本発明は、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートおよびそれを用いた発光装置に関するものである。
図18は、一般的な有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)を用いた発光装置の断面構成と光の伝搬の様子を示す図である。一般的な有機EL素子では、基板101の上に、電極102、発光層103、透明電極104がこの順に積層され、透明電極104の上には透明基板105が設けられている。電極102と透明電極104との間に電圧を印加すると、発光層103の内部の点Sで発光が生じる。この光は、直接、もしくは電極102において反射した後、透明電極104を透過し、透明基板105の表面上の点Pに表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において屈折して空気層106側に出射する。
透明基板105の屈折率をn’1とすると、入射角θが臨界角θc=sin-1(1/n’1)より大きくなった時、全反射が発生する。例えば、θc以上の角度xで透明基板105の表面上の点Qに入射する光は全反射し、空気層106側に出射することはない。
図19(a),(b)は、上記発光装置において透明基板105が多層構造を有していると仮定した場合における光取り出し効率を説明する説明図である。図19(a)において、発光層103の屈折率をn’
k、空気層106の屈折率をn
0、発光層103と空気層106の間に介在する複数の透明層の屈折率を発光層103に近い側からn’
k-1、n’
k-2、…、n’
1とし、発光層3内の点Sから発光する光の伝搬方位(屈折面の面法線となす角)をθ’
k、各屈折面での屈折角を順にθ’
k-1、θ’
k-2、…、θ’
1、θ
0とすると、スネルの法則より次の(数1)が成り立つ。
したがって、次の(数2)が成り立つ。
結局、(数2)は発光層103が空気層106に直接接触する場合のスネルの法則に他ならず、間に介在する透明層の屈折率には関係せず、θ’k≧θc=sin-1(n0/n’k)で全反射が発生することを表している。
図19(b)は、発光層103から取り出せる光の範囲を模式的に示したものである。取り出せる光は、発光点Sを頂点、臨界角θ
cの2倍を頂角とし、屈折面の面法線に沿ったz軸を中心軸とする2対の円錐体107、107’の内部に含まれる。点Sからの発光が、全方位に等強度の光を放射するものとし、屈折面での透過率が臨界角以内の入射角で100%とすれば、発光層103からの取り出し効率ηは、球面108の表面積に対する、円錐体107、107’により球面108を切り取った面積の比に等しく、次の(数3)で与えられる。
なお、臨界角以内の入射角でも透過率は100%とはならないので、実際の取り出し効率ηは、1−cosθcよりも小さくなる。また、発光素子としての全効率は、発光層の発光効率を上記取り出し効率ηに乗じた値となる。
特許文献1には、有機EL素子において、透明基板から大気へと光が出ていくときの透明基板表面での全反射を抑制する目的で、基板界面あるいは反射面に回折格子を形成し、光取り出し面に対する光の入射角を変化させることにより光の取り出し効率を向上させることが開示されている。
また、特許文献2には、光の取り出し効率のよい平面発光装置を提供するため、有機EL素子において透明基板の表面に透明の突起物を複数形成して透明基板と空気との界面における光の反射を防止することができると記載されている。
特開平11−283751号公報
特開2005−276581号公報
しかしながら、上述のような従来の発光装置において以下の問題があった。
図18に示す従来の有機EL素子を用いた発光装置では、発光層103からの光取り出し効率ηが最大でも1−cosθcを超えることがなく、発光層103の屈折率が決まれば、光取り出し効率の最大値が一義的に制限されていた。例えば、(数2)において、n0=1.0、n’k=1.457とすると、臨界角θc=sin-1(n0/n’k)=43.34度であり、光取り出し効率の最大値は1−cosθc=0.273程度と小さく、n’k=1.70では0.191程度まで下がる。
また、特許文献1に開示された技術では、確かに全反射になるべき光を取り出すことができるが、その逆もある。すなわち、回折格子層が無い場合に透明基板の屈折面(出射面)に臨界角より小さい角度で入射して透過、屈折する光が、回折格子層によって回折されることにより、屈折面に対する入射角が臨界角を超え、全反射する場合がある。従って、特許文献1に開示された技術は光取り出し効率の向上を保証するものではない。さらに、特許文献1に開示された技術では、全ての光線が一律に所定の角度だけ曲げられた回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は、方位によって光強度に分布があり、光が曲げられる角度が出射光の波長に依存することから、方位による色のアンバランスが存在する。
また、特許文献1に開示された発光装置では、外界(空気層側)から入射する光は透明基板の表面を規則的に反射し、発光層から取り出される光にとって外乱(いわゆる映り込み)となる。そのため、透明基板の表面には反射防止膜を堆積する等の光学処理が必要であり、製品コストを押し上げていた。
一方、特許文献2に開示された発光装置は、屈折面における光の反射防止を目的にしたもので、この構造による光取り出し効率の改善は1、2割程度と小さいものに収まる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、臨界角以上の透明基板への入射光も出射させて光取り出し効率の大幅な向上を実現するとともに、映り込みを防ぎ、方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生も抑えるシートおよび発光装置を提供することにある。
本発明の第1のシートは、発光体からの光が一方の面に入射し、他方の面から出射するように用いられるシートであって、前記他方の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ1を透過した光と、前記複数の微小領域δ2を透過した光との位相差はπである。
ある実施形態において、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のそれぞれには、光軸の揃った1/2波長板が配置され、前記複数の微小部分d1の1/2波長板の光軸方位と、前記複数の微小部分d2の1/2波長板の光軸方位とが45度の角度で配置される。
本発明の第2のシートは、発光体からの光が一方の面に入射し、他方の面から出射するように用いられるシートであって、前記他方の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のそれぞれには、透過軸の揃った偏光子が配置され、前記複数の微小部分d1に配置される偏光子の透過軸と、前記複数の微小部分d2を構成する偏光子の透過軸とは直交する。
本発明の第3のシートは、発光体からの光が一方の面に入射し、他方の面から出射するように用いられるシートであって、前記他方の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のうちのいずれか一方には、遮光面が設けられている。
ある実施形態において、前記複数の微小領域δ1および前記複数の微小領域δ2は多角形であって、前記複数の微小領域δ1および前記複数の微小領域δ2は互いに合同な形状である。
本発明の第1の発光装置は、発光体と、前記発光体における発光面の上に設けられた保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層において前記発光面側と反対側の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ1を透過した光と、前記複数の微小領域δ2を透過した光との位相差はπであり、前記保護層のうち前記発光層側とは反対側の面は、前記保護層の屈折率よりも低い屈折率を有する媒質と接する。
ある実施形態において、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のそれぞれには、光軸の揃った1/2波長板が配置され、前記複数の微小部分d1の1/2波長板の光軸方位と、前記複数の微小部分d2の1/2波長板の光軸方位とが45度の角度で配置される。
本発明の第2の発光装置は、発光体と、前記発光体における発光面の上に設けられた保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層において前記発光面側と反対側の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記保護層のうち前記発光層側とは反対側の面は、前記保護層の屈折率よりも低い屈折率を有する媒質と接し、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のそれぞれには、透過軸の揃った偏光子が配置され、前記複数の微小部分d1に配置される偏光子の透過軸と、前記複数の微小部分d2を構成する偏光子の透過軸とは直交する。
本発明の第3の発光装置は、発光体と、前記発光体における発光面の上に設けられた保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層において前記発光面側と反対側の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記保護層のうち前記発光層側とは反対側の面は、前記保護層の屈折率よりも低い屈折率を有する媒質と接し、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のうちのいずれか一方には、遮光面が設けられている。
ある実施形態において、前記媒質は空気である。
ある実施形態において、前記媒質はエアロゲルである。
本発明によると、微小領域δ1、δ2に内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の範囲内にあり、かつ、微小領域δ1、δ2を透過した光について、電界ベクトルの向き、大きさまたは位相が微小領域δ1、δ2の境界において不連続となる。このような場合、屈折面に入射する光の電界ベクトルまたは磁界ベクトルの周回積分がゼロではなくなるため、微小領域δ1、δ2の境界において光が発生する(境界回折効果)。この現象によって、臨界角を超えた角度で微小領域δ1、δ2に入射する光を取り出すことが可能となる。微小領域δ1、δ2に入射する前に下地において反射した光も、下地において再度シート側に反射され、再度微小領域δ1、δ2に入射する。このように、光の取り出しを繰り返し行えるため、光取り出し効率の大幅な改善が可能となる。
(a)は、屈折面107a近傍における光106の進行を示す図であり、(b)は、屈折面107a近傍における屈折率のステップ状の変化を示す図であり、(c)は屈折率近傍107a近傍における屈折率のなだらかな変化を示す図であり、(d)は、屈折面における入射角と透過率との関係を示すグラフ図である。
(a)は周期的構造を有した回折格子を表面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)に示す発光装置の上面を示す図である。
回折格子による回折方位を説明するための図である。
(a)はランダムに配置された突起を表面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)に示す発光装置の上面を示す図である。
(a)から(h)は、屈折面における光の場の境界条件を説明するための図である。
(a)はピンホールを、(b)は位相シフタを配置した図である。
(a)は図6に示す構造において、屈折面における透過率tの入射角依存性を示すグラフ図であり、(b)は、図6に示す構造から出射する光の量が増加する理由を説明するための図である。
本発明による第1の実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す図である。
(a)は第1の実施形態における微細領域13の一部を拡大して示す図であり、(b)は、(a)より広い範囲におけるパターン図である。
第1の実施形態の保護層のパターンを示す図である。
第1の実施形態の保護層における取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であって、1回目および2回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図である。
第1の実施形態の発光装置の一例(調整層を有する発光装置)の断面図である。
第1の実施形態の発光装置の一例(調整層との境界にも表面構造を設けた発光装置)の断面図である。
第2の実施形態の保護層のパターンを示す図である。
第3の実施形態の保護層のパターンを示す図である。
(a)は第4の実施形態の第1のパターンを、(b)は第2のパターンを示す図である。
(a)、(b)はその他の実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す図である。
従来例である有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す図である。
(a)は多層構造の透明基板を、(b)は取り出し可能な光の範囲を説明するための図である。
本願発明による実施形態を説明する前に、特許文献1および特許文献2に示されるような先行例を踏まえて、本願発明に至るまでの検討経過を説明する。
図1(a)から(d)は、屈折面(透明層表面と空気層との界面)での透過率を説明するための図である。
図1(a)に示す光108は、屈折率1.5の透明層107の内部から紙面方向に沿って透明層107の屈折面107aに角度θで入射し、空気側(屈折率1.0)に出射する。屈折面107aにおいて、光108は屈折面107aに近づく方向に屈折している。
図1(b)、(c)に、屈折面107a近傍における屈折率の分布を示す。図1(b)、(c)において、縦軸は透明層107および空気中の位置を示す。縦軸の値が0の位置が屈折面107aである。図1(b)、(c)における横軸は屈折率を示す。
通常、屈折面107a近傍での面法線に沿った屈折率分布は、図1(b)に示すようなステップ状であり、屈折率は、屈折面107aを境界にして不連続に変化する。この場合、P偏光(電界ベクトルが紙面に平行な振動成分)は、図1(d)の曲線108a、S偏光(電界ベクトルが紙面に直交する振動成分)は、曲線108bのような透過率特性を示す。曲線108a、108bの透過率は、入射角が臨界角(=41.8度)以下では互いに異なるが、臨界角を超えると共にゼロになる。
一方、透明層107の表層部分が多層構造であり、屈折率分布が図1(c)に示すようなテーパ状になると仮定した場合には、P偏光は、図1(d)の曲線108A、S偏光は曲線108Bのような透過率特性を示す。臨界角を超えると曲線108A、108Bの透過率がゼロになることは、曲線108a、108bと同様である。一方、臨界角以下での透過率は、曲線108aよりも曲線108Aのほうが100%に近づいている。同様に、臨界角以下での透過率は、曲線108bよりも曲線108Bのほうが100%に近づいている。このように、曲線108A、108Bは、曲線108a、108bよりも臨界角を境界にしたステップ関数の形状に近づく。図1(c)の多層構造は、屈折率が1.5から1.0まで0.01の偏差をなす厚さ0.01μmの膜を50層重ねた構造としたが、厚さ方向の屈折率変化の勾配が緩やかな程、P偏光、S偏光の差がなくなり、いずれも入射角に対する透過率のグラフがステップ関数に近づく結果が得られる。
屈折面において光が全反射しないようにするためには、屈折面に入射する光の入射角を臨界角以下にする工夫が必要である。そのような工夫の一つとして、本願発明者は、特許文献1に開示された、図2(a)、(b)に示すような発光装置の検討を行なった。図2(a)、(b)に示す発光装置は、透明基板205と透明電極204との界面に回折格子209を設けた有機EL素子である。
図2(a)に示すように、基板201の上に電極202、発光層203、透明電極204、回折格子層209をこの順に積層し、回折格子層209の上に透明基板205を設ける。回折格子層209は、透明基板205と接する表面に、x方向、y方向ともピッチΛの凹凸周期構造を有している。凸部の形状は、図2(b)に示すような幅wの正方形であって、この凸部が、千鳥格子状に配列される。電極202と透明電極204との間に電圧を印加することによって、発光層203の内部(例えば点S)から光が発せられる。この光は、直接、もしくは電極202において反射した後、透明電極204を透過し、回折格子層209を透過し、回折する。例えば、点Sを出射する光210aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると、光210bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射するが、実際には回折格子層209において回折するので、光210cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも小さくなる。このように、光の全反射を防止することができる。
上記の回折格子による回折方位を図3を用いて説明する。屈折率n
Aの透明層207の内部から紙面方向に沿って透明層207の屈折面207a上の点Oに角度θで入射し、屈折率n
Bの透明層206側に回折する波長λの光を考える。図3には示されていないが、屈折面207aには紙面に沿ってピッチΛをなす回折格子が形成されている。説明のため、図3に、点Oを中心にする半径n
Aの円211と半径n
Bの円212を示す。入射ベクトル210i(円211の円周上を始点として角度θで点Oに向かうベクトル)の屈折面207aへの正射影ベクトル(垂線の足Aから点Oに向かうベクトル)を210Iとし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210rを、その正射影ベクトル210Rがベクトル210Iと同一になるように描く。垂線の足Cを始点として、大きさqλ/Λのベクトル(格子ベクトル)を考える。ただし、qは回折次数(整数)である。図ではq=1の場合のベクトル210Dを描いており、その終点Bを垂線の足とし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210dを描く。光210iが単位時間当たりに透明層207(屈折率n
A)を進むx方向の距離(ベクトル210Iの長さ)は、n
A×sinθで表される。一方、光210rが単位時間当たりに透明層206(屈折率n
B)を進むx方向の距離(ベクトル210Rの長さ)は、n
B×sinφで表される。ベクトル210Iの長さとベクトル210Rの長さとは等しいため、下記(数4)が成り立つ。(数4)から、屈折光線の方位を与えるベクトル210rの方位角φ(屈折面法線となす角)が与えられる。
これはスネルの法則そのものである。一方、回折光線の方位を与えるベクトル210dの方位角φ’(屈折面法線となす角)は次の(数5)で与えられる。
ただし、図3の角φ’はz軸(点Oを通る屈折面法線)を跨いでいるのでマイナスで定義される。
(数4)、(数5)の結果から、回折光線(ベクトル210d)が向かう方向は、屈折光線(ベクトル210r)が向かう方向から、qλ/Λの分だけずれることになる。図2(a)において、回折しないと仮定した光線210bは、図3における屈折光線(ベクトル210r)に相当する。一方、図2において回折する光線210cは、図3における回折光線(ベクトル210d)に相当する。光線210cは、光線210bからqλ/Λの分だけ方位がずれることによって、屈折面205aにおける全反射を免れていることになる。このように、全反射するべき光を取り出すことができるので、回折格子層を持たない有機EL発光装置に比べ、光取り出し効率の向上が見込めるようにも考えられる。
しかしながら、図2(a)において点Sを出射する光210Aを考えた場合、次のような問題点が明らかとなる。光210Aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると、光210Bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以下の角度で入射して屈折面205aを屈折して透過していく。しかしながら、実際には回折格子層209において回折するので、光210Cのように、屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも大きくなり、全反射してしまう。従って、このような回折格子層209を設けても光取り出し効率の向上は必ずしも保証されない。
また、図2に示す有機EL素子を用いた発光装置では、全ての光線に関して一律にqλ/Λの分だけ方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光では、方位によって光強度に分布があり、シフト幅qλ/Λが出射光の波長λに依存するため、光が出射する方位によって色のアンバランスが存在する。即ち、見る方向によって異なる色の光が見えることになり、このような特性は、ディスプレイ用途にはもちろん、光源としても不都合である。
次に、本願発明者は、特許文献2に開示された、図4(a)、(b)に示すような発光装置について検討を行った。図4(a)、(b)に示す発光装置は、透明基板305の表面に突起物315が設けられた有機EL素子である。図4(a)に示すように、基板301の上に、電極302、発光層303、透明電極304、透明基板305をこの順に積層し、透明基板305の表面305aに複数の突起物315を形成する。突起物315は、幅w、高さhの四角柱形状のものを、図4(b)に示すように、透明基板表面305a上におけるランダムな位置に配置する。wの大きさは0.4〜20μm、hの大きさは0.4〜10μmの範囲内にあり、このような突起物315を5000〜1000000個/mm2の範囲の密度で形成している。電極302と透明電極304との間に電圧を印加することによって、発光層303の内部(例えば点S)から光が発せられる。この光310dは、直接、もしくは電極302において反射した後、透明電極304を透過し、その一部が突起物315を通じて310fのように外界に取り出される。
本願発明者は、図4(a)、(b)の発光装置において光取り出し効率が向上する理由を以下のように考えた。実際の突起物315の形状は、サイドエッチングにより先端に行くほど細くなるよう加工できるし、サイドエッチングを行なわなくても、自然に突起物315が先細りの形状に形成されるため、実効的な屈折率が透明基板305と空気との中間付近の値を取る。したがって、等価的に屈折率分布を緩やかに変化させることができる。この場合、屈折率分布は、図1(c)に示す屈折率分布に近い分布となる。突起物315によって、矢印310eで示されるような光の反射を一部防止することができる。その結果、光の取り出し効率を向上させることができる。また突起物315のサイズを波長以上に設定しても、突起物315がランダムに並んでいるので、取り出された光の干渉を抑えることができる。
しかしながら、図4に示す構造の発光装置では、図1(d)の曲線108a,108bと曲線108A,108Bとの比較からわかるように、透過率の向上は臨界角以下の光によるものに限られる。その結果、光の取り出し効率の改善は1,2割程度に止まり、大きな改善は見込めない。
以上のような検討を行い、これらに基づいて、本願発明者は屈折面で全反射する光量を減らし、取り出せる光量を如何にして増すかについてさらに検討を重ねていった。さらなる検討の手始めとして屈折面での光の境界条件を検討した。
図5に、屈折面における光の場の境界条件を模式的に示す。ここでは、幅Wの光が屈折面Tに入射する場合を考える。マックスウェルの方程式から、電界ベクトルまたは磁界ベクトルに関して、屈折面Tを挟んで周回する経路Aに沿った積分はゼロである。ただし、周回路内部に電荷や光源がなく、屈折面における光について、屈折面Tに沿った電界ベクトルまたは磁界ベクトルの向き、位相および大きさが連続していることが前提条件である。
図5(a)のように幅Wが十分大きい場合には、屈折面に直交する幅tを屈折面に沿った幅sに比べ無視できるほど小さくでき、電界ベクトルまたは磁界ベクトルの周回積分のうち、屈折面に沿った成分しか残らない。この関係から、屈折面を挟んで電界ベクトルまたは磁界ベクトルが連続することが求められる。この連続性の関係を利用して導出されるのがフレネルの式であり、この式により反射、屈折の法則や全反射の現象等が完全に解き明かされる。
図5(b)のように、光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCに分割すると(図5(c)参照)、このうち周回積分Bは光束(a bundle of rays)内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは光束外での電界ベクトル又は磁界ベクトルがゼロなので、光束内にある経路PQの積分値だけが残る(図5(d)参照)。従って周回積分Cはゼロではなくなり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。さらに、光の幅Wが波長の1/10程度まで小さくなると、図5(e)に示すように、周回積分CとC’が近接し経路PQとQ’P’が重なるので、CとC’を合わせた周回積分がゼロになり、周回路内で光が発光することはなくなる。
一方、図5(f)のように、πだけ位相差を有する光を出射する領域が屈折面に沿って並ぶ場合、これらの光束をまたがる周回積分Aを考える。この場合も光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCとB’に分割すると(図5(g)参照)、このうち周回積分B、B’は光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは屈折面に沿った成分が無視でき、2つの光束の境界に沿った経路PQとQ’P’の積分値だけが残る(図5(h)参照)。光束の位相がπの場の経路Q’P’での積分は光束の位相が0の場の経路P’Q’での積分に等しいので、周回積分Cは経路PQでの積分の2倍の大きさになり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。したがって、幅の狭い光だけでなく狭い幅を介して位相が異なる光が並ぶ場合でも領域の境界付近で光が発生する(実際に発光するのではなく、実効的に発光と同じように振る舞う現象であり、回折理論の成立前にヤングが提唱した境界回折に似ているので境界回折効果と呼ぶ。)。このような現象は、互いに電界ベクトルの振動方向が直交する光を出射する領域が屈折面に沿って並ぶ場合や、光が透過する領域と光が遮断する領域とが屈折面に沿って並ぶ場合にも同様に起こる。
光束の位相がπからずれても発光は生じるが、発光量は除々に少なくなっていく。
屈折面Tにおいてどのような入射条件であろうとも屈折面上で発光があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。すなわち、臨界角以上の入射光であっても、計算上屈折面で発光が生じるようにすれば全反射しないで透過光が現れると考えられる。このような考察結果から、本願発明者は、臨界角を超えても光が透過する現象を実際に生じさせるための屈折面の構造を以下のように検討した。
境界回折効果が強く出る例として、図6に示すように、発光体に載せられた透明基板の空気との境界面に(a)ピンホールを設けそれ以外は遮光してピンホール光(幅wの領域内のみに光が存在)としたものと、(b)幅wで仕切られた碁盤の目に180度の位相シフタ18をランダムに配置したものとを検討した。なお最初はピンホールで検討を行ったが、ピンホールでは現実的な光の取り出しがほとんどできないので、ピンホールと同じ光取り出し特性を示すと考えられるランダムに配置された位相シフタについても検討した。
図7(a)は、図6に示す構造において、屈折面における透過率tの入射角依存性を示すグラフ図である。図7(a)では、光の波長を0.635μmとし、屈折率1.457の透明基板内で光量1の光が空気との境界面に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、1.0、2.0、4.0、20.0μm)にして示している(ピンホール光も180度位相シフタも全く同じ特性を示すので180度位相シフタのもので代用する。)。図5(a)の条件に近いw=20μmのときの特性は、臨界角(43.34度)を超えると透過率がほぼゼロになる。wが0.4〜1.0μmまで小さくなると、図5(d)、(h)で説明した境界回折効果により、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。更にwを小さくすると(w=0.1、0.2μm)、図5(e)で説明した様に、あらゆる入射角で透過率が0に近づいてくる。なお、図7(a)はヘルムホルツの波動方程式(いわゆるスカラー波動方程式)に基づく解析結果なので、P偏光とS偏光の差は現れていない。
なお、図7(a)に示すグラフにおいて、臨界角より小さい入射角度では、w=20.0μmのときの透過率はほぼ1であるが、他のwの値では、透過率が1よりも低下している。しかしながら、以下の理由によって、全体的な光量は増加する。図7(b)に示すように、位相シフタ18(図6に示す)上の点Sには、様々な角度から光が入射する。図7(b)では、Z軸の負の方向から光が入射し、正の方向に出射する。Sへの入射光のうち、位相シフタ18に対して臨界角よりも小さな角度で入射する光30と、臨界角よりも大きな角度で入射する光31とを比較すると、入射角度が相対的に小さい光30よりも入射角度が相対的に大きい光31のほうが、広い領域から入射するため、光量が多くなる。これらの光のうち、光30は、入射角度が臨界角よりも小さく、位相シフタ18において反射することなく空気層側に出射する。一方、光31は、入射角度が臨界角よりも大きいため、一部が位相シフタ18において反射し、一部が境界回折効果によって空気層側に出射する。このとき、光30よりも光31の方が光量も多いため、図7(a)に示すように、臨界角より小さい角度の光30において透過率が低下しても、臨界角より大きな入射角度における光31の透過率が向上している場合(w=0.2、0.4、1.0、2.0μm)には、全体としての光の量は増加する。
このような結果に基づいて、本願発明者らはさらに検討を進め、全反射を防いで光の取り出し効率を飛躍的に向上させる今までにない発光装置に想到するに至った。
以下、本発明による実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図面では、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
(第1の実施形態)
以下、本発明によるシート(保護層)および発光装置の第1の実施形態を図8から図13に基づいて説明する。本実施形態の発光装置は、有機EL素子である。
図8に、第1の実施形態の有機EL素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す。本実施形態における有機EL素子では、基板1の上に、電極2、発光層3、透明電極4がこの順に積層され、透明電極4の上には、透明電極4を保護する透明基板(透明な保護層)5が形成された構成を有する。有機EL素子において、基板1、電極2、発光層3、透明電極4が発光体を構成している。透明基板5の上には、保護層11が形成されている。保護層11は、発光体からの光が一方の面(透明基板5側の面)に入射し、他方の面(透明基板5とは反対側の面)から出射するように用いられる。保護層11は、透明基板5とは反対側の面に、複数の微小領域13(微小領域δ)を備える。
図9(a)に、第1の実施形態における微小領域13のパターンを示す。図9(a)に示すように、保護層11において、微小領域13は、微小領域13a、13b(微小領域δ1、δ2)に分けられる。微細領域13a、13bは、保護層11のうち有機EL素子とは反対側の面を、幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形)に仮想的に隙間無く分割している。
微小領域13a、微小領域13bのうちのそれぞれは、他の微小領域13a、13bと隣接し、かつ周りを取り囲まれた構造を有している。
微小領域13aは、全ての微小領域13のうち、20%以上80%以下の割合で配置されている。微小領域13bは、微小領域13のうち微小領域13a以外の領域を占める。例えば、微小領域13a、13bは、微小領域13のうち各50%の比率で配置していることが好ましい。
微小領域13a、13bは、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下であるサイズを有する。
微小領域13aおよび微小領域13bには、それぞれの透過軸が直交した微小偏光子が敷き詰められる。偏光子は、微小領域13aを含み、厚さ方向に延びる微小部分13A(微小部分d1)と、微小領域13bを含み、厚さ方向に延びる微小部分13B(微小部分d2)とに設けられる。
これにより、微小領域13aを透過した光の電界ベクトルの振動方向と、微小領域13bを透過した光の電界ベクトルの振動方向とは直交し、微小領域13a、13bを透過した光について、電界ベクトルの向きが不連続となる。これにより、屈折面に入射する光の電界ベクトルの周回積分がゼロでなくなるため、微小領域13aと微小領域13bとの境界で光が生じる(境界回折効果)。
なお、「微小領域13aを透過した光と、微小領域13bを透過した光との振動方向が直交する」範囲には、微小部分13A、13Bの製造誤差や、光の振動方向を測定するときの測定誤差によって、直交する方向から振動方向がずれる場合も含まれる。
図10は保護層11における偏光子19a、19bの配置を模式的に示している。偏光子19a、19bは、光学的に異方的な構造を面内に有しており、互いに直交した偏光成分のみを透過する。それぞれの微小部分13Aにおける偏光子19aの透過軸は互いに揃い、それぞれの微小部分13Bにおける偏光子19bの透過軸は互いに揃っている。また、微小部分13Aにおける偏光子19aの透過軸と、微小部分13Bにおける偏光子19bの透過軸とは、直交している。偏光子19a、19bごとに、一方の偏光成分は透過、もう一方の偏光成分は遮断(もしくは反射)する。
この偏光子19a、19bを用いた場合には、保護膜11の表面に凹凸を設ける必要がないため、微小領域13a、13b間の光の伝搬距離の差がゼロであり,かつ、微小領域13a、13bを通過した光に位相差を生じさせることができる。
図9(b)に、保護層11の表面のうち図9(a)よりも広い領域を示す。図9(b)では、微小領域13aを黒色で、微小領域13bを白色で示す。図9(b)に示す保護層11において、wは0.4μmである。
本実施形態では、微小領域13a、13bの配置が周期性を有していない(ランダムに配置されている)ことが好ましい。ただし、この場合の「配置」とは、保護層11の有機EL素子とは反対側の面の面内における配置をいい、保護層11の厚さ方向における配置でない。また、微小領域13a、13bのそれぞれが配置される微小領域13は正方形であり、その大きさは、「内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下」である。このように、微小領域13の形状や大きさは、「周期性を有さない」ものではない。
このようなランダムに配置されたパターンを境界回折効果によって回折する光は、その伝搬方位もランダムになるので、特許文献1に記載された発光装置のような、方位による光強度の分布が存在せず、方位による色のアンバランスもない。また、外界(空気層側)から入射する光は透明基板5表面において反射するが、この反射光はランダムな方位に回折するため、外界の像が映り込むことにはならず、反射防止膜等の光学処理は不要であり、製品コストを低く抑えられる。
本実施形態では、電極2と透明電極4との間に電圧を印加することで、発光層3の内部(例えば点S)で発光が生じる。この光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、透明基板5の表面上に設けられた保護層13における点Pに、表面の面法線に対して角度θで入射する。点Pにおいて、光が回折して、空気6側に出射する。
空気6の屈折率をn0、透明基板5の屈折率をn1とすると、入射角θが臨界角θc=sin-1(n0/n1)より大きくなった時に全反射が発生するはずである。しかし、透明基板5表面に保護層11が設けられているため、点Qに臨界角θc以上の角度xで光が入射しても、その光は全反射することなく回折し、空気6側に出射する(1回目の光取り出し)。なお、点Qでは光の一部が反射するが、その成分は、電極2において反射した後、再び保護層11上の点Rに入射し、その一部が空気6側に出射し(2回目の光取り出し)、残りは反射する。以上の過程を無限に繰り返す。
ここで、従来の有機EL素子を用いた発光装置を考えると、臨界角以上の角度で透明基板と空気層との界面に透明基板側から入射した光は全反射する。全反射した光が電極で反射しても、透明基板と空気層との界面に再び臨界角以上で入射する。このように、従来では、2回目以降の光の取り出しは起こらず、この点で従来と本実施形態とは異なっている。
ここで、図7を再度用いて、光の取り出し効率について説明する。図7には、透明基板5内で光量1の光が保護層11の微小部分13A、13Bに角度θ(屈折面法線となす角度)で入射し、1回目でどれだけの光が空気6側に出射するかを示している。透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μm、微小領域13aの面積比率P=0.5とし、微小領域13a、13bの幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、1.0、2.0、4.1.0μm、2.0μm、4.0μm、20μm)にしている。
図18に示すような従来の発光装置と違って、本実施形態では、幅wが小さい場合(w=0.2、0.4、1.0、2.0μm)では、境界解析効果により臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在することが分かる。
点発光によって光は透明基板5内で球面波となって均一に拡散すると仮定すると、発光方位角θ(前述の入射角θに一致)からθ+dθの間にある光量の総和はsinθdθに比例する。従って、取り出し光量は、図7で示した透過率tにsinθを掛けた値に比例する。すなわち、透明基板5内の1点(実際には発光層内の点)で発光する光量1の光が、微小部分13A、13Bに角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気層6側に出射するかを求めれば、1回目の取り出し光量の入射角依存性がわかる。また、保護層11において1回反射し、電極2で反射した後、再び保護層11に入射する場合、すなわち2回目の取り出し光量の入射角依存性を求めることもできる。
取り出し光量を入射角θで積分すると光取り出し効率が得られる。図11は、第1の実施形態における保護層11の光取り出し効率を示すグラフ図である。図11には、微小領域13aに光の位相を180度変換させる位相シフタを置いた場合の光取り出し効率を示す。図11には、図7に示す結果と同じ条件の結果を、横軸に保護層11の境界幅wをおいてまとめている。図11には、1回目の光取り出し効率η1だけではなく、2回目の取り出し効率η2も示している。2回目の光取り出し効率η2は、透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰は無いとして、保護層13で反射し、電極2を反射した後、再び保護層13に入射する場合の光取り出し効率である。境界幅wを大きくしていくと1回目、2回目の光取り出し効率がそれぞれ0.25、0.00に漸近していき、境界幅wを0.3μmから小さくしていくと、2回目のみならず1回目の光取り出し効率もゼロになる(この理由はすでに図5(e)で説明した。)。
透明基板5から見た、透明基板5と電極2との間の往復における光透過率をτとすると、往復における光減衰を考慮した2回目の光取り出し効率はτ×η2になる。光取り出しは1回、2回にとどまらず無限に繰り返され、その関係が等比数列として1回目がη1、2回目がτ×η2であれば、n回目はη1×(τ×η2 /η1)n−1と予想できる。従って、n回目までの光取り出しの合計は下記(数6)のようになる。
無限回では、下記(数7)に漸近する。
図11において2つの曲線で見てみると、w=0.20μmの時、η1=0.177、η2=0.029であり、τ=0.88とすると、0.207の光取り出し効率が得られる。w=0.40μmの時、η1=0.260、η2=0.056であり、0.321の光取り出し効率が得られる。また、w=1.00μmの時には、η1=0.267、η2=0.067であり、0.343、w=2.00μmの時には、η1=0.271、η2=0.015であり、0.284の光取り出し効率が得られる。
一方、図18に示される発光装置は、w=∞の場合に相当すると考えればよいので、η1=0.246、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計の光透過率は0.246である。従って、本実施形態の発光装置は、w=0.20μmの条件では図18に示される発光装置の0.84倍、w=0.40μmの条件では、1.20倍、w=1.00μmの条件では1.39倍、w=2.00μmの条件では1.15倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。図11から、wを0.3μm以上2.00μm以下とすることで (一般的に表現すれば、微小領域13に内接する円の最大のものの直径を0.3μm以上2μm以下とすることで)、光取り出し効率の大幅な向上を実現できる。wを0.3μmに設定して保護層11を作製した場合、製造誤差によって、最も小さい領域のwは、0.2μmになることがある。この結果から、光取り出し効率を向上させるためには、wを0.2μm以上2μm以下にすることが好ましい。
また、wを0.4μm以上0.8μm以下とすると、光取り出し効率が高い範囲に保たれるため、さらに好ましい。
次に、微小領域13a、13bの比率を決定した過程について説明する。表1は、微小領域13のうち微小領域13aが存在する確立P1をパラメータとして計算した光取り出し効率の値(1回目、2回目、トータルの光取り出し効率を、それぞれη1、η2、ηと示す。)とを示す表である。
表1に示すように、P1の値が0.5から外れるに従って光取り出し効率が低下するが、0.8≧P1≧0.2の範囲では低下の度合いは小さい。従って本実施形態が0.8≧P1≧0.2の範囲でのパターン生成ルールに従うかぎり、高い光取り出し効率となる。
図10に示すような偏光子19a、19bのパターンは、例えば、パターン化フォトニック結晶の形成方法を用いて形成できることが、例えば、精密工学会誌74巻、8号(2008)の795〜798ページ(以下、技術文献と呼ぶ。)に示されている。
以下に、2種類の材料を交互に積層していく自己クローニング法について具体的に説明する。まず、下地基板における正方形の領域ごとに、数100nmピッチのストライプ状の凹凸パターンをリソグラフィー技術で形成する。このとき、微小領域13aを形成する予定の正方形におけるストライプと、微小領域13bを形成する予定の正方形におけるストライプとを異なる方向に形成しておく。
その後、下地基板上に、例えば、SiO2とTi2O5とを交互に供給することによって、20周期(40層)程度の積層構造を形成する。このとき、表面をアルゴンイオンによってエッチングしながら積層を行なうことにより、下地基板の凹凸に沿った斜面を形成しながら、積層を進めることができる。20周期の積層構造を形成すると、この偏光子の厚みは0.5μm程度になり、微小領域13aが形成される部分と微小領域13bが形成される部分の厚さの差異はほとんどない。
なお、積層する材料は上記のものに限られず、例えばSiO2とSi3N4、SiO2とTiO2、SiO2とNbO2、SiO2とSiなどを用いてもよい。
上記技術文献には、正方形の領域のサイズが5μm角程度であることが示されている。下地基板に対するリソグラフィの方法として、電子ビームリソグラフィ技術等の微細加工技術を用いれば、さらに一桁小さな領域内の加工を行なうことが可能である。
次に、本実施形態の変形例について説明する。
有機EL素子では、図12に示すように、透明電極4の上に、透明基板5と電極2との間の光の往復における光透過率を調整するための透明な調整層15が置かれることがある。この場合、透明基板5は調整層15の上に載せられる(即ち調整層15まで含んだ有機EL素子を発光体と言うことができる。)。透明基板5の屈折率n1が調整層15の屈折率n1’よりも小さくなる場合、透明基板5と調整層15との間に全反射が発生する境界面15aが存在し、特にn1’−n1>0.1の場合にはその影響が無視できなくなる。
具体的には、屈折率n2の発光層3の内部の点Sで発光する光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、屈折率n1’の調整層15を透過し、境界面15a上の点P’において屈折して、屈折率n1の透明基板5を透過し、保護層11上の点Pを経て空気6側に出射する。ここではn1’≧n2>n1>1.0である。なお、n1’はn2よりも小さくても構わないが、この場合は透明電極4と調整層15との間で全反射が発生する。透明基板5において空気6との境界面には本実施形態の保護層11が形成されているので、臨界角を超えた光でも空気6側に取り出すことができる。しかし、n1’>n1の関係から境界面15aでも全反射が発生する。すなわち、点P’への入射より入射角の大きい点Q’への入射では全反射し、この光は電極2との間で全反射を繰り返し、空気6側に取り出すことは出来ない。
このような場合、図13に示すように、調整層15と透明基板5との境界面にも本実施形態における保護層11’を設ければよい。これにより、この面での臨界角を超えた入射光を空気6側に取り出すことができる。
すなわち、保護層11’により臨界角を超えた点Q’への入射でも全反射は発生せず、この面で反射する成分は電極2を反射した後、再び保護層11’上の点R’に入射し、その一部が保護層13を経て空気6側に出射し、以上の過程を無限に繰り返す。図13の構成は、凹凸を有する保護層11,11’を2重に形成する複雑さはあるが、透明基板5に屈折率の低い材料を用いることができるため、材料の選択の幅を広げられるメリットを有する。
なお、(数7)から、透明基板5と電極2との間の往復における光透過率τが大きければ、光取り出し効率は増大することがわかる。実際の発光層3は、電極2や透明電極4以外に、上述した調整層15等の複数の透明層等に取り囲まれるが、それらの膜設計(発光層3を含めた膜の屈折率や厚みの決定)は、前述の光透過率τが最大になるように行うべきである。この時、保護層13での反射は位相の分布がランダムになるので、反射光の重ね合わせはインコヒーレントな扱い(振幅加算でなく強度加算)になる。すなわち透明基板5表面の反射影響は無視でき、仮想的に反射率0%、透過率100%として扱える。この条件で透明基板5から光を発光させ、この光を、発光層3を含む多層膜に多重に往復させ、透明基板5に戻ってくる複素光振幅の重ね合わせ光量を最大にすることを条件にして、各膜の屈折率や厚みが決定される。
すでに説明したように、屈折面においてどのような入射条件であろうとも屈折面上で等価的な発光(いわゆる境界回折効果)があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。図7で示したような臨界角を超えても光が透過する現象は、この屈折面上で等価的な発光が生じる条件にしていることから説明できる。
(第2の実施形態)
以下、本発明によるシート(保護層)および発光装置の第2の実施形態を図14に基づいて説明する。なお、第2の実施形態は、保護層11における微小部分13A,13Bのパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と共通の構成については、ここではその説明を省略する。
第2の実施形態は、第1の実施形態のようにそれぞれの透過軸がほぼ直交した微小偏光板が形成される代わりに、微小部分13A、13Bに、それぞれ光軸の異なった1/2波長板20a、20bが形成された2次元的な波長板アレイ構造を有する(図14)。
微小部分13A、13Bにおける波長板20a、20bは、それぞれの光軸方位がほぼ45度の角度をなすように配置されている。
入射光の直線偏光の電界ベクトルの振動方向と、1/2波長板のうちの一方の光軸とがなす角度をθとする。1/2波長板は入射光の偏光面を2θ回転させる作用があるため、出射光の電界ベクトルの振動方向は結晶の光軸に対して、θ−2θ度、すなわち−θ度傾くことになる。このとき、1/2波長板のうちの他方の光軸は、入射光の直線偏光の電界ベクトルの振動方向から(θ+45)度だけ傾く。出射光の電界ベクトルの振動方向は、結晶の光軸に対して、θ−2(θ+45)度、すなわち(−θ−90)度だけ傾いていることになる。この結果から、互いに45度だけ光軸が異なる方位で置かれた1/2波長板に光が入射すると、それぞれの波長板からの出射光の偏光軸は直交することがわかる。すなわち、本実施形態では、πの位相差を与えた場合と同様な効果が得られる。このように、微小領域13aから出射する光と微小領域13bから出射する光との位相差がπとなり、微小領域13a、13bを透過した光について、電界ベクトルの位相が不連続となる。これにより、屈折面に入射する光の電界ベクトルの周回積分がゼロでなくなるため、微小領域13aと微小領域13bとの境界で光が生じる(境界回折効果)。
有機EL素子からは様々な波長の光が発せられるが、位相差の比較は、互いに同じ波長を有する光によって行なう。
保護層11は、有機ELから発せられる可視光波長域(380nmから780nm程度)の光のうちの中心付近の波長の光(波長が600nm前後の緑色または赤色光)の位相差がπとなるように設計される。ただし、有機EL素子から発せられる様々な波長の光のうち、いずれの波長の光を基準にして設計が行なわれてもよい。発光素子から発せられる光の波長域によっては、400nmや500nmの波長の光を基準として設計が行なわれる場合もある。
「微小領域13aを透過した光と、微小領域13bを透過した光との位相差がπである」範囲には、微小部分13A、13Bの製造誤差や、光の電界ベクトルの振動方向を測定するときの測定誤差によって、位相差がπからずれる場合も含まれる。
なお、波長板も、第1の実施形態における偏光子アレイと同様な作製方法を用い、積層する厚み(各層の厚さや積層周期)を制御することによって、製造することが可能である。波長板をパターン化フォトニック結晶の形成方法を用いて形成できることは、第1の実施形態で述べた技術文献に開示されている。
以下に具体的に説明する。まず、下地基板における正方形の領域ごとに、数100nmピッチのストライプ状の凹凸パターンをリソグラフィ技術で形成する。このとき、微小領域13aを形成する予定の正方形におけるストライプと、微小領域13bを形成する予定の正方形におけるストライプとを、45度異なる方向に形成しておく。
その後、下地基板上に、例えば、SiO2とTi2O5とを交互に供給することによって、10周期(20層)程度の積層構造を形成する。このとき、表面をアルゴンイオンによってエッチングしながら積層を行なうことにより、下地基板の凹凸に沿った斜面を形成しながら、積層を進めることができる。10周期の積層構造を形成すると、この偏光子の厚さは3μm程度になり、微小領域13aが形成される部分と微小領域13bが形成される部分の厚さの差異はほとんどない。入射する光の波長に比べて各層の厚さや積層ピッチを十分短くすることで、各偏光に対して実効的な屈折率に差を生じさせることができるので、位相板としての機能を持たせることができる。
上記技術文献には、正方形の領域のサイズが5μm角程度であることが示されている。下地基板に対するリソグラフィの方法として、電子ビームリソグラフィー技術等の微細加工技術を用いれば、さらに一桁小さな領域内の加工を行なうことが可能である。
(第3の実施形態)
以下、本発明によるシート(保護層)および発光装置の第3の実施形態を図15に基づいて説明する。なお、第3の実施形態は、保護層11における微小部分13A,13Bのパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と共通の構成については、ここではその説明を省略する。
第3の実施形態は、第1の実施形態にようにそれぞれの透過軸がほぼ直交した微小偏光板を敷き詰める代わりに、微小部分13Aと微小部分13Bに、透過板21bと遮光板21aとを敷き詰めた2次元的なアレイ構造を有する(図15)。
本実施形態では、遮光板21aに入射した光は遮断されるため、微小領域13a、13bを透過した光について、電界ベクトルの大きさが不連続となる。これにより、屈折面に入射する光の電界ベクトルの周回積分がゼロでなくなるため、微小領域13aと微小領域13bとの境界において光が生じる(境界回折効果)。このように、本実施形態では、ピンホールや位相シフタと同様の光取り出し特性、すなわち微小部分13Aと微小部分13Bとの間にπの位相差を与えた場合と同様な効果を得ることができる。
本実施形態の保護層11は、次のような方法によって作製することができる。例えば、フォトリソグラフィーに用いるマスクの形成を行うように、電子ビーム露光とドライエッチングプロセスでガラス基板上の金属にパターンを作製すればよい。この場合、金属が除去されてガラス基板が露出した部分が透過板21b、金属が残った部分が遮光板21aとなる。1μm以下のパターンサイズも十分に作製可能である。
(第4の実施形態)
以下、本発明によるシート(保護層)の第4の実施形態を図16に基づいて説明する。なお、第4の実施形態は、保護層11における微小部分13A、13Bのパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と共通の構成については、ここではその説明を省略する。
図16(a)は、本実施形態における第1の保護層23のパターンを示す図である。図16(a)に示すように、第1の保護層23は、一辺の長さwの正三角形(微小領域13)に分割され、一つ一つの微小領域13がα領域23a(微小領域13a)であるか、β領域23b(微小領域13b)であるかの比率を各50%として、α領域23aとβ領域23bとがランダムに割り当てられたものである。wは3.5μm以下である。
一方、図16(b)は、本実施形態における第2の保護層33のパターンを示す図である。図16(b)に示すように、第2の保護層33は、一辺の長さwの正六角形(微小領域13)に分割され、一つ一つの図形がα領域33a(微小領域13a)であるかβ領域33b(微小領域13b)であるかの比率を各50%としてα領域33aとβ領域33bとをランダムに割り当てられたものである。wは1.15μm以下である。
なお、図形の大きさは、一般的に表現すれば、その図形に内接する円の最大のものの直径が0.2μm以上2μm以下であることが条件となる。
本実施形態の保護層23、33として、第1の実施形態のような偏光子、第2の実施形態のような波長板、第3の実施形態のような透過板および遮光板のいずれを用いてもよい。
本実施形態のパターン形状は、正三角形や正六角形に限らず、同じ図形で隙間無く面分割が出来るのであれば、任意の多角形であってもよい。
第4の実施形態は保護層23,33のパターン形状が第1の実施形態とは異なるだけで、第1の実施形態と同じ原理が作用し、同一の効果が得られる。
なお、第1から第4の実施形態における保護層を形成するときに、実際の加工体における微小部分13A、13Bが厳密には正方形や正三角形、正六角形にはならず角の部分が丸まったり、角が丸まった微小領域の隣の微小領域の角がその分変形したりする。このような場合にも、特性の劣化はなく、同一の効果が得られることは言うまでもない。
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本発明の例示であって、本発明はこれらの例に限定されない。
また、透明基板5の厚さが大きい場合、光の出射位置(平面的な位置)は光取り出しの回数が増すごとに発光点Sの位置から離れてくる。この場合、ディスプレイ用のELの様に300μm程度の画素ごとに区切られた構成では、光が隣の画素に紛れ込み、画質の劣化につながる。これを防止するためには、図17(a)に示すように、保護層13の形成された透明基板5は数μm程度に薄く構成し、その上に空気層を挟んで0.2mmから0.5mm程度の保護基板14で覆う構成が考えられる。保護基板14の表面14a、裏面14bでは全反射は発生しないが、ARコートの必要はある。このとき保護層13の上には空気層の代わりにエアロゲル等の低屈折率で透明な材料を用いてもよく、この場合には、基板1から保護基板14までが一体構成になるため、装置としての安定性が高い。
さらに、上述の実施形態では、透明基板5の一つの面側(上面側)だけに保護層11を形成したが、透明基板5の両面側に同じような構造を形成してもよい。また、保護層11と発光点Sとの間に一般の回折格子11’を配置してもよい。このとき、図17(b)に示すように、透明基板5をフィルム形状にし、表面に保護層11を、裏面に、回折格子を有する膜11’または別仕様の表面構造を有する膜11”を形成し、発光体側に接着層22を介して接着させる構造が考えられる。透明基板5の屈折率が小さく、発光層3との屈折率差が0.1以上ある場合には、接着層22の材料を発光層3の屈折率より0.1だけ小さいかそれ以上になるように選ぶと、接着層22と発光層3との境界面での全反射はほとんど生じない。さらに、接着層22と透明基板5との間の屈折面、及び透明基板5と空気6との間の屈折面で発生する全反射を、それぞれ表面構造を有する膜11”(または回折格子を有する膜11’)、および保護層11によって回避できる。
なお、第1から第4の実施形態における保護層11のパターンは、磨りガラスや面粗し等の表面状態や、特許文献2に記載された発光装置で示された表面状態とは異なる。第1から第4の実施形態における保護層のパターンは、表面を幅wの碁盤の目の領域に分割し、一つ一つの目に光学的に不連続な境界を与える構造を例えば1:1の比率で割り当てたものである。このパターンには、固有の幅wというスケールと固有の微小領域の特性とが存在し、一方の総面積と他方の総面積との比率も1:1の関係に収まっている。
これに対し、磨りガラスや面粗し等の表面状態は、固有の幅wが存在せず(少なくともw≧0.05μmの条件では存在しない。)、微小領域の形状は不定形であり面積の比率も1:1の関係になる訳ではない。
第1から第4の実施形態における領域の比率を50%からずらし、面積の比率が1:1から外れる場合でも、依然として固有の幅wが存在しており、一方の総面積と他方の総面積の比率も所定の値であり、完全にランダムなパターンとは一線を画する。このように、上記実施形態におけるパターンは、完全に周期性を有さないランダムなパターンではなく、ある規則に沿ったパターンと言える。すなわち、第1から第4の実施形態における保護層11において、「周期性を有さない」のは「微細領域δ1、δ2の二次元的な配置」であって、それぞれの微細領域δの大きさや形状は「周期性を有さない」ものではない。
また、第1から4の実施形態における表面形状が引き起こす現象は回折現象の一つである。図2に示すように、回折現象では、表面形状を平均する平坦な基準面に対し仮想的に屈折する光線を0次回折光(全反射の場合には表れない)とし、この光を方位の基準としてシフトした方位に高次の回折光が発生する。本願発明のようなランダムなパターンでは0次以外の回折光の伝播方位がランダムになる。これに対し、磨りガラスや面粗しにおいて引き起こされるのは回折現象ではなく屈折現象の一つであり、デコボコした屈折面においてその面法線の方位がランダムになることで屈折の方位もランダムになっているだけである。すなわち、平行平板の上に第1から4の実施形態におけるパターン形状を形成し、透かして見ると反対側の像の輪郭がはっきりと見える。これは表面形状で回折分離する光の中に0次回折光が必ず存在し、この光が反対側の像の輪郭を維持させているためである。これに対し、磨りガラスや面粗しでは0次回折光に相当する光が存在せず、透かして見ると反対側の像の輪郭はぼやけたものになる。特許文献2では、表面の突起物により光が「素直に空気中に放射される」と記載されているだけであって、回折という記載は無い。一般的には、「素直」という言葉を「よりシンプルな原理であるスネルの法則(屈折の法則)に従う」と解釈できる。その意味では、特許文献2の表面の突起物は、磨りガラスや面粗しと同じ部類に入ると理解でき、本願発明とは全く別のものであると言うことができる。
特許文献2に開示された技術の特徴は、透明絶縁基板の上に複数の透明な突起物を完全にランダムに配置することにあり、本願のようにそれぞれの領域を同じ形状の微小領域の一つ以上の集合体として且つそれらの存在比率を特定の割合にするという特徴は開示も示唆もされていない。例えば、本願発明において、一方と他方とを入れ替えた構造は元の構造とほぼ同じ構造になるが、特許文献2に記載された発光装置ではそうはならない。このような本発明の特徴により顕著な光取り出し効果を奏することは本願発明者らが初めて見出したものであり、特許文献2には本発明のような顕著な効果は記載されていない。
境界回折効果は、光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界で発生するので、この効果を極大化させるために、光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界の出現比率を極大化させることが好ましい。屈折面を無数の微小領域で分割し、微小領域同士の境界で光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続になるとすると、2つの条件により前述の出現比率の極大化がなされる。一つ目の条件は各微小領域の面積ができるだけ一つに揃うこと、2つ目の条件は隣り合う微小領域間にも光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続になる境界が存在することである。すなわち、微小領域の内に他のものより大きい面積のものがあれば、この大きな面積を分割した方が光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界が増える。反対に微小領域の内に他のものより小さい面積のものがあるとすれば、これは他のものより大きい面積のものが存在することになり、この大きな面積を分割した方が光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界が増える。この延長線として、各微小領域の面積が出来るだけ一つに揃い、少なくとも各微小領域の面積がある基準面積に対し0.5〜1.5倍の範囲(微小領域に内接する円のうち最大のものの直径が、基準になる直径に対し0.7〜1.3倍の範囲)に入ることが微小領域間の境界線の出現比率を極大化することになる。第1から第4の実施形態はこの条件に従っている。また微小領域への分割を極大化することができても、隣り合う微小領域同士で光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが揃えば効果が薄くなる。従って隣り合う微小領域間にも光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界が存在するように、微小領域のランダムな割り当てが必要である。すなわち、上記の実施形態の発光装置は、特許文献2に記載されている発光装置のような反射防止による効果ではなく(この効果も含まれるが)、境界回折効果を極大化させた効果によって取り出し効率の向上が実現されている。
第1から4の実施形態はそれぞれ独立して成り立つのではなく、それぞれの一部を組み合わせて、新たな実施例としてもよい。また、第1から4の実施形態では有機エレクトロルミネセンス素子を例にとって説明したが、屈折率が1より大きい媒質内で発光する素子であれば、本願発明は全てに適用できる。例えば、LEDや導光板などへの適用も可能である。さらに、発光装置が光を出射する媒質は空気に限定されない。本発明は、透明基板の屈折率が、透明基板が接している媒質の屈折率より大きい、特に0.1以上大きい場合に適用できる。
以上説明したように、本発明に係る発光装置は、光の取り出し効率を大幅に向上させているので、ディスプレイや光源等として有用である。
1 基板
2 電極
3 発光層
4 透明電極
5 透明基板
6 空気
11 保護層
13a、13b 微小領域
13A、13B 微小部分
19a、19b 偏光子
20a、20b 1/2波長板
21a 透過板
21b 遮光板
23a、33a α領域
23b、33b β領域
S 発光点
本発明は、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートおよびそれを用いた発光装置に関するものである。
図18は、一般的な有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)を用いた発光装置の断面構成と光の伝搬の様子を示す図である。一般的な有機EL素子では、基板101の上に、電極102、発光層103、透明電極104がこの順に積層され、透明電極104の上には透明基板105が設けられている。電極102と透明電極104との間に電圧を印加すると、発光層103の内部の点Sで発光が生じる。この光は、直接、もしくは電極102において反射した後、透明電極104を透過し、透明基板105の表面上の点Pに表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において屈折して空気層106側に出射する。
透明基板105の屈折率をn’1とすると、入射角θが臨界角θc=sin-1(1/n’1)より大きくなった時、全反射が発生する。例えば、θc以上の角度xで透明基板105の表面上の点Qに入射する光は全反射し、空気層106側に出射することはない。
図19(a),(b)は、上記発光装置において透明基板105が多層構造を有していると仮定した場合における光取り出し効率を説明する説明図である。図19(a)において、発光層103の屈折率をn’
k、空気層106の屈折率をn
0、発光層103と空気層106の間に介在する複数の透明層の屈折率を発光層103に近い側からn’
k-1、n’
k-2、…、n’
1とし、発光層3内の点Sから発光する光の伝搬方位(屈折面の面法線となす角)をθ’
k、各屈折面での屈折角を順にθ’
k-1、θ’
k-2、…、θ’
1、θ
0とすると、スネルの法則より次の(数1)が成り立つ。
したがって、次の(数2)が成り立つ。
結局、(数2)は発光層103が空気層106に直接接触する場合のスネルの法則に他ならず、間に介在する透明層の屈折率には関係せず、θ’k≧θc=sin-1(n0/n’k)で全反射が発生することを表している。
図19(b)は、発光層103から取り出せる光の範囲を模式的に示したものである。取り出せる光は、発光点Sを頂点、臨界角θ
cの2倍を頂角とし、屈折面の面法線に沿ったz軸を中心軸とする2対の円錐体107、107’の内部に含まれる。点Sからの発光が、全方位に等強度の光を放射するものとし、屈折面での透過率が臨界角以内の入射角で100%とすれば、発光層103からの取り出し効率ηは、球面108の表面積に対する、円錐体107、107’により球面108を切り取った面積の比に等しく、次の(数3)で与えられる。
なお、臨界角以内の入射角でも透過率は100%とはならないので、実際の取り出し効率ηは、1−cosθcよりも小さくなる。また、発光素子としての全効率は、発光層の発光効率を上記取り出し効率ηに乗じた値となる。
特許文献1には、有機EL素子において、透明基板から大気へと光が出ていくときの透明基板表面での全反射を抑制する目的で、基板界面あるいは反射面に回折格子を形成し、光取り出し面に対する光の入射角を変化させることにより光の取り出し効率を向上させることが開示されている。
また、特許文献2には、光の取り出し効率のよい平面発光装置を提供するため、有機EL素子において透明基板の表面に透明の突起物を複数形成して透明基板と空気との界面における光の反射を防止することができると記載されている。
特開平11−283751号公報
特開2005−276581号公報
しかしながら、上述のような従来の発光装置において以下の問題があった。
図18に示す従来の有機EL素子を用いた発光装置では、発光層103からの光取り出し効率ηが最大でも1−cosθcを超えることがなく、発光層103の屈折率が決まれば、光取り出し効率の最大値が一義的に制限されていた。例えば、(数2)において、n0=1.0、n’k=1.457とすると、臨界角θc=sin-1(n0/n’k)=43.34度であり、光取り出し効率の最大値は1−cosθc=0.273程度と小さく、n’k=1.70では0.191程度まで下がる。
また、特許文献1に開示された技術では、確かに全反射になるべき光を取り出すことができるが、その逆もある。すなわち、回折格子層が無い場合に透明基板の屈折面(出射面)に臨界角より小さい角度で入射して透過、屈折する光が、回折格子層によって回折されることにより、屈折面に対する入射角が臨界角を超え、全反射する場合がある。従って、特許文献1に開示された技術は光取り出し効率の向上を保証するものではない。さらに、特許文献1に開示された技術では、全ての光線が一律に所定の角度だけ曲げられた回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は、方位によって光強度に分布があり、光が曲げられる角度が出射光の波長に依存することから、方位による色のアンバランスが存在する。
また、特許文献1に開示された発光装置では、外界(空気層側)から入射する光は透明基板の表面を規則的に反射し、発光層から取り出される光にとって外乱(いわゆる映り込み)となる。そのため、透明基板の表面には反射防止膜を堆積する等の光学処理が必要であり、製品コストを押し上げていた。
一方、特許文献2に開示された発光装置は、屈折面における光の反射防止を目的にしたもので、この構造による光取り出し効率の改善は1、2割程度と小さいものに収まる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、臨界角以上の透明基板への入射光も出射させて光取り出し効率の大幅な向上を実現するとともに、映り込みを防ぎ、方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生も抑えるシートおよび発光装置を提供することにある。
本発明の第1のシートは、発光体からの光が一方の面に入射し、他方の面から出射するように用いられるシートであって、前記他方の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ1を透過した光と、前記複数の微小領域δ2を透過した光との位相差はπである。
ある実施形態において、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のそれぞれには、光軸の揃った1/2波長板が配置され、前記複数の微小部分d1の1/2波長板の光軸方位と、前記複数の微小部分d2の1/2波長板の光軸方位とが45度の角度で配置される。
本発明の第2のシートは、発光体からの光が一方の面に入射し、他方の面から出射するように用いられるシートであって、前記他方の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のそれぞれには、透過軸の揃った偏光子が配置され、前記複数の微小部分d1に配置される偏光子の透過軸と、前記複数の微小部分d2を構成する偏光子の透過軸とは直交する。
本発明の第3のシートは、発光体からの光が一方の面に入射し、他方の面から出射するように用いられるシートであって、前記他方の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のうちのいずれか一方には、遮光面が設けられている。
ある実施形態において、前記複数の微小領域δ1および前記複数の微小領域δ2は多角形であって、前記複数の微小領域δ1および前記複数の微小領域δ2は互いに合同な形状である。
本発明の第1の発光装置は、発光体と、前記発光体における発光面の上に設けられた保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層において前記発光面側と反対側の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ1を透過した光と、前記複数の微小領域δ2を透過した光との位相差はπであり、前記保護層のうち前記発光層側とは反対側の面は、前記保護層の屈折率よりも低い屈折率を有する媒質と接する。
ある実施形態において、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のそれぞれには、光軸の揃った1/2波長板が配置され、前記複数の微小部分d1の1/2波長板の光軸方位と、前記複数の微小部分d2の1/2波長板の光軸方位とが45度の角度で配置される。
本発明の第2の発光装置は、発光体と、前記発光体における発光面の上に設けられた保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層において前記発光面側と反対側の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記保護層のうち前記発光層側とは反対側の面は、前記保護層の屈折率よりも低い屈折率を有する媒質と接し、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のそれぞれには、透過軸の揃った偏光子が配置され、前記複数の微小部分d1に配置される偏光子の透過軸と、前記複数の微小部分d2を構成する偏光子の透過軸とは直交する。
本発明の第3の発光装置は、発光体と、前記発光体における発光面の上に設けられた保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層において前記発光面側と反対側の面に、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の複数の微小領域δを備え、前記複数の微小領域δのうちの個々の微小領域δは、前記複数の微小領域δのうちの他の複数の微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δから20%以上80%以下の割合でランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記保護層のうち前記発光層側とは反対側の面は、前記保護層の屈折率よりも低い屈折率を有する媒質と接し、前記複数の微小領域δ1のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d1と、前記複数の微小領域δ2のそれぞれを含み、厚さ方向に延びる複数の微小部分d2とをさらに備え、前記複数の微小部分d1および前記複数の微小部分d2のうちのいずれか一方には、遮光面が設けられている。
ある実施形態において、前記媒質は空気である。
ある実施形態において、前記媒質はエアロゲルである。
本発明によると、微小領域δ1、δ2に内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下の範囲内にあり、かつ、微小領域δ1、δ2を透過した光について、電界ベクトルの向き、大きさまたは位相が微小領域δ1、δ2の境界において不連続となる。このような場合、屈折面に入射する光の電界ベクトルまたは磁界ベクトルの周回積分がゼロではなくなるため、微小領域δ1、δ2の境界において光が発生する(境界回折効果)。この現象によって、臨界角を超えた角度で微小領域δ1、δ2に入射する光を取り出すことが可能となる。微小領域δ1、δ2に入射する前に下地において反射した光も、下地において再度シート側に反射され、再度微小領域δ1、δ2に入射する。このように、光の取り出しを繰り返し行えるため、光取り出し効率の大幅な改善が可能となる。
(a)は、屈折面107a近傍における光106の進行を示す図であり、(b)は、屈折面107a近傍における屈折率のステップ状の変化を示す図であり、(c)は屈折率近傍107a近傍における屈折率のなだらかな変化を示す図であり、(d)は、屈折面における入射角と透過率との関係を示すグラフ図である。
(a)は周期的構造を有した回折格子を表面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)に示す発光装置の上面を示す図である。
回折格子による回折方位を説明するための図である。
(a)はランダムに配置された突起を表面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)に示す発光装置の上面を示す図である。
(a)から(h)は、屈折面における光の場の境界条件を説明するための図である。
(a)はピンホールを、(b)は位相シフタを配置した図である。
(a)は図6に示す構造において、屈折面における透過率tの入射角依存性を示すグラフ図であり、(b)は、図6に示す構造から出射する光の量が増加する理由を説明するための図である。
本発明による第1の実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す図である。
(a)は第1の実施形態における微細領域13の一部を拡大して示す図であり、(b)は、(a)より広い範囲におけるパターン図である。
第1の実施形態の保護層のパターンを示す図である。
第1の実施形態の保護層における取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であって、1回目および2回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図である。
第1の実施形態の発光装置の一例(調整層を有する発光装置)の断面図である。
第1の実施形態の発光装置の一例(調整層との境界にも表面構造を設けた発光装置)の断面図である。
第2の実施形態の保護層のパターンを示す図である。
第3の実施形態の保護層のパターンを示す図である。
(a)は第4の実施形態の第1のパターンを、(b)は第2のパターンを示す図である。
(a)、(b)はその他の実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す図である。
従来例である有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す図である。
(a)は多層構造の透明基板を、(b)は取り出し可能な光の範囲を説明するための図である。
本願発明による実施形態を説明する前に、特許文献1および特許文献2に示されるような先行例を踏まえて、本願発明に至るまでの検討経過を説明する。
図1(a)から(d)は、屈折面(透明層表面と空気層との界面)での透過率を説明するための図である。
図1(a)に示す光108は、屈折率1.5の透明層107の内部から紙面方向に沿って透明層107の屈折面107aに角度θで入射し、空気側(屈折率1.0)に出射する。屈折面107aにおいて、光108は屈折面107aに近づく方向に屈折している。
図1(b)、(c)に、屈折面107a近傍における屈折率の分布を示す。図1(b)、(c)において、縦軸は透明層107および空気中の位置を示す。縦軸の値が0の位置が屈折面107aである。図1(b)、(c)における横軸は屈折率を示す。
通常、屈折面107a近傍での面法線に沿った屈折率分布は、図1(b)に示すようなステップ状であり、屈折率は、屈折面107aを境界にして不連続に変化する。この場合、P偏光(電界ベクトルが紙面に平行な振動成分)は、図1(d)の曲線108a、S偏光(電界ベクトルが紙面に直交する振動成分)は、曲線108bのような透過率特性を示す。曲線108a、108bの透過率は、入射角が臨界角(=41.8度)以下では互いに異なるが、臨界角を超えると共にゼロになる。
一方、透明層107の表層部分が多層構造であり、屈折率分布が図1(c)に示すようなテーパ状になると仮定した場合には、P偏光は、図1(d)の曲線108A、S偏光は曲線108Bのような透過率特性を示す。臨界角を超えると曲線108A、108Bの透過率がゼロになることは、曲線108a、108bと同様である。一方、臨界角以下での透過率は、曲線108aよりも曲線108Aのほうが100%に近づいている。同様に、臨界角以下での透過率は、曲線108bよりも曲線108Bのほうが100%に近づいている。このように、曲線108A、108Bは、曲線108a、108bよりも臨界角を境界にしたステップ関数の形状に近づく。図1(c)の多層構造は、屈折率が1.5から1.0まで0.01の偏差をなす厚さ0.01μmの膜を50層重ねた構造としたが、厚さ方向の屈折率変化の勾配が緩やかな程、P偏光、S偏光の差がなくなり、いずれも入射角に対する透過率のグラフがステップ関数に近づく結果が得られる。
屈折面において光が全反射しないようにするためには、屈折面に入射する光の入射角を臨界角以下にする工夫が必要である。そのような工夫の一つとして、本願発明者は、特許文献1に開示された、図2(a)、(b)に示すような発光装置の検討を行なった。図2(a)、(b)に示す発光装置は、透明基板205と透明電極204との界面に回折格子209を設けた有機EL素子である。
図2(a)に示すように、基板201の上に電極202、発光層203、透明電極204、回折格子層209をこの順に積層し、回折格子層209の上に透明基板205を設ける。回折格子層209は、透明基板205と接する表面に、x方向、y方向ともピッチΛの凹凸周期構造を有している。凸部の形状は、図2(b)に示すような幅wの正方形であって、この凸部が、千鳥格子状に配列される。電極202と透明電極204との間に電圧を印加することによって、発光層203の内部(例えば点S)から光が発せられる。この光は、直接、もしくは電極202において反射した後、透明電極204を透過し、回折格子層209を透過し、回折する。例えば、点Sを出射する光210aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると、光210bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射するが、実際には回折格子層209において回折するので、光210cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも小さくなる。このように、光の全反射を防止することができる。
上記の回折格子による回折方位を図3を用いて説明する。屈折率n
Aの透明層207の内部から紙面方向に沿って透明層207の屈折面207a上の点Oに角度θで入射し、屈折率n
Bの透明層206側に回折する波長λの光を考える。図3には示されていないが、屈折面207aには紙面に沿ってピッチΛをなす回折格子が形成されている。説明のため、図3に、点Oを中心にする半径n
Aの円211と半径n
Bの円212を示す。入射ベクトル210i(円211の円周上を始点として角度θで点Oに向かうベクトル)の屈折面207aへの正射影ベクトル(垂線の足Aから点Oに向かうベクトル)を210Iとし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210rを、その正射影ベクトル210Rがベクトル210Iと同一になるように描く。垂線の足Cを始点として、大きさqλ/Λのベクトル(格子ベクトル)を考える。ただし、qは回折次数(整数)である。図ではq=1の場合のベクトル210Dを描いており、その終点Bを垂線の足とし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210dを描く。光210iが単位時間当たりに透明層207(屈折率n
A)を進むx方向の距離(ベクトル210Iの長さ)は、n
A×sinθで表される。一方、光210rが単位時間当たりに透明層206(屈折率n
B)を進むx方向の距離(ベクトル210Rの長さ)は、n
B×sinφで表される。ベクトル210Iの長さとベクトル210Rの長さとは等しいため、下記(数4)が成り立つ。(数4)から、屈折光線の方位を与えるベクトル210rの方位角φ(屈折面法線となす角)が与えられる。
これはスネルの法則そのものである。一方、回折光線の方位を与えるベクトル210dの方位角φ’(屈折面法線となす角)は次の(数5)で与えられる。
ただし、図3の角φ’はz軸(点Oを通る屈折面法線)を跨いでいるのでマイナスで定義される。
(数4)、(数5)の結果から、回折光線(ベクトル210d)が向かう方向は、屈折光線(ベクトル210r)が向かう方向から、qλ/Λの分だけずれることになる。図2(a)において、回折しないと仮定した光線210bは、図3における屈折光線(ベクトル210r)に相当する。一方、図2において回折する光線210cは、図3における回折光線(ベクトル210d)に相当する。光線210cは、光線210bからqλ/Λの分だけ方位がずれることによって、屈折面205aにおける全反射を免れていることになる。このように、全反射するべき光を取り出すことができるので、回折格子層を持たない有機EL発光装置に比べ、光取り出し効率の向上が見込めるようにも考えられる。
しかしながら、図2(a)において点Sを出射する光210Aを考えた場合、次のような問題点が明らかとなる。光210Aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると、光210Bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以下の角度で入射して屈折面205aを屈折して透過していく。しかしながら、実際には回折格子層209において回折するので、光210Cのように、屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも大きくなり、全反射してしまう。従って、このような回折格子層209を設けても光取り出し効率の向上は必ずしも保証されない。
また、図2に示す有機EL素子を用いた発光装置では、全ての光線に関して一律にqλ/Λの分だけ方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光では、方位によって光強度に分布があり、シフト幅qλ/Λが出射光の波長λに依存するため、光が出射する方位によって色のアンバランスが存在する。即ち、見る方向によって異なる色の光が見えることになり、このような特性は、ディスプレイ用途にはもちろん、光源としても不都合である。
次に、本願発明者は、特許文献2に開示された、図4(a)、(b)に示すような発光装置について検討を行った。図4(a)、(b)に示す発光装置は、透明基板305の表面に突起物315が設けられた有機EL素子である。図4(a)に示すように、基板301の上に、電極302、発光層303、透明電極304、透明基板305をこの順に積層し、透明基板305の表面305aに複数の突起物315を形成する。突起物315は、幅w、高さhの四角柱形状のものを、図4(b)に示すように、透明基板表面305a上におけるランダムな位置に配置する。wの大きさは0.4〜20μm、hの大きさは0.4〜10μmの範囲内にあり、このような突起物315を5000〜1000000個/mm2の範囲の密度で形成している。電極302と透明電極304との間に電圧を印加することによって、発光層303の内部(例えば点S)から光が発せられる。この光310dは、直接、もしくは電極302において反射した後、透明電極304を透過し、その一部が突起物315を通じて310fのように外界に取り出される。
本願発明者は、図4(a)、(b)の発光装置において光取り出し効率が向上する理由を以下のように考えた。実際の突起物315の形状は、サイドエッチングにより先端に行くほど細くなるよう加工できるし、サイドエッチングを行なわなくても、自然に突起物315が先細りの形状に形成されるため、実効的な屈折率が透明基板305と空気との中間付近の値を取る。したがって、等価的に屈折率分布を緩やかに変化させることができる。この場合、屈折率分布は、図1(c)に示す屈折率分布に近い分布となる。突起物315によって、矢印310eで示されるような光の反射を一部防止することができる。その結果、光の取り出し効率を向上させることができる。また突起物315のサイズを波長以上に設定しても、突起物315がランダムに並んでいるので、取り出された光の干渉を抑えることができる。
しかしながら、図4に示す構造の発光装置では、図1(d)の曲線108a,108bと曲線108A,108Bとの比較からわかるように、透過率の向上は臨界角以下の光によるものに限られる。その結果、光の取り出し効率の改善は1,2割程度に止まり、大きな改善は見込めない。
以上のような検討を行い、これらに基づいて、本願発明者は屈折面で全反射する光量を減らし、取り出せる光量を如何にして増すかについてさらに検討を重ねていった。さらなる検討の手始めとして屈折面での光の境界条件を検討した。
図5に、屈折面における光の場の境界条件を模式的に示す。ここでは、幅Wの光が屈折面Tに入射する場合を考える。マックスウェルの方程式から、電界ベクトルまたは磁界ベクトルに関して、屈折面Tを挟んで周回する経路Aに沿った積分はゼロである。ただし、周回路内部に電荷や光源がなく、屈折面における光について、屈折面Tに沿った電界ベクトルまたは磁界ベクトルの向き、位相および大きさが連続していることが前提条件である。
図5(a)のように幅Wが十分大きい場合には、屈折面に直交する幅tを屈折面に沿った幅sに比べ無視できるほど小さくでき、電界ベクトルまたは磁界ベクトルの周回積分のうち、屈折面に沿った成分しか残らない。この関係から、屈折面を挟んで電界ベクトルまたは磁界ベクトルが連続することが求められる。この連続性の関係を利用して導出されるのがフレネルの式であり、この式により反射、屈折の法則や全反射の現象等が完全に解き明かされる。
図5(b)のように、光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCに分割すると(図5(c)参照)、このうち周回積分Bは光束(a bundle of rays)内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは光束外での電界ベクトル又は磁界ベクトルがゼロなので、光束内にある経路PQの積分値だけが残る(図5(d)参照)。従って周回積分Cはゼロではなくなり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。さらに、光の幅Wが波長の1/10程度まで小さくなると、図5(e)に示すように、周回積分CとC’が近接し経路PQとQ’P’が重なるので、CとC’を合わせた周回積分がゼロになり、周回路内で光が発光することはなくなる。
一方、図5(f)のように、πだけ位相差を有する光を出射する領域が屈折面に沿って並ぶ場合、これらの光束をまたがる周回積分Aを考える。この場合も光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCとB’に分割すると(図5(g)参照)、このうち周回積分B、B’は光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは屈折面に沿った成分が無視でき、2つの光束の境界に沿った経路PQとQ’P’の積分値だけが残る(図5(h)参照)。光束の位相がπの場の経路Q’P’での積分は光束の位相が0の場の経路P’Q’での積分に等しいので、周回積分Cは経路PQでの積分の2倍の大きさになり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。したがって、幅の狭い光だけでなく狭い幅を介して位相が異なる光が並ぶ場合でも領域の境界付近で光が発生する(実際に発光するのではなく、実効的に発光と同じように振る舞う現象であり、回折理論の成立前にヤングが提唱した境界回折に似ているので境界回折効果と呼ぶ。)。このような現象は、互いに電界ベクトルの振動方向が直交する光を出射する領域が屈折面に沿って並ぶ場合や、光が透過する領域と光が遮断する領域とが屈折面に沿って並ぶ場合にも同様に起こる。
光束の位相がπからずれても発光は生じるが、発光量は除々に少なくなっていく。
屈折面Tにおいてどのような入射条件であろうとも屈折面上で発光があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。すなわち、臨界角以上の入射光であっても、計算上屈折面で発光が生じるようにすれば全反射しないで透過光が現れると考えられる。このような考察結果から、本願発明者は、臨界角を超えても光が透過する現象を実際に生じさせるための屈折面の構造を以下のように検討した。
境界回折効果が強く出る例として、図6に示すように、発光体に載せられた透明基板の空気との境界面に(a)ピンホールを設けそれ以外は遮光してピンホール光(幅wの領域内のみに光が存在)としたものと、(b)幅wで仕切られた碁盤の目に180度の位相シフタ18をランダムに配置したものとを検討した。なお最初はピンホールで検討を行ったが、ピンホールでは現実的な光の取り出しがほとんどできないので、ピンホールと同じ光取り出し特性を示すと考えられるランダムに配置された位相シフタについても検討した。
図7(a)は、図6に示す構造において、屈折面における透過率tの入射角依存性を示すグラフ図である。図7(a)では、光の波長を0.635μmとし、屈折率1.457の透明基板内で光量1の光が空気との境界面に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、1.0、2.0、4.0、20.0μm)にして示している(ピンホール光も180度位相シフタも全く同じ特性を示すので180度位相シフタのもので代用する。)。図5(a)の条件に近いw=20μmのときの特性は、臨界角(43.34度)を超えると透過率がほぼゼロになる。wが0.4〜1.0μmまで小さくなると、図5(d)、(h)で説明した境界回折効果により、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。更にwを小さくすると(w=0.1、0.2μm)、図5(e)で説明した様に、あらゆる入射角で透過率が0に近づいてくる。なお、図7(a)はヘルムホルツの波動方程式(いわゆるスカラー波動方程式)に基づく解析結果なので、P偏光とS偏光の差は現れていない。
なお、図7(a)に示すグラフにおいて、臨界角より小さい入射角度では、w=20.0μmのときの透過率はほぼ1であるが、他のwの値では、透過率が1よりも低下している。しかしながら、以下の理由によって、全体的な光量は増加する。図7(b)に示すように、位相シフタ18(図6に示す)上の点Sには、様々な角度から光が入射する。図7(b)では、Z軸の負の方向から光が入射し、正の方向に出射する。Sへの入射光のうち、位相シフタ18に対して臨界角よりも小さな角度で入射する光30と、臨界角よりも大きな角度で入射する光31とを比較すると、入射角度が相対的に小さい光30よりも入射角度が相対的に大きい光31のほうが、広い領域から入射するため、光量が多くなる。これらの光のうち、光30は、入射角度が臨界角よりも小さく、位相シフタ18において反射することなく空気層側に出射する。一方、光31は、入射角度が臨界角よりも大きいため、一部が位相シフタ18において反射し、一部が境界回折効果によって空気層側に出射する。このとき、光30よりも光31の方が光量も多いため、図7(a)に示すように、臨界角より小さい角度の光30において透過率が低下しても、臨界角より大きな入射角度における光31の透過率が向上している場合(w=0.2、0.4、1.0、2.0μm)には、全体としての光の量は増加する。
このような結果に基づいて、本願発明者らはさらに検討を進め、全反射を防いで光の取り出し効率を飛躍的に向上させる今までにない発光装置に想到するに至った。
以下、本発明による実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図面では、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
(第1の実施形態)
以下、本発明によるシート(保護層)および発光装置の第1の実施形態を図8から図13に基づいて説明する。本実施形態の発光装置は、有機EL素子である。
図8に、第1の実施形態の有機EL素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す。本実施形態における有機EL素子では、基板1の上に、電極2、発光層3、透明電極4がこの順に積層され、透明電極4の上には、透明電極4を保護する透明基板(透明な保護層)5が形成された構成を有する。有機EL素子において、基板1、電極2、発光層3、透明電極4が発光体を構成している。透明基板5の上には、保護層11が形成されている。保護層11は、発光体からの光が一方の面(透明基板5側の面)に入射し、他方の面(透明基板5とは反対側の面)から出射するように用いられる。保護層11は、透明基板5とは反対側の面に、複数の微小領域13(微小領域δ)を備える。
図9(a)に、第1の実施形態における微小領域13のパターンを示す。図9(a)に示すように、保護層11において、微小領域13は、微小領域13a、13b(微小領域δ1、δ2)に分けられる。微細領域13a、13bは、保護層11のうち有機EL素子とは反対側の面を、幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形)に仮想的に隙間無く分割している。
微小領域13a、微小領域13bのうちのそれぞれは、他の微小領域13a、13bと隣接し、かつ周りを取り囲まれた構造を有している。
微小領域13aは、全ての微小領域13のうち、20%以上80%以下の割合で配置されている。微小領域13bは、微小領域13のうち微小領域13a以外の領域を占める。例えば、微小領域13a、13bは、微小領域13のうち各50%の比率で配置していることが好ましい。
微小領域13a、13bは、内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下であるサイズを有する。
微小領域13aおよび微小領域13bには、それぞれの透過軸が直交した微小偏光子が敷き詰められる。偏光子は、微小領域13aを含み、厚さ方向に延びる微小部分13A(微小部分d1)と、微小領域13bを含み、厚さ方向に延びる微小部分13B(微小部分d2)とに設けられる。
これにより、微小領域13aを透過した光の電界ベクトルの振動方向と、微小領域13bを透過した光の電界ベクトルの振動方向とは直交し、微小領域13a、13bを透過した光について、電界ベクトルの向きが不連続となる。これにより、屈折面に入射する光の電界ベクトルの周回積分がゼロでなくなるため、微小領域13aと微小領域13bとの境界で光が生じる(境界回折効果)。
なお、「微小領域13aを透過した光と、微小領域13bを透過した光との振動方向が直交する」範囲には、微小部分13A、13Bの製造誤差や、光の振動方向を測定するときの測定誤差によって、直交する方向から振動方向がずれる場合も含まれる。
図10は保護層11における偏光子19a、19bの配置を模式的に示している。偏光子19a、19bは、光学的に異方的な構造を面内に有しており、互いに直交した偏光成分のみを透過する。それぞれの微小部分13Aにおける偏光子19aの透過軸は互いに揃い、それぞれの微小部分13Bにおける偏光子19bの透過軸は互いに揃っている。また、微小部分13Aにおける偏光子19aの透過軸と、微小部分13Bにおける偏光子19bの透過軸とは、直交している。偏光子19a、19bごとに、一方の偏光成分は透過、もう一方の偏光成分は遮断(もしくは反射)する。
この偏光子19a、19bを用いた場合には、保護膜11の表面に凹凸を設ける必要がないため、微小領域13a、13b間の光の伝搬距離の差がゼロであり,かつ、微小領域13a、13bを通過した光に位相差を生じさせることができる。
図9(b)に、保護層11の表面のうち図9(a)よりも広い領域を示す。図9(b)では、微小領域13aを黒色で、微小領域13bを白色で示す。図9(b)に示す保護層11において、wは0.4μmである。
本実施形態では、微小領域13a、13bの配置が周期性を有していない(ランダムに配置されている)ことが好ましい。ただし、この場合の「配置」とは、保護層11の有機EL素子とは反対側の面の面内における配置をいい、保護層11の厚さ方向における配置でない。また、微小領域13a、13bのそれぞれが配置される微小領域13は正方形であり、その大きさは、「内接する最大の円の直径が0.2μm以上2μm以下」である。このように、微小領域13の形状や大きさは、「周期性を有さない」ものではない。
このようなランダムに配置されたパターンを境界回折効果によって回折する光は、その伝搬方位もランダムになるので、特許文献1に記載された発光装置のような、方位による光強度の分布が存在せず、方位による色のアンバランスもない。また、外界(空気層側)から入射する光は透明基板5表面において反射するが、この反射光はランダムな方位に回折するため、外界の像が映り込むことにはならず、反射防止膜等の光学処理は不要であり、製品コストを低く抑えられる。
本実施形態では、電極2と透明電極4との間に電圧を印加することで、発光層3の内部(例えば点S)で発光が生じる。この光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、透明基板5の表面上に設けられた保護層13における点Pに、表面の面法線に対して角度θで入射する。点Pにおいて、光が回折して、空気6側に出射する。
空気6の屈折率をn0、透明基板5の屈折率をn1とすると、入射角θが臨界角θc=sin-1(n0/n1)より大きくなった時に全反射が発生するはずである。しかし、透明基板5表面に保護層11が設けられているため、点Qに臨界角θc以上の角度xで光が入射しても、その光は全反射することなく回折し、空気6側に出射する(1回目の光取り出し)。なお、点Qでは光の一部が反射するが、その成分は、電極2において反射した後、再び保護層11上の点Rに入射し、その一部が空気6側に出射し(2回目の光取り出し)、残りは反射する。以上の過程を無限に繰り返す。
ここで、従来の有機EL素子を用いた発光装置を考えると、臨界角以上の角度で透明基板と空気層との界面に透明基板側から入射した光は全反射する。全反射した光が電極で反射しても、透明基板と空気層との界面に再び臨界角以上で入射する。このように、従来では、2回目以降の光の取り出しは起こらず、この点で従来と本実施形態とは異なっている。
ここで、図7を再度用いて、光の取り出し効率について説明する。図7には、透明基板5内で光量1の光が保護層11の微小部分13A、13Bに角度θ(屈折面法線となす角度)で入射し、1回目でどれだけの光が空気6側に出射するかを示している。透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μm、微小領域13aの面積比率P=0.5とし、微小領域13a、13bの幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、1.0、2.0、4.1.0μm、2.0μm、4.0μm、20μm)にしている。
図18に示すような従来の発光装置と違って、本実施形態では、幅wが小さい場合(w=0.2、0.4、1.0、2.0μm)では、境界解析効果により臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在することが分かる。
点発光によって光は透明基板5内で球面波となって均一に拡散すると仮定すると、発光方位角θ(前述の入射角θに一致)からθ+dθの間にある光量の総和はsinθdθに比例する。従って、取り出し光量は、図7で示した透過率tにsinθを掛けた値に比例する。すなわち、透明基板5内の1点(実際には発光層内の点)で発光する光量1の光が、微小部分13A、13Bに角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気層6側に出射するかを求めれば、1回目の取り出し光量の入射角依存性がわかる。また、保護層11において1回反射し、電極2で反射した後、再び保護層11に入射する場合、すなわち2回目の取り出し光量の入射角依存性を求めることもできる。
取り出し光量を入射角θで積分すると光取り出し効率が得られる。図11は、第1の実施形態における保護層11の光取り出し効率を示すグラフ図である。図11には、微小領域13aに光の位相を180度変換させる位相シフタを置いた場合の光取り出し効率を示す。図11には、図7に示す結果と同じ条件の結果を、横軸に保護層11の境界幅wをおいてまとめている。図11には、1回目の光取り出し効率η1だけではなく、2回目の取り出し効率η2も示している。2回目の光取り出し効率η2は、透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰は無いとして、保護層13で反射し、電極2を反射した後、再び保護層13に入射する場合の光取り出し効率である。境界幅wを大きくしていくと1回目、2回目の光取り出し効率がそれぞれ0.25、0.00に漸近していき、境界幅wを0.3μmから小さくしていくと、2回目のみならず1回目の光取り出し効率もゼロになる(この理由はすでに図5(e)で説明した。)。
透明基板5から見た、透明基板5と電極2との間の往復における光透過率をτとすると、往復における光減衰を考慮した2回目の光取り出し効率はτ×η2になる。光取り出しは1回、2回にとどまらず無限に繰り返され、その関係が等比数列として1回目がη1、2回目がτ×η2であれば、n回目はη1×(τ×η2 /η1)n−1と予想できる。従って、n回目までの光取り出しの合計は下記(数6)のようになる。
無限回では、下記(数7)に漸近する。
図11において2つの曲線で見てみると、w=0.20μmの時、η1=0.177、η2=0.029であり、τ=0.88とすると、0.207の光取り出し効率が得られる。w=0.40μmの時、η1=0.260、η2=0.056であり、0.321の光取り出し効率が得られる。また、w=1.00μmの時には、η1=0.267、η2=0.067であり、0.343、w=2.00μmの時には、η1=0.271、η2=0.015であり、0.284の光取り出し効率が得られる。
一方、図18に示される発光装置は、w=∞の場合に相当すると考えればよいので、η1=0.246、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計の光透過率は0.246である。従って、本実施形態の発光装置は、w=0.20μmの条件では図18に示される発光装置の0.84倍、w=0.40μmの条件では、1.20倍、w=1.00μmの条件では1.39倍、w=2.00μmの条件では1.15倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。図11から、wを0.3μm以上2.00μm以下とすることで (一般的に表現すれば、微小領域13に内接する円の最大のものの直径を0.3μm以上2μm以下とすることで)、光取り出し効率の大幅な向上を実現できる。wを0.3μmに設定して保護層11を作製した場合、製造誤差によって、最も小さい領域のwは、0.2μmになることがある。この結果から、光取り出し効率を向上させるためには、wを0.2μm以上2μm以下にすることが好ましい。
また、wを0.4μm以上0.8μm以下とすると、光取り出し効率が高い範囲に保たれるため、さらに好ましい。
次に、微小領域13a、13bの比率を決定した過程について説明する。表1は、微小領域13のうち微小領域13aが存在する確立P1をパラメータとして計算した光取り出し効率の値(1回目、2回目、トータルの光取り出し効率を、それぞれη1、η2、ηと示す。)とを示す表である。
表1に示すように、P1の値が0.5から外れるに従って光取り出し効率が低下するが、0.8≧P1≧0.2の範囲では低下の度合いは小さい。従って本実施形態が0.8≧P1≧0.2の範囲でのパターン生成ルールに従うかぎり、高い光取り出し効率となる。
図10に示すような偏光子19a、19bのパターンは、例えば、パターン化フォトニック結晶の形成方法を用いて形成できることが、例えば、精密工学会誌74巻、8号(2008)の795〜798ページ(以下、技術文献と呼ぶ。)に示されている。
以下に、2種類の材料を交互に積層していく自己クローニング法について具体的に説明する。まず、下地基板における正方形の領域ごとに、数100nmピッチのストライプ状の凹凸パターンをリソグラフィー技術で形成する。このとき、微小領域13aを形成する予定の正方形におけるストライプと、微小領域13bを形成する予定の正方形におけるストライプとを異なる方向に形成しておく。
その後、下地基板上に、例えば、SiO2とTi2O5とを交互に供給することによって、20周期(40層)程度の積層構造を形成する。このとき、表面をアルゴンイオンによってエッチングしながら積層を行なうことにより、下地基板の凹凸に沿った斜面を形成しながら、積層を進めることができる。20周期の積層構造を形成すると、この偏光子の厚みは0.5μm程度になり、微小領域13aが形成される部分と微小領域13bが形成される部分の厚さの差異はほとんどない。
なお、積層する材料は上記のものに限られず、例えばSiO2とSi3N4、SiO2とTiO2、SiO2とNbO2、SiO2とSiなどを用いてもよい。
上記技術文献には、正方形の領域のサイズが5μm角程度であることが示されている。下地基板に対するリソグラフィの方法として、電子ビームリソグラフィ技術等の微細加工技術を用いれば、さらに一桁小さな領域内の加工を行なうことが可能である。
次に、本実施形態の変形例について説明する。
有機EL素子では、図12に示すように、透明電極4の上に、透明基板5と電極2との間の光の往復における光透過率を調整するための透明な調整層15が置かれることがある。この場合、透明基板5は調整層15の上に載せられる(即ち調整層15まで含んだ有機EL素子を発光体と言うことができる。)。透明基板5の屈折率n1が調整層15の屈折率n1’よりも小さくなる場合、透明基板5と調整層15との間に全反射が発生する境界面15aが存在し、特にn1’−n1>0.1の場合にはその影響が無視できなくなる。
具体的には、屈折率n2の発光層3の内部の点Sで発光する光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、屈折率n1’の調整層15を透過し、境界面15a上の点P’において屈折して、屈折率n1の透明基板5を透過し、保護層11上の点Pを経て空気6側に出射する。ここではn1’≧n2>n1>1.0である。なお、n1’はn2よりも小さくても構わないが、この場合は透明電極4と調整層15との間で全反射が発生する。透明基板5において空気6との境界面には本実施形態の保護層11が形成されているので、臨界角を超えた光でも空気6側に取り出すことができる。しかし、n1’>n1の関係から境界面15aでも全反射が発生する。すなわち、点P’への入射より入射角の大きい点Q’への入射では全反射し、この光は電極2との間で全反射を繰り返し、空気6側に取り出すことは出来ない。
このような場合、図13に示すように、調整層15と透明基板5との境界面にも本実施形態における保護層11’を設ければよい。これにより、この面での臨界角を超えた入射光を空気6側に取り出すことができる。
すなわち、保護層11’により臨界角を超えた点Q’への入射でも全反射は発生せず、この面で反射する成分は電極2を反射した後、再び保護層11’上の点R’に入射し、その一部が保護層13を経て空気6側に出射し、以上の過程を無限に繰り返す。図13の構成は、凹凸を有する保護層11,11’を2重に形成する複雑さはあるが、透明基板5に屈折率の低い材料を用いることができるため、材料の選択の幅を広げられるメリットを有する。
なお、(数7)から、透明基板5と電極2との間の往復における光透過率τが大きければ、光取り出し効率は増大することがわかる。実際の発光層3は、電極2や透明電極4以外に、上述した調整層15等の複数の透明層等に取り囲まれるが、それらの膜設計(発光層3を含めた膜の屈折率や厚みの決定)は、前述の光透過率τが最大になるように行うべきである。この時、保護層13での反射は位相の分布がランダムになるので、反射光の重ね合わせはインコヒーレントな扱い(振幅加算でなく強度加算)になる。すなわち透明基板5表面の反射影響は無視でき、仮想的に反射率0%、透過率100%として扱える。この条件で透明基板5から光を発光させ、この光を、発光層3を含む多層膜に多重に往復させ、透明基板5に戻ってくる複素光振幅の重ね合わせ光量を最大にすることを条件にして、各膜の屈折率や厚みが決定される。
すでに説明したように、屈折面においてどのような入射条件であろうとも屈折面上で等価的な発光(いわゆる境界回折効果)があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。図7で示したような臨界角を超えても光が透過する現象は、この屈折面上で等価的な発光が生じる条件にしていることから説明できる。
(第2の実施形態)
以下、本発明によるシート(保護層)および発光装置の第2の実施形態を図14に基づいて説明する。なお、第2の実施形態は、保護層11における微小部分13A,13Bのパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と共通の構成については、ここではその説明を省略する。
第2の実施形態は、第1の実施形態のようにそれぞれの透過軸がほぼ直交した微小偏光板が形成される代わりに、微小部分13A、13Bに、それぞれ光軸の異なった1/2波長板20a、20bが形成された2次元的な波長板アレイ構造を有する(図14)。
微小部分13A、13Bにおける波長板20a、20bは、それぞれの光軸方位がほぼ45度の角度をなすように配置されている。
入射光の直線偏光の電界ベクトルの振動方向と、1/2波長板のうちの一方の光軸とがなす角度をθとする。1/2波長板は入射光の偏光面を2θ回転させる作用があるため、出射光の電界ベクトルの振動方向は結晶の光軸に対して、θ−2θ度、すなわち−θ度傾くことになる。このとき、1/2波長板のうちの他方の光軸は、入射光の直線偏光の電界ベクトルの振動方向から(θ+45)度だけ傾く。出射光の電界ベクトルの振動方向は、結晶の光軸に対して、θ−2(θ+45)度、すなわち(−θ−90)度だけ傾いていることになる。この結果から、互いに45度だけ光軸が異なる方位で置かれた1/2波長板に光が入射すると、それぞれの波長板からの出射光の偏光軸は直交することがわかる。すなわち、本実施形態では、πの位相差を与えた場合と同様な効果が得られる。このように、微小領域13aから出射する光と微小領域13bから出射する光との位相差がπとなり、微小領域13a、13bを透過した光について、電界ベクトルの位相が不連続となる。これにより、屈折面に入射する光の電界ベクトルの周回積分がゼロでなくなるため、微小領域13aと微小領域13bとの境界で光が生じる(境界回折効果)。
有機EL素子からは様々な波長の光が発せられるが、位相差の比較は、互いに同じ波長を有する光によって行なう。
保護層11は、有機ELから発せられる可視光波長域(380nmから780nm程度)の光のうちの中心付近の波長の光(波長が600nm前後の緑色または赤色光)の位相差がπとなるように設計される。ただし、有機EL素子から発せられる様々な波長の光のうち、いずれの波長の光を基準にして設計が行なわれてもよい。発光素子から発せられる光の波長域によっては、400nmや500nmの波長の光を基準として設計が行なわれる場合もある。
「微小領域13aを透過した光と、微小領域13bを透過した光との位相差がπである」範囲には、微小部分13A、13Bの製造誤差や、光の電界ベクトルの振動方向を測定するときの測定誤差によって、位相差がπからずれる場合も含まれる。
なお、波長板も、第1の実施形態における偏光子アレイと同様な作製方法を用い、積層する厚み(各層の厚さや積層周期)を制御することによって、製造することが可能である。波長板をパターン化フォトニック結晶の形成方法を用いて形成できることは、第1の実施形態で述べた技術文献に開示されている。
以下に具体的に説明する。まず、下地基板における正方形の領域ごとに、数100nmピッチのストライプ状の凹凸パターンをリソグラフィ技術で形成する。このとき、微小領域13aを形成する予定の正方形におけるストライプと、微小領域13bを形成する予定の正方形におけるストライプとを、45度異なる方向に形成しておく。
その後、下地基板上に、例えば、SiO2とTi2O5とを交互に供給することによって、10周期(20層)程度の積層構造を形成する。このとき、表面をアルゴンイオンによってエッチングしながら積層を行なうことにより、下地基板の凹凸に沿った斜面を形成しながら、積層を進めることができる。10周期の積層構造を形成すると、この偏光子の厚さは3μm程度になり、微小領域13aが形成される部分と微小領域13bが形成される部分の厚さの差異はほとんどない。入射する光の波長に比べて各層の厚さや積層ピッチを十分短くすることで、各偏光に対して実効的な屈折率に差を生じさせることができるので、位相板としての機能を持たせることができる。
上記技術文献には、正方形の領域のサイズが5μm角程度であることが示されている。下地基板に対するリソグラフィの方法として、電子ビームリソグラフィー技術等の微細加工技術を用いれば、さらに一桁小さな領域内の加工を行なうことが可能である。
(第3の実施形態)
以下、本発明によるシート(保護層)および発光装置の第3の実施形態を図15に基づいて説明する。なお、第3の実施形態は、保護層11における微小部分13A,13Bのパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と共通の構成については、ここではその説明を省略する。
第3の実施形態は、第1の実施形態にようにそれぞれの透過軸がほぼ直交した微小偏光板を敷き詰める代わりに、微小部分13Aと微小部分13Bに、透過板21bと遮光板21aとを敷き詰めた2次元的なアレイ構造を有する(図15)。
本実施形態では、遮光板21aに入射した光は遮断されるため、微小領域13a、13bを透過した光について、電界ベクトルの大きさが不連続となる。これにより、屈折面に入射する光の電界ベクトルの周回積分がゼロでなくなるため、微小領域13aと微小領域13bとの境界において光が生じる(境界回折効果)。このように、本実施形態では、ピンホールや位相シフタと同様の光取り出し特性、すなわち微小部分13Aと微小部分13Bとの間にπの位相差を与えた場合と同様な効果を得ることができる。
本実施形態の保護層11は、次のような方法によって作製することができる。例えば、フォトリソグラフィーに用いるマスクの形成を行うように、電子ビーム露光とドライエッチングプロセスでガラス基板上の金属にパターンを作製すればよい。この場合、金属が除去されてガラス基板が露出した部分が透過板21b、金属が残った部分が遮光板21aとなる。1μm以下のパターンサイズも十分に作製可能である。
(第4の実施形態)
以下、本発明によるシート(保護層)の第4の実施形態を図16に基づいて説明する。なお、第4の実施形態は、保護層11における微小部分13A、13Bのパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と共通の構成については、ここではその説明を省略する。
図16(a)は、本実施形態における第1の保護層23のパターンを示す図である。図16(a)に示すように、第1の保護層23は、一辺の長さwの正三角形(微小領域13)に分割され、一つ一つの微小領域13がα領域23a(微小領域13a)であるか、β領域23b(微小領域13b)であるかの比率を各50%として、α領域23aとβ領域23bとがランダムに割り当てられたものである。wは3.5μm以下である。
一方、図16(b)は、本実施形態における第2の保護層33のパターンを示す図である。図16(b)に示すように、第2の保護層33は、一辺の長さwの正六角形(微小領域13)に分割され、一つ一つの図形がα領域33a(微小領域13a)であるかβ領域33b(微小領域13b)であるかの比率を各50%としてα領域33aとβ領域33bとをランダムに割り当てられたものである。wは1.15μm以下である。
なお、図形の大きさは、一般的に表現すれば、その図形に内接する円の最大のものの直径が0.2μm以上2μm以下であることが条件となる。
本実施形態の保護層23、33として、第1の実施形態のような偏光子、第2の実施形態のような波長板、第3の実施形態のような透過板および遮光板のいずれを用いてもよい。
本実施形態のパターン形状は、正三角形や正六角形に限らず、同じ図形で隙間無く面分割が出来るのであれば、任意の多角形であってもよい。
第4の実施形態は保護層23,33のパターン形状が第1の実施形態とは異なるだけで、第1の実施形態と同じ原理が作用し、同一の効果が得られる。
なお、第1から第4の実施形態における保護層を形成するときに、実際の加工体における微小部分13A、13Bが厳密には正方形や正三角形、正六角形にはならず角の部分が丸まったり、角が丸まった微小領域の隣の微小領域の角がその分変形したりする。このような場合にも、特性の劣化はなく、同一の効果が得られることは言うまでもない。
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本発明の例示であって、本発明はこれらの例に限定されない。
また、透明基板5の厚さが大きい場合、光の出射位置(平面的な位置)は光取り出しの回数が増すごとに発光点Sの位置から離れてくる。この場合、ディスプレイ用のELの様に300μm程度の画素ごとに区切られた構成では、光が隣の画素に紛れ込み、画質の劣化につながる。これを防止するためには、図17(a)に示すように、保護層13の形成された透明基板5は数μm程度に薄く構成し、その上に空気層を挟んで0.2mmから0.5mm程度の保護基板14で覆う構成が考えられる。保護基板14の表面14a、裏面14bでは全反射は発生しないが、ARコートの必要はある。このとき保護層13の上には空気層の代わりにエアロゲル等の低屈折率で透明な材料を用いてもよく、この場合には、基板1から保護基板14までが一体構成になるため、装置としての安定性が高い。
さらに、上述の実施形態では、透明基板5の一つの面側(上面側)だけに保護層11を形成したが、透明基板5の両面側に同じような構造を形成してもよい。また、保護層11と発光点Sとの間に一般の回折格子11’を配置してもよい。このとき、図17(b)に示すように、透明基板5をフィルム形状にし、表面に保護層11を、裏面に、回折格子を有する膜11’または別仕様の表面構造を有する膜11”を形成し、発光体側に接着層22を介して接着させる構造が考えられる。透明基板5の屈折率が小さく、発光層3との屈折率差が0.1以上ある場合には、接着層22の材料を発光層3の屈折率より0.1だけ小さいかそれ以上になるように選ぶと、接着層22と発光層3との境界面での全反射はほとんど生じない。さらに、接着層22と透明基板5との間の屈折面、及び透明基板5と空気6との間の屈折面で発生する全反射を、それぞれ表面構造を有する膜11”(または回折格子を有する膜11’)、および保護層11によって回避できる。
なお、第1から第4の実施形態における保護層11のパターンは、磨りガラスや面粗し等の表面状態や、特許文献2に記載された発光装置で示された表面状態とは異なる。第1から第4の実施形態における保護層のパターンは、表面を幅wの碁盤の目の領域に分割し、一つ一つの目に光学的に不連続な境界を与える構造を例えば1:1の比率で割り当てたものである。このパターンには、固有の幅wというスケールと固有の微小領域の特性とが存在し、一方の総面積と他方の総面積との比率も1:1の関係に収まっている。
これに対し、磨りガラスや面粗し等の表面状態は、固有の幅wが存在せず(少なくともw≧0.05μmの条件では存在しない。)、微小領域の形状は不定形であり面積の比率も1:1の関係になる訳ではない。
第1から第4の実施形態における領域の比率を50%からずらし、面積の比率が1:1から外れる場合でも、依然として固有の幅wが存在しており、一方の総面積と他方の総面積の比率も所定の値であり、完全にランダムなパターンとは一線を画する。このように、上記実施形態におけるパターンは、完全に周期性を有さないランダムなパターンではなく、ある規則に沿ったパターンと言える。すなわち、第1から第4の実施形態における保護層11において、「周期性を有さない」のは「微細領域δ1、δ2の二次元的な配置」であって、それぞれの微細領域δの大きさや形状は「周期性を有さない」ものではない。
また、第1から4の実施形態における表面形状が引き起こす現象は回折現象の一つである。図2に示すように、回折現象では、表面形状を平均する平坦な基準面に対し仮想的に屈折する光線を0次回折光(全反射の場合には表れない)とし、この光を方位の基準としてシフトした方位に高次の回折光が発生する。本願発明のようなランダムなパターンでは0次以外の回折光の伝播方位がランダムになる。これに対し、磨りガラスや面粗しにおいて引き起こされるのは回折現象ではなく屈折現象の一つであり、デコボコした屈折面においてその面法線の方位がランダムになることで屈折の方位もランダムになっているだけである。すなわち、平行平板の上に第1から4の実施形態におけるパターン形状を形成し、透かして見ると反対側の像の輪郭がはっきりと見える。これは表面形状で回折分離する光の中に0次回折光が必ず存在し、この光が反対側の像の輪郭を維持させているためである。これに対し、磨りガラスや面粗しでは0次回折光に相当する光が存在せず、透かして見ると反対側の像の輪郭はぼやけたものになる。特許文献2では、表面の突起物により光が「素直に空気中に放射される」と記載されているだけであって、回折という記載は無い。一般的には、「素直」という言葉を「よりシンプルな原理であるスネルの法則(屈折の法則)に従う」と解釈できる。その意味では、特許文献2の表面の突起物は、磨りガラスや面粗しと同じ部類に入ると理解でき、本願発明とは全く別のものであると言うことができる。
特許文献2に開示された技術の特徴は、透明絶縁基板の上に複数の透明な突起物を完全にランダムに配置することにあり、本願のようにそれぞれの領域を同じ形状の微小領域の一つ以上の集合体として且つそれらの存在比率を特定の割合にするという特徴は開示も示唆もされていない。例えば、本願発明において、一方と他方とを入れ替えた構造は元の構造とほぼ同じ構造になるが、特許文献2に記載された発光装置ではそうはならない。このような本発明の特徴により顕著な光取り出し効果を奏することは本願発明者らが初めて見出したものであり、特許文献2には本発明のような顕著な効果は記載されていない。
境界回折効果は、光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界で発生するので、この効果を極大化させるために、光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界の出現比率を極大化させることが好ましい。屈折面を無数の微小領域で分割し、微小領域同士の境界で光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続になるとすると、2つの条件により前述の出現比率の極大化がなされる。一つ目の条件は各微小領域の面積ができるだけ一つに揃うこと、2つ目の条件は隣り合う微小領域間にも光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続になる境界が存在することである。すなわち、微小領域の内に他のものより大きい面積のものがあれば、この大きな面積を分割した方が光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界が増える。反対に微小領域の内に他のものより小さい面積のものがあるとすれば、これは他のものより大きい面積のものが存在することになり、この大きな面積を分割した方が光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界が増える。この延長線として、各微小領域の面積が出来るだけ一つに揃い、少なくとも各微小領域の面積がある基準面積に対し0.5〜1.5倍の範囲(微小領域に内接する円のうち最大のものの直径が、基準になる直径に対し0.7〜1.3倍の範囲)に入ることが微小領域間の境界線の出現比率を極大化することになる。第1から第4の実施形態はこの条件に従っている。また微小領域への分割を極大化することができても、隣り合う微小領域同士で光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが揃えば効果が薄くなる。従って隣り合う微小領域間にも光の電界ベクトルの向き、位相または大きさが不連続な境界が存在するように、微小領域のランダムな割り当てが必要である。すなわち、上記の実施形態の発光装置は、特許文献2に記載されている発光装置のような反射防止による効果ではなく(この効果も含まれるが)、境界回折効果を極大化させた効果によって取り出し効率の向上が実現されている。
第1から4の実施形態はそれぞれ独立して成り立つのではなく、それぞれの一部を組み合わせて、新たな実施例としてもよい。また、第1から4の実施形態では有機エレクトロルミネセンス素子を例にとって説明したが、屈折率が1より大きい媒質内で発光する素子であれば、本願発明は全てに適用できる。例えば、LEDや導光板などへの適用も可能である。さらに、発光装置が光を出射する媒質は空気に限定されない。本発明は、透明基板の屈折率が、透明基板が接している媒質の屈折率より大きい、特に0.1以上大きい場合に適用できる。
以上説明したように、本発明に係る発光装置は、光の取り出し効率を大幅に向上させているので、ディスプレイや光源等として有用である。
1 基板
2 電極
3 発光層
4 透明電極
5 透明基板
6 空気
11 保護層
13a、13b 微小領域
13A、13B 微小部分
19a、19b 偏光子
20a、20b 1/2波長板
21a 透過板
21b 遮光板
23a、33a α領域
23b、33b β領域
S 発光点