JPWO2012114396A1 - 外装体およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を主成分とする樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分としてのシリカ−マグネシア触媒粒子とを、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が難燃性樹脂組成物の全重量の0.5wt%以上9.0wt%以下となるように混合することにより得られる難燃性樹脂組成物を成形して、ポリ乳酸(PLA)および/または乳酸共重合体を用いた環境樹脂の成形品である、電気機器の外装体を構成する。シリカ−マグネシア触媒粒子は、好ましくは10μm以下の平均粒径を有する。

Description

本発明は、薄型かつ軽量の平面型のディスプレイ装置などの電化製品、抵抗およびスピーカなどの一般的な電子部品などの電気機器に用いられる外装体ならびに樹脂成形品に関するものである。
平面型のディスプレイ装置として、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、およびプラズマディスプレイなどが商品化されている。特に液晶ディスプレイ、およびプラズマディスプレイは、薄型で、大画面の表示が可能であることから、一般家庭以外にも、公共施設などにおけるディスプレイとして、広く一般に普及するようになってきた。
このようなディスプレイ装置においては、デザイン上の要請を満たすために、また軽量化のために、外装体として樹脂成形品が用いられている。これらのディスプレイ装置が普及するに従い、使用済み後に処分する際の樹脂成形品の廃棄処理が課題となりつつある。
近年、土中に埋め立てると、バクテリア作用によって分解する樹脂(またはプラスチック)が注目されている。生分解性樹脂(または生分解性プラスチック)と呼ばれるこれら樹脂は、好気性バクテリア存在下で水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に分解する特性を有する。生分解性樹脂は、農業分野において実用化され、また、使い捨て商品の包装材、およびコンポスト対応ゴミ袋等の材料として実用化されている。
生分解性樹脂を用いた商品は、例えば農業分野において使用する場合には、使用済みプラスチックを回収する必要がないため、ユーザーにとっても、好都合な場合がある。さらに、近年、植物由来の樹脂もまた、電子機器および自動車の分野において着目されつつある。植物由来の樹脂は、植物原料から得られるモノマーを重合または共重合させることにより得られる。植物由来の樹脂は、石油資源に頼ることなく製造されること、原料となる植物が二酸化炭素を吸収して成長すること、および焼却処理により廃棄する場合でも、一般に燃焼カロリーが小さく、発生するCO2量が少ないこと等の理由により、地球環境に優しい樹脂として注目されている。植物由来の樹脂は一般に生分解性を有するが、石油資源の枯渇防止という観点だけから見れば、必ずしも生分解性を有する必要はない。すなわち、環境保護に寄与する樹脂には、生分解性樹脂に加えて、生分解性を有しない植物由来の樹脂も含まれることとなる。以下、これらの樹脂を総称して「環境樹脂」という。
現在、環境樹脂として使用されているものは、ポリ乳酸(以下、「PLA」と略すことがある)系、PBS系(ポリブチレンサクシネート(1,4ブタンジオールとコハク酸の共重合樹脂))、PET系(変性ポリエチレンテレフタレート)の3つに大別される。
これらの樹脂のうち、PLAは、トウモロコシまたはサツマイモ等の植物が作り出す糖分を原料として、化学合成することにより製造可能であり、工業的生産の可能性を有する。そのような植物由来の樹脂を含むプラスチックはバイオプラスチックとも呼ばれる。PLAはトウモロコシを原料とした大量生産が開始されたことから特に着目されており、生分解性を要する用途のみならず、多種多様の用途にPLAを応用しうる技術を開発することが望まれている。
このような環境樹脂の特性を改善する方法として、他の成分を配合する方法が提案されている。例えば、PLAの耐熱性を向上させるために、PLAに合成マイカを0.5−20wt%程度配合することが、特許文献1で提案されている。
また、PLAにケナフ繊維を配合することで、パソコン外装体への応用の可能性を報告した例がある(芹沢他,"ケナフ繊維強化ポリ乳酸の開発"(第14回プラスチック成形加工学会年次大会講演予稿集,第161頁−162頁,2003年(非特許文献1))。具体的には、ケナフ繊維を配合したPLA樹脂を成形した後、アニール工程を追加すると、PLA樹脂の耐熱性を改善でき、PLAをパソコン外装体に応用する可能性が高くなるとの報告がなされている。
特開2002−173583号公報
芹沢他,"ケナフ繊維強化ポリ乳酸の開発"(第14回プラスチック成形加工学会年次大会講演予稿集,第161頁−162頁,2003年)
しかしながら、上記特許文献1および非特許文献1に記載の樹脂組成は、耐熱性向上を目的として提案された組成であり、家庭電化製品に代表される電気機器の外装体に応用するのに必要不可欠な難燃性を付与することについて言及していない。実際のところ、上記文献に記載の樹脂組成物は難燃性を有していない。したがって、従来提案されたPLA組成物は、内部に高電圧部分を有するテレビジョンセット等の電気機器の外装体に適用することができない。また近年の電気機器は安全性を重視し、内部に高電圧素子を有しない機器においても難燃性を有する樹脂を採用する傾向にある。したがって、環境樹脂は、たとえ剛性、衝撃強さ及び耐熱性等において満足する特性を有するとしても、難燃性を有しない限りにおいて、その有用性は極めて低い。
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、電気機器の外装体において、ポリ乳酸(PLA)および/または乳酸共重合体等の環境樹脂に難燃性を付与し、その成形品を電気機器の外装体として提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を50wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分としてシリカ−マグネシア触媒粒子とを含有する難燃性樹脂組成物が成形されてなる電気機器の外装体であって、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は、難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下であることを特徴とする電気機器の外装体を提供する。
また、本発明は、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を50wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分としてシリカ−マグネシア触媒粒子とを含有する難燃性樹脂組成物が成形されてなる樹脂成形品であって、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は、難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下であることを特徴とする樹脂成形品を提供する。
本発明によれば、地球環境にやさしい、好ましくは生分解性である環境樹脂に難燃性を付加することが可能となり、しかも樹脂の成形性も十分に確保することが可能である。これにより環境樹脂を用いて電気機器の外装体を構成することができる。
本発明の一実施の形態による電気機器の一例としての液晶ディスプレイ装置の外観を示す正面図 図1に示す液晶ディスプレイ装置において、スタンドを取り外した状態を示す斜視図 図1に示す液晶ディスプレイ装置の全体構成の回路ブロックを示すブロック図 図1に示す液晶ディスプレイ装置の回路ブロックの配置例を説明するためにバックキャビネットを取り除いて示す平面図 本発明に従って電気機器の外装体を製造する方法を示すフロー図
以下、本発明に係る電気機器の外装体の実施の形態の一つを、図面を参照しながら説明する。
図1および図2はそれぞれ、本発明の一実施の形態による電気機器の一例としての液晶表示装置の外観を示す正面図および斜視図である。図3は同液晶ディスプレイ装置の全体構成の回路ブロックを示すブロック図であり、図4は同液晶ディスプレイ装置の回路ブロックの配置例を説明するためにバックキャビネットを取り除いて示す平面図である。
液晶ディスプレイ装置は、図1、図2に示すように、ディスプレイ装置本体1と、このディスプレイ装置本体1を立てた状態で保持するスタンド2とを有している。ディスプレイ装置本体1は、平面型表示パネルである液晶ディスプレイパネル3とバックライト装置(図1および図2には示されず)とからなるディスプレイ・モジュールを、樹脂成形品などからなる外装体5内に収容することにより構成されている。また、外装体5は、液晶ディスプレイパネル3の画像表示領域に対応するように、開口部6aを設けたフロントキャビネット6と、このフロントキャビネット6と組み合わせられるバックキャビネット7とから構成されている。なお、6bはスピーカの音を外部に放出するためのスピーカグリルである。
また、図3および図4に示すように、液晶ディスプレイ装置全体の概略構成は、液晶表示パネル3に画像を表示する駆動回路、およびバックライト装置4の点灯を制御する点灯制御回路を備えた信号処理回路ブロック8と、前記液晶表示パネル3、バックライト装置4および信号処理回路ブロック8に電源電圧を供給するための電源ブロック9と、テレビジョン放送を受信して前記信号処理回路ブロック8に受信信号を供給するチューナ10と、音を出力するためのスピーカ11とを有する構成である。前記信号処理回路ブロック8、および電源ブロック9はともに、回路基板に回路を構成する部品を搭載することにより構成されている。前記信号処理回路ブロック8、電源ブロック9、およびチューナ10などを搭載した回路基板は、バックライト装置4の背面とバックキャビネット7との間の空間に配置されるように取り付けられている。
図3においては、スピーカが省略されている。また、図4において、符号12はDVDプレーヤーなどの外部機器からの映像信号を液晶表示装置に入力するための外部信号入力端子であり、信号処理回路ブロック8に搭載されている。
本発明は、このような液晶ディスプレイ装置などのディスプレイ装置または他の電気機器の外装体であり、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を主成分として50wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分としてのシリカ−マグネシア触媒粒子とが含有されている難燃性樹脂組成物が成形されてなり、かつシリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下であるものである。
すなわち、本発明者は、炭化水素を精製、分解、合成または改質する際に用いられる触媒であるシリカ−マグネシア触媒粒子が、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体に高い難燃性を付与しうることを見出した。また、本発明者は、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量について、種々の実験を行った。その結果、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が難燃性樹脂組成物の全量の9.0wt%以下であると、環境樹脂に高い難燃性を付与することが可能となり、しかも樹脂の成形性も十分に確保することが可能であって、電気機器の外装体を構成することができることが見出された。本発明は、本発明者が見出したこれらの事柄に基づいてなされている。
ここで、「難燃性」とは、点火源を取り除いた後は燃焼を継続しないまたは残燼を生じない性質をいう。ここで、難燃性を付与する「難燃性付与成分」とは、それを添加することにより、樹脂を難燃化する成分である。本発明で使用する難燃性付与成分としてのシリカ−マグネシア触媒粒子は、炭化水素の精製、分解、合成および/または改質の際に用いられる触媒であり、ハロゲンを全く含まないまたはダイオキシンを生成しにくい化合物の形態の触媒である。本発明において、難燃性付与成分としての触媒は、予め樹脂成分と混練されて、樹脂成分中に分散させられることにより、実際に樹脂成分が燃焼するプロセスにおいて、その燃焼反応中に触媒特有の作用を奏する。この触媒作用が樹脂の難燃化に大きく寄与する。
シリカ−マグネシア触媒粒子は、燃焼中に高い温度(例えば、500℃程度以上)に付されると、樹脂成分である高分子を端から切断して、低分子量の分子に分解していく。分解された後の分子の分子量が小さいと、熱分解して噴出する可燃性ガスの総分子量が低減し、それにより、樹脂組成物の難燃化が達成されていると考えられる。一般に、樹脂の燃焼は、燃焼中に樹脂が熱分解することにより生じた分子が燃焼するときに発生するエネルギーが輻射熱として樹脂に供給されて、さらに樹脂が熱分解され、分解により生じた分子が燃焼するという燃焼サイクルによって継続する。樹脂の分解により生じた分子の分子量がより大きく、したがって燃料としてのガスをより多く供給するものであると、燃焼エネルギーはより大きくなる。また、この燃焼エネルギーが大きいほど、燃焼場における輻射熱が増加し、樹脂の燃焼がより長い時間継続する。したがって、樹脂を同じ回数切断する場合、分子量のより小さな分子に分解されることが、燃焼エネルギーを低下させ、樹脂の熱分解を抑える点で好ましい。シリカ−マグネシア触媒粒子は、樹脂の燃焼中に、樹脂をより小さな分子量の分子に分解させるように、触媒作用を奏していると考えられる。このような難燃メカニズムは、ハロゲン系難燃剤およびリン系難燃剤のそれとは異なる。例えば、臭素系を代表とするハロゲン系難燃剤は、熱により分解したハロゲン系ガス成分が、気相において樹脂から噴出したラジカルをトラップし、燃焼反応を抑制する。リン系難燃剤は、燃焼により炭化層(チャー)の生成を促進し、この炭化層が酸素および輻射熱を遮り、燃焼を抑制するといわれている。
次に、本発明の電気機器の外装体を構成する難燃性樹脂組成物について、さらに詳細に説明する。
まず、樹脂成分について説明する。
本発明の外装体を構成する難燃性樹脂組成物は、樹脂成分として、ポリ乳酸(PLA)および/または乳酸共重合体を含む。PLAおよび乳酸共重合体は、乳酸を原料とし、これを重合することにより、または他のモノマーと共重合することにより得られる樹脂である。乳酸は、例えば、トウモロコシまたはサツマイモ等から得られるデンプンまたは糖類を発酵させて得ることができる。したがって、PLAおよび乳酸共重合体は、植物由来の樹脂として供給され得る。PLAおよび乳酸共重合体はまた、その多くが生分解性を有する。したがって、PLAおよび乳酸共重合体は、環境樹脂である。
PLAおよび乳酸共重合体、特にPLAは、優れた透明性および剛性を有するので、これらからなる成形品は、種々の用途に使用することができる。一方、PLAおよび乳酸共重合体は、耐熱性および耐衝撃性が低く、射出成形性がやや低いという短所を有する。そのため、PLAおよび乳酸共重合体は、特に射出成形する場合には、他の樹脂および/または改質剤を混合して使用することが好ましい。例えば、PBSは耐熱性に優れ、かつそれ自体生分解性を有するので、PLAおよび乳酸共重合体に混合するのに適している。あるいは、ポリ乳酸改質剤として市販されているものを使用して、PLAおよび乳酸共重合体を改質してよい。
ポリ乳酸は、公知のものであってよい。例えば、ポリ乳酸は、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸、D―乳酸単位からなるポリ−D−乳酸、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸が混合されて形成されたポリ乳酸ステレオコンプレックスを含む混合物、またはこの混合物を固相重合してなるポリ乳酸ブロック共重合体であってよい。
乳酸共重合体は、例えば、L―乳酸および/またはD−乳酸を原料とする、L−ラクチドおよび/またはD−ラクチドと、これらと共重合可能なオキシ酸、ラクトン、ジカルボン酸、または多価アルコール(例えば、カプロラクトンまたはグリコール酸)とを共重合させることにより得られる共重合体である。
本発明の外装体は、樹脂成分として、PLAおよび/または乳酸共重合体を含み、PLAおよび/または乳酸共重合体は主成分として樹脂成分の全重量の50wt%以上を占める。樹脂成分全体の50wt%以上がPLAおよび/または乳酸共重合体である外装体は、その廃棄を容易に実施できる。また、PLAおよび乳酸共重合体は、他の重合体と比較して、シリカ−マグネシア触媒粒子の添加によって、その難燃性が向上しやすい重合体である。したがって、樹脂成分全体の50wt%以上がPLAおよび/または乳酸共重合体であると、シリカ−マグネシア触媒粒子による難燃性付与の効果を良好に得ることができ、難燃性付与成分の添加割合を少なくすることができる。PLAおよび/または乳酸共重合体は、樹脂成分の好ましくは60wt%、より好ましくは70wt%以上、さらにより好ましくは80wt%以上、特に好ましくは85wt%以上を占め、最も好ましくは90wt%以上を占め、100wt%を占めてよい(即ち、樹脂成分としてPLAおよび/または乳酸共重合体のみを含んでよい)。
本発明の外装体において、PLAおよび/または乳酸共重合体は、難燃性樹脂組成物の70wt%以上を占めることが好ましく、80wt%以上を占めることが好ましく、85wt%以上を占めることが好ましく、90wt%以上を占めることが最も好ましい。PLAおよび/または乳酸共重合体が、難燃性樹脂組成物の70wt%以上を占めると、その廃棄を容易に実施できる。難燃性樹脂組成物におけるPLAおよび/または乳酸共重合体以外の成分は、他の樹脂成分、後述する難燃性付与成分、および必要に応じて添加される添加剤等である。
本発明の外装体において、ポリ乳酸を主成分とする樹脂成分に、他の樹脂が含まれてもよい。具体的には、
− ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)共重合体または混合物、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)等の熱可塑性樹脂、
− ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン/ブタジエン共重合体(SBR)、水添スチレン/ブタジエン共重合体(HSBR)およびスチレン/イソプレン共重合体(SIR)等の熱可塑性エラストマー、
− ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)およびポリフェニレンエーテル(PPE)等の熱可塑性エンジニアリング樹脂、
− ポリアリレート(PAR)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のスーパーエンジニアリング樹脂、ならびに
− エポキシ樹脂(EP)、ビニルエステル樹脂(VE)、ポリイミド(PI)およびポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂
から選択される1または複数の樹脂が、本発明の外装体において、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を主成分とする樹脂成分に含まれてよい。
次に、難燃性を付与する難燃性付与成分であるシリカ−マグネシア(SiO2/MgO)触媒粒子について説明する。
シリカ−マグネシア触媒粒子は、固体酸触媒の一つで、例えば、水熱合成法により作製され、酸化ケイ素(シリカ)と酸化マグネシウム(マグネシア)との複酸化物または両者が結合して成るものである。シリカ−マグネシア触媒粒子は、前記のように、樹脂組成物が燃焼するとき、例えば、500℃程度以上の高温下において、炭化水素を分解する触媒として機能する。一方、充填剤として使用される金属酸化物またはそれを含む鉱物(例えばタルク)は、そのような高温下においても触媒作用を奏しないものであり、シリカ−マグネシア触媒粒子はそのような金属酸化物または鉱物とは区別される。
本発明の外装体において、シリカ−マグネシア触媒粒子は、結晶水を有しない状態で樹脂成分と混合されていることが好ましい。結晶水を有するシリカ−マグネシア触媒粒子は、樹脂成分に難燃性をまったく又はほとんど付与できないことがある。また、シリカとマグネシアを含む組成物または化合物(複酸化物を含む)が結晶水を含む場合、その化学式が水酸基を有するものとして示されることがある。本発明の外装体に含まれるシリカ−マグネシア触媒粒子は、そのような水酸基を有していないものであることが、良好な難燃性を付与する観点からは好ましい。したがって、本発明の外装体に含まれるシリカ−マグネシア触媒粒子は、好ましくは分子中に、結晶水および水酸基を構成する水素原子を有しないものである。
本発明においては、MgOの割合が、10wt%〜50wt%であるシリカ−マグネシア触媒粒子が好ましく使用される。MgOの割合が10wt%未満であると、触媒作用が十分に発揮されず、すなわち樹脂を分解する作用が弱く、難燃化の効果が低くなる傾向にある。また、MgOの割合が50wt%を超えると、触媒作用が強くなりすぎ、樹脂が大きな分子量の分子に分解されて燃焼熱量が増加して、難燃効果が低下することがある。
本発明においては、平均粒径が10μm以下である、シリカ−マグネシア触媒粒子を使用することが好ましい。平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定される粒径から求められる、メジアン径D50の粒径である。シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が10μm以下であると、その含有量を9.0wt%以下としても、良好な難燃性を有する外装体を得ることができる。シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が小さいほど、同じ含有量で、より高い難燃性を有する外装体を得ることができる。したがって、シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が小さいほど、所望の難燃性(例えば、UL94規格のV0のグレード)を有する外装体を、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量を少なくしても得ることができる。
平均粒径が10μm以下、例えば1μm以上10μm以下である、シリカ−マグネシア触媒粒子は、大きい粒径を有するシリカ−マグネシア触媒粒子を粉砕することにより得られる。粉砕は、例えば、ジェットミルを用いて実施してよい。
本発明の外装体において、難燃性付与成分であるシリカ−マグネシア触媒粒子は、難燃性樹脂組成物の重量の9.0wt%以下を占め、0.5wt%以上9.0wt%以下を占めることが好ましく、1.0wt%以上9.0wt%以下を占めることがより好ましい。シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が難燃性樹脂組成物の9.0wt%以下であると、良好な成形性と良好な難燃性とを有する、難燃性樹脂組成物を得ることができる。
シリカ−マグネシア触媒粒子の好ましい含有量は、その平均粒径によっても変化する。例えば、シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が、4μm以上8μm以下、特に5μm程度である場合、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が0.7wt%以上9.0wt%以下である難燃性樹脂組成物は、高い難燃性(UL94規格のV0のグレード)を示す。また、シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が、2μm以上4μm未満、特に3μm程度である場合、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が0.5wt%以上9.0wt%以下である難燃性樹脂組成物は、高い難燃性(UL94規格のV0のグレード)を示す。シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が8μm以上15μm以下、特に10μm程度である場合、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が1.0wt%以上9.0wt%以下である難燃性樹脂組成物は、高い難燃性(UL94規格のV0)を示す。
本発明の外装体は、シリカ−マグネシア触媒粒子以外の難燃性付与成分を実質的に含まないことが好ましい。即ち、本発明の外装体において、難燃性付与成分はシリカ−マグネシア触媒粒子から実質的になることが好ましい。シリカ−マグネシア触媒粒子から実質的になる難燃性付与成分は、ハロゲンを有しないので、外装体の廃棄に際して、環境に与える負荷が少ないからである。ここで「実質的になる」という用語は、シリカ−マグネシア触媒粒子が、シリカ−マグネシア以外の他の物質(例えば、他の金属およびその酸化物等)を不純物程度の量で、含み得ることを考慮して使用されている。
本発明の外装体を構成する難燃性樹脂組成物は、前記樹脂成分および難燃性付与成分以外の他の成分を含んでよい。他の成分は、一般に樹脂に添加される添加剤である。添加剤は、例えば、乳酸カルシウム、および安息香酸塩などの結晶核剤、カルボジイミド化合物などの加水分解抑制剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、およびブチルヒドロキシアニソールなどの酸化防止剤、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、およびポリグリセリン脂肪酸エステルなどの離型剤、カーボンブラック、ケッチェンブラック、酸化チタン、および群青などの着色剤、ブチレンゴムなどの衝撃吸収剤、グリセリン脂肪酸エステル、およびクエン酸モノステアリルなどの防曇剤である。これらの添加剤の含有量は、難燃性樹脂組成物の全重量の18wt%以下であることが好ましく、10wt%以下であることがより好ましい。
難燃性樹脂組成物は、樹脂成分と、難燃性付与成分と、必要に応じて添加される添加剤とを混練することにより製造することができる。すなわち、難燃性樹脂組成物は、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を主成分とする樹脂成分を溶解させて混練する混練工程において、シリカ−マグネシア触媒粒子を添加する方法で製造することができる。この製造方法によれば、難燃性付与成分を配合する別の工程が発生せず、製造コストをそれほど上昇させずに、難燃性樹脂組成物を得ることができる。
シリカ−マグネシア触媒粒子は、樹脂成分と混練する前に加熱処理に付すことが好ましい。一般に、シリカ−マグネシア触媒粒子は、触媒活性を有しない又は触媒活性が難燃性を付与できないほどに低い状態で提供されていることによる。加熱処理は、粒子から結晶水を除去するために実施される。結晶水は、分子中の元素に配位または結合している水、結晶格子の空所を満たしている水、またはOHイオンとして含まれていて加熱するとHOとして脱水される水等であり、高い温度で加熱されることにより除去される。シリカ−マグネシア触媒粒子から結晶水を除去するには、100℃以上の温度、好ましくは200〜350℃での加熱処理が必要である。ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を主成分とする樹脂成分の混練の際の温度は、高くても260℃程度であり、結晶水の除去のための加熱処理は、混練の前に別に実施する必要がある。なお、加熱処理は、0.1atm以下の雰囲気中で実施されることが好ましく、したがって、加熱処理時に吸引排気を行うのが好ましい。
結晶水が除去されたシリカ−マグネシア触媒粒子は、高い活性を示すので、溶融した樹脂成分に添加され、樹脂成分と混練されている間に、樹脂成分を分解することがある。そのために、シリカ−マグネシア触媒粒子が多い含有量で含まれていると、樹脂成分の分子量が低下し、成形性が低下することがある。混練中の樹脂成分の分解を避ける点からも、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は9.0wt%以下とすることが好ましい。
難燃性樹脂組成物の製造において、混練は、例えば、ペレット形状の樹脂組成物を製造する場合に、ペレットを得る前に実施してよい。あるいは、ペレット形状の樹脂(または2以上の樹脂を有する組成物)を難燃性付与成分と混練した後、再度ペレットの形状にしてもよい。
本発明の外装体は、射出成形法、押出成形法、または圧縮成形法により、難燃性樹脂組成物に所望の形状を付すことにより得られる。射出成形および押出成形法は、前記の方法で製造した難燃性樹脂組成物を溶融させて、ニーダー(Kneader)等を用いて混練する工程を伴う。したがって、これらの成形方法を用いる場合には、この混練工程において、樹脂成分に難燃性付与成分を添加することを実施してよい。そのように難燃性付与成分を添加すれば、難燃性付与成分を添加する別の工程を要しないため、効率的に本発明の外装体が得られる。
本発明の電気機器の外装体は、具体的には、前記液晶ディスプレイ装置の他、他のディスプレイ装置(プラズマディスプレイ装置、および有機ELディスプレイ装置等)、コンピュータ、携帯電話、オーディオ製品(例えば、ラジオ、カセットデッキ、CDプレーヤー、MDプレーヤー)、マイクロフォン、キーボード、およびポータブルオーディオプレーヤーの外装体、ならびに電気部品の外装体として使用される。電気機器は家庭用のものに限定されない。電気機器には工業用および医療用等の業務用のものも含まれる。また、本発明の外装体を構成する難燃性樹脂組成物は、電気機器の外装体以外の樹脂成形品を構成するのにも好ましく用いられる。樹脂成形品は、例えば、自動車内装材、二輪車外装材、および家庭用各種雑貨類等として提供される。
以下、本発明を実施例により説明する。
図5は、本発明の実施例において用いた、電気機器の外装体の製造方法(難燃性樹脂組成物の配合シーケンスを含む)を示すフロー図である。
図5に示すように、トウモロコシを原料として合成されたポリ乳酸(PLA)100wt%の樹脂成分に、2軸混練機を用い、難燃成分として、シリカ−マグネシア触媒(MgO:24.5wt%)粒子を混練するとともに、添加剤として、難燃性樹脂組成物の全量に対してカルボジイミドを2wt%,ケッチェンブラック顔料、乳酸Ca、ブチルヒドロキシアニソール、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ブチレンゴムをそれぞれ0.5wt%の量で添加し、混練した後、押出成形によりペレットを作成した。2軸混練機による混練は、約185℃の温度で実施した。混練の前に、シリカ−マグネシア触媒粒子を350℃にて加熱処理に付し、結晶水を除去した。また、加熱処理は、吸引排気しながら、0.1atmの雰囲気中で行った。
このペレットを用いて、射出成形機により、試験片を作製した。試験片の形状および寸法は下記のとおりである。
形状:UL94燃焼試験片形状
寸法:125mm×13mm×2.5mm
試験片は、シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径および含有量を変化させて、複数種類作製した。具体的には、シリカ−マグネシア触媒粒子として、平均粒径が10μm、5μm、および3μmであるものを用意し、各平均粒径の触媒粒子の含有量を0.3wt%〜15.0wt%の範囲で変化させた。これらの試験片について、UL−94垂直燃焼試験を実施して難燃性を評価し、かつ樹脂組成物の成形性を評価した。その結果を表1に示す。
樹脂組成物の成形性は、金型を使用して射出成形法等により所望の形状にかつヒケなどが発生せず良好な表面を有するように成形できるか否か、および成形サイクルなどの成形に要する時間の観点に基づき、工業的に使用できるか否かで判定した。具体的な評価基準は下記のとおりである。
++:フローマーク、ヒケ、ウェルドラインが認められず、製品として塗装レスで使用できるレベル
+:注意して見れば、フローマークやヒケが僅かに認められるが、塗装をすれば製品として使用できるレベル
−:表面平滑性が悪く,ヒケや柚子肌が顕著で塗装しても使用できないレベル
Figure 2012114396
表1に示すように、ポリ乳酸のみからなる樹脂成分に、難燃性付与成分としてシリカ−マグネシア触媒粒子を10.0wt%以上添加すると、UL94規格のV0のグレードの難燃性を実現できた。しかし、難燃付与成分の含有量が10.0wt%以上である樹脂組成物は、その成形性が不良であり、電気機器の外装体を構成できなかった。これは、組成物中にシリカ−マグネシア触媒粒子が多量に存在して、樹脂を分解したために、樹脂の分子量が低下したことによると考えられる。
一方、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量を9.0wt%以下にした場合、樹脂の成形性は十分であった。しかし、平均粒径が10μmのシリカ−マグネシア触媒粒子を添加した組成物において、含有量が1.0wt%以下であると、難燃性能が低下し、具体的には、UL94規格のV2のグレードに低下した。平均粒径が5μmのシリカ−マグネシア触媒粒子を添加した組成物において、含有量が0.5wt%以下であると、その難燃性は、UL94規格のV2のグレードに低下した。平均粒径が3μmのシリカ−マグネシア触媒粒子を添加した組成物においては、含有量が0.5wt%であっても、UL94規格のV0のグレードの難燃性を維持することができた。
すなわち、平均粒径が小さいシリカ−マグネシア触媒粒子を用いることにより、0.5wt%という少ない含有量でも十分な難燃性を付与することができることがわかった。しかし、平均粒径によらず、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が9.0wt%を超えると、樹脂の成形性が悪く、電気機器の外装体として使用できる組成物を得られなかった。
この結果から、ポリ乳酸を樹脂成分とし、シリカ−マグネシア触媒粒子を難燃性付与成分として難燃性組成物を得、この難燃性組成物から電気機器の外装体を得る場合、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は9.0wt%以下とする必要があることが判明した。また、含有量の下限値は、シリカ−マグネシア触媒粒径の平均粒径に依存するが、平均粒径が10μm以下であれば、1.0wt%以上添加することにより、UL94規格のV0のグレードの難燃性が得られることが判明した。
以上の実施例から明らかなように、ポリ乳酸を主成分とする樹脂成分に、シリカ−マグネシア触媒粒子を主成分とする難燃性付与成分を含有させる際に、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は、難燃性樹脂組成物に対して、9.0wt%以下とすることにより、電気機器の外装体として成形性を劣化させることなく、十分な難燃性を付与することができる。
なお、上記実施例においては、溶解した樹脂を所定の形状を有する金型に注入する射出成形法により成形する例を説明した。本発明の電気機器の外装体は、溶解した難燃性樹脂組成物を溶解して下型に入れ、上型と下型とを用いて圧力を加える圧縮成形法により成形して製造してよい。
本発明の電気機器の外装体は、環境への負荷が小さい環境樹脂を用いて製造され、かつ難燃性を有するので、液晶表示ディスプレイ等の外装体として有用である。
1 ディスプレイ装置本体
5 外装体
6 フロントキャビネット
本発明は、薄型かつ軽量の平面型のディスプレイ装置などの電化製品、抵抗およびスピーカなどの一般的な電子部品などの電気機器に用いられる外装体ならびに樹脂成形品に関するものである。
平面型のディスプレイ装置として、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、およびプラズマディスプレイなどが商品化されている。特に液晶ディスプレイ、およびプラズマディスプレイは、薄型で、大画面の表示が可能であることから、一般家庭以外にも、公共施設などにおけるディスプレイとして、広く一般に普及するようになってきた。
このようなディスプレイ装置においては、デザイン上の要請を満たすために、また軽量化のために、外装体として樹脂成形品が用いられている。これらのディスプレイ装置が普及するに従い、使用済み後に処分する際の樹脂成形品の廃棄処理が課題となりつつある。
近年、土中に埋め立てると、バクテリア作用によって分解する樹脂(またはプラスチック)が注目されている。生分解性樹脂(または生分解性プラスチック)と呼ばれるこれら樹脂は、好気性バクテリア存在下で水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に分解する特性を有する。生分解性樹脂は、農業分野において実用化され、また、使い捨て商品の包装材、およびコンポスト対応ゴミ袋等の材料として実用化されている。
生分解性樹脂を用いた商品は、例えば農業分野において使用する場合には、使用済みプラスチックを回収する必要がないため、ユーザーにとっても、好都合な場合がある。さらに、近年、植物由来の樹脂もまた、電子機器および自動車の分野において着目されつつある。植物由来の樹脂は、植物原料から得られるモノマーを重合または共重合させることにより得られる。植物由来の樹脂は、石油資源に頼ることなく製造されること、原料となる植物が二酸化炭素を吸収して成長すること、および焼却処理により廃棄する場合でも、一般に燃焼カロリーが小さく、発生するCO2量が少ないこと等の理由により、地球環境に優しい樹脂として注目されている。植物由来の樹脂は一般に生分解性を有するが、石油資源の枯渇防止という観点だけから見れば、必ずしも生分解性を有する必要はない。すなわち、環境保護に寄与する樹脂には、生分解性樹脂に加えて、生分解性を有しない植物由来の樹脂も含まれることとなる。以下、これらの樹脂を総称して「環境樹脂」という。
現在、環境樹脂として使用されているものは、ポリ乳酸(以下、「PLA」と略すことがある)系、PBS系(ポリブチレンサクシネート(1,4ブタンジオールとコハク酸の共重合樹脂))、PET系(変性ポリエチレンテレフタレート)の3つに大別される。
これらの樹脂のうち、PLAは、トウモロコシまたはサツマイモ等の植物が作り出す糖分を原料として、化学合成することにより製造可能であり、工業的生産の可能性を有する。そのような植物由来の樹脂を含むプラスチックはバイオプラスチックとも呼ばれる。PLAはトウモロコシを原料とした大量生産が開始されたことから特に着目されており、生分解性を要する用途のみならず、多種多様の用途にPLAを応用しうる技術を開発することが望まれている。
このような環境樹脂の特性を改善する方法として、他の成分を配合する方法が提案されている。例えば、PLAの耐熱性を向上させるために、PLAに合成マイカを0.5−20wt%程度配合することが、特許文献1で提案されている。
また、PLAにケナフ繊維を配合することで、パソコン外装体への応用の可能性を報告した例がある(芹沢他,"ケナフ繊維強化ポリ乳酸の開発"(第14回プラスチック成形加工学会年次大会講演予稿集,第161頁−162頁,2003年(非特許文献1))。具体的には、ケナフ繊維を配合したPLA樹脂を成形した後、アニール工程を追加すると、PLA樹脂の耐熱性を改善でき、PLAをパソコン外装体に応用する可能性が高くなるとの報告がなされている。
特開2002−173583号公報
芹沢他,"ケナフ繊維強化ポリ乳酸の開発"(第14回プラスチック成形加工学会年次大会講演予稿集,第161頁−162頁,2003年)
しかしながら、上記特許文献1および非特許文献1に記載の樹脂組成は、耐熱性向上を目的として提案された組成であり、家庭電化製品に代表される電気機器の外装体に応用するのに必要不可欠な難燃性を付与することについて言及していない。実際のところ、上記文献に記載の樹脂組成物は難燃性を有していない。したがって、従来提案されたPLA組成物は、内部に高電圧部分を有するテレビジョンセット等の電気機器の外装体に適用することができない。また近年の電気機器は安全性を重視し、内部に高電圧素子を有しない機器においても難燃性を有する樹脂を採用する傾向にある。したがって、環境樹脂は、たとえ剛性、衝撃強さ及び耐熱性等において満足する特性を有するとしても、難燃性を有しない限りにおいて、その有用性は極めて低い。
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、電気機器の外装体において、ポリ乳酸(PLA)および/または乳酸共重合体等の環境樹脂に難燃性を付与し、その成形品を電気機器の外装体として提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を50wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分としてシリカ−マグネシア触媒粒子とを含有する難燃性樹脂組成物が成形されてなる電気機器の外装体であって、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は、難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下であることを特徴とする電気機器の外装体を提供する。
また、本発明は、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を50wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分としてシリカ−マグネシア触媒粒子とを含有する難燃性樹脂組成物が成形されてなる樹脂成形品であって、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は、難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下であることを特徴とする樹脂成形品を提供する。
本発明によれば、地球環境にやさしい、好ましくは生分解性である環境樹脂に難燃性を付加することが可能となり、しかも樹脂の成形性も十分に確保することが可能である。これにより環境樹脂を用いて電気機器の外装体を構成することができる。
本発明の一実施の形態による電気機器の一例としての液晶ディスプレイ装置の外観を示す正面図 図1に示す液晶ディスプレイ装置において、スタンドを取り外した状態を示す斜視図 図1に示す液晶ディスプレイ装置の全体構成の回路ブロックを示すブロック図 図1に示す液晶ディスプレイ装置の回路ブロックの配置例を説明するためにバックキャビネットを取り除いて示す平面図 本発明に従って電気機器の外装体を製造する方法を示すフロー図
以下、本発明に係る電気機器の外装体の実施の形態の一つを、図面を参照しながら説明する。
図1および図2はそれぞれ、本発明の一実施の形態による電気機器の一例としての液晶表示装置の外観を示す正面図および斜視図である。図3は同液晶ディスプレイ装置の全体構成の回路ブロックを示すブロック図であり、図4は同液晶ディスプレイ装置の回路ブロックの配置例を説明するためにバックキャビネットを取り除いて示す平面図である。
液晶ディスプレイ装置は、図1、図2に示すように、ディスプレイ装置本体1と、このディスプレイ装置本体1を立てた状態で保持するスタンド2とを有している。ディスプレイ装置本体1は、平面型表示パネルである液晶ディスプレイパネル3とバックライト装置(図1および図2には示されず)とからなるディスプレイ・モジュールを、樹脂成形品などからなる外装体5内に収容することにより構成されている。また、外装体5は、液晶ディスプレイパネル3の画像表示領域に対応するように、開口部6aを設けたフロントキャビネット6と、このフロントキャビネット6と組み合わせられるバックキャビネット7とから構成されている。なお、6bはスピーカの音を外部に放出するためのスピーカグリルである。
また、図3および図4に示すように、液晶ディスプレイ装置全体の概略構成は、液晶表示パネル3に画像を表示する駆動回路、およびバックライト装置4の点灯を制御する点灯制御回路を備えた信号処理回路ブロック8と、前記液晶表示パネル3、バックライト装置4および信号処理回路ブロック8に電源電圧を供給するための電源ブロック9と、テレビジョン放送を受信して前記信号処理回路ブロック8に受信信号を供給するチューナ10と、音を出力するためのスピーカ11とを有する構成である。前記信号処理回路ブロック8、および電源ブロック9はともに、回路基板に回路を構成する部品を搭載することにより構成されている。前記信号処理回路ブロック8、電源ブロック9、およびチューナ10などを搭載した回路基板は、バックライト装置4の背面とバックキャビネット7との間の空間に配置されるように取り付けられている。
図3においては、スピーカが省略されている。また、図4において、符号12はDVDプレーヤーなどの外部機器からの映像信号を液晶表示装置に入力するための外部信号入力端子であり、信号処理回路ブロック8に搭載されている。
本発明は、このような液晶ディスプレイ装置などのディスプレイ装置または他の電気機器の外装体であり、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を主成分として50wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分としてのシリカ−マグネシア触媒粒子とが含有されている難燃性樹脂組成物が成形されてなり、かつシリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下であるものである。
すなわち、本発明者は、炭化水素を精製、分解、合成または改質する際に用いられる触媒であるシリカ−マグネシア触媒粒子が、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体に高い難燃性を付与しうることを見出した。また、本発明者は、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量について、種々の実験を行った。その結果、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が難燃性樹脂組成物の全量の9.0wt%以下であると、環境樹脂に高い難燃性を付与することが可能となり、しかも樹脂の成形性も十分に確保することが可能であって、電気機器の外装体を構成することができることが見出された。本発明は、本発明者が見出したこれらの事柄に基づいてなされている。
ここで、「難燃性」とは、点火源を取り除いた後は燃焼を継続しないまたは残燼を生じない性質をいう。ここで、難燃性を付与する「難燃性付与成分」とは、それを添加することにより、樹脂を難燃化する成分である。本発明で使用する難燃性付与成分としてのシリカ−マグネシア触媒粒子は、炭化水素の精製、分解、合成および/または改質の際に用いられる触媒であり、ハロゲンを全く含まないまたはダイオキシンを生成しにくい化合物の形態の触媒である。本発明において、難燃性付与成分としての触媒は、予め樹脂成分と混練されて、樹脂成分中に分散させられることにより、実際に樹脂成分が燃焼するプロセスにおいて、その燃焼反応中に触媒特有の作用を奏する。この触媒作用が樹脂の難燃化に大きく寄与する。
シリカ−マグネシア触媒粒子は、燃焼中に高い温度(例えば、500℃程度以上)に付されると、樹脂成分である高分子を端から切断して、低分子量の分子に分解していく。分解された後の分子の分子量が小さいと、熱分解して噴出する可燃性ガスの総分子量が低減し、それにより、樹脂組成物の難燃化が達成されていると考えられる。一般に、樹脂の燃焼は、燃焼中に樹脂が熱分解することにより生じた分子が燃焼するときに発生するエネルギーが輻射熱として樹脂に供給されて、さらに樹脂が熱分解され、分解により生じた分子が燃焼するという燃焼サイクルによって継続する。樹脂の分解により生じた分子の分子量がより大きく、したがって燃料としてのガスをより多く供給するものであると、燃焼エネルギーはより大きくなる。また、この燃焼エネルギーが大きいほど、燃焼場における輻射熱が増加し、樹脂の燃焼がより長い時間継続する。したがって、樹脂を同じ回数切断する場合、分子量のより小さな分子に分解されることが、燃焼エネルギーを低下させ、樹脂の熱分解を抑える点で好ましい。シリカ−マグネシア触媒粒子は、樹脂の燃焼中に、樹脂をより小さな分子量の分子に分解させるように、触媒作用を奏していると考えられる。このような難燃メカニズムは、ハロゲン系難燃剤およびリン系難燃剤のそれとは異なる。例えば、臭素系を代表とするハロゲン系難燃剤は、熱により分解したハロゲン系ガス成分が、気相において樹脂から噴出したラジカルをトラップし、燃焼反応を抑制する。リン系難燃剤は、燃焼により炭化層(チャー)の生成を促進し、この炭化層が酸素および輻射熱を遮り、燃焼を抑制するといわれている。
次に、本発明の電気機器の外装体を構成する難燃性樹脂組成物について、さらに詳細に説明する。
まず、樹脂成分について説明する。
本発明の外装体を構成する難燃性樹脂組成物は、樹脂成分として、ポリ乳酸(PLA)および/または乳酸共重合体を含む。PLAおよび乳酸共重合体は、乳酸を原料とし、これを重合することにより、または他のモノマーと共重合することにより得られる樹脂である。乳酸は、例えば、トウモロコシまたはサツマイモ等から得られるデンプンまたは糖類を発酵させて得ることができる。したがって、PLAおよび乳酸共重合体は、植物由来の樹脂として供給され得る。PLAおよび乳酸共重合体はまた、その多くが生分解性を有する。したがって、PLAおよび乳酸共重合体は、環境樹脂である。
PLAおよび乳酸共重合体、特にPLAは、優れた透明性および剛性を有するので、これらからなる成形品は、種々の用途に使用することができる。一方、PLAおよび乳酸共重合体は、耐熱性および耐衝撃性が低く、射出成形性がやや低いという短所を有する。そのため、PLAおよび乳酸共重合体は、特に射出成形する場合には、他の樹脂および/または改質剤を混合して使用することが好ましい。例えば、PBSは耐熱性に優れ、かつそれ自体生分解性を有するので、PLAおよび乳酸共重合体に混合するのに適している。あるいは、ポリ乳酸改質剤として市販されているものを使用して、PLAおよび乳酸共重合体を改質してよい。
ポリ乳酸は、公知のものであってよい。例えば、ポリ乳酸は、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸、D―乳酸単位からなるポリ−D−乳酸、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸が混合されて形成されたポリ乳酸ステレオコンプレックスを含む混合物、またはこの混合物を固相重合してなるポリ乳酸ブロック共重合体であってよい。
乳酸共重合体は、例えば、L―乳酸および/またはD−乳酸を原料とする、L−ラクチドおよび/またはD−ラクチドと、これらと共重合可能なオキシ酸、ラクトン、ジカルボン酸、または多価アルコール(例えば、カプロラクトンまたはグリコール酸)とを共重合させることにより得られる共重合体である。
本発明の外装体は、樹脂成分として、PLAおよび/または乳酸共重合体を含み、PLAおよび/または乳酸共重合体は主成分として樹脂成分の全重量の50wt%以上を占める。樹脂成分全体の50wt%以上がPLAおよび/または乳酸共重合体である外装体は、その廃棄を容易に実施できる。また、PLAおよび乳酸共重合体は、他の重合体と比較して、シリカ−マグネシア触媒粒子の添加によって、その難燃性が向上しやすい重合体である。したがって、樹脂成分全体の50wt%以上がPLAおよび/または乳酸共重合体であると、シリカ−マグネシア触媒粒子による難燃性付与の効果を良好に得ることができ、難燃性付与成分の添加割合を少なくすることができる。PLAおよび/または乳酸共重合体は、樹脂成分の好ましくは60wt%、より好ましくは70wt%以上、さらにより好ましくは80wt%以上、特に好ましくは85wt%以上を占め、最も好ましくは90wt%以上を占め、100wt%を占めてよい(即ち、樹脂成分としてPLAおよび/または乳酸共重合体のみを含んでよい)。
本発明の外装体において、PLAおよび/または乳酸共重合体は、難燃性樹脂組成物の70wt%以上を占めることが好ましく、80wt%以上を占めることが好ましく、85wt%以上を占めることが好ましく、90wt%以上を占めることが最も好ましい。PLAおよび/または乳酸共重合体が、難燃性樹脂組成物の70wt%以上を占めると、その廃棄を容易に実施できる。難燃性樹脂組成物におけるPLAおよび/または乳酸共重合体以外の成分は、他の樹脂成分、後述する難燃性付与成分、および必要に応じて添加される添加剤等である。
本発明の外装体において、ポリ乳酸を主成分とする樹脂成分に、他の樹脂が含まれてもよい。具体的には、
− ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)共重合体または混合物、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)等の熱可塑性樹脂、
− ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン/ブタジエン共重合体(SBR)、水添スチレン/ブタジエン共重合体(HSBR)およびスチレン/イソプレン共重合体(SIR)等の熱可塑性エラストマー、
− ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)およびポリフェニレンエーテル(PPE)等の熱可塑性エンジニアリング樹脂、
− ポリアリレート(PAR)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のスーパーエンジニアリング樹脂、ならびに
− エポキシ樹脂(EP)、ビニルエステル樹脂(VE)、ポリイミド(PI)およびポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂
から選択される1または複数の樹脂が、本発明の外装体において、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を主成分とする樹脂成分に含まれてよい。
次に、難燃性を付与する難燃性付与成分であるシリカ−マグネシア(SiO2/MgO)触媒粒子について説明する。
シリカ−マグネシア触媒粒子は、固体酸触媒の一つで、例えば、水熱合成法により作製され、酸化ケイ素(シリカ)と酸化マグネシウム(マグネシア)との複酸化物または両者が結合して成るものである。シリカ−マグネシア触媒粒子は、前記のように、樹脂組成物が燃焼するとき、例えば、500℃程度以上の高温下において、炭化水素を分解する触媒として機能する。一方、充填剤として使用される金属酸化物またはそれを含む鉱物(例えばタルク)は、そのような高温下においても触媒作用を奏しないものであり、シリカ−マグネシア触媒粒子はそのような金属酸化物または鉱物とは区別される。
本発明の外装体において、シリカ−マグネシア触媒粒子は、結晶水を有しない状態で樹脂成分と混合されていることが好ましい。結晶水を有するシリカ−マグネシア触媒粒子は、樹脂成分に難燃性をまったく又はほとんど付与できないことがある。また、シリカとマグネシアを含む組成物または化合物(複酸化物を含む)が結晶水を含む場合、その化学式が水酸基を有するものとして示されることがある。本発明の外装体に含まれるシリカ−マグネシア触媒粒子は、そのような水酸基を有していないものであることが、良好な難燃性を付与する観点からは好ましい。したがって、本発明の外装体に含まれるシリカ−マグネシア触媒粒子は、好ましくは分子中に、結晶水および水酸基を構成する水素原子を有しないものである。
本発明においては、MgOの割合が、10wt%〜50wt%であるシリカ−マグネシア触媒粒子が好ましく使用される。MgOの割合が10wt%未満であると、触媒作用が十分に発揮されず、すなわち樹脂を分解する作用が弱く、難燃化の効果が低くなる傾向にある。また、MgOの割合が50wt%を超えると、触媒作用が強くなりすぎ、樹脂が大きな分子量の分子に分解されて燃焼熱量が増加して、難燃効果が低下することがある。
本発明においては、平均粒径が10μm以下である、シリカ−マグネシア触媒粒子を使用することが好ましい。平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定される粒径から求められる、メジアン径D50の粒径である。シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が10μm以下であると、その含有量を9.0wt%以下としても、良好な難燃性を有する外装体を得ることができる。シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が小さいほど、同じ含有量で、より高い難燃性を有する外装体を得ることができる。したがって、シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が小さいほど、所望の難燃性(例えば、UL94規格のV0のグレード)を有する外装体を、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量を少なくしても得ることができる。
平均粒径が10μm以下、例えば1μm以上10μm以下である、シリカ−マグネシア触媒粒子は、大きい粒径を有するシリカ−マグネシア触媒粒子を粉砕することにより得られる。粉砕は、例えば、ジェットミルを用いて実施してよい。
本発明の外装体において、難燃性付与成分であるシリカ−マグネシア触媒粒子は、難燃性樹脂組成物の重量の9.0wt%以下を占め、0.5wt%以上9.0wt%以下を占めることが好ましく、1.0wt%以上9.0wt%以下を占めることがより好ましい。シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が難燃性樹脂組成物の9.0wt%以下であると、良好な成形性と良好な難燃性とを有する、難燃性樹脂組成物を得ることができる。
シリカ−マグネシア触媒粒子の好ましい含有量は、その平均粒径によっても変化する。例えば、シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が、4μm以上8μm以下、特に5μm程度である場合、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が0.7wt%以上9.0wt%以下である難燃性樹脂組成物は、高い難燃性(UL94規格のV0のグレード)を示す。また、シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が、2μm以上4μm未満、特に3μm程度である場合、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が0.5wt%以上9.0wt%以下である難燃性樹脂組成物は、高い難燃性(UL94規格のV0のグレード)を示す。シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径が8μm以上15μm以下、特に10μm程度である場合、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が1.0wt%以上9.0wt%以下である難燃性樹脂組成物は、高い難燃性(UL94規格のV0)を示す。
本発明の外装体は、シリカ−マグネシア触媒粒子以外の難燃性付与成分を実質的に含まないことが好ましい。即ち、本発明の外装体において、難燃性付与成分はシリカ−マグネシア触媒粒子から実質的になることが好ましい。シリカ−マグネシア触媒粒子から実質的になる難燃性付与成分は、ハロゲンを有しないので、外装体の廃棄に際して、環境に与える負荷が少ないからである。ここで「実質的になる」という用語は、シリカ−マグネシア触媒粒子が、シリカ−マグネシア以外の他の物質(例えば、他の金属およびその酸化物等)を不純物程度の量で、含み得ることを考慮して使用されている。
本発明の外装体を構成する難燃性樹脂組成物は、前記樹脂成分および難燃性付与成分以外の他の成分を含んでよい。他の成分は、一般に樹脂に添加される添加剤である。添加剤は、例えば、乳酸カルシウム、および安息香酸塩などの結晶核剤、カルボジイミド化合物などの加水分解抑制剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、およびブチルヒドロキシアニソールなどの酸化防止剤、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、およびポリグリセリン脂肪酸エステルなどの離型剤、カーボンブラック、ケッチェンブラック、酸化チタン、および群青などの着色剤、ブチレンゴムなどの衝撃吸収剤、グリセリン脂肪酸エステル、およびクエン酸モノステアリルなどの防曇剤である。これらの添加剤の含有量は、難燃性樹脂組成物の全重量の18wt%以下であることが好ましく、10wt%以下であることがより好ましい。
難燃性樹脂組成物は、樹脂成分と、難燃性付与成分と、必要に応じて添加される添加剤とを混練することにより製造することができる。すなわち、難燃性樹脂組成物は、ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を主成分とする樹脂成分を溶解させて混練する混練工程において、シリカ−マグネシア触媒粒子を添加する方法で製造することができる。この製造方法によれば、難燃性付与成分を配合する別の工程が発生せず、製造コストをそれほど上昇させずに、難燃性樹脂組成物を得ることができる。
シリカ−マグネシア触媒粒子は、樹脂成分と混練する前に加熱処理に付すことが好ましい。一般に、シリカ−マグネシア触媒粒子は、触媒活性を有しない又は触媒活性が難燃性を付与できないほどに低い状態で提供されていることによる。加熱処理は、粒子から結晶水を除去するために実施される。結晶水は、分子中の元素に配位または結合している水、結晶格子の空所を満たしている水、またはOHイオンとして含まれていて加熱するとHOとして脱水される水等であり、高い温度で加熱されることにより除去される。シリカ−マグネシア触媒粒子から結晶水を除去するには、100℃以上の温度、好ましくは200〜350℃での加熱処理が必要である。ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を主成分とする樹脂成分の混練の際の温度は、高くても260℃程度であり、結晶水の除去のための加熱処理は、混練の前に別に実施する必要がある。なお、加熱処理は、0.1atm以下の雰囲気中で実施されることが好ましく、したがって、加熱処理時に吸引排気を行うのが好ましい。
結晶水が除去されたシリカ−マグネシア触媒粒子は、高い活性を示すので、溶融した樹脂成分に添加され、樹脂成分と混練されている間に、樹脂成分を分解することがある。そのために、シリカ−マグネシア触媒粒子が多い含有量で含まれていると、樹脂成分の分子量が低下し、成形性が低下することがある。混練中の樹脂成分の分解を避ける点からも、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は9.0wt%以下とすることが好ましい。
難燃性樹脂組成物の製造において、混練は、例えば、ペレット形状の樹脂組成物を製造する場合に、ペレットを得る前に実施してよい。あるいは、ペレット形状の樹脂(または2以上の樹脂を有する組成物)を難燃性付与成分と混練した後、再度ペレットの形状にしてもよい。
本発明の外装体は、射出成形法、押出成形法、または圧縮成形法により、難燃性樹脂組成物に所望の形状を付すことにより得られる。射出成形および押出成形法は、前記の方法で製造した難燃性樹脂組成物を溶融させて、ニーダー(Kneader)等を用いて混練する工程を伴う。したがって、これらの成形方法を用いる場合には、この混練工程において、樹脂成分に難燃性付与成分を添加することを実施してよい。そのように難燃性付与成分を添加すれば、難燃性付与成分を添加する別の工程を要しないため、効率的に本発明の外装体が得られる。
本発明の電気機器の外装体は、具体的には、前記液晶ディスプレイ装置の他、他のディスプレイ装置(プラズマディスプレイ装置、および有機ELディスプレイ装置等)、コンピュータ、携帯電話、オーディオ製品(例えば、ラジオ、カセットデッキ、CDプレーヤー、MDプレーヤー)、マイクロフォン、キーボード、およびポータブルオーディオプレーヤーの外装体、ならびに電気部品の外装体として使用される。電気機器は家庭用のものに限定されない。電気機器には工業用および医療用等の業務用のものも含まれる。また、本発明の外装体を構成する難燃性樹脂組成物は、電気機器の外装体以外の樹脂成形品を構成するのにも好ましく用いられる。樹脂成形品は、例えば、自動車内装材、二輪車外装材、および家庭用各種雑貨類等として提供される。
以下、本発明を実施例により説明する。
図5は、本発明の実施例において用いた、電気機器の外装体の製造方法(難燃性樹脂組成物の配合シーケンスを含む)を示すフロー図である。
図5に示すように、トウモロコシを原料として合成されたポリ乳酸(PLA)100wt%の樹脂成分に、2軸混練機を用い、難燃成分として、シリカ−マグネシア触媒(MgO:24.5wt%)粒子を混練するとともに、添加剤として、難燃性樹脂組成物の全量に対してカルボジイミドを2wt%,ケッチェンブラック顔料、乳酸Ca、ブチルヒドロキシアニソール、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ブチレンゴムをそれぞれ0.5wt%の量で添加し、混練した後、押出成形によりペレットを作成した。2軸混練機による混練は、約185℃の温度で実施した。混練の前に、シリカ−マグネシア触媒粒子を350℃にて加熱処理に付し、結晶水を除去した。また、加熱処理は、吸引排気しながら、0.1atmの雰囲気中で行った。
このペレットを用いて、射出成形機により、試験片を作製した。試験片の形状および寸法は下記のとおりである。
形状:UL94燃焼試験片形状
寸法:125mm×13mm×2.5mm
試験片は、シリカ−マグネシア触媒粒子の平均粒径および含有量を変化させて、複数種類作製した。具体的には、シリカ−マグネシア触媒粒子として、平均粒径が10μm、5μm、および3μmであるものを用意し、各平均粒径の触媒粒子の含有量を0.3wt%〜15.0wt%の範囲で変化させた。これらの試験片について、UL−94垂直燃焼試験を実施して難燃性を評価し、かつ樹脂組成物の成形性を評価した。その結果を表1に示す。
樹脂組成物の成形性は、金型を使用して射出成形法等により所望の形状にかつヒケなどが発生せず良好な表面を有するように成形できるか否か、および成形サイクルなどの成形に要する時間の観点に基づき、工業的に使用できるか否かで判定した。具体的な評価基準は下記のとおりである。
++:フローマーク、ヒケ、ウェルドラインが認められず、製品として塗装レスで使用できるレベル
+:注意して見れば、フローマークやヒケが僅かに認められるが、塗装をすれば製品として使用できるレベル
−:表面平滑性が悪く,ヒケや柚子肌が顕著で塗装しても使用できないレベル
Figure 2012114396
表1に示すように、ポリ乳酸のみからなる樹脂成分に、難燃性付与成分としてシリカ−マグネシア触媒粒子を10.0wt%以上添加すると、UL94規格のV0のグレードの難燃性を実現できた。しかし、難燃付与成分の含有量が10.0wt%以上である樹脂組成物は、その成形性が不良であり、電気機器の外装体を構成できなかった。これは、組成物中にシリカ−マグネシア触媒粒子が多量に存在して、樹脂を分解したために、樹脂の分子量が低下したことによると考えられる。
一方、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量を9.0wt%以下にした場合、樹脂の成形性は十分であった。しかし、平均粒径が10μmのシリカ−マグネシア触媒粒子を添加した組成物において、含有量が1.0wt%以下であると、難燃性能が低下し、具体的には、UL94規格のV2のグレードに低下した。平均粒径が5μmのシリカ−マグネシア触媒粒子を添加した組成物において、含有量が0.5wt%以下であると、その難燃性は、UL94規格のV2のグレードに低下した。平均粒径が3μmのシリカ−マグネシア触媒粒子を添加した組成物においては、含有量が0.5wt%であっても、UL94規格のV0のグレードの難燃性を維持することができた。
すなわち、平均粒径が小さいシリカ−マグネシア触媒粒子を用いることにより、0.5wt%という少ない含有量でも十分な難燃性を付与することができることがわかった。しかし、平均粒径によらず、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が9.0wt%を超えると、樹脂の成形性が悪く、電気機器の外装体として使用できる組成物を得られなかった。
この結果から、ポリ乳酸を樹脂成分とし、シリカ−マグネシア触媒粒子を難燃性付与成分として難燃性組成物を得、この難燃性組成物から電気機器の外装体を得る場合、シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は9.0wt%以下とする必要があることが判明した。また、含有量の下限値は、シリカ−マグネシア触媒粒径の平均粒径に依存するが、平均粒径が10μm以下であれば、1.0wt%以上添加することにより、UL94規格のV0のグレードの難燃性が得られることが判明した。
以上の実施例から明らかなように、ポリ乳酸を主成分とする樹脂成分に、シリカ−マグネシア触媒粒子を主成分とする難燃性付与成分を含有させる際に、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は、難燃性樹脂組成物に対して、9.0wt%以下とすることにより、電気機器の外装体として成形性を劣化させることなく、十分な難燃性を付与することができる。
なお、上記実施例においては、溶解した樹脂を所定の形状を有する金型に注入する射出成形法により成形する例を説明した。本発明の電気機器の外装体は、溶解した難燃性樹脂組成物を溶解して下型に入れ、上型と下型とを用いて圧力を加える圧縮成形法により成形して製造してよい。
本発明の電気機器の外装体は、環境への負荷が小さい環境樹脂を用いて製造され、かつ難燃性を有するので、液晶表示ディスプレイ等の外装体として有用である。
1 ディスプレイ装置本体
5 外装体
6 フロントキャビネット

Claims (12)

  1. ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を50wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分としてシリカ−マグネシア触媒粒子とを含有する難燃性樹脂組成物が成形されてなる電気機器の外装体であって、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は、難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下であることを特徴とする電気機器の外装体。
  2. 前記シリカ−マグネシア触媒粒子は、その平均粒径が10μm以下である、請求項1に記載の電気機器の外装体。
  3. 前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が、難燃性樹脂組成物の全重量の1.0wt%以上9.0wt%以下であることを特徴とする請求項2に記載の電気機器の外装体。
  4. 前記シリカ−マグネシア触媒粒子が、分子中に、結晶水または水酸基を構成する水素原子を有しない、請求項1に記載の電気機器の外装体。
  5. ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を50wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分としてシリカ−マグネシア触媒粒子とを含有する難燃性樹脂組成物が成形されてなる樹脂成形品であって、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量は、難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下であることを特徴とする樹脂成形品。
  6. 前記シリカ−マグネシア触媒粒子は、その平均粒径が10μm以下である、請求項5に記載の樹脂成形品。
  7. 前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が、難燃性樹脂組成物の全重量の1.0wt%以上9.0wt%以下であることを特徴とする請求項6に記載の樹脂成形品。
  8. 前記シリカ−マグネシア触媒粒子が、分子中に、結晶水および水酸基を構成する水素原子を有しない、請求項5に記載の樹脂成形品。
  9. ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を50wt%以上含む樹脂成分と、シリカ−マグネシア触媒粒子とを混練して成形することを含む、電気機器の外装体の製造方法であって、
    前記樹脂成分と前記シリカ−マグネシア触媒粒子を、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下となるように混練し、
    前記混練の前に、シリカ−マグネシア触媒粒子を加熱して、シリカ−マグネシア触媒粒子から結晶水を除去する
    電気機器の外装体の製造方法。
  10. 前記シリカ−マグネシア触媒粒子を加熱することが、100℃以上の温度で実施される、請求項9に記載の電気機器の外装体の製造方法。
  11. ポリ乳酸および/または乳酸共重合体を50wt%以上含む樹脂成分と、シリカ−マグネシア触媒粒子とを混練して成形することを含む、樹脂成形品の製造方法であって、
    前記樹脂成分と前記シリカ−マグネシア触媒粒子を、前記シリカ−マグネシア触媒粒子の含有量が難燃性樹脂組成物の全重量の9.0wt%以下となるように混練し、
    前記混練の前に、シリカ−マグネシア触媒粒子を加熱して、シリカ−マグネシア触媒粒子から結晶水を除去する
    樹脂成形品の製造方法。
  12. 前記シリカ−マグネシア触媒粒子を加熱することが、100℃以上の温度で実施される、請求項11に記載の樹脂成形品の製造方法。
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