以下、本発明の複合ヒンジシート、電子パスポート用レーザーマーキング多層シート、及び電子パスポートを実施するための形態について具体的に説明する。但し、本発明はその発明特定事項を備える複合ヒンジシート、電子パスポート用レーザーマーキング多層シート、及び電子パスポートを広く包含するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。
[1]本実施形態の複合ヒンジシートの構成:
本実施形態の複合ヒンジシートは、図1〜図7に示されるように、多数の開口部2を備える織物状シート1と、熱可塑性樹脂とから形成されてなるものである。織物状シート1は、縦糸3と横糸4の複数本の糸から構成される2軸構造体を有する、メッシュクロス(mesh cloth)または不織布からなる。或いは、織物状シート1は、縦糸3、横糸4、及び斜糸5の複数本の糸から構成される3軸構造体を有する、メッシュクロス(mesh cloth)または不織布からなる。すなわち、織物状シート1は、縦糸3と横糸4の複数本の糸から構成される上記2軸構造体に、斜糸5を加えて構成される3軸構造体を有する、メッシュクロスまたは不織布からなる。さらに、縦糸3、横糸4、及び斜糸5の複数本の糸のうち、少なくとも1種類の糸が、フラットな断面を有するフラットヤーンからなる。さらに、上記熱可塑性樹脂は、少なくとも1種の熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性樹脂である。さらに、上記織物状シートの開口部を上記熱可塑性樹脂で閉塞させている。このようにして、複合ヒンジシート10は構成されている。
このような構成により、本実施形態の複合ヒンジシートは、個人を特定し得るデータ等を備えさせる(後述の)電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを、電子パスポートに綴じ易くするために用いられる。以下、織物状シート、熱可塑性樹脂を説明した後、夫々の関係について説明する。
[1−1]織物状シート:
図1及び図3に示されるように、織物状シート1(1A,1C)は、縦糸3と横糸4の複数本の糸から構成される2軸構造体を有する、メッシュクロスまたは不織布として構成される。或いは、図2及び図4に示されるように、織物状シート1(1B,1D)は、縦糸3、横糸4、及び斜糸5の複数本の糸から構成される3軸構造体を有する、メッシュクロスまたは不織布として構成される。すなわち、織物状シート1は、縦糸3と横糸4の複数本の糸から構成される上記2軸構造体に、斜糸5を加えて構成される3軸構造体を有する、メッシュクロスまたは不織布からなる。このように織物状シートが構成されることにより、複合ヒンジシートに十分な強度を付与することができる。そのため、複合ヒンジシートを薄くすることができ、薄くしても十分な耐引き裂き性を複合ヒンジシートが得ることができる。さらに、電子パスポート用として使用する際に、耐破断性、柔軟性、耐折り曲げ性、耐久性、加熱融着性、加工性、寸法精度が十分となる。
(2軸構造体)
ここで、「2軸構造体」とは、縦糸と横糸の複数本の糸が組み合わされて形成された織物状シートの基本構造を意味する。織物状シートは、この2軸構造体が基本構造となり、メッシュクロスまたは不織布として構成される。具体的には、図1及び図3に示されるように、縦糸3と横糸4の複数本の糸から2軸構造体が構成される。さらに、このような2軸構造体から、織物状シートは、メッシュクロスまたは不織布として構成されている。
なお、後述する「フラットヤーン」は、上記縦糸3及び横糸4の全てに用いられてもよい。また、上記縦糸3及び横糸4のうち、いずれかを上記「フラットヤーン」を用いるとともに、残りの糸を通常ヤーン、又はマルチヤーンのいずれかの糸を用いて、或いは両方の糸を用いて、上記2軸構造体を構成してもよい。すなわち、上記「フラットヤーン」と、通常ヤーン又はマルチヤーンのいずれかの糸とにより、上記2軸構造体を構成してもよいし、または、上記「フラットヤーン」と、通常ヤーン及びマルチヤーンの両方の糸とにより、上記2軸構造体を構成してもよい。
ここで、図1は、縦糸3または横糸4の複数本の糸から構成される、2軸構造体を基本構造として備える、織物状シートの平面図であり、部分的に示す模式図である。同様に、図3は、縦糸3または横糸4の複数本の糸から構成される、2軸構造体を基本構造として備える織物状シートの平面図であり、部分的に示す模式図である。なお、図1では、縦糸3と横糸4とが、上下の位置に交互になるように、編み込まれた状態の織物状シートの例(メッシュクロスの例)を示している。また、図3では、縦糸3上に横糸4を全て配置し接着した状態の織物状シートの例(不織布の例)を示している。ただし、この例に限定されるものではなく、例えば、横糸4上に、縦糸3を全て配置し接着した織物状シートであってもよい。なお、図3で示されるような織物状シートの、縦糸3と横糸4を接着する方法は特に限定されるものではないが、たとえば、ホットプレス等などの接着方法等を挙げることができる。
(3軸構造体)
同様に、「3軸構造体」とは、縦糸、横糸、及び斜糸の複数本の糸が組み合わされて形成された織物状シートの基本構造を意味する。この3軸構造体は、「斜糸」を有する点以外は、上記2軸構造体と同様の構成を有する。すなわち、上記「3軸構造体」は、縦糸3と横糸4の複数本の糸から構成される上記2軸構造体に、斜糸5が組み合わされて形成された織物状シートの基本構造を意味する。また、上記3軸構造体を有する織物状シートは、メッシュクロスまたは不織布として構成される。具体的には、図2及び図4に示されるように、縦糸3と横糸4及び斜糸5の複数本の糸から3軸構造体が構成される。さらに、このような3軸構造体から、織物状シートは、メッシュクロスまたは不織布として構成されている。
なお、後述する「フラットヤーン」は、上記縦糸3、横糸4、及び斜糸5の全てに用いられてもよい。また、上記縦糸3、横糸4、及び斜糸5のうち、いずれかを上記「フラットヤーン」を用いるとともに、残りの糸を通常ヤーン、又はマルチヤーンのいずれかの糸を用いて、或いは両方の糸を用いて、上記3軸構造体を構成してもよい。すなわち、上記「フラットヤーン」と、通常ヤーン又はマルチヤーンのいずれかの糸とにより、上記3軸構造体を構成してもよいし、または、上記「フラットヤーン」と、通常ヤーン及びマルチヤーンの両方の糸とにより、上記3軸構造体を構成してもよい。
ここで、図2は、縦糸3、横糸4、及び斜糸5の複数本の糸から構成される、3軸構造体を基本構造として備える、織物状シートの平面図であり、部分的に示す模式図である。同様に、図4は、縦糸3、横糸4、及び斜糸5の複数本の糸から構成される、3軸構造体を基本構造として備える織物状シートの平面図であり、部分的に示す模式図である。なお、図2では、縦糸3、横糸4、及び斜糸5が、上下の位置に交互になるように、編み込みされた状態の織物状シートの例(メッシュクロスの例)を示している。また、図4では、斜糸5上に縦糸3を全て配置し、さらに、その縦糸3上に、横糸4を全て配置して、夫々の糸を接着した状態の織物状シートの例(不織布の例)を示している。ただし、この例に限定されるものではなく、例えば、一番下側の位置に、縦糸3、又は横糸4を配置してもよいし、一番上側の位置に、斜糸5、又は縦糸3を全て配置し、接着した織物状シートであってもよい。なお、図3で示されるような織物状シートの、縦糸3、横糸4、及び斜糸5を接着する方法は特に限定されるものではないが、たとえば、ホットプレス等などの接着方法を挙げることができる。
(フラットヤーン)
さらに、2軸構造体を有する織物状シートでは、2軸構造体の縦糸及び横糸のうち、少なくとも1種類の糸が、フラット(flat)な面を有するフラットヤーン(flat yarn)から構成される。上記「フラット(flat)な面を有する」とは、糸の伸びる方向に垂直な断面において、当該断面の一部が直線状となるような、平坦な面を有する。或いは、3軸構造体を有する織物状シートでは、3軸構造体の縦糸、横糸、及び斜糸の複数本の糸のうち、少なくとも1種類の糸が、フラット(flat)な面を有するフラットヤーン(flat yarn)から構成される。上記2軸構造体と同様に、この3軸構造体においても、上記「フラット(flat)な面を有する」とは、糸の伸びる方向に垂直な断面において、当該断面の一部が直線状となるような、平坦な面を有する。このような所望の糸を用いることにより、複合ヒンジシートの引き裂き強度等の強度を飛躍的に向上させることができる。
ここで、複合ヒンジシートの引き裂き強度等の強度は、織物状シートの強度に左右される。すなわち、複合ヒンジシートにおいて、シートに引き裂きや引張りの力を加えて破壊させる力(応力)は、熱可塑性樹脂の強度を一定とすると、織物状シートの強度に相関する。そのため、複合ヒンジシートの厚みが薄くても十分な耐引き裂き強度等の強度を得るには、薄くとも耐引き裂き強度等の強度に優れた織物状シートが必要となる。
また、織物状シートの強さは、糸1本毎の強さと、織物状シートの一定面積当たりの糸の密度に比例する。すなわち、織物状シートの一定面積当たりの糸の密度が大きくなると、織物状シートの一定面積に形成される開口部の面積は小さくなる。従って、織物状シートの一定面積当たりの、開口部の面積が一定なら、織物状シートの強さは、糸の強さ(断面積×強度)に比例することになる。この糸の強さは、糸の断面積と、糸の断面積当たりの強度に比例する。一方、この糸の強さが一定なら、織物状シートの強さは、織物状シートの一定面積当たりの糸の密度に比例することになる。言い換えると、織物状シートの強さは、織物状シートの一定面積当たりの、開口部の面積に反比例する。
たとえば、通常ヤーンのような、円形状の断面を有する糸の場合、糸の断面積は径により決まる。そのため、糸の断面の径が大きくなれば、糸の断面積も大きくなる。また、糸の断面の径を大きくすると、織物状シートにおける、縦糸と横糸とが交わる部分である交点部の厚みが大きくなる。これに対して、糸の断面が長方形の形状を有するフラットヤーンの場合、その断面積は、厚み×幅から求められる。すなわち、糸の厚みを薄くしても、糸の幅を大きくすることにより、所定の糸の断面積を備えることになり、所定の破壊応力に対応できる強度を有することになる。別言すれば、縦糸と横糸の交点部を厚くしなくても、所定のフラットヤーンを用いることにより、上記した破壊応力を大きくすることができる。
なお、電子パスポートに使用されるヒンジシートの厚みは、薄いことが好ましい。これは、電子パスポート積層体、すなわちデータページの総厚みは、カードと同様に760μm前後に規定されているためである。たとえば、透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)/コアシート(多層シート)/インレット(IC‐chip及びアンテナ配設シート)/複合ヒンジシート/コアシート(多層シート)/透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)の積層構成において、インレットには、IC−chipとアンテナ(antenna)を配設する必要があるため、ある程度の厚みが必要となる。そのような制限の中で、複合ヒンジシートの厚みを厚くすると、透明オーバーシートとコアシートの厚みを薄くしなければならない。
さらに、上記透明オーバーシートに、レーザーマーキングにより印字される印字濃度は、シート厚みに大きく影響される。また、コアシートの厚みは、インレットのアンテナ配線を隠蔽する機能が求められ、コアシートの厚みが薄くなれば、隠蔽性に劣るようになる。従って、複合ヒンジシートの厚みを厚くすることは、他のシートの厚みを薄くすることになり、電子パスポート用データページの機能を損なう虞がある。
したがって、上記「フラットヤーン」を用いて織物状シートを構成すると、厚みが薄くても十分な耐引き裂き強度等の強度を有する、複合ヒンジシートを得ることができる。さらに、電子パスポートの厚みを薄くできるとともに、電子パスポートの特性を発揮させることができる。
ここで、「フラットヤーン」とは、その表面に、平らな面を有する糸のことをいう。例えば、拡幅されて扁平な断面形状を有する糸が、フラットヤーンである。フラットヤーンとしては、長方形や円形の断面形状を有する糸の表面を扁平させて、糸が厚さ方向に潰れて、断面形状が扁平になった糸を挙げることができる。
フラットヤーンにおいては、表面の全てが平らな面でなくてもよい。したがって、フラットヤーンの断面形状は、扁平な長方形等の多角形に限定されることはない。フラットヤーンの表面には、糸の伸びる方向に、少なくとも1つの平らな面を有していればよい。別言すれば、上記「フラットヤーン」は、フラットヤーンの断面における角部(隅部)が、辺と辺との直交により形成される直角状の、角部(隅部)を有する糸に限定されない。すなわち、糸の断面形状における、上述した角部に相当する部分が、弧状に形成された糸も、上記「フラットヤーン」に含まれる。さらに、糸の断面形状が、半円状、多角形状、尖頭状等の、1以上の角部を有する糸も、上記「フラットヤーン」に含まれる。
なお、上記「フラットヤーン」以外の糸として、一般的に、通常ヤーンとマルチヤーンがある。「通常ヤーン」は、円形断面を有する糸である。また、「マルチヤーン」は、微細な糸を寄り集めて、引き揃えた糸、或いは、撚った糸である。本発明においては、フラットヤーンと通常ヤーン、及びマルチヤーンを適宜組み合せて、織物状シートを形成してもよい。
なお、メッシュクロスまたは不織布を構成する少なくとも1種類の糸が、ポリエステル、ポリアミド、及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種の糸からなることが好ましい。このような材質から形成された糸を用いることにより、メッシュクロスまたは不織布に、柔軟性、耐折曲性、耐久性を持たせることができる。そのため、上記「通常ヤーン」を使用する場合にも、上記「通常ヤーン」が、ポリエステル、ポリアミド、及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種の糸からなることが好ましい。また、上記「マルチヤーン」を使用する場合にも、ポリエステル、ポリアミド、及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種の糸からなることが好ましい。このような材質から形成された糸と、後述する材質から形成されたフラットヤーンとから、織物状シートが形成されると、織物状シートに、柔軟性、耐折曲性、耐久性を確実に持たせることができる。ただし、最も好ましいのは、織物状シートを構成する糸の全てが、後述する材質から形成されたフラットヤーンからなる場合である。
(フラットヤーンの材質)
また、フラットヤーンの材質については、合成樹脂が好ましい。さらに、フラットヤーンが、ポリエステル、ポリアミド、及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種の糸からなることが好ましい。このような材質から少なくとも1種類の糸が、フラットヤーンとして形成されることにより、織物状シートが柔軟性、耐折曲性、耐久性を有することになる。さらに、引張り強度と引き裂き強度に優れた複合ヒンジシートを形成することができる。また、上記材質から形成されるフラットヤーンは、工業製品として使用する場合に、価格が安価であり、供給性も有している。
一方、上記材質以外の合成樹脂材料や天然材料から「フラットヤーン」を形成した場合には、上記特性を得難くなる場合もある。したがって、上記特性を得るものとして、上記フラットヤーンの材質の中でも、ポリエステル、ポリアミドが最も好ましい。
(フラットヤーンの厚さ、幅)
好ましくは、フラットヤーンの厚みは20〜90μm、フラットヤーンの幅が0.2〜2.0mmの範囲である。さらに、フラットヤーンの厚みが40〜75μm、フラットヤーンの幅が0.3〜1.0μmの範囲であることが好ましい。フラットヤーンの厚みと幅を、上記範囲とすることで、織物状シートの開口部に熱可塑性樹脂を十分侵入させることができる。
一方、フラットヤーンの厚みが20μm未満であると、薄すぎてしまう。そのため、耐引き裂き性に劣る場合もあり、さらに、耐破断性、柔軟性、耐折り曲げ性、耐久性が得難い場合もある。これらの特性が得られないと、改竄防止および偽造防止効果が低減する虞がある。また、フラットヤーンの厚みが90μm超であると、このような厚い糸を使用した織物状シートは、糸の交点部が厚くなってしまう。その結果、複合ヒンジシートが厚くなりすぎてしまう。また、電子パスポートに、そのような厚いヒンジシートを使用した場合には、電子パスポート自体が厚くなりすぎてしまう。したがって、携帯に不便であったり、折り曲げが困難になったりして、取扱い等が劣る虞のある電子パスポートとなってしまう。
なお、「交点部」とは、2軸構造からなる織物状シートの場合には、図1及び図3に示されるような、縦糸3と横糸4とが交わる部分(重なる部分)をいい、符合6で示される。同様に、3軸構造からなる織物状シートの場合には、「交点部」とは、図2及び図4に示されるように、縦糸3、横糸4、及び斜糸5が交わる部分(重なる部分)をいい、符合6で示される。
また、フラットヤーンの幅が0.2mm未満であると、引張り強度や引き裂き強度を発揮させるのに必要な断面積を確保するために、フラットヤーンの厚みを厚くしなければならなくなる。その結果、複合ヒンジシートが厚くなりすぎる。また、フラットヤーンの幅が2.0mm超であると、織物状シートの面積に対する開口部の比率(開口率)が小さくなりすぎてしまう。開口率が小さくなりすぎると、熱可塑性樹脂と織物状シートの一体化が不十分となる虞があるため、熱可塑性樹脂と織物状シートの剥離が生じる場合もある。
なお、本明細書内でいう「糸の断面(糸の断面形状)」とは、糸の長さ方向に対して直角に切断した断面を意味する。すなわち、糸の長さ方向に水平な断面(断面形状)を意味するものではない。
また、上記通常ヤーン及びマルチヤーンの径は、織物状シートの厚みに適した繊維径を適宜選択することができる。たとえば、上記通常ヤーン及びマルチヤーンの径が約40〜100μmであるものを好適に使用できる。
(開口部)
ここで、織物状シートにおける多数の「開口部」は、2軸構造の場合には、縦糸と横糸の複数本の糸から形成される「穴」である。また、3軸構造の場合には、縦糸、横糸、及び斜糸の複数本の糸から形成される「穴」である。また、縦糸、及び横糸から構成される2軸構造であれば、縦糸と横糸で囲まれ、これらの糸によって境界付けられる領域であり、その内部(領域)が間隙となっている部分を、開口部(第1開口部)という。また、縦糸、横糸、及び斜糸の複数本の糸から構成される3軸構造であれば、縦糸、横糸、及び斜糸で囲まれ、境界付けられる領域であり、その内部(領域)が間隙となっている部分を、開口部(第2開口部)という。
たとえば、2軸構造の場合に、縦糸と横糸の糸から、四角形網目状(四角形メッシュ状)等の形状が形成されている場合には、その網目が開口部である。具体的には、図1又は図3に示されるように縦糸3と横糸4の糸から形成される、四角形状の開口部2(第1開口部2a)を挙げることができる。さらに、3軸構造の場合に、縦糸、横糸、及び斜糸の複数本の糸から、三角形網目状(三角形メッシュ状)、六角形網目状(六角形メッシュ状)等の形状が形成されている場合には、その網目が開口部である。具体的には、図2または図4に示されるように、縦糸3、横糸4、及び斜糸5の糸から形成される、三角形状の開口部2(第2開口部2b)を挙げることができる。
さらに、上記「開口部」は、織物状シートを(一方の面から他方の面に向かって)貫通するように形成されていてもよいし、織物状シートの網目模様に形成される間隙を経由して貫通するように形成されていてもよい。
このように、開口部(第1開口部、第2開口部)が、織物状シートに、多数形成されることによって、後述する熱可塑性樹脂の一部(一体化の際に溶融した熱可塑性樹脂の一部)が、開口部に十分に侵入でき、さらに、開口部の全てを閉塞しやすくなる。
なお、上記熱可塑性樹脂の一部を開口部に侵入させる場合には、溶融熱可塑性樹脂を、織物状シートの開口部に、溶融状態にして加圧して侵入させる。これによって、織物状シートの開口部に侵入した、熱可塑性樹脂を構成する熱可塑性エラストマーが、織物状シートの開口部を閉塞させる。したがって、織物状シートと熱可塑性樹脂を一体化させやすくなる。このようにして、織物状シートと熱可塑性樹脂が一体化した、平坦な表面を有する新規な複合ヒンジシートが得られる。さらに、織物状シートの開口部に侵入した、熱可塑性樹脂を構成する熱可塑性エラストマーが、織物状シートの両面に熱可塑性樹脂の層を形成してもよい。この熱可塑性樹脂の層を形成することにより、上記織物状シートと上記熱可塑性樹脂からなる複合ヒンジシートと、他のシートとを一体化させやすくなる。
上記「開口部」の形状は、2軸構造を有する織物状シートの場合には、平面視、正方形、長方形等の矩形状のものを挙げることができる。このような正方形、長方形等の矩形状の開口部であれば、開口部(第1開口部)の周囲が、縦糸と横糸により境界付けられることになり、その内部が間隙となっている。別言すれば、上記開口部の形状は、織物状シートの一方の面(又は、他方の面)に形成される穴の周囲を形成する形状をいい、織物状シートの一方の面から他方の面に向けた、穴の奥行きの形状ではない。これは、3軸構造を有する織物状シートの、開口部の形状においても同様である。
同様に、3軸構造を有する織物状シートの、「開口部」の形状は、平面視、三角形、六角形、その他多角形のものを挙げることができる。このような三角形、六角形、その他多角形の開口部であれば、開口部(第2開口部)の周囲が、縦糸、横糸、及び斜糸により境界付けられることになり、その内部が間隙となる。
さらに、上記開口部の形状のうち、正方形、長方形からなる開口部が好ましい。特に、正方形からなる開口部が好ましい。このような形状に開口部が形成されると、熱可塑性樹脂の開口部への侵入を確実に行える。そのため、ヒンジシートが、引き裂き性、耐破断性、柔軟性、耐折り曲げ性、耐久性、加工性、寸法精度などの点で優れたものになる。さらに、工業的に製造がし易くなる。
なお、3軸構造を有する織物状シートの、開口部の形状が三角形の場合には、斜糸が加わる分、2軸構造を有する織物状シートに比べて、製造工程が煩雑となる。また、若干ではあるがコスト負担増となる。しかし、2軸構造と比べて、上記三角形の開口部を有する3軸構造の織物状シートは、引き裂き性、耐破断性などの点で強度が増す。この意味において、改竄や偽造対策として有効なヒンジシートとなる。すなわち、斜糸が加わる分、縦、横方向のみならず、斜め方向からの応力に対応できるからである。
さらに、開口部の開口形状が、縦糸と横糸から構成される2軸構造により形成される正方形、長方形からなり、その開口部の大きさは、縦0.15〜5.0mm×横0.15〜5.0mmであることが好ましい。或いは、開口部の開口形状が、縦糸、横糸、及び斜糸から構成される3軸構造により形成される三角形を含む多角形からなり、縦糸と横糸によって形成される開口部の大きさは、縦0.5〜10.0mm×横0.5〜10.0mmであることが好ましい。開口部の形状を所望形状にし、且つ、開口部の面積を、所望の面積、及び所望の大きさにすることにより、織物状シートと、後述の熱可塑性樹脂との一体化を確実に行うことができる。その結果、複合ヒンジシートの引き裂き性、耐破断性、柔軟性、耐折り曲げ性、耐久性、加工性、寸法精度等を向上させることができる。
一方、開口部の開口形状が、所望形状でない場合には、熱可塑性樹脂と織物状シートとの一体化が十分でないヒンジシートが生産される場合がある。その結果、歩留り率が低減するため好ましくない。なお、熱可塑性樹脂と織物状―トとの一体化が十分でないヒンジシートは、引き裂き性、耐破断性、柔軟性、耐折り曲げ性、耐久性、加工性、寸法精度等の点で支障が生じやすい。
また、2軸構造体の開口部が、縦0.15mm未満(或いは、横0.15mm未満)である場合には、溶融軟化状態の熱可塑性樹脂が、開口部に十分に侵入できない虞もある。そのため、熱可塑性樹脂と織物状シートとの一体化が不十分な場合がある。また、3軸構造体の開口部が、縦0.5mm未満(或いは、横0.5mm未満)である場合にも、上記と同様である。
また、2軸構造体の開口部が、縦5.0mm超(或いは、横5.0mm超)である場合には、加熱積層時の、データページの最表面の平坦性が劣る問題が生じやすい。これは、フラットヤーンの幅部分と、開口部に侵入した熱可塑性樹脂との、耐熱性と剛性が異なるためである。特に、電子パスポート積層体を真空プレス機などにより加熱積層したときに問題が生じる。
すなわち、上記問題は、フラットヤーンの幅部分が、熱可塑性樹脂より剛性が大きく、さらに、耐熱性が高いため生じる。その結果、加熱積層時の温度と圧力により、熱可塑性樹脂が一部押し出されて、複合ヒンジシートに凹凸が発生する。このような凹凸が発生すると、印刷時に、その凹凸がデータページの最表面まで転写されてしまい、データページ最表面の平坦性が劣ることとなる。
また、3軸構造体の開口部が、縦10.0mm超(或いは、横10.0mm超)である場合にも、上記と同様である。
ここで、本実施形態における「開口部の面積」とは、2軸構造を有する織物状シートの場合には、縦糸と横糸から形成される開口部、すなわち、縦糸と横糸で境界づけられる領域(間隙)部分の面積を意味する。なお、この開口部の面積は、織物状シートの一方の面(又は、他方の面)に形成される穴の周囲を形成する形状の面積である。
具体的には、図5に示されるように、縦糸3と横糸4で境界づけられた開口部2を例示できる。この開口部2は、平面視、縦糸の所定長さaと、横糸の所定長さbによって、周囲を境界付けられ、このような開口部の面積を求める場合には、縦a(開口部を境界つける縦糸の長さ)×横b(開口部を境界つける横糸の長さb)によって算出される。
したがって、2軸構造を有する織物状シートの場合には、「縦糸と横糸によって形成される開口部の開口面積が、縦0.15〜5.0mm×横0.15〜5.0mmである」とは、縦a(開口部を境界つける縦糸の長さ)が、0.15〜5.0mmであり、横b(開口部を境界つける横糸の長さb)が、0.15〜5.0mmである場合に、それらの縦の長さと横の長さを掛けて算出された値が、「縦糸と横糸によって形成される開口部の開口面積」であることを意味する。
また、3軸構造を有する織物状シートの場合には、ここでの「開口部の面積」は、縦糸と横糸から形成され、縦糸と横糸で境界づけられる領域(間隙)部分の面積である。すなわち、3軸構造を有する織物状シートの場合には、縦糸と横糸で境界づけられた領域内に配置される斜糸(斜糸部分)を除いた領域部分の面積が「開口部の面積」とする。
具体的には、図2、図4、及び図6に示される、縦糸3、横糸4、及び斜糸5の3軸構造を有する、織物状シートのうち、上記斜糸5を除いて、上記縦糸3及び横糸4により、形成される開口部の面積である。この開口部の面積は、図5に示される2軸構造のような、斜糸がない開口部の(図5では開口部2の)面積を算出したものに相当する。
より具体的には、3軸構造を有する織物状シートの場合の開口面積は、次のように算出される。まず、図6に示されるように、開口部2は、縦糸3、横糸4、及び斜糸5から周囲を境界づけられる。すなわち、開口部2は、縦糸4の所定長さcと、横糸4の所定長さdと、斜糸5から形成されている。ただし、前述のように、開口部の面積は、斜糸5を除いた領域であるため、図6に示されるように、開口部2の開口形状が三角形状であっても、斜糸を除いた領域で算出される。すなわち、本実施形態において、3軸構造を有する織物状シートの開口部の面積を算出する場合には、図6に示される斜糸を有する3軸構造であっても、図5に示される斜糸を有しない開口部の面積を算出したものと同様に規律される。したがって、3軸構造を有する織物状シートの場合には、「縦糸と横糸によって形成される開口部の開口面積が、縦0.5〜10.0mm×横0.5〜10.0mmである」とは、縦c(縦糸の長さ)が、0.5〜10.0mmであり、横d(横糸の長さ)が、0.5〜10.0mmである場合に、それらの縦の長さと横の長さを掛けて算出された値が、3軸構造を有する織物状シートの、「縦糸と横糸によって形成される開口部の開口面積」であることを意味する。
さらに、2軸構造体における開口部の大きさが、縦0.5〜2.0mm×横0.5〜2.0mmであることが好ましい。また、3軸構造体における開口部の大きさが、縦2.0〜8.0mm×横2.0〜8.0mmであることが好ましい。このような所望の大きさに開口部(開口面積)を形成することにより、複合ヒンジシートの一体化が確実になる。さらに、柔軟性に優れ、繰り返しの曲げ強度が向上した複合ヒンジシートを得ることができる。
なお、開口部の開口形状が、平面視、六角形の場合には、上記三角形の場合と同様に、その開口面積は、斜糸を除いた縦糸と横糸から形成される正方形、または長方形の面積に相当する。斜糸を有する場合の織物状シートにおける、開口部の形状が、その他の多角形の場合にも同様にして、面積を算出するとよい。
このように、フラットヤーンの厚みと幅を上記範囲とすることで、織物状シートの開口部に熱可塑性樹脂を十分侵入させることができる。そのため、引張り強度や引き裂き強度に優れ、シートの平坦性に優れた熱可塑性樹脂と織物状シートが一体化した複合ヒンジシートを得ることができる。すなわち、織物状シートの開口部に、熱可塑性樹脂を十分侵入させるためには、織物状シートの開口率(織物状シートの面積に対する開口部の面積の比率)と、開口部の面積が大きく、フラットヤーンの幅の狭いことが条件となる。但し、薄い織物状シートにおいて、フラットヤーンの幅を狭くしすぎると、糸の強度が小さくなってしまう。さらに、開口率を大きくしすぎると、織物状シート自体の強度が小さくなってしまう。
また、開口部の面積を大きくしすぎると、上記の通り、フラットヤーンの幅部分と、開口部に侵入した熱可塑性樹脂の、耐熱性及び剛性が異なるため、問題が生じる虞もある。すなわち、電子パスポートの積層体を成形する際の、真空プレス機などによる加熱積層時に、データページの最表面の、平坦性が劣る問題が生じる。別言すれば、加熱積層時の温度と圧力により、熱可塑性樹脂が一部押し出されるため、複合ヒンジシートに凹凸が発生する。この凹凸が、データページ最表面まで転写されることにより、データページ最表面の平坦性が劣ることとなる。
一方、織物状シートの、開口率や開口部の面積があまりにも小さい場合には、Tダイ付押出成形機の、Tダイより吐出された、溶融軟化状態の熱可塑性樹脂が、織物状シートの開口部に侵入し難くなる。その結果、織物状シートの開口部にて、熱可塑性樹脂の連結構造が形成されず、織物状シートと熱可塑性樹脂の一体化が十分でないヒンジシートとなる虞がある。このようなヒンジシートでは、織物状シートと熱可塑性樹脂の剥離が生じやすいものとなる。
ここで、上記織物状シートの開口率が50%以上、80%未満であることが好ましい。開口率が50%未満では、織物状シートの開口部への熱可塑性樹脂の浸入が十分でない場合がある。さらに、断裁工程で切削が困難であったり、加熱積層工程で複合ヒンジシートが“カール”してしまったりする等の不具合が生じる虞もある。また、開口率が80%を超えた場合には、織物状シートとしての工業製品は存在しない。おそらく、開口部が広すぎて織る工程で問題が生じるか、織物として得られたとしても、織物の縦糸及び横糸等が交差する交点部が少なすぎて、織物の交点部がずれる事、いわゆる“目がずれる”ため、工業製品にはならないのではないかと推測する。
なお、この開口率とは、開口率=オープニング/(オープニング+繊維面積)×100(%)で表される値をいい、一般的には、開口率=〔オープニング×2/(線径+オープニング)×2〕×100(%)で示される値である。また、上記「オープニング」は、開口部の面積である。なお、この開口率については、たとえば、特開2011−79285号公報の第(11)〜(12)頁の記載に従って求めることができる。
(織物状シートの厚さ)
さらに、織物状シートの厚さが、50〜200μmであることが好ましい。このように所望の厚さに形成されることにより、十分な耐引き裂き性を得た複合ヒンジシートを形成できる。一方、織物状シートの厚さが50μm未満では、引張り強度や引き裂き強度が不十分となる虞がある。また、織物状シートの厚さが200μmを超えると、得られる複合ヒンジシートの厚みが200μm超となり、電子パスポートの、データページの総厚みが規定されているなかで、複合ヒンジシートの厚み比率が大きくなる。上記のように、複合ヒンジシートの厚みを大きくしてしまうと、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを構成する、透明オーバーシート及びコアシートを薄くしなければならない。しかし、透明オーバーシートの厚みを薄くするとレーザー発色性の低下が生じる虞がある。また、コアシートの厚みを薄くすると、印刷工程でのシート送りに問題が生じたり、隠蔽性の不足が生じたりする虞があり、好ましくない。
ここで、織物状シートの厚さは、2軸構造からなる織物状シートの場合には、図1及び図3に示されるように、縦糸3と横糸4とが交わる部分(重なる部分)であり、交点部6の厚さでもある。また、3軸構造からなる織物状シートの場合には、図2及び図4に示されるように、縦糸3、横糸4、及び斜糸5が交わる部分(重なる部分)であり、交点部6の厚さでもある。
さらに、2軸構造体を有するメッシュクロスまたは不織布の開口部の形状が、縦糸と横糸から形成される正方形または長方形であるとともに、開口部の大きさが、縦0.15〜5.0mm×横0.15〜5.0mmであり、フラットヤーンの厚みが20〜90μmであり、フラットヤーンの幅が0.2〜2.0mmである、織物状シートを備える、複合ヒンジシートであることが好ましい。同様に、3軸構造体を有するメッシュクロスまたは不織布の開口部の形状が、三角形を含む多角形であるとともに、3軸構造体の斜糸を除いた縦糸と横糸から形成される3軸構造体の開口部の形状が、正方形または長方形であり、且つ開口部の大きさが、縦0.5〜10.0mm×横0.5〜10.0mmであり、フラットヤーンの厚みが20〜90μmであり、フラットヤーンの幅が0.2〜2.0mmである、織物状シートを備える、複合ヒンジシートであることが好ましい。このような織物状シートから、後述する複合ヒンジシートが形成されると、交点部の厚みが薄くても、引き裂き強度、引張り強度に優れたものとなる。
なお、複合ヒンジシートを薄く成形しても、電子パスポート積層体を構成する、他のシートを薄くする必要性はない。
[1−2]熱可塑性樹脂:
本発明の複合ヒンジシートにおける、熱可塑性樹脂は、少なくとも1種の熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性樹脂である。さらに、好ましい熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性オレフィンエラストマー、熱可塑性アクリルエラストマーの熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種である。
また、2種以上を混合して使用する際の混合割合は、特に限定されるものではないが、混合使用の場合には、少なくとも熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)が含まれていることが、良好な耐引き裂き性、柔軟性を得る点から好ましい。
上記した熱可塑性オレフィンエラストマーとしては、たとえばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンなどを挙げることができる。なお、これらの熱可塑性オレフィンエラストマーは、1種、或いは2種以上を混合して使用することができる。
また、熱可塑性樹脂は、表面硬度ショアAが85以上、ショアDが70未満の柔軟性を有するものであることがよい。このようなショア硬度を有する熱可塑性樹脂を用いることにより、織物状シートと一体化させた複合ヒンジシートに、柔軟性を持たせることができる。特に、低温時においても、常温と変わらぬ柔軟性を、複合ヒンジシートに持たせることができる。更に、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを成形する際の、加熱プレス工程で、他のシートとの加熱融着性を確保できる。
さらに、織物状シートの開口部に、熱可塑性エラストマー等の熱可塑性樹脂を溶融充填した後、この熱可塑性樹脂が非開口化された織物状シートの表面に層状となって形成されることが好ましい。電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを成形する際の、加熱プレス工程で、他のシートとの加熱融着性を確保できる。
このような表面硬度ショアAが85以上、ショアDが70未満の柔軟性を有する熱可塑性樹脂としては、たとえば、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)等を例示できる。
さらに、上記熱可塑性樹脂が、QUV促進耐侯性試験において100時間経過後の色差△Eが6以下である熱可塑性エラストマーまたは非晶性ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。経時劣化安定性を保つことができるからである。なお、一般的に、色差△Eが0.5〜0.7程度ある場合には、その違いを認識できる。また、色差△Eが6もあると、かなり黄変が始まっていることになる。さらに、色差△Eが6を超えると見た目が悪く、製品としての違和感が生じるため使用に耐えられない。したがって、上記のように、色差△Eは6以下を基準とした。
なお、このようなQUV促進耐侯性試験は、引張破断強度や引張破断伸び等の力学特性と並行して評価してもよい。より具体的には、QUV促進耐侯性試験の前後に、引張破断強度や引張破断伸び等の試験を行い、試験片(シート)の保持率や、耐久性を評価してもよい。ただし、この力学特性においても、保持率は少なくとも60%程度が下限と考えられる。60%未満では、初期の性能の半分程度に低下しているため、製品の使用上、好ましくない。
また、上記した熱可塑性エラストマーからなる熱可塑性樹脂には、その機能を阻害しない範囲内で、無機フィラー、有機フィラー、他の熱可塑性樹脂等を混合してもよい。更に、滑剤、安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料などの着色剤等を添加、混合してもよい。具体的には、無機フィラーとしては、雲母、マイカ、ミクロマイカ、シリカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、PPS繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維等が挙げられる。他の熱可塑性樹脂としては、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジェン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
より具体的には、断裁加工性及び耐熱性を向上させる目的で、AS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等を少量配合することがある。また、無機フィラーとしては、たとえば、雲母、マイカ、ミクロマイカ、シリカ等を、同様の目的で配合することがある。更に、着色の目的で、顔料、染料などの着色剤を配合することがある。また、成形加工時や使用時の安定性を向上させる目的で、滑剤、安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を配合することがある。
なお、上記織物状シートを構成するメッシュクロスまたは不織布は、薄くても引張り強度や引き裂き強度を有し、さらに、柔軟性や耐折曲性(ヒンジ特性という)を有している。また、上記熱可塑性樹脂は、柔軟性、耐久性、及び耐屈曲性を有している。さらに、上記熱可塑性樹脂を、上記織物状シートの開口部に侵入させて、充満させることにより、メッシュクロスまたは不織布の開口部にて、熱可塑性樹脂の連結構造が形成される。すなわち、この連結構造が、メッシュクロスまたは不織布を複合ヒンジシート内部に固定する役割を担っている。更に、上記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂を含む組成物から形成されるシート、或いは、3層コアシートの非晶性ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物から形成される層、との加熱融着性を確保する。なお、上記連結構造とは、織物状シートの開口部を、上記熱可塑性樹脂の一部が閉塞させた状態の構造を意味する。すなわち、織物状シートの開口部に、溶融させて侵入させた上記熱可塑性樹脂の一部が、その開口部を閉塞することにより、織物状シートと熱可塑性樹脂とが、いわば連結された構造であることを意味する。
[1−3]複合ヒンジシート:
本実施形態の複合ヒンジシートは、前述のように、織物状シートと熱可塑性樹脂とから構成される。すなわち、本実施形態の複合ヒンジシートでは、前述のような織物状シートの開口部を、熱可塑性樹脂で閉塞することで、両者の特性を併せ持った複合ヒンジシートが形成される。換言すれば、熱可塑性エラストマーが備える柔軟性と織物状シートが備える強度、剛性及び耐熱性が両立してなる新規な複合ヒンジシートとなっている。
また、この複合ヒンジシートは、(後述の)透明レーザーマーキングシートと、(後述の)コアシートと、いわゆるインレットとを、パスポートの表紙と他のビザシート等と一体に堅固に綴じるために、非常に重要な役割を担うシートである。ここで、透明レーザーマーキングシートは、レーザーマーキングにより画像、文字等の情報を書き込んだシートである。コアシートは、印刷等により画像、文字等の情報を印刷したシートである。インレットは、ICチップ等の記憶媒体にデータ等を記憶させて配設したシートである。
上記複合ヒンジシートは、コアシートと堅固な綴じ込みを可能とする、加熱融着性、適度な柔軟性、加熱融着工程での耐熱性等を備える必要がある。また、この複合ヒンジシートを、電子パスポートの表紙等に、ミシン綴じする場合には、ミシン部の引き裂き強度、及び引張強度に優れることが求められる。且つ、このミシン綴じ部分の、耐光性及び耐熱性を有することが求められる。さらに、繰り返し曲げに対する抵抗性、言い換えるとヒンジ特性に優れることが要求される。このような目的に合致する上記素材が、複合ヒンジシートに好適に用いられる。
さらに、織物状シートの開口部に、熱可塑性樹脂が溶融状態で侵入して、開口部を閉塞するように構成されている複合ヒンジシートが好ましい。すなわち、織物状シートの開口部を、熱可塑性樹脂が閉塞して、織物状シートと熱可塑性樹脂が渾然一体化されていることが好ましい。
たとえば、織物状シートの開口部を熱可塑性樹脂で閉塞するにあたっては、図7に示されるように、織物状シートの開口部2にのみ熱可塑性樹脂7を浸入させ、充満させる。このようにして、開口部2を閉塞させた、複合ヒンジシート10(10A)を成形してもよい。
また、図8に示されるように、織物状シートの開口部2に、熱可塑性樹脂7を浸入させ、充満させる。このようにして、開口部2を閉塞させる。さらに、織物状シートの上下面に、上記熱可塑性樹脂からなるスキン層8を形成し、複合ヒンジシート10(10B)を成形してもよい。このようにスキン層を形成することにより、織物状シートの有する強度性、剛性、及び耐熱性と、熱可塑性樹脂の有する柔軟性、低温特性、及び熱可塑性と、を併せ持つ新規な熱可塑性複合シートを得ることができる。
なお、図8に示されるような「スキン層」を形成した場合においても、上記熱可塑性樹脂からなるスキン層と、上記熱可塑性樹脂で閉塞させた開口部との境界が形成されているわけではない。これは、織物状シートと熱可塑性樹脂が渾然一体化されているためである。したがって、上記「スキン層」とは、開口部を閉塞した上記熱可塑性樹脂の表面から、複合ヒンジシートの表面までの、熱可塑性樹脂で形成された領域からなる層を意味する。
この複合ヒンジシートは、コアシートとの加熱融着性に優れている。そのため、後述のような電子パスポート用レーザーマーキング多層シートのヒンジシートに使用するとよい。上記ヒンジシートとして使用すると、コアシート/複合ヒンジシート/コアシート間の、層間の剥離強度を十分なものにできる。また、複合ヒンジシートを、電子パスポートの表紙等にミシン綴じする場合には、ヒンジ特性を、電子パスポートに持たせることができる。すなわち、ミシン綴じする部分で、繰り返し曲げを行っても、その繰り返し曲げに耐え得るヒンジ特性を、電子パスポートに持たせることができる。また、パスポートが、ミシン部の耐破壊強度に優れたものになる。更には、国内外を問わず、世界の低温地域でのパスポート使用に耐え得るといった低温時のヒンジ特性をパスポートに持たせることができる。さらに、高温地域における、ヒンジ特性やミシン部の耐破壊強度に優れたパスポートとなる。加えて、パスポートの最長有効期限である10年使用等の長期間においても、経時劣化安定性に優れたパスポートとなる。そのため、あらゆる地域での長期間の使用に耐え得る特性を有するパスポートとなる。
ここで、「織物状シートの開口部に、熱可塑性樹脂が溶融状態で侵入して、非開口される」とは、織物状シートに形成された多数の開口部に、溶融させた熱可塑性樹脂の一部が侵入して、全ての開口部を塞いでしまい非開口化された状態となることを意味する。
(複合ヒンジシートの製造方法)
本実施形態における複合ヒンジシートの製造法としては、以下のように行うとよい。たとえば、Tダイ付押出成形機を使用して、Tダイより吐出された溶融軟化状態の熱可塑性樹脂を、織物状シートとともに熱ロールにて、織物状シートの開口部に侵入させる。さらに、上記開口部に熱可塑性樹脂を充満させることにより、熱可塑性樹脂と織物状シートを一体化させる方法が挙げられる。また、Tダイ付押出成形機を使用して熱可塑性樹脂シートを作製した後、織物状シートと熱ラミネートする方法などが挙げられる。ただし、これらの方法に限定されるわけではない。上記織物状シートに上記熱可塑性樹脂が一体化されることが好ましい。具体例として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの場合は、170〜240℃にて、溶融押出させることが好ましい。
また、熱ラミネートするに際しては、予め、織物状シートを構成する縦糸、横糸、および斜糸に、化学的、或いは物理的前処理を行ってもよい。たとえば、プライマー塗布、コロナ処理、プラズマ処理等を挙げることができる。上記化学的、或いは物理的前処理を行うことにより、織物状シートと熱可塑性樹脂とを確実に一体化することができる。
さらに、複合ヒンジシートは、織物状シートの開口部に、溶融軟化状態の熱可塑性樹脂を侵入させることにより、織物状シートの開口部の全てに熱可塑性樹脂を充満させる。これにより、織物状シートと熱可塑性樹脂が一体化される。また、溶融軟化状態の熱可塑性樹脂と織物状シートをラミネーションさせ、織物状シートの開口部に溶融軟化状態の熱可塑性樹脂を侵入させる。その後、この複合シートを反転して、最初に溶融軟化状態の熱可塑性樹脂を侵入させた側と反対側から、さらに、溶融軟化状態の熱可塑性樹脂を侵入させ充満させる。これにより一体化した複合ヒンジシートを得る。なお、このような溶融軟化状態の熱可塑性樹脂と織物状シートをラミネーションする方法については、特に限定されるものではない。たとえば、Tダイ付の押出成形機を用いて、熱可塑性樹脂を溶融状態でTダイからシート状に出す。その直後に、織物状シートを接触させて、2本の引き取りロール間に導き、織物状シートの開口部に溶融軟化状態の熱可塑性樹脂を侵入させる方法がある。
さらに、織物状シートの開口部に、熱可塑性樹脂を溶融軟化状態で侵入させ、織物状シートの開口部の全てを熱可塑性樹脂で充満させた複合ヒンジシートに、スキン層を形成してもよい。このスキン層は、織物状シートの上下両側に、熱可塑性樹脂を層状にすることにより、形成してもよい。この場合は、上下両側の熱可塑性樹脂から形成されるスキン層の、厚みが均一なことが好ましい。上下両側の熱可塑性樹脂から形成されるスキン層の、厚みが異なると、複合シートにソリが発生してシートの搬送性が悪くなる虞があるためである。また、他のシート(たとえばコアシート)と加熱積層する際の、加熱積層工程で、反りが大きく生じる場合もある。この場合には、表紙等とミシン綴じする際に不具合が生じる虞がある。
なお、複合ヒンジシートの形状、大きさ等は、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを綴じ込みしやすい形状、大きさ等であれば、とくに形状や、長さ寸法等は限定されるものではない。必要に応じて適宜選択されることが好ましい。
たとえば、上記織物状シートのみをヒンジシートとして使用して、加熱プレス処理する場合には、比較的大きな圧力で加熱積層する必要がある。これにより、織物状シートの開口部に、これと隣接している熱可塑性樹脂のシート、たとえば、コアシートの一部が軟化侵入し、両側の熱可塑性樹脂が織物状シートの開口部で連結構造を形成することにより層間接着性(加熱融着性ともいう)が確保できる。一方、たとえば、ポリカーボネート樹脂からなる透明オーバーシート/コアシート/織物状シート/コアシート/ポリカーボネート樹脂からなる透明オーバーシートの構成の場合には、問題が生じる。上記例の場合、ポリカーボネート樹脂シートの軟化する温度は170〜210℃程度であり、このような比較的高温で、真空プレス機にて加熱、加圧して積層すると、加圧圧力が不足する虞もある。さらに、加熱温度、または時間が不足したりすると、織物状シートの開口部にポリカーボネート樹脂の軟化侵入が不足する場合もある。そして、上記開口部への、ポリカーボネート樹脂の軟化侵入が不足する場合には、ポリカーボネート樹脂コアシート/織物状シート/ポリカーボネート樹脂コアシートにおいて層間剥離の問題が生じる虞がある。
さらに、複合ヒンジシートに使用する熱可塑性樹脂から構成される熱可塑性樹脂シートだけを、ヒンジシートに使用する例を挙げる。たとえば、ポリカーボネート樹脂コアシート/上記熱可塑性樹脂シート/ポリカーボネート樹脂コアシートの構成の場合、各シート間の加熱融着性に優れたものとなる。そのため、層間接着強度が十分である。一方、上記熱可塑性樹脂シートが薄い場合には、特に、引張り強度、及び引き裂き強度が十分でないという問題がある。
しかし、本実施形態の複合ヒンジシートを使用する場合には、加熱積層工程にて、熱可塑性樹脂が軟化し、隣接するコアシートと加熱融着する。この時点で、熱可塑性樹脂とコアシートのスキン層の樹脂との相溶性が良好となる。そのため、比較的低圧にて加熱融着させることができる。更に、複合一体化している織物状シートが軟化しないため、“樹脂のはみ出し”がない。そのため、複合ヒンジシートを電子パスポート用レーザーマーキング多層シートに使用しても、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートの総厚さの低減が全くみられない。
更に、複合ヒンジシートにおいて、織物状シートの両面全面に、上記熱可塑性樹脂が均一な層として形成されていることが好ましい。
(複合ヒンジシートの厚さ)
さらに、電子パスポート用レーザーマーキング多層シート、電子パスポート等に使用される場合には、複合ヒンジシートの厚みが50〜300μmであることが好ましい。さらに、複合ヒンジシートの厚みが80〜200μmであることがより好ましい。複合ヒンジシートが所望範囲内の厚みであると、柔軟性、繰り返しの曲げ強度を増すことができ、汎用性が向上する。そのため、不具合が生じ難い。一方、複合ヒンジシートの厚みが50μm未満であると、複合ヒンジシートの耐引き裂き性等が劣り、改竄や偽造対策としては不十分なものとなる虞がある。また、複合ヒンジシートの厚みが300μm超であると、柔軟性が劣り、繰り返しの曲げ強度も低下しやすい。そのため、不具合が生じ、汎用性も劣る虞がある。
なお、上記電子パスポートのタイプには、「e−Card」タイプと、「e−Cover」タイプがある。「e−Card」タイプの電子パスポートは、IC−chipとアンテナを配し、個人情報等を記載したデータページを表紙等と製本したものである。「e−Cover」タイプの電子パスポートは、表紙にIC−chipとアンテナを配したInlayと、個人情報等を記載したデータページを、表紙等と製本したものである。
また、上記「e−Card」タイプのデータページは、IC−chipとアンテナを配しているため、総厚みはICカードと同様に、800μm前後である。また、上記「e−Cover」タイプのデータページは、IC−chipとアンテナがないため、総厚みは400〜600μm程度が主流である。これらのデータページにおいて、複合ヒンジシートが厚いと、透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)、コアシートを薄くしなければならない。しかし、透明オーバーシートが薄くなりすぎると、レーザーマーキングした印字濃度が薄くなってしまう。或いは、コアシートが薄くなりすぎると、固定情報を印刷機にてコアシートに印刷する場合に、良好な印刷ができない。
さらに、上記「e−Cover」タイプのデータページを例に説明する。この基本構成として、透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)/コアシート/ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)とすると、総厚みを500μm前後とするには、たとえば、透明オーバーシートの厚みを約80μm、コアシートの厚みを約120μm、ヒンジシートの厚みを約120μm、程度にしなければならない。また、総厚みを600μm前後とした場合には、ヒンジシートの厚みを約200μmとしてもよいことになる。
更に、「e−Card」タイプのデータページを例に説明する。この基本構成として、透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)/コアシート/インレット(または、「インレイ」と称する)/ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)とすると、総厚みを800μm前後とするには、たとえば、インレットの厚みを約400μmとすると、透明オーバーシートの厚みを約60μm、コアシートの厚みを約100μm、ヒンジシートの厚みを約120μm、程度にしなければならない。
(複合ヒンジシートの張り出し部)
さらに、複合ヒンジシートの一端は、透明オーバーシート及びコアシートよりも5〜100mm長い、張り出し部を有することが好ましい。複合ヒンジシートに張り出し部を形成することにより、電子パスポートに組み付けやすくなるからである。上記「張り出し部」は、透明オーバーシート及びコアシートよりも長い、複合ヒンジシートの長手方向の一端の部分をいう。さらに、上記「張り出し部」は、ミシン綴じ若しくは接着により、或いは、ミシン綴じ及び接着により、電子パスポートに組み付けるためのものである。
たとえば、図9〜図11に示されるように、複合ヒンジシート10の一端が、透明オーバーシート13,23、及びコアシート15,25よりも、所定範囲で長く形成された張り出し部29を挙げることができる。上記張り出し部29を形成すると、たとえば、ミシン綴じ部27でミシン綴じが容易に行え、電子パスポートに組み付けしやすくなる。
なお、複合ヒンジシート10に張り出し部29を形成する場合に、張り出し部29の長さは、ミシン綴じの仕方若しくは接着作業性、或いは、ミシン綴じの仕方及び接着作業性により決められることが好ましい。さらに、ミシン綴じ部27の強度及び接着強度により、張り出し部29の長さが決められることが好ましい。ただし、後述のように、複合ヒンジシートが、電子パスポート用レーザーマーキング多層シート、電子パスポート等に使用される場合には、張り出し部の寸法は、5〜100mmであることが好ましく、より好ましくは5〜50mm、更に好ましくは5〜20mmである。
[2]本実施形態の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートの構成:
本発明の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートは、これまで説明した複合ヒンジシートを使用する電子パスポート用レーザーマーキング多層シートである。且つ、透明オーバーシート/コアシート/複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシートの5層を積層してなる構成を基本構成とする電子パスポート用レーザーマーキング多層シートである。
上記「透明オーバーシート」は、電子パスポート用透明レーザーマーキング多層シートにおいて、最外側に配置される透明レーザーマーキングシートである。すなわち、レーザーマーキングにより、文字、図形等の情報が印字されるシートである。すなわち、上記透明オーバーシートは、データページを構成するものとして使用される。さらに、本実施形態では、透明オーバーシートは、(1)単層シート、(2)多層シート1、または(3)多層シート2、として構成される。
上記(1)単層シートは、ポリカーボネート樹脂及び、レーザー光エネルギー吸収剤を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなる、単層構造のシートとして構成される。
上記(2)多層シート1は、スキン層とコア層を有する多層シートとして構成される。さらに、両最外層である上記スキン層が、ガラス転移温度が80℃以上の非晶性ポリエステル樹脂を含む透明熱可塑性樹脂組成物からなる。且つ、上記コア層が、ポリカーボネート樹脂、およびレーザー光エネルギー吸収剤を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなる、多層構造のシートとして構成される。
上記(3)多層シート2は、スキン層とコア層を有する多層シートとして構成される。さらに、両最外層である上記スキン層が、ポリカーボネート樹脂からなる。且つ、上記コア層が、熱可塑性ポリカーボネート樹脂及びレーザー光エネルギー吸収剤を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなる、多層構造のシートとして構成される。
さらに、上記基本構成における、「コアシート」は、ポリカーボネート樹脂、及び着色剤を含むポリカーボネート樹脂組成物からなる。この「コアシート」を、着色コア単層シート(または、「PCコアシート」)という。
または、上記基本構成における、「コアシート」が、スキン層とコア層を有する多層シートとして構成される。さらに、両最外層である上記スキン層が、ガラス転移温度が80℃以上の非晶性ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物からなる。且つ、上記コア層が、ポリカーボネート樹脂を含む熱可塑性樹脂からなる。さらに、上記スキン層及びコア層の少なくとも一層には、着色剤を含んでなる。この「コアシート」を、着色コア多層シート(または、「「PETG/PC/PETG」から構成される3層コアシート」))という。
上記のように構成されることによって、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートは、引き裂き強度、引張強度、経時安定性、鮮明性等に優れたものとなる。
たとえば、この電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを、電子パスポート表紙、または裏表紙に、ミシン綴じ若しくは接着、或いはミシン綴じ、及び接着する。これによって、電子パスポートのヒンジ部は、引き裂き強度、引張強度に優れたものとなる。すなわち、電子パスポートのヒンジ部を形成する、複合ヒンジシートが、パスポート本体から引きちぎられることを未然に、且つ、確実に防止できる。さらに、上記電子パスポートは柔軟性を失うことなく、繰り返しの曲げに対しても十分な強度を有し、実際の使用時における耐光劣化性等の経時安定性に優れたものとなる。
さらに、透明オーバーシートにマーキングされた画像等は、コントラスト比が、一層向上し、鮮明性に優れたものとなる。そのため、コアシートの片面(透明オーバーシート側)には、上記基本構成の5つのシートを積層する前に、固定情報を印刷できる。さらに、上記基本構成の5つのシートを積層する前に、透明オーバーシートには、個人情報をレーザーマーキングできる。したがって、所謂「データページ(Data−Page)」の両側に、異なる固定情報と個人情報、または、同じ固定情報と個人情報とを、印刷することができレーザーマーキングで描画できる。
なお、本発明の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートの基本構成は、上記したように5層からなるものであるが、その構成と材質は、本発明の範囲において種々選択することができる。具体的な構成と材質を下記に例示するが、これに限定されるものではない。
まず、インレットを含まない構成としては、(1)「PC単層」、または「PC/PC/PCの3層」から構成される透明オーバーシート/PCコアシート/複合ヒンジシート/PCコアシート/「PC単層」、または「PC/PC/PCの3層」から構成される透明オーバーシートを、積層して電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを構成してもよい。
また、(2)「PC単層」、または「PC/PC/PCの3層」から構成される透明オーバーシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成されるコアシート/複合ヒンジシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成されるコアシート/「PC単層」、または「PC/PC/PCの3層」から構成される透明オーバーシートを、積層して電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを構成してもよい。なお、上記「PETG/PC/PETG」の3層から構成されるコアシートは、全ての層に、酸化チタン等の着色染、顔料を配合してもよい。
また、(3)「PETG/PC/PETG」の3層から構成される透明オーバーシート/PCコアシート/複合ヒンジシート/PCコアシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成される透明オーバーシートを積層して電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを構成してもよい。
また、(4)「PETG/PC/PETG」の3層から構成される透明オーバーシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成されるコアシート/複合ヒンジシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成されるコアシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成される透明オーバーシートを積層して電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを構成してもよい。
さらに、(5)上記(1)〜(4)の構成からなる多層シートに、ホログラムシートを挿入するために、透明オーバーシート上に、オーバーシートと同材質(レーザーマーキング処方、または未処方)の保護層を形成してなる層構成からなるものを積層する。このようにして、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを構成してもよい。
なお、コアシート、または保護層を形成する材質は、「PETG」や、「「PETG」と「PC」からなる「ポリマーアロイ」」等も使用することができる。
また、インレット(ICチップとアンテナを配したもの)を含む構成としては、上記(1)〜(5)の層構成における、ヒンジシートの上側または下側に、インレットを介在させた構成を挙げることができる。なお、インレットを形成する材質は、上記のような、PETG、PC等をはじめとする種々の樹脂が使用される。
また、上記した構成からなる電子パスポート用レーザーマーキング多層シートの例を、図9〜図11に示す。図9には、上記(1)の、「PC単層からなる透明オーバーシート/PCコアシート/複合ヒンジシート/PCコアシート/PC単層からなる透明オーバーシート」からなる層構成の、電子パスポート用レーザーマーキング多層シート11(11A)が示されている。図中、符号13は、透明オーバーシート、符号15は、コアシート、符号10は、複合ヒンジシートである。
さらに、図10には、上記(2)の、「PC単層からなる透明オーバーシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成されるコアシート/複合ヒンジシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成される3層コアシート/PC単層からなる透明オーバーシート」からなる層構成の、電子パスポート用レーザーマーキング多層シート11(11B)が示されている。図中、符号13は、透明オーバーシート、符号25は、両最外層であるスキン層25aに挟まれた形でコア層25bを有する、3層コアシート、符号10は、複合ヒンジシートである。
さらに、図11には、上記(2)または(4)の、「「PC/PC/PC」、または「PETG/PC/PETG」の3層から構成される透明オーバーシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成されるコアシート/複合ヒンジシート/「PETG/PC/PETG」の3層から構成されるコアシート/「PC/PC/PC」、または「PETG/PC/PETG」の3層から構成される透明オーバーシート」からなる層構成の、電子パスポート用レーザーマーキング多層シート11(11C)が示されている。図中、符号23は、透明オーバーシートであり、両最外層であるスキン層23aに挟まれた形で、コア層23bを有する、3層の構成からなる透明オーバーシートである。符号10、符号25は、図10と同様である。
さらに、本発明の電子パスポート用レーザーマーキング多層シート11(11A,11B,11C)の各構成について説明する。
なお、本発明の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを構成する透明オーバーシートは、前述したように単層から構成されるレーザーマーキングシートである。または、上記透明オーバーシートは、スキン層とコア層とから構成され、少なくとも3層の多層構造からなるレーザーマーキングシート、いわゆる透明レーザーマーキング多層シートである。
[2−1]単層シート:
透明オーバーシートが、単層シートとして構成される場合には、この単層シートは、ポリカーボネート樹脂及び、レーザー光エネルギー吸収剤を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物から形成される。ただし、ここで使用されるポリカーボネート樹脂は、その製造方法、重合度などに特に制限はないが、メルトボリュームレイト(メルトフロー特性)が4〜20のものを好適に使用することができる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性(強靭性)が向上するという点では意味はあるものの、成形性が劣ることから、実際の使用に支障が生じる虞がある。一方、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性が劣る虞がある。このように、透明オーバーシートを、ポリカーボネート樹脂からなる透明樹脂層で形成することによって、レーザー光エネルギー照射による印字部(マーキング部)の発泡による、いわゆる「フクレ」や「ボイド(微小な空洞)」の発生を抑制できる。さらに、レーザー光エネルギー照射によるマーキング部の耐磨耗性を向上することができる。
ここで、透明オーバーシートが、単層シートとして構成される場合には、高い透明性を有していることが重要である。そのため、このような単層シートを構成する透明オーバーシートの原料としては、ポリカーボネート樹脂の透明性を阻害しない樹脂、たとえば、フィラー等であれば特に制限なく使用できる。特に、耐傷性を向上させ、または耐熱性を向上させる目的で、汎用ポリカーボネート樹脂と特殊ポリカーボネート樹脂とのポリマーブレンドが好ましい。または、ポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂とのポリマーブレンド等が好ましい。
さらに、上記特殊ポリカーボネート樹脂としては、たとえば、主鎖がポリカーボネート樹脂からなり、側鎖にポリスチレン骨格または変性アクリロニトリル−スチレン共重合骨格を有するグラフト共重合体を挙げることができる。
なお、透明オーバーシートが、単層シートとして構成される場合には、この単層シートに、レーザー光エネルギー吸収剤を含むことが好ましいが、この点については後述する。また、上記した単層シートとしての(単層構造としての)透明オーバーシートの厚さは、特に限定されるものではないが、好ましい範囲は、後述の所定範囲の厚さに形成されることである。
[2−2]多層シート1及び多層シート2:
本実施形態において、透明オーバーシートが、前述のような、多層シート1、または多層シート2として構成される場合には、これらの透明オーバーシートは、スキン層とコア層とからなる「少なくとも3層」構造の透明オーバーシートとして構成されることが好ましい。ただし、この「3層シート」とは、「少なくとも3層」を意味するものであって、3層構造のシートに限られるものではない。換言すれば、透明オーバーシートにおいて、「3層シート」と言うのは、説明の便宜を図るものであり、ここで言う「3層シート」とは、「少なくとも3層以上の層からなる多層シート」を意味する。したがって、「3層」から成るシートに限定する趣旨ではない。つまり、3層以上の構成からなれば、5層から構成されても、7層から構成されても、或いは、それ以上の奇数層から形成されていても、上記透明オーバーシートに含まれる。
なお、上述した「少なくとも3層」といった多層構造の透明オーバーシートとして構成される場合には、後述する透明オーバーシートのスキン層は、多層構造から構成される透明オーバーシートの最も外側の位置に配される。且つ、透明オーバーシートの両面に配される。さらに、両スキン層(の間)に、コア層が挟まれるように配されることが必要となる。なお、多層構造の透明オーバーシートのスキン層の厚さは、特に限定されるものではないが、より好ましいのは、後述の所定範囲の厚さに形成されることである。
ただし、透明オーバーシートが上述の「それ以上の奇数層」から構成される場合であっても、あまりに多層構造からなる場合には、配されるスキン層とコア層との一層あたりの層の厚さが薄くなり過ぎてしまう。そのため、積層時の加熱プレス工程での、いわゆる金型スティックが発生してしまうおそれがある。したがって、好ましいのは5層から、より好ましいのは3層から構成される透明オーバーシートである。
なお、この「3層シート」は、スキン層とコア層との3層が積層された後の状態を示すための表現であって、積層方法を制限するものではない。
また、透明オーバーシートが、スキン層とコア層とからなる「少なくとも3層」構造のシートとして構成される場合には、たとえば溶融押出成形により一体的に積層成形されることが好ましい。ただし、これに限定されるものではない。
すなわち、本実施形態における透明オーバーシートが前述のように奇数層から構成されるのは、偶数層からなる多層シートは、必ず奇数層からなる透明オーバーシートと同じ構成となるからである。たとえば、4層からなる透明レーザーマーキング多層シートでは、スキン層(PETG)/コア層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PETG)、といった層の配置、或いは、スキン層(PC)/コア層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)、といった層の配置等となる。結局のところ、奇数層から構成される透明オーバーシートと同様の構成となるからである。
たとえば、3層(いわゆる「3層シート」)から構成される透明オーバーシートを例にすると、スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)、といった層の配列がなされる。或いは、スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)、といった層の配列がなされる。すなわち、一方と他方の両最外側に、2つのスキン層が配され、その2つのスキン層に挟まれるように、コア層が1層配されて透明オーバーシートが形成されることになる。また、5層から構成される透明オーバーシートを例にすると、スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)、といった層の配列がなされる。或いは、スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)、といった層の配列がなされる。このように、一方と他方の両最外側に2つのスキン層が配され、且つ、交互にスキン層とコア層を配列して、透明オーバーシートを形成してもよい。
ここで、前述のように、コア層のみの単層からなる透明オーバーシートとして構成しても、十分なレーザー発色性を有し、本発明の効果を奏することができる。より好ましいのは、前述のようなスキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)の多層構造を有する透明オーバーシート(多層シート1)として構成されることである。または、スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)の多層構造を有する透明オーバーシート(多層シート2)として構成されることである。この多層シート1として、透明オーバーシートを構成することにより、十分な加熱融着性が確保でき、積層工程におけるシートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、折り曲げ性、透明性等の点で、微調整が可能となる。また、多層構造を有する多層シート2として、透明オーバーシートを構成することにより、コア層のみの単層シートとして形成される透明オーバーシートよりも、更に、高パワーでレーザー光エネルギーを照射し、マーキング部の濃度を高めることができる。加えて、コア層のマーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」や「ボイド」の発生を抑制でき、表面平滑性を維持できる。その上、コア層のマーキング部の上層に、スキン層が積層されているために、スキン層の無い場合と比較してマーキング部の耐磨耗性がより向上するといった相乗効果も奏することができる。
[2−2−1]多層シート1の具体的構成:
多層シート1は、スキン層とコア層を有し、両最外層であるスキン層が、ガラス転移温度が80℃以上の非晶性ポリエステル樹脂を含む透明熱可塑性樹脂組成物からなり、且つ、コア層が、ポリカーボネート樹脂及びレーザー光エネルギー吸収剤を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなる透明オーバーシートとして構成される。
[2−2−1−1]多層シート1におけるスキン層:
多層シート1にスキン層を形成する場合、すなわち「3層構造」としての多層構造から多層シートが構成される場合には、そのスキン層は、多層シート(3層シート)の外側に配される両最外層として構成される。すなわち、このスキン層は、後述する多層シートにおけるコア層の両端面側(外側)から、挟み込むように配される、多層シート(3層シート)の表層(両最外層)としての役割を担っている。
また、上記スキン層は、ガラス転移温度が80℃以上の非晶性ポリエステル樹脂を含む透明熱可塑性樹脂組成物からなるため、取り扱いしやすい。さらに、このような材質から層形成されるため、上記スキン層は、引裂き強度、曲げ強度、柔軟性、寸法精度等に優れている。一方、非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度が80℃未満であると、このような非晶性ポリエステル樹脂からなるスキン層は、べとつき感があったりして取り扱いに難が生じる虞がある。さらに、スキン層が変形しやすくなり、実用に供し難くなる虞がある。また、比較的高い温度でのクリープ特性にも劣り、引裂き強度、曲げ強度、柔軟性、寸法精度などが劣る虞がある。
なお、このガラス転移温度は、たとえば、ASTM D3418−82に規定の示差走査熱量測定法(DSC法)に準じて測定することができる。
多層シート1に用いられる非晶性ポリエステル樹脂として、非晶性の芳香族ポリエステル樹脂が好ましく、より好ましくは、共重合ポリエステル樹脂がよい。芳香族ポリエステル樹脂とは、芳香族ジカルボン酸とジオールの脱水縮合体をいい、本発明に用いられる実質的に非晶性の芳香族ポリエステル樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂の中でも特に結晶性の低いものが好ましい。これらは、加熱プレス等で頻繁に加熱成形加工を行っても、結晶化による白濁や融着性の低下をおこさないものである。
上記のようなポリエステル樹脂の具体例として、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、且つ、エチレングリコール単位(I)と1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90〜30/10〜70モル%である共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。ここで、この共重合ポリエステル樹脂に含まれる、エチレングリコールと、1,4−シクロヘキサンジメタノールと、の成分量を調整する理由は、共重合ポリエステル樹脂において、エチレングリコール成分の置換量が10モル%未満で得られる樹脂では十分な非晶性にならず、熱融着後の冷却工程で再結晶化が進み、熱融着性が劣るからである。また、70モル%を超えて得られる樹脂では十分な非晶性にならず、熱融着後の冷却工程で再結晶化が進み、熱融着性が劣るからである。したがって、本実施形態のように、エチレングリコールと、1,4−シクロヘキサンジメタノールと、の成分量を調整して得られる樹脂は、十分な非晶性になり、熱融着性の点で優れているため、好ましい樹脂といえる。
なお、この共重合ポリエステル樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコール成分の約30モル%を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂(略称「PETG」、(商品名「イースター コポリエステル」、イーストマンケミカル社製))が商業的に入手可能なものとして挙げられる。
なお、上記非晶性ポリエステル樹脂以外に、スキン層の特性である透明性、このスキン層とコア層からなる透明オーバーシートの諸強度などを阻害しない範囲で、非晶性ポリエステル樹脂以外の合成樹脂、改質剤、その他の添加剤などを含んでいてもよい。
[2−2−1−2]多層シート1におけるコア層:
前述のように、透明オーバーシートを3層シートからなる構成として、最外層にスキン層を形成する場合には、多層シート1におけるコア層は、その3層シートの中心に配される、いわゆる核層として構成される。すなわち、3層シートからコア層を構成する場合には、コア層は、最外側に配された2つのスキン層に挟み込まれるように、3層シートの中核層として形成されている。
このコア層は、ポリカーボネート樹脂、およびレーザー光エネルギー吸収剤からなる透明ポリカーボネート樹脂組成物から形成される。ここで使用されるポリカーボネート樹脂は、その製造方法、重合度などに特に制限はないが、メルトボリュームレイト(メルトフロー特性)が4〜20のものを好適に使用することができる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性(強靭性)が向上するという点では意味はあるものの、成形性が劣ることから、実際の使用に支障が生じる虞がある。一方、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣る虞がある。このように、透明レーザーマーキングシートをポリカーボネート樹脂からなる透明樹脂層で形成することによって、レーザー光エネルギーの照射によるマーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」や「ボイド」を抑制できる。さらに、レーザー光エネルギーの照射によるマーキング部の耐磨耗性を向上することができる。
なお、このコア層には、ポリカーボネート樹脂の透明性を阻害しない樹脂、フィラー等であれば特に制限なく配合、添加できる。とりわけ、耐傷性を向上させ、または耐熱性を向上させる目的で、汎用ポリカーボネート樹脂と特殊ポリカーボネート樹脂とのポリマーブレンドが好ましい。または、同じ目的で、ポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂とのポリマーブレンド等が好ましい。
上記特殊ポリカーボネート樹脂としては、たとえば主鎖がポリカーボネート樹脂からなり、側鎖にポリスチレン骨格または変性アクリロニトリル−スチレン共重合骨格を有するグラフト共重合体を挙げることができる。
なお、多層シート1のコア層に、レーザー光エネルギー吸収剤を含むことが好ましいが、この点については後述する。
[2−2−2]多層シート2の具体的構成:
多層シート2は、スキン層とコア層を有し、両最外層であるスキン層が、ポリカーボネート樹脂からなり、且つ、コア層が、熱可塑性ポリカーボネート樹脂及びレーザー光エネルギー吸収剤を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなる透明オーバーシートとして構成される。
[2−2−2−1]多層シート2におけるスキン層:
多層シート2は、多層シート1と同様に、「3層構造」としての多層構造から構成される場合には、そのスキン層は、多層シート(3層シート)の外側に配される両最外層として構成される。すなわち、このスキン層は、後述する多層シートにおけるコア層の両端面側(外側)から、挟み込むように配される、多層シート(3層シート)の表層(両最外層)としての役割を担っている。
また、多層シート2におけるスキン層は、ポリカーボネート樹脂(PC)、特に透明なポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂層から形成されることが好ましい。ただし、使用されるポリカーボネート樹脂は、製造方法、分子量などに特に制限はないが、メルトボリュームレイトが4〜20のものを好適に使用できる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性が向上するという点では意味はあるものの、成形加工性が劣ることから、実際の使用に支障が生じる虞がある。また、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣る虞がある。このようにスキン層を、ポリカーボネート樹脂(PC)を主成分とする透明樹脂層から形成することによって、レーザー光照射によるコア層のマーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」や「ボイド」を抑制できる。さらに、レーザー光エネルギー照射によるマーキング部の耐磨耗性を向上させることができる。
また、多層シート2の場合には、スキン層は高い透明性を有していることが重要であり、ポリカーボネート樹脂の透明性を阻害しない樹脂、フィラー等であれば特に制限なく配合、添加できる。とりわけ、スキン層の耐傷性を向上させ、または耐熱性を向上させる目的から、汎用ポリカーボネート樹脂と特殊ポリカーボネート樹脂とのポリマーブレンドが好ましい。または、ポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂とのポリマーブレンド等が好ましい。
上記特殊ポリカーボネート樹脂としては、たとえば主鎖がポリカーボネート樹脂からなり、側鎖にポリスチレン骨格または変性アクリロニトリル−スチレン共重合骨格を有するグラフト共重合体を挙げることができる。
[2−2−2−2]多層シート2におけるコア層:
多層シート2におけるコア層は、最外層にスキン層を形成する場合には、その3層シートの中心に配される、いわゆる核層として構成される。すなわち、3層シートから構成する場合には、コア層は、最外側に配された2つのスキン層に挟み込まれるように、3層シートの中核層として形成されている。
また、この多層シート2のコア層は、上記多層シート1と同様に、ポリカーボネート樹脂、およびレーザー光エネルギー吸収剤からなる透明ポリカーボネート樹脂組成物から形成される。そのため、多層シート1におけるコア層の説明を参照されたい。
さらに、ポリカーボネート樹脂の透明性を阻害しない樹脂、フィラー等であれば特に制限なく使用できる。とりわけ、耐傷性を向上させ、または耐熱性を向上させる目的で、汎用ポリカーボネート樹脂と特殊ポリカーボネート樹脂とのポリマーブレンドが好ましい。または、同じ目的で、ポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂とのポリマーブレンド等が好ましい。
上記特殊ポリカーボネート樹脂としては、たとえば、主鎖がポリカーボネート樹脂からなり、側鎖にポリスチレン骨格、または変性アクリロニトリル−スチレン共重合骨格を有するグラフト共重合体を挙げることができる。
なお、上記コア層は、レーザー光エネルギー吸収剤を含むことが必須とされるが、このレーザー光エネルギー吸収剤については、後述する。
(透明オーバーシートの厚さ)
また、透明オーバーシートの全厚さ(総厚さ)は、単層シート、多層シート1、又は、多層シート2のいずれでも、50〜200μmであることが好ましい。透明オーバーシートの全厚さが、50μm未満であると、レーザーマーキング性が不十分となる虞がある。また、多層シート1の場合には、多層シートの積層工程における加熱融着時に、金型に多層シートが貼りつくという、いわゆる金型スティックの問題が発生しやすくなる。このような支障を取り除くためには、加熱融着温度や、加熱融着時のプレス圧力、加熱融着時間等を制御する必要がある。しかし、この制御は煩雑となり、成形工程に支障をきたしやすい。また、透明オーバーシートの全厚さが200μmを超えると、たとえば、その200μmを超えた透明オーバーシートと、後述するコアシートを使用して、電子パスポート用レーザーマーキング積層体を積層成形した場合には、一般的な電子パスポートの全最大厚さを超えてしまう。そのため、実用性に乏しくなりやすいといった問題が生じる。
また、複合ヒンジシートの総厚みが規定されている中で、上記織物状シートの厚みがあまりに薄いと、織物状シートを複合ヒンジシートに備えた効果、すなわち、織物状シートをインサート(insert)した効果が少なくなってしまう。さらに、上記織物状シートの厚みがあまりに厚いと、複合シートの総厚みが厚くなり、電子パスポート用レーザーマーキング積層体の総厚み規定を外れる。また、たとえば、電子パスポートの「e−Card」タイプの、データページには、IC−chipとアンテナが配されている。そのため、上記「e−Card」タイプの、データページの総厚みは、ICカードと同様に、800μm前後である。また、電子パスポートの「e−Cover」タイプの、データページには、IC−chipとアンテナが配されていない。そのため、上記「e−Cover」タイプの、データページの総厚みは、400〜600μm程度が主流である。
ここで、上記「e−Cover」タイプの、データページを例にとると、基本構成として、透明オーバーシート/コアシート/ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシートとすると、総厚みを500μm前後とするには、たとえば、オーバーシートの厚みを約80μm、コアシートの厚みを約120μm、透明オーバーシートの厚みを約120μm、程度にしなければならない。同様に、総厚みを600μm前後とした場合には、透明オーバーシートの厚みを約120μmとしてもよいことになる。更に、上記「e−Card」タイプの、データページを例にとると、基本構成として、透明オーバーシート/コアシート/インレット(または、「インレイ」と称する)/ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシートとすると、総厚みを800μm前後とするには、たとえば、インレットの厚みを約400μmとすると、オーバーシートの厚みを約60μm、コアシートの厚みを約100μm、ヒンジシートの厚みを約120μm、程度にしなければならない。
また、透明オーバーシートが、スキン層とコア層からなる多層シート(いわゆる3層シート)の場合であって、多層シート1の場合には、全厚さ(総厚さ)は、50〜200μmであるとともに、当該多層シート1の全シート厚さに対して占めるコア層の厚さの割合が、30〜85%であることが好ましい。スキン層の厚さがあまりにも薄いと、金型スティックの発生及び熱融着性の低下が生じてしまう。他方、スキン層の厚さがあまりにも厚すぎると、後述するコア層の厚さが、必然的に薄くなってしまう。そのため、レーザーマーキング性が劣ったり、多層シート積層後にそりが発生したりするなどの問題が生じやすい。
さらに、透明オーバーシートが、スキン層とコア層からなる多層シート(いわゆる3層シート)の場合であって、多層シート2の場合には、多層シート2の全厚さ(総厚さ)は、50〜200μmであるともに、当該多層シートの全シート厚さに対して占めるコア層の厚さの割合が30〜85%であることが好ましい。コア層の厚みが30%未満では、レーザーマーキング性が劣る虞があり好ましくない。また、85%を超えると、スキン層が薄くなりすぎ、高パワーでレーザー光エネルギーを照射した場合に、コア層に配合したレーザー光エネルギー吸収剤がレーザー光エネルギーを吸収して熱に変換することにより、高熱が発生する。そのため、レーザー光エネルギーを照射した部分における、いわゆる「フクレ発生」や「ボイド発生」を抑制する効果に乏しくなる虞があり好ましくない。また、仮に、レーザー光エネルギーを調整して、好ましいレーザー発色を得たとしても、スキン層の厚みが前述の所望範囲内であるものと比較して、マーキング部の耐磨耗性が十分でなく好ましくない。
より好ましいのは、3層から構成される多層シート1、2において、全シート中に占めるコア層の厚さの割合が、40〜85%であることである。所謂3層から構成される透明オーバーシートの場合の、コア層厚み比率は、レーザー発色性(コントラスト性)の主要因子となる。すなわち、「PC/PC(レーザーマーク対応)/PC」の3層構造でも、「PETG/PC(レーザーマーク対応)/PETG」の3層構造でも、コア層の厚みがレーザーマーキング性の主因子であり、レーザーマーキング適正を考慮した場合、コア層が厚い方が好ましい。また、スキン層の厚みは、インレイ層との加熱融着性に寄与するため、薄い方が好ましい。従って、3層から構成される透明オーバーシートのコア層の厚み比率の規定は、40〜85%がより好ましい。この点、85%以上となる3層から構成される透明オーバーシートでは、余りにもスキン層が薄くなるため、2種3層共押出成形において、スキン層の厚み制御が困難となりやすく、安定的に成形し難い場合がある。
(透明オーバーシートの全光線透過率)
また、透明オーバーシートは、全光線透過率が70%以上であることが好ましく、より好ましいのは85%以上である。たとえば、本実施形態の電子パスポート用レーザーマーキング積層体を、電子パスポートに使用する場合には、この用途では印刷を施すことが一般的である。そのため、透明オーバーシートの下部に、たとえば、文字、図形等の印刷を施した白色シート(以下、文字、図形等の印刷を施した白色シートの印刷を、適宜「印刷部」という)を積層するなどして、最外層である透明オーバーシートの非印刷部にレーザー光エネルギーを照射し、黒色発色させる。このようにして、画像や文字をマーキングさせ、印刷部でのデザイン性とレーザーマーキングによる偽造防止を組み合わせて使用することが多い。上記のように組み合わせて製造し使用することで、その下地層が白い故に、印刷部の鮮明性、及びマーキング部の黒/白コントラストにより鮮明な画像を得ることができる。すなわち、白色シート等を積層する場合には、この最外層の透明性を前述の所望範囲の全光線透過率にすることにより、これらの効果を最大限に発揮させられる(黒/白コントラストの鮮明性を際立たせることができる)。換言すれば、この最外層の透明性は、印刷部の鮮明性、及び、マーキング部の黒/白コントラストの鮮明性を確保する上で重要である。一方、全光線透過率が70%未満では、黒/白コントラストが不十分となり、十分なマーキング性が確保できない問題が生じやすい。さらに、印刷は下地白色シート上に施すために、この印刷の視認性に問題が生じやすい。
ここで、「全光線透過率」とは、膜等に入射した光のうち、透過する光の割合を示す指標であり、入射した光がすべて透過する場合の全光線透過率は100%である。なお、本明細書中の、「全光線透過率」は、JIS−K7105(光線透過率及び全光線反射率)に準拠して測定した値を示したものである。この全光線透過率の測定は、たとえば、日本電色工業製のヘイズメーター(商品名:「NDH 2000」)、分光光度計(商品名「EYE7000」マクベス社製)等を用いて測定できる。
[2−3]レーザー光エネルギー吸収剤:
また、透明レーザーマーキングシートが単層シートとして構成される場合には、透明レーザーマーキングシートには、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収剤が0.0005〜1質量部含まれることが好ましい。或いは、透明レーザーマーキングシートが少なくとも3層シートである多層シート1,2として構成される場合には、そのコア層には、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収剤が0.0005〜1質量部含まれることが好ましい。このように構成することにより、レーザーマークした際のレーザー発色性に優れ、生地色と印字部とのコントラストが高くなり、鮮明な文字、記号、画像が得られるので好ましい。
また、レーザー光エネルギー吸収剤としては、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属シュウ酸化物、及び金属炭酸化物からなる群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。より好ましいのは、レーザー光エネルギー吸収剤が、単層シートに、または多層シート1,2のコア層に、カーボンブラック、チタンブラック、及び金属酸化物からなる群から選ばれた少なくとも1種または2種以上を含有しているものである。
ここで、多層シート2に添加するカーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属シュウ酸化物、及び金属炭酸化物の平均粒子径は、150nm未満であることが好ましい。より好ましいのは、多層シート2に添加するカーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属シュウ酸化物、及び金属炭酸化物の平均粒子径が100nm未満である。さらに、それらの平均粒径が10〜90nmで、ジブチルフタレート(DBT)吸油量60〜170ml/100grのカーボンブラックまたは該カーボンブラックと、平均粒子径が、150nm未満のチタンブラックまたは金属酸化物の併用が好ましい。カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属シュウ酸化物、及び金属炭酸化物の平均粒径が150nmを超えると、シートの透明性が低下したり、シート表面に大きな凹凸が発生したりすることがあり好ましくない。さらに、カーボンブラックの平均粒径が10nm未満では、レーザー発色性が低下するとともに、微細すぎて取扱いに難があり、好ましくない。また、DBT吸油量が60ml/100gr未満では、分散性が悪く、170ml/100grを超えると隠蔽性に劣るため好ましくない。
また、多層シート1に添加する、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属シュウ酸化物、及び金属炭酸化物の平均粒子径は、前述した多層シート2と同様であるが、多層シート1に添加する、カーボンブラックの平均粒径は、10〜90nmで、ジブチルフタレート(DBT)吸油量60〜170ml/100grのカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの平均粒径が10nm未満では、レーザー発色性が低下するとともに、微細すぎ取扱に難がある。また、90nmを超えるとシートの透明性が低下したり、シート表面に大きな凹凸が発生したりすることがある。また、DBT吸油量が60ml/100gr未満では、分散性が悪く、170ml/100grを超えると隠蔽性に劣るため好ましくない。
また、多層シート1,2に添加する金属酸化物としては、酸化物を形成する金属として、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、鉄、チタン、珪素、アンチモン、錫、銅、マンガン、コバルト、バナジウム、ビスマス、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、タングステン、パラジウム、銀、白金等が挙げられる。更に、複合金属酸化物としてITO、ATO、AZO等が挙げられる。
また、多層シート1,2に添加する金属硫化物としては、硫化亜鉛、硫化カドミニウムなどが挙げられる。さらに、金属窒化物としては窒化チタンなどが挙げられる。金属シュウ酸化物としては、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸銅などが挙げられる。さらに、金属炭酸化物としては、塩基性炭酸銅を挙げられる。
このように、多層シート1,2に添加するエネルギー吸収剤としては、カーボンブラック、金属酸化物、及び複合金属酸化物が好適に用いられ、各々単独または併用して用いられる。
さらに、多層シート2へのエネルギー吸収剤には、カーボンブラックが0.0005〜1質量部添加(配合)されることが好ましく、より好ましくは0.0008〜0.1質量部である。また、カーボンブラックと平均粒子径150nm未満の金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属シュウ酸化物、及び金属炭酸化物から選ばれた少なくとも1種とを併用する場合には、その混合物の配合量が0.0005〜1質量部配合されることが更に好ましく、最も好ましいのは0.0008〜0.5質量部である。
ここで、多層シート2へのレーザー光エネルギー吸収剤の添加量(配合量)を所望量に調整するのは、透明オーバーシートは透明であることが好ましいからである。すなわち、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートや、電子パスポートに使用する場合、印刷を施したコアシート(適宜、「白色シート」ということもある。)上に、透明オーバーシートを積層するなどして使用される。さらに、印刷部を施していない部分の透明オーバーシートに、レーザー光エネルギーを照射し、黒色発色させて、画像や文字をマーキングされる。このようにして、印刷部でのデザイン性とレーザーマーキングによる偽造防止効果を組み合わせて使用することが多い。そして、このように組み合わせて製造し使用することで、その下地層が白い故に、印刷部の鮮明性、及びマーキング部の黒/白コントラストにより鮮明な画像を得ることができる。換言すれば、前述のインレイシート上に積層される透明オーバーシートの透明性が劣ると、印刷された画像、文字等が不鮮明となる。また、マーキング部の黒/白コントラストが劣ること等から実用上問題となる。そのため、平均粒子径の小さいカーボンブラックが好ましく用いられる。また、カーボンブラックと他の金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩及び金属ケイ酸塩から選ばれた少なくとも1種との混合物を、レーザー光エネルギー吸収剤として用いる場合も、これら金属酸化物、金属硫化物の平均粒子径が少なくとも150nm未満、好ましくは100nm未満とするのである。
したがって、多層シート2に添加する、前述のレーザー光エネルギー吸収剤の平均粒子径が150nmを超えると、透明オーバーシートの透明性が低下する虞がある。また、これらレーザー光エネルギー吸収剤の配合量も1質量部を超えると、透明オーバーシートの透明性が低下する虞がある。さらに、吸収エネルギー量が多すぎてしまい、樹脂を劣化させる虞がある。その結果、十分なコントラストが得られない。他方、レーザー光エネルギー吸収剤の添加量が0.0005質量部未満では、十分なコントラストが得られない虞がある。更に、レーザー光エネルギー吸収剤の添加量が1質量部を超えると、透明オーバーシートの透明性が低下する虞があるだけでなく、異常な発熱を生じる虞もある。その結果、樹脂の分解、発泡が発生し、所望のレーザーマーキングができない。
さらに、透明オーバーシートとしての、多層シート1へのレーザー光エネルギー吸収剤には、カーボンブラックが0.0001〜3質量部添加(配合)されることが好ましく、より好ましくは0.0001〜1質量部である。また、カーボンブラックと平均粒子径150nm未満の金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩及び金属ケイ酸塩から選ばれた少なくとも1種とを併用する場合には、その混合物の配合量が0.0001〜6質量部配合され、より好ましくは0.0001〜3質量部配合されることである。このように、エネルギー吸収剤の添加量(配合量)を調整するのは次の理由のためである。すなわち、透明オーバーシートは透明であることが好ましく、透明オーバーシートの下層である着色コアシートに印刷を施す場合が多い。その場合に透明オーバーシートの透明性が劣ると印刷された画像、文字などが不鮮明となり実用上問題となる。そのために平均粒子径の小さいカーボンブラックが好ましく用いられ、また、カーボンブラックと他の金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩及び金属ケイ酸塩から選ばれた少なくとも1種との混合物をレーザー光エネルギー吸収剤として用いる場合も、これら金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩及び金属ケイ酸塩の平均粒子径が少なくとも150nm未満、好ましくは100nm未満、更に好ましくは50nm未満とするのである。
したがって、多層シート1に添加する、レーザー光エネルギー吸収剤の平均粒子径が150nmを超えると、透明オーバーシートの透明性が低下する虞がある。また、レーザー光エネルギー吸収剤の配合量も6質量部を超えると透明オーバーシートの透明性が低下する虞があるとともに、吸収エネルギー量が多すぎ樹脂を劣化させてしまい十分なコントラストが得られない虞がある。他方、レーザー光エネルギー吸収剤の添加量が0.0001質量部未満では十分なコントラストが得られない虞がある。
[2−4]滑材、酸化防止剤、及び着色防止剤:
また、本実施形態では、単層シート、または多層シート1,2に滑剤を含有させることが好ましい。また、いわゆる3層シートからなる多層シート1,2として構成される場合には、スキン層に滑剤を含有させることが好ましい。滑剤を含有させることにより、加熱プレス時にプレス板に融着を防ぐことができる。
さらに、本実施形態では、単層シート、または多層シート1,2として構成される透明オーバーシートに、必要に応じて、酸化防止剤及び着色防止剤から選ばれる少なくとも1種、及び紫外線吸収剤及び光安定剤から選ばれる少なくとも1種を含有させることも好ましい。透明オーバーシートが、いわゆる3層シートからなる多層シート1,2として構成される場合には、スキン層及びコア層の少なくとも1層に、必要に応じて、酸化防止剤及び着色防止剤から選ばれる少なくとも1種、及び紫外線吸収剤及び光安定剤から選ばれる少なくとも1種を含有させることも好ましい。酸化防止剤及び着色防止剤から選ばれる少なくとも1種の添加(配合)は、成形加工時における、分子量低下による物性低下及び色相安定化に有効に作用する。この酸化防止剤及び着色防止剤から選ばれる少なくとも1種としては、フェノール系酸化防止剤や亜燐酸エステル系着色防止剤が使用される。また、紫外線吸収剤及び光安定剤から選ばれる少なくとも1種の添加(配合)は透明オーバーシートの保管時、及び最終製品である電子パスポートの実際の使用時における耐光劣化性の抑制に有効に作用する。
フェノール系酸化防止剤の例としては、たとえば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン;ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンなどが挙げられる。
なお、これらの例示の中でも、とりわけ、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが好適であり、特にn−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好適である。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
亜燐酸エステル系着色防止剤としては、たとえば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
さらに、他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。たとえば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
上記の中でもトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。亜燐酸エステル系着色防止剤は、1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。また、フェノール系酸化防止剤と併用してもよい。
紫外線吸収剤としては、たとえば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系化合物を挙げることができる。
更に、紫外線吸収剤としては、たとえば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールなどのヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を挙げることができる。
さらに、紫外線吸収剤としては、たとえば、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2,2’−p,p’−ジフェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などの環状イミノエステル系化合物を挙げることができる。
また、光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3−オキシ−[4−(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系のものも含むことができ、かかる光安定剤は上記紫外線吸収剤や場合によっては各種酸化防止剤との併用において、耐候性などの点においてより良好な性能を発揮する。
滑材としては、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩が挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種の滑剤が添加されることが好ましい。
脂肪酸エステル系滑剤としては、ブチルステアレート、セチルパルミレート、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、ステアリン酸トリグリセライド、モンタンワックス酸のエステル、ロウエステル、ジカルボン酸エステル、複合エステル等が挙げられ、脂肪酸アマイド系滑剤としては、ステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリルアマイド等が挙げられる。また、脂肪酸金属塩系滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミウム、ステアリン酸バリウム等が挙げられる。
さらに、透明オーバーシートとしての、単層シートが、透明熱可塑性樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部を含有するとともに、酸化防止剤及び着色防止剤から選ばれる少なくとも1種を0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び光安定剤から選ばれる少なくとも1種を0.1〜5質量部含有する透明オーバーシートとして構成されていることが好ましい。または、透明オーバーシートの、多層シート2におけるスキン層が、透明熱可塑性樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部を含有するとともに、レーザー光エネルギー吸収剤を0.0005〜1質量部、酸化防止剤及び着色防止剤から選ばれる少なくとも1種を0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び光安定剤から選ばれる少なくとも1種を0.1〜5質量部含有する透明オーバーシートとして構成されていることが好ましい。
ここで、滑剤の添加量としては、単層シート、多層シート1,2とともに0.01〜3質量部添加されることが好ましく、より好ましくは0.05〜1.5質量部である。0.01質量部未満では、加熱プレス時にプレス板に融着する虞がある。また、3質量部を超えると、電子パスポートやカードの多層積層加熱プレス時に層間熱融着性に問題が生じる虞がある。さらに、酸化防止剤及び着色防止剤から選ばれる少なくとも1種が0.1質量部未満では、溶融し押出させて成形する工程でのポリカーボネート樹脂の熱酸化反応、及びそれに起因する熱変色といった不具合、が生じやすい。また、5質量部を超えると、これら添加剤のブリードといった不具合が生じやすい。さらに、紫外線吸収剤及び光安定剤から選ばれる少なくとも1種が、0.1質量部未満では、その効果に乏しく耐光劣化、それに伴う変色といった不具合が生じやすい。また、5質量部を超えると、これら添加剤のブリードといった不具合が生じやすいため好ましくない。
[3]コアシートの構成:
つぎに、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートにおける、コアシートについて説明する。このコアシートは、透明オーバーシートと複合ヒンジシートの間に配置される。
上記コアシートは、ポリカーボネート樹脂、及び着色剤を含むポリカーボネート樹脂組成物からなる着色コア単層シートとして構成される。または、コアシートが、スキン層とコア層を有し、両最外層にスキン層が形成され、このスキン層の間にコア層を有する3層構造の多層シート1として構成される。さらに、上記スキン層が、ガラス転移温度が80℃以上の非晶性ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物からなるとともに、上記コアシートのコア層が、ポリカーボネート樹脂を含む透明熱可塑性樹脂からなる。上記コアシートのスキン層、およびコア層の少なくとも一層には、着色剤を含んでなる着色コア多層シートとして構成される。このコアシートは、たとえば溶融押出成形により積層形成される。
なお、上記コアシートにおいて、「3層シート」と言うのは、説明の便宜を図るものであり、「3層シート」とは「少なくとも3層以上の層からなるシート」を意味するものであって、「3層」から成るシートに限定する趣旨ではない。換言すれば、3層以上の構成からなれば、5層から構成されても、7層から構成されても、或いは、それ以上の奇数層から形成されていても、上記コアシートに含まれる。
ただし、上述した多層構造から上記コアシートが構成される場合にも、後述するスキン層は、多層構造から構成されるシートの最も外側の位置に配される。且つ、多層構造から構成されるシートの両面に配される。さらに、両スキン層(の間)に、コア層が挟まれるように配されることが必要となる。なお、スキン層の厚さは、特に限定されるものではないが、より好ましいのは、後述の所定範囲の厚さに形成されることである。
なお、コアシートが上述の「それ以上の奇数層」から構成される場合であっても、あまりに多層構造からなる場合には、配されるスキン層とコア層との一層あたりの層厚が薄くなり過ぎてしまう。この場合には、透明オーバーシートとの加熱融着性が劣る問題が発生する。したがって、好ましいのは5層から、より好ましいのは3層から構成されるものである。
ここで、上記コアシートが前述のように奇数層から構成されるのは、偶数層からなる多層シートは、必ず奇数層からなるコアシートと同じ構成となるからである。たとえば、4層からなるコアシートでは、スキン層(PETG)/コア層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PETG)、といった層の配置となり、結局のところ、奇数層から構成されるコアシートと同様の構成となるからである。
また、たとえば、3層から構成されるコアシートを例にすると、スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)、といった層の配列がなされるように、一方と他方の両最外側に2つのスキン層が配される。さらに、その2つのスキン層に挟まれるように、コア層が1層配されて多層シートが形成されることになる。また、5層から構成されるコアシートを例にすると、スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)、といった層の配列がなされるように、一方と他方の両最外側に2つのスキン層が配される。且つ、交互にスキン層とコア層を配列して、多層シートが形成される。このように多層構造を有する多層シートを形成することにより、十分な加熱融着性が確保できる。
また、3層シート(コアシート)の全厚さ(総厚さ)は、全厚さが60〜300μmからなるとともに、コア層の厚さの、コアシートの全厚さに対して占める厚み比率(厚さの割合)が30〜85%からなることが好ましい。3層シート(多層シート)の全厚さが、60μm未満であると、必然的に多層シートのスキン層であるPETG層が薄くなる。そのため、多層シート積層工程における加熱融着時に、最外層に積層される透明オーバーシート(「単層シート」及びいわゆる「3層シート」の両方を含む)と、コアシート間の加熱融着性が確保できない。また、3層シート(コアシート)の全厚さが300μmを超えると、その300μmを超えた3層シートを用いて電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを成形した場合、全体としての厚さが実用可能な範囲を超えてしまう。たとえば、前述のようにICチップとアンテナ無しのいわゆる「データページ」では全最大厚さが400〜500μmであり、また、ICチップとアンテナを挿入したインレット層を有する場合は、全最大厚さが700〜800μmである。このように、その全最大厚さを超えるために実用性に乏しい。
さらに、コアシートは、全厚さに対して占めるコア層の厚さの割合が30〜85%からなることが好ましい。コアシート上に印刷する場合の隠蔽性の確保や、マーキング部の視認性、鮮明性を確保するためである。すなわち、スキン層の厚さがあまりにも薄いと、コアシート積層工程における加熱融着時に、最外層に積層される透明オーバーシートと、コアシート間の加熱融着性を確保できない。また、スキン層の厚さがあまりにも大きすぎると、後述するコア層の厚さが、必然的に薄くなってしまう。そのため、多層シート上に印刷する場合の隠蔽性を確保できない。更には、スキン層に着色剤を入れない場合には、最外層である透明オーバーシートに、レーザー光エネルギーの照射により黒色マーキングを行った場合のコントラストを確保できない。また、スキン層に着色剤を入れない場合には、マーキング部の視認性、鮮明性を確保することができない。
このように3層シート全体の厚さを所望の厚さとすることにより、コアシートの特性といった局所的な特性を引き出しやすくなる。さらに、本実施形態の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートの特性を引き出しやすくなる。さらに、この3層シート全体の総厚さだけに限らず、3層シートを構成するスキン層及びコア層の3層シートに占める厚さの割合も前述の所望の割合にすることにより、3層シート全体の厚さを所望範囲内にすることと相俟って、コントラスト性を向上させやすくなる等、本発明の効果をより発揮できる。
なお、コアシートの融着性と隠蔽性、及び(透明オーバーシートの)マーキング部とのコントラストは、多層シートの実用化や生産性、市場のニーズに応え得るものであるか等、極めて重要な要素となる。そのため、さらに後段にて、3層シート全体の総厚さと、スキン層、及びコア層との厚さとの関係について詳述する。
なお、透明オーバーシートと同様に、「コアシート」、或いは、「3層を積層してなるシート」等と示す場合には、複数の層(或いは3層)が積層された後の状態を示すための表現であって、積層方法を制限するものではない。
ここで、データページを構成するコアシートとしては、上記したように、(1)単層シート、(2)多層シート1から構成される。さらに、上記(1)の「単層シート」から構成されるコアシートとしては、着色剤を含む単層構造のコアシートを挙げることができる。この単層構造のコアシートは、たとえば、白色等に着色されたコアシートであり、「着色コア単層シート」という。また、上記(2)の「多層シート1」から構成されるコアシートとしては、スキン層とコア層を有し、上記スキン層とコア層の少なくとも一層に、着色剤を含む、多層構造のコアシートを挙げることができる。この多層構造のコアシートは、たとえば、白色等に着色されたコアシートであり、「着色コア多層シート」という。
[3−1]着色コア単層シート:
コアシートが単層シートとして構成される場合には、ポリカーボネート樹脂、及び着色剤を含むポリカーボネート樹脂組成物からなる着色コア単層シートとして構成される。ここで使用されるポリカーボネート樹脂は、その製造方法、重合度などに特に制限はないが、メルトボリュームレイト(メルトフロー特性)が4〜20のものを好適に使用することができる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性(強靭性)が向上するという点では意味はあるものの、成形性が劣る虞がある。そのため、実際の使用に支障が生じる虞がある。一方、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣る虞がある。なお、コアシートをポリカーボネート樹脂からなる樹脂層で形成することによって、レーザー光エネルギーの照射によるマーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」や「ボイド(微小な空洞)」の発生を抑制できる。さらに、レーザー光エネルギーの照射によるマーキング部の耐磨耗性を向上することができる。
ここで、コアシートが、単層シートとして構成される場合には、フィラー等を配合してもよい。とりわけ、耐傷性を向上させ、または耐熱性を向上させる目的で、汎用ポリカーボネート樹脂と特殊ポリカーボネート樹脂とのポリマーブレンドが好まし。または、同じ目的で、ポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂とのポリマーブレンド等が好ましい。
上記特殊ポリカーボネート樹脂としては、たとえば、主鎖がポリカーボネート樹脂からなり、側鎖にポリスチレン骨格または変性アクリロニトリル−スチレン共重合骨格を有するグラフト共重合体を挙げることができる。
[3−2]着色コア多層シートにおけるスキン層:
コアシートが、多層シート1として構成され、さらに、着色コア多層シートとして構成される場合には、コアシートのスキン層は、3層シートの外側に配される両最外層として構成される。すなわち、このスキン層は、後述するコアシートにおけるコア層の両端面側(外側)から、挟み込むように配される、3層シートの表層(両最外層)としての役割を担っている。
ここで、上記スキン層は、ガラス転移温度が80℃以上の非晶性ポリエステル樹脂を含む透明熱可塑性樹脂組成物からなることが好ましい。すなわち、多層シート1におけるスキン層では、非晶性ポリエステル樹脂が、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上であることが好ましい。このような所望のガラス転移温度を有する非晶性ポリエステル樹脂を使用することにより、取り扱いやすくなり、変形し難くなり、製造しやすくなる。さらに、上記コアシートを使用して、電子パスポート用レーザーマーキング多層シート、或いは電子パスポートを形成することによって、それらの引裂き強度、曲げ強度、柔軟性、寸法精度などを向上させることができる。
なお、上記スキン層の片面に固定情報が、UVオフセット印刷等で印刷されてもよい。さらに、上記コアシートを使用して、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを成形することも好ましい。この例としては、上記透明オーバーシート/上記コアシート(情報が印刷された白色コアシート)/インレット(IC−chipとアンテナを配している)/複合ヒンジシート/上記コアシート(情報が印刷された白色コアシート)/上記透明オーバーシートの6層積層として構成されたものを挙げることができる。なお、上記6層の構成は、コアシートの、最上層と最下層に、透明オーバーシートを配置しているが、これに限定されるものではない。
さらに、印刷後、上記6層の構成にて加熱積層し、一体化される。この加熱積層時に、透明オーバーシートと、情報が印刷された白色コアシートと、の接合界面での加熱融着性が悪くなりやすい。そのため、加熱積層前に、上記情報が印刷された白色コアシート上に、接着剤(Vernish)を、塗布することが行われている。この接着剤の塗布は、シルクスクリーン印刷機等を使用して行われている。
ただし、上記のような接着剤を塗布する工程が行われると、成形工程が複雑になる。さらに、接着剤を塗布する際に、ゴミが付着する等の問題が生じやすい。そこで、透明オーバーシートに、予め熱活性接着剤(「Glue」ともいう)をコーティングしておく方法が考案されている。しかし、このような方法では、ガラス転移温度(Tg)の低い非晶性ポリエステル樹脂からなる、スキン層に不具合が生じやすい。すなわち、熱活性接着剤をコーティング後、60℃ないし80℃未満の温度条件で行う乾燥の際に、スキン層が軟化し、シワが入るという問題が発生する。
さらに、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートの加熱積層時の、温度(プレス温度=150〜160℃)、及び加圧により、スキン層が大きく変形を生じて寸法精度に問題が発生する。そこで、Tgが80℃以上の非晶性ポリエステル樹脂で、着色コア多層シート(白色コアシート)のスキン層を形成すると、スキン層が軟化しなくなる。
このガラス転移温度は、上記と同様に、たとえば、ASTM D3418−82に規定の示差走査熱量測定法(DSC法)に準じて測定することができる。
なお、コアシートに用いられる非晶性ポリエステル樹脂としては、非結晶性の芳香族ポリエステル樹脂が好ましく、より好ましくは、共重合ポリエステル樹脂がよい。なお、上記非晶性ポリエステル樹脂、及び、上記共重合ポリエステル樹脂は、多層シート1に用いられる非晶性ポリエステル樹脂、共重合ポリエステル樹脂と同様である。そのため、多層シート1における非晶性ポリエステル樹脂、共重合ポリエステル樹脂の説明を参照されたい。
さらに、上記スキン層の厚さは、それぞれ同一であることが好ましい。それぞれ異なる厚さのスキン層からコアシートを構成すると、コアシート積層工程における加熱融着時に、最外層の透明オーバーシートとコアシート間の加熱融着性のバラツキの要因となり好ましくない。その上、加熱プレス後の積層体(電子パスポート用レーザーマーキング多層シート)に、反りが発生することがあり好ましくない。また、たとえば、スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)といった3層から、コアシートが構成される場合であって、コア層の厚さが30〜85%である場合には、スキン層は両面で15%以上、70%未満となる。スキン層の厚さがあまりにも薄いと熱融着性の低下が生じてしまう。一方、スキン層の厚さがあまりにも厚すぎると、後述するコア層の厚さが、必然的に薄くなってしまう。この場合に、コア層のみに着色剤を配合すると、1台の押出機のみに着色剤入りの樹脂を投入するだけでよいので、スキン層とコア層に着色剤を配合した場合よりも、押出機の洗浄が極端にいえば半分の手間で済む。しかし、コアシート上に、部分または全面印刷した場合の隠蔽性が不足する。また、スキン層とコア層に着色剤を配合すると、前述した隠蔽性の問題は生じない。しかし、たとえば、2種の樹脂による3層シート溶融押出成形には2台の押出機を使用するが、この2台の押出機には着色剤入りの樹脂を投入することとなる。そして、2種3層溶融押出成形により成形されたシートの生産後、押出機のクリーンアップでは、着色剤の洗浄にかなりの手間がかかり、生産性とコスト的な問題が生じやすい。したがって、前述のような所望範囲内で、3層シート(コアシート)の全厚さ(総厚さ)及び、全厚さに対して占めるコア層の厚さの割合が形成されることが好ましい。
[3−3]コアシートにおけるコア層:
上記コアシートのコア層は、3層シートの中心に配される、いわゆる核層として構成される。すなわち、上記コア層は、最外側に配された2つのスキン層に挟み込まれるように、3層シートの中核層として形成されている。このコア層の厚さとしては、全シート中に占める厚さの割合が、30〜85%になるよう形成されることが好ましい。より好ましいのは、40%以上80%未満である。コア層の厚み比率が85%超となると、コアシートの総厚みが100〜300μmと薄いため、相対的にスキン層も薄くなってしまう。そのため、コアシート積層工程における加熱融着時に、最外層である透明オーバーシートと、コアシート間の加熱融着性のバラツキの要因となる。また、コア層の厚み比率が30%未満では、コアシート上に印刷する場合の隠蔽性が確保できない虞もある。更に、最外層である透明オーバーシートに、レーザー光エネルギー照射により黒色マーキングを行った場合のコントラストを確保できない場合もある。また、マーキング部の視認性、鮮明性を確保することができない場合もある。
上記コア層を構成する材料(素材)としては、ポリカーボネート樹脂を含む熱可塑性樹脂からなり、特に透明なポリカーボネート樹脂が使用される。ただし、使用されるポリカーボネート樹脂は、その製造方法、重合度などに特に制限はないが、メルトボリュームレイトが4〜20のものを好適に使用できる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性が向上するという点では意味はあるものの、成形加工性が劣ることから、実際の使用に支障が生じる虞がある。また、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣る虞がある。
[3−4]染料、顔料等の樹脂の着色剤:
上記コアシートが、着色コア単層シートとして構成される場合には、染料、および顔料から選ばれる1種以上を含むことが必要である。同様に、上記コアシートが、着色コア多層シートとして構成される場合には、コアシートのスキン層及びコア層の少なくとも1層には、染料、および顔料から選ばれる1種以上を含むことが必要である。透明オーバーシートと、上記コアシートを積層させ後、レーザー光エネルギーを照射してマーキングする場合に、コントラストを良好にできる。さらに、上記コアシート上に印刷する場合の隠蔽性を確保できる。
より好ましいのは、着色コア単層シートとして構成される上記コアシートに、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、染料、顔料等の樹脂の着色剤の少なくとも1種以上を1質量部以上含有させていることである。同様に、上記コアシートが着色コア多層シートとして構成される場合には、コアシートのスキン層、及びコア層の少なくとも1層に、上記ポリエステル樹脂100質量部、または上記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、染料、顔料等の樹脂の着色剤の少なくとも1種以上を、1質量部以上含有させていることがより好ましい。上記のようにすることで、透明オーバーシートと、コアシートを積層させた後、レーザー光エネルギーを照射してマーキングする場合に、更に、コントラストを良好にできる。さらに、上記コアシート上に印刷する場合の隠蔽性を十分に確保できる。
この着色系染料、顔料等の樹脂の着色剤としては、白色顔料、黄色顔料、赤色顔料、青色顔料などが挙げられる。白色顔料として酸化チタン、酸化バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。黄色顔料として酸化鉄、チタンイエローなどが挙げられる。赤色顔料として、酸化鉄などが挙げられる。青色顔料としてコバルトブルー群青などが挙げられる。ただし、コントラスト性を高めるため、白色顔料を用いることが好ましい。
より好ましいのは、コントラスト性の際立つ、白色系染料、顔料等の樹脂の着色剤が添加されることである。
[3−5]滑材、酸化防止剤、及び着色防止剤:
さらに、上記コアシートが、着色コア単層シートとして構成される場合には、酸化防止剤、および着色防止剤から選ばれる1種を含むことが好ましい。同様に、上記コアシートが、着色コア多層シートとして構成される場合には、コアシートのスキン層及びコア層の少なくとも1層が酸化防止剤、および着色防止剤から選ばれる1種を含むことが好ましい。このようにすることで、成形加工時における分子量低下による物性低下及び色相安定化に有効に作用させることができる。より好ましくは、着色コア単層シートに、及び着色コア多層シートのコア層及びスキン層の少なくとも1層に、熱可塑性樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び着色防止剤から選ばれる少なくとも1種を、0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び光安定剤から選ばれる少なくとも1種を、0.1〜5質量部、を含有することも好ましい形態の一つである。酸化防止剤及び着色防止剤から選ばれる少なくとも1種を添加(配合)させる場合には、成形加工時における分子量低下による物性低下及び色相安定化に有効に作用する。また、紫外線吸収剤及び光安定剤から選ばれる少なくとも1種を添加(配合)させる場合には、電子パスポート用レーザーマーキング多層積層体の保管時及び最終製品である電子パスポートの実際の使用時における耐光劣化性の抑制に有効に作用する。
なお、上記コアシートの滑材、酸化防止剤、及び着色防止剤は、透明オーバーシートに含有される滑材、酸化防止剤、及び着色防止剤と同じである。したがって、透明オーバーシートの説明(滑材、酸化防止剤、及び着色防止剤)を参照されたい。
[4]透明オーバーシートとコアシートの関係:
前述のように、透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)とコアシートを積層することにより、本発明の効果を奏することができる。すなわち、透明オーバーシートのレーザー光エネルギーを照射する面と反対の面に、着色コアシートを積層する。このようにすることにより、上層(透明オーバーシート)にレーザー光エネルギーを照射して、オーバーシートが黒発色した場合に、コントラストを確保しマーキング部の視認性、鮮明性を発揮させることができる。なお、最外層に印刷を施した場合は、なんらかの摩擦又は摩耗が発生した場合に、印刷部が磨り減り視認性が大きく低下する。しかし、透明オーバーシートの下層に配置されるコアシートの表面に、画像、文字等を印刷することにより、その印刷部分の鮮明性や印刷部の保護も可能となる。
また、透明オーバーシートが、PETG/PC(レーザーマーク対応)/PETGからなる透明なレーザーマーク3層シート(多層シート1)として構成される場合には、その透明オーバーシートのレーザー光エネルギーを照射する面と反対の面に、さらに、「PETG/PC(着色レーザーマーク対応)/PETG」からなる着色コア多層シート(着色レーザーマーク多層シート)を積層する。このようにすることにより、上層(透明オーバーシート)にレーザー光エネルギーを照射して、コア層PCが黒発色しても、レーザー光エネルギーは更に通過して、下層(コアシート)のコア層PCも黒発色する。これにより、レーザー光エネルギー照射で発色した部分の黒化度が向上する。
このように、レーザーマーキングによる画像(たとえば、人の顔等)の鮮明性を十分に引き出すには、反射率やコントラストを制御することが重要となる。たとえば、反射率が不十分であったり、コントラストが低かったりすると、画像の鮮明性が低下してしまう。また、たとえば、前述の透明オーバーシート(「PETG(透明なレーザーマーク3層シート)/PC(レーザーマーク対応)/PETG(透明なレーザーマーク3層シート))に、レーザーマーク対応でない「PETG(透明)/PC(白)/PETG(透明)」の3層から構成される「コアシート」を加熱融着させて、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを形成する場合には、3層シート(透明オーバーシート)の下層に、PETGの透明層があるため、反射率が不十分となってしまい好ましくない。さらに、反射率やコントラストを考慮し、PC(白)シートを、前述の「PETG/PC(白)/PETG」の3層から構成されるコアシートに代えて、透明オーバーシートの下層に用いると、反射率が「PETG(透明)/PC(白)/PETG(透明)」の3層から構成されるコアシートより向上する。さらに、上層(透明オーバーシート)のレーザーマーキングによる黒発色と、下層(PCシート)の白と、のコントラストが向上することで画像の鮮明性がよくなる。しかし、下層がPC(白)コアシートでは、上層との加熱融着性の問題が発生する。特に、120〜150℃程度の低温での加熱融着性が悪い。一方、210〜240℃に温度を上げれば加熱融着するが、これでは上層のPETG層が軟化、溶融してしまい、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを得ることができない。
したがって、下層もレーザーマーキング対応とすることで、上層にレーザー光エネルギーを照射してコア層PCが黒発色しても、レーザー光エネルギーは更に通過して下層のコア層PCも黒発色を生成する。これにより、レーザー光エネルギーの照射により発色した部分の黒化度が向上する。また、下層にPC(白)コアシートを使用した場合と同等のコントラストが得られる。これらにより、画像を鮮明にでき、しかも、加熱融着性における問題も生じさせないようにできる。このように、本発明は所望の透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)とコアシートとの組み合わせにより、相乗的に本発明の効果を発揮するものである。
なお、前述では、本実施形態の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートにおいて、透明オーバーシートの下層に、コアシートを積層する配置パターンついて説明したが、このような配置に限られるものではない。すなわち、必ずしも上層に透明オーバーシートを配置し、下層にコアシートを配置するものに限定されるものではない。たとえば、透明オーバーシートを下層に配置し、コアシートを上層に配置してもよい。このように、透明オーバーシート(或いはコアシート)を、上層又は下層に配置してもよいのは、レーザーマークした画像等を目視する位置(方向)が、上下方向に限られないからである。たとえば、パスポートのような冊子形式で、本実施形態における電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを使用する場合に、見開き状にして平面視した際に、上層に透明オーバーシートを配置し下層にコアシートを配置する。さらに、次ページを開いて平面視すると、その透明オーバーシートとコアシートの配置位置は、丁度、上層にコアシートを配置し、下層に透明オーバーシートを配置したことになってしまう。したがって、ここでの上層、下層は、説明の便宜を図るために用いたものであって、レーザー光エネルギーを照射する側に透明オーバーシートが配置されることを意味する。このように配置されることにより、レーザーマークされた後の透明オーバーシートとコアシートとの、画像等の鮮明さや高コントラストを得ることができる。
さらに、本実施形態における電子パスポート用レーザーマーキング多層シートには、透明オーバーシート/コアシートと積層させる場合に限らない。たとえば、コアシートの表面に各種印刷等を施した後、「透明オーバーシート/(印刷した)コアシート/複合ヒンジシート/(印刷した)コアシート/透明オーバーシート」となるように積層する場合も含まれる。また、「透明オーバーシート/コアシート/複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」と積層する場合も含まれる。また、「コアシート/ヒンジシート/コアシート」の積層シートを加熱融着させて、この積層シート表面に印刷等をした後、更に「透明オーバーシート/該積層シート/透明オーバーシート」を積層させる場合なども広く含まれる。使用目的や使用方法に応じて柔軟に対応可能となる。
[5]透明オーバーシート及びコアシートの成形方法:
本発明において、透明オーバーシート及び着色コアシートを得るには、たとえば、各層を形成する樹脂組成物を、所望の厚さとなるように溶融押出成形して積層する方法、各層を所望の厚さを有するフィルム状に形成し、これをラミネートする方法、2層を溶融押出して形成し、これに別途形成したフィルムをラミネートする方法等がある。これらの中でも、生産性、コストの面から溶融押出成形により積層することが好ましい。
具体的には、各層を構成する樹脂組成物をそれぞれ調製し、あるいは必要に応じてペレット状にして、Tダイを共有連結した3層Tダイ押出機の各ホッパーにそれぞれ投入する。さらに、温度200〜300℃の範囲で溶融して3層Tダイ溶融押出成形する。次に、冷却ロール等で冷却固化する。こうして、3層積層シートを形成することができる。なお、本発明における、透明オーバーシート及び着色コアシートは、上記方法に限定されることなく、公知の方法により形成することができる。たとえば、特開平10−71763号公報第(6)〜(7)頁の記載に従って得ることができる。
上述のようにして得られた透明オーバーシート、コアシートを所定の寸法に切断する。その後、それらのシートを積層し、所望時間、所望圧力、所望温度で加熱融着等によって接合して、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを得ることができる。また、別の方法によって製造してもよい。まず、透明オーバーシートおよびコアシートを各々溶融共押出成形にて2種3層シートを押出成形する。その後、ロール状に巻き取りしたロール状シートを、所定温度に加熱した加熱ローラー間に通す。たとえば、「透明オーバーシート/コアシート/透明オーバーシート」、または「コアシート/ポリエステルエラストマー等のシート/コアシート」の構成となるように、ロール状シートを通して、加熱ローラーにて加熱、加圧する。これにより長尺の積層シートを製造した後、所定の寸法にカットするなどして製造するとよい。更に、別の方法によって製造してもよい。上記透明オーバーシート、及びコアシートを所定の寸法にカットする。そして、「透明オーバーシート/コアシート/透明オーバーシート」の構成となるように、或いは、「透明オーバーシート/コアシート/ポリエステルエラストマー等のシート」、または「ポリエステルの織物または不織布/コアシート/透明オーバーシート」の構成となるように、或いは「コアシート/他のシート/コアシートの枚葉積層シート」の構成となるようにして、加熱プレス機により、前述同様に製造してもよい。
ここで、所望時間、所望圧力、所望温度は、特に限定されるものではない。所望時間、所望圧力、所望温度は、必要に応じて適宜選択されることが好ましい。なお、一般的なものとして、所望時間は10秒〜6分程度、所望圧力1〜20MPa、所望温度120〜170℃を一例として挙げることができる。
また、本発明においては、複合ヒンジシートの一端が、透明オーバーシート、及びコアシートよりも5〜100mm長い張り出し部を備えさせるとともに、その張り出し部を用いて、インレットが電子パスポートに、ミシン綴じ若しくは接着されて、或いは、ミシン綴じ及び接着されて電子パスポートに組み付けられるように構成されることも好ましい形態の一つである。なお、複合ヒンジシートが、インレット兼用複合ヒンジシートとして構成される場合にも、透明オーバーシート、及びコアシートよりも5〜100mm長い張り出し部を備えさせることがよい。ここで張り出し部の長さが5mm未満であると、電子パスポートに使用した場合、この複合ヒンジシートを電子パスポートの表紙と裏表紙の間に強固に取り付けることが難しく、取れ易くなる。また、張り出し部の長さが100mmを超えるようになると、この張り出し部の幅が広くなり、表紙と裏表紙の間に取り付けることについては問題がないが、このヒンジシートに積層されている積層体を構成するレーザーマーキング多層シート、後述するインレットなどの面積が小さくなるので好ましくない。
[6]電子パスポート用レーザーマーキング多層シート:
本発明の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートは、「透明オーバーシート/コアシート/複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」からなる5層積層シートとして構成されるとともに、複合ヒンジシートにICチップと、アンテナを配設したインレット兼用複合ヒンジシートとして構成されることが好ましい。すなわち、透明オーバーシート/コアシートの積層シートとして構成することで、画像などの鮮明性を向上できる。また、電子パスポートでは、コアシートの片面に(透明オーバーシートと接する側に)、国などの固有の固定情報を印刷する。その場合、白色系のコアシート上に印刷した方が、画像などの鮮明性が際立つ。たとえば、茶色や黒色などの濃色系のコアシート上に印刷するより、前者の方が下地色の影響を受けずに鮮明な印刷ができるため好ましい。更に、この固定情報をコアシート上に印刷した後に、透明レーザーマーキング層に、個人情報や個人画像等の可変情報をレーザーマーキングにて黒発色させる場合にも、固定情報印刷を白い部分の多い淡彩色とする。このようにすることで、下地淡彩色とのコントラストが大きくなり、鮮明な画像と文字が得られる。従って、着色されたコアシート(着色シート)の色は白等の淡彩色がより好ましい。また複合ヒンジシートに、直接IC−chipとアンテナを配置した、インレット兼用複合ヒンジシートとして構成することにより、ICチップ及びアンテナを配設させやすい。また、いわゆるICチップ内蔵型の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートとして対応でき、厚さを薄くできる。
また、「透明オーバーシート/コアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の5層積層シートとして構成することで、表面または裏面のどちらからでもレーザーマーキングすることができる。また、これら5層積層シートを加熱プレス成形により加熱融着した場合に、得られた5層積層シートには、反りがほとんど発生しないことも特長といえる。なお、各層の厚みは、透明レーザーマーキングシートが50〜200μm、多層シートが100〜300μm、複合ヒンジシートが80〜250μmであることが好ましい。
好ましいのは、「透明オーバーシート/コアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の5層からなる積層シートの構成であって、透明オーバーシートが、前述した、いわゆる3層構造からなるものである。なお、透明オーバーシートの、いわゆる3層構造からなるものついては、透明オーバーシートの説明を参照されたい。
ここで、上記5層からなる積層シートは種々の方法で製造できる。たとえば、「透明オーバーシート/コアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」を積層した後、加熱プレスにて熱融着(熱ラミネーション)させることで5層積層シートを製造できる。
また、上記5層からなる積層シートに印刷を施したい場合には、コアシートの片面に、光または熱硬化型インクで印刷、硬化させる。その後、さらに、「透明オーバーシート/印刷したコアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/印刷したコアシート/透明オーバーシート」を積層した後、加熱プレスにて熱融着(熱ラミネーション)させて製造できる。また、別の方法として、「コアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/コアシート」を加熱プレスにて熱融着により積層させる。その後、この積層シートの表面に印刷する。さらに、「透明オーバーシート/積層シート(コアシート/複合ヒンジシート/コアシート)/透明オーバーシート」を積層して加熱プレスすることによっても製造できる。
更に、コアシートの片面に、光または熱硬化型インクで印刷、硬化した後、その印刷面に接着剤の1種であるバーニッシュを薄く塗布する。さらに、必要に応じて乾燥させる。そして、「透明オーバーシート/バーニッシュ塗布印刷多層シート/複合ヒンジシート/バーニッシュ塗布印刷コアシート/透明オーバーシート」を積層して、加熱プレスすることによって、強固に加熱融着させることができる。
また、透明オーバーシートの片面(コアシートの印刷面と加熱融着させる面)に、熱活性型接着剤を乾燥後の膜厚が3〜20μm、好ましくは3〜10μm、更に好ましくは5〜10μm、となるよう予め塗布しておく。そして、上記同様、「透明オーバーシート(片面熱活性型接着剤層)/コアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート(片面熱活性型接着剤層)」を積層した後、加熱プレスにて熱融着(熱ラミネーション)する。これにより強固に加熱融着させることができる。
また、このようなシートに印刷を施す場合に、より好ましいのは、コアシートの片面に、光又は熱硬化型インクで印刷し、硬化した後、「透明オーバーシート/印刷コアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/印刷コアシート/透明オーバーシート」を積層させ、その後加熱プレスにて熱融着(熱ラミネーション)させて、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを形成することである。また、以下の別の方法もある。コアシートの片面に、光又は熱硬化型インクで印刷し、硬化させる。その後、その印刷面に接着剤の1種であるバーニッシュを薄く塗布する。さらに、必要に応じて乾燥させる。そして、「透明オーバーシート/バーニッシュ塗布印刷コアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/バーニッシュ塗布印刷コアシート/透明オーバーシート」となるように積層して加熱プレスする。以上のようにして、電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを形成することで、成形しやすい等の利便性を向上させることができる。
ただし、このようなものに限定されるものではなく、本発明の構成、効果を逸脱しない範囲内で、上記5層からなる積層シートを形成してもよい。
また、熱融着(熱ラミネーション)の場合の加熱温度は、複合ヒンジシートの種類によっても異なるが、120〜200℃、好ましくは140〜180℃である。加熱温度が120℃未満では層間の接着不良が生じることがある。すなわち、層間加熱融着性が悪くなる。また、200℃を超えると、上記5層からなる積層シートの反り、縮みまたは、シートのはみ出しなどの異常が生じる虞がある。
また、本発明の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートは、「透明オーバーシート/コアシート/複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の、コアシート/複合ヒンジシートの間に、インレットを挿入した、「透明オーバーシート/コアシート/インレット/複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の6層積層として構成されるとともに、インレットは、熱可塑性樹脂シートにICチップと、アンテナを配設させて構成されてなるインレットとして構成することも好ましい。
上記のようにインレットを用いてICチップ(「IC−chip」ともいう)とアンテナを配置させることも好ましい。たとえば、通常はPETG等の原料から成形されるシートに、IC−chipとアンテナ(「antenna」ともいう)を配置し、これをインレットとして使用し、複合ヒンジシートの片側に配置して使用することができる。
上記インレットは、たとえば200〜300μm程度のPETG等の熱可塑性樹脂シートを切削して、これにIC−chipとantennaを挿入してインレットを作成する。そして、「透明オーバーシート(たとえば透明レーザーマーキングシート)/インレイシート(たとえばコアシート)/複合ヒンジシート/インレイシート(たとえばコアシート)/透明オーバーシート(たとえば透明レーザーマーキングシート))の構成として使用してもよい。さらに、「オーバーシート/インレイシート/複合ヒンジシート/インレット/インレイシート/オーバーシート」の構成としてe−Card対応にしてもよい。
また、上記したインレットを使用して、「透明オーバーシート/コアシート/複合ヒンジシート/インレット/コアシート/透明オーバーシート」の6つのシートを積層してなる電子パスポート用レーザーマーキング多層シートとして構成されることも好ましい。インレットとヒンジシートを別々に作ると、6つのシートを積層した6層積層体となり、5つのシートを積層した5層積層体より1層多いために、生産性に劣るものの、汎用性もあるため、好ましい形態の一つといえる。
なお、インレットを、前述のインレット兼用複合ヒンジシートのように兼用として構成せずに、別体として構成する場合には、たとえば、実質的に非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂、或いは上記樹脂組成物からなる熱可塑性樹脂シートを、インレットの基材としてもよい。具体的には、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、且つ、エチレングリコール単位(I)と1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90〜30/10〜70モル%である共重合ポリエステル樹脂からなる熱可塑性樹脂シートとして構成してもよい。そして、この重合ポリエステル樹脂からなる熱可塑性樹脂シートに、ICチップとアンテナを配置したシートを配設してインレットを形成する。さらに、そのインレットシートを、ICチップ及びアンテナを被覆するように、複合ヒンジシートの片面に積層して、インレットを形成した後、透明オーバーシート、コアシートの夫々を積層させて、加熱プレスすると、積層体が形成できる。更には、「透明オーバーシート/コアシート/複合ヒンジシート/インレット/コアシート/透明オーバーシート」のように、配置させた後、加熱プレスにより積層体を形成してもよい。なお、これらのように構成をとることにより、加熱プレス時の応力や熱等からICチップ及びアンテナが損傷することを防ぐことができるため好ましい。
ただし、この例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜、変更、修正が行われるものも、本発明に含まれる。
また、インレットの材料として、前述の実質的に非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂、或いは上記樹脂組成物からなる熱可塑性樹脂シート、の代わりに、たとえば、接着性シートを使用することも好ましい。上記のように、接着性シートを使用することで、その後の、インレットシートを成形する加熱プレス工程を省略できるだけでなく、過度の加熱プレス時に負荷されやすい応力や熱等から、ICチップ及びアンテナが損傷することを低減できる。
ここで、前述の実質的に非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂とは、具体的には、「テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、且つ、エチレングリコール単位(I)と1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90〜30/10〜70モル%である共重合ポリエステル樹脂」である。
上記のような接着性シートとしては、たとえば、厚さが約30μm程度のポリエステル系接着性シート(たとえば、東亜合成株式会社製 アロンメルトPES−111EEシート)などを挙げることができる。ただし、このようなものに限定されるものではない。なお、前述の共重合ポリエステル樹脂、或いは、接着性シートを使用する場合にも、インレットの厚みは、全体として前述の所望範囲内であることが好ましい。
また、これまで前述した電子パスポート用レーザーマーキング多層シートであって、コアシートの表面に印刷した後、「透明オーバーシート/コアシート/複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の5層積層体、として形成されることも好ましい。または、これまで前述した電子パスポート用レーザーマーキング多層シートであって、コアシートの表面に印刷した後、「透明オーバーシート/コアシート/インレット/複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の6層積層体として形成されることも好ましい。このように電子パスポート用レーザーマーキング多層シートを成形することにより、レーザーマーキング性に優れ、且つ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られる。
たとえば、IC−chipとアンテナを配置したe−カード(e−Card)においては、IC−chipとアンテナを配置したインレットを使用する場合には、インレットは、以下のように配置される。すなわち、前述のデータページでの基本構成である「透明オーバーシート/コアシート/ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の5層積層体のヒンジシートの片側に、インレットは配置されることになる。より具体的には、「透明オーバーシート/コアシート/インレット/ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の6層積層体の構成となる。更に、ヒンジシートにIC−chipとアンテナを配置してインレットとヒンジシートを兼ね備えたヒンジシートを用いる場合には、「透明オーバーシート/コアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の5層積層体としてもよい。
[7]マット加工:
また、透明オーバーシート、コアシート、及び電子パスポート用レーザーマーキング多層シート用の複合ヒンジシートのうちの少なくとも1つのシートの、少なくとも片側表面に、平均粗さ(Ra)0.1〜5μmのマット加工が施されていることが好ましい。このように、前述の夫々のシート表面に、適宜選択的に、マット加工をする理由は、透明オーバーシートとコアシートを加熱プレス成形する場合、前述のようにマット加工が施されていると、透明オーバーシートとコアシートの間の空気が抜けやすくなるからである。他方、積層工程に搬送する場合に、これらのシートがマット加工されていないと、吸引、吸着して搬送して、これらのシートを位置合わせして積層した後、空気を注入して多層シートを脱着する際、脱着困難となる。仮に、脱着できても積層位置がずれたりするなどの問題が生じやすい傾向がある。また、マット加工の平均粗さ(Ra)が5μmを超えると、透明オーバーシートと、コアシートとの間の熱融着性が低下しやすくなる傾向がある。
さらに、表面の平均粗さ(Ra)が0.1μm未満では、前述したようにシート搬送時、積層時に、シートが搬送機に貼りつくという問題等が発生しやすい傾向がある。
[8]電子パスポート:
本発明の電子パスポートは、「透明オーバーシート/コアシート/複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の5層積層体、または「透明オーバーシート/コアシート/インレット兼用複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の5層積層体、の、ヒンジシートの張り出し部を用いて、電子パスポート表紙、または裏表紙にミシン綴じ、若しくは接着してなる、或いはミシン綴じ、および接着してなる、或いは、ミシン綴じ及び接着してなる電子パスポートとして成形することできる。または、「透明オーバーシート/コアシート/インレット/複合ヒンジシート/コアシート/透明オーバーシート」の6層積層体、として構成されてなる電子パスポート用レーザーマーキング多層シートの、ヒンジシートの張り出し部を用いて、電子パスポート表紙、または裏表紙にミシン綴じ、若しくは接着してなる、或いはミシン綴じ、および接着してなる、或いは、ミシン綴じ及び接着してなる電子パスポートとして成形することできる。
[9]偽造防止形成部:
さらに、本発明においては、透明オーバーシート、コアシート、複合ヒンジシート、及びインレットの少なくとも一つに、偽造防止形成部が形成されていることが好ましい。偽造防止形成部が形成される(設けられる)ことにより、前述までの特徴と相俟って、確実に偽造等を防止できるからである。ここで、偽造防止形成部としては、レーザー光エネルギー照射による文字、画像(人物画像)の他、たとえば、ホログラム、マイクロ文字、マイクロウェーブ文字、エンボス文字、斜め印刷(斜め文字等)、レンチキュラ、ブラックライト印刷、パール印刷等を例示できる。
[10]レーザーマーキング方法:
本実施形態における電子パスポート用レーザーマーキング多層シートは、レーザー光エネルギーを照射して発色させるものであるが、レーザー光としては、He−Neレーザー、Arレーザー、CO2レーザー、エキシマレーザー等の気体レーザー、YAGレーザー、Nd・YVO4レーザー等の固体レーザー、半導体レーザー、色素レーザー等が挙げられる。これらのうち、YAGレーザー、Nd・YVO4レーザーが好ましい。
なお、前述したように、上記インレットを構成する樹脂組成物には、必要に応じて、その特性を損なわない範囲で、他の添加剤、たとえば離型剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、強化剤などを添加することができる。
本実施形態のレーザーマーキング方法において、レーザー光エネルギーとしては、レーザービームは、シングルモードでもマルチモードでもよい。また、ビーム径が20〜40μmのように絞ったもののほか、ビーム径が80〜100μmのように広いものについても用いることができる。ただし、シングルモードで、ビーム径が20〜40μmの方が、印字発色部と下地のコントラストを3以上とでき、コントラストが良好な印字品質を得る点で好ましい。
このように本実施形態の電子パスポート用レーザーマーキングシートに、レーザー光エネルギーを照射すると、単層シート又は、多層シート2として構成される透明オーバーシートの場合には、オーバーシートを構成するレーザー光エネルギー吸収剤がレーザーエネルギーにより発色する。この透明オーバーシートは耐熱性の高い透明ポリカーボネート樹脂が主成分であるから、高出力のレーザー光エネルギーを照射することが可能である。さらに、上記高出力のレーザー光エネルギーを照射可能であるため、容易、且つ、より鮮明に画像等を描くことができる。とりわけ、「PC/PC(レーザー発色層)/PC」の3層とする透明オーバーシートの場合には、PC(レーザー発色層)上に、PC透明スキン層を設けることにより、更に鮮明に画像等を描くことができる。たとえば、PCレーザー発色層が単層では、更なる高パワーのレーザー光エネルギーを照射することによって、発泡が生じ、この発泡によって、シート表面の「フクレ」現象が発生する条件においても、PCレーザー発色層上にPC透明スキン層を設ける場合には、そのPC透明スキン層効果により「フクレ」現象が抑制されるためである。このPC透明スキン層効果はこれだけにとどまらず、PCレーザー発色層単層の場合は、該シートが外部との摩擦によりマーキング部が直接削られていくことになる。これに対して、PC透明スキン層を付与することにより、PC透明スキン層が削られてもレーザーマーキング部は削られないため、レーザーマーキング部の耐擦傷性や耐磨耗性はより優れるといえる。
更に、ポリカーボネート樹脂からなるシートは耐熱性が高い故に、該樹脂シートの多層積層体では加熱融着温度を200〜230℃という高温にする必要がある。そのため、加熱プレス工程の生産性にも問題が生じる。さらに、それにもまして、通常電子パスポートのプラスチックデータシートでは、コアシート層といわれる中間層上に種々の印刷を施すことが一般的である。この場合に、コアシート層に印刷を施してから多層積層加熱プレスを行う工程において、加熱融着温度を200〜230℃という高温にした場合、印刷が「ヤケル」ことが多々あり、印刷した文字、画像が変退色を生じることがあり好ましくない。
この問題に対して、透明オーバーシートであるPCレーザー発色層透明単層シート、または「PC/PC(レーザー発色層)/PCの透明3層シート」(多層シート2)の下地層であるコアシートに、「PETG/PC(着色)/PETG」の層構成からなる、着色3層シートを積層する。このようにすることにより、PETGが非結晶性共重合ポリエステル樹脂であり、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度より約60〜70℃低いために、加熱融着温度を150〜170℃と、加熱融着温度を約50〜60℃程度下げることができる。そのため、印刷層に印刷した文字、画像の変退色を抑制することができる。したがって、本実施形態の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートは、レーザーマーク性に優れ、その表層、または表層のコア層にレーザー光エネルギー照射により黒色発色をさせて画像や文字をマーキングさせるが、その下地層が白い故に黒/白コントラストにより、更に鮮明な文字、画像を描くことができる。
また、透明オーバーシートに、PETG/PC(レーザー発色層)/PETG3層共押出シート(多層シート1)を用いることにより、PETGスキン層によるコア層PC(レーザー発色層)のマーキングの耐擦傷性や耐磨耗性に優れる。さらに、PETGスキン層による印刷コアシート層との加熱融着性に優れる。特に、150〜170℃での比較的低い加熱温度下での加熱融着性に優れるという効果がある。このように本実施形態の透明単層及び多層構造からなるシートを用いることで、レーザーマーク性に優れ、透明レーザーマーキング層自体に深くマーキングでき、印字濃度及びマーキング部の耐擦傷性や耐磨耗性に優れるマーキングが可能となる。
より好ましいのは、前述の電子パスポート用レーザーマーキング多層シートに、レーザーマーキングする方法であって、図9、図10、図11に示されるように電子パスポート用レーザーマーキング多層シートに積層した(電子パスポート用レーザーマーキング多層積層体を構成する)透明オーバーシート(透明レーザーマーキングシート)側から(単層シート、または多層シート側から)、レーザー光エネルギー17(レーザー光線17)を照射して印字することである。このように本実施形態の透明オーバーシート側から、所望のレーザー光エネルギーを照射することにより、容易、且つ鮮明に画像等を描くことができる。したがって、単層構造の透明オーバーシート、または多層構造の透明オーバーシートを使用することによって、コアシート、複合ヒンジシート、インレットと相俟って、レーザーマーキング性、加熱融着性に優れ、更にマーキング部の耐磨耗性にも優れたものとすることができる。また、多層構造の透明オーバーシートを使用することによって、コアシート、複合ヒンジシート、及びインレットと相俟って、レーザーマーク性に優れ、その表面、または支持体と被覆体の界面部に、レーザー光エネルギーの照射により黒下地に白文字、白色記号及び白色図柄などを、より一層容易、且つ鮮明に描くことができる。特に、バーコード等の情報コードを解像度よくマーキングすることが可能となる。
[11]用途:
また、本実施形態における電子パスポート用レーザーマーキング多層シートは、電子パスポートに好適に用いることができる。
たとえば、図12Aに示されるように、e−Cardタイプのパスポートの場合は、ICチップ(IC−chip)とアンテナ(antenna)が、積層シート51の中に、インレット(Inlet)として挿入されている。さらに、積層シート51が、ヒンジ部の張り出し部29によって、表紙49と裏表紙50との間に、綴じられているパスポートを例示できる。上記積層シート51には、個人情報(顔画像と個人情報)が、レーザーマーキングで、オンデマンド(on−demand)で書き込まれる。すわなち、e−Cardに配設されたICチップ及びプラスチックシート(Plastic−sheet)に、オンデマンドで個人情報が書き込まれることになる。なお、図中、符号53は、ビザシートである。
また、図12Bに示されるように、e−Coverタイプのパスポートの場合には、ICチップとアンテナが、プラスチックインレイ52(Plastic−Inlay)中に配設されている。また、上記プラスチックインレイ52は、表紙49、裏表紙50に貼り付けられている。さらに、プラスチックシート(Plastic−sheet)からなるデータページ(Data−Page)と呼ばれる積層シート54が、ヒンジ部の張り出し部29によって、表紙49と裏表紙50との間に、綴じられている。e−Coverタイプの場合には、個人情報は、ICチップ及びデータページのプラスチックシートに、オンデマンドで書き込まれることになる。ただし、これは1例であって、必ずしもこのような構成に限定されるものではない。
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。また、実施例における各種の評価、測定は、下記方法により実施した。
[1]ヒンジシート:
以下の実施例1〜3のヒンジシート(複合ヒンジシート)、比較例1及び2のヒンジシート、及び参考例1のヒンジシートについて、以下の[1−1]〜[1−5]の、観察及び実験を行った。
[1−1]シートの平坦性:
実施例1〜3のヒンジシート(複合ヒンジシート)、比較例1及び2のヒンジシート、及び参考例1のヒンジシートについて、それぞれの両面につき、平坦性を目視による観察と、及び触指による観察を行い、以下の判定基準で、ヒンジシートの「平坦性」を評価した。
《判定基準》
◎:凹凸が全くなく、全面にわたって平坦である。
○:クロスの糸部と開口部において、わずかに凹みがあるが、実用上問題なし。
×:クロスの糸部と開口部において、凹みがあり、平坦でなく、実用上問題あり。
[1−2]カットシート作業性:
実施例1〜3のヒンジシート(複合ヒンジシート)、比較例1及び2のヒンジシート、及び参考例1のヒンジシートの、それぞれについて、縦110×横300mmの大きさに打ち抜き刃で打ち抜きした。その打ち抜き時のカット性と、その後の加熱積層工程に搬入する際の作業性とを、「カットシート作業性」として、以下の判定基準で評価した。
《判定基準》
○:カット性と作業性良好である。
△:カット性良好であるが、作業性に問題有り。
△△:カット性は普通であり、作業性に問題有り。
×:カット性に問題あり。作業性は問題なし。
××:カット性と作業性に問題あり。
[1−3]シートの柔軟性:
実施例1〜3のヒンジシート(複合ヒンジシート)、比較例1及び2のヒンジシート、及び参考例1のヒンジシートの、それぞれについて、幅1cm×長さ10cmのカットシートの寸法となるように作製し、それを試験片とした。さらに、そのカットシートの試験片を、図13Aに示されるように、水平台63より、5cmの長さで貼り出しさせた後、試験片であるカットシート61の貼り出し部の垂れる程度を測定して、以下の判定基準で、シートの柔軟性を評価した。より具体的には、図13Aに示されるように、水平台63に、カットシート61の長さ方向の先端部の5cmが水平台63の端部から出るように載置し、そのカットシート61の上部を支持板65で押さえて、図13Bに示されるように、大気圧下でカットシート61の貼り出し部61aの垂れる程度を測定した。
《判定基準》
◎:シートの“垂れ”が、2cm以上となり優れている。
○:シートの“垂れ”が、1cm〜2cm未満となり良好である。
△:シートの“垂れ”が、0.4cm〜1cm未満となり不具合が生じやすい。
×:シートの“垂れ”が、0.4cm未満となり悪い。
[1−4]引き裂き強度:
実施例1〜3のヒンジシート(複合ヒンジシート)、比較例1及び2のヒンジシート、及び参考例1のヒンジシートの、夫々について、まず、長さ100mm、幅50mm、厚み120μm、の寸法となるようにヒンジシートを作製した。さらに、得られたヒンジシートに、図14A、図14Bに示されるヒンジシート71Aのような、幅方向の中央部分の端部から、長さ方向に向けて垂直に50mmの位置まで切り込み72を形成した。さらに、切り込み72を形成したヒンジシート71Aを、長さ100mm、横25mm、厚み100μm、の寸法からなる、2枚のポリカーボネート樹脂シート73Aで、図14A、図14Bに示されるように、挟んだ。その後、加熱プレス真空プレス機を用いて加熱真空プレスし、試験片を作製した。
さらに、上記のように得られた試験片を用いて、図14Cに示されるような引き裂き試験を行った。すなわち、図14Cに示されるように、試験片の、ヒンジシート部分71Bが挟持されていない、ポリカーボネート樹脂シート部分73Bの端部を固定(チャック(chuck)した。さらに、上記ヒンジシート部分71Bを、試験速度1000mm/分で、人力Fで矢印方向に引き裂く、引き裂き試験を行った。なお、図14Cに示される、試験片のヒンジシート部分71Bは、図14A及び図14Bに示されるヒンジシート71Aにあたる。
上記の引き裂き試験において、引き裂き強度(N)を求め、以下の判定基準にて評価した。なお、実施例3のヒンジシートについては、縦糸のフラットヤーンに対して、直角方向の引き裂き強度を調べ、「引き裂き強度」を評価した。また、図14Cに示される、試験片のポリカーボネート樹脂シート部分73Bは、図14A及び図14Bに示される、ポリカーボネート樹脂シート73Aであって、ヒンジシート71Aを挟んだ部分にあたる。
《判定基準》
◎:引き裂き強度が10(N)以上
○:引き裂き強度が7(N)以上10(N)未満
△:引き裂き強度が4(N)以上7(N)未満
×:引き裂き強度が4(N)未満
[1−5]加熱融着性:
製造例1で得た透明レーザーマーキングシートA、及び、製造例2で得た多層シートB(コアシートB)を、それぞれ、縦100×横300mmの寸法にカットした。さらに、実施例1〜3のヒンジシート(複合ヒンジシート)、比較例1及び2のヒンジシート、及び参考例1のヒンジシートの、それぞれについて、縦100×横300mmの寸法にカットした。
次に、上記のようにカットしたコアシートBの一端に、離型剤を塗布した。そして、このコアシートBの、離型剤を塗布した面と、上記のようにカットした、実施例1〜3のヒンジシート(複合ヒンジシート)、比較例1及び2のヒンジシート、及び参考例1のヒンジシートとの夫々が、接するように配置した。さらに、透明レーザーマーキングシートA/コアシートB/ヒンジシート/コアシートB/透明レーザーマーキングシートAの、シート構成となるように配置した。そして、上記5枚のシートを、2枚のクロムメッキ鋼板で挟み、ロータリー真空プレス機(日精樹脂工業製)を用いて、100℃にて90秒間予熱後、160℃、実面圧力20kgf/cm2にて90秒間加圧した。
さらに、90秒間冷却した後、積層体シートを取り出た。このようにして得られた積層体シートを、上記コアシートBに離型剤を塗布した、離型剤塗布部分を含め、幅20mmで切り出し、試験片を得た。さらに、得られた試験片を、試験速度300mm/minにて、離型剤塗布部分から手で引き剥がす剥離試験を行い、透明レーザーマーキングシートA、コアシートB、及び各ヒンジシートの加熱融着性を以下の判定基準にて評価した。
《判定基準》
◎:剥離強度が50N/cm以上またはシートの材料破壊が見られ極めて良好である。
○:剥離強度が20N/cm以上50N/cm未満であり良好である。
△:剥離強度が10N/cm以上20N/cm未満で不具合が生じやすい。
×:剥離強度が10N/cm未満であり、悪い。
××:加熱融着せず(手で簡単にはくり可能なため)、製造できない。
(F−PETクロス(1)の製造)
厚みが40μm、幅が0.5mmの長方形断面を有する、ポリエステルからなるフラットヤーンを用いた。このフラットヤーンを、縦糸、及び横糸として、開口部が縦0.4mm×横0.4mmの正方形となるように、平織り組織で織成した。このようにして、2軸構造であり、縦糸、及び横糸の全てがフラットヤーンからなる、ポリエステルメッシュクロス(以下、「F−PETクロス(1)」という。)を製造した。この「F−PETクロス(1)」の交点部の厚み(総厚み)は80μmであった。
(F−PETクロス(2)の製造)
厚みが30μm、幅が0.5mmの長方形断面を有する、ポリエステルからなるフラットヤーンを用いた。このフラットヤーンを、縦糸、横糸、及び斜糸として、縦糸、横糸で形成される開口部が、縦2.0×横2.0mmの正方形となるように、さらに、この開口部を、斜糸が二分し、三角形となるように、平織り組織で織成した。このようにして、3軸構造であり、縦糸、横糸、及び斜糸の全てがフラットヤーンからなる、ポリエステルメッシュクロス(以下、「F−PETクロス(2)」という。)を製造した。この「F−PETクロス(2)」の交点部の厚み(総厚み)は90μmであった。
(F−PETクロス(3)の製造)
厚みが30μm、幅が0.5mmの長方形断面を有する、ポリエステルからなるフラットヤーンを縦糸とした。また、線径(直径)が60μmの、ポリエステルからなる丸ヤーンを横糸とした。さらに、開口部が縦0.4×横0.4mmの正方形となるように、平織り組織で織成した。このようにして、2軸構造であり、縦糸がフラットヤーンであり、横糸が丸ヤーンからなる、ポリエステルメッシュクロス(以下、「F−PETクロス(3)」という。)を製造した。この「F−PETクロス(3)」の交点部の厚み(総厚み)は90μmであった。
(実施例1)ヒンジシート(複合ヒンジシート)〔TPU/F−PETクロス(1)〕:
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(以下、「TPU」という。)として、日本ミラクトラン株式会社製 無黄変タイプ 「ミラクトラン XN−2004」、硬度(JIS―A)95を使用した。また、織物状シートとして、上記「F−PETクロス(1)」を使用した。まず、「TPU」を190℃にてTダイ押出機から溶融押出するとともに、Tダイ出口にて「F−PETクロス(1)」とロール圧着させた。その後、上記「F−PETクロス(1)」の片面に、上記「TPU」を圧着させた状態のシートを反転させた。さらに、上記「F−PETクロス(1)」の片面であって、上記「TPU」を圧着させていない片面に、上記と同様にして、「TPU」を「F−PETクロス(1)」にロール圧着させた。このようにして、「F−PETクロス(1)」の開口部に、「TPU」を溶融侵入させて、上記「TPU」と上記「F−PETクロス(1)」を完全一体化させた、「「TPU」/「F−PETクロス(1)」/「TPU」」から構成されるヒンジシート(複合ヒンジシート)を得た。このヒンジシート(複合ヒンジシート)を、以下では、「TPU/F−PETクロス(1)」という。上記のようにして得られた、「TPU/F−PETクロス(1)」の総厚みが120μmであった。
(実施例2)ヒンジシート(複合ヒンジシート)〔TPU/F−PETクロス(2)〕:
実施例1に記載の「F−PETクロス(1)」に代えて、織物状シートとして、上記「F−PETクロス(2)」を使用した他は、実施例1と同様にして、上記「TPU」と上記「F−PETクロス(2)」を完全一体化させて、「「TPU」/「F−PETクロス(2)」/「TPU」」から構成されるヒンジシート(複合ヒンジシート)を得た。このヒンジシート(複合ヒンジシート)を、以下では、「TPU/F−PETクロス(2)」という。上記のようにして得られた、「TPU/F−PETクロス(2)」の総厚みが120μmであった。
(実施例3)ヒンジシート(複合ヒンジシート)〔TPU/F−PETクロス(3)〕:
実施例1に記載の「F−PETクロス(1)」に代えて、織物状シートとして、上記で「F−PETクロス(3)」を使用した他は、実施例1と同様にして、上記「TPU」と上記「F−PETクロス(3)」を完全一体化させて、「「TPU」/「F−PETクロス(3)」/「TPU」」から構成されるヒンジシート(複合ヒンジシート)を得た。このヒンジシート(複合ヒンジシート)を、以下では、「TPU/F−PETクロス(3)」という。上記のようにして得られた、「TPU/F−PETクロス(3)」の総厚みが120μmであった。のTPU/F−PETクロス(3)/TPU複合ヒンジシートを製造した。
(比較例1)ヒンジシート〔PETクロス〕:
線径(直径)が48μmの円形断面を有する丸ヤーンを用いて、開口部が、縦270mm×横270mmの正方形となるように、平織り組織で織成した。このようにして、2軸構造であり、縦糸、及び横糸の全てが、上記丸ヤーンからなるポリエステルメッシュクロス(以下、「PETクロス」という。)を、ヒンジシートとして製造した。
(比較例2)ヒンジシート〔TPU〕:
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)として、日本ミラクトラン株式会社製 無黄変タイプ 「ミラクトラン XN−2004」、硬度(JIS―A)95、を使用した。上記「熱可塑性ポリウレタンエラストマー」を、190℃で、Tダイ押出機にて押出し、ヒンジシートとしてのTPU単独シートを製造した。この「TPU単独シート」を、以下、「TPU」という。この「TPU」は、厚み120μmであった。
(参考例1)ヒンジシート〔TPU/PETクロス〕:
実施例1に記載の「F−PETクロス(1)」に代えて、線径(直径)が48μmの円形断面を有する丸ヤーンを用いて、開口部が270mm×270mmの正方形を有するポリエステルメッシュクロス(PETクロス)を使用した他は、実施例1同様にして、「TPU」と「PETクロス」を完全一体化させた、「「TPU」/「PETクロス」/「TPU」」から構成されるヒンジシートを得た。このヒンジシートを、以下では「TPU/PETクロス」という。上記のようにして得られた、総厚みが120μmであった。
(製造例1)透明レーザーマーキングシートA:
ポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm3/10min)を用い、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収剤としてカーボンブラック(三菱化学製#10、平均粒子径75nm、DBP吸油量86ml/100gr)を、0.0015質量部配合するとともに、フェノール系酸化防止剤として、(n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(「イルガノックス1076」チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を、0.2部配合し、Tダイ溶融押出成形によりシートの総厚さは100μmの透明レーザーマーキングシートAを得た。さらに、両面の平均表面粗さ(Ra)については、0.5〜1.8μm、になるようマット加工が施された透明レーザーマーキングシートAを得た。
(製造例2)コアシートB:
スキン層として非結晶性ポリエステル(商品名「イースターGN071」イーストマンケミカル社製、EG/CHDM=70/30モル%)を、コア層としてポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm3/10min)を用い、且つ、非結晶性ポリエステル100質量部に、滑剤としてステアリン酸カルシウム0.3質量部と酸化チタン15質量部を配合した。さらに、上記ポリカーボネートに、フェノール系酸化防止剤として、(n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(「イルガノックス1076」チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.2部、及び酸化チタン15部を配合して、Tダイ溶融押出成形によりスキン層/コア層/スキン層の3層の多層シートAを得た。シートの総厚さ150μmにするとともに、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとし、層の構成をスキン層(20μm)/コア層(110μm)/スキン層(20μm)の構成にするとともに、コア層の厚さを比率73%にした。さらに、両面の平均表面粗さ(Ra)については、0.5〜1.8μmになるようマット加工が施されたコアシートBを得た。
上述の実施例1〜3、比較例1〜2、及び参考例1について、前述の[1−1]〜[1−5]の各種評価を行った。その結果を表1および表2に示す。
(考察1)
表1に示すように、実施例1〜3のヒンジシートは、カットシートの作業性であるカット性と作業性が良好で、シートの柔軟性に優れ、また耐引き裂き強度も良好であった。さらに材料破壊を起こす加熱融着性を有していた。
これに対して、表2に示すように、比較例1のヒンジシートでは、カット作業性に劣り、シートの柔軟性、引き裂き強度も十分満足できるものではなかった。比較例2のヒンジシートでは、カット作業性、引き裂き強度が著しく劣るものであった。さらに、参考例1のヒンジシートは、比較例1〜2のヒンジシートに比べてカットシートの作業性、シートの柔軟性、引き裂き強度、および材料破壊を起こす加熱融着性に優れたものであった。そして実施例1〜3の複合ヒンジシートは、参考例1のヒンジシートに比べ、さらに耐引き裂き強度に優れたものであった。
[1] 多数の開口部を備える織物状シートと、熱可塑性樹脂とから形成された複合ヒンジシートであって、前記織物状シートは、縦糸と横糸の複数本の糸から構成される2軸構造体を有する、メッシュクロスまたは不織布、或いは、前記織物状シートは、前記縦糸、前記横糸、及び斜糸の複数本の糸から構成される3軸構造体を有する、メッシュクロスまたは不織布からなり、前記縦糸、前記横糸及び、前記斜糸の複数本の糸のうち、全ての糸が、フラットな断面を有するフラットヤーンからなり、前記熱可塑性樹脂は、少なくとも1種の熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性樹脂であり、前記織物状シートの開口部を前記熱可塑性樹脂で閉塞させた複合ヒンジシートであり、前記開口部は、前記縦糸及び前記横糸で囲まれた領域、又は、前記縦糸、前記横糸、及び前記斜糸で囲まれた領域にあり、前記縦糸及び前記横糸が交わる部分に、又は、前記縦糸、前記横糸、及び前記斜糸が交わる部分に、交点部を有する複合ヒンジシート。