ところで、特許文献1に記載されている高圧EGRシステムとは異なり、排気通路におけるタービンの下流側から取った排気ガスを、吸気通路におけるコンプレッサの上流側に導入する低圧EGRシステムが知られている。低圧EGRシステムは、ターボ過給機による過給を行う運転領域においても、大量の排気ガスを吸気側に導入することが可能になる。これにより、燃焼温度の低減が図られるため、排気エミッション性能の向上、特にNOxの排出低減に有利になる。
しかしながら、低圧EGRシステムは、その構造上、高圧EGRシステムと比較しても、エンジンの運転状態の変化に対する応答性が低いため、例えば加速時や減速時等の過渡運転時に、吸気酸素濃度が目標からずれてしまうと共に、そのずれ量も大きくなる可能性がある。吸気酸素濃度の目標からのずれによって着火性が低下する結果、着火遅れが長くなって燃焼音が悪化するだけでなく、最悪の場合、失火を招く虞がある。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、吸気酸素濃度の目標からのずれに応じて、ディーゼルエンジンにおける燃焼音の抑止乃至失火の回避を図ることにある。
ここに開示する技術は、ディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置に係り、この装置は、ディーゼルエンジン本体と、前記ディーゼルエンジン本体の燃焼室内に燃料を噴射するよう構成された燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁を通じた燃料の噴射態様を制御することによって、前記ディーゼルエンジン本体を運転するよう構成された制御器と、を備える。
そして、前記制御器は、前記燃焼室内に導入される吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差が第1所定以上になって着火性が低下したときには、前記燃料の噴射態様を、主噴射の前に、第1、第2及び第3の噴射を順に行う前噴射を含む第1噴射モードにし、前記制御器は、前記偏差が第2所定以上になって着火性がさらに低下したときには、前記燃料の噴射態様を、前記第1噴射モードに対して、少なくとも第2及び第3の噴射を遅角させると共に、第2の噴射の遅角量を、第3の噴射の遅角量よりも大きくした第2噴射モードにする。
この構成によると、吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差が第1所定以上となって着火性が低下したとき、例えば加速過渡時等において、EGRシステム(特に低圧EGRシステム)の低い応答性に起因して前記偏差が大きくなったときには、燃料の噴射態様を、主噴射の前に、第1、第2及び第3の噴射を順に行う前噴射を含む第1噴射モードにする。
複数回の前噴射の内、相対的に先に行う噴射(少なくとも第1の噴射)は主噴射から離れて行う噴射となるため、燃焼室内に燃料が拡散するようになる。これに対し、相対的に後に行う噴射(少なくとも第3の噴射)は主噴射の近くで行うため、燃焼室内に局所的にリッチな混合気を形成する。第1、第2及び第3の噴射を順に行うことで、燃焼室内に燃焼を拡散させつつ、局所的にリッチな混合気を形成することができ、主噴射によって噴射される燃料の着火性が高まる。その結果、着火遅れが長くなることが回避されて、燃焼音の増大が回避される。
また、前記偏差が第2所定以上になって燃料の着火性がさらに低下したときには、燃料の噴射態様を、第1噴射モードに対して、少なくとも第2及び第3の噴射を遅角させると共に、第2の噴射の遅角量を、第3の噴射の遅角量よりも大きくした第2噴射モードにする。第2の噴射は、その噴射時期が比較的早い時期に設定される場合(つまり、第1噴射モードの場合)は、「相対的に先に行う噴射」になって、局所的にリッチな混合気の周囲に、それよりもリーンな混合気を形成するようになる。しかしながら、第2噴射モードのように、第2の噴射の噴射時期を大きく遅角することにより、当該第2の噴射は、「相対的に後に行う噴射」となって、燃焼室内に局所的にリッチな混合気を形成することに寄与する。第2噴射モードでは、第2及び第3の2回の噴射により、シリンダ内に形成される局所的にリッチな混合気の範囲が拡大する。その結果、第2噴射モードでは、第1噴射モードと比較して着火性がさらに向上することになる。つまり、吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差が第2所定以上になって着火性がさらに低下したときに、燃焼音の抑制及び失火の回避が可能になる。
前記制御器は、前記第1噴射モードにおいて、前記偏差が大きくなるほど、前記前噴射の噴射量を増量すると共に、前記前噴射の複数回の噴射の内、第2の噴射の増量率を、第1及び第3の噴射の増量率よりも高くする、としてもよい。
前噴射の噴射量を増量することにより 着火性が向上して、着火遅れが長くなってしまうことが回避される。また、第1噴射モードの選択時は、燃焼室内の着火性は、第2噴射モードの選択時よりも高いため、着火性の向上効果は相対的に低いことが許容される。そこで、第1噴射モードにおいて偏差が大きくなるほど、前噴射の内、第2の噴射の燃料噴射量の増量率を、他の噴射の燃料噴射量の増量率よりも高くする。つまり、第1、第2及び第3の噴射の内の、第2の噴射の噴射量を最も増やす。第2の噴射は、第1噴射モードでは、局所的にリッチな混合気の周囲に相対的にリーンな混合気を形成するため、第2の噴射の噴射量を増やすことにより、煤の発生を抑制しつつ、燃料の着火性を適度に向上させて、適切な着火遅れに調整することが可能になる。
前記制御器は、前記第2噴射モードにおいて、前記偏差が大きくなるほど、前記前噴射の噴射量を増量すると共に、前記前噴射の複数回の噴射の内、第3の噴射の増量率を、第1及び第2の噴射の増量率よりも高くする、としてもよい。
第2噴射モードの選択時は、燃焼室内の着火性が、第1噴射モードの選択時よりも低く、前噴射による着火性の向上効果として、高い効果が要求される。第2噴射モードにおいて、燃料の着火性が低くなるほど、前噴射の噴射量を増量することにより、着火性が高まるが、複数回の噴射の内、第3の噴射の増量率を、第1及び第2の噴射の増量率よりも高くする。主噴射に近い時期に行う噴射の噴射量を増やすことによって、煤の発生には不利になるものの、燃焼室内に、局所的にリッチな混合気を十分に形成することが可能になる。その結果、燃料の着火性を高めて、燃焼音の抑制及び失火の回避が、確実に可能になる。
ここに開示するディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置は、ディーゼルエンジン本体と、前記ディーゼルエンジン本体の燃焼室内に燃料を噴射するよう構成された燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁を通じた燃料の噴射態様を制御することによって、前記ディーゼルエンジン本体を運転するよう構成された制御器と、を備える。
そして、前記制御器は、着火遅れの懸念がないときには、前記燃料の噴射態様を、主噴射の前に、前記燃焼室内に前記燃料を拡散させるための第1の前噴射と、前記燃焼室内にリッチ混合気を局所的に形成するための第2の前噴射とを順に行う前噴射を含む所定の噴射モードにし、前記燃焼室内の状態が、燃料の着火性が低くて着火遅れが長くなることが懸念される状態のときには、前記燃料の噴射態様を、着火遅れの懸念がないときの所定の噴射モードに対し、主噴射の前に行う第1の前噴射の回数を増やした第1噴射モードにする。
前記制御器はまた、前記燃焼室内に導入される吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差が所定以上であって着火性の悪化により失火が懸念されるときには、前記燃料の噴射態様を、着火遅れの懸念がないときの所定の噴射モードに対し、前記第2の前噴射の回数を増やす第2噴射モードにする。
この構成によると、燃焼室内の状態が、着火遅れの懸念がないときには、燃焼室内に燃料を拡散させるための第1の前噴射と、燃焼室内にリッチ混合気を局所的に形成するための第2の前噴射とを順に行う。これにより、第2の前噴射の後に行う主噴射により噴射された燃料は、適切なタイミングで着火して燃焼する。
これに対し、燃焼室内の状態が、燃料の着火性が低くて着火遅れが長くなることが懸念される状態のときには、着火遅れの懸念がないときの、前記所定の噴射モードに対し、第1の前噴射の回数を増やした第1噴射モードにする。ここで、第1噴射モードは、例えば加速時等の過渡運転時において選択される場合の他、定常運転時であっても、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じて定まるエンジンの運転状態により、燃焼室内の状態が、燃料の着火性が低くなるような状態であれば選択され得る。
第1の前噴射は、燃焼室内に燃料を拡散させるための噴射であるため、着火性の向上効果は、相対的に(つまり、第2の前噴射と比べて)低い一方で、煤の排出は、第2の前噴射と比べて抑制される。第1噴射モードは、着火遅れが長くなることが懸念される状態のときの噴射モードであり、燃焼室内の状態としては、後述する失火が懸念される状態のときよりも、着火性は高い。そこで、第1の前噴射の回数増やした第1噴射モードとすることにより、煤の発生を抑制しながら、燃料の着火性を適度に向上させて、着火遅れが長くなることが未然に回避される。その結果、着火遅れが長くなって燃焼音が大きくなってしまうことが回避される。
これに対し、燃焼室内に導入される吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差が所定以上になって、着火性の悪化により失火が懸念されるときには、燃料の噴射態様を第2噴射モードにする。例えば加速時等の過渡運転時には、吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差が所定以上になり得る。EGRシステム、特に応答性の低い低圧EGRシステムによって排気ガスを吸気に導入している運転状態での過渡運転時には、吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差が所定以上になりやすい。
第2噴射モードは、着火遅れの懸念のないときの所定の噴射モードに対して、第2の前噴射の回数を増やした噴射モードである。第2の前噴射は、燃焼室内にリッチ混合気を局所的に形成するための噴射であり、主噴射により噴射される燃料の着火性を高める効果が、第1の前噴射よりも高い。従って、失火が懸念されるときに第2噴射モードを選択することによって、失火を回避して確実かつ安定的に燃焼を行うことが可能になる。
こうして、着火性の高低に応じて、所定の噴射モード、第1噴射モード及び第2噴射モードを切り換えることにより、煤の発生をできるだけ抑制しながら、燃焼音の低減、及び、失火の回避が実現する。
前記制御器は、前記制御器は、前記第1噴射モードにおいて、着火性が低下して着火遅れが長くなるほど、前記前噴射の噴射量を増量すると共に、前記前噴射の内、第1の前噴射の増量率を、第2の前噴射の増量率よりも高くする、としてもよい。
前噴射の噴射量を増量することは燃料の着火性を向上させるから、燃焼音の低減に有利になる。また、複数回の前噴射の内、第1の前噴射の増量率を、第2の前噴射の増量率よりも高くする、つまり、燃焼室内に燃料を拡散させるための噴射量を多くすることによって、着火性の向上効果は相対的に低くなるものの、煤の発生は抑制される。第1噴射モードの選択時は、第2噴射モードの選択時よりも、燃焼室内の状態として着火性は高い状態であるため、第1の前噴射の噴射量を多くすることは、煤の発生を抑制しつつ、着火遅れ時間を適切に調整することを可能にする。
前記制御器は、前記第2噴射モードにおいて、前記目標酸素濃度と前記実酸素濃度との偏差が大きいほど失火の懸念が強まるとして、前記前噴射の噴射量を増量すると共に、前記前噴射の内、第2の前噴射の増量率を、第1の前噴射の増量率よりも高くする、としてもよい。
第2噴射モードの選択時には、失火の懸念があるため、失火を確実に回避する必要がある。また、前噴射の内、第1の前噴射は、煤の発生を抑制し得るもの、着火性の向上効果は相対的に低いのに対し、第2の前噴射は、煤の発生を相対的に招き得るものの、燃焼室内に、局所的にリッチな混合気を形成することで着火性の向上効果が高い。
そこで、第2噴射モードにおいて、目標酸素濃度と前記実酸素濃度との偏差が大きいときには、前噴射の噴射量を増量すると共に、第2の前噴射の増量率を、第1の前噴射の増量率よりも高める。こうすることで、失火の懸念が強まったときには着火性を十分に高めて、失火を確実に回避することが可能になる。
前記ディーゼルエンジン本体は、前記燃焼室の一部を構成すると共に、リエントラント形状のキャビティが形成されたピストンを有し、前記燃料噴射弁は、前記燃焼室内に前記燃料を拡散させるための第1の前噴射を、前記キャビティのリップ部付近に向かって噴射し、前記燃焼室内にリッチ混合気を局所的に形成するための第2の前噴射を、前記キャビティ内に噴射する、としてもよい。
キャビティのリップ部付近に向かって燃料を噴射することにより、燃料は、キャビティ内の比較的広い範囲に亘って燃料が拡散する。つまり、第1の前噴射により、燃焼室内に比較的リーンな混合気を形成することが可能になる。
これに対し、キャビティ内に燃料を噴射することにより、燃料噴霧はキャビティの内壁に沿って移動をして、キャビティの開口部付近(リップ部付近)に到達するようになる。つまり、第2の前噴射により、燃焼室内に局所的にリッチな混合気を形成することが可能になる。
前記ディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置は、前記燃焼室内に圧縮空気を供給する過給機をさらに備え、前記制御器は、前記目標酸素濃度と前記実酸素濃度との偏差、及び、目標過給圧と実過給圧との偏差に基づいて、前記第1噴射モードと前記第2噴射モードとを切り換える、としてもよい。
目標過給圧と実過給圧の偏差が大きいときには、燃焼室内の状態としては、着火性が低い状態になる。このため、目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差と、目標過給圧と実過給圧との偏差との双方に基づいて、第1噴射モードと第2噴射モードとの切り換えを行うことで、着火遅れが長くなることによる燃焼音の増大、及び、失火の回避が共に実現する。
前記制御器は、前記目標酸素濃度と前記実酸素濃度との偏差、及び、前記燃焼室の壁温に基づいて、前記第1噴射モードと前記第2噴射モードとを切り換える、としてもよい。
燃焼室の壁温もまた、燃料の着火性に関係し、壁温が高い方が着火性は高まる。そこで、目標酸素濃度と前記実酸素濃度との偏差と、燃焼室の壁温との双方に基づいて、第1噴射モードと第2噴射モードとの切り換えを行うことにより、着火遅れが長くなることによる燃焼音の増大、及び、失火の回避が共に実現する。
前記制御器は、前記目標酸素濃度と前記実酸素濃度との偏差、外気温度、及び前記ディーゼルエンジン本体の冷却水温度に基づいて、前記第1噴射モードと前記第2噴射モードとを切り換える、としてもよい。
外気温度、及び、ディーゼルエンジン本体の冷却水温は、燃焼室内の温度状態に関係し、燃料の着火性に影響を与える。つまり、外気温度が低いほど、また、冷却水温が低いほど着火性は低下する。
そこで、目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差、外気温度、及び冷却水温度に基づいて、第1噴射モードと第2噴射モードとの切り換えを行うことで、着火遅れが長くなることによる燃焼音の増大、及び、失火の回避が共に実現する。
前記制御器は、前記実酸素濃度の高低に応じて、当該実酸素濃度が低いほど燃料の着火性が低下すると判断して、前記第1噴射モードから前記第2噴射モードに切り換わりやすくなるよう切換閾値を下げる、としてもよい。
吸気の実酸素濃度が低いほど、燃料の着火性は低下し得るから、実酸素濃度が低いほど、第1噴射モードよりも、着火性の向上効果の高い第2噴射モードを選択することが、燃焼音の抑制及び失火の回避を実現する上で有利になる。前記の構成のように、吸気の実酸素濃度が低いほど切換閾値を下げることで、第1噴射モードから第2噴射モードへ切り換わりやすくなり、燃焼音の抑制及び失火の回避を確実に行うことが可能になる。
以上説明したように、前記のディーゼルエンジンの噴射制御装置によると、吸気酸素濃度の目標からのずれに応じて、第1〜第3の噴射を行う前噴射を含む第1噴射モードと、第1噴射モードに対して第2及び第3の噴射を遅角させると共に、第2の噴射の遅角量を第3の噴射の遅角量よりも大きくした第2噴射モードとの切り換えを行うことにより、燃焼音の低減、及び、失火の回避が実現する。
以下、ディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明は例示である。図1は、実施形態に係るエンジンシステム1の構成を示すブロック図である。このエンジンシステム1は、車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンのシステムである。
エンジン本体(以下、単にエンジンという)10は、図1では1つのみ示すが、複数のシリンダ11を有している。各シリンダ11には、図示を省略するクランク軸に連結されたピストン12が嵌挿していると共に、シリンダ11内に燃料を噴射するインジェクタ21が設けられている。
ピストン12の冠面には、図10にのみ示すように、燃焼室の一部を構成するキャビティ121が形成されている。このキャビティ121は、いわゆるリエントラント形状を有している。具体的に、キャビティ121の開口部は相対的に小径であって、その開口縁部は、径方向の内方に向かって突出する環状のリップ部122を形成していると共に、キャビティ121の底部は、径方向の外方から中央に向かって隆起する山部123を備えて構成されている。こうして、キャビティ121の横断面形状は、全体としてω形状を成すようになっている。
インジェクタ21は、図10に示すように、シリンダ11の中心軸上に配設されている。インジェクタ21の先端には、図示は省略するが、複数の噴射孔が周方向に所定の間隔を空けて配設されており、インジェクタ21は、各噴射孔を通じて、シリンダ11内、より正確には、キャビティ121内に向かって、放射状に燃料を噴射する(図10(b)の矢印参照)。
エンジン10には、シリンダ11毎に吸気ポート及び排気ポートが形成されていると共に、これら吸気ポート及び排気ポートに、ポートを開閉する吸気弁15及び排気弁16が配設されている。吸気弁15及び排気弁16を駆動する動弁系には、少なくとも吸気弁15の開弁時期及び排気弁16の開弁時期を変更可能な動弁機構22が設けられている。
各シリンダ11の吸気ポートは、図1において明示されない吸気マニホールドを介して吸気通路30に連通している。また、各シリンダ11の排気ポートは、同様に明示されない排気マニホールドを介して排気通路40に連通している。
吸気通路30には、ターボ過給システム6の大型コンプレッサ611及び小型コンプレッサ621と、該コンプレッサ611,621により圧縮された空気を冷却するインタークーラ31と、各シリンダ11への吸入空気量を調節するスロットル弁32とが、上流から下流に向かって順に配設されている。
排気通路40には、ターボ過給システムの小型タービン622及び大型タービン612と、排気ガス中の有害成分を浄化する酸化触媒及び排気ガス中の粒子状物質を捕捉するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を含む排気浄化装置41と、排気シャッター弁42とが、上流から下流に向かって順に配設されている。
吸気通路30における小型コンプレッサ621の下流側部分(より正確には、スロットル弁32の下流側部分)と、排気通路40における小型タービン622の上流側部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための高圧EGR通路510によって接続されている。高圧EGR通路510は、主通路511と、主通路511に対して並列に設けられたクーラバイパス通路512とを含んで構成されている。主通路511には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための高圧EGR弁513及び排気ガスを冷却するためのEGRクーラ514が配設され、クーラバイパス通路512には、このクーラバイパス通路512を流通する排気ガスの流量を調整するためのクーラバイパス弁515が配設されている。これら高圧EGR通路510、高圧EGR弁513及びクーラバイパス弁515、並びにEGRクーラ514を含んで、高圧EGRシステム51が構成される。
また、吸気通路30における大型コンプレッサ611の上流側部分と、排気通路40における大型タービン612の下流側部分(より正確には、排気浄化装置41と排気シャッター弁42との間)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための低圧EGR通路520によって接続されている。この高圧EGR通路520には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための低圧EGR弁521及び排気ガスを冷却するためのEGRクーラ522が介設されている。
排気シャッター弁42は、排気通路40において低圧EGR通路520の接続部よりも下流側に配設されている。排気シャッター弁42は、その開度を調整することが可能な流量調整弁であり、排気シャッター弁42を閉じ側にすることによって、通過する流量が低減して、低圧EGR通路520の排気通路40側の圧力を、吸気通路30側の圧力に対して相対的に高めることが可能になる。低圧EGR通路520と低圧EGR弁521とEGRクーラ522と排気シャッター弁42とを含んで、低圧EGRシステム52が構成される。
ターボ過給システム6は、大型ターボ過給機と小型ターボ過給機とを含む2ステージターボ過給機によって構成されている。大型ターボ過給機は、相対的に大型のものであり、小型ターボ過給機は、相対的に小型のものである。
大型ターボ過給機は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ611と、排気通路40に配設された大型タービン612とを有し、大型コンプレッサ611と大型タービン612とは、図1では図示を省略するが、互いに連結されている。
小型ターボ過給機は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ621と、排気通路40に配設された小型タービン622とを有し、小型コンプレッサ621と小型タービン622とは、図1では図示を省略するが、互いに連結されている。小型コンプレッサ621は、吸気通路30における大型コンプレッサ611の下流側に配設されている。一方、小型タービン622は、排気通路40における大型タービン612の上流側に配設されている。すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ611と小型コンプレッサ621とが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン622と大型タービン612とが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン612,622が排気ガス流により回転し、それによって、大型及び小型コンプレッサ611,621がそれぞれ作動する。
尚、図1に図示しないが、吸気通路30には、小型コンプレッサ621をバイパスする吸気バイパス通路が接続され、この吸気バイパス通路には、そこを流れるガス量を調整するためのバイパスバルブが配設されている。一方、排気通路40には、小型タービン622をバイパスする小型排気バイパス通路と、大型タービン612をバイパスする大型排気バイパス通路とが接続されており、小型排気バイパス通路45には、そこを流れるガス量を調整するためのレギュレートバルブが配設され、大型排気バイパス通路46には、そこを流れるガス量を調整するためのウエストゲートバルブが配設されている。
また、ターボ過給システム6は、2ステージターボ過給機に限らず、これに代えて、一つのタービン及び一つのコンプレッサを有するシングルターボ過給機によってターボ過給システム6を構成することも可能である。また、シングルターボ過給機及び2ステージターボ過給機に拘わらず、ターボ過給機は、可変ベーン付きのVGTとしてもよい。
符号100は、エンジンシステム1を制御するコントロールユニットである。コントロールユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
コントロールユニット100には、エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサ71、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ72、エンジン10の冷却水温を検出する水温センサ73の各センサが接続されている。
吸気通路30上には、吸気通路30を流れる新気の流量(及び温度)を検出するエアフローセンサ74が配設されており、エアフローセンサ74は、検出した流量及び外気温度をコントロールユニットに出力する(図1の破線の矢印参照)。
また、吸気通路30、排気通路40、高圧EGR通路510及び低圧EGR通路520における所定の箇所には、温度を検出する温度センサ、圧力を検出する圧力センサが配設されている。各センサは、コントロールユニット100に接続されており、その検出値をコントロールユニット100に出力する(図1の破線の矢印参照)。
ここで、温度センサとしては、吸気通路30において、インタークーラ31の下流におけるガス温度を検出するセンサ81、吸気マニホールド内のガス温度を検出するセンサ82、高圧EGR通路510内におけるガス温度を検出するセンサ83、を含んでいる。また、圧力センサとしては、吸気マニホールド内の圧力を検出するセンサ(つまり、吸気圧センサ)91を含んでいる。さらに、排気浄化装置41の下流側には、排気ガスの酸素濃度を検出するO2センサ92が配設されており、O2センサ92もまた、その検出値をコントロールユニット100に出力する。
そして、コントロールユニット100は、前述した各センサ等からの信号に基づいて、エンジン10の運転状態を判断し、少なくとも、インジェクタ21、動弁機構22、スロットル弁32、排気シャッター弁42、高圧EGR弁513、クーラバイパス弁515、及び、低圧EGR弁521を制御する。
図2は、エンジン10の運転制御に係るマップの一例である。このマップは、インジェクタ21を通じた燃料の噴射態様に関するマップであって、エンジン回転数及びエンジン負荷に応じて、複数の領域に区画されている。複数の領域の内、エンジン回転数が低回転側でかつ、エンジン負荷が低負荷(但し、軽負荷を除く)の領域(1)は、比較的早い時期に燃料をシリンダ11内に噴射し、圧縮上死点付近で燃焼させるような予混合燃焼を行う領域である。この予混合燃焼を行う領域以外の領域(2)〜(7)は、圧縮上死点付近において、トルクの発生に寄与する主噴射を実行するような拡散燃焼を行う領域である。拡散燃焼を行う領域では、エンジン10の回転数及び負荷で規定される運転状態に応じて、燃焼室内の状態、詳細には燃料の着火性の高低が相違する。図2に示すマップにおいて全開負荷を除く領域(2)〜(6)については、例えば領域(4)が最も着火性が高く、領域(6)、(5)、(3)の順で着火性が低くなり、領域(2)が最も着火性が低い領域となる。このエンジンシステム1では、燃料の着火性の高低に対応して、所定の着火遅れで、燃料が着火するように、着火性を段階的に向上させるような、複数の燃料噴射パターンが予め設定されており、図2に示すマップの拡散燃焼を行う領域(2)〜(6)のそれぞれについて、適切な燃料噴射パターンが割り当てられている。こうして、領域(2)〜(6)のそれぞれで、過早着火を回避すると共に、着火遅れ時間が長くなって燃焼音が増大することを回避するようにしている。燃料噴射態様の各パターンについては、後述する。
図示は省略するが、図2に示すマップの実質的に全領域において、小型ターボ過給機及び/又は大型ターボ過給機が作動をする。さらに、エンジン10の全開負荷を含む領域(7)を除く各領域では、高圧EGRシステム51及び/又は低圧EGRシステム52により、排気ガスが吸気通路30に導入されている。尚、排気ガスの導入量は、エンジン10の運転状態によって相違する。エンジン10の負荷が相対的に高い領域においては特に、低圧EGRシステム52によって排気ガスが吸気通路30に導入されている。低圧EGRシステム52は、排気通路40におけるタービン612、622の下流側から排気ガスを取って、吸気通路30に導入するため、ターボ過給機の回転数を低下させることなく、排気ガスを還流させることが可能である。このエンジン10では、ターボ過給システム6と、高圧及び低圧EGRシステム51、52とが共に作動をする運転状態が存在している。負荷の高い領域においても排気ガスを還流することにより、燃焼温度を低くしてNOxの低減に有利になる。
ところで、エンジン10の運転状態が変化する、例えば加速過渡時や減速過渡時には、燃焼室内に導入される吸気の酸素濃度(CCLD)が、目標の酸素濃度よりも低くなり、その結果、燃焼室内の状態が、一時的に、着火性が低下した状態になる場合がある。その場合に、当該運転領域に対して設定されている燃料噴射パターンで燃料を噴射しても、所望の着火性が確保できずに、着火遅れが長くなったり、また、失火を招いたりする虞がある。
そこで、このエンジンシステム1では、燃焼室内の状態、つまり着火性の高低に応じて、当該運転領域に対して設定されている燃料噴射パターンを選択するのではなく、予め設定されている複数の噴射パターンの中から最適な噴射パターンを選択することによって、特に加速過渡時には、着火遅れが長くなって燃焼音が増大してしまうことや、失火が生じてしまうことを回避すると共に、特に減速過渡時には、過早着火が生じてしまうことを回避するようにしている。
図3(a)〜(e)は、このエンジンシステム1において予め設定されている燃料噴射態様の各パターン、つまり、燃料の噴射時期と燃料噴射量と例示している。図3に示すパターン1からパターン5の5つの燃料噴射パターンは、着火性の向上効果が相違しており、パターン5は着火性の向上効果が最も高く(効果AAA)、従って、燃焼室内の状態が、着火性が比較的低いときに適しており、パターン4、3、2の順で着火性の向上効果が低下し、パターン1は着火性の向上効果が最も低い(効果C)。パターン1は、燃焼室内の状態が、着火性が比較的高いときに適している。
パターン1からパターン5の内、図3(c)に示すパターン3は、図2のマップにおける領域(5)における噴射パターンに相当し、図3(d)に示すパターン2は、図2のマップにおける領域(6)における噴射パターンに相当する。
領域(6)は、エンジン負荷が比較的高くかつ、エンジン回転数が中速の領域であり、燃焼室内の状態としては、燃料の着火性が若干低いものの、着火遅れが長くなる懸念はない状態である。そこで、着火性を若干高めるべく、この領域(6)においては、図3(d)に示すように、パイロット噴射2−1、プレ噴射2−2、メイン噴射2−3及びアフタ噴射2−4の4回の燃料噴射を実行する。この内、メイン噴射2−3はトルクの発生に寄与する主噴射に対応し、パイロット噴射2−1及びプレ噴射2−2は、燃料の着火性の向上に寄与する前噴射に対応し、アフタ噴射2−3は、煤の低減に寄与する後噴射に対応する。
パターン2は、前噴射として、比較的噴射量の少ないパイロット噴射2−1(噴射量「中」)と、比較的噴射量の少ないプレ噴射2−2(噴射量「小小」)とを行う。前述の通り、領域(6)は、着火遅れが長くなる懸念はないため、要求される着火性向上効果は、比較的低い(つまり、向上効果B)。よって、前噴射の噴射量は、後述するパターン3よりも少なくする。
パイロット噴射2−1は、比較的に早い時期に噴射を行うため、キャビティ121のリップ部122に向かって燃料を噴射することになり、燃焼室内に燃焼を拡散させることになる。これに対し、プレ噴射2−2は、比較的遅い時期に噴射を行うため、キャビティ121の山部123の斜面から麓に向かって燃料を噴射することになる。燃料は、キャビティ121の底面及び側面に沿って移動をしてリップ部122の付近にまで移動し、そこに比較的リッチな混合気を、局所的に生成する。こうして、パターン2では、燃焼室内に燃料を拡散させると共に、局所的にリッチな混合気を形成し、それが火種となって、着火性が向上する。
これに対し、図3(c)に示すパターン3は、前述したように、図2における領域(5)の噴射パターンである。領域(5)は、領域(6)よりも低負荷側の領域であり、エンジン10の運転領域の全体においては、中負荷でかつ、低速乃至中速の領域に相当する。燃焼室内の状態は、領域(6)よりも、着火性が低くなる状態であるが、着火遅れが長くなる懸念はない。そこで、この領域(5)では、燃料噴射パターンとして、着火性向上効果が相対的に高い(つまり、向上効果A)パターン3を選択する。パターン3は、パイロット噴射3−1及びプレ噴射3−2を含む前噴射の噴射量が、パターン2よりも増えている。また、パイロット噴射3−1及びプレ噴射3−2それぞれの噴射量を、パターン2のパイロット噴射2−1及びプレ噴射2−2よりも増やすものの(パイロット噴射は、噴射量「中」から「大」に、プレ噴射は、噴射量「小小」から「小」に増やす)、その内でも、パイロット噴射の噴射量の増量率を、プレ噴射の噴射量の増量率よりも大にする。領域(5)は、領域(6)と比較して着火性が低くなるものの、着火遅れが長くなる懸念はない。そこで、パターン3では、パターン2に対してパイロット噴射及びプレ噴射それぞれの噴射量を増やして着火性を高める一方で、パイロット噴射の噴射量を相対的に増やし、プレ噴射の噴射量はそれほど増やさないことで煤の発生を抑制する。こうして、着火性を適度に高める。これは、煤の発生を抑制しつつ、燃焼音の増大を回避する。尚、パターン2とパターン3とを比較したときに、パイロット噴射の噴射時期と、プレ噴射の噴射時期とは互いに同じである。
図3(b)に示すパターン4は、着火性の向上効果が、パターン3よりも高い(つまり、向上効果AA)噴射パターンである。従って、パターン4は、燃焼室内の状態が、着火性がさらに低い状態において選択される噴射パターンであり、着火性の程度としては、着火遅れが長くなることが懸念される状態である。パターン4では、パイロット噴射4−1、1回目のプレ噴射4−2、2回目のプレ噴射4−3、メイン噴射4−4及びアフタ噴射4−5の5回の燃料噴射を実行する。パターン4は、前噴射の回数が、パターン2及びパターン3よりも増えている。また、パターン4は、パイロット噴射4−1の開始時期が、パターン3のパイロット噴射3−1よりも遅角していると共に、2回目のプレ噴射4−3の開始時期が、パターン3のプレ噴射4−2よりも遅角している。パターン4は、前噴射の時期が、全体的に遅角しているということができる。尚、パイロット噴射4−1の噴射量は「中」、1回目のプレ噴射4−2の噴射量は「小」、2回目のプレ噴射4−3の噴射量は「小」にそれぞれ設定されている。
パターン4では、前噴射の回数を増やすことと、前噴射の時期を主噴射に近づけることによって、燃焼室内に、局所的にリッチでかつ火種となり得る混合気の周囲に、比較的リッチな(但し、火種となる混合気よりもリーンな)混合気層を設けることが可能になる。
図10(a)は、パターン4によって前噴射を行ったときの、キャビティ121内の混合気の濃度分布を例示している。パイロット噴射4−1は、噴射時期が相対的に早いため、キャビティ121のリップ部122付近に向かって燃料が噴射される。これにより、キャビティ121内の比較的広い範囲に亘って燃料が拡散し、比較的リーンな混合気が形成される。
パターン4の2回目のプレ噴射4−3は、噴射時期が相対的に遅く、ピストン12が上死点付近に位置するときに噴射される。従って、キャビティ121の底部における山部123の斜面から麓に向かって燃料が噴射される。噴射された燃料は、キャビティ121の底面や壁面に沿って移動をして、リップ部122の付近に到達し、比較的リッチな混合気を形成する。このリッチな混合気が火種となり得る。
パターン4の1回目のプレ噴射4−2は、パイロット噴射4−1と2回目のプレ噴射4−3との間で噴射されるため、2回目のプレ噴射4−3によって形成されることになるリッチな混合気(言い換えると火種となる混合気)の周囲に、それよりもリーンであるが、パイロット噴射4−1により形成される混合気よりもリッチな混合気層を形成することになる。この火種となる混合気の周囲に、比較的リッチな混合気層を形成することによって、パターン3やパターン2よりも、着火性を向上させることが可能になる。こうして、パターン4は、着火遅れが長くなる懸念のある状態でも、着火遅れが長くなることを回避して、所望の着火遅れを確保することを可能にする。ここで、パターン4における1回目のプレ噴射4−2は、火種とはならない点で、パイロット噴射4−1と同じである。パターン4において、パイロット噴射4−1及び1回目のプレ噴射4−2は、第1の前噴射ということができる。そうすると、パターン4は、パターン2及びパターン3と比較して、第1の前噴射の回数を増やした噴射モードである。
図3(a)に示すパターン5は、着火性の向上効果が、パターン4よりも高い(つまり、向上効果AAA)噴射パターンである。パターン5は、着火性の向上効果が最も高く、燃焼室内の状態が、失火が懸念される状態のときに、選択される。パターン5では、パターン4と同様に、パイロット噴射5−1、1回目のプレ噴射5−2、2回目のプレ噴射5−3、メイン噴射5−4及びアフタ噴射5−5の5回の燃料噴射を実行する。パターン5は、パターン4と比較して、前噴射の噴射量が増えている。具体的には、パイロット噴射5−1の噴射量は「大」であり、1回目のプレ噴射5−2の噴射量は「中」であり、2回目のプレ噴射5−3の噴射量は「小」である。また、パターン5では、パイロット噴射5−1、プレ噴射5−2、5−3それぞれの噴射開始時期が、パターン4と比較して遅角している。このうちでも、1回目のプレ噴射5−2の遅角量が、2回目のプレ噴射5−3の遅角量よりも大きく設定されている。2回目のプレ噴射5−3の遅角量を制限することによってメイン噴射5−4との間隔をある程度確保し、煤の発生が抑制されると共に、1回目のプレ噴射5−2の遅角量を相対的に大きくして、1回目及び2回目のプレ噴射5−2、5−3を、メイン噴射5−4に近づけることにより、火種となるリッチ混合気の範囲を拡大している。
図10(b)は、パターン5によって前噴射を行ったときの、キャビティ121内の混合気の濃度分布を例示している。パイロット噴射5−1は、噴射時期が相対的に早いため、パターン4と同様に、キャビティ121のリップ部122付近に向かって燃料が噴射される。これにより、キャビティ121内に燃料が拡散し、比較的リーンな混合気が形成される。
パターン5の2回目のプレ噴射5−3も、パターン4と同様に、キャビティ121の底部における山部123の斜面から麓に向かって燃料が噴射される(同図の矢印参照)。噴射された燃料は、キャビティ121の底面や壁面に沿って移動をして、リップ部122の付近に到達し、比較的リッチな混合気を形成する。
パターン5の1回目のプレ噴射5−2は、パターン4と比べて遅いタイミングで燃料を噴射する。このため、1回目のプレ噴射5−2も、2回目のプレ噴射5−3と同様に、キャビティ121の底部における山部123の斜面から麓に向かって燃料を噴射することになり、噴射された燃料は、キャビティ121の底面や壁面に沿って移動をして、リップ部122の付近に到達する。こうしてパターン5では、1回目のプレ噴射5−2及び2回目のプレ噴射5−3のそれぞれで噴射した燃料をリップ部122付近に集めて、火種となり得るリッチ混合気の範囲を拡大することができる。
つまり、1回目のプレ噴射は、パターン4では、燃焼室内に燃料を拡散させる噴射であるのに対し、パターン5では、火種を形成する目的の燃料噴射となり得る。従って、パターン5では、1回目のプレ噴射5−2及び2回目のプレ噴射5−3は、第2の前噴射ということができる。そうすると、パターン5は、パターン2及びパターン3と比較して、第2の前噴射の回数を増やした噴射モードである。こうして、パターン5では、着火性を最も向上させることが可能になる。
図3(e)は、パターン1の噴射態様を示している。パターン1は、燃焼室内の状態が着火性の良い状態であり、条件によっては過早着火が懸念される状態である。そこで、パターン1では、前噴射として、圧縮上死点に近い時期に、1回のプレ噴射1−1のみを行い(つまり、パイロット噴射は行わない)、パターン2やパターン3と比較して、前噴射の噴射量を少なくしている。
尚、パターン1からパターン5において、メイン噴射の噴射量は、要求トルクに応じて設定される一方、噴射時期は、パターン1からパターン5に向かうに従い、次第に進角している(圧縮上死点に近づいている)。アフタ噴射の噴射量は、パターン1〜3では中であるのに対し、パターン4及び5では、それよりも少なくなっている。またアフタ噴射の噴射時期は、パターン1からパターン5において、ほぼ同じである。
次に、コントロールユニット100が実行をする燃料噴射制御について、エンジン10の運転例に従って、説明をする。図4は、燃料噴射制御に係るフローチャートである。図5は、エンジン10の運転例を示しており、この運転例は、図5の上図に示すように、燃料噴射量が増大をする加速過渡時である。この例で、エンジン10は、図2に示すマップの領域(5)を経由して領域(6)へと移行している。加速過渡時に経由する領域(5)においては、図5の下図に示すように、吸気酸素濃度CCLDが、一時的に低下し、その後、領域(6)へ移行をして吸気酸素濃度CCLDが高くなった後に、エンジン10は定常状態になる。つまり、吸気酸素濃度を、高、中、低の3つに区分したとして、図5の例では、吸気酸素濃度が、加速開始後、高から中を経て低に至った後、再び中に戻って定常状態に至る(図5の下図の実線参照)。これに対し、目標の酸素濃度は、破線で示すように、加速開始後、高から中に緩やかに低下する。こうして、加速過渡時には、酸素濃度のアンダーシュートが生じ、図5の下図に実線で示す実際の酸素濃度と、破線で示す目標の酸素濃度との間に差異が生じる。
図4のフローにおいて、スタート後のステップS1では、コントロールユニット100は、各種の信号を読み込む。具体的には、但し、これに限定されないが、アクセル開度センサ72によるアクセル開度Acc、エンジン回転数センサ71によるエンジン回転数NE、エアフローセンサ74による新気流量AFS、吸気圧センサ91による吸気圧力(過給圧力PIM)、温度センサ82による吸気温度Tair、及び、水温センサ73による冷却水温Twである。
続くステップS2では、ステップS1で読み込んだエンジン回転数NE及びアクセル開度Accから、目標吸気酸素濃度を設定する。また、ステップS3では、トータルの吸気充填量(新気及び排気ガスを含む)、並びに、高圧EGRシステム51及び低圧EGRシステム52の制御履歴に基づいて、実際の吸気酸素濃度を推定する。そして、ステップS4では、ステップS2で設定した目標吸気酸素濃度と、ステップS3で推定した実際の吸気酸素濃度との偏差ΔCCLDを算出する(つまり、ΔCCLD=実酸素濃度−目標酸素濃度)。
ステップS5では、エンジン回転数NEとアクセル開度Accとから、目標過給圧を設定すると共に、続くステップS6で、目標過給圧と計測した過給圧PIMとの偏差ΔPIMを算出する(つまり、ΔPIM=目標過給圧−実過給圧)。
ステップS7では、ステップS1で読み込んだ信号に基づいてエンジン10の運転領域を判定し、その運転領域と、ステップS3で予測した実際の酸素濃度と、に対応する噴射制御マップを選択する。この噴射制御マップは、図2に示すマップの運転領域毎に設定されていると共に、例えば図6及び図7に例示するように、各運転領域について実酸素濃度の高中低に対応して3種類設定されている。図6は、領域(5)での噴射制御マップであり、図7は、領域(6)での噴射制御マップである。また、図6及び7の(a)は、実酸素濃度が高いときのマップであり、(b)は、実酸素濃度が中程度のときのマップであり、(c)は、実酸素濃度が低いときのマップである。実酸素濃度の高、中、低は、図5の下図に示す、実酸素濃度の高、中、低にそれぞれ対応する。例えば図5の運転例において、加速過渡時の領域(5)にあるときには、図6(a)〜(c)のマップの内、実酸素濃度の高低に応じたマップが選択され、領域(6)にあるときには、図7(a)〜(c)のマップの内、実酸素濃度の高低に応じたマップが選択される。
ステップS8で噴射制御マップを選択すれば、続くステップS9で、ΔCCLDとΔPIMとに応じて、選択したマップに従い、燃料噴射パターンを選択する。噴射制御マップは、目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差ΔCCLDと、目標過給圧と実過給圧との偏差ΔPIMとに応じて、図3に示すパターン1からパターン5のいずれかを選択するように構成されている。つまり、この噴射制御マップに記された「3」「4」等の数字は、噴射パターンを示しており、「3」の場合はパターン3を、「4」の場合はパターン4を選択する意味である。
例えば図6(a)のマップを例にすると、ΔCCLDが0で、ΔPIMも0のときには、実酸素濃度と目標酸素濃度とのずれがなく、しかも実過給圧と目標過給圧とのずれもないため、定常時において領域(5)に設定されている噴射パターンであるパターン3を選択する。尚、図6の各図において太実線で囲むように、ΔCCLD及びΔPIMが小さいとき(つまり、0及び0に近いとき)には、定常時の噴射パターンであるパターン3が選択される。
一方、ΔCCLDがマイナスのとき、つまり、実酸素濃度が、目標酸素濃度を下回り着火性が低下する状態のときであって、そのマイナスの値が大きいときには、実酸素濃度と、目標酸素濃度との乖離が大きくて、着火性が低くなる。つまり、ΔCCLDのマイナスの値が大きいほど、着火遅れが長くなって燃焼音が増大する懸念が強まり、さらには失火の懸念が強まる。そこで、同図に示すように、ΔCCLDのマイナス値になるときには(つまり、マップの右側)、パターン3ではなく着火性の向上効果の高い、パターン4を選択すると共に、マイナス値がさらに大きくなれば、着火性を更に高めるべく、パターン5を選択する。
また、ΔPIMが大きいときには、その値が大きいほど、実過給圧が目標過給圧を下回り、着火性が低下する状態であるため、パターン3ではなく、パターン4又はパターン5を選択する。こうして、ステップS9では、ΔCCLD及びΔPIMに応じて、燃焼室内の着火性の高低に応じた噴射パターンを選択する。
尚、ΔCCLDがプラスの値のとき、つまり実酸素濃度が目標酸素濃度を上回るときには着火性が高まることから、定常時に設定されている噴射パターンでは過早着火を招く虞がある。そこで、噴射制御マップは、ΔCCLDがプラスの値のときには(つまり、マップの左側)、パターン3よりも着火性が低くなるパターン1を選択するように構成されている。ΔCCLDがプラスの値になるのは、例えば減速過渡時である。
また、図6(a)(b)(c)の比較から、実酸素濃度が低いときには、それが高いときよりも、パターン5が選択されやすくなる。つまり、ΔCCLDやΔPIMの値が小さくてもパターン5が選択される。これは、実酸素濃度が低いときは、高いときと比較して着火性が低下することから、より着火性の向上効果が高い噴射パターンが選択されるように、噴射パターンの切換閾値を変更している、と言うことができる。
また、図5に示すように、エンジン10の運転状態が領域(6)に移行した後には、図7(a)〜(c)に示す制御マップに従って、噴射パターンが選択される。領域(6)においても、前述した領域(5)と同様に、ΔCCLDがマイナスのときには、そのマイナス値の大きさに応じて、パターン2ではなく、パターン4又はパターン5が選択され、逆に、ΔCCLDがプラスのときには、パターン2ではなく、パターン1が選択される。また、ΔPIMが大きいときには、パターン2ではなく、パターン4又はパターン5が選択される。
こうして、ステップS9において噴射パターンを選択すれば、続くステップS10において、冷却水温と外気温度とに応じて、選択した噴射パターンの補正を行う。
図8は、冷却水温Twと外気温度Tairに応じて噴射パターンを補正するためのマップを例示している。冷却水温Twが高いほど、また、外気温度Tairが高いほど、着火性には有利になり、逆に、冷却水温Twが低いほど、また、外気温度Tairが低いほど、着火性には不利になる。そこで、冷却水温Twが低いとき、及び/又は、外気温度Tairが低いときに着火性が高まるように、ステップS9で設定した噴射パターンを変更する。図8に示すマップにおいて「1」は、ステップS9で選択した噴射パターンを、着火性が高くなるように一段階変更することを意味する。例えばステップS9で、パターン2を選択したときには、これをパターン3にし、パターン3を選択したときには、これをパターン4にする。尚、ステップS9でパターン5を選択したときには、パターン5のままにする。また、マップにおいて「0」は、ステップS9で選択した噴射パターンで補正しないことを意味し、冷却水温Twが高くかつ外気温度Tairが高いときの「−1」は、着火性が低くなるように一段階変更することを意味する。つまり、ステップS9でパターン2を選択したときには、これをパターン1にし、パターン3を選択したときには、これをパターン2にする。尚、ステップS9でパターン1を選択したときには、パターン1のままにする。こうして、燃焼室内の状態に対応した噴射パターンにすることが可能になる。
続くステップS11では、シリンダ11内の壁温を予測し、その壁温に応じて噴射パターンを変更する。尚、シリンダ11内の壁温は、過給圧(つまり、吸気圧)、冷却水温、外気温、インタークーラ下流の温度、及び、予測した圧縮端温度等の、温度に関する各種のパラメータから予測すればよい。
図9は、壁温に係る補正マップを例示している。このマップは、図示は省略するが、図2のマップにおける運転領域毎に設定されていると共に、各運転領域について、実酸素濃度の高、中、低に応じて分けられている。同図(a)は、実酸素濃度が高いとき、同図(b)は、実酸素濃度が中程度のとき、同図(c)は、実酸素濃度が低いとき、にそれぞれ対応するマップである。このマップは、壁温が高いときには、「−1」として、噴射パターンを、着火性が低下する方向に一段階変更する。つまり、パターン2をパターン1にし、パターン3をパターン2にする。マップにおける「0」は、噴射パターンの変更を行わないことを、「1」は、噴射パターンを、着火性の向上する方向に一段階変更することを意味する。
図9の(a)(b)(c)の比較から明らかなように、実酸素濃度が低いときほど、「1」の範囲が広くなっており、着火性が高まるように噴射パターンが変更される。これは実酸素濃度の高低に応じて、実酸素濃度が低いほど燃料の着火性が低下するとして、着火性の向上効果がより高い噴射パターンが選択されるように、切換閾値を変更していることと等価である。
こうして、噴射パターンが設定されれば、続くステップS12で、ΔCCLDに応じて、前噴射の噴射量の増量補正を行う。つまり、選択した噴射パターンの範囲内において、前噴射に含まれるパイロット噴射及びプレ噴射の噴射量を調整する。具体的には、パターン4のときであって、ΔCCLDがマイナス側に大きくなって着火性が低下するときには、1回目のプレ噴射4−2の噴射量の増量率を、他の噴射4−1、4−3の噴射量の増量率よりも高くする。こうすることで、火種の周囲に形成する、相対的にリッチな混合気の範囲を拡大し、着火性の向上を図る。また、パターン5のときであって、ΔCCLDがマイナス側に大きくなって着火性が低下するときには、2回目のプレ噴射5−3の噴射量の増量率を、他の噴射5−1、5−2の噴射量の増量率よりも高くする。こうすることで、火種となるリッチ混合気の範囲を拡大し、着火性のさらなる向上を図る。
そうして設定した噴射パターンに従って、ステップS13で燃料噴射を実行し、フローはリターンする。
このように、このエンジンシステム1では、燃焼室内の状態が、着火遅れの懸念がないとき(定常時を含む)には、パターン2又はパターン3を選択する。パターン2及びパターン3はそれぞれ、主噴射の前に、2回の前噴射(つまり、第1の前噴射及び第2の前噴射)を行う。パターン2及びパターン3は、燃焼室内の状態が、着火遅れの懸念がないときの所定の噴射モードに対応する。
また、燃焼室内の状態が、燃料の着火性が低くて着火遅れが長くなることが懸念される状態のとき、又は、吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差ΔCCLDが所定以上になって着火性の悪化により着火遅れが長くなることが懸念されるときには、パターン4を選択する。パターン4は、前述したように、パターン2及びパターン3に対して、第1の前噴射の回数を増やした(つまりパイロット噴射4−1及び1回目のプレ噴射4−2を含む)噴射パターンである。このパターン4を選択することによって、燃焼室内の着火性がさらに低いときにも、着火性を高めることができ、着火遅れが長くなることが確実に回避される。
さらに、吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差ΔCCLDが所定以上になって着火性の悪化により失火が懸念されるときには、パターン5を選択する。パターン5は、前述したように、パターン2及びパターン3に対して、第2の前噴射の回数を増やした(つまり1回目のプレ噴射5−2及び2回目のプレ噴射5−3を含む)噴射パターンである。このパターン5を選択することによって、燃焼室内の着火性がさらに低いときにも、着火性を十分に高めることができ、失火が確実に回避される。
また、所定の噴射モードであるパターン2とパターン3との内、着火性が低下して着火遅れが長くなり得るときには、パターン3を選択することになるが、これは、前噴射の噴射量を、パターン2よりも増量すると共に、パイロット噴射及びプレ噴射の内の、パイロット噴射の噴射量の増量率を、プレ噴射の噴射量の増量率よりも高くすることに相当する。こうすることで、煤の発生を抑制しながら、着火遅れが長くなることを抑制することが可能になる。
さらに、パターン4とパターン5との内、失火の懸念が強まるときには、パターン5を選択することになるが、これは、前噴射の噴射量を、パターン4よりも増量すると共に、複数回の前噴射を遅角させていることに相当する。このときに、1回目のプレ噴射の遅角量は、2回目のプレ噴射の遅角量に対して大きい。その結果、1回目のプレ噴射は、パターン4では、火種となる混合気の周囲に、相対的にリッチな混合気を形成することに寄与するのに対し、パターン5では、火種となる混合気の範囲を拡大することに寄与する(図10(a)(b)参照)。パターン4は、前噴射として行う複数回の噴射の内、先に行う噴射の回数を、後に行う噴射の回数よりも多くするのに対し、パターン5は、後に行う噴射の回数を、先に行う噴射の回数よりも多くすることになる。パターン5はまた、パターン4に対して、先に行う噴射の回数を減らし、後に行う噴射の回数を増やしたパターンということもできる。こうして、パターン5では、着火性をより高めることが可能になり、失火が回避される。
また、パターン4とパターン5とは、いずれも、第1の噴射(つまり、パイロット噴射)、第2の噴射(つまり、1回目のプレ噴射)、及び第3の噴射(つまり、2回目のプレ噴射)の3回の噴射を前噴射として行う噴射パターンであり、パターン4に対してパターン5は、第2の噴射の遅角量を、第3の噴射の遅角量よりも大きくした噴射パターンに相当する。パターン4は、図6、7に示すように、吸気の目標酸素濃度と実酸素濃度との偏差ΔCCLDが所定以上になって着火性が低下したときの第1噴射モードに対応し、パターン5は、ΔCCLDが第2所定以上になって、着火性がさらに低下したときの第2噴射モードに対応する。
また、パターン4においては、燃料の着火性が低くなるほど、前噴射の噴射量を増やすと共に、3回の噴射の内、第2の噴射(つまり、1回目のプレ噴射4−2)の増量率を最も高くすることによって(図4のフローのステップS12)、煤の発生を抑制しながら、着火性を高めることが可能になる。これは、言い換えると、前噴射の内、第1の前噴射(つまり、1回目のプレ噴射4−2)の増量率を、第2の前噴射(つまり、2回目のプレ噴射4−3)の増量率よりも高くすることに対応する。
また、パターン5においては、燃料の着火性が低くなるほど、前噴射の噴射量を増やすと共に、3回の噴射の内、第3の噴射(つまり、2回目のプレ噴射5−3)の増量率を最も高くすることによって、着火性を効果的に高めることが可能になる(図4のフローのステップS12)。これは、言い換えると、前噴射の内、第2の前噴射(つまり、2回目のプレ噴射5−3)の増量率を、第1の前噴射(つまり、1回目のプレ噴射5−2)の増量率よりも高くすることに対応する。
また、実酸素濃度と目標酸素濃度との偏差ΔCCLDだけでなく、実過給圧と目標過給圧との偏差ΔPIMに応じて、噴射パターンの選択や、前噴射の噴射量及び噴射時期を補正することによって(図6、7参照)、特に、加速過渡時や減速過渡時において、煤の発生を抑制しつつ、着火遅れが長くなって燃焼音が大きくなること、及び、失火が回避されると共に、過早着火が回避される。
さらに、外気温度Tair、及びエンジン10の冷却水温度Twに基づいて、噴射パターンを変更したり(図8参照)、シリンダ11の壁温に応じて噴射パターンを変更したり(図9参照)することで、加速過渡時や減速過渡時において、煤の発生を抑制しつつ、着火遅れが長くなって燃焼音が大きくなること、及び、失火が回避されると共に、過早着火が回避される。
また、実酸素濃度の高低に応じて、噴射パターンの選択に係る閾値を変更することにより(図6、7、9の(a)〜(c)参照)、燃焼室内の着火性の状態に対応した適切な噴射パターンを選択することができ、燃焼音の増大及び失火が適切に回避される。
こうして、低圧EGRシステム52を備えることによって、特に過渡運転時において酸素濃度の目標からのずれが大きくなるときであっても、燃焼音の増大及び失火、並びに、過早着火を適切に回避することが可能になる。