JP2010025719A - 化学物質センシング素子、化学物質センシング装置、及び、化学物質センシング素子の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、雰囲気中の特定物質を検出するための化学物質センシング素子に関し、特には、化学物質センシング素子のセンシング対象ガスに対する感度及び選択性を改善し、迅速かつ簡便な検出を可能にする技術に関する。
わが国は高齢化及び少子化が進んでおり、近い将来に国民の3人に1人が65歳以上になるという超高齢化社会の到来が予測されている。このような状況下において急務とされているのが、国民医療費の抑制である。このため、予防医療の充実が注目されている。予防医療が充実することで病気になる人が減少すれば、医療費を軽減させることができるからである。
予防医療を充実させるためには、身近な機器で測定した健康情報を活用して健康管理を行なうことができるシステムが必要である。手軽に個人の健康状態を把握するための指標として、血液、尿、汗、唾液及び呼気等の生体試料がある。このような生体試料中には、血液における血糖値のように、疾病又はその兆候に起因して数値が変化する物質(以下、「マーカ」と記す。)が複数含まれている。したがって、マーカの変化量を測定することによって個人の健康状態を把握できる可能性が高く、マーカの測定を常時行なうことで、健康管理及び疾病の早期発見が可能になる。上述の生体試料の中でも、呼気は、複数種のマーカを含む点、迅速かつ簡便にサンプリング及び測定ができる点、及び、測定対象がガス状であり非侵襲で測定できるため肉体的なダメージが小さい点等から、測定に最適な生体試料であると言える。
非特許文献1には疾病と呼気中のマーカとの関係が示されている。テーブル1にこの一部を引用する。
呼気中のマーカの測定方法として、ガスクロマトグラフィー及び化学発光法が知られているが、これらの測定方法においては測定機器が大型かつ高額であり、また操作方法の習熟も必要であるため実用的ではない。また、酸化物半導体ガスセンサによる測定も知られているが、検出限界が103ppmレベルと感度が低く、ppbからppmオーダーの濃度である呼気中のマーカの測定には適していない。更に、ガスセンサとして作動するためには300℃に加熱する必要があるため実用的ではない。
このような問題を解決するための一方法として、非特許文献2には、カーボンナノチューブ(以下、「CNT(Carbon Nano Tube)」と記す場合がある。)を利用したガスセンサが提案されている。CNTは直径がナノオーダーのチューブ状炭素材料であり、グラフェンシートを円筒状に丸めた構造によりなる。このグラフェンシートとは、6つの炭素原子が正六角形の板状構造を形成して結合したグラファイト構造が二次元に連続して形成されたものである。CNTは高い導電性を有し、かつナノオーダーの材料であるため、非特許文献2に開示されるガスセンサは、超小型化、低消費電力及びポータブルを実現可能であり、簡便で実用的な健康チェック手段として最適である。しかしながら、センシング対象ガスに対する選択性が低いために、どのような分子が接近しても同じように抵抗変化を起こしてしまい、雰囲気中に存在する物質の定性分析ができないという問題がある。
呼気中のマーカの1つである一酸化窒素(NO)は、テーブル1に示すように、喘息患者の呼気中において高濃度で検出される。また、生体内の神経伝達物質の一つであり、免疫反応及び血圧調整等においても重要な役割を果たすことが知られている。そのため、呼気中の一酸化窒素(NO)の濃度を検出することで疾病の予測及び程度等を知ることが可能であり、高性能な一酸化窒素センサ(以下「NOセンサ」と記す。)の実現が望まれている。
非特許文献3には、CNTを利用したNOセンサが提案されている。非特許文献3に開示されるNOセンサは、CNT表面を特定の物質と反応する物質で修飾することにより、センシング対象ガスに対する選択性を向上させている。すなわち、二酸化窒素(NO2)と反応するポリエチレンイミンにより表面を修飾されたCNTを利用し、更に一酸化窒素から二酸化窒素へと変換する触媒を設けることによって、呼気内の特定のマーカである一酸化窒素(NO)を検出している。
ウェンチン・ツァオら、「呼気分析:臨床診断及び曝露評価の可能性」、クリニカル・ケミストリ、第52巻:5、p.800−p.811、2006年(Wenqing Cao et al.、"Breath Analysis:Potential for Clinical Diagnosis and Exposure Assessment"、Clinical Chemistry、vol.52:5、p.800−p.811、2006) 齋藤理一郎、「カーボンナノチューブの概要と課題」、機能材料、vol.21、No.5、p.6−p.14、2001年5月号 アレクサンダー スターら、「呼気成分のためのカーボンナノチューブセンサ」、ナノテクノロジー、第18巻、p.375502(7pp)、2007年(Alexander Star et al.、"Carbon nanotube sensors for exhaled breath components"、Nanotechnology、vol.18、p.375502(7pp)、2007)
ウェンチン・ツァオら、「呼気分析:臨床診断及び曝露評価の可能性」、クリニカル・ケミストリ、第52巻:5、p.800−p.811、2006年(Wenqing Cao et al.、"Breath Analysis:Potential for Clinical Diagnosis and Exposure Assessment"、Clinical Chemistry、vol.52:5、p.800−p.811、2006) 齋藤理一郎、「カーボンナノチューブの概要と課題」、機能材料、vol.21、No.5、p.6−p.14、2001年5月号 アレクサンダー スターら、「呼気成分のためのカーボンナノチューブセンサ」、ナノテクノロジー、第18巻、p.375502(7pp)、2007年(Alexander Star et al.、"Carbon nanotube sensors for exhaled breath components"、Nanotechnology、vol.18、p.375502(7pp)、2007)
一般的に、健康な人の呼気中における一酸化窒素濃度は10ppb程度であり、喘息患者の呼気中における一酸化窒素濃度は50ppb程度であるため、呼気中の一酸化窒素(NO)を検出するためのNOセンサは、検出下限がppbレベルと高感度のものが要求される。非特許文献3に開示されるNOセンサでは、このような呼気中の一酸化窒素(NO)を検出できるレベルの高感度化は達成されていない。
また、非特許文献3に開示されるNOセンサは、使用される触媒が湿度15%〜30%程度の環境下でなければ正常に作動しないため、測定対象ガスの湿度を調整しなければならない。また正確な一酸化窒素量を検出するためには、センシング対象ガスに含まれている二酸化窒素(NO2)を予め除去しなければならない。したがって、非特許文献3に開示されるNOセンサによって呼気中の一酸化窒素(NO)を測定する場合には、触媒だけなく、呼気内に4%程度含まれている二酸化窒素(NO2)の除去及び湿度の調整等の前処理に必要な構成を設けなければならず、装置が大型化してしまうという問題がある。また、測定に多段階の工程を必要とするため測定時間が長くなってしまうという問題がある。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、一酸化窒素(NO)を高選択的及び高感度に検出でき、更に装置の小型化及び測定時間の短縮化を達成できる化学物質センシング素子、化学物質センシング装置、及び、化学物質センシング素子の製造方法を提供することである。
本発明の第1の局面に係る化学物質センシング素子は、下記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体を含む。これにより、雰囲気中の特定物質を高選択的及び高感度に検出できる。また、雰囲気中の特定物質を他の物質へ変換することなく直接検出できるので、変換に要する構成及び工程、並びに、変換に伴う前処理に要する構成及び工程を省くことができる。したがって、素子の小型化及び測定時間の短縮化を達成できる。
好ましくは、カーボンナノ構造体は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン及びフラーレンからなるグループから選択される炭素系導電性材料からなる。このようなグループから選択されるカーボンナノ構造体は、その形状がナノオーダーの微細構造であることから、応答性及び検出下限が大幅に向上する。したがって、従来のセンシング素子では困難であった微量の特定物質の検出が可能になる。
更に好ましくは、特定物質は、一酸化窒素である。これにより、一酸化窒素を高選択的及び高感度に検出できる。また、一酸化窒素を二酸化窒素へ変換することなく直接検出できるので、変換に要する構成及び工程、並びに、変換に伴う前処理に要する構成及び工程を省くことができる。したがって、素子の小型化及び測定時間の短縮化を達成できる。
更に好ましくは、カーボンナノ構造体は、当該カーボンナノ構造体1mgに対して0.027mg〜0.27mgの金属錯体により表面修飾されている。これにより、化学物質センシング素子の抵抗をセンシングの感度が最適になるようにすることができるので、雰囲気中の特定物質をより高選択的及び高感度に検出することができる。
更に好ましくは、X+は、ナトリウムイオン及びテトラフェニルホスホニウムイオンからなるグループから選択される陽イオンである。これにより、金属錯体はより安定して存在できるようになるので、化学物質センシング素子の特定物質に対する選択的な反応性をより安定して確実に得ることができる。したがって、特定物質をより一層高選択的及び高感度に検出できる。
本発明の第2の局面に係る化学物質センシング装置は、上述の化学物質センシング素子と、化学物質センシング素子に電気的に接続され、化学物質センシング素子の電気抵抗の変化を検出するための検出手段とを含む。このように、化学物質センシング装置は上述の化学物質センシング素子を含むので、雰囲気中の特定物質を高選択的及び高感度に検出でき、更に装置の小型化及び測定時間の短縮化を達成できる。
本発明の第3の局面に係る化学物質センシング素子の製造方法は、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体と溶剤とを含む表面修飾用溶液を調製する第1のステップと、表面修飾用溶液に対してカーボンナノ構造体を投入した後、超音波を照射する第2のステップとを含み、第1のステップ及び第2のステップによって、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体を作製する。このように、超音波を用いることでカーボンナノ構造体を表面修飾用溶液に均一に分散させることができるので、金属錯体でカーボンナノ構造体表面を均一に修飾できる。したがって、雰囲気中の特定物質をより高選択的及び高感度に検出することができる化学物質センシング素子を製造することができる。また、超音波照射により発生する熱を利用して溶剤を蒸発させて除去することができるので、カーボンナノ構造体の分散及び溶剤の除去を単一の工程で行なうことができ、短時間で化学物質センシング素子を製造することができる。
好ましくは、化学物質センシング素子の製造方法は、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体を含むシート状の基体を作製する第3のステップを更に含む。これにより、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体を、雰囲気中の特定物質に対して均一な状態で反応させることができるので、特定物質をより一層高選択的及び高感度に検出することができる化学物質センシング素子を製造することができる。
更に好ましくは、第3のステップは、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体が分散された分散液を調製するステップと、分散液をろ過するステップとを含む。これにより、均一に表面修飾されたカーボンナノ構造体を含む基体を、均一な厚みで、かつ短時間で形成することができる。
本発明の第4の局面に係る化学物質センシング素子の製造方法は、カーボンナノ構造体を含むシート状の基体を作製する第1のステップと、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体と溶剤とを含む表面修飾用溶液を調製する第2のステップと、表面修飾用溶液を基体表面に塗布する第3のステップとを含み、第1のステップ〜第3のステップによって、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体を含む基体を作製する。
このように、第1のステップにおいて、カーボンナノ構造体を含むシート状の基体を作製することにより、カーボンナノ構造体を、雰囲気中の特定物質に対して均一な状態で反応させることができるので、特定物質をより一層高感度に検出することができる化学物質センシング素子を製造することができる。また、第2のステップ及び第3のステップにおいて、表面修飾用溶液を塗布することで、金属錯体によりカーボンナノ構造体表面を均一に修飾できる。したがって、特定物質をより高選択的及び高感度に検出することができる化学物質センシング素子を製造することができる。また、表面修飾用溶液を塗布することにより溶剤が蒸発しやすくなるので、カーボンナノ構造体の分散及び溶剤の除去を単一の工程で行なうことができ、短時間で化学物質センシング素子を製造することができる。
好ましくは、第1のステップは、カーボンナノ構造体が分散された分散液を調製するステップと、分散液をろ過するステップとを含む。これにより、カーボンナノ構造体を含む基体を、均一な厚みで、かつ短時間で形成することができる。
本発明によれば、化学物質センシング素子は、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体を含む。これにより、雰囲気中の特定物質を高選択的及び高感度に検出できる。また、雰囲気中の特定物質を他の物質へ変換することなく直接検出できるので、変換に要する構成及び工程、並びに、変換に伴う前処理に要する構成及び工程を省くことができる。したがって、素子の小型化及び測定時間の短縮化を達成できる。
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。以下の説明及び図面においては、同一の部品には同一の参照符号及び名称を付してある。それらの機能も同様である。したがって、それらについての詳細な説明をその都度繰返すことはしない。
−構成−
図1は、本発明の一実施の形態に係る化学物質センシング素子32を含む化学物質センシング装置20の構成図である。図1を参照して、化学物質センシング装置20は、直流電源30と、直流電源30のプラス端子に一端が接続された、本実施の形態に係る化学物質センシング素子32と、化学物質センシング素子32の他端と直流電源30のマイナス端子との間に接続された負荷抵抗34と、化学物質センシング素子32と負荷抵抗34との間の接点に入力が接続され、この接点の電位変化を増幅するための増幅器36とを含む。雰囲気中の化学物質の検出時には、この電位変化を測定するために、増幅器36の他方の端子に直流電圧計(図示せず。)が接続される。
図1は、本発明の一実施の形態に係る化学物質センシング素子32を含む化学物質センシング装置20の構成図である。図1を参照して、化学物質センシング装置20は、直流電源30と、直流電源30のプラス端子に一端が接続された、本実施の形態に係る化学物質センシング素子32と、化学物質センシング素子32の他端と直流電源30のマイナス端子との間に接続された負荷抵抗34と、化学物質センシング素子32と負荷抵抗34との間の接点に入力が接続され、この接点の電位変化を増幅するための増幅器36とを含む。雰囲気中の化学物質の検出時には、この電位変化を測定するために、増幅器36の他方の端子に直流電圧計(図示せず。)が接続される。
図2は、化学物質センシング素子32の構成を示す図であり、図2(A)は側面図であり、図2(B)は上面図である。図2を参照して、化学物質センシング素子32は、後述する金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体の集合体からなる化学物質センシング部42と、化学物質センシング部42の両端に配置される電極44及び電極46と、これらが表面に設置される基板48とを含む。
以下、化学物質センシング素子32を構成する化学物質センシング部42、電極44及び電極46、並びに基板48について詳細に説明する。
[化学物質センシング部42]
化学物質センシング部42は、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体の集合体からなる。カーボンナノ構造体の表面に化学物質が付着すると、電子移動が起こり起電力が発生する。言い換えれば、カーボンナノ構造体の2点間に電位差又は電気抵抗の変化が生じる。この電気抵抗の変化を検出すれば、化学物質の検出(センシング)が可能となる。また、ある特定物質と選択的に反応する金属錯体等の物質によりカーボンナノ構造体の表面を修飾すると、上述の電気抵抗の変化は、表面に修飾された物質の挙動に連動するようになるので、特定物質のみを検出できる化学物質センシング素子32を得ることができる。
化学物質センシング部42は、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体の集合体からなる。カーボンナノ構造体の表面に化学物質が付着すると、電子移動が起こり起電力が発生する。言い換えれば、カーボンナノ構造体の2点間に電位差又は電気抵抗の変化が生じる。この電気抵抗の変化を検出すれば、化学物質の検出(センシング)が可能となる。また、ある特定物質と選択的に反応する金属錯体等の物質によりカーボンナノ構造体の表面を修飾すると、上述の電気抵抗の変化は、表面に修飾された物質の挙動に連動するようになるので、特定物質のみを検出できる化学物質センシング素子32を得ることができる。
上記一般式(1)を参照して、金属錯体は、中心金属原子(M)及びこの中心金属原子(M)に配位する配位子からなる錯イオンと、その対イオンである一価の陽イオン(X+)とを含む。中心金属原子(M)は、鉄原子(Fe)及びコバルト原子(Co)からなるグループから選択される金属原子であり、特には3価の金属原子、すなわちFe(III)又はCo(III)であることが好ましい。配位子は、平面四配位型の配位構造を形成する。この配位子において、中心金属原子(M)に配位する四つの原子(以下「配位原子」と記す場合がある。)のうち隣接する二つの原子はアミド性窒素原子(N)であり、それ以外の二つの原子はチオール性硫黄原子(S)である。ここで、アミド性窒素原子(N)とは、カルボニルとアミンとにより構成される二級アミド基(−CONH−)からプロトン(H)を除いた基を構成する窒素原子、すなわち、−CON−−で表される基を構成する窒素原子のことを示す。また、チオール性硫黄原子とは、チオール基(−SH)からプロトン(H)を除いた基を構成する硫黄原子、すなわち、−S−で表される基を構成する硫黄原子のことを示す。配位原子は、それぞれが有する非共有電子対を中心金属原子(M)に対して供与する電子対供与体であり、これらの配位原子が平面四配位型の配位構造をとることにより、中心金属原子(M)に対する電子対の供与がより効果的になされている。また、一般式(1)において、nは2〜3の整数であり、mは0〜1の整数である。
このような金属錯体は、雰囲気中の一酸化窒素分子(NO)と選択的に反応する性質、すなわち、一酸化窒素分子(NO)に対する反応性に比べて、他の化学種に対する反応性が著しく低い性質を有する。そのため、他の化学種は金属錯体に吸着しにくい。これは、本実施の形態に用いられる金属錯体が、電子供与性の大きい4つの配位原子を有し、かつ平面四配位型の配位構造を形成しており、中心金属原子(M)に対する電子対の供与が効果的になされているためであると考えられる。また、外因性分子により配位子のカルボニル酸素に対して形成される水素結合も、一酸化窒素分子(NO)に対する選択的な反応性を示すための一因となっていると考えられる。
本実施の形態に係る化学物質センシング部42は、このような金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体の集合体からなるので、一酸化窒素を高選択的及び高感度に検出できる。また、一酸化窒素を二酸化窒素へ変換することなく直接検出できるので、変換に要する構成及び工程、並びに、変換に伴う前処理に要する構成及び工程を省くことができる。したがって、小型化及び測定時間の短縮化を達成できる化学物質センシング素子42を得ることができる。
上記一般式(1)において、対イオン(X+)は、ナトリウムイオン及びテトラフェニルホスホニウムイオンからなるグループから選択される陽イオンであることが好ましく、更には、ナトリウムイオンであることが好ましい。これにより、金属錯体はより安定して存在できるようになるので、化学物質センシング部42の一酸化窒素分子(NO)に対する選択的な反応性をより安定して確実に得ることができる。したがって、一酸化窒素(NO)をより一層高選択的及び高感度に検出できる。また、上述の陽イオンの中でも、対イオン(X+)は、ナトリウムイオンであることが特に好ましい。対イオン(X+)がナトリウムイオンである場合、金属錯体はその結晶格子中に外因性分子である結晶水を含む。この結晶水は、配位子のカルボニル酸素と水素結合により相互作用し、これにより、一酸化窒素(NO)に対する選択的な反応性がより一層発現しやすくなることが考えられる。
以下、一般式(1)で表される金属錯体の代表的なものについて具体的な構造を記す。
カーボンナノ構造体は、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン及びフラーレンからなるグループから選択される炭素系導電性材料からなることが好ましく、更にはCNTからなることが好ましい。このようなカーボンナノ構造体は、従来の方法を用いて生成したものを使用できる。また、不純物除去のために塩酸により処理されたものを使用することもできる。上述のグループから選択されるカーボンナノ構造体は、その形状がナノオーダーの微細構造であることから、応答性及び検出下限が大幅に向上する。すなわち、化学物質がカーボンナノ構造体表面に付着してからカーボンナノ構造体の電気抵抗変化が発生するまでの時間は、カーボンナノ構造体の導電性及びナノ構造に起因して非常に短くなる。また、カーボンナノ構造体における、表面積が大きいという特徴点、及び、全ての構成原子が表面を構成しているという特徴点に起因して、化学物質による付着の影響が電気抵抗に反映される際の電子散乱等による損失が非常に少なくなる。したがって、上述のグループから選択されるカーボンナノ構造体は、従来のセンシング素子では困難であった、例えば10ppb〜100ppb程度の微量の特定物質、本実施の形態では一酸化窒素(NO)の存在確認が可能になる。カーボンナノ構造体がカーボンナノチューブからなる場合には、上述の効果がより顕著に発現する。このように、ppbオーダの微量の一酸化窒素(NO)を検出できるようになることにより、呼気中のマーカの測定が可能な化学物質センシング素子42を得ることができる。したがって、手軽に個人の健康状態を把握することができるようになる。
また、化学物質センシング部42として、このような導電性を有するカーボンナノ構造体に金属錯体が表面修飾されたものを使用するので、その導電性の変化、すなわち抵抗の変化を測定することで雰囲気中の特定物質の検出が可能になる。したがって、金属錯体を含む電解液の電気化学的挙動の変化を利用する化学物質センシング素子等と比較して、電解質等の構成を設ける必要がないため、より素子の小型化を達成できる。
[電極44及び電極46]
電極44及び電極46の構成材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、タングステン又はそれらの合金等からなるものを使用できる。電極44と電極46との電極間距離としては、特定物質のセンシングが可能な距離であれば特に限定されるものではないが、1.0cm〜2.0cmであることが好ましい。電極44及び電極46は、蒸着法又は導電性ペーストを塗布する方法等の公知の方法によって、化学物質センシング部42上に形成できる。
電極44及び電極46の構成材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、タングステン又はそれらの合金等からなるものを使用できる。電極44と電極46との電極間距離としては、特定物質のセンシングが可能な距離であれば特に限定されるものではないが、1.0cm〜2.0cmであることが好ましい。電極44及び電極46は、蒸着法又は導電性ペーストを塗布する方法等の公知の方法によって、化学物質センシング部42上に形成できる。
[基板48]
基板48の構成材料としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではないが、シリコン、石英、ガラス、又は、フッ素樹脂等の高分子材料からなるものを使用できる。基板48の厚みとしては、適度な機械的強度を有するものであれば特に限定されるものではないが、100μm〜1000μmであることが好ましい。基板48としては、テフロン(登録商標)製のメンブレンフィルタ(例えば、市販品(商品名:OMNIPORETM MEMBRANE FILTERS 0.2μm(孔径) JG、MILLIPORE社製)等)を使用することが好ましい。
基板48の構成材料としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではないが、シリコン、石英、ガラス、又は、フッ素樹脂等の高分子材料からなるものを使用できる。基板48の厚みとしては、適度な機械的強度を有するものであれば特に限定されるものではないが、100μm〜1000μmであることが好ましい。基板48としては、テフロン(登録商標)製のメンブレンフィルタ(例えば、市販品(商品名:OMNIPORETM MEMBRANE FILTERS 0.2μm(孔径) JG、MILLIPORE社製)等)を使用することが好ましい。
−化学物質センシング素子32の製造方法−
以下、化学物質センシング素子32の製造方法の一例である第1の製造方法と、他の一例である第2の製造方法とについて説明する。
以下、化学物質センシング素子32の製造方法の一例である第1の製造方法と、他の一例である第2の製造方法とについて説明する。
(第1の製造方法)
図3(A)〜図3(D)は、化学物質センシング部42の製造方法の一例を説明するための図である。第1の製造方法は、図3(A)から図3(D)の順に進行する、後述する第1のステップ〜第3のステップを含む。図3(A)及び図3(B)を参照して、第1のステップでは、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体と溶剤とを含む表面修飾用溶液50を調製し、第2のステップでは、表面修飾用溶液50に対してカーボンナノ構造体52を投入した後、超音波54を照射する。超音波を照射する時間としては、金属錯体による表面修飾が確実になされる時間であれば特に限定されないが、例えば、溶剤が全て蒸発するまで照射する。これによって、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体(以下、「表面修飾カーボンナノ構造体」と記す。)を作製できる。このように、超音波照射を用いて表面修飾を行なう方法を、以下、溶剤除去法と呼ぶ。
図3(A)〜図3(D)は、化学物質センシング部42の製造方法の一例を説明するための図である。第1の製造方法は、図3(A)から図3(D)の順に進行する、後述する第1のステップ〜第3のステップを含む。図3(A)及び図3(B)を参照して、第1のステップでは、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体と溶剤とを含む表面修飾用溶液50を調製し、第2のステップでは、表面修飾用溶液50に対してカーボンナノ構造体52を投入した後、超音波54を照射する。超音波を照射する時間としては、金属錯体による表面修飾が確実になされる時間であれば特に限定されないが、例えば、溶剤が全て蒸発するまで照射する。これによって、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体(以下、「表面修飾カーボンナノ構造体」と記す。)を作製できる。このように、超音波照射を用いて表面修飾を行なう方法を、以下、溶剤除去法と呼ぶ。
表面修飾用溶液50において金属錯体を溶解させる溶剤としては、超音波照射によって蒸発するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセトン、メタノール又はエタノール等がある。これらの中でも、沸点が低く揮発性の高いアセトンが特に好ましい。照射する超音波54の周波数としては、溶剤が蒸発する程度に適宜設定されればよいが、40kHz〜60kHzであることが好ましい。超音波54の照射は、一般的に用いられる超音波洗浄器(例えば、市販品(商品名:シュアー超音波洗浄器CS−20、株式会社石崎電機製作所製))等の超音波発生装置を用いて行なうことができる。上述のようにして作製された表面修飾カーボンナノ構造体は、更に、減圧下で一定時間乾燥させることが好ましい。減圧条件としては、溶剤が完全に除去できる条件であれば特に限定されるものではないが、1.0×10−6MPa〜1.0×10−5MPaで1時間〜3時間乾燥させることが好ましい。
図4は、金属錯体の表面修飾量の変化に対する化学物質センシング素子32の線抵抗の変化を示すグラフである。ここで、表面修飾量とは、1mgのカーボンナノ構造体52に対して表面修飾される金属錯体の量(mg/mg)であり、線抵抗とは、化学物質センシング素子32の全体の抵抗値を電極44と電極46との電極間距離で除した値のことである。本明細書中において、抵抗値とは、抵抗値測定装置(商品名:3468A MULTIMETER、Hewlett−Packard(hp)社製)を使用して測定した値である。
図4を参照して、化学物質センシング素子32の線抵抗は、金属錯体の表面修飾量の増加にともなって増大する。これは、以下のような理由による。図5は、金属錯体により表面修飾されたCNTからなる化学物質センシング部42の電子像であり、図5(A)は透過電子像であり、図5(B)はコバルト(Co)元素の元素分布像であり、図5(C)は硫黄(S)元素の元素分布像である。なお、図5に示す電子像は、エネルギーフィルター型透過型電子顕微鏡(以下「EF−TEM(Energy filtered−Transmission Electron Microscope)」と記す。)を使用して、倍率15万倍で撮影したものである。図5を参照して、金属錯体により表面修飾されたCNTからなる化学物質センシング部42において、金属錯体は、CNT同士が接触する部分、すなわち接点に存在することが判る。金属錯体の表面修飾量が増加すると接点に存在する金属錯体の量が増え、金属錯体は導電性を有しないので、これにより化学物質センシング素子32全体の線抵抗が増大するようになる。したがって、金属錯体による表面修飾量を制御することによって、一酸化窒素(NO)に対するセンシングの感度を制御することができる。
次いで、図4を参照して、金属錯体の好ましい表面修飾量について説明する。化学物質センシング素子32の線抵抗は、センシングの感度が最適になる100kΩ/cm以下となるようにすることが好ましい。したがって、金属錯体の好ましい表面修飾量としては、化学物質センシング素子32の線抵抗が100kΩ/cm以下となる0.027mg/mg〜0.27mg/mgであることが好ましい。このように、カーボンナノ構造体52が、1mgの当該カーボンナノ構造体52に対して0.027mg〜0.27mgの金属錯体により表面修飾されることにより、化学物質センシング素子32の線抵抗をセンシングの感度が最適になる100kΩ/cm以下となるようにすることができるので、一酸化窒素(NO)をより高選択的及び高感度に検出することができる。表面修飾量が0.027mg/mgより少なくなると、化学物質センシング素子32の検出感度が小さくなりすぎ、一酸化窒素(NO)に対する応答が確認できなくなるおそれがある。また、カーボンナノ構造体52のみでも雰囲気中のガス成分をセンシングすることができるので、一酸化窒素(NO)とそれ以外のガス成分との判別が困難になるおそれがある。表面修飾量が0.27mg/mgより多くなると、化学物質センシング素子32の抵抗値が大きくなりすぎて、化学物質センシング素子32から出力される信号の検出が困難になるおそれがある。
溶剤除去法においては、表面修飾用溶液50中の金属錯体の濃度及び表面修飾用溶液50の使用量を調整することで、カーボンナノ構造体52に対する金属錯体の表面修飾量を制御することができる。表面修飾量が上述の範囲内になるように制御するためには、例えば、2mgのカーボンナノ構造体52に対して、例示化合物(1)の濃度が0.02mmol/L〜0.2mmol/Lの表面修飾用溶液50を1mL〜10mL使用することが好ましい。この場合、0.02mmol/Lの濃度の表面修飾用溶液50を10mL使用したときと、0.2mmol/Lの濃度の表面修飾用溶液50を1mL使用したときとでは金属錯体の表面修飾量は同じになるが、表面修飾に要する時間及びコスト等を考慮すると、表面修飾用溶液50の使用量が少なくてすむ後者の方が好ましい。
このように、第1の製造方法は、第1のステップ及び第2のステップを経て溶剤除去法により表面修飾カーボンナノ構造体を作製する。すなわち、第1のステップにおいて、一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質である一酸化窒素(NO)と選択的に反応する金属錯体と溶剤とを含む表面修飾用溶液50を調製し、第2のステップにおいて、表面修飾用溶液50に対してカーボンナノ構造体52を投入した後、超音波54を照射する。このように、超音波54を用いることでカーボンナノ構造体52を表面修飾用溶液50に均一に分散させることができるので、図5に示すように、金属錯体でカーボンナノ構造体52表面を均一に修飾できる。したがって、一酸化窒素(NO)をより高選択的及び高感度に検出することができる化学物質センシング素子32を製造することができる。また、超音波照射により発生する熱を利用して溶剤を蒸発させて除去することができるので、カーボンナノ構造体52の分散及び溶剤の除去を単一の工程で行なうことができ、短時間で化学物質センシング素子32を製造することができる。
図3(C)及び図3(D)を参照して、第3のステップでは、第1のステップ及び第2のステップにより作製された表面修飾カーボンナノ構造体を含むシート状の基体56を作製する。この第3のステップは、表面修飾カーボンナノ構造体が分散された分散液58を調製するステップと、分散液58をろ過するステップとを含むことが好ましい。
分散液58において表面修飾カーボンナノ構造体を分散させる溶剤としては、表面修飾カーボンナノ構造体が分散でき、かつ、金属錯体が溶解しないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水、酢酸エチル、n−ヘキサン又はジエチルエーテル等がある。これらの中でも、安全性及びコストの点から水が特に好ましい。このような溶剤を用いて表面修飾カーボンナノ構造体を分散させることにより、均一に表面修飾されたカーボンナノ構造体を含む基体56を、均一な厚みで形成することができる。表面修飾カーボンナノ構造体を分散させる溶剤として金属錯体が溶解する溶剤を用いた場合には、カーボンナノ構造体に物理的に付着している金属錯体が溶出してしまい、センシング感度が悪化するおそれがある。また、表面修飾カーボンナノ構造体が分散しにくい溶剤を用いた場合には、表面修飾カーボンナノ構造体が局所的に凝集するために、均一な厚みの基体56が形成されないおそれがある。分散液58に使用する溶剤の量は、分散させる表面修飾カーボンナノ構造体の使用量に応じて、適宜設定されればよい。
ろ過に用いるろ材60としては、絶縁性を有し、かつ適度な機械的強度を有するものであれば特に限定されるものではないが、フッ素樹脂等の高分子材料からなるメンブレンフィルタ、銀メンブレンフィルタ、ガラス繊維ろ紙又はろ紙等を使用できる。これらの中でも、コスト面や取扱いの容易さから、テフロン(登録商標)製のメンブレンフィルタを使用することが特に好ましい。ろ過方法としては、減圧ろ過又は自然ろ過等の一般的な方法を使用できるが、ろ過速度が速く、かつ、均一な厚みの基体56を形成しやすい点から減圧ろ過を使用することが好ましい。自然ろ過を用いる場合には、ろ過速度が遅いため基体56の形成に長時間を要するおそれがあり、また均一な厚みの基体56を形成できないおそれがある。減圧ろ過は、ブフナー漏斗62及び吸引瓶(図示せず。)等からなる減圧ろ過装置を用いて行なうことが好ましく、更には、分散液58をブフナー漏斗62内に注入した後減圧することが好ましい。減圧後に分散液58を注入した場合には、中央部の厚みが他の部分の厚みよりも大きい基体56が形成されてしまうおそれがある。上述のようにして作製された基体56は、乾燥させることが好ましい。なお、基体56は、基板48及び化学物質センシング部42からなり、この場合、基板48はろ材60であり、化学物質センシング部42はろ材上に残るろ物64である。
このように、第1の製造方法は、第3のステップにおいて、表面修飾カーボンナノ構造体を含むシート状の基体56を作製する。これにより、表面修飾カーボンナノ構造体を、雰囲気中の特定物質である一酸化窒素(NO)に対して均一な状態で反応させることができるので、一酸化窒素(NO)をより一層高選択的及び高感度に検出することができる化学物質センシング素子32を製造することができる。更には、表面修飾カーボンナノ構造体を含む基体56を、表面修飾カーボンナノ構造体が分散された分散液58を調製し、この分散液を減圧ろ過等によって乾燥させることで作製する。これにより、均一に表面修飾されたカーボンナノ構造体を含む基体56を、均一な厚みで、かつ短時間で形成することができる。
第3のステップにおいて作製された表面修飾カーボンナノ構造体を含む基体56は、必要に応じて、短冊状等の所望の形状及び所望の大きさになるようにカッティングされる。その後、化学物質センシング部42表面の両端部に蒸着法又は導電性ペーストを塗布する方法等の公知の方法によって、所望の電極間距離となるように電極44及び電極46が形成され、これにより、本実施の形態に係る化学物質センシング素子32が製造できる。
(第2の製造方法)
第2の製造方法は、後述する第1のステップ〜第3のステップを含む。第1のステップでは、未修飾のカーボンナノ構造体を含むシート状の基体を作製する。この第1のステップは、未修飾のカーボンナノ構造体が分散された分散液を調製するステップと、分散液をろ過するステップとを含むことが好ましい。
第2の製造方法は、後述する第1のステップ〜第3のステップを含む。第1のステップでは、未修飾のカーボンナノ構造体を含むシート状の基体を作製する。この第1のステップは、未修飾のカーボンナノ構造体が分散された分散液を調製するステップと、分散液をろ過するステップとを含むことが好ましい。
分散液において未修飾のカーボンナノ構造体を分散させる溶剤としては、未修飾のカーボンナノ構造体が分散できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、エタノール、メタノール又はアセトン等がある。これらの中でも、安全性の点からエタノールが特に好ましい。このような溶剤を用いて未修飾のカーボンナノ構造体を分散させることにより、未修飾のカーボンナノ構造体を含む基体を、均一な厚みで形成することができる。溶剤として未修飾のカーボンナノ構造体が分散しにくい溶剤を用いた場合には、未修飾のカーボンナノ構造体が局所的に凝集するために、均一な厚みの基体が形成されないおそれがある。分散液に使用する溶剤の量は、分散させる未修飾のカーボンナノ構造体の使用量に応じて、適宜設定されればよい。上述のようにして作製された基体は、乾燥させることが好ましい。
ろ過に用いるろ材及びろ過方法としては、上述の第1の製造方法における第3のステップにて使用されるものと同一のろ材及び同一の方法を使用できるので、それらについての詳細な説明は繰返さない。
このように、第2の製造方法は、第1のステップにおいて、未修飾のカーボンナノ構造体を含むシート状の基体を作製する。これにより、カーボンナノ構造体を、雰囲気中の特定物質である一酸化窒素(NO)に対して均一な状態で反応させることができるので、一酸化窒素(NO)をより一層高感度に検出することができる化学物質センシング素子32を製造することができる。更には、未修飾のカーボンナノ構造体を含む基体を、未修飾のカーボンナノ構造体が分散された分散液を調製し、この分散液を減圧ろ過等によって乾燥させることで作製する。これにより、未修飾のカーボンナノ構造体を含む基体を、均一な厚みで、かつ短時間で形成することができる。
第2のステップでは、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体と溶剤とを含む表面修飾用溶液を調製し、第3のステップでは、表面修飾用溶液を基体表面に、例えば噴射させる方法等によって塗布する。これによって、表面修飾カーボンナノ構造体を含む基体を作製できる。なお、表面修飾用溶液を基体表面に塗布する際に、表面修飾用溶液の噴射を用いる方法を、以下、スプレー法と呼ぶ。以下、このスプレー法について詳述する。
表面修飾用溶液において金属錯体を溶解させる溶剤としては、蒸発しやすいものであれば特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール又はアセトン等がある。これらの中でも、揮発性の高いメタノールが特に好ましい。
表面修飾用溶液の噴射は、一般に用いられるスプレー容器、例えば、複数のノズル孔が形成されたノズルを備えるスプレー容器を用いて行なうことができる。
スプレー法においては、表面修飾用溶液中の金属錯体の濃度、並びに、表面修飾用溶液の噴射量及び噴射回数を調整することで、カーボンナノ構造体に対する金属錯体の表面修飾量を制御することができる。表面修飾用溶液中の金属錯体の濃度、並びに、表面修飾用溶液の噴射量及び噴射回数は、表面修飾量が上述の好ましい範囲内、すなわち、化学物質センシング素子32の線抵抗が100kΩ/cm以下となるように調整されていれば特に制限されるものではないが、0.05mg〜0.1mgの未修飾のカーボンナノ構造体を含む基体に対して、0.1mmol/L〜1.0mmol/Lの濃度の表面修飾用溶液を一回あたり10μL〜30μLの噴射量で1回〜10回噴射することが好ましい。例えば、0.08mgの未修飾のカーボンナノ構造体を含む基体に対して、例示化合物(2)の金属錯体を0.5mmol/Lの濃度で含む表面修飾用溶液を一回あたり20μLの噴射量で噴射する場合には、噴射一回あたり3.56μgの金属錯体が表面修飾されるので、1回〜10回の噴射回数で噴射を行なうことが好ましい。
第3のステップにおいて作製された表面修飾カーボンナノ構造体を含む基体は、溶剤が完全に除去されるまで乾燥された後、必要に応じて、短冊状等の所望の形状及び所望の大きさになるようにカッティングされる。そして、化学物質センシング部42表面の両端部に蒸着法又は導電性ペーストを塗布する方法等の公知の方法によって、所望の電極間距離となるように電極44及び電極46が形成され、これにより、本実施の形態に係る化学物質センシング素子32が製造できる。なお、表面修飾カーボンナノ構造体を含む基体は、基板48及び化学物質センシング部42からなり、この場合、基板48はろ材であり、化学物質センシング部42はろ材上に残るろ物及びこれを表面修飾する金属錯体である。
このように、第2の製造方法は、第2のステップ及び第3のステップを経て、例えばスプレー法等により表面修飾カーボンナノ構造体を含む基体を作製する。すなわち、第2のステップにおいて、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質と選択的に反応する金属錯体と溶剤とを含む表面修飾用溶液を調製し、第3のステップにおいて、表面修飾用溶液を未修飾のカーボンナノ構造体を含む基体表面に、例えば噴射させる方法等によって塗布する。このように、表面修飾用溶液を塗布することで、金属錯体により未修飾のカーボンナノ構造体表面を均一に修飾できる。したがって、雰囲気中の特定物質である一酸化窒素(NO)をより高選択的及び高感度に検出することができる化学物質センシング素子32を製造することができる。また、溶剤が蒸発しやすくなるので、カーボンナノ構造体の分散及び溶剤の除去を単一の工程で行なうことができ、短時間で化学物質センシング素子32を製造することができる。
また、塗布を行う際にスプレー法を使用することにより、未修飾のカーボンナノ構造体を含む基体表面に表面修飾用溶液を均一に塗布することができるので、金属錯体により未修飾のカーボンナノ構造体表面をより一層均一に修飾できる。
なお、表面修飾用溶液を基体表面に塗布する方法として、上述したスプレー法以外にも、ディッピング法又は含浸法等を使用できる。
−動作−
図1及び図2を参照して、本実施の形態に係る化学物質センシング装置20は以下のように動作する。直流電源30により、化学物質センシング素子32と負荷抵抗34とを直列接続したものの両端に一定電圧をかけながら、特定物質を含む測定対象ガスを化学物質センシング素子32表面に導入する。化学物質センシング素子32に含まれる、化学物質センシング部42を構成する表面修飾カーボンナノ構造体の表面に測定対象ガス中の何らかの物質が付着すると、電極44,46間の電気抵抗が変化する。その変化を増幅器36の出力電圧の変化として直流電圧計(図示せず。)により検出する。このように出力電圧変化を知ることによって、測定対象ガス中の何らかの物質の存在を確認することができる。
図1及び図2を参照して、本実施の形態に係る化学物質センシング装置20は以下のように動作する。直流電源30により、化学物質センシング素子32と負荷抵抗34とを直列接続したものの両端に一定電圧をかけながら、特定物質を含む測定対象ガスを化学物質センシング素子32表面に導入する。化学物質センシング素子32に含まれる、化学物質センシング部42を構成する表面修飾カーボンナノ構造体の表面に測定対象ガス中の何らかの物質が付着すると、電極44,46間の電気抵抗が変化する。その変化を増幅器36の出力電圧の変化として直流電圧計(図示せず。)により検出する。このように出力電圧変化を知ることによって、測定対象ガス中の何らかの物質の存在を確認することができる。
これは以下のような理由による。化学物質センシング部42においては、個々のカーボンナノ構造体同士が隣接して互いに接触し合っているので、全体として導電性材料の集合体となっている。このような化学物質センシング部42を構成する、個々のカーボンナノ構造体の表面に何らかの物質が付着すると、それぞれの電気抵抗が変化し、それらの総和が出力電圧変化として出力される。したがって、化学物質センシング部42の両端の電気抵抗の変化を知ることにより、化学物質センシング部42に何らかの物質が付着したことが判るので、測定対象ガス中に何らかの物質が存在することを確認することができる。
図6は、金属錯体70により表面修飾されたカーボンナノ構造体72表面に一酸化窒素(NO)74が吸着する様子を示す図である。図6を参照して、表面修飾カーボンナノ構造体72に一酸化窒素(NO)74が接近すると、金属錯体70による選択能により一酸化窒素(NO)74が選択的に金属錯体70に吸着される。このように、カーボンナノ構造体に表面修飾された金属錯体70は、一酸化窒素(NO)74を選択的に捕捉するので、一酸化窒素(NO)74が吸着されたときとそうでないときとの差が、化学物質センシング部42の全体の電気抵抗の変化として顕著に現れる。したがって、化学物質センシング部42の電気抵抗の変化を測定することによって、特定物質である一酸化窒素(NO)74の存在の有無、及び、その存在量を他の物質と比較してより高感度に検出することができる。
〈作用・効果〉
本実施の形態によれば、化学物質センシング素子32は、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質である一酸化窒素(NO)と選択的に反応する金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体を含む。これにより、雰囲気中の一酸化窒素(NO)を高選択的及び高感度に検出できる。また、雰囲気中の一酸化窒素(NO)を二酸化窒素(NO2)へ変換することなく直接検出できるので、変換に要する構成及び工程、並びに、変換に伴う前処理に要する構成及び工程を省くことができる。したがって、素子の小型化及び測定時間の短縮化を達成できる。
本実施の形態によれば、化学物質センシング素子32は、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質である一酸化窒素(NO)と選択的に反応する金属錯体により表面修飾されたカーボンナノ構造体を含む。これにより、雰囲気中の一酸化窒素(NO)を高選択的及び高感度に検出できる。また、雰囲気中の一酸化窒素(NO)を二酸化窒素(NO2)へ変換することなく直接検出できるので、変換に要する構成及び工程、並びに、変換に伴う前処理に要する構成及び工程を省くことができる。したがって、素子の小型化及び測定時間の短縮化を達成できる。
また本実施の形態によれば、化学物質センシング装置20は、化学物質センシング素子32と、化学物質センシング素子32に電気的に接続され、化学物質センシング素子32の電気抵抗の変化を検出するための増幅器36及び直流電圧計とを含む。このように、化学物質センシング装置20は化学物質センシング素子32を含むので、雰囲気中の特定物質である一酸化窒素(NO)を高選択的及び高感度に検出でき、更に装置の小型化及び測定時間の短縮化を達成できる。
また本実施の形態によれば、化学物質センシング素子32の製造方法は、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質である一酸化窒素(NO)と選択的に反応する金属錯体と溶剤とを含む表面修飾用溶液50を調製する第1のステップと、表面修飾用溶液50に対してカーボンナノ構造体52を投入した後、超音波54を照射する第2のステップとを含み、これによって、表面修飾カーボンナノ構造体を作製する。このように、超音波を用いることでカーボンナノ構造体52を表面修飾用溶液50に均一に分散させることができるので、金属錯体でカーボンナノ構造体52表面を均一に修飾できる。したがって、一酸化窒素(NO)をより高選択的及び高感度に検出することができる化学物質センシング素子32を製造することができる。また、超音波照射54により発生する熱を利用して溶剤を蒸発させて除去することができるので、カーボンナノ構造体52の分散及び溶剤の除去を単一の工程で行なうことができ、短時間で化学物質センシング素子32を製造することができる。
また本実施の形態によれば、化学物質センシング素子32の製造方法は、未修飾のカーボンナノ構造体を含むシート状の基体を作製する第1のステップと、上記一般式(1)で表され、かつ雰囲気中の特定物質である一酸化窒素(NO)と選択的に反応する金属錯体と溶剤とを含む表面修飾用溶液を調製する第2のステップと、表面修飾用溶液を基体表面に塗布する第3のステップとを含み、これによって、表面修飾カーボンナノ構造体を含む基体を作製する。
このように、第1のステップにおいて、未修飾のカーボンナノ構造体を含むシート状の基体を作製することにより、カーボンナノ構造体を、一酸化窒素(NO)に対して均一な状態で反応させることができるので、一酸化窒素(NO)をより一層高感度に検出することができる化学物質センシング素子32を製造することができる。また、第2のステップ及び第3のステップにおいて、表面修飾用溶液を塗布することで、金属錯体によりカーボンナノ構造体表面を均一に修飾できる。したがって、一酸化窒素(NO)をより高選択的及び高感度に検出することができる化学物質センシング素子23を製造することができる。また、表面修飾用溶液を塗布することにより溶剤が蒸発しやすくなるので、カーボンナノ構造体の分散及び溶剤の除去を単一の工程で行なうことができ、短時間で化学物質センシング素子32を製造することができる。
なお、上記実施の形態では、金属錯体のカーボンナノ構造体に対する表面修飾方法として溶剤除去法、又は、スプレー法等により塗布する方法を使用したが、本発明は、金属錯体をカーボンナノ構造体に物理的に付着できる方法であればそのような実施の形態には限定されず、例えば、蒸着法、昇華法、添着法、電解重合法又は自己組織化膜法等の公知の方法を使用してもよい。
今回開示された実施の形態は単に例示であって、本発明が上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。
以下に上記実施の形態を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、上記実施の形態はその要旨を超えない限り特に本実施例に限定されるものではない。なお、以下特に断りのない限り、実施例及び比較例の化学物質センシング素子の抵抗値は、抵抗値測定装置(商品名:3468A MULTIMETER、Hewlett−Packard(hp)社製)を使用して測定した。また、線抵抗は、測定された抵抗値を電極間距離で除して求めた。
−試験例1−
(実施例1)
[化学物質センシング素子の製造]
まず、以下のようにして、カーボンナノ構造体であるCNTに対する表面修飾を行なった。例示化合物(1)に示されるコバルト錯体(PPh4[CoIII(MMPPA)])を0.02mmol/Lの濃度となるようにアセトンに溶解し、表面修飾用溶液を調整した。この表面修飾用溶液4mLに対してCNT(商品名:SOLCNTE301、クラスターインスツルメンツ社製)2mgを加えた後、超音波洗浄器(商品名:シュアー超音波洗浄器CS−20、株式会社石崎電機製作所製)にて46kHzの超音波を照射して、CNTを表面修飾用溶液中に分散させるとともに、溶剤であるアセトンを完全に蒸発させた。次いで、CNTを取出し、減圧下9.3×10−6MPaで2時間乾燥させて、コバルト錯体が表面修飾されたCNT(以下「表面修飾CNT」と記す。)を得た。
(実施例1)
[化学物質センシング素子の製造]
まず、以下のようにして、カーボンナノ構造体であるCNTに対する表面修飾を行なった。例示化合物(1)に示されるコバルト錯体(PPh4[CoIII(MMPPA)])を0.02mmol/Lの濃度となるようにアセトンに溶解し、表面修飾用溶液を調整した。この表面修飾用溶液4mLに対してCNT(商品名:SOLCNTE301、クラスターインスツルメンツ社製)2mgを加えた後、超音波洗浄器(商品名:シュアー超音波洗浄器CS−20、株式会社石崎電機製作所製)にて46kHzの超音波を照射して、CNTを表面修飾用溶液中に分散させるとともに、溶剤であるアセトンを完全に蒸発させた。次いで、CNTを取出し、減圧下9.3×10−6MPaで2時間乾燥させて、コバルト錯体が表面修飾されたCNT(以下「表面修飾CNT」と記す。)を得た。
上述のようにして得られた表面修飾CNTを水5mLに分散させた分散液を調製後、この分散液に対して、テフロン(登録商標)製メンブレンフィルタ(商品名:OMNIPORETM MEMBRANE FILTERS 0.2μm(孔径) JG、MILLIPORE社製)を用いて減圧ろ過装置により減圧ろ過を行ない、メンブレンフィルタ上に表面修飾CNTからなるろ物が形成されたシート状の基体を作製し、これを乾燥させた。次いで、得られた基体を短冊状になるようにカッティングし、蒸着法により短冊状の基体の両端部に電極間距離が1.5cmとなるように金電極を形成することで、実施例1の化学物質センシング素子を作製した。この実施例1の化学物質センシング素子におけるコバルト錯体の表面修飾量は0.027mg/mgであり、線抵抗は18kΩ/cmであった。
(比較例)
例示化合物(1)に示されるコバルト錯体による表面修飾を行なわなかった以外は、実施例1と同様にして比較例の化学物質センシング素子を作製した。
例示化合物(1)に示されるコバルト錯体による表面修飾を行なわなかった以外は、実施例1と同様にして比較例の化学物質センシング素子を作製した。
[評価1]
実施例1の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置を、雰囲気が制御できる300cm3のステンレス(Stainless Used Steel:SUS)製チャンバー内に設置した後、ダイヤフラムポンプを用いてチャンバー内を6.65×103Pa程度まで減圧した。次いで、直流電源により化学物質センシング素子に対して150μAの電流を流しながら、大気圧(1.01325×105Pa)になるまでチャンバー内に窒素を流通させた。窒素流通開始時から5分後(300秒後)に、大気圧を保ったまま一酸化窒素(NO)濃度1ppmの測定対象ガスを流量50mL/minで10分間(600秒間)流通させた。このときの化学物質センシング素子と負荷抵抗との間の接点の電気抵抗変化を増幅器において増幅し、増幅した電気抵抗変化を増幅器の出力電圧の変化として直流電圧計により測定した。なお、測定は、1秒毎の測定間隔で、窒素流通開始後20分間(1200秒間)行なった。上述の操作と同様の操作を比較例の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置についても行なった。その結果を図7に示す。図7は、経過時間に対する抵抗値の変化を、測定時における化学物質センシング素子の抵抗値を測定対象ガス導入時における抵抗値で除した値(図7においては、単に「抵抗値」と記す。)をプロットすることにより示すグラフである。Aは、実施例1の結果を示すグラフであり、Bは、比較例の結果を示すグラフである。
実施例1の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置を、雰囲気が制御できる300cm3のステンレス(Stainless Used Steel:SUS)製チャンバー内に設置した後、ダイヤフラムポンプを用いてチャンバー内を6.65×103Pa程度まで減圧した。次いで、直流電源により化学物質センシング素子に対して150μAの電流を流しながら、大気圧(1.01325×105Pa)になるまでチャンバー内に窒素を流通させた。窒素流通開始時から5分後(300秒後)に、大気圧を保ったまま一酸化窒素(NO)濃度1ppmの測定対象ガスを流量50mL/minで10分間(600秒間)流通させた。このときの化学物質センシング素子と負荷抵抗との間の接点の電気抵抗変化を増幅器において増幅し、増幅した電気抵抗変化を増幅器の出力電圧の変化として直流電圧計により測定した。なお、測定は、1秒毎の測定間隔で、窒素流通開始後20分間(1200秒間)行なった。上述の操作と同様の操作を比較例の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置についても行なった。その結果を図7に示す。図7は、経過時間に対する抵抗値の変化を、測定時における化学物質センシング素子の抵抗値を測定対象ガス導入時における抵抗値で除した値(図7においては、単に「抵抗値」と記す。)をプロットすることにより示すグラフである。Aは、実施例1の結果を示すグラフであり、Bは、比較例の結果を示すグラフである。
図7を参照して、実施例1の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置は、例示化合物(1)に示されるコバルト錯体により表面修飾されたCNTの集合体からなる化学物質センシング部を含むので、未修飾のCNTの集合体からなる化学物質センシング部を含む比較例の化学物質センシング装置よりも、高い感度で一酸化窒素(NO)を検出できることが判る。
[評価2]
実施例1の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置において、測定対象ガスを5分間(300秒間)流通させ、測定を窒素流通開始後15分間(900秒間)行なった以外は評価1の操作と同様の操作を一酸化窒素(NO)濃度10ppb及び100ppbの測定対象ガスについてそれぞれ行なった。その結果を図8に示す。図8(A)は、一酸化窒素(NO)濃度10ppbの測定対象ガスを用いたときの経過時間に対する化学物質センシング素子の抵抗値の変化を示すグラフであり、図8(B)は、一酸化窒素(NO)濃度100ppbの測定対象ガスを用いたときの経過時間に対する抵抗値の変化を示すグラフである。なお、測定対象ガスは、1ppmの濃度に窒素で希釈された一酸化窒素(NO)標準ガスと窒素ガスとを、所望の濃度となるように混合することにより作製した。
実施例1の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置において、測定対象ガスを5分間(300秒間)流通させ、測定を窒素流通開始後15分間(900秒間)行なった以外は評価1の操作と同様の操作を一酸化窒素(NO)濃度10ppb及び100ppbの測定対象ガスについてそれぞれ行なった。その結果を図8に示す。図8(A)は、一酸化窒素(NO)濃度10ppbの測定対象ガスを用いたときの経過時間に対する化学物質センシング素子の抵抗値の変化を示すグラフであり、図8(B)は、一酸化窒素(NO)濃度100ppbの測定対象ガスを用いたときの経過時間に対する抵抗値の変化を示すグラフである。なお、測定対象ガスは、1ppmの濃度に窒素で希釈された一酸化窒素(NO)標準ガスと窒素ガスとを、所望の濃度となるように混合することにより作製した。
図8を参照して、一酸化窒素(NO)濃度10ppbの測定対象ガスを用いたときには、測定開始後50秒から抵抗値の上昇が起こり、約0.1kΩの抵抗変化が生じたことが判った。また、一酸化窒素(NO)濃度100ppbの測定対象ガスを用いたときには、測定開始後50秒から抵抗値の上昇が起こり、約0.3kΩの抵抗変化が生じたことが判った。これにより、実施例1の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置は、例示化合物(1)に示されるコバルト錯体により表面修飾され、かつナノオーダーの微細構造を有するCNTの集合体からなる化学物質センシング部を含むので、10ppb〜100ppbという低濃度の一酸化窒素(NO)も検出可能であり、高選択的及び高感度を達成できる化学物質センシング装置であることが判る。
−試験例2−
(実施例2)
0.2mmol/Lの濃度の表面修飾用溶液を調整した以外は、実施例1と同様にして実施例2の化学物質センシング素子を作製した。この実施例2の化学物質センシング素子におけるコバルト錯体の表面修飾量は0.27mg/mgであり、線抵抗は、100kΩ/cmであった。
(実施例2)
0.2mmol/Lの濃度の表面修飾用溶液を調整した以外は、実施例1と同様にして実施例2の化学物質センシング素子を作製した。この実施例2の化学物質センシング素子におけるコバルト錯体の表面修飾量は0.27mg/mgであり、線抵抗は、100kΩ/cmであった。
(実施例3)
0.2mmol/Lの濃度の表面修飾用溶液を調整し、この表面修飾用溶液8mLに対してCNT1mgを加えた以外は、実施例1と同様にして実施例3の化学物質センシング素子を作製した。この実施例3の化学物質センシング素子におけるコバルト錯体の表面修飾量は1.08mg/mgであり、線抵抗は、328kΩ/cmであった。
0.2mmol/Lの濃度の表面修飾用溶液を調整し、この表面修飾用溶液8mLに対してCNT1mgを加えた以外は、実施例1と同様にして実施例3の化学物質センシング素子を作製した。この実施例3の化学物質センシング素子におけるコバルト錯体の表面修飾量は1.08mg/mgであり、線抵抗は、328kΩ/cmであった。
実施例1〜実施例3の化学物質センシング素子における、表面修飾用溶液の濃度及び使用量、CNTの使用量、コバルト錯体の表面修飾量、並びに、線抵抗についてテーブル2に示す。
テーブル2を参照して、実施例1及び実施例2の化学物質センシング素子は、コバルト錯体の表面修飾量が、1mgのCNTに対して0.027mg〜0.27mgであるので、化学物質センシング素子の線抵抗がセンシングの感度が最適になる100kΩ/cm以下であった。一方、実施例3の化学物質センシング素子は、コバルト錯体の表面修飾量が、1mgのCNTに対して1.08mgと多すぎたため、化学物質センシング素子の線抵抗が328kΩ/cmと大きくなりすぎた。
−試験例3−
(実施例4)
(化学物質センシング素子の製造)
まず、以下のようにして、未修飾の単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT(single wall Carbon NanoTube)」と記す。)を含む基体を作製した。SWCNT(商品名:Single−wall nanotube、本荘ケミカル株式会社製)2.00mgをエタノール50mLに分散させた分散液を調製した。この分散液2mLを分取したものにエタノールを加えて4mLにした後、テフロン(登録商標)製メンブレンフィルタ(商品名:OMNIPORETM MEMBRANE FILTERS 0.2μm(孔径) JG、MILLIPORE社製)を用いて減圧ろ過装置により減圧ろ過を行ない、メンブレンフィルタ上に未修飾SWCNTのろ物が形成されたシート状の基体を作製した。
(実施例4)
(化学物質センシング素子の製造)
まず、以下のようにして、未修飾の単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT(single wall Carbon NanoTube)」と記す。)を含む基体を作製した。SWCNT(商品名:Single−wall nanotube、本荘ケミカル株式会社製)2.00mgをエタノール50mLに分散させた分散液を調製した。この分散液2mLを分取したものにエタノールを加えて4mLにした後、テフロン(登録商標)製メンブレンフィルタ(商品名:OMNIPORETM MEMBRANE FILTERS 0.2μm(孔径) JG、MILLIPORE社製)を用いて減圧ろ過装置により減圧ろ過を行ない、メンブレンフィルタ上に未修飾SWCNTのろ物が形成されたシート状の基体を作製した。
次いで、例示化合物(2)に示されるコバルト錯体(Na[CoIII(MMPPA)])を0.5mmol/Lの濃度となるようにメタノールに溶解し、表面修飾用溶液を調整した。この表面修飾用溶液を、スプレー方式によって基体表面に、一回あたり20μLの噴射量で2回噴射させることで表面修飾を行なった。この場合、一回の噴射で10nmol(3.56μg)のコバルト錯体が表面修飾される。その後、例示化合物(2)に示されるコバルト錯体が表面修飾されたSWNTを含む基体を乾燥させた後短冊状になるようにカッティングし、その両端部に銀ペーストにより電極間距離が1.5cmとなるように電極を形成することで、実施例4の化学物質センシング素子を製造した。
(実施例5)
表面修飾用溶液の噴射回数を4回とした以外は、実施例4と同様にして実施例5の化学物質センシング素子を作製した。
表面修飾用溶液の噴射回数を4回とした以外は、実施例4と同様にして実施例5の化学物質センシング素子を作製した。
(実施例6)
表面修飾用溶液の噴射回数を8回とした以外は、実施例4と同様にして実施例6の化学物質センシング素子を作製した。
表面修飾用溶液の噴射回数を8回とした以外は、実施例4と同様にして実施例6の化学物質センシング素子を作製した。
実施例4〜実施例6の化学物質センシング素子における、表面修飾用溶液の噴射回数、コバルト錯体の表面修飾量、抵抗値、並びに、線抵抗についてテーブル3に示す。
テーブル3を参照して、実施例4〜6の化学物質センシング素子は、化学物質センシング素子の線抵抗がセンシングの感度が最適になる100kΩ/cm以下であることが判る。
[評価3]
実施例6の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置に対して、評価1の操作と同様の操作を行なった。その結果を図9に示す。図9は、経過時間に対する化学物質センシング素子の抵抗値の変化を示すグラフである。
実施例6の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置に対して、評価1の操作と同様の操作を行なった。その結果を図9に示す。図9は、経過時間に対する化学物質センシング素子の抵抗値の変化を示すグラフである。
図9を参照して、実施例6の化学物質センシング素子を採用した化学物質センシング装置は、スプレー方式によって例示化合物(2)に示されるコバルト錯体により表面修飾されたCNTの集合体からなる化学物質センシング部を含むので、高い感度で一酸化窒素(NO)を検出できることが判る。
20 化学物質センシング装置
30 直流電源
32 化学物質センシング素子
34 負荷抵抗
36 増幅器
42 化学物質センシング部
44,46 電極
48 基板
50 表面修飾用溶液
52 カーボンナノ構造体
54 超音波
56 基体
58 分散液
60 ろ材
62 ブフナー漏斗
64 ろ物
70 金属錯体
72 表面修飾カーボンナノ構造体
74 一酸化窒素
30 直流電源
32 化学物質センシング素子
34 負荷抵抗
36 増幅器
42 化学物質センシング部
44,46 電極
48 基板
50 表面修飾用溶液
52 カーボンナノ構造体
54 超音波
56 基体
58 分散液
60 ろ材
62 ブフナー漏斗
64 ろ物
70 金属錯体
72 表面修飾カーボンナノ構造体
74 一酸化窒素
Claims (11)
- 前記カーボンナノ構造体は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン及びフラーレンからなるグループから選択される炭素系導電性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の化学物質センシング素子。
- 前記特定物質は、一酸化窒素であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化学物質センシング素子。
- 前記カーボンナノ構造体は、当該カーボンナノ構造体1mgに対して0.027mg〜0.27mgの前記金属錯体により表面修飾されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の化学物質センシング素子。
- X+は、ナトリウムイオン及びテトラフェニルホスホニウムイオンからなるグループから選択される陽イオンであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の化学物質センシング素子。
- 請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の化学物質センシング素子と、
前記化学物質センシング素子に電気的に接続され、前記化学物質センシング素子の電気抵抗の変化を検出するための検出手段とを含むことを特徴とする化学物質センシング装置。 - 前記金属錯体により表面修飾された前記カーボンナノ構造体を含むシート状の基体を作製する第3のステップを更に含むことを特徴とする請求項7に記載の化学物質センシング素子の製造方法。
- 前記第3のステップは、前記金属錯体により表面修飾された前記カーボンナノ構造体が分散された分散液を調製するステップと、前記分散液をろ過するステップとを含むことを特徴とする請求項8に記載の化学物質センシング素子の製造方法。
- 前記第1のステップは、カーボンナノ構造体が分散された分散液を調製するステップと、前記分散液をろ過するステップとを含むことを特徴とする請求項10に記載の化学物質センシング素子の製造方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
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KR20210033319A (ko) * | 2019-09-18 | 2021-03-26 | 한국과학기술연구원 | 질화붕소나노튜브-나노카본 복합소재를 구비하는 가스센서 및 이의 제조방법 |
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- 2008-07-18 JP JP2008186724A patent/JP2010025719A/ja active Pending
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