JP5345720B2 - 難燃性樹脂組成物、その製造方法およびその成形方法 - Google Patents

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Description

本発明は、難燃性を付与した樹脂組成物、特に樹脂成分として、生分解性樹脂および/もしくは植物資源を原料とした樹脂またはポリスチレン樹脂を含む樹脂組成物、その製造方法、およびその成形方法に関する。
近年、土中に埋め立てると、バクテリア作用によって分解する樹脂(またはプラスチック)が注目されている。生分解性樹脂(または生分解性プラスチック)と呼ばれるこれら樹脂は、好気性バクテリア存在下で水(HO)と二酸化炭素(CO)に分解する特性を有する。生分解性樹脂は、農業分野において実用化され、また、使い捨て商品の包装材、およびコンポスト対応ゴミ袋等の材料として実用化されている。
生分解性樹脂が土中バクテリアにより分解される性質を利用して、これを廃棄処理する場合には、従来の焼却処理と比較して、格段にCO排出量を小さくすることが可能である。したがって、生分解性樹脂は、地球温暖化防止対策の観点から、その使用が着目されている。生分解性樹脂を用いた商品は、例えば農業分野において使用する場合には、使用済みプラスチックを回収する必要がないため、ユーザーにとっても、好都合な場合がある。これらの理由により、生分解性樹脂の市場は拡大しつつある。
さらに、近年、植物由来の樹脂もまた、電子機器および自動車の分野において着目されつつある。植物由来の樹脂は、植物原料から得られるモノマーを重合または共重合させることにより得られる。植物由来の樹脂は、石油資源に頼ることなく製造されること、原料となる植物が二酸化炭素を吸収して成長すること、および焼却処理により廃棄する場合でも、一般に燃焼カロリーが小さく、発生するCO量が少ないこと等の理由により、地球環境に優しい樹脂として注目されている。植物由来の樹脂は一般に生分解性を有するが、石油資源の枯渇防止という観点だけから見れば、必ずしも生分解性を有する必要はない。即ち、環境保護に寄与する樹脂には、生分解性樹脂に加えて、生分解性を有しない植物由来の樹脂も含まれることとなる。そこで、以下の説明を含む本明細書において、生分解性樹脂(石油由来および植物由来のものを含む)と植物由来ではあるが生分解性を有しない樹脂とを総称するために、便宜的に「環境樹脂」という用語を使用する。
現在、環境樹脂として使用されているものは、ポリ乳酸系(以下、「PLA」と略す)、PBS系(ポリブチレンサクシネート(1,4ブタンジオールとコハク酸の共重合樹脂))、PET系(変性ポリエチレンテレフタレート)の3つに大別される。それぞれの特徴を、下記表1に示す。
Figure 0005345720
これらの樹脂のうち、PLAは、前述した植物由来の樹脂に該当する。PLAは、トウモロコシまたはサツマイモ等の植物が作り出す糖分を原料として、化学合成することにより製造可能であり、工業的生産の可能性を有する。そのような植物由来の樹脂を含むプラスチックはバイオプラスチックとも呼ばれる。PLAはトウモロコシを原料とした大量生産が開始されたことから特に着目されており、生分解性を要する用途のみならず、多種多様の用途にPLAを応用しうる技術を開発することが望まれている。
しかしながら、これらの環境樹脂を既存の材料と置き換えて使用するには、その特性を改善する必要がある。下記表2に、一般的な樹脂である、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(以下、ABSと記す)の物性と、環境樹脂であるポリ乳酸(PLA)およびポリブチレンサクシネート(PBS)の物性を示す。「曲げ弾性率」および「曲げ強度」は剛性を表し、数値が大きいほど高剛性である。「アイゾット衝撃強さ」は、試験片が衝撃荷重を受けて破壊するときの破壊エネルギーを示し、数値が大きいほど衝撃が加えられたときに割れにくいものである。「熱変形温度」は、樹脂の変形が開始する温度であり、数値が高いほど高温条件での使用が可能となる。
Figure 0005345720
この表より、PLAは硬くてもろいことが、PBSはやわらかいことがわかる。また熱的特性を比較すると、PLAは耐熱性に乏しく、PBSはABSよりも高い耐熱性を有することがわかる。
このような環境樹脂の特性を改善する方法として、他の成分を配合する方法が提案されている。例えば、PLAの耐熱性を向上させるために、PLAに合成マイカを0.5−20wt%程度配合することが、特開2002−173583号公報(特許文献1)で提案されている。特開2002−173583号公報は、生分解性樹脂の加水分解(生分解作用)を抑制する添加剤(例えば、カルボジイミド化合物)を配合することをも提案している。
また、PLAにケナフ繊維を配合することで、パソコン外装体への応用の可能性を報告した例がある(芹沢他,“ケナフ繊維強化ポリ乳酸の開発“(第14回プラスチック成形加工学会年次大会講演予稿集,第161頁−162頁,2003年(非特許文献1))。具体的には、ケナフ繊維を配合したPLA樹脂を成形した後、アニール工程を追加すると、PLA樹脂の耐熱性を改善でき、PLAをパソコン外装体に応用する可能性が高くなるとの報告がなされている。
一方、環境樹脂ではないが、ポリスチレン(PS)樹脂は、物性とコストのバランスが良く、容器・包装、建材、雑貨、電器・電子機器、繊維、塗料・接着剤、自動車、および精密機器等の各分野の製品に極めて幅広く使用されている。PS樹脂全体の使用量も多く、ポリスチレンは、塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)と並んで、5大汎用樹脂の一つである。したがって、上記環境樹脂の開発と平行して、ポリスチレン樹脂を使用することは、今後もなお必要とされるであろう。前記のPS樹脂の用途のうち、特に電器・電子製品、建材、および自動車等の耐久消費財においては、通常のPSではなく、PSにブダジエン系ゴムを配合したハイインパクトポリスチレン(HIPS)が主に用いられている。HIPSは、PSの耐衝撃性をさらに向上させたものであり、各種製品の外装体等、比較的長期にわたって使用される部品または部材を構成するために用いられる。
特開2002−173583号公報
芹沢他,"ケナフ繊維強化ポリ乳酸の開発"(第14回プラスチック成形加工学会年次大会講演予稿集,第161頁−162頁,2003年)
しかしながら、上記特許文献1および非特許文献1に記載の樹脂組成は、耐熱性向上を目的として提案された組成であり、家庭電化製品の外装体に応用するのに必要不可欠な難燃性を付与することについて言及していない。実際のところ、上記文献に記載の樹脂組成物は難燃性を有していない。したがって、従来提案されたPLA組成物は、内部に高電圧部分を有するテレビジョンセット等の電化製品の外装体に適用することができない。また近年の電化製品は安全性を重視し、内部に高電圧素子を有しない機器においても難燃性を有する樹脂を採用する傾向にある。したがって、環境樹脂は、たとえ剛性、衝撃強さ及び耐熱性等において満足する特性を有するとしても、難燃性を有しない限りにおいて、その有用性は極めて低い。
一方、PSの1種であるHIPS樹脂は、テレビジョンセットを始め内部に高圧回路を有する電化製品に使用される等、これまで高い使用実績を示してきた。HIPSの難燃化は、ハロゲン系難燃剤と難燃助剤等を配合することにより行われ、これらの難燃剤および難燃助剤によりHIPSは高い難燃性を有している。しかし、ハロゲン系難燃剤を含有した樹脂を廃棄し、焼却処理した場合、ダイオキシンの発生が懸念されており、欧州では特定のハロゲン系難燃剤の使用が禁止されつつある。
ハロゲン系難燃剤の使用はまた、PSに限らず、他の汎用樹脂においても禁止されつつある。そのため、樹脂に高い難燃性を付与しうる非ハロゲン系難燃剤が求められており、その開発がすすめられている。
非ハロゲン系の難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤が公知である。リン系難燃剤もまた、ある程度高い難燃効果を発揮するが、ハロゲン系難燃剤と同等の難燃性を得るには、高い配合比で樹脂と混合する必要がある。そのため、リン系難燃剤を添加した樹脂組成物は機械的性質が劣る傾向にある。
ここで、従来の難燃剤による難燃化のメカニズムを説明する。難燃剤はいずれも、難燃化すべき樹脂に一定の割合で含有させて使用する。難燃化のメカニズムは難燃剤ごとに異なり、例えば、臭素系を代表とするハロゲン系難燃剤は、熱により分解したハロゲン系ガス成分が、気相において樹脂から噴出したラジカルをトラップし、燃焼反応を抑制する。リン系難燃剤は、燃焼により炭化層(チャー)の生成を促進し、この炭化層が酸素や輻射熱を遮り、燃焼を抑制するといわれている。水酸化金属系難燃剤は、単に燃えないものを大量に配合することにより難燃化するというメカニズムであり、大量の配合が必要となる。求める難燃性にもよるが多いものでは配合比が50wt%を超えるものもある。配合比が50wt%を超えると、樹脂組成物において、難燃剤が樹脂成分よりも多い量で存在することとなり、そのような樹脂組成物の物性は、難燃剤を混合していない樹脂の物性とは全く異なるものとなり、樹脂とは言い難くなる。したがって、樹脂に配合する難燃剤の開発に際しては、少量の配合で高い難燃効果を発揮するような難燃化のメカニズムを示す難燃剤を開発することが求められる。
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、環境樹脂またはPSおよびHIPSのような汎用樹脂に非ハロゲン系の難燃剤を付与して、例えば電化製品の外装体として有用な樹脂組成物を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため検討した結果、本発明者らは、炭化水素を精製、分解、合成、または改質する際に用いられる触媒を難燃性を付与する難燃性付与成分として、樹脂、特に環境樹脂およびPS樹脂に添加すると、添加量をそれほど多くしなくとも、高い難燃性を付与しうることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、ポリ乳酸または乳酸共重合体を55wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分とを含む難燃性樹脂組成物を射出成形法または圧縮成形法により成形する電化製品の外装体の製造方法であって、前記難燃性付与成分が接触分解触媒であり、前記接触分解触媒は、酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの複合酸化物、または両者が結合して成るシリカ−マグネシア触媒であり、前記難燃性樹脂組成物において前記難燃性付与成分の占める割合が0.5wt%〜40wt%であることを特徴とする電化製品の外装体の製造方法を提供する。
本発明によれば、地球環境にやさしい生分解性樹脂および植物由来の樹脂ならびに各種製品において汎用されているPSに、製造工程を増加させることなく、非ハロゲン系難燃性付与成分である触媒を用いて難燃性を付加することが可能となる。また、本発明の樹脂組成物は、その使用後、これを焼却処理する場合でも、有害な物質の発生が無い又は少ないため、極めて環境に配慮した材料となり得る。また、本発明の樹脂組成物は高い難燃性を有し、電化製品等の外装体として使用することが可能となるので、本発明の樹脂組成物は工業的価値が大きく有用である。
本発明の難燃性樹脂組成物を製造する方法を示すフロー図である。 本発明の難燃性樹脂組成物を製造する方法を示すフロー図である。
本明細書において、「樹脂」という用語は、樹脂組成物中の重合体を指すために用いられ、「樹脂組成物」は樹脂を少なくとも含む組成物を指す。プラスチックとは、必須成分として重合体を含む物質をいう。本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と難燃性付与成分とを含むから、プラスチックと呼べるものである。
「難燃性」とは、点火源を取り除いた後は燃焼を継続しない又は残燼を生じない性質をいう。ここで、難燃性を付与する「難燃性付与成分」とは、それを添加することにより、樹脂を難燃化する成分である難燃成分(この成分は、「難燃剤」とも称することができる)、およびそれのみを添加したときには、樹脂を難燃化することができないが、難燃成分とともに添加されると難燃成分の難燃性向上効果をより高くする役割をする難燃助剤等を指し、樹脂の難燃性向上に寄与する成分を総称している。本発明で使用する難燃性付与成分は、炭化水素の精製、分解、合成および/または改質の際に用いられる触媒であり、ハロゲンを全く含まない又はダイオキシンを生成しにくい化合物の形態である。ここで、「および/または」という用語は、一つの触媒が、2以上のプロセス、例えば、分解および改質の両方に使用される場合があることを想定して使用している。これらの触媒は、それのみで難燃成分として作用することができ、又は他の難燃成分(即ち、難燃剤)とともに難燃成分として若しくは難燃助剤として作用することができる。本発明の樹脂組成物において、難燃性付与成分として用いられる触媒は、例えば、接触分解触媒、異性化触媒、脱水素触媒、金属錯体、水素化分解触媒、脱硫触媒、脱硝触媒、メタネーション触媒、スイートニング触媒、水添触媒、塩素化触媒、酸化触媒、有機物除去触媒、重合用触媒、アルキル化触媒、脱ハロゲン触媒、転化触媒、合成触媒、改質触媒、有機化合物除去用触媒、窒素酸化物除去用触媒、脱臭触媒、オゾン分解用触媒、硫黄回収用触媒、不活性ガス製造用触媒、硫酸製造用触媒、硝酸製造用触媒および光触媒等から選択される1または複数の触媒である。
これらの触媒は、炭化水素の接触分解等を促進するように作用するものであり、目的とする化合物を得るための化学的プロセスにおいて従来使用され、あるいは、ガス中の特定化合物を吸着分解させるために従来使用されてきた。これらの触媒を使用するときの反応条件は、高温および/または高圧下であることが多い。また、これらの触媒は、反応後は廃触媒としてプロセス外に放出され、所望の反応生成物中に残留しない。本発明は、これらの触媒を、予め樹脂に混練して分散させることにより、実際に樹脂が燃焼するプロセスにおいて、その燃焼反応中に触媒特有の作用が奏され、その触媒作用が樹脂の難燃化に大きく寄与することを見出した結果、なされたものである。
これらの触媒は、燃焼中、樹脂を低分子量の分子に分解していくことによって、熱分解して噴出する可燃性ガスの総分子量を低減し、それにより、樹脂の難燃化に大きく寄与していると考えられる。つまり、高分子を同じ回数切断する場合、分子量の大きなものに分解するときと比較して、分子量の小さなものに分解する方が、燃料としてのガスの量がその分少なくなり、燃焼エネルギーが下がると考えられる。その結果、燃焼場における燃焼エネルギーが減少し、それに伴い輻射熱が低下し、樹脂の熱分解が抑制される。これが繰り返されることにより、燃焼サイクルが継続されず、樹脂の難燃化を達成できると考えられる。
本発明の樹脂組成物において、難燃性付与成分として、シリカ−マグネシア触媒(以下、これをMgO/SiOと表示することがある)であることが好ましい。シリカ−マグネシア触媒は、固体酸触媒であり、炭化水素の接触分解触媒として使用され得る。この触媒は、特に、生分解性樹脂および植物由来の樹脂、ならびにPS樹脂に、極めて良好な難燃性を付与するので好ましく用いられる。接触分解触媒として使用されるシリカ−アルミナ触媒(SiO/Al)、ならびに脱水素触媒として使用されるLaおよびCeOもまた、生分解性樹脂および植物由来の樹脂ならびにPS樹脂に極めて良好な難燃性を付与するので、好ましく用いられる。
本発明の樹脂組成物において、少なくとも1つの樹脂成分は、生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂であることが好ましい。生分解性樹脂または植物由来の樹脂と、実質的に非ハロゲン系である上記触媒から選択される難燃性付与成分とが組み合わされることにより、環境により優しい樹脂組成物を得ることができる。
ここで、「生分解性樹脂」とは、使用後は自然界において微生物が関与して低分子化合物に分解し、最終的には水と酸素に分解する樹脂を意味し、「植物由来の樹脂」とは、植物原料から得られるモノマーを重合させて、または当該モノマーと他のモノマー(植物由来でなくてもよい)とを共重合させて得られる樹脂を意味する。植物由来の樹脂には、生分解性を有するものと有しないものとがあり、生分解性を有する植物由来の樹脂は、ここでいう「生分解性樹脂」に分類してもよい。ここでは、環境保護の観点から、生分解性を有する樹脂か、あるいは植物由来の樹脂を重合体成分として使用することを明確にするために、これら2種類の樹脂を並列的に記載していることに留意されたい。
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として、ポリ乳酸(PLA)、乳酸共重合体もしくはポリブチレンサクシネート(PBS)、またはこれらの混合物を含むことが好ましく、ポリ乳酸を樹脂成分として含むことが特に好ましい。前述したように、ポリ乳酸(PLA)は、大量生産可能な植物由来の樹脂として、家庭用電化製品の筐体等に使用することが提案されている。したがって、この樹脂に、実質的に非ハロゲン系である触媒を用いて難燃性を付与することにより、その有用性をさらに向上させることができる。
あるいは、本発明の樹脂組成物において、少なくとも1つの樹脂成分は、ポリスチレン(PS)であることが好ましい。ポリスチレンと、実質的に非ハロゲン系である上記触媒から選択される難燃性付与成分とが組み合わされることにより、良好な機械的特性および難燃性を有するポリスチレンを環境により優しい形態で提供することができる。
本発明はまた、難燃性樹脂組成物の製造方法として、少なくとも1つの樹脂成分と、少なくとも1つの難燃性付与成分とを混練することを含む製造方法を提供する。この製造方法において、上記特定の触媒から選択される難燃性付与成分は、常套のプラスチックの製造プロセスまたは成形プロセスに必要不可欠である、樹脂成分を溶解させて実施する混練工程において、樹脂成分に付与される。したがって、この製造方法によれば、難燃性付与成分を配合する別の工程が発生せず、製造コストをそれほど上昇させずに、難燃性樹脂を得ることができる。
この製造方法は、樹脂成分が生分解性樹脂または植物由来の樹脂である場合、および樹脂成分がポリスチレンである場合のいずれにも適用することができる。したがって、この製造方法は、特に、樹脂成分が生分解性樹脂または植物由来の樹脂である場合に、一般に実施されているプラスチックの製造方法を利用して、難燃性の環境樹脂を得ることができるという点で有利である。
さらに、本発明は、難燃性樹脂組成物の成形方法として、少なくとも1つの樹脂成分と、少なくとも1つの難燃性付与成分とを混練して得た組成物を、射出または圧縮成形法により成形することを含む成形方法を提供する。即ち、本発明の難燃性樹脂組成物は、常套的に用いられているプラスチック成形品用の生産設備を大きく変更することなく、常套の方法に従って成形することができる。
この成形方法は、樹脂成分が生分解性樹脂または植物由来の樹脂である場合、および樹脂成分がポリスチレンである場合のいずれにも適用することができる。したがって、本発明の樹脂組成物は、特に樹脂成分が生分解性樹脂または植物由来の樹脂である場合に、熱可塑性プラスチックから生分解性プラスチックまたは植物由来のプラスチックに原料を切り替えることを容易に実施できる。また、PSを樹脂成分として含む本発明の樹脂組成物も、PSの成形装置として従来用いられている装置をそのまま使用して成形することができる。
前述したように、本発明の難燃性樹脂組成物は、1または複数の樹脂を樹脂成分として含み、さらに特定の触媒から選択される1または複数の難燃性付与成分を含む。まず、樹脂成分について説明する。
本発明の樹脂組成物の好ましい形態の1つは、生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂成分を含む。生分解性樹脂および植物由来の樹脂としては公知のものを任意に使用できる。生分解性樹脂としては、例えば、石油化学原料から製造される、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)および変性ポリエチレンテレフタレート(例えばコポリマー)(変性PET)、ならびに微生物が生成するポリヒドロキシ酪酸(PHB)等が挙げられる。PCL、PBSおよび変性PETは、植物原料から得たモノマーを重合したものであってよい。植物由来の樹脂として代表的なものは、ポリ乳酸(PLA)および乳酸共重合体である。PLAおよび乳酸共重合体は、トウモロコシまたはサツマイモ等から得られるデンプンまたは糖類を発酵させて得られる乳酸を原料とし、これを重合することにより得られる樹脂である。PLAは、加水分解型の生分解性樹脂であるが、生分解性が好まれない用途においては加水分解性を低下させる化合物が添加して使用されこともある。その場合には生分解性が低いかあるいは生分解性を有しない。しかし、前述したように、植物由来の樹脂は、生分解性の有無にかかわらず、石油資源を利用しない、燃焼熱量が小さい、および原料となる植物が二酸化炭素を吸収して成長する等の理由により、環境保護の観点から本発明において好ましく使用される。
生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される樹脂成分としては、PBSまたはPLAが好ましく使用され、特にPLAまたはPLAと他の樹脂とを混合したものが好ましく使用される。PLAは、優れた透明性および剛性を有するので、これから成る成形品は種々の用途に使用することができる。一方、PLAは、耐熱性および耐衝撃性が低く、射出成形性がやや低いという短所を有する。そのため、PLAは、特に射出成形する場合には、他の樹脂および/または改質剤を混合して使用することが好ましい。例えば、PBSは耐熱性に優れ、かつそれ自体生分解性を有するので、PLAに混合するのに適している。具体的には、PLAとPBSとは、95:5〜55:45(重量比)の割合で混合することが好ましい。あるいは、ポリ乳酸改質剤として市販されているものを使用して、PLAを改質してよい。
生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される樹脂成分は、必要に応じて、生分解性樹脂および植物由来の樹脂でない他の樹脂(例えば、生分解性を有しない、石油化学材料を原料とする樹脂)と組み合わせて使用してよい。そのような場合、当該他の樹脂は、樹脂成分全体の45wt%までの割合で含まれることが望ましい。生分解性を有さず、植物由来でもない樹脂が多く含まれると、生分解性樹脂および植物由来の樹脂により付与される、地球環境に与える負荷を軽減するという本質的な特徴または効果が低減する。
本発明の樹脂組成物の好ましい別の形態は、ポリスチレン(PS)を樹脂成分として含む。ポリスチレンは、生分解性樹脂でもなく、植物由来の樹脂でもなく、その限りにおいては、生分解性樹脂等よりも環境に与える負荷は大きい。しかし、ポリスチレンは、種々の製品にて多く使用されており、これを実質的に非ハロゲン系である難燃剤で難燃化することができれば、燃焼時に発生する有害物質を無くす又は減少させることが可能であり、その意味においては環境にやさしい樹脂組成物を構成しうる。
PSは、単独で(即ち、他の樹脂成分と混合することなく)使用しても十分に優れた物性を有し、種々の製品に使用が可能であり、必要に応じて他の樹脂と混合してもよい。PSを含む樹脂組成物を、耐衝撃性が必要とされる外装体に使用する場合には、樹脂成分としてゴム系の樹脂を添加して、HIPSとすることが好ましい。ゴム系の樹脂として、例えば、ブタジエン、シリコーン系ゴムおよびアクリル系ゴム等から選択される1または複数の樹脂が添加され、好ましくはブタジエン系ゴムが添加される。ブタジエンゴム等のゴム系の樹脂は、PSとゴム系の樹脂とを合わせた量に対して5〜45wt%の割合で混合することが好ましく、この割合で混合することにより、耐衝撃性が大幅に向上する。
本発明のさらに別の形態において、本発明の樹脂組成物を構成する樹脂成分は、上記において例示した樹脂成分以外の他の樹脂であってよい。具体的には、
1)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリ塩化ビニル、AS、ABS、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)等の熱可塑性樹脂、
2)ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン/ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン/エチレンブチレン共重合体(HSBR)およびスチレン/イソプレン共重合体(SIR)等の熱可塑性エラストマー、
3)ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)およびポリフェニレンエーテル(PPE)等の熱可塑性エンジニアリング樹脂、
4)ポリアリレート(PAR)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のスーパーエンジニアリング樹脂、ならびに
5)エポキシ樹脂(EP)、ビニルエステル樹脂(VE)、ポリイミド(PI)およびポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂
から選択される1または複数の樹脂が、本発明の樹脂組成物において樹脂成分として含まれてよい。
次に、難燃性を付与する難燃性付与成分について説明する。難燃性付与成分としては、前述したように、炭化水素の精製、分解、合成および/または改質プロセスにおいて使用される触媒が使用され、具体的には、例えば、接触分解触媒、異性化触媒、脱水素触媒、水素化分解触媒、および有機化合物除去用触媒等を、難燃性付与成分として使用できる。これらの触媒は、ハロゲンを分子中に含まないことが、環境保護等の観点からは好ましい。尤も、一般に炭化水素の精製等で使用される触媒分子はハロゲン原子を含んでいるとしても、公知のハロゲン系難燃剤がダイオキシン類と近い構造を有するのに対し、ダイオキシンとは相当に異なる構造を有するので、燃焼プロセスを適切に選択すれば、ダイオキシンを生成することは殆どないと考えられる。その意味において、下記に例示するハロゲン原子を含む触媒は、実質的に非ハロゲン系の難燃性付与成分と呼べるものである。よって、本明細書において、難燃成分または難燃剤等の難燃性付与成分に関して、「非ハロゲン系」または「ハロゲンを含まない」という用語は、下記に例示するハロゲン原子を含む触媒をも包含する意味で使用される。
難燃性付与成分として使用できる接触分解触媒は、具体的には、例えば、シリカ−アルミナ触媒(SiO/Al)、シリカ−マグネシア触媒(MgO/SiO)、活性白土、ゼオライトおよびシリカ−アルミナ−マグネシア触媒(SiO/Al/MgO)等である。
以下の説明を含む本明細書において、触媒について使用される「/」は2以上の成分が組み合わされていることを示し、例えば、2以上の化合物が複合酸化物のような高次化合物または複合化合物を形成していること、2以上の成分が混合されていること、または2以上の成分のうち1以上の成分が担体であって他の成分が担体に担持されていること等を意味する。本明細書において具体的に例示されている各触媒における各「/」は、炭化水素を精製または接触分解等する分野(例えば、石油化学工業)において通常使用されている意味を有し、その意味は当該分野の当業者には明らかである。
難燃性付与成分として使用できる異性化触媒は、具体的には、例えば、Pt/Al/フッ化物、Pt/SiO/Al3、Pd/SiO/Al3、ZnCl、Cr/Al、ホウ酸塩、リン酸Al、Pt/SiO/Al、Ni/SiO/Al、ケイ燐酸、HF−BF、燐酸、無水硫酸アルミ、AlCl/HCl、ZnCl/Al、シリカゲル、メタンスルホン酸、Al硫酸塩/SiO、Co硫酸塩/SiO2、Fe硫酸塩/SiO2、Mn硫酸塩/SiO、Cu硫酸塩/SiO2、Ni硫酸塩/SiO2、Zn硫酸塩/SiO2、K硫酸塩/SiO2、およびCa硫酸塩/SiO等である。
難燃性付与成分として使用できる脱水素触媒は、具体的には、例えば、CeO、La、SnO、CuO、ZnO、Fe/Al/KO、Cr/Al/KO、Cr/SiO、Cr/MgO/Al、Ru/Al、Fe/Cr/KCO、Fe/Cr/KO、Fe/Cr/KOH、Pt/Al、MoO/Al、Cr/Al、MoO/Al、MgO/Fe/CuO/KO、CaNi(PO)/Cr/グラファイト、CuCr/Mn、Cu/ZnおよびFe等である。さらに、Cr、燐酸モリブデート、ZnO/CaO、Cu/ZnO,SrO,Cr/ZnO,Cr/BeO,MnO,VO,V,SrO、BaO、Fe、Cr/Pb、Cr/CaO,Cr/CeO、Cr/KO/MgOおよびWO等のいずれかを、単体で、あるいはAlまたはSiOに担持させたものを、難燃性付与成分として使用できる。
難燃性付与成分として使用できる水素化分解触媒は、具体的には、例えば、CoMo、MoO、NiO、CoO、NiMo、Pd/C(活性炭)、Pd/C、Ru/C、Ni、Co、Ni/Al、CuCr/Mn/Ba、CuCe/Mn、Ni/KG(珪藻土)、Ni/CuCr/KGおよびNiO等である。
難燃性付与成分として使用できる脱硫触媒は、具体的には、例えば、活性炭、ZnO、CuO、Ni、およびCr等である。
難燃性付与成分として使用できるアルキル化触媒は、具体的には、例えば、Fe、KCo、およびBaO等である。
難燃性付与成分として使用できる合成触媒は、具体的には、例えば、Fe、FeO、Fe、CaO、KO、およびNa等である。
難燃性付与成分として使用できる有機化合物除去用触媒は、例えば、Pt/Al、Pd/Al、AlPo、NiO、MnO、CuO、CeO、およびCa(OH)等である。
上記において具体的に例示した化合物以外の化合物であっても、前述のように樹脂組成物を、燃焼中、低分子量の分子に分解するように作用し、それにより難燃性を付与できる限りにおいて、難燃性付与成分として使用してよいことに留意されたい。
いずれの触媒を使用する場合も、必要に応じて触媒の活性を高くしてから(即ち、賦活してから)、樹脂成分と混合してよい。賦活は例えば触媒を加熱することにより実施される。
本発明の樹脂組成物においては、2以上の難燃性付与成分を組み合わせて使用してよい。2以上の難燃性付与成分の組み合わせは、上記触媒から選択される2以上の触媒の組み合わせであってよく、あるいは触媒と公知の一般的な難燃剤との組み合わせであってもよい。いずれの場合も、各難燃性付与成分の割合は所望の難燃性に応じて任意に設定してよい。
本発明において、上記触媒と公知の難燃剤とを組み合わせて使用する場合には、公知の難燃剤の使用量を減らすことができるという効果が得られる。具体的には、例えば上記触媒(例えば、シリカ−マグネシア触媒)とリン系難燃剤を組み合わせて使用するときに、上記触媒を樹脂成組成物の5wt%を占めるように添加すれば、リン系難燃剤の割合を10wt%程度に減らしても、リン系難燃剤のみが40wt%程度を占める樹脂組成物と同等の難燃性を得ることができる。したがって、本発明によれば、触媒を難燃性付与成分として使用することによって、公知の難燃剤の配合比を減らしても高い難燃性を有する樹脂組成物を得ることができ、完全な非ハロゲン系樹脂組成物を実現できないとしても、従来よりも環境に対する負荷をより軽減することが可能となる。
公知の難燃剤は、例えば、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、および水酸化金属系難燃剤である。水酸化金属系難燃剤は、例えば、水酸化マグネシウム(Mg(OH))および水酸化アルミニウム(Al(OH))である。水酸化金属系難燃剤を樹脂組成物に混合すると成形体の剛性が高くなるので、水酸化金属系難燃剤は、例えば、テレビジョン受像機バックカバー等、成形体の強度および剛性を大きくすることが望まれる場合に好ましく用いられる。
上述した難燃性付与成分のうち、生分解性樹脂および植物由来の樹脂、特に植物由来の樹脂、ならびにPSに添加されると、少量で高い難燃効果を発揮するものとしては、シリカ−アルミナ触媒、シリカ−マグネシア触媒、LaおよびCeO等の触媒が挙げられる。したがって、これらの難燃性付与成分を使用すれば、難燃性付与成分の添加量を小さくできるから、難燃性付与成分の添加に起因する樹脂組成物の物理的な物性の変化(例えば曲げ強度および弾性率の低下)を小さくできる。また、難燃性付与成分の添加量を小さくすると、この樹脂組成物をリサイクルして使用することがより容易となる。シリカ−マグネシア触媒は、公知のハロゲン系難燃剤およびリン系難燃剤と比較して、特に植物由来の樹脂(具体的にはポリ乳酸)およびPSに対してより高い難燃効果を付与するので、好ましく使用される。
シリカ−マグネシア触媒(MgO/SiO)は、固体酸触媒の一つで、酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの複合酸化物又は両者が結合して成るものである。本発明においては、MgOの割合が、10wt%〜50wt%であるシリカ−マグネシア触媒を使用することが好ましい。MgOの割合が10wt%未満であると、触媒作用が十分に発揮されず(即ち、樹脂を分解する作用が弱く)、難燃化の効果が低くなる傾向にある。また、MgOの割合が50wt%を超えると、触媒作用が強くなりすぎ、樹脂が大きな分子量の分子に分解されて燃焼熱量が増加し、その結果、難燃効果が低下することがある。
難燃性付与成分の混合割合は、難燃性付与成分の種類、樹脂成分の種類、樹脂組成物に必要とされる難燃性の度合い、および難燃性付与成分の添加による樹脂組成物の物性の変化量に応じて決定される。具体的には、例えば、樹脂組成物中、上記触媒から選択される難燃性付与成分は0.5wt%〜40wt%程度を占めることが好ましい。難燃性付与成分の割合が0.5wt%未満であると、顕著な難燃性向上効果を得られにくく、40wt%を越えると、難燃性付与成分の混合に起因する望ましくない影響(例えば、流動性の低下による成形性不良等)が顕著となる。
上述の難燃性付与成分の混合割合は例示であり、樹脂成分の種類および難燃性付与成分の種類に応じて、難燃性付与成分の混合割合の最適範囲は異なる。例えば、ポリ乳酸、乳酸共重合体、またはこれらのうち少なくとも1つの樹脂と他の樹脂との混合物を樹脂成分とし、触媒(特にシリカ−マグネシア触媒)を難燃性付与成分とする場合には、触媒が樹脂組成物の1〜15wt%を占めるように、触媒を混合することが好ましい。また、例えば、ポリスチレンまたはポリスチレンとブタジエンゴムとの混合物を樹脂成分として含み、触媒(特にシリカ−マグネシア触媒)を難燃性付与成分とする場合には、触媒が樹脂組成物の1〜45wt%を占めるように、触媒を混合することが好ましい。
上記触媒から選択される難燃性付与成分は、好ましくは、無機多孔質体に担持された状態で、樹脂中に分散される。具体的には、無機多孔質体に難燃性付与成分を担持させ、これを樹脂成分と混練して、無機多孔質体を微粒子に粉砕するとともに樹脂中に分散させる方法により、難燃性付与成分が樹脂中に分散されていることが好ましい。無機多孔質体を併用することにより、難燃性付与成分がより均一に分散した樹脂組成物が得られるので、難燃性付与成分の添加量をより少なくすることができる。即ち、無機多孔質体を使用する場合には、混練開始時には、凝集が生じないほどに大きい粒状体として添加されて、混練中に微細な粒子に粉砕されて均一に分散するので、難燃性付与成分のみを添加する場合と比較して難燃性付与成分の分散性が向上する。また、無機多孔質体は、それ自体樹脂に難燃性を付与する性質を有するので、担持した難燃性付与成分と相乗的に樹脂組成物の難燃性を高める。
無機多孔質体は、例えば、酸化ケイ素および/または酸化アルミニウムから成り、孔径が10〜50nmである細孔を45〜55vol%の割合で有する多孔質体である。そのような無機多孔質体は、難燃性付与成分を担持させるときに、100〜1000nmの粒径を有する粒状体であることが好ましい。粒径が小さすぎると、凝集が生じて粒子が巨大化することがある。一方、粒径が大きすぎると、混練工程において粉砕した後の無機多孔質体の粒径が大きくなり、均一に分散しないことがある。無機多孔質体は、最終的に得られる樹脂組成物において(即ち、無機多孔質体を混練した後において)、25〜150nmの粒径を有することが好ましい。無機多孔質体を使用する場合には、例えば、難燃性付与成分を無機多孔質体100重量部に対し、3〜50重量部の量で担持させてよい。そのように難燃性付与成分を担持させた無機多孔質体は、例えば、樹脂組成物全体の1〜40wt%を占めるように添加して、混練してよい。ここに示した難燃性付与成分の担持量および無機多孔質体の添加量は例示であり、難燃性付与成分の種類によりこれらの範囲外であってよい。
難燃性付与成分は、例えば、担持させたい難燃性付与成分が溶媒中に溶解または分散した液に無機多孔質体を浸漬した後、溶媒を加熱により蒸発させる方法によって、無機多孔質体に担持させることができる。無機多孔質体それ自体は、公知の方法に従って製造することができ、例えば、シリカゾルに孔形成剤(例えば、水溶性無機塩)を溶解し、乾燥させたものを焼成した後、得られた粒子から孔形成剤を熱水中に溶解させて取り除く方法により得られる。あるいは、無機多孔質体は、多孔質ガラスまたはゼオライト等であってよい。無機多孔質体が例えばゼオライト等から成る場合には、無機多孔質体それ自体が炭化水素の接触分解触媒としても機能することとなり、無機多孔質体を難燃性付与成分とみなし得ることがある。無機多孔質体を難燃性付与成分とみなす場合でも、その添加量の好ましい上限は上述したように40wt%であり、これは、先に説明した難燃性付与成分の添加量の好ましい上限と同じである。
具体的な一例として、樹脂成分として、ポリ乳酸または乳酸共重合体を選択し、難燃性付与成分としてCeOおよび/またはLaを選択する場合を説明する。この場合、無機多孔質体としては、酸化ケイ素(シリカ)から成る多孔質体であって、孔径が10〜50nmである細孔を45〜55vol%の割合で有し、粒径が100〜500nmのものが好ましく使用される。CeOおよび/またはLaは、シリカ多孔質体100重量部に対し5〜45重量部の割合でシリカ多孔質体に担持されることが好ましく、10〜35重量部の割合で担持されることがより好ましい。CeOおよび/またはLaを、担持したシリカ多孔質体は、組成物全体の5〜40wt%を占めるように添加することが好ましく、5〜15wt%を占めるように添加することがより好ましい。この無機多孔質体を添加して混練して得られる樹脂組成物において、無機多孔質体は25〜150nmの粒径を有する微粒子として樹脂中に分散し、CeOおよび/またはLaは樹脂組成物中、0.5〜5.25wt%の割合で混合されることとなる。このように、無機多孔質体を使用することによって、難燃性付与成分の添加割合を小さくすることができる。
本発明の樹脂組成物は、上記触媒から選択される難燃性付与成分に加えて、他の難燃助剤を含んでよい。前述のように、難燃助剤は、それ単独では難燃成分とならないが、難燃成分とともに添加されると、難燃成分の難燃性向上効果をより高くする役割をする。したがって、上記触媒から選択される1または複数の触媒を難燃成分として使用する場合、難燃助剤を使用することにより、触媒の添加量をより小さくすることができる。難燃助剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、およびパーオキシジカーボネート等の有機過酸化物、ジメチル−ジフェニルブタン、ならびにそれらの誘導体から選択される1または複数の化合物を使用できる。有機過酸化物を難燃助剤として使用する場合には、樹脂組成物において有機過酸化物は酸素を放出し、それにより樹脂組成物の難燃性が向上すると推定される。また、ジメチル−ジフェニルブタンを難燃助剤として使用する場合には、ジメチル−ジフェニルブタンはラジカルトラップ効果を発揮して、それにより樹脂組成物の難燃性が向上すると推定される。但し、これらの推定は本発明の範囲に影響を及ぼすものではない。複数の化合物を使用する場合、その混合比は特に限定されず、所望の難燃特性が得られるように任意に選択される。難燃助剤は、難燃成分の種類および添加量に応じて、例えば、難燃成分100重量部に対し5〜45重量部となるように添加してよい。また、難燃助剤と難燃成分とを合わせた量(即ち、難燃性付与成分の量)は、樹脂組成物全体の5〜40wt%に相当する量であることが好ましい。その理由は先に説明したとおりである。
本発明の樹脂組成物は、上記の成分(即ち、樹脂成分、難燃性付与成分(無機多孔質体に担持させる場合は無機多孔質体を含む)に加えて、他の成分を含んでよい。例えば、樹脂組成物を所望の色とするために、着色剤等を含んでよい。また、必要に応じて、樹脂組成物の物性等を所望のものとするために、例えば、前述したように、耐衝撃性を向上させるためにブタジエン系ゴム等を含んでよい。耐衝撃性を向上させるためには、これ以外にアクリル系ゴムおよび/またはシリコーン系ゴム等をも含んでよい。これらのゴムは、生分解性樹脂および/または植物由来の樹脂の耐衝撃性を向上させることが望まれる場合にも使用され得る。
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と難燃性付与成分とを混練することにより製造される。混練は、例えば、ペレット形状の樹脂組成物を製造する場合に、ペレットを得る前に実施してよい。あるいは、ペレット形状の樹脂(または樹脂組成物)を難燃性付与成分と混練した後、再度ペレットの形状にしてもよい。あるいはまた、成形工程において、難燃性付与成分を含まない溶解した樹脂に、難燃性付与成分を混合することもできる。一般に電化製品の外装体をプラスチックの成形により製造する場合には、樹脂を溶解し、所定の形状を有する金型に射出成形する方法や、樹脂を溶解し、上型と下型とを用いて圧力を加える圧縮成形法が採用される。それらの成形方法においては、溶解した樹脂を、ニーダー等を用いて混練する工程が実施される。したがって、その混練の際に、難燃性付与成分を樹脂成分に混合して、難燃性樹脂組成物から成る成形体を得るようにしてよい。そのように難燃性付与成分を添加すれば、難燃性付与成分を添加する別の工程を要しないため、効率的に本発明の樹脂組成物が得られる。
本発明の樹脂組成物は、実質的にハロゲンを含まない触媒を難燃性付与成分として用いて、環境に優しい樹脂または汎用ポリスチレンに難燃性を付与したものであり、成形体として、各種電化製品の筐体または部品に好ましく使用される。本発明の樹脂組成物は、具体的には、コンピュータ、携帯電話、オーディオ製品(例えば、ラジオ、カセットデッキ、CDプレーヤー、MDプレーヤー)、マイクロフォン、キーボード、およびポータブルオーディオプレーヤーの筐体および部品の部材として使用される。あるいは、本発明の樹脂組成物は、自動車内装材、二輪車外装材、および家庭用各種雑貨類等に使用してもよい。
(試験1)
トウモロコシを原料として合成されたポリ乳酸(PLA)70wt%と、ポリブチレンサクシネート(PBS)30wt%とを、2軸混練機を用いて混練して、ペレットを作製した(ステップ1)。ここで、PBSは耐熱性の向上を目的として混合された。これにより得られたペレットに、難燃成分としてシリカ−マグネシア触媒(MgO:24.5wt%)の粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なシリカ−マグネシア触媒の混合割合を求めた。
この試験における組成物の配合シーケンスは図1に示すフロー図で示される。この試験では、ステップ1で得られたペレットと、難燃成分として予め加熱処理して賦活したシリカ−マグネシア触媒とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。この試験では、ペレットとシリカ−マグネシア触媒の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。シリカ−マグネシア触媒は、約2〜80μmの粒径を有する粉末の形態で使用した。混練によって触媒は破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。評価の結果、UL規格V0の難燃性を得るためには、PLA−PBSペレットとシリカ−マグネシア触媒の配合比は、90:10(重量比)とする必要があった。シリカ−マグネシア触媒を10wt%の割合で含む試験片について実施した、UL−94垂直燃焼試験の結果を試験1の結果として表3に示す。
(試験2)
トウモロコシを原料として合成されたポリ乳酸(PLA)とシリカ−マグネシア触媒(MgO:24.5wt%)の粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なシリカ−マグネシア触媒の混合割合を求めた。
この試験における組成物の配合シーケンスは図2に示すフロー図で示される。この試験では、ポリ乳酸(PLA)ペレットと、難燃成分として予め加熱処理して賦活したシリカ−マグネシア触媒とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験では、ペレットとシリカ−マグネシア触媒の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。シリカ−マグネシア触媒は、試験1で使用したものと同様のものを使用した。この触媒は、混練によって破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。評価の結果、UL規格V0の難燃性を得るためには、PLAペレットとシリカ−マグネシア触媒の配合比は、90:10(重量比)とする必要があった。シリカ−マグネシア触媒を10wt%の割合で含む試験片について実施した、UL−94垂直燃焼試験の結果を試験2の結果として表3に示す。
(試験3:参考例)
試験1と同様の手順に従って、ポリ乳酸(PLA)とポリブチレンサクシネート(PBS)とを混練して、ペレットを作製した(ステップ1)。
この試験における組成物の配合シーケンス(順序)もまた試験1と同様に図1に示すフロー図で示される。この試験では、難燃成分であるLa触媒を、SiO多孔体に担持させた。La触媒は、多孔体100重量部に対して40重量部の割合で担持させた。ステップ1で得たペレット90wt%と、Laを担持したSiO多孔体10wt%とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。この試験で使用したSiO多孔体は、空隙率が約45〜50vol%であり、約100nm〜1000nm程度の粒径を有していた。このSiO多孔体は、樹脂と混練されるときに剪断力が作用して破砕され、最終的に約25nm〜150nm程度の粒径(平均粒径75nm程度)を有するより細かい粒子となって、樹脂中に分散していた。また、樹脂組成物中のLa触媒の含有率は、4wt%と算出された。
得られた試験片を、試験1と同様にして、UL−94垂直燃焼試験に付した。結果を表3に示す。表3の結果から、このサンプルはUL規格V0であると評価された。
(試験4:参考例)
試験1のステップ1で得られたペレットに、SiO多孔体に担持させることなくLa触媒の粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なLa触媒の混合割合を求めた。
この試験における組成物の配合シーケンス(順序)もまた試験1と同様に図1に示すフロー図で示される。この試験では、ステップ1で得られたペレットと、難燃成分としてのLa触媒とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。この試験では、ペレットとLa触媒の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。La触媒は、SiO多孔体に担持させることなく、約5〜100μmの粒径を有する粉末の形態で使用した。この場合、混練によって粉末は破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。従って、試験3と同様のUL規格V0の難燃性を得るためには、ペレットとLa触媒の配合比は、86:14(重量比)とする必要があった。La触媒を14wt%の割合で含む試験片について実施した、UL−94垂直燃焼試験の結果を試験4の結果として表3に示す。
(試験5:参考例)
PS樹脂ペレットとシリカ−マグネシア触媒(MgO:24.5wt%)の粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なシリカ−マグネシア触媒の混合割合を求めた。
この試験における組成物の配合シーケンスは図2に示すフロー図で示される。この試験では、PS樹脂ペレットと、難燃成分として予め加熱処理して賦活したシリカ−マグネシア触媒とPS触媒ペレットとを、2軸混練機にて180℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験では、ペレットとシリカ−マグネシア触媒の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。シリカ−マグネシア触媒は、試験1で使用したものと同様のものを使用した。混練によって触媒は破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。
従って、UL規格V0の難燃性を得るためには、ペレットとシリカ−マグネシア触媒の配合比は、88:12(重量比)とする必要があった。シリカ−マグネシア触媒を12wt%の割合で含む試験片について実施した、UL−94垂直燃焼試験の結果を試験5の結果として表3に示す。
(試験6:参考例)
PS樹脂ペレットとCeO触媒の粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なCeO触媒の混合割合を求めた。
この試験における組成物の配合シーケンスは図2に示すフロー図で示される。この試験では、PS樹脂ペレットと、難燃成分としてCeO触媒の粉末とを、2軸混練機にて180℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験では、ペレットとCeO触媒の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。CeO触媒は、約8〜70μmの粒径を有する粉末の形態で使用した。この場合、混練によって粉末は破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。
従って、UL規格V0の難燃性を得るためには、ペレットとCeO触媒の配合比は、88:12(重量比)とする必要があった。CeO触媒を12wt%の割合で含む試験片について実施した、UL−94垂直燃焼試験の結果を試験6の結果として表3に示す。
(試験7:参考例)
PS樹脂ペレットとCeO触媒をSiO多孔体に担持させたものを混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なCeO触媒の混合割合を求めた。
この試験における組成物の配合シーケンス(順序)は図2に示すフロー図で示される。この試験では、難燃成分であるCeO触媒を、SiO多孔体に担持させた。CeO触媒は、多孔体100重量部に対して42重量部の割合で担持させた。PS樹脂ペレット90wt%と、CeO触媒を担持したSiO多孔体10wt%とを、2軸混練機にて180℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験で使用した、SiO多孔体粒子は、試験3で使用したものと同じものであり、混練により、最終的にナノ・オーダーの微粒子となって樹脂中に分散していた。また、樹脂組成物中のCeO触媒の含有率は、4.2%と算出された。
得られた試験片を、試験1と同様にして、UL−94垂直燃焼試験に付した。結果を表3に示す。表3の結果から、このサンプルはUL規格V0であると評価された。
(試験8)
試験1と同様の手順に従って、ポリ乳酸(PLA)とポリブチレンサクシネート(PBS)とを混練して、ペレットを作製した(ステップ1)。この試験における組成物の配合シーケンス(順序)もまた試験1と同様に図1に示すフロー図で示される。この試験では、ステップ1で得たペレット90wt%と試験1で使用したのと同じ難燃成分であるシリカ−マグネシア触媒5wt%と、難燃助剤としてのt−ブチルトリメチルシルパーオキサイド(日本油脂製パーブチルSM)5wt%とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。
得られた試験片を、試験1と同様にして、UL−94垂直燃焼試験に付した。結果を表3に示す。表3の結果から、このサンプルはUL規格V0であると評価された。
(試験9)
ケナフの茎部分をハンマー等でつぶしたものに水を加え、ミキサーを用いて繊維長が100μm程度になるまで攪拌することによりカットした。次いで、ケナフと水との混合物をバットに広げて置き、乾燥炉(60℃)に入れ、48時間乾燥させた。乾燥後、バットからケナフを掻き取って、ポリ乳酸と混合するケナフ繊維を得た。ポリ乳酸(PLA)ペレットとケナフ繊維とを70:30(重量比)の割合で2軸混練機に入れて混練し、ペレットを作製した。次に、このペレットを85wt%と、シリカ−マグネシア触媒(MgO:24.5wt%)を15wt%とを、試験1と同じ手順で配合して、難燃性樹脂組成物から成る試験片を作製した。これを、試験1と同様の手順で、UL−94垂直試験に付したところ、V0規格に適合する難燃性を有していた。結果を表3に示す。
(試験10)
ポリ乳酸(PLA)50wt%と、ポリブチレンサクシネート22.5wt%と、シリカ−マグネシア触媒(MgO:24.5wt%)12.5wt%と、Mg(OH)15wt%とを、2軸混練機に投入し、500rpm、195℃で混練を行ってペレットを作製した。得られたペレットを射出成形機に入れ、テレビジョン受像機バックカバー用の金型を用いて射出成形を実施した。このとき、成形温度は180℃とし、急冷による難燃成分の溶出を回避するために金型温度は80℃とした。成形後、金型を冷却し、室温状態で成形品を取り出して、テレビジョン受像機のバックカバーを得た。
得られたバックカバーの物性を、PS(ポリスチレン)にハロゲン系難燃剤を混合して成る従来の樹脂組成物を用いて成形したテレビジョン受像機のバックカバーの物性と比較したところ、大きな差異は確認されなかった。
また、この樹脂組成物の難燃性を評価するために、上記の組成物を用いて125mm×13mm×3.2mmの試験片をプレス成形により作製し(成形温度180℃、圧力120kg/cm)、UL−94垂直燃焼試験を行った。その結果を本試験の結果として表3に示す。
(試験11:参考例)
ポリスチレン(PS)92wt%に対しブタジエンゴムが8wt%含有されたHIPS樹脂88wt%と、シリカ−マグネシア触媒(MgO:24.5wt%)12wt%とを、2軸混練機に投入し、500rpm、180℃で混練を行ってペレットを作製した。得られたペレットを射出成形機に入れ、テレビジョン受像機バックカバー用の金型を用いて射出成形を実施した。このとき、成形温度は180℃とし、金型温度は常温とした。成形後、金型を冷却し、室温状態で成形品を取り出して、テレビジョン受像機のバックカバーを得た。
得られたバックカバーの物性を、HIPSにハロゲン系難燃剤を混合して成る従来の樹脂組成物を用いて成形したテレビジョン受像機のバックカバーの物性と比較したところ、大きな差異は確認されなかった。
また、この樹脂組成物の難燃性を評価するために、上記の組成物を用いて125mm×13mm×3.2mmの試験片をプレス成形により作製し(成形温度180℃、圧力120kg/cm)、UL−94垂直燃焼試験を行った。その結果を本試験の結果として表3に示す。
(試験12:比較例)
試験1で採用した手順と同様の手順に従って、ポリ乳酸(PLA)とポリブチレンサクシネート(PBS)とを混練して、ペレットを作製した(ステップ1)。これにより得られたペレットに、難燃成分として、MgO粉末とSiO粉末を1:3(重量比)の割合で混合した混合粉末を混合した。
この試験で使用した組成物の配合シーケンス(順序)もまた試料1と同様に図1に示すフロー図で示される。この試験では、ステップ1で得られたペレットと、予め加熱処理して賦活したMgOおよび同様に加熱処理したSiOとを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。この試験では、ペレットと混合粉末の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。MgOとSiOは、それぞれ約2〜80μmの粒径を有する粉末の形態で使用した。混練によって粉末は破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。評価の結果、いずれの試験片においてもUL規格V0の難燃性を得られなかった。最も燃えにくかった試験片におけるPLA−PBSペレットとMgOとSiOとの配合比は、90:2.5:7.5(重量比)であった。この配合比で試験片を作製し、UL−94垂直燃焼試験を行った。その結果を本試験の結果として表3に示す。
(試験13:比較例)
トウモロコシを原料として合成されたポリ乳酸(PLA)に、難燃成分としてMgO粉末とSiO粉末を混練した。
この試験で使用した組成物の配合シーケンスは図2に示すフロー図で示される。この試験では、ポリ乳酸(PLA)ペレットと、予め加熱処理して賦活したMgOおよび同様に加熱処理したSiOとを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験では、ペレットとMgO粉末とSiO粉末の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。MgO粉末とSiO粉末は、試験12で使用したものと同様のものを使用した。この粉末は、混練によって破砕されず、初期の粉末の大きさのままで樹脂中に分散していた。種々の配合比で試験片を作り、UL−94垂直燃焼試験を行った。評価の結果、いずれの試験片においてもUL規格V0の難燃性を得られなかった。最も燃えにくかったPLA樹脂ペレットとMgOとSiOとの配合比は、90:2.5:7.5(重量比)であった。この配合比で試験片を作製し、UL−94垂直燃焼試験を行った。その結果を試験13の結果として表3に示す。
(試験14:参考例)
PS樹脂ペレットに、難燃成分としてMgO粉末とSiO粉末を混練した。この試験で使用した組成物の配合シーケンスは図2に示すフロー図で示される。この試験では、PS樹脂ペレットと、予め加熱処理して賦活したMgOおよび同様に加熱処理したSiOとを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験では、ペレットとMgOとSiOの混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。MgO粉末とSiO粉末は、試験12で使用したものと同様のものを使用した。この粉末は、混練によって破砕されず、初期の粉末の大きさのままで樹脂中に分散していた。種々の配合比で試験片を作り、UL−94垂直燃焼試験を行った。評価の結果、いずれの試験片においてもUL規格V0の難燃性を得られなかった。最も燃えにくかったPS樹脂ペレットとMgOとSiOとの配合比は、90:2.4:7.6(重量比)であった。この配合比の試験片の難燃性の評価結果を試験14の結果として表3に示す。
(試験15:参考例)
HIPS樹脂ペレットに、難燃成分としてMgO粉末とSiO粉末を混練した。
この試験で使用した組成物の配合シーケンスは図2に示すフロー図で示される。この試験では、HIPS樹脂ペレットと、予め加熱処理して賦活したMgOおよび同様に加熱処理したSiOとを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験では、ペレットとMgOとSiOとの混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。MgO粉末とSiO粉末は、試験12で使用したものと同様のものを使用した。この粉末は、混練によって破砕されず、初期の粉末の大きさのままで樹脂中に分散していた。種々の配合比で試験片を作り、UL−94垂直燃焼試験を行った。評価の結果、いずれの試験片においてもUL規格V0の難燃性を得られなかった。最も燃えにくかったHIPS樹脂ペレットとMgOとSiOとの配合比は、90:2.6:7.4(重量比)であった。この配合比の試験片の難燃性の評価結果を表3に示す。
試験12〜15の結果より、MgOとSiOを複合酸化物(または結合した形態)ではなく、単に混ぜ合わせて使用する場合には、PLA−PBS樹脂、PLA樹脂、PS樹脂およびHIPS樹脂のいずれにも十分な難燃性を付与することはできなかった。
(試験16)
トウモロコシを原料として合成されたポリ乳酸(PLA)に、シリカ−マグネシア触媒(MgO:10.2wt%)の粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なシリカ−マグネシア触媒の混合割合を求めた。この触媒中のMgOの割合は、試験2で使用した触媒中のそれの半分程度である。
この試験で使用した組成物の配合シーケンスは図2に示すフロー図で示される。この試験では、ポリ乳酸(PLA)ペレットと、難燃成分として予め加熱処理して賦活したシリカ−マグネシア触媒とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験では、ペレットとシリカ−マグネシア触媒の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。シリカ−マグネシア触媒は、試験1で使用したものと同様のものを使用した。この触媒は、混練によって破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。評価の結果、最も燃えにくかった試験片におけるPLA樹脂ペレットとシリカ−マグネシア触媒の配合比は、90:10(重量比)であった。この配合比で試験片を作製し、UL−94垂直燃焼試験を行った。その結果を試験16の結果として表3に示す。この結果からわかるように、この試験片はV0の難燃性には至っているが、燃焼時間が、触媒の配合比が同じである試験2で作製した試験片よりも長くなっている。これは、シリカ−マグネシア触媒におけるMgOの割合が小さいことによると考えられる。
(試験17)
トウモロコシを原料として合成されたポリ乳酸(PLA)に、シリカ−マグネシア触媒(MgO:48.5wt%)の粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なシリカ−マグネシア触媒の混合割合を求めた。この触媒中のMgOの割合は、試験2で使用した触媒中のそれの約2倍である。
この試験で使用した組成物の配合シーケンスは図2に示すフロー図で示される。この試験では、ポリ乳酸(PLA)ペレットと、難燃成分として予め加熱処理して賦活したシリカ−マグネシア触媒とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験では、ペレットとシリカ−マグネシア触媒の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。シリカ−マグネシア触媒は、試験1で使用したものと同様のものを使用した。この触媒は、混練によって破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。評価の結果、最も燃えにくかったPLA樹脂ペレットとシリカ−マグネシア触媒の配合比は、90:10(重量比)であった。この配合比で試験片を作製し、UL−94垂直燃焼試験を行った。その結果を試験17の結果として表3に示す。この結果からわかるように、この試験片はV0の難燃性を有しているが、燃焼時間が、触媒の配合比が同じである試験2で作製した試験片のそれとほぼ変わりない。このことは、シリカ−マグネシア触媒においてMgOがある割合を越えて多く含まれていても、難燃化の効果が特に変化しないことを示していると考えられる。
(試験18:参考例)
PSとポリフェニレンエーテル(PPE)が50wt%ずつ混合されているPS/PPEペレットと、シリカ−マグネシア触媒(MgO:24.5wt%)の粉末とを混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るのに必要なシリカ−マグネシア触媒の混合割合を求めた。
この試験で使用した組成物の配合シーケンスは図2に示すフロー図で示される。この試験では、PS/PPEペレットと、難燃成分として予め加熱処理して賦活したシリカ−マグネシア触媒とを、2軸混練機にて245℃で混練し(ステップ1)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度240℃、圧力120kg/cm)(ステップ2)。この試験では、ペレットとシリカ−マグネシア触媒の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。シリカ−マグネシア触媒は、試験1で使用したものと同様のものを使用した。この触媒は、混練によって破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。評価の結果、UL規格V0の難燃性を得るためには、PLAペレットとシリカ−マグネシア触媒の配合比は、90:10(重量比)とする必要があった。シリカ−マグネシア触媒を10wt%の割合で含む試験片について実施した、UL−94垂直燃焼試験の結果を試験18の結果として表3に示す。
Figure 0005345720
上記の試験においては、難燃成分として、接触分解触媒であるシリカ−マグネシア触媒を例示したが、SiO/Al触媒、SiO/Al/MgO触媒およびその他の触媒でもほぼ同様の効果が得られることを確認した。なお、表3において、試料番号1〜18は、上記試験1〜18による試料であり、UL規格の垂直燃焼試験を行った結果を示すものである。
また、単独で、またはSiO多孔体に添着させる難燃成分として、LaおよびCeOを例示したが、SnO、CuOおよびその他の触媒でもほぼ同様の効果が得られることを確認した。
本発明の樹脂組成物は、原料入手または使用後の廃棄の点で環境への負荷が小さい生分解性樹脂および/または植物由来の樹脂に、難燃性を付与したものであり、工業的な実用性が高いことを特徴とする。また、本発明は、従来、多くの場合ハロゲン系難燃剤を用いて行われていたPS樹脂の難燃化を非ハロゲン系難燃性付与成分を用いて実現することにより、環境負荷が小さく、工業的価値が高いPS樹脂を得ることを可能にしたことを特徴とする。さらに、本発明において使用する難燃性付与成分は化学工業において用いられる触媒であるから、例えば、炭化水素の接触分解等で使用した廃触媒を回収して本発明の樹脂組成物を製造するために利用することもでき、本発明は廃棄物のリサイクルの観点からも工業的価値が高い。したがって、本発明の樹脂組成物は、種々の物品を構成するのに適し、特に電化製品等の外装体を構成する材料として有用である。

Claims (1)

  1. ポリ乳酸または乳酸共重合体を55wt%以上含む樹脂成分と、難燃性を付与する難燃性付与成分とを含む難燃性樹脂組成物を射出成形法または圧縮成形法により成形する電化製品の外装体の製造方法であって、
    前記難燃性付与成分が接触分解触媒であり、前記接触分解触媒は、酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの複合酸化物、または両者が結合して成るシリカ−マグネシア触媒であり、
    前記難燃性樹脂組成物において前記難燃性付与成分の占める割合が0.5wt%〜40wt%である
    ことを特徴とする電化製品の外装体の製造方法。
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