JPWO2017195888A1 - 固体培地での微生物の増殖能を増強する方法 - Google Patents

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Abstract

本発明の目的は、微生物の増殖能をより強く増強することのできる、微生物の増殖能を増強する方法や、微生物の増殖能の増強剤等を提供することにある。
本発明によれば、シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を用いる。具体的には、かかるシクロデキストリン包接脂肪酸を含有する培地で微生物を培養することにより、微生物の増殖能を増強することができる。

Description

本発明は、微生物の増殖能を増強する方法や、微生物の増殖能の増強剤等に関する。
寒天等の固体培地上で微生物を増殖させてコロニーを形成させ、そこから微生物を分離する純粋培養法は、コッホの時代に確立されて現在に至るまで、すべての微生物研究の第一歩となっている。実験微生物学や公衆衛生学では、生きている微生物を、コロニー形成能を有する微生物と定義し、その微生物が形成するコロニー数を計数することによって、生きている微生物を計数することが一般に行われている。食品及び臨床検査分野では、寒天平板培地に微生物懸濁液を塗布し、一定温度で培養することにより、寒天平板培地上に微生物コロニーを形成させ、食品又は臨床検査検体中に存在する微生物を検出又は分離して、微生物汚染又は感染の有無を検出することが行われている。また、土壌サンプル等の自然界のサンプル中の産業上に有用な微生物は、寒天平板培地上に成育した微生物コロニーから分離している。しかし、寒天等の固体培地を用いたコロニー法によって分離・培養できる微生物は、天然に存在する微生物のごく一部に過ぎない(非特許文献1)。
近年、固体培地上での微生物の増殖能を向上させてそのコロニー形成能を向上させる種々の試みがなされている。例えば、低濃度の栄養培地を用いる方法(非特許文献2)、活性酸素の発生を抑制する方法(非特許文献3、4)、寒天のかわりに固化剤としてゲラン・ガムを用いる方法(非特許文献5、6)が報告されている。また、固体培地を用いずに微生物を分離する方法も試みられている。例えば、液体培地中に成育した微生物を液体限界希釈法(最適数Most Probable Number(MPN)法の原理で96穴マルチプレートを用いることにより、菌数推定だけでなく分離も行う方法)を用いて分離する方法(非特許文献7)や、マイクロ流体チップを用いて分離する方法(非特許文献8)が報告されている。しかしながら、いまだに多くの種類の微生物は培養・増殖することさえ困難である(非特許文献9、10)。
1979年に木暮らは、海洋バクテリアについて、液体培地中で伸張分裂できる細胞数を顕微鏡下に計測するDVC(direct count of viable bacterial cells)法を考案し、その数が固体培地上でのコロニー形成数より格段に多いことを示した(非特許文献11)。このことは、液体培地は潜在的に固体培地よりもより多くの自然界に生息する微生物を検出することが出来ることを示している。本発明者の一人である正木らは、海洋バクテリアを分離する際に、液体限界希釈法を用いて、コロニー法の場合の約10倍の数の菌を分離することができた(非特許文献12)。
また、Colwellらは固体培地で成育できる大腸菌やコレラ菌を、培養後に食塩水や水に懸濁して低温飢餓状態に置くと、DVCが高く保たれているが時間経過とともに固体培地上でのコロニー形成数が落ちていく現象を観察し、これらの細菌が生きているものの増殖できないViable but non-culturable(VBNCあるいはVNC)という状態に有ることを示した(非特許文献13)。このVBNC概念は拡大されて、環境中のほとんどのバクテリア細胞がコロニーを分離できない難培養状態、難増殖状態にあることのモデルとして期待されているが、試料となる細菌が培養によってそもそも入手できないため、そのVBNC状態の実態の解明は進んでいない。
しかし、VBNCの実験は、もともと固体培地上で増殖してコロニーを形成することができるバクテリアであっても、生きているのに固体培地上で増殖できず、コロニーを形成できない状態に陥ることを実演した点で重要であり、固体培地上でコロニーを形成できることが、単に生きていることと同じではなく、生きていること以上に特殊な状態であることを示している。本発明者の一人である正木らは、低温飢餓に晒した大腸菌野生株の成育に対するオレイン酸の影響を比較したところ、オレイン酸の添加のみで、前述の大腸菌のコロニー形成能を10倍以上に増強できることを示した(非特許文献14)。
本発明者の一人である正木らは、固体培地で成育できる大腸菌の中から、液体培地では成育できるが固体培地ではコロニーを形成できない変異株を取得することを目的として、大腸菌の温度感受性変異株のコレクション(非特許文献15)から5株の変異株を得た。これら変異株を解析することにより、脂肪酸合成酵素サイクルの縮合酵素遺伝子fabBの変異株を取得した(非特許文献16)。この結果はfabB遺伝子の機能が、固体培地上での増殖能やコロニー形成能に重要であることを示している。しかし、これらの変異株は変異原メチルニトロニトロソグアニジンを用いて取得された株であるため、fabB遺伝子以外に多数の変異を含み、遺伝的背景が複雑で未知の部分も多い。
ところで、シクロデキストリンとは、通常、5分子以上のD−グルコースがα(1→4)グルコシド結合によって結合し、環状構造をとった環状オリゴ糖の一種である。一般的に用いられるシクロデキストリンは、6〜8分子のグルコースが結合したものであり、6分子のグルコースが結合したものがα−シクロデキストリン、7分子のグルコースが結合したものがβ−シクロデキストリン、8分子のグルコースが結合したものがγ−シクロデキストリンと呼ばれている。シクロデキストリンは、その環状構造の内部の空孔に他の分子(ゲスト分子)を取り込んでゲスト分子を包接する作用を有することが知られている。シクロデキストリンの環状構造の外側は親水性であるのに対し、環状構造の内側の空孔は疎水性である。シクロデキストリンの包接作用を利用して、ゲスト分子の匂いをマスキングしたり、ゲスト分子を安定化したり、疎水性のゲスト分子を可溶化するために用いられることがある。しかし、シクロデキストリン、特にメチル−β−シクロデキストリンは、細胞に接触させると細胞膜の脂質を除去する性質があり、細胞の生存率が低下することが、動物細胞を用いた実験により明らかとなっていた(非特許文献17、18)。
以上のようなことがこれまで知られていたが、シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する培地で微生物を培養すると、その微生物のコロニー増殖能を増強させることができることは、これまでに知られていなかった。
Staley, J.T et. al., Annual Review of Microbiology 1985, 39:321-346 Ohta, H. et. al., Soil Sci. Plant Nutr. 1980, 26: 99-107 Mizuno, Y. et. al., Arch. Microbiol. 1999, 172: 63-67 Tanaka, T. et. al., Appl. Environ. Microbiol. 2014, 80: 7659-7666 Janssen,P.H. et. al., Appl. Environ. Microb. 2002, 68: 2391-2396 Tamaki,H. et. al., Environ. Microbiol. 2009, 11: 1827-1834 Shigematsu, T. et. al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 2007, 71,: 3093-3097 Nichols,D. et. al., Appl. Environ. Microbiol. 2010, 76: 2445-2450 Rappe, M.S. et. al., Annu. Rev. Microbiol. 2003, 57: 369-394 Schloss, P.D. et. al., Microbiol. Mol. Biol. Rev. 2004, 68: 686-691 Kogure, K. et. al., Canadian J. Microbiology 1979, 25: 415-420 Shigematsu, T. et. al., FEMS Microbiology Letters 2009, 293: 240-247 Xu, H.S. et. al., Microbial Ecology 1982, 8: 323-323 日本農芸化学会 2015年度大会講演要旨集 講演番号4A34p07、公益社団法人日本農芸化学会、2015年3月15日発行 Isono, K. et. al., Mol. Gen. Genet. 1976, 149: 297-302 Masaki, H., IFO Res Commun, 2014, 28: 15-20 Joel E.,et.al., Neurotoxicology. 2007, 28(3): 613-621 Laura M., et. al., Journal of Controlled Release 2008, 126: 10-16
自然環境中の多くの微生物は生きていても、固体培地上で増殖できず、コロニーを形成できない状態で存在しており、固体培地上でコロニーを形成できることと微生物が生きていることは同じではない。そのため、DNAでは存在が確認されている微生物でも、ほとんどは未分離の状態である。これまでに、本発明者の一人である正木らは、オレイン酸を固体培地に添加することにより微生物のコロニー形成能を増強できることを見いだしている。この増強方法を用いると従来よりも多くの種類の微生物を分離することが可能となるため、食品・臨床検査分野での微生物汚染の検出率の向上が期待できる。また、産業に有用な微生物を選択する際のスクリーニング効率の向上も期待できる。
しかし、オレイン酸は水に不溶性であるため、本発明者の一人である正木らは、前述の増強方法では、界面活性剤(Triton X-100)にオレイン酸を懸濁し、エマルションを形成させた状態で、固化前の液体状の培地に添加し、その後、その液体状の培地を固化することにより、固体培地にオレイン酸を添加していた。しかし、このような添加方法には、以下の(a)〜(c)のような問題点があった。
(a)界面活性剤とオレイン酸がエマルションを形成しているため、そのエマルションを滅菌濾過法で無菌化することは困難である点。
(b)液体状の培地が固化する間にエマルションの分布が偏るため、オレイン酸が均一に懸濁した固体培地を作製することが困難である点。
(c)高濃度のオレイン酸をエマルション化するには高濃度の界面活性剤が必要になるところ、界面活性剤はそれ自体が微生物に対して毒性を発揮するため、高濃度のオレイン酸を含有する固体培地を作製することが困難である点。
また、上述したようなエマルション化したオレイン酸を含む固体培地ではなく、エマルション化したオレイン酸を含む液体培地においても、前述の(c)と同様の欠点がある。
本発明の課題は、オレイン酸等の炭素数5以上の脂肪酸を培地に添加する際の上記の(a)〜(c)の問題点等を改善した、微生物の増殖能をより強く増強することのできる、微生物の増殖能を増強する方法や、微生物の増殖能の増強剤等を提供することにある。
炭素数5以上の脂肪酸は、通常、水(培養液)への溶解性がきわめて低く、培地に直接添加することができない。本発明者らは、前述の脂肪酸をシクロデキストリン包接させて可溶化したもの(以下、「シクロデキストリン包接脂肪酸」とも表示する)を用いることにより、上記課題を解決できることを見いだした。
背景技術に記載したように、メチル−β−シクロデキストリン等のシクロデキストリンは、細胞に接触させると細胞膜の脂質を除去する性質があり、細胞の生存率が低下することが、動物細胞を用いた実験により明らかとなっていた(非特許文献17)。そのため、微生物の増殖能の増強を目的とする際に、メチル−β−シクロデキストリン等のシクロデキストリンを用いることは適切でないと考えられていた。しかし、本発明者らは、メチル−β−シクロデキストリン等のシクロデキストリンが、細菌等の微生物の増殖能を阻害しないことを見いだした。
本発明者らは、以上のような知見を見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、シクロデキストリン包接脂肪酸は滅菌濾過法により無菌化することができ、また、固化する前の液体状の培地にも上記のエマルションよりも均一に懸濁することができ、また、シクロデキストリンには界面活性剤のように細菌等の微生物への毒性がない。そのため、滅菌濾過法による無菌化したシクロデキストリン包接脂肪酸をより高濃度にかつ、より均一に含有する脂肪酸含有固体培地を作製することが可能となった。かかる固体培地の場合と同様に、液体培地の場合も、シクロデキストリン包接脂肪酸を用いることにより、シクロデキストリン包接脂肪酸をより高濃度にかつ、より均一に含有する脂肪酸含有液体培地を作製することが可能となった。そして、これらの脂肪酸含有固体培地や脂肪酸含有液体培地で微生物を培養することにより、微生物の増殖能をより強く増強することが可能となった。
すなわち、本発明は、
(1)シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する培地で微生物を培養する工程を含むことを特徴とする微生物の増殖能を増強する方法や、
(2)培地が固体培地であり、微生物の増殖能が固体培地での微生物の増殖能であることを特徴とする上記(1)に記載の微生物の増殖能を増強する方法や、
(3)シクロデキストリンが、メチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の微生物の増殖能を増強する方法や、
(4)炭素数5以上の脂肪酸が、炭素数5〜30の範囲内の脂肪酸からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物の増殖能を増強する方法や、
(5)脂肪酸が、オレイン酸、パルミトレイン酸、シス−バクセン酸、カプロレイン酸、リンデル酸、ミリストレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ミード酸、ジホモリノレン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びネルボン酸から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする上記(4)に記載の微生物の増殖能を増強する方法や、
(6)培地が固体培地である場合は、培地中の炭素数5以上の脂肪酸の合計濃度が0.075〜500μg/mLの範囲内であり、培地が液体培地である場合は、培地中の炭素数5以上の脂肪酸の合計濃度が0.05〜500μg/mLの範囲内であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の微生物の増殖能を増強する方法や、
(7)シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸におけるシクロデキストリンと脂肪酸の重量比が、シクロデキストリン100重量部に対して脂肪酸0.2〜45重量部の範囲内であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の微生物の増殖能を増強する方法や、
(8)微生物が、真正細菌、古細菌及び真核生物からなる群から選択されることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の微生物の増殖能を増強する方法に関する。
また、本発明は、
(9)シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する培地で微生物を培養する工程を含むことを特徴とする微生物を増殖する方法に関する。
さらに、本発明は、
(10)シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する微生物の増殖能の増強剤に関する。
本発明によれば、微生物の増殖能をより強く増強することのできる、微生物の増殖能の増強方法等を提供することができる。本発明によれば、より多数又はより多種の微生物を増殖、検出又は分離することが可能となるため、より多数又はより多種の微生物を増殖させてその微生物の分子生態学的、生化学的な解析を可能にすることや、食品・臨床検査分野で微生物汚染又は感染の検出率を向上させることや、自然界から有用な微生物のスクリーニングの分野でスクリーニング効率を向上させることが可能となる。
図1Aは、大腸菌野生株(MG1655)を、Triton X-100でエマルション化したオレイン酸(以下、「エマルション化オレイン酸」ということがある)を含む固体培地中で培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。図1Bは、MG1655株を、エマルション化オレイン酸を含む液体培地中で培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。図1C及びDは、大腸菌の脂肪酸合成酵素(FabB)遺伝子欠損(ΔfabB)株を、それぞれエマルション化オレイン酸を含有する固体培地及び液体培地中で培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。 ΔfabB株を、0.1μg/mL(オレイン酸濃度) エマルション化オレイン酸を含み、Triton X-100濃度が20〜1000μg/mLの液体培地中で培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。 メチル−β−シクロデキストリン濃度が0〜6000μg/mLである固体培地中で、MG1655株を培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。図中の「CD」はメチル−β−シクロデキストリンを表す。 ΔfabB株を、20〜180μg/mL(オレイン酸換算濃度)のメチル−β−シクロデキストリン包接オレイン酸を含む固体培地中で培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。 脂肪酸合成酵素(FabB等)阻害剤であるセルレニンを所定濃度含む又は含まないM9−CAGlc液体培地で、大腸菌野生株(MG1655)を培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。グラフの横軸の数値は、培地中のセルレニンの濃度(μg/mL)を表し、縦軸の数値は、増殖可能細胞数を表す。また、セルレニンの各濃度において、左側の黒い棒グラフは、前述の培養後の培養液を、固体培地に播種して計測したCFU(colony forming unit)を表し、右側の薄いグレーの棒グラフは液体培地で培養した場合にMPN法で計測した増殖可能細胞数を表す。 脂肪酸合成酵素阻害剤であるセルレニンを所定濃度含む又は含まないSPMM−CAGlc液体培地で、枯草菌(バシラス・サティリス)168株を培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。グラフの横軸の数値は、培地中のセルレニンの濃度(μg/mL)を表し、縦軸の数値は、増殖可能細胞数を表す。また、セルレニンの各濃度において、左側の黒い棒グラフは、前述の培養後の培養液を、固体培地に播種して計測したCFUを表し、右側の薄いグレーの棒グラフは液体培地で培養した場合にMPN法で計測した増殖可能細胞数を表す。 脂肪酸合成酵素(FabI)阻害剤であるトリクロサンを所定濃度含む又は含まないM9−CAGlc液体培地で、大腸菌野生株(MG1655)を培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。グラフの横軸の数値は、培地中のトリクロサン濃度(ng/mL)を表し、縦軸の数値は、増殖可能細胞数を表す。また、トリクロサンの各濃度において、左側の黒い棒グラフは、前述の培養後の培養液を、固体培地に播種して計測したCFUを表し、右側の薄いグレーの棒グラフは液体培地で培養した場合にMPN法で計測した増殖可能細胞数を表す。 脂肪酸合成酵素(FabI)阻害剤であるトリクロサンを所定濃度含む又は含まないCM2B液体培地で、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株を培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。グラフの横軸の数値は、培地中のトリクロサン濃度(μg/mL)を表し、縦軸の数値は、増殖可能細胞数を表す。また、トリクロサンの各濃度において、左側の黒い棒グラフは、前述の培養後の培養液を、固体培地に播種して計測したCFUを表し、右側の薄いグレーの棒グラフは液体培地で培養した場合にMPN法で計測した増殖可能細胞数を表す。また、4μg/mLのトリクロサンと共に、60μg/mL(オレイン酸濃度換算)のシクロデキストリン包接オレイン酸を添加した場合の結果を、右から1番目と2番目のグラフに示す。 脂肪酸合成酵素(FabI)阻害剤であるトリクロサンを所定濃度含む又は含まないCM2B液体培地で、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株を培養したときの増殖可能細胞数を解析した結果を示す。グラフの横軸の「Triclosan」の数値は、培地中のトリクロサン濃度(μg/mL)を表し、「Fatty acid」の数値は、シクロデキストリン包接脂肪酸の添加濃度(μg/mL)(脂肪酸濃度換算)を表し、縦軸の数値は、CFUを表す。また、「C16:1」は、シクロデキストリン包接パルミトレイン酸を添加した結果を表し、「C18:1」は、シクロデキストリン包接オレイン酸を添加した結果を表す。
本発明は、シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する培地で微生物を培養する工程を含むことを特徴とする微生物の増殖能を増強する方法(以下、「本発明の増強方法」とも表示する。)や、シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する培地で微生物を培養する工程を含むことを特徴とする微生物を増殖する方法(以下、「本発明の増殖方法」とも表示する。)からなる。また、本発明は、シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する微生物の増殖能の増強剤(以下、「本発明の増強剤」とも表示する。)からなる。
本発明の増強方法や、本発明の増殖方法としては、シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する培地で微生物を培養する工程を含んでいる限り特に制限されないが、かかる培養工程に加えて、かかる培養工程により増殖した微生物の全部又は一部を、単離する工程を含んでいてもよい。かかる単離工程としては、公知の単離方法を用いることができる。また、かかる単離工程は、微生物の種類や、所望の活性の有無、程度や、所望の性質の有無、程度等を指標に行ってもよい。
本明細書における「シクロデキストリン」には、狭義のシクロデキストリンのほか、包接作用を有するシクロデキストリンの誘導体も含まれる。かかる狭義のシクロデキストリンとしては、α−シクロデキストリン、7分子のグルコースが結合したものがβ−シクロデキストリン、8分子のグルコースが結合したものがγ−シクロデキストリンが好ましく挙げられる。また、上記のシクロデキストリンの誘導体には、狭義のシクロデキストリンを構成するグルコースの一部またはすべての2位、3位、6位の水酸基を、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基などのヒドロキシアルキル基;アセチル基;等によって修飾した化合物や、狭義のシクロデキストリンを構成するグルコースの一部またはすべての2位、3位、6位の水酸基を、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム、アミド化合物、カルボニル化合物、エステル化合物、エーテル化合物、ハロゲン化物、カルボン酸等に誘導した化合物も含まれ、中でも、狭義のシクロデキストリンを構成するグルコースの一部またはすべての2位、3位、6位の水酸基を、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基などのヒドロキシアルキル基;アセチル基;等によって修飾した化合物が好ましく挙げられ、中でも、狭義のシクロデキストリンを構成するグルコースの一部またはすべての2位、3位、6位の水酸基を、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基などのヒドロキシアルキル基;によって修飾した化合物がより好ましく挙げられ、中でも、狭義のシクロデキストリンを構成するグルコースの一部またはすべての2位、3位、6位の水酸基を、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基及びヒドロキシプロピル基からなる群から選択される1種又は2種以上の基によって修飾した化合物がさらに好ましく挙げられ、中でも、狭義のシクロデキストリンを構成するグルコースの一部またはすべての2位、3位、6位の水酸基を、メチル基によって修飾した化合物(メチル−β−シクロデキストリン)や、狭義のシクロデキストリンを構成するグルコースの一部またはすべての2位、3位、6位の水酸基を、ヒドロキシプロピル基によって修飾した化合物(ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン)がより好ましく挙げられ、中でも、メチル−β−シクロデキストリンが特に好ましく挙げられる。
本発明において、シクロデキストリンは1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。各種のシクロデキストリンは市販品を用いてもよいし、化学的手段や生物学的手段により調製してもよい。
上記の「炭素数5以上の脂肪酸」としては、炭素数5以上の脂肪酸である限り、不飽和脂肪酸であっても飽和脂肪酸であってもよいが、不飽和脂肪酸が好ましく、直鎖不飽和脂肪酸がより好ましい。また、かかる脂肪酸は、直鎖脂肪酸、分岐脂肪酸、環状脂肪酸であってもよいが、直鎖脂肪酸が好ましく挙げられる。脂肪酸の炭素数としては、5以上であれば特に制限されないが、好ましくは5〜30の範囲内、より好ましくは8〜28の範囲内、さらに好ましくは10〜26の範囲内、より好ましくは12〜22の範囲内が挙げられる。不飽和脂肪酸の炭素間の二重結合の数としては、1つであってもよいし、2つ以上であってもよいが、1〜5の範囲内が好ましく、1〜4の範囲内がより好ましい。
炭素数5以上の直鎖不飽和脂肪酸として具体的には、カプロレイン酸(C10:1)、リンデル酸(C12:1)、ミリストレイン酸(C14:1)、パルミトレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、シス−バクセン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、ミード酸(C20:3)、ジホモリノレン酸(C20:3)、アラキドン酸(C20:4)、エイコサテトラエン酸(C20:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)、ネルボン酸(C24:1)等が挙げられ、中でも、パルミトレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、シス−バクセン酸(C18:1)リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、ミード酸(C20:3)、ジホモリノレン酸(C20:3)、アラキドン酸(C20:4)、エイコサテトラエン酸(C20:4)が好ましく挙げられ、中でも、オレイン酸、パルミトレイン酸、シス−バクセン酸が特に好ましく挙げられる。
炭素数5以上の直鎖飽和脂肪酸として具体的には、カプロン酸(C6:0)、エナント酸(C7:0)、カプリル酸(C8:0)、ペラルゴン酸(C9:0)、カプリン酸(C10:0)、ラウリン酸(C12:0)、ミリスチン酸(C14:0)、ペンタデシル酸(C15:0)、パルミチン酸(C16:0)、マルガリン酸(C17:0)、ステアリン酸(C18:0)、アラキジン酸(C20:0)、ヘンイコシル酸(C21:0)、ベヘン酸(C22:0)、リグノセリン酸(C24:0)、セロチン酸(C26:0)、モンタン酸(C28:0)、メリシン酸(C30:0)等が挙げられ、中でも、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、アラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)等が好ましく挙げられ、中でも、リスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)等がより好ましく挙げられる。
炭素数5以上の環状脂肪酸として具体的には、ヒドノカルビン酸(C16)、ショールムーグリン酸(C18)、ゴルリン酸(C18)等が挙げられる。
炭素数5以上の分岐脂肪酸として具体的には、2−エチルブタン酸、イソペンタン酸、2−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、イソステアリン酸、イソノナン酸等が挙げられる。
本発明において、炭素数5以上の脂肪酸は1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、脂肪酸として、脂肪酸含有物を用いてもよい。また、各種の脂肪酸は市販品を用いてもよいし、脂肪酸を含む食品材料(動物性油脂、食部性油脂等)から抽出等したものを用いてもよい。
本発明において、「シクロデキストリンに包接された物質X」とは、物質X(ゲスト分子)の全部又は一部が、シクロデキストリン(ホスト分子)の環状構造の内側の疎水性の空孔に取り込まれていることを意味する。物質Xがシクロデキストリンに包接されているかどうかは、溶液状態においては円二色性スペクトルやNMRスペクトルを用い、固体状態においては熱分析DSC、粉末X線などで、シクロデキストリン単独、ゲスト分子単独、物理的混合物とCD包接体を比較するなどして確認することができる。
本発明における、シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸(シクロデキストリン包接脂肪酸)中の、シクロデキストリンと脂肪酸の重量比としては、対象となる微生物の増殖能を増殖し得る限り特に制限さないが、例えば、シクロデキストリン100重量部に対して脂肪酸を0.1〜90重量部の範囲内、好ましくは0.2〜45重量部の範囲内、より好ましくは0.3〜30重量部の範囲内、さらに好ましくは1〜9重量部の範囲内、さらにより好ましくは1.5〜6重量部の範囲内、特に好ましくは2〜4.5重量部の範囲内とすることができる。
本発明におけるシクロデキストリン包接脂肪酸を調製する方法としては、特に制限されず、例えば混練法、飽和水溶液法、乳化法、混合粉砕法等の公知の方法を用いることができる。上記の混練法としては、ホスト分子に少量の水を添加してペースト状にし、そこに一定量のゲスト分子を添加して混練機等でよく練って、ホスト分子に包接されたゲスト分子を得る方法が挙げられる。上記の飽和水溶液法としては、ホスト分子の飽和水溶液を作製し、その後一定量のゲスト分子を添加・混合し、30分間〜数日間、攪拌混合して、ホスト分子に包接されたゲスト分子を沈殿させて得る方法が挙げられる。上記の乳化法としては、ホスト分子の20〜50%懸濁液を作製し、そこに一定量のゲスト分子を添加し、ホモジナイザーで乳化させて、ホスト分子に包接されたゲスト分子を得る方法が挙げられる。上記の混合粉砕法としては、ホスト分子とゲスト分子を振動ミルに入れ、粉砕して、ホスト分子に包接されたゲスト分子を得る方法が挙げられる。なお、上述の混練法、飽和水溶液法、乳化法において、固体状のシクロデキストリン包接脂肪酸を得る場合は、それぞれの方法で得られるシクロデキストリン包接脂肪酸を含む液体を乾燥(好ましくは凍結乾燥)すればよい。保存は、常温であってもよいが、より長期間の保存を可能にする観点から、4℃以下の温度で行うことが好ましい。
本発明における培地は、シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸(シクロデキストリン包接脂肪酸)を含有する培地である限り特に制限されないが、そのほかに、微生物の成育に必要な成分を含んでいる。本発明の培地は、固体培地でも液体培地であってもよいが、食品・臨床検査分野で微生物汚染又は感染の検出率を向上させることや、自然界から有用な微生物のスクリーニングの分野でスクリーニング効率を向上させることが可能となるなど、本発明の意義がより大きい点で、固体培地が好ましく挙げられる。
本発明における培地中のシクロデキストリン包接脂肪酸の濃度としては、対象となる微生物の増殖能を増強し得る限り特に制限さないが、培地が固体である場合は、脂肪酸濃度換算で(脂肪酸の濃度に換算して)、例えば0.075〜500μg/mLの範囲内、好ましくは0.1〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは1〜500μg/mLの範囲内、さらに好ましくは5〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは10〜500μg/mLの範囲内、さらに好ましくは20〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは40〜500μg/mLの範囲内、さらに好ましくは60〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは80〜500μg/mLの範囲内、さらに好ましくは100〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは120〜500μg/mLの範囲内が挙げられ、また、コストの観点から、培地中のシクロデキストリン包接脂肪酸の濃度の上限を、脂肪酸濃度換算で400μg/mL以下、300μg/mL以下としてもよい。他方、培地が液体である場合は、脂肪酸濃度換算で、例えば0.05〜500μg/mLの範囲内、好ましくは0.075〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは0.1〜500μg/mLの範囲内、さらに好ましくは1〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは5〜500μg/mLの範囲内、さらに好ましくは10〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは20〜500μg/mLの範囲内、さらに好ましくは40〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは60〜500μg/mLの範囲内、さらに好ましくは80〜500μg/mLの範囲内、より好ましくは100〜500μg/mLの範囲内、さらに好ましくは120〜500μg/mLの範囲内が挙げられ、また、コストの観点から、培地中のシクロデキストリン包接脂肪酸の濃度の上限を、脂肪酸濃度換算で400μg/mL以下、300μg/mL以下、200μg/mL以下としてもよい。シクロデキストリン包接脂肪酸の濃度が高いほど、それと同濃度の脂肪酸をTritonX-100で培地に懸濁させる場合の、TritonX-100の微生物への毒性が問題となりやすいため、本発明の意義がより大きくなる。
本発明における培地中のシクロデキストリン包接脂肪酸以外の成分としては、培養対象である微生物の成育に必要な成分が挙げられ、かかる成分としては、その微生物が資化し得る炭素源、窒素源、アミノ酸、無機塩類(特に、リン化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、鉄化合物等)が挙げられる。本発明の培地中のシクロデキストリン包接脂肪酸以外の成分からなる培地としては、後述の参考例2に記載するM9−CAGlc培地(M9最少培地にグルコースとカザミノ酸(カゼインの塩酸加水分解中和物)を添加した培地)や、後述の実施例2に記載するSPMM−CAGlc培地、CM2B培地や、L-broth培地やNutrient broth培地などが挙げられる。本発明における培地中のシクロデキストリン包接脂肪酸以外の成分は、培養対象となる微生物や増殖させたい微生物の種類等に応じて、適宜選択することができる。また、本発明における培地中には、シクロデキストリン包接脂肪酸以外にも、微生物の増殖能を増強する成分を添加してもよい。
本発明における微生物の種類としては、シクロデキストリン包接脂肪酸で増殖能が増強される限り特に制限されず、真正細菌(Bacteria)、古細菌(Archaea)、真核生物(Eucarya)が挙げられ、中でも、真正細菌、古細菌、酵母が好ましく挙げられ、中でも、真正細菌、古細菌がより好ましく挙げられる。また、本発明における微生物としては、グラム陽性の細菌(好ましくは真正細菌)、グラム陰性の細菌(好ましくは真正細菌)が挙げられる。グラム陽性の真正細菌としては、フィルミクテス門、放線菌門の真正細菌が好ましく挙げられる。フィルミクテス門の真正細菌としては、バシラス属、ラクトバシラス属、クロストリジウム属、テルモアナエロバクテル属、ハロアナエロビウム属、ナトラナエロビウス属、エリシペロトリクス属、セレノモナス属、テルモリトバクテル属の細菌が好ましく挙げられ、中でも、バシラス属、ラクトバシラス属がより好ましく挙げられ、バシラス属がさらに好ましく挙げられる。放線菌門の真正細菌としては、コリネバクテリウム属、マイコバクテリウム属、ロドコッカス属、プロピオニバクテリウム属、ストレプトマイセス属、ビフィドバクテリウム属、ミクロコッカス属、フランキア属が挙げられ、中でも、コリネバクテリウム属、マイコバクテリウム属、ロドコッカス属、プロピオニバクテリウム属、ストレプトマイセス属、ビフィドバクテリウム属がより好ましく挙げられ、中でも、コリネバクテリウム属、マイコバクテリウム属、ロドコッカス属がさらに好ましく挙げられる。また、本発明は、本発明における微生物(シクロデキストリン包接脂肪酸で増殖能が増強される微生物)を少なくとも一部に含む微生物群(例えば、自然界から採取した微生物群)に適用してもよい。そのように用いることによって、自然界から有用な微生物のスクリーニングを行う際に、スクリーニング効率を向上させることが可能となる。
本発明における培地で微生物を培養する工程としては、かかる培地で微生物を培養する限り、培養期間、培養温度、湿度、酸素濃度などの培養条件等について特に制限されず、培養する微生物の種類等に応じて培養条件を適宜設定することができる。培養期間として例えば、5時間〜2週間の範囲内、8時間〜1週間の範囲内が挙げられ、培養温度として例えば5〜50℃の範囲内、10〜40℃の範囲内が挙げられる。
本発明において「微生物の増殖能が増強している」とは、シクロデキストリン包接脂肪酸を含有させないこと以外は同じ組成の脂肪酸不含有培地(例えばM9−CAGlc培地、SPMM−CAGlc培地又はCM2B培地)で、同じ培養条件で培養した場合と比較して、シクロデキストリン包接脂肪酸含有培地で培養した場合の微生物の増殖可能細胞数が多いことを意味する。本発明において「微生物の増殖能が増強している」ことには、シクロデキストリン包接脂肪酸を含有させないこと以外は同じ組成の脂肪酸不含有培地(例えばM9−CAGlc培地、SPMM−CAGlc培地又はCM2B培地)で、同じ培養条件(好ましくは、その微生物に好適な培養条件)で例えば30時間培養した場合と比較して、シクロデキストリン包接脂肪酸含有培地で培養した場合の微生物の増殖可能細胞数が、割合として好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは100%以上増加していることが含まれる。また、本発明において「微生物の増殖能が増強している」ことに含まれる別の態様として、シクロデキストリン包接脂肪酸を含有させることに代えて、それに含まれる脂肪酸と同濃度の脂肪酸をTritonX-100で培地に懸濁させたこと以外は同じ組成の培地(脂肪酸を含有させる前の培地として例えばM9−CAGlc培地、SPMM−CAGlc培地又はCM2B培地)で、同じ培養条件(好ましくは、その微生物に好適な培養条件)で培養した場合と比較して、シクロデキストリン包接脂肪酸含有培地で培養した場合の微生物の増殖可能細胞数が多いことが含まれ、より好ましくは、シクロデキストリン包接脂肪酸を含有させることに代えて、それに含まれる脂肪酸と同濃度の脂肪酸をTritonX-100で培地に懸濁させたこと以外は同じ組成の培地(脂肪酸を含有させる前の培地として例えばM9−CAGlc培地、SPMM−CAGlc培地又はCM2B培地)で、同じ培養条件(好ましくは、その微生物に好適な培養条件)で例えば30時間培養した場合と比較して、シクロデキストリン包接脂肪酸含有培地で培養した場合の微生物の増殖可能細胞数が、割合として好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、さらにより好ましくは50%以上、特に好ましくは80%以上、特により好ましくは100%以上、特にさらに好ましくは150%以上、特にさらにより好ましくは200%以上、より好ましくは400%、さらに好ましくは600%以上、より好ましくは800%以上増加していることが含まれる。
本発明において、培養後の「微生物の増殖可能細胞数」とは、その培養後の微生物のうち、増殖が可能である微生物の細胞数を意味する。かかる増殖可能細胞数は、具体的には以下の方法により計測、算出することができる。例えば、「固体培地X」による培養後の、その「固体培地X」上の増殖可能細胞数を計測、算出する場合は、その固体培地X全体の微生物を擦り取って、緩衝液に懸濁し、その懸濁液を希釈し及び/又は一部を新たな固体培地X上に播種して培養し、該固体培地上に形成されたコロニー形成単位(colony-forming unit:CFU)を計測し、希釈率等に基づいて、そのCFU値から固体培地X上の増殖可能細胞数を算出することができる。一方、「液体培地Y」による培養後の、その「液体培地Y」中の増殖可能細胞数を算出する場合は、その液体培地Yを希釈し及び/又は一部を、その液体培地Yに対応する新たな固体培地(液体培地Yの組成にアガロースを添加して作製した固体培地)上に播種して培養し、該固体培地上に形成されたコロニー形成単位(Colony forming unit:CFU)を計測し、希釈率等に基づいて、そのCFU値から前述の液体培地Y中の増殖可能細胞数を算出することができる。なお、微生物の増殖能の増強は、培養後の「微生物の増殖可能細胞数」の増加に代えて、培養後の微生物の粒子数の増加により確認することもできる。微生物の粒子数は、コールターカウンターやセルソーターなどにより簡便に計測することができる。
本発明の増強剤としては、シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有している限り特に制限されない。本発明の増強剤は、液体状であってもよいし、固体状であってもよいが、保存性の観点から固体状であることが好ましい。
本発明の増強剤は、微生物の培養用培地に適量を添加して用いることができるため、本発明の増強剤におけるシクロデキストリン包接脂肪酸の濃度としては特に制限されないが、本発明の増強剤全量に対して、例えば0.001〜100重量%の範囲内、好ましくは0.1〜95重量%の範囲内、より好ましくは1〜80重量%の範囲内、さらに好ましくは2〜50重量%の範囲内が挙げられる。
本発明の増強剤は、シクロデキストリン包接脂肪酸のみを含有していてもよいし、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、水等の液状の溶媒や、固体状の増量剤などが挙げられるほか、培養対象である微生物の成育に必要な成分が挙げられ、かかる成分としては、その微生物が資化し得る炭素源、窒素源、アミノ酸、微量成分(無機塩類等、特に、リン化合物、マンガン化合物、鉄化合物等)が挙げられる。微生物の成育に必要な成分を含んでいる本発明の増強剤は、微生物の増殖能を増強するための培地添加剤、あるいは、微生物の増殖能を増強するための培地として使用することもできる。
[参考例1]ΔfabB株の構築
背景技術に記載したように、非特許文献16の変異株は、変異原メチルニトロニトロソグアニジンを用いて取得された株であるため、fabB遺伝子以外に多数の変異を含み、遺伝的背景が複雑で未知の部分も多い。そこで、大腸菌の野生株MG1655からfabB遺伝子だけを欠損させた変異株(fabB遺伝子欠損株:ΔfabB)の取得を試みた。
pRed/ET Recombination system(Gene Bridges GmbH社製)を用いた相同組換えによって、大腸菌の野生株MG1655のfabB ORFを、Tn5由来カナマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子のORFで置換し、fabB遺伝子欠損株(ΔfabB)を構築した。
[参考例2]
(エマルション化オレイン酸含有培地におけるΔfabB株の増殖能 1)
エマルション化オレイン酸含有培地(固体培地及び液体培地)におけるΔfabB株の増殖能を調べるために、Triton X-100でエマルション化したオレイン酸0.01〜20μg/mLを含む、脂肪酸不含の合成液体培地(M9−CAGlc培地;0.6% NaHPO、0.3% KHPO、0.1% NHCl、0.1% NaCl、1mM MgSO、0.1mM CaCl、0.5% カザミノ酸、0.4% D−グルコース)(以下、「エマルション化オレイン酸含有液体培地」という)、又は合成固体培地(以下、「エマルション化オレイン酸含有固体培地」という)を用いて細胞増殖レベルを解析した。細胞増殖レベルは、増殖可能細胞数を指標とした。増殖可能細胞数の算出方法は、上記の「発明を実施するための形態」に記載した方法を用いた。なお、0.01〜20μg/mL(オレイン酸濃度) エマルション化オレイン酸含有液体培地は、1% Triton X-100に2mg/mL オレイン酸を添加して、激しく撹拌した後、M9−CAGlc培地で100〜200000倍(オレイン酸の最終濃度20〜0.01μg/mL)希釈することにより調製した。また、エマルション化オレイン酸含有固体培地は、エマルション化オレイン酸含有液体培地に1.5%となるようにアガロースを添加して調製した。また、コントロールとしてΔfabB株をエマルション化オレイン酸不含の培地中で培養する実験や、野生株(MG1655株)をエマルション化オレイン酸含有又は不含の培地中で培養する実験も行った。
その結果、野生株であるMG1655株は、培地中のオレイン酸の有無やオレイン酸濃度によらず、増殖可能細胞数はほぼ同様であり、ほぼ同じレベルで増殖することが確認された(図1A及びB参照)。一方、ΔfabB株は、オレイン酸を0.01μg/mL含む液体培地中で培養した場合、増殖しなかったが、液体培地中のオレイン酸濃度を0.075μg/mLから20μg/mLまで順次上昇させるのに依存して、液体培地中で増殖レベルが顕著に上昇すること(増殖能が顕著に増強すること)(図1D参照)、及び、それに反して固体培地上では、細胞の増殖が強く抑制されること(図1C参照)が確認された。
[参考例3]
(エマルション化オレイン酸含有培地におけるΔfabB株の増殖能 2)
参考例2で調製したエマルション化オレイン酸含有培地に含まれるTriton X-100が、ΔfabB株の増殖能に影響を与えるかどうか調べた。具体的には、0.1μg/mL エマルション化オレイン酸含有液体培地におけるTriton X-100濃度が、20〜1000μg/mLとなるように培地を調製し、ΔfabB株の細胞増殖レベル(増殖可能細胞数)を解析した。
その結果、ΔfabB株は、培地中のTriton X-100濃度が100μg/mL以下の場合、ほぼ同じレベルで増殖することが確認された(図2参照)。一方、培地中のTriton X-100濃度が200μg/mL以上の場合、ΔfabB株の増殖レベルは低下し、特に培地中のTriton X-100濃度が500μg/mL以上の場合、ΔfabB株の増殖レベルは大幅に低下した(図2参照)。この結果は、ΔfabB株をエマルション化オレイン酸含有培地で効率よく培養するためには、培地中のTriton X-100濃度は100μg/mL以下(オレイン酸で換算すると20μg/mL以下)に抑える必要があることを示している。
[参考例4]
(メチル−β−シクロデキストリン含有培地におけるMG1655株の増殖能)
参考例3の結果から、Triton X-100でエマルション化したオレイン酸を培地に添加する方法では、Triton X-100が大腸菌の増殖レベルを低下させる効果を有するため、培地中のオレイン酸は、最大でも20μg/mLの濃度でしか添加することができない。そこで、オレイン酸を培地に添加する方法として、Triton X-100でオレイン酸をエマルション化する方法に代えて、メチル−β−シクロデキストリンでオレイン酸を抱接する方法を検討した。それに先立ち、まず、メチル−β−シクロデキストリンがMG1655株の増殖能に与える影響を調べた。
M9−CAGlc固体培地におけるメチル−β−シクロデキストリン濃度が、0〜6000μg/mLとなるように培地を調製し、MG1655株の細胞増殖レベルを解析した。
その結果、培地中に含まれるメチル−β−シクロデキストリン濃度が、少なくとも6000μg/mLまでの場合、MG1655株の細胞増殖レベル(増殖可能細胞数)は低下しないことが示された(図3参照)。なお、動物細胞を用いた実験では、シクロデキストリン、特にメチル−β−シクロデキストリンは、細胞に接触させると細胞膜の脂質を除去する性質があり、細胞の生存率が低下することが知られていた(非特許文献17、18)ことを考慮すると、メチル−β−シクロデキストリンが大腸菌の増殖レベルを低下させないことは、当該分野の研究者等にとって意外であった。
(抱接オレイン酸含有培地におけるΔfabB株の増殖能)
参考例4の結果から、大腸菌の増殖能は6000μg/mLのメチル−β−シクロデキストリンによっても低下しないことが示された。そこで、オレイン酸を培地に添加する方法として、Triton X-100でオレイン酸をエマルション化する方法に代えて、メチル−β−シクロデキストリンでオレイン酸を抱接する方法を試みた。
まず、1g メチル−β−シクロデキストリンを5mL 脱イオン水に溶解した後、20mg オレイン酸を添加し、激しく撹拌して、メチル−β−シクロデキストリン包接オレイン酸(以下、単に「シクロデキストリン包接オレイン酸」という)を調製した。かかるシクロデキストリン包接オレイン酸を、1.5% アガロースを含有するM9−CAGlc培地で希釈することによって、20〜180μg/mL(オレイン酸濃度換算の濃度)のシクロデキストリン抱接オレイン酸を含有するM9−CAGlc固体培地(以下、「抱接オレイン酸含有固体培地」という)を調製し、ΔfabB株の増殖レベル(増殖可能細胞数)を解析した。なお、コントロールとして、ΔfabB株を20μg/mL(オレイン酸濃度) エマルション化オレイン酸含有固体培地中に培養する実験を行った。なお、図1Cの固体培養では、一夜培養した定常期のΔfabB菌株を洗浄した後、固体培地に播種して培養を行ったのに対し、この実験では、対数増殖期のΔfabB菌株を洗浄した後、固体培地に播種して培養を行った。
この実験におけるΔfabB株の増殖可能細胞数を以下の表1に示し、それをグラフにしたものを図4に示す。
表1及び図4の結果から分かるように、ΔfabB株を、抱接オレイン酸含有固体培地中で培養することにより、オレイン酸濃度が20μg/mL以上でもその濃度依存的にΔfabB株の増殖レベル(増殖可能細胞数)が上昇することが示された。また、ΔfabB株を20μg/mL シクロデキストリン抱接オレイン酸含有固体培地中で培養した場合、20μg/mL エマルション化オレイン酸含有固体培地中で培養した場合と比べ、増殖可能細胞(菌体)数が、2.9倍(培養開始後10時間)、7.1倍(培養開始後20時間)、4.2倍(培養開始後30時間)、65.6倍(培養開始後40時間)と、顕著に多いことも示された(表1及び図4参照)。この結果は、ΔfabB株等の脂肪酸飢餓状態の微生物を、メチル−β−シクロデキストリン等のシクロデキストリンで抱接したオレイン酸を含む培地中で培養すると、従来技術である界面活性剤(Triton X-100等)でエマルション化したオレイン酸を含む培地中で培養した場合と比べ、細胞増殖能が顕著に増強し、また、コロニー形成効率が顕著に上昇することを示している。
(脂肪酸合成酵素阻害剤の添加による、細菌のコロニー形成能等の増殖能の低下)
固体培地上でコロニー形成能が低下した大腸菌変異株は脂肪酸合成酵素FabB遺伝子欠損株であった。そこで、各種微生物の野生株を用いた際に、脂肪酸合成酵素阻害剤を添加することにより、コロニー形成能等の増殖能が低下するかどうかを、増殖可能細胞数を指標に検討した。CFUは微生物を液体培養して得られた培養液の一部を固体培地に播種し、培養して形成されたコロニー数を計測し、MPNは前述の培養液を常法にしたがって希釈して菌数を計測した。
脂肪酸合成酵素(FabB等)阻害剤であるセルレニンをM9−CAGlc液体培地に添加し、グラム陰性細菌である大腸菌野生株MG1655株を37℃で3日間培養したところ、セルレニン濃度が高くなると大腸菌のCFUがMPNよりも強く阻害を受け、液体培地での増殖に比べてコロニー形成能が大きく低下することが示された(図5)。また、セルレニンをSPMM−CAGlc液体培地(SPMM−CAGlc液体培地;14g/L KHPO(国産化学株式会社製)、6g/L KHPO(国産化学株式会社製)、2g/L (NH)2SO(和光純薬工業株式会社製)、1g/L クエン酸三ナトリウム二水和物(国産化学株式会社製)、0.2g/L MgSO(米山薬品工業株式会社製)、5g/L D−グルコース(国産化学株式会社製)、50mg/L D−トリプトファン(株式会社 ペプチド研究所製)、5g/L Casamino Acids-Vitamin Assay(ベクトン・ディッキンソン社製))に添加し、グラム陽性細菌である枯草菌(バシラス・サティリス)168株を37℃で4日間(枯草菌)培養したところ、枯草菌では大腸菌よりも広いセルレニン濃度範囲にわたって、CFUがMPNよりも強く阻害を受け、液体培地での増殖に比べてコロニー形成能が大きく低下することが示された(図6)。
また、別の脂肪酸合成酵素(FabI)阻害剤であるトリクロサンをM9−CAGlc液体培地に添加し、グラム陰性細菌である大腸菌野生株MG1655株を37℃で3日間培養したところ、トリクロサンの広い濃度範囲にわたって、MPNが高く保たれるのに対しCFUだけが強く阻害を受け、液体培地での増殖に比べてコロニー形成能が大きく低下することが示された(図7)。また、トリクロサンをCM2B液体培地(CM2B液体培地;10g/L ハイポリペプトン(日本製薬株式会社製)、10g/L Bacto Yeast Extract(ベクトン・ディッキンソン社製)、5g/L NaCl(国産化学株式会社製))に添加し、グラム陽性細菌であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株を、30℃で3日間(枯草菌)培養したところ、トリクロサン濃度が2μg/mLを越えると、MPNが高く保たれるのに対しコロニーが全く見られなくなり、コリネバクテリウム・グルタミカムでもコロニー形成能が特に大きく低下することが示された(図8)。
(シクロデキストリン包接脂肪酸の添加による、コロニー形成能等の増殖能の回復)
脂肪酸合成酵素阻害剤の添加により低下した細菌のコロニー形成能等の増殖能が、シクロデキストリン包接脂肪酸の添加により回復するかどうかを検討した。シクロデキストリン包接脂肪酸としては、上記実施例1で作製したシクロデキストリン包接オレイン酸を用いた。
CM2B液体培地にトリクロサン4μg/mLを添加して、コロニー形成能が低下する条件とした培地に、シクロデキストリン包接オレイン酸60μg/mL(オレイン酸濃度換算)をさらに添加した培地で、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株を30℃で4日間培養した。その結果、トリクロサンで低下したコリネバクテリウム・グルタミカムのCFUが完全に回復し(図8)、コロニー形成能の低下が脂肪酸欠乏だけに起因する現象であったことが示された。
また、シクロデキストリン包接オレイン酸に代えて、シクロデキストリン包接パルミトレイン酸を用いた場合にも同様の効果が得られるかを確認するために、シクロデキストリン包接パルミトレイン酸を用いた実験も行った。シクロデキストリン包接パルミトレイン酸は、1g メチル−β−シクロデキストリンを5mL 脱イオン水に溶解した後、20mgパルミトレイン酸を添加し、激しく撹拌して調製した。
CM2B液体培地にトリクロサン4μg/mLを添加して、コロニー形成能が低下する条件とした培地に、シクロデキストリン包接パルミトレイン酸又はシクロデキストリン包接オレイン酸60μg/mL(脂肪酸濃度換算)をさらに添加した培地で、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株を30℃で4日間培養した。その結果、トリクロサンで低下したコリネバクテリウム・グルタミカムのCFUは、シクロデキストリン包接オレイン酸(「C18:1」)を添加した場合と同様に、シクロデキストリン包接パルミトレイン酸(「C16:1」)を添加した場合でも完全に回復した(図9)。
これらの結果から、微生物の低下したコロニー形成能等の増殖能は、培地にシクロデキストリン包接脂肪酸を添加することにより回復することが示された。
本発明によれば、微生物の増殖能をより強く増強することのできる、微生物の増殖能の増強方法等を提供することができる。本発明によれば、より多数又はより多種の微生物を増殖、検出又は分離することが可能となるため、より多数又はより多種の微生物を増殖させてその微生物の分子生態学的、生化学的な解析を可能にすることや、食品・臨床検査分野で微生物汚染又は感染の検出率を向上させることや、自然界から有用な微生物のスクリーニングの分野でスクリーニング効率を向上させることが可能となる。

Claims (10)

  1. シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する培地で微生物を培養する工程を含むことを特徴とする微生物の増殖能を増強する方法。
  2. 培地が固体培地であり、微生物の増殖能が固体培地での微生物の増殖能であることを特徴とする請求項1に記載の微生物の増殖能を増強する方法。
  3. シクロデキストリンが、メチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物の増殖能を増強する方法。
  4. 炭素数5以上の脂肪酸が、炭素数5〜30の範囲内の脂肪酸からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微生物の増殖能を増強する方法。
  5. 脂肪酸が、オレイン酸、パルミトレイン酸、シス−バクセン酸、カプロレイン酸、リンデル酸、ミリストレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ミード酸、ジホモリノレン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びネルボン酸から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項4に記載の微生物の増殖能を増強する方法。
  6. 培地が固体培地である場合は、培地中の炭素数5以上の脂肪酸の合計濃度が0.075〜500μg/mLの範囲内であり、培地が液体培地である場合は、培地中の炭素数5以上の脂肪酸の合計濃度が0.05〜500μg/mLの範囲内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微生物の増殖能を増強する方法。
  7. シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸におけるシクロデキストリンと脂肪酸の重量比が、シクロデキストリン100重量部に対して脂肪酸0.2〜45重量部の範囲内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の微生物の増殖能を増強する方法。
  8. 微生物が、真正細菌、古細菌及び真核生物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の微生物の増殖能を増強する方法。
  9. シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する培地で微生物を培養する工程を含むことを特徴とする微生物を増殖する方法。
  10. シクロデキストリンに包接された、炭素数5以上の脂肪酸を含有する微生物の増殖能の増強剤。
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