JPWO2016068217A1 - 末梢血単核球又は末梢血単核球より分泌される因子を伴う線維芽細胞を含む細胞シート - Google Patents
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Abstract
Description
特に、採血等という容易且つ高額な設備の不要な方法により入手可能な末梢血単核球を用いる為、自己の細胞を用いる再生医療でありながら、低侵襲かつ安全な治療を、安価に行うことが可能となった。
(1)トランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子による刺激を受けた線維芽細胞を含む細胞シート。
(2)前記線維芽細胞が、治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体から取得したものであることを特徴とする(1)に記載の細胞シート。
(3)前記線維芽細胞の播種と同時に前記トランスフォーミング増殖因子又は前記血小板由来増殖因子による刺激開始することを特徴とする(1)又は(2)に記載の細胞シート。
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の細胞シートを含有する難治性皮膚潰瘍治療用移植材料。
(5)以下の(a)〜(c)の工程を含む細胞シートを製造する方法。
(a)培養基材上で線維芽細胞を播種し、該細胞を含む細胞シートを形成させる工程、
(b)該細胞シートを、トランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子により刺激する工程、
(c)該細胞シートを培養基材から剥離する工程
(6)前記(a)の工程と(b)の工程を同時に行うことを特徴とする(5)に記載の細胞シートを製造する方法。
(7)前記工程(a)の前に、
(a0)治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体より、線維芽細胞を取得する工程、
を含む、(5)又は(6)に記載の細胞シートを製造する方法。
(8)末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シート。
(9)前記末梢血単核球及び/又は前記線維芽細胞が、治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体から取得したものであることを特徴とする(8)に記載の細胞シート。
(10)末梢血単核球及び線維芽細胞を共培養することで製造される(8)又は(9)に記載の細胞シート。
(11)末梢血単核球を5.0x104個/cm2〜1.5x106個/cm2で播種し、線維芽細胞を1.0x104個/cm2〜1.5x105個/cm2で播種することで、前記共培養を実施することを特徴とする(10)に記載の細胞シート。
(12)前記共培養を、末梢血単核球と線維芽細胞とを同時に播種することで開始することを特徴とする(10)又は(11)に記載の細胞シート。
(13)前記細胞シートを、低温及び低酸素条件にて、所定の期間培養することを特徴とする、(8)乃至(12)のいずれかに記載の細胞シート。
(14)(8)乃至(13)のいずれかに記載の細胞シートを含有する難治性皮膚潰瘍治療用移植材料。
(15)以下の(d)〜(e)の工程を含む細胞シートを製造する方法。
(d)培養基材上で末梢血単核球と線維芽細胞を共培養し、該細胞を含むからなる細胞シートを形成させる工程、
(e)該細胞シートを培養基材から剥離する工程
(16)前記工程(d)の前に、
(d0)治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体より、末梢血単核球及び/又は線維芽細胞を取得する工程、
を含む、(15)に記載の細胞シートを製造する方法。
(17)前記工程(d)と(e)の間に、
(d2)工程(d)の細胞シートを、低温及び低酸素条件にて、所定の期間培養する工程、
を含む、(15)又は(16)に記載の細胞シートを製造する方法。
従って、本発明により、難治性皮膚潰瘍、特に虚血性潰瘍の治療に用いることのできる移植用生物材料として、血管新生による血流改善を実現し、尚且つ、患者自身の細胞を使うことで免疫拒絶反応の生じないという利点を有する細胞シート及び/又は他家由来の線維芽細胞シート及びトランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子のリコンビナントタンパクを大量に製造し、治療ツールを提供することで、従来ない画期的な難治性皮膚潰瘍の治療法を確立することが可能となる。
本発明において、「細胞シート」とは、細胞同士がシート状に結合した細胞の培養物の総称であり、該細胞シートは、1つの細胞層からなるものでも、2以上の細胞層からなるものであってもよい。
また、本発明に係る末梢血単核球及び線維芽細胞は、いかなる動物個体から取得してもよいが、好ましくは、治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体から取得してもよい。この様に治療対象の個体自身の細胞を用いることにより、移植時に発生する免疫拒絶反応を抑制することが可能となる。
該共培養において、末梢血単核球及び線維芽細胞をどの様に播種するかについては、特に限定はしないが、好ましくは、両細胞を同時に播種することで開始してもよい。
(d)〜(e)の工程を含む細胞シートを製造する方法であり、該工程(d)及び(e)とは;
(d)培養基材上で末梢血単核球と線維芽細胞を共培養し、該細胞からなる細胞シートを形成させる工程、
(e)該細胞シートを培養基材から剥離する工程
である細胞シートの製造方法であってもよい。
また、細胞シートを形成すべく、最初に播種する細胞密度は、細胞培養において通常実施される条件であればよく、特に限定はしないが、状態の良好な細胞シートを製造する為には、細胞播種時にほぼコンフルエントな状態であることが好ましい。具体的には、前述した様に、好ましくは、末梢血単核球を5.0x104個/cm2〜1.5x106個/cm2で、線維芽細胞を1.0x104個/cm2〜1.5x105個/cm2で播種してもよく、より好ましくは、末梢血単核球を5.5x104個/cm2〜1.0x106個/cm2で、線維芽細胞を1.5x104個/cm2〜1.0x105個/cm2で播種してもよく、更に好ましくは、末梢血単核球を5.0x105個/cm2〜1.0x106個/cm2で、線維芽細胞を6.0x104個/cm2〜1.0x105個/cm2で播種してもよい。また、細胞シート形成後の細胞の状態は、健康な状態であれば特に限定はしないが、好ましくは、コンフルエントな状態となっていてもよい。
また、「培養基材」の培養表面は、温度変化等によってその物性が変化する材料(温度応答性材料)で作製されているか、あるいは、該温度応答性材料によって培養基材の培養表面が層状に被覆されていてもよい。
更に、本培養基材の培養表面上には、細胞接着性成分および/または細胞接着阻害性成分が存在していてもよい。細胞接着性成分としては、細胞培養技術において、培養表面に細胞を接着させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、カドヘリン、ゼラチン、フィブリノゲン、フィブリン、ポリLリジン、ヒアルロン酸、多血小板血漿、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。細胞接着阻害性成分も、細胞培養技術において、培養表面への細胞の接着を阻害させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、アルブミンやグロブリンなどが挙げられる。これらの成分で細胞培養基材の培養表面上を被覆する場合、各成分によって、培養表面を被覆するために使用する溶液の濃度が異なるため、予備的な実験等、当業者であれば容易に検討できる方法によって、各成分の被覆のために適当な溶液濃度を決定することができる。
温度応答性材料で表面を被覆した細胞培養基材を使用した場合には、容器の温度を、例えば、0〜30℃程度に下げたのちに、上記、細胞の剥離、回収を実施してもよい。
(d0)治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体より、末梢血単核球及び/又は線維芽細胞を取得する工程、
を含ませてもよい。該工程を加えることによって、該製造方法によって製造された、末梢血単核球及び線維芽細胞を含む細胞シートにより、移植時の免疫拒絶反応を抑制することが可能となる。
本発明の第1の態様に係る、末梢血単核球及び線維芽細胞からなる細胞シートにおいても、低酸素プレコンディショニングを施すことで、末梢血単核球と線維芽細胞とを共培養する効果に加え、更に大幅な血管成長因子の産生量増大を確認しており(実施例〔0075〕)、予想を大きく上回る効果を見出している。
前述した、本発明の第2の態様に係る、(d)〜(e)の工程を含む細胞シートを製造する方法の工程(d)と(e)の間に、
(d2)工程(d)の細胞シートを、低温及び低酸素条件にて、所定の期間培養する工程、
を含む、末梢血単核球及び線維芽細胞からなる細胞シートを製造する方法
であってもよい。
また、前記処理期間経過後、細胞シートは、すぐに(e)の工程に移行してもよく、一定期間通常の培養条件に戻してから(e)の工程に移行してもよい。該条件は、細胞シートごとに設定することが出来、一定期間通常の培養条件に戻す場合の一定期間についても、特に限定はしないが、例えば、0時間〜12時間であってもよく、好ましくは0時間〜6時間であり、更に好ましくは0時間(通常の培養条件に戻さない)であってもよい。
皮膚を対象とする場合の疾患としては、特に限定はしないが、褥瘡、閉塞性動脈硬化症、糖尿病、静脈不全、膠原病、血管炎などに代表される難治性皮膚潰瘍が挙げられる。
ここで、該因子による刺激の伝達方式としては、特に限定はしないが、該因子を、細胞シートを培養中の培地に投与する、該因子を徐放的に放出する物質を該細胞シート近傍に添加する、該因子を産生する細胞等を該細胞シートと共培養する、等が例として挙げられ、好ましくは、培地に直接投与する方式である。
(a)〜(c)の工程を含む細胞シートを製造する方法であり、該工程(a)〜(c)とは;
(a)培養基材上で線維芽細胞を播種し、該細胞を含む細胞シートを形成させる工程、
(b)該細胞シートを、トランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子により刺激する工程、
(c)該細胞シートを培養基材から剥離する工程
である細胞シートの製造方法であってもよい。
(a0)治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体より、線維芽細胞を取得する工程、
を含ませてもよい。該工程を加えることによって、該製造方法によって製造された、線維芽細胞を含む細胞シートにより、移植時の免疫拒絶反応を抑制することが可能となる点は、〔0037〕に記載した本発明第2の態様における工程(d0)と同様である。
この場合の、投与されるトランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子の濃度としては、形成された細胞シートを構成する線維芽細胞に存在する、該因子に対する受容体の情報伝達系が活性化されるのに十分な濃度であればよく、個々の培養条件によっても異なる為、特に限定はしないが、例えば、トランスフォーミング増殖因子においては0.25ng/mL以上、好ましくは2.5mg/mL以上であり、血小板由来増殖因子においては5ng/mL以上、好ましくは10ng/mL以上である。
所定の疾患としては、特に限定はしないが、好ましくは皮膚にて発症する疾患であり、例えば、褥瘡、閉塞性動脈硬化症、糖尿病、静脈不全、膠原病、血管炎などに代表される難治性皮膚潰瘍が挙げられる。
1)マウス
C57BL/6NCrSlc(日本エスエルシー株式会社)から購入。
2)末梢血単核球用培地
RPMI−1640(Gibco)にFBS(Gibco)が10%になるように加え、最終濃度がペニシリンは100ユニット/mLおよびストレプトマイシンは100μg/mLになるようにPenicillin−Streptomycin,Liquid (Gibco)が添加されている。
3)線維芽細胞用培地
DMEM(Gibco)にFBS(Gibco)が20%になるように加え、非必須アミノ酸(Gibco)と最終濃度がペニシリンは100ユニット/mLおよびストレプトマイシンは100μg/mLになるようにPenicillin−Streptomycin,Liquid(Gibco)が添加されている。
1mLのシリンジに26Gの針をつけて、ヘパリンを約0.10mL取り、腹部の大静脈から採血を行った。15mLチューブにLympholyte−Mammal (CEDARLANE) を3mL入れて、PBSで2倍希釈した血液を加えて、800g、20分、ノーブレーキで遠心を行った。遠心後、単核球の層を、新しい15mLチューブに移し、PBSを加えて10mLとして、2000g、5分、ノーブレーキで遠心を行った。PBSでの洗いは合計2回行い、その後、末梢血単核球用培地で1回洗いを行った。細胞シート作製や培養のために、細胞を数えて、末梢血単核球用培地を用いて末梢血単核球の濃度を2x106 cells/mLに調整した。
70%エタノールを噴霧したキムワイプでマウスの尾を拭き、先端約1cmを切断し、線維芽細胞用培地(ペニシリンは500U/mLおよびストレプトマイシンは500μg/mL)に10分間浸けた後に、PBSでゆすいだ。そして、コラゲナーゼ(和光純薬工業)を線維芽細胞用培地で溶かして500U/mLに調整した溶液に、使い捨てメスを用いて細かく切り刻んだ尾を入れて、37℃で一晩培養した。細かく切り刻んだ尾を15mLチューブに移し、1200rpm、2分で遠心した。遠心後、上清を吸引除去し、ペレットを6−well plateの1ウェルに移し、線維芽細胞用培地を5mL入れて、2−4日間、37℃、5%CO2で培養した。Trypsin−EDTA(Gibco) で細胞を剥がし、40μm Cell Strainer(BD Falcon)に透して、1200rpm、2分で遠心した。遠心後、上清を吸引除去し、ペレットを10cm dishに移し、線維芽細胞用培地を10mL入れて37℃、5%CO2で培養した。細胞シート作製には、線維芽細胞用培地を用いて線維芽細胞を1.25x105 cells/mLに調製した。
1)線維芽細胞単独の細胞シート(培養条件検討)
UpCell 24−well plate(セルシード株式会社)の1ウェルに、線維芽細胞用培地を用いて、上記方法にて分離してきた線維芽細胞を、表1中のNo.1〜8に記載した細胞数ずつ加え、48時間、37℃、20%O2、5%CO2条件下で培養した後、細胞シートの形成具合を確認した。
いずれにおいても細胞シートの形成を確認できたので、該細胞シートを剥がしつつ、顕微鏡により該シートの剥離状態を観察したところ、No.1〜4の各条件にて形成された細胞シートにおいて、プレートからの剥離時に、該シートに開裂が生じることを観察した。
以上の結果に基づき、線維芽細胞を含む細胞シートの作製には、該細胞を1.25x105 cells/well(=6.58x104cell/cm2)の条件にて播種することとした。即ち、1.25x105 cells/mLに調整した細胞懸濁液1mLと末梢血単核球用培地1mLを入れて合計2mLとした。
上記の条件にて播種した線維芽細胞を、48時間、37℃、20%O2、5%CO2で培養した後に、同条件にて更に24時間培養を継続する群(Normo条件群)と、33℃、2%O2、5%CO2に条件を変更し、24時間培養した群(Hypo条件群)との2群に分けた。各ウェルの培養上清を回収して、3000rpm、5分で遠心し、その上清中に含まれる血管成長因子(VEGF)をELISA法で測定した。
続いて、上記播種条件の線維芽細胞と共に、どの程度の細胞数の末梢血単核球を播種すれば安定した末梢血単核球及び線維芽細胞を含む細胞シートの形成が可能か条件検討を行った。
UpCell 24−well plateの1ウェルに、末梢血単核球用培地を用いて、上記方法にて分離してきた末梢血単核球を、線維芽細胞(1.25x105cells/well)と共に、表2中のNo.1〜6に記載した細胞数ずつ加え、37℃、20%O2、5%CO2条件下で培養した。
以上の結果に基づき、末梢血単核球及び線維芽細胞を含む細胞シートの作製には、線維芽細胞単独での細胞シート作製時に播種する細胞数(1.25x105cells/well)と同数の線維芽細胞と共に、末梢血単核球を2x106cells/well(=10.53x105cell/cm2)の条件にて播種することとした。即ち、末梢血単核球用培地を用いて末梢血単核球の濃度を2x106cells/mLに調製した細胞懸濁液1mLと、線維芽細胞用培地を用いて線維芽細胞を1.25x105cells/mLに調製した細胞懸濁液1mLを、UpCell 24−well plateの1ウェルに加えて合計2mLとした。
上記の条件にて播種した末梢血単核球及び線維芽細胞を、48時間、37℃、20%O2、5%CO2で培養した後に、同条件にて更に24時間培養を継続する群(Normo条件群)と、33℃、2%O2、5%CO2に条件を変更し、24時間培養した群(Hypo条件群)との2群に分けた。各ウェルの培養上清を回収して、3000rpm、5分で遠心し、その上清中に含まれるVEGFをELISA法で測定した。
なお、両細胞を播種後、72時間後の様子を図1に示す。丸い形状の末梢血単核球と扁平な線維芽細胞により細胞シートが形成されていることが見て取れる。
UpCell 24−well plateの1ウェルに、末梢血単核球用培地を用いて末梢血単核球の濃度を2x106cells/mLに調整した細胞懸濁液1mLと線維芽細胞用培地1mLを入れて合計2mLとした。
上記の条件にて播種した末梢血単核球を、48時間、37℃、20%O2、5%CO2で培養した後に、同条件にて更に24時間培養を継続する群(Normo条件群)と、33℃、2%O2、5%CO2に条件を変更し、24時間培養した群(Hypo条件群)との2群に分けた。各ウェルの培養上清を回収して、3000rpm、5分で遠心し、その上清中に含まれるVEGFをELISA法で測定した。
なお、末梢血単核球を構成する細胞の多くは、培養基材に接着しにくい浮遊細胞であるリンパ球であるため、末梢血単核球単独培養で細胞シートは形成されなかった。これまで末梢血単核球と他の細胞を組合せて細胞シートを作製した例はなく、該細胞単独では形成出来ない細胞シートが、線維芽細胞と組み合わせることによって初めて可能となること(図1)を見出した点は、いわゆる当業者の予想しうる範囲を大きく上回る特筆すべき効果の一つである。
1)ELISA法による上清中に含まれるVEGF濃度測定
Mouse VEGF Quantikine ELISA Kit(R&D systems)を用いて細胞培養上清中に含まれるVEGF濃度を測定した。吸光度の測定と濃度計算には、iMark Microplate Reader (BIO−RAD) とMPM6.exe(BIO−RAD)を使用した。
Normo条件群における、A)末梢血単核球単独培養、B)線維芽細胞単独細胞シート及びC)末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートの各上清中に含まれるVEGF濃度を測定したところ、B)に比べ、C)にて有意なVEGF濃度の上昇が認められ、A)の上清中にはVEGFは検出されなかった(図2)。
このことから、末梢血単核球と線維芽細胞からなる細胞シートは、末梢血単核球及び線維芽細胞それぞれ単独での培養細胞や細胞シートに比べ、血管新生に重要な働きを果たす血管成長因子の産生量を大幅に増加することが明らかとなった。
更に、A)、B)、C)それぞれで、Normo条件群に対するHypo条件群でのVEGF濃度変化を測定したところ、A)においてはNormo条件群と同様、検出限界以下であったが、B)及びC)においては、Normo条件群に対して有意なVEGF濃度上昇を確認し、特にC)において著しい濃度上昇が認められた(図2)。
このことより、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートを、低温及び低酸素条件にて、所定の期間培養することで(低酸素プレコンディショニング)、該プレコンディショニング処理を行わないものに比べ、血管成長因子の産生量が大幅に増加することが明らかとなった。
1)糖尿病マウス
生理食塩水に溶かしたストレプトゾトシン(SIGMA−ALDRICH)をC57BL/6NCrSlcマウスに200mg/kgで投与し、ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスを作製した。
糖尿病マウスの背部に約8mmの皮膚全層欠損を外科的手法で作製し、その箇所に細胞シートを移植した。その上からアブソキュア(登録商標)−ウンド(日東メディカル)で覆い、粘着包帯(ニチバン)で固定した。施術群は以下の4群とした;
a)コントロール群;細胞シート移植なし+アブソキュア(登録商標)−ウンド
b)線維芽細胞シート群;線維芽細胞単独細胞シート移植+アブソキュア(登録商標)−ウンド
c)末梢血単核球+線維芽細胞シート群;末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シート移植+アブソキュア(登録商標)−ウンド
d)フィブラストスプレー群;難治性皮膚潰瘍などの疾患に対する現行の治療剤であるフィブラストスプレー(科研製薬;塩基性線維芽細胞造辱因子(bFGF)組換えタンパク質を主成分とするスプレータイプの治療剤)を陽性対象とした。皮膚全層欠損箇所にフィブラストスプレーを噴霧し、1分後に非固着性ガーゼで覆い、粘着包帯(ニチバン)で固定した。
上記の要領にて、外科的手法により皮膚全層欠損を作製し、細胞シート移植前にデジタルカメラで創傷面を撮影してこれを0日とした。細胞シートを移植して、7、14日後に創傷面を撮影し、ImageJ(NIH)を使用して創傷面積を計算し、0日の創面を基準として治癒率で評価した。
移植後7日後、14日後の両時点において、c)ではa)及びb)のいずれに対しても有意な創傷治癒率の上昇が生じていた(図3A)。
末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シート移植と、既存の治療方法であるフィブラストスプレー治療において、創傷面積治癒率を指標とした場合、両群間に明確な差異を確認出来なかった為、両処理における治療部位の病理像比較を行った。
治療開始後17日目に皮膚欠損部位が閉じた為、両処理による治療マウスを犠牲死させた後、治療部位の組織を採取し、10%中性ホルマリンにて固定した。該組織をパラフィン包埋し、組織を薄切後、常法に従いHE染色を行った。
両群とも、皮膚欠損創の組織が治癒している病理像が確認できた(図4)。しかしながら、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シート移植では、組織は自然な治癒組織となっていたが、フィブラストスプレー治療群での組織では、不良肉芽と浸潤炎症細胞が観察された。
この様に、本発明に係る末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートを治療に用いた群では、臨床的に実使用されているフィブラストスプレーによる治療群に対し、見かけの治癒率の改善は同程度であっても、質的には顕著な差異が存在していた。
このことから、該発明に係る末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートは、既存の治療(フィブラストスプレーによる治療)と比しても、難治性皮膚潰瘍などの疾患において極めて有効な治療材料であることが示唆された。
末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートを治療用材料として患者に移植するにあたり、他人の細胞を該患者に移植するケース(アロ移植)においても拒絶反応などの何らかの不具合が生じないかを確認した。
C57BL/6マウスより末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートを作製し、該細胞シートを、他系であるC3Hマウスによる糖尿病モデルの背部に移植した。
末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートは〔0071〕に従い調製した。糖尿病モデル動物は、C3Hマウスを〔0076〕に準じて作製し、〔0077〕及び〔0081〕に従い、該細胞シートの移植及びフィブラストスプレー治療(陽性対照)を施した。処置後14日目における創傷治療評価(創傷面積治癒率)は〔0078〕に準じた。
C57BL/6マウスより末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートを作製し、該細胞シートを、他系であるC3Hマウスによる糖尿病モデルの背部に移植した場合においても、同系統マウス間での移植による創傷面積治癒率(図3)とほぼ同程度の効果を確認した(図5A、B)。
以上より、患者自身の由来ではない末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートを治療に用いたとしても、必ずしも免疫拒絶反応が生じるわけではない可能性が示唆された。
末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートを移植した場合、該シートが移植した組織に生着するのか検討した。
既報〔0067〕−〔0068〕に従い、オスのC57BL/6マウスより末梢血単核球及び線維芽細胞を調製した後、該細胞を含む細胞シートを作製した〔0071〕。また、〔0076〕に準拠してC57BL/6マウス(メス)を用いて糖尿病モデルを作製し、〔0077〕に記載の手法に従い、該糖尿病マウス背部に施した皮膚全層欠損に対して、該細胞シートを移植した。
移植3週間後に、移植した周辺組織よりゲノムDNAを抽出し、移植した細胞シート(オス由来)にのみ含まれているはずのY染色体にコードされているSRY、ZFY1、ZFY2及びX染色体にコードされているZFXのゲノムDNAに特異的なプライマーを用いてPCR法を行った。
具体的には、移植3週間後に移植周辺部位の組織を採取し、RNAlater(登録商標)Solution(Ambion)に浸漬して4℃保存したものから、AllPrepDNA/RNAMiniKit(Qiagen)を用いてDNAを抽出した。該DNAに対して、KOD FX(ToYoBo)及びSRY、ZFY1、ZFY2(Y染色体特異的遺伝子)ZFX(X染色体特異的遺伝子)及びACTB(ベータ−actin)に対するプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応の条件は、94℃2分処理後、98℃10秒、60℃30秒、68℃30秒を1サイクルとし、40サイクル実施した。
上記方法に従い、オスマウス由来の末梢血単核球及び線維芽細胞を含む細胞シートを、同系統メスマウス由来の糖尿病モデル背部への皮膚全層欠損に対して移植したところ、移植3週間後の移植周辺部位の組織には、ACTB及びZFXは検出されたが、細胞シート由来(Y染色体)の遺伝子は検出されなかった(図6)。このことより、該細胞シートは移植した組織には生着していないことが明らかとなった。
マウス以外の動物においても、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートが有益であることを確認するべく、ウサギ由来の該細胞シートを調製し、VEGF産生能と移植による治療効果を検討した。
線維芽細胞は〔0068〕の方法に準じて、ウサギの耳から採取した組織から調製した。末梢血単核球は、あらかじめヘパリンを約1〜1.5mL分取しておいた20mLのシリンジにGの翼状針をつけて、ウサギの耳動脈から採血を行い、これを15mLチューブに移した後、Lympholyte−M (CEDARLANE)3mLを添加した。これ以降の方法は〔0067〕に準じた。
末梢血単核球は、マウス末梢血単核球用培地を用いて2x106cells/mLに調製し、線維芽細胞は、マウス線維芽細胞用培地を用いて1.25x105cells/mLに調製した。
末梢血単核球の単独培養は、UpCell 6−well plateの1ウェルに、上記末梢血単核球縣濁液4mLを分取した後、マウス線維芽細胞用培地4mLを添加して合計8mLとすることで開始した。
線維芽細胞のみの細胞シートは、UpCell 6−well plateの1ウェルに、上記線維芽細胞懸濁液4mLを分取した後、マウス末梢血単核球用培地4mLを添加して合計8mLとすることで開始した。
末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートは、UpCell 6−well plateの1ウェルに、上記末梢血単核球縣濁液4mLと上記線維芽細胞懸濁液4mLを添加して合計8mLとすることで開始した。
上記3種類の培養細胞を、〔0072〕に記載したHypoの条件にて培養した。該細胞の培養上清を1.5mLチューブに分取し、3000rpmにて5分間遠心した後、該上清中に含まれるVEGFを、Human VEGF Quantikine ELISA Kit(R&D systems)を用いた、〔0074〕に準拠したELISA法にて測定した。
生理食塩水に溶かしたアロキサン(SIGMA−ALDRICH)をNew Zealand whiteラビットに120mg/kgの条件で投与し、アロキサン誘発糖尿病ウサギを作製した。該糖尿病ウサギの背部に約4cmの皮膚全層欠損を外科的手法にて処置した。以降の操作は〔0077〕に準じた。
本検討によって、マウスのみならずウサギにおいても、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートを調製することは可能であり、マウスでの結果と同様に、該細胞シートは、線維芽細胞単独での細胞シートに比べ、有意にVEGF産生量が高く(図7A)、該細胞シートを糖尿病ウサギ背部の皮膚全層欠損部位に移植したところ、顕著な改善効果を有することが確認された(図7B)。
線維芽細胞単独の細胞シートに比して、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートが如何なる機序によってVEGF産生能を亢進させるのか解明すべく、末梢血単核球の単独培養の培養細胞上清を線維芽細胞単独の細胞シートに添加することで、同様の効果が得られるか検証した。更に、末梢血単核球単独及び線維芽細胞単独の培養細胞上清中に、VEGF産生能上昇を誘導する候補因子であるTGF−ベータ1及びPDGF−BBが含まれているかをそれぞれ確認した。
マウス末梢血単核球を末梢血単核球用培地〔0066〕にて2x106cells/mLに調製し、24 well plateに1mL添加した後、Normo条件(37℃ 20%O2 5%CO2)にて48時間培養した。培養後、培養液を1.5mLチューブに分取し、3000rpmにて5分間遠心し、上清を新規の1.5mLチューブに分取し、培養上清として以下の実験に使用した。
既報〔0068〕に従い、マウス線維芽細胞を採集し、線維芽細胞用培地にて1.25x105cells/500マイクロLとなる様、細胞調製液を準備する。該細胞調製液及び末梢血単核球用培地を用いて、
コントロールmedium群;末梢血単核球用培地 500マイクロL + 線維芽細胞 1.25x105cells/500マイクロL
末梢血単核球Conditioned medium群;末梢血単核球培養上清 500マイクロL + 線維芽細胞 1.25x105cells/500マイクロL
からなる2群の細胞懸濁液を調製し、該懸濁液を、24 well plateに1mL/wellずつ播種した後、Normo条件にて48時間培養した。
48時間培養後、各群の培養液を1.5mLチューブに移し、3000rpmにて5分間遠心した後、上清を新規の1.5mLチューブに分取、該上清中のVEGF濃度をELISA〔0074〕にて測定した。
通常の培養に使用されるFBSには大量のTGF−ベータ1が含有されており、TGF−ベータ1測定に使用するMouse/Rat/Porcine/Canine TGF−beta 1 Quantikine ELISA Kit (R&D systems)ではFBSに含有されるTGF−ベータ1を検出されてしまう。この為、TGF−ベータ1測定用の培地として、xeno−freeであるCTSTM AIM V(登録商標) Medium(Life Technologies)を用いた。
既報〔0067〕−〔0068〕に従い、マウスより末梢血単核球及び線維芽細胞を採取し、CTSTM AIM V(登録商標) Mediumを用いて、
マウス線維芽細胞群:線維芽細胞 1.25x105cells/2mL CTSTM AIM V(登録商標) Medium
マウス末梢血単核球群:末梢血単核球 2x106cells/2mL CTSTM AIM V(登録商標) Medium
からなる2群の細胞懸濁液を調製し、該懸濁液を、24 well plateに2mL/wellずつ播種した後、Normo条件にて48時間培養した。
48時間培養後、各群の培養液を1.5mLチューブに移し、3000rpmにて5分間遠心した後、上清を新規の1.5mLチューブに分取、該上清中のTGF−ベータ1濃度を、Mouse/Rat/Porcine/Canine TGF−beta 1 Quantikine ELISA Kitを用いたELISAにて測定した。
既報〔0067〕−〔0068〕に従い、マウスより線維芽細胞及び末梢血単核球群をそれぞれ採取し、前者を線維芽細胞用培地にて1.25x105cells/1mLとなる様に、後者を末梢血単核球用培地にて2x106 cells/1mLとなる様に、それぞれの細胞調製液を準備する。該細胞調製液及び末梢血単核球用培地又は線維芽細胞用培地を用いて、
マウス線維芽細胞群:線維芽細胞 1.25x105 cells/1mL(線維芽細胞用培地) + 末梢血単核球用培地 1mL
マウス末梢血単核球群:末梢血単核球 2x106 cells/1mL(末梢血単核球用培地) + 線維芽細胞用培地 1mL
からなる2群の細胞懸濁液を調製し、該懸濁液を、24 well plateに2mL/wellずつ播種した後、Normo条件にて48時間培養した。
48時間培養後、各群の培養液を1.5mLチューブに移し、3000rpmにて5分間遠心した後、上清を新規の1.5mLチューブに分取、該上清中のPDGF−BB濃度を、Mouse/Rat PDGF−BB Quantikine ELISA Kit (R&D systems)を用いたELISAにて測定した。
線維芽細胞単独の細胞シートに比して、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートが如何なる機序によってVEGF産生能を亢進させるのか解明すべく、末梢血単核球の単独培養の培養上清を線維芽細胞単独の細胞シートに添加したところ(末梢血単核球Conditioned medium群)、対照群(コントロールmedium群)に対して有意なVEGF量の上昇を確認した(図8A)。更に、末梢血単核球単独及び線維芽細胞単独の培養細胞上清中に、VEGF産生能上昇を誘導する候補因子であるTGF−ベータ1及びPDGF−BBが含まれているかを測定したところ、いずれの因子も、末梢血単核球単独での培養細胞上清にのみ発現していた(図8B、C)。
以上の事象より、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートにおける、線維芽細胞からのVEGF産生能亢進の機序は、末梢血単核球から分泌されるTGF−ベータ1及び/又はPDGF−BBによることが推測された。
線維芽細胞単独の細胞シートにTGF−ベータ1又はPDGF−BBを用量変動させて添加することにより、該細胞シートからのVEGF産生量への効果を検討した。併せて、末梢血単核球単独培養の培養上清に、TGF−ベータ1又はPDGF−BBに対する中和抗体を添加することにより、該上清の有する線維芽細胞単独の細胞シートからのVEGF産生誘導効果が抑制されるかについて検討した。
TGF−ベータ1(R&D systems)リコンビナントタンパク質を末梢血単核球培地〔0066〕により 500、1000、2000、10000、20000、40000pg/mLに希釈調製し、24 well plateの各ウェルにそれぞれ500mLずつ分取した。
PDGF−BB(Sigma−Aldrich)リコンビナントタンパクを末梢血単核球培地により 500、1000、2000、10000、20000、40000 pg/mLに希釈調製し、24 well plateの各ウェルにそれぞれ500mLずつ分取した。
既報〔0067〕−〔0068〕に従い、マウスより末梢血単核球及び線維芽細胞を採取し、線維芽細胞用培地〔0066〕にて1.25x105 cells/500mLとなる様に細胞調製液を準備する。該調製液を、TGF−ベータ1各濃度液を入れた24 well plateの各ウェルに500mLずつ添加し、合計1mLにした後、Normo条件にて48時間培養した。
48時間培養後、各群の培養液を1.5mLチューブに移し、3000rpmにて5分間遠心した後、上清を新規の1.5mLチューブに分取、該上清中のVEGF濃度をELISA〔0074〕にて測定した。
既報〔0067〕に従い、マウスより末梢血単核球を採取し、末梢血単核球用培地にて2x106 cells/1mLとなる様に細胞調製液を準備した。該懸濁液を、24 well plateに1mL/ウェルずつ播種した後、Normo条件にて48時間培養した。48時間培養後、培養液を1.5mLチューブに移し、3000rpmにて5分間遠心した後、上清を新規の1.5mLチューブに分取、該上清をconditioned mediumとして以下の実験に供した。
上記conditioned medium及び各種抗体を用いて、以下3種の培地を準備した;
Control; conditioned medium 250マイクロL + anti−ATM antibody(1mg/mL abcam ab78) 5マイクロL
アルファ−TGF−ベータ1; conditioned medium 250マイクロL + anti−TGF−ベータ1 antibody(1mg/mL abcam ab64715) 5マイクロL
アルファ−PDGF−BB; conditioned medium 250マイクロL + anti−PDGF−BB antibody (0.2mg/mL R&D AF−220−NA) 20マイクロL
上記3種の培地を1.5mLチューブ中で4℃、90分間反応させた後、各培地を、48 well plateの1wellずつに全量移した。
既報〔0068〕に従い、マウス線維芽細胞を採集し、線維芽細胞用培地にて1.25x105cells/mLとなる様、細胞調製液を準備、上記3種の培地を入れたwellそれぞれに250mL添加した後、Normo条件にて48時間培養した。
48時間培養後、各群の培養液を1.5mLチューブに移し、3000rpmにて5分間遠心した後、上清を新規の1.5mLチューブに分取、該上清中のVEGF濃度をELISA〔0074〕にて測定した。
線維芽細胞単独の細胞シートにTGF−ベータ1又はPDGF−BBを用量変動させて添加したところ、いずれの因子においても、用量依存的な該細胞シートからのVEGF産生量の上昇を確認した(図9A)。
また、末梢血単核球単独培養の培養上清(conditioned medium)に、TGF−ベータ1又はPDGF−BBに対する中和抗体を添加したところ、該mediumが本来有する、線維芽細胞単独の細胞シートに対するVEGF産生誘導効果が、いずれの抗体においても抑制された(図9B)
以上のことから、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートにおける、線維芽細胞からのVEGF産生能亢進の機序は、末梢血単核球から分泌されるTGF−ベータ1及び/又はPDGF−BBによる可能性が強く示唆された。
また、該因子によって刺激を与えた線維芽細胞単独での細胞シートは、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートと同様に、移植に関連する医療分野、特に難治性皮膚潰瘍において、有効な治療用移植材料となりうることが期待される。
トランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子による刺激を受けた線維芽細胞を含む細胞シートが、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートと同様に、移植に関連する医療分野、特に難治性皮膚潰瘍において、有効な治療用移植材料となりうるか明確にするべく、糖尿病マウス背部の皮膚全層欠損への移植による治療効果を検討した。
糖尿病マウス作製及び創傷治癒評価は〔0076〕−〔0078〕に準拠した。糖尿病マウス背部の皮膚全層欠損部位への処置群は以下の4通りとした:
コントロール群:糖尿病マウス背部の皮膚全層欠損部位に何ら治療を施さない群
末梢血単核球+線維芽細胞シート群:上記部位に末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートを移植する群
PDGF−BB+線維芽細胞シート群;上記部位に、線維芽細胞播種時に10ng/mL PDGF−BBを添加して作製した細胞シートを移植する群
TGF−ベータ1+線維芽細胞シート群;上記部位に、線維芽細胞播種時に5ng/mL TGF−ベータ1を添加して作製した細胞シートを移植する群
TGF−ベータ1又はPDGF−BBによる刺激を受けた線維芽細胞を含む細胞シートを糖尿病マウス背部の皮膚全層欠損部位へ移植したところ、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートと同様に、創傷面積治癒率において、良好な結果を確認した(図10)。
このことより、該因子による刺激を受けた線維芽細胞を含む細胞シートは、難治性皮膚潰瘍などの疾患に対して極めて有効な治療材料であることが示唆された。
本発明に係る細胞シートは、ヒト疾患に対する治療用材料として用いることが出来れば、大変有益である。この為、ヒト由来の末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートの作製法を確立し、併せて該細胞シートのVEGF産生能について検討した。
ヒト由来の細胞系を培養するにあたり、培地はAIM V Medium CTS (Life Technologies)を用い、血清は発明者らの自己血清を調製した。具体的には、セルエイド(株式会社ジェイ・エム・エス)を使用して、採血した自己の血液から血清を作製した。
ヒト由来の線維芽細胞は以下の方法で調製した。AIM V Medium CTS 10mLとPenicillin−Streptomycin, Liquid 200μLを50mLチューブに入れ、採取した口腔内組織を該50mLチューブに入れた。6cm−dishに該組織をピンセットにて移動し、使い捨てメスにて組織を細断、6−well plateに該細断組織片を押し付けて接着させ、10分間、37℃、5%CO2の条件で培養した。その後、乾燥を防ぐために、該組織周辺にAIM V Medium CTSを散布し、4時間、37℃、5%CO2で培養を続けた。その後、 6−well plateの1wellにAIM V Medium CTS 5mL、自己血清 250 μL、 Penicillin−Streptomycin, Liquid 200 μLを入れて、3−4週間、37℃、5%CO2で培養した。Trypsin−EDTA(Gibco)で細胞を剥離させ、40μm Cell Strainer(BD Falcon)に透過させた後、1200rpm、2分間遠心した。遠心後、上清を吸引除去し、ペレットを10cm dishに移し、培地(AIM V Medium CTS 9.5mL + 自己血清 0.5mL)を10mL添加して、37℃、5%CO2で培養した。
培養上清中のVEGF濃度測定は、Human VEGF Quantikine ELISA Kit(R&D systems)を用いて、〔0074〕に準じて測定した。
本検討により、ヒト口腔内組織より純度の高い線維芽細胞の採取及び細胞シートの調製が可能であることが明らかとなった(図11A)。
また、該線維芽細胞と、同じくヒト由来の末梢血単核球を含む細胞シートにおいて、該線維芽細胞単独の細胞シートよりも多くのVEGFが産生されており、該VEGF産生能は、Hypo条件(33℃、2%O2、5%CO2にて24時間培養)により、更に顕著な亢進が認められた(図11B)。
既にマウス由来の細胞については、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートにおける、線維芽細胞からのVEGF産生能亢進の機序に、末梢血単核球から分泌されるTGF−ベータ1及び/又はPDGF−BBが関与していることを示してきた。そして、該因子によって刺激を与えた線維芽細胞単独での細胞シートが、末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートと同様に、移植に関連する医療分野、特に難治性皮膚潰瘍において、有効な治療用移植材料となりうる可能性を示してきた。
このマウス由来の細胞で見出されたTGF−ベータ1及びPDGF−BBの様な活性化因子が、ヒト由来の細胞でも見出すことが出来れば、ヒト疾患に対する治療用材料としての利用上、大変有益であると共に、例えば、他家(患者以外)由来の線維芽細胞の細胞シートを大量に培養する際に、該活性化因子をリコンビナントタンパク質として添加することにより、所望する量の難治性皮膚潰瘍治療細胞シートの生産が可能となり得る。
以上より、ヒト由来の線維芽細胞単独の細胞シートでのVEGF産生を活性化する因子の探索を行った。具体的には、末梢血単核球単独培養、線維芽細胞単独の細胞シート、及び末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シートの培養上清を比較し、該末梢血単核球のみが分泌する因子を特定した。
ヒト由来の末梢血単核球及び線維芽細胞の分離は既報〔0112〕及び〔0114〕に従って行い、前者を1x106cells/mL、後者を1.25x105cells/mLの細胞縣濁液(培地として AIM V Medium CTS 9.5mL + 自己血清 0.5mLを使用)として調製した。
上記細胞懸濁液及び培地を用いて、サンプルを以下の4群で準備した:
培地群;培地(AIM V Medium CTS 9.5mL + 自己血清 0.5mL)を24−well plateの1ウェルに2mL入れ、Normo条件にて培養。
末梢血単核球群;上記末梢血単核球の細胞懸濁液1mLと上記培地1mLを24−well plateの1ウェルにて混合して合計2mLとし、Hypo条件にて培養。
線維芽細胞群:上記線維芽細胞の細胞懸濁液1mLと上記培地1mLを24−well plateの1ウェルにて混合して合計2mLとし、Hypo条件にて培養。
末梢血単核球+線維芽細胞群:上記末梢血単核球の細胞懸濁液1mLと上記線維芽細胞の細胞懸濁液1mLを24−well plateの1ウェルにて混合して合計2mLとし、Hypo条件にて培養。
上記培養の培養液をそれぞれ1.5mLチューブに移し、3000rpmで5分間遠心した後、その上清をサンプルとして回収した。
Proteome Profiler Human XL Cytokine Array Kit(R&D systems)及びProteome Profiler Human Angiogenesis Array Kit(R&D systems)を用いて、上記各サンプル中に存在する因子を測定した。バンドの検出にはAmersham Imager 600(GE Healthcare)を使用した。
上記4群のサンプルを上記Array Kitにて測定し、末梢血単核球のみが分泌する因子を特定したところ、
Cytokine Array Kitにて検出された因子は、IL−1ra,CXCL1,CXCL5,CXCL10,CCL3,CCL4 の6因子
Angiogenesis Array Kitにて検出された因子は、PDGF−AA,HB−EGF,CXCL16,CCL2,CCL3の4因子
であった。
これにマウス由来の細胞系にて活性化因子として働いている可能性の高いTGF−ベータ及びPDGF−BBを含めた計12因子を活性化因子候補とした。
上記評価により、末梢血単核球から分泌され、線維芽細胞単独の細胞シートを活性化することで、VEGF産生を誘導する因子(活性化因子)の候補として12種類を見出した。そこで、該活性化因子候補を線維芽細胞単独の細胞シートに添加することにより、VEGF産生量が上昇するかを検討した。
ヒト由来の線維芽細胞の分離は既報〔0112〕に従って行い、1.25x105cells/mLの細胞縣濁液(培地として AIM V Medium CTS 9.0mL + 自己血清 1mLを使用)として調製し、該細胞懸濁液を0.5mLずつ48−well plateの各ウェルに分取した。
培地(AIM V Medium CTS)を用いて、PDGF−BB(eBioscience)は200ng/mL、TGF−ベータ1(R&D systems)は20 ng/mL、PDGF−AA(Wako)は200ng/mL、HB−EGF(R&D systems)は200ng/mL、CXCL16(Pepro Tech)は200ng/mL、CXCL1(R&D systems)は600ng/mL、CCL2(eBioscience)は200ng/mL、IL−1ra(R&D systems)は80ng/mL、CCL4(R&D systems)は20ng/mL、CXCL5(Gene Tex)は200ng/mL、CXCL10(Gene Tex)は100ng/mL、CCL3(R&D systems)は20ng/mLに調製し、それぞれ0.5mLずつ、先に細胞懸濁液を分取した上記48−well plateの各ウェルに添加して合計1mLとした後、72時間Normo条件にて培養した。なお、コントロールは上記培地0.5mLを細胞懸濁液が分取されている48−well plateの1ウェルに入れて合計1mLとし、同様に72時間Normo条件にて培養した。
培養した培養液を1.5mLチューブに移し、3000rpmで5分間遠心し、その上清中に含まれるVEGF濃度を、既報に従い〔0115〕、ELISA法で測定した。
評価した12個の活性化因子候補の内、PDGF−BB及びTGFベータ1において著しいVEGF濃度上昇が生じ、PDGF−AA、HB−EGF及びCXCL16にて濃度上昇の傾向が認められた(図12)。
ヒト由来の末梢血単核球から分泌され、線維芽細胞単独の細胞シートを活性化することで、VEGF産生を誘導する因子(活性化因子)候補12種類のうち、上記評価において特に高い誘導活性を示したPDGF−BB及びTGFベータ1につき、より詳細な効果を検討するべく、該VEGF産生誘導活性との用量相関性を検討した。併せて、該因子によるVEGF産生誘導活性が、線維芽細胞の増殖によるものではないことを確認するべく、該因子の細胞増殖能についても検討した。
ヒト由来の線維芽細胞の分離は既報〔0112〕に従って行い、1.25x105cells/mLの細胞縣濁液(培地として AIM V Medium CTS 9.0mL + 自己血清 1mLを使用)として調製し、該細胞懸濁液を0.5mLずつ48−well plateの各ウェルに分取した。
AIM V Medium CTSにてTGF−ベータ1(R&D systems)、PDGF−BB(eBioscience)、bFGF(Sigma−Aldrich)各因子を、40、20、15、10、5、2、1.5、1、0.5、0.2、0.1ng/mLに調製し、それぞれ0.5mLを、細胞懸濁液を分取した該48−well plateの各ウェルに添加して合計1mLとした後、72時間Normo条件にて培養した。bFGFは、対照剤であるフィブラストスプレーの主要成分である為、評価対象に加えた。コントロールはAIM V Medium CTS 0.5mLを、細胞懸濁液を分取している48−well plateの1ウェルに入れて合計1mLとした後、72時間Normo条件で培養した。
培養した培養液を1.5mLチューブに移し、3000rpmで5分間遠心し、その上清中に含まれるVEGF濃度を、既報に従い〔0115〕、ELISA法で測定した。
1mLあたりTGF−ベータ1(R&D systems)、PDGF−BB(eBioscience)、bFGF(Sigma−Aldrich)リコンビナントタンパクが5、7.5、10、20ng/mL、ヒト由来の線維芽細胞の細胞濃度が1x104 cells/mL、自己血清が5%になるようにAIM V Medium CTSにより調製し、96−well plateの1ウェル当たり100μLずつ分取して、3日間、37℃、5%CO2で培養した。培養開始後3日目に CellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assayを1ウェルに10μLずつ投与し、4時間、37℃、5%CO2で培養した後、2030 ArvoX4 (パーキンエルマー)にて吸光度を測定した。なお、データは、コントロールで得られた吸光度分を補正している。
マウスと同様に、ヒト由来の線維芽細胞単独の細胞シートにおいても、PDGF−BB、TGFベータ1共、該細胞シートに処理することで、用量依存的なVEGF産生誘導活性を有していることが明らかとなった(図13A)。
また、両因子共、線維芽細胞に対する増殖能は有しておらず(図13B)、図13AにみられるVEGF産生誘導活性は、線維芽細胞の増殖によるものではないことが確認された。
以上より、ヒト由来の線維芽細胞においても、トランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子による刺激を受けた線維芽細胞を含む細胞シートは、難治性皮膚潰瘍治療用移植材料として大変有益な発明であることが明らかとなった。
Claims (17)
- トランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子による刺激を受けた線維芽細胞を含む細胞シート。
- 前記線維芽細胞が、治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体から取得したものであることを特徴とする請求項2に記載の細胞シート。
- 前記線維芽細胞の播種と同時に前記トランスフォーミング増殖因子又は前記血小板由来増殖因子による刺激開始することを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞シート。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の細胞シートを含有する難治性皮膚潰瘍治療用移植材料。
- 以下の(a)〜(c)の工程を含む細胞シートを製造する方法。
(a)培養基材上で線維芽細胞を播種し、該細胞を含む細胞シートを形成させる工程、
(b)該細胞シートを、トランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子により刺激する工程、
(c)該細胞シートを培養基材から剥離する工程 - 前記(a)の工程と(b)の工程を同時に行うことを特徴とする請求項5に記載の細胞シートを製造する方法。
- 前記工程(a)の前に、
(a0)治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体より、線維芽細胞を取得する工程、
を含む、請求項5又は6に記載の細胞シートを製造する方法。 - 末梢血単核球と線維芽細胞を含む細胞シート。
- 前記末梢血単核球及び/又は前記線維芽細胞が、治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体から取得したものであることを特徴とする請求項8に記載の細胞シート。
- 末梢血単核球及び線維芽細胞を共培養することで製造される請求項8又は9に記載の細胞シート。
- 末梢血単核球を5.0x104個/cm2〜1.5x106個/cm2で播種し、線維芽細胞を1.0x104個/cm2〜1.5x105個/cm2で播種することで、前記共培養を実施することを特徴とする請求項10に記載の細胞シート。
- 前記共培養を、末梢血単核球と線維芽細胞とを同時に播種することで開始することを特徴とする請求項10又は11に記載の細胞シート。
- 前記細胞シートを、低温及び低酸素条件にて、所定の期間培養することを特徴とする、請求項8乃至12のいずれかに記載の細胞シート。
- 請求項8乃至13のいずれかに記載の細胞シートを含有する難治性皮膚潰瘍治療用移植材料。
- 以下の(d)〜(e)の工程を含む細胞シートを製造する方法。
(d)培養基材上で末梢血単核球と線維芽細胞を共培養し、該細胞を含むからなる細胞シートを形成させる工程、
(e)該細胞シートを培養基材から剥離する工程 - 前記工程(d)の前に、
(d0)治療を施す対象である、難治性皮膚潰瘍を患う個体より、末梢血単核球及び/又は線維芽細胞を取得する工程、
を含む、請求項15に記載の細胞シートを製造する方法。 - 前記工程(d)と(e)の間に、
(d2)工程(a)の細胞シートを、低温及び低酸素条件にて、所定の期間培養する工程、
を含む、請求項15又は16に記載の細胞シートを製造する方法。
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