JPWO2013133220A1 - がんの悪性度の試験方法、ならびに多能性を有する造腫瘍細胞およびその調製方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明者等は先ず、当該技術分野において得られている知見に基づいて、低酸素により非がん幹細胞において初期化が誘導され、それにより多分化能(multipotencyまたはpluripotency)を有する造腫瘍細胞が生じるという仮説を立てた。係る仮説を実証すべく、本発明者等は、いくつかのヒト肺がん細胞株を用いて、造腫瘍細胞と非造腫瘍細胞とを特異的に識別し得る細胞表面マーカーを同定することを試み、ES細胞特異的な細胞表面マーカーとして知られるSSEA−1およびSSEA−3がそのようなマーカーとして利用し得ることを見出した。そして、上記の細胞株およびマーカーを用いて、更なる研究を行ったところ、低酸素負荷により、分化した非造腫瘍細胞において容易に初期化が誘導されてがん幹細胞を生じること、そして生じたがん幹細胞は、不均一な表現型の非造腫瘍性の子孫を生じ得るのみならず、3胚葉すべてに及ぶ広範な分化能力を示すことを初めて明確に実証した。本発明者等は更に、TRA−1−60およびTRA−1−81もSSEA−1およびSSEA−3と同様に、多能性を有する造腫瘍細胞と非造腫瘍細胞とを特異的に識別し得る細胞表面マーカーとして利用し得ることを見出した。そして、これらのマーカーの発現が、被験者におけるがんの転移および生存率と有意に相関することを本発明者等は見出した。本発明者等は、これらの知見に基づき更に研究を進め、本発明を完成するに至った。
[1]細胞集団の潜在的ながん悪性度を試験する方法であって、
(1)試験の対象とする細胞集団を用意する工程、
(3)前記の細胞集団におけるSSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現レベルを測定する工程、および
(4)前記の1以上のマーカータンパク質の発現のいずれかが陽性である場合、前記の試験の対象とする細胞集団は潜在的ながんの悪性度が高いと決定する工程
を含む、方法。
[2]前記測定工程の以前に、
(2)前記細胞集団を低酸素負荷に供する工程
を更に含み、前記測定工程において前記1以上のマーカータンパク質の発現レベルを測定される細胞集団が、前記低酸素負荷工程後の細胞集団である、上記[1]に記載の方法。
[3]前記1以上のマーカータンパク質が、SSEA−1、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記1以上のマーカータンパク質がSSEA−1を含む、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5]前記測定工程において、更に、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81以外の1以上の幼若化マーカー遺伝子のmRNAまたはタンパク質発現レベルも測定される、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6]前記幼若化マーカー遺伝子が、OCT3/4、SOX2、KLF4、c−MYC、NANOG、LIN28、REX1およびERASからなる群から選択される1以上の遺伝子である、上記[5]に記載の方法。
[7]前記低酸素負荷工程において、10%未満の酸素レベルにおける10時間以上の低酸素負荷が少なくとも1回行われる、上記[2]〜[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8]前記の発現レベルの測定が、フローサイトメトリー法または免疫組織化学法を用いて行われる、上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9]被験者におけるがんの悪性度を試験するために、被験者においてがんの存在が疑われる組織から採取された試料に対して行われる、上記[1]〜[8]のいずれか1つに記載の方法。
[10]前記被験者が前記がんの術後の患者である、上記[9]に記載の方法。
[11]前記の試験の対象とする細胞集団が、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現の全てが陰性であることを指標にして選択されたものである、上記[1]〜[10]のいずれか1つに記載の方法。
[12]前記がんが肺がん、消化器がん、乳がん、皮膚がんまたは脳腫瘍である、上記[1]〜[11]のいずれか1つに記載の方法。
[13]低酸素負荷で誘導されるリプログラミングにより非造腫瘍細胞から生じた多能性を有する造腫瘍細胞を調製する方法であって、
(1)非造腫瘍細胞を含む細胞集団を用意する工程、
(2)前記の用意された細胞集団から、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現の全てが陰性であることを指標にして非造腫瘍細胞を選択する工程、
(3)前記の選択された細胞集団を低酸素負荷に供する工程、および
(4)低酸素負荷工程後の細胞集団から、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現のいずれかが陽性であることを指標にして、多能性を有する造腫瘍細胞を選択する工程
を含む、方法。
[14]前記の非造腫瘍細胞を選択する工程および前記の多能性を有する造腫瘍細胞を選択する工程において、前記1以上のマーカータンパク質が、SSEA−1、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[13]に記載の方法。
[15]前記の非造腫瘍細胞を選択する工程および前記の多能性を有する造腫瘍細胞を選択する工程において、前記1以上のマーカータンパク質がSSEA−1を含む、上記[13]または[14]に記載の方法。
[16]前記の選択された多能性を有する造腫瘍細胞において、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81以外の1以上の幼若化マーカー遺伝子のmRNAまたはタンパク質の発現が陽性であることを確認することを更に含む、上記[13]〜[15]のいずれか1つに記載の方法。
[17]前記幼若化マーカー遺伝子が、OCT3/4、SOX2、KLF4、c−MYC、NANOG、LIN28、REX1およびERASからなる群から選択される1以上の遺伝子である、上記[16]に記載の方法。
[18]前記低酸素負荷工程において、10%未満の酸素レベルにおける10時間以上の低酸素負荷が少なくとも1回行われる、上記[13]〜[17]のいずれか1つに記載の方法。
[19]前記の非造腫瘍細胞を選択する工程および前記の多能性を有する造腫瘍細胞を選択する工程において、細胞の選択が、フローサイトメトリー法を用いて行われる、上記[13]〜[18]のいずれか1つに記載の方法。
[20]低酸素負荷で誘導されるリプログラミングにより非造腫瘍細胞から生じた多能性を有する造腫瘍細胞。
本発明において、がんは任意の種類のがんであってよく、固形がん[例えば、消化器がん(例えば、胃がん、食道がん、小腸がん、結腸がん、直腸がん、肛門がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん等)、泌尿器または生殖器のがん(例えば、腎がん、腎細胞がん、膀胱がん、前立腺がん、腎盂および尿管がん、胆嚢がん、胆管がん、精巣がん、陰茎がん、子宮がん、子宮内膜がん、子宮肉腫、子宮頚がん、膣がん、外陰がん、卵巣がん、卵管がん等)、脳・神経系のがん(例えば、脳腫瘍(グリオブラストーマ等)、脊髄腫瘍等)、頭頸部がん(例えば、喉頭がん、口腔がん、唾液腺がん、副鼻腔がん、甲状腺がん等)、呼吸器系のがん(例えば、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん、転移性肺がんを含む)、気管支がん等)、乳がん、皮膚がん(例えば、悪性黒色腫等)、骨のがん(例えば、骨肉腫等)、筋肉のがん(例えば、横紋筋肉腫等)等]、血液がん[例えば、骨髄腫、白血病、リンパ腫等]等を挙げることができるが、これらに限定されない。本発明が対象とするがんとしては、低酸素状態の発生と関連するがんが特に好ましいものとして挙げられ、従って任意の固形がんが特に好ましい。固形がんとして具体的には、肺がん、消化器がん、乳がん、皮膚がんおよび脳腫瘍が好ましく、肺がん、消化器がんおよび乳がんがより好ましく、肺がんおよび消化器がんが更により好ましく、肺がんが特に好ましい。
造腫瘍細胞は、一般にがん幹細胞として知られる細胞であり得る。がん幹細胞とは、継続的に増殖可能な腫瘍の再構築に必要ながん細胞であって、自己複製能、およびがん細胞集団内の多様な表現型を有するがん細胞のすべてを産生できる分化能を有する細胞と定義される(例えば、上記非特許文献2を参照)。自己複製能とは、分裂した2つの娘細胞のどちらか1つ、あるいは、両方の細胞が、細胞系譜上、親細胞と同等の能力および分化程度を保持している細胞を産出できる能力をいう。
本明細書において「幼若化マーカータンパク質」とは、上で定義される「幼若化マーカー遺伝子」のタンパク質を意味する。
本発明は、細胞集団の潜在的ながん悪性度を試験する方法(以下、本発明の試験方法ともいう)を提供する。本発明の試験方法は、
(1)試験の対象とする細胞集団を用意する工程、
(3)前記の細胞集団におけるSSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現レベルを測定する工程、および
(4)前記の1以上のマーカータンパク質の発現のいずれかが陽性である場合、前記の試験の対象とする細胞集団は潜在的ながんの悪性度が高いと決定する工程
を含む。
本発明者等は、本発明のマーカータンパク質が、多能性を有する造腫瘍性細胞と非造腫瘍性細胞とを特異的に識別できる細胞表面マーカー(またはがん幹細胞マーカー)として使用できることを見出した。そのため、がん組織等の臨床標本において本発明のマーカータンパク質の発現を検出するだけで、簡便かつ高信頼度にがん悪性度を試験できる。
本発明者等は更に、分化した非造腫瘍細胞(従って、本発明のマーカータンパク質を発現しない)が、低酸素負荷によりリプログラミングされて、本発明のマーカータンパク質を発現する、多能性を有する造腫瘍細胞になり得ることも見出した。従って、ある細胞集団が、後述するようにして、低酸素負荷に供され、更に本発明のマーカータンパク質の発現レベルを測定された場合に、本発明のマーカータンパク質を発現すれば、元々の細胞集団内には、多能性を有する造腫瘍細胞が存在していたか、あるいは、低酸素状態に起因して多能性を有する造腫瘍細胞にリプログラミングされる蓋然性が高い分化した非造腫瘍細胞が存在していたと理解される。このようにして、本発明の試験方法により細胞集団の潜在的ながん悪性度を決定することができる。特に、がん組織中でのがん幹細胞の頻度が低いために検出が容易でない場合であっても、細胞集団を低酸素負荷に供することにより、多能性を有する造腫瘍細胞にリプログラミングされる蓋然性が高い非造腫瘍細胞は容易にリプログラミングされて本発明のマーカータンパク質を発現するようになる。従って、本発明の試験方法において、細胞集団を低酸素負荷に供する工程を含めることにより、試験の感度を更に高めることができる。
本発明の試験方法に供される生体試料は、被験者から採取可能なものであれば特に限定されるものではなく、試験の目的、すなわち試験の対象とするがん種に応じて、血液、骨髄液、リンパ液等の体液試料や、肺、各種消化器、乳房、皮膚、脳組織等の種々の臓器の生検試料等を利用できる。体液試料または生検試料等からの、培養に供する細胞集団の調製は、当業者に慣用されている手順に従えばよい。
例えば、非造腫瘍細胞から多能性を有する造腫瘍細胞へのリプログラミングの機構に関する研究のために、所与の細胞集団を用いることができる。それに限定されるものではないが、特にこのような研究目的での本発明の試験方法の適用において、試験の対象とする細胞集団として、予め非造腫瘍細胞のみを選別したものを用いることもまた好ましい。この場合、例えば、1つ以上の本発明のマーカータンパク質に対する特異的抗体、好ましくは全ての本発明のマーカータンパク質に対する特異的抗体を用いたフローサイトメトリー法において、用いられた全ての特異的抗体に対する結合が陰性であることを指標として該選別を行うことができる。
また、種々のがんの有効な治療法の確立のために、インビトロにおいて特定の処置(例えば、抗がん剤の候補物質の投与)を施されたがん細胞集団と、該処置を施されていない同一の由来のがん細胞集団とを本発明の試験方法に供し、両細胞集団の潜在的ながん悪性度を比較することにより、当該処置(例えば、候補物質)の有効性を評価することができる。これにより、特に、多能性を有する造腫瘍細胞(もしくはがん幹細胞)および/または該細胞にリプログラミングされる蓋然性が高い非造腫瘍細胞を標的化した有効な抗がん療法の開発に資することができる。
あるいは、医療目的での移植用細胞集団を本発明の試験方法に供することにより、該細胞集団の安全性を評価することもできる。例えば、作製したiPS細胞を本発明の試験方法に供することで該iPS細胞のがん化の可能性を評価し得るため、がん化を防ぐiPS細胞の作製方法の開発に資することができる。
また、本工程において低酸素雰囲気下での培養は少なくとも1回行われるが、低酸素負荷によりリプログラミングを誘導される非造腫瘍細胞を増加させるという観点から、上記期間の培養を複数回(例、2回、3回、4回、5回またはそれより多く)行うこともまた好ましい。
本発明の試験方法と関連して、本発明はまた、細胞集団の潜在的ながん悪性度の試験用試薬を提供する。該試薬は、本発明のマーカータンパク質を特異的に認識する抗体を含む。該試薬は、上記の幼若化マーカータンパク質を特異的に認識する抗体を更に含んでもよい。これらの抗体としては、本発明の試験方法において上述したものを用いることができ、好ましい実施形態としても上述の通りである。
本発明はまた、悪性度の高いがんを有する対象における前記がんの治療方法を提供する。当該方法は、前記対象においてがんの存在が疑われる組織から採取された試料に対して本発明の試験方法を適用する工程、および、前記試料には潜在的ながんの悪性度が高い細胞が含まれると決定された場合に、がんに対する療法を前記対象に施す工程を含む。
本発明の試験方法およびその好ましい実施形態については上述した通りである。また、がんに対する療法としては、悪性度の高いがんに対して一般に行われている任意の療法が挙げられ、例えば、外科的治療、抗がん剤治療、放射線療法、免疫療法、温熱療法等である。
本発明はまた、がんの予防および/または治療剤のスクリーニング方法を提供する。当該方法は、
(1)がん細胞を含む細胞集団を用意する工程であって、前記細胞集団は、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質を発現する細胞を含む前記工程、
(2)前記の用意された細胞集団から、がんの予防および/または治療剤の候補物質の暴露に供した細胞集団と、前記候補物質の暴露に供しなかった対照細胞集団とを調製する工程、
(3)前記暴露後の細胞集団および前記対照細胞集団におけるSSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現レベルを測定する工程、および
(4)前記暴露後の細胞集団における前記の1以上のマーカータンパク質の発現の全てが、前記対照細胞集団における対応するマーカータンパク質の発現と比べて有意に低いレベルである場合、がんの予防および/または治療剤として前記候補物質を選択する工程
を含む。上記の工程(1)、(3)および(4)は、本発明の試験方法の記載に準じて行うことができ、好ましい実施形態についても同様である。上記の工程(2)における候補物質は任意の物質(例、天然または合成の化合物)であってよく、また暴露の条件は、スクリーニング試験の目的に応じて適宜設定することができる。当該方法により、多能性を有する造腫瘍細胞を標的とした抗がん剤のスクリーニングが可能となる。
また、本発明の試験方法と同様にして、上記の工程(1)の後であってかつ工程(3)の以前において、細胞集団を低酸素負荷に供してもよい。その場合の候補物質の暴露は、低酸素負荷に供する前、低酸素負荷と同時に、各回の低酸素負荷の間に、または低酸素負荷後に、行ってよい。当該工程を追加する場合、上記の工程(1)で用意される細胞集団は、必ずしも前記の1以上のマーカーを発現する細胞を含まなくてもよい。当該工程を追加することにより、多能性を有する造腫瘍細胞のみならず、多能性を有する造腫瘍細胞にリプログラミングされる蓋然性が高い非造腫瘍細胞をも標的とする抗がん剤のスクリーニングが可能となる。
(1)非造腫瘍細胞を含む細胞集団を用意する工程、
(2)前記の用意された細胞集団から、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現の全てが陰性であることを指標にして非造腫瘍細胞を選択する工程、
(3)前記の選択された非造腫瘍細胞集団を、予め定められた因子の暴露に供する工程、
(4)前記暴露後の細胞集団におけるSSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現レベルを測定する工程、および
(5)前記の1以上のマーカータンパク質の発現のいずれかが陽性である場合、非造腫瘍細胞から多能性を有する造腫瘍細胞へのリプログラミングを促進する因子として前記因子を選択する工程
を含む。
上記の工程(1)および(2)は、後述する本発明の調製方法に関して説明する通りに行うことができ、好ましい実施形態についても同様である。上記の工程(3)における因子は、スクリーニングを所望される任意の因子であってよく、例えば、物質(例、天然または合成の化合物)、環境条件(例、温度、周囲気体等)、放射線等であり得る。暴露の条件は、スクリーニング試験の目的に応じて適宜設定することができる。上記の工程(4)は、本発明の試験方法に関して説明した通りに行うことができ、好ましい実施形態についても同様である。
また、本発明の試験方法と同様にして、マーカータンパク質の発現を検出する以前に、選択された非造腫瘍細胞を低酸素負荷に供してもよい。その場合の因子の暴露は、上述した通り、低酸素負荷に供する前、低酸素負荷と同時に、各回の低酸素負荷の間に、または低酸素負荷後に、行ってよい。
本発明はまた、低酸素負荷で誘導されるリプログラミングにより非造腫瘍細胞から生じた多能性を有する造腫瘍細胞を調製する方法(以下、本発明の調製方法ともいう)を提供する。本発明の調製方法は、
(1)非造腫瘍細胞を含む細胞集団を用意する工程、
(2)前記の用意された細胞集団から、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現の全てが陰性であることを指標にして非造腫瘍細胞を選択する工程、
(3)前記の選択された細胞集団を低酸素負荷に供する工程、および
(4)低酸素負荷工程後の細胞集団から、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現のいずれかが陽性であることを指標にして、多能性を有する造腫瘍細胞を選択する工程
を含む。
細胞集団の由来等に応じて、本発明のマーカータンパク質のうちのいずれが特に好ましいかは変動し得るが、多能性を有する造腫瘍細胞に対する高い特異性の観点から、例えば、SSEA−1または、TRA−1−60またはTRA−1−81の少なくともいずれか1つの発現が選択のために利用されることが好ましく、少なくともSSEA−1の発現が利用されることがより好ましい。また、SSEA−1およびTRA−1−60またはTRA−1−81の両方について発現を利用することにより、選択の精度を更に高めることができる。あるいは、SSEA−1もしくはSSEA−3のいずれか、またはそれらの両方の発現が利用されてもよい。特異的抗体としては、本発明の試験方法について説明したものを利用することができる。なお、単に多能性を有する造腫瘍細胞を濃縮するという目的であれば、本工程における非造腫瘍細胞の回収が高い純度であることは要求されないが、本発明の調製方法は、特に低酸素負荷で誘導されるリプログラミングにより非造腫瘍細胞から生じた多能性を有する造腫瘍細胞を取得するものであるため、本工程において多能性を有する造腫瘍細胞が実質的に存在しない程度(例えば、0.1%未満)まで除去されることが好ましい。
細胞集団の由来等に応じて、本発明のマーカータンパク質のうちのいずれが特に好ましいかは変動し得るが、多能性を有する造腫瘍細胞に対する高い特異性の観点から、例えば、SSEA−1または、TRA−1−60またはTRA−1−81の少なくともいずれか1つの発現が選択のために利用されることが好ましく、少なくともSSEA−1の発現が利用されることがより好ましい。また、SSEA−1およびTRA−1−60またはTRA−1−81の両方について発現を利用することにより、選択の精度を更に高めることができる。あるいは、SSEA−1もしくはSSEA−3のいずれか、またはそれらの両方の発現が利用されてもよい。特異的抗体としては、本発明の試験方法について説明したものを利用することができる。
得られた細胞集団が実際に多能性を有する造腫瘍細胞であることを他の手段により検証することは好ましい。そのために、例えば、得られた細胞集団の一部に対して、上述の1以上の幼若化マーカー遺伝子の発現が陽性であることの確認(上述)、分化多能性の確認(上述し、実験例にも示している)、造腫瘍能の確認(上述し、実験例にも示している)、エピジェネティック制御酵素(例えば、ヒストン脱アセチル化酵素、DNAメチル化酵素等が挙げられる)の発現パターンのES細胞またはiPS細胞との類似性の確認、等を行うことができる。
本発明は更に、低酸素負荷で誘導されるリプログラミングにより非造腫瘍細胞から生じた多能性を有する造腫瘍細胞(以下、本発明の造腫瘍細胞ともいう)を提供する。本発明の造腫瘍細胞の由来となる非造腫瘍細胞は、任意の非造腫瘍細胞であってよく、例えば、上述した任意のがん種の非造腫瘍細胞である。本発明の造腫瘍細胞は、それに限定されないが、例えば、上述した本発明の調製方法により取得することができる。
細胞培養
本研究で用いた全ての細胞は、単一細胞から再クローニングした(従って遺伝子背景は同一である)。ヒトの肺がん細胞株H157、H358、A549(非小細胞)、H460(大細胞)、N417(小細胞)、および悪性黒色腫細胞株Num2Bを10%ウシ胎児血清を含有するRPMI1640培地(Hyclone社)中で培養した。低酸素条件はアネロパックキット(三菱ガス化学株式会社)を用いて達成した。異所性遺伝子またはマイクロRNAを発現する細胞の作製は、pCDNA6.2、LipofectamineおよびBlasticidin(インビトロジェン社)を用いて行った。マイクロRNAのためのオリゴヌクレオチドは、BLOCK-iTプログラム(インビトロジェン社)を用いて設計した。分化アッセイ(図3)のために、胚様体(EB)形成後の細胞をSmGM-、FGM-2-またはHCM-BulletKit(ロンザ社,スイス国)中でインキュベートした。
RT-PCR解析
RT-PCR解析およびSYBR-Greenを用いたリアルタイムRT-PCR解析は標準的な方法により行った。GAPDH mRNAを用いて、RNAインプット量を正規化した。
FACS解析および免疫組織化学
FACSおよび免疫染色のために用いた抗体を下記表1に示す。
免疫染色およびフローサイトメトリーの詳細なプロトコールは以下の通りである。
(免疫染色)
腫瘍は4%パラホルムアルデヒドで4℃にて固定後、20%スクロース/PBS溶液、4℃にて一晩静置し、アルコールによる透徹後、パラフィンにて包埋処理を行なった。薄切は5μmとして、スライドガラス上に固定し再度アルコールによる脱パラフィン処理を行なった。抗原賦活化液(Antigen Retrieval Reagent, Basic; R&D systems)にて95℃, 20分加熱により賦活化処理を行なった。SSEA-1(1/500希釈)、TRA1-60(1/500希釈)、TRA1-81(1/500希釈)、OCT3/4(1/250希釈)、SOX2(1/250希釈)、NANOG(1/100希釈)抗体にて1次抗体反応後、Polink-2 Plus HRP Mouse with DAB Kit (GBI Labs)による、HRP-標識ポリマー検出システムDAB染色法を用いた。発色方法はメーカープロトコールに従った。染色後充分に水洗し、透徹処理の後にエンテラン(Merk)にて封入処理したものを検鏡した。
(フローサイトメトリー (Fluorescence Activated Cell Sorter))
回収したがん細胞はBSAを含むFACS Buffer(1% FCS, 2mM EDTAを含むPBS)を用いて非特異的反応を阻害した後、FACS Bufferにて希釈したSSEA-1-FITC(BD Bioscience)にて染色した。核内染色には膜透過性を昂進させるため、Foxp3 Staining Kit(eBioscience)を用いた。メーカープロトコールに従って細胞を前処理後、OCT4-Alexa647、SOX2-Alexa647(BD Bioscience)で染色した。死細胞の除去判定のために、染色後の細胞懸濁液へ1μg/mlの7-AAD(BD Bioscience)を1/400容量添加し、FACS Cant II(アナライザー)/ Aria II(セルソーター)(BD Bioscience)にて測定、FlowJo Software(Treestar,Inc.)によって解析した。
腫瘍形成アッセイ
細胞をNOD-SCIDマウスまたはNOD/SCID IL2Rγnullマウスに皮下注射した。腫瘍成長を毎週測定し、出現を注射から12週間後に評価した。マウスを用いた全ての手順は、日本国政府による法律第105号および告示第6号の下で産業医科大学倫理委員会により認可されたものである。
統計解析
全てのデータは平均±標準偏差として示している。2群間の比較には、スチューデントのt検定を用いた(p<0.05を有意とした)。
低酸素(hypoxia)によりES細胞マーカー遺伝子が活性化されるかどうかを確かめるために、5つのヒト肺がん細胞株および悪性黒色腫細胞株をスクリーニングした。細胞を5% O2で12時間インキュベートした後、RT-PCR解析または定量的リアルタイムPCR解析のいずれかに供した。N417、H358、H460およびNum2B細胞において4つの初期化誘導遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC)の全てが活性化されたが(図1A、1B)、ヒト線維芽細胞(TIG3)はこれらの遺伝子のいずれの活性化も示さなかった。N417およびNum2Bでは、「ナイーブ」マーカーであるREX1を含む試験した全ての胚性遺伝子が活性化されていた。以降の実験では、N417を主に用いた。N417で得られた結果の殆どは、H358細胞においても確認された。
hypoxiaのN417細胞では、TGF-βがすぐに下方調節され、その後幹細胞性(stemness)遺伝子の活性化が見られた(図1C)。幹細胞性遺伝子およびES細胞特異的細胞表面抗原(SSEA-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA1-60、TRA1-81)の低酸素誘導性発現がFACSおよび免疫組織化学により確認された(図1D、1E)。低酸素下において、N417はアルカリホスファターゼ活性の亢進を示し(図1F)、非接着性の球形の細胞集塊を形成した(図1G)。Hoechst 33342での染色後に観察されたベラパミル感受性のサイドポピュレーション(SP)は、正常酸素(normoxia)での0.27%から、hypoxiaにおいて7.05%に増加していた(図1H)。上述した低酸素誘導性の反応は、6つの異なるN417クローン(GFPを発現するN417(N417-GFP)の3クローンを含む)で確認され、H358細胞の3クローンにおいても観察された。
これらの結果から、いくつかのがんの非造腫瘍細胞は、低酸素下で初期化されて、造腫瘍性の細胞のみならず、iPS細胞のような多分化能(multipotencyまたはpluripotency)を有する幹細胞様細胞に復帰し得るという仮説を立てた。
非がん幹細胞(non-CSC)のがん幹細胞(CSC)への復帰を証明するためには、これらの2つの細胞集団を分離することが必要であった。CSCの同定のために、ES細胞特異的細胞表面抗原(SSEA-1、SSEA-3、SSEA-4、Tra1-81)を用いた。SSEA-1およびSSEA-3の発現は、N417細胞において互いに排他的であった。SSEA-1/SSEA-3陰性画分はTra1-81陽性細胞を含まなかった。重要なことに、いずれも低酸素に暴露された細胞から選別された、SSEA-1/SSEA-3陰性画分、および4つの抗原全てに陰性の画分は、異種移植腫瘍を形成しなかった。SSEA-1/SSEA-3陰性画分は、より許容性(permissive)の高いNOD/SCIDインターロイキン2受容体γ鎖欠損(NOD/SCID IL2Rγnull)マウスにおいても、注射から32週間後であっても腫瘍を作らないことが確認された。対照的に、低酸素に暴露された細胞から選別されたSSEA-1+細胞またはSSEA-3+細胞は、連続的に移植可能な異種移植腫瘍を形成し、これは未選別の親細胞よりも迅速かつ活発に増殖した(図2A)。SSEA-3+細胞またはSSEA-1+細胞のいずれかにより形成された異種移植腫瘍は、未選別の細胞により形成された腫瘍と同様の比率でSSEA-3+/-細胞およびSSEA-1+/-細胞を含んでおり、元々の腫瘍内の表現型の不均一性を再現していた(図2B)。これらの結果は、SSEA-1/SSEA-3陰性細胞は「分化した」非造腫瘍細胞であること、ならびに、SSEA-1+細胞画分およびSSEA-3+細胞画分の両方共、CSCを含むことを示している。
我々は次に、低酸素に暴露された細胞におけるSSEA遺伝子および初期化遺伝子の発現を解析した(図2C)。SSEA-1+画分およびSSEA-3+画分の両方が、OCT3/4、SOX2およびNANOGの発現の大幅な増加を示した。対照的に、異種移植腫瘍を形成し得なかった陰性画分は、それらの発現を実質的に示さなかった。我々は更に、低酸素に暴露された細胞で観察された全ての幹細胞様属性(図1)はSSEA-1+細胞およびSSEA-3+細胞の特性であることを確認した。
4つの胚性抗原のいずれも発現しない細胞画分を選別した(図2D-a,-b)。選別した非造腫瘍細胞をnormoxiaで12時間培養した後、12時間、hypoxiaに暴露するかまたはnormoxiaに維持し、上記4つの胚性抗原の発現を再び解析した。normoxiaにおいても染色陽性の細胞のわずかな増加が観察されたが(図2D-c)、増加はhypoxia条件下でより顕著であり、SSEA-1+細胞は72倍増加していた(図2D-d,e)。解析された細胞全体のうちの生細胞の割合は、選別直後に96.8%、normoxiaでの培養後に92.7%、hypoxiaでの培養後に84.5%であった(図2D-f)。解析の期間(24時間)およびhypoxia条件とnormoxia条件との間で細胞生存率が同様であったことから、無視できる程度のSSEA-1+またはSSEA-3+細胞が残っていたか、または陰性細胞画分にそれら陽性細胞が混入し、24時間以内に著しく増殖したかまたは遥かに良く生存したという可能性は実質的に除外される。低酸素に暴露する前に陰性画分を連続して2回選別した場合も、SSEA-1+細胞およびSSEA-3+細胞について得られた結果は、上記と同様であった。以上の結果から、分化した非CSCは、驚くほど短い期間内に、低酸素誘導性のリプログラミング(hypoxia-induced reprogramming;HIR)によりCSCに復帰すると我々は結論した。
最初の低酸素暴露の後、4つ全ての抗原に対して染色陰性の細胞を選別して再度低酸素に暴露し、上記と同様に解析を行った。上記と同様、およそ10-15%または0.2-0.4%の細胞がそれぞれSSEA-1+またはSSEA-3+となった。このような手順を3サイクル繰り返したところ、同様の比率の細胞が各時点においてSSEA-1+またはSSEA-3+となることが確認された。このことは、ある特別な細胞画分のみでなく、あらゆる非CSCがCSCに復帰できることを示している。
我々は次に、低酸素に暴露されたN417細胞が幹細胞のような複数系列への分化能を有し得るかどうかを調べた。低酸素暴露された細胞を24時間、ハンギングドロップ培養を行い、胚様体(EB)を形成させた。次に、細胞を種々の分化促進培地で培養した。実験手順は図3Aに示した。EBの形成を通じて、低酸素により活性化された初期化遺伝子は急速に(OCT3/4)または徐々にのいずれかで下方調節され、一方、3つの胚葉の様々な分化マーカー遺伝子が上方調節された(図3B)。低酸素に暴露しなかった場合、細胞は内胚葉系列および中胚葉系列のマーカー遺伝子の活性化を示さなかった。興味深いことに、典型的なEMTマーカー遺伝子であるビメンチンおよびフィブロネクチンは低酸素に暴露された細胞画分においてのみ活性化され、TGF-β1およびその受容体は、細胞を正常酸素に維持した場合も、低酸素に暴露した場合も、同様に活性化された。低酸素に暴露された細胞では、1日目から血管新生増殖因子が活性化され、4日目には内皮細胞(EC)マーカーであるヒトCD31(hCD31)およびヒトVEGFR-2を発現した(図3C)。陽性細胞の数は、細胞をVEGFおよびPDGFと共に培養した場合に更に増加した。分化促進培地中での2週間において、低酸素処理した細胞のみが外胚葉(βIIIチューブリン)、内胚葉(αフェトプロテイン;αFP)および中胚葉(α平滑筋アクチン;α-SMA)の分化マーカーを発現した(図3D)。このような多様な分化能力は、低酸素に暴露したH358細胞においても観察された。
次に、NOD-SCIDマウスの睾丸にSSEA-1+、SSEA-3+、または未選別の低酸素暴露したN417-GFP細胞を注入した(注入あたり104細胞)。2ヶ月後、未選別細胞では3回のうち2回の注入で、SSEA-1+細胞またはSSEA-3+細胞では全6回の注入すべてで腫瘍が形成され、βIIIチューブリン、αFPおよびα-SMAが腫瘍細胞内に検出された(図3E)。更に、腫瘍は、サイトケラチン14陽性の真皮、腺組織、筋肉等、3胚葉全てからの種々の分化により誘導された組織を含んでいた(図3F)。これらの組織化された組織がヒト細胞から構成されていることをGFP(図3F-e,f)、ヒトミトコンドリアおよびヒト核に対する抗体を用いた免疫組織化学により確認した。
これらの結果は、低酸素に暴露されたN417細胞は実際に多能性を有する細胞に初期化することを実証している。
N417-GFP異種移植腫瘍を組織学的に分析した。炭酸脱水酵素9(CA9)染色による評価を行なったところ、低酸素領域はまだら状またはパッチ状に散在しており、そのような低酸素領域内にOCT3/4陽性細胞およびSOX2陽性細胞が検出された(図4A)。CA9染色の状態に従い、腫瘍領域を4群に分類した:(a)殆どのがん細胞がCA9陽性である領域(高度低酸素領域)、(b)CA9陽性細胞により囲まれた領域(低酸素領域)、(c)僅かにCA9染色された細胞により囲まれた領域(中間領域)、(d)CA9陽性細胞を実質的に欠いた領域(非低酸素領域)(図4B)。高度低酸素領域および低酸素領域(a, b)内では、細胞はSOX2(a2, b2)、OCT3/4(a3, b3)、HIF1α(a6)、HIF2α(a7)、NANOG(a8)またはSSEA-1(a9)に対する染色が陽性であった。そのような低酸素領域においては、細胞は増殖マーカーKi-67(a10)の発現をほぼ欠いていた。低酸素領域の外側部分では、恐らくはがん細胞または宿主の炎症細胞のいずれかに由来する多くのアポトーシス細胞が観察された。中間領域では、SOX2およびOCT3/4の検出はほんの僅かであるか、または殆ど検出されなかった(c2、c3の矢印)。非低酸素領域では、SOX2(d2)およびOCT3/4(d3)は検出されず、細胞は増殖活性を示していた(d10)。
赤血球を含有する血管が各細胞島の中央領域に見られた。興味深いことに、hCD31陽性細胞は、低酸素領域内に比較的散在して検出された(a5, b5)。しかしながら、hCD31陽性細胞は、α-SMA陽性細胞(図4C)と共に集まって組織化され、非低酸素領域において血管を形作っており(c5, d5)、血管は徐々に成熟してより機能的になるかのようであった。この概念を支持する事実として、通常比較的大きな血管のECにおいて検出されるフォン・ヴィルブランド因子は、非低酸素領域内の血管においてのみ染色された(d4の矢印)。hCD31陽性細胞はヒトVEGFR-2も発現していた。
ECおよび血管平滑筋細胞(VSMC)を検出するために、hCD31、マウスCD31(mCD31)およびヒトαSMA(hαSMA)特異的抗体を用いた。これらのいずれも、異種の抗原と反応しないことを確認した。N417-GFP異種移植腫瘍内の実質的に全ての血管細胞は、hCD31抗体およびhαSMA抗体でのみ検出された(図4C)。そのようなhCD31陽性細胞およびhαSMA陽性細胞は抗GFP抗体で標識され、腫瘍内のECおよびVSMCが実際にがん細胞に由来することを更に確認した。H358異種移植腫瘍内の血管はhCD31抗体およびhαSMA抗体で染色されたが、mCD31抗体では染色されなかった。対照的に、H157異種移植腫瘍内およびH460異種移植腫瘍内のほぼ全てのECはmCD31陽性であった(それぞれ、約100%および約95%)。またこれらの腫瘍ではヒトおよびマウス両方のαSMAを認識する抗体を用いて検出されたECおよびαSMA陽性細胞は、血管様構造をとっていなかった。しかしながら、重要なことに、H460異種移植腫瘍では限られた領域が低酸素状態であり、この低酸素領域内の細胞ではSOX2、OCT3/4、SSEA-1およびhCD31が検出された。
興味深いことに、N417細胞およびH358細胞はH157細胞およびA549細胞よりも細胞増殖活性が遥かに低かったが、N417細胞またはH358細胞により形成された異種移植腫瘍は、H157細胞またはA549細胞により形成された異種移植腫瘍よりも急速に成長した。
我々は更に、多能性を有する造腫瘍細胞と非造腫瘍細胞との識別を可能とする、SSEA-1またはSSEA-3以外のマーカーを探索した。
その目的のために、種々の初期化遺伝子およびES細胞特異的細胞表面抗原について、SSEA-1および/またはSSEA-3との発現の相関性を調べた。
具体的には先ず、上記のヒト肺がん細胞を5% O2で12時間インキュベートした後、FACS解析を行った。SSEA-1、SSEA-3およびSSEA-4の各々の陽性画分および陰性画分についてのOCT3/4、SOX2、NANOG、TRA-1-60およびTRA-1-81の発現を図5Aに示す。結果は、SSEA-1陰性細胞およびSSEA-3陰性細胞はTRA-1-60/-81陰性であること、および、SSEA-1陽性細胞およびSSEA-3陽性細胞はTRA-1-60/-81陽性であることを示している。重要なこととして、一部のSSEA-1/-3陽性細胞がTRA-1-60/-81陽性となるのではなく、ほぼ全てのSSEA-1/-3陽性細胞がTRA-1-60/-81陽性であり、また同時に、ほぼ全てのSSEA-1/-3陰性細胞はTRA-1-60/-81陰性であった。これは、特にSSEA-1について顕著であった。一方、SSEA-4陽性細胞はTRA-1-60/-81陰性であった。
この結果は、培養ヒト肺がん細胞による異種移植腫瘍(xenograft)のみならず、ヒト肺がん標本においても確認された(図5BおよびC)。図5Bは、FACS選別したSSEA-1陽性細胞103個をマトリゲルに封入して免疫不全マウスの皮下に移植し、12週間後に、成長した腫瘍(xenograft)を免疫染色法により解析したものである。一方、図5Cは、インフォームドコンセントを得て採取したヒト肺がん標本切片を免疫染色法で解析したものである(無作為に選んだ98症例で解析)。いずれの結果も、SSEA-1陽性細胞は同時にTRA-1-60/-81陽性であることを示している。
以上より、TRA-1-60/-81もSSEA-1/-3と同様に、多能性を有する造腫瘍細胞と非造腫瘍細胞とを識別するマーカーとして利用できることが実証された。
我々は次に、ヒト肺がん標本において、SSEA-1、NANOG、OCT3/4およびSOX2の4因子の発現(免疫染色法による)と、各種臨床病理所見(性別、がん腫の大きさ、組織分類、および転移)との相関を調べた。結果を表2に示す。結果は、SSEA-1のみが、その発現と、診断時点での転移の有無との有意な相関を示した。
Claims (20)
- 細胞集団の潜在的ながん悪性度を試験する方法であって、
(1)試験の対象とする細胞集団を用意する工程、
(3)前記の細胞集団におけるSSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現レベルを測定する工程、および
(4)前記の1以上のマーカータンパク質の発現のいずれかが陽性である場合、前記の試験の対象とする細胞集団は潜在的ながんの悪性度が高いと決定する工程
を含む、方法。 - 前記測定工程の以前に、
(2)前記細胞集団を低酸素負荷に供する工程
を更に含み、前記測定工程において前記1以上のマーカータンパク質の発現レベルを測定される細胞集団が、前記低酸素負荷工程後の細胞集団である、請求項1に記載の方法。 - 前記1以上のマーカータンパク質が、SSEA−1、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の方法。
- 前記1以上のマーカータンパク質がSSEA−1を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 前記測定工程において、更に、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81以外の1以上の幼若化マーカー遺伝子のmRNAまたはタンパク質発現レベルも測定される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 前記幼若化マーカー遺伝子が、OCT3/4、SOX2、KLF4、c−MYC、NANOG、LIN28、REX1およびERASからなる群から選択される1以上の遺伝子である、請求項5に記載の方法。
- 前記低酸素負荷工程において、10%未満の酸素レベルにおける10時間以上の低酸素負荷が少なくとも1回行われる、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 前記の発現レベルの測定が、フローサイトメトリー法または免疫組織化学法を用いて行われる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 被験者におけるがんの悪性度を試験するために、被験者においてがんの存在が疑われる組織から採取された試料に対して行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
- 前記被験者が前記がんの術後の患者である、請求項9に記載の方法。
- 前記の試験の対象とする細胞集団が、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現の全てが陰性であることを指標にして選択されたものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 前記がんが肺がん、消化器がん、乳がん、皮膚がんまたは脳腫瘍である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
- 低酸素負荷で誘導されるリプログラミングにより非造腫瘍細胞から生じた多能性を有する造腫瘍細胞を調製する方法であって、
(1)非造腫瘍細胞を含む細胞集団を用意する工程、
(2)前記の用意された細胞集団から、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現の全てが陰性であることを指標にして非造腫瘍細胞を選択する工程、
(3)前記の選択された細胞集団を低酸素負荷に供する工程、および
(4)低酸素負荷工程後の細胞集団から、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される1以上のマーカータンパク質の発現のいずれかが陽性であることを指標にして、多能性を有する造腫瘍細胞を選択する工程
を含む、方法。 - 前記の非造腫瘍細胞を選択する工程および前記の多能性を有する造腫瘍細胞を選択する工程において、前記1以上のマーカータンパク質が、SSEA−1、TRA−1−60およびTRA−1−81からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項13に記載の方法。
- 前記の非造腫瘍細胞を選択する工程および前記の多能性を有する造腫瘍細胞を選択する工程において、前記1以上のマーカータンパク質がSSEA−1を含む、請求項13または14に記載の方法。
- 前記の選択された多能性を有する造腫瘍細胞において、SSEA−1、SSEA−3、TRA−1−60およびTRA−1−81以外の1以上の幼若化マーカー遺伝子のmRNAまたはタンパク質の発現が陽性であることを確認することを更に含む、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
- 前記幼若化マーカー遺伝子が、OCT3/4、SOX2、KLF4、c−MYC、NANOG、LIN28、REX1およびERASからなる群から選択される1以上の遺伝子である、請求項16に記載の方法。
- 前記低酸素負荷工程において、10%未満の酸素レベルにおける10時間以上の低酸素負荷が少なくとも1回行われる、請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。
- 前記の非造腫瘍細胞を選択する工程および前記の多能性を有する造腫瘍細胞を選択する工程において、細胞の選択が、フローサイトメトリー法を用いて行われる、請求項13〜18のいずれか1項に記載の方法。
- 低酸素負荷で誘導されるリプログラミングにより非造腫瘍細胞から生じた多能性を有する造腫瘍細胞。
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STEM CELLS, vol. 25, JPN6013014411, 2007, pages 723 - 730, ISSN: 0003595808 * |
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