本発明は、遠近両用レンズの目的である近方の見え方に依存されることなく、近視状態の被検眼球に関してそれ以降の近視の進行を抑制できるようにすると共に、その被検眼球に関して近視進行状況に見合った最適な屈折度数を処方できるようにしたコンタクトレンズ及びその選定方法を提供することを目的とする。
以下、図面を参照しながら、本発明に係るコンタクトレンズ及びその選定方法について、その説明をする。図1に示す近視進行診断装置100は児童や成人等の被検者1の眼球(以下被検眼球2という)における周辺視野の光学データを取得して解析する装置である。近視進行診断装置100は、ヒトの眼の水晶体の中心から角度40°の軸ずれした周辺視野まで、焦点が合う度数±2.5[D](D:ジオプター)という広範囲の光学データが取得可能なものである。
近視進行診断装置100は、既存のPSFアナライザー(登録商標)に工夫を施したものであり、例えば、児童等の近視が今後進行するか否かの判定、進行しうる近視が治療で抑制できるか否かの判定、進行しうる遠用レンズの周辺部にどのくらいの度数の屈折矯正レンズを加入することで近視抑制の治療ができるか否かの判定、及び、一定期間の治療の後の効果判定等に適用が可能なものである。
近視進行診断装置100は、光学データ取得部10及びデータ解析装置20を有している。光学データ取得部10は、例えば、本体部11、XYZステージ12、円弧状の軌道53を有している。本体部11はXYZステージ12上に載置されており、このXYZステージ12が円弧状の軌道53上を時計方向又は反時計方向に移動できるようになっている。XYZステージ12は、本体部11をX方向(左右方向)、Y方向(前後方向)、Z方向(上下方向:紙面に鉛直な方向)に移動調整可能なものである。
XYZステージ12には、例えば、設定部15が設けられ、被検眼球2の瞳孔の略中心と黄斑とを結ぶ眼軸線L(図3参照:図32A,図32Bで記述した光軸Oに同じ)に対する角度θを設定するように操作される。設定部15は角度表示器51や操作レバー52等から構成される。角度表示器51には例えばデジタル表示器が使用され、角度θが表示される。被検者1は本体部11とは別の固定座標系に頭部や顎等が固定され、設定部15で角度θを設定すると、XYZステージ12を被検眼球2の瞳孔の中心を原点にして、被検者1の回りを角度θだけ回動する方法が採られる。
固定座標系には被検者1固定用の枠(図示せず)の他に軌道53が取り付けられる。軌道53にはXYZステージ12が移動自在に係合されている。角度表示器51はXYZステージ12に設けられ、操作者(眼科医師)が角度θを設定する際に、操作レバー52を持ってXYZステージ12を軌道53に沿って移動すると、角度表示器51の値が順次カウントアップするように表示する。もちろん、角度表示器51を軌道53に設け、XYZステージ12に基線を設けて、アナログ角度表示した目盛りに基線を合わせ込む方法を採ってもよい。
また、XYZステージ12に図示しない駆動機構を設けて、テンキー等で角度θを設定し、駆動機構を動作させてXYZステージを時計方向又は反時計方向に自動的に回転する方法を採ってもよい。なお、図中の16はXYZステージ操作用の既存のレバーである。54は固視票(水平方向や垂直方向等に切り欠きを有するランドルト環:C記号)である。
光学データ取得部10にはPSFアナライザー(登録商標)や、オートレフラクトメーター等が使用される。オートレフラクトメーターは被検眼球2に赤外線光を当て、眼の屈折状態、主に近視・遠視・乱視などの有無やその程度を自動的にコンピューターで解析可能で、かつ、被検眼球2を客観的に測定して数値化が可能なものである。
データ解析装置20はキーボード21、マウス22、制御部23及び表示部24を有している。データ解析装置20には、ノート型やデスクトップ型等のパーソナルコンピューター(情報処理装置)が使用される。マウス22には有線式や無線式のものが使用される。表示部24には液晶表示パネルが使用される。
本体部11には、図2に示すように光照射部13、光検出部14及びデータ入出力部17が備えられ、これらが光学データ取得部10の制御系を構成する。光照射部13は、図示しない光源、フォーカシングレンズ、偏光ビームスプリッタ、1/4波長板等の投影系の構成要素が設けられる。光照射部13は照射制御信号S13に基づいて眼軸線Lに対して角度θの方向の網膜46(図3、図4等を参照)へ測定光を照射する。照射制御信号S13は光源やフォーカシングレンズ等を制御する信号である。
光検出部14は、角度θ方向の網膜46から反射される光を受光して眼底の周辺視野における光検出信号S14を発生する。光検出部14は例えば、撮像素子(CCD)から構成される。光検出部14では、前焦線・後焦線のデフォーカス成分を含む広屈折範囲の光学データD17となる光検出信号S14を発生する。
ここにデフォーカス成分(非焦点成分)とは、水晶体42(図3参照)の結像位置から光軸線(方向)上で前後にズレた非焦点位置の輝度成分をいう。この視野周辺部のデフォーカス成分こそが、近視進行の有無を予想する第一の因子になり得るものである。なお、光照射部13、光検出部14及びデータ入出力部17の個々の構成及びその機能については、既存のPSFアナライザー(登録商標)を利用できるので、その詳細な説明を省略する。
データ入出力部17は光学データD17をデータ解析装置20に転送したり、データ解析装置20から制御データD33を受信して光照射部13及び光検出部14を制御する。例えば、データ入出力部17は制御データD33をD/A変換して照射制御信号S13を作成し、照射制御信号S13を光照射部13に出力する。
また、データ入出力部17は光検出信号S14をA/D変換して光学データD17を作成し、ヘッダに角度θを書き込み、当該ヘッダに光学データD17を添付してデータ解析装置20に転送する。光学データD17は角度θにおける周辺視野の網膜46から反射される反射光の光軸±2.0[D」の範囲について、0.25[D]ステップ毎に点像(Point Spread Function;PSF像)を再生(撮像)した21個のダブルパスPSF像を構成するデータである。制御データD33には±2.0[D」の範囲について、0.25[D]ステップ毎にフォーカシングレンズを駆動するデータが含まれる。
データ入出力部17には光検出信号S14をデジタルの光学データD17に変換するAD変換器や、制御データD33を照射制御信号S13に変換するDA変換器が設けられ、AD変換器やDA変換器等の入出力を制御するためのローカルな中央処理装置(CPU)も備えられる。
光学データ取得部10にPSFアナライザー(登録商標)を使用する場合は、当該アナライザーを児童の被測定眼で固視させて、眼底の中心及びその周辺視野の光学データD17を±2.0[D]の広範囲で0.25[D]ステップで測定する。光学データ取得部10によれば、光照射部13のフォーカシングレンズの駆動により被検眼球2に入射する測定光(光束)を収束から平行、発散へと変化させことで、被検眼球2から点光源までの距離を0.25[D]ステップで光学的に変えてダブルパスPSF像を取得できるようになる。
これにより、児童(小児)等における眼底の中心及びその周辺視野での前焦線及び後焦線を含めた正確な光学データD17を詳細に把握できるようになる。被検眼球2の近視が今後進行するか否かを判別(予想)できるようになる。
光学データ取得部10にはデータ解析装置20が接続され、データ解析装置20は光学データD17を解析するものである。例えば、角度θにおける測定光の焦点の位置及び当該焦点の前後の位置(0.25[D]ステップ)での点像強度分布特性(以下PSF特性という)を求め、当該PSF特性に基づいて被検眼球2の眼底の周辺視野に遠視性の後非焦点が存在するか否かを判別する。ここに後焦点とは、角度θにおける光軸線L’上で最も焦点が合った測定光の焦点の後側を後焦線としたとき、この後焦線上に位置する非焦点をいう。
データ解析装置20は制御部23を有しており、制御部23は例えば演算部31、判別部32、データ入出力部33及びメモリ部34を有している。演算部31及び判別部32には中央処理装置(CPU)が使用される。
演算部31は、シングルパスPSF像に関する光学データD17から角度θにおける測定光の焦点の位置及び当該焦点の前後の位置のPSF特性を求める。例えば、演算部31は、角度θにおける光軸線L’上で最も焦点が合った測定光の焦点の位置、光軸線L’上で焦点の前側に位置する前焦線上の非点像の位置、及び、光軸線L’上で焦点の後側に位置する後焦線上の非点像の位置のPSF特性を求める。
更に、演算部31は角度θにおける焦点位置のPSF像の屈折度数、前焦点の屈折度数及び後焦点の屈折度数を角度θ毎に演算する。これにより、前焦点と後焦点の屈折度数から近視の進行の有無を予想できるようになる。
この例では、更に演算部31が角度θにおける焦点位置の点像の屈折度数、前焦点の屈折度数及び後焦点の屈折度数の各々から眼軸線L(θ=0°)における測定光の焦点位置の点像の屈折度数を差し引いた各々の差分を演算する。この演算は遠視性の後焦点が黄斑を中心とした周辺視野の網膜46の外側に存在するか否かを判別するためである。
例えば、遠視性の後焦点が存在するか否かを判別するための前段階として演算部31は、角度θにおける最も焦点が合っている位置のPSF像の屈折度数をBFRθとし、同じ角度θの前焦線上でぼやけている非点像の屈折度数をAFLRθとし、後焦線上でぼやけている非点像の屈折度数をPFLRθとし、眼軸線L上(θ=0°)における最も焦点が合っている位置のPSF像の屈折度数をBFR0とし、それぞれの評価値をA,B,Cとして、次の評価式(1)〜(3)、すなわち、
A=AFLRθ−BFR0 ・・・・・(1)
B=BFLRθ−BFR0 ・・・・・(2)
C=PFLRθ−BFR0 ・・・・・(3)
を演算する。
判別部32は、上述の(1)〜(3)式の演算結果に基づいて被検眼球2の眼底の周辺視野に遠視性の後焦点が存在するか否かを判別する。例えば、判別部32は、測定光の焦点の位置のPSF像の屈折度数、前焦線上の非点像の屈折度数、及び後焦線上の非点像の屈折度数が共に正の値であるか負の値であるかを判別する。
判別部32は、3つの評価値A,B,Cがいずれも正の値である場合は、”前焦線から後焦線に至るまですべてに遠視性の後焦点が網膜の外側に存在する”旨を診断できるようになる。反対に、3つの評価値A,B,Cの内、1つでも負の値である場合は、”前焦線から後焦線に至る位置に遠視性の後焦点が存在しない”旨を判断できるようになる。
上述のデータ入出力部33には、光学データ取得部10、キーボード21、マウス22及び表示部24が接続される。データ入出力部33は光学データD17を光学データ取得部10から受信したり、光学データ取得部10へ制御データD33を転送する。データ入出力部33は表示部24に表示データD24を出力したり、キーボード21からキーデータD21を入力したり、マウス22から操作データD22を入力する。
なお、データ入出力部33には光学データ取得部10に代えて、レフラクトメーターが接続可能となされ、レフラクトメーターから得られる眼底形状データDINに基づいて判別部32で被検眼球2の眼底の周辺視野に遠視性の後焦点が存在するか否かを判別するようにしてもよい。
メモリ部34は記憶媒体の一例を構成し、近視進行判別方法を実行するためのコンピューターが読み取り可能なプログラムを記述したものである。メモリ部34にはROM、RAM等の他、ハードディスク装置が使用される。例えば、ROMには近視進行判別方法を実行するためのコンピューターが読み取り可能なプログラムデータが格納される。
プログラムデータは、例えば、被検眼球2の水晶体の略中央と黄斑とを結ぶ眼軸線Lに対して角度θの方向の網膜46へ測定光を照射するステップと、当該網膜46から反射される光を受光して眼底の周辺視野における光学データD17を取得するステップと、光学データD17を解析して角度θにおける測定光の焦点の位置及び当該焦点の前後2の位置のPSF特性を求めるステップと、PSF特性に基づいて被検眼球2の眼底の周辺視野に遠視性の後焦点が存在するか否かを判別するステップ(図5参照)とを実行するためのメインルーチン用のプログラムを内容とするものである。
更に、被検眼球2の眼底の周辺視野に遠視性の後焦点が存在するか否かの判別時のサブルーチンとして、前焦線上の非点像の屈折度数AFLRθ及び眼軸長上の焦点の屈折度数BFR0を入力するステップと、評価式A=AFLRθ−BFR0として評価値Aを求めるステップと、最も焦点が合っている位置の屈折度数BFRθ及び眼軸長上の焦点の屈折度数BFR0を入力するステップと、評価式B=BFLRθ−BFR0として評価値Bを求めるステップと、後焦線上の非点像の屈折度数PFLRθ及び眼軸線L上の焦点の屈折度数BFR0を入力するステップと、評価式C=PFLRθ−BFR0として評価値Cを求めるステップと、評価値A,B,Cがいずれも正の値であるか否かを判別するステップとを実行するためのプログラムデータも含まれる。
RAMには周波数伝達関数(Modulation Transfer Function:MTF)解析時、変換後の光学データD17が展開される。MTF解析では、最も焦点が合うPSF像のぼやけ具合が解析される。ハードディスク装置には変換前及び変換後の光学データD17や、表示データD24、制御データD33等が格納される。表示データD24は角度θ毎にサムネイル画像を表示するためのシミュレーション画像表示用のデータである。これにより、被検眼球2の角度θにおける最も焦点の合う屈折位置での低次及び高次収差の影響を解析できるようになる。図中のDsはS曲線データであり、半径rsの後焦等線Sを描画するための画像データであり、コンタクトレンズの選定時に使用される。
表示部24は、演算部31によって算出された最も焦点が合った位置のPSF像、前焦線上の非点像及び後焦線上の非点像を角度θ毎に表示するようになる。例えば、データ入出力部33から表示データD24を受信して、最も焦点が合った位置のPSF像、前焦線上の非点像及び後焦線上の非点像のサムネイル画像を1画面中に表示する(図8A〜図8L及び図9A〜図9I参照)。もちろん、表示部24に、被検眼球2の模式的な断面に角度θにおける光軸線L’を重ね合わせたもの表示してもよい(図3及び図4参照)。表示部24には液晶表示パネルが使用される。これらにより、近視進行診断装置100を構成する。
ここで、図3及び図4を参照して、評価式A,B,Cが正値となる場合及び負値となる場合の判定例について説明する。図3及び図4は、被検眼球2の模式的な断面に角度θにおける光軸線L’を重ね合わせたものであり、光軸線L’上には0.25[D]スケールで位置(焦点や非焦点の深度)が記述されている。図3に示す評価式A,B,Cが正値となる判定例によれば、眼内断面図において、近視が進行した児童は、図4に示す正視の児童に比べて被検眼球2の眼軸長Lxが延びている。図中、角度θ=20°で破線に示す光軸線L’と直交する複数(21本)の縦方向の短線は、±2.0[D」の範囲について、フォーカシングレンズの駆動により被検眼球2に入射する測定光(光束)を変化させたとき、その0.25[D]ステップ毎に非焦点及び焦点の位置を記述したものである。
この破線で示した光軸線L’において、最も焦点が合った位置(黒丸印)をBFpとし、前焦線上の非点像の位置(黒菱形印)をAFpとし、後焦線上の非点像の位置(白抜き菱形印)をRFpとしたとき、位置BFpと位置RFpとが網膜46を跨いで、その遠視側に位置している。先に説明した例で言うと、位置AFpが図8Eに示した−3.45[D]に相当し、位置BFpが図8Kに示した−1.95[D]に相当し、位置RFpが図9Eに示した−0.45[D]に相当する。
このような位置BFpと位置RFpとが網膜46を跨いで遠視側に位置している児童の被検眼球2は、評価式A,B,Cが正値となり、被検眼球2の近視が進行していると判断することができる。
図4に示す評価式A,B,Cが負値となる判定例によれば、眼内断面図において、正視の児童は、図3に示した近視の児童に比べて被検眼球2の眼軸長Lxが延びていない。図中、破線で示した光軸線L’において、最も焦点が合った位置BFp及び前焦線上の非点像の位置AFpが網膜46を跨ぐことなく、近視側に位置している。このような位置BFpと位置RFpとが近視側に位置している児童の被検眼球2は、評価式A,B,Cが負値となり、被検眼球2の近視は進行していないと判断することができる。
続いて、図5〜図14を参照して、本発明に係る近視進行判別方法について、当該近視進行診断装置の動作例について説明する。この例では、図1に示した近視進行診断装置100に被検者1の頭部をその顎台に固定して、非検査眼で固視票54を固視するようにさせて、検査眼の周辺視野での光学データD17を近視進行診断装置100によって測定する場合を前提とする。近視進行診断装置100が次のステップST1〜ST7を実行し、そのステップST5で制御部23が被検眼球2の近視の進行を判定して被検眼球2の近視の進行を診断する場合を例に採る。
これらを前提にして、図5に示すフローチャートのステップST1で、まず、制御部23は角度θの設定を受け付ける。角度θは被検眼球2の水晶体42の略中央と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lに対する測定光の照射角となる。例えば、眼科医師は設定部15を操作して角度θを設定する。設定部15はデータ入出力部17,33を介して制御部23に角度θ設定を示す光学データD17を通知する。もちろん、キーボード21又はマウス22を操作して制御部23に角度θ設定を示す光学データD17を入力してもよい。
次に、ステップST2で制御部23は、先に設定された角度θの方向の網膜46へ測定光を照射するように光照射部13を制御する。光照射部13はデータ入出力部17から入力した照射制御信号S13に基づいて眼軸線Lに対して角度θの方向の網膜46(図3、図4等を参照)へ測定光を照射する。
更に、ステップST3で制御部23は、光学データD17を取得するようにデータ入出力部17を制御する。光検出部14では、角度θの方向の網膜46から反射される光を受光して眼底の周辺視野における前焦線・後焦線のデフォーカス成分を含む広屈折範囲の光検出信号S14を発生する。
データ入出力部17は光検出部14から光検出信号S14を入力し、当該光検出信号S14をA/D変換して前焦線・後焦線のデフォーカス成分を含む広屈折範囲の光学データD17を取得する。光学データD17は図7のAに示すダブルパス(Double-pass)PSF像を構成するデータである。
ダブルパスPSF像は、眼球光学系に点光源を投影した時に網膜46上に形成される点像であり、眼球光学系の全ての光学情報(光学データD17)を含んでいる。光学データD17を取得することで、視野周辺部で最も焦点が合う部分だけでなく、0.25[D]等、細かく広範囲に渡って、そのデフォーカス成分の光学特性を取得できるようになる。
次いで、ステップST4で制御部23は光学データD17を解析する。例えば、ステップST41で制御部23は、角度θにおける測定光の焦点の位置及び焦点の前後の位置のPSF特性を求める。上述のダブルパスPSF像には測定光が眼球光学系を行きと帰りとで2回通過しているので、図7のAに示したダブルパスPSF像を図7のBに示すシングルパス(Single-pass)PSF像に変換する。このとき、ダブルパスPSF像を示す光学データD17が、従来方式と同じ方法でシングルパスPSF像を示す光学データD17に変換される。
変換後の光学データD17は解析されて、被検眼球2の眼底の周辺視野に遠視性の後焦点が存在するか否かを判別するために用いられる。演算部31では、シングルパスPSF像の伝達特性を表す関数としてのMTFと、位相伝達関数(Phase Transfer Function:PTF)とを求める演算が行われる。
このMTFとPTFの両方の特性を合わせた光学伝達関数(Optical Transfer Function:OTF)を求め、これらの特性によって、被検眼球2のレンズの画像伝達特性、換言すると、被検者1の眼内レンズ(水晶体42)の結像性能を判断するようになされる。演算部31は、光学データD17から低次及び高次収差を反映したコントラストデータ(MTFデータ)を計算するようになる。
この例では、最も焦点が合った位置のPSF像におけるMTF(fx,fy)を計算することによって、周辺視野の非焦点のぼけ具合を解析(MTF解析)する。例えば、被検眼球2の眼球光学系の光学伝達関数をOTF(fx,fy)とし、その周波数伝達関数をMTF(fx,fy)とし、非焦点や焦点の光学データD17の輝度信号成分をS(fx,fy)、S(0,0)とし、水平方向の空間周波数をfx、垂直方向の空間周波数をfyとして、(4)式、すなわち、
この(4)式に基づいて、角度θにおける±2.0[D」の範囲について、0.25[D]ステップ毎に非焦点及び焦点の位置(全21箇所)の点像強度分布特性(PSF特性)を算出する(図8A〜図8L及び図9A〜図9I参照)。これにより、最も焦点が合うPSF像のぼやけ具合をMTF解析することができる。このMTF解析によって測定光の焦点位置の点像のぼやけが大きい被検眼球2、例えば、PSF像のぼやけが大きい児童は、本介入試験では治療できない除外群になるか、本介入試験で治療が可能かを分類できるようになる。
そして、ステップST42で制御部23が角度θにおける±2.0[D」の範囲について、0.25[D]ステップ毎の焦点及び非焦点像をサムネイル画像として表示部24に表示する。例えば、表示部24はデータ入出力部33から表示データD24を受信して、最も焦点が合った位置のPSF像、前焦線上の非点像及び後焦線上の非点像のサムネイル画像を1画面中に表示する(図8A〜図8L及び図9A〜図9I参照)。
図8A〜図8L及び図9A〜図9Iに示す画像例によれば、角度θ=20°における視野周辺部の網膜46から反射される反射光の光軸±2.0[D」の範囲について、0.25[D]ステップ毎に再生(撮像)した21個のシングルパスPSF像が構成され、図7のAに示したダブルパスPSF像から変換されたシングルパスPSF像の光学データD17(コントラストデータ:MTFデータ))を構成するようになる。
図8A〜図8Lに示す屈折度数が−4.45[D]、−4.20[D]、−3.95[D]、−3.70[D]、−3.45[D]、−3.20[D]、−2.95[D]、−2.70[D]、−2.45[D]、−2.20[D]、−1.95[D]、−1.70[D]の12個の画像において、−3.45[D]が角度θ=20°における前焦線上の非焦点像であり、−1.95[D]が角度θ=20°における最も焦点が合った位置のPSF像である。
また、図9A〜図9Iに示す屈折度数が−1.45[D]、−1.20[D]、−0.95[D]、−0.70[D]、−0.45[D]、−0.20[D]、 0.05[D]、 0.30[D]、0.55[D]の9個の画像において、−0.45[D]が角度θ=20°における後焦線上の非焦点像である。図8A〜図8Jに示した非焦点像は幅や長さに大小があるもの右下がりの細長い楕円形状を有している。図8L及び図9A〜図9Iに示した非焦点像も幅や長さに大小があるもの、左下がりの細長い楕円形状を有している。
前焦線上の非焦点像及び後焦線上の非焦点像の選択基準は、例えば、最も焦点が合った位置BFpのPSF像からその前後に±0.25[D]をずれた位置の前焦線上の非焦点像の光強度と後焦線上の非焦点像の光強度を合成したとき、当該PSF像の光強度となるような対称位置AFp,RFpにある前焦線上の非焦点像及び後焦線上の非焦点像とを抽出する。他の角度θ=10°,30°及び40°についても同様に取得される。
図10に示すMTF対空間周波数の特性例によれば、縦軸が眼内レンズ(水晶体42)のMTFであり、PSF像の細かさを示す空間周波数(Spatial Frequency)に対応するコントラストの低下の割合を示している。横軸は空間周波数[c/deg]である。
図中、破線はPSF像の水平方向のMTF対空間周波数特性であり、一点鎖線はPSF像の垂直方向のMTF対空間周波数特性であり、実線はこれらの平均値となるMTF対空間周波数特性である。いずれも特性も、角度θ=20°における最も焦点が合った−1.95[D]の位置で再生(シミュレーション)されるPSF像の場合である。MTF特性によれば、空間周波数が高くなる(細かい像になる)につれて急激にMTF(コントラスト)が低下してくる。このMTF特性から被検眼球2の水晶体42の光学特性を把握することができる。
また、図11A〜図11Gに示すPSF像の取得例によれば、角度θ=−20〜40°における水晶体眼のベストフォーカス時の7個のPSF像である。この例では、眼軸線L上(角度θ=0°)における最も焦点が合っている位置のPSF像の屈折度数BFR0として、図11Cに示す水晶体眼のベストフォーカス時のPSF像を使用する。
図12に示す水晶体眼のMTF特性例によれば、縦軸が眼内レンズ(水晶体42)のMTFであり、横軸は測定光照射時に設定された角度θであり、θ=−20〜40°である。図中の実線は水晶体眼のMTF特性である。
そして、ステップST5で制御部23はMTF特性及びPSF特性に基づいて被検眼球2の眼底の周辺視野の外側に遠視性の後焦点が存在するか否かを判別する。例えば、図6に示すサブルーチンをコールして、そのステップST51で演算部31は前焦線上の非点像の屈折度数AFLRθ及び、眼軸長上の焦点の屈折度数BFR0を入力する。次に、ステップST52で演算部31は、
評価式A=AFLRθ−BFR0・・・・(1)
から評価値Aを求める。その後、ステップST57に移行する。
また、ステップST53で演算部31は最も焦点が合っている位置の屈折度数BFRθ及び、眼軸長上の焦点の屈折度数BFR0を入力する。次に、ステップST54で演算部31は、
評価式B=BFLRθ−BFR0・・・・(2)
から評価値Bを求める。その後、ステップST57に移行する。
更に、ステップST55で演算部31は後焦線上の非点像の屈折度数PFLRθ及び、眼軸線L上の焦点の屈折度数BFR0を入力する。次に、ステップST56で演算部31は、
評価式C=PFLRθ−BFR0・・・・(3)
から評価値Cを求める。その後、ステップST57に移行する。
ステップST57で判別部32は評価値A,B,Cがいずれも正の値であるか否かを判別する。A,B,C>0となる場合(YES)は、ステップST5の「周辺視野に遠視性の後焦点が有る」にリターンする。反対に、A,B,C<0となる場合(NO)は、ステップST5の「周辺視野に遠視性の後焦点が無い」にリターンする。
ここで、近視の被検眼球2に関して、眼軸線L上の焦点の屈折度数BFR0が−0.3[D]で、角度θ=20°における最も焦点が合っている位置のPSF像の屈折度数BFRθが−1.5[D]で、前焦線上の非点像の屈折度数AFLRθが0.0で、後焦線上の非点像の屈折度数PFLRθが−3.0である場合に、その評価値をA,B,Cとして、遠視性の後焦点が存在するか否かを判別する。
これらの値を(1)〜(3)式に代入すると、評価値Aは+3で、評価値Bは+1.5で、評価値Cが0.0となり、評価値A,Bが正の値となるので、前焦線から後焦線に至るすべて遠視性デフォーカスが存在すると判別できるようになる。
近視が進行した児童は、角度θにおける焦点と後焦線上の非点像が網膜46を跨いで、その遠視側に位置すると予想できるようになる。角度θは20°の場合のみならず、θ=10°,30°,40°について演算し、1つの角度θで遠視性の後焦点が存在すると判別された場合は、他の角度θについて演算を行わなくとも、近視進行傾向にあると判別できる。具体的には、図3に示したような網膜46の遠視側に焦点位置が存在し、近視進行傾向にある被検眼球2である旨を予測できるようになる。
また、正視の被検眼球2に関しては、眼軸線L上の焦点の屈折度数BFR0が0.0[D]で、角度θ=20°における最も焦点が合っている位置のPSF像の屈折度数BFRθが−1.0[D]で、前焦線上の非点像の屈折度数AFLRθが0.0で、後焦線上の非点像の屈折度数PFLRθが−2.0である場合に、評価値Aは0.0で、評価値Bは−1.0で、評価値Cが−2.0となり、評価値B,Cが負の値となるので、遠視性デフォーカスは存在しないと判別できるようになる。
近視が進行していない児童は、角度θにおける前焦線と後焦線が網膜46を跨ぐことなく、網膜46の近視側に位置すると予想できるようになる。具体的には、図4に示したような網膜46の近視側に焦点及び前焦線上の非点像が存在し、近視進行傾向には無い被検眼球2である旨を予測できるようになる。
上述のステップST5で制御部23は”被検眼球2に近視の進行が無い”と判別した合は、ステップST6で制御部23は「加入度数の導入治療から除外する」旨が表示部24に表示される。
ステップST5で制御部23は”被検眼球2に近視の進行が有る”と判別した場合は、ステップST7で制御部23は「加入度数の導入処方を適用する」旨が表示部24に表示される。例えば、データ解析装置20では、角度θにおける測定光の焦点位置の点像のぼやけ具合の解析結果から、近視進行抑制用の加入度数を導入した眼鏡又はコンタクトレンズによる治療が処方される。
このステップST7で、進行しうる近視が治療で抑制できるかどうかの判定や、進行しうる近視を周辺部にどれくらいの度数の屈折矯正を加入することで治療できるか等の判定を行ってもよい。例えば、眼鏡又はコンタクトレンズにおいて、角度θにおける網膜46の外側の後焦点を近視(眼内)側に引き戻すための加入度数を遠方光学部(近視矯正レンズ)の周囲に設定する。
上述した−0.3[D]の近視の児童に対して、近視進行抑制用のコンタクトレンズを処方する場合、−0.3[D]の遠方光学部(凹レンズ)の周囲に+3°程度の近方光学部(凸レンズ)を設定する。この凸レンズは、角度θにおける網膜46の外側の後焦点を近視側に引き戻すためのもので、遠近両用のものとは機能が異なっている。
このように、第1の実施形態としての近視進行診断装置100によれば、角度θを成す方向の網膜46から反射される光を受光して得た眼底の周辺視野における光学データD17を解析するデータ解析装置20を備え、データ解析装置20が角度θにおける測定光の焦点の位置及び当該焦点の前後の位置のPSF特性に基づいて被検眼球2の眼底の周辺視野に遠視性の後焦点が存在するか否かを判別するようになる。
この構成によって、被検眼球2の近視の進行を判別(予想)できるので、小児の近視が今後進行するかどうかの判定を含めて、眼軸長の変化が著しい学童期の軸性近視や、本来近視の進行が止まるとされる成人において、引き続き進行し続ける屈折性近視の進行を容易に診断できるようになる。これにより、個々の小児の基礎データに基づくコンタクトレンズや眼鏡の処方が可能となる。近視の進行段階にある児童等の眼に合った眼鏡やコンタクトレンズを提供できるようになる。
また、近視進行診断装置100によれば、定期的に近視進行判別を行って周辺視野での光学データD17の変化をモニターしながら適宜屈折矯正を行うといった、近視進行の予防・抑制に役立てることができる。これにより、一定期間の治療後に行われる効果判定において、その治療基準を明確にできるようになる。
また、近視進行判別方法によれば、眼底の周辺視野の光学特性において、前焦線及び後焦線の屈折を考慮し、ステップST4で角度θにおける測定光の焦点位置の点像のぼやけ具合のMTF解析によって、当該測定光の焦点位置の点像のぼやけが大きい被検眼球2は本介入試験では治療できない除外群になるか、本介入試験で治療が可能かを鑑別(分類)できるようになる。
なお、図13A〜図13Gには、被検者1が眼内レンズ(Intraocular lens:IOL)眼である場合であって、角度θ=−20〜40°におけるベストフォーカス時の7個のPSF像を示している。IOL眼(眼内レンズ眼)は白内障手術で水晶体42を摘出し、代わりに人工の水晶体を挿入する(埋め込む)方法(レーシック等)が施されたものである。IOL眼によれば大きな収差成分の原因で周辺にしっかり焦点ができなくなる。近視進行の第二の要素になりうる。
また、図14にはIOL眼のMTF特性例を示している。縦軸は人工レンズ(IOL眼)のMTFであり、横軸は測定光照射時に設定された角度θであり、θ=−20〜40°である。図中の実線はIOL眼のMTF特性である。IOL眼のMTF特性は、水晶体眼のMTF特性に比べて平坦な特性となっている。
この例では、水晶体眼のPSF像よりも、全体的にIOL眼のPSF像の方がその像径が大きくなっている。IOL眼では有意にMTFが劣化していることが分かる。上述の収差成分も、光学データD17をMTF解析することで鑑別が可能となる。過去の報告でIOL眼は近視が進行することから、本発明の判別方法を導入することが、介入試験に無効な除外すべき例を鑑別する方法として有効となる。
また、上述の実施の形態では、被検者1の頭部を検査機器のあご台に固定して、非検査眼で固視票54を固視した状態下で、光学データ取得部10を軌道53に沿って角度θ(光軸)だけ変位させる場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、光学データ取得部10を児童の被測定眼で固視させ、当該光学データ取得部10の内部の点光源や、ハーフミラー、CCD等を搭載した光学系をステージ等に搭載する。
そして、被検者1とデータ取得部本体とが固定された固定座標系に対して光学系を回転座標系に独立して固定し、当該回転座標系でステージ等を角度θ(光軸)だけ変位させる方法を採ってもよい。もちろん、光学系の光軸に反射鏡を配置し、当該反射鏡を回転駆動して角度θ(光軸)を変位させる方法を採ってもよい。これらの構成によっても、角度θにおける前焦線及び後焦線を含めた正確な光学データD17を取得できるようになる。
なお、今回、被検者1に関して児童の場合について説明したが、これに限らず、成人期での近視進行例でも応用しても同様な効果が得られることは言うまでもない。また、本発明に係る近視進行診断装置100(近視進行診断システム)では、データ解析装置20から得られた遠視度数から近視抑制に必要な矯正度数を測定できるようになる(ステップST7参照)。このように、近視になり始めると眼軸長Lxが後方に延びて眼球形状が歪むが、被検眼球2の水晶体42の略中心頂点と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lに対して角度θを成す方向の周辺網膜を跨いだ外側の位置から当該周辺網膜の内側(眼内)へ遠視性の後焦点を引き戻すことで、近視の進行を抑制できるようになる(以下で、近視進行抑制理論という)。
<近視進行抑制用のコンタクトレンズ>
図15のA及びBに示す第2の実施形態としての近視進行抑制用のコンタクトレンズ200は、コンタクトレンズの一例を構成し、近視進行抑制用の屈折度数が設定された後焦点制御部(以下で後焦点コントロールエリア63という)を、遠用光学部62の周辺領域に設けたものである。本発明に係るコンタクトレンズ200は次の設計根拠による。
上述した近視進行抑制理論によって、眼軸長Lxの延長による視力進行は周辺視となる角膜周辺部から眼内に入射し、網膜周辺部に前焦点と後焦点を出現させ、その後焦点が網膜より後ろに結ぶことが原因であることが分かった。その後焦点は網膜曲率の違いによって網膜からの焦点の距離が異なるため、その網膜曲率に応じた後焦点制御領域をレンズ本体部61に設け、後焦点を網膜前方に結ぶような屈折度数を後焦点コントロールエリア63に設定してコンタクトレンズを設計したものである。
この例では、近視進行診断装置100で計算した光学データD17を基づいて前焦線と後焦線に注目し、被検眼球2の近視進行の抑制を目的としたソフトコンタクトレンズを提供するものである。図15のAにおいて、コンタクトレンズ200は中央部が凹状に窪んでその周りが凸状に盛り上がったお椀形のレンズ本体部61を有している。レンズ本体部61の材質は従来からソフトコンタクトレンズを構成する部材が使用できる。
Dφ1は図15のBに示すレンズ本体部61のレンズ径であり、角膜41(約12mm程度)を覆うため、それ以上の大きさとし、Dφ1=14.0mm前後である。レンズ本体部61には度数設定領域I(付加領域:ADD)が設けられている。度数設定領域Iの直径Dφ2は、図16に示す瞳孔径Dφ3が平均して4.6mmであることから、7.0mm程度に設定されている。図16には角膜41上にコンタクトレンズ200を装着した例を示している。なお、度数設定領域Iは、遠用光学部62及び後焦点コントロールエリア63から構成されている。
遠用光学部62はレンズ本体部61の中心領域に設けられ、近視矯正用の所定のマイナス度数の凹レンズが配置される。遠用光学部62の幅はOZで示され、正面視時、レンズ中心部に設計され、遠用光学部62の幅OZは概ね2.5mm程度に設定される。幅Dz=2.5mmとする理由は、錐体細胞が密に分布する黄斑45の周辺に結像させることが第1の目的である。
更に、黄斑45の周辺であっても結像が網膜46の後ろとなる影響の少ない光の入射角度とするのが第2の目的である。この例では度数設定領域Iから遠用光学部62の幅OZの面積領域を差し引いた残りの領域を後焦点コントロールエリア63と称している。後焦点コントロールエリア63の度数は、近視眼の度数や見え方に左右されず、網膜曲率と近視進行抑制理論のために作成された計算式に基づき決定される。
上述の度数設定領域Iの直径Dφ2=7.0mmとする更なる理由は、黄斑45の周辺よりもさらに周辺部の網膜46の外側への結像を網膜46の手前となるよう行う凸レンズの加入度数を設けるために、後焦点コントロールエリア63を角度30°以内(図16参照)に設定し、この角度30°で眼内に入射する光をコントロールするためである。角度30°は、図16に示す被検眼球2の水晶体42の略中心頂点と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lを角度0°とし、これを基準にして、角度12°をピッチで角度12°、24°、36°、48°及び60°で測定光を照射した際に選択されたものである。
後焦点コントロールエリア63は遠用光学部62の周囲に設けられる。後焦点コントロールエリア63は近視進行抑制用の所定のプラス度数の凸レンズが配置され、被検眼球2の瞳孔43の略中心(水晶体42の略中心頂点)と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lに対して角度θを成す方向の周辺網膜を跨いだ外側の位置から当該周辺網膜の内側(眼内)へ遠視性の後焦点を引き戻すようになされる。
コンタクトレンズ200は後焦点コントロールエリア63の屈折度数に関して、被検眼球2の黄斑45を含む網膜46の内面形状を眼底曲率半径で表したとき、眼底曲率半径が最も小さい網膜眼と眼底曲率半径が最も大きい網膜眼とを平均して得た眼底曲率半径が平均の網膜眼を基準にして、平均の網膜眼よりも被検眼球の眼底曲率半径が大きい網膜眼である場合は、平均の網膜眼の屈折度数よりも弱い屈折度数が設定され、平均の網膜眼よりも被検眼球の眼底曲率半径が小さい網膜眼である場合は、平均の網膜眼の屈折度数よりも強い屈折度数が設定されるものである。
この例では、度数設定領域Iの外側の領域は度数を持たない領域とされ、度数を持たない領域と、度数が設定された領域との間がゆるやかなジャンクション(接続部位;境界部位)となされている。急激な形状や度数の変化は、視界の周辺部にて像のジャンプや歪み等を発生させるためである。この例では、レンズ先端(最外側)までを段階的に変化させるゾーン(移行ゾーン)を持つデザインとなっている。
上述した近視進行抑制用のコンタクトレンズ200は、被検眼球2の周辺視野の光学特性の基礎データと、計算式とに基づき、製造することが可能となる。例えば、コンタクトレンズ200において、中心に遠用光学部62の近視度数を配置し、その周辺部に計算式により得られた後焦点コントロールエリア63を配置する。
遠用光学部62の幅OZ(面積)を余り広く設けると、この遠用光学部62から眼内に入射した光が網膜周辺部に多く届いてしまう。この光が網膜周辺部に届くことを防止するために、遠用光学部62の幅OZを可能な限り狭く(小さく)することが望ましい。
幅OZも計算式によって算出されたデータを基づいて設計するようになされる。このように遠用光学部62の遠方視力用の屈折度数が入っている面積が従来の視力補正用のコンタクトレンズに比べて著しく小さいことが本発明の特徴となっている。
上述のコンタクトレンズ200をソフトコンタクトレンズとする理由は、瞬目(瞬き)によってレンズ本体部61が角膜41上で大きく動くと、ハロやグレアによって、コントラスト等の見え方の質が低下するため、動きの小さいレンズであることが必要であるためである。ここに、ハロとは光輪症と訳される後遺症をいい、光を見ると光の周りに輪のような光が見える症状を伴う。光の種類によっては、光自体が丸くぼやけて見える場合もある。いずれにせよ、本来の光より大きいので、眩しく感じる。また、グレアとは光輝症と訳される後遺症をいい、光が本来よりもぎらぎらと強く、眩しく見える症状を伴う。「にじんで見える」と言う人もいる。
このように、第2の実施形態としてのコンタクトレンズ200によれば、近視進行抑制用の屈折度数が設定されて遠用光学部62の周辺領域に設けられた後焦点コントロールエリア63を備え、被検眼球2の角度θを成す方向の周辺網膜を跨いだ外側の位置から当該周辺網膜の内側(眼内)へ遠視性の後焦点を引き戻すようになされる。
この構成によって、遠近両用レンズの目的である近方の見え方に依存されることなく、又は、近方の見え方に依存することなく、近視状態の被検眼球2に関してそれ以降の近視の進行を抑制できるようになる。本発明に係るコンタクトレンズ200は近視進行抑制を目的としたものであるため、遠方視力においては遠用光学部62からの光を網膜46の中心部である黄斑45に結像するように設計されているが、後焦点コントロールエリア63の焦点を黄斑45に結像することを目的としていない。
従って、後焦点コントロールエリア63の屈折度数は、近視進行診断装置100による他覚的検査により決定されるため、遠用光学部62の見え方が改善される訳ではないことが、視力補正用を目的とした既存の遠近両用コンタクトレンズとの大きな相違点である。これに対して、既存の視力補正用の遠近両用コンタクトレンズは、自覚的な遠方及び近方の見え方を向上させることを目的とし、かつ、いかに鮮明な像が得られ、ゴーストやグレアが防止されると共に、像のジャンプを生じさせないことを目的として遠用光学部62’及び近用光学部63’が設計されている(図30参照)。
本発明のコンタクトレンズ200は、網膜46の中心部である黄斑45以外の周辺網膜への結像を網膜46の手前に移動させるための設計であり、その後焦点コントロールエリア63の屈折度数の設定は、角膜41に入射する角度(θ=30°)によって決定されるところに大きな違いがある。
また、遠用光学部62以外の周辺の度数において、既存の視力補正用及び遠近両用コンタクトレンズは、個人差に応じた度数を処方しなければならない。しかし、ヒトの眼球には平均的な大きさがあるため、その平均的な眼球の大きさに基づいて何タイプかの度数設計を行うことで、仕様を確定させることが可能である。そうすれば製造の簡素化にも繋がるというメリットがある。ソフトコンタクトレンズは、例えば、遠用光学部62の凹状のレンズ、後焦点コントロールエリア63の凸レンズ及びその周囲領域を一体的に象った金型に、レンズ樹脂素材を注入して射出金型成形することで得られる。
上述したコンタクトレンズ200は、一般的な視力補正用のコンタクトレンズとは全く異なるものであり、後焦点コントロールエリア63に設ける度数においては、中心に設ける遠用光学部62の度数とは一切関係がなく、また、使用者の必要とする矯正度数ともいっさい関係しないものである。あくまでも、網膜曲率の違いによって決定されることを特徴とする。従って、同じ近視度数を持ち、同じ調節力を持つ眼でも、網膜曲率が違う場合、レンズ本体部61に設置する後焦点コントロールエリア63の度数は異なることを特徴としている。このため、後焦点コントロールエリア63の度数によって近方の見え方が改善されることを目的としていない。
加えて、一般的な遠近両用のコンタクトレンズのように、瞬きや視線の変更や移動によって角膜41上のレンズ本体部61を動かすことで加入度数の異なる場所に視軸を移動させて近方を見せるものではないことも他の視力補正用のコンタクトレンズとは異なる特徴である。このため、瞬きや視線の変更によって角膜41上でレンズ本体部61が動かないように工夫されている点も特徴となっている。
また、本発明に係るコンタクトレンズは近視抑制用のコンタクトレンズであるため、正面視時の遠用光学部62においても、近視進行抑制理論に基づき、黄斑45の周辺での後焦点が網膜46の後ろとなる影響の少ない最低限の角度とするため、一般的な視力補正用のコンタクトレンズに比べて遠用光学部62が著しく狭いことも特徴となっている。
また、後焦点コントロールエリア63に設ける度数においては、近視進行抑制理論に基づき決定されたものでなければならない。もしも、安易に決められた加入度数であると、後焦点を網膜手前に移動させることができず、近視の進行抑制という目的を発揮できない。
<コンタクトレンズの選定方法>
続いて、実施例としての近視進行抑制用のレンズの選定例について説明する。これに先立って、まず、図17〜図23を参照して、近視眼の矯正及びタイプ別のコンタクトレンズ200について説明する。
図17は、網膜46の中心である黄斑45からの角度と視力との関係をグラフに示したものである。図17において、縦軸は視力の相対値であり、視力0.025〜1.0を示している。横軸は中心窩(黄斑45)からの度数(角度)であり、眼軸線Lの黄斑45の位置が0°である。鼻側が度数0°〜70°で耳側が度数0°〜60°である。
図17に示す視力と度数との関係例によれば、度数0°付近で最も視力が最高値を示している。中心窩を外れると錐体細胞の密度が急激に低下するので、視力も低下する。図中の度数14°〜18°付近の斜線は盲点を示している。この盲点を境界にして像が認識できなくなる。換言すると、周辺網膜上で焦点を結んでも像として認識されなくなる。この現象を本発明のコンタクトレンズ200に応用するものである。
すなわち、本発明のコンタクトレンズ200は近視抑制を目的としたものであるため、遠方視力においては遠用光学部62からの光を錐体細胞が密に分布する黄斑45の周辺に結像するように設計される。しかし、コンタクトレンズ200は広い視野を確保するための光学エリアを設計の目的としていない。その理由として、図17に示したように、視力は黄斑45の中心窩における中心視力(central vision)が最も良く、中心から外れると視力は急激に低下することによる。
視野の中では、中心視力が最も鋭敏で周辺網膜ほど悪く、中心視力1.0のとき、視線が度数(角度)2°ずれると0.4、度数5°ずれると0.1程度まで視力が低下することが知られている。このことから、本発明に係るコンタクトレンズ200において、その中心に設ける遠用光学部62の加入度数(光学)エリアを幅OZ=2.5mmとした場合、対象とする物を見た際、概ね度数10°の視野が確保できるようになる。つまり、必要とする視力を得るための視野は2.5mmで十分確保できていることになる。
ところで、図18に示す近視眼の矯正例(その1)によれば、近視は焦点fが網膜46の中心部である黄斑45の手前にある状態である。この近視の状態では、角膜41の周辺部から眼内に入射し、網膜周辺部に出現する前焦点aと後焦点bは共に網膜46の手前に結ぶが、これを矯正し、網膜46の中心部の黄斑45に結像するように焦点fをf’に移動させた場合、前焦点aはa’に移動し、後焦点bはb’へと移動する。その結果、後焦点b’は網膜46よりも後ろに結ぶことになる。
この例で、眼内への光の入射角(角度θ;実際は立体角)によって、一点鎖線で示す前焦等線Tと破線で示す後焦等線Sが生じる。ここに前焦等線Tとは角度θ毎に得られる前焦線上で等しいPSF特性を有する非焦点を順に繋いで弧状に描いたものをいう。後焦等線Sとは、角度θ毎に得られる後焦線上で等しいPSF特性を有する非焦点を順に繋いで弧状に描いたものをいう。後焦等線S及び前焦等線Tの各々の弧の最低点は、眼軸線L上をスライドして黄斑45の位置に移動する。図中、rsは後焦等線Sの半径であり、眼軸線上の原点Oxから後焦等線Sに至る長さである。
近視の進行度合いは、被検眼球2の眼底曲率の形状、例えば、眼底曲率半径rxの大きさの違いによって把握することができる。図中では、x=a,b,cで示すrxは、近視眼の眼底曲率半径であり、眼軸線上の原点Oxから網膜46に至る長さである。後焦等線Sの位置と網膜46の位置との間の距離を見出すことで、近視の進行度合いが分かる。この近視の進行を抑制するためには、近視矯正後の近視眼の網膜46の手前に後焦等線Sを移動させればよい。このためには遠用光学部62の周辺部に遠視矯正とは全く無関係な度数の後焦点コントロールエリア63を設ければよい。
また、図19に示す近視眼の矯正例(その2)によれば、図18に示した近視眼の眼底曲率半径rxに比べて、眼底曲率半径raが大きい(緩い)網膜46の場合である。眼底曲率半径raは、眼軸線上の原点Oaから網膜46に至る長さである。この場合は、移動した前焦点a’及び後焦点b’が共に網膜46の手前に移動するようになるので、近視進行抑制用の後焦点コントロールエリア63の処方がほとんど必要ない症例である。この症例によれば、軽度な度数の凸レンズを後焦点コントロールエリア63に設定した場合であっても、後焦等線Sは網膜46の手前に容易に移動させることができる。
これに対して、図20に示す近視眼の矯正例(その3)によれば、図18に示した近視眼の眼底曲率半径rxに比べて、眼底曲率半径rcが小さい網膜46の場合である。眼底曲率半径rcは、眼軸線上の原点Ocから網膜46に至る長さである。この場合は、移動した後焦点b’はさらに網膜46よりも後ろ遠方に移動することになるので、近視進行抑制用の後焦点コントロールエリア63の処方が必須となる症例である。この症例によれば、後焦等線Sを網膜46の手前(眼内)へ引き戻すために、強度な度数の凸レンズを後焦点コントロールエリア63に設定する必要がある。
ここで、近視進行抑制用の後焦点コントロールエリア63に関して、軽い度数の凸レンズを設定(挿入)する処方をタイプTaとし、タイプTaよりも強い度数の凸レンズを設定する処方をタイプTbとし、更に、これよりも強い度数の凸レンズを設定する処方をタイプTcとする。例えば、タイプTaの屈折度数は+1、タイプTbの屈折度数は+3、タイプTbの屈折度数は+5等のように設定する。
この例では、近視進行診断装置100から得られる被検眼球2の眼底曲率半径rxがわかれば、タイプTa、タイプTb、あるいは、タイプTcの後焦点コントロールエリア63のどれが適しているかを判別できるようになる。図21に示すタイプTaのコンタクトレンズ200の処方例によれば、近視の矯正により網膜周辺部に発生した後焦等線Sが網膜46の直ぐ前にあり、後焦等線Sと網膜46との間の距離が近く、図18に示した近視眼の眼底曲率半径rxに比べて眼底曲率半径raの大きい(緩い)網膜眼の場合である。
この場合は、網膜周辺部においても矯正後の後焦点bによる影響は少ないため、後焦点コントロールエリア63に設ける屈折度数は、極軽度な度数でも後焦等線Sを網膜46の前方に移動させることができる。従って、タイプTaのコンタクトレンズ200を処方する。この例では処方が必要としない症例でもある。
次に、図22に示すタイプTbのコンタクトレンズ200の処方例によれば、近視の矯正により網膜周辺部に発生した後焦等線Sが網膜46の直ぐ後ろにあり、後焦等線Sと網膜46との間の距離が近く、図18に示した近視眼の眼底曲率半径rxと眼底曲率半径rbとがほぼ等しい網膜眼、すなわち、眼底曲率形状が平均的な網膜眼の場合である。この場合は、後焦点コントロールエリア63に設ける屈折度数は、眼底曲率半径raの大きい網膜眼よりも強い度数を設定することで後焦等線Sを網膜46の前方に移動させることができる。従って、タイプTbのコンタクトレンズ200を処方する。
最後に、図23に示すタイプTcのコンタクトレンズ200の処方例によれば、近視の矯正により網膜周辺部に発生した後焦等線Sが網膜46からより遠くに離れた位置にあり、後焦等線Sと網膜46との間の距離が遠く、図18に示した近視眼の眼底曲率半径rxに比べて、眼底曲率半径rcが小さい(きつい)網膜眼の場合である。この場合は、後焦点コントロールエリア63に設ける屈折度数は、眼底曲率半径raの大きい網膜眼よりも更に強い度数を設定することで後焦等線Sを網膜46の前方に移動させることができる。従って、タイプTcのコンタクトレンズ200を処方する。
続いて、図21〜図29Dを参照して、コンタクトレンズ200の幾つかの処方例について説明をする。これらの処方例では、被検眼球2の視力に対応した近視矯正用の屈折度数をレンズ本体部61の中心領域に設定して遠用光学部62とし、遠用光学部62の周囲領域にタイプTa〜Tcの中から選定される1つの近視進行抑制用の屈折度数が設定されて後焦点コントロールエリア63とした複数のコンタクトレンズ200が予め作成されており、その中から、被検眼球2に対応した最適な1つのコンタクトレンズ200を処方する場合を前提とする。
第1実施例では、平準化された後焦等線Sを基準にして被検眼球2の眼底曲率形状がその内側にあるか外側に有るかに基づいて後焦点コントロールエリア63のタイプTa〜Tcを設定するようにした。この設定のために、被検眼球2の黄斑45を含む網膜46の内面形状を眼底曲率半径rxで表したとき、眼底曲率半径rxが最も小さい網膜眼と眼底曲率半径rxが最も大きい網膜眼とを平均して、平均の眼底曲率半径rxを有する網膜眼を求め、ここで得られた平均の網膜眼を基準(平準化)とする(図22)。この例では、平均の網膜眼の後焦等線SをタイプTa〜Tcの選定時の比較基準線とする。後焦等線Sは平準化したS曲線データDsから再生されるものとする。S曲線データDsは半径rsの後焦等線Sを描画するための画像データである。
これらを選定条件にして、例えば、図5に示したステップST7からコールされて、図24に示すステップST71で制御部23は被検眼球2の遠用光学部62の屈折度数Rx、眼底形状データDIN及びS曲線データDsを入力する。屈折度数Rx、眼底形状データDIN及びS曲線データDsは例えば、メモリ部34から読み出して演算部31や判別部32に入力される。
次に、ステップST72で制御部23は被検眼球2の眼底曲率半径rxを計算する。例えば、演算部31は被検眼球2の水晶体42の略中心頂点(図2参照)と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lの左右の網膜46の周辺内面に少なくとも2点以上の測定点(対称位置)p1〜p3を設定し、被検眼球2で測定点p1〜p5に至る深度を測定して得た眼軸長L1等及び各測定点p1〜p5の深度の情報から眼底曲率半径rxを演算する。眼底曲率半径rxは、図25Aに示す弧長がLaで、矢高がhの円弧(眼底曲率)を求め、既知の円弧をパラメータにして重ね合わせ、両者が一致したときの既知の円弧の半径rx’を読み取ることで得られる。
次に、ステップST73で制御部23は被検眼球2の後焦点コントロールエリア63の屈折度数のタイプがTaか又はTa以外であるかを判別する。このとき、判別部32によって、半径rsの後焦等線Sと被検眼球2の眼底曲率半径rxとが比較される。この比較についてはパターン認識による方法を採ってもよい。
この例で、図21に示したような平均の網膜眼の後焦等線Sの半径rsよりも被検眼球2の眼底曲率半径raが大きい網膜眼である場合(図25Bに示す緩い曲率)は、判別部32は眼底曲率半径raのタイプがTaであると判別するので、ステップST74に移行する。ステップST74で制御部23は屈折度数Rx+タイプTaのコンタクトレンズを処方する旨の表示制御を行う。
表示部24はデータ入出力部33から表示データD24を入力し、当該表示データD24に基づいて「遠用光学部62の屈折度数Rx+後焦点コントロールエリア63の屈折度数がタイプTaである。」旨の表示を行う。これにより、平均の網膜眼の屈折度数よりも弱い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を自動選定(処方)できるようになる。
上述のステップST73で被検眼球2の後焦点コントロールエリア63の屈折度数のタイプがTa以外である場合は、ステップST75に移行して制御部23は被検眼球2の眼底曲率半径rxの後焦点コントロールエリア63のタイプがTb又はTcであるかを判別する。このとき、後焦等線Sの半径rsと被検眼球2の眼底曲率半径rxとを比較した結果、図22に示したように後焦等線Sの半径rsと眼底曲率半径rxとがほぼ等しい場合(図25Bに示す平均的な曲率)は、判別部32は、眼底曲率半径rbのタイプがTbであると判定するので、ステップST76に移行する。ステップST76で制御部23は屈折度数Rx+タイプTbのコンタクトレンズ200を処方する旨の表示制御を行う。
表示部24は表示データD24に基づいて「遠用光学部62の屈折度数Rx+後焦点コントロールエリア63の屈折度数がタイプTbである」旨の表示を行う。これにより、平均の網膜眼の屈折度数とほぼ等しい屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を自動選定(処方)できるようになる。
また、上述のステップST75で後焦等線Sの半径rsよりも被検眼球2の眼底曲率半径rxが小さい網膜眼である場合(図25Bに示すきつい曲率)は、判別部32は被検眼球2の眼底曲率半径rcの後焦点コントロールエリア63のタイプがTcであると判別するので、ステップST77に移行する。ステップST77で制御部23は屈折度数Rx+タイプTcのコンタクトレンズ200を処方する旨の表示制御を行う。
表示部24は表示データD24に基づいて「遠用光学部62の屈折度数Rx+後焦点コントロールエリア63の屈折度数がタイプTcである」旨の表示を行う。これにより、第1実施例では、平均の網膜眼の屈折度数よりも強い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を簡易に自動選定(処方)できるようになる。その後、図5に示したステップST7にリターンする。
第2実施例では、図26に示す被検眼球2の眼内断面図において、角度θ、例えば、θ=40°(θmax)の光軸線上に存在する後焦線上の非焦点(以下単に後焦点b’という)の位置RFpを示す光学データD17(図2参照)及び、網膜46の位置Mpを示す光学データD17に基づいて後焦点コントロールエリア63のタイプTa〜Tcを決定する場合を例に挙げる。この例では、角度θ=40°が後焦点b’の位置RFpと網膜46の位置Mpとの間の差が大きく出現する部分である。
例えば、角度θ=40°の光軸線上の網膜46の内側に後焦点b’(図19参照)が位置する場合は、タイプTaとし、その外側に後焦点b’が位置する場合は、網膜46の位置Mpに対する後焦点b’の離間度合いに基づいて残りのタイプTb,Tcを決定する。もちろん、角度θはθmax=40°に限られることはなく、θ<40°以下の場合を抽出してそのタイプTa〜Tcの判別を行ってもよい。
これらを選定条件にして、例えば、図5に示したステップST7からコールされて、図27に示すステップST71’で遠用光学部62の屈折度数Rx及び、角度θ=40°の後焦点b’の位置RFp及び網膜46の位置Mpを示す光学データD17を入力する。位置RFp及び位置Mpのデータは光学データD17から得られ、例えば、水晶体42の表面頂点部位から位置RFpや位置Mp等に至る光軸長さ(深度)を示す情報である。ここに当該表面頂点部位から位置RFpに至る光軸長さを深度Lrとし、当該表面頂点部位から位置Mpに至る光軸長さを深度Lmとする(図26参照)。
次に、ステップST72’で制御部23では、演算部31が深度差Δd=Lr−Lmを演算する。ここに、深度差Δdとは、角度θにおける網膜46の位置Mpと後焦点b’の位置RFpとの間の差分の距離をいう。
次に、ステップST73’で制御部23は被検眼球2の後焦点コントロールエリア63の屈折度数のタイプをTaとするか又はTa以外とするかを判別する。このとき、判別部32は深度差Δdがプラス(+)となるか、マイナス(−)となるかを判別し、制御部23が制御を分岐する。ここに深度差Δdがプラス(+)となる場合は網膜46の外側に後焦点b’が存在し、深度差Δdがマイナスとなる場合は、網膜46の外側には後焦点b’が存在しない場合である。
この例で、図21に示したように、平均の網膜眼の後焦等線Sよりも被検眼球2の眼底曲率半径rxが大きい網膜眼である場合、すなわち、深度差Δdがマイナスとなる場合は、網膜46の外側には後焦点b’が存在しないと判別されるので、ステップST74’に移行する。ステップST74’で制御部23は屈折度数Rx+タイプTaのコンタクトレンズを処方する旨の表示制御を行う。
表示部24はデータ入出力部33から表示データD24を入力し、当該表示データD24に基づいて「遠用光学部62の屈折度数Rx+後焦点コントロールエリア63の屈折度数がタイプTaである。」旨の表示を行う。これにより、平均の網膜眼の屈折度数よりも弱い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を自動選定(処方)できるようになる。
また、上述のステップST73’で深度差Δdがプラス(+)となる場合は、ステップST75’で制御部23は後焦点コントロールエリア63の屈折度数RθのタイプをTb又はTcとするかを判別する。この例では、深度差Δdがプラスとなる場合、網膜46の外側に後焦点b’が存在するが、更に、平均の網膜眼の深度差Δdの1/2の値を基準(閾値Δdth)にして判別を行う。
例えば、被検眼球2の深度差Δdと閾値Δdthとを比較し、閾値Δdthよりも小さい場合はタイプTbとし、その深度差Δdが閾値Δdthよりも大きい場合はタイプTcとする。閾値Δdthは平均の網膜眼の深度差Δdとして設定するものであり、角度θ=40°の光軸線上において、深度差Δdが最も小さい網膜眼と深度差Δdが最も大きい網膜眼とを平均して求めたものである。(図26参照)。
この例で、図22に示したように、平均の網膜眼と被検眼球2の眼底曲率半径rxとがほぼ等しい場合、すなわち、被検眼球2の深度差Δdと閾値Δdthとを比較したとき、後焦点b’は、網膜46の外側に位置するものの、後焦点b’の位置RFpと網膜46の位置Mpとがほぼ同じ位置で測定される。この場合は、後焦点コントロールエリア63の屈折度数RθのタイプはTbであると判別されるので、ステップST76’に移行する。
ステップST76’で制御部23は屈折度数Rx+タイプTbのコンタクトレンズを処方する旨の表示制御を行う。表示部24は表示データD24に基づいて「遠用光学部62の屈折度数Rx+後焦点コントロールエリア63の屈折度数がタイプTbである。」旨の表示を行う。これにより、平均の網膜眼の屈折度数とほぼ等しい屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を自動選定(処方)できるようになる。
また、上述のステップST75’で深度差Δdが閾値Δdthよりも大きい場合は、後焦点コントロールエリア63のタイプがCであると判別されるので、ステップST77’に移行する。ステップST77’で制御部23は屈折度数Rx+タイプTcのコンタクトレンズ200を処方する旨の表示制御を行う。
表示部24は表示データD24に基づいて「遠用光学部62の屈折度数Rx+後焦点コントロールエリア63の屈折度数がタイプTcである」旨の表示を行う。これにより、第2実施例では平均の網膜眼の屈折度数よりも強い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を簡易に自動選定(処方)できるようになる。その後、図5に示したステップST7にリターンする。
続いて、図28A〜図28Dを参照して、眼軸長Lx及び眼底曲率形状からタイプTa,Tb,Tcを決定する例について説明する。この例では、近視進行診断装置100において、光学データ取得部10の代わるレフラクトメーターや後眼部OCT(Optical Coherence Tomography)等の眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定し、その眼軸長Lxと平均的な眼底曲率形状から後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するようにした。
例えば、図28Aに示す被検眼球2が眼軸長Lx=23mmで、図28Dで実線に示すような平均的な眼底曲率形状C23を有する場合は、タイプTaを処方する。これにより、平均の網膜眼の屈折度数よりも弱い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を処方できるようになる。
また、図28Bに示す被検眼球2が眼軸長Lx=24mmで、図28Dで破線に示すような平均的な眼底曲率形状C24を有する場合は、タイプTbを処方する。これにより、平均の網膜眼の屈折度数とほぼ等しい屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を処方できるようになる。
更に、図28Cに示す被検眼球2が眼軸長Lx=25mmで、図28Dで二点鎖線に示すような平均的な眼底曲率形状C25を有する場合は、タイプTcを処方する。これにより、平均の網膜眼の屈折度数よりも強い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を簡易に処方できるようになる。
このように第1及び第2実施例で説明したような判別方法が採れない場合に、レフラクトメーター等の光学データ取得部から得られる最低限の眼底形状データDINに基づいて後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定できるようになる。
続いて、図29A〜図29Dを参照して、予測された眼軸長Lxから眼底曲率形状に対応するタイプTa,Tb,Tcを決定する例について説明する。図29Aに示す平均的な被検眼球2において、眼軸長Lxは23.0mm程度であり、角膜41の直径は12.0mm程度である。角膜41の中央部の厚みは0.5mm程度であり、その周縁部の厚みは0.7mm程度である。
水晶体42の直径は9.0mm程度であり、水晶体42の厚みは3.6mm程度であり、前房47の厚みは3.3mm程度である。ここで、眼軸長Lxの1mmを3.00[D]とした場合、角膜屈折力は43.0[D]となり、水晶体屈折力は20.0[D]である。両者を加算すると、合成値が63.00[D]となる。この合成値の屈折度数データから例えば水晶体屈折力=20.00[D]を差し引くと、角膜屈折力=43.0[D]が得られ、43.0[D]に基づいて眼軸長Lxを予測できるので、この眼軸長Lxに基づいてタイプTa,Tb,Tcを決定する。もちろん、角膜屈折力=43.0[D]が既知であればそれを使用する。
この例では、近視進行診断装置100において、光学データ取得部10の代わるレフラクトメーター等から得られる眼底形状データDINに基づいて角膜屈折力と近視等の屈折度数(近視度数)を示す光学データから眼軸長Lxを予測し、その眼軸長Lxから更に、図28A〜図28Dで説明した眼底曲率形状に対応する後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するようにした。
例えば、図29Aに示す被検眼球2の角膜屈折力が43.0[D]である場合は、眼軸長Lxが平均的なLx=23mmであると予測できる。従って、図28Dで実線に示したような平均的な眼底曲率形状C23を有する場合と予測できる。この場合は、タイプTaを処方する。
また、図29Bに示す被検眼球2の角膜屈折力が43.0[D]であって、近視度数が−3.00[D]である場合は、眼軸長LxがLx=24mmであると予測できる。従って、図28Dで破線に示したような眼底曲率形状C24を有する場合と予測できる。この場合は、タイプTbを処方する。
更に、図29Cに示す被検眼球2の角膜屈折力が40.0[D]である場合は、眼軸長LxがLx=25mmであると予測できる。従って、図28Dで二点鎖線に示したような眼底曲率形状C25を有する場合と予測できる。この場合は、タイプTcを処方する。
これにより、第1及び第2実施例で説明したような判別方法が採れない場合に、レフラクトメーター等から得られる眼底形状データDINに基づいて後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定できるようになる。
ここで、図30及び図31を参照して、本発明に係る近視進行抑制用のコンタクトレンズ200と、比較例としての近視進行抑制用の眼鏡レンズ300とを比較して効果を考察する。図30に示す眼鏡レンズ300は、本発明に係る近視進行抑制理論に基づいて設計されたものであり、レンズ本体部61’に遠用光学部62’及び近用光学部63’を有している。眼鏡レンズ300によれば、正面視時において中心からの光の焦点が黄斑45の中心にある時は、網膜周辺部での前焦点a及び後焦点bも網膜46の手前にあり、何らの問題は発生しない。
しかし、眼鏡レンズ300の場合はコンタクトレンズ200とは異なって、眼球が頭部とは独立した動きを持つ部位であるため、図31に示すように眼球のみを動かして視線を変えて近方を見た場合、または、たまたま加入度数エリアで近くが見えた場合、レンズ中心部に設けた遠用光学部62’の領域からの光の焦点が、網膜46の周辺では、かえって網膜後方、しかも、かなり遠くに移動してしまう。
このため、眼軸長Lxの延長による近視進行を抑制するという目的を前提とした場合、眼鏡レンズ300はその効果が得られないばかりか、像の歪みやジャンプなど、見え方に違和感を与え、眼精疲労など、視力的障害を引き起こす可能性があるという問題が懸念される。この点、本発明のコンタクトレンズ200であると、コンタクトレンズ200など眼球のみを動かし対象物を変えても絶えず中心に設けた遠用光学部62からの光が黄斑45に結像される矯正用具に設計されているので、上述した問題が生じない。
このように、第1及び第2実施例としてのコンタクトレンズ200の選定方法によれば、被検者1の眼底曲率形状に対応して複数のコンタクトレンズ200の中から1つのコンタクトレンズ200を選定するようになる。
この構成によって、近視進行状況に見合った最適な屈折度数のコンタクトレンズ200を選定(処方)できるようになる。これにより、平均の網膜眼よりも眼底曲率半径rxが大きい網膜眼である被検者1に対して、平均の網膜眼の屈折度数よりも弱い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を容易に処方でき、平均の網膜眼よりも眼底曲率半径rxが小さい網膜眼である被検者1に対して、平均の網膜眼の屈折度数よりも強い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を容易に処方できるようになる。
ここで、近視の被検眼球2に関して、眼軸線L上の焦点の屈折度数BFR0が−0.3[D]で、角度θ=20°における最も焦点が合っている位置のPSF像の屈折度数BFRθが−1.5[D]で、前焦線上の非点像の屈折度数AFLRθが0.0[D]で、後焦線上の非点像の屈折度数PFLRθが−3.0[D]である場合に、その評価値をA,B,Cとして、遠視性の後焦点が存在するか否かを判別する。
視野の中では、中心視力が最も鋭敏で周辺網膜ほど悪く、中心視力1.0のとき、視線が度数(角度)2°ずれると0.4、度数5°ずれると0.1程度まで視力が低下することが知られている。このことから、本発明に係るコンタクトレンズ200において、その中心に設ける遠用光学部62の加入度数(光学)エリアを幅Dz=2.5mmとした場合、対象とする物を見た際、概ね度数10°の視野が確保できるようになる。つまり、必要とする視力を得るための視野は2.5mmで十分確保できていることになる。
例えば、被検眼球2の深度差Δdと閾値Δdthとを比較し、閾値Δdthよりも小さい場合はタイプTbとし、その深度差Δdが閾値Δdthよりも大きい場合はタイプTcとする。閾値Δdthは平均の網膜眼の深度差Δdの1/2として設定するものであり、角度θ=40°の光軸線上において、深度差Δdが最も小さい網膜眼と深度差Δdが最も大きい網膜眼とを平均して求めたものである。(図26参照)。
本発明は、被検眼球の眼軸線に対して角度θを成す方向の周辺網膜を跨いだ外側の位置から当該周辺網膜の内側へ遠視性の後焦点を引き戻すための屈折度数が設定された近視進行抑制用のコンタクトレンズに適用可能なコンタクトレンズの組み合わせシリーズ及びその選定方法に関するものである。
本発明は、遠近両用レンズの目的である近方の見え方に依存されることなく、近視状態の被検眼球に関してそれ以降の近視の進行を抑制できるようにすると共に、その被検眼球に関して近視進行状況に見合った最適な屈折度数を処方できるようにしたコンタクトレンズの組み合わせシリーズ及びその選定方法を提供することを目的とする。