以下、適宜図面を参照しながら、本発明の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本発明において触媒(電極触媒)は、担体および担体に担持される触媒金属からなる。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
[燃料電池]
まず本発明を適用して製造される燃料電池の一例を説明する。本発明を適用して製造される燃料電池は、特別なものではなく、一般的な構成と同様である。燃料電池は、膜電極接合体(MEA:Membrane and Electrode Assembly)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレーターと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレーターとからなる一対のセパレーターとを有する。
図1は、本実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体10を構成する。
PEFC1において、膜電極接合体10はさらに、一対のセパレーター(アノードセパレーター5aおよびカソードセパレーター5c)により挟持されている。図1において、セパレーター(5a、5c)は、図示した膜電極接合体10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数の膜電極接合体が積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレーターは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレーターとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいて膜電極接合体は、セパレーターを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレーター(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
(セパレーター)
セパレーター(5a、5c)は、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレーターは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、セパレーターのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレーターを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレーターの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
セパレーター(5a、5c)は、たとえば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレーター(5a、5c)の膜電極接合体側から見た凸部は膜電極接合体10と接触している。これにより、膜電極接合体10との電気的な接続が確保される。また、セパレーター(5a、5c)の膜電極接合体側から見た凹部(セパレーターの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレーターと膜電極接合体との間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレーター5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレーター5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレーター(5a、5c)の膜電極接合体側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレーターには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。このような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図1に示すPEFC1においては、セパレーター(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレーターは、このような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
ここで、燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、この燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。たとえば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
(電解質層)
電解質層は、たとえば、図1に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。たとえば、フッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を用いることができる。これらは後述する固体プロトン伝導材と同様のものであるが、触媒層に用いた固体プロトン伝導材と必ずしも同じものを用いる必要はない。
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがこのような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレーターのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。たとえば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがこのような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
[触媒(電極触媒)]
図2は、本実施形態に係る触媒の形状・構造を示す概略断面説明図である。図2に示されるように、触媒20は、触媒金属22および担体23からなる。また、触媒20は、空孔(メソ孔)24を有する。ここで、触媒金属22は、メソ孔24の内部に担持される。また、触媒金属22は、少なくとも一部がメソ孔24の内部に担持されていればよく、一部が担体23表面にされていてもよい。しかし、触媒層での固体プロトン伝導材と触媒金属の接触を防ぐという観点からは、実質的にすべての触媒金属22がメソ孔24の内部に担持されることが好ましい。ここで、「実質的にすべての触媒金属」とは、十分な触媒活性を向上できる量であれば特に制限されない。「実質的にすべての触媒金属」は、全触媒金属において、好ましくは50重量%以上(上限:100重量%)、より好ましくは80重量%以上(上限:100重量%)の量で存在する。
(触媒金属担持後の触媒の)空孔の空孔容積は、0.4cc/g担体以上であり、好ましくは0.45〜3cc/g担体であり、より好ましくは0.5〜1.5cc/g担体である。空孔容積が上記したような範囲にあれば、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での固体プロトン伝導材と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と固体プロトン伝導材との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くのメソ孔の存在により、触媒反応をより効果的に促進できる。
(触媒金属担持後の触媒の)空孔の空孔分布のモード半径(最頻度径)は、1nm以上5nm未満であり、好ましくは1nm以上〜4nm以下であり、より好ましくは1nm以上3nm以下であり、さらに好ましくは1nm以上2nm以下である。上記したような空孔分布のモード半径であれば、メソ孔に十分量の触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での固体プロトン伝導材と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と固体プロトン伝導材との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、大容積の空孔(メソ孔)の存在により、触媒反応をより効果的に促進できる。なお、本明細書では、メソ孔の空孔分布のモード半径を単に「メソ孔のモード径」とも称する。
(触媒金属担持後の触媒の)BET比表面積[担体1gあたりの触媒のBET比表面積(m2/g担体)]は、特に制限されないが、1000m2/g担体以上、より好ましくは1000〜3000m2/g担体であり、特に好ましくは1000〜1800m2/g担体であることが好ましい。上記したような比表面積であれば、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)できる。また、触媒層での固体プロトン伝導材と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と固体プロトン伝導材との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。
なお、本明細書において、触媒の「BET比表面積(m2/g担体)」は、窒素吸着法により測定される。詳細には、触媒粉末 約0.04〜0.07gを精秤し、試料管に封入する。この試料管を真空乾燥器で90℃×数時間予備乾燥し、測定用サンプルとする。秤量には、島津製作所株式会社製電子天秤(AW220)を用いる。なお、塗布シートの場合には、これの全重量から、同面積のテフロン(登録商標)(基材)重量を差し引いた塗布層の正味の重量約0.03〜0.04gを試料重量として用いる。次に、下記測定条件にて、BET比表面積を測定する。吸着・脱着等温線の吸着側において、相対圧(P/P0)約0.00〜0.45の範囲から、BETプロットを作成することで、その傾きと切片からBET比表面積を算出する。
<測定条件>
・測定装置:日本ベル株式会社製高精度全自動ガス吸着装置BELSORP36、
・吸着ガス:N2、
・死容量測定ガス:He、
・吸着温度:77K(液体窒素温度)、
・測定前処理:90℃真空乾燥数時間(Heパージ後測定ステージにセット)、
・測定モード:等温での吸着過程および脱着過程、
・測定相対圧P/P0:約0〜0.99、
・平衡設定時間:1相対圧につき180sec。
また、「空孔の半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により測定される空孔の半径を意味する。また、「空孔分布のモード半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により得られる微分細孔分布曲線においてピーク値(最大頻度)をとる点の空孔半径を意味する。ここで、空孔の半径の上限は、特に制限されないが、100nm以下である。
「空孔の空孔容積」は、触媒に存在する空孔の総容積を意味し、担体1gあたりの容積(cc/g担体)で表される。「空孔の空孔容積(cc/g担体)」は、窒素吸着法(DH法)によって求めた微分細孔分布曲線の下部の面積(積分値)として算出される。
「微分細孔分布」とは、細孔径を横軸に、触媒中のその細孔径に相当する細孔容積を縦軸にプロットした分布曲線である。すなわち、窒素吸着法(DH法)により得られる触媒の空孔容積をVとし、空孔直径をDとした際の、差分空孔容積dVを空孔直径の対数差分d(logD)で割った値(dV/d(logD))を求める。そして、このdV/d(logD)を各区分の平均空孔直径に対してプロットすることにより微分細孔分布曲線が得られる。差分空孔容積dVとは、測定ポイント間の空孔容積の増加分をいう。
窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径および空孔容積の測定方法は、特に制限されず、たとえば、「吸着の科学」(第2版 近藤精一、石川達雄、安部郁夫 共著、丸善株式会社)や「燃料電池の解析手法」(高須芳雄、吉武優、石原達己 編、化学同人)、D. Dollion, G. R. Heal : J. Appl. Chem., 14, 109 (1964)等の公知の文献に記載される方法が採用できる。本明細書では、窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径および空孔容積は、D. Dollion, G. R. Heal : J. Appl. Chem., 14, 109 (1964) に記載される方法によって、測定された値である。
上記したような特定の空孔分布を有する触媒の製造方法は、特に制限されないが、特開2010−208887号公報、国際公開第2009/075264号などに記載される方法が好ましく使用される。
担体の材質は、上述した空孔容積またはモード径を有する空孔(一次空孔)を担体の内部に形成することができ、かつ、触媒成分を空孔(メソ孔)内部に分散状態で担持させるのに充分な比表面積と充分な電子伝導性とを有するものであれば特に制限されない。好ましくは、主成分がカーボンである。具体的には、カーボンブラック(ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど)、活性炭などからなるカーボン粒子が挙げられる。「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念であり、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
より好ましくは、担体内部に所望の空孔領域を形成し易いことから、カーボンブラックを使用することが望ましく、特に好ましくは、半径5nm以下の空孔を多く有する、いわゆるメソポーラスカーボンを使用する。
上記カーボン材料の他、Sn(錫)やTi(チタン)などの多孔質金属、さらには導電性金属酸化物なども担体として使用可能である。
担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよい。担体のBET比表面積は、実質的に触媒のBET比表面積と同等である。担体のBET比表面積は、好ましくは1000〜3000m2/g、より好ましくは1000〜1800m2/gである。上記したような比表面積であれば、十分な空孔(メソ孔)を確保できるため、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)できる。また、触媒層での固体プロトン伝導材と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と固体プロトン伝導材との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くの空孔(メソ孔)の存在により、触媒反応をより効果的に促進できる。また、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御できる。
担体の平均粒径は20〜2000nmであることが好ましい。このような範囲であれば、担体に上記空孔構造を設けた場合であっても機械的強度が維持され、かつ、触媒層の厚みを適切な範囲で制御することができる。「担体の平均粒径」の値としては、たとえば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用することができる。また、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。
なお、本実施形態においては、触媒内に上記したような空孔分布を有するものである限り、必ずしも上記したような粒状の多孔質担体を用いる必要はない。
すなわち、担体として、非多孔質の導電性担体やガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなども挙げられる。このとき、触媒をこれら非多孔質の導電性担体に担持したり、膜電極接合体のガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなどに直接付着させたりすることも可能である。
本実施形態で使用できる触媒金属は、電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。アノード触媒層に用いられる触媒金属は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒金属もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。すなわち、触媒金属は、たとえば白金、または白金と白金以外の金属成分を含むことが好ましい。このような触媒金属は、高い活性を発揮できる。合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒金属およびカソード触媒層に用いられる触媒金属は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒金属についての説明は、両者について同様の定義である。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒金属は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒金属(触媒成分)の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。形状としては、たとえば、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、好ましくは粒状である。
触媒金属の平均粒半径は、空孔分布のモード半径以上である(モード半径は触媒金属の平均粒半径以下である)。この際、触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒半径は、好ましくは1nm以上3.5nm以下、より好ましくは1.5nm以上2.5nm以下である。触媒金属の平均粒半径が空孔分布のモード半径以上であれば(モード半径が触媒金属の平均粒半径以下であれば)、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間が減少する。すなわち触媒金属表面に吸着する水の量が減る。また、水が壁面との相互作用を受けることにより、金属酸化物の形成反応が遅くなり、金属酸化物が形成されにくくなる。その結果、触媒金属表面の失活が抑制され、高い触媒活性を発揮できる。すなわち、触媒反応を促進できる。また、触媒金属が空孔(メソ孔)内に比較的強固に担持され、触媒層内で固体プロトン伝導材と接触するのをより有効に抑制・防止される。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上できる。すなわち、触媒反応をより効率的に促進できるのである。なお、本実施形態における「触媒金属粒子の平均粒半径」は、X線回折における触媒金属成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子半径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒金属粒子の粒子半径の平均値として測定されうる。
単位触媒塗布面積当たりの触媒金属含有量(mg/cm2)は、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能が得られる限り特に制限されず、たとえば、0.01〜1mg/cm2である。ただし、触媒金属が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.5mg/cm2以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、たとえば、0.01mg/cm2以上である。より好ましくは、白金含有量は0.02〜0.4mg/cm2である。本実施形態では、担体の空孔構造を制御することにより、触媒重量あたりの活性を向上させることができるため、高価な触媒金属の使用量を低減することが可能となる。
なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、スラリーの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
また、担体における触媒の担持量(担持率とも称する場合がある)は、触媒担持体(つまり、担体および触媒)の全量に対して、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜70重量%とするのがよい。担持量がこのような範囲であれば、十分な触媒成分の担体上での分散度、発電性能の向上、経済上での利点、単位重量あたりの触媒活性が達成できるため好ましい。
以上のように本実施形態に係る触媒は、下記構成(a)〜(d)を満たす。(a)触媒は空孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満である。(b)触媒金属が空孔の内部に担持される。(c)モード半径が触媒金属の平均粒半径以下である。(d)空孔の空孔容積が0.4cc/g担体以上である。
なお、半径が1nm未満の空孔を「ミクロ孔」とも称する。また、半径1nm以上の空孔を「メソ孔」とも称する。
上述したように、本実施形態に係る触媒は、高い触媒活性を発揮できる。すなわち、触媒反応を促進できる。したがって、この触媒は、燃料電池用の電極触媒層に好適である。
[触媒層]
図3は、本実施形態に係る触媒層における触媒および固体プロトン伝導材の関係を示す模式図である。
図3に示されるように、触媒層内では、触媒は固体プロトン伝導材26で被覆されている。しかし固体プロトン伝導材26は、触媒(担体23)のメソ孔24内には侵入しない。このため、担体23表面の触媒金属22は固体プロトン伝導材26と接触するが、メソ孔24内部に担持された触媒金属22は固体プロトン伝導材26と接触しないのである。
メソ孔24内部の触媒金属22は、固体プロトン伝導材26と非接触状態で酸素ガスと水との三相界面を形成することにより、触媒金属22の反応活性面積を確保できる。
本実施形態に係る触媒層における触媒は、触媒金属が固体プロトン伝導材と接触しない場合であっても、水により三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できる。このため、触媒金属を固体プロトン伝導材が進入できない空孔(メソ孔)内部に担持する構成をとることによって、触媒活性を向上できる。
触媒金属を固体プロトン伝導材が進入できない空孔(メソ孔)内部に担持する場合、触媒金属と、担体の空孔内壁面との距離が比較的大きく、触媒金属表面に吸着する水の量が多くなる。水は触媒金属に酸化剤として作用し金属酸化物を生成させるため、触媒金属の活性を低下させ、触媒性能が低下してしまう。これに対して、上記(b)空孔のモード半径を触媒金属の平均粒半径以下とすることにより、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間が減少する。すなわち触媒金属表面に吸着する水の量が減る。また、水が空孔内壁面の相互作用を受けることにより、金属酸化物の形成反応が遅くなり、金属酸化物が形成されにくくなる。その結果、触媒金属表面の失活が抑制される。ゆえに、本実施形態の触媒は、高い触媒活性を発揮できる。すなわち、触媒反応を促進できる。このため、本実施形態の触媒を用いた触媒層を有する膜電極接合体および燃料電池は、発電性能に優れる。
本実施形態に係る触媒は、カソード触媒層またはアノード触媒層のいずれに存在していてもよいが、カソード触媒層で使用されることが好ましい。上述したように、本実施形態の触媒は、触媒金属が固体プロトン伝導材と接触しなくても、水との三相界面を形成することによって触媒を有効に利用できる。そしてカソード触媒層では水が形成されるからである。この水が液体プロトン伝導材となる。
固体プロトン伝導材(アイオノマー)は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、プロトン伝導性高分子とも呼ばれる。
固体プロトン伝導材は、特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。固体プロトン伝導材は、イオン伝導性の高分子電解質であることが好ましい。固体プロトン伝導材は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、たとえば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
プロトンの伝達を担う固体プロトン伝導材においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、固体プロトン伝導材のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本実施形態の触媒層は、EWの小さい固体プロトン伝導材を含むことが好ましい。具体的には、本実施形態の触媒層は、好ましくはEWが1500g/eq.以下の固体プロトン伝導材を含み、より好ましくは1200g/eq.以下の固体プロトン伝導材を含み、特に好ましくは1000g/eq.以下の固体プロトン伝導材を含む。
一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。このような観点から、固体プロトン伝導材のEWは600以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥重量であり、「g/eq」の単位で表される。
また、触媒層は、EWが異なる2種類以上の固体プロトン伝導材を発電面内に含み、この際、固体プロトン伝導材のうち最もEWが低い固体プロトン伝導材が流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いることが好ましい。このような材料配置を採用することにより、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能の向上を図ることができる。流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いる固体プロトン伝導材、すなわちEWが最も低い固体プロトン伝導材のEWとしては、900g/eq.以下であることが望ましい。これにより、上述の効果がより確実、顕著なものとなる。
さらに、EWが最も低い固体プロトン伝導材を冷却水の入口と出口の平均温度よりも高い領域に用いることが望ましい。これによって、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能のさらなる向上を図ることができる。
さらには、燃料電池システムの抵抗値を小さくするために、EWが最も低い固体プロトン伝導材は、流路長に対して燃料ガスおよび酸化剤ガスの少なくとも一方のガス供給口から3/5以内の範囲の領域に用いることが好ましい。
本実施形態の触媒層は、触媒金属と固体プロトン伝導材との間に、触媒金属と固体プロトン伝導材とをプロトン伝導可能な状態に連結しうる液体プロトン伝導材を含んでいる。液体プロトン伝導材が導入されることによって、触媒金属と固体プロトン伝導材との間に、液体プロトン伝導材を介したプロトン輸送経路が確保され、発電に必要なプロトンを効率的に触媒金属の表面へ輸送することが可能となる。これにより、触媒金属の利用効率が向上するため、発電性能を維持しながら触媒の使用量を低減することが可能となる。この液体プロトン伝導材は触媒金属と固体プロトン伝導材との間に介在していればよく、触媒層内の多孔質担体間の空孔(二次空孔)や多孔質担体内の空孔(ミクロ孔またはメソ孔:一次空孔)内に配置されうる。
液体プロトン伝導材としては、イオン伝導性を有し、触媒金属と固体プロトン伝導材との間にプロトン輸送経路を形成する機能を発揮しうる限り、特に限定されることはない。具体的には水、プロトン性イオン液体、過塩素酸水溶液、硝酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液などを挙げることができる。
液体プロトン伝導材として水を使用する場合には、発電を開始する前に少量の液水か加湿ガスにより触媒層を湿らせることによって、触媒層内に液体プロトン伝導材としての水を導入することができる。また、燃料電池の作動時における電気化学反応によって生じた生成水を液体プロトン伝導材として利用することもできる。したがって、燃料電池の運転開始の状態においては、必ずしも液体プロトン伝導材が保持されている必要はない。たとえば、触媒金属と固体プロトン伝導材との表面距離を、水分子を構成する酸素イオン径である0.28nm以上とすることが望ましい。このような距離を保持することによって、触媒金属と固体プロトン伝導材との非接触状態を保持しながら、触媒金属と固体プロトン伝導材の間(液体伝導材保持部)に水(液体プロトン伝導材)を介入させることができ、両者間の水によるプロトン輸送経路が確保されることになる。
イオン性液体など、水以外のものを液体プロトン伝導材として使用する場合には、触媒インク作製時に、イオン性液体と固体プロトン伝導材と触媒とを溶液中に分散させることが望ましいが、触媒を触媒層基材に塗布する際にイオン性液体を添加してもよい。
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
触媒層の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかし、カソード触媒層およびアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
[燃料電池の製造方法]
次に本発明を適用した実施形態としての燃料電池の製造方法を説明する。図4は、燃料電池の製造方法の手順を説明する流れ図である。なお本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されない。また、触媒層の各構成要素の材質などの諸条件については、上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
燃料電池の製造方法は、概略以下のとおりである。
(a)触媒担体に触媒金属を担持させて触媒を得る工程(S11:触媒作製工程)。ここでは粉末状の触媒(触媒粉末)となるように作製している。
(b)触媒粉末に固体プロトン伝導材を混合して触媒インクを調製する工程(S12:触媒インク調製工程)。
(c)高分子電解質膜に触媒インクを塗布して触媒層を形成した膜電極接合体(MEA)を得る工程(S13:膜電極接合体作製工程)。
(d)膜電極接合体を用いて、触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率(詳細後述)が、0.3未満であることを検査する工程(S14:被覆率検査工程という)。
(e)検査後、被覆率が0.3未満であるか否かにより、膜電極接合体の良否判定する工程(S15)。被覆率が0.3未満である膜電極接合体を良品とする。
(f)良否判定の結果、被覆率が0.3未満である膜電極接合体とセパレーターを積層して燃料電池スタックを組み立てる工程(S16:燃料電池組み立て工程という)。
(g)良否判定の結果、被覆率が0.3未満でなければ、その膜電極接合体は破棄する工程(S17)。なお、破棄した膜電極接合体は個別の素材に分けるなどして、再利用することになる。
この燃料電池の製造方法においてとくに重要なのは、触媒層内の触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率θ=SC−S/(SC−S+SC−L)が、0.3未満であることを検査する工程(S14)である。この被覆率検査工程を入れることで、燃料電池組み立て工程(S16)の前の段階で、出来上がる燃料電池の発電性能の良否を予測することができる。そして、この検査工程の結果、良品(被覆率<0.3)となった膜電極接合体を用いて燃料電池を組み立てることになる。
以下各工程について説明する。
(触媒作製工程)
既に説明した特定の空孔分布(空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満である)を有する担体を準備する。
準備した担体に触媒金属を担持させて、触媒粉末を得る。担体への触媒金属の担持は公知の方法で行うことができる。たとえば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。
続いて、触媒粉末を熱処理する。この熱処理により、空孔内に担持された触媒金属が粒成長し、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離を縮めることができ、高い触媒活性が得られる。この熱処理の温度は、300〜1200℃の範囲が好ましく、500〜1150℃の範囲がより好ましく、700〜1000℃の範囲がさらに好ましい。また、熱処理の時間は、0.1〜3時間が好ましく、0.5〜2時間がより好ましい。
(触媒インク調製工程)
次に、触媒粉末、固体プロトン伝導材、および溶剤を含む触媒インクを作製する。溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶媒が同様にして使用できる。具体的には、水道水、純水、イオン交換水、蒸留水等の水、シクロヘキサノール、メタノール、エタノール、n−プロパノール(n−プロピルアルコール)、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、およびtert−ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール、プロピレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの他にも、酢酸ブチルアルコール、ジメチルエーテル、エチレングリコール、などが溶媒として用いられてもよい。これらの溶剤は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合液の状態で使用してもよい。
触媒インクを構成する溶剤の量は、固体プロトン伝導材を完全に溶解できる量であれば特に制限されない。具体的には、触媒粉末および固体プロトン伝導材などを合わせた固形分の濃度が、電極触媒インク中、1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%程度とするのが好ましい。
なお、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤等の添加剤を使用する場合には、触媒インクにこれらの添加剤を添加すればよい。この際、添加剤の添加量は、本実施形態の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されない。たとえば、添加剤の添加量は、それぞれ、電極触媒インクの全重量に対して、好ましくは5〜20重量%である。
(膜電極接合体(MEA)作製工程)
次に、基材の表面に触媒インクを塗布する。基材への塗布方法は、特に制限されず、公知の方法を使用できる。具体的には、スプレー(スプレー塗布)法、ガリバー印刷法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法など、公知の方法を用いて行うことができる。
この際、触媒インクを塗布する基材としては、固体高分子電解質膜やガス拡散基材(ガス拡散層)を使用することができる。このような場合には、固体高分子電解質膜(電解質層)またはガス拡散基材(ガス拡散層)の表面に触媒層を形成した後、得られた積層体をそのまま膜電極接合体の製造に利用することができる。あるいは、基材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)[テフロン(登録商標)]シート等の剥離可能な基材を使用し、基材上に触媒層を形成した後に基材から触媒層部分を剥離することにより、触媒層を得てもよい。
最後に、触媒インクの塗布層(膜)を、空気雰囲気下あるいは不活性ガス雰囲気下、室温〜150℃で、1〜60分間、乾燥する。これにより、触媒層が形成される。
その後、既に説明した図1を参照して、固体高分子電解質膜2、電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層と、電解質膜2並びにアノード触媒層3aおよびカソード触媒層3cを挟持する一対のガス拡散層(4a,4c)とを有する燃料電池用膜電極接合体を作製する。この膜電極接合体において、カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方が上記触媒層である。
ただし、プロトン伝導性の向上および反応ガス(特にO2)の輸送特性(ガス拡散性)の向上の必要性を考慮すると、少なくともカソード触媒層が上記触媒層であることが好ましい。ただし、上記触媒層は、アノード触媒層として用いてもよいし、カソード触媒層およびアノード触媒層双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
膜電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。たとえば、固体高分子電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層の微多孔質層側(微多孔質層を含まない場合には、基材層の片面に触媒層をあらかじめ塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
(被覆率検査工程)
上記の触媒作製工程において、空孔構造を制御した担体に触媒金属を担持させることで、多くの場合は固体プロトン伝導材による触媒金属の被覆率が0.3未満となった触媒が得られる。しかし中には、被覆率0.3未満とならないものもある。そこで本実施形態では被覆率検査工程を設けて、被覆率0.3未満となった膜電極接合体だけを良品として選別するのである。
触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率θを下記(1)式のように定義する。
θ=SC−S/(SC−S+SC−L) …(1)
ただし、式中、(SC−S)は膜電極接合体の中の触媒金属が固体プロトン伝導材に接触している面積であり、(SC−L)は膜電極接合体の中の触媒金属が液体プロトン伝導材に接触している面積(SC−L)である。なお、液体プロトン伝導材は既に説明したとおり、触媒金属と固体プロトン伝導材をプロトン伝導可能な状態に連結するものである。
(1)式から、被覆率θは、触媒金属が固体プロトン伝導材に接触している面積(SC−S)と触媒金属が液体プロトン伝導材に接触している面積(SC−L)との和に対する触媒金属が固体プロトン伝導材に接触している面積(SC−S)の割合ということになる。
この被覆率は、たとえば、担体の液体伝導材保持部に液体プロトン伝導材を満たした状態で、触媒−固体プロトン伝導材界面と触媒−液体プロトン伝導材界面に形成される電気二重層容量を求めることによって行うことができる。電気二重層容量は、電気化学的に有効な界面の面積に比例する。このため触媒−固体プロトン伝導材界面に形成される電気二重層容量が(SC−S)となり、触媒−液体プロトン伝導材界面に形成される電気二重層容量が(SC−L)となる。
ここで、触媒−固体プロトン伝導材界面、触媒−液体プロトン伝導材界面にそれぞれ形成される電気二重層容量の測定方法を説明する。
触媒層においては、
(1)触媒金属−固体プロトン伝導材(C−S)
(2)触媒金属−液体プロトン伝導材(C−L)
(3)多孔質担体−固体プロトン伝導材(Cr−S)
(4)多孔質担体−液体プロトン伝導材(Cr−L)の4種の界面が電気二重層容量(Cdl)として寄与しうる。
電気二重層容量は、上記したように、電気化学的に有効な界面の面積に正比例するため、触媒金属−固体プロトン伝導材界面の電気二重層容量(CdlC−S)、および触媒金属−液体プロトン伝導材界面の電気二重層容量(CdlC−L)を求めればよい。これら(CdlC−S)および(CdlC−L)の値は、(SC−S)および(SC−L)として使用することになる。
電気二重層容量(Cdl)に対する上記4種の界面の寄与については、以下のようにして分離することができる。
まず、たとえば相対湿度100%RHのような高加湿条件、および10%RH以下のような低加湿条件において、電気二重層容量をそれぞれ計測する。なお、電気二重層容量の計測手法としては、サイクリックボルタンメトリーや電気化学インピーダンス分光法などを挙げることができる。これらの比較から、液体プロトン伝導材(この場合は「水」)の寄与、すなわち上記(2)および(4)を(1)および(3)から分離することができる。
さらに触媒金属を失活させること、たとえば、Ptを触媒金属として用いた場合には、測定対象の電極にCOガスを供給してCOをPt表面上に吸着させることによりPtを失活させる。これによってPtの電気二重層容量への寄与を分離することができる。失活させた状態で、前述のように高加湿および低加湿条件における電気二重層容量を同様の手法で計測することで、Ptの寄与、つまり上記(1)および(2)を(3)および(4)から分離することができる。
以上により、上記(1)〜(4)すべての寄与を分離することができ、触媒金属と固体プロトン伝導材および液体プロトン伝導材の両界面に形成される電気二重層容量を求めることができる。
すなわち、高加湿状態における測定値(測定値Aという)が上記(1)〜(4)の全界面に形成される電気二重層容量になる。これが実質的に触媒層全体として触媒金属と固体プロトン伝導材および液体プロトン伝導材の両界面に形成されるすべての電気二重層容量の値となる。一方、低加湿状態における測定値(測定値Bという)が上記(1)および(3)の界面に形成される電気二重層容量になる。また、触媒失活・高加湿状態における測定値(測定値Cという)が上記(3)および(4)の界面に形成される電気二重層容量、触媒失活・低加湿状態における測定値(測定値Dという)が上記(3)の界面に形成される電気二重層容量になる。
したがって、測定値Aと測定値Cの差が(1)および(2)の界面に形成される電気二重層容量、測定値Bと測定値Dの差が(1)の界面に形成される電気二重層容量ということになる。そして、これら値の差、(A−C)−(B−D)を算出すれば、(2)の界面に形成される電気二重層容量を求めることができる。
これらをまとめると、触媒金属と液体プロトン伝導材の界面の電気二重層容量は、高加湿状態で測定した電気二重層容量の値から低加湿状態で測定した電気二重層容量の値を減算することで求めることができる。
また、触媒金属と固体プロトン伝導材の界面の電気二重層容量、および触媒金属と液体プロトン伝導材の界面の電気二重層容量は、触媒金属上に一酸化炭素を吸着させて触媒金属を失活させて電気二重層容量を測定して、失活前の全体の電気二重層容量から失活後の電気二重層容量を減算することにより求めることができる。
そして、これらを組み合わせて、触媒失活・高加湿状態での電気二重層容量の測定値から触媒失活・低加湿状態での電気二重層容量の測定値を減算すれば、触媒金属と固体プロトン伝導材の界面単独の電気二重層容量の値が得られることになるのである。
なお、触媒金属の固体プロトン伝導材との接触面積や、伝導材保持部への露出面積については、上記の他には、たとえば、TEM(透過型電子顕微鏡)トモグラフィなどによっても求めることができる。
上記電気二重層容量を用いた固体プロトン伝導材による触媒金属の被覆率の算出方法は、簡易的にすることができる。既に説明したように、上記(1)〜(4)のうち、高加湿状態における測定値Aが上記(1)〜(4)の全界面に形成される電気二重層容量である。一方、低加湿状態における測定値Bが上記(1)および(3)の界面に形成される電気二重層容量である。つまり、高加湿状態における測定値Aは、触媒金属−固体プロトン伝導材(C−S)と触媒金属−液体プロトン伝導材(C−L)の両方の界面の面積(SC−S+SC−L)を含んでいる。一方、低加湿状態における測定値Bは、触媒金属−固体プロトン伝導材(C−S)の界面の面積(SC−S))は含むが、触媒金属−液体プロトン伝導材(C−L)の界面の面積(SC−L))は含まない。このことから測定値B/測定値Aは、おおよそ被覆率θ=SC−S/(SC−S+SC−L)と見ることができる。
このような簡易な方法を用いれば、COを用いて失活させた状態を作らなくてもよいので、検査をより早く行うことができる。
なお、固体プロトン伝導材による触媒金属の被覆率は、上記電気二重層容量を用いた方法に限定されず、他の方法であってもよい。
上記のようにして求められた触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率θは0.3未満であることが好ましい。これについては、後述する実施例により説明する。
このような被覆率の検査は、実際の工程においては、たとえば、膜電極接合体作製工程から出来上がった膜電極接合体を抜き取って検査することになる。検査の過程ではCOにより一部の触媒金属を失活させている。このため検査後の膜電極接合体をそのまま用いると、活性の低い膜電極接合体を使用することになってしまう。したがって、被覆率の検査は抜き取り検査で行うことになる。
抜き取り検査は、たとえば、触媒インクを混合する際の容器ごとに、または製造される膜電極接合体を一定時間ごと(または一定数量ごと)に抜き取って検査するなどである。
なお、COを使用しない簡易検査の場合は、全数検査としてもよい。簡易検査では湿度を違えているだけであるので、検査によって膜電極接合体における触媒の活性が低下してしまうことはない。
(検査結果)
被覆率検査工程によって良品と判定された場合、たとえば触媒インクの抜き取り検査では同じ混合容器内の触媒インクはすべて良品と推定することになる。また膜電極接合体作製工程の一定時間(一定数量)ごとの抜き取りでは、前回の検査から今回の検査までの間に製造された膜電極接合体はすべて良品と推定することになる。良品と推定された膜電極接合体はその後の燃料電池の組み立て工程に回されることになる。
一方、不良と判定された場合は、たとえば同じ混合容器からの触媒インクは破棄されることになる。同様に前回の検査から今回の検査までの間に製造された膜電極接合体はすべて不良と推定されて破棄されることになる。
なお、全数検査の場合は、良品と判定された膜電極接合体は燃料電池の組み立て工程に回され、不良と判定された膜電極接合体は破棄される。
(燃料電池組み立て工程)
燃料電池の組み立ては、被覆率検査工程において被覆率が0.3未満である膜電極接合体を用いる。燃料電池の組み立ては、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
たとえば、膜電極接合体の両側にガス流路を備えたセパレーターが位置するように、膜電極接合体とセパレーターを複数積層する。これにより所望する電圧を発揮できる燃料電池スタックが出来上がる。なお、燃料電池スタックとして積層する膜電極接合体とセパレーターの枚数、燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
上述のようにして製造した燃料電池は、高特性を得られることが製造過程において検査されたものとなる。したがって出来上がった燃料電池は、製品として所望する発電性能が得られたものとなり、製品歩留まりの向上が期待できる。このような本実施形態の燃料電池は、たとえば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
(実施例1)
空孔容積が1.56cc/g,BET表面積が1773m2/gである担体Aを準備した。具体的には、国際公開第2009/075264号などに記載の方法により調製した。
担体Aを用い、これに触媒金属として白金(Pt)を担持率が30重量%となるように担持させて、触媒粉末Aを得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Aを46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Aに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持率が30重量%の触媒粉末を得た。その後、水素雰囲気において、温度900℃に1時間保持し、触媒粉末Aを得た。
上記で作製した触媒粉末Aと、高分子電解質としてのアイオノマー分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/mol、DuPont社製)とをカーボン担体とアイオノマーの重量比が0.9となるよう混合した。さらに、溶媒としてn−プロピルアルコール溶液(50%)を固形分率(Pt+カーボン担体+アイオノマー)が7重量%となるよう添加して、カソード触媒インクを調製した。
次に、高分子電解質膜(Dupont社製、Nafion(登録商標) NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人デュポンフィルム株式会社製、テオネックス(登録商標)、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置した。次いで、高分子電解質膜の片面の露出部に触媒インクをスプレー塗布法により、5cm×2cmのサイズに塗布した。スプレー塗布を行うステージを60℃に保つことで触媒インクを乾燥し、電極触媒層を得た。このときの白金担持量は0.15mg/cm2である。次に、カソード触媒層と同様に電解質膜上にスプレー塗布および熱処理を行うことでアノード触媒層を形成し、本例の膜電極接合体を得た。
(実施例2)
担体Bとして、空孔容積が0.69cc/g、 BET表面積が790m2/gであるケッチェンブラックEC300J(ケッチェンブラックインターナショナル製)を準備した。
担体Bを使用し、これに触媒金属として白金(Pt)を担持率が30重量%となるように担持させて、実施例1と同様の操作を行い、触媒粉末Bを得た。また、実施例1と同様の方法で、本例の膜電極接合体を得た。
(比較例1)
担体Cとして、空孔容積が2.23cc/g、BET表面積が1444m2/gであるブラックパール(キャボット社製)を準備した。担体Cを使用し、これに触媒金属として白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、実施例1と同様の操作を行い、触媒粉末Cを得た。また、実施例1と同様の方法で、本例の膜電極接合体を得た。
(比較例2)
担体Dとして、空孔容積が1.27cc/g、BET表面積が715m2/gであるOSAB(電気化学工業製)を準備した。担体Dを使用し、これに触媒金属として白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、実施例1と同様の操作を行い、触媒粉末Dを得た。また、実施例1と同様の方法で、本例の膜電極接合体を得た。
[触媒金属の被覆率]
各実施例および各比較例について触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率を測定した。被覆率の測定は、既に説明した実施形態のとおり、触媒の固体プロトン伝導材および液体プロトン伝導材との界面に形成される電気二重層容量の計測により行った。
<評価方法>
上記各実施例および各比較例による膜電極接合体を用いた試験用の単セルを製作して、評価した。単セルの構造は特に限定されず一般的な燃料電池の単セルの構造であればよい。本実施例では、図1に示した構造と同様であり、膜電極接合体の両側にガス流路を有するセパレーターを配置して挟み込み、さらにセパレーターの外側(両側共に)に集電板、さらに外側にエンドプレートを配置したものである。そしてこの単セルに、後述する各評価(測定)のために必要なガス配管を設置している。ガス配管には、圧力、温度、湿度が調整できるようにしている。また、集電板はアノード側とカソード側となるようにポテンシオスタットからの配線を行っている。
(電気二重層容量の測定)
各実施例および各比較例の膜電極接合体について、電気化学インピーダンス分光法により、活性状態(失活前)で高加湿状態(100%RH)および低加湿状態(5%RH)でそれぞれ電気二重層容量を測定した。さらに触媒失活状態で高加湿状態(100%RH)および低加湿状態(5%RH)でそれぞれ電気二重層容量を測定した。
なお、使用機器としては、北斗電工株式会社製電気化学測定システムHZ−3000と、エヌエフ回路設計ブロック社製周波数応答分析器FRA5020とを用い、表1に示す測定条件を採用した。
電気二重層容量の測定は、まず、それぞれの電池をヒーターによって30℃に加温し、作用極(カソード)および対極(アノード)に、それぞれ表1に示した加湿状態に調整した窒素ガスおよび水素ガスを供給した状態で電気二重層容量を計測した。
電気二重層容量の測定に際しては、表1に示したように、0.45Vで保持し、さらに、±10mVの振幅で、20kHz〜10mHzの周波数範囲で作用極の電位を振動させた。
すなわち、作用極電位の振動時の応答から、各周波数におけるインピーダンスの実部、虚部が得られる。この虚部(Z”)と角速度ω(周波数から変換)の関係が次式で表されるため、虚部の逆数を角速度の−2乗について整理し、角速度の−2乗が0のときの値を外挿することによって、電気二重層容量Cdlが求められる。なお、Rctは触媒による反応抵抗である。
このような測定を低加湿状態(5%RH)および高加湿状態(100%RH)で実施した。
さらに、作用極(カソード)に濃度1%(体積比)のCOを含む窒素ガスを1NL/分で15分以上流通させることによって、Pt触媒を失活させたのち、上記のような高加湿および低加湿状態における電気二重層容量をそれぞれ同様に計測した。
そして、計測値に基づいて、触媒−固体プロトン伝導材(C−S)界面および触媒−液体プロトン伝導材(C−L)界面に形成された電気二重層容量を算出した。
なお、算出に当たっては、低加湿状態および高加湿状態の電気二重層容量を代表するものとして、それぞれ5%RHおよび100%RH条件における計測値を用いた。
(面積比活性の評価)
触媒性能媒性を評価の指標として公知の面積比活性の評価を行った。
白金表面積あたりの面積比活性は、RH100%、温度80℃、酸素圧力150kPaにおいて、電位が0.9Vの電流値を計測し、これを触媒有効表面積で除することにより、値を得た。なお、触媒有効表面積の測定は、北斗電工株式会社製電気化学測定システムHZ−3000を用いて、表2に示す条件のもとに測定対象の電位を掃引し、触媒金属に対するプロトンの吸着による電気量から算出した。
表3に5%RHおよび100%RHの電気二重層容量、表4にそれぞれの界面の電気二重層容量と被覆率、面積比活性を示した。なお、得られた電気二重層容量は、触媒層の面積当たりの値に換算して示した。
また、図5は各実施例および各比較例の被覆率と面積比活性の関係を示すグラフである。
上記表4および図5に示した結果から、実施例1および2は、被覆率0.3未満である。一方、比較例1および2は被覆率0.3以上となっている。そして、実施例1および2においては、面積比活性が比較例1および2と比べて良好なものとなっている。これらのことから被覆率0.3を基準として、0.3未満を良品とすることは、燃料電池の性能を測る指標として適しているということができる。
(I−V特性評価)
さらに電池性能の評価として、上記単セルを燃料電池としたI−V特性を測定した。測定条件は下記のとおりである。
温度80℃、相対湿度100%RH、圧力200kPa、アノード側にH2、カソード側に空気とした。なお、カソード側触媒の有効表面積当たりの質量は、0.12−0.15mg/cm2であった。
図6は各実施例および各比較例のI−V特性の測定結果を示すグラフである。グラフにおいて、横軸は電流密度(A/cm2)、縦軸は抵抗分極による電圧を除いたセル(iRFreeセル)の電圧(V)である。
図6からわかるように、実施例1および2と、比較例1および2の間にはI−V特性に明らかな差がある。したがって、膜電極接合体を用いた被覆率の検査により、被覆率0.3を基準として、燃料電池の性能を判断することは妥当なものということができる。
以上説明した実施形態および実施例によれば以下の効果を奏する。
(1)本実施形態および実施例は、燃料電池の製造過程の途中に、触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率が0.3未満であるか否かの検査工程を設けた。触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率は、燃料電池のI−V特性と相関がある。このためこの被覆率が0.3未満であれば、燃料電池として良好な発電性能が得られることが燃料電池を組み立てる前の段階でわかるようになる。したがって触媒金属の利用効率の高い触媒(その触媒を使用した膜電極接合体)だけを選別して燃料電池の組み立てに回すことができるようになる。またこれにより十分な発電性能が発揮できないような製品を作らなく済むようになり、燃料電池の製品歩留まりが向上する。
(2)本実施形態および実施例は、触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率を電気二重層の測定によって求めることとした。電気二重層容量の測定は、燃料電池の完成品を用いたI−V特性の測定より簡便であるため、製造工程の途中でも行うことが容易である。
(3)触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率を求める際には、触媒金属と液体プロトン伝導材の界面の電気二重層容量を分離する必要がある。そこで本実施形態および実施例は、高加湿状態で測定した電気二重層容量の値から低加湿状態で測定した電気二重層容量の値を減算することで求めている。このため湿度を変えて電気二重層容量を求めることで、容易に被覆率を検査することができる。
(4)触媒金属が固体プロトン伝導材によって覆われている被覆率を求める際に、本実施形態および実施例は、触媒金属上に一酸化炭素を吸着させて触媒金属を失活させて電気二重層容量を測定して、失活前の全体の電気二重層容量から失活後の電気二重層容量を減算することにより求めている。このようにすることで、担体に対する固体プロトン伝導材および担体に対する液体プロトン伝導材のそれぞれの界面の電気二重層容量を、触媒金属に対する固体プロトン伝導材および触媒金属に対する液体プロトン伝導材のそれぞれの界面の電気二重層容量から分離することができる。したがって、より正確に電気二重層容量を求めることができるようになる。
以上、本発明を適用した実施形態および実施例を説明したが、本発明はこれら実施形態や実施例に限定されるものではない。本発明は実施形態や実施例に限定されるものではなく、様々な変形形態が可能であり、本発明は特許請求の範囲により規定した事項によって定められるものである。