JPWO2014157560A1 - 被覆工具の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
しかしながら、水素を実質的に含有しない高硬度なDLC皮膜は、グラファイトターゲットを用いたアークイオンプレーティング法で形成されており、ドロップレットといわれる、大きさが数マイクロメートルの粒子(グラファイト球)が不可避的にDLC皮膜に混入し、DLC皮膜の表面粗さが悪化する。
前記課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。
すなわち、本発明は、基材の表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)皮膜を被覆した被覆工具であって、前記DLC皮膜のナノインデンテーション硬度は50GPa以上100GPa以下であり、前記DLC皮膜は基材側から厚み方向(表面側)に向かって水素原子及び窒素原子の含有量が減少しており、前記DLC皮膜の表面は、水素原子の含有量が0.5原子%以下であり、窒素原子の含有量が2原子%以下である、密着性に優れる被覆工具である。
前記DLC皮膜の基材の表面は、水素原子の含有量が0.7原子%以上7原子%以下であり、窒素原子の含有量が2原子%超10原子%以下であることが好ましい。
また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の膜厚は、0.1μm〜1.5μmの範囲であるのが好ましい。
基材としては、炭素含率が1質量%以上の高炭素鋼又は超硬合金であることが好適である。
炉内に水素原子を含む混合ガスを導入し、前記基材の表面をガスボンバード処理する工程と、次いで、ガスボンバード処理後の前記炉内に窒素ガスを導入し、炉内に導入する前記窒素ガスの流量を減少させながら、グラファイトターゲットを用いてDLC皮膜を前記基材の表面に被覆する工程と、を含む方法である。
前記混合ガスは、アルゴンガスと、混合ガス総質量に対して4質量%以上の水素ガスと、を含有する混合ガスであることが好ましい。
前記被覆する工程は、炉内に導入する前記窒素ガスの流量を減少させながらダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆した後、さらに窒素ガスの導入を止めて(窒素ガスの導入量を0sccmまで減少させて)ダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆するものであることが好ましい。
また、前記被覆する工程において、炉内に導入する窒素ガスの流量は、5sccm以上30sccm以下とすることが好ましい。
一方、水素原子または窒素原子を含有するDLC皮膜は、硬度及び残留応力が低下することが知られている。DLC皮膜に含まれる水素原子の含有量が多くなると、硬度及び残留応力は低下する。例えば、DLC被膜を被覆金型の被覆用材料として適用した場合、成形中の温度上昇によってDLC皮膜に含まれる水素が蒸発し、金型に空隙等の欠陥が生じて、金型寿命が低下する。また、DLC皮膜に含まれる窒素原子の含有量が多くなる場合も、硬度及び残留応力は低下する。非鉄系材料を加工した場合、溶着が発生し易くなる。そのため、水素原子または窒素原子を過多に含有するDLC皮膜を介在させて密着性が向上させたとしても、工具特性は改善され難い。
但し、基材から離れた表面のDLC皮膜に含まれる水素原子または窒素原子の含有量が多くなると、被加工材の溶着が発生し、工具寿命が低下し易くなる。そこで、本発明の被覆工具では、DLC皮膜の基材側から表面側に向かう厚み方向に水素原子及び窒素原子の含有量を減少させていき、DLC皮膜の表面において水素原子の含有量を0.5原子%以下とし、窒素の含有量を2原子%以下とした。すなわち、これは、本発明の被覆工具は、基材側の表面の水素原子の含有量が0.5原子%を超えており、基材側の表面の窒素原子の含有量が2原子%を超えていることを示す。
このような皮膜構造を有することで、基材の直上に設けた高硬度なDLC皮膜が基材に対して高い密着性を有し、被加工材の溶着も抑制することができる。
本発明の被覆工具は、被覆金型に適用することで金型寿命を大幅に向上できるので好ましい。
また、DLC皮膜の表面での窒素原子の含有量としては、1.5原子%以下が好ましく、1.0原子%以下がより好ましい。
そのため、DLC皮膜の基材側の表面は、水素含有量を0.7原子%以上7原子%以下とすることが好ましい。より好ましい水素含有量は、0.7原子%以上3原子%以下であり、更には0.7原子%以上2原子%以下である。
また、DLC皮膜では、基材側における窒素含有量が多くなり過ぎると、基材側から表面側に向かって窒素含有量を減少させても、DLC皮膜の全体に含まれる窒素含有量が多くなる。結果、硬度の低下による耐摩耗性の低下および非鉄系材料を加工した場合に溶着が発生し易くなる。
そのため、DLC皮膜の基材側の表面は、窒素含有量を2原子%超10原子%以下とすることが好ましい。より好ましい窒素含有量は、2原子%超8原子%以下であり、更には2原子%超5原子%以下である。
本発明の被覆工具の製造方法は、フィルタードアークイオンプレーティング法で基材の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆する被覆工具の製造方法である。具体的には、本発明の被覆工具の製造方法は、炉内に水素を含む混合ガスを導入し、前記基材の表面をガスボンバード処理する工程と、ガスボンバード処理後の前記炉内に窒素ガスを導入し、炉内に導入する前記窒素ガスの流量を減少させながら、グラファイトターゲットを用いてダイヤモンドライクカーボン皮膜を前記基材の表面に被覆する工程と、を設けて構成されている。
DLC皮膜の窒素含有量を基材側から表面側に向けて減少させるためには、炉内に導入する窒素ガスの流量を減少させながら、グラファイトターゲットを用いてDLC皮膜を被覆することで達成できる。一方、DLC皮膜の水素含有量を基材側から表面側に向けて減少させるためには、DLC皮膜を被覆する前に、水素ガスを含む混合ガスによるガスボンバード処理を実施することが有効である。
水素を含んだ混合ガスで基材の表面をガスボンバード処理した後には炉内に水素が残存している。そのため、ガスボンバード処理の終了後に、窒素ガスのみを炉内に導入して、ガス流量を減少させながらグラファイトターゲットに電力を投入してDLC皮膜を被覆することで、過多の水素がDLC皮膜中に含有されず、水素及び窒素が基材側から表面側に向けて減少した皮膜構成を達成することができる。
ガスボンバード処理する際には、高硬度なDLC皮膜の密着性を高める点で、基材に印加する負圧のバイアス電圧を−2500V〜−1500Vとすることが好ましい。基材に印加する負圧のバイアス電圧が小さいと、ガスイオンの衝突エネルギーが低いため、エッチング効果が小さくなり、高硬度なDLC皮膜の密着性が低下する傾向にある。また、基材に印加する負圧のバイアス電圧が大きいと、プラズマが不安定になって異常放電を起こしてしまうことがある。異常放電が発生すると、工具表面に異常放電(アーキング)痕が形成されるため、工具表面に凹凸が発生する場合がある。
基材表面の酸化物を均一に除去するためには、混合ガスによるガスボンバード処理を30分以上することが好ましい。
混合ガスによるガスボンバード処理後には、アセチレン等の炭化水素ガスを炉内に導入し、基材側の水素含有量を増加させてもよい。
また、DLC皮膜の被覆時には、基材に印加するバイアス電圧を−300V〜−50Vとすることが好ましい。基材に印加する負圧のバイアス電圧が−50V以下であると、カーボンイオンの衝突エネルギーが小さくならず維持しやすく、DLC皮膜にボイドなどの欠陥が発生し難くなる。また、基材に印加する負圧のバイアス電圧が−300V以上であると、成膜中に異常放電が起き難くなる。
基材に印加するバイアス電圧は、−200V〜−100Vがより好ましい。
DLC皮膜の被覆時は、基材温度を200℃以下とすることが好ましい。200℃よりも高温になると、DLC皮膜のグラファイト化が進むため、硬度が低下する傾向にある。
また、DLC皮膜の被覆時には、基材に印加するバイアス電圧、絶対値で50V〜300Vとすることが好ましい。基材に印加する負圧のバイアス電圧の絶対値が50V以上であると、カーボンイオンの衝突エネルギーが大きくなり、DLC皮膜にボイドなどの欠陥が発生し難くなる。また、基材に印加する負圧のバイアス電圧の絶対値が300V以下であると、成膜中での異常放電がより抑制される。
基材に印加するバイアス電圧は、−200V〜−100Vがより好ましい。
また、DLC皮膜を被覆する前の基材については、基材とDLC皮膜の密着性をより向上させるためにより平滑であることが好ましい。具体的には、基材の表面粗さは、一般的な表面粗さである算術平均粗さRa(JIS−B−0601−2001に準拠)、及び最大高さ粗さRz(JIS−B−0601−2001に準拠)にて測定した場合、Raが0.06μm以下、Rzが0.1μm以下に研磨されていることが好ましい。更には、基材の表面粗さは、Raが0.05μm以下、Rzが0.08μm以下であることがより好ましい。
<成膜装置>
成膜装置は、T字型フィルタードアークイオンプレーティング装置を用いた。装置の概略図を図10に示す。成膜チャンバー(6)には、グラファイトターゲットを設置したカーボン陰極(カソード)(1)を装着するアーク放電式蒸発源と、基材を搭載するための基材ホルダー(7)を有する。基材ホルダーの下には回転機構(8)があり、基材は基材ホルダーを介して、自転かつ公転する。符号(2)は、カーボン成膜ビームを示し、符号(3)は、球状グラファイト(ドロップレット)中性粒子を示す。
グラファイトターゲット表面上にアーク放電を発生させると、電荷を有するカーボンのみが磁気コイル(4)に曲げられて成膜チャンバーに到達して基材に皮膜を被覆する。電荷を有しないドロップレットは磁気コイルによって曲げられずにダクト(5)内に捕集される。
DLC皮膜の被覆直後の剥離状態と溶着性の評価には、寸法がφ20×5mmの60HRCに調質したJIS−SKD11相当鋼材の基材を用いた。
ナノインデンター硬さ、皮膜分析、破断面による膜厚の測定には、コバルト含量が10質量%の炭化タングステン(WC−10質量%Co)からなる超硬合金製の基材(寸法:4mm×8mm×25mm、平均粒度:0.8μm、硬度:91.2HRA)を用いた。
スクラッチ試験には、寸法が21mm×17mm×2mmのJIS−SKH51相当鋼材の基材を用いた。
上記のいずれの基材も、DLC皮膜を被覆する前に、算術平均粗さRaが0.01μm以下、最大高さ粗さRzが0.07μm以下となるように研磨した。そして、研磨後、脱脂洗浄して、チャンバー内の基材ホルダーに固定した。
各基材に対しては、DLC皮膜を以下の条件で被覆した。
成膜チャンバーを5×10-3Paまで真空引きを行い、加熱用ヒーターにより基材を150℃付近に加熱して90分間保持した。
その後、基材に印加する負圧のバイアス電圧を−2000Vとし、アルゴンガスに5質量%の水素ガスを含有した混合ガスによるガスボンバード処理を90分実施した。混合ガスの流量は50sccm〜100sccmとした。
ガスボンバード処理後、成膜チャンバーに10sccm窒素ガスを導入し、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに50Aの電流を投入し、DLC皮膜を約10分間被覆した。
次いで、窒素ガスを5sccmとし、DLC皮膜を約10分間被覆した。次いで、窒素ガスの導入を止めて、DLC皮膜を30分間被覆した。
ガスボンバード処理までは試料No.1と同様とした。ガスボンバード処理後、成膜チャンバーに10sccm窒素ガスを導入し、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50A〜80Aに段階的に増加させ、DLC皮膜を約30分間被覆した。
次いで、窒素ガス流量を5sccmとし、DLC皮膜を約30分間被覆した。次に、窒素ガスの導入を止めて、DLC皮膜を約70分間被覆した。
ガスボンバード処理までは試料No.1と同様とした。ガスボンバード処理後、成膜チャンバーに20sccm窒素ガスを導入し、基材には−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50A〜80Aに段階的に増加させ、DLC皮膜を約30分間被覆した。
次いで、窒素ガス流量を20sccmから5sccmに段階的に変化させ、DLC皮膜を約30分間被覆した。次いで、窒素ガスの導入を止めて、DLC皮膜を約70分間被覆した。
ガスボンバード処理までは試料No.1と同様とした。ガスボンバード処理後、成膜チャンバーに5sccmのC2H2ガスを5分間導入した。その後、C2H2の導入を止めて、10sccm窒素ガスを導入し、基材には−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに50Aの電流を投入して、DLC皮膜を約10分間被覆した。
次いで、窒素ガスの流量を5sccmとしてDLC皮膜を約10分間被覆した。次いで、窒素ガスの導入を止めて、DLC皮膜を約30分間被覆した。
ガスボンバード処理までは試料No.1と同様とした。ガスボンバード処理後、成膜チャンバーに100sccmのアルゴンガスに5質量%の水素ガスを含有した混合ガスを5分間導入した。その後、混合ガスの導入を止めて、10sccm窒素ガスを導入し、基材には−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50AとしてDLC皮膜を約10分間被覆した。
次いで、窒素ガス流量を5sccmとし、DLC皮膜を約10分間被覆した。次いで、窒素ガスの導入を止めて、DLC皮膜を約30分間被覆した。
ガスボンバード処理までは試料No.1と同様とした。ガスボンバード処理後、成膜チャンバーに10sccmのC2H2ガスを10分間導入した。その後、10sccmのC2H2ガスと15sccmの窒素ガスを同時に導入し、基材には−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50A〜80Aに段階的に増加させ、DLC皮膜を約6分間被覆した。
次いで、C2H2ガスの導入を止めて、15sccmの窒素ガス流量を導入し、DLC皮膜を約45分間被覆した。次いで、窒素ガス流量を15sccmから5sscmに段階的に変化させ、DLC皮膜を約45分間被覆した。次いで、窒素ガスの導入を止めて、DLC皮膜を約100分間被覆した。
ガスボンバード処理までは試料No.1と同様とした。ガスボンバード処理後、成膜チャンバーにC2H2ガスを導入した。その後、C2H2の導入を止めて、10sccm窒素ガスを導入し、基材には−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50Aとし、DLC皮膜を約10分間被覆した。次いで、再び炉内にC2H2ガスを導入した。その後、C2H2ガスの導入を止めて、窒素ガス流量を5sccmとして、DLC皮膜を約10分間被覆した。次いで、窒素ガスの導入を止めて、DLC皮膜を約30分間被覆した。
ガスボンバード処理までは試料No.1と同様とした。ガスボンバード処理後、窒素ガスを導入せず、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50AとしてDLC皮膜を約50分間成膜した。
ガスボンバード処理は、アルゴンガスのみで行った。ガスボンバード処理後、成膜チャンバーに10sccm窒素ガスを導入し、基材に−150Vのバイアス電圧を印加し、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50Aとして、DLC皮膜を約10分間被覆した。次いで、窒素ガス流量を5sccmとし、DLC皮膜を約10分間被覆した。次いで、窒素ガスの導入を止めて、DLC皮膜を約30分間被覆した。
ガスボンバード処理は、アルゴンガスのみで行った。ガスボンバード処理後、窒素ガスを導入せず、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50AとしてDLC皮膜を約50分間成膜した。
DLC皮膜の被覆前に基材表面をアルゴンガスのみでガスボンバード処理して約3μmのCrNを中間皮膜として被覆した。中間皮膜の被覆後、窒素ガスを導入せず、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50AとしてDLC皮膜を約50分間成膜した。
DLC皮膜を被覆した各試料について、硬度測定、密着性評価、溶着性評価、構造分析を行った。以下、その測定条件について説明する。
ガスボンバード処理までは、試料No.1と同様とした。ガスボンバード処理後、成膜チャンバーに10sccm窒素ガスを導入し、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに50Aの電流を投入し、DLC皮膜を約10分間被覆した。
次いで、窒素ガスを5sccmとし、DLC皮膜を約10分間被覆した。次いで、窒素ガスの導入を止めて、20sccmのC2H2ガスを導入し、DLC皮膜を30分間被覆した。
ガスボンバード処理までは、試料No.1と同様とした。ガスボンバード処理後、成膜チャンバーに20sccm窒素ガスを導入し、基材には−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、グラファイトターゲットに投入する電流を50A〜80Aに段階的に増加させ、DLC皮膜を約30分間被覆した。
次いで、窒素ガス流量を20sccmから5sccmに段階的に変化させ、DLC皮膜を約30分間被覆した。次いで、5sccm窒素ガスの導入し、DLC皮膜を約70分間被覆した。
−硬度の測定−
株式会社エリオニクス製のナノインデンテーション装置を用い、皮膜表面の硬度を測定した。押込み荷重9.8mN、最大荷重保持時間1秒、荷重負荷後の除去速度0.49mN/秒の測定条件で10点測定し、値の大きい2点と値の小さい2点を除いて6点の平均値から求めた。標準試料である溶融石英の硬さが15GPa、CVDダイヤモンド皮膜の硬さが100GPaであることを確認した。
株式会社東京精密製の接触式面粗さ測定器SURFCOM480Aを用いて、JIS−B−0601−2001に従って、粗さ曲線より算術平均粗さRaと最大高さ粗さRzを測定した。測定条件は、評価長さ:4.0mm、測定速度:0.3mm/s、カットオフ値:0.8mmとした。
被覆直後の試料のDLC皮膜表面を、株式会社ミツトヨ製の光学顕微鏡を用いて約800倍の倍率で観察して剥離状況を評価した。DLC皮膜の表面剥離の評価基準は以下の通りとした。
<表面剥離の評価基準>
A:表面剥離無し
B:微小剥離有り
C:剥離有り
初期チッピング発生荷重をA荷重とし、スクラッチ痕底部の基材が完全に露出した時の荷重をB荷重として評価した。
窒素成分の分布を確認するため、DLC皮膜表面から基材にかけてグロー放電発光分析(GD−OES)による構造分析を行った。装置はHORIBA JOBIN YVON製のJY−5000RF型GD−OESを使用した。分析条件は、スパッタリング用ガスとしてArを用い、圧力:600Pa、出力:35W、モジュール:6V、フェーズ4:V、ガス置換時間:20秒、予備スパッタ時間:30秒、バックグラウンド:10秒、測定時間:90秒〜120秒とした。
窒素の発光強度が低いことから、ピーク強度を30倍にして確認した。代表例として、本発明例である試料No.1〜No.3及び比較試料No.1〜No.3のGD−OESによる強度プロファイルを図1〜図6に示す。
DLC皮膜の表面から基材にかけてオージェ電子分光法(AES分析)による窒素成分の定量分析を行った。装置には、パーキン・エルマー社製のPHI650(走査型オージェ電子分光装置)を使用した。分析は、下記の分析条件にて行った。
(分析条件)
・一次電子のエネルギー:3keV
・電流:約260nA
・入射角度:試料法線に対して30度
・分析領域:約5μm×5μm
(イオンスパッタ(Ar+)の条件)
・エネルギー:3keV
・電流:25mA
・入射角度:試料法線に対して約58度
・スパッタ速度:約50nm/min
代表例として、図7に本発明例である試料No.1、図8に本発明例である試料No.3、図9に比較例である比較試料No.3の測定結果を示す。
水素成分の分布を確認するため、Elastic Recoil Detection
Analysis 弾性反跳粒子検出法(ERDA分析)により、DLC皮膜の基材側と表
面側で水素濃度分析を行った。装置はNational Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDHを使用した。エネルギー2.3MeVのHe++イオンを試料面の法線に対し75度の角度で入射し、反跳された水素粒子(H、H+)を散乱角30度の位置で半導体検出器により検出した。
溶着性を評価するために、ボールオンディスク試験機(CSM Instruments社製 Tribometer)を使用した。DLC皮膜を被覆した基材にアルミA5052球(直径6mm)を5Nの荷重で押し付けながら、円盤状試験片を100mm/秒の速度で回転させた。試験距離は100mとした。
DLC皮膜を被覆直後の試料表面の光学顕微鏡観察写真について図11、図12に代表例を示す。比較試料No.1、比較試料No.2については、被覆後に直径が20μm程度の微小剥離が確認された。比較例の中でも、DLC皮膜の基材側に水素または窒素をいずれも含有させていない比較試料No.3や、基材とDLC皮膜の間に窒化物の中間皮膜を介した比較試料No.4については、DLC皮膜の被覆後に直径が100μm程度の大きな剥離が確認され、スクラッチ荷重も低くなった。
ボールオンディスク試験後の表面観察写真について、図13に本発明例の試料の代表例を、図14に比較試料の代表例を、それぞれ示す。本発明例では、いずれもボールオンディスク試験で皮膜剥離や溶着は発生してないことが確認された。一方、比較例では、いずれも皮膜剥離があり、剥離に伴う溶着も確認された。
密着性が優れるDLC皮膜の皮膜構造を確認するため、分析を行った。本発明例の試料及び比較試料No.2は、GD−OES分析から、基材側から表面側に向かって窒素濃度が減少していることが確認された。
ERDA分析から、本発明例の試料のDLC皮膜は、基材側の表面に水素を1.0原子%〜7.8原子%含有し、逆に表面の水素含有量が検出限界以下(0.2原子%以下)であることを確認した。代表例として、本発明例である試料No.4〜No.7の膜厚方向の水素濃度分析の詳細を表2に示す。本発明例は、いずれもDLC皮膜の基材側から表面側に向けて水素濃度が減少していることが確認された。
以上の分析から、密着性が優れる本発明例は、基材側から表面側に向かって窒素含有量及び水素含有量が減少していることが確認された。
また、比較試料No.4では、基材とDLC皮膜との間に別途窒化物からなる中間皮膜を介在させているため、窒化物皮膜の表面欠陥を起点にDLC皮膜の表面剥離が発生し、スクラッチ試験による密着性も低くなった。
比較試料No.5では、基材側から表面側に向かって窒素含有量が減少しているが、水素含有量は増加している。そのため、本発明例の試料に比べて皮膜硬度及び密着性が低下して、溶着も発生した。
比較例6は、基材側から表面側に向かって窒素含有量及び水素含有量が減少しているが、表面の窒素含有量が多い。そのため、本発明例の試料に比べて皮膜硬度及び密着性が低下して、溶着も発生した。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
前記課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。
すなわち、本発明は、基材の表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)皮膜を被覆した被覆工具であって、前記DLC皮膜のナノインデンテーション硬度は50GPa以上100GPa以下であり、前記DLC皮膜は基材側から厚み方向(表面側)に向かって水素原子及び窒素原子の含有量が減少しており、前記DLC皮膜の表面は、水素原子の含有量が0.5原子%以下であり、窒素原子の含有量が2原子%以下であり、前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜の基材側の表面は、水素原子の含有量が0.7原子%以上7原子%以下であり、窒素原子の含有量が2原子%超8原子%以下である、密着性に優れる被覆工具である。
また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の膜厚は、0.1μm〜1.5μmの範囲であるのが好ましい。
基材としては、炭素含率が1質量%以上の高炭素鋼又は超硬合金であることが好適である。
炉内に水素原子を含む混合ガスを導入し、前記基材の表面をガスボンバード処理する工程と、次いで、ガスボンバード処理後の前記炉内に5sccm以上30sccm以下の窒素ガスを導入し、炉内に導入する前記窒素ガスの流量を減少させながら、グラファイトターゲットを用いてDLC皮膜を前記基材の表面に被覆する工程と、を含む方法である。
前記混合ガスは、アルゴンガスと、混合ガス総質量に対して4質量%以上の水素ガスと、を含有する混合ガスであることが好ましい。
前記被覆する工程は、炉内に導入する前記窒素ガスの流量を減少させながらダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆した後、さらに窒素ガスの導入を止めて(窒素ガスの導入量を0sccmまで減少させて)ダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆するものであることが好ましい。
Claims (9)
- 基材の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆した被覆工具であって、
前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜のナノインデンテーション硬度は、50GPa以上100GPa以下であり、
前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜は、前記基材側から厚み方向に向かって水素原子及び窒素原子の含有量が減少しており、
前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜の表面は、水素原子の含有量が0.5原子%以下であり、窒素原子の含有量が2原子%以下である被覆工具。 - 前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜の表面粗さは、算術平均粗さRaが0.03μm以下であり、最大高さ粗さRzが0.5μm以下である請求項1に記載の被覆工具。
- 前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜の基材側の表面は、水素原子の含有量が0.7原子%以上7原子%以下であり、窒素原子の含有量が2原子%超10原子%以下である請求項1または請求項2に記載の被覆工具。
- 前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜の膜厚が、0.1μm〜1.5μmである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の被覆工具。
- 前記基材が、炭素含率が1質量%以上の高炭素鋼又は超硬合金である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の被覆工具。
- フィルタードアークイオンプレーティング法で基材の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆する被覆工具の製造方法であって、
炉内に水素ガスを含む混合ガスを導入し、前記基材の表面をガスボンバード処理する工程と、
ガスボンバード処理後の前記炉内に窒素ガスを導入し、炉内に導入する前記窒素ガスの流量を減少させながら、グラファイトターゲットを用いてダイヤモンドライクカーボン皮膜を前記基材の表面に被覆する工程と、
を含む被覆工具の製造方法。 - 前記混合ガスは、アルゴンガスと、混合ガス総質量に対して4質量%以上の水素ガスと、を含有する混合ガスである請求項6に記載の被覆工具の製造方法。
- 前記被覆する工程は、炉内に導入する前記窒素ガスの流量を減少させながらダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆した後、さらに窒素ガスの導入を止めてダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆する請求項6または請求項7に記載の被覆工具の製造方法。
- 前記被覆する工程において、炉内に導入する窒素ガスの流量は、5sccm以上30sccm以下である請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の被覆工具の製造方法。
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