JPWO2018038168A1 - ヘマグルチニン結合ペプチド、および、これを含むインフルエンザウイルス感染症の予防・治療薬 - Google Patents

ヘマグルチニン結合ペプチド、および、これを含むインフルエンザウイルス感染症の予防・治療薬 Download PDF

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Abstract

ヘマグルチニン結合ペプチドは、3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号1のペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合している4価ペプチドである。

Description

本発明は、ヘマグルチニン結合ペプチド、および、これを含むインフルエンザウイルス感染症の予防・治療薬に関する。
A型インフルエンザウイルスは、強力な感染能を有し、毎年我が国をはじめ世界各地で季節的流行を引き起こしている。その一方で、2009年にみられたような新型インフルエンザウイルスの出現や、H5N1, H7N7などの高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染能の獲得が危惧されており、致死的なパンデミックが世界的にいつ発生してもおかしくない状況にある。
しかしながら、現在一般的に使用されているオセタミビル(商品名:タミフル(登録商標))、ザナミビル(商品名:リレンザ(登録商標))などのノイラミニダーゼ(neuraminidase; NA)阻害薬に対しては急速に耐性が広がりつつあり、新規インフルエンザ治療薬の確立が喫緊に求められている。
A型インフルエンザウイルスの粒子表面には、ウイルスの標的細胞への結合に関わるヘマグルチニン(hemagglutinin; 以下「HA」と記載する場合がある)、ならびに新生ウイルス粒子の感染細胞からの離脱に関わるNAの2種の膜結合型糖タンパク質が存在していることが知られている。
さらに、HAは、ウイルスが標的細胞に結合した後、標的細胞膜とウイルス膜との融合を引き起こし、ウイルス遺伝子を細胞質に放出させる働きも担っており、ウイルスの増殖サイクルにおいて必須の役割を果たしていることが知られている。また、HAは多くのインフルエンザワクチンの抗原となっている。
以上のことから、HAの創薬標的としての重要性が示唆されているはいるものの、現状では、未だにHAを標的とした治療薬は上市されていない。
HAはウイルス膜上で3量体構造をとっており、HA1分子が宿主細胞膜上に存在する糖タンパク質あるいは糖脂質のシアル酸1分子を認識して結合する。従って、HA3量体では合計3分子のシアル酸が結合し得る。このとき、1:1の結合に比べ3:3の結合では、結合親和性は数千倍に増加することが知られており、この現象は「クラスター効果」と呼ばれている。このため、従来の低分子化合物ライブラリーのスクリーニングや、ファージディスプレイスクリーニング等の技術では基本的に1:1の相互作用にしか適用できないため、クラスター効果を発揮して機能するHAに対し、その受容体結合部位を標的として阻害剤を同定することは原理的に極めて困難である。実際、低分子化合物の取得例は皆無であり、またサイクリックペプチドライブラリー(特許文献1)やファージディスプレイスクリーニング(特許文献2)によりHA結合ペプチドを取得した例は報告されているが、クラスター効果に基づいて直接HAの受容体結合部位を標的として阻害ペプチドを単離した例は報告されていない。
一方で、本発明者らは、これまでに、クラスター効果に基づく強い相互作用を阻害する分子をスクリーニングする技術として多価型ペプチドライブラリー法を開発している(特許文献3)。多価型ペプチドライブラリーは、4価の核構造にランダムペプチドライブラリーが4本結合した構造であるため、それ自体がクラスター効果を発揮する。また、このクラスター効果を発揮して機能する様々な分子に対する阻害分子の開発にも成功している(例えば、特許文献4〜6)。
さらに、本発明者らは、多価型ペプチドライブラリー法を応用し、多価型ペプチドをシート上に数百のレベルで合成する技術も確立している(特許文献7)。
特開2013-71904号公報 特許第5396111号公報 特許第4744443号公報 特許第5635779号公報 特許第5718574号公報 特許第5754008号公報 特許第5718574号公報
本発明らは、HAの受容体結合部位を標的として、これまでに確立してきた多価型ペプチドライブラリー法を用いることで、クラスター効果によってHAに結合する新規な多価ペプチドを得ることができるとともに、この多価ペプチドを有効成分とすることでインフルエンザウイルス感染症の予防・治療薬を確立できることを着想し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、新規なヘマグルチニン結合ペプチドと、これを含むインフルエンザウイルス感染症の予防・治療薬を提供することを課題としている。
本発明のヘマグルチニン結合ペプチドは、3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号1のペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合している4価ペプチドであることを特徴とする。
このヘマグルチニン結合ペプチドでは、配列番号1のペプチドモチーフのN末端側に位置するアルギニン(Arg)が、非天然異性体(D-Arg)に置換されていることが好ましい。
本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防・治療薬は、前記のヘマグルチニン結合ペプチドを含有することを特徴としている。
本発明のヘマグルチニン結合ペプチドによれば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに結合し、インフルエンザウイルスの感染による細胞障害活性を阻害することができる。また、本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防・治療薬によれば、効果的にインフルエンザ感染症を予防・治療することができる。
Aは、電気泳動法によりNiビーズ上に固定化した野生型HA(WT-HA)ならびに変異型HA(L194A-HA)の分子量ならびに純度を示した図である。Bは、ELISA法によるWT-HAならびにL194A-HAのフェツインとの結合活性の測定結果を示す図である。 実施例2のスクリーニングで使用した多価型ペプチドライブラリーの化学構造を示す図である。 A)は、実施例2における1次スクリーニングで使用した1次ライブラリーと各ポジションにおけるアミノ酸の選択性を示した図(表)である。B)は、実施例2における2次スクリーニングで使用した2次ライブラリーと各ポジションにおけるアミノ酸の選択性を示した図(表)である。 MDCK細胞に各濃度のHA阻害薬候補物質(TKR-tet、RVH-tet)を添加し、30分後にA型インフルエンザウイルス(A/PR/8/34)を高力価(MOI=10)で感染させ、24時間培養後の細胞の生存率をWST法によって測定した結果を示す図である。 シートを125Iで放射標識したWT-HAでブロットし、結合した放射活性を測定した結果を示す図である。 シートを125Iで放射標識したWT-HAならびにL194A-HA でブロットした様子を示した図である。 シートを125Iで放射標識したWT-HAならびにL194A-HA でブロットした様子を示した図である。 MDCK細胞に各濃度の阻害薬(PVD-tet、PMH-tet、PVN-tet、PVF-tet、PVP-tet)を添加し、30分後にA/PR/8/34インフルエンザウイルスを高力価(MOI=10)で感染させ、24時間培養後の細胞の生存率をWST法によって測定した結果を示す図である。 MDCK細胞に300μg/mlの各阻害薬を添加し、48時間培養後の細胞の生存率をWST法にて測定した結果を示す図である。 PVF-tetと、(D)PVF-tetをトリプシンで処理した結果(分子量)を示す図である。 PVF-tetのWT-HAあるいはL194A-HAとの結合をELISA法にて測定した結果を示す図である。 (D)PVF-tetのWT-HAあるいはL194A-HAとの結合をELISA法にて測定した結果を示す図である。 A)は、MDCK細胞に各濃度の阻害薬(PVF-tet、(D)PVF-tet、RVH-tet)あるいはフェツインを添加し、30分後にインフルエンザウイルスを低力価(MOI=0.001)で感染させ、48時間培養後の細胞の生存率をWST法によって測定した結果を示す図である。B)は、MDCK細胞に各濃度の阻害薬(PVF-tet、(D)PVF-tet、RVH-tet)あるいはフェツインを添加し、30分後にインフルエンザウイルスを高力価(MOI=10)で感染させ、24時間培養後の細胞の生存率をWST法によって測定した結果を示す図である。 高力価感染条件下(MOI=10)でのPVF-tetの阻害活性を、PVF-tetのHA結合モチーフと同じ配列を有するモノマーペプチドと比較した結果を示した図である。 MDCK細胞に300 μg/mlの各阻害薬を添加し、30分後にA/PR/8/34インフルエンザウイルスを 6×104pfu/ml で感染させ、14時間後の培養液中の新生ウイルス量をプラークアッセイ法にて定量した図である。 6-8週令のBalb/cマウス(メス)に、A/PR/8/34インフルエンザウイルス(2000 pfu)を単独、あるいは各量の(D)PVF-tet共存下で経鼻投与し、体重変化を測定した結果を示す図である。 マウスに、インフルエンザウイルス(2000 pfu)を単独、あるいは各量の(D)PVF-tet共存下で経鼻投与し、生存率を比較した結果を示す図である。 マウスに、インフルエンザウイルス(2000 pfu)を単独、あるいはPVF-tet共存下で経鼻投与し、3日後ならびに5日後の肺中ウイルス量をプラークアッセイにより測定した結果を示す図である。
本発明のヘマグルチニン結合ペプチドは、3つのリジン(Lys)が結合して形成された以下の分子核構造を含んでいる。
本発明のヘマグルチニン結合ペプチドは、上記の分子核構造の端部に位置する4つの‐NH基の各々に、以下のペプチドモチーフ、
配列番号1:Arg-Arg-Pro-Val-Asn-His-Phe(RRPVNHF)
が、直接またはスペーサーを介して結合した4価ペプチドである。
具体的には、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドの一実施形態は、例えば、以下の化学式において、3つのリジン(Lys)からなる分子核構造の端部に位置する4つのXXXX部のそれぞれに、配列番号1のペプチドモチーフが組み込まれた4価ペプチドが例示される。
なお、上記の化学式2では、ペプチドモチーフが組み込まれる位置を便宜的に「XXXX」と記載している。
以下、3つのリジン(Lys)からなる分子核構造の端部に位置するXXXX部に、配列番号1のペプチドモチーフが4つ組み込まれた4価ペプチドを「PVF-tet」と記載する場合がある。
また、上記化学式2では、分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、スペーサーが結合している形態を例示しているが、スペーサーを介さず、4つのアミノ基の各々に、直接、配列番号1のペプチドモチーフを結合させることもできる。スペーサーを結合させる場合、ヘマグルチニンへの結合性を損なわないものであればよく、具体的な分子、長さは限定されず、適宜設計することができる。スペーサーとしては、例えば、末端にアミノ酸を有する炭素数4〜10程度の鎖長のものが好ましく、特に上記化学式2中の「U」で示される、amino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH](アミノカプロン酸)を好ましく例示することができる。また、スペーサーに含まれるアミノ酸としては、例えば、アラニン(A)を例示することができる。
さらに、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドは、化学式2のXXXX部に組み込まれた配列番号1のペプチドモチーフの各々の末端に修飾分子を有していてもよい。なお、上記化学式2で例示するペプチドは、末端にMA(Met−Ala)を有しているが、これは、後述の実施例において、スクリーニングの際に導入したものを例示しており、上記化学式2のMAは、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドにおいては必ずしも必要ではない。
また、ペプチドモチーフの末端にNHが露出するとプラス電荷になることから、電荷調節の観点からは、配列番号1のペプチドモチーフの各々の末端に、修飾分子として、電荷がない分子、さらには、疎水性の分子を結合させることも考慮される。本発明のヘマグルチニン結合ペプチドは含有するインフルエンザ感染症治療薬を経口投与する場合、消化管内でのプロテアーゼによる分解を抑えるための安定化を目的として、末端のNH2をアセチル基により保護することもできる。このように、ペプチドモチーフの末端の修飾分子は適宜選択することができる。
本発明のヘマグルチニン結合ペプチドの作成方法は特に限定されず、例えば、ペプチド合成装置等を利用するなどの公知の方法によって作製することができる。本発明のヘマグルチニン結合ペプチドに組み込まれる配列番号1のペプチドモチーフ(ペプチド性化合物)は、4価の核構造に順次アミノ酸を付加することにより合成でき、1価のペプチド合成と同様の手法にて簡便にバルク合成することができる。
そして、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドでは、配列番号1のペプチドモチーフのN末端側に位置するアルギニン(Arg)が、非天然異性体(D-Arg)に置換されていることが特に好ましい(以下、「(D)PVF-tet」と記載する場合がある)。インフルエンザウイルスが気道に感染するのは、気道にはトリプシン様プロテアーゼなどのHA活性化プロテアーゼが局在するためである。一方、本発明のヘマグルチニン結合ペプチド(PVF-tet)はHA結合モチーフとしてRRPVNHF(配列番号1)の配列を持つため、治療薬として使用する際トリプシン様プロテアーゼによってポジション1のArgとポジション2のArgの間が切断され、阻害効果が減弱することが懸念される。本発明のヘマグルチニン結合ペプチドの一実施形態として、配列番号1のペプチドモチーフのN末端側に位置するアルギニン(Arg)を非天然異性体(D-Arg)に置換した(D)PVF-tetは、トリプシン耐性を有し、安定性に優れている。
以上のとおり、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドは、3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に各々に配列番号1のペプチドモチーフが4つ結合した4価のペプチドであり、クラスター効果によって、ヘマグルチニンに対して強い結合親和性を発揮する。
そして、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドは、インフルエンザウイルス表面のヘマグルチニンに結合することにより、抗インフルエンザウイルス効果を示すため、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドを含む組成物は、インフルエンザ感染症の予防又は治療薬(医薬組成物)として有用である。
また、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドは、インフルエンザウイルス検出やインフルエンザ診断のためのキット等に用いることや、ヘマグルチニンを介して生じるインフルエンザウイルスの感染、および、それに伴う種々の細胞機能や生命現象を解明するためのツールとして用いることも考慮される。
本発明のインフルエンザ感染症の予防および/または治療薬は、上記の通りの本発明のヘマグルチニン結合ペプチドを含有する。
インフルエンザウイルスが細胞に感染する際、インフルエンザウイルスの有するヘマグルニチンが、宿主細胞の受容体に特異的に結合し、その受容体を足場として、ウイルスが細胞に感染する。したがって、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドによってインフルエンザウイルスの宿主細胞受容体への結合を阻害することができ、インフルエンザウイルスによる細胞障害活性を阻害することができる。
本発明のインフルエンザ感染症の予防または治療薬が対象とするインフルエンザウイルスはその型や由来を特に制限するものでなく、A型、B型またはC型ないしヒト分離型、ブタやウマ等の他の哺乳動物分離型または鳥類分離型等のいずれであってもよい。
なお、本明細書において、「感染」とは、ウイルスが皮膚や粘膜を介して生体に侵入する過程、又は、ウイルスが膜融合により細胞内に侵入する過程を意味している。また、本明細書において「ウイルス感染」とは、症状の有無にかかわらずウイルスが生体内に侵入している状態をいう。
また、本明細書において、「インフルエンザ感染症の予防または治療」とは、その最も広い意味で用いられ、例えば、インフルエンザウイルスの感染と関連する一つまたは複数の症状の緩和若しくは悪化の阻止、感染後の症状の発生の抑制、生体内におけるウイルスの細胞への感染の阻止(遅延又は停止)、生体内におけるウイルスの増殖の阻止(遅延又は停止)、生体内におけるウイルス数の減少等を生じさせることをいう。
本発明のインフルエンザ感染症の予防または治療薬の投与形態は特に限定されず、経口的投与でも非経口的投与でもよい。非経口投与としては、例えば、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射等の注射投与、経皮投与、経粘膜投与(経鼻、経口腔、経眼、経肺、経膣、経直腸)投与などを例示することができる。
本発明のインフルエンザ感染症の予防または治療薬は、有効成分としてのヘマグルチニン結合ペプチドをそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる担体、賦形剤、添加剤等を加えて製剤化してもよい。剤形としては、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤等が挙げられる。
製剤化は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜使用し、常法により行うことができる。
製剤化に用いられる成分の例としては、精製水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、動植物油、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、コーンスターチ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、トラガント、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、高級アルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミンなどを例示することができる。
本発明のインフルエンザ感染症の予防または治療薬を哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ウマ、サル、ブタ等)、特にヒトに投与する場合の投与量は、症状、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、有効成分の種類、製剤の種類によって異なり、特に限定されないが、例えば、10 mg〜200 mg、好ましくは、200 mg〜500 mgを1回または数回に分けて投与することができる。注射投与の場合、患者の体重により、50 mg〜200 mgを1回または数回に分けて投与してもよい。
本発明のヘマグルチニン結合ペプチドおよびインフルエンザ感染症の予防・治療薬は、以上の実施形態に限定されることはなく、ヘマグルチニンへの結合性やインフルエンザ感染による細胞障害活性阻害効果を害さない範囲で適宜設計することができる。
さらに、本発明のインフルエンザ感染症の予防・治療方法は、上記のインフルエンザ感染症の予防・治療薬を対象(例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ウマ、サル、ブタ等)に投与することを特徴としている。
以下、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドおよびインフルエンザ感染症の予防/治療薬について、実施例とともに詳しく説明するが、本発明のヘマグルチニン結合ペプチドおよびインフルエンザ感染症の予防/治療薬は、以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>野生型HA(WT-HA)ならびに変異型HA(L194A-HA)の大量調製
多価型ペプチドライブラリースクリーニングにはビーズに固定された状態でのHAが大量に必要となる。そこで、H1N1の亜型インフルエンザウイルス由来HA遺伝子のC末端側にHis-tagを導入した組み替えHAをバキュロウイルス発現系を用いて大量に調製し、Ni-ビーズを用いてビーズ上に固定化した。HAの受容体結合に変異を有するHA変異体作成にあたっては、シアル酸との結合に必須の役割を果たしているLeu194をAlaに置換した変異体、L194A-HAを同様に調製した(図1A)。
得られたWT-HAならびにL194A-HAの活性の評価は、シアル酸を豊富に有するタンパク質であるフェツインとの特異的な結合をELISA法にて検討した(図1B)。なお検討にあたっては、ビーズから各HAを溶出したものを用いた。その結果、WT-HAは濃度依存的に強くフェツインに結合すること、一方L194A-HA では結合活性が完全に消失していることが確認できた。そこで、本標品を用いて多価型ペプチドライブラリースクリーニングを行うこととした。
<実施例2>多価型ペプチドライブラリー法を用いたL194特異的HA結合モチーフの同定
スクリーニングに使用する多価型ペプチドライブラリーの構造を図2に示す。図2中の「M」、「A」、「U」はそれぞれMet, Ala, アミノカプロン酸を示している。図2中の「XXXX」はライブラリー部を示し、X (degenerate position)はCys以外の19種のアミノ酸の混合物を使用して合成を行ったことを示している。
1次ライブラリーとして、ライブラリー部が、XXXX(degenerate position が4つ)の多価型ペプチドライブラリーを用いてスクリーニングを行った。まず、各HA固定化ビーズ(HA量で250μg)と多価型ペプチドライブラリー(300μg)を200 μlのPBS中で4℃、18時間インキュベートした。ビーズを洗浄後、30 %酢酸で各HAに結合したペプチドを溶出し、回収後、N末から順次アミノ酸シークエンスを行った。各degenerate positionについて、検出された19種のアミノ酸のモル比を算出し、その和が19になるように補正した。さらに、各アミノ酸について、WT-HAを用いた場合に得られた値を、L194A-HAを用いた場合に得られた値で割ってその比を算出し、改めてすべてのアミノ酸についての値の和が19になるように補正した。従って、もしWT-HAとL194A-HAとの間で各アミノ酸の選択性に差がなければその値は全て1となる。選択性の指標として、この値が1.2を超えた場合にWT-HAに対して強い選択性がみられたとする。その結果、4カ所のすべてのdegenerate positionについてLysが強く選択されること、またposition1-3にかけてValが、position4ではGlyが選択されること、が明らかとなった(図3A)。
そこで、Gly, Lys, Valを中心位置に導入し、その両側に3つのdegenerate positionを導入した2次ライブラリーを作成した。同様にスクリーニングを行ったところ、Gly固定のライブラリーではposition 6, 7で強いGlyの選択性がみられるものの、他の全てのpositionの選択性が低いこと、一方LysならびにVal固定のライブラリーではいずれも全てのpositoinで1.2以上の強い選択性を示すアミノ酸がそれぞれ得られることが示された(図3B)。そこで、LysならびにVal固定のライブラリーそれぞれについて、各positionで最も強く選択されたアミノ酸を並べたペプチドモチーフ、
配列番号2:His-His-Thr-Lys-Arg-Arg-Arg(HHTKRRR)
配列番号3:Arg-Arg-Arg-Val-Asn-His-His (RRRVNHH)
をHA結合ペプチドモチーフ候補として同定した。
次に、配列番号2のペプチドモチーフを図2に示す多価型ペプチドライブラリーのXXXX部に組み入れた4価のペプチド性化合物(以下「TKR-tet」と記載する)と、配列番号3のペプチドモチーフを図2に示す多価型ペプチドライブラリーのXXXX部に組み入れた4価のペプチド性化合物(以下「RVH-tet」と記載する)をHA阻害薬候補として合成した。
これら化合物について、A型インフルエンザウイルス(A/PR/8/34)MDCK細胞に各濃度のHA阻害薬候補物質(TKR-tet、RVH-tet)を添加し、30分後にA/PR/8/34インフルエンザウイルスを高力価(MOI=10)で感染させ、24時間培養後の細胞の生存率をWST法にて測定した。
その結果、図4に示したように、TKR-tet、RVH-tetともに、感染による細胞障害活性を容量依存的に阻害すること、その阻害効果はRVH-tetのほうが優れていることが明らかとなった。そこで、配列番号3のRRRVNHHモチーフをベースとして、多価型ペプチドシートスクリーニング技術(特許文献7)を用いて、一層、HA結合活性に優れたモチーフの取得
を試みた。
<実施例3>多価型ペプチドシートスクリーニング技術を用いた高親和性HA結合モチーフの同定
多価型ペプチドのセルロースシート上への合成は、intavis AG社のスポットペプチドシンセサイザーを使用した。
まず、シート上に合成される多価型ペプチドの価数、シートからの距離ならびに合成密度をHAに対して最適化することを試みた。シート上に存在するアミノ基に対して、第1サイクル目に、FMOC-βAla-OHとBoc-βAla-OHを、100:0、30:70、10:90の異なった混合比で使用し、それ以降合成されるペプチドの合成密度を変化させた(Boc-βAla-OHは脱保護に耐性のため、それ以降のアミノ酸の合成が起こらない)。
続いて、付加するFMOC-アミノヘキサン酸を1、2、3個と変化させることで、スペーサー長を調整した。続いてFMOC-Lys(FMOC)-OHを1個付加し、形成された2個のアミノ基に対して均等にそれ以降の配列を与えるよう伸長反応を行うことで2価のペプチドを、FMOC-Lys(FMOC)-OHを2回連続で反応させ、形成された4個のアミノ基に対して伸長反応を行うことで4価のペプチドを、それぞれ合成した。FMOC-Lys(FMOC)-OH付加以降に使用する配列は、先で決定した配列番号3のHA結合モチーフRRRVNHH を含む、MA-RRRVNHH-A-、とした。
得られたシートを125Iで放射標識したWT-HAでブロットし、結合した放射活性をBAS 2500 (GE Healthcare)で測定した。その結果、シートに合成されるペプチドの合成密度は100 %、スペーサー長はアミノヘキサン酸1個、価数は4価、の条件で最もHAに対する結合が強いことが明らかとなった(図5)。そこで以降の実験では、この条件でセルロースシート上へのペプチド合成を行うこととした。
シート上に合成するHA結合モチーフの配列は、配列番号3のRRRVNHH をオリジナル配列として、このモチーフの1番目のArgから7番目のHisまでの全てのアミノ酸について、順番にオリジナルのアミノ酸ならびにCysを除く他の18種のアミノ酸に1つずつ置換したものを使用した。従って、計7(ポジション数)×18(アミノ酸数)=126種の4価ペプチドを合成した。
同様に得られたシートを125Iで放射標識したWT-HAならびにL194A-HA でブロットし(図6)、結合した放射活性をBAS 2500で測定した。そして、L194特異的な結合を示す結合比、ならびにWT-HA への結合力、双方ともに優れていることを示す指標である両者の積(WT/L194A*WT)を指標とした。
測定結果を表1、表2に示す。
表1、表2に示したWT/L194A*WTの値が上位3種のモチーフ:
配列番号4:Arg-Arg-Pro-Val-Asn-His-His (RRPVNHH)
配列番号5:Arg-Arg-Arg-Asp-Asn-His-His (RRRDNHH)
配列番号6:Arg-Arg-Ser-Val-Asn-His-His (RRSVNHH)
を次のスクリーニングのための候補配列として決定した。
また、WT*WT/L194Aの値が1.63以上を示す上位15種のモチーフは、全てオリジナル配列のポジション2,3,4あるいは7の置換体であること、すなわち、これらポジションは最適阻害モチーフの同定に重要なポジションであることが示された。
そこで、RRPVNHH(配列番号4)、RRRDNHH(配列番号5)、RRSVNHH(配列番号6)の3種の候補モチーフのポジション2,3,4あるいは7をCysを除く他の19種のアミノ酸シャッフルし、次のスクリーニングのための配列既知ライブラリーを先に決定した最適条件で4価の状態でシート上に作製した(2次シートライブラリー、図7)。
同様に得られたシートを125I-WT-HAならびに25I- L194A-HA でブロットし(図7)、結合した放射活性をBAS 2500で測定した。そして、L194特異的な結合を示す結合比とWT-HA への結合力の積(WT*WT/L194A)を指標とした。
測定結果を表3、表4に示す。
表3、表4に示したWT/L194A*WTの値が上位5種のモチーフ:
配列番号7:Arg-Arg-Pro-Val-Asn-His-Asp (RRPVNHD)
配列番号8:Arg-Arg-Pro-Met-Asn-His-His (RRPMNHH)
配列番号9:Arg-Arg-Pro-Val-Asn-His-Asn (RRPVNHN)
配列番号1:Arg-Arg-Pro-Val-Asn-His-Phe (RRPVNHF)
配列番号10:Arg-Arg-Pro-Val-Asn-His-Pro (RRPVNHP)
を最終HA結合配列として決定した。
これらモチーフを、図2に示す多価型ペプチドライブラリーのXXXX部に組み入れ、それぞれ4価のペプチド性化合物、RRPVNHD-tet (以下「PVD-tet」と記載する)、 RRPMNHH-tet(以下「PMH-tet」と記載する)、RRPVNHN-tet(以下「PVN-tet」と記載する)、RRPVNHF-tet(以下「PVF-tet」と記載する)、RRPVNHP-tet(以下「PVP-tet」と記載する)、をインフルエンザウイルス阻害薬候補として合成した。
<実施例4>インフルエンザウイルス感染による細胞障害活性に対する阻害能の評価
MDCK細胞に各濃度の阻害薬(実施例3で得られたPVD-tet、PMH-tet、PVN-tet、PVF-tet、PVP-tet)を添加し、30分後にA/PR/8/34インフルエンザウイルスを高力価(MOI=10)で感染させ、24時間培養後の細胞の生存率をWST法にて測定した。
その結果、PVF-tetが最も強い阻害活性を示し、ついでPMH-tet, PVN-tet, PVP-tet が同等の阻害活性を示すことが明らかとなった(図8)。一方、PVD-tetは弱い阻害活性しか示さなかった(図8)。
また、MDCK細胞に300μg/mlの各阻害薬(RVH-tet、TKR-tet、PVD-tet、PVP-tet、PVN-tet、PMH-tet、PVF-tet、(D)PVF-tet、)とFetuinを添加し、48時間培養後の細胞の生存率をWST法にて測定した。これら化合物単独では48時間後でもほとんど細胞毒性を示さないことが確認された(図9)。
以上の結果から、抗インフルエンザ薬としてPVF-tetが最も有望であると判断し、以下の検討に使用した。
<実施例5>PVF-tetの生物学的安定性の向上
インフルエンザウイルスが感染性を獲得するためには、HAタンパク質がプロテアーゼによって切断を受けてHA1とHA2のサブユニットに開裂し、fusion domainが露出することが必要である。インフルエンザウイルスが気道に感染するのは、気道にはトリプシン様プロテアーゼなどのHA活性化プロテアーゼが局在するためである。一方、PVF-tetはHA結合モチーフとしてRRPVNHF(配列番号1)の配列を持つため、治療薬として使用する際トリプシン様プロテアーゼによってポジション1のArgとポジション2のArgの間が切断され、阻害効果が減弱することが懸念された。実際、PVF-tet(分子量5572)を1 μg/mlのトリプシン存在下で37℃、24時間処理した後、質量分析器による質量測定を行なったところ、ポジション1のArgとポジション2のArgの間が切断されたもの(分子量4138)が生成することが示された(図10)。
そこで、トリプシン耐性を付与するためにポジション1のArgを非天然異性体であるD-Argに置換した(D)PVF-tetを作製し、同様にトリプシン処理の効果を検討した。その結果、37℃で24時間トリプシン処理後も、(D)PVF-tetは切断されることなく、安定に存在することが示された(図10)。
PVF-tetならびに(D)PVF-tetのWT-HAあるいはL194A-HAとの結合をELISA法にて検討した。その結果、PVF-tet、(D)PVF-tetともにWT-HAに効率よく結合すること、一方、L194A-HAに対しては結合活性が減弱していること、すなわちL194依存的にHAに結合していることが示された(図11、図12)。
<実施例6>インフルエンザウイルス感染による細胞障害活性に対するPVF-tetならびに(D)PVF-tetの阻害効果
MDCK細胞に各濃度の阻害薬(PVF-tet、(D)PVF-tet、RVH-tet)あるいはフェツインを添加し、30分後にA/PR/8/34インフルエンザウイルスを低力価(MOI=0.001)あるいは高力価(MOI=10)で感染させ、それぞれ48、24時間培養後の細胞の生存率をWST法にて測定した。フェツインは高密度でシアル酸を含有し、効率よくHAの受容体結合部に結合することが知られている。図13A、Bは、低力価感染(MOI=0.001)の結果を示しており、図13B)は、高力価感染(MOI=10)の結果を示している。
その結果、フェツインは低力価感染に対しては高い阻害効果を示すものの、高力価感染に対してはほとんど阻害活性を示さなかった(図13A)。これに対し、PVF-tetならびにプロテアーゼ耐性を付与した(D)PVF-tetでは、高力価感染に対しても強い阻害活性を示すことが明らかとなった(図13B)。
さらに、低力価感染に対してはPVF-tetならびRVH-tetは弱い阻害活性しか示さないのに対し、(D)PVF-tetは効率よく細胞障害活性を阻害することが示された(図13A)。低力価感染の条件ではウイルスの増殖を促進させるため培養液にトリプシンが添加されており、このためPVF-tetならびにRVH-tetは培養中のトリプシンによる分解を受けるため阻害作用が減弱してしまうが、(D)PVF-tetはトリプシン耐性であるためこの条件でも十分な阻害活性を発揮することができたものと考えられる。
以上のことから、(D)PVF-tetは高力価感染ならびに低力価感染のいずれの条件でも、効率よくウイルスの細胞障害活性を阻害する能力を有していることが示された。また、高力価感染条件下でのPVF-tetの阻害活性を、PVF-tetのHA結合モチーフと同じ配列を有するモノマーペプチドと比較したところ、いずれの濃度においてもモノマーペプチドにはほとんど阻害活性がみられないことが示された(図14)。
さらに、低力価感染の条件での実際のウイルス産生量に対する阻害効果を検討したところ、300μg/mlのPVF-tetならびに(D)PVF-tetはウイルス産生量を顕著に抑制することが確認された(図15)。以上のことから、PVF-tetならびに(D)PVF-tetはクラスター効果を発揮することによって高親和性でHAに結合し抗ウイルス活性を示すこと、このようなモチーフは、本発明者らが確立した多価型ペプチドスクリーニング法以外では同定不可能であることが確認された。
<実施例7>インフルエンザウイルス感染によるマウス個体毒性に対する(D)PVF-tetの阻害効果
インフルエンザウイルス感染によるマウス個体毒性活性に対するペプチド性HA阻害薬の阻害効果を検討した。
インフルエンザウイルスは経気道感染後、気道に存在するトリプシン様プロテアーゼによってHAが開裂を受け、効率のよい感染が可能となる。そこでここでは、トリプシン耐性能を有する(D)PVF-tetを用いた。
6-8週令のBalb/cマウスにA/PR/8/34インフルエンザウイルスを単独、あるいは各量の(D)PVF-tet共存下で経鼻投与し、体重変化(図16)ならびに生存率(図17)を比較した。
その結果、ウイルス単独では全例が死亡する条件下で、1.25 mg/kgの(D)PVF-tet投与群では10%のマウスが、2.5 mg/kgでは半数が生存すること、生存マウスは12日以降体重も非感染群と同じレベルにまで回復すること、が示された。
さらに、2.5 mg/kgの(D)PVF-tet投与群については、3日後ならびに5日後の肺中ウイルス量をプラークアッセイにより測定したところ、いずれもウイルス生成の明瞭な低下が観察されること、特に3日後では約1/3に低下していることが明らかとなった(図18)。
以上の結果から、(D)PVF-tetはわずか1回の投与でインフルエンザウイルス感染によるマウス個体毒性を顕著に抑制すること、すなわち優れたインフルエンザウイルス感染症の予防・治療薬となり得ることが明らかとなった。

Claims (3)

  1. 3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号1のペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合している4価ペプチドであることを特徴とするヘマグルチニン結合ペプチド。
  2. 配列番号1のペプチドモチーフのN末端側に位置するアルギニン(Arg)が、非天然異性体(D-Arg)に置換されていることを特徴とする請求項1のヘマグルチニン結合ペプチド。
  3. 請求項1または2のヘマグルチニン結合ペプチドを含有することを特徴とするインフルエンザウイルス感染症の予防・治療薬。
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