JPWO2017159853A1 - 水素の製造方法 - Google Patents

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Abstract

酸素ガスが存在する雰囲気下においても、効率的に水素ガスを発生させることができ、さらに、攪拌等によって光触媒体を分散させる必要のない、新規な水素の製造方法を提供する。犠牲剤を含む水溶液中に浸漬されており、沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まない光触媒体に対して、光を照射する工程を備える、水素の製造方法。

Description

本発明は、水素の製造方法に関する。
酸化チタンを代表とする光触媒は、大気浄化、脱臭、浄水、抗菌、防汚などの様々な分野での応用が広がっている。光触媒の研究が展開する契機となったのは、1972年の本多−藤嶋効果による水分解の論文発表であった。当該論文発表においては、酸化チタンと白金の電極を電解質水溶液に浸して、酸化チタンに光照射すると、酸化チタン電極からは酸素が、白金電極からは水素が発生することが報告された。
その後、電気化学反応器を使わずとも、酸化チタンの粉末に白金の微粒子を担持した光触媒(Pt/TiO2)でも、水素発生が可能であることが見いだされた。これ以降、多くは粉末状である不均一系光触媒物質による水分解が、今日に至るまで研究されている(非特許文献1)。
粉末状の無機光触媒を水中に分散し、光を照射することにより、水素発生反応が起こるが、効率よく水素を発生させるためには、次に挙げるような条件が必須とされている。
(1)光触媒粒子を激しく攪拌して、懸濁状態とすることにより、光触媒粒子に照射される光量を最大限とする。
(2)発生した酸素と水素が逆反応によって水に戻ることを抑制するため、犠牲剤と呼ばれる各種の有機化合物を水に溶解し、酸素は犠牲剤との反応により消費させて、水素を発生させる。
(3)水中の溶存酸素によって、上記(2)の逆反応が促進されるため、予めアルゴン等の不活性ガスでバブリングして、溶存酸素を除去する。
このような水素発生反応においては、犠牲剤を用いるが、その役割は、光触媒に電子を供与することである。光照射により光触媒物質は励起され、電子と正孔の対が生じる。電子と正孔の対は寿命が短く再結合しやすいが、犠牲剤から供与された電子を正孔に注入することにより再結合を防ぐことができる。残りの光励起された電子は白金等の貴金属表面で、水中のプロトンを還元して水素を発生すると考えられている。このような犠牲剤を用いた水素発生反応に比べ、純水を水素と酸素に量論比の2:1で分解する反応(水の完全分解)は一般的に難しい。通常の反応条件では、水素が量論比よりも過剰に生成する場合が多い。これは、水中に微量に溶存している有機物などが犠牲剤として酸素を消費することなどが、原因となっている。また、不純物を除去した条件でも、電子と正孔の再結合を防止することが難しい上に、一旦生成した酸素と水素が逆反応すると、水に戻るため、光触媒懸濁条件での水の完全分解は困難とされていた。
このような状況下、単純な酸化チタンだけでなく、各種の層状化合物などの特殊な結晶構造を含めた複合酸化物が数多く探索されてきた。助触媒としての各種の担持金属と組み合わせて、幾つかの水の完全分解に適した光触媒が見つかっている。また、Pt/TiO2光触媒においても純水に懸濁させてアルゴンの導入と脱気を繰り返して溶存酸素を除去した後、光を水面の上方から照射することにより、水素と酸素の量論比での発生が確認された(非特許文献2)。この条件では、水面近くの光触媒粒子から生成した水素と酸素が、直ちに気相に出て行き、逆反応することが無いため、水の完全分解が可能となった。酸化チタン光触媒は、そのバンドギャップから、約400nm以下の光(紫外光および可視光のうち紫色光の一部)にしか応答することができない。このため近年では可視光で水を分解できる触媒が精力的に研究されている。
また、近年、種々のバイオマス資源が犠牲剤として働くことから、それらを有効利用しつつ、光触媒を用いた水分解による水素発生を行う研究も進められている(非特許文献3)
しかしながら、前述のように、光触媒による水分解反応は、一般に、水中で行われ、かつ、水が存在している周囲の気相から酸素が除去された条件で行われている。気相に酸素が存在する雰囲気下では、水中の溶存酸素濃度も高くなるため、水分解反応によって生成した水素の酸素との逆反応が避けられない。また、空気や酸素を積極的に吹き込んだ場合には、有機物の酸化反応が支配的となる。このため、酸素含有雰囲気下で水中に溶存した汚染物質を、光触媒で酸化分解して水質浄化を行う技術が、数多く研究されている。
A. Kudo, Y. Miseki, Chemical Society Reviews, 38(2009) 253−278. S. Tabata, H. Nishida, Y. Masaki, K. Tabata, Catalysis Letters, 34 (1995) 245−249. S. Deguchi, N. Shibata, T. Takeichi, Y. Furukawa, N. Isu, Journal of the Japan Petroleum Institute, 53 (2010) 95−100.
光触媒を用いた水素製造反応は、光のエネルギーを水素という高いエネルギーレベルの物質に変換できることから、人工光合成のモデル反応の一つとも考えられる。競合する技術としては、太陽電池により発電し、水の電気分解を行って水素を得る方法がある。この技術と比較した場合に、光触媒を用いた水素製造は、簡単な設備で実施できるという大きな利点がある。このため、例えば、タンクなどの貯水に光触媒を加えて水素製造できるようなイメージ図が前述の非特許文献1をはじめ、光触媒の論文等に多く描かれている。しかしながら、実際には、粉末光触媒を懸濁させるために、水を激しく攪拌させる動力が必要となり、大きなエネルギーのロスが生じる。また、アルゴンや窒素などの不活性ガスで溶存酸素を追い出す必要があることから、不活性ガスの製造使用にもコストがかかる。このため、空気中にオープンな状態の貯水を用いて水素製造を行うことは出来なかった。
また、非特許文献3においては、種々の糖類を犠牲剤として用いた光触媒水分解による水素生成が検討されている。用いられた3種の酸化チタン光触媒は、いずれも粉末状であり、該論文の表1に示された粒径分布の平均粒径および標準偏差のデータから、10μm以下の小粒子も多量に含まれていることが分かる。そして、粉末懸濁条件下で反応器内のガス雰囲気の影響についても検討した結果、反応初期60分間でも水素生成速度がAr>Air>>O2の順に減じ、溶存酸素による逆反応で水素生成が停止することが確認されている。このように、従来の反応方法では酸素含有雰囲気下において水素生成を継続的に行うことは不可能であった。
このような状況下、本発明は、酸素ガスが存在する雰囲気下においても、効率的に水素ガスを発生させることができ、さらに、攪拌等によって光触媒体を分散させる必要のない、新規な水素の製造方法を提供することを主な目的とする。
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、犠牲剤を含む水溶液中に浸漬されており、沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まない光触媒体に対して、光を照射する工程を備える方法を採用することにより、酸素ガスが存在する雰囲気下においても、効率的に水素ガスを発生させることを見出した。さらに、この方法によれば、攪拌等によって光触媒体を水溶液中に分散させる必要がないことも見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 犠牲剤を含む水溶液中に浸漬されており、沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まない光触媒体に対して、光を照射する工程を備える、水素の製造方法。
項2. 前記水溶液中の溶存酸素濃度が、16ppm以下である、項1に記載の水素の製造方法。
項3. 前記水溶液が、酸素濃度30体積%以下の気相と接している、項1または2に記載の水素の製造方法。
項4. 前記犠牲剤が、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を有する化合物を含む、項1〜3のいずれかに記載の水素の製造方法。
項5. 前記光触媒体が、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、及び金属セレン化物からなる群より選択された少なくとも1種の光触媒物質を含んでいる、項1〜4のいずれかに記載の水素の製造方法。
項6. 前記光触媒体が、前記光触媒物質の表面に助触媒が担持された構成を備えている、項1〜4のいずれかに記載の水素の製造方法。
本発明によれば、酸素ガスが存在する雰囲気下においても、効率的に水素ガスを発生させることができ、さらに、攪拌等によって光触媒体を分散させる必要のない、新規な水素の製造方法を提供することができる。本発明の製造方法においては、攪拌等によって光触媒体を分散させる必要が無いため、従来の光触媒を用いた水素製造方法と比較して、エネルギーを削減することができる。また、本発明の製造方法においては、反応系中や気相から酸素を除去する必要がないため、酸素を除去するための設備とコストを削減することができる。
さらに、本発明の製造方法においては、水中に溶解している種々の有機物を犠牲剤とすることにより、排水成分などを利用して水素の製造を行うことも可能となる。また、暗条件での水素の分解反応が遅い光触媒体を選択することにより、太陽光が届かない曇りや夜間の条件における水素の分解を抑えることができる。本発明によれば、これらの特徴を利用することにより、例えば、有機物成分を含んだ池水に光触媒体を浸漬し、光触媒体に太陽光が照射されるようにするだけで、水素を製造することが可能になる。
実施例4の条件で、グリセリン水溶液中の光触媒体(Pt/TiO2)に、5.5時間光照射した後に光照射を止め、気相の水素生成量と酸素消費量を時間に対してプロットしたグラフである。 実施例6の条件で、グリセリン水溶液中の光触媒体(Au/TiO2)に、6時間光照射した後に光照射を止め、気相の水素生成量と酸素消費量を時間に対してプロットしたグラフである。
本発明の水素の製造方法は、犠牲剤を含む水溶液中に浸漬されており、沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まない光触媒体に対して、光を照射する工程を備えることを特徴とする。以下、本発明の水素製造方法について、詳述する。
(光触媒体)
本発明において、光触媒体は、犠牲剤を含む水溶液中において、光が照射されると、水を分解して、水素を発生する反応を触媒する光触媒物質を含んでいる。光触媒物質にバンドギャップ以上のエネルギーの光が照射されると、価電子帯の電子が伝導帯へと励起され、価電子帯にはホールが生じる。このとき、伝導帯の下端の準位が水の還元電位よりも卑な位置にあれば、電子により水が還元されて水素を生成することができる。
光触媒体に含まれる光触媒物質としては、特に制限されず、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、及び金属セレン化物などの公知のものを使用することができる。光触媒体に含まれる光触媒物質は、1種類であってもよいし、2種類以上の組み合わせであってもよい。
光触媒物質の具体例としては、TiO2、ZrO2、Ta25、ZnO等の単純酸化物;SrTiO3、NaTaO3等のペロブスカイト型複合酸化物;K2La2Ti310、K4Nb617等の層状酸化物、ZnS、CdS等の金属硫化物;CdSe等の金属セレン化物;Ta35等の窒化物;TaON等の窒酸化物などが挙げられる。また、可視光応答性を持たせるためにCr/TaやRhのドーピングを行ったSrTiO3:Cr/Ta、SrTiO3:Rh等が挙げられる。なお、酸化亜鉛、硫化カドミウム、セレン化カドミウムについては、水分解反応条件において、自らが光酸化されて溶解する光溶解が起きやすく、安定性に問題のあることが指摘されている。また、カドミウムを含む光触媒は、RoHS指令の観点などから使用を避けることが望ましいと考えられる。
本発明において、光触媒体は、光触媒物質のみにより構成されていてもよいし、光触媒反応活性を高めることなどを目的として、他の成分を含んでいてもよい。光触媒体の光触媒反応活性を高める観点からは、光触媒体は、光触媒物質の表面に助触媒が担持された構成を備えていることが好ましい。
このような助触媒の金属種としては、白金、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銀、銅、イリジウムなどが知られている。これらの中でも、水素過電圧の小さな白金、パラジウム、金などを助触媒として用いることが特に好ましい。助触媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
光触媒物質の表面に助触媒を担持する手法について制限はなく、光析出法、含浸法の他、析出沈殿法、コロイド添着法などの公知の方法を採用することができる。また、金を担持する場合であれば、本発明者らが開発した、金ヒドロキソ錯体溶液を用いた担持法(特許第5740658号)などを用いてもよい。
水分解による水素発生反応においては、金ナノ粒子触媒を用いたCO酸化反応(熱触媒反応)に見られるような、触媒活性に対する著しい貴金属の粒径依存性は見られない。助触媒の担持量は、その増加に伴い光触媒活性が増加するが、多すぎると逆反応が促進されるため最適値を有する。光触媒物質は、上記したように多種存在し、その結晶構造や表面の酸塩基性は個々に異なり、助触媒の担持法の選択は重要である。この点で、貴金属溶液のpH制御を厳密に行うことのできる担持法は、非常に有用である。
また、例えば、光触媒物質として酸化チタンを用いる場合、単結晶であっても活性を有するが、反応速度を高めるためにはルチルやアナターゼといった微結晶の集合体を用いることが好ましい。このような微結晶の集合体は、粉末光触媒として得られる場合が多いが、本発明では粉末のままで用いることはせず、凝集体を粉砕して粒状としたり、圧縮成形などにより平板状としたり、基板の表面に薄膜形成したり、多孔質担体の表面に担持して固定化した光触媒体として用いる。このような光触媒体は、細孔構造を有していても良い。細孔径としては、メソ孔、マクロ孔の何れでも良いし、その両者を併せ持っていても良い。光触媒成分が多孔質担体の表面に固定化されている場合には、透過または拡散反射などの機構により必要な波長域の光が光触媒成分に届くようにする必要がある。
本発明の製造方法において、光触媒体は、犠牲剤を含む水溶液中に浸漬されている。さらに、光触媒体は、沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まない。なお、本発明において、「沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まない」とは、光触媒体が40μm以下の粒子を全く含まないという意味ではなく、沈降法による石英相当径として、実質的に40μm以下の粒子を含まないと評価できることを意味する。実質的に40μm以下の粒子を含まないと評価できる場合とは、例えば、実施例で分級することにより得られた、大粒(300μm超710μm以下)、中粒(125μm超300μm以下)、小粒(40μm超125μm以下)の3種の粒径の異なる触媒体のうちいずれか1種か、当該3種の触媒体のうち少なくとも2種の混合物等を例示することができる。
粉末のままで光触媒体とした場合、反応液の攪拌により、光触媒体が懸濁状態となり、反応生成物の水素が溶存酸素と反応して、水に戻る逆反応が非常に起きやすくなる。これを避けるためには、光触媒体の懸濁が起きないようにする必要がある。本発明においては、光触媒体が、沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まず、水溶液中に光触媒体が浸漬されているため、水溶液中に懸濁状態の光触媒体が実質的に存在せず、当該逆反応が効果的に抑制されている。なお、本発明においては、光触媒体が、沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まなければよく、光触媒物質の粒子径は、40μm以下であってもよい。例えば、粒径が40μm以下の光触媒物質が凝集して、粒径40μm超の光触媒体を構成していてもよいし、粒径が40μm以下の光触媒物質が担体(例えば、多孔質担体)などの表面に担持されて、粒径40μm超の光触媒体を構成していてもよい。
本発明において、光触媒体の粒径は、沈降法(JIS Z8820−1)によって測定および分級がなされる。水中沈降法では粒子を水中に懸濁させ、一定時間静置することにより、沈降距離を測定してストークスの式からストークス径と呼ばれる粒径を求めることができる。沈降距離は、粒子の比重によって異なり、本発明においては、光触媒体の比重によらず定義を行うため、石英粒子(比重2.65)の沈降速度で計算した石英相当粒径として定義する。すなわち、40μmの大きさの石英粒子は水中で1分間に8.5cmの距離を沈降することから、ある光触媒体粒子が1分間に8.5cmの距離を沈降する時に、この光触媒体の粒径を40μmの石英相当粒径とする。実際の粒子集合は大きさの分布をもっているが、ここから40μm以下の粒子を除去するためには、水中に加えて振り混ぜや攪拌により粒子を分散させ、1分間静置した後に水面から8.5cmの部分を捨て、再び水を加えて同様の操作を繰り返せばよい。本発明においては、沈降法による40μmでの粒径区分が重要な意味を持つが、実施例においては、これよりも大きなサイズでの分級を行う際に、篩掛けによる操作も併用した。
本発明において、光触媒体の粒径としては、沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まなければ、特に制限されない。光触媒体の粒径としては、例えば、40μm超710μm以下、好ましくは125μm超300μm以下が挙がられる。また、光触媒体の形状は、球状である必要は無く例えば、光触媒体は、直径が0.5〜100cm角程度、厚みが0.1〜20mm程度の板状であってもよい。板状光触媒体が光触媒粉末を圧縮成型したものであるような場合には、使用中に一部が崩れて40μm以下の粒子が生じることの無いようバインダーの添加等を検討する必要がある。
犠牲剤としては、光触媒体を用いた水素製造方法に用いられる公知の犠牲剤を使用することができる。犠牲剤としては、それ自体が電子を放出しやすい化合物を使用することが好ましい。犠牲剤としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を有する化合物などが挙げられる。犠牲剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール等の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコール;グリセリン等の3価アルコール;ギ酸、酢酸、シュウ酸等のカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエタノールアミン(TEA)等のアミン等を挙げることができる。また、単糖であるグルコース、二糖であるスクロース、多糖であるデンプンやセルロース等の糖類を用いても良い。また、無機犠牲剤としてNa2S、NaIO3などを用いることもできる。犠牲剤は単一物質でなくても良く、例えばポリフェノール、リグニン等の植物成分やフミン質(腐植物質)、排水中のBOD成分、COD成分も用いることができる。犠牲剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。水素発生反応に伴い、これらの犠牲剤は酸化される。有機物の犠牲剤の場合、必ずしもCO2に完全酸化される必要は無く、例えばエタノールからアセトアルデヒドのような部分酸化であってもよい。
本発明において、光触媒体や犠牲剤の使用量は、目的とする水素発生量などに応じて、適宜設定すればよい。犠牲剤が全て使用されるまで(転化率が100%になるまで)光触媒反応を行う必要は必ずしも無く、例えば池水に溶解した成分が犠牲剤として働くような場合には、その一部を利用して水素製造を行えばよい。
本発明の水素製造方法においては、犠牲剤を含む水溶液中に前述の光触媒体を浸漬し、光触媒体に光を照射することにより、水溶液中で水の分解反応を進行させて、水素を製造する。例えば、本発明の水素製造方法は、水溶液を容器内一杯に満たし、水溶液が気相と接しない状態で行ってもよいし、水溶液が空気などの気相と接する状態で行ってもよい。本発明の水素製造方法において、水溶液は、空気と接していてもよく、例えば、酸素濃度30体積%以下の気相と接していてもよい。
また、本発明の水素製造反応において、水溶液は、溶存酸素を含んでいてもよい。水溶液中の溶存酸素濃度としては、特に制限されないが、16ppm以下が挙げられる。室温、大気圧下において、空気を水溶液中に吹き込んだ場合、水溶液中の溶存酸素濃度の上限値は、15ppm程度である。
また、水溶液は光触媒反応を阻害しない限り犠牲剤以外の有機・無機成分を含んでいても良い。即ち、犠牲剤を溶解するための水としては、蒸留水やイオン交換水だけでなく、水道水、雨水、池水、海水、下水、工業排水なども用いることができ、ナノバブル水、マイクロバブル水、ファインバブル水、ウルトラファインバブル水等と呼ばれている微細気泡含有水なども利用可能である。これらの水が犠牲剤成分を含む場合にはそのまま用いることもできる。但し、溶解している犠牲剤やそれ以外の成分の光吸収波長が光触媒成分の吸収波長域と重なると光触媒反応の活性が低下する原因となるので避けることが望ましい。例えば、酸化チタンや貴金属担持酸化チタンの場合には400nm以下の光を吸収して作動するため、水溶液はこの波長域に対して透明性を有することが好ましい。
本発明の水素製造反応において、水溶液の温度としては、特に制限されず、水素を製造している最中に、水が蒸発して無くならない程度の温度(例えば、大気圧中では、0℃〜90℃程度の範囲)であればよい。犠牲剤を使用した光触媒水分解反応は、温度が高いほど速度が大きくなるため、照射する光が赤外成分などを含む場合は、水温上昇による水分解反応の促進が期待できる。
触媒体の使用量と、水溶液中に浸漬する位置は、それぞれ、用いる光触媒体の形状、粒径等に応じて、適宜設定すればよい。なお、発生水素量は、光触媒体に対する光の照射面積に応じて増加させることができる。
また、本発明においては、水溶液中において、光触媒体が懸濁状態とならない限りは、光触媒体の大きさに応じた強さで水溶液を攪拌してもよい。なお、反応液の攪拌が強すぎる場合には、光触媒体の一部が崩れて光触媒成分が40μm以下の粉として脱離し、懸濁状態になると、水素と酸素から水が生成する逆反応を促進してしまうことに留意すべきである。
反応液が懸濁状態か否かの判断には、濁度計を用いて測定した濁度を目安とすることができる。濁度はJIS K0101に定義が記されており、精製水1Lに対し、標準物質(カオリン、ホルマジン、ポリスチレン等)1mgを含ませ、均一に分散させた懸濁液の濁りが濁度1度と定義されている。例えば、水5mLに対して標準物質50mgを加え攪拌により均一に分散させた場合の濁度は10,000と計算されるが、分散させる物質が標準物質でない場合、この数倍あるいは数分の1となることがある。光触媒体を含まない反応液の濁度をtとし、光触媒体を40μm以下の粉に粉砕し完全分散させた時の濁度をT0とし、光触媒体を沈めて実際に使用する状態で測定した反応液上澄の濁度をTとすると、本発明において以下の式で定義する「濁度比」Rは、光触媒体を粉砕した場合の何%が水中に分散状態で存在しているかの目安となる。
R(%)=((T−t)/(T0−t))×100
本発明においては、Rが2%以下で反応を実施することが好ましく、Rが1%以下であることがより好ましい。
本発明の光触媒体に光を照射するための光源としては、特に制限されず、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、レーザー光、太陽光等のうち、用いる光触媒物質が応答可能な波長を含む光を選択すればよい。これらの光を直接光触媒体に当てても良いし、ミラーを用い反射させて当てても良いし、光ファイバーを用いて導いても良い。太陽光であれば、凹面鏡などを用いて集光して当てても良い。
光照射によって発生した水素は、例えば、水溶液の外の容器などに誘導し、水上置換法などにより捕集することができる。光触媒による水の完全分解反応の場合は水素と共に酸素が発生し、爆鳴気の組成となっていることから、純度の良い水素を得るためだけでなく、安全のためにも水素と酸素の分離工程は必須である。本発明においても、実施例のように発生ガスを容器上部の空間に放出した場合には空気中の酸素に水素が混じって爆発組成に達することがあるため、発生ガスを捕集することが好ましい。本発明の発生ガスには酸素を全く含まないため捕集ガスからの酸素分離工程は必要ないが、二酸化炭素を少量含んでいる。二酸化炭素は、塩基性固体等の二酸化炭素除去剤で処理することにより後で容易に除去することが可能である。また、光触媒反応を行う犠牲剤水溶液に炭酸ナトリウム等を加えておき、二酸化炭素の水溶液への溶解度を高めておくことで捕集する気体の水素の純度をより高めることができる。
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
<実施例1>
(光析出法による光触媒体の調製)
300mLのセパラブルフラスコに攪拌子とメタノール50体積%の水溶液を150mL入れ、酸化チタン粉末(日本アエロジル製 P25)を1.5g加えた。ここに、塩化白金酸水溶液(0.1mol/L)を0.240mL加え、セパラブルフラスコに接続したPFAチューブを通じアルゴンガスを30分間バブリングした後、コックを閉じて容器を密閉した。次に、マグネチックスターラーを用いて撹拌(約500rpm)しながら、100W高圧水銀ランプ(SEN特殊光源(株)製 HL100G)の光を側方から照射した。セパラブルフラスコに取り付けたセプタムからガスタイトシリンジにて30分ごとにサンプリングしてTCDガスクロマトグラフ(モレキュラーシーブ13Xカラム)により分析して、水素の発生を確認した。酸化チタンへのPtの光析出反応が完了すると定常的に水素が発生するようになるので、時間に対して水素濃度をプロットして直線性が確認されるまで光照射した。反応終了後は、ヌッチェにセットしたろ紙にて沈殿を吸引ろ過、水洗し、100℃で乾燥し白金担持酸化チタン(Pt/TiO2)を得た。白金の担持量は0.3重量%であった。
(光触媒体の分級)
調製した光触媒は、乾燥後に固まり、粒径が揃わない状態となっている。これを、以下の篩掛けと水簸の操作により、大粒(300μm超710μm以下)、中粒(125μm超300μm以下)、小粒(40μm超125μm以下)、微粉(40μm以下)の4段階の粒径区分に分級した。各粒径区分を得るための操作法は、具体的には以下のように行った。分級された粒子の粒径は、沈降法による石英相当径である。
大粒(300μm超710μm以下)
光触媒をメノウ乳鉢にて粉砕し、710μmの篩を通過し300μmの篩を通過しない粒を集めた。このままでは粉砕中に生じた微粉が付着しているため、300μm以下の粒を完全に除去することができていない。そこで、以下の水簸操作により付着した微粉を除去した。篩掛けした300〜710μmの粒をスクリュー管瓶(アズワン製 No.8)に入れ、水を100mL加え、蓋をして振り混ぜた後、30秒間静置した。完全に沈んでいる粒を残し、微粉が残り若干懸濁した状態の上澄みを水面から8.5cm分だけ捨てた。全体で100mLとなるよう水を再び加え、振り混ぜて30秒静置後に上澄みを捨てる操作を10回繰り返した。ストークス則から30秒で8.5cmの沈降距離を有する石英相当粒子径は56μmと計算されることから、この繰り返し操作で篩掛けした300μm超710μm以下の粒子に付着した56μm以下の微粉を除去できる。繰り返すうちに、上澄み液からは懸濁状態が消え、完全に清澄な上澄み液が得られるようになった。最後に上澄み液を捨てた後、内容物を少量の水でテフロン蒸発皿に移し約40℃に加温した。水が蒸発し終わった後、乾燥機に入れ100℃で乾燥した。
中粒(125μm超300μm以下)
光触媒をメノウ乳鉢にて粉砕し、300μmの篩を通過し125μmの篩を通過しない粒を集めた以外は、大粒の時と同じ操作を行った。
小粒(40μm超125μm以下)
光触媒をメノウ乳鉢にて粉砕し、125μmの篩を通過した粒を集めた。これをスクリュー管瓶(アズワン製 No.8)に入れ、水を100mL加え、蓋をして振り混ぜた後60秒静置した。完全に沈んだ粒を残し、微粉が残り若干懸濁した状態の上澄みを水面から8.5cm分だけ捨てた。全体で100mLとなるよう水を再び加え、振り混ぜて60秒静置後に上澄みを捨てる操作を10回繰り返した。これ以降は大粒、中粒の時と同じ操作を行った。篩掛けでは125μmの篩しか使用していないが、60秒で8.5cm沈降する粒子の石英相当径が40μmであることから、水面から8.5cm分を捨てる操作を10回繰り返すことによって40μm以下の小さな粒子をほぼ完全に除去することができる。
微粉(40μm以下)
少量の光触媒をメノウ乳鉢にて微粉になるまで十分にすりつぶした。具体的には一度125μmの篩を通過した粒を少量(50mg程度)使用し、メノウ乳鉢にて100回のすりつぶしを行った。得られた微粉はスクリュー管瓶(アズワン製 No.8)に入れ、水を100mL加え、蓋をして振り混ぜた後、60秒静置した後でも、瓶底への沈殿が見られなかったことから、全量が少なくとも40μmよりも細かくなっていることが確認できた。
(光触媒反応)
反応容器としてホウケイ酸ガラス材質のガスクロバイアル瓶(日電理化硝子(株)製 SVG−12)を用い、反応容器の設置場所としては20℃に温度制御した恒温水槽(底面はパイレックス硝子板になっている)を用いた。出力500WのXeランプが入った光源装置(ウシオ電機製 OpticalModuleX SX−UID501XAMQ)を用い、電流値を20Aに設定した出力光を短波長カットフィルターと熱線カットフィルターにより320〜690nmに制限した光を光源とした。水平方向の出力光を、ミラーを用い直上に曲げ恒温水槽中のバイアル瓶に下方から照射されるようにした。このとき、光源装置内に絞りを入れ、照射スポットがバイアル瓶の底面形状に一致するように予め調整した。
次に、反応容器に分級した中粒の光触媒50mgを秤量し、ここにグリセリン0.5重量%水溶液5.0mLを加え、密栓した。反応容器に水を満たして蓋を締めた時の水の重量から求めた内容積は、15.6mLであったので、反応液量を差し引くと、残りは空気が10.6mL入っていることになる。実施例1の条件では、不活性ガスによるバブリングは行わなかった。反応容器を軽く7〜8回振り混ぜて30秒後には光触媒粒子が沈むのを確認し、そのまま恒温水槽の所定の位置に設置した。Xeランプのシャッターを開け、光照射を開始した時刻を反応開始時刻とした。
30分後に反応容器を光照射位置から外し、ガスタイトシリンジにより0.2mLのガスを採取し、ArガスをキャリアとするTCDガスクロ(モレキュラーシーブ13Xカラム)により、H2、O2、N2の分析を行った。また、Heガスをキャリアとするメタナイザー付きFIDガスクロによりCO2の分析を行った。その後、再び反応容器を軽く7〜8回振り混ぜ、30秒後には光触媒粒子が沈むのを確認した。そのまま恒温水槽の所定の位置に設置することによって光照射を再開し、30分間反応の後2回目のガス分析を行った。このようにして光照射下での反応を合計90分間行った。時間に対してH2発生量、CO2発生量、O2消費量が直線的に増加するのを確認し、その傾きからH2発生速度、CO2発生速度、O2消費速度を求めた。このようにして得られた反応結果を表1に示す。
(濁度の測定)
上記の測定を終了した試験容器について、反応液中への光触媒粒子の懸濁状況を濁度計(笠原理化学工業株式会社製 濁度・色度センサー TCR−30、ポリスチレン濁度標準)を用いて測定した。用いた濁度計による測定のためには約150mLの液量が必要であるため、反応液のうち1mLをサンプリングして水を加えて150mLに希釈(希釈率150)することにより実際の濁度測定を行った。以下、各実施例及び比較例においては、水で希釈後に濁度指示値として表示された値を「希釈濁度」とし、これに希釈率を乗じて反応液原水の濁度に換算した値を「濁度」とする。希釈率は、特に断らない限り、150で測定を行った。
実施例1の反応終了後の容器を軽く7〜8回振り混ぜ、30秒静置後に上澄み1mLをスポイトで採取して濁度測定用の容器に入れ、水149mLを加えて150mLとした。濁度計を検水中に入れ、指示値を読んだところ、指示値は0.55であった。光触媒を加えていないグリセリン溶液についても測定したところ、0.34の指示値であった。両値の差である0.21が光触媒粒子により生じた希釈濁度であり、これに希釈率の150を乗じた値である32が、実施例1の活性測定条件における濁度として求められた。
<比較例1>
実施例1と同じPt/TiO2の50mgを光触媒体とした。光触媒体として、全て中粒とする代わりに、中粒45mgと微粉5mgとの混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。濁度についても実施例1と同様に測定したところ、軽く7〜8回振り混ぜた後の濁度は、1680で、それから30分間静置後の濁度は、548であった。反応時は30分毎にガスサンプリングと反応管の振り混ぜを行っていることから、比較例1では、反応中の濁度は、548〜1680の間となっている。
Figure 2017159853
表1に示されるように、光触媒反応によるH2生成速度は、40μm以下の微粉を含まない実施例1では22.2μmol h-1であるのに対し、比較例1では40μm以下の微粉が混合されていることにより、15.6μmol h-1に減少した。H2以外に生成ガスとしては、犠牲剤であるグリセリンの完全酸化生成物であるCO2が検出された。以下の式で定義される、生成ガス中のH2選択率は、実施例1と比較例1とで大きな差はみられなかった。
2選択率(%)=H2生成速度/(H2生成速度+CO2生成速度)×100
グリセリンを犠牲剤として用いたPt/TiO2光触媒の水素生成反応では、H2とCO2が生じ、その比率は7:3になるとの従来報告がある。その場合のH2選択率は70%となるはずであるが、上記の例ではこれより20%近く高い。グリセリンの酸化生成物はCO2のみでなく、COHの一部がCHOやCOOHに部分酸化したようなものも生じていると思われる。O2消費速度は、微粉を混ぜることで2倍以上大きくなっており、一旦生成したH2がO2と逆反応してH2Oに戻る反応に使われたものとみられる。
<実施例2>
実施例1と同様に担持量0.3重量%のPt/TiO2光触媒体を調製し、粒径による分級を行った。光触媒反応において、撹拌を行ったこと以外は、実施例1と同様に、中粒50mgを用いて行った。撹拌はφ23×18mmのサイズの小型マグネチックスターラー(アズワン製 セルスター CS−101)を反応容器の側面に貼り付け、長さ10mmの撹拌子を反応容器側面で回転させることにより行った。光触媒体粒子が底に沈んだまま大きく動くことなくグリセリン水溶液のみを撹拌する条件となった。反応結果を表2に示す。
<比較例2>
光触媒体として、中粒45mgと微粉5mgの混合物を用いたこと以外は、実施例2と同様に行った。反応結果を表2に示す。
<比較例3>
光触媒体として微粉50mgを用い、実施例2で用いたのと同じ小型マグネチックスターラーを反応容器の底面にセットし、反応容器内の底面で長さ10mmの撹拌子を回転させることにより光触媒体の撹拌を行った。微粉である光触媒体は全量が底に沈むことなく十分に撹拌された。この状態で実施例2と同じキセノン光をミラーで90度曲げ、反応容器の側方から照射したこと以外は、実施例2と同様に反応を行った。反応結果を表2に示す。反応終了後に実施例1と同様にして、撹拌状態の懸濁液から1mLサンプリングして希釈濁度を測定したが、濁度計の指示値が測定範囲を超えてしまうため、0.1mLで再度サンプリングして希釈率1500で濁度を求めると17300となり、比較例1と比べても10倍以上大きな濁度になっていることが分かった。
Figure 2017159853
表2に示されるように、実施例2では、実施例1と比べて光触媒体の粒径はそのままでグリセリン水溶液のみを撹拌することによって更にH2発生速度が速くなった。しかしながら、比較例2のように、光触媒体として粒径が40μm以下の微粉を加えると、H2生成速度は大きく減少し、O2消費速度が増大した。このことから、比較例2においては、一旦生成したH2が空気中から溶存した酸素と反応して水に戻る逆反応が進行したものとみられる。さらに比較例3では、光触媒体として微粉のみを用い、激しく撹拌した懸濁状態とすることにより、H2生成は殆どみられなくなった。
比較例3の濁度条件は触媒体を40μm以下の粉に粉砕し完全分散させた時に相当するため、前述の濁度計を用いた濁度で定義した濁度比Rが100%に相当する。これを基準に表1の実施例1と比較例1のRを計算すると、実施例1ではR=0.18%で比較例1ではR=3.2〜9.7%であった。実施例1ではRは1%よりも十分小さく、光触媒のほとんどが沈降しており浮遊部分はごくわずかであることを示し、このような条件では高い水素生成速度を示している。比較例1のRは2%よりも大きく、水中に浮遊する光触媒の逆反応等への寄与が無視できず、水素生成速度が実施例1よりも大きく減ずる結果となった。
従来、犠牲剤を用いた光触媒による水素製造では微粉を用い懸濁状態で行われるため、不活性ガスによるガス置換を行わない場合は、比較例3と同様の状況となり、殆どH2が発生しないことが分かる。これに対して、実施例2のように、光触媒体の粒径を大きくして犠牲剤溶液のみを撹拌することによって、不活性ガス置換を行わずとも効率的なH2生成反応が可能であることが明らかとなった。
<実施例3>
実施例1と同様、担持量0.3重量%のPt/TiO2光触媒を調製し、粒径による分級を行った。光触媒反応は、大粒50mgを用いたことと、撹拌も振り混ぜも行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。反応結果を表3に示す。なお、実施例3以降の実施例4〜12においては、光触媒反応において、撹拌も振り混ぜも行わなかった。
<実施例4>
光触媒体として、中粒50mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に光触媒反応を行った。1時間後の反応結果を表3に示す。反応は、光照射下で5.5時間継続し、その後は光照射を止め、反応容器をアルミホイルで包んで光が当たらないようにして、光照射時と同じ20℃の恒温水槽中で暗条件におけるH2、O2の濃度変化を調べた。5.5時間の暗反応開始から、68.5時間までに3回のガス分析を行った。この結果を図1に示す。
<実施例5>
光触媒体として、小粒50mgを用いたこと以外は、実施例3と同様に光触媒反応を行った。反応結果を表3に示す。
Figure 2017159853
表3の結果から、光触媒体の粒径が小さい方がH2生成速度は大きくなるが、CO2生成も増加し、H2選択率はほぼ変わらないことが分かる。
<実施例6>
光触媒体としてAu/TiO2の中粒50mgを用いたこと以外は、実施例4と同様に光触媒反応を行った。Au/TiO2の調製は、実施例1と同様に光析出法で行い、金属源として塩化金酸水溶液(0.1mol/L)を0.240mL加えたこと以外は、実施例1と同じ条件とした。光触媒体の粒径による分級も、実施例1と同様に行った。1時間後の反応結果を表4に示す。反応は、光照射下で6時間継続し、その後は光照射を止めて実施例5と同様に暗条件下でのH2、O2の濃度変化を調べた。この結果を図2に示す。
<実施例7>
恒温水槽の温度を38℃としたこと以外は、実施例5の光照射時と同様にして、Pt/TiO2の中粒50mgによる光照射条件下での反応を行った。1時間後の反応結果を表4に示す。
<実施例8>
恒温水槽の温度を38℃としたこと以外は、実施例6の光照射時と同様にして、Pt/TiO2の中粒50mgによる光照射条件下での反応を行った。1時間後の反応結果を表4に示す。
Figure 2017159853
表4に示されるように、Pt/TiO2だけでなくAu/TiO2によっても、酸素存在下での水素製造が可能であることがわかる。また、H2生成速度は、温度を上げることにより倍以上に速くなった。この結果から、例えば太陽光等の照射により水温が上がった場合には、水素製造の効率が向上することが分かる。また、PtとAuを比較すると、いずれの温度においてもPt/TiO2の方が、H2生成速度が大きかった。また、H2選択率については、PtとAuで大きな差は見られなかった。O2消費量については、20℃ではPtの方が少ないが、38℃では逆転し、Auの方が少なくなった。
図1及び図2のグラフから、Pt/TiO2、Au/TiO2の何れについても、光照射している約6時間の間は、およそ直線的にH2発生量が増加した。酸素の存在下であっても継続的な水素製造が可能になっていることが分かる。また、光照射を止めて暗条件にすると、何れの光触媒についても生成水素の分解が起こった。その速度には、PtとAuで大きな違いがあり、Au/TiO2ではPtTiO2に比して、H2が分解しにくいことが明らかである。例えば、太陽光の照射による水素製造を想定した場合、曇りの日や夜間には暗条件に近くなるため、Au/TiO2は、太陽光を利用した水素製造に特に適していることが分かる。
次に暗条件における酸素の消費量に着目すると、Pt/TiO2については、H2減少と同時に、O2が消費されている傾向が明らかである。その量比はおよそ2:1であることから、以下に示す水分解水素生成の逆反応が起こっていると思われる。
2+(1/2)O2 → H2
不活性ガス中の光触媒水分解に関する先行文献の指摘から、逆反応はPt表面で起こると考えられる。実施例の条件では、光触媒体は水底に沈んでいるため、まず水中の溶存H2とO2が逆反応して水になり、溶存H2とO2濃度が下がると気相から少しずつ水中に溶解して分解が進むものと考えられる。これに対し、Au/TiO2では、光照射中のO2の消費量はPt/TiO2よりも明らかに多いが、暗条件では殆ど増加しない。Au/TiO2では、光照射の有無に拘わらずH2とO2の逆反応は起こりにくく、光照射時においては犠牲剤が光触媒酸化されて、グリセリンのCOHの一部がCHOやCOOHになるような反応がPt/TiO2よりも更に進みやすいものと考えられる。
<実施例9>
実施例1と同じPt/TiO2の中粒100mgを光触媒体とし、犠牲剤水溶液として、グリセリン水溶液の代りにメタノール水溶液(50容積%)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして光触媒反応を行った。結果を表5に示す。
<実施例10>
実施例6と同じAu/TiO2の中粒50mgを光触媒体とし、犠牲剤水溶液として、グリセリン水溶液の代りにグルコース水溶液(0.5重量%)を用いたこと以外は、実施例3と同様に光触媒反応を行った。結果を表5に示す。
Figure 2017159853
表5に示したように、犠牲剤としてグリセリン以外にメタノール、グルコースを用いても、空気中での水素製造が可能であることが分かった。
<実施例11>
実施例1と同様の方法で調製したPt/TiO2の小粒50mgを用い、反応液にグリセリン5.0重量%水溶液5.0mLを用いたこと以外は、実施例3と同様に光触媒反応を行った。実施例1〜10と同様、反応前に不活性ガスによるバブリングは行っておらず、気相の初期酸素濃度は20.9%であることが反応前のガスクロマトグラフィー分析で明らかになっている。反応結果を表6に示した。
<実施例12>
反応前にN2ガスバブリングを30分間行ったこと以外は、実施例11と同様に光触媒反応を行った。反応前のガスクロ分析から気相酸素濃度は0.28体積%であり、実施例11の約75分の1の酸素量である。反応結果を表6に示す。
Figure 2017159853
表6に示したようにいずれの条件でもH2が生成し、気相酸素濃度が約0.3及び21体積%の何れでも水素製造が可能である。実施例12と比較し、実施例11では気相酸素量は75倍であるが、1時間後のO2消費量は殆ど増えず、CO2の生成も増えないため、H2選択率はほぼ一定である。本発明の水素の製造方法は、幅広い酸素濃度範囲において、適用可能であることが示された。
<実施例13>
本実施例では、実施例3と同様に空気下のグリセリン水溶液に粒状のPt/TiO2を加え光照射による水素生成反応を行ったが、光触媒の調製方法、Xeランプ光源装置からの光照射方法、犠牲剤であるグリセリン水溶液の濃度が実施例3とは異なっている。Pt/TiO2(Pt担持量0.3wt%)の調製は含浸法により行った。酸化チタン粉末(日本アエロジル製 P25)5.0gを水10mLに加え、ペースト状にした。混ぜ合わせながら少しづつ塩化白金酸水溶液(0.1mol/L)を0.77mL加え、40℃で加熱して水分を除去し乾燥させたところ、塊となった。これを乳鉢で粉砕しながら一部を40〜125μmにふるい掛けし、400℃で1時間空気焼成して酸化白金/酸化チタンを得た。ここにPt量の20倍に相当するモル量のNaBH4水溶液(0.1mol/L)を加えて酸化白金を白金に液相還元し、水洗、吸引ろ過の後、100℃で乾燥し、実施例1に示した方法で40μm以下の微粉を除去した小粒とした。このようにして得られたPt/TiO2光触媒50mgを反応に用いた。実施例1と同じXeランプ光源装置を用い、電流値を25Aに設定した出力光を石英ガラスァイバーを用いて直上に曲げ、恒温水槽中のバイアル瓶に対し石英ガラスァイバー先端の平行レンズを通し下方から照射されるようにした。グリセリン10重量%水溶液5mLを反応液に用い、その他の反応条件は実施例3と同様にして、空気下のグリセリン溶液からの光触媒水素生成反応を行った。反応結果を表7に示す。
<実施例14>
本実施例では、実施例13と同様に調製したPt/TiO2光触媒体を用いて、反応液はグリセリン10重量%に加え、塩化ナトリウム3.5重量%を含む溶液からの光触媒水素生成反応を行った。溶液組成以外の反応条件は実施例13と同じである。反応結果を表7に示す。
<実施例15>
本実施例では、実施例13と同じPt/TiO2光触媒体を用いて、トリエタノールアミン水溶液を犠牲剤として反応を行った。トリエタノールアミン水溶液は12重量%で調製し、塩酸を加えてpH7.0にしたものを用いた。その他の反応条件は実施例13と同様に光触媒水素生成反応を行った。
Figure 2017159853
表7に示したようにいずれの条件でもH2が生成し、含浸法で調製したPt/TiO2も水素製造に有用に用いることが出来る。含浸法では光析出法に比べて一度に多量の調製を行いやすい利点がある。
また実施例14の結果が示すように海水と同じ3.5wt%濃度の塩化ナトリウムを含み、更に溶存酸素を含む水からでもグリセリン犠牲剤によって水素製造が可能である。また実施例15から、メタノールやグリセリン等のアルコール類以外にも、アミン類などの電子供与性犠牲剤が有効に働くことが示された。
<実施例16>
本実施例では、粉末Au/TiO2を圧縮成形してペレット化した光触媒体により反応を行った例を示す。粉末Au/TiO2にはWorld Gold Councilが以前提供していたGold Reference CatalystのTypeA相当品を用いた。この金触媒の物性については文献(粉体技術、Vol.1,No.12,pp.65−71)等に記載がある。このAu/TiO2粉末60mgとグルコース40mgを乳鉢中に入れ、すりつぶしながら良く混合し、ハンドプレスで圧縮成形してペレットの形状とした。電気炉で350℃30分間空気焼成し、有機バインダーとして加えたグルコースを燃焼除去してAu/TiO2ペレット1枚を得た。得られたペレットは直径1cm、厚さ約1mmの円盤状で、50mgの重量のものが得られた。反応容器や光照射は実施例3と同様にして反応を行った。Au/TiO2ペレットを反応容器のビン底に直接寝かせて入れると、ペレットの下側に水素の気体が溜まってしまうことがわかったため、あらかじめビン底に外形12mm、内径5mm、厚さ5mmのテフロンリングを寝かせ入れ、そこにAu/TiO2ペレット1枚を斜めに立てかけた。他は実施例3と同条件にて反応を行った。反応結果を表8に示す。
<実施例17>
シリカゲル(SiO2)を多孔質担体として光触媒成分である酸化チタン(TiO2)を担持したTiO2/SiO2に、さらに光析出法でPtを担持したPt/TiO2/SiO2を光触媒体として用い反応を行った。TiO2/SiO2として市販品(光触媒シリカゲルHQC21,新東Vセラックス(株)製、現在は販売停止)を用いた。この触媒体の物性については文献(塗料と塗装、2004年3号、pp.15−19)に記載されており、TiO2担持量は約20%である。形状は1.7−4.0mmのビーズ状であるが、乳鉢で粉砕し125〜300μmの粒状にふるい掛けして用いた。300mLのセパラブルフラスコに攪拌子とメタノール50体積%の水溶液を150mL入れ、上記の粒状TiO2/SiO2を1.5g加えた。ここに、塩化白金酸水溶液(0.1mol/L)を0.240mL加え、セパラブルフラスコに接続したPFAチューブを通じアルゴンガスを30分間バブリングした後、コックを閉じて容器を密閉した。次に撹拌(約500rpm)しながら、100W高圧水銀ランプ(SEN特殊光源(株)製 HL100G)の光を側方から2時間照射した。この際にTiO2/SiO2の粒を壊さないようにするため、攪拌子をフィッシュクリップで液中に保持し、撹拌子がフラスコ底面に接触しない状態でマグネチックスターラーにより攪拌した。反応終了後は、吸引ろ過、水洗し、100℃で乾燥しPt/TiO2/SiO2触媒体を得た。白金の担持量は触媒体の全重量に対し0.3重量%であった。調製した光触媒体200mgを用い、犠牲剤溶液として10重量%のグリセリン水溶液5mLを用いた他は、実施例13と同様に反応を行った。反応結果を表8に示す。
<実施例18>
本実施例では酸化チタンとは異なる光触媒物質であるチタン酸ストロンチウムに金を担持して反応に用いた例を示す。チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)は、市販の試薬(和光純薬、品番358−36462)を125−300μmに篩がけして用いた。金の担持には、金ヒドロキソ錯体溶液を用いた担持法(特許第5740658号)を用いた。PFAシャーレに酸化ストロンチウム1.0gを量り取り、金ヒドロキソ錯体溶液6.0mLを加え、蒸発乾固させた後、るつぼに入れ350℃で1時間空気焼成し、金ナノ粒子を生成させた。これを蒸留水で繰り返し洗浄して錯体溶液中の過剰の炭酸ナトリウムを除去し、ろ過の後100℃で乾燥して金担持チタン酸ストロンチウム(Au/SrTiO3)を得た。金の担持量は0.3重量%であった。調製した光触媒50mgを用い、犠牲剤溶液として10重量%のグリセリン水溶液5mLを用いた他は、実施例13と同様に反応を行った。反応結果を表8に示す。
<実施例19>
本実施例では、酸化チタン以外の光触媒物質である酸化ガリウムを用いて反応を行った。酸化ガリウムは酸化チタンよりも短波長の光(250nm付近)を吸収するため、光源及び反応容器を考慮した。硝酸ガリウムn水和物(キシダ化学630−33702)1.5gをるつぼに入れ、空気中で500℃で2時間熱分解を行い酸化ガリウムを得た。得られた固体を粉砕し篩がけして40〜125μmの粉末とし、一部を水に分散させた時の沈降速度から40μm以下の微粉が含まれないことを確認した。光析出法による白金の担持は以下のように行った。50mLのフラスコに攪拌子とメタノール50体積%の水溶液を25mL入れ、酸化ガリウム粉末を50mgを加えた。ここに、塩化白金酸水溶液(0.01mol/L)を25.7μLを加え、フラスコの液面上方に付けたシリコンセプタムに注射針を2本刺し、一方は液中に入れアルゴンガスをバブリングし、もう一方の針は液面上の気相をフラスコ外に排出できるようセットした。30分間バブリングした後、コックを閉じて容器を密閉した。次に、フラスコ上部にセットした小型モーター撹拌機(東京理化器械、SPZ−1000)を用いて撹拌(約300rpm)しながら、100W高圧水銀ランプ(SEN特殊光源(株)製 HL100G)の光を下方から60分間照射し水素の生成を確認した。反応終了後は、沈殿を吸引ろ過、水洗し、100℃で乾燥し白金担持酸化ガリウム(Pt/Ga23)を得た。白金の担持量は0.1重量%であった。次にグリセリンを犠牲剤とする空気下での光触媒反応を行った。UV−VISスペクトル測定用の石英セル(GLサイエンス製、S15−UV−10、内容積4.95mL)に、調製したPt/Ga23光触媒10mgを入れ、10重量%濃度のグリセリン水溶液1mLを加え密栓した。セルを横置きにして、透明面の下方から100W高圧水銀ランプの光を照射し、10分ごとにセプタムから気相のガスを採取してガスクロで分析した。反応結果を表8に示す。
Figure 2017159853
表8に示されるように、光触媒体は必ずしも粒状である必要は無く、ペレット1枚から成る一体型触媒体でも水素製造を行うことができる。また、Pt/TiO2光触媒がSiO2多孔質体に担持されたPt/TiO2/SiO2も水素を生成していることから、一体型多孔質体に光触媒を担持することで一体型光触媒体も有効に作動することが期待される。また、実施例18,19はTiO2以外の光触媒物質を用いた場合も、AuやPtを担持し、40μm以下の微粉を含まない粒状で使用することにより、空気中の貯水から水素製造が可能であることを示している。

Claims (6)

  1. 犠牲剤を含む水溶液中に浸漬されており、沈降法による石英相当径が40μm以下の粒子を含まない光触媒体に対して、光を照射する工程を備える、水素の製造方法。
  2. 前記水溶液中の溶存酸素濃度が、16ppm以下である、請求項1に記載の水素の製造方法。
  3. 前記水溶液が、酸素濃度30体積%以下の気相と接している、請求項1または2に記載の水素の製造方法。
  4. 前記犠牲剤が、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を有する化合物を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の水素の製造方法。
  5. 前記光触媒体が、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、及び金属セレン化物からなる群より選択された少なくとも1種の光触媒物質を含んでいる、請求項1〜4のいずれかに記載の水素の製造方法。
  6. 前記光触媒体が、前記光触媒物質の表面に助触媒が担持された構成を備えている、請求項1〜4のいずれかに記載の水素の製造方法。
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