JPWO2017175870A1 - 肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材、その製造方法、及び肝切除を受けた肝臓の再構築方法 - Google Patents

肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材、その製造方法、及び肝切除を受けた肝臓の再構築方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材であって、該移植材が、脱細胞化された哺乳動物の肝臓由来の細胞外マトリックスと、該細胞外マトリックスの少なくとも一部を被覆する被膜とを有する脱細胞化骨格を含む、移植材を提供する。また、本発明は、哺乳動物の肝臓を凍結する工程、凍結された該肝臓を解凍する工程、解凍された該肝臓に界面活性剤を含む細胞破壊媒体を灌流して細胞を破壊する工程、細胞が破壊された該肝臓を洗浄する工程、を含む該移植材を製造する方法を提供する。また、本発明は、該移植材に肝臓の切除断面の形状に合わせて肝臓接着部を形成する工程、該肝臓の切除断面と、該肝臓接着部とを接触させて逢着する工程、を含む、肝臓の再構築方法を提供する。

Description

本発明は、肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材に関する。また、本発明は、肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材を製造する方法に関する。また、本発明は、肝切除を受けた肝臓の再構築方法に関する。
癌治療などのために臓器を一部切除する外科的治療は、根治を目指す上で重要であり、年間本邦だけで数万人以上が毎年各種臓器の部分切除術を受けている。しかしながら、切除後の臓器不全は時には致死的となり、合併症として常に最重要課題である。臓器機能不全の根治的治療法はなく、体外循環などに頼っているが、臓器不全に至ってしまえば、例えば、人工透析やインシュリン治療を生涯にわたって行う必要があり、患者の生活の質(QOL:Quality of Life)は格段に悪化する。このことが、治療のできない癌患者を増加させる原因ともなっている。
再生可能といわれる肝臓であっても、その臓器不全は死に繋がるために、術後の肝不全は大きな問題となっているが、現在のところ、肝臓移植以外にその根治的治療法は存在しない。肝臓移植を行うためには、肝臓を提供するドナーが必要であるが、日本を含む世界中において慢性的にドナーが不足しており、移植を受けることができている患者は数割にも満たないと考えられている。そのため、このような慢性的なドナー不足を解消するために、従来治療に代わる新たな治療技術の開発が求められているところである。
近年、こうした課題を解決するために様々な再生医療技術が開発されており、中でも組織工学(Tissue Engineering)と呼ばれる医学と工学とを融合させた技術は著しい発展を見せている。また、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞等)などを用いた幹細胞、又はそれらの細胞の分化誘導に関する技術開発も同時並行で発展しており、こうした技術を組み合わせることで、生体外で組織・臓器を構築する試みが世界中で取り組まれているところである。
組織工学的手法を用いた再生臓器の構築方法としては、大きく分けて、いわゆるボトムアップ型とトップダウン型の手法が開発されている。前者は、最小単位である細胞を積み上げてゆく方式であり、例えば、シート状の細胞を積層して組織・臓器を形成する方法や、スフェロイド状の細胞をブロックの様に積み上げ、組織・臓器を構築する方法等が挙げられる。後者としては、例えば、哺乳動物由来の臓器を用い、界面活性剤などの細胞膜を破砕する薬剤を用いて細胞外マトリックス(Extra Cellular Matrix:ECM)骨格だけを残し、そこへ臓器を構築するために必要な細胞を再度播種し、培養することによって、生着させ、生体外で臓器を作成する技術が挙げられる(特許文献1、特許文献2、非特許文献1及び非特許文献2)。前者の手法においては、現在のところ、網膜や消化管粘膜などの薄い組織の構築に限られている。一方、後者の方法は、現在のところ、生体内の臓器の代替となるような完全な機能を有した臓器の開発までには至っておらず、今後さらなる研究と開発が求められているところである。
ヒト及び非ヒト動物から採取された組織より作製された脱細胞化骨格は、いくつか既に製品化されており、身体の組織欠損部位を補助・充填する治療で用いられている(非特許文献3)。しかしながら、製品化されている脱細胞化骨格は、臓器の一部(心臓弁、心膜等)又は組織の一部(軟部組織、腱、皮膚等)に適用されているものであり、臓器そのものを再生する製品は開発されていない。
国際公開第2007/025233号 米国特許出願公開第2005/0249816号明細書
Uygun B.E.,et al.,Organ reengineering through development of a transplantable recellularized liver graft using decellularized liver matrix.Nat.Med.2010 Jul;16(7):814−820. Yagi H.,et al.,Human−scale whole−organ bioengineering for liver transplantation:a regenerative medicine approach.Cell Transplant.2013;22(2):231−242. Crapo P.M.,Gilbert T.W.,Badylak S.F.An overview of tissue and whole organ decellularization processes.Biomaterials.2011 Apr;32(12):3233−3243.
上述のように、移植が必要な重篤な疾患を抱えた臓器、特に肝臓を治療するための技術が開発されているが、未だ十分なものが提供されるに至っていない。そこで、本発明は、肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材を提供することを課題とする。また、本発明は、肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材を製造する方法を提供することを課題とする。また、本発明は、肝切除を受けた肝臓の再構築方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、驚くべきことに本発明の肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材を肝切除断面に適用すると、肝切除断面を起源に、該移植材内部に速やかに血管構造の再構築を誘導し、肝臓切除断面から肝臓の組織が再構築されることを見出した。また、胆管構造の再構築も誘導することを見出した。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材であって、
該移植材が、脱細胞化された哺乳動物の肝臓由来の細胞外マトリックスと、該細胞外マトリックスの少なくとも一部を被覆する被膜とを有する脱細胞化骨格を含む、移植材。
[2] 該移植材が、タンパク質架橋処理されたものである、[1]に記載の移植材。
[3] 該移植材は、ハイドロゲルが充填されたものである、[1]又は[2]に記載の移植材。
[4] 該移植材が、さらに該被膜を有さない肝臓接着部を有し、肝臓の切除断面に適用することを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の移植材。
[5] 該肝臓接着部が、肝臓の切除断面に適用する直前に、肝臓の切除断面の形状に合わせて形成されるものである、[[4]に記載の移植材。
[6] 該哺乳動物が、非ヒト哺乳動物である、[1]〜[5]のいずれかに記載の移植材。
[7] 肝切除断面を起源に、該移植材内に血管新生及び胆管新生を誘導する、[1]〜[6]のいずれかに記載の移植材。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の移植材の製造方法であって、
(a) 哺乳動物の肝臓を凍結する工程、
(b) 凍結された該肝臓を解凍する工程、
(c) 解凍された該肝臓に界面活性剤を含む細胞破壊媒体を灌流して細胞を破壊する工程、
(d) 細胞が破壊された該肝臓を洗浄する工程、
を含む、方法。
[9] (c)工程が、
(c−1) 解凍された該肝臓にイオン性界面活性剤を含む細胞破壊媒体を灌流する工程、及び
(c−2) 解凍された該肝臓に非イオン性界面活性剤及び双性イオン性界面活性剤を含む細胞破壊媒体を灌流する工程、
を含む工程である、[8]に記載の方法。
[10] 該イオン性界面活性剤が、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)、デオキシコール酸塩、コール酸塩、サルコシル、及びその組み合わせからなる群から選択される、[9]に記載の方法。
[11] 該非イオン性界面活性剤が、トリトンX−100、DDM、ジギトニン、ツイン20、ツイン80、及びその組み合わせからなる群から選択される、[9]又は[10]に記載の方法。
[12] 該双性イオン性界面活性剤がCHAPSである、[9]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13] (e)該移植材を、タンパク質架橋剤によって処理する工程、
をさらに含む、[8]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 該タンパク質架橋剤が、アルデヒド系架橋剤、カルボキシル基−アミノ基間架橋剤、及びその組合せから選択される、[13]に記載の方法。
[15] 該カルボキシル基−アミノ基間架橋剤が、水溶性カルボジイミド(WSC)である、[14]に記載の方法。
[16] 該アルデヒド系架橋剤が、グルタルアルデヒドである、[14]又は[15]に記載の方法。
[17] (f)該移植材を滅菌する工程、
をさらに含む、[8]〜[16]に記載の方法。
[18] 該(f)工程が、ガンマ線によって滅菌する工程、
を含む、[17]に記載の方法。
[19] (g)該移植材にハイドロゲルを充填する工程、をさらに含む、[8]〜[18]のいずれかに記載の方法。
[20] (h)肝臓の切除断面の形状に合わせて、該移植材に肝臓接着部を形成する工程、をさらに含む、[8]〜[19]のいずれかに記載の方法。
[21] 肝切除を受けた肝臓の組織を再構築する方法であって、
(i)[1]〜[7]のいずれかに記載の移植材に、肝臓の切除断面の形状に合わせて肝臓接着部を形成する工程、
(ii)該肝臓の切除断面と、該肝臓接着部とを接触させて逢着する工程、
を含む方法。
本発明の肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材及びその製造方法により作製された移植材は、容易に適切なサイズに成形可能であり、肝硬変を伴う肝癌や転移性肝癌に対する大量肝切除の際に必ず生じる肝切除断面に合わせたサイズを手術中に被覆・逢着可能である。断面に逢着された該移植材は、その内部に残された立体管腔構造の骨格が、切除された肝臓からの早期の血管内皮細胞・胆管上皮細胞等の遊走/生着を促し、脈管構造を先行的に再生させる他に類を見ない特徴を有する。この再生された脈管を通じて、肝細胞が細胞親和性の高い細胞外マトリックスからなる該移植材に広範囲に浸潤可能であるため、肝臓の構造自体が早期に補完され、肝不全の危険性を軽減し、術後の早期回復が見込まれる。
図1は、本発明の概念図である。 図2は、ブタ脱細胞化骨格を示す図である。(A)PBSで洗浄後のブタ肝臓を示す図である。(B)SDS含有細胞破壊媒体で処理中のブタ肝臓を示す図である。(C)細胞破壊媒体で処理後に破壊された細胞を洗浄した後のブタ脱細胞化骨格を示す図である。 図3は、ブタ肝臓用脱細胞化システム及び脱細胞化したブタ肝組織を示す図である。(A)本発明の脱細胞化骨格を含む移植材を作製するための脱細胞化システム(ブタ用)を示す図である。(B)正常なブタ肝臓の組織切片におけるHE染色像である。(C)正常なブタ肝臓の組織切片における核(DAPI、青)を示す蛍光顕微鏡像である。(D)脱細胞化処理を行ったブタ肝臓の組織切片におけるHE染色像である。(E)脱細胞化処理を行ったブタ肝臓の組織切片における核(DAPI、青)を示す蛍光顕微鏡像である。 図4は、ブタ脱細胞化骨格を走査線電子顕微鏡で拡大した図である。(A)SDSのみを用いて脱細胞化したブタ脱細胞化骨格である。(B)SDS、TritonX−100及びCHAPSを用いて脱細胞化したブタ脱細胞化骨格である。 図5は、ブタ脱細胞化骨格の切除肝断端への逢着手順を示す図である。 図6は、移植後のブタ脱細胞化骨格の組織学的解析結果(移植10日後)を示す図である。(A)ブタ脱細胞化骨格とブタ肝臓の骨格境界線付近の組織切片のHE染色観察像である。(B)ブタ脱細胞化骨格とブタ肝臓の骨格境界線付近の組織切片の蛍光顕微鏡観察像である。(C)ブタ脱細胞化骨格に生着した肝細胞(アルブミン(ALB)陽性細胞、緑)を示す図である。(D)ブタ脱細胞化骨格に再構築された胆管上皮細胞(CK19陽性、緑)を示す図である。(E)ブタ脱細胞化骨格に再構築された血管構造(CD31陽性、緑)を示す図である。 図7は、移植したブタ肝臓脱細胞化骨格の組織学的解析結果(移植28日後)を示す図である。(A)ブタ脱細胞化骨格とブタ肝臓の骨格境界線付近のCK19陽性細胞(緑)を示す蛍光顕微鏡観察像である。バーは1000μmを示す。(B、C)(A)のブタ脱細胞化骨格内の一部を拡大したCK19陽性細胞(緑)を示す蛍光顕微鏡観察像である。バーは200μmを示す。(D)ブタ脱細胞化骨格の末梢における血管内皮細胞マーカー陽性細胞(CD31陽性細胞、緑)を示す蛍光顕微鏡観察像である。青(DAPI)は核の位置を示す。(E)ブタ脱細胞化骨格とブタ肝臓の骨格境界線付近における組織切片のHE染色観察像を示す。点線は逢着境界線を示す。(F)脱細胞化骨格を逢着しない対照群としてのブタ肝臓の切除後断端のCK19陽性細胞(緑)を示す蛍光顕微鏡観察像である。 図8は、逢着したブタ脱細胞化骨格とブタ肝臓との境界線付近のHE染色観察像(移植28日後)を示す図である。黒矢印は胆管・血管を含む脈管構造を示す。白矢印は骨格内部深くまで伸展した胆管・血管を含む脈管構造を示す。 図9は、ラット肝臓脱細胞化システム及び脱細胞化したラット肝組織を示す図である。(A)本発明の脱細胞化骨格を含む足場素材を作製するための脱細胞化システム(ラット用)を示す図である。(B)本発明の脱細胞化骨格を含む移植材を作製するための脱細胞化システム(ラット用)の一部を示す図である。(C)10μmの蛍光ビーズを注入し血管網が保たれていることを示した図である。(D)ラットから採取したヘパリン化血液を注入し、血管網が保たれており、漏出がないことを示した図である。(E)電子顕微鏡解析によってコラーゲン線維が保たれていることを示した図である。 図10は、架橋処理後のブタ肝臓脱細胞化骨格を示す図である。 図11は、架橋処理後のブタ肝臓脱細胞化骨格をブタ肝臓に逢着後、10日目のブタ肝臓脱細胞化骨格及びブタ肝臓の境界部を示す図である。右)ブタ肝臓脱細胞化骨格が逢着されたブタ肝臓全体の切片をHE染色した図を示す。左)逢着したブタ肝臓脱細胞化骨格の一部を拡大(左図の一部の拡大)した図である。点線:肝実質細胞、矢印:胆管、矢頭:血管を示す。 図12は、コラーゲンゲルを注入後のラット肝臓脱細胞化骨格を示す。(A)タイプIコラーゲンゲルを注入後のラット肝臓脱細胞化骨格を示す。(B)(A)で得られたラット肝臓脱細胞化骨格を逢着した21日後のブタ肝臓を示す図である。点線内が逢着したラット肝臓脱細胞化骨格部分である。
本明細書で使用される用語は、本発明の具体的な実施形態を説明することを目的としており、本発明を限定することを意図していない。特段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的な用語は、本発明が属する分野の当業者によって共通して理解されるものと同様の意味を有する。
また、本明細書の前に、又は後に参照される全ての文献、特許出願に記載された内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
用語「臓器」とは、一般に、臓器を構成する細胞、細胞外マトリックスによる骨格、各細胞に酸素や栄養分を供給する血管系(動脈、静脈、毛細血管)を含む生体器官であり、その表面は被膜に被われている。臓器は、例えば、心臓、肝臓、肺、腎臓、膵臓、脾臓、脳、子宮、膀胱、脳等が挙げられる。臓器は被膜で被われているため、実質的にその被膜及び内部の血管系に損傷を有さない臓器であれば、血管系から導入された液体(例えば、血液)は、基本的には出口となる血管系以外からは排出されない。つまり、臓器は、血液を導入する動脈が臓器内部で枝分かれして微細な毛細血管構造を形成し、またその毛細血管構造が再び合流して静脈を形成する連続的な構造を備えており、基本的には特定の出入口以外からは液体が漏出しない。
本明細書における用語「被膜」とは、臓器の表面を被覆する膜を意味する。一般に、臓器の表面は、漿膜と呼ばれる単層の扁平上皮(中皮細胞)で被われている。漿膜の下層には結合組織を有し、漿膜と結合組織を含めて腹膜とも呼ばれる。本明細書において、「被膜」とは、漿膜、結合組織、又は腹膜を含む最も広い意味として解釈される。
用語「細胞外マトリックス」及び「ECM」は、本明細書において互換的に使用され、哺乳動物組織の細胞間に存在するコラーゲン等を豊富に含む物質、及びその由来物質に任意の処理が施された材料も含んでいる。「細胞外マトリックス」及び「ECM」は、細胞外基質、細胞間マトリックスとも呼ばれる。細胞外マトリックスを構成する成分としては、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、カドヘリン、ラミニン、テネイシン、エンクチン、エラスチン等によって構成され、組織・臓器により、その構成が異なる。細胞外マトリックスは、主に結合組織を構成する細胞から産生されるが、一部は上皮細胞や内皮細胞のような基底膜を保有する細胞からも分泌される。多細胞生物において、細胞外の空間の充填、形体を維持する骨格的、細胞が接着するための足場(スキャフォールド)及び細胞の分化誘導の促進等、多様な役割を果たしている。細胞外マトリックスの存在によって、細胞は三次元的に配置されることとなり、臓器や組織の複雑な形態を形成することに寄与している。
用語「脱細胞化」とは、本明細書において、臓器又は組織等の生体の一部から、細胞外マトリックスを主要構成成分として構成された構造(骨格)は維持しつつ、そこに接着していた細胞を所望の方法によって取り除くことをいう。脱細胞化された生体由来の臓器又は組織は、主に細胞外マトリックスによって構成される骨格となるが、構成されるタンパク質は、細胞外マトリックス関連タンパク質に限定されない。脱細胞化された生体由来の臓器又は組織を電子顕微鏡で観察した場合、細胞外マトリックスを主要構成成分とする空隙を有する網目構造の骨格として観察される。脱細胞化の方法は、臓器・組織に応じて適宜変更することが可能である。
用語「脱細胞化骨格」とは、本明細書において、生体由来の臓器若しくは組織又はその一部から、脱細胞化処理によって細胞が除かれた後に残存する、主に細胞外マトリックスを有する三次元構造の骨格を意味する。本発明において、脱細胞化骨格は、外見上は脱細胞化処理前の臓器若しくは組織又はその一部と同様の形態を維持している。特に、脱細胞化骨格が生体の臓器由来である場合、その表面の少なくとも一部は被膜を有している。本発明における移植材に含まれる脱細胞化骨格は、脱細胞化骨格脱細胞化処理前の臓器若しくは組織又はその一部がその内部に有していた動脈−毛細血管網−静脈と連続した血管構造の骨格をも実質的に維持している。これにより、生体内に移植した時に、速やかに血管構造が再構築され、血液の再灌流が促進される。また、本発明の移植材に含まれる脱細胞化骨格が肝臓由来である場合、実質的に胆管が形成していた三次元骨格を維持している。これにより、生体内に移植した時に、速やかに胆管構造が再構築され、早期の血管内皮細胞・胆管上皮細胞等の遊走/生着を促し、脈管構造が先行的に再生されるという他に類を見ない特徴を有する。さらにまた、本発明の移植材に含まれる脱細胞化骨格は、臓器・組織を構成する細胞の生着、増殖、分化を促進する特異的な細胞外マトリックスを維持しており、当該臓器・組織を構成する細胞による臓器・組織の再構築を促進する。
本発明において、「移植材」とは、生体由来の臓器若しくは組織又はその一部を脱細胞化して得られた脱細胞化骨格を含むものであって、任意に、追加的に、細胞の生着、増殖又は分化を促進するタンパク質、薬剤等を添加、結合等を行う処理が行われていてもよい。また、本発明に斯かる移植材は、予め所望の細胞を播種して培養することによって生着(再細胞化)させた移植材であってもよい。細胞種や細胞数は、移植の目的となる臓器・組織によって適宜選択すればよい。また、使用する細胞は、治療する目的となる臓器・組織を構成するものであればよく、市販の細胞や生体から採取された細胞であってもよい。生体から細胞を採取する方法は公知の方法に従えばよく限定されない。また、多能性幹細胞から分化誘導して得られた細胞であってもよい。本明細書において、多能性幹細胞とは、自己複製能と多分化能を有する細胞であり、体を構成するあらゆる細胞を形成する能力(pluriopotent)を備える細胞をいう。自己複製能とは、1つの細胞から自分と同じ未分化な細胞を2つ作る能力のことをいう。本発明で用いられる多能性幹細胞には、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、胚性癌腫細胞(embryonal carcinoma cell:EC細胞)、栄養芽幹細胞(trophoblast stem cell:TS細胞)、エビブラスト幹細胞(epiblast stem cell:EpiS細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell:EG細胞)、多能性生殖細胞(multipotent germline stem cell:mGS細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、Muse細胞(参照:国際公開WO2011/007900)などが含まれる。任意の体細胞へ分化誘導する方法については、公知の方法に従えばよく特に限定されない。本発明の移植材に細胞を播種する方法としては、例えば、Yagi H.らの方法(Yagi H.,et al.,Human−scale whole−organ bioengineering for liver transplantation:a regenerative medicine approach.Cell Transplant.2013;22(2):231−242.)を採用することができるが、これに限定されない。
本発明の移植材の材料となる臓器若しくは組織又はその一部の動物種の由来は、例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、サル、チンパンジー又はその免疫不全動物などの哺乳動物が挙げられる。採取される臓器若しくは組織又はその一部は、生きた個体より採取されてもよく、死体より採取されるものであってもよい。本発明の移植材が適用される動物種がヒトであった場合であっても、脱細胞化処理によって免疫原性が非常に低く、拒絶反応をほとんど起こさないことから、非ヒト哺乳動物由来の臓器若しくは組織又はその一部を使用してもよい。
臓器若しくは組織又はその一部を脱細胞化する方法については、材料となる臓器若しくは組織又はその動物種に応じて、公知の方法又はそれを一部改変した方法を実施することができる。脱細胞化する方法としては、(1)機械的刺激による細胞膜破壊:高圧、凍結、エレクトロポレーション、浸透圧変化と、(2)薬剤等の細胞破壊媒体による洗浄・細胞破壊:界面活性剤・酸/アルカリ・酵素・アルコール、の2つに大別され、これらを組み合わせて用いることも可能である。これらの方法により、細胞を破壊し、免疫原性がある細胞断片は除去し、細胞外マトリックス及びその他の細胞の生着、増殖、遊走又は分化を促進する物質は残存させることが可能となる。
本発明の、肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材の製造方法としては、例えば、以下の工程が含まれる。
(a) 哺乳動物の肝臓を凍結する工程、
(b) 凍結された該肝臓を解凍する工程、
(c) 解凍された該肝臓に界面活性剤を含む細胞破壊媒体を灌流して細胞を破壊する工程、
(d) 細胞が破壊された該肝臓を洗浄する工程。
機械的刺激により細胞膜を破壊する方法としては、凍結及び解凍する方法が挙げられる。凍結及び解凍することにより、細胞内に含まれる水分が膨張し、細胞膜を破壊することが可能となる。凍結する温度は、例えば、−10℃以下、−20℃以下、−30℃以下、−40℃以下、−50℃以下、−60℃以下、−70℃以下、−80℃以下、−90℃以下、−100℃以下、又はそれ以下の温度において実施することができる。また、凍結する温度は、例えば、−150℃〜−10℃、−130℃〜−15℃、−100℃〜−20℃の範囲で行うことが可能である。温度が低い方が、短時間で凍結可能であり、また、細胞膜の破壊効果が高く好ましい。解凍する温度は、例えば、37℃であってもよく、室温であってもよく、常温であってもよく、4℃であってもよい。また、解凍する温度は、例えば、4℃〜50℃、4℃〜45℃、4℃〜40℃であってもよい。細胞外マトリックスを可能な限り保持しながら、細胞を破壊可能な温度として、凍結は−80℃、解凍は室温に設定するのが好ましい。
細胞破壊媒体に含まれる界面活性剤は、その分子内に疎水基及び親水基を有する両親媒性の分子をいう。界面活性剤により、細胞膜や核膜を構成する脂質二重膜を破壊する。細胞破壊媒体に含まれる界面活性剤としては、イオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤、双性イオン性界面活性剤が挙げられる。細胞破壊媒体に用いられるイオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)、デオキシコール酸塩、コール酸塩、サルコシル、トリトンX−200、又はその組み合わせが挙げられる。細胞破壊媒体に用いられる非イオン性界面活性剤としては、例えば、トリトンX−100、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)、ジギトニン、ツイン20(Tween20)、ツイン80(Tween80)、又はその組み合わせが挙げられる。細胞破壊媒体に用いられる双性イオン性界面活性剤としては、例えば、3−[;(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ];−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)が挙げられる。これらの界面活性剤は、脱細胞化する臓器・組織に応じ、適宜選択することができる。肝臓、特にブタ肝臓の脱細胞化を例に挙げると、イオン性界面活性剤、特にSDSを用いて脱細胞化することにより、肝組織を再構築可能な移植材を得ることが可能となる。また、さらに、非イオン性界面活性剤、特にトリトンX−100を用いることにより、肝組織を再構築可能な移植材を得ることが可能となる。また、さらに、双性イオン性界面活性剤、特にCHAPSを用いることで、より細胞の生着に優れる肝組織を再構築可能な移植材を得ることが可能となる。細胞破壊媒体に含まれる溶媒としては、水、生理食塩水、緩衝液(例えば、PBS)、アルコール類、酢酸、リン酸トリブチル(TBP)等を用いることができる。また、細胞破壊媒体には、さらに、ヌクレアーゼ、トリプシン及び/又はディスパーセを含んでもよい。また、さらに、細胞が細胞外骨格へ接着することを防止するために、キレート材(EDTA、EGTA)を含んでもよい。
細胞破壊媒体による細胞を破壊する時間は、脱細胞化する臓器若しくは組織又はその動物種に応じて、適宜調節すればよい。
細胞破壊媒体を洗浄するための洗浄液としては、例えば、水、生理食塩水、緩衝液(例えば、PBS)を用いることが可能である。洗浄時間、洗浄回数は、上述の細胞破壊媒体が残存しない程度に行えばよい。
臓器若しくは組織又はその一部を脱細胞化する際に、上述の細胞破壊媒体を灌流する方法については公知の方法又はその一部改変した方法で行うことができる。例えば、臓器の動脈及び静脈にカニューレ(カテーテル)を挿入し、灌流装置によって継続的に細胞破壊媒体及び/又は洗浄液を灌流することができる。臓器又は組織の種類によっては、動脈又は静脈以外の管、例えば、肝臓の場合は門脈又は肝静脈より細胞破壊媒体及び/又は洗浄液を灌流してもよい。また、細胞破壊媒体及び/又は洗浄液を流入/排出することが可能な複数の動脈、静脈又は管を有する場合は、その一部を結紮して、細胞破壊媒体及び/又は洗浄液の流入口/排出口を制限してもよい。これにより、特に臓器の脱細胞化処理を行う場合、臓器内に効率的に細胞破壊媒体が滞留し、効率的に脱細胞化処理することができる。灌流速度は、脱細胞化骨格内の血管等の構造が破壊されない程度に調節するのがよく、臓器若しくは組織又はその動物種、あるいは脱細胞化の進行の程度に応じて適宜調節すればよい。灌流手段としては、例えば、ペリスタポンプ、遠心ポンプ、シリンジポンプ等の任意のポンプを用いることができる。
本発明の移植材は、さらに、タンパク質架橋処理されたものであることが好ましい。タンパク質架橋とは、化学的共有結合によって、2以上の分子を連結することをいうが、本明細書においては、同一タンパク質内の異なるアミノ酸分子同士、例えば、同一タンパク質内のシステイン残基間にジスルフィド結合(スルフヒドリル基)等を構築させる反応も含まれる。本発明の移植材は、タンパク質架橋処理が行われることにより、物理的強度が増し、その骨格形態がより安定する。それにより、生体内に移植した後であっても、腹腔内で潰されることなく、長期間、肝臓を再生する空間(足場)を提供可能となる、その結果、良好な肝臓再生が実現される。
本発明に用いられるタンパク質架橋剤は、当該技術分野において公知であり、例えば、アミノ基間架橋剤:例えば、DSG(ジスクシンイミジルグルタレート);DSS(ジスクシンイミジルスベレート);BS3(ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート);TSAT(トリス−(スクシンイミジル)アミノトリアセテート);BS(PEG)5(PEG化ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート);BS(PEG)9;DSP(ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート));DTSSP(3,3’−ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート));DST(酒石酸ジスクシンイミジル);BSOCOES(ビス[2−(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン);EGS(エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート));スルホ−EGS;DMA(ジメチルアジピミデートヒドロクロリド);DMP(ジメチルピメリミデートヒドロクロリド);DMS(ジメチルスベルイミデートヒドロクロリド)、スルフヒドリル基間架橋剤:例えば、BMOE(ビスマレイミドエタン);BMB(1,4−ビスマレイミドブタン);BMH(ビスマレイミドヘキサン);TMEA(トリス(2−マレイミドエチル)アミン);BM(PEG)2(1,8−ビスマレイミド−ジエチレングリコール);BM(PEG)3;DTME(ジチオビスマレイミドエタン)、アミノ基−スルフヒドリル基間架橋剤:例えば、AMAS(N−α−マレイミドアセト−オキシスクシンイミドエステル);BMPS(N−β−マレイミドプロピル−オキシスクシンイミドエステル);GMBS(N−γ−マレイミドブチリル−オキシスクシンイミドエステル)及びスルホ−GMBS;MBS(m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)及びスルホ−MBS;SMCC(スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート)及びスルホ−SMCC;EMCS(N−ε−マレイミドカプロイル−オキシスルホスクシンイミドエステル)及びスルホ−EMCS;SMPB(スクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート)及びスルホ−SMPB;SMPH(スクシンイミジル−6−(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート);LC−SMCC(スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシ(6−アミドカプロエート));スルホ−KMUS(N−κ−マレイミドウンデカノイル−オキシスルホスクシンイミドエステル);SPDP(スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート);LC−SPDP(スルホスクシンイミジル−6−[3(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート)及びスルホLC−SPDP;SMPT(4−スクシンイミジルオキシカルボニル−α−メチル−α(2−ピリジルジチオ)トルエン);SIA(スクシンイミジルヨードアセテート);SBAP(スクシンイミジル3−(ブロモアセトアミド)プロプロピオネート);SIAB(スクシンイミジル(4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート)及びスルホ−SIAB、カルボキシル基−アミノ基間架橋剤:例えば、DCC(N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド);EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドハイドロクロライド)(別名:水溶性カルボジイミド(WSC);NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)及びスルホNHS、スルフヒドリル基−糖鎖間架橋剤;例えば、BMPH(N−β−マレイミドプロピオン酸ヒドラジド);EMCH(N−ε−マレイミドカプロン酸ヒドラジド);MPBH(4−(4−N−マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド);KMUH(N−(κ−マレイミドウンデカン酸)ヒドラジド);PDPH(3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド)、光反応性架橋剤:例えば、ANB−NOS(N−5−アジド−ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド);スルホ−SANPAH(スルホスクシンイミジル6−(4’−アジド−2’−ニトロフェニルアミノ)ヘキサノエート);SDA(スクシンイミジル4,4’−アジペンタノエート)及びスルホ−SDA;LC−SDA(スクシンイミジル6−(4,4’−アジペンタノアミド)ヘキサノエート)及びスルホ−LC−SDA;SDAD(スクシンイミジル2−[(4,4’−アジペンタンアミド)エチル]−1,3’−ジチオプロピオネート)及びスルホ−SDAD、を用いることができる。また、タンパク質架橋剤として、アルデヒド系架橋剤:例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなど;多官能エポキシド類:例えば、ポリエチレングリコールジクリシジルエーテルを用いてもよい。本発明の一実施態様において、タンパク質架橋剤は、上述のタンパク質架橋剤を単独で用いても良く、2種類以上のタンパク質架橋剤の組合せを用いても良い。本明細書において、2種類以上のタンパク質架橋剤の「組合せ」を用いるとは、2種類以上のタンパク質架橋剤を同時に用いる場合及び別々に用いる場合の両者を含む意味で使用される。例えば、2種類以上のタンパク質架橋剤が同一の溶媒に溶解された混合溶液を用いて処理するものであってもよく、別々のタンパク質架橋剤を含む別々の溶液を用いて、複数回移植材を処理するものであってもよく、別々のタンパク質架橋剤を含む別々の溶液を用いて、同時に処理するものであってもよい。これらの使用態様は、使用するタンパク質架橋剤の種類によって適宜変更される。本発明の他の実施態様において、2種類以上のタンパク質架橋剤が別々に用いられる場合、使用するタンパク質架橋剤の順番は特に限定されない。
本発明の移植材を処理するタンパク質架橋剤は、好ましくは、アルデヒド系架橋剤、カルボキシル基−アミノ基間架橋剤、及びその組合せから選択される。より好ましくは、グルタルアルデヒド、EDC(水溶性カルボジイミド(WSC))及びその組合せから選択される。最も好ましくは、グルタルアルデヒド及びEDC(水溶性カルボジイミド(WSC))の組合せである。
本発明の移植材を、タンパク質架橋剤で処理した後、そのまま対象に移植してもよく、洗浄処理を行った後に移植してもよい。好ましくは、タンパク質架橋処理後に、移植材を洗浄することが好ましい。本発明の移植材の洗浄に用いられる洗浄液としては、公知の溶液を用いることが可能であり、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水、トリス緩衝化生理食塩水、HEPES緩衝化生理食塩水、リンゲル液、5%グルコース水溶液、哺乳動物培養用の液体培地、等張剤(ブドウ糖、D−ソルビトール、D−マンニトール、ラクトース、塩化ナトリウム等)等を用いることができる。
本発明の移植材はまた、ハイドロゲルがその内部に充填されることにより、その形態を安定して維持することが可能となり、好ましい。ハイドロゲルが充填された本発明の移植材は、生体内に移植した後であっても腹腔内で潰されることなく、長期間肝臓を再生する空間(足場)を提供可能となる。これにより、良好な肝臓再生が実現される。本発明に用いられるハイドロゲルとは、生体を構成する組織、細胞等に毒性を与えることなく、生体に移植可能な材料から構成される。本明細書中で使用される「ハイドロゲル」とは、水を大量に含むことができる物質であって、酸素、水、水溶性の栄養物、酵素やサイトカイン等のポリペプチドなど、細胞生存に必要な物質、老廃物などを容易に拡散移動させることができる材料または形態を有するものである。それは、通常、生体適合性であるものを意味する。本発明に適用されるハイドロゲルの形状もしくは形態としては、懸濁状若しくはコロイド粒子を含有する水溶液が好ましい。流動可能なハイドロゲルであれば、本発明の移植材の内部に充填することが可能となる。本発明に用いることができるハイドロゲルとしては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などの水溶性、水親和性、若しくは水吸収性合成高分子、多糖、タンパク質、核酸などを化学架橋したハイドロゲルからなる粒子である。多糖としては、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン、セルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。また、タンパク質としては、コラーゲン及びその加水分解物であるゼラチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、マトリゲル(登録商標)等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、生体適合性で、かつ、生体内で細胞により分解される材料からなるハイドロゲルが本発明には適している。このような性質を有するハイドロゲルであれば、本発明の移植材内部に細胞が、浸潤、増殖、生着する効果を阻害することなく、良好な肝臓再生が実現可能となる。さらに好ましくは、細胞が浸潤、増殖、生着する効果を増強するハイドロゲルであり、例えば、コラーゲン、ゼラチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、マトリゲル(登録商標)等のタンパク質のハイドロゲルである。
本発明の移植材にハイドロゲルを充填する方法については、特に限定されないが、例えば、注射器を用いて、移植材の門脈及び/又は肝静脈から充填する方法、ハイドロゲルを含む溶液を灌流させる方法などが挙げられる。本発明に適用されるハイドロゲル形態が懸濁状若しくはコロイド粒子を含有する水溶液である場合、その濃度は、選択されるハイドロゲルの上記主成分の性質によって異なるために限定されないが、移植材内に充填可能であり、かつ、充填後に流出しない濃度であることが好ましい。
本発明の移植材は、移植によって生体内に埋め込まれて使用し、移植による病原体の感染を防止する観点から高度に滅菌が施される必要がある。本発明の移植材を滅菌する方法は公知の方法を用いることができるが、例えば、抗生物質(ペニシリン、アンピシリン、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、アムテホリシンB等)による滅菌、オートクレーブ滅菌、UV照射滅菌、ガンマ線照射滅菌、オゾン滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、又はこれらの組み合わせが挙げられる。これらの滅菌方法による処理は、移植材に含まれる細胞外マトリックスの構造や性質が損なわれない程度に実施することが好ましい。本発明において、ガンマ線照射は特に滅菌効果が高く、好ましい。
本発明の移植材を保存する温度は、使用するまで、例えば、4℃〜30℃、4℃〜28℃、4℃〜26℃であってもよく、室温であってもよく、常温であってもよく、凍結して保存してもよい。凍結する温度としては、例えば、−10℃、−20℃、−30℃、−40℃、−50℃、−60℃、−70℃、−80℃、−90℃、−100℃、又はそれ以下の温度であってもよい。また、凍結する温度は、例えば、−150℃〜−10℃、−130℃〜−15℃、−100℃〜−20℃の範囲で行うことも可能である。本発明の移植材を保存する溶液は、例えば、水、生理食塩水、PBS等が挙げられる。また、凍結した本発明の移植材を解凍する温度は、例えば、37℃であってもよく、室温であってもよく、常温であってもよく、4℃であってもよい。また、解凍する温度は、例えば、4℃〜50℃、4℃〜45℃、4℃〜40℃であってもよい。細胞外マトリックスを可能な限り保持し、本発明の移植材の効果を最大限発揮するための最適な温度としては、凍結は−80℃、解凍は室温に設定するのが好ましい。
本発明の移植材は、生体内へ移植することによって臓器又は組織を再構築することが可能となる。特に、本発明の移植材を適用する臓器が肝臓である場合、肝臓の切除断面に適用することにより、従来は肝臓の切除断面からの再生が困難であった肝組織の再構築が可能となる。特に、本発明の移植材が肝臓由来の脱細胞化骨格を含む場合、該移植材内部へ内皮細胞及び胆管上皮細胞の遊走及び生着が促進されて毛細血管構造及び胆管構造を伴う機能的な脈管構造が再構築され、肝組織の再生が促進される(図1)。これは従来の移植材では実現されていない移植材であり、本発明によって初めて実現されたものである。
肝臓は再生する臓器と認識されているが、その再生の機序は、切除された後の肝臓が元の通りに延長・肥大するのではなく、残った肝臓が代償性に肥大する「代償性肥大」によって全体の容量が確保される。この「代償性肥大」が十分に起こるためには、肝切除量と肝臓の予備力(健康状態)のバランスが大きく寄与し、術前の評価を見誤ると肝不全から死に至る危険がある。従って特に肝硬変を患う患者が肝切除を受ける場合、患者本人の肝機能によって、厳密な切除上限が決められている。この切除上限を決める方法は、「幕内分類」と呼ばれる。肝臓は70%程度を切除しても再生すると言われるが、この分類で明記されているように、肝硬変の程度によっては、逆に70%近くが残る場合でも肝不全に陥る危険性がある。これは肝硬変によって肝臓の線維化が強い病態、言い換えれば細胞外マトリックス不全の状態で、内部の肝細胞が増殖できない環境にあるためと言える。これに対して本発明の移植材は、正常な細胞外マトリックスから成る細胞周囲環境・立体構造を提供し、本来再生しない肝臓の切除断端側の再生を促すことができる。本発明の移植材の使用によって、代償性肥大が不十分な危険な状態を回避し、安全な肝切除が可能となり、ひいてはより多くの癌患者に根治的治療を実施可能となる。
本発明の移植材を適用する臓器若しくは組織又はその一部を切除する方法は、公知の外科的な手段を用いればよく、例えば、メス、電気メス、剪刀、鑷子、鉗子等の手段が挙げられ、特に限定されない。臓器若しくは組織又はその一部の切除断面に対して、本発明の移植材を逢着する方法は公知の外科的な手法を用いることができ、例えば、切除後に残存した臓器若しくは組織の被膜及び本発明の移植片の被膜を縫合結紮する方法(逢着)が挙げられる。このとき、本発明の移植片は、適用する臓器若しくは組織又はその一部の切除断面の形状に応じて、少なくとも一部に被膜を有さない接着部が形成されている。該接着部は、例えば、メス、電気メス、剪刀、鑷子、鉗子等を用い、例えば、脱細胞化骨格を切断することによってその切断面に被膜を有さない該接着部が形成される。例えば、該移植材が肝臓由来の脱細胞化骨格を含む場合、該移植材をメスで切断することで、適用する肝臓の切除断面の形状に合わせた肝臓接着部を形成することができる。該肝臓接着部を肝臓の切除断面に接触させた状態で逢着することで、該移植材を移植できる。これにより、肝切除断面を起源に、血管内皮細胞、胆管上皮細胞、肝実質細胞、肝前駆細胞、クッパ−細胞、類同内皮細胞、星細胞等の肝組織を形成する細胞が遊走して生着し、移植材内に血管新生及び胆管新生を誘導し、肝組織の再構築を促進する。
本発明の移植材は、予め接着部が形成された状態で提供されてもよく、逢着する直前に臓器若しくは組織又はその一部の切除断面に応じて、手術現場において形成してもよい。また、本発明の移植材は、切除予定の体積に応じ、様々なサイズバリエーションで準備することも可能である。
本発明の移植材が、肝組織の再構築に用いられる場合、例えば、原発性若しくは転移性の肝がん、脂肪肝、肝硬変、肝炎、又は自己免疫性肝炎等の治療に用いることができる。上述の疾患が原因で、肝切除を行った切除面に対し、本発明の移植材を縫合接着することで、これまでの肥大型の再生機序とは異なる切除部の血管構造・胆管構造の再生機序によって肝細胞の浸潤を促し、術後の肝臓容量を早期に飛躍的に増大させ、肝機能の補填と肝不全を未然に防ぐことが可能となる。これは、現在使用可能なフィブリン糊やシート状構造物とは明らかにスケールの異なるcm単位での早期の構造再生と細胞浸潤を実現する。
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。なお、本実施例におけるラット及びブタを用いた実験プロトコールは、慶應義塾大学の動物実験に関する倫理委員会によって承認されたものであり、「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(文部科学省)に沿って実施した。
実施例1
<動物>
ブタ脱細胞化骨格作製用及び移植実験用に、体重20〜23kgの雄LWDのブタ(全農飼料畜産中央研究所、茨城県、日本)を使用した。ブタを、1kgあたり0.2mgのミダゾラム(アステラス製薬、東京、日本)及び0.08mgのメデトミジン(日本全薬工業、福島、日本)にて麻酔を行い、その後、標準呼吸器システムに接続し、処置を行う間、麻酔を持続するためにイソフルランを吸入させた。
<肝臓の採取及び事前処理(生存ブタより採取)>
Yagi H.らの方法(Human−scale whole−organ bioengineering for liver transplantation:a regenerative medicine approach.Cell Transplant.2013;22(2):231−242)を一部改変した方法を用いて肝臓の採取及び事前処理を行った。具体的には、ブタ肝臓を採取する直前に、ヘパリン5000IUを静脈より導入し、その後、垂直正中切開にて肝臓を採取した。採取した肝臓から胆嚢を除去した。胆管、肝動脈、肝静脈及び肝下部下大静脈を結紮した。門脈及び肝上部下大静脈をカニュレーションした。門脈よりヘパリン含有(5000U/L)0.9w/v%生理食塩水を血液が出てこなくなるまで灌流した。生理食塩水を注入した後、−80℃にて凍結して保存した。
<肝臓の脱細胞化処理(SDS+TritonX−100+CHAPS)>
凍結した肝臓をクリーンベンチ内において室温で解凍し、血液を除去するために門脈を介して100ml/分にて500U/Lヘパリンナトリウム(エイワイファーマ、東京)含有のPBSを排出される溶液が透明になるまで灌流した。その後、肝臓を最初の24時間は0.5w/v%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS;SERVA Electrophoresis、ドイツ)含有脱イオン水にて灌流した。続いて、肝臓を脱イオン水で15分間洗浄し、12時間、1v/v%トリトンX−100(シグマ)、0.05w/v%エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA;東京化成工業株式会社、東京)、0.05w/v%アジ化ナトリウム(シグマ)、4mM CHAPS(同仁化学研究所、熊本)含有のPBS溶液で洗浄した(図3(A))。脱細胞化された肝臓を1時間PBSで洗浄した。抗生物質(1v/v%ペニシリン/ストレプトマイシン、1v/v%ゲンタマイシン、1v/v%アムホテリシンB)を含有するPBSを、20mL/分にて、30〜1時間灌流した。その後、ガンマ線(25kGy)を用いて脱細胞化した肝臓をさらに滅菌した。使用するまで4℃で保存した(図2、図3(A)参照)。上記処理によって、ブタ肝臓が脱細胞化されていることを確認した(図3(C)及び(D))。
<肝臓の脱細胞化処理(SDS+TritonX−100)>
凍結した肝臓を室温で解凍し、血液を除去するために門脈を介して30ml/分にてPBSを一晩灌流した。その後、肝臓を最初の24時間は0.01w/v%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS;シグマ、セントルイス、ミズーリ州、米国)含有脱イオン水にて灌流し、続く24時間は、0.1w/v%SDS含有脱イオン水にて灌流し、その後48時間以上1w/v%SDS含有脱イオン水にて灌流した。続いて、肝臓を脱イオン水で15分間洗浄し、1v/v%トリトンX−100(シグマ)含有脱イオン水で30分間洗浄した。脱細胞化した肝臓を1時間PBSで洗浄した。脱細胞化した肝臓を、0.1v/v%過酢酸(シグマ、セントルイス、ミズーリ州、米国)を含むPBSで1時間洗浄した。滅菌したPBSを用いて、脱細胞化した肝臓を徹底的に洗浄した。使用するまで、抗生物質(1v/v%ペニシリン/ストレプトマイシン、1v/v%ゲンタマイシン、1v/v%アムホテリシンB)を添加したPBS中にて脱細胞化した肝臓を4℃で保存した。
<結果>
走査型電子顕微鏡を用いて、脱細胞化した肝臓を観察した。その結果、SDSを主に用いた脱細胞法(図4(A))と比較して、CHAPSをさらに含む灌流液で脱細胞化した肝臓は、その内部の脈管の残存状態が良好であることが示された(図4(B))。CHAPSを用いないで脱細胞化処理を行った脱細胞化骨格(図4(A))が硬いマトリックス形状を成しているのと比較して、CHAPSを用いて脱細胞化処理を行った脱細胞化骨格は、繊細なマトリックスが細部に渡り残存しており、またSDS洗浄液内の粒子と考えられる細胞傷害性を有すると考えられる微粒子の残存が極めて少ないことが明らかとなった(図4(B))。
実施例2
<脱細胞化肝臓(移植材)への細胞生着の評価>
実施例1の肝臓の脱細胞化処理(SDS+TritonX−100、SDS+TritonX−100+CHAPS)と同様の方法により、ブタ肝臓の脱細胞化処理を行った。Yagi H.らの方法(Yagi H.,et al.,Human−scale whole−organ bioengineering for liver transplantation: a regenerative medicine approach.Cell Transplant.2013;22(2):231−242.)に従って脱細胞化処理を行ったブタ肝臓に対して、ブタ肝実質細胞及び血管内皮細胞を播種して培養し、細胞が生着する様子を観察した。
<結果>
37℃の培養液中で灌流を行った場合、CHAPS用いなかった脱細胞化肝臓と比較してCHAPS用いて脱細胞化処理した脱細胞化肝臓の方がその組織の安定性が高く、再細胞化後の血管内皮細胞の脈管壁への生着が良好であった。
実施例3
実施例1の肝臓の脱細胞化処理(SDS+TritonX−100+CHAPS)と同様の方法により、ブタ肝臓の脱細胞化処理を行った。
<脱細胞化肝臓(移植材)の移植>
脱細胞化した移植材を、切除予定の肝臓の形態と同様の形態へと成形した。15〜20kgの雌LWDのSPFブタ(白石動物株式会社、埼玉、日本)を開腹し、肝臓の一部(左葉および中葉左側)を切除した。肝切除面と移植材の切断面とを接触させ、それぞれの被膜を縫合して閉腹した(図5)。術後は、通常の飼育を行った。
<結果>
移植後10日後及び移植後28日後の逢着境界領付近の脱細胞化骨格には、肝細胞(アルブミン陽性細胞、図6(C))及び胆管上皮細胞(CK19陽性細胞、図6(D)、図7(A)〜(C))が生着していることが確認された。また、移植した脱細胞化骨格の末梢部において、血管内皮細胞が生着し管腔構造を形成していることも確認された(図7(D))。さらに、図7(E)及び図8からも、肝臓の切断面への肝細胞骨格の移植により、脱細胞化骨格を足場として逢着領域から末梢部まで血管内皮細胞が生着し、管腔構造を伴った毛細血管網が再構築され、血流を回復させることが明らかとなった。また、逢着領域付近から胆管構造を徐々に再構築しながら肝小葉構造を再構築することが明らかとなった。一方、本発明の移植材を逢着しなかった対照群には、血管構造及び胆管構造を伴う脈管構造が再生する現象は見られなかった(図7(F))。
また、CHAPS用いて脱細胞化処理した脱細胞化肝臓は、ガンマ線による滅菌と組み合わせることによって、ガンマ線滅菌を用いなかった場合と比較して明らかに低い感染率を示し、逢着後の肝臓において良好な細胞の生着が見られた。
スキャフォールドを用いた肝臓の再生において、本発明で見られたような血管構造及び胆管構造を伴う脈管構造を再生する現象は知られていない。本発明の移植材により、初めて血管及び胆管を伴う脈管構造を有する肝組織を再生することが可能となった。
実施例4
購入したブタ肝臓を−80℃で凍結後、常温にて解凍した。門脈及び肝上部下大静脈をカニュレーションした。その後、胆嚢を摘出し、胆管、動脈及び肝下部下大静脈を結紮した。門脈側より、ヘパリン加生理食塩水を血液が出てこなくなるまで灌流した。以下の脱細胞化処理、滅菌処理及び肝切除面への移植は、実施例1及び2と同様の手順で行った。その結果、実施例1及び2と同様の結果が得られた。
実施例5
<動物>
雌のLewisラット(200〜250g、三共研究所)及び雄Lewisラット(450〜500g、三共研究所)を使用した。
<肝臓の単離及び脱細胞化処理>
ラットを1.5〜3.0%イソフルラン(マイラン)を吸入させて麻酔下で維持した。腹部切開後、心臓内の空間にヘパリン(450単位)を注入した。門脈に20Gカニューレを挿入し、ヘパリン(50単位)を含有するPBSを10〜15mLを注入した。IHVC(下肝大静脈)を結紮し、肝臓全体を切除した。SHVC(上肝大静脈)は結紮せずに切除した。得られた肝臓を少なくとも24時間、−80℃にて凍結した。Soto−Gutierrezらの方法(Soto−Gutierrez A,et al.,A whole−organ regenerative medicine approach for liver replacement.Tissue Eng.Part C Methods.2011 Jun;17(6):677−86.)を一部改変した方法により脱細胞化処理を行った。具体的には37℃にて解凍後、SHVCより、トリプシン(0.2v/v%)、TritonX−100(0.1v/v%)、EGTA(0.05w/v%)を含有するPBSを用いて、24時間、3mL/時にて灌流して脱細胞化処理を行った(図9)。得られた脱細胞化肝臓をガンマ線によって滅菌し、小さな尾状葉、左葉及び右小葉を取り除いた。
<脱細胞化肝臓(移植材)の移植及びその結果>
得られた脱細胞化骨格を、肝切除面の大きさに合わせて成形した。成形した脱細胞化骨格を、肝臓の一部(左葉および中葉左側)を切除した別のラットの肝切除面に接触させ、それぞれの被膜を縫合して逢着し、閉腹した。術後は、通常の飼育を行った。その結果、実施例1〜3と同様、肝切断面より血管構造及び胆管構造を伴う脈管構造を再生する現象が観察された。
実施例6
実施例1の肝臓の脱細胞化処理(SDS+TritonX−100+CHAPS)と同様の方法により、ブタ肝臓の脱細胞化処理を行った。得られたブタ肝臓脱細胞化骨格に対し、タンパク質を架橋するための処理を行った。架橋処理は、以下の試薬及び手順により行った。
<試薬>
・25%グルタルアルデヒド(GA)溶液(ナカライテスク、Cat;17003−05)
・PBS
・水溶性カルボジイミド(WSC)(Dojindo、Cat;346−03632)
<タンパク質の架橋方法>
1)100ml/分の速度でブタ肝臓脱細胞化骨格にPBSを循環させる。
2)循環させたままPBSで5%に希釈したGA溶液に脱細胞化肝臓を5分浸漬する。
3)PBS溶液に交換した後、1分×3回浸漬し洗浄する。
4)γ線滅菌する。
5)PBSで120mMに調整したWSCをフィルター滅菌した後、100mlを外固定した脱細胞化肝臓の門脈から注入する。
上述の方法により、架橋したブタ肝臓脱細胞化骨格が得られた(図10)。架橋処理を行ったことにより、架橋処理を行なっていない骨格に比べて、ブタ肝臓脱細胞化骨格が、より安定した形態を保持することが可能となった。
架橋処理したブタ肝臓脱細胞化骨格を、実施例3の手順に従って、ブタの肝臓の一部へと逢着した。逢着10日後のブタ肝臓の組織切片を作成し、HE染色を行って観察したところ、肝実質細胞群(図11右の点線部)や、胆管構造(図11右、矢印)、血管構造(図11右、矢印)が認められ、内部胆管細胞浸潤が増強していることが明らかとなった。これらの構造は、移植したブタ肝臓脱細胞化骨格内の逢着面から最も遠い部位においても観察された(図11左)。
架橋処理により、ブタ肝臓脱細胞化骨格の物理的強度が増し、移植後の部位においても安定した形態が保持可能となった。それにより、移植後も腹腔内で潰されることなく、長期間、肝臓を再生する空間(足場)を提供し、良好な肝臓再生が実現可能となった。
実施例7
実施例5と同様、ラット肝臓の脱細胞化処理を行った。得られたラット肝臓脱細胞化骨格に、以下の試薬及び手順に従い、コラーゲンゲル注入した。
<試薬>
・Type I collagen Rat tail high concentration(9.61mg/ml)(Corning、Cat;354249)
・10×PBS
・1N NaOH
・milliQ水
<コラーゲンゲルの充填方法>
・6mg/mlコラーゲン溶液を作製する。
・10×PBS 1ml、milliQ 2.62ml、1N NaOH 144μLを混和する。
・上記溶液にコラーゲン溶液6.24mlを加えて混和する。
・脱細胞化ラット肝臓の肝静脈から5ml、門脈から5mlを注入する。
上述の方法により、コラーゲンゲルを充填したラット肝臓脱細胞化骨格が得られた(図12(A))。得られたラット肝臓脱細胞化骨格を、実施例5の手順に従って、ラットの肝臓の一部へと逢着した。逢着21日後のラット肝臓を調べたところ、移植した脱細胞化骨格が、潰れることなく、形態を保持したまま生着していることが確認された(図12(B)点線部分)。

Claims (21)

  1. 肝切除を受けた肝臓の組織再構築用移植材であって、
    該移植材が、脱細胞化された哺乳動物の肝臓由来の細胞外マトリックスと、該細胞外マトリックスの少なくとも一部を被覆する被膜とを有する脱細胞化骨格を含む、移植材。
  2. 該移植材が、タンパク質架橋処理されたものである、請求項1に記載の移植材。
  3. 該移植材は、ハイドロゲルが充填されたものである、請求項1又は2に記載の移植材。
  4. 該移植材が、さらに該被膜を有さない肝臓接着部を有し、肝臓の切除断面に適用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の移植材。
  5. 該肝臓接着部が、肝臓の切除断面に適用する直前に、肝臓の切除断面の形状に合わせて形成されるものである、請求項4に記載の移植材。
  6. 該哺乳動物が、非ヒト哺乳動物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の移植材。
  7. 肝切除断面を起源に、該移植材内に血管新生及び胆管新生を誘導する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の移植材。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の移植材の製造方法であって、
    (a)哺乳動物の肝臓を凍結する工程、
    (b)凍結された該肝臓を解凍する工程、
    (c)解凍された該肝臓に界面活性剤を含む細胞破壊媒体を灌流して細胞を破壊する工程、
    (d)細胞が破壊された該肝臓を洗浄する工程、
    を含む、方法。
  9. (c)工程が、
    (c−1)解凍された該肝臓にイオン性界面活性剤を含む細胞破壊媒体を灌流する工程、及び
    (c−2)解凍された該肝臓に非イオン性界面活性剤及び双性イオン性界面活性剤を含む細胞破壊媒体を灌流する工程、
    を含む工程である、請求項8に記載の方法。
  10. 該イオン性界面活性剤が、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)、デオキシコール酸塩、コール酸塩、サルコシル、トリトンX−200及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
  11. 該非イオン性界面活性剤が、トリトンX−100、DDM、ジギトニン、ツイン20、ツイン80、及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項9又は10に記載の方法。
  12. 該双性イオン性界面活性剤がCHAPSである、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. (e)該移植材を、タンパク質架橋剤によって処理する工程、
    をさらに含む、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 該タンパク質架橋剤が、アルデヒド系架橋剤、カルボキシル基−アミノ基間架橋剤、及びその組合せから選択される、請求項13に記載の方法。
  15. 該カルボキシル基−アミノ基間架橋剤が、水溶性カルボジイミド(WSC)である、請求項14に記載の方法。
  16. 該アルデヒド系架橋剤が、グルタルアルデヒドである、請求項14又は15に記載の方法。
  17. (f)該移植材を滅菌する工程、
    をさらに含む、請求項8〜16のいずれか1項に記載の方法。
  18. (f)工程が、ガンマ線によって滅菌する工程、
    を含む、請求項17に記載の方法。
  19. (g)該移植材にハイドロゲルを充填する工程、
    をさらに含む、請求項8〜18のいずれか1項に記載の方法。
  20. (h)肝臓の切除断面の形状に合わせて、該移植材に肝臓接着部を形成する工程、
    をさらに含む、請求項8〜19のいずれか1項に記載の方法。
  21. 肝切除を受けた肝臓の組織を再構築する方法であって、
    (i)請求項1〜7のいずれか1項に記載の移植材に、肝臓の切除断面の形状に合わせて肝臓接着部を形成する工程、
    (ii)該肝臓の切除断面と、該肝臓接着部とを接触させて逢着する工程、
    を含む方法。
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