JPWO2017150679A1 - セレノネインの分離方法 - Google Patents

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Abstract

本発明の目的は、有機溶媒を用いることなく、セレノネインを含む原料素材から効率良くセレノネインを分離する方法を提供することにある。本発明は、セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、逆浸透膜処理に供することを含む、セレノネインの分離方法に関する。

Description

本発明は、セレノネインの分離方法に関するものである。
強力な抗酸化物質であるセレノネインは、がん、心臓病、免疫疾患、2型糖尿病等の生活習慣病や老化の予防に寄与すると考えられ、機能性食品、化粧料、飼料、試薬等への応用が期待されている。
セレノネインは、イカ類、魚類、鳥類、ほ乳類の組織等に多く含まれ、当該組織等からセレノネインを分離・抽出する方法として、従来、メタノールやアセトニトリル等の有機溶媒を用いる方法が報告されているが(例えば、特許文献1等)、機能性食品や化粧料等として生体に摂取・使用される際の安全性向上と製造コスト低減の観点から、有機溶媒を用いずに、水や食品添加物を用いてセレノネインを効率良く分離・精製する方法が求められていた。
特開2011−121914号公報
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、有機溶媒を用いることなく、セレノネインを含む原料素材から効率良くセレノネインを分離する方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、逆浸透膜処理の手法を利用することにより、セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物から、有機溶媒を用いずに、効率良くセレノネインを分離し得ることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、逆浸透膜処理に供することを含む、セレノネインの分離方法。
[2]セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を逆浸透膜処理に供して単量体を含有する透過画分を回収することを含む、[1]記載の方法。
[3]前記透過画分を逆浸透膜処理に供して、単量体から形成された酸化二量体を含有する非透過画分を回収することを含む、[2]記載の方法。
[4]逆浸透膜処理の透過画分及び/又は非透過画分を、強酸性陽イオン交換樹脂に接触させることを含む、[1]〜[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]前記抽出物を、逆浸透膜処理の前に、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、シリカゲル及び合成吸着樹脂からなる群から選択される少なくとも一つに接触させることを含む、[1]〜[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6]前記抽出物が、珪藻土、酸性白土、活性白土、シリカゲル及び活性炭からなる群から選択される少なくとも一つのろ過材を用いて得られたものである、[1]〜[5]のいずれか一つに記載の方法。
[7]前記抽出物に、逆浸透膜処理の前に、ウレアーゼ及び/又はプロテアーゼを添加することを含む、[1]〜[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8]前記抽出物に、逆浸透膜処理の前に、フォスファターゼを添加することを含む、[1]〜[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9]水系溶媒が、水である、[1]〜[8]のいずれか一つに記載の方法。
[10]原料素材が、水産加工残滓である、[1]〜[9]のいずれか一つに記載の方法。
本発明によれば、有機溶媒を用いることなく、セレノネインを含む原料素材から効率良くセレノネインを分離することができる。
また本発明によれば、セレノネインを含む原料素材が、有害元素であるメチル水銀を含む水産加工残滓等であっても、メチル水銀を除去してセレノネインを分離することができる。
実施例2における、NF膜を用いた逆浸透膜処理の透過画分のHPLC−ICP−MS分析によるクロマトグラムである。
本発明のセレノネインの分離方法(以下、単に「本発明の方法」とも称する)は、セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、逆浸透膜処理に供することを主たる特徴とする。
本発明において「セレノネイン」とは、式(I)で表される化合物(3−(2−hydroseleno−1H−imidazol−5−yl)−2−(trimethylammonio)propanoate)、及び、その互変異性体である式(II)で表される化合物(3−(2−selenoxo−2,3−dihydro−1H−imidazol−4−yl)−2−(trimethylammonio)propanoate)、並びに、これらの二量体である式(III)で表される化合物(3,3'−(2,2’−diselanediylbis(1H−imidazole−5,2−diyl))bis(2−(trimethylammonio)propanoate))の総称である。
本発明において、式(I)で表される化合物を「セレノール型単量体」と称し、式(II)で表される化合物を「セレノケトン型単量体」と称し、式(III)で表される化合物を「セレノネインの酸化二量体」又は単に「酸化二量体」と称する場合がある。またセレノール型単量体とセレノケトン型単量体とをまとめて、「セレノネインの単量体」又は単に「単量体」と称する場合がある。
本発明の方法において用いられる原料素材は、セレノネインを含むものであれば特に制限されないが、例えば、魚介類(例えば、マグロ類、ゴマサバ等のサバ類、サワラ類、サケ、ブリ類、キンメダイ等の魚類;スルメイカ等のイカ類等)、鳥類(例えば、家禽等)、ほ乳類(例えば、家畜、鯨類等)等の動物の組織(例えば、脾臓、肝臓、膵臓、心臓等の内臓、血液、頭部、筋肉、可食部等);植物の組織;微生物の組織;化学合成品;発酵生成物等が挙げられ、中でも、セレノネインを豊富に含むことから、水産加工残滓(例えば、魚介類や鯨類の内臓、血液、筋肉、頭部、可食部、中骨等)を用いることが好ましい。
本発明の方法において用いられ得る水産加工残滓の具体例としては、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチ、ビンナガ等のマグロ類やカツオ類、サバ類、サワラ類、ブリ類、キンメダイの筋肉(例えば、血合肉等)、血液、頭部、内臓(例えば、脾臓、肝臓、膵臓、心臓等)、イカ類の内臓;鯨肉(例えば、コビレゴンドウクジラの赤身肉等)等が挙げられる。
原料素材に含まれるセレノネインの量は特に制限されないが、原料素材に対して、通常1ppm以上であり、好ましくは2ppm以上であり、より好ましくは5ppm以上である。原料素材に含まれるセレノネインの量は多いほど好ましく、その上限は特に制限されないが、原料素材に対して、通常100ppmである。
本発明において、原料素材に含まれるセレノネインの量は、特開2011−121914号公報に記載の方法に従って、2,3−ジアミノナフタレン(DAN)を用いる蛍光法又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)カラムを用いる高速液体クロマトグラフィー−誘導結合プラズマ質量分析法(HPLC−ICP−MS分析法)により測定される。
本発明の方法において用いられる原料素材は乾燥品であってよい。また原料素材の形態は特に制限されず、例えば、粉末状、冷蔵状態及び冷凍状態等であってよい。
本発明の方法において用いられる「セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物」とは、水系溶媒を抽出溶媒とする、セレノネインを含む原料素材の抽出物をいう。当該抽出物は、セレノネインを含む原料素材と水系溶媒とを用い、既知の方法又はこれに準ずる方法を適宜組み合わせて調製すればよく、抽出溶媒として有機溶媒を用いないこと以外は特に制限されないが、例えば、セレノネインを含む原料素材に対して、等重量から10倍重量程度の水系溶媒(例えば、水等)を加えてホモジナイズしたのち、遠心分離するか、又はろ紙や紙タオル、布等でろ過することによって調製できる。タンパク質を変性させて抽出効率を高めるため、原料素材に水系溶媒を加えた後、沸騰条件(100℃)や高圧蒸気滅菌器(例えば、121℃等)等で加熱してもよい。
セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物の調製に用いられる水系溶媒としては、例えば、水等が挙げられる。水の具体例としては、脱イオン水、ミネラルウォーター、超純水、逆浸透ろ過水、海水、水道水、炭酸水等が挙げられる。
セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物の調製は、ろ過材を用いて行うことが好ましい。ろ過材を用いることにより、タンパク質、脂質、ヘム鉄等の不純物を効率良く取り除くことができる。ろ過材の具体例としては、珪藻土、酸性白土、活性白土、シリカゲル及び活性炭等が挙げられ、褐変物質であるヘム鉄の除去に効果的であることから、好ましくは酸性白土、活性白土またはシリカゲルである。これらのろ過材は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。ろ過材の使用態様は特に制限されないが、通常、水系溶媒(例えば、水等)が加えられてホモジナイズされた原料素材を遠心分離又はろ過に供する際に、当該原料素材に添加されて用いられる。ろ過材の添加量は、ろ過材の種類や原料素材の量等に応じて適宜調整すればよいが、原料素材に対して、通常0.1〜15重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。
セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物は、逆浸透膜処理の前に、ウレアーゼ及び/又はプロテアーゼを添加してよい。ウレアーゼを添加することにより、水系溶媒抽出物に含まれる尿素を分解して除去し得る。ウレアーゼの添加量は、原料素材に対して、通常0.001〜3重量%であり、好ましくは0.01〜1重量%であり、より好ましくは0.05〜0.2重量%である。またプロテアーゼを添加することにより、水系溶媒抽出物に含まれる可溶性タンパク質を分解して除去し得る。プロテアーゼの添加量は、原料素材に対して、通常0.001〜3重量%であり、好ましくは0.01〜1重量%であり、より好ましくは0.1〜0.5重量%である。プロテアーゼは、可溶性タンパク質の分解処理後、80℃以上に加熱して失活させ得る。プロテアーゼの添加は、例えば、プロテアーゼを含有する酵素製剤(例、パンクレリパーゼ、プロナーゼ等)等を用いて行い得る。
セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物は、逆浸透膜処理の前に、フォスファターゼを添加してよい。フォスファターゼを添加することにより、水系溶媒抽出物に含まれるリン酸化糖からリン酸を除去し、セレノネインがリン酸化糖と複合体を形成することを抑制し得るため、セレノネインの純度を高めることができる。本発明において用いられるフォスファターゼは、リン酸化糖からリン酸を除去し得るものであれば特に制限されず、酸性フォスファターゼ及びアルカリ性フォスファターゼのいずれも使用し得るが、セレノネインはpH8以上で分解するので、pH8未満で脱リン酸化することが望ましく、またフォスファターゼの活性のpH依存性の観点から、酸性フォスファターゼが好ましい。フォスファターゼの添加量は、原料素材に対して、通常0.001〜3重量%であり、好ましくは0.01〜1重量%であり、より好ましくは0.1〜0.3重量%である。フォスファターゼは、単独で水系溶媒抽出物に添加してよく、あるいは、上述のウレアーゼ及び/又はプロテアーゼと併せて水系溶媒抽出物に添加してもよい。
セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物は、逆浸透膜処理の前に、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、シリカゲル及び合成吸着樹脂からなる群から選択される少なくとも一つに接触させてよく、これらの全てに接触させることが好ましい。これらの樹脂及びシリカゲルの少なくとも一つとの接触により、水系溶媒抽出物に含まれるヘム、塩類、色素、脂質等の不純物が除去され得る。合成吸着樹脂は、イオン交換基を有しないものであれば特に制限されないが、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着樹脂、アクリル系合成吸着樹脂等が挙げられ、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着樹脂が好ましい。スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着樹脂の具体例としては、セパビーズHP20、セパビーズSP207(三菱化学社製)等が挙げられる。
セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、シリカゲル及び合成吸着樹脂からなる群から選択される少なくとも一つと接触させる方法は特に制限されないが、これらの樹脂及びシリカゲルの少なくとも一つをカラムに充填し、これに水系溶媒抽出物を通液するカラム方式が好ましい。セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、シリカゲル及び合成吸着樹脂からなる群から選択される少なくとも二つ以上(好ましくは全て)に接触させる場合は、例えば、陽イオン交換樹脂を充填したカラム、陰イオン交換樹脂を充填したカラム、シリカゲルを充填したカラム及び合成吸着樹脂を充填したカラムの少なくとも二つ以上(好ましくは全て)を直列に連結し、これに水系溶媒抽出物を通液すればよい。この場合、連結するカラムの順序は特に制限されず、適宜入れ替えることができる。陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂は混合して、同一のカラムに充填してもよい。また不溶化した微粒子が発生する場合は、マイクロポアフィルターに水系溶媒抽出物を通液することにより、微粒子を除去し得る。陽イオン交換樹脂として、後述の「強酸性陽イオン交換樹脂」を用いてもよい。
本発明において「逆浸透膜処理」とは、溶質濃度が異なる溶液(又は、溶液と純溶媒)を、溶媒を透過し溶質を透過しない半透膜(逆浸透膜)で仕切り、高濃度溶液側(又は、溶液側)に浸透圧差以上の圧力を加えて、高濃度溶液側から低濃度溶液側へ(又は、溶液側から純溶媒側へ)溶媒を透過させることにより、溶液から溶質を分離させる処理をいう。
セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物には、通常、単量体及び酸化二量体の両方が含まれ、単量体は主にヘム、エルゴチオネイン、尿素等と結合して包摂化合物を形成していると推定されるが、これを逆浸透膜処理に供することより、包摂化合物から単量体を解離させることができ、セレノネインを純度良く分離することができる。また逆浸透膜処理により、セレノネインを効率良く濃縮できる。
本発明の方法において用いられる逆浸透膜は、セレノネインの単量体は透過するが、酸化二量体の透過性は低く、非透過画分において酸化二量体を濃縮し得るものが好ましい。
本発明の方法において用いられる逆浸透膜の分画分子量は、好ましくは100〜1000であり、より好ましくは300〜500である。
本発明の方法において用いられる逆浸透膜のNaCl阻止率は、好ましくは30〜99.9%であり、より好ましくは50〜90%である。
本発明の方法において用いられる逆浸透膜の孔径は、通常2ナノメートル以下である。
本発明の方法において用いることのできる逆浸透膜の具体例としては、海水淡水化用のろ過膜;脱塩や食品エキスの製造に主に用いられるナノフィルトレーション(NF)膜等が挙げられる。イオンや塩類の阻止率が70%以下の阻止率の低いNF膜を用いてもよい。これらの逆浸透膜は、1種を単独で用いても、2種以上を結合して用いてもよい。
海水淡水化用のろ過膜とは、NaCl阻止率が99%以上である逆浸透膜をいい、例えば、CSM−2540SR(Woongjin Chemical社製)、DOW FILMTEC(登録商標) SW30(The Dow Chemical Company製)等が挙げられる。
NF膜とは、分画分子量が200〜100である逆浸透膜をいい、例えば、NF 50% Rejection Membrane(M−N2521A5、Applied Membranes, Inc.製)、NF 90% Rejection Membrane(M−N2521A9、Applied Membranes, Inc.製)、DOW FILMTEC(登録商標) NF270(The Dow Chemical Company製)及びDOW FILMTEC(登録商標) NF90(The Dow Chemical Company製)等が挙げられる。
本発明の方法において用いられる逆浸透膜の材質は特に制限されないが、例えば、酢酸セルロース系、芳香族ポリアミド系、ポリベンツイミダゾロン系、ポリアクリロニトリル系、ポリスルホン系及びこれらの複合膜等が挙げられる。
本発明の方法において用いられる逆浸透膜の形状は特に制限されないが、例えば、スパイラル型、チューブラー型、キャピラリー型、中空糸型、平膜型等が挙げられる。
逆浸透膜処理のろ過圧は、通常0.1〜1.6MPaであり、好ましくは0.2〜0.5MPaである。
本発明の方法における逆浸透膜処理の実施態様は特に限定されず、目的に応じて、逆浸透膜の種類、逆浸透膜処理の回数、回収する画分等を適宜選択し得る。
例えば、本発明の方法における逆浸透膜処理の一態様として、セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、逆浸透膜処理に供して単量体が溶出した透過画分を回収した後、当該透過画分を逆浸透膜処理に再び供して酸化二量体が濃縮された非透過画分を回収することができる。逆浸透膜処理により、包摂化合物から解離して透過画分に溶出した単量体は、速やかに空気酸化されて、酸化二量体を形成するため、透過画分を、酸化二量体の透過性が低い逆浸透膜を用いた逆浸透膜処理に再び供することにより、その非透過画分において酸化二量体を濃縮することができる。本態様のように少なくとも2回以上の逆浸透膜処理を行うことにより、逆浸透膜に対して透過性が低い不純物(例えば、アミノ酸、ペプチド類、尿素等)及び逆浸透膜に対して透過性が高い不純物(例えば、塩類、アミン類等)の両方を除去でき、純度の高いセレノネインを得ることができる。
セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物は、逆浸透膜処理の前に、還元剤等を用いて還元処理を施してよい。酸化二量体は還元されると単量体に解離するため、還元処理された水系溶媒抽出物を、単量体を透過する逆浸透膜を用いた逆浸透膜処理に供することにより、より多量の単量体を含む透過画分を得ることができる。本発明の方法において用いられる還元剤は特に制限されないが、例えば、システイン、シスチン、グルタチオン、亜硫酸塩(例、亜硫酸ナトリウム等)、シュウ酸等が挙げられる。
非透過画分において酸化二量体を濃縮する場合、例えば、海水淡水化用のろ過膜を用いることにより、食品エキス等に含まれる成分(例、アミノ酸、ペプチド、エルゴチオネイン、塩分、糖質、核酸等)とともに、酸化二量体を濃縮でき、あるいは、NF膜を用いることにより、食塩、アンモニウム塩、酢酸、アミノ酸、尿素等を膜透過させて除去しつつ、酸化二量体を濃縮できる。食塩等を膜透過させて除去しつつ、酸化二量体を濃縮する場合、逆浸透膜処理の前に、セレノネイン溶液を精製水で希釈しておくことにより、食塩等を十分に除去し得る。
本発明の方法における逆浸透膜処理の実施態様は、上述の態様に限定されず、例えば、セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、逆浸透膜処理に供して単量体が溶出した透過画分を回収した後、当該透過画分を逆浸透膜処理に供して、透過画分を再度回収することにより、単量体と包摂化合物を形成しているヘム、エルゴチオネイン、尿素等の不純物をより一層除去することができる。また、セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、逆浸透膜処理に供して、食品エキスに含まれる成分とともに酸化二量体が濃縮された非透過画分を回収した後、当該非透過画分を再び逆浸透膜処理に供して、食塩等を膜透過させて除去しつつ、酸化二量体が濃縮された非透過画分を回収してもよい。あるいは、セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、逆浸透膜処理に供して、単量体が溶出した透過画分及び酸化二量体が濃縮された非透過画分をそれぞれ回収した後、当該透過画分及び非透過画分を混合し、得られた混合物を逆浸透膜処理に再び供して酸化二量体が濃縮された非透過画分を回収してもよい。透過画分に溶出した単量体は、速やかに空気酸化されて、酸化二量体を形成するため、当該透過画分を、酸化二量体が濃縮された非透過画分と混合し、得られた混合物を、酸化二量体の透過性が低い逆浸透膜を用いた逆浸透膜処理に再び供することにより、その非透過画分において多量の酸化二量体を濃縮することができる。
本発明の方法は、セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を逆浸透膜処理(好ましくは、海水淡水化用のろ過膜及び/又はNF膜を用いた逆浸透膜処理)に供して透過画分及び/又は非透過画分を回収することを含むことが好ましく、当該透過画分及び/又は非透過画分を逆浸透膜処理(好ましくは、海水淡水化用のろ過膜及び/又はNF膜を用いた逆浸透膜処理)に供して透過画分及び/又は非透過画分を回収することを更に含むことが、より好ましい。本発明の方法は、セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を逆浸透膜処理(好ましくは、海水淡水化用のろ過膜及び/又はNF膜を用いた逆浸透膜処理)に供して単量体を含有する透過画分を回収すること、及び、当該透過画分を逆浸透膜処理(好ましくは、海水淡水化用のろ過膜及び/又はNF膜を用いた逆浸透膜処理)に供して、単量体から形成された酸化二量体を含有する非透過画分を回収することを含むことが、特に好ましい。
逆浸透膜処理により分離されたセレノネインは、適宜、精製処理を施してよい。当該精製処理は、既知の方法又はこれに準ずる方法を適宜組み合わせて行い得、その方法は特に制限されないが、例えば、セレノネインをイオン交換樹脂に接触させる方法等が挙げられる。イオン交換樹脂としては、例えば、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、逆相HPLCカラム等を用いることができるが、中でもセレノネインが結合でき、高純度のセレノネインに製造に有効であることから、強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。ここで「強酸性陽イオン交換樹脂」とは、強酸性官能基(例、スルホン酸基等)を有する陽イオン交換樹脂をいい、具体例としては、ダウエックス50W(和光純薬工業社製)、IR120B(オレガノ工業社製)等が挙げられる。セレノネインを、イオン交換樹脂と接触させる方法は特に制限されないが、イオン交換樹脂(好ましくは、強酸性陽イオン交換樹脂)をカラムに充填し、これに逆浸透膜処理により分離されたセレノネインを含む溶液を通液する方式が好ましい。イオン交換樹脂として強酸性陽イオン交換樹脂を使用する場合、その平衡化は10〜50mM塩酸等を用いて行うことができ、また吸着したセレノネインは、アンモニウム塩(例、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、塩化アンモニウム等)で溶出し得る。
逆浸透膜処理により分離されたセレノネインは、ゲルろ過クロマトグラフィーや逆相高速液体クロマトグラフィー等によって精製してもよい。セレノネインをゲルろ過クロマトグラフィーによって精製する場合、ゲルろ過担体としては、例えば、セファデックスG−15、セファロースS−100(GEヘルスケア社製)、Ultrahydrogel 120(Waters社製)等が利用できる。ゲルろ過カラムは0.1%酢酸又は塩酸で平衡化し得、当該溶媒を用いて分離すればよい。セレノネインを逆相高速液体クロマトグラフィーによって精製する場合は、例えば、0.05〜10%酢酸で平衡化した逆相カラム等を使用できる。セレノネインは逆相カラムに吸着せず、カラムの平衡化及び洗浄は0.1〜50%酢酸を用いて行い得る。
逆浸透膜処理により分離されたセレノネインは、例えば、減圧濃縮や限外ろ過等によって更に濃縮してよく、また減圧乾燥や凍結乾燥等を施して粉末化してもよい。
本発明の方法により分離されたセレノネイン濃縮物は、固形物1kg当たりのセレン重量が、0.1〜1000mgであることが好ましく、1〜500mgであることがより好ましい。
本発明において、固形物1kg当たりのセレン重量は、DANを用いる蛍光法又はGPCカラムを用いるHPLC−ICP−MS分析法により測定される。
分離されたセレノネインは、乾燥時のセレン含量が、1〜1000mg/kgであることが好ましく、10〜500mg/kgであることがより好ましい。
本発明において、乾燥時のセレン含量は、DANを用いる蛍光法又はGPCカラムを用いるHPLC−ICP−MS分析法により測定される。
本発明の方法は、セレノネインを含む原料素材が、メチル水銀を含む水産加工残滓等である場合でも、メチル水銀を除去してセレノネインを分離することができる。本発明の方法によって分離されたセレノネイン濃縮物におけるメチル水銀の含有量は、通常1ppm以下であり、好ましくは0.1ppm以下である。
本発明において、セレノネイン濃縮物におけるメチル水銀の含有量は、特許第5248841号に記載の方法に従って、測定試料を湿式加熱分解した後、冷蒸気原子吸光分析法に基づき、水銀測定装置(例えば、HG−310型、平沼産業株式会社製)を用いて測定される。
本発明の方法によって分離されたセレノネインは、有機溶媒を用いることなく得られたものであるため、例えば、食品(例、機能性食品等)、栄養補助剤、食品添加物、飼料、飼料添加物、医薬、動物用医薬、医薬品添加物、化粧料、化粧料添加物、試薬等として好適に利用し得る。
本発明の方法によれば、セレノネイン濃縮物を得ることができる。従って、本発明の方法は、セレノネイン濃縮物の製造方法とも言い得る。ここで「セレノネイン濃縮物」とは、分離されたセレノネインを含有する組成物又は分離されたセレノネインそのものをいう。セレノネイン濃縮物のセレノネインの含有量は、使用した原料素材と比べて同等以上であることが好ましく、具体的には、1ppm以上であり、好ましくは10ppm以上である。当該セレノネインの含有量の上限は特に制限されず、100重量%であってもよい(すなわち、セレノネイン濃縮物は、セレノネインそのものであってもよい)が、通常0.1重量%以下であり、好ましくは0.2重量%以下であり、より好ましくは1重量%以下である。
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、これらの実施例により何ら限定されない。
[実施例1]ゴマサバ加工残滓からのセレノネイン濃縮物の調製
ゴマサバ加工残滓(頭部、内臓)6.7kgをミンチ機で破砕後、32Lの純水を加えて、5分間煮熟した。これを紙タオルでろ過した後、還元剤として20μM L−シスチン及び20μM亜硫酸ナトリウムを添加するとともに、ろ過材として、原料に対して2%重量の酸性白土(東新化成社製)、5重量%の球状活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製)及び2重量%の珪藻土を添加し、10分間攪拌した。静置してろ過材を沈殿させた後、ろ紙(No.5B)でろ過し、ろ液(ゴマサバ加工残滓の水抽出物)を得た。イオン交換浄水器に、シリカゲル60(ナカライテスク社製)、浄水用イオン交換樹脂(ミックス、カチオン:アニオン=1:1.5、アズワン社製)、アニオン樹脂(アズワン社製)及び合成吸着樹脂(セパビーズSP207、三菱化学社製)を、それぞれフィルターカートリッジ(10インチ)に入れて装着し、これら4種類のフィルターを連続して循環するように、前記のろ液30Lを6時間通液して、脱イオン処理を行った。脱イオン処理後のろ液に30Lの純水を添加して希釈してから、海水淡水化用の逆浸透膜(CSM−2540SR、Woongjin Chemical社製)を用いた逆浸透膜処理に供し、透過画分を回収した。その結果、セレンに換算して0.42mgのセレノネインが得られた。次に、この透過画分をNF膜(NF 50% Rejection Membrane、M−N2521A5、Applied Membranes, Inc.製)を用いた逆浸透膜処理に供して、非透過画分を回収することにより、脱塩ろ過を行った。その結果、この非透過画分において、セレンに換算して1.7mgのセレノネインが得られた。
[実施例2]各種逆浸透膜に対するセレノネインの透過性の検討
メバチ加工残滓(血合肉)2kg(セレン含量:7.4mg/kg)をミンチ機で破砕した後、8Lの純水を加えて5分間煮熟した。これにろ過材として原料に対して2重量%の酸性白土(東新化成社製)、5重量%の球状活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製)及び2重量%の珪藻土を添加し、10分間攪拌した後、ろ紙(No.5B)でろ過し、ろ液(メバチ加工残滓の水抽出物)を得た。このろ液を純水製造用の逆浸透膜(CSM−2540SR、Woongjin Chemical社製)及びNF膜(NF 50% Rejection Membrane、M−N2521A5、Applied Membranes, Inc.製)を用いて、それぞれ逆浸透膜処理に供し、回収した透過画分に含まれるセレン含量を測定した。その結果、ろ液(メバチ加工残滓の水抽出物)に含まれるセレン濃度が1.49mg/kgであったのに対して、CSM−2540SRを用いた逆浸透膜処理の透過画分におけるセレン含量は、0.265mg/kgであり、NF膜を用いた逆浸透膜処理の透過画分におけるセレン含量は、0.103mg/kgであった。これらのことから、ろ液に含まれる7〜18重量%のセレンが逆浸透膜を透過することが分かった。図1には、NF膜を用いた逆浸透膜処理の透過画分のHPLC−ICP−MS分析によるクロマトグラムを示す。図中に矢印で示した保持時間10.3分付近のセレンのピークは精製したセレノネイン標品と一致したことから、透過画分に含まれるセレン化合物はセレノネインであることが確認された。
[HPLC−ICP−MS分析の測定条件]
測定元素 :Se
RF出力(kW) :1.5
ネブライザーガス流量(Ar L/min) :1
補助ガス流量(Ar L/min) :1.3
プラズマガス流量(Ar L/min) :17
メイクアップガス流量 :0
レンズ電圧(V) :8.2
反応ガス :なし
質量数(amu) :82
パルスステージ電圧 :1050
RPq :0.25
HPLC条件
カラム :Ultrahydogel 120(7.8×300mm)
移動相 :0.1M酢酸アンモニウム(pH 7.0)
流速 :1.0mL/min
[実施例3]クロマグロ加工残滓からのセレノネイン濃縮物の調製
クロマグロ加工残滓(脾臓)6kgをミンチ機で破砕した後、30Lの純水を加えて5分間煮熟した。煮熟後、120g(原料に対して2重量%)の酸性白土(東新化成社製)及び300g(原料に対しての5重量%)の珪藻土を添加して、10分間攪拌した。これを紙タオル(ワイプオールX70、日本製紙クレシア株式会社製)でろ過し、ろ液(クロマグロ加工残滓の水抽出物)を得た。このろ液に倍量の純水を添加して、海水淡水化用の逆浸透膜(CSM−2540SR、Woongjin Chemical社製)とNF膜(NF 50% Rejection Membrane、M−N2521A5、Applied Membranes, Inc.製)とを連結した膜を用いた逆浸透膜処理に供し、透過画分を回収した。さらに、この透過画分に60Lの純水を添加して、同様の逆浸透膜処理に供し、透過画分を回収した。得られた透過画分を、NF膜(NF 50% Rejection Membrane、M−N2521A5、Applied Membranes, Inc.製)を用いた逆浸透膜処理に供して、非透過画分を回収することにより、脱塩濃縮処理を行った。得られた非透過画分をロータリーエバポレーターを用いて減圧乾燥した後、セレノネインを含む乾燥物をミルで粉末化した。得られたセレノネイン粉末のセレン含量は88mg/kgであった。
[実施例4]クロマグロ加工残滓からのセレノネイン濃縮物の調製
クロマグロ加工残滓(血合肉)2kgをミンチ機で破砕した後、10Lの純水を加えて5分間煮熟した。煮熟後、40g(原料に対して2重量%)の酸性白土(東新化成社製)及び100g(原料に対して5重量%)の珪藻土を添加して、10分間攪拌した。これを紙タオル(ワイプオールX70、日本製紙クレシア株式会社製)でろ過し、ろ液(クロマグロ加工残滓の水抽出物)10Lを得た。このろ液に倍量の純水を添加して、海水淡水化用の逆浸透膜(CSM−2540SR、Woongjin Chemical社製)を用いた逆浸透膜処理に供し、透過画分を回収した。さらに、この透過画分に20Lの純水を添加してから、同様の逆浸透膜処理に供し、透過画分A及び非透過画分Bを回収した。
上記透過画分Aを、NF膜(NF 50% Rejection Membrane、M−N2521A5、Applied Membranes, Inc.製)を用いた逆浸透膜処理に供して、非透過画分1.1Lを回収することにより、脱塩濃縮処理を行った。得られた非透過画分を、ロータリーエバポレーターを用いて減圧乾燥した後、セレノネインを含む乾燥物をミルで粉末化した。得られたセレノネイン粉末の総セレン量は2.2mgであった。
上記非透過画分Bは、セレノネインの酸化二量体、ペプチド類及び塩類を含有するが、NF膜(NF 50% Rejection Membrane、M−N2521A5、Applied Membranes, Inc.製)を用いた逆浸透膜処理に供して、非透過画分2Lを回収することにより、脱塩濃縮処理を行った。得られた非透過画分を、ロータリーエバポレーターを用いて減圧乾燥した後、セレノネインを含む乾燥物をミルで粉末化した。得られたセレノネイン粉末の総セレン量は5.7mgであった。
[実施例5]イオン交換樹脂によるセレノネインの精製
強酸性陽イオン交換樹脂カラム(ダウエックス50Wx4、直径5cm×長さ20cm)を20mM塩酸で平衡化し、実施例1で得られたセレノネイン(680μg)を含む非透過画分2Lを流し、当該カラムにセレノネインを吸着させた。次に、20mMの塩酸を1L流してカラムを洗浄した後、0.5M塩化アンモニウムをカラムに流してセレノネインを溶出した。溶離液に10倍量の純水を添加し、アンモニウム塩を希釈してから、NF膜(NF 50% Rejection Membrane、M−N2521A5、Applied Membranes, Inc.製)を用いた逆浸透膜処理に供して、非透過画分を回収することにより、脱塩濃縮する操作を2回繰り返した。その結果、最終的に得られた脱塩濃縮されたセレノネインの収量はセレンに換算して30μgであった。
[実施例6]クロマグロ内臓からのセレノネイン濃縮物の製造
冷凍保存したクロマグロ加工残滓(肝臓及び脾臓を含む)5kgをミンチ機で破砕した後、活性炭ろ過水20Lを加え、100℃で5分間煮熟した。これを紙タオル(ワイプオールX70、日本製紙クレシア株式会社製)でろ過して、固形物を除き、ろ液(クロマグロ加工残滓の水抽出物)20Lを得た。このろ液に対して、100mgウレアーゼ(ナタマメ由来、和光純薬工業株式会社製)、100mgパンクレリパーゼ(和光純薬工業株式会社製)、100g(原料に対して2重量%)の活性白土(SA85、東新化成株式会社製)及び100g(原料に対して2重量%)の珪藻土を添加して、10分間攪拌した。これを紙タオル(ワイプオールX70、日本製紙クレシア株式会社製)でろ過し、ろ液20Lを得た。このろ液に倍量の純水を添加して、逆浸透膜(DOW FILMTEC(登録商標) NF270、The Dow Chemical Company製)を用いた逆浸透膜処理に供し、透過画分及び非透過画分をそれぞれ回収した。さらに、この透過画分を非透過画分に混合してから、100mgプロナーゼ(ロッシュ社製)を添加し、同様の逆浸透膜処理に供し、非透過画分を濃縮した。得られた非透過画分に0.5kgシリカゲルを添加し、ろ紙(No.5A、株式会社アドバンテック東洋製)を用いてろ過し、ろ液を回収した。このろ液をロータリーエバポレーターを用いて減圧乾燥した後、セレノネインを含む乾燥物をミルで粉末化した。得られたセレノネイン粉末のセレン濃度は316ppm、総セレン量は44mgであった。また、当該セレノネイン粉末の総水銀濃度は0.218ppmであった。セレノネイン粉末の総水銀濃度は、セレノネイン粉末を湿式加熱分解した後、特許第5248841号に記載の方法に従って、冷蒸気原子吸光分析法に基づき、水銀測定装置(HG-310型、平沼産業株式会社製)を用いて測定した。
[実施例7]ゴマサバ加工残滓からのセレノネイン濃縮物の製造
冷凍保存したゴマサバ加工残滓(頭、中骨及び内臓を含む)50kgをチョッパー(パンチング9mm)で破砕した後、上水200Lを加え、80℃で10分間加熱した。これを振動篩機(100メッシュ)でろ過して、固形物を除き、ろ液を得た。このろ液に対して、10kg(抽出液に対して5重量%)の活性炭、1kg(原料に対して2重量%)酸性白土(和光純薬工業製)及び1kg(原料に対して2重量%)のシリカゲルを添加して、55℃で20分間攪拌した。この反応液に6kg珪藻土を添加してろ布を用いてろ過した。このろ液を85℃で10分間加熱して殺菌処理し、185Lのセレノネイン液(ゴマサバ加工残滓の水抽出物)を得た。この液に200mgウレアーゼ(ナタマメ由来、和光純薬工業株式会社製)を添加して、逆浸透膜(DOW FILMTEC(登録商標) NF270、The Dow Chemical Company)を用いた逆浸透膜処理に供し、透過画分及び非透過画分をそれぞれ回収した。さらに、この透過画分を非透過画分に混合してから、100mgプロナーゼ(ロッシュ社製)を添加し、同様の逆浸透膜処理に供し、非透過画分を濃縮した。得られた非透過画分に1kgシリカゲルを添加し、ろ紙(No.5A、株式会社アドバンテック東洋製)を用いてろ過し、褐色の沈殿物を除去した。ロータリーエバポレーターを用いて減圧乾燥した後、セレノネインを含む乾燥物をミルで粉末化した。得られたセレノネイン粉末のセレン濃度は7.1ppm、総セレン量は12mgであった。また当該セレノネイン粉末の総水銀濃度は0.125ppmであった。
[実施例8]
サワラ加工残滓(サワラを三枚下ろしにした時の残滓。頭部、内臓、中骨を含む。)4kgに、活性炭ろ過水8Lを加え、ハンドミキサーで細かく砕いた後、加熱沸騰させた。5分間煮熟した後、紙タオル(ワイプオールX70、日本製紙クレシア株式会社製)とザルでろ過して、固形物を除き、ろ液(サワラ加工残滓の水抽出物)8Lを得た。このろ液に対して、80g(原料に対して2重量%)の珪藻土をろ過材として添加して減圧ろ過した後、酸性フォスファターゼ(和光純薬工業株式会社製)0.3g及びウレアーゼ(ナタマメ由来、和光純薬工業株式会社製)0.3gを加え、かき混ぜた。次に、当該ろ液を、強酸性陽イオン交換樹脂(IR120B、オレガノ株式会社製)を充填したカートリッジ(カラムサイズ:直径75mm×長さ250mm)及び合成吸着樹脂(セパビーズSP207、三菱化学社製)を充填したカートリッジ(カラムサイズ:直径75mm×長さ250mm)を連結したろ過装置に循環して通過させた(流速400ml/分、3時間)のち、NF膜(1.8インチ×12インチ、NF 50% Rejection Membrane、M−N2521A5、Applied Membranes, Inc.製)を用いた逆浸透膜処理に供し、透過画分を回収した。回収した透過画分を、ロータリーエバポレーターを使用して減圧濃縮し、セレノネイン濃縮物100mlを得た。得られたセレノネイン濃縮物のセレン濃度は0.22ppmであった。
本発明によれば、有機溶媒を用いることなく、セレノネインを含む原料素材から効率良くセレノネイン濃縮物を製造することができる。
また本発明によれば、セレノネインを含む原料素材が、有害元素であるメチル水銀を含む水産加工残滓等であっても、メチル水銀を除去して、セレノネイン濃縮物を製造することができる。
本出願は、日本で出願された特願2016-040504(出願日:2016年3月2日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。

Claims (10)

  1. セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を、逆浸透膜処理に供することを含む、セレノネインの分離方法。
  2. セレノネインを含む原料素材の水系溶媒抽出物を逆浸透膜処理に供して単量体を含有する透過画分を回収することを含む、請求項1記載の方法。
  3. 前記透過画分を逆浸透膜処理に供して、単量体から形成された酸化二量体を含有する非透過画分を回収することを含む、請求項2記載の方法。
  4. 逆浸透膜処理の透過画分及び/又は非透過画分を、強酸性陽イオン交換樹脂に接触させることを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記抽出物を、逆浸透膜処理の前に、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、シリカゲル及び合成吸着樹脂からなる群から選択される少なくとも一つに接触させることを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記抽出物が、珪藻土、酸性白土、活性白土、シリカゲル及び活性炭からなる群から選択される少なくとも一つのろ過材を用いて得られたものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記抽出物に、逆浸透膜処理の前に、ウレアーゼ及び/又はプロテアーゼを添加することを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記抽出物に、逆浸透膜処理の前に、フォスファターゼを添加することを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 水系溶媒が、水である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 原料素材が、水産加工残滓である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
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