JPWO2014175101A1 - 触媒の製造方法ならびに当該触媒を用いる電極触媒層、膜電極接合体および燃料電池 - Google Patents

触媒の製造方法ならびに当該触媒を用いる電極触媒層、膜電極接合体および燃料電池 Download PDF

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Abstract

本発明は、触媒活性に優れる触媒を得ることができる触媒の製造方法を提供することを目的とする。本発明は、空孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満であり、かつ前記空孔の空孔容積が0.3cc/g担体以上である担体に対して、触媒金属を担持する触媒の製造方法であって、前記触媒金属の構成成分を前記担体内部の空孔に含浸する工程と、前記含浸する工程の後に熱処理する工程と、を含む;または前記触媒金属の前駆体を前記担体内部の空孔に含浸する工程と、前記触媒金属の前駆体を還元する工程と、前記還元する工程の後に熱処理する工程と、を含む、触媒の製造方法である。

Description

本発明は、触媒の製造方法、特に燃料電池(PEFC)に用いられる電極触媒の製造方法に関するものである。
プロトン伝導性固体高分子膜を用いた固体高分子形燃料電池は、例えば、固体酸化物形燃料電池や溶融炭酸塩形燃料電池など、他のタイプの燃料電池と比較して低温で作動する。このため、固体高分子形燃料電池は、定置用電源や、自動車などの移動体用動力源として期待されており、その実用も開始されている。
このような固体高分子形燃料電池には、一般的に、白金(Pt)やPt合金に代表される高価な金属触媒が用いられており、このような燃料電池の高価格要因となっている。このため、貴金属触媒の使用量を低減して、燃料電池の低コスト化が可能な技術の開発が求められている。
例えば、特開2007−250274号公報(米国特許出願公開第2009/047559号明細書)には、導電性担体に触媒金属粒子が担持される電極触媒において、触媒金属粒子の平均粒径が導電性担体の微細孔の平均孔径より大きい電極触媒が開示される。特開2007−250274号公報(米国特許出願公開第2009/047559号明細書)には、当該構成により、触媒金属粒子が担体の微細孔内に入り込まないようにし、三相界面に使用される触媒金属粒子の割合を向上させて、高価な貴金属の利用効率を向上できることが記載される。
しかしながら、特開2007−250274号公報(米国特許出願公開第2009/047559号明細書)に記載の触媒を含む触媒層では、触媒活性が低下するという問題があった。
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、触媒活性に優れる触媒を得ることができる触媒の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、触媒金属の構成成分または触媒金属の前駆体を担体内部の空孔に含浸する工程の後に、熱処理する工程を含む触媒の製造方法により、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに到った。
本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池の基本構成を示す概略断面図である。図1の1は固体高分子形燃料電池(PEFC)であり、2は固体高分子電解質膜であり、3aはアノード触媒層であり、3cはカソード触媒層であり、4aはアノードガス拡散層であり、4cはカソードガス拡散層であり、5aはアノードセパレータであり、5cはカソードセパレータであり、6aはアノードガス流路であり、6cはカソードガス流路であり、7は冷媒流路であり、10は膜電極接合体(MEA)である。 本発明の製造方法により得られる触媒の形状・構造の一例を示す概略断面説明図である。図2の20は触媒であり、22は触媒金属であり、23は担体であり、24はメソ孔であり、25はミクロ孔である。 本発明の一実施形態に係る触媒層における触媒および電解質の関係を示す模式図である。図3の22は触媒金属であり、23は担体であり、24はメソ孔であり、25はミクロ孔であり、26は電解質である。 比較例1で用いた担体Bの空孔径分布を示すグラフである。
本発明の製造方法により得られる触媒は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる。そして、本発明の触媒(本明細書中では、「電極触媒」とも称する)の製造方法は、下記工程を有する:
(a)触媒金属の構成成分を担体内部の空孔に含浸する工程;および
(b)前記含浸する工程の後に熱処理する工程。
また、本発明の触媒の製造方法は、下記工程を有する:
(c)触媒金属の前駆体を担体内部の空孔に含浸する工程;
(d)前記触媒金属の前駆体を還元する工程;および
(b)前記還元する工程の後に熱処理する工程。
前記担体は、空孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満であり、かつ前記空孔の空孔容積が0.3cc/g担体以上である。
なお、本明細書中では、半径が1nm未満の空孔を「ミクロ孔」とも称する。また、本明細書中では、半径1nm以上の空孔を「メソ孔」とも称する。
本発明者らは、上記特開2007−250274号公報(米国特許出願公開第2009/047559号明細書)に記載の触媒では、電解質(電解質ポリマー)は酸素等のガスに比して触媒表面に吸着し易いため、触媒金属が電解質(電解質ポリマー)と接触すると、触媒表面の反応活性面積が減少することを見出した。これに対して、本発明者らは、触媒が電解質と接触しない場合であっても、水により三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できることを見出した。このため、触媒金属を電解質が進入できない空孔(メソ孔)内部に担持する構成をとることによって、触媒活性を向上できる。
一方、触媒金属を電解質が進入できない空孔(メソ孔)内部に担持する場合には、触媒金属と、担体の空孔内壁面との距離が比較的大きく、触媒金属表面に吸着する水の量が多くなる。水は触媒金属に酸化剤として作用し金属酸化物を生成させるため、触媒金属の活性を低下させ、触媒性能が低下してしまう。これに対して、本発明の製造方法により得られる触媒は、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間が減少する、すなわち触媒金属表面に吸着する水の量が減る。また、水が空孔内壁面の相互作用を受け、水が空孔内壁面に保持されやすくなる。よって、金属酸化物の形成反応が遅くなり、金属酸化物が形成されにくくなる。その結果、触媒金属表面の失活が抑制される。ゆえに、本発明の製造方法により得られる触媒は、高い触媒活性を発揮できる、すなわち、触媒反応を促進できる。このため、本発明の製造方法により得られる触媒を用いた触媒層を有する膜電極接合体および燃料電池は、発電性能に優れる。
さらに、触媒の空孔の空孔分布のモード半径よりも触媒金属の平均粒半径が大きくなることにより、上記効果に加えて、触媒に機械的ストレスがかかっても脱離しにくくなり、触媒金属のムダが減るため、触媒金属が有効利用されやすくなる。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の触媒の製造方法の実施形態、ならびに該製造方法により得られる触媒、該触媒を使用した触媒層、膜電極接合体(MEA)および燃料電池の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
[燃料電池]
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。本形態の燃料電池は、耐久性に優れ、かつ高い発電性能を発揮できる。
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
上記のような、本発明のMEAを有する燃料電池は、優れた発電性能を発揮する。ここで、燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。
[触媒(電極触媒)]
図2は、本発明の製造方法により得られる触媒の形状・構造の一例を示す概略断面説明図である。図2に示されるように、本発明の製造方法により得られる触媒20は、触媒金属22および担体23からなる。また、触媒20は、空孔(メソ孔)24を有する。ここで、触媒金属22は、メソ孔24の内部に担持される。また、触媒金属22は、少なくとも一部がメソ孔24の内部に担持されていればよく、一部が担体23表面にされていてもよい。しかし、触媒層での電解質と触媒金属の接触を防ぐという観点からは、実質的にすべての触媒金属22がメソ孔24の内部に担持されることが好ましい。ここで、「実質的にすべての触媒金属」とは、十分な触媒活性を向上できる量であれば特に制限されない。「実質的にすべての触媒金属」は、全触媒金属において、好ましくは50重量%以上(上限:100重量%)、より好ましくは80重量%以上(上限:100重量%)の量で存在する。
〔触媒の製造方法〕
本発明に係る担体の材質は、上述した空孔容積およびモード半径を有する空孔(一次空孔)を担体の内部に形成することができ、かつ、触媒成分を空孔(メソ孔)内部に分散状態で担持させるのに充分な比表面積と充分な電子伝導性とを有するものであれば特に制限されない。好ましくは、主成分がカーボンである。具体的には、カーボンブラック(ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど)、活性炭などからなるカーボン粒子が挙げられる。「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念であり、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
より好ましくは、担体内部に所望の空孔領域を形成し易いことから、カーボンブラックを使用することが望ましく、特に好ましくは、半径5nm以下の空孔を多く有する、いわゆるメソポーラスカーボンを使用する。
上記カーボン材料の他、Sn(錫)やTi(チタン)などの多孔質金属、さらには導電性金属酸化物なども担体として使用可能である。
担体の空孔の空孔容積は、0.3cc/g担体以上であり、好ましくは0.4〜3cc/g担体であり、より好ましくは0.4〜1.5cc/g担体である。空孔容積が上記したような範囲にあれば、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くのメソ孔の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。
担体の空孔の空孔分布のモード半径(最頻度径)は、1nm以上5nm未満であり、好ましくは1nm以上4nm以下であり、より好ましくは1nm以上3nm以下であり、さらに好ましくは1nm以上2nm以下である。上記したような空孔分布のモード半径であれば、メソ孔に十分量の触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、大容積の空孔(メソ孔)の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。
さらに、担体の空孔の空孔分布のモード半径よりも触媒金属の平均粒半径が大きくなることにより、上記効果に加えて、触媒に機械的ストレスがかかっても脱離しにくくなり、触媒金属のムダが減るため、触媒金属が有効利用されやすくなる。
なお、本明細書では、メソ孔の空孔分布のモード半径を単に「メソ孔のモード径」とも称する。
担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよい。担体のBET比表面積は、実質的に触媒のBET比表面積と同等である。担体のBET比表面積は、好ましくは1000〜3000m/g、より好ましくは1000〜1800m/gである。上記したような比表面積であれば、十分な空孔(メソ孔)を確保できるため、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)できる。また、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くの空孔(メソ孔)の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。また、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御できる。
担体の平均粒径は20〜2000nmであることが好ましい。かような範囲であれば、担体に上記空孔構造を設けた場合であっても機械的強度が維持され、かつ、触媒層の厚みを適切な範囲で制御することができる。「担体の平均粒径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
上記したような空孔分布を有する担体の製造方法は、特に制限されないが、具体的には、特開2010−208887号公報、国際公開第2009/75264号、などに記載される方法が好ましく使用される。
なお、本発明においては、触媒内に上記したような空孔分布を有するものである限り、必ずしも上記したような粒状の多孔質担体を用いる必要はない。
すなわち、担体として、非多孔質の導電性担体やガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなども挙げられる。このとき、触媒をこれら非多孔質の導電性担体に担持したり、膜電極接合体のガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなどに直接付着させたりすることも可能である。
本発明で使用できる触媒金属は、電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。アノード触媒層に用いられる触媒金属は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒金属もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。すなわち、触媒金属は、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含むことが好ましく、白金または白金含有合金であることがより好ましい。このような触媒金属は、高い活性を発揮できる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒金属およびカソード触媒層に用いられる触媒金属は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒金属についての説明は、両者について同様の定義である。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒金属は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒金属(触媒成分)の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。形状としては、例えば、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、好ましくは粒状である。
〔担体内部の空孔に触媒金属の構成成分を含浸する工程〕
本工程においては、上記のような触媒金属の構成成分を担体内部の空孔に含浸する。前記触媒金属の構成成分を含む含浸剤の具体的な例としては、例えば、白金ナノコロイド溶液、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液、塩化白金(IV)酸水和物、塩化白金(IV)酸アンモニウム、テトラアンミン白金(II)ジクロライド水和物、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液等の触媒金属の前駆体を含む溶液が挙げられる。これら含浸剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
上記含浸剤に含まれる触媒金属の構成成分の平均粒半径(2種以上の触媒金属の構成成分を含む場合は、その平均粒半径の総和)は、前記担体の空孔の空孔分布のモード半径よりも小さいことが好ましい。かような構成により、触媒金属の構成成分が、担体内部の空孔により含浸されやすくなる。
上記担体を含浸剤に浸漬する際の温度(浸漬温度)は特に制限されないが、室温(25℃)〜100℃であることが好ましい。また、浸漬の際の時間(浸漬時間)も特に制限されないが、1〜10時間であることが好ましく、2〜8時間であることがより好ましい。
浸漬時には、超音波等を利用して攪拌を行うことが好ましい。また、液を脱泡するため、さらには担体内部の空孔に残存する気泡を除去し、液が担体内部に入りやすくするために、減圧処理を行うことが好ましい。
含浸する工程が終了した後は、担体をろ過し乾燥する。
〔前駆体を還元する工程〕
上記含浸する工程において、含浸剤として触媒金属の前駆体を用いた場合には、ろ過・乾燥の前に触媒金属の前駆体を還元する工程を行うことが好ましい。還元の際に用いられる還元剤としては、特に制限されないが、例えば、水素、ホウ素化水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、酢酸などの有機酸またはその塩、水素化ホウ素ナトリウム、蟻酸、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、エチレン、一酸化炭素等が挙げられる。これら還元剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
還元の際の温度は特に制限されないが、室温(25℃)〜100℃であることが好ましい。また、還元の際の時間も特に制限されないが、1〜10時間であることが好ましく、2〜8時間であることがより好ましい。
〔熱処理する工程〕
上記含浸する工程または前駆体を還元する工程の後に、担体を熱処理する。これにより、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間が減少する、すなわち触媒金属表面に吸着する水の量が減る。また、水が空孔内壁面の相互作用を受け、水が空孔内壁面に保持されやすくなる。よって、金属酸化物の形成反応が遅くなり、金属酸化物が形成されにくくなる。その結果、触媒金属表面の失活が抑制され、高い触媒活性を発揮できる、すなわち、触媒反応を促進できる。
熱処理の際の雰囲気は特に制限されないが、水素雰囲気、水素を少量混ぜた窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等が挙げられる。
熱処理に用いられる装置としては、例えば、焼成炉等の加熱装置が挙げられる。
熱処理の温度は特に制限されないが、300〜1200℃であることが好ましく、500〜1150℃の範囲であることがより好ましく、700〜1100℃の範囲であることがさらに好ましい。また、熱処理の時間は特に制限されないが、0.02〜3時間であることが好ましく、0.1〜2時間であることがより好ましい。
上記のようにして得られる触媒の空孔分布のモード半径は、前記触媒金属の平均粒半径以下であることが好ましい。この際、触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒半径は、好ましくは1nm以上3.5nm以下、より好ましくは1.5nm以上2.5nm以下である。前記モード半径が前記触媒金属の平均粒半径以下であれば、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間がより減少する、すなわち触媒金属表面に吸着する水の量がより減る。また、水が空孔内壁面の相互作用を受け、水が空孔内壁面に保持されやすくなる。よって、金属酸化物の形成反応がより遅くなり、金属酸化物がより形成されにくくなる。その結果、触媒金属表面の失活がより抑制され、高い触媒活性をより発揮できる、すなわち、触媒反応をより促進できる。また、触媒金属が空孔(メソ孔)内に比較的強固に担持され、触媒層内で電解質と接触するのをより有効に抑制・防止される。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上できる、すなわち、触媒反応をより効率的に促進できる。なお、本発明における「触媒金属粒子の平均粒半径」は、X線回折における触媒金属成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子半径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒金属粒子の粒子半径の平均値として測定されうる。本明細書では、「触媒金属の平均粒半径」は、統計上有意な数(例えば、少なくとも203個)のサンプルについて透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子半径の平均値である。
上記のような触媒の空孔分布のモード半径が触媒金属の平均粒半径以下となる関係は、前記熱処理の工程において、時間、温度、雰囲気等の制御を行うことにより実現することができる。このような製造条件により、触媒金属が粒成長し、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間がより減少する、すなわち触媒金属表面に吸着する水の量がより減る。さらに、触媒の空孔の空孔分布のモード半径よりも触媒金属の平均粒半径が大きくなることにより、上記効果に加えて、触媒に機械的ストレスがかかっても脱離しにくくなり、触媒金属のムダが減るため、触媒金属が有効利用されやすくなる。
また、触媒金属の平均粒半径が1.5nm以上2.5nm以下となるような制御は、前記熱処理の工程において、温度、時間、雰囲気等の制御を行うことにより実施することができる。特に、熱処理の温度を高くするか、熱処理時間を長く行うことにより制御することができる。
本形態において、単位触媒塗布面積当たりの触媒含有量(mg/cm)は、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01〜1mg/cmである。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.5mg/cm以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01mg/cm以上である。より好ましくは、当該白金含有量は0.02〜0.4mg/cmである。本形態では、担体の空孔構造を制御することにより、触媒重量あたりの活性を向上させることができるため、高価な触媒の使用量を低減することが可能となる。
なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、スラリーの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
また、担体における触媒の担持量(担持率とも称する場合がある)は、触媒担持体(つまり、担体および触媒)の全量に対して、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜70重量%とするのがよい。担持量が前記範囲であれば、十分な触媒成分の担体上での分散度、発電性能の向上、経済上での利点、単位重量あたりの触媒活性が達成できるため好ましい。
(触媒金属担持後の触媒の)空孔の空孔容積は、0.3cc/g担体以上であることが好ましく、より好ましくは0.4〜3cc/g担体であり、さらに好ましくは0.4〜1.5cc/g担体である。空孔容積が上記したような範囲にあれば、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くのメソ孔の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。
(触媒金属担持後の触媒の)空孔の空孔分布のモード半径(最頻度径)は、1nm以上5nm未満であることが好ましく、より好ましくは1nm以上4nm以下であり、さらに好ましくは1nm以上3nm以下であり、特に好ましくは1nm以上2nm以下である。上記したような空孔分布のモード半径であれば、メソ孔に十分量の触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、大容積の空孔(メソ孔)の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。さらに、触媒の空孔の空孔分布のモード半径よりも触媒金属の平均粒半径が大きくなることにより、上記効果に加えて、触媒に機械的ストレスがかかっても脱離しにくくなり、触媒金属のムダが減るため、触媒金属が有効利用されやすくなる。なお、本明細書では、メソ孔の空孔分布のモード半径を単に「メソ孔のモード径」とも称する。
(触媒金属担持後の触媒の)BET比表面積[担体1gあたりの触媒のBET比表面積(m/g担体)]は、特に制限されないが、1000m/g担体以上であることが好ましく、より好ましくは1000〜3000m/g担体であり、さらに好ましくは1000〜1800m/g担体であることが好ましい。上記したような比表面積であれば、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)できる。また、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くの空孔(メソ孔)の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。
なお、本明細書において、触媒の「BET比表面積(m/g担体)」は、窒素吸着法により測定される。詳細には、触媒粉末 約0.04〜0.07gを精秤し、試料管に封入する。この試料管を真空乾燥器で90℃×数時間予備乾燥し、測定用サンプルとする。秤量には、株式会社島津製作所製電子天秤(AW220)を用いる。なお、塗布シートの場合には、これの全重量から、同面積のテフロン(登録商標)(基材)重量を差し引いた塗布層の正味の重量約0.03〜0.04gを試料重量として用いる。次に、下記測定条件にて、BET比表面積を測定する。吸着・脱着等温線の吸着側において、相対圧(P/P)約0.00〜0.45の範囲から、BETプロットを作成することで、その傾きと切片からBET比表面積を算出する。
「空孔の半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により測定される空孔の半径を意味する。また、「空孔分布のモード半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により得られる微分細孔分布曲線においてピーク値(最大頻度)をとる点の空孔半径を意味する。ここで、空孔の半径の上限は、特に制限されないが、100nm以下である。
「空孔の空孔容積」は、触媒に存在する空孔の総容積を意味し、担体1gあたりの容積(cc/g担体)で表される。「空孔の空孔容積(cc/g担体)」は、窒素吸着法(DH法)によって求めた微分細孔分布曲線の下部の面積(積分値)として算出される。
「微分細孔分布」とは、細孔径を横軸に、触媒中のその細孔径に相当する細孔容積を縦軸にプロットした分布曲線である。すなわち、窒素吸着法(DH法)により得られる触媒の空孔容積をVとし、空孔直径をDとした際の、差分空孔容積dVを空孔直径の対数差分d(logD)で割った値(dV/d(logD))を求める。そして、このdV/d(logD)を各区分の平均空孔直径に対してプロットすることにより微分細孔分布曲線が得られる。差分空孔容積dVとは、測定ポイント間の空孔容積の増加分をいう。
窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径および空孔容積の測定方法は、特に制限されず、例えば、「吸着の科学」(第2版 近藤精一、石川達雄、安部郁夫 共著、丸善株式会社)や「燃料電池の解析手法」(高須芳雄、吉武優、石原達己 編、化学同人)、D. Dollion, G. R. Heal : J. Appl. Chem., 14, 109 (1964)等の公知の文献に記載される方法が採用できる。本明細書では、窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径及び空孔容積は、D. Dollion, G. R. Heal : J. Appl. Chem., 14, 109 (1964) に記載される方法によって、測定された値である。
[触媒層]
上述したように、本発明の製造方法により得られる触媒は、高い触媒活性を発揮できる、即ち、触媒反応を促進できる。したがって、本発明の製造方法により得られる触媒は、燃料電池用の電極触媒層に好適に使用できる。
図3は、本発明の一実施形態に係る触媒層における触媒および電解質の関係を示す模式図である。図3に示されるように、本発明に係る触媒層内では、触媒は電解質26で被覆されているが、電解質26は、触媒(担体23)のメソ孔24内には侵入しない。このため、担体23表面の触媒金属22は電解質26と接触するが、メソ孔24内部に担持された触媒金属22は電解質26と非接触状態である。メソ孔内の触媒金属が、電解質と非接触状態で酸素ガスと水との三相界面を形成することにより、触媒金属の反応活性面積を確保できる。
本発明の製造方法により得られる触媒は、カソード触媒層またはアノード触媒層のいずれに存在してもいてもよいが、カソード触媒層で使用されることが好ましい。上述したように、本発明の製造方法により得られる触媒は、電解質と接触しなくても、水との三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できるが、カソード触媒層で水が形成するからである。
電解質は、特に制限されないが、イオン伝導性の高分子電解質であることが好ましい。上記高分子電解質は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、プロトン伝導性高分子とも呼ばれる。
当該高分子電解質は、特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本形態の触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。具体的には、本形態の触媒層は、好ましくはEWが1500g/eq.以下の高分子電解質を含み、より好ましくは1200g/eq.以下の高分子電解質を含み、特に好ましくは1000g/eq.以下の高分子電解質を含む。
一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質のEWは600以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥重量であり、「g/eq」の単位で表される。
また、触媒層は、EWが異なる2種類以上の高分子電解質を発電面内に含み、この際、高分子電解質のうち最もEWが低い高分子電解質が流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いることが好ましい。このような材料配置を採用することにより、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能の向上を図ることができる。流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いる高分子電解質、すなわちEWが最も低い高分子電解質のEWとしては、900g/eq.以下であることが望ましい。これにより、上述の効果がより確実、顕著なものとなる。
さらに、EWが最も低い高分子電解質を冷却水の入口と出口の平均温度よりも高い領域に用いることが望ましい。これによって、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能のさらなる向上を図ることができる。
さらには、燃料電池システムの抵抗値を小さくするとする観点から、EWが最も低い高分子電解質は、流路長に対して燃料ガスおよび酸化剤ガスの少なくとも一方のガス供給口から3/5以内の範囲の領域に用いることが望ましい。
本形態の触媒層は、触媒と高分子電解質との間に、触媒と高分子電解質(固体プロトン伝導材)とをプロトン伝導可能な状態に連結しうる液体プロトン伝導材を含んでもよい。液体プロトン伝導材が導入されることによって、触媒と高分子電解質との間に、液体プロトン伝導材を介したプロトン輸送経路が確保され、発電に必要なプロトンを効率的に触媒表面へ輸送することが可能となる。これにより、触媒の利用効率が向上するため、発電性能を維持しながら触媒の使用量を低減することが可能となる。この液体プロトン伝導材は触媒と高分子電解質との間に介在していればよく、触媒層内の多孔質担体間の空孔(二次空孔)や多孔質担体内の空孔(ミクロ孔またはメソ孔:一次空孔)内に配置されうる。
液体プロトン伝導材としては、イオン伝導性を有し、触媒と高分子電解質と間のプロトン輸送経路を形成する機能を発揮しうる限り、特に限定されることはない。具体的には水、プロトン性イオン液体、過塩素酸水溶液、硝酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液などを挙げることができる。
液体プロトン伝導材として水を使用する場合には、発電を開始する前に少量の液水か加湿ガスにより触媒層を湿らせることによって、触媒層内に液体プロトン伝導材としての水を導入することができる。また、燃料電池の作動時における電気化学反応によって生じた生成水を液体プロトン伝導材として利用することもできる。したがって、燃料電池の運転開始の状態においては、必ずしも液体プロトン伝導材が保持されている必要はない。例えば、触媒と電解質との表面距離を、水分子を構成する酸素イオン径である0.28nm以上とすることが望ましい。このような距離を保持することによって、触媒と高分子電解質との非接触状態を保持しながら、触媒と高分子電解質の間(液体伝導材保持部)に水(液体プロトン伝導材)を介入させることができ、両者間の水によるプロトン輸送経路が確保されることになる。
イオン性液体など、水以外のものを液体プロトン伝導材として使用する場合には、触媒インク作製時に、イオン性液体と高分子電解質と触媒とを溶液中に分散させることが望ましいが、触媒を触媒層基材に塗布する際にイオン性液体を添加してもよい。
本発明の製造方法により得られる触媒では、触媒の高分子電解質と接触している総面積が、この触媒が液体伝導材保持部に露出している総面積よりも小さいものとなっている。
これら面積の比較は、例えば、上記液体伝導材保持部に液体プロトン伝導材を満たした状態で、触媒−高分子電解質界面と触媒−液体プロトン伝導材界面に形成される電気二重層の容量の大小関係を求めることによって行うことができる。すなわち、電気二重層容量は、電気化学的に有効な界面の面積に比例するため、触媒−電解質界面に形成される電気二重層容量が触媒−液体プロトン伝導材界面に形成される電気二重層容量より小さければ、触媒の電解質との接触面積が液体伝導材保持部への露出面積よりも小さいことになる。
ここで、触媒−電解質界面、触媒−液体プロトン伝導材界面にそれぞれ形成される電気二重層容量の測定方法、言い換えると、触媒−電解質間および触媒−液体プロトン伝導材間の接触面積の大小関係(触媒の電解質との接触面積と液体伝導材保持部への露出面積の大小関係の判定方法)について説明する。
すなわち、本形態の触媒層においては、
(1)触媒−高分子電解質(C−S)
(2)触媒−液体プロトン伝導材(C−L)
(3)多孔質担体−高分子電解質(Cr−S)
(4)多孔質担体−液体プロトン伝導材(Cr−L)
の4種の界面が電気二重層容量(Cdl)として寄与し得る。
電気二重層容量は、上記したように、電気化学的に有効な界面の面積に正比例するため、CdlC−S(触媒−高分子電解質界面の電気二重層容量)およびCdlC−L(触媒−液体プロトン伝導材界面の電気二重層容量)を求めればよい。そして、電気二重層容量(Cdl)に対する上記4種の界面の寄与については、以下のようにして分離することができる。
まず、例えば100%RHのような高加湿条件、および10%RH以下のような低加湿条件下において、電気二重層容量をそれぞれ計測する。なお、電気二重層容量の計測手法としては、サイクリックボルタンメトリーや電気化学インピーダンス分光法などを挙げることができる。これらの比較から、液体プロトン伝導材(この場合は「水」)の寄与、すなわち上記(2)および(4)を分離することができる。
さらに触媒を失活させること、例えば、Ptを触媒として用いた場合には、測定対象の電極にCOガスを供給してCOをPt表面上に吸着させることによる触媒の失活によって、その電気二重層容量への寄与を分離することができる。このような状態で、前述のように高加湿および低加湿条件における電気二重層容量を同様の手法で計測し、これらの比較から、触媒の寄与、つまり上記(1)および(2)を分離することができる。
以上により、上記(1)〜(4)全ての寄与を分離することができ、触媒と高分子電解質および液体プロトン伝導材両界面に形成される電気二重層容量を求めることができる。
すなわち、高加湿状態における測定値(A)が上記(1)〜(4)の全界面に形成される電気二重層容量、低加湿状態における測定値(B)が上記(1)および(3)の界面に形成される電気二重層容量になる。また、触媒失活・高加湿状態における測定値(C)が上記(3)および(4)の界面に形成される電気二重層容量、触媒失活・低加湿状態における測定値(D)が上記(3)の界面に形成される電気二重層容量になる。
したがって、AとCの差が(1)および(2)の界面に形成される電気二重層容量、BとDの差が(1)の界面に形成される電気二重層容量ということになる。そして、これら値の差、(A−C)−(B−D)を算出すれば、(2)の界面に形成される電気二重層容量を求めることができる。なお、触媒の高分子電解質との接触面積や、伝導材保持部への露出面積については、上記の他には、例えば、TEM(透過型電子顕微鏡)トモグラフィなどによっても求めることができる。
本発明に係る触媒層において、触媒金属に対する電解質の被覆率は0.45以下であることが好ましく、0.35であることが好ましく、0.25であることがより好ましい(下限値:0)。電解質の被覆率が上記範囲であれば、触媒活性がより向上する。
電解質の被覆率は、上記電気二重層容量から算出することができ、具体的には実施例に記載の方法により算出することができる。
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
触媒層の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかし、カソード触媒層およびアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
(触媒層の製造方法)
以下、触媒層を製造するための好ましい実施形態を記載するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。触媒の製造方法、また、触媒層の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
上記の本発明の触媒の製造方法で得られた触媒粉末、高分子電解質、および溶剤を含む触媒インクを作製する。溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶媒が同様にして使用できる。具体的には、水道水、純水、イオン交換水、蒸留水等の水、シクロヘキサノール、メタノール、エタノール、n−プロパノール(n−プロピルアルコール)、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、およびtert−ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール、プロピレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの他にも、酢酸ブチルアルコール、ジメチルエーテル、エチレングリコール、などが溶媒として用いられてもよい。これらの溶剤は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合液の状態で使用してもよい。
触媒インクを構成する溶剤の量は、電解質を完全に溶解できる量であれば特に制限されない。具体的には、触媒粉末および高分子電解質などを合わせた固形分の濃度が、電極触媒インク中、1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%程度とするのが好ましい。
なお、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤等の添加剤を使用する場合には、触媒インクにこれらの添加剤を添加すればよい。この際、添加剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されない。例えば、添加剤の添加量は、それぞれ、電極触媒インクの全重量に対して、好ましくは5〜20重量%である。
次に、基材の表面に触媒インクを塗布する。基材への塗布方法は、特に制限されず、公知の方法を使用できる。具体的には、スプレー(スプレー塗布)法、ガリバー印刷法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法など、公知の方法を用いて行うことができる。
この際、触媒インクを塗布する基材としては、固体高分子電解質膜(電解質層)やガス拡散基材(ガス拡散層)を使用することができる。かような場合には、固体高分子電解質膜(電解質層)またはガス拡散基材(ガス拡散層)の表面に触媒層を形成した後、得られた積層体をそのまま膜電極接合体の製造に利用することができる。あるいは、基材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)[テフロン(登録商標)]シート等の剥離可能な基材を使用し、基材上に触媒層を形成した後に基材から触媒層部分を剥離することにより、触媒層を得てもよい。
最後に、触媒インクの塗布層(膜)を、空気雰囲気下あるいは不活性ガス雰囲気下、室温〜150℃で、1〜60分間、乾燥する。これにより、触媒層が形成される。
(膜電極接合体)
本発明のさらなる実施形態によれば、固体高分子電解質膜2、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層と、前記電解質膜2並びに前記アノード触媒層3aおよび前記カソード触媒層3cを挟持する一対のガス拡散層(4a,4c)とを有する燃料電池用膜電極接合体が提供される。そしてこの膜電極接合体において、前記カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方が上記に記載した実施形態の触媒層である。
ただし、プロトン伝導性の向上および反応ガス(特にO)の輸送特性(ガス拡散性)の向上の必要性を考慮すると、少なくともカソード触媒層が上記に記載した実施形態の触媒層であることが好ましい。ただし、上記形態に係る触媒層は、アノード触媒層として用いてもよいし、カソード触媒層およびアノード触媒層双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
本発明のさらなる実施形態によれば、上記形態の膜電極接合体を有する燃料電池が提供される。すなわち、本発明の一実施形態は、上記形態の膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータを有する燃料電池である。
以下、図1を参照しつつ、上記実施形態の触媒層を用いたPEFC1の構成要素について説明する。ただし、本発明は触媒層に特徴を有するものである。よって、燃料電池を構成する触媒層以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施されうる。
(電解質膜)
電解質膜は、例えば、図1に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、先に高分子電解質として説明したフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、固体高分子電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層の微多孔質層側(微多孔質層を含まない場合には、基材層の片面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
(セパレータ)
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
上述したPEFCや膜電極接合体は、発電性能および耐久性に優れる触媒層を用いている。したがって、当該PEFCや膜電極接合体は発電性能および耐久性に優れる。
本実施形態のPEFCやこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
合成例1
空孔容積が1.56cc/g;空孔のモード半径が1.65nm;およびBET比表面積が1773m/gである、担体Aを調製した。具体的には、国際公開第2009/075264号などに記載の方法により、担体Aを作製した。
合成例2
担体Bとして、空孔容積が0.69cc/g;BET比表面積が790m/gである、ケッチェンブラックEC300J(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製)を準備した。
合成例3
空孔容積が2.16cc/g;空孔のモード半径が2.13nm;およびBET比表面積が1596m/gである、担体Cを調製した。具体的には、特開2009−35598号公報などに記載の方法により担体Cを作製した。
(実施例1)
上記合成例1で作製した担体Aを用い、これに触媒金属として平均粒半径1.8nmの白金(Pt)を担持率が30重量%となるように担持させて、触媒粉末Aを得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Aを46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Aに担持させ、濾過、乾燥した。その後、水素雰囲気において、温度900℃に1時間保持し、担持率が31.1重量%の触媒粉末Aを得た。
このようにして得られた触媒粉末Aについて、空孔の空孔容積、および空孔のモード半径を測定した。その結果を下記表2に示す。
上記で作製した触媒粉末Aと、高分子電解質としてのアイオノマー分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/mol、DuPont社製)とをカーボン担体とアイオノマーの重量比が0.9となるよう混合した。さらに、溶媒としてn−プロピルアルコール溶液(50%)を固形分率(Pt+カーボン担体+アイオノマー)が7重量%となるよう添加して、カソード触媒インクを調製した。
担体として、ケッチェンブラック(粒径:30〜60nm)を用い、これに触媒金属として平均粒径2.5nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、触媒粉末を得た。この触媒粉末と、高分子電解質としてのアイオノマー分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/mol、DuPont社製)とをカーボン担体とアイオノマーの重量比が0.9となるよう混合した。さらに、溶媒としてn−プロピルアルコール溶液(50%)を固形分率(Pt+カーボン担体+アイオノマー)が7重量%となるよう添加して、アノード触媒インクを調製した。
次に、高分子電解質膜(Dupont社製、Nafion(登録商標) NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人デュポンフィルム株式会社製、テオネックス(登録商標)、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置した。次いで、高分子電解質膜の片面の露出部に触媒インクをスプレー塗布法により、5cm×2cmのサイズに塗布した。スプレー塗布を行うステージを60℃に保つことで触媒インクを乾燥し、電極触媒層を得た。このときの白金担持量は0.15mg/cmである。次に、カソード触媒層と同様に電解質膜上にスプレー塗布および熱処理を行うことでアノード触媒層を形成し、本例の膜電極接合体を得た。
(比較例1)
担体Aの代わりに、上記合成例2で準備した担体Bを使用し、触媒金属として平均粒半径2.25nmの白金(Pt)を使用し、さらに水素雰囲気下での熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、触媒粉末Bを得た。このようにして得られた触媒粉末Bについて、空孔の空孔容積、空孔のモード半径を測定した。その結果を下記表2に示す。また、実施例1と同様の方法で、本例の膜電極接合体を得た。
(比較例2)
担体Aの代わりに、上記合成例3で作製した担体Cを使用し、触媒金属として平均粒半径1.15nmの白金(Pt)を使用し、さらに水素雰囲気下での熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、触媒粉末Cを得た。このようにして得られた触媒粉末Cについて、空孔の空孔容積、空孔のモード半径を測定した。その結果を下記表2に示す。また、実施例1と同様の方法で、本例の膜電極接合体を得た。
〔電解質の被覆率〕
触媒金属に対する電解質の被覆率は、触媒の固体プロトン伝導材および液体プロトン伝導材との界面に形成される電気二重層容量の計測を用いて、固体プロトン伝導材による触媒の被覆率を算出した。なお、被覆率の算出に当たっては、高加湿状態に対する低加湿状態の電気二重層容量の比より算出し、湿度状態を代表するものとして、それぞれ5%RHおよび100%RH条件における計測値を用いた。
<電気二重層容量の測定>
得られたMEAについて、電気化学インピーダンス分光法により、高加湿状態、低加湿状態、さらに触媒失活かつ高加湿状態および低加湿状態における電気二重層容量をそれぞれ測定し、両電池の電極触媒における触媒の両プロトン伝導材との接触面積を比較した。
なお、使用機器としては、北斗電工株式会社製電気化学測定システムHZ−3000と、エヌエフ回路設計ブロック社製周波数応答分析器FRA5020とを用い、下記表1に示す測定条件を採用した。
まず、それぞれの電池をヒーターによって30℃に加温し、作用極および対極に、それぞれ表1に示した加湿状態に調整した窒素ガスおよび水素ガスを供給した状態で電気二重層容量を計測した。
電気二重層容量の測定に際しては、表1に示したように、0.45Vで保持し、さらに、±10mVの振幅で、20kHz〜10mHzの周波数範囲で作用極の電位を振動させた。
すなわち、作用極電位の振動時の応答から、各周波数におけるインピーダンスの実部、虚部が得られる。この虚部(Z”)と角速度ω(周波数から変換)の関係が次式で表されるため、虚部の逆数を角速度の−2乗について整理し、角速度の−2乗が0のときの値を外挿することによって、電気二重層容量Cdlが求められる。
このような測定を低加湿状態および高加湿状態(5%RH→10%RH→90%RH→100%RH条件)で順次実施した。
さらに、作用極に濃度1%(体積比)のCOを含む窒素ガスを1NL/分で15分以上流通させることによって、Pt触媒を失活させたのち、上記のような高加湿および低加湿状態における電気二重層容量をそれぞれ同様に計測した。これらの結果を表2に示す。なお、得られた電気二重層容量は、触媒層の面積当たりの値に換算して示した。
そして、計測値に基づいて、触媒−固体プロトン伝導材(C−S)界面および触媒−液体プロトン伝導材(C−L)界面に形成された電気二重層容量を算出した。
なお、算出に当たっては、低加湿状態および高加湿状態の電気二重層容量を代表するものとして、それぞれ5%RHおよび100%RH条件における計測値を用いた。その結果を表2に示す。
〔発電性能の評価〕
燃料電池を80℃に保持し、酸素極には100%RHに調湿した酸素ガス、燃料極には100%RHに調湿した水素ガスをそれぞれ流通させ(これによって、担体の空孔内に水が導入され、この水が液体プロトン伝導材として機能する)、電流密度が1.0A/cmとなるように電子負荷を設定し、15分保持した。
その後、セル電圧が0.9V以上となるまで、段階的に電流密度を低下させた。このとき、各電流密度に15分保持するようにして、電流密度と電位との関係を取得した。そして、100%RH条件で取得した触媒有効表面積を用いて、触媒表面積あたりの電流密度に換算し、0.9Vにおける電流密度を比較した。その結果を下記表2に示す。
上記表2から、本発明の製造方法により得られる触媒を使用したMEAは、本発明の範囲外の製造方法により得られる触媒を使用したMEAと比べて、発電性能に優れることが分かった。
なお、比較例1で用いた担体Bの空孔径分布を図4に示す。図4に示す比較例1の空孔径分布においては、空孔径が1nmまで空孔容積が増大する傾向を示しており、メソ空孔領域(空孔半径が1nm以上)においては、明確なモード半径を有さないことが確認された。
なお、本出願は、2013年4月25日に出願された日本特許出願第2013−92925号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。

Claims (12)

  1. 空孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満であり、かつ前記空孔の空孔容積が0.3cc/g担体以上である担体に対して、触媒金属を担持する触媒の製造方法であって、
    前記触媒金属の構成成分を前記担体内部の空孔に含浸する工程と、
    前記含浸する工程の後に熱処理する工程と、
    を含む、触媒の製造方法。
  2. 空孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満であり、かつ前記空孔の空孔容積が0.3cc/g担体以上である担体に対して、触媒金属を担持する触媒の製造方法であって、
    前記触媒金属の前駆体を前記担体内部の空孔に含浸する工程と、
    前記触媒金属の前駆体を還元する工程と、
    前記還元する工程の後に熱処理する工程と、
    を含む、触媒の製造方法。
  3. 前記熱処理する工程は、前記触媒の空孔の空孔分布のモード半径よりも前記触媒金属の平均粒半径が大きくなるように制御される、請求項1または2に記載の触媒の製造方法。
  4. 前記触媒の空孔の空孔分布のモード半径は1nm以上2nm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
  5. 前記触媒金属の平均粒半径が1.5nm以上2.5nm以下となるように制御する工程をさらに含む、請求項4に記載の触媒の製造方法。
  6. 前記触媒金属は、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
  7. 前記触媒金属の構成成分の平均粒半径が、前記担体の空孔の空孔分布のモード半径よりも小さい、請求項6に記載の触媒の製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる触媒および電解質を含む、燃料電池用電極触媒層。
  9. 前記触媒中の触媒金属と前記電解質とを、プロトン伝導可能な状態に連結する液体プロトン伝導材を含む、請求項8に記載の燃料電池用電極触媒層。
  10. 前記電解質による前記触媒金属への被覆率が0.45以下である、請求項8または9に記載の燃料電池用電極触媒層。
  11. 請求項8〜10のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒層を含む、燃料電池用膜電極接合体。
  12. 請求項11に記載の燃料電池用膜電極接合体を含む燃料電池。
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