JPWO2012046311A1 - 内燃機関の燃焼制御装置 - Google Patents

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Abstract

エンジンの運転状態を左右する環境条件や運転条件が一般的な標準状態である場合に適用される基準目標レール圧マップより求められた基準目標レール圧で燃料噴射が行われている状態から、パイロット噴射で噴射された燃料による筒内の予熱が不十分となっていることに起因して燃焼が悪化する状況となった場合に、上記基準目標レール圧を減圧補正して目標レール圧を設定する。これにより、パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼場での熱エネルギの密度を高めて、この燃焼場を高温化し、筒内の十分な予熱を図ってメイン噴射で噴射された燃料の失火を回避する。

Description

本発明は、ディーゼルエンジンに代表される圧縮自着火式の内燃機関の燃焼制御装置に係る。特に、本発明は、燃焼室内での燃焼を悪化させる要因が生じた場合に燃焼安定性を確保するための対策に関する。
従来から周知のように、自動車用エンジン等として使用されるディーゼルエンジンにあっては、燃焼室内での燃焼過程の初期段階における燃焼圧力や燃焼温度の急激な上昇を抑えて、燃焼音の低減や排気中に含まれる窒素酸化物(NOx)の低減を図るためのパイロット噴射が行われている(例えば下記の特許文献1を参照)。
つまり、パイロット噴射により噴射された燃料の自己着火によって筒内を予熱(予混合燃焼により予熱)した状態でメイン噴射を実行することによって、このメイン噴射で噴射された燃料の燃焼過程の初期段階における燃焼圧力や燃焼温度の上昇を緩慢にする。これにより、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼を安定化させて、燃焼音の低減やNOx発生量の低減を図るようにしている。
特開2009−299490号公報 特開2004−340026号公報
しかしながら、上記ディーゼルエンジンにあっては、その運転状態を左右する各種条件(環境条件等)が一般的な標準状態とは異なっている場合に、上記パイロット噴射での予混合燃焼に着火遅れ(予混合燃焼開始の遅れ期間)が大きくなってしまう可能性がある。
具体的には、標高が高い高地での走行時、燃料性状(例えばセタン価)が標準的なものよりも劣悪な場合、低外気温時、エンジン負荷の急速な変化時(運転過渡時)などといった条件下では予混合燃焼での着火遅れが大きくなってしまう可能性がある。
つまり、高地の走行時は、大気中の酸素濃度が低いため、予混合燃焼を行う上での酸素濃度条件が標準的な酸素濃度条件(標高が比較的低い道路の走行時における酸素濃度条件)から乖離していることが原因で予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう。また、低セタン価(標準的な軽油(例えばセタン価が「55」程度のもの)よりもセタン価が低いものをいう)の燃料を使用している場合には、標準的な燃料とのセタン価の乖離が原因で着火性が悪化し予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう。また、上記低外気温時は、筒内温度も比較的低く、予混合燃焼を行う上での温度環境条件が標準的な温度環境条件から乖離していることが原因で予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう。更に、上記エンジン負荷の急速な変化時において、その負荷変化に応じた吸入空気の充填量が得られていない場合には、予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう。
このように予混合燃焼の着火遅れが大きくなる状況では、筒内の予熱不足に起因してメイン噴射で噴射された燃料の着火遅れも大きくなり、場合によっては燃焼室内での失火に至ってしまう可能性がある。
例えば、上記低セタン価燃料であることに起因する着火性の悪化について説明すると、この低セタン価燃料の使用に起因して着火遅れ(パイロット噴射で噴射された燃料の着火遅れ及びメイン噴射で噴射された燃料の着火遅れ)が大きくなると、エンジン回転数が目標回転数にまで達せず、ターボチャージャを備えたエンジンシステムにあってはターボ過給効率の悪化に伴う過給遅れが生じる。この過給遅れにより筒内圧力の上昇に遅れが生じ、それに伴って筒内温度の上昇にも遅れが生じることになる。その結果、燃料の着火タイミングが更に遅れることになる。このような着火タイミングの遅れと劣悪な燃料性状(低セタン価)とにより筒内の燃焼悪化が増幅され、場合によっては失火に至ってしまう可能性がある。
失火の発生を防止するための対策としては、パイロット噴射の噴射タイミングを進角側に移行させたり、その燃料噴射量を増量させたりすることが考えられる。
ところが、噴射タイミングを進角側に移行させた場合、燃焼場での当量比がリーンとなってHCの発生量の増大を招いたり、噴射燃料のペネトレーション(貫徹力)が相対的に大きくなって噴射燃料がシリンダの内壁面に付着することでその付着燃料による潤滑油の希釈が発生してしまう可能性がある。
また、燃料噴射量を増量させた場合、その増量分だけ総発熱量は増大するものの、燃料噴射時における吸熱反応での吸熱量が多くなり、燃料の気化が遅れ、パイロット噴射で噴射された燃料の着火遅れに伴って燃焼音が増大してしまう可能性がある。
これら噴射タイミングの進角量と燃料噴射の増量割合とを制限することで、それぞれの効果を発揮しながらそれぞれの不具合を最小限に抑えるようにすることも考えられるが、この場合、これら噴射タイミング及び燃料噴射量は、試行錯誤で適合(エンジンの種類毎に、それに適した噴射パターンを構築すること)を実施して取得していく必要があり、最適な噴射タイミング及び燃料噴射量であるか否かの判断が困難であると共に、エンジンの種類毎に実車実験を必要とすることになるため、適合作業に多大な労力が必要であった。
尚、上記低セタン価の燃料を使用した場合の燃焼性を改善するものとして上記特許文献2が提案されている。この特許文献2では、筒内圧によるエンジン加振力を検出し、そのエンジン加振力とセタン価との相関データに基づいてセタン価を判別する。そして、低セタン価燃料であった場合、燃料噴射圧力を一気に高めた後、数サイクル運転後、徐々に燃料噴射圧力を元の圧力に下げていくようにしている
しかしながら、このように、燃料噴射圧力を一気に高めた場合、燃料のペネトレーション(貫徹力)の急速な増大によって上記HC発生量の増大を招いたり燃料の壁面付着による潤滑油の希釈が発生してしまう可能性があるため好ましくない。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、燃焼室内での燃焼を悪化させる要因が生じた場合であっても、予混合燃焼の着火遅れを抑制し、適正な筒内予熱を行うことによって失火の防止が図れる内燃機関の燃焼制御装置を提供することにある。
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、燃焼室内での燃焼開始初期段階における筒内予熱期間での予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化が生じる可能性があると推定された場合に、燃料噴射圧力を低下させる。これによって、上記予熱のために噴射された燃料の燃焼場体積を縮小化させ、この燃焼場に存在するノルマルセタン(低温酸化反応が可能な直鎖の分子構造)の密度を高めることで、その燃焼場での熱エネルギの密度を高めて、この燃焼場の高温化、つまり筒内の十分な予熱が図れるようにしている。
−解決手段−
具体的に、本発明は、燃料噴射弁から燃焼室内に向けての燃料噴射として、少なくとも、主噴射と、この主噴射に先立って行われる副噴射とが実行可能な圧縮自着火式の内燃機関の燃焼制御装置を前提とする。この内燃機関の燃焼制御装置に対し、上記燃焼室内での燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化の発生が予測された場合に、燃料噴射圧力を所定量だけ低下させる燃料噴射圧力低下手段を備えさせている。
また、上記燃焼室内での燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化の発生の予測としては、運転されている地点の標高、使用されている燃料の性状、外気温度、運転過渡状態のうち少なくとも一つに基づいて行うようにしている。
上記燃焼悪化が生じる原因のうち上記標高が高い高地での運転では、大気中の酸素濃度が低いため副噴射で噴射された燃料の予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう。また、劣悪な性状の燃料(例えば低セタン価燃料)の使用では、着火性の悪化により上記予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう。また、低外気温では、筒内温度が低いために上記予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう。更に、運転過渡では、吸入空気の充填量が十分に得られていない場合に上記予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう。このような環境条件や運転条件の影響によって、燃焼室内での燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合には、燃料噴射圧力を所定量だけ低下させる。このように燃料噴射圧力を所定量だけ低下させた場合、副噴射で噴射された燃料の噴霧は燃焼室内の比較的狭小な範囲に集められることになる。このため、この噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)、つまり低温酸化反応が可能な分子構造体の密度が高くなる。そして、内燃機関の圧縮行程によって筒内の空気が圧縮されてノルマルセタンの着火可能温度(例えば700K程度)に達すると、燃料噴霧中のノルマルセタンが自己着火する。そして、上述の如く燃料噴射圧力が低く設定されている状態では燃料噴霧が燃焼室内の中央部に集められているため、その燃焼場での熱エネルギの密度が高くなり、この燃焼場の高温化を図ることが可能になる。つまり、主噴射の実行時には燃焼室内が十分に予熱されていることになり、失火の発生を防止することができる。
上記燃料噴射圧力低下手段の具体的な構成としては、上記燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化の発生が予測された場合に、燃料噴射圧力を予め設定された一定量だけ低下させることが挙げられる。また、上記燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化の発生が予測された場合に、燃料噴射圧力を要求パワーに応じて設定された所定量だけ低下させることも挙げられる。
上記要求パワーに応じて燃料噴射圧力を所定量だけ低下させる場合、要求パワーが低いほど燃料噴射圧力の減圧補正量を大きく設定するようにしている。
これらの特定事項により、副噴射で噴射された燃料の噴霧の体積の適正化を図ることができる。つまり、噴霧体積が大きくなり過ぎることによる予熱量の不足や、噴霧体積が小さくなり過ぎることによる燃焼場での酸素量不足を防止でき、燃焼室内の予熱が良好に行える。また、要求パワーが高い運転領域では、比較的筒内は高温化しているため、失火が発生する可能性は、要求パワーが低い運転領域に比べて大幅に低くなっている。このため、要求パワーが高い運転領域では燃料噴射圧力の減圧補正量を小さく設定することが可能である。逆に、要求パワーが低い運転領域では、筒内温度は比較的低くなっているため、失火が発生する可能性は、要求パワーが高い運転領域に比べて大幅に高くなっている。このため、要求パワーが低い運転領域では燃料噴射圧力の減圧補正量を大きく設定し、失火の発生を確実に防止するようにしている。
また、上記燃料噴射圧力低下手段によって燃料噴射圧力を低下させる場合の下限値が設定されており、上記燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化の発生が予測された場合における補正後の燃料噴射圧力は上記下限値以上の値に設定されるようにしている。
このようにして燃料噴射圧力を低下させる場合の下限値を設定しておくことにより、副噴射で噴射された燃料の噴霧の体積が小さくなり過ぎることによる燃焼場での酸素量不足を確実に防止でき、燃焼室内の予熱が良好に行える。
上記予熱不足に起因する燃焼悪化が生じていることの判定手法としては、上記副噴射が、少なくとも2回の分割副噴射により実行される場合において、第1回目の分割副噴射の実行後、第2回目の分割副噴射の実行までの期間における燃焼室内での熱発生率が所定値未満であった場合に燃焼悪化が生じていると判定して、燃料噴射圧力を所定量だけ低下させるようにしている。
つまり、環境条件や運転条件が一般的な標準状態となっている場合には、第1回目の分割副噴射の実行後、第2回目の分割副噴射の実行までの期間に、上記第1回目の分割副噴射の実行に伴う熱発生率が所定値以上となる。これに対し、高地での運転や劣悪な性状の燃料の使用等によって環境条件や運転条件が一般的な標準状態と異なっている場合には、第1回目の分割副噴射で噴射された燃料の着火遅れに起因して上記期間中における熱発生率が所定値未満となる。このような状況が継続すると失火に至ってしまう可能性がある。このことを検知し、上記期間における燃焼室内での熱発生率が所定値未満であった場合には燃料噴射圧力を所定量だけ低下させ、燃焼場での熱エネルギの密度を高くして燃焼室内を十分に予熱し、失火の発生を防止する。
上述の如く燃料噴射圧力を所定量だけ低下させた場合の主噴射に対する制御としては、上記メイン噴射の噴射期間を、上記所定量(燃料噴射圧力を低下させる所定量)に応じて延長化させるようにしている。
これにより、メイン噴射での必要噴射量が確保され、失火の防止と要求パワーの確保とを図ることが可能になる。
本発明では、燃焼室内での燃焼開始初期段階における筒内予熱期間での予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化が生じる可能性があると推定された場合に、燃料噴射圧力を低下させるようにしている。これにより、予熱のために噴射された燃料の燃焼場体積を縮小化させ、その燃焼場での熱エネルギの密度を高めることで、筒内の十分な予熱を図って失火の防止を図ることができる。
図1は、実施形態に係るエンジン及びその制御系統の概略構成図である。 図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室及びその周辺部を示す断面図である。 図3は、ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。 図4は、パイロット噴射及びメイン噴射の実行時における熱発生率(クランク軸の単位回転角度当たりの熱発生量)の変化及び燃料噴射率(クランク軸の単位回転角度当たりの燃料噴射量)の変化をそれぞれ示す波形図である。 図5は、基準目標レール圧を決定する際に参照される基準目標レール圧設定マップを示す図である。 図6は、パイロット噴射実行時における燃焼室内での燃料噴霧の状態を示し、図6(a)は燃料噴射圧力を低く設定した場合を示す図であり、図6(b)は燃料噴射圧力を高く設定した場合を示す図である。 図7は、燃料噴射圧力を減圧補正する際に参照されるレール圧補正マップを示す図である。 図8は、燃焼状態の悪化及び燃料噴射圧力の減圧補正それぞれに伴う熱発生率の変化を示す波形図であって、図8(a)は燃焼状態が悪化する前の熱発生率波形を、図8(b)は燃焼状態が悪化した後の熱発生率波形を、図8(c)は燃料噴射圧力を減圧補正した場合の熱発生率波形をそれぞれ示す図である。 図9は、第1の変形例におけるレール圧補正マップを示す図である。 図10は、第2の変形例におけるレール圧補正マップを示す図である。 図11は、第3の変形例におけるレール圧補正マップを示す図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの構成−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1及びその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、遮断弁24、燃料添加弁26、機関燃料通路27、添加燃料通路28等を備えて構成されている。
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。このインジェクタ23からの燃料噴射制御の詳細については後述する。
また、上記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、添加燃料通路28を介して燃料添加弁26に供給する。添加燃料通路28には、緊急時において添加燃料通路28を遮断して燃料添加を停止するための上記遮断弁24が備えられている。
また、上記燃料添加弁26は、後述するECU100による添加制御動作によって排気系7への燃料添加量が目標添加量(排気A/Fが目標A/Fとなるような添加量)となるように、また、燃料添加タイミングが所定タイミングとなるように開弁時期が制御される電子制御式の開閉弁により構成されている。つまり、この燃料添加弁26から所望の燃料が適宜のタイミングで排気系7(排気ポート71から排気マニホールド72)に噴射供給される構成となっている。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、スロットルバルブ(吸気絞り弁)62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力するようになっている。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73,74が接続されている。また、この排気通路には、NOx吸蔵触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction触媒)75及びDPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)76を備えたマニバータ(排気浄化装置)77が配設されている。以下、これらNSR触媒75及びDPNR触媒76について説明する。
NSR触媒75は、吸蔵還元型NOx触媒であって、例えばアルミナ(Al23)を担体とし、この担体上に例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類と、白金(Pt)のような貴金属とが担持された構成となっている。
このNSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、かつ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによってさらに還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。即ち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を上記燃料添加弁26からの燃料添加動作によって行うことが可能となっている。
一方、DPNR触媒76は、例えば多孔質セラミック構造体にNOx吸蔵還元型触媒を担持させたものであり、排気ガス中のPMは多孔質の壁を通過する際に捕集される。また、排気ガスの空燃比がリーンの場合、排気ガス中のNOxはNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵され、空燃比がリッチになると、吸蔵したNOxは還元・放出される。さらに、DPNR触媒76には、捕集したPMを酸化・燃焼する触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
ここで、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部の構成について、図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部にガスケット14を介して取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
尚、このキャビティ13bの形状としては、その中央部分(シリンダ中心線P上)では凹陥寸法が小さく、外周側に向かうに従って凹陥寸法が大きくなっている。つまり、図2に示すようにピストン13が圧縮上死点付近にある際、このキャビティ13bによって形成される燃焼室3としては、中央部分では比較的容積の小さい狭小空間とされ、外周側に向かって次第に空間が拡大される(拡大空間とされる)構成となっている。
上記ピストン13は、コネクティングロッド18の小端部18aがピストンピン13cにより連結されており、このコネクティングロッド18の大端部はエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
上記シリンダヘッド15には、燃焼室3へ空気を導入する吸気ポート15aと、燃焼室3から排気ガスを排出する上記排気ポート71とがそれぞれ形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16及び排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。これら吸気バルブ16及び排気バルブ17はシリンダ中心線Pを挟んで対向配置されている。つまり、本エンジン1はクロスフロータイプとして構成されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射するようになっている。
更に、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52及びコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気管64の内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73の内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。このインタークーラ61よりも更に下流側に設けられた上記スロットルバルブ62は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、この吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を適宜吸気系6に還流させて燃焼室3へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ82とが設けられている。これらEGR通路8、EGRバルブ81、EGRクーラ82等によってEGR装置(排気還流装置)が構成されている。
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62の上流において吸入空気の流量(吸入空気量)に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。A/F(空燃比)センサ44は、排気系7のマニバータ77の下流において排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。排気温センサ45は、同じく排気系7のマニバータ77の下流において排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42はスロットルバルブ62の開度を検出する。
−ECU−
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM104は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
入力インターフェース105には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44、排気温センサ45、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が接続されている。さらに、この入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40、外気の圧力を検出する外気圧センサ4A、及び、筒内圧力を検出する筒内圧センサ4Bなどが接続されている。一方、出力インターフェース106には、上記サプライポンプ21、インジェクタ23、燃料添加弁26、スロットルバルブ62、及び、EGRバルブ81などが接続されている。また、出力インターフェース106には、その他に、上記ターボチャージャ5の可変ノズルベーン機構に備えられたアクチュエータ(図示省略)も接続されている。
そして、ECU100は、上記した各種センサからの出力、その出力値を利用する演算式により求められた演算値、または、上記ROM102に記憶された各種マップに基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。
例えば、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、パイロット噴射(副噴射)とメイン噴射(主噴射)とを実行する。
上記パイロット噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する動作である。また、このパイロット噴射は、メイン噴射による燃料の着火遅れを抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作であって、副噴射とも呼ばれる。また、本実施形態におけるパイロット噴射は、上述したメイン噴射による初期燃焼速度を抑制する機能ばかりでなく、気筒内温度を高める予熱機能をも有するものとなっている。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を十分に高めて燃料の自着火温度(例えば1000K)に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するようにしている。
このパイロット噴射としては、予熱に必要な燃料量の供給を1回の噴射で実行する場合と、複数回の噴射で実行する場合(分割パイロット噴射)とがある。例えば、総パイロット噴射量が所定量以上に設定された場合には、複数回の分割パイロット噴射を実行し、各分割パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼開始時における吸熱量を抑えるようにする。尚、後述する筒内予熱動作では、2回のパイロット噴射を実行する場合について説明する。また、このパイロット噴射での噴射タイミング及び噴射量は、周知の如く、予め実験やシミュレーション等によって作成されたパイロット噴射タイミング設定マップ及びパイロット噴射量設定マップに従って設定される。
上記メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。このメイン噴射での噴射量は、基本的には、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるように決定される。例えば、エンジン回転数(クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されるエンジン回転数)が高いほど、また、アクセル操作量(アクセル開度センサ47により検出されるアクセルペダルの踏み込み量)が大きいほど(アクセル開度が大きいほど)エンジン1のトルク要求値としては高く得られ、それに応じてメイン噴射での燃料噴射量としても多く設定されることになる。また、上記パイロット噴射によって気筒内の予熱が十分に行われている場合には、メイン噴射で噴射された燃料は、直ちに自着火温度以上の温度環境下に晒されて熱分解が進み、噴射後は直ちに燃焼が開始されることになる。
具体的に、ディーゼルエンジンにおける燃料の着火遅れとしては、物理的遅れと化学的遅れとがある。物理的遅れは、燃料液滴の蒸発・混合に要する時間であり、燃焼場のガス温度に左右される。一方、化学的遅れは、燃料蒸気の化学的結合・分解かつ酸化発熱に要する時間である。そして、上述した如く気筒内の予熱が十分になされている状況では上記物理的遅れを最小限に抑えることができ、その結果、着火遅れも最小限に抑えられることになる。従って、メイン噴射によって噴射された燃料の燃焼形態としては、予混合燃焼が殆ど行われないことになり、大部分が拡散燃焼となる。その結果、メイン噴射の噴射タイミングを制御することがそのまま拡散燃焼の開始タイミングを制御することに略等しくなり、燃焼の制御性を大幅に改善することができる。つまり、メイン噴射で噴射された燃料の予混合燃焼の割合を最小限に抑えることで、メイン噴射での燃料噴射タイミング及び燃料噴射量を制御する(噴射率波形を制御する)ことによる熱発生率波形(着火時期及び熱発生量)の制御によって燃焼の制御性を大幅に改善することが可能になる。
尚、上述したパイロット噴射及びメイン噴射の他に、アフタ噴射やポスト噴射が必要に応じて行われる。アフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させるための噴射動作である。具体的には、供給された燃料の燃焼エネルギがエンジン1のトルクに変換されることなく、その大部分が排気の熱エネルギとして得られるタイミングでアフタ噴射は実行される。また、ポスト噴射は、排気系7に燃料を直接的に導入して上記マニバータ77の昇温を図るための噴射動作である。例えば、DPNR触媒76に捕集されているPMの堆積量が所定量を超えた場合(例えばマニバータ77の前後の差圧を検出することにより検知)、ポスト噴射が実行されるようになっている。
また、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ81の開度を制御し、吸気マニホールド63に向けての排気還流量(EGR量)を調整する。このEGR量は、上記ROM102に予め記憶されたEGRマップに従って設定される。具体的に、このEGRマップは、エンジン回転数及びエンジン負荷をパラメータとしてEGR量(EGR率)を決定するためのマップである。尚、このEGRマップは、予め実験やシミュレーション等によって作成されたものとなっている。つまり、上記クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されたエンジン回転数及びスロットル開度センサ42によって検出されたスロットルバルブ62の開度(エンジン負荷に相当)とをEGRマップに当て嵌めることでEGR量(EGRバルブ81の開度)が得られるようになっている。
−基準目標レール圧−
次に、エンジン1の運転状態を左右する各種条件(環境条件等)が一般的な標準状態となっている場合に適用される基準目標レール圧(基準燃料噴射圧)について説明する。
一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の基準目標値、即ち上記基準目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、及び、エンジン回転数(機関回転数)が高くなるほど高いものとされる。即ち、エンジン負荷が高い場合には燃焼室3内に吸入される空気量が多いため、インジェクタ23から燃焼室3内に向けて多量の燃料を噴射しなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。また、エンジン回転数が高い場合には噴射可能な期間が短いため、単位時間当たりに噴射される燃料量を多くしなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。このように、基準目標レール圧は一般にエンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて設定される。この基準目標レール圧を設定するための具体的な手法については後述する。
上記パイロット噴射やメイン噴射などの燃料噴射パラメータについて、その最適値はエンジン1や吸入空気等の温度条件によって異なるものとなる。
例えば、上記ECU100は、コモンレール圧がエンジン運転状態に基づいて設定される基準目標レール圧と等しくなるように、即ち燃料噴射圧が基準目標レール圧と一致するように、サプライポンプ21の燃料吐出量を調量する。また、ECU100はエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量及び燃料噴射形態を決定する。具体的には、ECU100は、クランクポジションセンサ40の検出値に基づいてエンジン回転速度を算出するとともに、アクセル開度センサ47の検出値に基づいてアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を求め、このエンジン回転速度及びアクセル開度に基づいて上記基準目標レール圧を決定する。
尚、本実施形態では、燃焼室3内での燃焼開始初期段階における予熱期間(具体的には上記パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼によって筒内を予熱する期間)での予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化が生じる可能性があると推定された場合には、上記基準目標レール圧に対して減圧補正を行って(燃料噴射圧力低下手段による燃料噴射圧力の低下動作)、それを目標レール圧として設定するようにしている。この基準目標レール圧の減圧補正の詳細については後述する。
−基準目標レール圧の設定−
次に、上記基準目標レール圧の設定手法及び基準目標レール圧設定マップについて具体的に説明する。先ず、基準目標レール圧を設定する際の技術的思想について説明する。
ディーゼルエンジン1においては、NOx発生量を削減することによる排気エミッションの改善、燃焼行程時の燃焼音の低減、エンジントルクの十分な確保といった各要求を連立することが重要である。これら要求を連立するためには、燃焼行程時における気筒内での熱発生率の変化状態(熱発生率波形で表される変化状態)を適切にコントロールすることが有効であり、この熱発生率の変化状態をコントロールするための手法として以下に述べるように基準目標レール圧が設定されている。
図4の上段に示す波形のうちの実線は、横軸をクランク角度、縦軸を熱発生率とし、2回のパイロット噴射及び1回のメイン噴射で噴射された燃料の燃焼に係る理想的な熱発生率波形を示している。図中のTDCはピストン13の圧縮上死点に対応したクランク角度位置を示している。また、図4の下段に示す波形は、インジェクタ23から噴射される燃料の噴射率(クランク軸の単位回転角度当たりの燃料噴射量)波形を示している。
上記熱発生率波形としては、例えば、ピストン13の圧縮上死点(TDC)後の所定タイミングからメイン噴射で噴射された燃料の燃焼が開始され、ピストン13の圧縮上死点後の所定ピストン位置(例えば、圧縮上死点後10度(ATDC10°)の時点)で熱発生率が極大値(ピーク値)に達するようになっている。このような熱発生率の変化状態で混合気の燃焼を行わせるようにすれば、例えば圧縮上死点後10度(ATDC10°)の時点で気筒内の混合気のうちの50%が燃焼を完了した状況となる。つまり、圧縮上死点後10度(ATDC10°)の時点が燃焼重心となって、膨張行程における総熱発生量の約50%がATDC10°までに発生し、高い熱効率でエンジン1を運転させることが可能となる。
以上のようにしてパイロット噴射によって気筒内の予熱が十分に行われた後に実行されるメイン噴射での燃料は、直ちに自着火温度以上の温度環境下に晒されて熱分解が進み、噴射後は直ちに燃焼(大部分が拡散燃焼)が開始されることになる。
また、図4に一点鎖線αで示す波形は、燃料噴射圧力が、適正値よりも高く設定された場合の熱発生率波形であり、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼速度及びピーク値が共に高くなりすぎており、燃焼音の増大やNOx発生量の増加が懸念される状態である。また、この場合、パイロット噴射で噴射された燃料は燃焼室3内の比較的広範囲に拡散され、熱エネルギの密度が低くなり、燃焼場の高温化を図ることが困難となる。一方、図4に二点鎖線βで示す波形は、燃料噴射圧力が、適正値よりも低く設定された場合の熱発生率波形であり、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼速度が低く且つピークの現れるタイミングが大きく遅角側に移行していることで十分なエンジントルクが確保できないことが懸念される状態である。また、この場合、パイロット噴射で噴射された燃料は燃焼室3内の中央部に過度に集中して存在することとなり、燃焼場での酸素量不足に伴って着火遅れが大きくなる。
ここで、上記熱発生率波形の各期間において燃焼を支配するパラメータについて説明する。先ず、図4における期間A(第1回目のパイロット噴射(以下、第1パイロット噴射で噴射と呼ぶ)が実行され、この第1パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼開始初期の期間)は、燃料噴霧中に含まれるノルマルセタン(n−セタン:低温酸化反応が可能直鎖の分子構造)の粒径に依存する噴霧律速の燃焼が行われる期間である。また、図4における期間B(第1パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼期間)は、燃料噴霧の空間分布による可燃混合気量に依存する噴霧律速の燃焼が行われる期間である。また、図4における期間C(第2回目のパイロット噴射(以下、第2パイロット噴射で噴射と呼ぶ)が実行され、この第2パイロット噴射で噴射された燃料が燃焼する期間)は、燃焼場の残存酸素による可燃混合気量に依存する酸素律速の燃焼が行われる期間である。更に、図4における期間D(第2パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼後、メイン噴射が開始されるまでの期間)は、燃焼室3内での酸素拡散速度による可燃混合気量に依存する噴霧律速の燃焼が行われる期間である。
(基準目標レール圧設定マップ)
図5は、上記基準目標レール圧を決定する際に参照される基準目標レール圧設定マップである。この基準目標レール圧設定マップは、例えば上記ROM102に記憶されている。また、この基準目標レール圧設定マップは、横軸がエンジン回転数であり、縦軸がエンジントルクとなっている。また、図5におけるTmaxは最大トルクラインを示している。
この基準目標レール圧設定マップの特徴として、図中にA〜Iで示す等燃料噴射圧力ライン(等燃料噴射圧力領域)は、アクセルペダルの踏み込み量などに基づいて求められるエンジン1に対する要求出力(要求パワー)の等パワーライン(等出力領域)に割り付けられている。つまり、この基準目標レール圧設定マップでは、等パワーラインと等燃料噴射圧力ラインとが略一致するように設定されている。
この基準目標レール圧設定マップに従って燃料圧力を決定することで、インジェクタ23の開弁期間(噴射率波形)を制御すれば、その開弁期間中における燃料噴射量を規定することが可能になり、燃料噴射量制御の簡素化および適正化を図ることができる。
具体的には、図5の曲線Aはエンジン要求出力が10kWのラインであり、これに基準目標レール圧として66MPaのラインが割り付けられている。以下、同様に、曲線Bはエンジン要求出力が20kWのラインであり、これに基準目標レール圧として83MPaのラインが割り付けられている。曲線Cはエンジン要求出力が30kWのラインであり、これに基準目標レール圧として100MPaのラインが割り付けられている。曲線Dはエンジン要求出力が40kWのラインであり、これに基準目標レール圧として116MPaのラインが割り付けられている。曲線Eはエンジン要求出力が50kWのラインであり、これに基準目標レール圧として133MPaのラインが割り付けられている。曲線Fはエンジン要求出力が60kWのラインであり、これに基準目標レール圧として150MPaのラインが割り付けられている。曲線Gはエンジン要求出力が70kWのラインであり、これに基準目標レール圧として166MPaのラインが割り付けられている。曲線Hはエンジン要求出力が80kWのラインであり、これに基準目標レール圧として183MPaのラインが割り付けられている。曲線Iはエンジン要求出力が90kWのラインであり、これに基準目標レール圧として200MPaのラインが割り付けられている。これら各値は、これに限定されるものではなく、エンジン1の性能特性等に応じて適宜設定される。
また、上記各ラインA〜Iは、エンジン要求出力の変化量に対する基準目標レール圧の変化量の割合が略均等に設定されている。
このようにして作成された基準目標レール圧マップに従い、エンジン1に対する要求出力に適した基準目標レール圧を設定し、サプライポンプ21の制御等を行うようになっている。
また、エンジン回転数とエンジントルクとが共に増加する場合(図5における矢印iを参照)、及び、エンジン回転数が一定でエンジントルクが増加する場合(図5における矢印iiを参照)、並びに、エンジントルクが一定でエンジン回転数が増加する場合(図5における矢印iiiを参照)の何れにおいても基準目標レール圧が高められる。これにより、エンジントルク(エンジン負荷)が高い場合における吸入空気量に適した燃料噴射量を確保し、また、エンジン回転数が高い場合における単位時間当たりの燃料噴射量を多くして短期間で必要燃料噴射量を確保することができる。
一方、エンジン回転数及びエンジントルクが変化したとしても、その変化後のエンジン出力が変化していない場合(図5における矢印ivを参照)には、基準目標レール圧を変化させないようにして、それまで設定されていた基準目標レール圧を維持する。つまり、上記等燃料噴射圧力ライン(等パワーラインに一致している)に沿うようなエンジン運転状態の変化では基準目標レール圧を変化させないようにし、上述した理想的な熱発生率波形での燃焼形態を継続させる。この場合、NOx発生量を削減することによる排気エミッションの改善、燃焼行程時の燃焼音の低減、エンジントルクの十分な確保といった各要求を継続的に連立させることができる。
以上のように、本実施形態における基準燃圧設定マップでは、エンジン1に対する要求出力(要求パワー)と燃料噴射圧力(コモンレール圧)との間に一義的な相関を持たせ、また、エンジン回転数及びエンジントルクの少なくとも一方が変化することでエンジン出力が変化する状況では、それに応じた適正な燃料圧力での燃料噴射が行えるようにし、逆に、エンジン回転数やエンジントルクが変化してもエンジン出力が変化しない状況では、燃料圧力をそれまで設定されていた適正値から変化させないようにしている。これによって、エンジン運転領域の略全域に亘って熱発生率変化状態を理想状態に近付けることが可能になる。
−基準目標レール圧の減圧補正−
次に、本発明の特徴である基準目標レール圧の減圧補正について説明する。この基準目標レール圧の減圧補正は、エンジン1の運転状態を左右する各種条件が一般的な標準状態となっており上記基準目標レール圧マップにより求められた基準目標レール圧で燃料噴射が行われている状態から、パイロット噴射で噴射された燃料による筒内の予熱が不十分となっていることに起因して燃焼室3内での燃焼が悪化する状況となる場合に実行される。具体的には、パイロット噴射で噴射された燃料の予混合燃焼の着火遅れが大きくなっている場合、または、この予混合燃焼の着火遅れが大きくなる可能性があると推定された場合に、このパイロット噴射での予熱量を十分に確保してメイン噴射で噴射された燃料の拡散燃焼に着火遅れ(拡散燃焼開始遅れ)が生じないようにするために上記基準目標レール圧の減圧補正が行われる。以下、具体的に説明する。
上記燃焼室3内での燃焼を悪化させる要因として、具体的には、高地の走行時、低セタン価燃料使用時、低外気温時、エンジン1の運転過渡時等が挙げられる。本実施形態では、これらが原因で燃焼室3内での燃焼状態が悪化した場合には、パイロット噴射で噴射された燃料の予混合燃焼の着火遅れが大きいことに起因して失火が発生する可能性があるとして、基準目標レール圧の減圧補正を行う。つまり、上記基準燃圧設定マップにより求められた基準目標レール圧を、後述するレール圧補正マップに従って補正することで、この補正後のレール圧を目標レール圧として設定し、サプライポンプ21の制御を行うようになっている。
より具体的には、エンジン1の運転状態をモニタしておき、燃焼室3内での燃焼が悪化した場合に、上記基準目標レール圧をレール圧補正マップに従って補正する(フィードバック制御によるレール圧補正)。または、上記燃焼室3内での燃焼状態を悪化させるパラメータ(高地の走行、低セタン価燃料の使用、低外気温、エンジン1の運転過渡)を検出しておき、このパラメータが燃焼室3内での燃焼状態を悪化させるものとなった場合に、上記基準目標レール圧をレール圧補正マップに従って補正する(フィードフォワード制御によるレール圧補正)。
燃料噴射圧力を減圧補正した場合の燃料噴霧の状態について説明する。図6は、パイロット噴射実行時における燃焼室3内での燃料噴霧の状態を示し、図6(a)は燃料噴射圧力を低く設定した場合を示す図であり、図6(b)は燃料噴射圧力を高く設定した場合を示す図である。
図6(b)に示すように燃料噴射圧力を高く設定した場合には、燃料噴霧の粒径は比較的小さくなり且つこの燃料噴霧は燃焼室3内の広範囲に拡散されることになる。このため、噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)の密度(噴霧の単位体積当たりに含まれるノルマルセタンの量)が低くなる(広域分布状態となる)。このノルマルセタンは、直鎖の分子構造を有するものであり、低温酸化反応が可能である。例えば筒内温度が700K程度であっても自己着火が可能である。つまり、圧縮行程によって筒内の空気が圧縮されて700K程度に達すると、燃料噴霧中のノルマルセタンが自己着火する。しかしながら、燃料噴射圧力が高く設定されている場合には燃料噴霧が燃焼室3内の広範囲に拡散しているため、その燃焼場での熱エネルギも広範囲に拡散されることになって熱エネルギの密度が低くなり、この燃焼場の高温化を図ることが困難である。
一方、図6(a)に示すように燃料噴射圧力を低く設定した場合には、燃料噴霧の粒径は比較的大きくなり且つこの燃料噴霧は燃焼室3内の比較的狭小な範囲に集められることになる。このため、噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)の密度が高くなる(狭域分布状態となる)。そして、圧縮行程によって筒内の空気が圧縮されて700K程度に達して燃料噴霧中のノルマルセタンが自己着火する際、燃料噴射圧力が低く設定されている状態では燃料噴霧が燃焼室3内の中央部に集められているため、その燃焼場での熱エネルギの密度が高くなり、この燃焼場の高温化を図ることが可能になる。
<フィードバック制御によるレール圧補正>
次に、基準目標レール圧の減圧補正として、上記フィードバック制御によるレール圧補正について説明する。この場合に、燃焼室3内での燃焼状態が悪化しているか否かの判定は、燃焼過程における熱発生率波形に基づいて行う。つまり、燃焼室3内での燃焼に伴う熱発生率は筒内圧力に相関があるため、このことを利用し、上記筒内圧センサ4Bによって検出された筒内圧力からパイロット噴射で噴射された燃料の燃焼による熱発生率を推定する。そして、2回の分割パイロット噴射を実行する場合に、第1パイロット噴射の噴射完了から第2パイロット噴射の噴射開始までの期間中における熱発生率の極大値が所定値に達していない場合(例えば20J/degに達していない場合)には燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判断して基準目標レール圧の減圧補正を行うようにしている。上記値はこれに限定されるものではなく、予め実験やシミュレーション等によって設定されている。
図7は、燃料噴射圧力を減圧補正する際に参照されるレール圧補正マップである。このレール圧補正マップは、基準目標レール圧に対して上記減圧補正を行う範囲(要求パワーの範囲)と、その基準目標レール圧に対する減圧補正量とを、要求パワーに応じて設定するマップである。つまり、要求パワーが図中のPW1以下である際に、燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判定された場合には基準目標レール圧を一定量(例えば30MPa)だけ減圧補正することで目標レール圧を設定するようになっている。例えば、要求パワーが図中のPW2(例えば30kW)であり、上記図5に示す基準燃圧設定マップにより取得された基準目標レール圧がP2(例えば100MPa)であった場合に、燃焼状態が悪化していると判定された場合には、目標レール圧をP3(例えば70MPa)に設定するようになっている。尚、この目標レール圧には下限値(例えば50MPa)が設定されている。これは、目標レール圧を低く設定し過ぎるとパイロット噴射で噴射された燃料の噴霧の体積(燃焼場)が小さくなり過ぎることで、この燃焼場での酸素量不足を招いてしまって着火性が悪化してしまう可能性があるので、これを防止するためである。
このように目標レール圧を設定することにより、パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧のペネトレーション(貫徹力)は低減され、噴霧の飛行距離が短くなる(図6(a)を参照)。これにより、燃焼室3内の比較的狭小な空間に噴霧が存在することになって、この噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)の密度が高くなる。このノルマルセタンは、上述した如く、直鎖の分子構造を有するものであり、低温酸化反応が可能である。例えば筒内温度が700K程度であっても自己着火が可能である。つまり、圧縮行程によって筒内の空気が圧縮されて700K程度に達すると、燃料噴霧中のノルマルセタンが自己着火する。この場合、上記燃料噴射圧力が減圧補正されていることにより、ノルマルセタンは、燃焼室3内中央部分での密度が高められており、このノルマルセタンが熱分解されることで得られる炭素(C)と筒内に存在する酸素(O2)との邂逅率が高められることになって、炭素の酸化反応が狭小な領域で迅速に行われる。その結果、その燃焼場での熱エネルギの密度が高められることになり、この燃焼場は高温化(例えば850K程度まで温度上昇)する。
このようにして燃焼場の高温化がなされた状態で、第2パイロット噴射が行われる。この第2パイロット噴射で噴射された燃料は、上記第1パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼場(上記ノルマルセタンの燃焼により局部的に温度上昇した燃焼場)を通過する際に、その熱量を受けることで容易に燃焼が開始し、この燃料によって筒内は更に高温化(例えば1000K程度まで温度上昇)することになる。
その後、メイン噴射が実行される。このメイン噴射の実行時点では、上記各パイロット噴射によって既に筒内は十分に予熱されており(燃料(ノルマルセタン及びそれ以外の分子構造を含む燃料)の自着火温度(例えば1000K)にまで予熱されており)、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性は良好に確保され、円滑な拡散燃焼に移行することになる。
図8は、燃焼状態の悪化及び燃料噴射圧力の減圧補正それぞれに伴う熱発生率の変化を示す波形図である。先ず、各種条件が一般的な標準状態となっており、図8(a)に示すように燃焼状態の悪化が生じていない状況(この状態では図4に実線で示した理想的な熱発生率波形となっている)から、高地走行などに移行した場合には、その影響により図8(b)に示すように燃焼状態の悪化が生じる。このような熱発生率の変化を上記筒内圧センサ4Bによって検出された筒内圧力から求め、燃料噴射圧力を減圧補正する。
具体的には、上述した如く、第1パイロット噴射の噴射完了から第2パイロット噴射の噴射開始までの期間中における熱発生率の極大値が所定値(図8(b)に破線で示す閾値X)に達していない場合(図8(b)では第2パイロット噴射で噴射された燃料の熱発生率の極大値は閾値Xを超えている)には燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判断して基準目標レール圧の減圧補正を行う。つまり、図8(b)に示す熱発生率波形の状態が継続されると、パイロット噴射での燃焼開始タイミング及びメイン噴射での燃焼開始タイミングが遅れていき失火に至る可能性があるため、基準目標レール圧の減圧補正を行う。これにより、上述した如くパイロット噴射による筒内予熱が十分に行われる状況となり、図8(c)に示すように熱発生率波形が燃焼状態の悪化が発生する前の状態に戻ることになり、失火の回避を図ることができる。
尚、この図8に示す熱発生率波形では、第1パイロット噴射の開始タイミングがピストン13の圧縮上死点前11度(BTDC11°)、第2パイロット噴射の開始タイミングがピストン13の圧縮上死点前4度(BTDC4°)、メイン噴射の開始タイミングがピストン13の圧縮上死点後4度(ATDC4°)となっている。これら値はこれに限定されるものではない。また、各燃料噴射同士の間隔(噴射インターバル)は上述した筒内予熱動作が十分に行えるように確保する必要がある。この噴射インターバルは、予め実験やシミュレーション等によって予め設定され、例えばエンジン回転数に応じて各噴射インターバルを設定するインターバルマップを参照することで決定される。この各噴射インターバルをクランクシャフトの回転角度によって規定する場合、エンジン回転数が高いほど、各噴射インターバルとしては長く設定される。
また、上記基準目標レール圧の減圧補正を行った場合、メイン噴射での燃料噴射圧力も減圧されることになる。この場合、メイン噴射で必要とされる燃料噴射量が確保されるように上記減圧補正量に応じて燃料噴射期間が長く設定される(基準目標レール圧の減圧補正を行う前の燃料噴射期間よりも長く設定される)ことになる。
<フィードフォワード制御によるレール圧補正>
次に、上記フィードフォワード制御によるレール圧補正について説明する。このレール圧補正動作では、上記各センサのセンシング値に基づいてパイロット噴射で噴射された燃料の燃焼による予熱量の不足に起因して失火が発生する可能性の有無を判定し、失火が発生する可能性があると推定された場合に基準目標レール圧を減圧補正するようにしている。
先ず、失火が発生する可能性の有無の判定として、(1)高地の走行状態であるか否かの判定、(2)低セタン価燃料が使用されているか否かの判定、(3)低外気温時であるか否かの判定、(4)エンジン1の運転過渡時であるか否かの判定それぞれについて説明する。
(1)高地の走行状態であるか否かの判定は、従来から周知の判定手法が採用可能である。例えば、上記外気圧センサ4Aの検出値に基づいて行われる。つまり、外気圧が所定圧以下であった場合、現在、車両が走行している道路の標高は高く、パイロット噴射で噴射された燃料の着火遅れが大きくなる可能性があるものとして判断される。
(2)低セタン価燃料が使用されているか否かの判定も、従来から周知の判定手法(例えば特開2008−309080号公報に開示されている低セタン価燃料の判定手法(メイン噴射から着火までに要する時間の測定による判定))が採用可能である。また、以下に述べる手法によって低セタン価燃料が使用されているか否かを判定するようにしてもよい。つまり、標準的な燃料よりも性状が劣悪な燃料(低セタン価燃料)が使用されている場合、燃料のセタン価が十分に得られておらず、燃焼室3内での低温酸化反応も不十分となる。つまり、予混合燃焼の着火遅れ量が大きくなり、その後に行われるべき拡散燃焼に対して悪影響を及ぼすことで、燃焼状態の悪化(例えば失火)を招いてしまう可能性がある。従って、複数の気筒(2つ以上の気筒)のそれぞれにおいて周期的な燃焼状態の悪化現象が発生しているか否かを判定し、この周期的な燃焼状態の悪化現象が発生している場合には、燃料性状が標準的な燃料よりも劣悪な(着火性が劣悪な)低セタン価燃料であると判定する。
より具体的には、上記クランクポジションセンサ40の検出信号から、各気筒それぞれの燃焼行程時における回転変動に基づいて燃焼状態の悪化の有無を判定する。例えば、各気筒の圧縮上死点を基準とし、その基準とするクランク角(0°CA)から遅角側に120°CAだけ回転するのに要する時間を計測し、その時間が所定時間よりも長い場合には、その際に燃焼行程を迎えていた気筒において燃焼状態の悪化現象が発生していると判定するようにしている。
このようにして、各気筒それぞれの燃焼行程時の燃焼状態の悪化現象の有無を判定し、少なくとも2つの気筒において周期的な燃焼状態の悪化現象が発生している場合には、燃料性状が悪化している、つまり、低セタン価燃料が使用されていると判定するようにしている。
(3)低外気温時であるか否かの判定も、従来から周知の判定手法が採用可能である。例えば、上記吸気温センサ49の検出値に基づいて行われる。つまり、吸気温が所定温度以下であった場合、現在、車両が走行している外部環境(外気温)は標準状態よりも大幅に低く、パイロット噴射で噴射された燃料の着火遅れが大きくなる可能性があるものとして判断される。
(4)エンジン1の運転過渡時であるか否かの判定も、従来から周知の判定手法が採用可能である。例えば、上記クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されるエンジン回転速度の単位時間当たりの変化量や、アクセル開度センサ47の検出値に基づいて求められるアクセルペダルの単位時間当たりの踏み込み変化量を求め、これらが所定量以上である場合にエンジン1の運転過渡時であり、パイロット噴射で噴射された燃料の着火遅れが大きくなる可能性があるものとして判断される。
これら判定動作によってパイロット噴射で噴射された燃料の着火遅れが大きくなる可能性があると判断された場合には、燃焼室3内での燃焼状態が悪化する可能性があると推定して基準目標レール圧の減圧補正を行う。
つまり、上述したフィードバック制御の場合と同様に、レール圧補正マップに従って目標レール圧を設定する。
このように目標レール圧を設定することにより、この場合にもパイロット噴射で噴射された燃料の噴霧のペネトレーション(貫徹力)は低減され、噴霧の飛行距離が短くなる。これにより、燃焼室3内の比較的狭小な空間に噴霧が存在することになって、この噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)の密度が高くなる。この場合、上記燃料噴射圧力が減圧補正されていることにより、ノルマルセタンは、燃焼室3内中央部分での密度が高められており、このノルマルセタンが熱分解されることで得られる炭素(C)と筒内に存在する酸素(O2)との邂逅率が高められることになって、炭素の酸化反応が狭小な領域で迅速に行われる。その結果、その燃焼場での熱エネルギの密度が高められることになり、この燃焼場は高温化(例えば850K程度まで温度上昇)する。
本フィードフォワード制御にあっても、上記基準目標レール圧の減圧補正を行った場合、メイン噴射での燃料噴射圧力も減圧されることになる。この場合、メイン噴射で必要とされる燃料噴射量が確保されるように上記減圧補正量に応じて燃料噴射期間が長く設定される(基準目標レール圧の減圧補正を行う前の燃料噴射期間よりも長く設定される)ことになる。
また、上述したフィードフォワード制御の説明では、失火が発生する可能性の有無の判定として、(1)高地の走行状態であるか否か、(2)低セタン価燃料が使用されているか否か、(3)低外気温時であるか否か、(4)エンジン1の運転過渡時であるか否かを個別に判定し、各パラメータそれぞれに判定閾値を設定していた。これに限らず、これらパラメータを総合的に判定して失火が発生する可能性の有無を判定するようにしてもよい。
上述のようにして第1パイロット噴射によって燃焼場の高温化がなされた状態で、第2パイロット噴射及びメイン噴射が実行されることになるため、上述したフィードバック制御によるレール圧補正の場合と同様に、メイン噴射で噴射される燃料の着火性は良好に確保され、円滑な拡散燃焼に移行することになる。
以上説明したように、本実施形態では、燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判定された場合(上記フィードバック制御によるレール圧補正)、または、燃焼室3内での燃焼状態が悪化する可能性があることが予測された場合(上記フィードフォワード制御によるレール圧補正)に基準目標レール圧を一定量だけ減圧補正することで目標レール圧を設定し、燃料噴射圧力を低く設定することで、予熱量を高めてメイン噴射実行時における拡散燃焼への移行を良好にしている。これにより失火を防止することができる。
また、本実施形態では、噴射タイミングを進角側に移行させたり、燃料噴射量を増量させたりすることなしに失火の発生を防止することができる。つまり、噴射タイミングを進角側に移行させることで失火の発生を防止する場合、燃焼場での当量比がリーンとなってHCの発生量の増大を招いたり、噴射燃料がシリンダの内壁面に付着することでその付着燃料による潤滑油の希釈が発生してしまう可能性があった。また、燃料噴射量を増量させることで失火の発生を防止する場合、燃料噴射時における吸熱反応での吸熱量が多くなり、燃料の気化が遅れ、パイロット噴射で噴射された燃料の着火遅れに伴って燃焼音が増大してしまう可能性があった。本実施形態では、このような噴射タイミングを進角側に移行させたり、燃料噴射量を増量させたりすることがないため、良好な排気エミッションが維持でき、且つ潤滑油の希釈による潤滑不良などを招くことなしになしに、失火を防止することが可能である。
尚、上述の如く基準目標レール圧の減圧補正が行われた後、レール圧を基準目標レール圧に戻す(復帰させる)動作としては、上記減圧補正が開始された後、所定時間経過後にレール圧を基準目標レール圧に一旦戻すことが挙げられる。この場合、未だ燃焼状態が悪化している場合には、上述した制御動作によって、再び基準目標レール圧の減圧補正が行われることになる。この際、燃焼状態が悪化しているか否かを判定するための期間としては、仮に燃焼状態が悪化している状況であったとしても失火に至ることのない比較的短時間(例えば数msec)に設定される。
−レール圧補正マップの変形例−
次に、上記レール圧補正マップが上記実施形態のものとは異なる各変形例について説明する。
<第1変形例>
先ず、第1変形例では、図9に示すレール圧補正マップによって基準目標レール圧を減圧補正する。この図9に示すレール圧補正マップは、要求パワーの所定範囲(図9における要求パワーPW3〜PW4の間)においては、減圧補正前の目標レール圧としては、要求パワーの上昇分に対する基準目標レール圧の上昇割合を高く設定している。これは、筒内での燃料の予混合度合いを高くするために基準目標レール圧を設定したものである。
そして、燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判定された場合に、上記要求パワーの所定範囲(図9における要求パワーPW3〜PW4の間)においてのみ基準目標レール圧を減圧補正するようにしている。より具体的には、上記要求パワーの所定範囲の中央値での補正量(減圧補正量)を最も大きく設定し、この中央値から乖離するほど減圧補正量を小さく設定するようにしている。これにより、減圧補正後の目標レール圧は、要求パワーが図中のPW5以下の範囲では、要求パワーの比例した値として設定されるようになっている。
<第2変形例>
また、第2変形例では、図10に示すレール圧補正マップによって基準目標レール圧を減圧補正する。この図10に示すレール圧補正マップは、要求パワーが低いほど、燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判定された場合における、減圧補正量を大きく設定するようにしている。
これは、比較的要求パワーが高い運転領域において、減圧補正量を大きく設定してしまうと、要求するパワーが十分に発生せず、運転者に違和感を与えてしまう可能性があるので、これを回避するためである。尚、要求パワーが高い運転領域では、比較的筒内は高温化しているため、失火が発生する可能性は、要求パワーが低い運転領域に比べて大幅に低くなっている。このため、上記減圧補正量を小さく設定することが可能である。つまり、要求パワーが高い運転領域では、エンジン回転数が高く且つ総燃料噴霧量も多いため、単位時間当たりの熱発生量が大きく、着火前の筒内温度が十分に確保される。また、単位時間当たりの排気エネルギも高いため、ターボチャージャ5における過給効率も高くなり、筒内圧力が上昇する。その結果、要求パワーが高い運転領域では、上記減圧補正量を大きく設定しなくても失火を防止することが可能である。このため、この運転領域では減圧補正量を小さく設定している。
<第3変形例>
また、第3変形例では、図11に示すレール圧補正マップによって基準目標レール圧を減圧補正する。この図11に示すレール圧補正マップも、要求パワーが低いほど、燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判定された場合における減圧補正量を大きく設定するようにしている。また、この図11に示すレール圧補正マップでは、要求パワーが所定値以下(図中におけるPW6以下)の運転領域では、燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判定された場合における減圧補正量を更に大きく設定するようにしている。これによれば、低負荷運転時における予熱量をよりいっそう確保することが可能になり、メイン噴射実行時の燃焼音を大幅に低減させることができる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
また、上記実施形態では、通電期間においてのみ全開の開弁状態となることにより燃料噴射率を変更するピエゾインジェクタ23を適用したエンジン1について説明したが、本発明は、可変噴射率インジェクタを適用したエンジンへの適用も可能である。
加えて、上記実施形態では、マニバータ77として、NSR触媒75及びDPNR触媒76を備えたものとしたが、NSR触媒75及びDPF(Diesel Paticulate Filter)を備えたものとしてもよい。
尚、上述した基準目標レール圧の減圧補正を行った場合に、より確実に失火の発生を防止するための手法として以下の動作を並行してもよい。先ず、パイロット噴射の噴射タイミングを進角側に移行させることが挙げられる。この場合の進角量としては燃料の壁面付着が生じない範囲に設定される。次に、パイロット噴射量の増量補正(特に、第2パイロット噴射量の増量補正)が挙げられる。この場合の増量補正量としては、この第2パイロット噴射における吸熱反応での吸熱量を所定量以下に抑えて、燃料の着火遅れが最小限に抑えられる範囲に設定される。
本発明は、自動車に搭載されるコモンレール式筒内直噴型多気筒ディーゼルエンジンにおいて、予熱期間での予熱不足に起因する燃焼悪化を解消する燃焼制御に適用可能である。
1 エンジン(内燃機関)
15a 吸気ポート
21 サプライポンプ
22 コモンレール
23 インジェクタ(燃料噴射弁)
3 燃焼室
40 クランクポジションセンサ
49 吸気温センサ
4A 外気圧センサ
4B 筒内圧センサ
【0001】
技術分野
[0001]
本発明は、ディーゼルエンジンに代表される圧縮自着火式の内燃機関の燃焼制御装置に係る。特に、本発明は、燃焼室内での燃焼を悪化させる要因が生じた場合に燃焼安定性を確保するための対策に関する。
背景技術
[0002]
従来から周知のように、自動車用エンジン等として使用されるディーゼルエンジンにあっては、燃焼室内での燃焼過程の初期段階における燃焼圧力や燃焼温度の急激な上昇を抑えて、燃焼音の低減や排気中に含まれる窒素酸化物(NOx)の低減を図るためのパイロット噴射が行われている(例えば下記の特許文献1を参照)。
[0003]
つまり、パイロット噴射により噴射された燃料の自己着火によって筒内を予熱(予混合燃焼により予熱)した状態でメイン噴射を実行することによって、このメイン噴射で噴射された燃料の燃焼過程の初期段階における燃焼圧力や燃焼温度の上昇を緩慢にする。これにより、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼を安定化させて、燃焼音の低減やNOx発生量の低減を図るようにしている。
先行技術文献
特許文献
[0004]
特許文献1:特開2009−299490号公報
特許文献2:特開2004−340026号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005]
しかしながら、上記ディーゼルエンジンにあっては、燃料性状(セタン価)が標準的なものよりも劣悪な場合、上記パイロット噴射での予混合燃焼に着火遅れ(予混合燃焼開始の遅れ期間
【0002】
)が大きくなってしまう可能性がある。
[0006]
[0007]
つまり、低セタン価(標準的な軽油(例えばセタン価が「55」程度のもの)よりもセタン価が低いものをいう)の燃料を使用している場合には、標準的な燃料とのセタン価の乖離が原因で着火性が悪化し予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう。
[0008]
このように予混合燃焼の着火遅れが大きくなる状況では、筒内の予熱不足に起因してメイン噴射で噴射された燃料の着火遅れも大きくなり、場合によっては燃焼室内での失火に至ってしまう可能性がある。
[0009]
具体的には、上記低セタン価燃料であることに起因する着火性の悪化について説明すると、この低セタン価燃料の使用に起因して着火遅れ(パイロット噴射で噴射された燃料の着火遅れ及びメイン噴射で噴射された燃料の着火遅れ)が大きくなると、エンジン回転数が目標回転数にまで達せず、ターボチャージャを備えたエンジンシステムにあってはターボ過給効率の悪化に伴う過給遅れが生じる。この過給遅れにより筒内圧力の上昇に遅れが生じ、それに伴って筒内温度の上昇にも遅れが生じることになる。その結果、燃料の着火タイミングが更に遅れることになる。このような着火タイミングの遅れと劣
【0004】
しかしながら、このように、燃料噴射圧力を一気に高めた場合、燃料のペネトレーション(貫徹力)の急速な増大によって上記HC発生量の増大を招いたり燃料の壁面付着による潤滑油の希釈が発生してしまう可能性があるため好ましくない。
[0015]
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、燃料性状(セタン価)が標準的なものよりも劣悪な燃料を使用し、燃焼室内での燃焼を悪化させる要因が生じた場合であっても、予混合燃焼の着火遅れを抑制し、適正な筒内予熱を行うことによって失火の防止が図れる内燃機関の燃焼制御装置を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0016]
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、燃焼室内での燃焼開始初期段階における筒内予熱期間での予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化が生じる可能性があると推定された場合に、燃料噴射圧力を低下させる。これによって、上記予熱のために噴射された燃料の燃焼場体積を縮小化させ、この燃焼場に存在するノルマルセタン(低温酸化反応が可能な直鎖の分子構造)の密度を高めることで、その燃焼場での熱エネルギの密度を高めて、この燃焼場の高温化、つまり筒内の十分な予熱が図れるようにしている。特に、燃料性状(セタン価)が標準的なものよりも劣悪な燃料を使用した場合に、燃料噴射圧力を低下させる。これによって、噴射された燃料の燃焼場体積を縮小化させ、セタン価の低い燃料であっても、この燃焼場に存在するノルマルセタンの密度を高めることで、その燃焼場での熱エネルギの密度を高めて、この燃焼場の高温化、つまり筒内の十分な予熱が図れるようにしている。
[0017]
−解決手段−
具体的に、本発明は、燃料噴射弁から燃焼室内に向けての燃料噴射として、少なくとも、主噴射と、この主噴射に先立って行われる副噴射とが実行可能な圧縮自着火式の内燃機関の燃焼制御装置を前提とする。この内燃機関の燃焼制御装置に対し、燃焼性状に起因して、前記副噴射による前記燃焼室内での予混合燃焼の着火遅れが大きくなる場合に、燃料噴射圧力を所定量だけ低下させる燃料噴射圧力低下手段を備えさせている。
[0018]
【0005】
[0019]
劣悪な性状の燃料(低セタン価燃料)の使用では、着火性の悪化により上記予混合燃焼の着火遅れが大きくなってしまう場合には、燃料噴射圧力を所定量だけ低下させる。このように燃料噴射圧力を所定量だけ低下させた場合、副噴射で噴射された燃料の噴霧は燃焼室内の比較的狭小な範囲に集められることになる。このため、低セタン価燃料が使用されても、この噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)、つまり低温酸化反応が可能な分子構造体の密度が高くなる。そして、内燃機関の圧縮行程によって筒内の空気が圧縮されてノルマルセタンの着火可能温度(例えば700K程度)に達すると、燃料噴霧中のノルマルセタンが自己着火する。そして、上述の如く燃料噴射圧力が低く設定されている状態では燃料噴霧が燃焼室内の中央部に集められているため、その燃焼場での熱エネルギの密度が高くなり、この燃焼場の高温化を図ることが可能になる。つまり、主噴射の実行時には燃焼室内が十分に予熱されていることになり、失火の発生を防止することができる。
[0020]
上記燃料噴射圧力低下手段の具体的な構成としては、低セタン価燃料が使用された場合に、燃料噴射圧力を予め設定された一定量だけ低下させることが挙げられる。また、燃料噴射圧力を要求パワーに応じて設定された所定量だけ低下さ
【0006】
せることも挙げられる。
[0021]
上記要求パワーに応じて燃料噴射圧力を所定量だけ低下させる場合、要求パワーが低いほど燃料噴射圧力の減圧補正量を大きく設定するようにしている。
[0022]
これらの特定事項により、副噴射で噴射された燃料の噴霧の体積の適正化を図ることができる。つまり、噴霧体積が大きくなり過ぎることによる予熱量の不足や、噴霧体積が小さくなり過ぎることによる燃焼場での酸素量不足を防止でき、燃焼室内の予熱が良好に行える。また、要求パワーが高い運転領域では、比較的筒内は高温化しているため、失火が発生する可能性は、要求パワーが低い運転領域に比べて大幅に低くなっている。このため、要求パワーが高い運転領域では燃料噴射圧力の減圧補正量を小さく設定することが可能である。逆に、要求パワーが低い運転領域では、筒内温度は比較的低くなっているため、失火が発生する可能性は、要求パワーが高い運転領域に比べて大幅に高くなっている。このため、要求パワーが低い運転領域では燃料噴射圧力の減圧補正量を大きく設定し、失火の発生を確実に防止するようにしている。
[0023]
また、上記燃料噴射圧力低下手段によって燃料噴射圧力を低下させる場合の下限値が設定されており、補正後の燃料噴射圧力は上記下限値以上の値に設定されるようにしている。
[0024]
このようにして燃料噴射圧力を低下させる場合の下限値を設定しておくことにより、副噴射で噴射された燃料の噴霧の体積が小さくなり過ぎることによる燃焼場での酸素量不足を確実に防止でき、燃焼室内の予熱が良好に行える。
[0025]
上記予熱不足に起因する燃焼悪化が生じていることの判定手法としては、上記副噴射が、少なくとも2回の分割副噴射により実行される場合において、第1回目の分割副噴射の実行後、第2回目の分割副噴射の実行までの期間
【0007】
における燃焼室内での熱発生率が所定値未満であった場合に燃焼悪化が生じていると判定して、燃料噴射圧力を所定量だけ低下させるようにしている。
[0026]
つまり、環境条件や運転条件が一般的な標準状態となっている場合には、第1回目の分割副噴射の実行後、第2回目の分割副噴射の実行までの期間に、上記第1回目の分割副噴射の実行に伴う熱発生率が所定値以上となる。これに対し、劣悪な性状の燃料の使用等によって環境条件や運転条件が一般的な標準状態と異なっている場合には、第1回目の分割副噴射で噴射された燃料の着火遅れに起因して上記期間中における熱発生率が所定値未満となる。このような状況が継続すると失火に至ってしまう可能性がある。このことを検知し、上記期間における燃焼室内での熱発生率が所定値未満であった場合には燃料噴射圧力を所定量だけ低下させ、燃焼場での熱エネルギの密度を高くして燃焼室内を十分に予熱し、失火の発生を防止する。
[0027]
上述の如く燃料噴射圧力を所定量だけ低下させた場合の主噴射に対する制御としては、上記メイン噴射の噴射期間を、上記所定量(燃料噴射圧力を低下させる所定量)に応じて延長化させるようにしている。
[0028]
これにより、メイン噴射での必要噴射量が確保され、失火の防止と要求パワーの確保とを図ることが可能になる。
発明の効果
[0029]
本発明では、燃料性状に起因して、前記副噴射による上記燃焼室内での予混合燃焼の着火遅れが大きくなる場合に、燃料噴射圧力を低下させるようにしている。これにより、副噴射で噴射された燃料の噴霧は燃焼室内の比較的狭小な範囲に集められることになる。このため、低セタン価燃料が使用されても、この噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)、つまり低温酸化反応が可能な分子構造体の密度が高くなり自己着火し易くなり、着火遅れを短縮できる。そして、予熱のために噴射された燃料の燃焼場体積が縮小化されているので、燃焼場での熱エネルギの密度を高めることで、筒内の十分な予熱を図って失火の防止を図ることができる。
図面の簡単な説明
[0030]
[図1]図1は、実施形態に係るエンジン及びその制御系統の概略構成図である。
[図2]図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室及びその周辺部を示す断面図であ
【0023】
保といった各要求を継続的に連立させることができる。
[0084]
以上のように、本実施形態における基準燃圧設定マップでは、エンジン1に対する要求出力(要求パワー)と燃料噴射圧力(コモンレール圧)との間に一義的な相関を持たせ、また、エンジン回転数及びエンジントルクの少なくとも一方が変化することでエンジン出力が変化する状況では、それに応じた適正な燃料圧力での燃料噴射が行えるようにし、逆に、エンジン回転数やエンジントルクが変化してもエンジン出力が変化しない状況では、燃料圧力をそれまで設定されていた適正値から変化させないようにしている。これによって、エンジン運転領域の略全域に亘って熱発生率変化状態を理想状態に近付けることが可能になる。
[0085]
−基準目標レール圧の減圧補正−
次に、本発明の特徴である基準目標レール圧の減圧補正について説明する。この基準目標レール圧の減圧補正は、エンジン1の運転状態を左右する各種条件が一般的な標準状態となっており上記基準目標レール圧マップにより求められた基準目標レール圧で燃料噴射が行われている状態から、パイロット噴射で噴射された燃料による筒内の予熱が不十分となっていることに起因して燃焼室3内での燃焼が悪化する状況となる場合に実行される。具体的には、低セタン価燃料の使用により、パイロット噴射で噴射された燃料の予混合燃焼の着火遅れが大きくなっている場合、このパイロット噴射での予熱量を十分に確保してメイン噴射で噴射された燃料の拡散燃焼に着火遅れ(拡散燃焼開始遅れ)が生じないようにするために上記基準目標レール圧の減圧補正が行われる。以下、具体的に説明する。
[0086]
低セタン価燃料使用が原因で燃焼室3内での燃焼状態が悪化した場合には、パイロット噴射で噴射された燃料の予混合燃焼の着火遅れが大きいことに起因して失火が発生する可能性があるとして、基準目標レール
【0024】
圧の減圧補正を行う。つまり、上記基準燃圧設定マップにより求められた基準目標レール圧を、後述するレール圧補正マップに従って補正することで、この補正後のレール圧を目標レール圧として設定し、サプライポンプ21の制御を行うようになっている。
[0087]
より具体的には、エンジン1の運転状態をモニタしておき、低セタン価燃料の使用によって燃焼室3内での燃焼が悪化した場合に、上記基準目標レール圧をレール圧補正マップに従って補正する(フィードバック制御によるレール圧補正)。または、低セタン価燃料の使用を表すパラメータを検出し、このパラメータが燃焼室3内での燃焼状態を悪化させるものとなった場合に、上記基準目標レール圧をレール圧補正マップに従って補正する(フィードフォワード制御によるレール圧補正)。
[0088]
燃料噴射圧力を減圧補正した場合の燃料噴霧の状態について説明する。図6は、パイロット噴射実行時における燃焼室3内での燃料噴霧の状態を示し、図6(a)は燃料噴射圧力を低く設定した場合を示す図であり、図6(b)は燃料噴射圧力を高く設定した場合を示す図である。
[0089]
図6(b)に示すように燃料噴射圧力を高く設定した場合には、燃料噴霧の粒径は比較的小さくなり且つこの燃料噴霧は燃焼室3内の広範囲に拡散されることになる。このため、噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)の密度(噴霧の単位体積当たりに含まれるノルマルセタンの量)が低くなる(広域分布状態となる)。このノルマルセタンは、直鎖の分子構造を有するものであり、低温酸化反応が可能である。例えば筒内温度が700K程度であっても自己着火が可能である。つまり、圧縮行程によって筒内の空気が圧縮されて700K程度に達すると、燃料噴霧中のノルマルセタンが自己着火する。しかしながら、燃料噴射圧力が高く設定されている場合には燃料噴霧が燃焼室3内の広範囲に拡散しているため、その燃焼場での熱エネルギも広範囲に拡散されることになって熱エネルギの密度が低くなり、低セタン価燃料を使用した場合、この減少が顕著になり、この燃焼場の高温化を図ることが困難である。
【0025】
[0090]
一方、図6(a)に示すように燃料噴射圧力を低く設定した場合には、燃料噴霧の粒径は比較的大きくなり且つこの燃料噴霧は燃焼室3内の比較的狭小な範囲に集められることになる。このため、低セタン価燃料を使用した場合であっても、噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)の密度が高くなる(狭域分布状態となる)。そして、圧縮行程によって筒内の空気が圧縮されて700K程度に達して燃料噴霧中のノルマルセタンが自己着火する際、燃料噴射圧力が低く設定されている状態では燃料噴霧が燃焼室3内の中央部に集められているため、その燃焼場での熱エネルギの密度が高くなり、この燃焼場の高温化を図ることが可能になる。
[0091]
<フィードバック制御によるレール圧補正>
次に、基準目標レール圧の減圧補正として、上記フィードバック制御によるレール圧補正について説明する。この場合に、低セタン価燃料の使用によって燃焼室3内での燃焼状態が悪化しているか否かの判定は、燃焼過程における熱発生率波形に基づいて行う。つまり、燃焼室3内での燃焼に伴う熱発生率は筒内圧力に相関があるため、このことを利用し、上記筒内圧センサ4Bによって検出された筒内圧力からパイロット噴射で噴射された燃料の燃焼による熱発生率を推定する。そして、2回の分割パイロット噴射を実行する場合に、第1パイロット噴射の噴射完了から第2パイロット噴射の噴射開始までの期間中における熱発生率の極大値が所定値に達していない場合(例えば20J/degに達していない場合)には燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判断して基準目標レール圧の減圧補正を行うようにしている。上記値はこれに限定されるものではなく、予め実験やシミュレーション等によって設定されている。
[0092]
図7は、燃料噴射圧力を減圧補正する際に参照されるレール圧補正マップである。このレール圧補正マップは、基準目標レール圧に対して上記減圧補正を行う範囲(要求パワーの範囲)と、その基準目標レール圧に対する減圧補正量とを、要求パワーに応じて設定するマップである。つまり、要求パワーが図中のPW1以下である際に、燃焼室3内での燃焼状態が悪化していると判定された場合には基準目標レール圧を一定量(例えば30MPa)だけ
【0026】
減圧補正することで目標レール圧を設定するようになっている。例えば、要求パワーが図中のPW2(例えば30kW)であり、上記図5に示す基準燃圧設定マップにより取得された基準目標レール圧がP2(例えば100MPa)であった場合に、燃焼状態が悪化していると判定された場合には、目標レール圧をP3(例えば70MPa)に設定するようになっている。尚、この目標レール圧には下限値(例えば50MPa)が設定されている。これは、目標レール圧を低く設定し過ぎるとパイロット噴射で噴射された燃料の噴霧の体積(燃焼場)が小さくなり過ぎることで、この燃焼場での酸素量不足を招いてしまって着火性が悪化してしまう可能性があるので、これを防止するためである。
[0093]
このように目標レール圧を設定することにより、パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧のペネトレーション(貫徹力)は低減され、噴霧の飛行距離が短くなる(図6(a)を参照)。これにより、燃焼室3内の比較的狭小な空間に噴霧が存在することになって、この噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)の密度が高くなる。このノルマルセタンは、上述した如く、直鎖の分子構造を有するものであり、低温酸化反応が可能である。例えば筒内温度が700K程度であっても自己着火が可能である。つまり、圧縮行程によって筒内の空気が圧縮されて700K程度に達すると、燃料噴霧中のノルマルセタンが自己着火する。この場合、上記燃料噴射圧力が減圧補正されていることにより、低セタン価燃料に含まれるノルマルセタンは、燃焼室3内中央部分での密度が高められており、このノルマルセタンが熱分解されることで得られる炭素(C)と筒内に存在する酸素(O)との邂逅率が高められることになって、炭素の酸化反応が狭小な領域で迅速に行われる。その結果、その燃焼場での熱エネルギの密度が高められることになり、この燃焼場は高温化(例えば850K程度まで温度上昇)する。
[0094]
このようにして燃焼場の高温化がなされた状態で、第2パイロット噴射が行われる。この第2パイロット噴射で噴射された燃料は、上記第1パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼場(上記ノルマルセタンの燃焼により局部的
【0028】
ングがピストン13の圧縮上死点前11度(BTDC11°)、第2パイロット噴射の開始タイミングがピストン13の圧縮上死点前4度(BTDC4°)、メイン噴射の開始タイミングがピストン13の圧縮上死点後4度(ATDC4°)となっている。これら値はこれに限定されるものではない。また、各燃料噴射同士の間隔(噴射インターバル)は上述した筒内予熱動作が十分に行えるように確保する必要がある。この噴射インターバルは、予め実験やシミュレーション等によって予め設定され、例えばエンジン回転数に応じて各噴射インターバルを設定するインターバルマップを参照することで決定される。この各噴射インターバルをクランクシャフトの回転角度によって規定する場合、エンジン回転数が高いほど、各噴射インターバルとしては長く設定される。
[0099]
また、上記基準目標レール圧の減圧補正を行った場合、メイン噴射での燃料噴射圧力も減圧されることになる。この場合、メイン噴射で必要とされる燃料噴射量が確保されるように上記減圧補正量に応じて燃料噴射期間が長く設定される(基準目標レール圧の減圧補正を行う前の燃料噴射期間よりも長く設定される)ことになる。
[0100]
<フィードフォワード制御によるレール圧補正>
次に、上記フィードフォワード制御によるレール圧補正について説明する。このレール圧補正動作では、上記各センサのセンシング値に基づいて、低セタン価燃料の使用によりパイロット噴射で噴射された燃料の燃焼による予熱量の不足に起因して失火が発生する可能性の有無を判定し、失火が発生する可能性があると推定された場合に基準目標レール圧を減圧補正するようにしている。
[0101]
[0102]
【0029】
[0103]
低セタン価燃料が使用されているか否かの判定も、従来から周知の判定手法(例えば特開2008−309080号公報に開示されている低セタン価燃料の判定手法(メイン噴射から着火までに要する時間の測定による判定))が採用可能である。また、以下に述べる手法によって低セタン価燃料が使用されているか否かを判定するようにしてもよい。つまり、標準的な燃料よりも性状が劣悪な燃料(低セタン価燃料)が使用されている場合、燃料のセタン価が十分に得られておらず、燃焼室3内での低温酸化反応も不十分となる。つまり、予混合燃焼の着火遅れ量が大きくなり、その後に行われるべき拡散燃焼に対して悪影響を及ぼすことで、燃焼状態の悪化(例えば失火)を招いてしまう可能性がある。従って、複数の気筒(2つ以上の気筒)のそれぞれにおいて周期的な燃焼状態の悪化現象が発生しているか否かを判定し、この周期的な燃焼状態の悪化現象が発生している場合には、燃料性状が標準的な燃料よりも劣悪な(着火性が劣悪な)低セタン価燃料であると判定する。
[0104]
より具体的には、上記クランクポジションセンサ40の検出信号から、各気筒それぞれの燃焼行程時における回転変動に基づいて燃焼状態の悪化の有無を判定する。例えば、各気筒の圧縮上死点を基準とし、その基準とするクランク角(0°CA)から遅角側に120°CAだけ回転するのに要する時間を計測し、その時間が所定時間よりも長い場合には、その際に燃焼行程を迎えていた気筒において燃焼状態の悪化現象が発生していると判定するようにしている。
[0105]
このようにして、各気筒それぞれの燃焼行程時の燃焼状態の悪化現象の有無を判定し、少なくとも2つの気筒において周期的な燃焼状態の悪化現象が発生している場合には、燃料性状が悪化している、つまり、低セタン価燃料が使用されていると判定するようにしている。
【0030】
[0106]
[0107]
[0108]
これら判定動作によって、低セタン価燃料が使用されている可能性があると判断された場合には、燃焼室3内での燃焼状態が悪化する可能性があると推定して基準目標レール圧の減圧補正を行う。
[0109]
つまり、上述したフィードバック制御の場合と同様に、レール圧補正マップに従って目標レール圧を設定する。
[0110]
このように目標レール圧を設定することにより、この場合にもパイロット噴射で噴射された燃料の噴霧のペネトレーション(貫徹力)は低減され、噴霧の飛行距離が短くなる。これにより、燃焼室3内の比較的狭小な空間に噴霧が存在することになって、この噴霧中に含まれているノルマルセタン(n−セタン)の密度が高くなる。この場合、上記燃料噴射圧力が減圧補正されていることにより、ノルマルセタンは、燃焼室3内中央部分での密度が高められており、このノルマルセタンが熱分解されることで得られる炭素(C)と筒内に存在する酸素(O)との邂逅率が高められることになって、炭素の酸化反応が狭小な領域で迅速に行われる。その結果、その燃焼場での熱エネルギの密度が高められることになり、この燃焼場は高温化(例えば850K程度まで温度上昇)する。
【0031】
[0111]
本フィードフォワード制御にあっても、上記基準目標レール圧の減圧補正を行った場合、メイン噴射での燃料噴射圧力も減圧されることになる。この場合、メイン噴射で必要とされる燃料噴射量が確保されるように上記減圧補正量に応じて燃料噴射期間が長く設定される(基準目標レール圧の減圧補正を行う前の燃料噴射期間よりも長く設定される)ことになる。
[0112]
[0113]
上述のようにして第1パイロット噴射によって燃焼場の高温化がなされた状態で、第2パイロット噴射及びメイン噴射が実行されることになるため、上述したフィードバック制御によるレール圧補正の場合と同様に、メイン噴射で噴射される燃料の着火性は良好に確保され、円滑な拡散燃焼に移行することになる。
[0114]
[0115]
また、本実施形態では、噴射タイミングを進角側に移行させたり、燃料噴射量を増量させたりすることなしに失火の発生を防止することができる。つまり、噴射タイミングを進角側に移行させることで失火の発生を防止する場合、燃焼場での当量比がリーンとなってHCの発生量の増大を招いたり、噴射燃料がシリンダの内壁面に付着することでその付着燃料による潤滑油の希
−解決手段−
具体的に、本発明は、燃料噴射弁から燃焼室内に向けての燃料噴射として、少なくとも、主噴射と、この主噴射に先立って行われる副噴射とが実行可能な圧縮自着火式の内燃機関の燃焼制御装置を前提とする。この内燃機関の燃焼制御装置に対し、燃料性状に起因して、前記副噴射による前記燃焼室内での予混合燃焼の着火遅れが大きくなる場合に、燃料噴射圧力を所定量だけ低下させる燃料噴射圧力低下手段を備えさせている。

Claims (8)

  1. 燃料噴射弁から燃焼室内に向けての燃料噴射として、少なくとも、主噴射と、この主噴射に先立って行われる副噴射とが実行可能な圧縮自着火式の内燃機関の燃焼制御装置において、
    上記燃焼室内での燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化の発生が予測された場合に、燃料噴射圧力を所定量だけ低下させる燃料噴射圧力低下手段を備えていることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
  2. 請求項1記載の内燃機関の燃焼制御装置において、
    上記燃焼室内での燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化の発生の予測は、運転されている地点の標高、使用されている燃料の性状、外気温度、運転過渡状態のうち少なくとも一つに基づいて行われることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
  3. 請求項1記載の内燃機関の燃焼制御装置において、
    上記燃料噴射圧力低下手段は、上記燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化の発生が予測された場合に、燃料噴射圧力を予め設定された一定量だけ低下させる構成となっていることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
  4. 請求項1記載の内燃機関の燃焼制御装置において、
    上記燃料噴射圧力低下手段は、上記燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化の発生が予測された場合に、燃料噴射圧力を要求パワーに応じて設定された所定量だけ低下させる構成となっていることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
  5. 請求項4記載の内燃機関の燃焼制御装置において、
    上記燃料噴射圧力低下手段は、上記燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化の発生が予測された場合に、要求パワーが低いほど燃料噴射圧力の減圧補正量を大きく設定する構成となっていることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
  6. 請求項3、4または5記載の内燃機関の燃焼制御装置において、
    上記燃料噴射圧力低下手段によって燃料噴射圧力を低下させる場合の下限値が設定されており、上記燃焼開始初期段階における予熱不足に起因する燃焼悪化が生じた場合、または、この燃焼悪化の発生が予測された場合における補正後の燃料噴射圧力は上記下限値以上の値に設定されることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
  7. 請求項1記載の内燃機関の燃焼制御装置において、
    上記副噴射は、少なくとも2回の分割副噴射により実行されるようになっており、上記燃料噴射圧力低下手段は、第1回目の分割副噴射の実行後、第2回目の分割副噴射の実行までの期間における燃焼室内での熱発生率が所定値未満であった場合に燃料噴射圧力を所定量だけ低下させる構成となっていることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
  8. 請求項1記載の内燃機関の燃焼制御装置において、
    上記燃料噴射圧力低下手段によって燃料噴射圧力を所定量だけ低下させた場合、上記メイン噴射の噴射期間を、上記所定量に応じて延長化させることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
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