPC法(acid-guanidinium-isothiocyanate-phenol-chloroform)で全RNAを抽出し、RNase-free水に溶解した。前記で得た全RNAを用いて、公開されたデータベースに登録されるuPA遺伝子の配列(アクセッション番号:NM008873より作成したuPA遺伝子特異的プライマー(1341番塩基から1360塩基長のアンチセンス配列)及びLongRange Reverse Transcriptase(Qiagen社製)による逆転写反応を、25℃にて10分間、次いで、42℃にて90分間行い、逆転写酵素不活化処理を85℃にて5分間行った後、RNaseH(Invitrogen社製)を添加して37℃にて20分間処理してmRNAを消化し、cDNAのみを残存させた。合成されたcDNAをPCR反応の鋳型としてPCRを行った。上記反応液を全量の1/10添加し、酵素はPhusion DNA polymerase(Fynnzymes社製)を用いた。PCRプライマー(39番塩基から61塩基長のセンス配列)は、uPA遺伝子配列(アクセッション番号:NM008873)より作製した。増幅される断片は、PCR反応では塩基番号39-1360の長さである。得られたDNA断片を後述のマウスアルブミンプロモーター/エンハンサーを持った発現プラスミドに導入し「mAlb uPAInt2」を構築した。「mAlb uPAInt2」は、マウスアルブミンのエンハンサー/プロモーターの下流にラビットβグロビンの第2エキソン、イントロン、第3エキソン・マウスuPAのORF部分・ラビットβグロビンの第3エキソン中のpolyAシグナルを結合したものである。
プラスミド「mAlb uPAInt2」を、エレクトロポレーション法により129SvEvマウスより得られたES細胞に導入し、次いでG418により選択培養を行った。得られたG418耐性コロニーについて、下記のようにして、PCRにより遺伝子が導入されたES細胞の検定を行った。
相同組み換え用ベクター(uPA)DNA 25-30 μgを制限酵素で切断することにより線状化し、精製した。このDNAをマウスES細胞3×106個を含むエレクトロポレーション用緩衝液(20 mM HEPES pH7.0、137 mM NaCl、5 mM KCl、6 mM D-glucose、0.7 mM Na2HPO4)に懸濁し、Field Strength 185V/cm、Capacitance 500μFの条件で、遺伝子導入を行った。導入から24時間経過後、終濃度200 μg/mLのG418(Geniticin)(SIGMA社 G-9516)で選択培養を行った。ES細胞の培養には、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco/BRL社 11965-084)培養液に終濃度15%の牛胎児血清(Hyclone社 SH30071)、終濃度2 mMのL-グルタミン(Gibco/BRL社 25030-081)、終濃度がそれぞれ100 μMの非必須アミノ酸(Gibco/BRL社 11140-050)、終濃度10 mMのHEPES(Gibco/BRL社 15630-080)、終濃度がそれぞれ100 U/mLのペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco/BRL社 15140-122)、終濃度100 μMのβ−メルカプトエタノール(SIGMA社 M-7522)、そして終濃度1000 U/mLのESGRO(LIF)(Gibco/BRL社 13275-029)を添加したものを用いた(以下ES培地と記す)。
また、ES細胞用のフィーダー細胞としては、E14.5の胚から単離したMEF(Mouse Embryonic Fibroblast)細胞を用い、培養液はDMEM(Gibco/BRL社 11965-084)培養液に終濃度10%の牛胎児血清(Hyclone社 SH30071)、終濃度2 mMのL-グルタミン(Gibco/BRL社 25030-081)、終濃度がそれぞれ100 μMの非必須アミノ酸(Gibco/BRL社 11140-050)、終濃度がそれぞれ100 U/mLのペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco/BRL社 15140-122)を添加したものを用いた(以下MEF培地と記す)。150 cm2のフラスコでコンフルエントにまで培養させたMEF細胞をトリプシン/EDTA(0.05%/1mM、Gibco/BRL社 25300-047)ではがし、4枚の10 cmディッシュ、2枚の24穴プレート、2枚の6穴プレート、6個の25 cm2フラスコ、2個の75 cm2フラスコにそれぞれ至適な濃度で撒きなおした。
遺伝子型解析用ES細胞を以下のようにして調整した。
遺伝子導入後5日目から、以下のようにして、出現したG418耐性コロニーを24穴のプレートに継代した。即ち、ピペットマン(ギルソン)を用いてG418耐性コロニーを150 μLのトリプシン/EDTA溶液を含む96穴のマイクロプレートに移し換え、20分間37℃のインキュベーター内で処理した後、ピペットマンでピペッティングすることによって単一細胞にした。この細胞懸濁液を24穴のプレートに移し換え培養を継続した。2日後、24穴のプレート上の細胞を凍結保存用とDNA抽出用の2つに分割した。即ち、細胞にトリプシン/EDTAを500 μL加えて20分間37℃のインキュベーター内で処理し、ES培地を500 μL加えてピペットマンで静かにピペッティングすることによって単一細胞にした。その後、1 mLのES培地の入った24穴プレートに細胞懸濁液の半分を移し、元の24穴プレートにもES培地を1 mL加えた。さらに2日後、片方の24穴プレートの培地を抜いてから、ES培地に終濃度が10%の牛胎児血清と終濃度が10%のジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma社 D-5879)を添加した凍結用培地を1 mL入れて、シールした後-70℃で凍結保存した。
遺伝子導入ES細胞の検定は、PCRによって以下の通りに行った。即ち、コンフルエントの状態まで細胞が増殖した24穴プレートの各ウェルから培地を取り除き、PBSで洗浄した後溶解バッファー(1% SDS、20 mM EDTA、20 mM Tris pH7.5)を250 μLとプロテイナーゼ K(20 mg/mL)5 μLを加えてよく振り、52℃で加温して溶解した。溶解したサンプルからフェノール/クロロホルム抽出によりDNAを抽出し、PCR用の鋳型DNAとして用いた。
uPA遺伝子導入ES細胞は、以下の手順で選択した。
使用したPCRプライマーはラビットβグロビン中に設定した。配列は、センスプライマー:GGGCGGCGGTACCGATCCTGAGAACTTCAGGGTGAG(配列番号1)、アンチセンスプライマー:GGGCGGCGGTACCAATTCTTTGCCAAAATGATGAGA(配列番号2)である。反応はAmpliTaqGold(ABI社)の添付方法に従って行った。95℃で9分間かけて酵素を活性化した後に94℃にて30秒間(変性)、63℃にて30秒間(アニーリング)、72℃にて1分間(伸長)の反応を40回繰り返した。終了後反応液を2%アガロースゲルで泳動してPCRプロダクトの確認を行った。
PCR解析で遺伝子導入が確認されたクローンは、凍結保存してあった96穴プレートを37℃に温めることにより融解し、24穴プレートに継代した。この24穴プレートを24時間、37℃で培養後、DMSOと流動パラフィンを除くために培地を交換した。それぞれのクローンが75〜90%コンフルエントに達した時点で24穴から6穴プレートに継代した。さらに、6穴プレートに75〜90%コンフルエントまで増殖したものが2穴分得られたところで、1穴分は凍結保存し、残りの1穴分は胚盤胞への注入及びDNA抽出に使用した。
凍結保存は以下のように行った。即ち、細胞をPBSで2回リンスした後、0.5 mLのTrypsinを加え、37℃で15〜20分間保温しトリプシン処理を行った後、さらに0.5 mLのES細胞培地を加え、35〜40回ピペッティングを行いES細胞の塊を完全に解離させた。この細胞懸濁液を15 mL遠心チューブに移し、さらに1 mLのES細胞培地でウェルを洗ってチューブに回収した。チューブを1,000 rpmで7分間遠心し、培地を取り除き0.25 mL ES細胞培地に再懸濁し、0.25 mLの2 x凍結培地を加えた。クライオジェニックバイアルにウェルの中身を移し、−80℃で凍らせ、液体窒素中で保存した。
胚盤胞への注入及びDNA抽出用の細胞は、ES細胞の塊を完全に解離させた後、その四分の一を胚盤胞への注入に用い、残りの細胞の三分の一、及び三分の二をそれぞれゼラチンコートした60 mmディッシュに継代した。前者は細胞がコンフルエントにまで増殖したところでPCR解析用のゲノムDNAを抽出し、後者の細胞はコンフルエントにまで増殖したところで3本に分けて凍結した。
uPA遺伝子を持つES細胞を用いて、以下のようにしてキメラマウスを作製した。
遺伝子導入が確認されたES細胞クローンについて、C57BL/6J系マウスの胚盤胞をホスト胚としてキメラ胚を作製し、それを偽妊娠マウスの子宮角に移植して産仔を得た。ホスト胚の採取は、妊娠3日目に、100 μMトリプシン/EDTAを添加したWhitten’s培地で、卵管と子宮を灌流することによって行った。8細胞期胚または桑実胚を24時間Whitten’s培地で培養し、得られた胚盤胞を注入に用いた。注入に用いたES細胞は、継代してから2あるいは3日目にTE処理により分散させ、顕微操作に供するまで4℃で静置した。ES細胞の注入用ピペットとしては、Sutter社製のglass capillary tubing(内径約20 μm)を用いた。胚保定用ピペットとしては、外径1mmの微小ガラス管(NARISHIGE)を微小電極作製器(Sutter社P-97/IVF)を用いて細く引き延ばした後、マイクロフォージ(De Fonburun)を用いて外径50〜100 μmの部分で切断し、さらに口径を10〜20 μmに加工したものを用いた。注入用ピペットと保定用ピペットは、ピエゾシステム(プライムテックPAMS-CT150)を接続したマイクロマニピュレーター(Leica)に接続した。顕微操作に用いたチャンバーとしては、穴あきスライドグラスにカバーグラスを蜜蝋で接着したものを用い、その上に約10 μLの0.3% BSAを加えたHepes-buffered Whitten’s培地のドロップを2個置き、上面をミネラルオイル(シグマ)で覆った。一方のドロップには、約100個のES細胞を入れ、他方には拡張胚盤胞を20個程度入れ、胚1個あたり約15個のES 細胞を注入した。顕微操作はすべて、倒立顕微鏡下で行った。操作胚は、偽妊娠2日目のICR系受容雌の子宮角に移植した。分娩予定日に至っても産仔を娩出しなかった受容雌については、帝王切開を施し、里親に哺育させた。C57BL/6J系マウスの胚盤胞に、45クローンのES細胞を注入した結果、39クローンにおいて雄キメラマウスが得られた。
このようにして得たuPA-Tgマウス(hemizygote, +/-)をSCID-bgマウスに2回バッククロスさせ、uPA-Tg(+/-)SCID(+/+)の遺伝子型を持つマウスを得た。そのマウスの雄より精子を採取し、SCIDマウス(homozygote, +/+)の未受精卵と体外受精後、仮腹に戻した。生まれた子マウスの内、Tg遺伝子の入ったマウスを選択肢、自然交配にて、両方の形質を持つマウスuPA-Tg(+/-)/SCID (+/+)を得た。uPA-Tg(+/-)とuPA-Tg(-/-)の識別は、導入遺伝子に特異的な配列をプライマーに用い、ゲノムPCR法により行った。
フォワードプライマー
5’-GGGCGGCGGTACCGATCCTGAGAACTTCAGGGTGAG-3’(配列番号3)
リバースプライマー
5’-GGGCGGCGGTACCAATTCTTTGCCAAAATGATGAGA-3’(配列番号4)
また、SCID (+/+)、SCID (+/-)とSCID(-/-)の識別は、PCR-RFLP法により行った。
次に、得られたuPA-Tg(+/-)/SCID(+/+)同士を交配させ、uPA-Tg(+/+)/SCID(+/+)とuPA-Tg(+/-)/SCID(+/+)を得た。uPA-Tg(+/+)とuPA-Tg(+/-)の識別はサザンブロット法により実施した。生後8〜10日目のマウスの尾を約5 mm切断し、 SDS, プロテイナーゼK溶液により可溶化し、フェノールおよびクロロホルム抽出により混在するタンパク質成分を除去した。 DNase-free RNase Aを用いて混在するRNAを分解した後、イソプロパノール沈澱により高分子ゲノムDNAを析出させた。上記のゲノムDNAを70%エタノールで洗浄して風乾させた後、TEに再溶解させた。検体から抽出したゲノムDNA、陽性および陰性コントロールのゲノムDNA、それぞれ5 μgをEcoR1で完全消化させ、生成するDNA断片をアガロース電気泳動により分離し、ナイロンメンブレンにトランスファーした。制限酵素EcoR1を用いて、uPA cDNAプローブ/TAからサザンハイブリダイゼーションのプローブに適したDNAフラグメントを精製した(379 bp)。ランダムプライム法により、上記のDNAフラグメントを[32P]ラベルした。ナイロンメンブレンにトランスファーされたDNAフラグメントを、RIラベルしたuPA cDNAプローブとハイブリダイズさせた。洗浄により非特異的に結合したプローブを取り除き、mAlb-uPA-Int2 Tgマウスの候補の個体に導入されている外来遺伝子に由来する放射活性シグナルを、X線フィルムに感光して検出した。野生型遺伝子座由来の1.5 kbの特異的なシグナル、および変異型遺伝子座由来の0.4 kb(wt:1.5 kb)の特異的なシグナルを検出して、mAlb-uPA-Int2 Tgマウス個体のジェノタイプを判定した。
uPA-Tg(+/+)/SCID(+/+)マウスとSCID/c.b-17マウス(日本チャールスリバー)を掛け合わせ、uPA-Tg(+/-)/SCID(+/+)マウスを得た。uPA-Tg(+/+)/SCID(+/+)マウスを初代用の移植に、uPA-Tg(+/-)/SCID(+/+)マウスを継代用のホストマウスとして用いた。
ヒト肝細胞移植
ヒト肝細胞としては、BD Gentest社より購入した肝細胞(Lot No.BD195、女児、2才)及びBioIVT社より購入した肝細胞(Lot No. IVTJFC、男児、1才)を、それぞれ使用した。これらの凍結肝細胞は「Chise Tateno, Yasumi Yoshizane, Naomi Saito, Miho Kataoka, Rie Utoh, Chihiro Yamasaki, Asato Tachibana, Yoshinori Soeno, Kinji Asahina, Hiroshi Hino, Toshimasa Asahara, Tsuyoshi Yokoi, Toshinori Furukawa, Katsutoshi Yoshizato: Near-completely humanized liver in mice shows human-type metabolic responses to drugs. Am J Pathol 165:901-912, 2004」に記載の方法に従って融解して用いた。
生後3〜5週齢のuPA-Tg(+/+)/SCID(+/+)マウスをイソフルランで麻酔し、左側腹部を約5 mm切開し、脾頭より10.0x105個のヒト肝細胞を注入した後、脾臓を腹腔に戻し縫合した。
移植後、普通飼料であるCRF-1(オリエンタル酵母株式会社)、次亜塩素酸ナトリウム溶液0.0125%添加水道水の自由摂取により約100日間飼育した。
掛け合わせに用いたSCID/c.b-17マウスは、T細胞、B細胞は持たないが、NK細胞を持つことが知られている。そこで、移植したヒト肝細胞がマウスのNK細胞に攻撃されないように、NK活性を阻害する抗体を移植前日に腹腔内に投与した。
得られた初代キメラマウスの肝臓におけるヒト肝細胞の置換率は、90〜95%であった。この置換率は、マウス血中のヒトアルブミン濃度を測定することにより求めた。即ち、キメラマウスの尾静脈から採血し、採取した血液2 μlをLX-Buffer 200 μLに添加し、免疫比濁法により自動分析装置JEOL BM6050(日本電子)を用いて、マウス血中のヒトアルブミン濃度を測定した。このヒトアルブミン濃度を予め作成した検量線に当てはめてヒト肝細胞置換率を推測した。検量線は、キメラマウスの肝臓の凍結切片を作製し、ヒト肝細胞特異的なサイトケラチン8/18抗体(ICN Pharmaceuticals, Inc.)を用いて免疫染色を行い、面積当たりのヒトサイトケラチン8/18陽性面積を求めたヒト肝細胞実置換率と、キメラマウス血中のヒトアルブミン濃度との間で作成した。
(2)継代移植ヒト肝細胞キメラマウスの作製
初代キメラマウスの肝臓組織をコラゲナーゼ処理することによりヒト肝細胞を多く含む細胞を回収した。生後3〜5週齢のuPA-Tg(+/-)/SCID(+/+)マウスに、初代キメラマウスから分離した肝細胞1×106個を脾臓から移植した。移植方法は初代キメラマウスへのヒト肝細胞移植と同様である。
移植後、CRF-1(オリエンタル酵母株式会社)、次亜塩素酸ナトリウム溶液0.0125%添加水道水の自由摂取により約100日間飼育した。
得られた継代移植キメラマウスの肝臓におけるヒト肝細胞の置換率は、90〜97%であった。
(3)調整飼料の投与によるNASH症状の誘発
(3-1)継代移植ヒト肝細胞キメラマウス
血中ヒトアルブミン濃度・血清中ALT活性
前述した通り、肝細胞が障害を受けると、細胞質内の酵素が細胞外に漏出して血液内に入る。ALTは肝臓に最も多く含まれるため、血液中のALT活性の上昇は肝障害の指標となる。また、アルブミンは肝臓で生産されて血液中に存在するため、肝臓が障害を受けると血液中のアルブミン濃度が低下する。従って、血液中のアルブミン濃度の低下は肝障害の指標となる。
「(2)継代移植ヒト肝細胞キメラマウスの作製」の項目で得た継代移植ヒト肝細胞キメラマウスを、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料(A06071302;Research Diets, Inc)又は普通飼料であるCRF-1(オリエンタル酵母株式会社)と、次亜塩素酸ナトリウム溶液0.0125%添加水道水の自由摂取により12又は14週間飼育した。2週間摂餌群、及び4週間摂餌群では各群3匹とした。8週間摂餌群では、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料摂餌群は4匹、普通飼料摂餌群は3匹とした。12摂餌群及び14週間摂餌群では、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料摂餌群は3匹、普通飼料摂餌群は3又は4匹とした。
試験開始前、2週間後、4週間後、8週後、及び12週後に、それぞれ調整飼料及び普通飼料で飼育した継代移植キメラマウスの尾静脈から採血し、採取した血液2 μlを生理的食塩水200 μLに添加し、ラテックス凝集免疫比濁法(LZテスト’栄研’U-ALB、栄研化学株式会社、東京)を用いて、自動分析装置BioMajestyTM(JCA-BM6050、JEOL、東京)で血中ヒトアルブミン濃度(mg/ml)を測定した。
ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスの結果を図1に示す。調整飼料を与えることにより、血中ヒトアルブミン濃度が顕著に減少し、ヒト肝細胞の機能低下を誘発したことがわかる。
超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料(A06071302;Research Diets, Inc)は、コリン又はその塩を添加しておらず、L-メチオニンを最終濃度0.1重量%になるように添加している。また、タンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対する脂肪の熱量に比率は62 kcal%である。また、脂肪の含有量は、飼料の全重量に対して35.7重量%である。
また、試験開始前、2週間後、4週間後、8週後、及び12週後に、それぞれ調整飼料及び普通飼料で飼育した継代移植キメラマウスの尾静脈から採血し、血漿中の全ALT活性を富士ドライケム7000(富士フィルム)及び富士ドライケムスライド GTP/ALT-PIII(富士フィルム)を用いて測定し、またヒトALT1濃度(ng/mL)をELISAキット(ヒトALT1 ELISA kit, 株式会社フェニックスバイオ)を用いて測定した。さらに、ヒトALT1濃度(ng/mL)からヒトALT活性(U/L)を求めた。マウスALT活性は、全ALT活性からヒトALT1活性を差し引くことで算出した。
ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスのALT活性の経時的変化を図2に示す。調整飼料で飼育することにより、マウスALT活性は増大しなかったが、ヒトALT活性は2週間後、4週間後で増大し、全ALT活性と並行して推移することが分かった。調整飼料で飼育することにより、ヒト肝細胞に特異的に肝障害が誘発されたことが分かる。
肝臓組織の病変
「(2)継代移植ヒト肝細胞キメラマウスの作製」の項目で得た継代移植ヒト肝細胞キメラマウスを、コリン欠乏メチオニン減量高脂肪飼料(CDAHFD)である(超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料・A06071302)(Research Diets, Inc)又は普通飼料であるCRF-1(オリエンタル酵母株式会社)と、次亜塩素酸ナトリウム溶液0.0125%添加水道水の自由摂取により12週間飼育した。
試験開始2週間後、4週間後、8週後、及び12週後に、継代移植キメラマウスの肝臓のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った。ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスについての倍率40倍の組織像を図3に示す。普通飼料で飼育した場合に比べて、調整飼料で飼育した場合は、2週間後、4週間後において脂肪滴、特に大滴性の脂肪滴が著しく増加した。
また、ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスについての12週間後の倍率400倍の組織像を図4に示す。また、ヒト肝細胞Lot No.IVTJFCを移植した継代移植キメラマウスについての14週間後の倍率400倍の組織像を図5に示す。調整飼料で飼育した場合は、普通飼料で飼育した場合と異なり、マクロファージ等の炎症細胞浸潤(矢印)が観察され、細胞質にMallory小体様の構造物を有するBallooning細胞(肝細胞の風船様腫大)(矢頭)が観察された。調整飼料を長期投与することにより、ヒトNASHに特徴的な病変が誘発されたことが分かる。
また、ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスについての試験開始12週間後の肝臓のパラフィン切片を作製し、シリウスレッド染色を行った。倍率40倍および400倍の組織像を図6に示す。また、ヒト肝細胞Lot No.IVTJFCを移植した継代移植キメラマウスについて、試験開始14週間後の肝臓のパラフィン切片を作製し、シリウスレッド染色を行った。400倍の組織像を図7に示す。調整飼料で飼育した場合は、普通飼料で飼育した場合より、線維化領域(赤く染まった部分)が増大し、中心静脈周囲又は門脈域より伸びる細胞周囲性又は類洞周囲性の線維化が観察された。
ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスについてのシリウスレッド染色した組織切片上の全面積あたりのシリウスレッド陽性領域(線維化領域)を算出した。結果を図8に示す。調整飼料で飼育することにより、普通飼料で飼育した場合に比べて、線維化された部分が8週後では約1.6倍に増加し、12週後では約2.4倍に増加していることが分かる。
また、ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスについて、試験開始8週後および12週間後の肝臓のパラフィン切片を抗F4/80抗体(clone BM8, BMA Biomedicals)を用いて免疫染色を行った。F4/80は肝臓内クッパー細胞、マクロファージなどに発現する抗原の一つであり、抗F4/80抗体を用いて免疫染色することにより、クッパー細胞及びマクロファージを茶色に染めることができる。抗F4/80抗体の免疫染色像を図9に示す。調整飼料で飼育した場合は、普通飼料で飼育した場合に比べて、茶色に染まった部分が明らかに多く、クッパー細胞及びマクロファージが増加していることが分かる。
ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスについて、試験開始8週後および12週間後の肝臓のパラフィン切片を抗F4/80抗体で染色した組織切片についてランダムに10区画を定め、倍率100倍で撮影し、撮影面積当たりのF4/80陽性面積(クッパー細胞・マクロファージ陽性面積)の割合を算出した。結果を図10に示す。調整飼料で飼育することにより、普通飼料で飼育した場合に比べて、F4/80陽性領域が8週後では約2.7倍、12週後では約2.1倍に増加していることが分かる。
また、ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスについて、試験開始2週間後、4週間後、8週間後、及び12週間後の肝臓のパラフィン切片を抗α-smooth muscle actin(αSMA)抗体(clone 1A4, Sigma)を用いて免疫染色を行った。αSMAは活性肝星細胞のマーカーであり、活性化した肝星細胞は膠原繊維を産生し、肝臓の線維化に重要な役割を果たすと考えられている。αSMA抗体を用いて免疫染色することにより、活性化した星細胞を茶色に染めることができる。αSMA抗体の免疫染色像(倍率100倍)を図11に示す。図11から、調整飼料で飼育した何れの期間においても、普通飼料で飼育した場合に比べて、茶色に染まるαSMA陽性領域が明らかに増加していることが分かる。
また、ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植キメラマウスについてのTUNEL染色像(倍率100倍)を図12に示す。また、試験開始8週後、及び12週間後の肝臓のパラフィン切片をTUNEL法で染色した。TUNEL法はアポトーシスに陥った細胞を特異的に染める染色法である。図12から、調整飼料で飼育した場合は、普通飼料で飼育した場合に比べて、茶色に染まったTUNEL陽性細胞が明らかに増加したことが分かる。アポトーシスは、NASHに特徴的なおける細胞死の態様であることから、調整飼料で飼育することによりNASH症状が誘発されたことが分かる。
(3-2)初代ヒト肝細胞キメラマウス
「(1)初代ヒト肝細胞キメラマウスの作製」の項目で得た、ヒト肝細胞Lot No.IVTJFCを移植した初代ヒト肝細胞キメラマウスを、コリン欠乏メチオニン減量高脂肪飼料(CDAHFD)である(超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料・A06071302)(Research Diets, Inc)又は普通飼料であるCRF-1(オリエンタル酵母株式会社)と、次亜塩素酸ナトリウム溶液0.0125%添加水道水の自由摂取により12週間飼育した。
試験開始12週後に、初代移植キメラマウスの肝臓のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った。倍率400倍の組織像を図13に示す。調整飼料で飼育した場合は、普通飼料で飼育した場合と異なり、マクロファージ等の炎症細胞浸潤(矢印)が観察され、細胞質にMallory小体様の構造物を有するBallooning細胞(肝細胞の風船様腫大)(矢頭)が観察された。調整飼料を長期投与することにより、ヒトNASHに特徴的な病変が誘発されたことが分かる。
また、ヒト肝細胞Lot No.IVTJFCを移植した初代ヒト肝細胞キメラマウスについて、試験開始12週間後の肝臓のパラフィン切片を作製し、シリウスレッド染色を行った。400倍の組織像を図14に示す。調整飼料で飼育した場合は、普通飼料で飼育した場合より、線維化領域(赤く染まった部分)が増大し、中心静脈周囲又は門脈域より伸びる細胞周囲性又は類洞周囲性の線維化が観察された。
また、ヒト肝細胞Lot No.IVTJFCを移植した初代ヒト肝細胞キメラマウスについての試験開始12週間後の肝臓のパラフィン切片を抗F4/80抗体(clone BM8, BMA Biomedicals)を用いて免疫染色を行った。抗F4/80抗体の免疫染色像を図15に示す。調整飼料で飼育した場合は、普通飼料で飼育した場合に比べて、茶色に染まった部分が明らかに多く、クッパー細胞及びマクロファージが増加していることが分かる。
(4)ヒト肝細胞キメラマウスへの四塩化炭素(CCl 4 )投与試験
CCl4は肝臓に障害を誘発することが知られている。同用量のCCl4が肝臓に及ぼす影響を、継代移植ヒト肝細胞キメラマウスと、普通のマウスとの間で比較した。肝障害の指標として、血漿中のALT活性の上昇を測定した。
「(2)継代移植ヒト肝細胞キメラマウスの作製」の項目で得た、ヒト肝細胞Lot No.BD195を移植した継代移植ヒト肝細胞キメラマウス3匹(ヒト肝細胞置換率75〜86%)に、コーンオイルで溶解したCCl4を50 mg/kgの用量で経口投与した。1回/1日の頻度で、7日間投与し、最終投与日の翌日に、各マウスを解剖した。また、試験開始前、2日後、4日後、及び8日後に、各マウスから採血し、血漿中の全ALT活性を富士ドライケム7000(富士フィルム)及び富士ドライケムスライド GTP/ALT-PIII(富士フィルム)を用いて測定し、またヒトALT1濃度(ng/mL)をELISAキット(ヒトALT1 ELISA kit, 株式会社フェニックスバイオ)を用いて測定した。さらに、ヒトALT1濃度(ng/mL)からヒトALT活性(U/L)を求めた。また、コントロールとして、継代移植ヒト肝細胞キメラマウス3匹を、CCl4を投与せずに8日間飼育し、2日後、4日後、及び8日後に、同様にして、採血、全ALT活性測定、ヒトALT活性測定を行った。
また、10-12週齢の雄のSCIDマウスを3匹用意し、同様にして、CCl4の経口投与、採血、全ALT活性測定を行った。また、コントロールとして、SCIDマウス3匹を、CCl4を投与せずに8日間飼育し、2日後、4日後、及び8日後に、同様にして、採血、全ALT活性測定を行った。
継代移植キメラマウス及びSCIDマウスの全ALT活性の経時的変化を図16の上段に示す。CCl4の投与によりSCIDマウスでは顕著に全ALT活性が増大し、2日目には全ての個体が状態不良になったため、安楽殺した。これに対して、継代移植キメラマウスではCCl4の投与期間中の全ALT活性は、SCIDマウスの10分の1程度であった。また図16下段に示されるように、ヒト肝細胞キメラマウスにおけるヒトALT活性はCCl4の投与群において、わずかに上昇する程度であった。ヒト肝細胞キメラマウスのヒトALT活性は、全ALT活性の10分の1程度であった。ヒト肝細胞キメラマウスのヒト肝細胞置換率が75〜86%と高値であったことを考慮すると、CCl4による障害に対し、ヒト肝細胞よりもマウス肝細胞の方がはるかに高い感受性を示すことが分かる。
また、ヒト肝細胞キメラマウスのCCl4投与7日後に安楽殺を行い、SCIDマウスではCCl4投与2日後に予後不良のため安楽殺を行った。肝臓のパラフィン切片を作製し、HE染色を行った。倍率40倍の組織像を図17に示す。ヒト肝細胞キメラマウスマウスの肝組織ではマウス領域に特異的に肝細胞の壊死が観察され(矢印)、SCIDマウスの肝組織では広範な肝細胞の壊死が観察された(矢印)。このことからも、CCl4投与ではヒト肝細胞に特異的な障害を引き起こすことが困難であることが分かる。
(5)本発明モデルのコントロール動物
図3および図4の左に示すように、通常飼料で飼育した継代移植キメラマウスは単純性脂肪肝の病態を示す。また本試験で示されているように、長期間通常飼料で飼育しても、継代移植キメラマウスは単純性脂肪肝からNASHに進行しない。従って、継代移植キメラげっ歯類動物は、ヒト単純性脂肪肝のモデルとして使用できると共に、本発明のNASHモデルのコントロール動物として使用することができる。
本発明のヒト非アルコール性脂肪性肝炎げっ歯類動物モデルは、肝臓がヒト肝細胞で置換されているため、ヒトNASHを正確に反映したものである。そのNASH症状は安定して得られるため、ヒト肝細胞を有するげっ歯類動物のモデルとして、NASHの病態の研究や、NASHの予防、治療、又は改善剤のスクリーニングなどに好適に使用できる。

Claims (13)

  1. 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、下記(a)、(b)、及び(c)の1以上の特性を有する調整飼料で飼育することにより得られる動物を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデル。
    (a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して、0.01重量%以下
    (b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下
    (c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上
  2. キメラげっ歯類動物が初代キメラげっ歯類動物、又は継代移植キメラげっ歯類動物である請求項1に記載のヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデル。
  3. 調整飼料で1週間以上飼育する請求項1又は2に記載のヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデル。
  4. 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、下記(a)、(b)、及び(c)の1以上の特性を有する調整飼料で飼育することにより得られる動物を、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデルとして使用する方法。
    (a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して、0.01重量%以下
    (b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下
    (c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上
  5. キメラげっ歯類動物が初代キメラげっ歯類動物、又は継代移植キメラげっ歯類動物である請求項4に記載の方法。
  6. 調整飼料で1週間以上飼育する請求項4又は5に記載の方法。
  7. 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、下記(a)、(b)、及び(c)の1以上の特性を有する調整飼料で飼育する工程を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎モデルの作製方法。
    (a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して、0.01重量%以下
    (b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下
    (c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上
  8. キメラげっ歯類動物が初代キメラげっ歯類動物、又は継代移植キメラげっ歯類動物である請求項7に記載の方法。
  9. 調整飼料で1週間以上飼育する請求項7又は8に記載の方法。
  10. 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラげっ歯類動物を、下記(a)、(b)、及び(c)の1以上の特性を有する調整飼料で飼育する工程を含む方法により得られる動物に被験物質を投与する工程と、投与前後の非アルコール性脂肪性肝炎の症状の程度を比較するか、又は被験物質を投与したキメラげっ歯類動物と被験物質を投与していないキメラげっ歯類動物との間で非アルコール性脂肪性肝炎の症状の程度を比較する工程とを含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎治療剤のスクリーニング方法。
    (a)コリン又はその塩の配合量が、調整飼料の全量に対して、0.01重量%以下
    (b)メチオニンの配合量が、調整飼料の全量に対して、0.5重量%以下
    (c)脂肪含有量が、調整飼料に含まれるタンパク質、炭水化物、及び脂肪の合計熱量に対して、25 kcal%以上
  11. キメラげっ歯類動物が初代キメラげっ歯類動物、又は継代移植キメラげっ歯類動物である請求項10に記載の方法。
  12. 調整飼料で1週間以上飼育する請求項10又は11に記載の方法。
  13. 肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換された継代移植キメラげっ歯類動物を含む、ヒト単純性脂肪肝モデル。
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PELZ, SANDRA ET AL.,, EXPERIMENTAL CELL RESEARCH, vol. 318, JPN6022028013, 2012, pages 276 - 287, ISSN: 0004937112 *

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