JPWO2013146309A1 - 鍛造方法及び鍛造用金型 - Google Patents

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Abstract

本発明の鍛造方法は、矩形の開口部を有し、 矩形状の平面である壁部により形成され、ワークを入れるワーク空間45が形成された鍛造用金型20の該ワーク空間45に、矩形状の6面体である第1形状のワークWを載置する載置工程と、載置されたワークWを矩形状の6面体である第2形状に変形させることによりワークに塑性歪みを加える加工工程と、を含み、載置工程と加工工程とを2回以上行うことを特徴とする。例えば、鍛造用金型のワーク空間でワークを加圧変形させるため、形状安定性をより確保することができる。また、鍛造用金型20は、複数の型部品が外型の内周に嵌め込まれた構造を有するため、例えば、ワークWの加圧時に内型50にかかる応力を複数の型部品によって外周側により均等に分散することができ、金型の破壊などをより抑制することができる。

Description

本発明は、鍛造方法及び鍛造用金型に関する。
従来、鍛造方法としては、銅ベリリウム合金からなる直方体のバルク体を、互いに直交するX,Y,Z軸から加圧変形させ、塑性歪みを加えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によると、塑性歪みを加えることにより、表面から内部まで均一な硬さを保持し、加工歪みが生じにくいバルク体を提供することができる。
WO2009/119237号公報
しかしながら、この特許文献1に記載された鍛造方法では、X,Y,Z軸から加圧変形させる工程を繰り返し行うことから、例えば、生産効率を考慮して加工速度を上げるなどすると、この繰り返しの間に、バルク体の直方体の形状が変形してしまうという課題があった。このように、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することが求められていた。
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる鍛造方法及び鍛造用金型を提供することを主目的とする。
即ち、本発明の鍛造方法は、
矩形の開口部を有し、 矩形状の平面である壁部により形成され、ワークを入れるワーク空間が形成された鍛造用金型の該ワーク空間に、矩形状の6面体である第1形状のワークを載置する載置工程と、
前記載置されたワークを矩形状の6面体である第2形状に変形させることにより該ワークに塑性歪みを加える加工工程と、を含み、
前記載置工程と前記加工工程とを2回以上行うことを特徴とするものである。
また、本発明の鍛造用金型は、
矩形状の6面体である第1形状のワークから矩形状の6面体である第2形状のワークに変形させることにより該ワークに塑性歪みを加える鍛造方法に用いられる鍛造用金型であって、
円形の開口部を有し該円の内周面が形成された外型と、
組み合わされた複数の型部品が前記外型の内周に嵌め込まれた状態で、矩形の開口部を有し矩形状の平面である壁部により、前記ワークを入れるワーク空間が形成される内型と、を備えたものである。
本発明では、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる。この理由は、例えば、鍛造用金型のワーク空間でワークを加圧変形させるため、形状安定性をより確保することができるためである。また、鍛造用金型は、複数の型部品が外型の内周に嵌め込まれた構造を有するため、例えば、ワークの加圧時に内型にかかる応力を複数の型部品によって外周側により均等に分散することができ、金型の破壊などをより抑制することができる。このため、例えば、金型の交換などをより抑制可能であり、ひいては、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができるのである。
鍛造用金型20の一例を示す分解斜視図。 鍛造用金型20の平面図及び断面図。 鍛造用金型20の斜視図及び金型ユニット40の分解斜視図。 鍛造方法の一例を示す説明図。 ワーク空間45とワークWとの体積比の説明図。 鍛造方法によるワーク組織の変化の説明図。 鍛造用金型20Bの平面図及び断面図。 鍛造用金型20Bの斜視図。 鍛造用金型20Cの平面図及び断面図。 鍛造用金型20Cの斜視図。 鍛造用金型20Dの平面図及び断面図。 浮上機構60を備えた鍛造用金型20Eの説明図。 浮上機構70を備えた鍛造用金型20Fの説明図。 銅合金バルク体の組織の拡大写真。 銅合金バルク体の超音波深傷試験の測定結果。 自由鍛造を行ったサンプルの外観写真。 鍛造用金型を用いたサンプルの外観写真。
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに限定するものではない。まず、本発明の鍛造方法に利用する鍛造用金型20から説明する。図1は、鍛造用金型20の一例を示す分解斜視図であり、図2は、鍛造用金型20の平面図及び断面図であり、図3は、鍛造用金型20の斜視図及び金型ユニット40の分解斜視図である。鍛造用金型20は、矩形状の6面体である第1形状のワークから矩形状の6面体である第2形状のワークに変形させることにより該ワークに塑性歪みを加える鍛造方法に用いられるものである。この鍛造用金型20は、図1,2に示すように、ワークWを上方から加圧変形させる上金型21と、直方体の空間であるワーク空間45にワークWを格納する下金型30とを備えている。
上金型21は、図示しない冷間鍛造用プレス装置のスライドノックアウトビームに固定され、上下方向に移動して下金型30に載置されたワークWを上型圧子22により押圧する部材である。この上金型21は、円盤状の部材の下面にワークWを加圧変形させる上型圧子22が設けられている。この上型圧子22は、先端が矩形状の平面を有する角柱状に形成されている。
位置合せ治具28は、上型圧子22とワーク空間45との位置合わせに用いられる治具である。この位置合せ治具28は、金型ユニット40の上部に載置して使用される。
下金型30は、円盤状の部材であり、図示しない冷間鍛造用プレス装置のボトムノックアウトビームに固定される部材である。この下金型30は、台座となる第1下金型31と、第1下金型31の上方に固定される第2下金型36と、ワーク空間45の底面を形成するスライド可能なスライド台座35と、ワーク空間45が形成され第1下金型31と第2下金型36とに挟まれて下金型30内に固定される金型ユニット40と、を備えている。
第1下金型31は、円盤状の部材であり、その上面には、板状のスライド台座35をスライド可能に挿入するスライド溝32が、円盤の中央部から外周まで形成されている。また、円盤の中央には、金型ユニット40に形成されたワーク空間45に連通する連通空間33が形成されている。即ち、この下金型30では、スライド台座35をスライドさせると、ワーク空間45と連通空間33とが連通し、ワーク空間45が外部に連通するよう構成されている。したがって、下金型30では、スライド台座35をスライドさせると、ワーク空間45からワークWをこの連通空間33へ移動可能となる。スライド台座35は、ワーク空間45の底面を形成し、ワークWが載置される部材である。このスライド台座35は、ワークWへの鍛造処理での押圧力に耐えられる強度を有している。第2下金型36は、第1下金型31と同じ直径を有する円盤状の部材であり、その中央には、円形の開口を有し金型ユニット40を装着する装着空間37が形成されている。第1下金型31と第2下金型36とは、図示しないボルトにより強固に固定される。なお、第1下金型31には、連通空間33と外部と連通する貫通孔34が形成されている(図2参照)。
金型ユニット40は、図3に示すように、円形の開口部を有しこの円の内周面42が形成された外型41と、組み合わされた複数の型部品が外型41の内周に嵌め込まれた状態でワーク空間45が形成される内型50とを備えている。この金型ユニット40では、加熱した外型41の内周に内型50をセットし、冷却することにより、内型50が外型41の内側に焼嵌められている。外型41は、内周面42が形成されたリング状の部材であり、その内部に内型50が嵌め込まれる。外型41は、その外周に段差が設けられており、この段差が第2下金型36の内周に引っ掛かることによって、装着空間37で固定される。内型50は、外形が段差のある円盤状の外形を有し、ワーク空間45の2面により形成される角部46で各々が分離される複数の部材を備え、その中心に矩形の開口部を有するワーク空間45が形成された部材である。この内型50は、2個の第1型部材51と、2個の第2型部材55とにより構成されている。第1型部材51は、内型50の中心側に矩形状の平面である壁部54を有し、その両端に凸部52が形成されており、側面である接続面53で第2型部材55と接続する。第2型部材55は、その中央側に2本の凹部56が形成されており、凹部56に区切られた外側が第1型部材51と接触する接続面57であり、内側が矩形状の平面である壁部58となっている。この内型50では、凸部52と凹部56とが嵌め込まれることにより、円盤状の部材となり、第1型部材51及び第2型部材55の移動が規制される。また、内型50では、接続面53に直交する矩形状の平面である第1型部材51の壁部54と、接続面57と平行な矩形状の平面である第2型部材55の壁部58とによりワーク空間45が形成されている。また、この内型50は、複数の第1型部材51及び第2型部材55を、接続面53及び接続面57で組み合わせると、ワーク空間45の角部46が形成されるよう構成されている。
ワークWは、例えば、銅合金とすることができる。ワークWには、Be及びCuを含む合金のほか、これと同様に加工硬化性の高く高強度となるNi、Sn及びCuを含む銅合金、Ti、Fe及びCuを含む銅合金、Ni、Si及びCuを含む銅合金などを採用してもよい。即ち、銅合金としては、例えば、CuBeCo、CuBeNi、CuNiSn、CuTiFeなどが挙げられ、このうちCuBeCo、CuBeNiなどがより好ましい。これらの合金は、詳しくは後述するが、元素や組成の選択範囲によって均質化処理工程、固溶化処理工程および時効硬化処理工程の温度や時間などがそれぞれ異なる場合があるが、本発明の鍛造処理工程を実行することができる。あるいは、高純度の銅(例えば4N-Cu)をワークWとしてもよい。また銅合金以外では、例えば、ワークWとして、マグネシウム合金(AZ31;Mg-Al-Zn-Mn系合金など)や、鉄鋼材(Fe−20CrやSUS304など)、アルミニウム合金(7475Al;Al-Zn-Mg-Cu系合金など)などを用いるものとしてもよい。
このように構成された鍛造用金型20では、複数の型部品が外型41の内周に嵌め込まれた構造を有するため、例えば、ワークWの加圧時に内型50にかかる応力を複数の型部品によって外周側により均等に分散することができ、金型の破壊などをより抑制することができる。また、内型50は、ワーク空間45の2面で形成される角部46で各々が分離される複数の型部品により形成されているため、応力のかかるワーク空間45の角部46で金型の割れが生じるのを防止することができる。更に、スライド台座35をスライドさせるとワーク空間45から外部に連通する空間が形成されるため、連通空間33から加工後のワークWを取り出しやすい。
次に、本発明の鍛造方法について説明する。本発明の鍛造方法は、例えば、銅ベリリウム系合金の製造処理に適用することができる。以下、銅ベリリウム系合金の製造方法を具体例として説明する。本実施形態の製造方法では、(1)均質化処理工程と、(2)固溶化処理工程と、(3)冷却処理工程と、(4)本発明の鍛造方法である鍛造処理工程と、(5)時効硬化処理工程とを含むものとしてもよい。
(1)均質化処理工程
この工程では、Cuのマトリクス中にBe(又はBe化合物)を固溶させ、結晶粒に転位が生じていない銅合金を生成する処理を行う。具体的には、Cu100-(a+b)BeaCob(0.4%≦a≦2.0%,0.15%≦b≦2.8%,a+b≦3.5%)の質量比、またはCu100-(c+d)BecNid(0.05%≦c≦0.6%,1.0%≦d≦2.4%,c+d≦3.0%)の質量比で構成された銅合金を高周波溶解炉で溶解し、鋳塊を作製する。このとき、不純物となるFe,S,Pを質量比で0.01%未満に制限し得るのが好ましい。得られた鋳塊を、固溶温度域(700℃〜1000℃の範囲内)で所定の保持時間(1時間〜24時間)に亘って加熱保持することにより、鋳造時に非平衡的に生成する偏析などの後工程に悪影響を及ぼす不均一な組織を除去して均質化する。次に、得られた鋳塊を、所望の大きさの直方体形状の銅合金(バルク体)に加工する。銅合金の表面に形成された酸化皮膜は切削により除去してもよい。バルク体は、互いに直交する3つの軸(X,Y,Z軸)方向に沿って延びる辺を有する直方体としてもよい。このバルク体は、各辺(X辺,Y辺,Z辺)の長さの比を、x:y:z(但し、x<y<z、1.03x≦y≦1.49x、1.06x≦z≦2.22x、z=(y/x)2xを満たす)とする直方体形状であることが好ましい(後述図5参照)。また、このとき、1.10x≦y≦1.20x、1.21x≦z≦1.44xを満たす直方体形状とするのがより好ましい。
(2)固溶化処理工程
この工程では、均質化処理で得られたバルク体を、固溶温度域(700℃〜1000℃の範囲内)で所定の固溶保持時間(1時間〜24時間)に亘って加熱保持し、Cuのマトリクス中にBe(又はBe化合物)を固溶させる処理を行う。固溶化処理工程ののち、このバルク体に対して、過時効温度域(550〜650℃の範囲内)で所定の時間(2〜6時間)保持する過時効処理を行うものとしてもよい。こうすれば、その後の各製造工程において悪影響を及ぼさない程度の大きさ(例えば平均粒径1μm程度)まで銅合金の析出粒子を成長させることができると考えられる。なお、固溶化処理と過時効処理は、それぞれ独立(不連続)に処理してもよいし、連続的に処理してもよい。この過時効処理により、適度に析出した粒子が好適に働いて内部まで効率よく均一に変形する効果が得られる。これにより複数の結晶粒を横断するようなせん断帯組織の生成が抑えられて割れや破壊等が生じることがないため、表面から内部まで均一な硬さを保持でき、疲労寿命に優れ、加工ひずみが生じにくい銅ベリリウムバルク体を得ることができる。
(3)冷却処理工程
この工程では、固溶化処理を行ったバルク体を、水冷、空冷、又は放冷によって、銅合金の表面温度が例えば20℃以下となるように冷却する。冷却速度はバルク体の大きさによって異なるが、−100℃/s以上(好ましくは−200℃/s以上)とするのが好ましい。
(4)鍛造処理工程
この工程では、冷却後のバルク体をワークWとし、冷却抜熱しながら直方体の互いに直交するX軸、Y軸、Z軸方向から鍛造する処理を行う。この鍛造処理工程では、例えば鍛造用金型20のワーク空間45に矩形状の6面体(直方体)である第1形状のワークWを載置する載置工程と、載置されたワークを矩形状の6面体である第2形状に変形させることによりワークWに塑性歪みを加える加工工程と、を含み、載置工程と加工工程とを2回以上行うものとする。図4は、本発明の鍛造方法の一例を示す説明図であり、図4(a)が載置工程、図4(b)が加工工程、図4(c)が打出工程、図4(d)が取出工程の説明図である。図5は、本発明の鍛造方法によるワーク組織の変化の説明図である。この鍛造処理工程では、ワークWをワーク空間45に入れ、加圧変形させ、打ち出して取り出す処理を繰り返し行うのである。なお、鍛造用金型20の使用時には、ワークWの表面やワーク空間45を形成する壁部54,58などに潤滑剤を用いることが好ましい。即ち、ワークWと鍛造用金型20との間に潤滑剤が介在するように鍛造処理を行うものとしてもよい。潤滑剤としては、例えば、ジェル体(金属石鹸など)、粉末(MoS2、黒鉛など)、液体(鉱油など)を用いることができる。
載置工程(図4(a))では、ワークWの体積に対するワーク空間45の体積の比である体積比が所定の関係となるワークWを用いる。例えば、この体積比は、1.20以上3.50以下の範囲となるワークW及びワーク空間45とすることが好ましく、1.22以上2.20以下の範囲がより好ましい。また、このワーク空間45とワークWとの体積比がワークWの各辺(X辺,Y辺,Z辺)の長さの比をx:y:zとしたとき、(y/x)×(z/y)×z(1+α)/z;(但し、x<y<zであり、0<α≦0.5)を満たすものとし、上型圧子22をワークWの上面から(z−x)の量を押し込んだ加圧量とすることが好ましい。即ち、ワークWの各辺(X辺,Y辺,Z辺)の長さの比を、x:y:z(但し、x<y<z)の直方体形状としたとき、ワーク空間45は、y:z:z(1+α)の直方体形状とすることが好ましい。このとき、ワークWは、各辺(X辺,Y辺,Z辺)の長さの比x:y:zが、1.10x≦y≦1.20x、1.21x≦z≦1.44x、z=(y/x)2xを満たす直方体形状とすることが好ましい。なお、αは天面係数とも称する。ここで、「(z−x)の量を押し込む」とは、(z−x)に所定のマージン量を加味した量を押し込むことを含むものとする。例えば、材料の熱膨張、装置全体の剛性、金型の寸法公差などにより、設定値より実際の押し込み量が小さくなる場合がある。ここでは、上型圧子22をワークWの上面から{z−x・β}の量を押し込むものを含むものとする。この補正係数βは、機械トレランスの補正係数であり、熱膨張分による押し込み量の変動値、装置全体の剛性(弾性変形)分の変動値、金型等の寸法公差を含むものとし、例えば、1.0±0.05としてもよい。この補正係数βの0.05という値は、鋼材の熱膨張係数が約12×10-6/℃であり、100℃上昇すると0.12%線膨張することから、膨張率の50倍として経験的に求めた値である。また、ワークWの弾性変形分の戻り(スプリングバック)により、設定値より実際の押し込み量が小さくなる場合もある。例えば、ばね材として用いるワークWなどでは、上記補正係数は1.0±0.05よりも大きくなる場合があることから、この補正係数は、用いる材料に応じて適宜設定するものとすればよい。図5は、ワーク空間45とワークWとの体積比の説明図であり、図5(a)がワーク空間45にワークWを入れた上面図、図5(b)がA−A断面図、図5(c)がワークWの斜視図である。この体積比と加圧量とを採用することで1回の処理量を自動的に決めることができ、処理後に処理前と同じ各辺の長さの比が再現されるため、繰り返し処理するための効率がよくなる。この体積比と加圧量の範囲との組合せによって、より効率よくワークWに塑性歪みを加えることができる。また、載置工程では、ワーク空間45のいずれかの側壁部の2面と接触した状態でワークWを載置することが好ましい。ここでは、ワークWを載せるスライド台座35の上面と、壁部54及び壁部58の3面に沿うようにワークWを載置するのが好ましい。こうすれば、加工工程でワークWの位置ずれを抑制可能であるため、より効率よくワークWに塑性歪みを加えることができる。
加工工程(図4(b))では、十分な押圧力をもってワークWをワーク空間45内で変形させる。加工工程では、直方体の互いに直交するX軸、Y軸、Z軸方向からそれぞれ鍛造する。鍛造の順序は、ワークWが有する辺のうち、最も長い辺に対応する軸方向から順に圧力を加えるのが好ましい。例えば、図6に示すように、ワークWのX軸、Y軸、Z軸の順に加工工程を実行する場合について説明する。この加工工程では、加圧の際のワークWの表面温度は、120℃以下(より好ましくは20〜100℃の範囲内)を保つようにするのが好ましい。表面温度が120℃を超えると、複数の結晶粒を横断するようなせん断帯組織を生じやすくなるために割れや破壊等が生じ、加工前の形状を維持することができなくなり、好ましくない。加圧圧力は1200MPa以下とするのが好ましい。加圧圧力が1200MPa以下では、銅合金に複数の結晶粒を横断するようなせん断帯組織が生じるのをより抑制可能である。加工処理の1回分の圧下量(加工率%)は、18%以上33%未満の範囲内とするのが好ましい。また、ワークWに加えられる塑性歪みの量(歪み量;ε)は、0.2以上0.36以下の範囲内とするのが好ましい。なお、「圧下量」とは、加工変形量をもとの高さで除した割合(加工率)であり、歪み量ε=ln(1−加工率)で示される。また、ワークWに加えられる塑性歪みの歪み速度は、1×10-3(s-1)以上1×10+1(s-1)以下の範囲が好ましく、1×10-2(s-1)以上1×10+1(s-1)以下の範囲がより好ましい。この加工工程では、例えば、変形前の第1形状のワークWと変形後の第2形状のワークとがX,Y,Z軸の長さは異なるが第1形状と第2形状とが同じ形状になる変形をワークWに行うことが好ましい。即ち、ワークWの各辺の比は、変形前と変形後で1:e:fに保たれることが好ましい。こうすれば、各軸方向に対して均等な塑性歪みを与えることができる。
打出工程(図4(c))では、スライド台座35をスライド溝32に沿ってスライドさせ、連通空間33を形成させたのち、上型圧子22により上方から加圧してワーク空間45内のワークWを連通空間33へ打ち出す処理を行う。
取出工程(図4(d))では、打ち出したワークWを連通空間33から取り出す処理を行う。例えば、スライド台座35を取り外した空間から、貫通孔34(図2参照)に押出棒などにより押し出してワークWを取り出す。このとき、取り出したワークWを冷却することが好ましい。冷却方法は、空冷、水冷、放冷などいずれの方法でも構わないが、繰り返し作業の効率性と能率を考慮すると、水冷による冷却が望ましい。冷却は、加圧により銅合金から発生する熱銅合金の表面温度が20℃以下となるように行うのが好ましい。
この鍛造処理工程では、載置工程、加工工程、打出工程及び取出工程を所定の加圧回数まで行うものとする。ここで、「加圧回数」とは、各軸(X軸、Y軸、Z軸)方向のいずれか一方からワークWに圧力が加えられた場合を1回としてカウントアップされる回数をいうものとする。また、「所定の加圧回数」とは、銅合金に加えられる塑性歪み量の累積値(累積歪み量;εtotal)が、例えば1.8以上、より好ましくは4.0以上となる回数をいうものとしてもよい。
(5)時効硬化処理工程
この工程では、鍛造処理後のワークW(銅合金)を析出温度域(200℃〜550℃の範囲内)で矩形銅合金が所定の時効硬化時間(1時間〜24時間)に亘って保持することにより、銅合金に含まれるBe(又は、Be化合物)を析出硬化させる処理を行う。このようにして、硬度などの特性をより向上した、銅ベリリウム合金を製造することができる。
以上説明した実施形態の鍛造方法によれば、鍛造用金型20のワーク空間45でワークWを加圧変形させるため、形状安定性をより確保することができる。また、鍛造用金型20は、複数の型部品が外型50の内周に嵌め込まれた構造を有するため、例えば、ワークWの加圧時に内型50にかかる応力を複数の型部品によって外周側により均等に分散することができ、金型の破壊などをより抑制することができる。このため、例えば、金型の交換などをより抑制可能であり、ひいては、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる。また、内型50が角部46で各々が分離される複数の型部品により形成されているため、応力のかかるワーク空間45の角部46で金型の割れが生じるのを防止することができ、ひいては、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる。更に、スライド台座35をスライドさせるとワーク空間45から外部に連通する空間が形成されるため、連通空間33から加工後のワークWを取り出しやすいため、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる。更にまた、載置工程では、ワーク空間45とワークWとの体積比が(y/x)×(z/y)×z(1+α)/z;(但し、x<y<z、1.10x≦y≦1.20x、1.21x≦z≦1.44x、z=(y/x)2x、0<α≦0.5を満たす)となる範囲とし、上型圧子22をワークWの上面から(z−x)の量を押し込んだ加圧量とするワークを用いることが好ましい。この体積比と加圧量とを採ることで1回の処理量を自動的に決めることができ、処理後に処理前と同じ各辺の長さの比が再現されるため、繰り返し処理するための効率がよくなる。この体積比と加圧量との組合せによって、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる。そして、加工工程では、第1形状のワークWと第2形状のワークWとがX,Y,Z軸の長さは異なるが第1形状と第2形状とが同じ形状になる変形をワークWに行うため、各軸に均等な塑性歪みを加えることができる。そしてまた、加工工程では、加工率が18%以上33%未満の範囲でワークWを変形させるため、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる。そして更に、ワークWは、Be及びCuを含む合金であるため、本発明を適用する意義が高い。そして更にまた、金型ユニット40を第2下型36に装着する構造を有するため、金型ユニット40の交換が行いやすく、様々な形状のワークWに対して鍛造処理をより効率よく実行することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。例えば、バルク体のワークの各面やこれに接する各金型の表面には、潤滑剤を塗ってもよい。この際の潤滑剤は、ジェル状、粉末状、液状など必要に応じて選択することができる。その際には熱伝導性が高く、ワークWからの加工熱を内型へ熱伝達することを妨げない潤滑剤を選択することがより好ましい。
例えば、上述した実施形態では、凸部52や凹部56が形成されている複数の型部材を備える鍛造用金型20を用いるものとしたが、特にこれに限定されず、図7,8に示す鍛造用金型20Bを用いるものとしてもよい。図7は、鍛造用金型20Bの平面図及び断面図であり、図8は、鍛造用金型20Bの斜視図である。鍛造用金型20Bは、同一形状に形成された4個の型部材51Bを組み合わせた内型50Bを備えている。また、この鍛造用金型20Bでは、外型41が省略されており、第2下型36が本発明の外型に相当する構成となっている。こうしても、ワークWの加圧時に内型50Bにかかる応力を複数の型部品51Bによって外周側により均等に分散することができ、金型の破壊などをより抑制することができ、ひいては、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる。なお、型部材51Bの任意の位置に凸部52や凹部56を形成するものとしてもよい。
あるいは、上述した実施形態では、複数の型部材からなる内型50を備える鍛造用金型20を用いるものとしたが、特にこれに限定されず、図9,10に示す鍛造用金型20Cを用いるものとしてもよい。図9は、鍛造用金型20Cの平面図及び断面図であり、図10は、鍛造用金型20Cの斜視図である。鍛造用金型20Cは、外型41が省略されており、分割されていない内型50Cを備えている。こうしても、鍛造用金型20Cを用い、直方体形状のワーク空間45でワークWを加圧変形させるため、形状安定性をより確保することができ、ひいては、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる。
上述した実施形態では、複数の型部品が外型41の内周に嵌め込まれた状態でワーク空間45が形成される内型50を備えているものとしたが、特にこれに限定されず、円周ではない外型の内部に組み込まれるものとしてもよい。また、角部46で各々が分離される複数の型部品を備えているものとしたが、角部46で各々が分離されてもよいし、角部46以外の部分で各々が分離されるものとしてもよい。
上述した実施形態では、第1下金型31、金型ユニット40、スライド台座35及び第2下金型36により下金型30が形成されるものとしたが、特にこれに限定されず、他の部材を加えてもよいし、これらのうちいずれか1以上を省略するものとしてもよい。例えば、上述した実施形態では、スライド台座35を備えているものとしたが、スライド台座35を備えていないものとしてもよい。
上述した実施形態では、鍛造処理工程において、ワークWを取り出したあとに冷却するものとしたが、特にこれに限定されず、図11に示すように鍛造用金型20Dを用い、鍛造処理中にワークWの冷却を図るものとしてもよい。図11は、鍛造用金型20Dの平面図及び断面図である。この鍛造用金型20Dは、ワーク空間45の底面を形成する第1下型31(基部)を備え、この第1下型31には、冷却媒体が流通する流通経路34Dがワーク空間45の近傍に形成されている。ワークWの加工変形時に温度上昇が起きることがあるが、こうすれば、ワークWを冷却してその破壊などをより抑制でき、ひいては、ワークの鍛造処理をより効率よく実行することができる。
上述した実施形態では特に説明しなかったが、図12、13に示すように、ワーク空間の底面を形成する基部と、基部部に形成されワーク空間に挟まったワークの底面を押圧しワークを浮上させる浮上機構と、を備える鍛造用金型としてもよい。このとき、浮上機構は、基部としてのスライド台座35に形成されているものとしてもよい。図12は、浮上機構60を備えた鍛造用金型20Eの説明図であり、図12(a)が図4(b)の加工工程後、図12(b)がワークWを浮上した説明図、図12(c)がワークWの打出しの説明図である。この浮上機構60は、スライド台座35に形成されており、ワークWの底面を押圧する浮上部材61と、浮上部材61の移動を操作する操作棒62と、を備えており、スライド台座35には操作棒62が挿入される操作空間63が形成されている。スライド台座35には、上面側の開口面積がより大きいすり鉢状の開口部が、ワーク空間45を形成する領域内に形成されており、この開口部に連通して操作空間63がスライド台座35のスライド方向に形成されている。この操作空間63は、スライド台座35の外部から浮上部材61の下方まで連通するように形成されている。浮上部材61は、上記すり鉢状の開口部に嵌った状態で、その上面がスライド台座35の上面の一部を構成するよう形成されている。この浮上部材61の下方には、ラック64が配設されている。操作棒62は、操作空間63に挿入され浮上部材61の下方まで届く長さに形成されており、その先端にピニオン65が配設されている。浮上機構60では、このピニオン65をラック64に噛合した状態でピニオン65を回転すると浮上部材61が上下動する(図12(a)の吹出図参照)。操作者は、この鍛造用金型20Eを用い、ワークWを加圧変形する加工工程を行ったあと(図12(a))、操作棒62を操作して浮上部材61を上下動させる(図12(b))。例えば、図4(b)の加工工程を行うと、ワークWがスライド台座35と圧着してしまい、ワークWを円滑に取り出せないことがある。ここでは、浮上機構60を備え、浮上部材61の上下動により、ワークWを上方へ僅かに押し上げることができる。これにより、スライド台座35に圧着していたワークWが離脱し、スライド台座35を取り外しワークWを連通空間33から取り出す打出工程を円滑に行うことができる(図12(c))。なお、浮上機構60は、浮上部材61を上下動させる構成であれば、上記ラックアンドピニオンの構成に限られず、例えば、かさ歯車やウオームホイールなどの動作方向変換装置、さらには油圧を介した上下動機構により浮上部材61を押し上げてもよい。また、図12において、操作棒62の先、浮上部材61の下近傍に支点を設け、操作棒を用い、てこの原理により浮上部材61を押し上げる機構を採用するものとしてもよい。こうしても、スライド台座35に圧着していたワークWが離脱し、スライド台座35を取り外しワークWを連通空間33から取り出す打出工程を円滑に行うことができる。
あるいは、図13に示すように、ワークW下面に圧縮空気や圧縮ガスを吐出してワークWをスライド台座35から浮上させるものとしてもよい。図13は、浮上機構70を備えた鍛造用金型20Fの説明図であり、図13(a)が図4(b)の加工工程後、図13(b)がワークWを浮上した説明図、図13(c)がワークWの打出しの説明図である。
この浮上機構70は、スライド台座35に形成されており、複数の噴射口76が形成されワークWの底面を流体(例えば、気体や液体)により押圧する浮上部材71と、浮上部材71に接続され噴射口76まで流体を送る流通孔75が形成された流通管72と、を備えている。また、スライド台座35には、流通管72が挿入される操作空間73が形成されている。ワーク空間45を形成するスライド台座35の上面には、円柱形の開口部が形成されており、この開口部に連通して操作空間73がスライド台座35のスライド方向に形成されている。この操作空間73は、スライド台座35の外部から浮上部材71の下方まで連通するように形成されている。浮上部材71は、上記開口部に挿入された状態で、その上面がスライド台座35の上面の一部を構成するよう形成されている。また、スライド台座35の開口部と浮上部材71との間には、流通孔75から供給された流体が排出される逃がし空間74が形成されている。流通管72は、操作空間73に挿入され浮上部材71の下方に接続されている。浮上機構70では、流通孔75から噴射口76までが連通しており、流通孔75から流体としての圧縮ガスを供給すると、浮上部材71の噴射口76からこの圧縮ガスがワークWの底面を押圧する。操作者は、この鍛造用金型20Fを用い、ワークWを加圧変形する加工工程を行ったあと(図13(a))、流通管72から圧縮ガスを供給し浮上部材71の噴射口76から圧縮ガスを吐出させる(図13(b))。すると、浮上部材71からの圧縮ガスにより、ワークWを上方へ僅かに押し上げることができる。なお、噴射口76から吐出したガスは、逃がし空間74を通って、操作空間73から外部に排出される。こうして、スライド台座35に圧着していたワークWが離脱し、スライド台座35を取り外しワークWを連通空間33から取り出す打出工程を円滑に行うことができる(図13(c))。なお、浮上機構60,70は、ワークWの底面を押圧可能であれば、第1下型31(基部)に形成されていてもよい。また、浮上機構60、70は、スライド台座35とワークWとを分離可能な機構であれば、上記以外の構成を採用することができる。
上述した実施形態では、ワークWを、Be及びCuを含む合金として説明したが、Be及びCuを含む合金と同様に加工硬化性の高く高強度となるNi、Sn及びCuを含む銅合金、Ti、Fe及びCuを含む銅合金、Ni、Si及びCuを含む銅合金などをワークWとして、上述した工程を実行するものとしてもよい。この合金を用いる場合、元素や組成の選択範囲によって均質化処理工程、固溶化処理工程および時効硬化処理工程の温度と時間においてBe及びCuを含む合金と異なる場合があるが、上述した鍛造処理工程を実行することができる。あるいは、高純度の銅(例えば4N-Cu)をワークWとして、上述した工程を実行するものとしてもよい。また銅合金以外に適用しようとする場合、上述した鍛造処理工程において、マグネシウム合金(AZ31;Mg-Al-Zn-Mn系合金など)や鉄鋼材(Fe−20CrやSUS304など)においては、ワーク空間45とワークWとの体積比が(y/x)×(z/y)×z(1+α)/z;(但し、x<y<z、1.22x≦y≦1.49x、1.49x≦z≦2.22x、z=(y/x)2x、0<α≦0.5を満たす)となる範囲としてもよい。更に、アルミニウム合金(7475Al;Al-Zn-Mg-Cu系合金など)では、ワーク空間45とワークWとの体積比が(y/x)×(z/y)×z(1+α)/z;(但し、x<y<z、1.03x≦y≦1.06x、1.06x≦z≦1.12x、z=(y/x)2x、0<α≦0.5を満たす)となる範囲としてもよい。また、この合金を用いるときには、加工工程では、加工率が6%以上55%未満の範囲で前記ワークを変形させるものとしてもよい。
以下には、鍛造用金型20を用い、鍛造処理工程を具体的に検討した例を説明する。なお、実験例1〜13,23〜32が本発明の実施例に相当し、実験例14〜22が比較例に相当する。
バルク体としては、Cu100-(a+b)BeaCob(a=1.8%,b=0.2%)の質量比で構成した銅合金、及び、Cu100-(c+d)BecNid(c=0.2%,d=1.8%)の質量比で構成された銅合金を作製した。均質化処理工程では、840℃、4hで処理を行い、60mm×66mm×73mm(1:1.1:1.21)の形状に加工した。固溶化処理では、800℃、1hで処理を行い、約50℃/sで急冷させて得られたバルク体をワークWとした。鍛造処理工程では、ワーク空間45とワークWとの体積比を、(66/60)×(73/66)×{(73/66)+0.5mm}=1.1×1.1×1.6=1.936とし、加工率を18%(1回のひずみ量0.2)、歪み速度を約1×100(s-1)、全歪み量Σεを2.4、所定の加圧回数を12とする条件で行った。ここでは、まず鍛造による硬化について検討した。Cu−Be−Co系の銅合金を鍛造用金型20により鍛造処理したワークWを実施例1とし、鍛造を行わないものを比較例1とした。また、Cu−Be−Ni系の銅合金を鍛造用金型20により鍛造処理したワークWを実施例2とし、鍛造を行わないものを比較例2とした。潤滑剤は、NOKクリューバー社製のSEALUB製品を塗布した。
図14は、実施例1の組織の拡大写真である。図14(a)に電子顕微鏡(SEM)写真を示すが、全歪み量Σεを増加すると、銅合金の組織がより微細となることがわかった。また、図14(b)に光学顕微鏡(比較例1)及びSEM(実施例1)による組織観察写真を示すが、鍛造用金型20を用いて鍛造した実施例1の銅合金の組織は、鍛造処理を行わない比較例1に比してより微細であることがわかった。なお、実施例2及び比較例2においても結果は同様であった。
図15は、銅合金バルク体の超音波深傷試験の測定結果であり、図15(a)が鍛造前のバルク体の測定結果(比較例1)、図15(b)が鍛造後のバルク体の測定結果(実施例1)である。この測定では、一辺が100mmの立方体形状のバルク体の表面層を切削し、一辺が70mmの立方体に加工した後に、このバルク体に超音波を送信した。図15(a)に示すように、鍛造処理を行わないバルク体では、厚さ70mmの底面エコーのピークが表れたが、厚さ140mm付近では、多重反射によるエコーのピークは表れなかった(ピーク消失)。これは、このバルク体の内部組織が粗大で不均一であることを示している。また、図15(a)に示すように、波形にノイズが多いことからも、バルク体の内部組織が粗大で不均一であることが推測される。一方、図15(b)に示すように、実施例のバルク体を試験した場合は、厚さ70mmの底面エコーのピークが表れているとともに、140mm付近にも二重反射によるエコーのピークが表れていることが分かる。これは、超音波がベリリウム銅鍛造バルク体の内部組織によって乱れたり減衰したりしていないことを示している。図15(a)に示す場合に比べて、全体の波形にノイズも表れていないことから、内部組織がより緻密で均一になっていることが推測される。
[実験例1〜22]
次に、鍛造用金型20を用いた鍛造処理について検討した。ワークの形状、体積比、加工率などを表1、2に示すように変化させて鍛造前後の形状や直線性、最大寸法差などをその外形から評価した。上述したものと同様の工程で、Cu100-(a+b)BeaCob(a=1.8%,b=0.2%)の質量比で構成した銅合金、及び、Cu100-(c+d)BecNid(c=0.2%,d=1.8%)の質量比で構成された銅合金を作製した。なお、表1では、短辺x、中辺y、長辺zにおいて、短辺xを1に規格化した各辺の長さを示した。
[実験例23〜32]
また、Cu97.85Be0.35Ni1.8の質量比で構成された銅合金、Cu78Ni15Sn7の質量比で構成した銅合金、Cu96.9Ti3Fe0.1の質量比で構成した銅合金、Cu89Ni9Si2の質量比で構成した銅合金、マグネシウム合金(AZ31)、Fe80Cr20の質量比で構成した鉄鋼、SUS304、アルミニウム合金(7475Al)なども作製し、検討した。
(形状評価)
形状評価は、クラックや角の丸みなどの有無を目視で調べ、形状のよいものを○、クラックや角に丸みのあるものを×と評価した。また、直線性は、6つの各面が平面を保っているか否かを、平面に物差しを当てたときの隙間の有無を目視により調べ、隙間のないものを○、隙間のあるものを×とした。また、最大寸法差は、鍛造前後の各辺の寸法(長さ)の差異の最大値を測定し、鍛造前後で最大寸法差が2%以下であるものを○、2%を超えたものを×とした。なお、表1、2には、Cu−Be−Co合金の結果を示したが、Cu−Be−Ni合金でも同様の結果であった。
表2に、各ワークの鍛造処理結果を示す。表2に示すように、長辺zや中辺yが短辺xに対して比較的長くない実験例14、15や、長辺zや中辺yが短辺xに対して比較的長い実験例16、17では、形状安定性が悪かった。また、累積歪みのサイクル数の少ない実験例18や、サイクル数の多い実験例19では、形状安定性が悪かった。また、天面のギャップを表す天面係数αの大きい実験例20では、結果が良好であったが、鍛造開始までの上型圧子の降下時間がかかり、生産効率が良好とはいえなかった。また、天面係数αがない実験例21では、上型圧子の挿入時のがたつきによるぶれが懸念されたため、鍛造を行わなかった。また、鍛造用金型20を用いず、自由鍛造を行った実験例22では、形状安定性が極めてよくなかった。図16は、自由鍛造を行ったサンプル(実験例22)の外観写真であり、図17は、実験例1〜13の外観写真である。自由鍛造では、加圧変形を繰り返すと直方体形状の平面が曲面になってしまうのに対して、鍛造用金型20による鍛造を行った実験例1〜13のサンプルでは、加圧変形を繰り返しても直方体形状が維持されていることがわかった。表1、2に示すように、Cu−Be合金では、天面係数αが0.01〜0.5、短辺x:中辺y:長辺z(x<y<z)において、1.10x≦y≦1.20x、1.21x≦z≦1.44x、体積比が1.22〜2.16であるものについては、良好な形状維持性を示した。また、上述した実験例1〜22に対して鍛造処理を行ったあとに、時効硬化処理を実行したところ、実験例1〜13については、実験例14〜22に比して、JISZ2244に準じた方法で測定したビッカース硬さや、JISZ2241に準じた方法で測定した引張強さなどが向上していた。
また、表1、2に示すように、マグネシウム合金(AZ31)や鉄鋼材(Fe−20Cr,SUS304)では、天面係数αが0.01〜0.5、短辺x:中辺y:長辺z(x<y<z)において、1.22x≦y≦1.49x、1.49x≦z≦2.22x、体積比が1.505〜3.330で、良好な形状維持性を示した。また、アルミニウム合金(7475Al)では、天面係数αが0.01〜0.5、短辺x:中辺y:長辺z(x<y<z)において、1.03x≦y≦1.06x、1.06x≦z≦1.12x、体積比が1.07〜1.68では、良好な形状維持性を示した。
なお、鍛造用金型20Cのように、内型が分割されていない金型を用いても上記実施例と同様に、形状安定性を高めた状態で鍛造処理を実行することができた。しかしながら、内型に応力が掛かり、ワーク空間が形成される内型の角部に亀裂が生じる場合もあった。一方、内型50が複数の型部材からなる鍛造用金型20では、このような亀裂が生じず、安定した鍛造処理を実行することができることがわかった。
本出願は、2012年3月27日に出願された日本国特許出願第2012−072259号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
本発明は、耐久性と信頼性の要求される機械構造用部品、例えば航空機用ベアリング・海底ケーブル中継器のケーシング・船舶のローターシャフト・油田掘削ドリルのカラー・射出成形用金型・溶接電極ホルダーなどに利用可能である。
20,20B,20C,20D,20E,20F 鍛造用金型、21 上金型、22 上型圧子、28 位置合せ治具、30 下金型、31 第1下金型、32 スライド溝、33 連通空間、34 貫通孔、34D 流通経路、35 スライド台座、36 第2下金型、37 装着空間、40 金型ユニット、41 外型、42 内周面、45 ワーク空間、46 角部、50,50B,50C 内型、51 第1型部材、51B 型部材、52 凸部、53 接続面、54 壁部、55 第2型部材、56 凹部、57 接続面、58 壁部、60 浮上機構、61 浮上部材、62 操作棒、63 操作空間、64 ラック、65 ピニオン、70 浮上機構、71 浮上部材、72 流通管、73 操作空間、74 逃がし空間、75 流通孔、76 噴射口、W ワーク。

Claims (17)

  1. 矩形の開口部を有し、 矩形状の平面である壁部により形成され、ワークを入れるワーク空間が形成された鍛造用金型の該ワーク空間に、矩形状の6面体である第1形状のワークを載置する載置工程と、
    前記載置されたワークを矩形状の6面体である第2形状に変形させることにより該ワークに塑性歪みを加える加工工程と、を含み、
    前記載置工程と前記加工工程とを2回以上行う、鍛造方法。
  2. 前記鍛造用金型は、円形の開口部を有し該円の内周面が形成された外型と、組み合わされた複数の型部品が前記外型の内周に嵌め込まれた状態で前記ワーク空間が形成される内型と、を備えている、請求項1に記載の鍛造方法。
  3. 前記鍛造用金型は、前記内型が前記ワーク空間の2面で形成される角部により各々が分離される前記複数の型部品により形成されている、請求項1又は2に記載の鍛造方法。
  4. 前記鍛造用金型は、前記ワーク空間の底面を形成するスライド可能な台座部を備えており、
    前記台座部をスライドさせると前記ワーク空間から外部に連通する空間が形成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造方法。
  5. 前記鍛造用金型は、前記ワーク空間の底面を形成する基部を備えており、
    前記基部には、冷却媒体が流通する流通経路が形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の鍛造方法。
  6. 前記載置工程では、前記ワークの体積に対する前記ワーク空間の体積の比である体積比が、1.20以上3.50以下の範囲となる前記ワーク及び前記ワーク空間とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の鍛造方法。
  7. 前記載置工程では、前記ワーク空間と前記ワークとの体積比が、ワーク各辺(X辺,Y辺,Z辺)の長さの比をx:y:zとしたとき、(y/x)×(z/y)×z(1+α)/z;(但し、x<y<z、1.03x≦y≦1.49x、1.06x≦z≦2.22x、z=(y/x)2x、0<α≦0.5を満たす)となる範囲とし、
    前記加工工程では、ワークの上面から(z−x)の量を押し込んだ加圧をする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の鍛造方法。
  8. 前記載置工程では、1.10x≦y≦1.20x、1.21x≦z≦1.44xを満たす範囲とする、請求項7に記載の鍛造方法。
  9. 前記加工工程では、加工率が6%以上55%未満の範囲で前記ワークを変形させる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の鍛造方法。
  10. 前記加工工程では、加工率が18%以上33%未満の範囲で前記ワークを変形させる、請求項1〜6及び8のいずれか1項に記載の鍛造方法。
  11. 前記ワークは、Be及びCuを含む合金である、請求項1〜6,8及び10のいずれか1項に記載の鍛造方法。
  12. 前記加工工程では、前記第1形状のワークと前記第2形状のワークとがX,Y,Z軸の長さは異なるが該第1形状と第2形状とが同じ形状になる変形を前記ワークに行う、請求項1〜11のいずれか1項に記載の鍛造方法。
  13. 矩形状の6面体である第1形状のワークから矩形状の6面体である第2形状のワークに変形させることにより該ワークに塑性歪みを加える鍛造方法に用いられる鍛造用金型であって、
    円形の開口部を有し該円の内周面が形成された外型と、
    組み合わされた複数の型部品が前記外型の内周に嵌め込まれた状態で、矩形の開口部を有し矩形状の平面である壁部により、前記ワークを入れるワーク空間が形成される内型と、
    を備えた鍛造用金型。
  14. 前記内型は、前記ワーク空間の2面で形成される角部で各々が分離される前記複数の型部品により形成されている、請求項13に記載の鍛造用金型。
  15. 請求項13又は14に記載の鍛造用金型であって、
    前記ワーク空間の底面を形成するスライド可能な台座部、を備え、
    前記台座部をスライドさせると前記ワーク空間から外部に連通する空間が形成される、鍛造用金型。
  16. 請求項13〜15のいずれか1項に記載の鍛造用金型であって、
    前記ワーク空間の底面を形成する基部、を備え、
    前記基部には、冷却媒体が流通する流通経路が形成されている、鍛造用金型。
  17. 請求項13〜16のいずれか1項に記載の鍛造用金型であって、
    前記ワーク空間の底面を形成する基部と、
    前記基部部に形成され前記ワーク空間に挟まった前記ワークの底面を押圧し該ワークを浮上させる浮上機構と、
    を備えた鍛造用金型。
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