JPWO2017149572A1 - 油井用低合金高強度厚肉継目無鋼管 - Google Patents
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[1]質量%で、
C:0.25〜0.31%、
Si:0.01〜0.35%、
Mn:0.55〜0.70%、
P:0.010%以下、
S:0.001%以下、
O:0.0015%以下、
Al:0.015〜0.040%、
Cu:0.02〜0.09%、
Cr:0.8〜1.5%、
Mo:0.9〜1.6%、
V:0.04〜0.10%、
Nb:0.005〜0.05%、
B:0.0015〜0.0030%、
Ti:0.005〜0.020%、
N:0.005%以下、
を含有し、
N含有量に対するTi含有量の比の値(Ti/N)が3.0〜4.0であり、
残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
下記(A)式で定義される、管長手直交断面全厚でのMo偏析度1.5以上となる測定点の累積度数率が1%以下であり、
応力−歪曲線における0.4%歪時の応力に対する0.7%歪時の応力の比の値(σ0.7/σ0.4)が1.02以下である、肉厚40mm以上、かつ、降伏強度が758MPa以上である油井用低合金高強度厚肉継目無鋼管。
Mo偏析度=EPMA Mo値/EPMA Mo ave. ・・・(A)
(式(A)中、
EPMA Mo値は、EPMA定量面分析時の個々測定点のMo濃度(質量%)であり、
EPMA Mo ave.は、EPMA定量面分析時の全測定点の平均Mo濃度(質量%である。)
[2]前記組成に加えてさらに、質量%で、
W:0.1〜0.2%、
Zr:0.005〜0.03%
のうちから選ばれた1種または2種を含有する[1]に記載の油井用低合金高強度厚肉継目無鋼管。
[3]前記組成に加えてさらに、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0030%
を含有し、さらに、質量%で、組成比が下記(1)式を満足する長径5μm以上のCaとAlとからなる酸化物系の鋼中非金属介在物の個数が100mm2当り20個以下である[1]または[2]に記載の油井用低合金高強度厚肉継目無鋼管。
(CaO)/(Al2O3)≧4.0 (1)
Mo偏析度=EPMA Mo値/EPMA Mo ave. ・・・(A)
(式(A)中、
EPMA Mo値は、EPMA定量面分析時の個々測定点のMo濃度(質量%)であり、
EPMA Mo ave.は、EPMA定量面分析時の全測定点の平均Mo濃度(質量%である。)
まず、本発明鋼管の化学組成限定理由について説明する。以下、特に断わらないかぎり質量%は単に%で記す。
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有し、所望の高強度を確保するために重要な元素である。また、Cは、焼入れ性を向上させる元素であり、特に肉厚40mm以上の厚肉の継目無鋼管において、降伏強度が758MPa以上の高強度化を実現するためには、0.25%以上のCの含有を必要とする。一方、0.31%を超えるCの含有は、σ0.7/σ0.4の著しい上昇を引き起こし、KISSC値のばらつきを大きくする。このため、Cは0.25〜0.31%とする。好ましくは、Cは0.29%以下である。
Siは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中に固溶して鋼の強度を増加させ、焼戻時の急激な軟化を抑制する作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上のSiの含有を必要とする。一方、0.35%を超えるSiの含有は、粗大な酸化物系介在物を形成し、KISSC値のばらつきを大きくする。このため、Siは0.01〜0.35%とする。好ましくは、Siは0.01〜0.04%である。
Mnは、焼入れ性の向上を介して、鋼の強度を増加させるとともに、Sと結合しMnSとしてSを固定して、Sによる粒界脆化を防止する作用を有する元素であり、特に肉厚40mm以上の厚肉の継目無鋼管において、降伏強度758MPa以上の高強度化をするためには、0.55%以上のMnの含有を必要とする。一方、0.70%を超えるMnの含有は、σ0.7/σ0.4の著しい上昇を引き起こし、KISSC値のばらつきを大きくする。このため、Mnは0.55〜0.70%とする。好ましくは、Mnは0.55〜0.65%である。
Pは、固溶状態では粒界等に偏析し、粒界脆化割れ等を引き起こす傾向を示し、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、0.010%までは許容できる。このようなことから、Pは0.010%以下とする。
Sは、鋼中ではほとんどが硫化物系介在物として存在し、延性、靭性や、耐硫化物応力腐食割れ性等の耐食性を低下させる。Sの一部は固溶状態で存在する場合があるが、その場合には粒界等に偏析し、粒界脆化割れ等を引き起こす傾向を示す。このため、Sは、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、過剰な低減は精錬コストを高騰させる。このようなことから、本発明では、Sは、その悪影響が許容できる0.001%以下とする。
O(酸素)は不可避的不純物として、AlやSi等の酸化物として鋼中に存在する。特に、その粗大な酸化物の数が多いと、KISSC値のばらつきを大きくする要因となる。このため、O(酸素)は、その悪影響が許容できる0.0015%以下とする。好ましくは、O(酸素)は0.0010%以下である。
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合しAlNを形成して固溶Nの低減に寄与する。このような効果を得るために、Alは0.015%以上の含有を必要とする。一方、0.040%を超えてAlを含有すると、酸化物系介在物が増加しKISSC値のばらつきを大きくする。このため、Alは0.015〜0.040%とする。好ましくは、Alは0.020%以上である。好ましくは、Alは0.030%以下である。
Cuは、耐食性を向上させる作用を有する元素であり、微量添加した場合、緻密な腐食生成物が形成され、SSCの起点となるピットの生成・成長が抑制されて、耐硫化物応力腐食割れ性が顕著に向上するため、本発明では、0.02%以上のCuの含有を必要とする。一方、0.09%を超えてCuを含有すると、継目無鋼管の製造プロセス時の熱間加工性が低下する。このため、Cuは0.02〜0.09%とする。好ましくは、Cuは0.03%以上である。好ましくは、Cuは0.05%以下である。
Crは、焼入れ性の増加を介して、鋼の強度の増加に寄与するとともに、耐食性を向上させる元素である。また、Crは、焼戻時にCと結合し、M3C系、M7C3系、M23C6系等の炭化物を形成し、とくにM3C系炭化物は焼戻軟化抵抗を向上させ、焼戻しによる強度変化を少なくして、降伏強度の向上に寄与する。758MPa以上の降伏強度の達成には、0.8%以上のCrの含有を必要とする。一方、1.5%を超えてCrを含有しても、効果が飽和するため、経済的に不利となる。このため、Crは0.8〜1.5%とする。好ましくは、Crは0.9%以上である。好ましくは、Crは1.3%以下である。
Moは、焼入れ性の増加を介して、鋼の強度の増加に寄与するとともに、耐食性を向上させる元素である。また、Moは、M2C系の炭化物を形成し、特に焼戻し後に2次析出するM2C系炭化物は焼戻軟化抵抗を向上させ、焼戻による強度変化を少なくして、降伏強度の向上に寄与し、鋼の応力−歪曲線を連続降伏型から降伏型の形状にさせる効果がある。特に、肉厚40mm以上の厚肉の継目無鋼管において、このような効果を得るためには、0.9%以上のMoの含有を必要とする。一方、1.6%を超えてMoを含有すると、Mo2C炭化物が粗大化し、硫化物応力腐食割れの起点となってむしろKISSC値が低下する原因となる。このため、Moは0.9〜1.6%とする。好ましくは、Moは0.9〜1.5%である。
Vは、炭化物あるいは窒化物を形成し、鋼の強化に寄与する元素である。特に肉厚40mm以上の厚肉の継目無鋼管において、このような効果を得るためには、0.04%以上のVの含有を必要とする。一方、0.10%を超えてVを含有すると、V系炭化物が粗大化して硫化物応力腐食割れの起点となり、むしろKISSC値が低下する。このため、Vは0.04〜0.10%の範囲とする。好ましくは、Vは0.045%以上である。好ましくは、Vは0.055%以下である。
Nbは、オーステナイト(γ)温度域での再結晶を遅延させ、γ粒の微細化に寄与し、焼入直後の鋼の下部組織(例えばパケット、ブロック、ラス)の微細化に極めて有効に作用する元素である。このような効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.05%を超えるNbの含有は、粗大な析出物(NbN)の析出を促進し、耐硫化物応力腐食割れ性の低下を招く。このため、Nbは0.005〜0.05%とする。ここで、パケットとは、平行に並んだ同じ晶癖面を持つラスの集団から成る領域と定義され、ブロックは、平行でかつ同じ方位のラスの集団から成る。好ましくは、Nbは0.008%以上である。好ましくは、Nbは0.045%以下である。
Bは、微量の含有で焼入れ性向上に寄与する元素であり、本発明では0.0015%以上のBの含有を必要とする。一方、0.0030%を超えてBを含有しても、効果が飽和するかあるいはFe硼化物(Fe−B)の形成により、逆に所望の効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。このため、Bは0.0015〜0.0030%とする。好ましくは、Bは0.0020〜0.0030%である。
Tiは、窒化物を形成し、鋼中の余剰Nを低減させて上述のBの効果を有効にするほか、鋼の焼入れ時にオーステナイト粒をピン止め効果によって粗大化の防止に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.005%以上のTiを含有することを必要とする。一方、0.020%を超えるTiの含有は、鋳造時に粗大なMC型窒化物(TiN)の形成が促進され、かえって焼入れ時のオーステナイト粒の粗大化を招く。このため、Tiは0.005〜0.020%とする。好ましくは、Tiは0.009%以上である。好ましくは、Tiは0.016%以下である。
Nは、鋼中不可避的不純物であり、Ti、Nb、Al等の窒化物形成元素と結合しMN型の析出物を形成する。さらに、これらの窒化物を形成した残りの余剰Nは、Bと結合してBN析出物も形成する。この際、B添加による焼入れ性向上効果が失われるため、余剰Nはできるだけ低減することが好ましく、Nは0.005%以下とする。
Ti含有によるTiN窒化物形成でのオーステナイト粒ピン止め効果、および余剰N抑制によるBN形成防止を通じたB添加による焼入れ性向上効果を両立させるために、Ti/Nを規定する。Ti/Nが3.0を下回る場合、余剰Nが発生し、BN形成することで焼入れ時の固溶Bが不足する結果、焼入れ終了時のミクロ組織がマルテンサイトとベイナイト、あるいはマルテンサイトとフェライトの複合組織となり、このような複合組織を焼戻した後の応力−歪曲線が連続降伏型となって、σ0.7/σ0.4の値が上昇する。一方、Ti/Nが4.0を超える場合、TiNの粗大化によってオーステナイト粒ピン止め効果が低減し、必要とする細粒組織が得られない。このため、Ti/Nは3.0〜4.0とする。
Wは、Moと同様に、炭化物を形成し析出硬化により強度の増加に寄与するとともに、固溶して、旧オーステナイト粒界に偏析して耐硫化物応力腐食割れ性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、0.1%以上のWを含有することが望ましいが、0.2%を超えるWの含有は、耐硫化物応力腐食割れ性を低下させる。このため、Wを含有する場合、Wは0.1〜0.2%とする。
ZrはTiと同様に、窒化物を形成しピン止め効果によって、焼入れ時のオーステナイト粒成長抑制に有効である。必要な効果を得るためには、0.005%以上のZrを含有することが望ましい。一方、0.03%を超えてZrを含有しても効果が飽和する。このため、Zrは0.005〜0.03%とする。
Caは、連続鋳造時のノズル詰まり防止に有効で、必要な効果を得るためには0.0005%以上のCaを含有することが望ましい。一方、Caは、Alと複合した酸化物系非金属介在物を形成し、特に0.0030%を超えてCaを含有した場合、粗大なものが多数存在し、耐硫化物応力腐食割れ性を低下させる。具体的には、Ca酸化物(CaO)とAl酸化物(Al2O3)との組成比が、質量%で(1)式を満たす介在物が特に悪影響を及ぼすことから、長径が5μm以上かつ(1)式を満たす介在物の個数を100mm2当り20個以下とすることが望ましい。なお、この介在物の個数は、鋼管管端の周方向任意1箇所より管長手直交断面の走査型電子顕微鏡(SEM)用試料を採取し、該試料について、少なくとも管外面、肉厚中央、管内面の3か所について介在物のSEM観察、およびSEMに付随する特性X線分析装置での化学組成の分析結果によって算出することができる。このため、Caを含有する場合、Caは0.0005〜0.0030%とする。また、この場合、質量%で、組成比が下記(1)式を満足する長径5μm以上のCaとAlとからなる酸化物系の鋼中非金属介在物の個数が100mm2当り20個以下であるようにする。好ましくは、Caは0.0010%以上である。好ましくは、Caは0.0016%以下である。
(CaO)/(Al2O3)≧4.0 (1)
上記の介在物の個数は、脱炭精錬終了後に行うAl脱酸処理時のAl投入量の管理、およびCa添加前の溶鋼中Al、O、Ca分析値に応じた量のCaを添加することにより制御することができる。
前述したように、Moの偏析がKISSC値の低下に影響する。このMoの偏析の定量化のために、本発明者らはEPMA面分析で得られる個々測定点のMo濃度(EPMA Mo値)を、全測定点の平均値(EPMA Mo ave.)で割った値をMo偏析度とし、このMo偏析度を統計処理して得られる累積度数率グラフから、KISSC値の低下を抑制しうるMo偏析状態を定義する手法を導出した。そして、Mo偏析度が1.5以上で、偏析部の局所硬さの上昇が著しいが、その累積度数率が1%以下であれば、KISSC値への影響がほとんどなくなることから、本発明では、Mo偏析度が1.5以上の測定点の累積度数率を1%以下とする。Moの偏析の軽減は、鋼管素材を直接丸ビレットに鋳造するのではなく、一旦ブルーム鋳片とし、ブルーム鋳片の高温・長時間の均熱処理後、熱間圧延で丸ビレットに成形するか、直接鋳造丸ビレットの場合でも、継目無鋼管に熱間圧延後、焼入れ、焼戻し前に長時間の焼きならし処理を行う等の方法で達成できる。なお、EPMA測定は、最終焼戻しが終了した段階で採取した管端サンプルの周方向の任意1箇所から、さらに採取した管長手直交断面全厚試料を使用し、その測定領域は肉厚方向全てと、その肉厚の約1/3に相当する周方向で定義される長方形領域とする。EPMAの測定条件は、加速電圧20kV、ビーム電流0.5μA、ビーム径10μmとする。上述の長方形領域の測定を行い、Mo−K殻励起の特性X線強度からあらかじめ作成しておいた検量線を使用して、個々測定点ごとにMo濃度(質量%)を算出する。
前述したように、KISSC値のばらつきは鋼の応力−歪曲線の形状によって大きく異なる。この点について、本発明者等が鋭意研究した結果、0.4%歪時の応力(σ0.4)に対する0.7%歪時の応力(σ0.7)の比の値(σ0.7/σ0.4)が1.02以下の場合に、KISSC値のばらつきが低減することを知見した。このため、σ0.7/σ0.4は1.02以下とする。
(CaO)/(Al2O3)≧4.0 (1)
また、採取したEPMA測定試料を用いて、加速電圧20kV、ビーム電流0.5μA、ビーム径10μmの条件でEPMA定量面分析を所定の長方形領域について行い(測定点数:6750000)、Mo―K殻励起の特性X線強度よりあらかじめ作成しておいた検量線を使用して、個々測定点ごとにMo濃度(質量%)を算出した。この値を全測定点平均値で割ってMo偏析度とし、統計処理の後、累積度数率グラフを作成して、Mo偏析度1.5以上である測定点の累積度数率を読み取った。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.25〜0.31%、
Si:0.01〜0.35%、
Mn:0.55〜0.70%、
P:0.010%以下、
S:0.001%以下、
O:0.0015%以下、
Al:0.015〜0.040%、
Cu:0.02〜0.09%、
Cr:0.8〜1.5%、
Mo:0.9〜1.6%、
V:0.04〜0.10%、
Nb:0.005〜0.05%、
B:0.0015〜0.0030%、
Ti:0.005〜0.020%、
N:0.005%以下、
を含有し、
N含有量に対するTi含有量の比の値(Ti/N)が3.0〜4.0であり、
残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
下記(A)式で定義される、管長手直交断面全厚でのMo偏析度1.5以上となる測定点の累積度数率が1%以下であり、
応力−歪曲線における0.4%歪時の応力に対する0.7%歪時の応力の比の値(σ0.7/σ0.4)が1.02以下である、肉厚40mm以上、かつ、降伏強度が758MPa以上である油井用低合金高強度厚肉継目無鋼管。
Mo偏析度=EPMA Mo値/EPMA Mo ave. ・・・(A)
(式(A)中、
EPMA Mo値は、EPMA定量面分析時の個々測定点のMo濃度(質量%)であり、
EPMA Mo ave.は、EPMA定量面分析時の全測定点の平均Mo濃度(質量%である。) - 前記組成に加えてさらに、質量%で、
W:0.1〜0.2%、
Zr:0.005〜0.03%
のうちから選ばれた1種または2種を含有する請求項1に記載の油井用低合金高強度厚肉継目無鋼管。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0030%
を含有し、さらに、質量%で、組成比が下記(1)式を満足する長径5μm以上のCaとAlとからなる酸化物系の鋼中非金属介在物の個数が100mm2当り20個以下である請求項1または2に記載の油井用低合金高強度厚肉継目無鋼管。
(CaO)/(Al2O3)≧4.0 (1)
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