JPWO2009084671A1 - ヒト抗α9インテグリン抗体 - Google Patents
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Abstract
Description
1)ヒトα9インテグリン及びマウスα9インテグリンを認識し、該α9インテグリンとリガンドとの相互作用を阻害する、ヒト抗α9インテグリン抗体または抗体フラグメント。
2)ヒトα9インテグリン(配列番号36)の104番目のArgから122番目のAspまでの領域が主として構成するエピトープ、及びマウスα9インテグリン(配列番号37)の105番目のArgから123番目のAspまでの領域が主として構成するエピトープを認識する、上記1)に記載の抗体または抗体フラグメント。
3)以下の配列番号に各々示されるアミノ酸配列からなる(a)重鎖相補性決定領域及び(b)軽鎖相補性決定領域(CDR1、CDR2、CDR3)を有する、上記1)または2)に記載の抗体または抗体フラグメント。
(a)重鎖相補性決定領域CDR1、CDR2、CDR3
配列番号2、配列番号3、配列番号4;
配列番号13、配列番号14、配列番号15;
配列番号19、配列番号20、配列番号21;
配列番号25、配列番号26、配列番号27;または
配列番号31、配列番号32、配列番号33;
(b)軽鎖相補性決定領域CDR1、CDR2、CDR3
配列番号7、配列番号8、配列番号9
4)配列番号31、配列番号32、配列番号33に各々示されるアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域CDR1、CDR2、CDR3を有する、上記3)に記載の抗体または抗体フラグメント。
5)配列番号1、配列番号12、配列番号18、配列番号24、配列番号30のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する、上記1)または2)に記載の抗体または抗体フラグメント。
6)配列番号30に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を有する、上記5)に記載の抗体または抗体フラグメント。
7)当該抗体が、完全抗体である上記1)から6)のいずれかに記載のヒト抗α9インテグリン抗体。
8)当該抗体フラグメントが、scFvまたはscFv-Fcである上記1)から6)のいずれかに記載のヒト抗α9インテグリン抗体フラグメント。
9)上記1)から8)のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメントをコードする遺伝子。
10)上記9)に記載の遺伝子を含む組換え発現ベクター。
11)上記9)に記載の遺伝子が導入された形質転換体。
12)上記9)に記載の遺伝子を宿主に発現させることによって、ヒト抗α9インテグリン抗体または抗体フラグメントを生産する方法。
13)上記1)から8)のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメントを含む、関節リウマチの予防または治療剤。
14)上記1)から8)のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメントの治療有効量を対象に投与する工程を包含する、該対象における関節リウマチを予防または治療する方法。
15)関節リウマチの予防または治療剤の製造における、上記1)から8)のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメントの使用。
16)関節リウマチを予防または治療するための、上記1)から8)のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメント。
scFvディスプレイファージライブラリーは、以下のようにして作製することができる。複数の健常者から採取した末梢血Bリンパ球より、RT-PCR法にて免疫グロブリン重(H)鎖、軽(L)鎖cDNAを合成する。次に各種プライマーを組み合わせて、H鎖可変領域(VH)とL鎖可変領域(VL)を増幅させ、両者をlinker DNAで結合させることにより、健常者リンパ球由来のVHとVLのランダムな組み合わせによるscFv遺伝子のライブラリーが作製される。このscFv遺伝子をファージミドベクター(例、pCANTAB5E)に組込み、約108〜1011クローンからなる健常者由来scFvディスプレイファージライブラリーを構築することができる。
α9インテグリン(以下、単に「α9」ともいう)は膜蛋白質であるため、α9遺伝子をクローニングして培養細胞に遺伝子導入を行い、人為的に培養細胞表面に発現させることができる。遺伝子クローニングの鋳型としては、cDNA library等を用いるとよい。細胞表面に発現させるためには、通常N末端部分にシグナル配列が存在する必要があるので、α9が本来有するシグナル配列を利用してもよいし、成熟型α9をコードする遺伝子領域を他のシグナル配列と連結させてもよい。作製する抗体については、種特異性等を評価し、抗体の用途や可能性を見極めることが必要であるため、遺伝子の取得はヒトα9とマウスα9の両方について行うのが望ましい。
機能阻害活性を有する抗体クローンのエピトープを同定できれば、α9の中和エピトープを明らかにすることができる。エピトープの解析は、例えば以下のようにして行うことができる。α9のアミノ酸置換体を構築して、当該抗体との反応性を解析する。アミノ酸置換により、抗体との反応性に変化が認められれば、置換した部位が抗体のエピトープである可能性が強く示唆される。アミノ酸置換の方法としては、例えば、ヒトα9とマウスα9の配列を入れ替える、α9とα4の配列を入れ替える、或いはα9の配列をAlaに置換する等の方法がある。
α9については炎症への関与が強く示唆されていることから、マウス病態モデル系としては、代表的な関節炎モデルであるマウスコラーゲン抗体誘導関節炎等を用いるとよい。例えば以下のような手順で、各抗体クローンのマウスコラーゲン抗体誘導関節炎に対する薬効を評価することができる。
抗体の可変領域について、アミノ酸置換等の改変を行うことにより、親和性や特異性が向上或いは変化した例は数多く報告されている。得られた抗体が十分な親和性や特異性を有していない場合、当該抗体についても、例えば以下のようにして親和性や特異性を向上させることは可能と思われる。
クローンMA9-413のVH鎖のアミノ酸配列を配列番号1に示した。当該VH鎖のCDR1〜3のアミノ酸配列を配列番号2〜4に示した。すなわち、配列番号1に示すVH鎖のアミノ酸配列において、31番目〜35番目のアミノ酸配列がCDR1(配列番号2)、50番目〜66番目のアミノ酸配列がCDR2(配列番号3)、99番目〜115番目のアミノ酸配列がCDR3(配列番号4)に対応している。また、当該VH鎖をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号5に示した。
また、クローンMA9-413のVL鎖のアミノ酸配列を配列番号6に示した。当該VL鎖のCDR1〜3のアミノ酸配列を配列番号7〜9に示した。すなわち、配列番号6に示すVL鎖のアミノ酸配列において、23番目〜35番目のアミノ酸配列がCDR1(配列番号7)、51番目〜57番目のアミノ酸配列がCDR2(配列番号8)、90番目〜96番目のアミノ酸配列がCDR3(配列番号9)に対応している。また、当該VL鎖をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号10に示した。
クローンMA9-418のVH鎖のアミノ酸配列を配列番号12に示した。当該VH鎖のCDR1〜3のアミノ酸配列を配列番号13〜15に示した。すなわち、配列番号12に示すVH鎖のアミノ酸配列において、31番目〜35番目のアミノ酸配列がCDR1(配列番号13)、50番目〜66番目のアミノ酸配列がCDR2(配列番号14)、99番目〜115番目のアミノ酸配列がCDR3(配列番号15)に対応している。また、当該VH鎖をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号16に示した。
また、クローンMA9-418のVL鎖のアミノ酸配列は、クローンMA9-413のVL鎖と同一である(配列番号6)。
クローンMA9-107のVH鎖のアミノ酸配列を配列番号18に示した。当該VH鎖のCDR1〜3のアミノ酸配列を配列番号19〜21に示した。すなわち、配列番号18に示すVH鎖のアミノ酸配列において、31番目〜35番目のアミノ酸配列がCDR1(配列番号19)、50番目〜66番目のアミノ酸配列がCDR2(配列番号20)、99番目〜115番目のアミノ酸配列がCDR3(配列番号21)に対応している。また、当該VH鎖をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号22に示した。
また、クローンMA9-107のVL鎖のアミノ酸配列は、クローンMA9-413のVL鎖と同一である(配列番号6)。
クローンHA9-143のVH鎖のアミノ酸配列を配列番号24に示した。当該VH鎖のCDR1〜3のアミノ酸配列を配列番号25〜27に示した。すなわち、配列番号24に示すVH鎖のアミノ酸配列において、31番目〜35番目のアミノ酸配列がCDR1(配列番号25)、50番目〜66番目のアミノ酸配列がCDR2(配列番号26)、99番目〜115番目のアミノ酸配列がCDR3(配列番号27)に対応している。また、当該VH鎖をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号28に示した。
また、クローンHA9-143のVL鎖のアミノ酸配列は、クローンMA9-413のVL鎖と同一である(配列番号6)。
クローンHA9-212のVH鎖のアミノ酸配列を配列番号30に示した。当該VH鎖のCDR1〜3のアミノ酸配列を配列番号31〜33に示した。すなわち、配列番号30に示すVH鎖のアミノ酸配列において、31番目〜35番目のアミノ酸配列がCDR1(配列番号31)、50番目〜66番目のアミノ酸配列がCDR2(配列番号32)、99番目〜115番目のアミノ酸配列がCDR3(配列番号33)に対応している。また、当該VH鎖をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号34に示した。
また、クローンHA9-212のVL鎖のアミノ酸配列は、クローンMA9-413のVL鎖と同一である(配列番号6)。
ヒトcDNA libraryを鋳型に用い、ヒトα9インテグリン遺伝子の主要ドメイン領域、及びヒトα5インテグリン遺伝子のシグナル配列領域をクローニングした。ヒトα5インテグリン遺伝子のシグナル配列領域とヒトα9インテグリン遺伝子の主要ドメイン領域を連結し、pcDNA3.1(-)ベクター(Invitrogen)に組み込んだ、ヒトα9発現ベクターを構築した。
マウス脾臓由来cDNAを鋳型に用い、マウスα4インテグリン遺伝子の全長をクローニングし、pcDNA3.1(+)ベクター(Invitrogen)に組み込み、マウスα4発現ベクターを構築した。
これらの各種インテグリン発現細胞を、以降のスクリーニングや評価に使用した。
J. D. Marks ら(J. Mol. Biol., 222: 581-597, 1991)により報告されている方法を参考にし、健常者20名由来末梢血由来リンパ球を出発材料とし、ファージライブラリーを構築した。構築したVH(γ)−Vκ、VH(γ)−Vλ、VH(μ)−Vκ、VH(μ)−Vλの各サブライブラリーはそれぞれ1.1×108、2.1×108、8.4×107、5.3×107クローンの多様性を有すると評価された。
以下の手順でα9に対する特異抗体の作製を行ったが、まずはマウスα9をターゲットとして機能阻害活性を有するモノクローナル抗体を構築し、マウスの病態モデル系を用いて薬効の有無を評価することとした。
まず親株であるCHO細胞を用いて、ファージディスプレイライブラリーのサブトラクションを行った後、CHO/mα9に反応させた。反応は1時間行い、1%BSA/PBSで3回洗浄した。
洗浄後の細胞画分を10mM HClで懸濁し、10分間インキュベートしてファージを溶出させた。溶出液を1M Tris-HCl (pH7.5)と混ぜて中和した後、TG1に感染させ、ファージを増幅させた。
このパンニングを4round行い、マウスα9に特異的に反応するファージクローンMA9-413を単離した。
MA9-413ファージ抗体のα9に対する反応性をCell ELISAにより解析した。
96ウェルプレート(costar)にCHO/mα9及びCHOを2×104cells/100μL/wellで播種し、37℃、5%CO2で一晩培養した。培地を吸引し、PBSで洗浄した後、1%BSA/PBSで希釈したファージ抗体を反応させた。検出は、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識抗M13抗体(Amersham)とTMB(SIGMA)を組み合わせて行った。波長450nm及び650nmにおける吸光度を、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices)を用いて測定した。その結果を図1に示す。MA9-413のα9特異的な反応性が確認されたため、以降の解析を行った。
単離したクローンのscFv遺伝子のVH及びVLのDNA塩基配列をCEQ DTCS Quick Start Kit(BECKMAN COULTER)を用いて決定した。得られたDNA塩基配列の情報をもとに、アミノ酸配列を推定した。
特異クローンMA9-413からプラスミドDNAを回収して、常法に従って大腸菌JM83を形質転換した。この大腸菌を2%グルコース及び100μg/mLのアンピシリンを含む2×YT培地で一夜前培養を行い、2%グルコース及び100μg/mLのアンピシリンを含むSB培地に一部移植して本培養を行った。対数増殖期に終濃度1mMになるようにIPTGを添加し、3時間培養してscFvの発現誘導を行った。培養終了後菌体を遠心回収し、20%Sucrose及び10mM EDTAを含む100mM Tris-HCl溶液(pH7.4)に懸濁して氷中で30分菌体を静置した。次いで8,900×gで30分間遠心し、上清を回収して0.45μmフィルター濾過後に得られた画分をペリプラズム画分とした。これを出発材料とし、SPカラムクロマトグラフィー(Amersham)またはRPAS Purification Module(Amersham)で常法に従ってscFvを精製し、得られた溶出画分をPBSで透析してscFv精製標品とした。
実施例6で調製したscFv精製品について、α9に対する反応性をCell ELISAにより解析した。検出にはHRP標識抗Etag抗体(Amersham)を用い、その他は実施例4と同様の条件で行った。その結果、図2に示すように、濃度依存的かつ特異的な反応性が確認された。
MA9-413 scFvがα9依存性の細胞接着を阻害しうるかを、以下の方法で評価した。
N末OPN改変体(RGD配列をRAAに改変したOPN変異体)をプレートに固定化し、ブロッキングを行った。MA9-413 scFv精製品を添加した後、続けてSW480/mα9を添加し、37℃で1時間インキュベートした。細胞をCrystal violetとメタノールを用いて固定・染色して、洗浄後、接着した細胞中の色素をTriton X-100で抽出し、波長595nmにおける吸光度を測定した。
その結果、図3に示すように、濃度依存的な抑制作用が認められ、MA9-413はマウスα9に対する機能阻害活性を有していることが確認された。
次に、本クローンを二価の抗体にすることで、より機能阻害活性が向上することを期待して、scFv-Fcの分子形態への変換を実施した。MA9-413のscFv遺伝子領域をPCR増幅し、マウスFc融合蛋白質発現ベクターのSalIサイト及びBamHIサイトに挿入することにより、図4に示すscFv-Fcの発現ベクターを構築した。本ベクターにおいては、細胞外への分泌発現を促すリーダー配列とscFv遺伝子、及びマウスIgG1のFc領域をコードする遺伝子が連結されており、その発現はCAGプロモーターにより制御されている。また本ベクターは、薬剤耐性遺伝子として、ネオマイシン耐性遺伝子とアンピシリン耐性遺伝子とを有している。
Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、構築したscFv-Fc発現ベクターをCHO-DG44株に遺伝子導入した。500μg/mLのネオマイシンと10%ウシ血清を含むα-MEM培地(Invitrogen)またはEX-CELL302培地(ニチレイバイオサイエンス)で培養を行い、培養上清を回収した。常法に従ってProtein Aカラムクロマトグラフィーでアフィニティー精製を行い、PBSで透析を行った。得られたscFv-Fc溶液を精製標品とした。
MA9-413 scFv-Fcのマウスα9及びヒトα9に対する反応性をCell ELISAにより解析した。抗原にはSW480/mα9、SW480/hα9及びSW480を、希釈液には5%FBSを含む1%BSA/PBSを、検出にはHRP標識抗マウスIgG抗体(ZYMED)を用い、その他は実施例4と同様の条件で行った。その結果、図5に示すように、マウスα9及びヒトα9に対する濃度依存的かつ特異的な反応性が確認された。一方、コントロールとして評価したY9A2抗体は、ヒトα9には反応したがマウスα9には全く反応性を示さなかった。この結果より、MA9-413はマウスα9とヒトα9のいずれをも認識しうるという、これまでに報告例のない新規な反応性を有する抗体クローンであることが確認された。
さらに、MA9-413 scFv-Fcの反応性についてフローサイトメトリーによる評価を行った。
MA9-413 scFv-FcをSW480、SW480/mα9及びSW480/hα9のそれぞれに対して反応させ、フローサイトメトリー解析を行ったところ、マウスα9及びヒトα9に対する反応性が確認された。また、CHO及びCHO/mα4のそれぞれに対しても同様にして反応性を評価したが、マウスα4に対する反応性は確認されなかった(図6)。これらの結果から、MA9-413 scFv-Fcはマウス及びヒトのα9に対して高い特異性をもって反応していることが確かめられた。
MA9-413 scFv-Fcがマウスα9及びヒトα9依存性の細胞接着を阻害しうるかを評価した。
まず、リガンドがOPNの場合の細胞接着について、SW480/mα9またはSW480/hα9を用い、その他は実施例8と同様の条件で行った。
また、リガンドがVCAM-1の場合の細胞接着について、以下の方法で評価した。
マウスVCAM-1/Fcをプレートに固定化し、ブロッキングを行った。細胞はSW480/mα9を用い、その他は実施例8と同様の条件で行った。
その結果、図7に示すように、いずれにおいても濃度依存的な抑制作用が認められ、MA9-413はマウスα9及びヒトのα9に対して機能阻害活性を有し、またリガンドがOPNの場合もVCAM-1の場合も同様に作用しうることが示された。
マウスα9及びヒトα9のいずれにも反応性を有し、いずれに対しても機能阻害活性を示すという、これまでに報告例のない性状を有するMA9-413について、エピトープを同定することを目的として、以下の解析を行った。
インテグリンファミリーのα鎖に共通する特徴として、細胞外領域N末端部分に位置するβプロペラドメインが、リガンドとの相互作用部位であると言われている(Science, 296, 151-155, 2002)。そこでまず、中和エピトープはこの領域内に存在するという仮説を立てた。
反応パターンのみならず、エピトープも新規な領域であることが分かったMA9-413のscFv-Fcについて、マウス関節炎モデルに対して薬効を示しうるかを検討した。
まず、代表的な関節炎モデルの一つであるマウスコラーゲン抗体誘導関節炎に対する効果を調べた。抗コラーゲン抗体カクテルをマウスに投与して、3日後にLPSを投与することにより、関節炎の発症を誘導した。LPS投与の当日と3日後に、MA9-413 scFv-Fcを500、170、56μg/headで、コントロールマウス抗体を500μg/headで腹腔内投与した(各群4〜8匹ずつ)。継時的にマウス全肢の腫脹の程度を観察・スコア化し、各群の平均値の推移をグラフ化したものを図11に示した。その結果、MA9-413 scFv-Fcの濃度依存的な関節炎抑制効果が認められた。500μg/head投与群の6日目のスコアにおいては、ポジティブコントロール群のプレドニゾロン投与群とほぼ同等にまで抑制されており、十分に強い薬効つまり抗炎症作用を有することが確認された。
次に、もう一つの代表的な関節炎モデルであるマウスコラーゲン誘導関節炎に対してもMA9-413 scFv-Fcが薬効を示すかを評価した。実施例15のコラーゲン抗体誘導関節炎では急性期の炎症反応が惹起されるのに対し、コラーゲン誘導関節炎では慢性的な炎症応答が引き起こされることが知られている。
ウシII型コラーゲンを3週間隔で2回マウスに投与することにより、関節炎の発症を誘導した。2回目の投与の4日後、6日後、8日後、10日後及び12日後にMA9-413 scFv-Fcを500、170、56μg/headで、コントロールマウス抗体を500μg/headで、ポジティブコントロールとしてエタネルセプトを500、150μg/headで腹腔内投与した(各群10匹ずつ)。継時的にマウス全肢の腫脹の程度を観察・スコア化し、各群の平均値の推移をグラフ化したものを図12に示した。その結果、MA9-413 scFv-Fcの濃度依存的な関節炎抑制効果が認められた。500μg/head投与群においては、ポジティブコントロール群のエタネルセプト500μg/head投与群を上回る抑制効果であり、十分に強い薬効を有することが確かめられた。
さらに、関節炎モデルにおける破骨細胞分化に対する効果を調べた。上記実施例15で使用したマウスコラーゲン抗体誘導関節炎において、関節炎を惹起するLPSの投与翌日のマウスの大腿骨より骨髄細胞を採取し、RANKL(最終濃度30ng/mL)およびM-CSF(最終濃度100ng/mL)を含んだαMEM培地にて培養することにより破骨細胞の分化を誘導した。培養交換は開始後3日目に1度行った。培養開始後7日目にTRAP(酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ)染色を行い、染色された細胞を破骨細胞として細胞数を計測した。なお、ネガティブコントロールとして、抗HBs抗体を使用した。その結果、関節炎を誘導したマウスの骨髄細胞にMA9-413を2μg/mL加えておくと破骨細胞への分化を強く抑制した(図13上)。また、LPS投与と同時にマウスにMA9-413 250μg/headを静脈内投与した翌日に採取した骨髄細胞を用いた場合においても破骨細胞の分化を抑制した(図13下)。
MA9-413はヒトα9よりもマウスα9に強く反応する抗体であるため、ヒトの関節炎への適用を目指すには、親和性が十分でない可能性が考えられる。そこで、MA9-413の分子改変による親和性の向上を試みた。多くの場合、抗体可変領域の内、抗原認識に最も強く寄与しているのはVHのCDR3領域である。MA9-413のVHのCDR3の配列は配列番号4に示した通りであるが、Tyrのクラスターが特徴的に配置されている。本クローンの可変領域について立体構造モデルを作製し解析した結果、108番目のTyr及び109番目のTyrが特に抗原結合面において突出して配置されている可能性が見出された。そこで、これらのTyrの抗原認識における役割を評価するため、108番目のTyrをAlaに置換した改変体scFv(以後、MA9-418と呼ぶ)及び109番目のTyrをAlaに置換した改変体scFv(以後、MA9-419と呼ぶ)の発現ベクターを、site-directed mutagenesis法により構築した。
それらのクローンについて実施例5と同様にDNA塩基配列を解析し、アミノ酸配列を推定した。クローンの配列を図14に示す。
上記のクローンMA9-418、HA9-107、HA9-143及びHA9-212について、プラスミドDNAの宿主を大腸菌株JM83に変えて、scFvの発現と精製を行った。大腸菌形質転換体を2%グルコース及び100μg/mLのアンピシリンを含む2×YT培地で培養を行い、対数増殖期に終濃度1mMになるようにIPTGを添加して一夜培養することにより、scFvの発現を誘導した。培養終了後菌体を回収し、20%Sucrose及び10mM EDTAを含む100mM Tris-HCl溶液(pH7.4)に懸濁して氷中で30分菌体を静置した。次いで8,900×gで30分間遠心し、上清を回収して0.45μmフィルター濾過後に得られた画分をペリプラズム画分とした。これを出発材料とし、RPASPurification Module(Amersham)で常法に従ってscFvを精製し、得られた溶出画分をPBSで透析してscFv精製標品とした。
MA9-418、HA9-107、HA9-143及びHA9-212についてscFv-Fc遺伝子の構築を、実施例9と同様にして行った。
scFv-Fcの発現は、フリースタイル293-F細胞(Invitrogen)を宿主とした一過性発現により行った。293フェクチン試薬(Invitrogen)を用いて遺伝子導入を行い、フリースタイル293発現培地(Invitrogen)で2〜3日培養後、培養上清を遠心及び0.22μmフィルター濾過により回収した。
精製はProtein Aカラムクロマトグラフィーを用いて常法に従って行った。PBS透析後に得られたscFv-Fc溶液を精製標品とした。
調製したscFv-Fc精製品のマウスα9及びヒトα9に対する反応性を、実施例11と同様にCell ELISAにより解析した。その結果、図16に示すように、MA9-413に比べてMA9-418、HA9-107、HA9-143及びHA9-212はヒトα9に対する反応性が向上していた。
MA9-418、HA9-107、HA9-143及びHA9-212がMA9-413と同様にα9のL1領域を認識しているかどうかを調べるために、以下の検討を行った。MA9-413のファージ抗体を一定濃度にして、実施例4と同様に行ったCell ELISAにおいて、各改変体のscFv-Fcを段階希釈してサンプルと同時に添加することにより、MA9-413のファージ抗体に対して競合阻害がかかるか否かを評価した。その結果、図17に示すように、濃度依存的に競合阻害がかかることが確認された。よって、MA9-418、HA9-107、HA9-143及びHA9-212についてもMA9-413と同様にα9のL1領域を認識していることが強く示唆された。
各改変体クローンのscFv-Fcについて、ヒトα9及びマウスα9依存性の細胞接着に対する阻害能を、実施例13と同様に評価した。表1にIC50値をまとめた。いずれの改変体クローンも、オリジナルのMA9-413と比較して、ヒトα9に対して強い阻害能を有することが確かめられた。特に、HA9-212については、MA9-413と比較して、約1000倍のヒトα9に対する阻害能を有していた。
ヒトα9に対して最も高い反応性を示したクローンHA9-212について、IgGの分子形態における反応性を検討した。IgGの遺伝子構築は以下の手順で行った。まず、HA9-212のVH遺伝子領域をPCR増幅し、ヒトH鎖発現ベクターのクローニングサイトに挿入した。本ベクターにおいては、細胞外への分泌発現を促すリーダー配列とVH遺伝子、及びヒトIgG1定常領域の遺伝子が連結されており、その発現はCAGプロモーターにより制御されている。また本ベクターは、薬剤耐性遺伝子として、ネオマイシン耐性遺伝子とアンピシリン耐性遺伝子とを有している。次に、MA9-212のVL遺伝子領域をPCR増幅し、ヒトL鎖発現ベクターのクローニングサイトに挿入した。本ベクターにおいては、細胞外への分泌発現を促すリーダー配列とVL遺伝子、及びヒトκ鎖定常領域の遺伝子が連結されており、その発現はCAGプロモーターにより制御されている。また本ベクターは、dhfr遺伝子とアンピシリン耐性遺伝子とを有している。
IgGの発現は、COS-7細胞及びフリースタイル293-F細胞(Invitrogen)を宿主とした一過性発現により行った。COS-7細胞に対してはLipofectamine2000(Invitrogen)を用いて、フリースタイル293-F細胞に対しては293フェクチン試薬(Invitrogen)を用いて遺伝子導入を行い、2〜3日培養後、培養上清を遠心及び0.22μmフィルター濾過により回収した。
培養上清中のIgG発現量をヒトIgG定量ELISAにより定量し、各IgG濃度におけるヒトα9及びマウスα9に対する反応性をCell ELISAにより解析した。検出にはHRP標識抗ヒトIgG(Fc)抗体(American Qualex)を用い、その他は実施例11と同様の条件で行った。その結果、図18に示すように、ヒトα9及びマウスα9に対する濃度依存的かつ特異的な反応性が確認され、特にヒトα9に対しては強い反応性を示した。この結果より、HA9-212はIgGの分子形態においてもα9に対する反応性を示すことが確認された。
本出願は、日本で出願された特願2007−340203(出願日:平成19年12月28日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。
Claims (16)
- ヒトα9インテグリン及びマウスα9インテグリンを認識し、該α9インテグリンとそれらのリガンドとの相互作用を阻害する、ヒト抗α9インテグリン抗体または抗体フラグメント。
- ヒトα9インテグリン(配列番号36)の104番目のArgから122番目のAspまでの領域が主として構成するエピトープ、及びマウスα9インテグリン(配列番号37)の105番目のArgから123番目のAspまでの領域が主として構成するエピトープを認識する、請求項1に記載の抗体または抗体フラグメント。
- 以下の配列番号に各々示されるアミノ酸配列からなる(a)重鎖相補性決定領域及び(b)軽鎖相補性決定領域(CDR1、CDR2、CDR3)を有する、請求項1または2に記載の抗体または抗体フラグメント。
(a)重鎖相補性決定領域CDR1、CDR2、CDR3
配列番号2、配列番号3、配列番号4;
配列番号13、配列番号14、配列番号15;
配列番号19、配列番号20、配列番号21;
配列番号25、配列番号26、配列番号27;または
配列番号31、配列番号32、配列番号33;
(b)軽鎖相補性決定領域CDR1、CDR2、CDR3
配列番号7、配列番号8、配列番号9 - 配列番号31、配列番号32、配列番号33に各々示されるアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域CDR1、CDR2、CDR3を有する、請求項3に記載の抗体または抗体フラグメント。
- 配列番号1、配列番号12、配列番号18、配列番号24、配列番号30のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する、請求項1または2に記載の抗体または抗体フラグメント。
- 配列番号30に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を有する、請求項5に記載の抗体または抗体フラグメント。
- 当該抗体が、完全抗体である請求項1から6のいずれかに記載のヒト抗α9インテグリン抗体。
- 当該抗体フラグメントが、scFvまたはscFv-Fcである請求項1から6のいずれかに記載のヒト抗α9インテグリン抗体フラグメント。
- 請求項1から8のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメントをコードする遺伝子。
- 請求項9に記載の遺伝子を含む組換え発現ベクター。
- 請求項9に記載の遺伝子が導入された形質転換体。
- 請求項9に記載の遺伝子を宿主に発現させることによって、ヒト抗α9インテグリン抗体または抗体フラグメントを生産する方法。
- 請求項1から8のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメントを含む、関節リウマチの予防または治療剤。
- 請求項1から8のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメントの治療有効量を対象に投与する工程を包含する、当該対象における関節リウマチを予防または治療する方法。
- 関節リウマチの予防または治療剤の製造における、請求項1から8のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメントの使用。
- 関節リウマチを予防または治療するための、請求項1から8のいずれかに記載の抗体または抗体フラグメント。
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