実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の構成を示す構成図である。図1に於いて、回転電機1は、この発明の実施の形態1では、3相巻線を有し回転子に永久磁石を配置した突極型の永久磁石同期機を例に挙げて説明するが、他種類の回転電機であっても同様の原理で構成することが可能である。回転電機の制御装置1000について、以下に説明する。
電流検出手段2は、回転電機1に流れる回転電機電流を検出する。尚、この実施の形態1では3相全ての電流を検出するようにしているが、回転電機1に流れる電流が3相平衡であることを利用して、3相のうち任意の2相の電流のみ検出し、残りの1相の電流は、計算により求める公知の手法を用いてもよい。
制御手段3は、電圧印加手段4へ電圧指令を出力する。この実施の形態1では、制御手段3は、後述する位置推定手段5の出力である推定位置θに基づいて、回転電機1の速度にほぼ同期して回転する座標軸であるd−q軸により電圧指令を演算するように構成されている。制御手段3は、基本電圧指令生成部31と、高周波電圧指令生成部32と、加算部33と、第一電圧指令生成部34と、第二電圧指令生成部35と、電圧指令選択部36と、第一座標変換器37と、第二座標変換器(1)381、第二座標変換器(2)382、第二座標変換器(3)383とを備えている。
第一座標変換器37は、後述するように、電流検出手段2により検出した3相の回転電機電流iu、iv、iwを、d軸上の回転電機電流id、及びq軸上の回転電機電流iqに座標変換する。第二座標変換器(1)381は、後述するように、加算部33の出力をd−q軸から3相へ座標変換する。第二座標変換器(2)382は、第一電圧指令生成部34の出力をd−q軸から3相へ座標変換する。第二座標変換器(3)383は、後述するように、第二電圧指令生成部35の出力をd−q軸から3相へ座標変換する。
基本電圧指令生成部31は、外部から入力される位置指令ω*、速度指令(図示せず)、トルク指令(図示せず)、電流指令(図示せ)等に、回転電機1の回転子位置、速度、トルク、電流等が追従するように、駆動用としてのd軸上の基本電圧指令vds及びq軸上の基本電圧指令vqsを演算し出力する。例えば、実施の形態1では、図1に示すように外部から速度指令ω*が入力された場合を示しており、この場合は、後述する位置推定手段5の出力である推定速度ωrが速度指令ω*に追従するように、周知の比例積分制御を行って電流指令を生成し、更にこの電流指令にd軸上の基本電流指令ids及びq軸上の基本電流指令iqsが追従するように比例積分制御を行って、d軸上の基本電圧指令vds及びq軸上の基本電圧指令vqsを演算して出力する。
補正量基準値演算手段7は、電流検出手段2により検出された回転電機電流iu、iv、iwに基づいて後述する誤差補正量基準値c0を演算して出力する。補正量出力手段6は、補正量基準値演算手段7からの誤差補正量基準値c0と、第一座標変換器37から出力されたd軸上の回転電機電流id及びq軸上の回転電機電流iqとに基づいて誤差補正量cを演算して出力する。
高周波電圧指令生成部32は、回転電機1の回転角周波数よりも大きい回転角周波数を有するd軸上の高周波電圧指令vdh及びq軸上の高周波電圧指令vqhを出力する。この発明の実施の形態1では、高周波電圧指令生成部32は、下記の式(1)に示すように、任意の値を有する高周波電圧の振幅Vhで、回転電機1の回転角周波数よりも大きく任意の値を有する角周波数ωhをd軸方向のみに出力する交番高周波電圧を出力するように構成されている。
但し、tは時間を示す。
加算部33は、基本電圧指令生成部31の出力であるd軸上の基本電圧指令vds及びq軸上の基本電圧指令vqsと、高周波電圧指令生成部32の出力であるd軸上の高周波電圧指令vdh及びq軸上の高周波電圧指令vqhを加算して出力する。第二座標変換器(1)は、加算部33からの出力をd−q軸から3相に座標変換して3相基本電圧指令vus、vvs、vwsを出力する。
第一電圧指令生成部34は、誤差補正量基準値c0を求めるために、後述するd軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1を出力する。第二座標変換器(2)382は、第一電圧指令生成部34からのd軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1を3相に座標変換して3相第一電圧指令vu1、vv1、vvw1を出力する。第二電圧指令生成部35は、誤差補正量基準値c0を求めるために、後述するd軸上の第二電圧指令vd2及びq軸上の第二電圧指令vq2を出力する。第二座標変換器(3)383は、第二電圧指令生成部35からのd軸上の第二電圧指令vd2及びq軸上の第二電圧指令vq2を3相に座標変換して3相第二電圧指令vu2、vv2、vw2を出力する。尚、第一電圧指令生成部34と第二電圧指令生成部35の詳細動作は後述される。
電圧指令選択部36は、加算部33からの出力を第二座標変換器(1)により座標変換した3相基本電圧指令vus、vvs、vwsと、第一電圧指令生成部34からのd軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1を第二座標変換器(2)382により座標変換した3相第一電圧指令vu1、vv1、vvw1と、第二電圧指令生成部35からのd軸上の第二電圧指令vd2及びq軸上の第二電圧指令vq2と、が入力される。電圧指令選択部36は、補正量基準値演算手段7により後述する誤差補正量基準値c0を演算するときは、3相第一電圧指令vu1、vv1、vw1、又は、3相第二電圧指令vu2、vv2、vw2を選択して出力し、誤差補正量基準値c0を演算するとき以外、即ち、制御手段3の外部から入力される位置指令、速度指令、トルク指令、電流指令等のうちの少なくとも何れかの指令に追従するように回転電機1を動作させる時は、3相基本電圧指令vus、vvs、vwsを選択し出力するように構成されている。
電圧印加手段4は、複数の半導体スイッチング素子により構成され、制御手段3からの出力、即ち制御手段3に於ける電圧指令選択部36が選択した前述の3相基本電圧指令vus、vvs、vwsに基づいて、回転電機1に3相電圧を印加するように構成されている。
より詳しく述べれば、電圧印加手段4は、例えば、第1のパワー半導体スイッチング素子を有するU相上アームと第2のパワー半導体スイッチング素子を有するU相下アームとが直列接続されてなるU相アームと、第3のパワー半導体スイッチング素子を有するV相上アームと第4のパワー半導体スイッチング素子を有するV相下アームとが直列接続されてなるV相アームと、第5のパワー半導体スイッチング素子を有するW相上アームと第6のパワー半導体スイッチング素子を有するW相下アームとが直列接続されてなるW相アームとを備えた3相ブリッジ回路を有し、前述の各パワー半導体スイッチング素子をオン/オフさせることにより、3相ブリッジ回路の直流側端子に印加された直流電圧を3相交流電圧に変換して回転電機1の電機子巻線に印加するようにした、いわゆる電圧型インバータ等により構成される。
又、このように構成された電圧印加手段4は、発電機として動作する回転電機1が、その電機子巻線に誘起した3相交流電圧を前述の各半導体パワースイッチング素子をオン/オフさせることにより直流電圧に変換するコンバータとしても動作可能であるように構成されている。
位置推定手段5は、回転電機1を駆動する前に回転子の磁石磁束の方向を検出する初期磁極位置検出動作と、回転電機1を駆動中に常に回転電機1の回転子の位置や速度を推定する常時位置推定動作の2つの動作を行う。位置推定手段5に於ける初期磁極位置検出動作は、例えば、前述の特許文献4に開示された技術と同様に、回転電機1を駆動する前に1回のみ行う。その後は、常時位置推定動作を行う。
以下に常時位置推定動作の具体的手法について説明する。尚、前述の誤差補正量基準値c0を演算するときは、位置推定手段5は、初期磁極位置検出動作により検出した回転電機1の回転子位置を推定位置θ0として出力する。従って、誤差補正量基準値c0を演算するときは、前述の第一座標変換器37と第二座標変換器(1)381、第二座標変換器(2)382、及び第二座標変換器(3)383は、夫々、位置推定手段5の初期磁極位置検出動作により検出した回転電機1の回転子位置θ0を制御位相として、前述の座標変換を行うことになる。
位置推定手段5に於ける常時位置推定動作では、回転電機1の回転子の突極性を利用して回転電機1の回転子位置を推定し、その回転子の推定位置θや回転子の推定速度ω0rを演算し出力する。この場合は、前述の第一座標変換器37と第二座標変換器(1)381、第二座標変換器(2)382、及び第二座標変換器(3)383は、夫々、位置推定手段5が常時位置推定動作により推定した回転電機1の回転子の推定位置θ0を制御位相として、前述の座標変換を行うことになる。
次に、回転電機1の回転子位置や回転子速度を推定する原理、及び位置推定手段5に於ける演算動作について詳細に説明する。前述したように、位置推定手段5が出力する推定位置θ0を制御位相として、第二座標変換器(1)381によりd−q軸から座標変換された3相基本電圧指令vus、vvs、vwsが電圧指令選択部26を介して電圧印加手段4に与えられる。電圧印加手段4は、与えられた3相基本電圧指令vus、vvs、vwsに基づいて3相交流電圧を発生して回転電機1の電機子巻線に印加する。回転電機1の電機子巻線は、印加された3相交流電圧に基づいて流れる3相の回転電機電流iu、iv、iwにより、回転磁界を発生させる。回転電機1の回転子には、永久磁石により構成された突極の界磁磁極が設けられており、回転子は電機子巻線により発生した回転磁界に同期して回転する。
いま、回転子の回転と同期して回転する永久磁石の磁束に対して水平方向をdm軸、このdm軸と直交する方向(以下、直交方向と称する)をqm軸とし、このdm−qm軸を用いると、回転電機1が突極性を有する永久磁石同期機である場合に、d−q軸上の電圧方程式は次に示す式(2)に示される。
突極性を利用して回転電機1の回転子位置や回転子速度を推定する方法は、主に回転電機1の回転子速度がゼロから低速の範囲で利用されることが多いので、回転速度[ωr≒0]とすれば、式(2)式に基づいて下記の式(3)を得ることができる。
更に、式(3)の右辺第2項は、高周波電流の微分であり、高周波電流の微分成分は高周波電圧Vhの角周波数ωh倍されるため、式(3)の右辺第2項≫右辺第1項となる。そのため、式(3)の右辺第1項は無視することができ、その結果式(3)から次の式(4)を得ることができる。
ここで、振幅Vhを有する高周波電圧を前述の式(1)のように与えた場合、d軸に流れる高周波電流idhとq軸に流れる高周波電流iqhは、式(4)に式(1)を代入し、両辺を積分することで、下記の式(5)により得ることができる。
式(5)式から、d軸に流れる高周波電流idhとq軸に流れる高周波電流iqhの振幅成分に、夫々、d−q軸と、dm−qm軸と、の間の偏差Δθが含まれることが分かる。特に、q軸に流れる高周波電流iqhの振幅成分は、sin2Δθであるため、q軸に流れる高周波電流iqhの振幅|iqh|を計算し、振幅|iqh|がゼロとなるように、例えば下記の式(6)に示すように積分同定を用いたり、比例積分制御等を用いて、推定軸であるd−q軸が、dm−qm軸に一致するようにして位置推定θを演算する。
回転子速度は、回転子位置の微分値であるため、推定速度ω0rは、例えば下記の式(7)のように推定位置θ0を微分することで求めることができる。
以上が、位置推定手段5の基本的な位置推定動作である。
次に、回転電機1に磁気飽和が生じたときに位置推定手段5が出力する推定位置θ0について説明する。図2A、及び図2Bは、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であり、図2Aは、回転電機1に磁気飽和が生じていないときに於いて、回転子が有する永久磁石の磁束の方向が0°方向にあるときのインダクタンス分布について示しており、横軸は回転子位置(電気角)、縦軸はインダクタンスの大きさを示している。図2Bは、図2Aに示されるインダクタンス分布を回転子位置平面に描画したインダクタンスリサージュ波形を示しており、楕円の大きさがインダクタンスの大きさを表す。
回転電機1に磁気飽和が生じていない場合、突極性を有する永久磁石回転電機のインダクタンスが最小になる方向と、永久磁石の磁束の方向は同一方向となる。従って、前述の式(6)までに示した位置推定動作を、図2A、図2Bを用いて説明すると、式(6)に示されるように、q軸に流れる高周波電流iqhの大きさが無くなるように推定位置θ0を調整するということは、図2A、図2Bに示されるインダクタンスが最小値Lminとなる位置に一致するように推定位置θ0を調整することに等しいことになる。
図3A、図3Bは、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であり、図3Aは、回転電機1に磁気飽和が生じたときに於いて、回転子が有する永久磁石の磁束の方向が0°方向にあるときのインダクタンス分布について示しており、横軸は回転子位置(電気角)、縦軸はインダクタンスの大きさを示している。図3Bは、図3Aに示されるインダクタンス分布を回転子位置平面に描画したインダクタンスリサージュ波形を示しており、楕円の大きさがインダクタンスの大きさを表す。
回転電機1に磁気飽和が生じると、図3A、図3Bに示されるようにインダクタンス分布が変化し、永久磁石の磁束の方向とインダクタンスが最小値Lminとなる位置とが一致しなくなる。つまり、式(6)のように、q軸に流れる高周波電流iqhの大きさがゼロとなるように回転子位置の推定を行うと、0°からずれた位置を回転子位置として推定することになる。これを図3A、図3Bで示すと、q軸に流れる高周波電流iqhがゼロとなる位置は、0°の位置からインダクタンスの最小値Lminとなる位置までずれた位置となるので、0°とインダクタンスの最小値Lminとなる位置との偏差であるθerrだけずれた位置を推定位置θ0とすることとなる。この位置誤差θerrが磁気飽和時の推定位置の誤差となる。
次に、回転電機1の磁気飽和時に於ける回転子位置の推定動作について、数式を用いて説明する。磁気飽和により、永久磁石磁束の方向と高周波電流iqhの最小値Lminとの間に位置誤差θerrが生じたとする。前述の式(2)のd軸インダクタンスLdc、q軸インダクタンスLqc、インダクタンス変化量Ldqcは、夫々、次の式(8)で示される。
式(8)を式(3)に代入し、式(4)、式(5)と同様の計算を行うと下記の式(9)を得ることができる。
式(9)に於いて、q軸に流れる高周波電流iqhの大きさには、位置誤差θerrが含まれている。従って、q軸に流れる高周波電流iqhの大きさがゼロとなるように推定位置θ0を調整した場合、位置誤差θerrの分だけ誤差が生じることが式(9)からも明らかである。以上が、回転電機1に磁気飽和が生じたときの位置推定手段5が出力する推定位置θ0に関する説明である。
次に、補正量出力手段6の動作について説明する。補正量出力手段6は、前述した回転電機1の磁気飽和時に生じる位置誤差θerrを補正するための値である位置誤差補正量を出力するものである。回転電機1の磁気飽和時の位置誤差θerrを修正する方法として、前述の特許文献3によれば、下記の式(10)で表わされる位置誤差θerrによって生じるq軸に流れる高周波電流iqhの大きさ(以下の説明では、位置誤差補正量と称する)|iqh_ref|に追従するように、比例積分制御を行う方法が開示されている。
又、別の方法として、式(9)に於ける、q軸に流れる高周波電流iqhの大きさがゼロとなるように推定位置θ0を演算した後に、推定位置θ0から位置誤差θerrを減算する方法等が考えられる。以上述べたような方法により、回転電機1の磁気飽和時の位置誤差を低減もしくは無くすことが原理的に可能である。
しかしながら、位置誤差θerrの値や位置誤差補正量|iqh_ref|の値は、回転電機1がどのように磁気飽和するかによって変化する。又、回転電機1の磁気飽和の状態は、回転電機1の構造によって異なるため、位置誤差θerrや位置誤差補正量iqh_refは、回転電機毎に異なる値となる。更に、回転電機1がどのように磁気飽和するかを数式で表現することは困難であるため、位置誤差θerrを補正するためには回転電機毎に位置誤差θerrや位置誤差補正量|iqh_ref|を事前に測定して用意しておく必要がある。又、位置誤差θerrや位置誤差補正量|iqh_ref|は、回転電機電流、特にトルクに寄与する電流成分(以下、トルク電流と称する)に応じて変化する特徴がある。
そこで、補正量出力手段6は、回転電機電流又はトルク電流の関数として事前に位置誤差θerr、又は位置誤差補正量|iqh_ref|を用意してメモリに記憶しておき、外部から入力される回転電機電流、又はトルク電流に応じて、位置誤差θerr又は位置誤差補正量|iqh_ref|を、誤差補正量cとして位置推定手段5へ出力するように構成されている。
次に、補正量出力手段6に記憶する位置誤差θerr、又は位置誤差補正量|iqh_ref|の値と、補正量出力手段6から出力させる誤差補正量cの設定の仕方について具体的に説明する。図4は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、トルク電流に対する位置誤差補正量|iqh_ref|の実測波形の一例を示しており、横軸はトルク電流、縦軸は位置誤差補正量iqh_refを示す。図5は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、トルク電流に対する補正量基準値の一例を示しており、横軸はトルク電流、縦軸は補正量基準値を示す。
補正量出力手段6には、図4に示す実測波形に基づいて、例えば図5に示すように、等間隔に異なるトルク電流の値に対応する位置誤差補正量|iqh_ref|の値(図5の○印の箇所の値)をメモリに記憶させ、その記憶させた位置誤差補正量iqh_refの隣接する値の間(図5における、隣接する○印と○印との間の値)は直線補間するように、位置誤差補正量の値を予め設定しておく。ここでは、この設定した位置誤差補正量iqh_refの値を誤差補正量基準値c0と称する。
そして、位置推定手段5に出力する誤差補正量cは、制御手段3の外部から入力される回転電機電流、即ちトルク電流、に対する、誤差補正量基準値c0をメモリから読み出して補正量出力手段6から誤差補正量cとして出力する。尚、前述の説明では、位置誤差補正量|iqh_ref|を誤差補正量基準値c0として設定する例を説明したが、位置誤差θerrを補正量基準値ことして設定する場合も、前述と同様に設定すればよい。以上が、補正量出力手段6の動作である。
補正量出力手段6に設定する補正量基準値は、図4に示すように実機を用いて測定した位置誤差補正量|iqh_ref|の値に基づいて設定する必要があり、従来は、負荷装置を用意して、人手を介して実測し、実測値に基づいて人手を介して補正量基準値|iqh_ref|を計算して補正量出力手段6に設定していた。この発明の実施の形態1では、補正量基準値を、負荷装置を用いずまた人手を介さずに自動的に演算するようにしたものであり、これを実現するのが、制御手段3に於ける、第一電圧指令生成部34、第二電圧指令生成部35、補正量基準値演算手段7を主体とする構成である。
次に、第一電圧指令生成部34、第二電圧指令生成部35、補正量基準値演算手段7の詳細ついて説明する。先ず、補正量基準値を得るまでの原理について説明し、その後に、第一電圧指令生成部34、第二電圧指令生成部35、及び補正量基準値演算手段7の動作について説明する。
突極性を有する回転電機1のインダクタンスリサージュ波形は、前述したように、回転電機1に磁気飽和が生じていないときは図2Bに示され、回転電機1に磁気飽和が生じたときは図3Bに示される。ここで、回転電機1のインダクタンスの抵抗成分を無視すれば、振幅が一定の電圧を回転電機1に印加した場合、電流リサージュ波形は、磁気飽和が生じていないときは図6に示される通りとなる。すなわち、図6は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、振幅が一定の電圧を回転電機1に印加した場合であって回転電機1に磁気飽和が生じていないときの電流リサージュ波形を示している。図6に於いて、Imaxは電流リサージュ波形の長軸方向の大きさ、Iminは電流リサージュ波形の短軸方向の大きさを示している。
一方、回転電機1のインダクタンスの抵抗成分を無視すれば、振幅が一定の電圧を回転電機1に印加した場合、電流リサージュ波形は、磁気飽和が生じたときは、図7に示すようになる。即ち、図7は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、振幅が一定の電圧を回転電機1に印加した場合であって回転電機1に磁気飽和が生じたときの電流リサージュ波形を示している。回転電機1に磁気飽和が生じたときに於ける電流リサージュ波形は、図7に示すように、インダクタンスリサージュ波形の楕円の短軸と長軸が入れ替わっただけの波形となる。
尚、回転電機1のインピーダンスの抵抗成分を無視するためには、回転電機1に高周波電圧を印加することや、パルス電圧を印加することが考えられる。例えば、高周波電圧を回転電機1に印加した場合は、下記の式(11)が成り立つような角周波数の高周波電圧を回転電機1に印加すれば、回転電機1のインピーダンスのうち、インダクタンス成分が支配的となり抵抗成分を無視することができる。このとき、回転電機1に流れる電流は次の式(12)に示される。
又、一定振幅Vdcのパルス電圧を印加する場合、パルス電圧を印加しているときの回転電機1に流れる電流は次に示す式(13)により示される。
図8A及び図8Bは、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、パルス電圧を印加したときの電圧波形と電流波形を模式的に示している。式(13)により、回転電機1に流れる電流は最終的にVdc/Rになることが明らかであるが、図8Aに示されるように、Vdc/Rで表わされる電流値は、一般的に回転電機1の定格電流Imに比べて非常に大きい値となることが分かる。ここで、回転電機の制御装置に於いては、Vdcは電圧印加手段4の直流母線電圧、Rは回転電機1の電機子巻線の抵抗である。
従って、回転電機1の定格電流Im付近までの電流のみを考慮する場合は、図8Bに示すように、回転電機1に流れる電流は時間に比例する直線と見なすことができ、その直線の傾きは、式(13)を時間微分してt=0を代入した下記の式(14)となる。よって、回転電機1に流れる電流は下記の式(15)となり、パルス電圧を印加したときに回転電機1に流れる電流は、回転電機1のインピーダンスのうち抵抗成分の影響を無視して得ることができる。
式(12)と式(15)で示したように、回転電機1のインピーダンスのうち抵抗成分が無視出来るような電圧を回転電機1に与えた場合、電流の大きさと回転電機1のインダクタンスLmは、逆数の関係となるため、電流リサージュは、インダクタンスリサージュの短軸と長軸を入れ替えたような波形が得られることが分かる。
電流リサージュは、インダクタンスリサージュの短軸と長軸を入れ替えただけであるので、回転電機1の磁気飽和の度合いが同じであれば、図3Bに示すインダクタンスリサージュ波形の楕円の傾き、及び図7に示す電流リサージュ波形の楕円の傾きは同じとなり、位置誤差θerrは同じになる。従って、電流リサージュ波形からその楕円の傾きを計算することで、位置誤差θerrを求めることが出来る。又、位置誤差補正量|iqh_ref|は、前述の式(10)により得ることができる。
ここで、式(10)に於けるLとlは(1)式に記載のとおり、LmaxとLminで表現できるため、式(10)は下記の式(16)に変形することが出来る。
又、パルス電圧を印加する場合、電流とインダクタンスは式(15)の関係となるため、インダクタンスの最大値Lmaxと最小値Lminは、電流リサージュの長軸方向の大きさImaxと短軸方向の大きさIminを用いて下記の式(17)により求めることが出来る。
そして式(17)を式(16)に代入すると下記の式(18)となり、パルス電圧の振幅Vdcとパルス電圧印加時間t、そして、位置誤差θerrに相当する電流リサージュの楕円の傾きと、電流リサージュの短軸方向の大きさImin、長軸方向の大きさImaxから位置誤差補正量|iqh_ref|を計算することが出来る。
式(18)に於けるVhとωhは、前述した高周波電圧指令生成部32が出力する高周波電圧の振幅と角周波数であり、任意に設定可能な値であるので、これらも既知の値である。
式(17)、式(18)は、パルス電圧を印加した場合に得られる電流リサージュから位置誤差補正量を演算する方法について示しているが、これと同様にして高周波電圧を用いる場合は、前述の式(12)の関係を用いて位置誤差補正量を演算することができる。次に、図5に示す○部分のように、所望の複数のトルク電流に対する位置誤差θerrや位置誤差補正量iqh_refを求めるために、回転電機1に各トルク電流が流れている状態での電流リサージュを取得することで、各トルク電流に対する電流リサージュを得る。そして、得られた各電流リサージュに基づいて、各トルク電流に対する位置誤差θerrや位置誤差補正量iqh_refを演算すれば、図5に示すような補正量基準値を得ることが出来る。
尚、電流リサージュから、位置誤差θerrに相当する電流リサージュ波形の楕円の傾きや電流リサージュ波形の長軸方向の大きさImaxや電流リサージュ波形の短軸方向の大きさImin求めるには、最小二乗法を適用して電流リサージュ波形が下記の式(19)の楕円方程式の基本形に合うようにフィッティングする周知の手法により求めることができる。
式(19)は、楕円がxy平面に描画されている場合であり、図示すると図9に示すようになる。即ち、図9は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、楕円方程式の基本形を示している。
以上、電流リサージュから位置誤差θerrや位置誤差補正量|iqh_ref|を求める原理について示した。次に、電流リサージュを得るための動作について説明する。前述の各トルク電流に対応する電流リサージュを求めるためには、回転電機1にトルク電流を流すための電圧指令、電流リサージュを得るための電圧指令が必要となる。この実施の形態1に於いて、トルク電流を流すための電圧指令は、第一電圧指令生成部34により生成する第一電圧指令としての、d軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1であり、電流リサージュを得るための電圧指令は、第二電圧指令生成部35で生成する第二電圧指令としての、d軸上の第二電圧指令vd2及びq軸上の第二電圧指令vq2である。
先ず、第一電圧指令生成部34の動作について説明する。回転電機1が単体、つまり無負荷状態の場合、トルク電流を流し続けると回転電機1は加速しながら回転してしまう。特に、回転電機1が何らかの機械装置に組み込まれている場合で、回転電機1の回転範囲に制限がある場合は、回転電機1が制限された回転範囲を超えて回転しようとしてしまうことで、前述の機械装置を破損させてしまう恐れがある。従って、トルク電流は常に流すことができず、トルク電流はなるべく短時間である必要がある。そこで、第一電圧指令生成部34では、回転電機1に任意のトルク電流が流れるように、後述するように、短時間のパルス状の電圧指令を生成し出力する。
図10、図11は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図である。図10は、トルク電流指令Itrqとそのd軸成分及びq軸成分を示している。図11は、d軸上の第一電圧指令vd1、及びq軸上の第一電圧指令vq1を示している。図10に示されるように、例えばトルク電流指令Itrqをd軸となす角度θtrqの方向に流したい場合は、トルク電流指令Itrqのd軸成分Id_trqとトルク電流指令Itrqのq軸成分Iq_trqは、下記の式(20)により求められる値となる。
このトルク電流指令Itrqのd軸成分Id_trqを得るためのd軸上の第一電圧指令vd1は、図11に示されるように、振幅がVdqでパルス印加時間がtd1のパルス状の電圧指令として与えられる。又、トルク電流指令Itrqのq軸成分Iq_trqを得るためのq軸上の第一電圧指令vq1は、図11に示されるように、振幅がVdqでパルス印加時間がtq1のパルス状の電圧指令として与えられる。
図12は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、ルク電流指令Itrqがq軸成分のみからなる場合を示している。即ち図12に示されるように、q軸方向に任意の値のトルク電流指令Itrqを流したい場合は、式(20)に於ける角度θtrqが90°となり、トルク電流指令Itrqのd軸成分Id_trqがゼロとなり、トルク電流指令Itrqのq軸成分Iq_trqがトルク電流指令Itrqに等しくなる。このため、図13に示されるように、d軸の第一電圧指令vd1はゼロ、q軸の第一電圧指令vq1は振幅Vdqでパルス印加時間がtq1のパルス状の電圧指令として与えられる。
d軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1の振幅Vdqは、前述したように電圧印加手段4の直流母線電圧により定まるd−q軸上の最大電圧振幅値であり、任意に設定することができない値である。従って、d軸とq軸に所望の電流を流すためには、パルス印加時間td1、tq1を任意の値に調整することで実現する。パルス印加時間td1、tq1は、パルス印加時間と回転電機1に流れる電流の関係を示す前述の式(15)に示され、又、d軸に流したい所望の電流は、トルク電流指令Itrqのd軸成分Id_trqに基づいて定められ、q軸に流したい所望の電流は、トルク電流指令Itrqのq軸成分Iq_trqにより定められる。従って、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLqを用いて次に示す式(21)に基づいてパルス印加時間td1、tq1を設定すればよい。
尚、第一電圧指令としてのd軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1に基づく電圧が回転電機1に印加されることで流れる電流のピーク値を、ここでは、第一回転電機電流と称する。この第一回転電機電流は、補正量基準値演算手段7に記憶される。この第一回転電機電流は、回転電機1に実際に流れるトルク電流となる。第一回転電機電流を記憶する目的は、回転電機1に流れる正確なトルク電流を得るためである。第一電圧指令としてのd軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1は、任意のトルク電流指令Itrqが流れるように設定されるが、前述の式(21)に於けるd軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、d軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1の振幅Vdqに誤差があった場合、回転電機1に実際に流れるトルク電流はトルク電流指令Itrqと一致しない場合がある。従って、第一回転電機電流を記憶して、より正確なトルク電流を得ることができるようにされている。
次に、第二電圧指令生成部35の動作について説明する。第二電圧指令生成部35から出力される第二電圧指令は、電流リサージュを得るための電圧指令であり、振幅が同一で回転電機1のn個の方向に電圧を印加するための電圧指令である。ここで、nは2以上の自然数となるように設定すればよいが、電流リサージュを描く場合、実質的には[n=4]以上が望ましい。又、電圧を印加する方向はどのような方向でもよいが、例えば、回転電機1の電気角1周に対して、360°/nの等間隔で与えるようにしてもよい。
図14は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、n=6として、回転電機1の電気角1周に対して360°/6、つまり、60°間隔で第二電圧指令を印加する場合を示している。又、同一方向に第二電圧指令を出力しても意味が無いため、n個の方向はすべて異なる方向であることが望ましい。この実施の形態1では、n=6の場合の例を用いて説明することとする。n個の第二電圧指令を出力する順番はどのような順番でもよく、この実施の形態1では、図14に示す<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>の順番に順次出力するように構成されている。
尚、第二電圧指令としてのd軸上の第二電圧指令vd2とq軸上の第二電圧指令vq2の振幅は任意に設定することが出来るが、回転電機1の駆動させるとき、高周波電圧指令生成部32により出力される高周波電圧指令としてのd軸上の高周波電圧指令vdhとq軸上の高周波電圧指令vqhにより回転電機1に流れる高周波電流と同じ大きさで、回転電機1が磁気飽和しないような電流が流れるように、第二電圧指令の振幅を設定することが望ましい。又、n個の方向の第二電圧指令は全て振幅が同じであるほうが、回転電機1の磁気飽和の度合いも同じになり、更に、演算も簡単になるため、n個の方向の第二電圧指令の全ての振幅は全て同一であることが望ましい。
但し、第二電圧指令としてのd軸上の第二電圧指令vd2とq軸上の第二電圧指令vq2をパルス電圧を出力する場合は、d軸上の第二電圧指令vd2とq軸上の第二電圧指令vq2の振幅Vdqは、前述したように電圧印加手段4の直流母線電圧から決まるd−q軸上の最大電圧振幅値となるので、実際は、d軸上の第二電圧指令vd2とq軸上の第二電圧指令vq2としての電圧パルスの印加時間を前述の式(21)に基づいて調整することが必要となる。
トルク電流指令Itrqに対する電流リサージュを得るために、第一電圧指令に基づく電圧が電圧印加手段4から回転電機1に印加されて、第一電圧指令によるトルク電流が回転電機1に流れている間に、第二電圧指令を出力する。具体的には、制御手段3により第一電圧指令を電圧印加手段4に出力した直後に、第二電圧指令を制御手段3から電圧印加手段4に出力すればよい。
回転電機1が磁気飽和をしていない場合、つまり、第一電圧指令がゼロの場合は、図2Bに示されるようなインダクタンスリサージュとなるので、図14に示される6個の第二電圧指令による電圧が印加されると、図15に於ける○印の電流が回転電機に流れることになる。又、第一電圧指令がゼロではなく、第一電圧指令に基づく電流が回転電機1に流れて、回転電機1が磁気飽和している状態で、例えば、前述の図3Bのようなインダクタンスリサージュとなっている場合、図14に示される6個の第二電圧指令に基づく電圧が回転電機1に印加されると、図16の○印に示される電流が流れることになる。図16に示される電流リサージュの中心は、第一電圧指令により流したいトルク電流指令のd軸成分Id_trq及びq軸成分Iq_trqの付近となっている。トルク電流指令のd軸成分Id_trqを「0」とする第一電圧指令であれば、図17に示されるような(0、Iq_trq)付近が中心となる電流リサージュとなる。尚、図15〜図17は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図である。
尚、n個の第二電圧指令によって得られる図15〜図17に示されるようなn個の回転電機電流を、ここでは、第二回転電機電流と称する。このn個の第二回転電機電流は、補正量基準値演算手段7に記憶される。以上が、第二電圧指令生成部35の動作の説明である。
次に、補正量基準値演算手段7の動作について説明する。補正量基準値演算手段7は、記憶した前述のn個の第二回転電機電流を用い、前述したように、楕円方程式の基本形を示す式(19)にフィットするように、第二回転電機電流のリサージュ波形の楕円の傾き、楕円の長軸の長さ、短軸の長さを計算し、更に、位置誤差θerrや位置誤差補正量|iqh_ref|を計算する。そして、別途記憶しておいた前述の第一回転電機電流に対する位置誤差θerr又は位置誤差補正量|iqh_ref|、即ち、回転電機1に実際に流れたトルク電流に対する位置誤差θerr又は位置誤差補正量|iqh_ref|を誤差補正量基準値c0として出力する。
例えば、誤差補正量基準値c0を位置誤差θerrとする場合は、周知の技術である最小二乗法を用いて楕円の基本形を示す式(19)にフィットするようにすることで求めた楕円の傾きが位置誤差θerrに相当することになるので、楕円の傾きより、楕円の長軸とd軸とのなす角度を誤差補正量基準値c0として設定する。なお、設定する誤差補正量基準値c0には、楕円の短軸又は長軸のいずれか一方と、d軸又はq軸のいずれか一方とのなす角度とすればよく、必ずしも、前述した楕円の長軸とd軸とのなす角度に設定する必要はない。
又、誤差補正量基準値c0を位置誤差補正量|iqh_ref|とする場合は、周知の技術である最小二乗法を用いて楕円の基本形(19)式にフィットするようにすることで求めた楕円の傾きに加えて、楕円の長軸の長さと短軸の長さを用いて式(17)より、位置誤差補正量を演算し、これを誤差補正量基準値として設定する。
次に、各トルク電流に対する誤差補正量基準値c0を得るまでの、フローと時系列動作について説明する。図18は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。図19は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、制御手段3が図18のフローチャートに基づく動作を行ったときのd軸及びq軸の電圧指令とd軸及びq軸の電流の時系列波形の一部を示しており、Aはd軸電圧指令の時系列波形、Bはq軸電圧指令の時系列波形、Cはd軸電流の時系列波形、Dはq軸電流の時系列波形を示す。図18及び図19に於いて、mはトルク電流指令Itrqのパターンの個数を示し、図18ではm=5としている。5個のトルク電流指令の内訳は、図18では、トルク電流指令Itrqを回転電機1の定格の0[%]〜200[%]までを50[%]刻みの5パターンとする。尚、トルク電流指令のパターン数は何個でもよく、各トルク指令の間隔も自由に設定してもよい。
図18に於いて、最初に、ステップS1では、m=1を設定する。次に、ステップS2に於いて、m=1に対するトルク電流指令Itrq(1)を設定する。トルク電流指令Itrq(1)は回転電機1の定格電流の0[%]とする。ステップS3では設定したItrq(1)に対して、第一電圧指令としてのd軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1を演算して出力する。ステップS2とステップS3での動作(1)は、図19に於けるタイミング(A1)で実行され、第一電圧指令生成部34により行われる。なお、m=1のときは、第一電圧指令はゼロである。
次に、ステップS4に進み、電流検出手段2により、第一電圧指令に基づいて回転電機1に流れる第一回転電機電流検出し、この検出した第一回転電機電流をメモリに記憶する。ステップS4での動作(2)は、図19に於けるタイミング(B1)で実行され、補正量基準値演算手段7により行われる。ステップS4で記憶する第一回転電機電流は、図19に於けるd軸電流及びq軸電流に▲印で示されている。尚、m=1のときは、第一電圧指令はゼロであるので、第一回転電機電流もゼロとなる。
次に、ステップS5に於いて、n個の第二電圧指令を生成し出力する。この実施の形態1ではn=6である。ステップS5での動作(3)は、図19に於けるタイミング(C1)で実行され、第二電圧指令生成部35により行われる。尚、図19のタイミング(C1)では、図14に示される電圧指令<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>を、順次出力するように構成されている。尚、前述したように、電圧指令<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>の出力の順番はどのような順番であってもよい。
ステップS6では、第二回転電機電流をメモリに記憶する。ステップS6での動作(4)は、図19のタイミング(C1)で実行され、前述のステップS5の動作(3)の実行タイミングと時間的には同一のタイミングとなる。ステップS6では、図19の●印に記したn個の第二回転電機電流をメモリに記憶する。ステップS6での動作(4)は、補正量基準値演算手段7により行われる。
次に、ステップS7に於いて、記憶したn個の第二回転電機電流を用いて位置誤差θerr、又は、位置誤差補正量|iqh_ref|を演算して誤差補正量基準値c0として出力する。尚、誤差補正量基準値c0を出力するときは、記憶した第一回転電機電流(トルク電流に等しい)も同時に出力する。このステップS7での動作(5)は補正量基準値演算手段7により行われ、図19の[m=1]と[m=2]の間のタイミングで行われる。
次に、ステップS8に進み、ステップS7の動作(5)の処理により出力された誤差補正量基準値c0と第一回転電機電流を補正量出力手段6へ記憶させる。ステップS8での動作(6)も、図19の[m=1]と[m=2]の間のタイミングで行われる。次に、ステップS9に於いて、[m=5]であるか否かの判定を行い、[m=5]未満であれば(No)、ステップS11に進んで[n=m+1]とし、ステップS2に戻り、以降、ステップS2〜S9の処理を繰り返す。ステップS9に於いて、[m=5]であれば、処理を終了する。
以上が、1つのトルク電流指令のフロー及び時系列動作である。この動作の次には、[m=2]に変更し、前述したように、図18の動作(1)〜(5)の流れでの処理を行う。又、[m=2]のときのA、B、C、Dに示す各時系列波形は、図19の[m=2]で示される範囲に示される。又、[m=3]、[m=4]、[m=5]の場合も、前述と同様の動作を行い、[m=5]まで実施すれば完了となる。尚、誤差補正量基準値c0と第一回転電機電流を補正量出力手段6へ記憶させる動作は、[m=5]まで完了した後に、[m=1]、[m=2]、[m=3]、[m=4]、[m=5]の場合の夫々の第一回転電機電流と誤差補正量基準値c0をまとめて行うようにしてもよい。
前述の各動作でのd軸電圧指令の時系列波形、q軸電圧指令の時系列波形、d軸電流の時系列波形、及びq軸電流の時系列波形は、図19のA、B、C、及びDに示されるとおりである。
以上のように、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置は、回転電機1に所望のトルク電流を流すために任意の大きさで任意の方向の電圧指令である第一電圧指令を制御手段3から出力し、その直後に、電流リサージュを取得するための任意の大きさでn個の方向からなるn個の電圧指令である第二電圧指令を制御手段3から順次出力することで所望のトルク電流に於ける電流リサージュを取得する。そして取得した電流リサージュを、最小二乗法を用いて楕円の方程式にフィッティングすることで、楕円の傾き、楕円の長軸の長さ、短軸の長さを演算し、演算した楕円の傾き、長軸の長さ、短軸の長さより位置誤差θerr又は位置誤差補正量|iqh_ref|を演算して記憶することで、回転電機の制御装置が自動的に誤差補正量基準値c0を求めることが出来る。
更に、m個のトルク電流指令のパターンに基づいてm種類のトルク電流を流すために、大きさと方向がm種類の第一電圧指令を用意し、m種類のうち1つの第一電圧指令を制御手段3から出力し、その直後に、電流リサージュを取得するための任意の大きさでn方向からなるn個の電圧指令である第二電圧指令を制御手段3から順次出力して、所望のトルク電流における電流リサージュを取得する。そして取得した電流リサージュを、最小二乗法を用いて楕円の方程式にフィッティングすることで、m種類のうち1つのトルク電流に対する楕円の傾き、楕円の長軸の長さ、短軸の長さを演算し、演算した楕円の傾き、長軸の長さ、短軸の長さより位置誤差θerr又は位置誤差補正量|iqh_ref|を求める。この動作をm回繰り返すことで、m種類のトルク電流指令に対する位置誤差θerr又は位置誤差補正量|iqh_ref|を求めることが出来る。そのため、従来のように負荷装置を準備して、回転電機に負荷を与えながら測定する煩雑な作業をする必要がなく、簡単に且つ短時間で誤差補正量基準値を求めることができる。
更に、駆動対象となる回転電機を事前に入手することができなくても、回転電機の制御装置が自動的に誤差補正量基準値を求めるため、回転電機の制御装置を使用するユーザー自身で、駆動対象となる回転電機に合った誤差補正量基準値を求めることができる。従って、回転電機の制御装置のメーカーが、駆動対象となる回転電機を事前に入手することができなくても、高周波重畳センサレス制御を利用して回転電機を駆動することが可能となる。
図20及び図21は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の構成を説明するための説明図である。ここで、実施の形態1の回転電機の制御装置の構成要素である電流検出手段2、制御手段3、電圧印加手段4、位置推定手段5、補正量出力手段6、及び補正量基準値演算手段7の各機能は、処理回路により実現される。この処理回路は、図20に示す処理回路200のような専用のハードウェアであってもよく、或いは図21に示すように、記憶装置101に格納されるプログラムを実行するプロセッサ100(CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPとも称される)であってもよい。
図20に示すように、処理回路が専用のハードウェアで構成されている場合、処理回路200は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらを組み合わせたものとなる。電流検出手段2、制御手段3、電圧印加手段4、位置推定手段5、補正量出力手段6、及び補正量基準値演算手段7の各機能の夫々を処理回路200で実現してもよいし、各機能をまとめて処理回路200で実現してもよい。
又、図21に示すように、処理回路がプロセッサ100で構成されている場合、電流検出手段2、制御手段3、電圧印加手段4、位置推定手段5、補正量出力手段6、及び補正量基準値演算手段7の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアやファームウェアは、プログラムとして記述され、記憶装置101に格納される。処理回路100は、記憶装置101に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。即ち、電流検出手段2、制御手段3、電圧印加手段4、位置推定手段5、補正量出力手段6、及び補正量基準値演算手段7の各動作ステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するための記憶装置101を備える。又、これらのプログラムは、電流検出手段2、制御手段3、電圧印加手段4、位置推定手段5、補正量出力手段6、及び補正量基準値演算手段7の処理手順や処理方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。更に、記憶装置101は、例えば、ROM、EPROM、EEPROM等の不揮発性又は揮発性の半導体メモリや、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、DVD等により構成される。
又、電流検出手段2、制御手段3、電圧印加手段4、位置推定手段5、補正量出力手段6、及び補正量基準値演算手段7の各機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、別の一部をソフトウェア又はファームウェアで実現してもよい。例えば、電流検出手段2及び電圧印加手段4については、専用のハードウェアとしての処理回路でその機能を実現し、制御手段3、位置推定手段5、補正量出力手段6、及び補正量基準値演算手段7については処理回路が記憶装置101に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
このように、電流検出手段2、制御手段3、電圧印加手段4、位置推定手段5、補正量出力手段6、及び補正量基準値演算手段7の各機能を実現する処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって実現することができる。
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2による回転電機の制御装置について説明する。図22は、この発明の実施の形態2による回転電機の制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。図23は、この発明の実施の形態2による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、図22のフローチャートに於いて、トルク電流指令のパターンの個数mが2個(m=2)のときの動作であって、d軸及びq軸の電圧指令とd軸及びq軸の電流の時系列波形の一部を示しており、Aはd軸電圧指令の時系列波形、Bはq軸電圧指令の時系列波形、Cはd軸電流の時系列波形、Dはq軸電流の時系列波形を示す。
実施の形態2による回転電機の制御装置の構成は、前述の実施の形態1に於ける図1と同様であり、各構成部分の動作も実施の形態1で説明したものと殆ど同様であるため、以下の説明では、実施の形態1の場合と異なる部分についてのみ説明する。図22に於いて、ステップS6により第二回転電機電流をメモリに記憶した後に、ステップS11に於いて第一電圧指令の逆位相の電圧指令(以下、第一カウンター電圧指令と称する)を出力している点が実施の形態1の場合と異なる。実際は、図23に示すように、第二電圧指令と第二回転機電流を記憶するタイミング(C2)の後に、タイミング(D2)を設け、このタイミング(D2)で第一カウンター電圧指令を出力する。つまり、第二電圧指令を出力した直後に、第一カウンター電圧指令を出力するようにしている点が実施の形態1の場合と異なる。
第一カウンター電圧指令を出力する処理の目的は、第一電圧指令により回転電機1に流れる第一回転電機電流によって、回転電機1の動く量を最小限にするためである。特に、第一電圧指令によって回転電機1に流れる電流が大きい場合や、回転電機1のイナーシャが小さい場合などは、回転電機1の軸が大きく動く可能性がある。そこで、電流リサージュに必要な第二電圧指令を出力し終えた後に、第一カウンター電圧指令を第一電圧指令生成部34から出力することにより、回転電機1に流れている回転電機電流をキャンセルして、回転電機1の軸が動く量を最小限にするものである。尚、第一カウンター電圧指令の大きさは、第一電圧指令と同一にしてもよいし、回転電機1が動くことを想定して、第一電圧指令よりも大きく設定して、動いた量を元に戻すようにしてもよい。
前述の各動作でのd軸電圧指令の時系列波形、q軸電圧指令の時系列波形、d軸電流の時系列波形、及びq軸電流の時系列波形は、図23のA、B、C、及びDに示されるとおりである。
以上のように、この発明の実施の形態2による回転電機の制御装置は、第二電圧指令生成部35が第二電圧指令を出力した直後に第一カウンター電圧指令を第一電圧指令生成部34から出力することで、回転電機1の動く量を最小限に抑えたり、又は、動いた量を元に戻したりすることが可能となり、回転電機1が他の機械装置に組み込まれて可動範囲が制限されている場合に於いても、回転電機の制御装置が自動的に誤差補正量基準値を求めることができる。そのため、従来のように負荷装置を準備して、回転電機に負荷を与えながら測定する煩雑な作業をする必要がなく、簡単に且つ短時間で誤差補正量基準値を求めることができる。更に、回転電機1が他の機械装置に組み込まれていて、駆動対象となる回転電機1を単体でも、回転電機の制御装置が自動的に誤差補正量基準値を求めるため、他の機械装置に回転電機1を組み込んだ状態で、回転電機の制御装置を使用するユーザー自身で、駆動対象となる回転電機に合った誤差補正量基準値を求めることができ、高周波重畳センサレス制御を利用して回転電機を駆動することが可能となる。
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3による回転電機の制御装置について説明する。図24は、この発明の実施の形態3による回転電機の制御装置の動作を説明するためのフローチャートであって、各トルク電流に対する誤差補正量基準値を得るまでの処理を示している。図25は、この発明の実施の形態3による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、図24のフローチャートに於いて、トルク電流指令のパターンの個数mが[m=2]のときの動作を行ったときの、d軸及びq軸の電圧指令とd軸及びq軸の電流の時系列波形の一部を示しており、Aはd軸電圧指令の時系列波形、Bはq軸電圧指令の時系列波形、Cはd軸電流の時系列波形、Dはq軸電流の時系列波形を示す。
この発明の実施の形態3による回転電機の制御装置の構成は、前述の実施の形態1に於ける図1と同様であり、各構成部分の動作も実施の形態1で説明したものと殆ど同様であるため、以下の説明では実施の形態1と異なる部分を主体に説明する。前述の実施の形態1及び実施の形態2では、第一電圧指令を出力した後で、第一電圧指令による第一回転電機電流が流れている間に、n個の第二電圧指令全てを出力するように構成されていた。しかしながら、第二電圧指令の数nが多い場合等、最初(1番目)に出力する第二電圧指令と最後(n番目)に出力する第二電圧指令との間の時間が長いと、第一回転電機電流が時間とともに減少し、最初の第二電圧指令を出力したときと、最後の第二電圧指令を出力したときとで、回転電機1に流れている第一回転電機電流の大きさが変わってしまう場合がある。又、第二電圧指令の大きさが大きい場合、第二電圧指令による第二回転電機電流によって、第一回転電機電流自体を減少させてしまう可能がある。
そこで、この実施の形態3では、図24のフローチャート及び図25の時系列波形図に示すように、第一電圧指令V1を出力した後に、第二電圧指令V2(1)を1つ出力し、その後、再び第一電圧指令V1を出力し、その後に第二電圧指令V2(2)を1つ出力するというように、第二電圧指令を1つ出力する毎に、第一電圧指令も出力するようにして、第一回転電機電流の減少の影響を少なくするものである。以下、この発明の実施の形態3による回転電機の制御装置の詳細動作について説明する。
この実施の形態3では、具体的な動作を用いて説明するために、実施の形態1と同様に、トルク電流指令のパターンの個数mを5個とし、トルク電流指令Itrqを回転電機1の定格の0[%]〜200[%]までを50[%]刻みの5パターンとする。又、第二電圧指令も実施の形態1と同様に図14のような[n=6]方向として説明をする。
図24のフローチャートに於いて、誤差補正量基準値c0を求めるフロー開始後は、ステップS31に於いて[m=1]とする。次に、ステップS32によりトルク電流指令Itrq(m)を設定する動作(1)を行う。次にステップS33で[n=1]を設定する動作(2)を行う。その後、ステップS34に於いて、第一電圧指令V1(m)を出力する動作(3)を行い、次にステップS35に進んで、第一回転電機電流I1m(n)として記憶する動作(4)を行う。そして、ステップS36に於いて、n番目の第二電圧指令V2(n)を出力する動作(5)を行う。次に、ステップS37に於いて、第二回転電機電流I2m(n)として記憶する動作(6)を行う。
第二電圧指令V2(n)は、[n=1]であれば図14の<1>、[n=2]であれば図14の<2>というように、nが替わる毎に異なる方向に出力するものである。又、実施の形態1で述べたように、第二電圧指令V2(n)は、時間的には第一電圧指令V1(m)の直後、例えば、マイコン等の場合、第一電圧指令を出力した演算周期の次の演算周期に出力される。尚、この図24の(3)〜(6)までの動作は、[m=2]の場合は、図25の[n=1]の部分に該当する。
次に、ステップS38に於いて、[n=6]であるか否かの判定を行い、[n=6]未満ならば(No)、ステップS312に進んでnに1を加算[n=n+1]とする動作(8)を行い、再びステップS34に戻ってステップS3〜S6に於ける動作(3)〜(6)を繰り返す。この部分の動作は、[m=2]の場合、図25の[n=2]〜[n=6]に該当する。
尚、図24に於ける動作(1)〜(3)、(5)、(7)、(8)の処理は、図1の制御手段3で行われる。より詳しくは、第一電圧指令に関する処理である図24の動作(1)及び(3)は、第一電圧指令生成部34で行われ、第二電圧指令に関する処理である図24の動作(5)は、第二電圧指令生成部35で行われる。又、図24に於ける第一回転電機電流と第二回転電機電流を記憶する処理の動作(4)及び(6)は、図1の補正量基準値演算手段7で行われる。以上のように、[n=1]〜[n=6]までの動作を行った後、前述のステップS38に於いて、[n=6]であるか否かの判定の動作(7)を行う。
次に、ステップS39に於いて、記憶したn個の第二回転電機電流I2m(n)を用いて、位置誤差θerr、又は位置誤差補正量|iqh_ref|を演算して誤差補正量基準値c0として出力する動作(9)を行なう。この処理は、実施の形態1と同様であるが、実施の形態1の場合と異なるのは、記憶したn個の第一回転電機電流I1m(n)の平均値を演算したものを、誤差補正量基準値c0と共に出力することである。実施の形態1では、第一電圧指令を1つしか出力しなかったため第一回転電機電流も1つであったが、この実施の形態では第一電圧指令をn個出力するため、第一回転電機電流もn個となる。n個の第一回転電機電流のうち1つを出力するようにしてもよいが、n個の第一回転電機電流にバラツキがある場合、n個の平均値を取ったほうが、バラツキの影響を少なくすることができるため、このようにn個の第一回転電機電流の平均値を取ったものを出力する。このステップS39での処理は、図1の補正量基準値演算手段7により行われる。
前述のステップS39での動作(9)の処理後、ステップS310に進み、補正量基準値演算手段7より出力される誤差補正量基準値c0と第一回転電機電流の平均値を記憶する動作(10)を行なう。この動作(10)の処理は、補正量出力手段6により行われる。尚、ステップS39での動作(9)とステップS310での動作(10)の処理は、時系列的には、図25の[n=6]の処理が終わった後で[m=3]になる前に行われる。
ステップS310での動作(10)の処理が終わった後は、ステップS311に於いて[m=5]であるか否かの判定を行なう動作(11)を行なう。ステップS311での判定の結果、[m=5]未満であれば、ステップS313に進んで、mに1を加算して[m=m+1]とし、ステップS32に戻り、以降、ステップS32〜S310までの動作(1)〜(10)の処理を再び行なう。ステップS311での判定の結果、[m=5]であれば設定した全てのトルク電流指令Itrq(m)に対する誤差補正量基準値を測定し終えたことになり、動作終了となる。
尚、第一電圧指令の大きさがm種類である場合は、第二電圧指令の方向はn方向であるため、第一電圧指令と第二電圧指令は[m×n]個出力することとなる。つまり、第一電圧指令と第二電圧指令の組合せも[m×n]個となる。
前述の各動作でのd軸電圧指令の時系列波形、q軸電圧指令の時系列波形、d軸電流の時系列波形、及びq軸電流の時系列波形は、図25のA、B、C、及びDに示されるとおりである。
この実施の形態3の図24に示すフローチャートでは、第二電圧指令を図14の<1>から<6>を順次に出力するようにしており、このように順番に第二電圧指令を出力することで、動作は明確になるが、必ずしも、第二電圧指令を<1>から<6>の順番に出力する必要はない。又、[m×n]個の第一電圧指令と第二電圧指令の組合せも任意の順番に出力してもよい。但し、[m×n]個の第一電圧指令と第二電圧指令の組合せに於いて、同じ組合せがあっても、それは意味がないため、[m×n]個の組合せは全てが異なる電圧指令と設定することが望ましい。
以上のように、この発明の実施の形態4による回転電機の制御装置は、回転電機1に所望のトルク電流を流すために任意の大きさで任意の方向の電圧指令である第一電圧指令を制御手段3から出力し、その後に、電流リサージュを取得するための任意の大きさでn方向からなるn個の電圧指令である第二電圧指令のうち1つを制御手段3から出力する動作をn回行い、第一電圧指令による電圧が回転電機に印加されることで流れるn個の第一回転電機電流と、n個の第二回転電機電流を用いて、所望のトルク電流における電流リサージュを取得し、取得した電流リサージュを、最小二乗法を用いて楕円の方程式にフィッティングすることで、楕円の傾き、楕円の長軸の長さ、短軸の長さを演算し、演算した楕円の傾き、長軸の長さ、短軸の長さより位置誤差θerrまたは位置誤差補正量|iqh_ref|を演算して記憶することで、回転電機の制御装置が自動的に誤差補正量基準値を求めることが出来る。
更に、m種類のトルク電流を流すために、大きさと方向がm種類の第一電圧指令を[m×n]個用意し、[m×n]個のうち1つの第一電圧指令を制御手段3から出力し、その直後に、電流リサージュを取得するための任意の大きさでn方向からなる[m×n]個の電圧指令である第二電圧指令のうち1つを制御手段3から出力する動作をn回行い、m種類の第一電圧指令のうち1つの第一電圧指令をn個出力することで回転電機に流れるn個の第一回転電機電流と、n個の第二回転電機電流を用いて、m種類のうち1つのトルク電流における電流リサージュを取得し、取得した電流リサージュを、最小二乗法を用いて楕円の方程式にフィッティングすることで、m種類のうち1つのトルク電流に対する楕円の傾き、楕円の長軸の長さ、短軸の長さを演算し、演算した楕円の傾き、長軸の長さ、短軸の長さより位置誤差θerrまたは位置誤差補正量|iqh_ref|を求めることができる。そしてこの動作をm回繰り返すことで、m種類のトルク電流指令に対する位置誤差θerrまたは位置誤差補正量|iqh_ref|を求めることができる。そのため、n個の第二電圧指令の最初と最後の時間が長いことで、第一回転電機電流が減衰したり第二電圧指令により第一回転電機電流が減衰したりする影響を無くすことができ、より精度良く誤差補正量基準値を求めることが可能となる。
従って、従来のように負荷装置を準備して、回転電機に負荷を与えながら測定する煩雑な作業をする必要がなく、簡単にかつ短時間で誤差補正量基準値を求めることができる。更に、駆動対象となる回転電機を事前に入手することができなくても、回転電機の制御装置が自動的に誤差補正量基準値を求めるため、回転電機の制御装置を使用するユーザー自身で、駆動対象となる回転電機に合った誤差補正量基準値を求めることができ、制御装置メーカーが、駆動対象となる回転電機を事前に入手することが出来なくても、高周波重畳センサレス制御を利用して回転電機を駆動することが可能となる。
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4による回転電機の制御装置について説明する。実施の形態4は、前述の実施の形態3の処理による誤差補正量基準値の演算に基づいて、第一電圧指令により回転電機1に流れる第一回転電機電流や第二電圧指令により回転電機1に流れる第二回転電機電流により回転電機1が動作するが、その動作する量を最小限にするようにしたものである。この発明の実施の形態4による回転電機の制御装置の構成は、図1と同様である。
図26は、この発明の実施の形態4による回転電機の制御装置の動作を説明するためのフローチャートであって、各トルク電流に対する誤差補正量基準値を得るまでの処理を示している。図26に示されるこの発明の実施の形態4による回転電機の制御装置は、実施の形態2の場合と同様に、第一電圧指令により回転電機1が動作する量を最小限にするために、第二電圧指令の直前に出力した第一電圧指令と逆位相の電圧指令である第一カウンター電圧指令V1_cnt(n)を出力するように構成されている。図26のフローチャートでは、ステップS48により第二回転電機電流を記憶したフローの直後のステップS48に於ける動作(100)により、第一カウンター電圧指令を出力するようにしているが、時間的には、第二電圧指令を出力した直後に第一カウンター電圧指令を出力するように構成されている。
尚、第一カウンター電圧指令V1_cnt(n)の大きさは、第一電圧指令と同一にしてもよいし、回転電機1が動くことを想定して、第一電圧指令よりも大きく設定して、動いた量を元に戻すようにしてもよい。なお、第一カウンター電圧指令の個数は、第一電圧指令と第二電圧指令と同じ[m×n]個となる。
図26のフローチャートに於けるステップS41〜S47は、前述の実施の形態3に於ける図24のフローチャートのステップS31〜S37と同様であり、又、図26のフローチャートのステップS49〜S414は、実施の形態3に於ける図24のフローチャートのステップS38〜S313と同様である。
以上のように、この発明の実施の形態4による回転電機の制御装置は、第二電圧指令生成部が第二電圧指令を出力した直後に第一カウンター電圧指令を第一電圧指令生成部より出力することで、回転電機1の動く量を最小限に抑えたり、又は、動いた量を元に戻したりすることが可能となり、回転電機1が他の機械装置に組み込まれて可動範囲が制限されている場合に於いても、回転電機の制御装置が自動的に誤差補正量基準値を求めることができる。そのため、従来のように負荷装置を準備して、回転電機に負荷を与えながら測定する煩雑な作業をする必要がなく、簡単に且つ短時間で誤差補正量基準値を求めることができる。更に、他の機械装置に組み込まれていて、駆動対象となる回転電機を単体でも、回転電機の制御装置が自動的に誤差補正量基準値を求めるため、機械装置に回転電機1を組み込んだ状態で、回転電機の制御装置を使用するユーザー自身で、制御装置メーカ等の専門家に頼ることなく、駆動対象となる回転電機に合った誤差補正量基準値を求めることができ、高周波重畳センサレス制御を利用して回転電機を駆動することが可能となる。
実施の形態5.
次に、この発明の実施の形態5による回転電機の制御装置について説明する。図27は、この発明の実施の形態5による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図である。 図1と異なる点は、図27では、補正量基準値演算手段71から制御位相補正量c1が出力されている点と、制御手段300が加算部39を有し、加算部39が推定位置θ0に補正量基準値演算手段71の出力である制御位相補正量c1を加算している点である。それ以外の部分は、実施の形態1〜実施の形態4で説明したものと同様であるので、以下の説明では上記の相違点を主体に説明する。
実施の形態2及び実施の形態4で述べたように、第一電圧指令により流れる第一回転電機電流によって、回転電機1が動く場合がある。実施の形態2や実施の形態4では、第一カウンター電圧指令を出力することで、回転電機1の動く量を最小限とするようにしているが、それでも回転電機1が動いてしまう場合がある。第一座標変換器37と、第二座標変換器(1)38、第二座標変換器(2)38、第二座標変換器(3)38に夫々入力される推定位置θ0は、前述したように、位置推定手段5が初期磁極位置検出を行って検出した回転電機1の検出位置であるため、回転電機1が動いてしまった場合、第一座標変換器37は、間違った推定位置θ0で電流検出手段2が検出する回転電機電流を座標変換しまい、又、第二座標変換器(1)38、第二座標変換器(2)38、第二座標変換器(3)38も、第一電圧指令生成部34の出力である第一電圧指令や第二電圧指令生成部35の出力である第二電圧指令を間違った推定位置θ0で座標変換してしまう。その結果、補正量基準値演算手段71で演算する誤差補正量基準値c0も正しく演算することが出来なくなってしまう。
そこで、この実施の形態5では、回転電機1が動いてしまっても、その動いた量を補正量基準値演算手段71により演算し、制御位相補正量c1として出力し、加算部39に於いて、位置推定手段5が初期磁極位置検出により検出した回転電機1の位置である推定位置θ0に制御位相補正量c1を加算することで、第一座標変換器37と、第二座標変換器(1)38、第二座標変換器(2)38、第二座標変換器(3)38が正しい制御位相で座標変換することができるようにしたものである。
以下、この発明の実施の形態5による回転電機の制御装置の詳細について説明する。制御位相補正量c1は、回転電機1の動いた量が分かればどのようなものでも良く、例えば、位置推定手段5により初期磁極位置検出をやり直すという方法も考えられる。この実施の形態5では、別の方法として、電流リサージュにより取得する楕円の傾きを制御位相補正量c1とする方法について説明する。
前述したように、回転電機1に磁気飽和が生じていない場合、図6のように、電流リサージュの長軸方向は、回転電機1の界磁磁石の磁束の方向(回転電機1のd軸方向)と一致する。つまり、楕円の長軸とd軸のなす角である楕円の傾きはゼロである。一方、磁気飽和が生じていない場合で、電流リサージュの長軸方向と制御位相で座標変換したd軸(以下、制御d軸と記す)が一致しない場合、それは、制御位相に誤差があることを意味しており、その誤差は楕円の長軸と制御d軸とのなす角、つまり、楕円の傾きである。よって、制御位相で座標変換したd−q軸(以下、制御d−q軸と記す)上で、磁気飽和が生じない状態で電流リサージュを取得して、楕円の傾きを演算することで、制御位相補正量を導出することが出来る。
そこで、この実施の形態5では、図28のフローチャートのようにして、各トルク電流に対する誤差補正量基準値を求める。図28は、この発明の実施の形態5による回転電機の制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。図28のフローチャートは、前述の実施の形態4のフローチャートである図26のフローチャートに、ステップS59〜S511に於けるどうだ(200)〜(202)を追加したものであって、それ以外は図26のフローチャートと同様である。即ち、図28のフローチャートに於けるステップS51〜S58は、図26のフローチャートに於けるステップS41〜S48と同様であり、図28のフローチャートに於けるステップS512〜S517は、図26のフローチャートに於けるステップS49〜S414と同様である。
実施の形態1〜4で説明した第二電圧指令は、電流リサージュを測定するための電圧指令であり、この電圧指令により流れる電流により磁気飽和が生じない。つまり、第二電圧指令は、制御位相補正用電圧指令としても流用することができる。よって、図28に示すフローチャートに於いて、ステップS58で第一カウンター電圧指令を出力した動作(100)の後、ステップS59に於いて、n個の第二電圧指令を出力する動作(200)を行なう。
尚、ステップS59での動作(200)により出力するn個の第二電圧指令と、ステップS56の動作(5)により出力する第二電圧指令と、を区別するために、ステップS59での動作(200)で出力する第二電圧指令を制御位相補正用電圧指令と称することとする。又、ここでは制御位相補正用電圧指令はn個としたが、その数はn個でなくてもよく、nが2以上で、電流リサージュから楕円の傾きを精度よく求められればnは何個でもよい。
n個の制御位相補正用電圧指令を出力した後は、n個の制御位相補正用電圧指令に基づいて、電圧印加手段4により回転電機1に電圧を印加することで、回転電機1に流れるn個の電流(以下、制御位相補正用回転電機電流と記す)を用いて、楕円方程式の基本形を示す前述の式(19)にフィットするように楕円の傾きを計算して制御位相補正量を計算する。この計算を行うのがステップs510に於ける動作(201)である。その後、ステップS511の動作(202)により、加算部39に於いて推定位置θ0と制御位相補正量c1を加算する。
図29は、この発明の実施の形態5による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、図28のフローチャートの処理を時系列波形の一部で示している。図29は、[m=2]に於いて、[n=1]と[n=2]のときの電圧指令vd、vqと電流id、iqの時系列波形を示している。具体的には、Aはd軸電圧指令の時系列波形、Bはq軸電圧指令の時系列波形、Cはd軸電流の時系列波形、及びDはq軸電流の時系列波形を示す。
図29に於ける[n=1]に於いて、第一電圧指令V1_cntの後の<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、及び<6>は制御位相補正用電圧指令であり、図14の[n=6]の電圧指令を出力している。又、図29に星印により示す制御位相補正用電圧指令に基づいて回転電機1に流れる回転電機電流が、制御位相補正用回転電機電流である。図29の時系列波形の[n=1]の<6>、即ち最後の制御位相補正用電圧指令を出力し終えてから[n=2]になるまでの間に、制御位相補正用回転電機電流を用いて楕円の傾きである制御位相補正量を演算し、更に推定位置θ0に制御位相補正量c1を加算する。この処理により、[n=1]の第一電圧指令V1による第一回転電機電流が流れて、回転電機1が動いたとしても、[n=2]のときには、[n=1]で演算した制御位相補正量c1により補正された制御位置を用いて座標変換することができるため、回転電機1が動いた影響が無く、正しいd−q軸上で電圧指令の生成や回転電機電流を扱うことができる。
このように、図28に示す動作(3)〜(202)までの一連の動作を繰り返すことで、常に正しいd−q軸上で電圧指令の生成や回転電機電流を扱うことができるため、精度良く誤差補正量基準値を求めることができる。なお、第一電圧指令、第二電圧指令、第一カウンター電圧指令は、[m×n]個となるため、この一連の動作を[m×n]個行うこととなる。
以上のように、この発明の実施の形態5による回転電機の制御装置は、m種類のトルク電流を流すために、大きさと方向がm種類の第一電圧指令を[m×n]個用意し、[m×n]個のうち1つの第一電圧指令を制御手段3から出力し、その直後に、電流リサージュを取得するための任意の大きさでn方向からなる[m×n]個の電圧指令である第二電圧指令のうち1つを制御手段3から出力し、その直後に第二電圧指令の直前に出力した第一電圧指令と逆位相の第一カウンター電圧指令を出力し、更にその直後にn方向からなる第二電圧指令をn個出力する一連の動作を[m×n]回行うことで、第一電圧指令により回転電機1に流れる第一回転電機電流により回転電機1が動いても、精度良くm種類のトルク電流指令に対する位置誤差θerr又は位置誤差補正量|iqh_ref|を求めることができる.
そのため、従来のように負荷装置を準備して、回転電機に負荷を与えながら測定する煩雑な作業をする必要が無く、簡単にかつ短時間で誤差補正量基準値を求めることができる。更に、駆動対象となる回転電機を事前に入手することができなくても、回転電機の制御装置が自動的に誤差補正量基準値を求めるため、回転電機の制御装置を使用するユーザー自身で、駆動対象となる回転電機に合った誤差補正量基準値を求めることができ、制御装置メーカーが、駆動対象となる回転電機を事前に入手することが出来なくても、高周波重畳センサレス制御を利用して回転電機を駆動することが可能となる。
実施の形態6.
次に、この発明の実施の形態5による回転電機の制御装置について説明する。図30は、この発明の実施の形態6による回転電機の制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。誤差補正量基準値c0は、回転電機の容量や種類毎に異なるが、基本的に同じ回転電機ならば、誤差補正量基準値c0は変わらない。つまり、初めて駆動する回転電機のみ誤差補正量基準値c0の演算処理を行えばよい。よって、図30に示すように、ステップS61により初めて駆動する回転電機か否かを判定し、初めて駆動する回転電機であれば(Yes)、ステップS62により誤差補正量基準値c0の演算を行うものである。このように誤差補正量基準値の演算実施の有無を判別することで、回転電機1を起動するときに、無駄な処理や時間のロスを防ぐことができる。
実施の形態7
次に、この発明の実施の形態5による回転電機の制御装置について説明する。実施の形態7では、m種類の第一電圧指令の大きさをmに応じて徐々に大きくしたり、又は、小さくしたりするものである。これを実現するためには、前述した図18、図22、図24、図26、図28のトルク電流指令Itrq(m)を設定するときに、トルク電流指令Itrq(m)をmに応じて徐々に大きく、又は、小さくすればよい。
トルク電流指令Itrq(m)をmに応じて徐々に大きくする場合は、mを1つ変えることで変化させたいトルク電流指令の変化量をΔItrqとすれば、トルク電流指令Itrq(m)を会の式(22)に示すように設定すればよい。
又、トルク電流指令Itrq(m)をmに応じて徐々に小さくする場合は、下記の式(23)に示すように設定すればよい。
以上のように、この発明の実施の形態7による回転電機の制御装置は、m種類の第一電圧指令の種類を変更するときに、第一電圧指令の大きさを徐々に大きくする、又は、徐々に小さくすることで、処理順序が分かりやすくなると共に、記憶する第一回転電機電流と第二回転電機電流を大きさも大きさ順になるため、処理を簡素化することが演算量を抑制することができる。
尚、この発明は前述の実施の形態1から実施の形態7に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、各実施の形態を適宜組み合わせたり、その構成に一部変形を加えたり、構成を一部省略することが可能である。
加算部33は、基本電圧指令生成部31の出力であるd軸上の基本電圧指令vds及びq軸上の基本電圧指令vqsと、高周波電圧指令生成部32の出力であるd軸上の高周波電圧指令vdh及びq軸上の高周波電圧指令vqhを加算して出力する。第二座標変換器(1)381は、加算部33からの出力をd−q軸から3相に座標変換して3相基本電圧指令vus、vvs、vwsを出力する。
第一電圧指令生成部34は、誤差補正量基準値c0を求めるために、後述するd軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1を出力する。第二座標変換器(2)382は、第一電圧指令生成部34からのd軸上の第一電圧指令vd1及びq軸上の第一電圧指令vq1を3相に座標変換して3相第一電圧指令vu1、vv1、vw1を出力する。第二電圧指令生成部35は、誤差補正量基準値c0を求めるために、後述するd軸上の第二電圧指令vd2及びq軸上の第二電圧指令vq2を出力する。第二座標変換器(3)383は、第二電圧指令生成部35からのd軸上の第二電圧指令vd2及びq軸上の第二電圧指令vq2を3相に座標変換して3相第二電圧指令vu2、vv2、vw2を出力する。尚、第一電圧指令生成部34と第二電圧指令生成部35の詳細動作は後述される。
位置推定手段5に於ける常時位置推定動作では、回転電機1の回転子の突極性を利用して回転電機1の回転子位置を推定し、その回転子の推定位置θや回転子の推定速度ω0rを演算し出力する。この場合は、前述の第一座標変換器37と第二座標変換器(1)381、第二座標変換器(2)382、及び第二座標変換器(3)383は、夫々、位置推定手段5が常時位置推定動作により推定した回転電機1の回転子の推定位置θを制御位相として、前述の座標変換を行うことになる。
次に、回転電機1の回転子位置や回転子速度を推定する原理、及び位置推定手段5に於ける演算動作について詳細に説明する。前述したように、位置推定手段5が出力する推定位置θ0を制御位相として、第二座標変換器(1)381によりd−q軸から座標変換された3相基本電圧指令vus、vvs、vwsが電圧指令選択部36を介して電圧印加手段4に与えられる。電圧印加手段4は、与えられた3相基本電圧指令vus、vvs、vwsに基づいて3相交流電圧を発生して回転電機1の電機子巻線に印加する。回転電機1の電機子巻線は、印加された3相交流電圧に基づいて流れる3相の回転電機電流iu、iv、iwにより、回転磁界を発生させる。回転電機1の回転子には、永久磁石により構成された突極の界磁磁極が設けられており、回転子は電機子巻線により発生した回転磁界に同期して回転する。
次に、各トルク電流に対する誤差補正量基準値c0を得るまでの、フローと時系列動作について説明する。図18は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。図19は、この発明の実施の形態1による回転電機の制御装置の動作を説明するための説明図であって、制御手段3が図18のフローチャートに基づく動作を行ったときのd軸及びq軸の電圧指令とd軸及びq軸の電流の時系列波形の一部を示しており、Aはd軸電圧指令の時系列波形、Bはq軸電圧指令の時系列波形、Cはd軸電流の時系列波形、Dはq軸電流の時系列波形を示す。図18及び図19に於いて、mはトルク電流指令Itrqのパターンの個数を示し、図18ではm=5としている。5個のトルク電流指令の内訳は、図18では、トルク電流指令Itrqを回転電機1の定格の0[%]〜200[%]までを50[%]刻みの5パターンとする。尚、トルク電流指令のパターン数は何個でもよく、各トルク電流指令の間隔も自由に設定してもよい。
次に、ステップS8に進み、ステップS7の動作(5)の処理により出力された誤差補正量基準値c0と第一回転電機電流を補正量出力手段6へ記憶させる。ステップS8での動作(6)も、図19の[m=1]と[m=2]の間のタイミングで行われる。次に、ステップS9に於いて、[m=5]であるか否かの判定を行い、[m=5]未満であれば(No)、ステップS10に進んで[n=m+1]とし、ステップS2に戻り、以降、ステップS2〜S9の処理を繰り返す。ステップS9に於いて、[m=5]であれば、処理を終了する。
次に、ステップS38に於いて、[n=6]であるか否かの判定を行い、[n=6]未満ならば(No)、ステップS312に進んでnに1を加算[n=n+1]とする動作(8)を行い、再びステップS34に戻ってステップS34〜S37に於ける動作(3)〜(6)を繰り返す。この部分の動作は、[m=2]の場合、図25の[n=2]〜[n=6]に該当する。
図26は、この発明の実施の形態4による回転電機の制御装置の動作を説明するためのフローチャートであって、各トルク電流に対する誤差補正量基準値を得るまでの処理を示している。図26に示されるこの発明の実施の形態4による回転電機の制御装置は、実施の形態2の場合と同様に、第一電圧指令により回転電機1が動作する量を最小限にするために、第二電圧指令の直前に出力した第一電圧指令と逆位相の電圧指令である第一カウンター電圧指令V1_cnt(n)を出力するように構成されている。図26のフローチャートでは、ステップS47により第二回転電機電流を記憶したフローの直後のステップS48に於ける動作(100)により、第一カウンター電圧指令を出力するようにしているが、時間的には、第二電圧指令を出力した直後に第一カウンター電圧指令を出力するように構成されている。
1000 回転電機の制御装置、1 回転電機、2 電流検出手段、3 制御手段、4 電圧印加手段、5 位置推定手段、6 補正量出力手段、7 補正量基準値演算手段、31 基本電圧指令生成部、32 高周波電圧指令生成部、33、39 加算部、34 第一電圧指令生成部、35 第二電圧指令生成部、36 電圧指令選択部、37 第一座標変換器、381 第二座標変換器(1)、382 第二座標変換器(2)、383 第三座標変換器(3)、θ0 推定位置、c0 誤差補正量基準値、c1 制御位相補正量、c 誤差補正量、iu、iv、iw 回転電機電流、id d軸上の回転電機電流、iq q軸上の回転電機電流、ω * 速度指令、ω0r 推定速度、vds d軸上の基本電圧指令、vqs q軸上の基本電圧指令、ids d軸上の基本電流指令、iqs q軸上の基本電流指令、vdh d軸上の高周波電圧指令、vqh q軸上の高周波電圧指令、idh d軸に流れる高周波電流、iqh q軸に流れる高周波電流、Vh 高周波電圧の振幅、ωh 角周波数、vus、vvs、vws 3相基本電圧指令、vd1 d軸上の第一電圧指令、vq1 q軸上の第一電圧指令、vdq vd1、vq1、vd2、vq2の振幅、vu1、vv1、vvw1 3相第一電圧指令、vd2 d軸上の第二電圧指令、vq2 q軸上の第二電圧指令、td1 d軸上の第一電圧指令vd1のパルス印加時間、tq1 q軸上の第一電圧指令vq1のパルス印加時間、vu2、vv2、vw2 3相第二電圧指令、θerr 位置誤差、iqh_ref 位置誤差補正量、Vdc 直流母線電圧、Im 回転電機の定格電流、Lm 回転電機のインダクタンス、Lmin インダクタンスの最小値、Lmax インダクタンスの最大値、Ld d軸インダクタンス、Lq q軸インダクタンス、R 回転電機の電機子巻線の抵抗、Itrq トルク電流指令、Id_trq トルク電流指令のd軸成分、Iq_trq トルク電流指令のq軸成分、m トルク電流指令のパターンの個数、V1_cnt(n) 第一カウンター電圧指令。