JPWO2010061976A1 - 摺動ピン及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
特開2006−258194号公報には、ブッシュに油溝を形成し、コンロッド側から強制給油をするピストン支持部が示されている。このピンストン支持部は、ブッシュの内周面下側に、ブッシュの軸心方向に延びる一対の油溝を周方向に所要間隔を隔てて左右対称に形成する。コンロッドの小端部におけるブッシュの外周面下側を被包する部位には、各油溝の形成位置を網羅するように周方向に延びる連絡油通路を形成する。連絡油通路と各油溝との間は、ブッシュの連通孔を通して連通され、連絡油通路に対してコンロッド内部の油通路を通して潤滑油を強制給油することで、ブッシュの焼付きを防止している。
また、特開2004−308779号公報には、摺動面に複数の穴を形成し、穴の内部に固体潤滑剤を収容する軸受が示されている。この軸受は、摺動面全体に亘って略円錐台状の穴が縦横整列して形成され、1つ以上の穴に固体潤滑剤が収容されており、固体潤滑剤が収容された穴と内部が空洞の穴とが不規則に配設されている。そして、潤滑油ポンプから圧送される潤滑油が摺動面間に供給されて潤滑が図られ、また潤滑油が空洞の穴に維持されることで摺動面間に速やかに供給でき、これにより焼付き等を防止している。
また、特開2002−106565号公報には、摺動表面側に単数または複数の潤滑設計用の凹部形状を設け、凹部に固体潤滑材料を埋め込む平面スライドプレートや軸受が示されている。この平面スライドプレート等は、摺動表面側に油溝、油穴、インデント等の凹部が施され、凹部の断面形状は円筒状、球状、テーパー状、逆テーパー状等いずれかに形成される。凹部の一部又は全部に、又は別途設けた凹部に、固体潤滑材料を含浸又は埋め込み潤滑剤を滑り面に供給し、プレート形成後に、固体潤滑材料層に潤滑油等を含浸させて潤滑特性を高める。これによりオイルやグリース等を塗布して摺動させるが、ある程度の潤滑特性を維持し、耐焼付き性を高めている。
ブッシュや軸受に油溝や凹部を設けて摺動面の潤滑性の向上を図るため、装置の部品数を減らすことが出来ず摺動部は大型となり、装置の小型化には限度がある。更に、上記ブッシュ等の摺動用の部品を準備するコストも必要となる。
また、スライドプレート等の摺動面に凹部形状の複数の穴を設け、これらの穴の内部に固体潤滑材を埋め込んでも、固体潤滑材を全周に設けていないので潤滑効率が低下し、カジリ等が発生する問題がある。更に、上記穴は個々に配置されているため、摺動運動の繰返しにおいて、埋め込んだ固体潤滑材に不要な圧が掛かかることで、摺動中に固体潤滑材が穴から抜け落ちてしまう問題がある。その結果、焼き付きによる製品品質の低下や、抜け落ちた箇所に固体潤滑材を埋め込む等のメンテナンス時間が増え、作業効率は大幅に低下する。
また、油溝や潤滑油ポンプ等で潤滑油を摺動面に供給して潤滑性を向上させる方法では、上記供給作業が余計に加わり、また、常に潤滑油の残量をチェックする等、作業工程が煩雑となる問題がある。その一方、スライドプレート形成後の固体潤滑材層に潤滑油を含浸させて潤滑性の持続させる方法では、常に固体潤滑材層に潤滑油を含浸させる必要があり作業工程が煩雑となる問題がある。含浸が必要となる固体潤滑材は、その硬度が高く、一定量の潤滑油が含浸されていない状態で使用すると、摺動面にかじりが発生し、品質低下に繋がるからである。
また、出願人の調査範囲において、ブッシュや軸受を設けず、摺動ピン側に潤滑機能を有するシンプルな構造のものが存在しない現状があり、また、そのシンプルな構造が業界にて要求されている。特に、摺動面が曲面となる構造では、なお更である。例えば、摺動面が曲面となる摺動ピン側に凹部形状の複数の穴を設けて固体潤滑材を埋め込むことも考えられる。この場合、摺動面である曲面の曲率に合わせて、上記穴に固体潤滑材を埋め込む作業は難しく、固体潤滑材の一部が穴から突出してしまう。そして、上述したように、固体潤滑材はかじりの原因となるため、その突出部は除去する必要がある。このとき、摺動面と固体潤滑材の表面とが、同一曲面となるように少しずつ上記突出部を除去する作業が必要となる。個々の穴が独立しているため、除去作業時に固体潤滑材が抜け落ちたり、固体潤滑材に切り欠きが発生すると、摺動面に配置される固体潤滑材の面積が低下し、摺動面の潤滑性が低下し、かじり等の問題が発生し易くなるためである。そのため、複数の凹部に対して、慎重に研磨を行う必要があり、多くの作業時間が掛かり、生産効率が低下する問題となる。
ここで、除去作業時に固体潤滑材が抜け落ちることを防止する対策として、奥行きの深い凹部形状の穴や、摺動面に直交する方向に貫通孔を形成することも考えられる。しかしながら、摺動ピンは高速度でピストン運動を繰り返すことで、摺動ピン自体に対して大きな機械的応力が加わる。そのため、摺動ピンの長軸方向に直交する方向に、上記穴や貫通孔のように深い切り込みを加える構造では、その切り込み部分に応力集中が発生し、摺動ピンが折れ曲がったり、座屈してしまう恐れもある。このように、摺動ピンの機械的強度も維持するためには、その摺動面に設けられる溝は浅い構造であることが望ましい。
従って、上述した各事情に鑑みて成されたものであり、本発明の摺動ピンは、柱状ピン体と、前記柱状ピン体の側面に設けられた溝と、前記溝に埋設され、オイルを含有し、微粒子粉体が混入された樹脂潤滑材とを有し、前記溝は前記柱状ピン体の側面に環状に形成され、前記溝を構成する側面及び底面は凹凸形状となり、前記微粒子粉体は、前記溝の側面及び底面の凹凸形状に入り込み、少なくとも前記溝の開口から露出する前記樹脂潤滑材はポーラス形状であることを特徴とする。
また、本発明の摺動ピンの製造方法では、柱状ピン体を準備する工程と、前記柱状ピン体の側面に、溝を構成する側面及び底面に凹凸形状が形成されるように環状の溝を形成する工程と、前記凹凸形状の幅よりも粒径の小さい微粒子粉体を準備し、オイルを含有したペースト状の樹脂潤滑材に前記微粒子粉体を混入させた後、前記樹脂潤滑材を前記溝内に埋設させ、前記樹脂潤滑材を焼き固める工程とを有し、前記焼き固め工程では、前記溝の内部で拡がる前記樹脂潤滑材の膨張圧力を利用し、前記側面及び底面の凹凸形状に前記微粒子粉体を入り込ませ、前記樹脂潤滑材と前記側面及び底面とを密着させることを特徴とする。
本発明に依れば、柱状ピン体の側面に環状の溝を設け、その溝に微粒子粉体を混入した樹脂潤滑材を埋設する。この構造により、柱状ピン体側面の摺動面における摺動性が向上し、ブッシュや軸受といった部品を減らすことができる。そして、摺動部の大型化も防げるので装置の小型化を実現できる。また、ブッシュや軸受といった部品が不要のため、それらを準備するコストの抑制にも繋がる。
また、本発明に依れば、溝の開口近傍に位置する樹脂潤滑材が、ポーラス形状となる。この構造により、柱状ピン体のピストン運動等に起因し、摺動面に位置する溝には吸引力が加わることで、樹脂潤滑材内のオイルは、毛細管現象により開口近傍に集まり易くなる。そして、摺動面へのオイルの供給が継続され易く、摺動面での潤滑性が向上される。
また、本発明に依れば、柱状ピン体の摺動方向に直交するように環状の溝が、柱状ピン体の側面に設けられ、その溝内を樹脂潤滑材が埋設する。この構造により、摺動面全体にムラなくオイルが供給され易い構造となる。また、上記溝が、柱状ピン体の側面に複数本配置されることで、摺動面での更なる潤滑性が向上される。
また、本発明に依れば、環状の溝は、その開口面積が溝底面よりも狭い構造となる。この構造により、溝内の樹脂潤滑剤は、柱状ピン体の側面に一体の環状形状に配置されることで、溝から抜け落ち難い構造となる。そして、上記溝は浅くなり、柱状ピン体の機械的強度が向上される。
また、本発明に依れば、少なくとも溝の底面が曲面となることで、底面周端部に位置するコーナー部も曲面となる。この構造により、可動時に柱状ピン体に加わる機械的応力が、溝底面のコーナー部に集中し難くなり、柱状ピン体の機械的強度が向上される。
また、本発明に依れば、溝の側面と底面には、凹凸形状が形成される。そして、樹脂潤滑材に混入する微粒子粉体の径は、その凹凸の幅よりも小さくなる。この構造により、微粒子粉体がその凹凸内に入り込むことで、樹脂潤滑材と溝の側面及び底面との密着性が向上される。
また、本発明に依れば、樹脂潤滑材に微粒子粉体を混入して、その樹脂潤滑材を溝内へと埋設する。この製法により、微粒子粉体が、溝の側面と底面に形成された凹凸形状内へと入り込み、樹脂潤滑材と溝の側面及び底面との密着性が向上される。
また、本発明に依れば、柱状ピン体の周囲を蓋で覆い、柱状ピン体と蓋との間に隙間を設けた状態にて焼き固め工程を行う。この製法により、溝を埋設する樹脂潤滑材では、溝の開口近傍領域が最も減圧状態となり、その領域の樹脂潤滑材はポーラス形状に硬化する。その結果、多くのオイルが、開口付近に集まり易く、摺動面の潤滑性が向上される。
10 柱状ピン体
11 溝
12 樹脂潤滑材
13 微粒子粉体
15 蓋
第1図に示す如く、摺動ピン1は、主に、柱状ピン体10と、溝11と、樹脂潤滑材12とから構成される。
摺動ピン1は、ピストンピン等の摺動部品であり、ブッシュや軸受といった部品を用いずに、摺動面に、直接、オイル等を供給する。具体的には、摺動ピン1が、摺動方向に運動することで(ピストン運動を繰り返すことで)、機械部材(摺動ピン1等)同士の接触やピストン運動により発生する吸引力により、溝11に埋設した樹脂潤滑材12の一部やその内部のオイルが摺動面に供給される。尚、摺動面とは、摺動ピン1の動作する領域において、摺動ピン1の側面と、その側面と対向する金型装置等の側面(摺動ピン1を囲むように配置された面)のことをいう。
柱状ピン体10は、例えば、S45C(機械構造用炭素鋼)やSUJ2(高炭素クロム軸受鋼(通称ベアリング鋼))等の材料からなる。そして、その形状は円柱形状となり、その摺動面は曲面となる。
溝11は、柱状ピン体10の側面に環状に形成され、溝11の開口領域の開口面積は、溝の底面の面積より狭くなり、逆テーパー状態となる。そして、溝は、摺動面に対して樹脂潤滑材12内のオイル等を供給できる位置にあればよく、1本だけ形成してもよい。図示の如く、摺動方向に対して直交するように複数本の溝を形成した場合は、1本の場合よりも摺動面の潤滑性が高められる。尚、溝11の配置位置は、摺動方向に対して直交する方向に限定するものではなく、例えば、摺動方向に対して斜め方向に環状に配置される場合でも良い。
この構造により、溝11内に硬化する樹脂潤滑材12には、摺動面での機械的接触やピストン動作時発生する吸引力により溝11外部へと引っ張られる力が働く。しかしながら、一体の環状形状となることで、一領域の樹脂潤滑材12が引っ張られる一方で、その他の領域の樹脂潤滑材12が柱状ピン体10に引っ掛かることで、樹脂潤滑材12全体として溝11から離脱し難い構造となる。
樹脂潤滑材12は、最初からオイル(潤滑油)が含有されたペースト状の材料であり、樹脂、黒鉛、添加剤等が混合して成る材料である。樹脂としては、成型時に加熱によって硬化する熱硬化性樹脂が良く、例えば、ポリエチレンが用いられる。そして、樹脂潤滑材12は、微粒子粉体13、例えば、黒鉛を混入して粘度を大きくした状態で用いられる。樹脂潤滑材12は、溝11の内部へ埋設した後に焼き固められ、硬化した状態で用いられる。上述したように、樹脂潤滑材12には最初からオイルを混合することで、後からオイルを含浸させる必要がない。詳細は後述するが、樹脂潤滑材12は、硬化後もその内部にオイルを含んだ状態である。そして、溝11の開口近傍の樹脂潤滑材12は、ポーラス形状に硬化するため、そのポーラス形状部に、例えば、毛細管現象により、樹脂潤滑材12のオイルが集中し易くなる。この構造により、摺動面へのオイルの供給が継続され易く、摺動面での潤滑性が向上される。
第2図(A)に示す如く、溝11は柱状ピン体10の側面に環状に形成される。そして、溝11の形状の一形態としては、第2図(B)に示すように、開口11の幅W1(開口面積)が、底面11bの幅W2(面積)よりも狭くなり、溝の側面11cと底面11bとのなす角θ1が鋭角となる。つまり、溝11の側面11cと底面11bは平坦面となり、その側面11cは、溝11の開口11aから底面11bに向けて逆テーパー形状の斜面となる。
具体的には、その一例として、溝11の開口11aの幅W1を0.7mmとし、底部11dの幅W2を1.0mmとし、溝11の深さd1を0.5〜2mmとし、溝11の側面11cと底面11dとのなす角θ1は5〜10度となる。尚、柱状ピン体10の径は、φ2〜60mmであり、上記溝の深さd1に対して十分な厚みを有しているため、柱状ピン体10の機械的強度が問題となることはない。そのため、上記なす角θ1は任意の設計変更が可能であり、なす角θ1の角度により応力集中が発生し、柱状ピン体10が折れ曲がったり、座屈することはない。
詳細は第5図を用いて説明するが、この構造により、樹脂潤滑材12を溝11内に焼き固める際、溝11の内部で拡がる樹脂潤滑材の膨張圧力を逆テーパー状の斜面(11c)に作用させ、その反力を利用して樹脂潤滑材12を溝11の底面11bへと押圧することで、樹脂潤滑材12と柱状ピン体10との密着性が向上される。
次に、第3図及び第4図を用い、その他の形態の溝形状を説明する。尚、第1図及び第2図に示す構成部材と同一のものには同一の符番を付す。
第3図に示す溝11Aの構造は、第2図(B)に示す溝11とは、その底面11dの構造が異なる。具体的には、溝の底面11dは、柱状ピン体10の中心部へ向かって尖った屋根型となる。底面11dの中央領域、底面11dを構成する2つの斜面が交差する領域の溝11Aの深さd2が、第2図(B)の溝11の深さd1よりも、若干、深くなる程度である。
この構造により、溝11Aでは、側面11cと底面11dとのなす角θ2が、上記なす角θ1よりも鈍角となる。そして、装置が可動時には、摺動ピン1が高速度でピストン運動を繰り返すことで、摺動ピン1自体に大きな機械的応力が加わり、柱状ピン体10にも同様にその機械的応力が加わる。しかしながら、溝11Aの底面11dの周端に位置するコーナー部の角度θ2を鈍角とするか丸くし角を作らないことで、そのコーナー部に上記機械的応力が集中し難い構造なる。第2図(B)にて説明したように、柱状ピン体10の径は溝形状により折れ曲がることのない設計であるが、溝11Aの形状においても、応力集中し難い構造とすることで、更なる摺動ピン1の機械的強度の向上が実現される。また、溝11Aの底面11dの面積が広がることで、樹脂潤滑材12と溝11Aの底面11dとの当接面積が増大し、その密着性も向上される。尚、屋根型の溝11Aは、第2図(B)に示す溝11に対して、機械加工による成形が容易であり、コストパフォーマンスを良くすることができる。
第4図に示す溝11Bの構造は、第2図(B)に示す溝11とは、その底面11eの構造が異なる。具体的には、溝の底面11eは、柱状ピン体10の中心部へ向かって二つの曲面が交わる形状であり、具体的には略ハート型となる。底面11eの中央領域、底面11eを構成する2つの曲面が交差する領域の溝11Bの深さd3が、第2図(B)の溝11の深さd1よりも、若干、深くなる程度である。
この構造により、丸印2で示すように、底面11eの周端部に位置するコーナー部では、その形状が曲面、または曲面に近似した形状となる。例えば、先端が曲面の切削工具を溝11Bの開口11aから底面11eに向けて差し込むように切削した後、上下方向にスライドさせることで、溝11Bが形成されるからである。その結果、上記第3図の溝11Aと同様に、溝11Bの底面11eのコーナー部での応力集中が防止され、摺動ピン1の機械的強度の向上が実現される。また、溝11Bの底面11eの面積が広がることで、樹脂潤滑材12と底面11eとの当接面積が増大し、その密着性も向上される。尚、屋根型の溝11Bは、第2図(B)に示す溝11に対して、機械加工による成形が容易であり、コストパフォーマンスを良くすることができる。尚、図示していないが、溝11Bの底面11eの形状は、同一曲率の曲面からなる形状(ドーム形状)の場合でもよい。
尚、第2図〜第4図では、溝11、の構造を説明する都合上、柱状ピン体10に対して深く図示しているが、上述したように、溝11の深さは、柱状ピン体10に加わる機械的応力が、溝11の底面のコーナー部に応力集中しても、柱状ピン体10が折り曲がり、また、座屈しない深さである。
次に、第5図を用いて樹脂潤滑材12が溝11内にて硬化する際に起きる現象であるポーラス形状と樹脂潤滑材12と柱状ピン体10との密着性について説明する。
第5図(A)に示す如く、柱状ピン体10の側面に設けられた環状の溝11に埋設された樹脂潤滑材12は、焼き固める際の熱により溝11内で膨張する。
具体的には、焼き固めの温度は100〜200度が適している。そして、溝11内の樹脂潤滑材12は熱硬化時に膨張して、その膨張圧力20は溝内の底面11bおよび側面11cに加わる。特に、溝11の側面11cでは、その形状が逆テーパー形状となることで、膨張圧力20に対向する反力21の一部が底面11b側へと加わる。その一方で、樹脂潤滑材12は、溝11の底面11bや側面11cを押しながら、僅かな隙間を有し最も減圧状態にある溝11の開口11aに向けて膨張する。そして、溝11の開口11aにおける僅かな隙間から溝11外部へと流出する。尚、この僅かな隙間に関しては、第7図を用いて後述する。
このとき、樹脂潤滑材12は、粒径の異なる樹脂、黒鉛、添加剤、微粒子粉体13、オイル等から構成される。黒鉛、添加剤、微粒子粉体13、オイル等は、その樹脂の隙間にバインドされる形で保持され、樹脂潤滑材12の外周領域に多く存在している黒鉛は、その微粒子が溝加工時のキズ部分に入り込んだ状態になり、溝内に強固に張り付いた状態になる。また最も減圧状態にある溝11の開口11aでは、焼き固め温度により、樹脂潤滑材12内の黒鉛、添加剤、微粒子粉体13の一部が焼け、消滅したり、オイルの一部が蒸発する。また、組成や粒径の異なる粒子が多く存在することで、その結合も粗な状態となり、ポーラス形状(多孔性形状)の樹脂潤滑材12が形成される。
その結果、開口11a近傍の樹脂潤滑材12は、小孔が多く存在し、その小孔は高い流動性を有するオイルの経路や溜まり領域として機能する。上述したように、溝11内で硬化する樹脂潤滑材12の中心領域では、樹脂が密な状態で結合しているため、高い流動性を有するオイルや粒径の小さい微粒子粉体13は、このポーラス形状の領域に入り込み、摺動面の潤滑材として用いられることとなる。また、摺動ピン1が、狭い空間内を高速度で繰り返しピストン運動することで、溝11内の樹脂潤滑材12には吸引力が加わるが、その際、樹脂潤滑材12内に存在する最も流動性のあるオイルや微粒子粉体13は、毛細管現象により上記ポーラス形状の小孔を通して開口11a側へと移動する。
つまり、本実施の形態では、粒径が小さく、流動性に優れた微粒子粉体13を樹脂潤滑材12に混入することで、溝11の開口11aから露出する樹脂潤滑材12やその近傍に位置する樹脂潤滑材12がポーラス形状とすることができ、摺動ピン1が可動時には、摺動面に対して樹脂潤滑材12のオイル等を供給し易い構造となる。そして、摺動面での潤滑性能が向上され、無給油の摺動ピン1が実現される。
次に、第5図(B)に示すように、溝11の底面11bや側面11cには、溝11を形成する際の機械加工により、その表面に微細な凹凸形状が形成される。これは、切削工具の刃を成形する際に、その刃面には凹凸形状が形成され、その凹凸形状を有する刃により溝11を切削することで、溝11の底面11bや側面11cには凹凸形状が形成される。上述したように、樹脂潤滑材12が膨張する際に、その周囲には流動性を有する黒鉛、添加剤、微粒子粉体13、オイル等が多く含まれる。特に、微粒子粉体13の粒径W3は、上記底面11dや側面11cの凹凸形状の幅W4に対して小さくなるものを用いることで、微粒子粉体13が、上記底面11dや側面11cの凹凸に積極的に入り込んだ状態にて、樹脂潤滑材12が、溝11内に硬化する。つまり、樹脂潤滑材12の外周領域は、微粒子粉体13のように、粒子の細かい材料が多く含まれるため、上記底面11dや側面11cの凹凸形状が、樹脂潤滑材12にスパイクのように食い込むことで、アンカー効果をもたらし、上記密着性を向上させる。また、上記底面11dや側面11cの凹凸形状により、樹脂潤滑材12との当接面積も増大し、上記密着性を向上させる。その結果、溝11内に硬化する樹脂潤滑材12には、摺動面での機械的接触やピストン動作時発生する吸引力により溝11外部へと引っ張られる力や溝11内を回転させる力が働くが、上記密着性により、溝11から離脱し難い構造となる。
繰り返しになるが、凹凸形状の幅W4よりも粒径W3の小さい微粒子粉体13により樹脂潤滑材12の粘性度を調整することで、上記ポーラス形状、高密着性の樹脂潤滑材12が実現される。
尚、上記説明では第2図(B)に示す溝構造にて説明したが、第3図〜第4図に示した溝形状(上記ドーム形状も含む)であっても同様の効果が得られる。
次に、第6図を参照して本発明の第2の実施形態である摺動ピンの製造方法について説明する。第6図(A)〜(D)は、本発明の製造方法を説明する斜視図である。尚、第1図及び第2図に示す構成部材と同一のものには同一の符番を付す。また、溝11の形状として第2図(B)に示す形状を用いて説明するが、第3図〜第4図に示す形状の場合でも同様である。
先ず、第6図(A)に示す如く、柱状ピン体10を準備する。柱状ピン体10としては、円柱状を用いることが好適である。その材料等は第1の実施形態にて説明したとおりである。
次に、第6図(B)に示す如く、柱状ピン体10の側面に、第2図(B)に示すように溝の側面と溝の底面で略三角形状を成す環状の溝11を、旋盤加工により形成する。例えば、柱状ピン体10を回転させた状態にて、先端が平坦面の切削工具を溝11の開口から底面に向けて差し込むように切削した後、上下方向にその切削工具をスライドさせる作業を繰り返すことで、溝11が形成される。尚、第6図(B)では、柱状ピン体10の摺動方向に直交する方向に複数本の溝11を形成しているが、1本の場合でもよい。
次に、第6図(C)に示す如く、樹脂潤滑材12を準備する。樹脂潤滑材12の構成は、第1の実施の形態にて説明したとおりである。そして、樹脂潤滑材12を温めた状態にて微粒子粉体13、例えば、黒鉛を混入させ攪拌し、徐々に樹脂潤滑材12の粘性度を高める。その後、樹脂潤滑材12が所望の粘性度に達した段階にて、微粒子粉体13の混入をやめ、樹脂潤滑材12の温度を低下させ、その樹脂潤滑材12を柱状ピン体10の溝11へと埋設する。そして、柱状ピン体10を焼き固め用の装置内に設置し、例えば、100から200度の熱を柱状ピン体10に加えることで、樹脂潤滑剤12を焼き固める。このとき、樹脂潤滑剤12の焼き固まる現象は、第5図を用いて第1の実施の形態にて説明したとおりである。
次に第6図(D)に示す如く、柱状ピン体10を冷却した後、溝11の開口から突出した樹脂潤滑材12を研磨する。この研磨作業により、上記突出した樹脂潤滑材12が研磨され、柱状ピン体10の側面と溝11に埋設した樹脂潤滑材12との表面とが、実質、同一曲率の曲面となる。この研磨作業では、柱状ピン体10に対し一体に環状に硬化した樹脂潤滑材12対して研磨を行うことで、樹脂潤滑材12が抜け落ち難くなるため、その作業がし易く、作業効率が向上する。そして、この作業により、無給油で長時間の摺動運動を可能にした摺動ピン1が完成し、例えば、60mmストローク/秒で、かつ無負荷条件で100万回のピストン動作が可能となる。
最後に、第7図を用いて本発明の第3の実施形態を説明する。第3の実施の形態では、上述した第2の実施の形態とは、焼き固め工程において、柱状ピン体を筒状の蓋で覆う点に違いがある。そのため、第3の実施の形態では、この焼き固め工程を説明し、その他の工程の説明は、第2の実施の形態の説明を参酌する。第7図(A)及び(B)は、本発明の製造方法を説明する斜視図である。
第7図(A)に示す如く、筒状の蓋15を準備する。蓋15は、柱状ピン体10よりも広い開口径を有する円筒形状であり、蓋15内に柱状ピン体10を挿入すると、蓋15と柱状ピン体10との間には、例えば、10〜50μm程度の隙間22(第7図(B)参照)が存在する。上述したように、柱状ピン体10の側面に設けられた溝11内は、微粒子粉体13により粘性度が調整された樹脂潤滑材12により埋設される。そして、その樹脂潤滑材12が埋設された柱状ピン体10を蓋15内に挿入した状態にて、焼き固め作業を行う。
この製造方法により、第7図(B)に示すように、樹脂潤滑材12は、溝11内で膨張し、溝11の側面11cや底面11bに対して膨張圧力20を加えながら、溝11の開口11aへと向けて膨張し、広がっていく。これは、蓋11と柱状ピン体10との間には僅かな隙間22を有することで、その隙間22を介して上記膨張圧力20がリークし、溝11の開口11a領域は、最も減圧された状態となるからである。そして、溝11の開口11a近傍領域の樹脂潤滑材12がポーラス形状を有し、また、樹脂潤滑材12と溝11の側面及び底面との密着性が向上される理由は、第5図を用いて第1の実施の形態にて説明したとおりである。
また、蓋15を用いて焼き固め作業を行う場合は、蓋15を用いない第2の実施の形態の場合と比較して、熱硬化時の熱容量を大きく保つことができる。これにより、柱状ピン体10の溝11内に埋設された樹脂潤滑材12に対して熱の伝わりにむらが生じ難くなり、均一に焼き固められる。また、熱容量の損失が少なくなることで、硬化時間も短縮でき、製造時間や製造コストも低減できる。また、柱状ピン体10と蓋15の隙間22より、突出する樹脂潤滑材12の高さを抑えることができる。これにより、後続の研磨する工程では、溝11の開口11a付近のポーラス形状を有する樹脂潤滑材12を削り取る量も大幅に抑えられ、より多くの潤滑油を含んだ摺動ピン1を提供できる。
Claims (10)
- 柱状ピン体と、
前記柱状ピン体の側面に設けられた溝と、
前記溝に埋設され、オイルを含有し、微粒子粉体が混入された樹脂潤滑材とを有し、
前記溝は前記柱状ピン体の側面に環状に形成され、前記溝を構成する側面及び底面は凹凸形状となり、
前記微粒子粉体は、前記溝の側面及び底面の凹凸形状に入り込み、少なくとも前記溝の開口から露出する前記樹脂潤滑材はポーラス形状であることを特徴とする摺動ピン。 - 前記溝の側面及び底面は平坦面となり、前記側面は前記開口から前記底面に向けて逆テーパー形状となることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の摺動ピン。
- 前記溝の底面は曲面となり、前記側面は前記開口から前記底面に向けて逆テーパー形状となることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の摺動ピン。
- 前記柱状ピン体は円柱状であることを特徴とする請求の範囲第1項から請求の範囲第3項のいずれか1項に記載の摺動ピン。
- 前記溝は前記柱状ピン体の摺動方向に対して直交する方向に複数本形成されることを特徴とする請求の範囲第1項から請求の範囲第3項のいずれか1項に記載の摺動ピン。
- 前記微粒子粉体の径は、前記側面及び底面の凹凸形状の幅よりも小さいことを特徴とする請求の範囲第1項から請求の範囲第3項のいずれか1項に記載の摺動ピン。
- 柱状ピン体を準備する工程と、
前記柱状ピン体の側面に、溝を構成する側面及び底面に凹凸形状が形成されるように環状の溝を形成する工程と、
前記凹凸形状の幅よりも粒径の小さい微粒子粉体を準備し、オイルを含有したペースト状の樹脂潤滑材に前記微粒子粉体を混入させた後、前記樹脂潤滑材を前記溝内に埋設させ、前記樹脂潤滑材を焼き固める工程とを有し、
前記焼き固め工程では、前記溝の内部で拡がる前記樹脂潤滑材の膨張圧力を利用し、前記側面及び底面の凹凸形状に前記微粒子粉体を入り込ませ、前記樹脂潤滑材と前記側面及び底面とを密着させることを特徴とする摺動ピンの製造方法。 - 前記焼き固め工程では、前記柱状ピン体の周囲に前記柱状ピン体より広い径を有する筒状の蓋を配置し、前記柱状ピン体と前記蓋との隙間から前記樹脂潤滑材の膨張圧力を逃がしながら、前記溝の開口近傍に硬化する前記樹脂潤滑材をポーラス形状とすることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の摺動ピンの製造方法。
- 前記焼き固め工程後に、前記溝の外部へと流出して硬化した前記樹脂潤滑材を研磨する工程とを有することを特徴とする請求の範囲第7項または請求の範囲第8項に記載の摺動ピンの製造方法。
- 前記溝を形成する工程では、前記溝の開口から底面に向けて前記側面が逆テーパー形状となる溝を形成することを特徴とする請求の範囲第7項から請求の範囲第9項のいずれか1項に記載の摺動ピンの製造方法。
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