JPWO2014126233A6 - マイクロrnaの測定方法、並びに、がん治療剤及びこれを含有するがん治療のための医薬組成物 - Google Patents
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Abstract
腫瘍におけるNRF2の安定化に強く関係するマイクロRNAを見出し、それらをがんの診断と治療に活用する手段を提供することを課題とする発明である。マイクロRNAライブラリーの470種類のマイクロRNAについて、HeLa細胞を用いたスクリーニングを行い、各々のマイクロRNAの活性値がコントロールに比べて大きく減少した8種類のマイクロRNAと、大きく上昇した8種類のマイクロRNAを特定した。そして、特定されたこれらのマイクロRNAを用いることによって、生体、特に腫瘍細胞、におけるNRF2の活性化を検出することが可能であり、これにより、腫瘍の悪性度等を鑑別することができることを見出した。さらに、上記ARE活性値の減少に係わるマイクロRNA配列を含む核酸を、がん治療剤として用いることができることを見出した。
Description
本発明は、第一に生体検体の測定に関する発明であり、より具体的には腫瘍組織におけるマイクロRNAを測定することでがんの悪性度等を鑑別するための発明である。そして、第二に抗がん剤に関する発明であり、より具体的には特定のマイクロRNAに係る抗がん剤と抗がん医薬組成物に関する発明である。
がんが日本人の死因のトップとなってから久しく、2007年の推計値では、全死亡数の約1/3ががんで亡くなっている。世界レベルで見ても、2005年の世界の死亡のうち約13%ががんによる死亡であることが世界保健機構(WHO)において報告されている。がんによる死亡は増加し続け、2030年には世界で年間1140万人ががんで死亡することが予測されている。
その反面がんをめぐる診断や治療の進歩は目覚ましく、特に早期の段階で治療を始めることができた場合には、5年生存率は90%を超えることも珍しくなくなっている。さらに、特に高齢者の場合には無理にがんを根絶しなくても、がんの増殖や転移を抑えれば天寿を全うすることも可能といわれている。
2003年に終了したヒトゲノム計画等により、がんを遺伝子レベル、タンパク質分子レベルで理解し、それをがん診断や治療に役立てようとする動きが加速され、医学や生物学を支える様々な技術が底上げされ、がんの早期診断法や治療法なども長足の進歩を遂げている。
以前はがんの告知は「死の宣告」に近いものであり、患者本人への告知はタブー視されていたが、2007年に施行された「がん対策基本法」では、患者等ががんに対して主体的にかかわることを求めている。
このような背景のもと、今日もがんをより多面的に捉えた診断法や治療法の開発が試み続けられている。
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がんをめぐる上記の状況のもと、本発明者らは、がんにおけるNF−E2関連ファクター2(NRF2)に着目して、新たな概念に基づくがん診断とがん治療の手段を見出すことを課題とした。
NRF2は、化学療法や酸化ストレスによる細胞傷害に対する細胞保護作用のための転写調節因子である(非特許文献1、2)。生理的条件下で、NRF2は、KEAP1(カリン3(CUL3)−ケルヒ様ECH関連タンパク質)ユビキチンE3リガーゼ複合体によりユビキチン化され、プロテアソーム中で常に分解される結果、NRF2タンパク質の細胞内濃度は低く保たれている。細胞ストレス下で、KEAP1は不活化され、NRF2は、核内で安定化し、標的遺伝子[NRF2が直接的に、各々の標的遺伝子中のプロモーター中の抗酸化応答素子(ARE)に結合している]の転写活性により細胞生存をもたらす(非特許文献3、4)。通常の細胞ストレス反応に加えて、NRF2は新陳代謝を調節することによりがん細胞の増殖にも寄与し得ることも報告されている(非特許文献5)。遺伝子突然変異は、種々のタイプのヒトがんにおいてNRF2に関する機能獲得又はKEAP1に関する機能喪失に導き、その結果NRF2が活性化され、NRR2の媒介によるがん細胞生存と増殖をもたらす(非特許文献6〜9)。さらにp62蛋白(自食作用によるタンパク質分解のための物質)が過剰蓄積した凝集体により、肝細胞上皮性悪性腫瘍(HCC)中のKEAP1と競合的に相互作用することでNRF2を安定化する(非特許文献10〜13)。従って、NRF2は、がん細胞中で発がん作用を有し、高レベルのNRF2タンパク質は、不良な予後に関連していると考えられる(非特許文献14〜16)。これらのことから、NRF2が媒介する発がん経路を治療的に阻害することは、特にNRF2が安定化して種々の治療に耐性を有するがんに対して有効であると考えた。また、NRF2の安定化の程度を反映する指標を見出すことにより、患者の予後の善し悪しに直結するがんの悪性度を鑑別することが可能ではないかと考えた。
本発明者らは、このNRF2に対してマイクロRNA(miRNA)の役割に着目した。miRNAは、3’−非翻訳領域(UTR)への結合を通じて標的転写物の翻訳又は安定化を妨害することにより遺伝子発現を調節する内因性の小分子の非コーディングRNAである(非特許文献17、18)。いくつかのmiRNAは、腫瘍遺伝子を負に調節することが可能であり、腫瘍抑制型miRNAの不活性化は、発がん経路の活性化に導く(非特許文献19〜22)。重要なことに、一つの転写産物は、複数のmiRNAによって標的にされ、反対に、一つのmiRNAは複数の転写産物を標的にすることができる(非特許文献23、24)。これは、腫瘍遺伝子を標的にする複数のmiRNAの発現低下が、発がん経路の活性化をもたらすこと、及び、一つの発がん経路に寄与する複数の遺伝子を標的にすることができるmiRNAの投与は、がん治療において効果的であり得ること、を意味している。
このように本発明者らは、腫瘍におけるNRF2の安定化に強く関係するmiRNAを見出し、それらをがんの診断と治療に活用する手段を提供することを、本発明の具体的な課題とした。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、AREリポーターシステムを用いてmiRNAライブラリーの470種類のマイクロRNAについて、スクリーニングを行った。具体的には、470種類それぞれのmiRNAをトランスフェクトしたHeLa細胞におけるルシフェラーゼ活性を測定することでARE活性値を算出して、当該ARE活性値がコントロールmiRNAに比べて大きく減少した8種類のmiRNA(hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、hsa−miR−129−5p、hsa−miR−639、hsa−miR−337、hsa−miR−153、及び、hsa−miR−556)と、大きく上昇した8種類のmiRNA(hsa−miR−26a、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−190、hsa−miR−567、hsa−miR−125b、hsa−miR−125a、hsa−miR−432*、及び、hsa−miR−29)を特定した。そして、特定されたこれらのマイクロRNAを用いることによって、生体、特に腫瘍細胞、におけるNRF2の活性化を検出することが可能であり、これにより、腫瘍の悪性度、又は、がん患者の予後、を鑑別することができることを見出した。さらに、上記ARE活性値の減少に係わるマイクロRNA配列を含む核酸を、がん治療剤として用いることができることを見出した。
すなわち、本発明は下記の発明を提供する。
本発明は第一に、ヒト検体における、hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、hsa−miR−129−5p、hsa−miR−639、hsa−miR−337、hsa−miR−153、及び、hsa−miR−556、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上を定量して、当該定量値の低下を指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、がん患者の予後、を鑑別することを特徴とする、マイクロRNAの測定方法(以下、本発明の低値測定方法ともいう)を提供する発明である。本発明の低値測定方法の主題となる上記の8種類のマイクロRNAのうち、特に、hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、及び、hsa−miR−129−5p、の4種のマイクロRNAは、悪性腫瘍における定量値が低くなる特徴がある。
本発明は第二に、ヒト検体における、hsa−miR−26a、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−190、hsa−miR−567、hsa−miR−125b、hsa−miR−125a、hsa−miR−432*、及び、hsa−miR−29、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上を定量して、当該定量値の上昇を指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、患者の予後、を鑑別することを特徴とする、マイクロRNAの測定方法(以下、本発明の高値測定方法ともいう)を提供する発明である。
本発明の低値測定方法と高値測定方法は共に、さらに腫瘍におけるNRF2遺伝子の変異、KEAP1遺伝子の変異、及び、p62蛋白の蓄積、からなる群から選ばれる1〜3種を検出して、これらの要素を指標として加入することで、鑑別精度を向上させることが可能である。
本発明の低値測定方法と高値測定方法では、腫瘍の悪性度の増大、NRF2の活性化、又は、がん患者の予後の悪化、に向かうことを示す個別指標の総数をスコア指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、患者の予後、を鑑別することが好適である。
本発明の低値測定方法と高値測定方法のがんの悪性度等の鑑別対象となる腫瘍(がん)は、NRF2の活性化が悪性化等において問題になる腫瘍(がん)であれば特に限定されるものではなく、食道がん、肺がん、乳がん、口腔がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、子宮がん、骨肉腫、皮膚がん等、あらゆる悪性腫瘍に適用可能である。
本発明は第三に、hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、hsa−miR−129−5p、hsa−miR−639、hsa−miR−337、hsa−miR−153、及び、hsa−miR−556、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上を含む核酸からなるがん治療剤(以下、本発明のがん治療剤ともいう)を提供する発明である。本発明のがん治療剤の主題となる上記の8種類のマイクロRNAのうち、特に、hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、及び、hsa−miR−129−5p、の4種のマイクロRNAは一般的な抗がん効果に優れている。
さらに本発明のがん治療剤は、がん細胞に対するストレスの付与手段と組み合わせて用いることが適している。
第四に本発明は、本発明のがん治療剤を含有することを特徴とする、がん治療のための医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物ともいう)を提供する発明である。
本発明のがん治療剤、及び、医薬組成物の投与対象となる腫瘍(がん)は、NRF2の活性化が悪性化等において問題になる腫瘍(がん)であれば特に限定されるものではなく、食道がん、肺がん、乳がん、口腔がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、子宮がん、骨肉腫、皮膚がん等、あらゆる悪性腫瘍に適用可能である。特に、局所投与が可能ながんであることが好適である。
下記に、本発明のmiRNAの配列を開示する。表1−1は、本発明の低値測定方法において測定する対象となる8種類のmiRNA(以下、低値miRNAともいう)であり、表1−1の上からの順に配列番号1〜8を割り振った。表1−2は、本発明の高値測定方法において測定する対象となる8種類のmiRNA(以下、高値miRNAともいう)であり、表1−2の上からの順に配列番号9〜16を割り振った。
本発明により、特定のmiRNAを測定することにより、NRF2の活性化を鑑別し、かつ、腫瘍の悪性度やがん患者の予後を鑑別することが可能な測定方法が提供される。さらに、特定のmiRNAを含む核酸を用いて腫瘍におけるNRF2の活性化や安定化を阻害する、抗腫瘍効果を発揮するがん治療剤、並びに、がん治療のための医薬品組成物が提供される。本発明のがん治療剤及び医薬品組成物は、各種のがん治療や検査、例えば、抗癌剤治療、放射線治療、外科的手術、さらには生検によって与えられる「がん細胞に対するストレス」に伴って投与することが効果的である。
<本発明の測定方法>
(1)本発明の低値測定方法
上記の通り本発明の低値測定方法は、「ヒト検体における『低値miRNA』を定量して、当該定量値の低下を指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、がん患者の予後、を鑑別することを特徴とするマイクロRNAの測定方法」である。
(1)本発明の低値測定方法
上記の通り本発明の低値測定方法は、「ヒト検体における『低値miRNA』を定量して、当該定量値の低下を指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、がん患者の予後、を鑑別することを特徴とするマイクロRNAの測定方法」である。
測定の対象となる低値miRNAとは、上述したように、hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、hsa−miR−129−5p、hsa−miR−639、hsa−miR−337、hsa−miR−153、及び、hsa−miR−556、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上であり、特に、hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、及び、hsa−miR−129−5p、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上は、悪性腫瘍における定量値が低くなる特徴があり、優先的に当該4種のマイクロRNAを測定対象として選択することが好適である。
ヒト検体は、文字通りヒト(人間)由来の検体であり、検体提供者は多くの場合はがん患者であるが、がんに罹患しているか否かが不明の場合を含めて検体提供者とすることができる。検体の種類は、腫瘍細胞における低値miRNAの変化を反映することが可能な検体であれば特に限定されない。直接的には腫瘍そのものである腫瘍検体であり、具体的には、外科的手術又は内視鏡下により摘出された腫瘍検体、生検検体等が挙げられる。その限りでは、どのような人体組織でも検体組織として用いることができる。さらに一般的な選択可能性として、血清、血漿、全血等の血液検体、尿検体、肺洗浄液検体、痰検体、リンパ液検体、脊髄液検体等を必要に応じて用いることができる。
低値miRNAの定量手段は、特に限定されず、既存の手段、さらには将来開発される手段を含めて用いることができる。典型的には、RT−PCR法等の遺伝子増幅法を基礎とするRNAの定量方法を挙げることができる。大量処理と迅速性という観点から、自動化された検出機器によるリアルタイムRT−PCR法はより好ましい方法の一つとして例示することができる。その他、ノーザンブロット法等が挙げられる。
この低値miRNA個々の定量値が、相対的に内部標準コントロールよりも閾値において低い場合は、「当該個別miRNAの定量値が低下した」と判断される。具体的な閾値は個別具体的に設定することができるが、少なくとも30%の低下を閾値とすることが好適であり、後述する本実施例に開示されているように50%以上の低下を閾値とすることがさらに好適である。
8種類の低値miRNAのうち、個々の定量値の低下を指標とすることもできるが、「定量値低下」となったmiRNAの個数が多いほど、腫瘍の悪性度が強く、特に腫瘍内のNRF2が活性化されており、かつ、患者の予後の悪化が鑑別される。
すなわち、hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、hsa−miR−129−5p、hsa−miR−639、hsa−miR−337、hsa−miR−153、及び、hsa−miR−556、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上の定量値の低下を、腫瘍の悪性度の上昇、NRF2の活性化、又は、患者の予後の悪化の指標とすることが可能である。
ここに挙げた8種類の低値miRNAのうち、上述した4種類「hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、及び、hsa−miR−129−5p、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上」に絞り込んで本発明の低値測定方法を行うことがより好適である。この4種類のマイクロRNAを用いて腫瘍の悪性度等を検証した結果は、後述する実施例において開示した。
本発明の低値測定方法においては、さらに腫瘍におけるNRF2遺伝子の変異、KEAP1遺伝子の変異、及び、p62蛋白の蓄積、からなる群から選ばれる1〜3種を検出して、これらの遺伝子変異を、腫瘍の悪性度、特に腫瘍内のNRF2の活性化、及び、患者の予後の指標として加入することができる。この指標の加入を行うことにより、本発明の低値測定方法の鑑別の確実性をいっそう向上させることができる。上記のNRF2遺伝子の変異、及び/又は、KEAP1遺伝子の変異は、点突然変異を含むミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、及び、フレームシフト突然変異のいずれかであり、実施例の上記アミノ酸置換変異は、ミスセンス突然変異の一例を示している。当該遺伝子変異の検出方法は特に限定されず、例えば、Pyrosequencing法、MALDI−TOF MS法、RFLP法、SSCP法、SSOP法、RNアーゼプロテクション法、RDA法、RAPD法、AFLP法等のPCR依存型タイピング法;TaqMan PCR法、Invader法等のPCR非依存型タイピング法等を挙げることができる。
上記の腫瘍におけるNRF2遺伝子の変異、KEAP1遺伝子の変異、及び、p62蛋白の蓄積、からなる群から選ばれる1〜3種を本発明の低値測定方法の指標として加入する場合には、これらの遺伝子変異や蛋白の蓄積の有無のうち「有り」を腫瘍の悪性度の増加、NRF2の活性化、及び、患者の予後の悪化の指標として加入することができる。後述する実施例では上記4種の低値miRNAの定量値の「低下」の数(スコア)に、これらの遺伝子変異の「有り」を数(スコア)として加えて、これを最終的な腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、及び、患者の予後の指標としている。この数(スコア)が0又は1を「ロースコア群」とし、2以上を「ハイスコア群」として、両群の間において顕著な患者における予後の差違を見出している。このようにして本発明の低値測定方法では、指標である要素の個々のレベルで腫瘍の悪性度の増加等を意味するか否かを検出し、当該増加を意味する要素の数の多さ(スコア)を腫瘍の悪性度等の指標とすることが可能、かつ、好適である。ただし、そのスコアの閾値をどのように設定するかは、対象となるがんの種類や選択した指標の内容等により異なるものであり、後述する実施例の内容に限定されるものではない。本発明の低値測定方法の本質的意義は、特に鑑別の指標となるmiRNAの定量値の「低下」が、がんの悪性度の増加に繋がるNRF2の活性化と密接に関連しており、これが的確なるがんの予後の鑑定を可能にすることを見出したことであり、閾値の設定等の形式的な要素に主要な意義が存在する訳ではない。なお、本発明の低値測定方法により、がんがハイリスクであることが判明した患者には、後述する本発明のがん治療剤を投与する等の治療措置を行うことが可能になる。
(2)本発明の高値測定方法
上記の通り本発明の高値測定方法は、「ヒト検体における『高値miRNA』を定量して、当該定量値の上昇を指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、がん患者の予後、を鑑別することを特徴とするマイクロRNAの測定方法」である。
上記の通り本発明の高値測定方法は、「ヒト検体における『高値miRNA』を定量して、当該定量値の上昇を指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、がん患者の予後、を鑑別することを特徴とするマイクロRNAの測定方法」である。
測定の対象となる高値miRNAとは、上述したように、hsa−miR−26a、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−190、hsa−miR−567、hsa−miR−125b、hsa−miR−125a、hsa−miR−432*、及び、hsa−miR−29、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上である。
「ヒト検体」、「高値miRNAの定量手段」は、上述した「本発明の低値測定方法」と同様である。
この高値miRNA個々の定量値が、相対的に内部標準コントロールよりも閾値において高い場合は、「当該個別miRNAの定量値が上昇した」と判断される。具体的な閾値は個別具体的に設定することができるが、少なくとも30%の上昇を閾値とすることが好適であり、後述する本実施例に開示されているように50%以上の上昇を閾値とすることがさらに好適である。
8種類の高値miRNAのうち、個々の定量値の上昇を指標とすることもできるが、「定量値上昇」となったmiRNAの個数が多いほど、腫瘍の悪性度が強く、特に腫瘍内のNRF2が活性化されており、かつ、患者の予後の悪化が鑑別される。
すなわち、hsa−miR−26a、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−190、hsa−miR−567、hsa−miR−125b、hsa−miR−125a、hsa−miR−432*、及び、hsa−miR−29、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上の定量値の上昇を、腫瘍の悪性度の上昇、NRF2の活性化、又は、患者の予後の悪化の指標とすることが可能である。
本発明の高値測定方法においては、さらに腫瘍におけるNRF2遺伝子の変異、KEAP1遺伝子の変異、及び、p62蛋白の蓄積、からなる群から選ばれる1〜3種を検出して、これらの遺伝子変異を、腫瘍の悪性度、特に腫瘍内のNRF2の活性化、及び、患者の予後の指標として加入することができることについては、上述の「本発明の低値測定方法」と同様である。
これらの遺伝子の変異や蛋白の蓄積を本発明の高値測定方法の指標として加入する場合には、これらの遺伝子変異の有無のうち「有り」を腫瘍の悪性度の増加、NRF2の活性化、及び、患者の予後の悪化の指標として加入することができる。
このようにして本発明の高値測定方法では、指標である要素の個々のレベルで腫瘍の悪性度の増加等を意味するか否かを検出し、当該増加を意味する要素の数の多さ(スコア)を腫瘍の悪性度等の指標とすることが可能、かつ、好適である。ただし、そのスコアの閾値をどのように設定するかは、対象となるがんの種類や選択した指標の内容等により異なるものである。本発明の高値測定方法の本質的意義は、特に鑑別の指標となるmiRNAの定量値の「上昇」が、がんの悪性度の増加に繋がるNRF2の活性化と密接に関連しており、これが的確なるがんの予後の鑑定を可能にすることを見出したことにあり、閾値の設定等の形式的な要素に主要な意義が存在する訳ではない。なお、本発明の高値測定方法により、がんがハイリスクであることが判明した患者には、拮抗性のがん治療剤を投与する等の治療措置を行うことが可能になる。拮抗性のがん治療剤とは、例えば、本発明の高値測定方法で発現の亢進が認められたmiRNAに拮抗して、その機能を阻害することができる合成オリゴを本質的成分とするがん治療剤である。
<本発明のがん治療剤>
(1)本発明のがん治療剤
上述のように本発明のがん治療剤は、「hsa−miR−507の塩基配列である配列番号1、hsa−miR−634の塩基配列である配列番号2、hsa−miR−450aの塩基配列である配列番号3、hsa−miR−129−5pの塩基配列である配列番号4、hsa−miR−639の塩基配列である塩基配列5、hsa−miR−337の塩基配列である配列番号6、hsa−miR−153の塩基配列である配列番号7、及び、hsa−miR−556の塩基配列である配列番号8、からなる群の塩基配列から選ばれる1種又は2種以上を含む核酸からなるがん治療剤」である。
(1)本発明のがん治療剤
上述のように本発明のがん治療剤は、「hsa−miR−507の塩基配列である配列番号1、hsa−miR−634の塩基配列である配列番号2、hsa−miR−450aの塩基配列である配列番号3、hsa−miR−129−5pの塩基配列である配列番号4、hsa−miR−639の塩基配列である塩基配列5、hsa−miR−337の塩基配列である配列番号6、hsa−miR−153の塩基配列である配列番号7、及び、hsa−miR−556の塩基配列である配列番号8、からなる群の塩基配列から選ばれる1種又は2種以上を含む核酸からなるがん治療剤」である。
上記の配列番号1〜8の塩基配列を有するそれぞれのマイクロRNAは、上述したようにNRF2活性が亢進又は安定化して、治療抵抗性が高く、悪性度も高いがん細胞において、発現が抑制されているマイクロRNAである。本発明のがん治療剤は、そのような治療抵抗性を有し、悪性度が高いがんに対して、発現が抑制されているマイクロRNAの働きをする核酸を投与することにより、当該NRF2を不活化してがんの生命力を弱め、がんの治療を行うことを旨とするがん治療剤である。
がん細胞におけるNRF2活性は、最初から高いものもあるが、多くの場合がん細胞にストレスを与えることにより活性化する。このストレス要因とは、がんに対する治療行為が挙げられる。具体的には、抗癌剤治療、放射線治療、外科的手術が挙げられる。これらの行為は、一方ではがんを治癒させ得る行為ではあるが、逆に考えればがん細胞の生命を奪う行為である。このような行為によるストレスにより、がん細胞におけるNRF2活性は亢進すると考えられている。よってここに挙げた抗癌剤治療等のがんに対するストレス付与と組み合わせて、本発明のがん治療剤を用いることは、当該がん治療剤の好適な使用態様の一つである。なお、生検によるがん細胞に対する刺激も、外科手術と同様にがん細胞に対する物理的なストレスを与えると考えられるので、本発明のがん治療剤との組み合わせ対象となり得る。なお、「組み合わせる」とは、「前」、「同時」、「後」の時間的な概念を包含している。すなわち、他の抗癌剤の投与や外科的手術や生検等のストレス付与行為の「前」に本発明のがん治療剤の投与を行うことも可能である。また「同時」に、例えば、他の抗がん剤と同時に服用すること、他の抗癌成分との混合物(医薬組成物)として服用することも可能である。そして他の抗癌剤の投与や外科的手術や生検等のストレス付与行為の「後」に本発明のがん治療剤の投与を行うことも可能である。
本発明のがん治療剤の本質成分を構成する、「上記の8種類のmiRNAの塩基配列を含む核酸」とは、当該塩基配列を含みがん細胞においてmiRNAとしての機能を発揮可能である限り限定されるものではない。一本鎖RNAとして生体内に存在する「miRNAそのもの」であっても良いが、この場合生体における安定性という観点から、むしろ二本鎖の核酸であることが好適である。二本鎖の核酸とは、具体的にはmiRNAの配列と相補的なRNAとの組により構成される「二本鎖のRNA」、同じく「RNAとDNAの複合二本鎖」、さらに「RNAとPNAの複合二本鎖」や「RNAとLNAとの複合二本鎖」等が挙げられる。ここでPNA(peptide nucleic acid)とは、核酸骨格の骨格構造であるデオキシリボース−リン酸骨格を(2−アミノエチル)グリシンに置き換えた骨格を有する核酸類似体である。またLNA(locked nucleic acid)(別名BNA:bridged nucleic acid)とは、糖部分の2’位と4’位が一つの炭素鎖によって結合することにより安定性が向上した人工核酸である(D.A.Braasch,D.R.Corey,Chem Biol.,8,1(2001))。後述する実施例では「二本鎖のRNA」が用いられている。
公知RNAの合成法等を用いて、所望の核酸を合成することが可能である。RNAの合成法は、例えばホスホロアミダイド法とその改良法(M.Kataoka,Y.Hayakawa,J.Org.Chem.,64,6087(1999))、H−ホスホネート法とその改良法(T.Wada,F.Handa,Y.Sato,S.Kawahara,M.Sekine,Nucleic Acids Symp.Ser.,37,19(1997))、酵素合成法(in vitro転写法)等が挙げられる。また、必要に応じて核酸のリン酸部位のα酸素のモノ修飾(S−オリゴ修飾等)、リン酸エステル部位の修飾、PNA等を用いるリン酸骨格の改変、上記のLNA等を用いる糖部位の修飾等を行うことができる。また、市販品の当該核酸や製造委託された当該核酸を本発明に適用することも可能である。
このようにして得られる特定のmiRNAの塩基配列を含有する核酸を、本発明のがん治療剤の本質成分として用いることができる。本発明のがん治療剤を人体に投与する場合は、後述する本発明の医薬組成物として投与されることが原則であるが、本発明のがん治療剤を人体に投与する場合の投与量は、1日成人1人当たり0.01μg〜10mg程度である。この投与は、一日1回ないし2〜5回、さらに数日おきに行うことも可能である。
上述したように、本発明のがん治療剤が適用され得るがんは、その種類よりもむしろ特定のmiRNA(hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、hsa−miR−129−5p、hsa−miR−639、hsa−miR−337、hsa−miR−153、及び、hsa−miR−556の8種、さらに典型的にはhsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、及び、hsa−miR−129−5pの4種)の発現が抑制されて、当該がん細胞におけるNRF2活性が亢進又は安定化していることが適用の優先的な条件である。つまり、上述した本発明の低値測定方法により、上記特定のマイクロRNAの発現が抑制されてNRF2が抑制されていると鑑別されたがん患者に対して、本発明のがん治療剤の投与が積極的に検討される訳である。その意味で本発明のがん治療剤の本質成分であるmiRNAの塩基配列を含有する核酸は既製の組み合わせ(典型的には上記4種のmiRNAの塩基配列を含有する核酸)のマイクロRNAであってもよいが、発現抑制が特定されたmiRNAの塩基配列を含む核酸を本質成分とする本発明のがん治療剤をオーダーメードとして処方することも可能である。このように本発明のがん治療剤の本質成分である特定のmiRNAは、一種類を単独で用いることも可能であり、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。本発明のがん治療剤が適用され得るがんの種類として、上記の食道がん、肺がん、乳がん、口腔がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、子宮がん、皮膚がん、又は、骨肉腫が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明のがん治療剤と組み合わせて用いられるがん細胞に対するストレス手段の一つである抗癌剤は、イホスファミド、シクロホスファミド、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン等のアルキル化剤;イブリツモマブチウキセタン、イマチニブ、エベロリムス、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、タミバロテン、トラスツズマブ、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、ラパチニブ、リツキシマブ等の分子標的薬;エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、クラドリビン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オラテシルカリウム、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メルカプトプリン、メトトレキサート等の代謝拮抗剤;イリノテカン、エトポシド、エリブリン、ゾブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン等の植物アルカロイド;アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ジノスタチンスチラマー、ダウノビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、リポソーマドキソルビシン等の抗がん性抗生物質;オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン(CDDP)、ネダプラチン等のプラチナ製剤;アナストロゾール、エキセメスタン、エストラムスチン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、タモキシフェン、デキサメタゾン、トレミフェン、ビカルタミド、フルタミド、プレドニゾロン、ホスフェストホール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン、リュープロレリン、レトロゾール等のホルモン製剤;インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、インターロイキン、ウベニメクス、乾燥BCG、レンチナン等の生物学的応答調節剤;等が挙げられる。これらの抗癌剤の治療により、NRF2の活性化が認められると本発明のがん治療剤の好適な適用対象となる。放射線治療としては、従来の放射線治療の他に、粒子線治療等も対象となる。そして、上述のように外科的手術や生検も対象となる。
さらにこれらのがんへのストレス付与状態への考慮とは別個に、「がんとの共存」を目指す場合も本発明のがん治療剤の適用対象となり得る。すなわち、がんにおけるNRF2の活性化を抑制することによりがんの悪性化を防ぎ、天寿の全うを目指す場合に本発明のがん治療剤は適していると考えられる。
<本発明の医薬組成物>
上述のように本発明の医薬組成物は「上記のがん治療剤を含有することを特徴とする、がん治療のための医薬組成物」である。
上述のように本発明の医薬組成物は「上記のがん治療剤を含有することを特徴とする、がん治療のための医薬組成物」である。
上述したように本発明のがん治療剤は、両者とも「医薬組成物」の有効成分として人体に投与される。当該がん治療剤の直接投与の場合も、注射剤等を用時混合することになるので、これも医薬組成物に含められる。
本発明の医薬組成物は、本発明のがん治療剤と共に適切な医薬製剤担体を配合して製剤組成物の形態に調製される。当該製剤担体としては、使用形態に応じた担体を選択することが可能であり、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、界面活性剤等の賦形剤ないし希釈剤を使用することができる。組成物の形態は、本発明のがん治療剤を効果的に含有可能な形態であれば特に限定されるものではなく、錠剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤等の固剤や軟膏剤であってもよいが、通常は、液剤、懸濁剤、乳剤等の注射剤形態とするのが好適である。また、本発明のがん治療剤を適切な担体の添加によって使用時に液状となし得る乾燥品とすることも可能である。さらに本発明の医薬品組成物において、シクロデキストリン含有ポリマーで構成されたナノ粒子、高分子ミセル、安定核酸脂質粒子(SNALP)、多機能エンベローブ型ナノ構造体(MEND)等のドラッグデリバリーシステム活用して、本発明のがん治療剤の効果をより向上させることが可能である。
得られた医薬品組成物は、その形態に応じた適切な投与経路、例えば、注射剤形態の医薬品組成物は、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内投与等により、固剤形態の医薬品組成物は、経口ないし経腸にて投与される。医薬品組成物中の本発明のがん治療剤の量は、当該組成物の投与方法、投与形態、使用目的、患者の症状等に応じて適宜選択され一定ではないが、通常、本発明のがん治療剤を、0.1〜95質量%程度含有する組成物形態に調製して、上述した投与量(1日成人1人当たり0.01μg〜10mg程度であり、一日1回ないし2〜5回、さらに数日おきに行うことも可能である)、にて投与を行うことが好ましい。
下記に本発明の実施例を示す。
1.材料と方法
実施例の結果の開示に先立ち、それに用いられた材料と試験方法について説明する。
1.材料と方法
実施例の結果の開示に先立ち、それに用いられた材料と試験方法について説明する。
(1)細胞培地及び原発腫瘍検体
HeLa,Lk−2,A549及びJHH−5細胞は、アメリカンカルチャーコレクション(米国)から購入した。当該細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地(HeLa,Lk−2細胞用)、RPMI1640培地(A549細胞用)、又は、ウイリアムE培地(JHH−5細胞用)に、10%ウシ胎児血清、ペニシリン、及び、ストレプトマイシンを添加して、5%CO2・37℃にて培養した。
HeLa,Lk−2,A549及びJHH−5細胞は、アメリカンカルチャーコレクション(米国)から購入した。当該細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地(HeLa,Lk−2細胞用)、RPMI1640培地(A549細胞用)、又は、ウイリアムE培地(JHH−5細胞用)に、10%ウシ胎児血清、ペニシリン、及び、ストレプトマイシンを添加して、5%CO2・37℃にて培養した。
全体で30例の原発性の食道扁平上皮癌(ESCC)のサンプルと、対照となる非がん性の食道粘膜は、東京医科歯科大学病院で2005年4月から2007年6月の間に治療を受けた患者から得たものであり、当該サンプルは素早く液体窒素で凍結され、DNAとRNAが抽出されるまで−80℃で保管された。承諾書は常に正式に得られたものである。患者のサンプルの収集と解析は東京医科歯科大学の治験審査委員会による承諾を得た(認可#2010−5−2)。ホルマリンで固定されパラフィン包埋がなされた腫瘍のサンプルは、免疫組織化学解析に用いられた。関連する臨床データと生存データは、全ての患者から入手された。患者は誰も手術前に化学療法と放射線療法を受けていなかった。疾病のステージは、食道癌の腫瘍―リンパ・結節−転移分類(the tumor-lymph node-metastases classification)に従って定義された。非根治切除又は他の疾病で死亡した患者は、この調査には含まれていない。追跡期間の中央値は35ヶ月(4〜69ヶ月)であった。
(2)抗体と試薬
ウェスタンブロッティング用の抗NRF2ウサギポリクローナル抗体(サンタクルズバイオテクノロジー社)、免疫組織化学解析用の抗NRF2ウサギポリクローナル抗体(サンタクルズバイオテクノロジー社)、抗KEAP1ウサギポリクローナル抗体(プロテインテック社)、抗ME−1マウスモノクローナル抗体(サンタクルズバイオテクノロジー社)、抗XIAPウサギ抗体(Cell signaling社)、抗APIPウサギ抗体(Abcam社)、抗OPA1ウサギ抗体(Abcam社)、抗TFAMウサギ抗体(シグマ社)、及び、抗β−アクチンマウスモノクローナル抗体(シグマ社)、を用いた。培養細胞の処理のために過酸化水素(和光純薬社)又はシスプラチン(和光純薬社)を用いた。
ウェスタンブロッティング用の抗NRF2ウサギポリクローナル抗体(サンタクルズバイオテクノロジー社)、免疫組織化学解析用の抗NRF2ウサギポリクローナル抗体(サンタクルズバイオテクノロジー社)、抗KEAP1ウサギポリクローナル抗体(プロテインテック社)、抗ME−1マウスモノクローナル抗体(サンタクルズバイオテクノロジー社)、抗XIAPウサギ抗体(Cell signaling社)、抗APIPウサギ抗体(Abcam社)、抗OPA1ウサギ抗体(Abcam社)、抗TFAMウサギ抗体(シグマ社)、及び、抗β−アクチンマウスモノクローナル抗体(シグマ社)、を用いた。培養細胞の処理のために過酸化水素(和光純薬社)又はシスプラチン(和光純薬社)を用いた。
(3)細胞生存アッセイ
細胞の生存は、クリスタルバイオレット(CV)染色アッセイにより評価した。細胞はPBSで洗浄され、0.2%CV含有10%ホルムアルデヒドPBSにおいて3分間固定した。過剰なCV溶液は除去され、完全に空気乾燥した後、染色細胞は2%SDS溶液に接触させつつ、プレートを1時間振とうすることにより溶解した。光学密度(OD)吸光度は、マイクロプレートリーダー(ARVOmx;ペルキンエルマー社)を用いて560nmにて計測し、吸光度百分率はウエル毎に算出した。コントロールウエルにおける細胞のOD吸光度値は、生存細胞の百分率を決定するために、任意に100%にセットした。
細胞の生存は、クリスタルバイオレット(CV)染色アッセイにより評価した。細胞はPBSで洗浄され、0.2%CV含有10%ホルムアルデヒドPBSにおいて3分間固定した。過剰なCV溶液は除去され、完全に空気乾燥した後、染色細胞は2%SDS溶液に接触させつつ、プレートを1時間振とうすることにより溶解した。光学密度(OD)吸光度は、マイクロプレートリーダー(ARVOmx;ペルキンエルマー社)を用いて560nmにて計測し、吸光度百分率はウエル毎に算出した。コントロールウエルにおける細胞のOD吸光度値は、生存細胞の百分率を決定するために、任意に100%にセットした。
(4)AREルシフェラーゼレポーターを用いるスクリーニングシステム
ルシラーゼレポータープラスミドは、抗酸化応答エレメント(ARE)を含んだヒトNQO−1プロモーター領域「5’-CTCAGCCTTCCAAATCGCAGTCACAGTGACTCAGCAGAATC-3’」(配列番号19)を、pGL3ベクター(プロメガ社)のMlu1/Xho1サイトに挿入することを目的として、下記表2の互いに相補的な合成オリゴの組(上段は配列番号20、下段は配列番号21)をアニールして二本鎖DNAとし、Mlu1とXho1を用いて当該Mlu1/Xho1サイトに相補的な粘着末端を有する2本鎖DNAを調製した。これを当該Mlu1/Xho1サイトに挿入することにより、所望の組換えpGL3(レポータープラスミド)を作出した。
ルシラーゼレポータープラスミドは、抗酸化応答エレメント(ARE)を含んだヒトNQO−1プロモーター領域「5’-CTCAGCCTTCCAAATCGCAGTCACAGTGACTCAGCAGAATC-3’」(配列番号19)を、pGL3ベクター(プロメガ社)のMlu1/Xho1サイトに挿入することを目的として、下記表2の互いに相補的な合成オリゴの組(上段は配列番号20、下段は配列番号21)をアニールして二本鎖DNAとし、Mlu1とXho1を用いて当該Mlu1/Xho1サイトに相補的な粘着末端を有する2本鎖DNAを調製した。これを当該Mlu1/Xho1サイトに挿入することにより、所望の組換えpGL3(レポータープラスミド)を作出した。
第一に、当該レポータープラスミドは、10センチメートルディッシュ上でHeLa細胞(1×107cells/dish)中に一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後に、当該細胞は96穴プレートに播種され(1×104cells/well)、次の日にPre−miRmiRNA前駆体ライブラリー−HumanV3(アンビオン社)又はコントロールmiRNA、に由来する二本鎖RNA470種の各々20nmol/Lをトランスフェクトした。2日後、ホタルルシフェラーゼ活性がBright−Gloルシフェラーゼアッセイシステム(プロメガ社)を用いるマイクロプレートリーダー(ARVOmx:ペルキンエルマー社)で計測した。同時に、生存細胞はCV染色アッセイにより検出した。ARE活性は、生存細胞毎のルシフェラーゼ活性によって算出した。
(5)microRNAs(miRNAs)及びsmall interferenceRNAs(siRNAs)
20nmol/LのmiRNAs又はsiRNAsが個別にLipofectamin RNAiMAX(インビロトロゲン社)を用いて細胞に操作用マニュアルに従ってトランスフェクトされた。ヒト成熟miRNAに模した二本鎖RNA(hsa−miR−507(PM10509)、hsa−miR−129−5p(PM10195)、hsa−miR−450a(PM11192)、及び、hsa−miR−634(PM11538))、並びに、コントロールmiRNA(ネガティブコントロール#1)は、アンビオン社から入手した。NRF2に対するsiRNA(siGENOME SMARTpool;M−003755−02−0005)とKEAP1に対するsiRNA(siGENOME SMARTpool;M−012453−00−0005)は、サーモサイエンティフィックダルマコン社から入手した。
20nmol/LのmiRNAs又はsiRNAsが個別にLipofectamin RNAiMAX(インビロトロゲン社)を用いて細胞に操作用マニュアルに従ってトランスフェクトされた。ヒト成熟miRNAに模した二本鎖RNA(hsa−miR−507(PM10509)、hsa−miR−129−5p(PM10195)、hsa−miR−450a(PM11192)、及び、hsa−miR−634(PM11538))、並びに、コントロールmiRNA(ネガティブコントロール#1)は、アンビオン社から入手した。NRF2に対するsiRNA(siGENOME SMARTpool;M−003755−02−0005)とKEAP1に対するsiRNA(siGENOME SMARTpool;M−012453−00−0005)は、サーモサイエンティフィックダルマコン社から入手した。
(6)伝統的なルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼリポータープラスミドは、pmirGlo Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector(プロメガ社)のルシフェラーゼ遺伝子の下流に、NRF2、ME1、又は、NQO1の3’非翻訳領域(UTR:配列番号49〜51)を挿入することで作出した。全ての部位特異性変異は、GeneTailor site-directed mutagenesis system(インビトロゲン社)、又は、KOD mutagenesis kit(TOYOBO社)を用いて行った。ルシフェラーゼレポータープラスミドと、内部標準コントロールとしてのpTKプラスミドには、共にHeLA細胞にトランスフェクトされ、次の日にヒト成熟miRNAに模した二本鎖RNA又はコントロールmiRNAをトランスフェクトした。2日後、ホタルルシフェラーゼ活性とウミシイタケルシフェラーゼ活性を、Dual-Luciferase Reporter Assay System(プロメガ社)を用いて計測し、相対的ルシフェラーゼ活性は、対応する内部標準コントロールのウミシイタケルシフェラーゼで読み取りながらホタルルシフェラーゼ活性を標準化することにより算出された。
ルシフェラーゼリポータープラスミドは、pmirGlo Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector(プロメガ社)のルシフェラーゼ遺伝子の下流に、NRF2、ME1、又は、NQO1の3’非翻訳領域(UTR:配列番号49〜51)を挿入することで作出した。全ての部位特異性変異は、GeneTailor site-directed mutagenesis system(インビトロゲン社)、又は、KOD mutagenesis kit(TOYOBO社)を用いて行った。ルシフェラーゼレポータープラスミドと、内部標準コントロールとしてのpTKプラスミドには、共にHeLA細胞にトランスフェクトされ、次の日にヒト成熟miRNAに模した二本鎖RNA又はコントロールmiRNAをトランスフェクトした。2日後、ホタルルシフェラーゼ活性とウミシイタケルシフェラーゼ活性を、Dual-Luciferase Reporter Assay System(プロメガ社)を用いて計測し、相対的ルシフェラーゼ活性は、対応する内部標準コントロールのウミシイタケルシフェラーゼで読み取りながらホタルルシフェラーゼ活性を標準化することにより算出された。
(7)ウェスタンブロッティング
全細胞の溶解物はSDS−PAGEに付されて、蛋白はPVDFメンブレン(GEヘルスケア社)に転写された。0.05%のTween20と5%のスキムミルクを含有するTBSで1時間ブロッキングを行った後、当該膜を抗体と共に一晩反応した。初期の抗体の希釈は、抗NRF2ウサギ抗体(1/1000)、抗KEAP1ウサギ抗体(1/1000)、抗ME1マウス抗体(1/1000)、及び、抗βアクチンマウス抗体(1/5000)であった。当該膜は洗浄され、HRP結合抗マウス又は抗ウサギIgG抗体(共に1/2000)で2時間曝露した。結合した抗体は、HRP染色溶液又はECLウェスタンブロッティングキット(セルシグナリングテクノロジー社)の操作用マニュアルに従って、視覚化された。
全細胞の溶解物はSDS−PAGEに付されて、蛋白はPVDFメンブレン(GEヘルスケア社)に転写された。0.05%のTween20と5%のスキムミルクを含有するTBSで1時間ブロッキングを行った後、当該膜を抗体と共に一晩反応した。初期の抗体の希釈は、抗NRF2ウサギ抗体(1/1000)、抗KEAP1ウサギ抗体(1/1000)、抗ME1マウス抗体(1/1000)、及び、抗βアクチンマウス抗体(1/5000)であった。当該膜は洗浄され、HRP結合抗マウス又は抗ウサギIgG抗体(共に1/2000)で2時間曝露した。結合した抗体は、HRP染色溶液又はECLウェスタンブロッティングキット(セルシグナリングテクノロジー社)の操作用マニュアルに従って、視覚化された。
(8)定量RT−PCR
全RNAは、TRIzol(登録商標)試薬(インビトロゲン社)を標準的方法にて用いて分離した。当該全RNAから調製された一本鎖cDNAは、各々の遺伝子に特異的なプライマーで増幅された。定量リアルタイムRT−PCR(qRT−PCR)は、KAPA SYBR System(カパバイオシステム社)とABI PRISM 7500配列検出システム(アプライドバイオシステム社)を用いて、操作用マニュアルに従い行った。遺伝子発現値は、遺伝子産物(the genes of interest)と内部標準コントロール(GAPDH)若しくはU6の間の比率(Ct値の差違)により与えられ、そして引き続いてコントロール細胞における値と一緒に標準化される(相対的発現レベル)。用いられたプライマーとTaqManプローブの情報は表3と表4を参照のこと。表3において、フォワードプライマーを示す左側の欄の塩基配列の配列番号として、上から順番に配列番号22〜32を割り振り、リバースプライマーを示す右側の欄の塩基配列の配列番号として、上から順番に33〜43を割り振った。また、表4においてTaqManプローブの塩基配列の配列番号として、上から順に配列番号44〜48を割り振った。
全RNAは、TRIzol(登録商標)試薬(インビトロゲン社)を標準的方法にて用いて分離した。当該全RNAから調製された一本鎖cDNAは、各々の遺伝子に特異的なプライマーで増幅された。定量リアルタイムRT−PCR(qRT−PCR)は、KAPA SYBR System(カパバイオシステム社)とABI PRISM 7500配列検出システム(アプライドバイオシステム社)を用いて、操作用マニュアルに従い行った。遺伝子発現値は、遺伝子産物(the genes of interest)と内部標準コントロール(GAPDH)若しくはU6の間の比率(Ct値の差違)により与えられ、そして引き続いてコントロール細胞における値と一緒に標準化される(相対的発現レベル)。用いられたプライマーとTaqManプローブの情報は表3と表4を参照のこと。表3において、フォワードプライマーを示す左側の欄の塩基配列の配列番号として、上から順番に配列番号22〜32を割り振り、リバースプライマーを示す右側の欄の塩基配列の配列番号として、上から順番に33〜43を割り振った。また、表4においてTaqManプローブの塩基配列の配列番号として、上から順に配列番号44〜48を割り振った。
miRNAに対するリアルタイム逆転写PCR(RT−PCR)は、ABI Prizm 7500 Fast Real-time PCR System(アプライドバイオシステム社)、Taqman Universal PCR Master Mix(アプライドバイオシステム社)、Taqman Reverse Transcription kit(アプライドバイオシステム社)、及び、Taqman MicroRNA Assays(アプライドバイオシステム社)を用いて、操作マニュアルに従い行った。miRNA遺伝子の発現レベルは、全RNAの初期量の標準化コントロールとしてのRNU6Bの転写物の量に関連するターゲットメッセージ量に基礎付けられる。
(9)免疫組織化学
腫瘍検体は、10%のホルムアルデヒド含有PBSによって固定化し、パラフィン包埋を行い、4μm厚の切片へと薄片化し、アビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ法でNRF2又はME1の免疫組織化学的染色を行った。パラフィンで包埋された腫瘍検体からの切片はキシレンで脱パラフィンを行い、エタノール中で再水和を行った。10mMのクエン酸緩衝液(pH6.0)中での煮沸による抗原の回復の後、当該切片は、内因性のペルオキシダーゼを不活性化するために0.3%過酸化水素含有メタノールで処理した。そして当該切片は、抗NRF2抗体(1/1000希釈)又は抗ME1抗体(1/500希釈)と一緒に4℃で一晩インキュベートした。結合した抗体は、色原体としてのジアミノベンディジン(VECTASTAIN-EluteABC Kit,ベクターラボラトリー社)を用いて可視化し、当該切片は素早くヘマトキシリンにて対比染色した。
腫瘍検体は、10%のホルムアルデヒド含有PBSによって固定化し、パラフィン包埋を行い、4μm厚の切片へと薄片化し、アビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ法でNRF2又はME1の免疫組織化学的染色を行った。パラフィンで包埋された腫瘍検体からの切片はキシレンで脱パラフィンを行い、エタノール中で再水和を行った。10mMのクエン酸緩衝液(pH6.0)中での煮沸による抗原の回復の後、当該切片は、内因性のペルオキシダーゼを不活性化するために0.3%過酸化水素含有メタノールで処理した。そして当該切片は、抗NRF2抗体(1/1000希釈)又は抗ME1抗体(1/500希釈)と一緒に4℃で一晩インキュベートした。結合した抗体は、色原体としてのジアミノベンディジン(VECTASTAIN-EluteABC Kit,ベクターラボラトリー社)を用いて可視化し、当該切片は素早くヘマトキシリンにて対比染色した。
(10)NRF2とKEAP1の変異解析
NRF2のエクソン2又はKEAP1の全てのコーディング領域を含む遺伝子領域は、KOD−plus(TOYOBO社)を用いたPCRによって増幅した。PCR産物は、ExoSAP−IT(GEヘルスケア社)を用いて精製され、配列解析を行った。プライマーの情報は、上記表3を参照のこと。
NRF2のエクソン2又はKEAP1の全てのコーディング領域を含む遺伝子領域は、KOD−plus(TOYOBO社)を用いたPCRによって増幅した。PCR産物は、ExoSAP−IT(GEヘルスケア社)を用いて精製され、配列解析を行った。プライマーの情報は、上記表3を参照のこと。
(11)発現アレイ解析及びIPAを用いた経路解析
遺伝子発現のアレイ解析のために、Agilent4×44K遺伝子発現アレイ(アジレントテクノロジーズ社)を、操作用マニュアルに従い用いた。各々の遺伝子アレイ実験は、二重に行われ、データはGeneSpring(アジレントテクノロジー社)で解析した。
遺伝子発現のアレイ解析のために、Agilent4×44K遺伝子発現アレイ(アジレントテクノロジーズ社)を、操作用マニュアルに従い用いた。各々の遺伝子アレイ実験は、二重に行われ、データはGeneSpring(アジレントテクノロジー社)で解析した。
発現データとTargetScanプログラムは、ingenuity pathway analysis(IPA)(インジュニティシステムス社)に付した。
(12)in vivo腫瘍増大アッセイ及びmiRNAの投与
7週齢の雌のBALB/cヌードマウスをオリエンタル酵母工業株式会社から購入し、無菌状態を保った。1×107cellsを含むPBS200μlをマウスの横腹に皮下注射した。1nmolの2本鎖RNA(アンビオン社)と200μlのAteroGene(KOKEN社)の混合物を、腫瘍と皮膚の間の空隙に投与した。マウスに、5mg/kg体重のシスプラチンの腹腔内投与を施した。細胞投与35日間後、マウスを安楽死させ腫瘍を摘出した。全てのマウスに対して行った実験の手順は、東京医科歯科大学の動物保護と利用委員会の承認を受けた。
7週齢の雌のBALB/cヌードマウスをオリエンタル酵母工業株式会社から購入し、無菌状態を保った。1×107cellsを含むPBS200μlをマウスの横腹に皮下注射した。1nmolの2本鎖RNA(アンビオン社)と200μlのAteroGene(KOKEN社)の混合物を、腫瘍と皮膚の間の空隙に投与した。マウスに、5mg/kg体重のシスプラチンの腹腔内投与を施した。細胞投与35日間後、マウスを安楽死させ腫瘍を摘出した。全てのマウスに対して行った実験の手順は、東京医科歯科大学の動物保護と利用委員会の承認を受けた。
(13)統計分析
サブグループ間の差違は、Student's t-testによって検討した。対応する患者に関係する臨床病理学的な変化は、Χ2テスト、又は、フィッシャーの抽出テストによって解析された。生存の解析を行うために、Kaplan-Meierカーブが一変量の予測に基礎付けられた群のために構築され、群間の差違はlog-rank testによって検討した。インビボの実験の結果とA549細胞における細胞生存試験は、変化に対するtwo−way ANOVA(二要因の分散分析)を用いて統計学的有意性を解析した。計算されたP値が0.05未満(<0.05)の場合に統計学的な有意性有りと判断した。
サブグループ間の差違は、Student's t-testによって検討した。対応する患者に関係する臨床病理学的な変化は、Χ2テスト、又は、フィッシャーの抽出テストによって解析された。生存の解析を行うために、Kaplan-Meierカーブが一変量の予測に基礎付けられた群のために構築され、群間の差違はlog-rank testによって検討した。インビボの実験の結果とA549細胞における細胞生存試験は、変化に対するtwo−way ANOVA(二要因の分散分析)を用いて統計学的有意性を解析した。計算されたP値が0.05未満(<0.05)の場合に統計学的な有意性有りと判断した。
2.実施例の開示
[実施例1] NRF2の転写活性をネガティブ制御しているmiRNAのスクリーニング
NRF2の転写活性をネガティブ制御しているmiRNAを確認するために、我々はルシフェラーゼレポーターシステムを用いてmiRNAライブラリーをスクリーニングした。当該システムは、antioxidative responsible element(ARE)を動かすことでルシフェラーゼの発現の計測が可能である。このレポーターシステムを用いて、当該ARE活性が、HeLa細胞におけるNRF2蛋白レベルに依存して変化することを確認した(図1)。図1は、siRNAを用いたAREレポーターシステムの検証の結果を示す図面である。具体的には、AREルシフェラーゼレポータープラスミド及び内部標準コントロールベクターを用いて、HeLa細胞に共トランフェクションを行い、24時間後、コントロールsiRNA、又は、NRF2−siRNA(a)、若しくは、KEAP1−siRNA(b)でトランフェクションを行った。siRNAでのトランフェクションの48時間後、当該細胞溶解物のSDS−PAGEを行い、各々の抗体での免疫反応を行った(上部パネル)。一方で、ホタル又はウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定し、Mock中のARE活性に対するARE活性を縦軸に示した(下部パネル)。バーは、標準偏差(SD)である。
[実施例1] NRF2の転写活性をネガティブ制御しているmiRNAのスクリーニング
NRF2の転写活性をネガティブ制御しているmiRNAを確認するために、我々はルシフェラーゼレポーターシステムを用いてmiRNAライブラリーをスクリーニングした。当該システムは、antioxidative responsible element(ARE)を動かすことでルシフェラーゼの発現の計測が可能である。このレポーターシステムを用いて、当該ARE活性が、HeLa細胞におけるNRF2蛋白レベルに依存して変化することを確認した(図1)。図1は、siRNAを用いたAREレポーターシステムの検証の結果を示す図面である。具体的には、AREルシフェラーゼレポータープラスミド及び内部標準コントロールベクターを用いて、HeLa細胞に共トランフェクションを行い、24時間後、コントロールsiRNA、又は、NRF2−siRNA(a)、若しくは、KEAP1−siRNA(b)でトランフェクションを行った。siRNAでのトランフェクションの48時間後、当該細胞溶解物のSDS−PAGEを行い、各々の抗体での免疫反応を行った(上部パネル)。一方で、ホタル又はウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定し、Mock中のARE活性に対するARE活性を縦軸に示した(下部パネル)。バーは、標準偏差(SD)である。
図2−1は、NRF2の転写活性をネガティブに制御するmiRNAのスクリーニングの結果を示す図面である。図2−1(a)では、AREリポーターシステムを用いるmiRNAライブラリースクリーニングの方法を示している。470の二本鎖RNAをスクリーニングするために、連続してHeLa細胞に各々のmiRNAを、レポータープラスミドと一緒にトランスフェクトし、クリスタルバイオレット(CV)染色アッセイによって計測した生存細胞毎のルシフェラーゼ活性としてトランスフェクトされた細胞におけるARE活性を算出した。すなわち、AREルシフェラーゼレポータープラスミド及びライブラリーに由来する各々のmiRNAは、順次HeLa細胞にトランスフェクトされ、48時間後にルシフェラーゼ活性又は生存細胞数は、Bright-GIoルシフェラーゼアッセイシステム又はCV染色アッセイを用いて個別に計測された。各々のmiRNAがトランスフェクトされた細胞のARE活性は、生存細胞毎のルシフェラーゼ活性として算出された。
図2−1(b)は、miRNAがトランスフェクトされた細胞におけるARE活性の結果の要約を示している。コントロールmiRNAがトランスフェクトされた細胞に対するARE活性は縦軸に示されている。相対値が0.5以下の8種類のmiRNAはこのスクリーニングシステムによる候補として特定された。さらに相対値が1.5以上の8種類のmiRNAもこのスクリーニングシステムによる候補として特定された。
図2−1(c)は、4種類の候補miRNAのルシフェラーゼアッセイによる検証の結果を示している。HeLa細胞にはAREルシフェラーゼレポータープラスミドと内部標準コントロールベクターが共にトランスフェクトされ、24時間後に、hsa−miR−507、−634、−450a、−129−5p、又は、コントロールmiRNAがトランスフェクトされた。miRNAのトランスフェクションから48時間後に、ホタルルシフェラーゼ活性又はウミシイタケルシフェラーゼ活性が計測された。コントロールmiRNAがトランスフェクトされた細胞に対するARE活性は縦軸に示されている。バーは標準偏差(SD)である。
図2−1(d)は、miRNAがトランスフェクトされた細胞におけるNQO1mRNAの発現解析の結果を示している。HeLa細胞は、hsa−miR−507、−634、−450a、−129−5p、又は、コントロールmiRNAがトランスフェクトされている。トランスフェクションから48時間後に、NQO1遺伝子のmRNAレベルがqRT−PCRにより計測された。GAPDH遺伝子の発現は、内部標準コントロールとして用いられた。コントロールmiRNAがトランスフェクトされた細胞に対する発現レベルは縦軸に示されている。バーは標準偏差(SD)である。
図2−2は、NRF2標的遺伝子の発現解析の結果を示す図面である。siRNA(コントロール、NRF2、若しくはKEAP1)(a)、又はmiRNA(コントロールmiRNA、hsa−miR−507、−634、−450a、若しくは−129−5p)(b)を用いて、HeLa細胞にトランスフェクションを行った。当該トランスフェクションの48時間後、4つのNRF2標的遺伝子であるNQO1、GPX2、及びTXNRD1のmRNA発現レベルをqRT−PCRにより測定した。GAPDHの発現を内部標準コントロールとして用いた。コントロールsiRNA又はコントロールmiRNAでのトランスフェクト細胞中の発現レベルに対する発現レベルを縦軸に示した。バーは標準偏差(SD)である。なお、(b)に示された、ウェスタンブロッテイングの結果及びNQO1発現に関する結果は、それぞれ、図3a及び図2−1(d)にも示されている。
上記図2−1(c)、図2−1(d)d、及び、図2−2において、上位4種のmiRNA(hsa−miR−507、−634、−450a、及び、−129−5p)に絞り込んで、それらのトランスフェクトは、現にARE活性を減じること、そして、既知のNRF2のターゲット遺伝子「NQO1、HO1、GPX2、及び、TXNRD1」の転写活性を低下制御していることが確認された。
これらの結果は、この既知のターゲット遺伝子スクリーニングシステムは、少なくとも4つの候補miRNAがNRF2の転写活性をネガティブに調節したことを成功裏に同定することができることを示している。また、図2−1(b)に示すように、ARE活性が、コントロールmiRNAがトランスフェクトされた細胞との比較で1.5以上を示した8種類のmiRNA(hsa−miR−26a、has−miR−17−3p、hsa−miR−190、hsa−miR−567、hsa−miR−125b、hsa−miR−125a、hsa−miR−432*、及び、hsa−miR−29)を同定した。
[実施例2] 候補miRNAの機能的標的としてのNRF2の同定
4つの候補miRNA(hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、及び、hsa−miR−129−5p)のための機能的標的を同定するために、まず、NRF2経路に関連していることが知られている遺伝子が、IPA(Ingenuity Systems Pathway Analysis, Redwood City, CA)(http://www.ingenity.com)を用いて、TargetScanプログラム(http://www.targetscan.org)により予測された標的の中に存在するかを調査した。コンピュータ内での分析により、意外にも、4つの候補miRNA全てが、NRF2それ自体を機能的に標的にしていることを見出した。なぜならば、hsa−miR−450aではない3つのmiRNAのためのシード配列は、NRF2の3’−UTRの中にマップされたからである(hsa−miR−507において2箇所、hsa−miR−634において1箇所、hsa−miR−129−5pにおいて2箇所)(図3(b))。図3(b)は、NRF2の3’UTR配列内における、4種の候補miRNAのシード配列(seed sequence)の相同配列とレポータープラスミドのデザインを示している。hsa−miR−507(2カ所)、hsa−miR−634(1カ所)、及び、hsa−miR−129−5p(2カ所)のシード配列が、NRF2の3’UTRにおいてマップされた。hsa−miR−450aのシード配列はhsa−miR−507と高度に相同している(7シード配列のうち6)から、hsa−miR−450a のシード配列はhsa−miR−507と同じサイトとして示されている。領域1(R1)、領域2(R2)又は変異R2はルシフェラーゼアッセイにおいて用いられた。黒い×印は、各々のシード配列に挿入された変異サイトを示している。
4つの候補miRNA(hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、及び、hsa−miR−129−5p)のための機能的標的を同定するために、まず、NRF2経路に関連していることが知られている遺伝子が、IPA(Ingenuity Systems Pathway Analysis, Redwood City, CA)(http://www.ingenity.com)を用いて、TargetScanプログラム(http://www.targetscan.org)により予測された標的の中に存在するかを調査した。コンピュータ内での分析により、意外にも、4つの候補miRNA全てが、NRF2それ自体を機能的に標的にしていることを見出した。なぜならば、hsa−miR−450aではない3つのmiRNAのためのシード配列は、NRF2の3’−UTRの中にマップされたからである(hsa−miR−507において2箇所、hsa−miR−634において1箇所、hsa−miR−129−5pにおいて2箇所)(図3(b))。図3(b)は、NRF2の3’UTR配列内における、4種の候補miRNAのシード配列(seed sequence)の相同配列とレポータープラスミドのデザインを示している。hsa−miR−507(2カ所)、hsa−miR−634(1カ所)、及び、hsa−miR−129−5p(2カ所)のシード配列が、NRF2の3’UTRにおいてマップされた。hsa−miR−450aのシード配列はhsa−miR−507と高度に相同している(7シード配列のうち6)から、hsa−miR−450a のシード配列はhsa−miR−507と同じサイトとして示されている。領域1(R1)、領域2(R2)又は変異R2はルシフェラーゼアッセイにおいて用いられた。黒い×印は、各々のシード配列に挿入された変異サイトを示している。
さらに、hsa−miR−450aのシード配列は、hsa−miR−507のシード配列に高度の相同性(7つのシード配列のうちの6つ)を示した。実際にNRF2蛋白質のレベルが、対照のmiRNAトランスフェクト細胞と比べて、各miRNAで導入された細胞内で著しく低下していることを示した(図3(a))。この図3(a)は、miRNAがトランスフェクトされた細胞におけるNRF2の発現のウェスタンブロット解析の結果を示している。HeLa細胞は、hsa−miR−507、−634、−450a、−129−5p、又は、コントロールmiRNAでトランスフェクトされている。トランスフェクションから48時間後、細胞の溶解物を用いてウェスタンブロッテイングを行い、示された抗体と免疫反応を行った。
図3(a)に示されたmiRNAの過剰発現によるNRF2の負の調節は、NRF2安定化癌細胞株、NRF2変異を有するLK2(NSCLC)、KEAP1変異を有するA549(NSCLC)、及びp62蛋白の凝集を有するJHH−5(HCC)においても観察されたことが図4に示されている。図4は、miRNAでのトランスフェクト細胞中のNRF2発現に関するウェスタンブロット分析の結果を示す図面であり、hsa−miR−507、−634、−450a、若しくは−129−5p、又はコントロールmiRNAをLK2細胞(肺扁平上皮がん細胞)、A549細胞(肺腺がん細胞)、及びJHH−5細胞(肝細胞がん細胞)にトランスフェクションを行い、さらに当該トランスフェクションの48時間後、細胞溶解物のSDS−PAGEを行い、示された抗体での免疫反応を行った結果を示している。
それ故、各miRNAがNRF2の3’−UTRに直接的に結合することができるかを調べるために、さらに、3’−UTRの2つのフラグメント、Region−1(R1)及びRegion−2(R2)、のそれぞれ、又はR2の5つの異なる突然変異体、を有するレポータープラスミドベクターを用いてルシフェラーゼアッセイを行った結果を示したものが、上記の図3(b)である。
図3(c)は、上記図3(b)において示された各々の領域を有するレポータープラスミドを用いたルシフェラーゼアッセイの結果を示している。HeLa細胞はレポータープラスミドと内部標準コントロールベクターが共にトランスフェクトされ、24時間後に、hsa−miR−507、−634、−450a、−129−5p、又は、コントロールmiRNAがトランスフェクトされた。miRNAのトランスフェクションから48時間後に、ホタル若しくはウミシイタケのルシフェラーゼ活性が計測された。コントロールmiRNAがトランスフェクトされた細胞に対応するルシフェラーゼ活性は、縦軸で示されている。グラフ下部の横線は、miRNAがトランスフェクトされた細胞において関連性のある変異プラスミドを示している。バーは標準偏差(SD)である。図3(c)では、R2ベクターのためのルシフェラーゼ活性は、各miRNAを用いて導入された細胞中の空き及びRAベクターのためのルシフェラーゼ活性と比べて著しく低下し、R2のシード配列中の突然変異を有するベクターで完全に修復されたことが示されている。
さらに図3(d)は、シスプラチン(CDDP)(左)又は酸化ストレス(過酸化水素)(右)によって引き起こされた細胞ストレス下における細胞生存を指標としたmiRNAのトランスフェクションの効果に関する検討の結果を示している。HeLa細胞は、hsa−miR−507、−634、−450a、−129−5p、又は、コントロールmiRNAがトランスフェクトされ、翌日にシスプラチン(15μM)が24時間、又は、過酸化水素(100μM)で12時間処理した。細胞の溶解物はSDS−PAGEに付され、示された抗体と免疫反応を行った。NRF2の発現はウェスタンブロッティングにより検討した(上パネル)。未処理のコントロールmiRNA又はmiRNAをトランスフェクトした細胞は、CV染色アッセイで評価した(下パネル)。バーは、標準偏差(SD)である。各miRNAのトランスフェクションは、NRF2蛋白質の発現を示しただけでなく、シスプラチンでの治療、又は、過酸化水素に対する曝露に対する感度を著しく高めたことを、この図3(d)は示している。
これらの実施例2の結果は、4つの候補miRNA全てが3’−UTRに直接結合し、NRF2を機能的な標的にして、細胞ストレスの上昇にもかかわらず、NRF2がかかわるがん細胞の生存を抑制することを示唆している。
[実施例3] 4種のmiRNAの負の調節の原発性の食道扁平上皮癌(ESCC)に対する臨床的特徴
原発性の食道扁平上皮癌患者からの30検体においてqRT−PCR解析による各々のmiRNAのレベルを検討した。図5は、食道がん(食道扁平上皮癌:ESCC)由来の原発腫瘍検体における臨床的な意義とmiRNAの負の調節の関わりに関して検討した図面である。
原発性の食道扁平上皮癌患者からの30検体においてqRT−PCR解析による各々のmiRNAのレベルを検討した。図5は、食道がん(食道扁平上皮癌:ESCC)由来の原発腫瘍検体における臨床的な意義とmiRNAの負の調節の関わりに関して検討した図面である。
図5−1(a)は、30種の原発性検体における4種のmiRNA(hsa−miR−507、−634、−450a、及び、−129−5p)の発現解析の結果と、同NRF2とKEAP1遺伝子の変異解析の結果の解析の要約である。塗りつぶされた四角形はNRF2又はKEAP1遺伝子の変異、あるいは、miRNAの現低下を各々のケースにおいて示している。各々のケースにおける異常の数は、異常スコア(0〜4)として示され、30症例は異常スコアに基づいて2つのグループに割り当てられた;ハイスコア群(n=14;異常スコアは2〜4)とロースコア群(n=16;異常スコアは0又は1)である。図5(b)は、異常スコアに照らしてESCCの30患者全ての生存率を示すKapian-Meier曲線である。ハイスコア群は顕著に悪い生存率と関連している(p=0.004,log-rank test)。図5(c)は、ハイスコア群(症例1、4、7)(上パネル)とロースコア群(症例21、25、26)(下パネル)の原発性ESCCにおけるNRF2蛋白の免疫染色の代表的な画像を示している。黒い棒はスケールバーで100μmを示している。
さらに図5−2は、食道がん(食道扁平上皮癌:ESCC)由来の原発腫瘍検体中のNRF2及びKEAP1遺伝子の変異分析の結果を示す図面である。当該腫瘍検体のうち、NRF2又はKEAP1におけるアミノ酸の置換変異が認められた5検体において検出された変異を、配列クロマトグラフィーで示した。上段のaに示す3検体はNRF2遺伝子における変異が認められた例であり、下段のbに示す2検体はKEAP1遺伝子における変異が認められた例である。上矢印は、対応する正常組織中の野生型配列を示し、下矢印は、原発腫瘍組織中の変異配列及びアミノ酸配列の変化を示す。また最下段に示す、例えば「D77G」は、「NRF2遺伝子がコードする野生型アミノ酸配列の77番目のD(アスパラギン酸)が、G(グリシン)に置換される変異」であることを示している(他の例について同様)。他のアミノ酸の一文字表記として、「Rはアルギニン」、「Qはグルタミン」、「Lはロイシン」、「Mはメチオニン」を、それぞれ示す。NRF2遺伝子及びKEAP1遺伝子の遺伝子塩基配列は公知であるが、これらをそれぞれ配列番号17(NRF2:NCBI Reference Sequence: NM_006164.4)及び配列番号18(KEAP1:NCBI Reference Sequence: NM_012289.3)として示す。
これらの解析では原発腫瘍組織が対応する非腫瘍組織と比べて50%以上の当該miRNAレベルの低下は、hsa−miR−507に対して9例(30.0%)、hsa−miR−634に対して12例(40.0%)、hsa−miR−450aに対して2例(6.7%)、及び、hsa−miR−129−5pに対して18例(60.0%)であった(図5−1(a))。これに加えて突然変異解析により、NRF2のミスセンス変異が3例(10%)、KEAP1のミスセンス変異が2例(6.7%)認められた(図5−1(a)、5−2)。そして、上記の4種のmiRレベルの低下、及び、2種の遺伝子のミスセンス変異の該当件数をそのままスコア(数)として示した指標である「異常スコア」を定義し、当該「異常スコア」に基づいて、NRF2若しくはKEAP1、及び/又は、各々のmiRNAの負の調節を検討し、30症例を2つの群に割り当てた。すなわち「異常スコア2〜4」の14原発性ESCC症例は「高スコア群」、「異常スコア0又は1」の16原発性ESCC症例は「低スコア群」とした(図5−1(a))。重要なことに「高スコア群」は顕著に遠隔転移と相関しており(pMカテゴリー,p=0.0394,表5)、Kaplan-Meierの生存評価に認められる生存率の悪化を伴っていた(log rank test:p=0.004)(図5−1(b))。
※表5においては「有意差有り」は太文字で示した。P値はΧ2テスト又はフィッシャーの抽出テストを行い、両側評価で<0.05の場合を「有意差有り」と評価した。
ランダムに選択された原発性ESCC検体の免疫組織化学的解析は、NRF2蛋白のレベルは「高スコア群」の方が「低スコア群」よりも著しく高いことを示した(図5−1(c))。これらの知見は、これらのmiRNAの発現の負の調節は、NRF2又はKEAP1の変異に加えて、原発性ESCC腫瘍におけるNRF2の安定化に寄与することを示している。さらに、「異常スコア」の増加を指標とすることにより、NRF2が安定化した腫瘍を分別し、腫瘍の悪性度や、がん患者の予後を鑑別することができることを示している。
当該30検体は、それぞれの抽出DNAを鋳型として、表3に列挙するプライマーを使用してPCRによる遺伝子増幅を行い、そのPCR産物をサンガー法により配列決定した。その結果を示す配列クロマトグラフィーのチャートが図5−2である。当該図に示すように、NRF2遺伝子に関し計3症例において、公知のアミノ酸置換を伴う機能獲得性の遺伝子変異(D77G;1症例、D29G;2症例)を検出した。また、KEAP1遺伝子に関して、計2症例においてアミノ酸置換を伴う遺伝子変異が認められ、一方は公知の機能喪失性の遺伝子変異(R320Q)であり、異常スコアが「3」の症例4においては新規の遺伝子変異(L276M)を検出した。
[実施例4] hsa−miR−507の投与によるインビボでの腫瘍抑制効果
一つのmiRNAは、一つのがん性経路に貢献する複数の遺伝子をターゲットにすることができるから、当該miRNAはこのがん性経路を伴う腫瘍に対して効果的であると考えられる。そして、当該4つのmiRNAのうちhsa−miR−507について、それがNRF2によって転写制御されている遺伝子を機能的にターゲットとすることができるかどうかを、発現アレイと経路解析を用いて検討し、これらの解析においてhsa−miR−507のトランスフェクションによって抑制されている、8種類のNRF2の転写標的遺伝子を見出した。そしてそれらの中でME1は、NRF2の3’−UTRへの結合を通じhsa−miR−507の直接的な標的であることを確認した(図6)。図6は、hsa−miR−507の標的としてのNRF2の転写標的遺伝子の同定の結果を示す図面である。図6(a)は、hsa−miR−507により負に制御されたNRF2の転写標的遺伝子の検証の結果を示している。hsa−miR−507又はNRF2−siRNAのトランスフェクションにより発現低下した遺伝子のうち、181は、TargetScanプログラムによりhsa−miR−507の標的として予測されたことを示している。図6(b)は、IPAを用いて、181の遺伝子の中で、NRF2の8つの転写標的(ME1,PSMB6,SLC7A11,MGLL,DNAJB5,LGALS8,B4GALNT1,EIF4G2)が、hsa−miR−507の標的とされることが予測されたことを示している。図6(c)は、ME1 3’−UTR中のhsa−miR−507のためのシード配列及びレポータープラスミドのための設計のマッピングを示している。ルシフェラーゼ分析を行うことによって、hsa−miR−507が、ME1 3’−UTRに直接的に結合するかを調べた結果を示している。hsa−miR−507のためのシード配列は、ME1 3’UTR中にマッピングされている。hsa−miR−507(野生型;WT)のためのシード配列又はその突然変異体のゲノム領域を有するレポータープラスミドをルシフェラーゼ分析において用いた。黒色の十字形は変異部位を示している。図6(d)は、レポータープラスミドを用いたルシフェラーゼ分析の結果を示している。レポータープラスミド及び内部標準コントロールベクターでHeLa細胞の共トランスフェクションを行い、24時間後、hsa−miR−507又はコントロールmiRNAでのトランスフェクションを行った結果を示している。miRNAでのトランスフェクションの48時間後、ホタル又はウミシイタケのルシフェラーゼ活性を測定した。コントロールmiRNAでのトランスフェクト細胞のルシフェラーゼ活性に対するルシフェラーゼ活性を縦軸に示す。空ベクターのルシフェラーゼ活性よりWT領域を持つベクターのルシフェラーゼ活性が弱かったが、シード配列中に変異を挿入することにより完全に修復された。バーは標準偏差(SD)である。図6(e)は、miRNAでのトランスフェクト細胞中のME1発現に関するウェスタンブロット分析の結果を示している。hsa−miR−507又はコントロールmiRNAでHeLa細胞のトランスフェクションを行った結果を示している。トランスフェクションの48時間後、細胞溶解物のSDS−PAGEを行い、指示された抗体での免疫反応を行い、hsa−miR−507のトランスフェクションが、実際に、ME1タンパク質に関する発現レベルの低下を引き起こすことを確認した。
一つのmiRNAは、一つのがん性経路に貢献する複数の遺伝子をターゲットにすることができるから、当該miRNAはこのがん性経路を伴う腫瘍に対して効果的であると考えられる。そして、当該4つのmiRNAのうちhsa−miR−507について、それがNRF2によって転写制御されている遺伝子を機能的にターゲットとすることができるかどうかを、発現アレイと経路解析を用いて検討し、これらの解析においてhsa−miR−507のトランスフェクションによって抑制されている、8種類のNRF2の転写標的遺伝子を見出した。そしてそれらの中でME1は、NRF2の3’−UTRへの結合を通じhsa−miR−507の直接的な標的であることを確認した(図6)。図6は、hsa−miR−507の標的としてのNRF2の転写標的遺伝子の同定の結果を示す図面である。図6(a)は、hsa−miR−507により負に制御されたNRF2の転写標的遺伝子の検証の結果を示している。hsa−miR−507又はNRF2−siRNAのトランスフェクションにより発現低下した遺伝子のうち、181は、TargetScanプログラムによりhsa−miR−507の標的として予測されたことを示している。図6(b)は、IPAを用いて、181の遺伝子の中で、NRF2の8つの転写標的(ME1,PSMB6,SLC7A11,MGLL,DNAJB5,LGALS8,B4GALNT1,EIF4G2)が、hsa−miR−507の標的とされることが予測されたことを示している。図6(c)は、ME1 3’−UTR中のhsa−miR−507のためのシード配列及びレポータープラスミドのための設計のマッピングを示している。ルシフェラーゼ分析を行うことによって、hsa−miR−507が、ME1 3’−UTRに直接的に結合するかを調べた結果を示している。hsa−miR−507のためのシード配列は、ME1 3’UTR中にマッピングされている。hsa−miR−507(野生型;WT)のためのシード配列又はその突然変異体のゲノム領域を有するレポータープラスミドをルシフェラーゼ分析において用いた。黒色の十字形は変異部位を示している。図6(d)は、レポータープラスミドを用いたルシフェラーゼ分析の結果を示している。レポータープラスミド及び内部標準コントロールベクターでHeLa細胞の共トランスフェクションを行い、24時間後、hsa−miR−507又はコントロールmiRNAでのトランスフェクションを行った結果を示している。miRNAでのトランスフェクションの48時間後、ホタル又はウミシイタケのルシフェラーゼ活性を測定した。コントロールmiRNAでのトランスフェクト細胞のルシフェラーゼ活性に対するルシフェラーゼ活性を縦軸に示す。空ベクターのルシフェラーゼ活性よりWT領域を持つベクターのルシフェラーゼ活性が弱かったが、シード配列中に変異を挿入することにより完全に修復された。バーは標準偏差(SD)である。図6(e)は、miRNAでのトランスフェクト細胞中のME1発現に関するウェスタンブロット分析の結果を示している。hsa−miR−507又はコントロールmiRNAでHeLa細胞のトランスフェクションを行った結果を示している。トランスフェクションの48時間後、細胞溶解物のSDS−PAGEを行い、指示された抗体での免疫反応を行い、hsa−miR−507のトランスフェクションが、実際に、ME1タンパク質に関する発現レベルの低下を引き起こすことを確認した。
これらの図6に示す結果はhsa−miR−507が、NRF2とその標的遺伝子を直接的な標的とすることにより、NRF2が仲介するがん性経路を阻害することができることを示すものである。
次に、インビボでA549細胞から形成された腫瘍の周囲の皮下スペースへの、hsa−miR−507を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAの投与による腫瘍抑制効果を検討した。図7は、4つのmiRNAの発現分析、及び、A549細胞中のシスプラチン(CDDP)処理により引き起こされる細胞ストレス下での細胞生存に及ぼすhsa−miR−507のトランスフェクションの効果を示す図面である。
さらに、インビボでA549細胞から形成された腫瘍の周囲の皮下スペースへの、hsa−miR−507を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAの投与による腫瘍抑制効果を検討した。カルボプラティン(carboplatin)とNRF2に特異的なsiRNAの組み合わせ処理は、A549細胞から形成された腫瘍の増大の阻害に有効であることが、singhらによって報告されており、この細胞株はKEAP1の変異と、hsa−miR450aを除いたhsa−miR−507、hsa−miR−634、及び、hsa−miR−129−5pの3種のmiRNAの負の調節を伴う「高スコア群」に割り当てられた(図7(a))。図7(a)は、4つのmiRNA、hsa−miR−507、−634、−450a、及び−129−5pの、qRT−PCRによる発現分析である。内部標準コントロールとしてRNU6Bの発現レベルを用いた。正常肺組織における発現レベルに対するA549細胞における発現レベルを縦軸に示す。バーは標準偏差(SD)である。
また、hsa−miR−507の外因的な過剰発現が、緩慢に細胞増殖を阻害することと、インビボにおけるシスプラチンによる細胞ストレスに対する感受性の増加を示した(図7(b)、7(c))。図7(b)は、hsa−miR−507でのトランスフェクトA549細胞における細胞増殖分析hsa−miR−507又はコントロールmiRNAでA549細胞のトランスフェクションを行い、生きている細胞の数を、示された日にCV染色分析により測定した結果を示している。相対細胞増殖率を縦軸に示す。バーは標準偏差(SD)である。Student's t-testにより有意差を分析した。その結果、*p=0.0172(2日目)、p=0.0293(4日目)、p=0.0067(6日目)、であった。図7(c)は、A549細胞中でシスプラチン(CDDP)により引き起こされる細胞ストレス下での細胞生存に及ぼすhsa−miR−507のトランスフェクションの効果を示している。具体的には、hsa−miR−507又はコントロールmiRNAで当該細胞のトランスフェクションを行い、次の日に、PBS又はシスプラチン(2μM)で48時間処理し、コントロールmiRNA又はmiRNAでのトランスフェクト細胞について、未処理細胞中の細胞生存率に対する細胞生存率を、CV染色分析により評価した。バーは標準偏差(SD)である。two−way ANOVA(二要因の分散分析)により有意差を分析した。その結果、*p=0.0002(コントロールmiRNAとhsa−miR−507の間)、p=0.1844(PBSとCDDPの間)であった。相互作用(hsa−miR−507×CDDP)は、p=0.0049であった。FmiR− 507=43.2006、FCDDP=11.2564、FmiR−507×CDDP=14.7665、であった。
図8は、インビボにおけるhsa−miR−507の腫瘍抑制効果を示す図面である。図8(a)は、hsa−miR−507とシスプラチン(CDDP)の組み合わせ投与の実験スケジュールである。腫瘍は、ヌードマウスにA549細胞を皮下注射することによって形成された。コントロールmiRNA又はhsa−miR−507はA549細胞から皮下に形成された腫瘍の周囲に全部で4回投与された(A549細胞の注射から7、14、21及び28日後)。加えてマウスは、PBS又はシスプラチンの腹腔内投与を翌日に3回受けた(A549細胞の注射から8、15、22日後)。A549細胞の注射から35日後にマウスは安楽死され、腫瘍は摘出された。腫瘍の重量はhsa−miR−507との組み合わせにおけるPBSとシスプラチンの補助的使用により顕著に減少した(図8(b)、8(c))。図8(b)は、腫瘍が形成されたマウスの典型的な画像(左)とA549細胞の注射から35日後に摘出された腫瘍(右)である。なお、左のマウスの画像において2カ所の白抜き文字の「miR−507」は、いずれも「hsa−miR−507」である。図8(c)は、摘出された腫瘍の重量を示している。マウスはA549細胞の注射から35日後に安楽死され各々の摘出された腫瘍の重量が計量された。グラフは4個体のPBSが用いられたマウスと3個体のシスプラチンが用いられたマウスにおける「平均±SD値」を示している。顕著な差違がtwo−way ANOVA(二要因の分散分析)によって解析された:p=0.0486がコントロールmiRNA群とhsa−miR−507群間で認められ、p=0.5716がPBS群とシスプラチン群間で認められた。連関性(hsa−miR507×CDDP)はp=0.8757であり、Fmi R−507=170.667、FCDDP=1304444、FmiR−507×CDD P=0.026601であった。
加えて、hsa−miR−507の発現増加に伴うNRF2とME1蛋白の負の調節が、hsa−miR−507処理を施した腫瘍において確認された(図8(d)、8(e))。図8(d)は、摘出された腫瘍におけるhsa−miR−507の発現解析を示している。hsa−miR−507のmRNAの発現レベルはqRT−PCRによって計測された。RNU6Bの発現は、内部標準コントロールとして用いられた。PBSが用いられたマウスのうちコントロールmiRNAが投与されたマウス腫瘍に対応する発現レベルは縦軸に示されている。バーは標準偏差(SD)を示している。図8(e)は、摘出された腫瘍におけるNRF2とME1の免疫染色の典型的な画像である。スケールバーは100μmを示している。
このようにこれらの結果は、hsa−miR−507は、NRF2が介在するがん性経路を標的にすることにより、腫瘍の増大を阻害することが可能であることを示している。これらのことは、本発明におけるmiRNAを基礎とする分子的な検査と、NRF2が安定化した腫瘍における治療の有効性を示している。
また、hsa−miR−507とシスプラチンを組み合わせて投与することにより、相乗的な抗がん効果が発揮され得ることが明らかになった。すなわち本発明により、hsa−miR−507の塩基配列である配列番号1を含む核酸からなるがん治療剤とシスプラチン等のプラチナ製剤を組み合わせてなるがん治療剤が提供される。なお、ここでhsa−miR−507の塩基配列である配列番号1を含む核酸からなるがん治療剤とシスプラチン等のプラチナ製剤の組み合わせの態様は、特に限定されない。同一の組成物の中に両剤が含有されていてもよいし、両剤を別々に投与してもよい。投与時間の前後・同時を問わないことも前述した通りである。hsa−miR−507の塩基配列である配列番号1を含む核酸からなるがん治療剤の投与態様は前述した通りであり、例えば、シスプラチンの投与態様は、公知の方式に従う。具体的には、通常大人一人当たり一日70〜80mg/m2(体表面積)を、一日1回程度で、2〜5ヶ月間を投薬期間とし、投薬頻度(概ね1〜4週に1度)を決めて、通常は点滴にて投与される。
[実施例5]hsa−miR−634の投与による抗腫瘍効果
(1)hsa−miR−634の投与によるインビトロでの腫瘍の細胞死誘導効果(1)(図9)
図9は、hsa−miR−634の腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導効果についてインビトロで検討した結果を示す図面である。hsa−miR−634のインビトロでの腫瘍抑制効果を調べるために、hsa−miR−634を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAをリポフェクション法により子宮頸癌細胞株HeLa細胞に導入し、その後、3日間培養した。導入1、2、3日後、それぞれ1%クリスタルバイオレットを含むPBS溶液で1分間染色し、水洗浄後、2%SDSを含むPBSバッファーにより1時間反応させた。その後、マルチプレートリーダーにより、染色強度を測定することにより、生存細胞の定量を行った。その結果、hsa−miR−634を発現させた細胞では、顕著な細胞増殖抑制および細胞死の誘導が確認された。ここで図9(A)は導入2日後の顕微鏡像であり、HeLa細胞に対して、hsa−miR−634をトランスフェクトして、これを5%CO2・37℃で48時間インキュベートした際の形態変化を顕微鏡写真にて表している。上段がコントロールmiRをトランスフェクトした細胞であり、下段がhsa−miR−634をトランスフェクトした細胞である。右側の写真は左側の写真の拡大図である。図9(B)は経時的な細胞増殖の抑制効果を追った結果を示しており、上記図9(A)のインキュベートを行いつつ、1日後、2日後及び3日後における細胞増殖の傾向を、CV染色による蛍光強度を指標に検討した図面である。Mockのみ用いた細胞群、コントロールmiRをトランスフェクトした細胞群、及び、miR−634をトランスフェクトした細胞群における結果を示している。
(1)hsa−miR−634の投与によるインビトロでの腫瘍の細胞死誘導効果(1)(図9)
図9は、hsa−miR−634の腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導効果についてインビトロで検討した結果を示す図面である。hsa−miR−634のインビトロでの腫瘍抑制効果を調べるために、hsa−miR−634を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAをリポフェクション法により子宮頸癌細胞株HeLa細胞に導入し、その後、3日間培養した。導入1、2、3日後、それぞれ1%クリスタルバイオレットを含むPBS溶液で1分間染色し、水洗浄後、2%SDSを含むPBSバッファーにより1時間反応させた。その後、マルチプレートリーダーにより、染色強度を測定することにより、生存細胞の定量を行った。その結果、hsa−miR−634を発現させた細胞では、顕著な細胞増殖抑制および細胞死の誘導が確認された。ここで図9(A)は導入2日後の顕微鏡像であり、HeLa細胞に対して、hsa−miR−634をトランスフェクトして、これを5%CO2・37℃で48時間インキュベートした際の形態変化を顕微鏡写真にて表している。上段がコントロールmiRをトランスフェクトした細胞であり、下段がhsa−miR−634をトランスフェクトした細胞である。右側の写真は左側の写真の拡大図である。図9(B)は経時的な細胞増殖の抑制効果を追った結果を示しており、上記図9(A)のインキュベートを行いつつ、1日後、2日後及び3日後における細胞増殖の傾向を、CV染色による蛍光強度を指標に検討した図面である。Mockのみ用いた細胞群、コントロールmiRをトランスフェクトした細胞群、及び、miR−634をトランスフェクトした細胞群における結果を示している。
さらに導入2日後において、遠心により細胞を回収し、その細胞ペレットを、70%エタノールを含むPBSで30分間4℃にて固定した。その後、RNase処理を行った後、PI溶液(1μg/ml)で染色し、フローサイトメーターを用いて、FACS解析を行った(図9(C))。左のチャートはコントロールmiRをトランスフェクトした細胞の分布を示し、右のチャートはhsa−miR−634をトランスフェクトした細胞の分布を示している。その結果、hsa−miR−634を発現させた細胞では、アポトーシス細胞を示すSubG1領域の細胞(ピークG1)が顕著に増加していたことが分かった。
これらのことから、hsa−miR−634の腫瘍細胞への導入によりアポトーシスを介した細胞死を誘導することが可能であり、明らかな腫瘍の抑制効果が認められた。この結果は、本発明のがん治療剤の明白ながん治療効果を裏付けている。
(2)hsa−miR−634とシスプラチンの投与によるインビトロでの腫瘍の細胞死誘導効果(2)(図10)
hsa−miR−634を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAをリポフェクション法により食道癌細胞株KYSE170に導入した。図10の上段には、このhsa−miR−634とシスプラチン(CDDP)の組み合わせ投与のin vitro実験スケジュールを示した。このスケジュールに記載されているように、hsa−miR−634を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAの添加量は、それぞれ0.2nMであり、シスプラチンを2.5μM添加した群と、5.0μM添加した群についてインキュベートを行い、検証した。インキュベート時間は72時間である。細胞死の誘導効果は、トリパンブルー染色により、細胞死した細胞をカウントし、全細胞数に対する細胞死した細胞数の頻度(%)で評価した。図10の下段のグラフはその結果を示している。縦軸が前記頻度を示している。特に、hsa−miR−634とシスプラチンを同時投与された細胞では、高頻度に細胞死が誘導されていることを表している。これにより、本発明の治療剤とシスプラチンとの併用による相乗的な抗がん効果が明らかになった。
hsa−miR−634を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAをリポフェクション法により食道癌細胞株KYSE170に導入した。図10の上段には、このhsa−miR−634とシスプラチン(CDDP)の組み合わせ投与のin vitro実験スケジュールを示した。このスケジュールに記載されているように、hsa−miR−634を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAの添加量は、それぞれ0.2nMであり、シスプラチンを2.5μM添加した群と、5.0μM添加した群についてインキュベートを行い、検証した。インキュベート時間は72時間である。細胞死の誘導効果は、トリパンブルー染色により、細胞死した細胞をカウントし、全細胞数に対する細胞死した細胞数の頻度(%)で評価した。図10の下段のグラフはその結果を示している。縦軸が前記頻度を示している。特に、hsa−miR−634とシスプラチンを同時投与された細胞では、高頻度に細胞死が誘導されていることを表している。これにより、本発明の治療剤とシスプラチンとの併用による相乗的な抗がん効果が明らかになった。
(3)hsa−miR−634とシスプラチンの投与によるインビボでの腫瘍の細胞死誘導効果(図11)
インビボでのhsa−miR−634とシスプラチンの併用効果の検討は、ヌードマウスにKYSE170細胞を皮下注射することによって腫瘍を形成させることにより行った。図11の上段には、hsa−miR−634を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAと、シスプラチン(CDDP)の組み合わせ投与のin vivo実験スケジュールを示した。腫瘍を形成させるためのインキュベート期間は7日間である。インキュベート7日目に、コントロールmiRNA又はhsa−miR−634を、KYSE170細胞によりヌードマウスの皮下に形成された腫瘍の周囲に計5回注射により投与した。加えてマウスにおける、PBS又はシスプラチンの腹腔内投与は、miRNA投与の1回目と4回目に、miRNA投与と同時に計2回行った。KYSE170細胞の注射から21日後にマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出した。図11の下段のグラフは、摘出された腫瘍の重量(縦軸)を示している。当該下段のグラフにおいては7個体のPBSが用いられたマウスと、8個体のシスプラチンが用いられたマウスにおける、腫瘍の重量の「平均±SD値」を示している。両群間における顕著な差違がt−testによる解析により明らかになった。すなわち、p=0.0182がシスプラチン処理群でコントロールmiRNA群とhsa−miR−634投与間で認められ、p=0.00813がhsa−miR−634投与群でPBSとシスプラチン間で認められた。
インビボでのhsa−miR−634とシスプラチンの併用効果の検討は、ヌードマウスにKYSE170細胞を皮下注射することによって腫瘍を形成させることにより行った。図11の上段には、hsa−miR−634を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAと、シスプラチン(CDDP)の組み合わせ投与のin vivo実験スケジュールを示した。腫瘍を形成させるためのインキュベート期間は7日間である。インキュベート7日目に、コントロールmiRNA又はhsa−miR−634を、KYSE170細胞によりヌードマウスの皮下に形成された腫瘍の周囲に計5回注射により投与した。加えてマウスにおける、PBS又はシスプラチンの腹腔内投与は、miRNA投与の1回目と4回目に、miRNA投与と同時に計2回行った。KYSE170細胞の注射から21日後にマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出した。図11の下段のグラフは、摘出された腫瘍の重量(縦軸)を示している。当該下段のグラフにおいては7個体のPBSが用いられたマウスと、8個体のシスプラチンが用いられたマウスにおける、腫瘍の重量の「平均±SD値」を示している。両群間における顕著な差違がt−testによる解析により明らかになった。すなわち、p=0.0182がシスプラチン処理群でコントロールmiRNA群とhsa−miR−634投与間で認められ、p=0.00813がhsa−miR−634投与群でPBSとシスプラチン間で認められた。
(4)hsa−miR−634の骨肉腫細胞における標的遺伝子の発現抑制効果の検討
図12(図12−1〜4)は、骨肉腫細胞株であるU2OS細胞へのhsa−miR−634の導入による標的遺伝子の発現抑制効果を示している。図12−1〜4の各図面の左側のグラフに結果を示したルシフェラーゼアッセイは、前述の「伝統的なルシフェラーゼアッセイ」の手法に従って行った。すなわち、各標的遺伝子の3’非翻訳領域(UTR)をpmirGlo Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector(プロメガ社)のルシフェラーゼ遺伝子の下流に挿入することにより、各々の検討に用いるルシフェラーゼリポータープラスミドを調製した。各々の標的遺伝子は、(a)XIAP (X-linked inhibitor of
apoptosis protein:図12−1)、 (b)APIP (APAF1 interacting protein:図12−2)、 (c)OPA1(optic atrophy 1:図12−3)、及び、(d)TFAM(transcription factor A, mitochondrial:図12−4)、である。これらの4種の蛋白をコードする遺伝子のUTRのシード配列を、配列番号52(XIAP)、53(APIP)、54(OPA1)、及び、55(TFAM)にて、配列表において示した。また全ての部位特異性変異は、KOD mutagenesis kit(TOYOBO社)を用いて行った。また、各グラフの「mt」は、各々の変異挿入プラスミド(mutant:mt)を示している。
図12(図12−1〜4)は、骨肉腫細胞株であるU2OS細胞へのhsa−miR−634の導入による標的遺伝子の発現抑制効果を示している。図12−1〜4の各図面の左側のグラフに結果を示したルシフェラーゼアッセイは、前述の「伝統的なルシフェラーゼアッセイ」の手法に従って行った。すなわち、各標的遺伝子の3’非翻訳領域(UTR)をpmirGlo Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector(プロメガ社)のルシフェラーゼ遺伝子の下流に挿入することにより、各々の検討に用いるルシフェラーゼリポータープラスミドを調製した。各々の標的遺伝子は、(a)XIAP (X-linked inhibitor of
apoptosis protein:図12−1)、 (b)APIP (APAF1 interacting protein:図12−2)、 (c)OPA1(optic atrophy 1:図12−3)、及び、(d)TFAM(transcription factor A, mitochondrial:図12−4)、である。これらの4種の蛋白をコードする遺伝子のUTRのシード配列を、配列番号52(XIAP)、53(APIP)、54(OPA1)、及び、55(TFAM)にて、配列表において示した。また全ての部位特異性変異は、KOD mutagenesis kit(TOYOBO社)を用いて行った。また、各グラフの「mt」は、各々の変異挿入プラスミド(mutant:mt)を示している。
ルシフェラーゼレポータープラスミド、又は、変異挿入プラスミド(mt)と、内部標準コントロールとしてのpTKプラスミドには、共にU2OS細胞にトランスフェクトされ、次の日にhsa−miR−634に模した二本鎖RNA、コントロールmiRNAをトランスフェクトした。2日後、ホタルルシフェラーゼ活性とウミシイタケルシフェラーゼ活性を、Dual-Luciferase Reporter Assay System(プロメガ社)を用いて計測し、相対的ルシフェラーゼ活性は、対応する内部標準コントロールのウミシイタケルシフェラーゼで読み取りながらホタルルシフェラーゼ活性を標準化することにより算出された。
これらのルシフェラーゼアッセイの結果により、hsa−miR−634には、腫瘍細胞における上記の標的遺伝子各々の3’UTR領域のシード配列に直接的に結合し、これらの遺伝子の発現抑制を行う機能があることが明らかになった。また、これらの標的遺伝子発現の亢進が、がん細胞の悪性度を増長し、これらの遺伝子の発現状態を本発明の測定方法の指標として加入することにより、さらに測定の信頼性を高めることが可能であることも明らかになった。
さらに、図12−1〜4の各図面の右側の電気泳動図に結果を示したウェスタンブロッティングは、hsa−miR−634を模した二本鎖RNA若しくはコントロールmiRNAをリポフェクション法により骨肉腫細胞株U2OS細胞に、2nMまたは20nM導入して調製した。このように調製された各々の全細胞の溶解物はSDS−PAGEに付されて、蛋白はPVDFメンブレン(GEヘルスケア社)に転写された。0.05%のTween20と5%のスキムミルクを含有するTBSで1時間ブロッキングを行った後、当該膜を抗体と共に一晩反応した。初期の抗体の希釈は、抗XIAPウサギ抗体(1/1000希釈)、抗APIPウサギ抗体(1/1000希釈)、抗OPA1ウサギ抗体(1/1000希釈)、抗TFAMウサギ抗体(1/1000希釈)、及び、抗βアクチンマウス抗体(1/5000希釈)であった。当該膜は洗浄され、HRP結合抗マウス又は抗ウサギIgG抗体(共に1/2000希釈)で2時間曝露した。結合した抗体は、HRP染色溶液又はECLウェスタンブロッティングキット(セルシグナリングテクノロジー社)の操作用マニュアルに従って、視覚化された。
これらのウェスタンブロッティングの結果により、hsa−miR−634の腫瘍細胞へ導入することにより、各々の標的遺伝子のタンパク質レベルが低下することを示している。
ここに示されたルシフェラーゼアッセイとウェスタンブロティングの結果は、hsa−miR−634のがん治療剤としての優れた効果を示すと共に、特に、NRF2は無論のこと、これに加えて、XIAP、APIP、OPA1、又は、TFAMの遺伝子発現が亢進又は安定化したがん細胞に対して、特に有用であることを示している。
また、hsa−miR−634とシスプラチンを組み合わせて投与することにより、相乗的な抗がん効果が発揮され得ることが明らかになった。すなわち本発明により、hsa−miR−634の塩基配列である配列番号2を含む核酸からなるがん治療剤とシスプラチン等のプラチナ製剤を組み合わせてなるがん治療剤が提供される。なお、ここでhsa−miR−634の塩基配列である配列番号2を含む核酸からなるがん治療剤とシスプラチン等のプラチナ製剤の組み合わせの態様は、特に限定されない。同一の組成物の中に両剤が含有されていてもよいし、両剤を別々に投与してもよい。投与時間の前後・同時を問わないことも前述した通りである。hsa−miR−634の塩基配列である配列番号2を含む核酸からなるがん治療剤の投与態様は前述した通りであり、例えば、シスプラチンの投与態様は、公知の方式に従う。投与態様は前述した通りであり、例えば、シスプラチンの投与態様は、公知の方式に従う。具体的には、通常大人一人当たり一日70〜80mg/m2(体表面積)を、一日1回程度で、2〜5ヶ月間を投薬期間とし、投薬頻度(概ね1〜4週に1度)を決めて、通常は点滴にて投与される。
上述のように、本発明者らはNRF2遺伝子を直接標的とするmiRNAが、NRF2が介在するがん性経路を抑制することを見出し、本発明を完成した。NRF2は、NRF2の機能獲得型変異、KEAP1の機能喪失型変異、及び、p62蛋白の蓄積によるKEAP1の機能的不活性化を含むサバイバル機構により、多くのタイプのヒトのがんにおいて構造的に安定化されている。本発明者らは特定のmiRNAが、がんの症例において異常低値調整が認められることを示した。重要なことは、NRF2若しくはKEAP1の変異と、さらにp62蛋白の蓄積と同時に起こる一つ若しくはそれ以上のmiRNAの異常低値調整が、腫瘍におけるNRF2の安定性とがん患者の予後不良と密接に連関していることであった。
さらに本発明者らは、直接的にNRF2を標的とする特定のmiRNAの発現状態の検討を行い、これらのmiRNAの低値調整は、基礎的なNRF2活動レベルを増大させることを助け、腫瘍におけるNRF2又はKEAP1の遺伝子異常、並びにp62蛋白の蓄積と一緒に若しくは別個に、NRF2蛋白を相乗的に安定化させていることを明らかにした。
本発明者らは上記の事実に基づき、がんの悪性度やがん患者の予後を鑑別することが可能な本発明の測定方法を提供するに至ったのである。
NRF2、KEAP1、又はp62の各蛋白の蓄積、さらに、XIAP、APIP、OPA1、又はTFAMの各遺伝子の発現の亢進又は安定化は、NRF2が安定化した腫瘍のスクリーニングを行う際の指標となる。それと同時に、腫瘍のNRF2活性を阻害すること自体は、NRF2が安定化された腫瘍の治療に対するまさに合理的なアプローチである。
従来の研究によっても、一つのmiRNAは各々の遺伝子の3’−UTRに直接結合することにより、複数の標的の発現を阻害することができることが示されている(非特許文献25)。このことは、一つのmiRNAは一つの情報伝達系に係わっているいくつかの遺伝子を同時に標的とすることを示唆している。実際にmiR−16は、CDK1とCDK2を直接的な標的とすることによりセルサイクルをネガティブに調整することが報告されている(非特許文献26)。
さらにmiR−34aは、複合遺伝子CCND1,CDK4,CDK6,MYCを直接標的とすることにより、腫瘍増大と転移のネガティブ調節因子として働くことが知られている(非特許文献27)。本発明者らはhsa−miR−507の投与は、NRF2の転写標的であるNRF2とME1を標的とすることにより、実際にヌードマウスにおけるA549細胞から形成された腫瘍の増大を阻害する効果が認められることを示した。本発明者らによるインビボにおける解析により、hsa−miR−507のトランスフェクションは、A549細胞におけるシスプラチン等のプラチナ製剤の細胞成長抑制の感受性の増加に導くことが明らかとなった。化学療法の際の細胞ストレスに対する抵抗性の獲得に加えて、NRF2は代謝の調節による腫瘍細胞の増大をも後押しする。これに対して本発明者らは、インビトロとインビボの両方でhsa−miR−507によって腫瘍の増大が阻害されることを示した。このhsa−miR−507による成長阻害は、NRF2とその標的遺伝子の抑制を通じての内的代謝の変化に起因する可能性がある。
本発明者らは、さらにhsa−miR−634のインビトロとインビボでの腫瘍抑制効果を明らかにした。この腫瘍抑制効果は、腫瘍細胞をアポトーシスに導くことにより実現されるものであった。さらに、hsa−miR−634とシスプラチン等のプラチナ製剤を併用することによって、著しく増強されることが見出された。この事実も、本発明のがん治療剤の有効性を強く裏付けるものである。
如上のように本発明は、miRNAに基づく分子的診断と、NRF2等が安定化した腫瘍の治療の新たな手段を提供するものである。
Claims (20)
- ヒト検体における、hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、hsa−miR−129−5p、hsa−miR−639、hsa−miR−337、hsa−miR−153、及び、hsa−miR−556、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上を定量して、当該定量値の低下を指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、がん患者の予後、を鑑別することを特徴とする、マイクロRNAの測定方法。
- ヒト検体における、hsa−miR−507、hsa−miR−634、hsa−miR−450a、及び、hsa−miR−129−5p、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上を定量して、当該定量値の低下を指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、がん患者の予後、を鑑別することを特徴とする、マイクロRNAの測定方法。
- ヒト検体における、hsa−miR−26a、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−190、hsa−miR−567、hsa−miR−125b、hsa−miR−125a、hsa−miR−432*、及び、hsa−miR−29、からなる群のマイクロRNAから選ばれる1種又は2種以上を定量して、当該定量値の上昇を指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、患者の予後、を鑑別することを特徴とする、マイクロRNAの測定方法。
- さらに腫瘍におけるNRF2遺伝子の変異、KEAP1遺伝子の変異、及び、p62蛋白の蓄積、からなる群から選ばれる1〜3種を検出して、これらの遺伝子変異を指標として加入することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロRNAの測定方法。
- さらに腫瘍におけるXIAP、APIP、OPA1、及び、TFAMからなる群から選ばれる1〜4種の遺伝子の発現の亢進又は安定化を検出して、これらを指標として加入することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロRNAの測定方法。
- 腫瘍の悪性度の増大、NRF2の活性化、又は、がん患者の予後の悪化、に向かうことを示す個別指標の総数をスコア指標として、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、患者の予後、を鑑別することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロRNAの測定方法。
- ヒト検体は腫瘍検体又は血液検体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロRNAの測定方法。
- 食道がん、肺がん、乳がん、口腔がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、子宮がん、若しくは、皮膚がんにおける、腫瘍の悪性度、NRF2の活性化、又は、患者の予後、を鑑別することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のマイクロRNAの測定方法。
- hsa−miR−507の塩基配列である配列番号1、hsa−miR−634の塩基配列である配列番号2、hsa−miR−450aの塩基配列である配列番号3、hsa−miR−129−5pの塩基配列である配列番号4、hsa−miR−639の塩基配列である塩基配列5、hsa−miR−337の塩基配列である配列番号6、hsa−miR−153の塩基配列である配列番号7、及び、hsa−miR−556の塩基配列である配列番号8、からなる群の塩基配列から選ばれる1種又は2種以上を含む核酸からなるがん治療剤。
- hsa−miR−507の塩基配列である配列番号1、hsa−miR−634の塩基配列である配列番号2、hsa−miR−450aの塩基配列である配列番号3、hsa−miR−129−5pの塩基配列である配列番号4、からなる群の塩基配列から選ばれる1種又は2種以上を含む核酸からなるがん治療剤。
- 核酸は二本鎖RNAであることを特徴とする、請求項9又は10に記載のがん治療剤。
- がん細胞に対するストレスの付与手段と組み合わせて用いることを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載のがん治療剤。
- がん細胞に対するストレスの付与手段は、抗癌剤、放射線療法、外科的手術、又は、生検、であることを特徴とする、請求項9〜12のいずれかに記載のがん治療剤。
- がん細胞は、NRF2が亢進又は安定化したがん細胞である、請求項9〜13のいずれかに記載のがん治療剤。
- がん細胞は、NRF2に加えて、XIAP、APIP、OPA1、及び、TFAMからなる群から選ばれる1〜4種が亢進又は安定化したがん細胞である、請求項14に記載のがん治療剤。
- がん治療剤の本質成分は、hsa−miR−634の塩基配列である配列番号2を含む核酸からなる、請求項15に記載のがん治療剤。
- (1)プラチナ製剤、及び、(2)hsa−miR−507の塩基配列である配列番号1を含む核酸又はhsa−miR−634の塩基配列である配列番号2を含む核酸、を組み合わせてなる、がん治療剤。
- プラチナ製剤はシスプラチンである、請求項17に記載のがん治療剤。
- がん細胞は、食道がん、肺がん、乳がん、口腔がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、子宮がん、骨肉腫、又は、皮膚がんのがん細胞であることを特徴とする、請求項9〜18のいずれかに記載のがん治療剤。
- 請求項9〜19のいずれかに記載のがん治療剤を含有することを特徴とする、がん治療のための医薬組成物。
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