JPWO2017042851A1 - 分子検出装置、分子検出方法、および有機物プローブ - Google Patents

分子検出装置、分子検出方法、および有機物プローブ Download PDF

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Abstract

実施形態の分子検出装置1は、検出器10と識別器とを具備する。検出器10は複数の検出セル101を備え、複数の検出セル101は反応基の隣接基としてシアノ基またはニトロ基を含む有機物プローブを少なくとも有する。識別器は、複数の検出セルの信号パターンにより被検出物を識別する。

Description

本発明の実施形態は、分子検出装置、分子検出方法、および有機物プローブに関する。
家庭用の温水器等には、不完全燃焼を起こした際に発生する一酸化炭素を検出する装置が取り付けてあり、早い段階で危険性を知らせてくれる。このようなガス成分は人体に重大な影響を与える。LPガス安全委員会の指針によれば、一酸化炭素の濃度がおおよそ200ppm(百万分の1)程度になると頭痛を引き起こすとされている。比較的濃度が高いガス成分を検出する方法としては種々の方法が知られているが、極低濃度に相当するppb(十億分の1)からppt(一兆分の1)の濃度では検出方法が限られている。
災害現場やテロ行為が行われた現場等においては、極めて微量のガス成分を検出することで、事前に危険性を察知することが望まれている。極低濃度のガス成分は、研究施設内の大型機器を利用して検出する場合が多い。このような場合、ガスクロマトグラフィーや質量分析計のような高価で重量と容積の大きな設置型装置が必要となる。このような点から、極低濃度のガス成分をリアルタイムに検出することが可能な装置、すなわち重量や容積が小さくて携帯性に優れると共に、pptからppbオーダーの極低濃度のガス成分を選択的にかつ高感度に検出することが可能な装置が求められている。
低濃度のガス成分の検出素子としては、例えばカーボンナノ構造体の表面を特定物質と選択的に反応または吸着する物質で表面修飾した導電層を有し、カーボンナノ構造体の表面に付着したガス成分により変化する電位差等を測定する素子が知られている。このような検出素子では、例えば空気中から取得したガス中に検出対象のガス成分と類似の成分等が不純物として混入している場合に、検出対象のガス成分を正確に検出できないおそれがある。また、検出物質は分子構造が単純なアルコールや窒素酸化物等に限れている。
特開2010−019688号公報 特開2010−139269号公報 特開2015−515622号公報
本発明が解決しようとする課題は、極低濃度のガス成分を選択的にかつ高感度に検出することを可能にした分子検出装置、分子検出方法、および有機物プローブを提供することにある。
実施形態の分子検出装置は、反応基の隣接基としてシアノ基またはニトロ基を含む有機物プローブを少なくとも有する複数の検出セルを備える検出器と、複数の検出セルの信号パターンにより被検出物を識別する識別器とを具備する。
実施形態の分子検出装置を示すブロック図である。 図1に示す分子検出装置の変形例を示すブロック図である。 実施形態の分子検出装置における検出器の構成を示す図である。 実施形態の分子検出装置による複数の検出セルの一例を示す図である。 図4Aに示す複数の検出セルによる被検出物の検出結果の一例を示す図である。 実施形態の分子検出装置の検出器で有機物プローブに用いられる有機化合物の第1の例を示す図である。 実施形態の分子検出装置の検出器で有機物プローブに用いられる有機化合物の第2の例を示す図である。 実施形態の分子検出装置の検出器で有機物プローブに用いられる有機化合物のDMMPとの相互作用エネルギーを示す図である。 実施形態の分子検出装置における情報処理部を示す図である。 実施例の分子検出装置による複数の検出セルの例を示す図である。 図9Aに示す複数の検出セルによる被検出物の検出結果の第1の例を示す図である。 図9Aに示す複数の検出セルによる被検出物の検出結果の第2の例を示す図である。 図9Aに示す複数の検出セルによる被検出物の検出結果の第3の例を示す図である。 実施例の分子検出装置による被検出物の検出波形の一例を示す図である。
以下、実施形態の分子検出装置および分子検出方法について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
図1は実施形態の分子検出装置を示すブロック図である。図1に示す分子検出装置1は、例えばガス発生元から発生した被検出物2を含む検出対象ガス3から被検出物2を検出する装置であり、検出器10と識別器20とを備えている。被検出物2を含む対象ガス3は、まず分子検出装置1の検出器10に送られる。ここで、検出対象ガス3は被検出物2に類似する分子量や分子構造等を有する物質を不純物として含んでいる場合がある。また、空気中に漂う被検出物2は図2に示すように、におい成分や微粒子等の様々な夾雑物4(4a、4b)と混ざった状態で存在することが多い。このような点から、検出対象ガス3は図2に示すように、予めフィルタ装置5や分子分配装置6等で前処理した後に、分子検出装置1の検出器10に送るようにしてもよい。
前処理装置のうちのフィルタ装置5には、一般的な中高性能フィルタ等が用いられる。フィルタ装置5において、検出対象ガス3中に含まれる微粒子等の粒子状物質が除去される。フィルタ装置5で粒子状物質が除去された検出対象ガス3は、分子分配装置6に送られる。分子分配装置6としては、検出対象ガス3をイオン化してイオン化物質群とし、イオン化物質群に電圧を印加して質量に比例する速度で飛行させ、この質量差による飛行速度およびそれに基づく飛行時間を利用して、イオン化物質群から被検出物2のイオン化物質を分離する装置が例示される。このような分子分配装置6としては、イオン化部、電圧印加部、および飛行時間分離部を備える装置が用いられる。
被検出物2を含む対象ガス3は、直接もしくはフィルタ装置5や分子分配装置6等の装置で前処理された後に検出器10に導かれる。検出器10は、図3に示すように、複数の検出セル101に区画された検出面を備えている。なお、図3は検出器10の検出面10Aを分子分配装置6の端部6aに向けて配置した状態を示しているが、検出器10の配置はこれに限られるものではない。複数の検出セル101は、それぞれセンサー部11およびセンサー部11に設けられた有機物プローブ12を有する検出素子13を備えている。図3はセンサー部11にグラフェン電界効果トランジスタ(GFET)を用いた検出素子13を示している。センサー部11はGFETに限られるものではなく、カーボンナノチューブを用いた電界効果トランジスタ、弾性表面波センサー等であってもよい。
センサー部11としてのGFETは、ゲート電極として機能する半導体基板14と、半導体基板14上にゲート絶縁層として設けられた絶縁膜15と、絶縁膜15上にチャネルとして設けられたグラフェン層16と、グラフェン層16の一端に設けられたソース電極17と、グラフェン層16の他端に設けられたドレイン電極15とを備えている。GFET11のグラフェン層16上には、有機物プローブ12が設けられている。有機物プローブ12には、被検出物2と選択的に結合する有機化合物が用いられる。検出器10に導かれた被検出物2は、グラフェン層16上の有機物プローブ12に捕捉される。若干の不純物4は有機物プローブ12との間で相互作用を得られず、検出素子13には捕捉されない。有機物プローブ12に捕捉された被検出物2からGFET11に電子が移動することで電気的な検出が行われる。これによって、目的とする被検出物2を選択的に検出する。
有機物プローブ12を構成する有機物は溶剤に溶ける性質を有するため、溶剤に溶かした溶液として塗布することでグラフェン層16に有機物プローブ12を設置することができる。有機物プローブ12はグラフェンと相互作用を得られやすくするために、ピレン環のような構造を有した部位を有することが好ましい。ピレン環のような構造を持つ分子はグラフェンの炭素が構成する六角形状のπ電子系と相互作用を持ち、いわゆるπ―πスタッキングと呼ばれる相互作用状態を形成する。低濃度のプローブ分子を溶媒に溶かしてグラフェンに塗布すると、ピレン環とグラフェンとの間でπ―πスタッキングが形成され、グラフェン上にプローブ分子が整列して固定化される。このような自己配列作用を利用してグラフェン層16上に有機物プローブ12を設置することができる。なお、有機物プローブ12を構成する有機化合物については、後に詳述する。
グラフェン層16上に設けられた有機物プローブ12に被検出物2が捕捉されると、GFET11の出力が変化する。グラフェンが1層の場合にはゼロギャップとなっているため、通常はソース電極17とドレイン電極18との間に電気が流れ続けている。グラフェンの層数が2層、3層と増えるとバンドギャップが生じるが、厳密な理論値から考えられるよりも実際の系ではバンドギャップが比較的小さい。ゲート絶縁層15がシリコン酸化膜程度の誘電率の場合には、ソース電極17とドレイン電極18との間に電気が流れ続けることが多い。従って、グラフェン層16はグラフェンの単層構造に限らず、5層以下程度のグラフェンの積層体で構成してもよい。
有機物プローブ12の近傍に飛来した被検出物2は、水素結合の力により有機物プローブ12に引き付けられて、場合によっては接触する。被検出物2の接触が起こると、有機物プローブ12との間で電子のやり取りが発生し、有機物プローブ12が接しているグラフェン層16に電気的変化を伝える。有機物プローブ12からグラフェン層16に伝えられた電気的な変化は、ソース電極17とドレイン電極18との間の電気の流れを乱すため、GFET11がセンサーとして機能する。グラフェン層16をチャネルとして用いたGFET11によれば、極僅かな電気変化であっても顕著に出力として現れる。従って、高感度な検出素子13を構成することができる。GFET11を用いたセンサーは、グラフェンがゼロギャップ半導体としての性質を有することから、ゲート電極14に電圧を加えなくともソース電極17とドレイン電極18との間に電流が流れる傾向もみられる。このままでもセンサーとして機能するが、通常はゲート電極14に電圧を加えた状態でソース電極17とドレイン電極18との間に電流を流し、有機物プローブ12で被検出物2を捕捉した際のゲート電極14の電気的変化を観測する。
上記した検出素子13による被検出物2の検出において、有機物プローブ12に捕捉された被検出物2からGFET11への電子の移動が高いほどセンサーとしての機能が高くなる。GFET11を用いたセンサーは、最も高感度なFETセンサーとされており、カーボンナノチューブを用いたセンサーと比べて3倍ほど感度を向上させることができる。従って、GFET11と有機物プローブ12とを組み合わせた検出素子13を用いることによって、被検出物2の高感度な検出が可能になる。
図3は複数の検出セル101を格子状(アレイ状)に配列した検出面10Aを示しているが、必ずしもこれに限定されるものではない。複数の検出セル101は直線状に配列されていてもよい。複数の検出部101のグラフェン層16にそれぞれ設けられた有機物プローブ12のうち、少なくとも一部は被検出物2との結合強度が異なっている。すなわち、複数の検出セル101は被検出物2との結合強度が異なる複数の有機物プローブ12を備えている。全ての有機物プローブ12が被検出物2との結合強度が異なっていてもよいし、一部が被検出物2との結合強度が異なっていてもよい。
図4Aは検出器10の検出面10Aを4つの検出セル101、すなわち検出セルA、検出セルB、検出セルC、および検出セルDに分割した格子状センサーを示している。これら検出セルA〜Dのうち、少なくとも一部には種類が異なる有機物プローブ12、すなわち被検出物2との結合強度が異なる複数の有機物プローブ12が設けられている。複数の有機物プローブ12は、それぞれ被検出物2と相互作用を有するが、被検出物2との作用強度(結合強度)が異なるため、検出信号の強度が異なる。図4Bは検出セルA〜Dの検出信号を示している。検出セルA〜Dからの検出信号は、それぞれ有機物プローブ12の被検出物2との結合強度により信号強度が異なっている。
検出セルA〜Dで検出された信号は、識別部20に送られて信号処理される。識別部20は、検出セルA〜Dからの検出信号を強度に変換し、これら検出信号の強度差に基づく信号パターン(例えば図4Bに示す4つの検出信号のパターン)を解析する。識別部20には、検出する物質に応じた信号パターンが入力されており、これら信号パターンと検出セルA〜Dで検出された信号パターンとを比較することによって、検出器10で検出された被検出物2の識別が行われる。このような信号処理を、ここではパターン認識法と呼ぶ。パターン認識法によれば、例えば指紋検査のように被検出物特有の信号パターンにより被検出物2を検出および識別することができる。従って、pptからppbオーダーの極低濃度のガス成分(被検出物2)を選択的にかつ高感度に検出することができる。
上述したパターン認識法を適用することによって、検出器10に導かれる検出対象ガス3に不純物が混入しているような場合においても、被検出物2を選択的にかつ高感度に検出および識別することができる。例えば、被検出物2が有毒な有機リン化合物の代表的な材料であるメチルホスホン酸ジメチル(DMMP、分子量:124)の場合、化学的な構造が近いジクロルボスのようなリン酸を持つ農薬、さらにマラチオン、クロルピリホス、ダイアジノンのような使用例が多い有機リン系農薬が存在する。これらの物質の誤検知を防ぐためには、図4Bに示すような信号パターンにより識別するのが有効である。すなわち、上述した各物質により検出セルA〜Dで検出される信号パターンが異なるため、パターン認識法を適用することで、分子量が近く、また構成元素も似通っている不純物が混入していても、検出対象の物質を選択的にかつ高感度に検出することができる。
次に、実施形態の分子検出装置1の複数の検出セルA〜Dに用いられる有機物プローブ12について詳述する。有機物プローブ12を構成する有機化合物は、被検出物2に対する反応基としてヒドロキシ基(−OH)を有している。ただし、OH基のみではほとんどガス成分と反応しない。そこで、水素結合性を高めるために、OH基の隣接部位に誘起効果に優れる官能基(隣接基)を導入した有機化合物を使用する。分子検出装置1の複数の検出セルA〜Dに用いられる複数の有機物プローブ12は、反応基としてのOH基と、反応基と隣接して配置され、シアノ基およびニトロ基から選ばれる少なくとも1つの隣接基とを有する有機化合物からなる有機物プローブを含んでいる。このような有機物プローブを構成する有機化合物の代表例を図5に示す。
図5に示す有機化合物のうち、有機化合物1は反応基(OH基)の隣接基としてシアノ基(−CN)を有しており、有機化合物2は反応基(OH基)の隣接基としてニトロ基(−NO)を有している。有機物プローブを構成する有機化合物は、図5に示すように、反応基と隣接基を有するヘッド部HSを備えている。ヘッド部HSは、OH基とCN基およびNO基から選ばれる少なくとも1つの隣接基を有する1価の芳香族炭化水素基であることが好ましく、さらにOH基とCN基またはNO基とが同一の炭素に結合したアルキル基(炭素数:1〜5程度)を有するフェニル基であることがより好ましい。ヘッド部HSを構成する芳香族炭化水素基(フェニル基)が、反応基および隣接基以外にハロゲンやアルキル基等の置換基を有することを除外するものではない。
有機物プローブを構成する有機化合物は、さらに前述したグラフェン層16等に対する設置部位となるベース部BSと、ヘッド部HSとベース部BSとを結合する結合部CSとを有していることが好ましい。ベース部BSは、ピレン環、アントラセン環、ナフタセン環、フェナントレン環等の多環構造を有する1価の置換または非置換の多環芳香族炭化水素基であることが好ましく、さらに置換または非置換のピレン基であることがより好ましい。結合部CSは2価基であり、メチレン基やエチレン基等のアルキレン基であってもよいが、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−C(=O)O−)、カルボニル結合(−CO−)、アミド結合(−NH−CO−)、イミド結合(−CO−NH−CO−)等であることが好ましく、さらにアミド結合であることがより好ましい。
上述した有機物プローブを構成する有機化合物の具体例としては、OH基とCN基とを有するシアノヒドリンおよびその誘導体が挙げられ、上述したヘッド部HS、結合部CS、およびベース部BSを考慮するとシアノヒドリン誘導体であることが好ましい。シアノヒドリン誘導体は、例えばアルデヒド基(−CHO)を有する芳香族炭化水素にシアン化水素(HCN)やシアン化カリウム(KCN)等を反応させることにより得ることができる。また、OH基とNO基とを有する有機化合物は、例えばニトロアルドール反応により得ることができる。なお、有機物プローブを構成する有機化合物の製造方法は特に限定されず、目的とする化合物構造に応じて適宜に合成反応を選択することができる。
ところで、有機物プローブ12を構成する有機化合物には、上述したように反応基(OH基)と隣接基とを有することが求められる。反応基(OH基)と隣接して配置される置換基(隣接基)としては、例えばトリフルオロメチル基(−CF)やヘキサフルオロエチル基(−C)等のフッ素原子で置換したアルキル基が知られている。そのような置換アルキル基を有する構造としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノール構造(構造A)、α−トリフルオロメチルベンジルアルコール構造(構造B)等が挙げられる。これらの構造は電気陰性度が高いフッ素により反応基(OH基)の活性を高める効果を有する。図6に構造Aを適用した有機化合物3と構造Bを適用した有機化合物4の具体例を示す。有機化合物4は、有機化合物3とは隣接基(CF基)の数が違うため、被検出物2との結合強度が異なる。
また、有機物プローブ12による被検出物2との結合度合いは、反応基(OH基)の数によっても調整できる。有機化合物3や有機化合物4を有機物プローブ12に適用した検出セル101において、被検出物2との結合度合いを変えるためには、検出セル101に設置する有機物プローブ12の密度を調整してもよい。有機物プローブ12の密度を変えるために、例えば図6に示す有機化合物5のように、反応基(OH基)を有しておらず、グラフェン層16と相互作用を有するピレン環等のベース部BSのみを有する有機化合物を、有機化合物3や有機化合物4と混合した状態で、グラフェン層16上に有機物プローブ12を設置する。有機化合物5と有機化合物3や有機化合物4との混合比、すなわち反応基(OH基)の比率により、グラフェン層16の電気的な変化量を変えることができ、これにより検出セル101による検出信号の強度を変えることができる。
上述したフッ素原子を含む隣接基の数調整や反応基(OH基)を有する有機化合物の密度調整のみでは、有機物プローブ12による被検出物2との結合強度差の調整に限界がある。そこで、実施形態の分子検出装置1においては、上述した隣接基としてシアノ基(CN基)やニトロ基(NO基)のような窒素を含む官能基を有する有機化合物(図5に示す有機化合物1や有機化合物2等)からなる有機物プローブ12を用いている。反応基(OH基)の隣接基をフッ素以外の物質に置き換えることによっても、有機物プローブ12と被検出物2との結合強度を変えることができる。シアノ基(CN基)やニトロ基(NO基)も誘起効果に優れるため、反応基(OH基)の機能を強化することができる。
図7に有機化合物1〜4と代表的なガス分子であるDMMPとの相互作用エネルギーを密度汎関数法(B3LYP/6−31+G(d,p))にて計算した結果を示す。隣接基の誘起効果の違いによって、有機化合物とDMMPとの相互エネルギーに差が出ることが理解される。隣接基としてシアノ基(CN基)やニトロ基(NO基)を有する有機化合物からなる有機物プローブ12は、隣接基としてフルオロアルキル基を有する有機化合物からなる有機物プローブに代えて、もしくはそのような有機物プローブと組み合わせて使用することができる。このように、隣接基としてシアノ基やニトロ基を有する有機化合物からなる有機物プローブを用いることによって、有機物プローブ12と被検出物2との結合強度差を多様化することができる。従って、検出セル101による被検出物2の検出信号の強度差に基づく信号パターンを高精細化することができ、被検出物2の検出精度を高めることが可能になる。さらに、多種の被検出物2への対応が可能になる。
分子検出装置1で得られた被検出物2の検出および識別結果は、情報ネットワークを介して送信して活用するようにしてもよい。図8は被検出物2の検出情報を情報ネットワークを介して送信する機能、および検出情報と情報ネットワークから取得する参照情報とを照合する機能から選ばれる少なくとも1つを備える情報処理部30が付属または内設された分子検出装置1を示している。情報処理部30は、被検出物2の検出情報を送信する情報送信部31と、参照情報を受信する情報受信部32と、検出情報を参照情報と照合する情報照合部33とを具備している。情報処理部30は、情報送信機能と情報受信および照合機能のうちの一方のみを有していてもよい。
被検出物2の検出情報は、情報送信部31からネットワークNを介して情報利用者に伝達される。また、被検出物2の検出情報を既存の参照情報と照合するために、ネットワークNを介して情報受信部32により参照情報を取得する。取得した参照情報は、情報照合部53により検出情報と照合される。情報を外部のネットワークNから取得して参照することで、多くの情報を持ち歩いて解析する機能を外部に代替できるため、分子検出装置1を小型化して携帯性を高めることができる。さらに、ネットワークNを利用することで、パターン認識法における新たな信号パターンを即時に取得することもできる。情報を受信した側では、この情報を基に次の行動を起こすことができる。携帯性のある分子検出装置1を各所に配置しておき、得られるデータを各所から集めて分析し、異常事態の避難誘導等に役立てるといった使い方ができる。ネットワークNと分子検出装置1とを結合することで、従来では達し得なかった多くの使い方が生み出され、産業的な価値が向上する。
実施形態の分子検出装置1によれば、pptからppbオーダーの極低濃度のガス成分分子を選択的にかつ高感度に検出することができる。さらに、検出器10および識別器20により検出感度および検出精度を高めることで、分子検出装置1を小型化することができる。従って、携帯性と検出精度とを両立させた分子検出装置1を提供することが可能になる。このような実施形態の分子検出装置1は、災害現場やテロ行為が行われた現場等、各種の現場でその機能を有効に発揮し得るものである。
本実施例では、被検出物として有毒な有機リン系材料であるメチルホスホン酸ジメチル(DMMP、分子量124)を用いる。被検出物であるDMMPは、常温において液体であり、引火点が69℃、沸点が181℃である。蒸気圧は79Pa(20℃)である。常温では液体として安定な性質を持っている。このような液体を気化させるためには、温度を上げて気化を促すのが一般的であるが、より簡便な方法としては液体の表面積を上げるために液体中に不活性な気体を通気する、いわゆるバブリングを行ったり、液体表面に気体を吹き付けて気化を促す方法等が採られる。
このようにして得られる気体の濃度はppm(百万分の1)からppb(十億分の1)程度であり、これを不活性気体と混ぜて濃度を低下させる。本実施例でバブリングを採用し、通気した窒素(N)ガスに含まれるDMMPの濃度を10ppmとする。この気体に第2の窒素ガスを混合してDMMP濃度を低下させる。濃度は100ppt(一兆分の1)以上に任意で調整できるように、ガス濃度調整系統を設定する。数ppbよりも希薄な気体の濃度は、質量分析計で確認することが難しいので、捕集管を用いる。捕集管は時間経過と共にガス成分を吸着濃縮してゆくため、捕集後にガス成分を離脱させて質量分析計にて計測することで、元のガス成分の濃度を推定することができる。
GFETと有機物プローブとを組み合わせた検出素子を、以下のようにして用意する。グラフェン層は、グラファイトからの剥離法による基板へ転写して形成したり、化学気相成長法(CVD)を利用して金属の表面に成長させることにより形成する。金属の表面に成長した単層や複数層のグラフェンをポリマー膜に転写して、所望の電界効果トランジスタ(FET)作製用の半導体基板に再度転写する。例えば、銅箔表面に1000℃程度の条件でメタンガスをフローしたCVDによりグラフェンを形成する。
次に、ポリメチルメタクリレート膜を、スピンコート法を用いて4000rpmで塗布し、逆面の銅箔膜を0.1Mの過硫酸アンモニウム溶液でエッチングし、溶液に浮遊したグラフェン膜を回収する。これでグラフェン膜はポリメチルメタクリレート膜側へ転写される。十分に表面を洗浄した後に、これをシリコン基板上に再度転写する。余分なポリメチルメタクリレート膜は、アセトンにより溶解させて除去する。シリコン基板に転写されたグラフェンには、レジストを塗布してパターニングし、酸素プラズマによって電極間隔10μmのパターンを形成する。電極を蒸着してソース電極とドレイン電極を設けたFET構造を形成する。シリコン基板表面に形成されている酸化膜上にグラフェンが配置され、グラフェンがソース電極とドレイン電極で挟まれると共に、シリコン基板側をゲート電極とするFET型のセンサー構造が形成される。
グラフェンセンサーは、グラフェンがゼロギャップ半導体としての性質を持つことから、ゲート電極に電圧を加えなくともソースとドレインの間に電流が流れる傾向もみられる。このままでもセンサーとして機能するため、グラフェンに物質が衝突することで検出信号を得ることができるが、一般的にはゲート電圧を加えた状態でソースとドレイン間に通電し、物質が接触した場合のゲート電極の電気的変化を観測する。
次いで、グラフェンの表面に有機物プローブを設ける。有機物プローブは、メタノール溶液に10nMの濃度で溶解させて、この中にグラフェンセンサー面を数分間浸漬して設置する。有機物プローブには、前述した有機化合物1、有機化合物2、有機化合物3を用いる。有機物プローブの被検出物に対する作用力は、反応基(OH基)の量により変化する。そこで、有機物プローブを構成する有機化合物を、前述した反応基(OH基)を有しない有機化合物5と混合して有機物プローブの量を調整してもよい。例えば、有機化合物1の溶液を使用する場合、10nMのうちの5nM分を有機化合物5に置き換えることによって、有機化合物1と有機化合物5の割合を1:1に調整することができる。
本実施例では、図9Aに示すように、検出器の検出面に4つの検出セルA〜Dを設け、各々に異なる有機物プローブを設置する。検出セルAには、有機化合物3を有機物プローブとして設置する。検出セルBには、有機化合物1を有機物プローブとして設置する。検出セルCには、有機化合物2を有機物プローブとして設置する。検出セルDは、基準を示す標準セルとするために、反応基を有しない有機化合物5を設置する。前述したように、有機化合物1、有機化合物2、および有機化合物3は、それぞれ被検出物(DMMP)との結合強度が異なっている。従って、検出セルによる被検出物(DMMP)の検出を、前述したパターン認識法により行うことができる。
上記した検出セルA〜Dを有する検出器に、被検出物としてDMMPを含むガスを導入してDMMPの検出を行う。被検出物は、検出セルA〜Dの有機物プローブにそれぞれ捕捉される。検出セルA〜Dの有機物プローブは、それぞれ被検出物との結合強度が異なるため、ゲート電極に検出される信号もそれぞれ異なる。検出セルA〜Dで検出した結果は、信号処理をする識別器に送られて強度に変換される。強度への変換は種々の方法が考えられるが、ここでは図10におけるP1とP2、およびピークの先端であるP3との面積から算出した値を強度として設定する。必ずしもこの方法に限られるものではない。
図9Bないし図9Dに示すように、認識結果は相対的な強度表示となって出力される。図9BはDMMPを被検出物として測定を行った結果を、図9Cはクロロリン酸ジフェニル(dPCP)を検出物として測定を行った結果を示している。図9Dは検出セルDに有機化合物3と有機化合物5との等モル混合物を有機物プローブとして設置した検出器で、DMMPを検出した結果を示している。このように、パターン認識ではセル毎に異なる強度をまとめて解析して、被検出物毎に特有の信号強度パターンを得る。
上述したような信号強度差に基づく信号パターンに基づいて被検出物を識別することによって、pptからppbオーダーの極低濃度の被検出物(ガス成分分子)を選択的にかつ高感度に検出することができる。また、有機物プローブを構成する有機化合物の種類を増やすことによって、被検出物(ガス成分分子)の検出感度や検出精度をより一層向上させることができる。さらに、有機化合物の種類の増加に加えて、検出セルの数を増やしたり、1つの検出セル内に複数の有機化合物からなる有機物プローブを設置することによって、特有の信号パターンをより多様化することができる。従って、被検出物の検出精度の向上や被検出物2の多品種化を図ることが可能になる。
有機物プローブに捕捉された有機リン系材料は、その多くが時間経過の後に解放される(リリース)が、一部は固定化される。何回かセンシングを行った後には、固定化された被検出物である有機リン系材料をリリースする必要が生じる。アルゴンに3%の爆発限界以下の水素を混合した気体を焼成炉内に充填して加熱し、センサーの有機物プローブ面に固定化された被検出物をリリースする。この作業を再活性化(リフレッシュ)と呼ぶ。リフレッシュのためには、200〜400℃程度の温度を20〜30分程度加えることが望ましい。有機物プローブの種類や配置状況を考慮しながら適宜設定する。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

Claims (15)

  1. 反応基の隣接基としてシアノ基またはニトロ基を含む有機物プローブを少なくとも有する複数の検出セルを備える検出器と、
    前記複数の検出セルの信号パターンにより被検出物を識別する識別器と
    を具備する分子検出装置。
  2. 前記有機物プローブは、前記反応基としての水酸基と前記隣接基とを含む1価の芳香族炭化水素基を有するヘッド部と、1価の多環芳香族炭化水素基を有するベース部と、前記ヘッド部と前記ベース部とを結合する2価基を有する結合部とを備える有機化合物からなる、請求項1に記載の分子検出装置。
  3. 前記有機化合物はシアノヒドリン誘導体を含む、請求項2に記載の分子検出装置。
  4. 前記検出セルは、前記有機物プローブが設けられるセンサー部を有し、
    前記センサー部は、グラフェン層と、前記グラフェン層に接続された電極とを有する電界効果トランジスタを備える、請求項1に記載の分子検出装置。
  5. 前記複数の検出セルは格子状に配置されている、請求項1に記載の分子検出装置。
  6. 前記複数の検出セルは、それぞれ1つの前記有機物プローブまたは種類が異なる複数の前記有機物プローブを有する、請求項1に記載の分子検出装置。
  7. 前記検出器は、前記反応基と前記隣接基とを有する第1の有機化合物からなる第1の有機物プローブを有する第1の検出セルと、前記反応基と前記反応基と隣接して配置されたトリフルオロメチル基とを有する第2の有機化合物からなる第2の有機物プローブを有する第2の検出セルとを備える、請求項1に記載の分子検出装置。
  8. 前記検出器は、さらに前記有機物プローブを有しない第3の検出セルを備える、請求項7に記載の分子検出装置。
  9. 前記検出器は、前記反応基と前記隣接基として前記シアノ基とを有する第1の有機化合物からなる第1の有機物プローブを有する第1の検出セルと、前記反応基と前記隣接基として前記ニトロ基とを有する第2の有機化合物からなる第2の有機物プローブを有する第2の検出セルと、前記反応基と前記反応基と隣接して配置されたトリフルオロメチル基とを有する第3の有機化合物からなる第3の有機物プローブを有する第3の検出セルとを備える、請求項1に記載の分子検出装置。
  10. 前記検出器は、さらに前記有機物プローブを有しない第4の検出セルを備える、請求項9に記載の分子検出装置。
  11. 前記被検出物はリンを含有する化合物である、請求項1に記載の分子検出装置。
  12. 反応基の隣接基としてシアノ基またはニトロ基を含む有機物プローブを少なくとも有する複数の検出セルで被検出物を検出する工程と、
    前記複数の検出セルの信号パターンにより前記被検出物を識別する工程と
    を具備する分子検出方法。
  13. 前記複数の検出セルにおける前記有機物プローブは、前記反応基と前記隣接基とを有する第1の有機化合物からなる第1の有機物プローブと、前記反応基と前記反応基と隣接して配置されたトリフルオロメチル基とを有する第2の有機化合物からなる第2の有機物プローブとを含む、請求項12に記載の分子検出方法。
  14. 前記被検出物はリンを含有する化合物である、請求項12に記載の分子検出方法。
  15. 分子検出装置の検出セルで被検出物の捕捉に用いられる有機物プローブであって、
    反応基の隣接基としてシアノ基またはニトロ基を含む有機物プローブ。
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