本発明は、プラズマディスプレイパネルに係り、特に、前面フィルタを配置したプラズマディスプレイパネルに関する。
プラズマディスプレイ(plasma display)やCRTディスプレイ(cathode-ray tube display)などの自発光型ディスプレイは、視野角の依存性が無く自然な映像が得られることから、広く使用されている。特にプラズマディスプレイは、薄型であり、かつ大画面を構成するのに最適であることから、急速に普及が進んでいる。
ところが、プラズマディスプレイを含む各種ディスプレイ装置では、表示映像の視認性を低下させる映り込みが問題とされることが多い。ディスプレイ装置の映り込みは、室内の蛍光灯の光や観察者などの像が、表示部よりも映像を観察する者が位置する側(以下「観察者側」という)にある複数のフラットな平面に外光として入射し、その平面で正反射することに起因する。
そこで、映り込みの防止作用(防眩作用)を有するフィルタが、従来提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載のフィルタは、微粒子の凝集部を点在させて最表面に凹凸形状を形成している。このフィルタをディスプレイ装置の観察者側に配置することにより、外光をフィルタの最表面において拡散反射させることができ、映り込みを改善することができる。以下、防眩作用を有し、ディスプレイ装置の観察者側に配置されるフィルタを、「前面フィルタ」という。
特開2005−316450号公報
しかしながら、特許文献1記載の前面フィルタをプラズマディスプレイパネルに用いた場合、液晶ディスプレイに比べて、本来の映像光が不鮮明になる度合いが強いという問題がある。なぜなら、プラズマディスプレイパネルは、液晶ディスプレイと比較して、映像光を出力する背面板から前面フィルタ最表面までの距離が長く、映像光が前面フィルタの最表面を透過するときの拡散による鮮鋭度の低下の度合いがより大きくなるためである。
また、プラズマディスプレイパネルの内部に進入した外光が前面板表面などで正反射することにより発生する映り込みについては、抑制が難しいという問題がある。なぜなら、前面フィルタの最表面の粗さの度合いに対する屈折光の感度は反射光のそれに比べて弱いためである。すなわち、内部反射による映り込みを改善するために最表面を粗くしようとすると、表面拡散が増大して映像光のコントラストが低下するためである。
したがって、特許文献1記載の前面フィルタを用いたプラズマディスプレイパネルでは、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することが難しい。
本発明の目的は、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することができるプラズマディスプレイパネルを提供することである。
本発明のプラズマディスプレイパネルは、互いに離隔して配置される前面板および背面板と、前記前面板と前記背面板との間に形成される放電空間を区画する隔壁と、前記隔壁により区画された放電セル内に形成される蛍光体層と、前記前面板および前記背面板にそれぞれ配列され、前記放電セル内で放電を発生させる電極と、前記前面板の観察者側に配置される前面フィルタと、を備えるプラズマディスプレイパネルにおいて、前記前面フィルタは、観察者側に屈折率の異なる少なくとも2層の樹脂層を備え、観察者側の表面および前記2層の樹脂層の界面に微細な凹凸をそれぞれ有する構成を採る。
本発明によれば、パネル内部に進入した外光を樹脂層の界面で内部拡散させることができるため、前面フィルタの表面の粗さを抑えて、映り込みの改善を図ることができる。しかも、界面における拡散の作用を、映像光よりもパネル内部に進入した外光に対してより強く与えることができる。これにより、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することができる。
本発明の一実施の形態に係るプラズマディスプレイパネルの概略部分断面図
本実施の形態における拡散条件のコントロールの基準となる距離を説明するための図
本実施の形態における映像光の鮮鋭度の許容最小値を定めたときの空気換算距離と前面フィルタの拡散条件との関係を示す図
本実施の形態における拡散条件を変化させたときの反射MTFの変化を示す第1の図
本実施の形態における拡散条件を変化させたときの反射MTFの変化を示す第2の図
本実施の形態における拡散条件を変化させたときの反射MTFの変化を示す第3の図
本実施の形態における外光の映り込みの許容最大値を定めたときのRaS/PSとRaI/PIとの関係を示す図
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るプラズマディスプレイパネルの概略部分断面図である。図1では、本実施の形態に係るプラズマディスプレイパネルの特徴的な構成を示しており、その他の部分については図示および説明を一部省略する。
図1に示すように、プラズマディスプレイパネル10は、互いに離隔して配置された背面板100、前面板200、および前面フィルタ300を、この順に平行に重ねて構成される。背面板100と前面板200との間の空間には、プラズマ放電を発生させる放電空間が形成されている。放電空間には、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)、アルゴン(Ar)などを混合した所定の放電ガスが封入されている。
背面板100には、絶縁体層で覆われたデータ電極(図示せず)と、データ電極と平行に配置されたストライプ状の複数の隔壁110とが形成されている。上記した放電空間は、隔壁110により複数の区画に仕切られており、単位発光領域となる複数の放電セル120を形成している。隣接する3つの放電セル120の内壁には、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各蛍光体が放電セル毎に色分け塗布され、蛍光体層130が形成されている。
前面板200には、電極、誘電体層、および保護膜などの、プラズマディスプレイパネルとしての機能を実現するための各種構成要素(図示せず)が、それぞれ適切な位置に形成されている。例えば、前面板200には、図示しないが、走査電極と維持電極とで対をなすストライプ状の表示電極が複数形成されている。また、前面板200には、表示電極を覆うように、誘電体層が形成されている。更に、前面板200には、誘電体層上に、保護層が形成されている。誘電体層は、例えば、低融点ガラスから成る。保護層は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)から成る。
前面フィルタ300は、例えば、ガラスから成る透明板310を基材とし、透明板310に、電磁波遮断フィルタ、赤外線カットフィルタ、および色調整フィルタ(いずれも図示せず)を積層して構成される。前面フィルタ300は、更に、透明板310の観察者側に、防眩層として、それぞれ樹脂で構成された第1の樹脂層320および第2の樹脂層330を積層して構成される。第1の樹脂層320は、最も観察者側に配置されている。第2の樹脂層330は、第1の樹脂層320に密着して配置されている。
前面フィルタ300は、観察者側の表面、つまり第1の樹脂層320の空気界面として、微細な凹凸を構成している表面凹凸面340を有する。また、前面フィルタ300は、第1の樹脂層320と第2の樹脂層330との界面として、微細な凹凸を構成している界面凹凸面350を有する。また、第1の樹脂層320の素材および第2の樹脂層330の素材として、その屈折率差が0.01〜0.03となる物質がそれぞれ用いられている。
このように構成されたプラズマディスプレイパネル10において、電極間に電圧が印加されると、放電セル120に放電が発生し、例えば、混合ガス中のヘリウム原子が励起されて紫外線を発生する。そして、この紫外線によって蛍光体層130が励起され、可視光が発生する。
映り込みの原因となる外光(以下単に「外光」という)の一部は、表面凹凸面340で反射する。
表面凹凸面340での反射は、微細な凹凸構造によって乱反射となり、その結果、映り込みは低減する。すなわち、表面凹凸面340での反射による映り込みの程度は、表面凹凸面340が反射光に対して作用する拡散の程度によって決まる。
一方、表面凹凸面340で反射せずにパネル内部に進入した外光(以下「進入光」という)の大部分は、透明板310の前面板200側の空気界面360で反射する。進入光は界面凹凸面350にも入射するが、界面凹凸面350ではほとんど反射しない。なぜなら、第1の樹脂層320と第2の樹脂層330との屈折率差は小さいためである。すなわち、界面凹凸面350の反射率は少なく、界面凹凸面350では屈折作用が主体的になるためである。
進入光は、空気界面360で反射する前に、表面凹凸面340と界面凹凸面350とで屈折する。進入光は、更に、空気界面360で反射した後にも、界面凹凸面350と表面凹凸面340とで屈折する。したがって、空気界面360で反射する進入光は、個々の屈折作用は小さいものの、その作用が累積することにより、十分に散乱して、観察者方向に戻ることになる。すなわち、空気界面360での反射による映り込みの程度は、表面凹凸面340が進入光に対して作用する拡散の程度と、界面凹凸面350が進入光に対して作用する拡散の程度とによって決まる。
空気界面360での反射による映り込みを低減するためには、表面凹凸面340が進入光に対して作用する屈折による拡散(以下「屈折拡散」という)の程度と、界面凹凸面350が進入光に対して作用する屈折拡散の程度とを大きくしなければならない。ところが、表面凹凸面340が作用する屈折拡散の程度を大きくすると、表面拡散が増大し、映像光のコントラスト低下も大きくなる。したがって、表面凹凸面340が作用する屈折拡散の程度をあまり大きくすることは好ましくない。
本発明者は、従来のプラズマディスプレイパネルの前面フィルタの表面において、表面拡散は主に映り込みの程度に影響しており、界面拡散は主に映像光の鮮鋭度に影響していることに気が付いた。このことから、本発明者は、前面フィルタの表面における正反射を減らす手段として主に表面拡散を利用し、前面フィルタの裏面における正反射を減らす手段として主に界面拡散を利用することで、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの維持とを両立できることを見出した。
そこで、本実施の形態に係るプラズマディスプレイパネル10では、表面凹凸面340における屈折拡散の程度を制限し、その代わりに、界面凹凸面350における屈折拡散を利用する。これにより、前面フィルタ300表面の粗さを抑えて、映り込みの改善を図ることができる。
ただし、映像光の鮮鋭度は、表示部と拡散面との距離、つまり背面板100と表面凹凸面340との距離に影響される。したがって、この距離に応じて、表面凹凸面340が反射光に対して作用する拡散(以下「反射拡散」という)の程度と、表面凹凸面340の屈折拡散の程度と、界面凹凸面350の屈折拡散の程度とを適切にコントロールする必要がある。ここでは、表面凹凸面340の反射拡散の程度および屈折拡散の程度ならびに界面凹凸面350の屈折拡散の程度を、「拡散条件」と総称する。
以下、プラズマディスプレイパネル10における拡散条件のコントロールについて説明する。
まず、拡散条件のコントロールの基準となる距離について説明する。
図2は、拡散条件のコントロールの基準となる距離を説明するための図であり、図1に対応するものである。
ここでは、図2に示すように、拡散条件のコントロールの基準となる距離Lを、プラズマディスプレイパネル10の表示部である蛍光体層130から、前面フィルタ300の表面凹凸面340までの距離と定義する。ただし、距離Lは、蛍光体層130から表面凹凸面340までの区間を構成する物質について、各物質が占める長さをそれぞれの物質の屈折率で割った値の積算値である(以下「空気換算距離」という)。例えば、屈折率1.5のガラスの1mmと、屈折率1.0の空気の1mmとを合わせたときの空気換算距離は、1/1.5+1/1=1.67と算出することができる。
蛍光体からの映像光は、拡散しながら観察者側へ進み、観察者によって観察される。映像光は、界面凹凸面350および表面凹凸面340を透過するときに拡散作用を受けるため、観察者によって観察される映像の鮮鋭度は、本来の映像に比べて劣化する。鮮鋭度の劣化は、空気換算距離Lが長いほど大きくなる。これは、次のように説明することができる。光源と観察者の間に存在する拡散面のうち、光源からの光の透過領域は、二次光源として取り扱うことができる。通常、光源の光は四方八方に出射されるため、二次光源の大きさは拡散面と光源との距離が長いほど大きくなる。また、通常、二次光源の大きさが大きいほど、光源の像の鮮鋭度は低下する。
次に、観測者側で観測される映像光の鮮鋭度を維持するための拡散条件について説明する。
ここで、観測者側で観測される映像光の鮮鋭度を表わす指標として、MTF(modulation transfer function)を採用する。MTFは、元の映像の鮮鋭度をどの程度再現できるかを示す評価関数である。ここで、特に、映像光が前面フィルタ300を透過する際のMTFを、「透過MTF」と表記する。
ディスプレイ装置の映像で再現すべき最も高い空間周波数は、表示素子のピッチに依存し、40インチ前後のプラズマディスプレイパネルでは、約0.6lp/mm(ラインペア パー ミリメートル)である。また、映像光の鮮鋭度として許容される透過MTFの下限値は、0.7である。したがって、許容される映像光の鮮鋭度の最小値として、空間周波数0.6lp/mmにおいて、透過MTF=0.7を採用する。透過MTFが0.7以上の場合に、映像光の鮮鋭度が維持されているとみなすことができる。
なお、例えば、42インチのプラズマディスプレイパネルの前面に、通常と同じ距離を離して0.6lp/mmにおいて透過MTF=0.7の前面フィルタを配置した場合、正面方向から観察したときには問題は無いが、斜め方向から観察したときには映像の鮮鋭度の低下が認識される。これは、観察する光路に沿って測ったときの前面フィルタから蛍光体層までの距離が、正面方向から観察する場合よりも、斜め方向から観察する場合のほうが大きくなり、その結果、斜め方向における見かけ上の透過MTFが0.7よりも小さくなるためである。したがって、本実施の形態では、前面フィルタ300の透過MTFを0.7としているが、観察者が映像を観察し得る斜め方向からの角度においても、透過MTF0.7以上を確保できることが望ましい。
また、反射拡散の程度および屈折拡散の程度は凹凸の微細部分の傾斜角に比例することから、前面フィルタ300の拡散条件を示す特性値として、可視光を照射したときの全透過光に対する拡散透過光の割合を示すヘイズ値(haze factor)を採用する。前面フィルタ300全体のヘイズ値は、表面凹凸面340および界面凹凸面350のそれぞれの屈折拡散の程度で決まる。
図3は、観測者側で観測される映像光の鮮鋭度の許容最小値を定めたときの、空気換算距離Lと前面フィルタ300の拡散条件との関係を示す図である。
図3において、横軸は図2で説明した空気換算距離Lをミリメートル(mm)単位で示し、縦軸は前面フィルタ300のヘイズ値をパーセント(%)単位で示している。また、四角で表されるポイント群410は、実験により得られた、空間周波数0.6lp/mmで透過MTF=0.7となる、空気換算距離Lと前面フィルタのヘイズ値HZとの組み合わせをプロットしたものである。そして、三角で表されるポイント群420は、実験により得られた、空間周波数0.6lp/mmで透過MTF=0.95となる、空気換算距離Lと前面フィルタのヘイズ値HZとの組み合わせをプロットしたものである。透過MTFは、値「1」に近ければ近いほど拡散の度合いが低く、映像光の先鋭度を高く維持できることを示す。
前面フィルタ300のヘイズ値HZは、空気換算距離Lがゼロのときは無限大になる。また、前面フィルタ300の透過MTFは、ヘイズ値HZがゼロのときには空気換算距離Lが無限大でも低下しない。また、回帰曲線は、相関係数の二乗が0.7を超える場合に、十分に高い精度とみなすことができる。これらのことから、ヘイズ値HZを1/Lの多項式で表わすことができると仮定し、ポイント群410の回帰曲線を、相関係数の二乗が0.7を超える最も次数の低い多項式近似で求めると、次の式(1)となる。
式(1)を表したものが、曲線430である。すなわち、曲線430は、空間周波数0.6lp/mmで透過MTF=0.7となる拡散条件の等高線を表している。曲線430は、空気換算距離Lが短いほど高いヘイズ値を採り、空気換算距離Lの増加に伴って二次曲線的に減少する。したがって、空気換算距離Lが大きくなるような構造をとった場合に、透過MTFを0.7に維持して映像光の鮮鋭度を維持するためには、前面フィルタ300のヘイズ値を小さくする必要がある。
また、同様に、ポイント群420の回帰曲線を求めると、次の式(2)で示される。
式(2)を表したものが、曲線440である。すなわち、曲線440は、空間周波数0.6lp/mmで透過MTF=0.95となる拡散条件の等高線を表している。
曲線440は、曲線430と交差することなく、曲線430の左下側に位置している。また、例えば、ヘイズ値HZまたは空気換算距離Lの一方の値を固定して他方の値を減少させたときには、当然に、透過MTFは増加する。すなわち、図中において、曲線430よりも左側または下側は、透過MTFが0.7よりも高く、映像光の鮮鋭度が維持されているとみなすことができる領域である。また、曲線430より右側または上側は、透過MTFが0.7よりも低く、映像光の鮮鋭度が維持されていないとみなすことができる領域である。
したがって、映像光の鮮鋭度が維持されるのは、前面フィルタ300のヘイズ値HZが次の式(3)を満足する場合である。
式(3)を満たすように前面フィルタ300を構成することで、映像光の鮮鋭度の低下を防ぐことができる。すなわち、式(3)は、映像光の鮮鋭度向上の観点から、表示部から表面凹凸面340までの空気換算距離Lに応じて前面フィルタ300のヘイズ値HZの最大値を規定するものである。前面フィルタ300のヘイズ値HZが式(1)により規定される最大値を超えると、映像光の鮮鋭度が低下し、ディスプレイとして好ましくない。
次に、映り込みを低減し、かつ観測者側で観測される映像光のコントラストを維持するための拡散条件について説明する。
ここで、映り込みの程度および観測者側で観測される映像光のコントラストの指標として、MTFを採用する。ここで、特に、外光が前面フィルタ300で反射する際のMTFを、「反射MTF」と表記する。
ディスプレイ装置の映り込みにおいて映像の視認性に最も影響を及ぼす空間周波数は、周囲環境に依存し、一般的には約0.06lp/mmである。また、映り込みの程度として許容される反射MTFの上限値は、0.3である。したがって、許容される映り込みの程度の最大値として、空間周波数0.06lp/mmにおいて、反射MTF=0.3を採用する。反射MTFが0.3以下の場合に、映り込みは許容範囲内であるとみなすことができる。
また、各面の拡散条件を示す特性値として、その面の三次元形状により算出される表面粗さRa(中心点平均粗さ)を凹凸の平均ピッチで除した値を採用する。
図4は、界面凹凸面350の表面粗さ/平均ピッチは変化させず、表面凹凸面340の表面粗さ/平均ピッチを変化させたときの、反射MTFの変化を示す図である。以下、界面凹凸面350の表面粗さを「RaI」と表記し、平均ピッチを「PI」と表記し、表面凹凸面340の表面粗さを「RaS」と表記し、平均ピッチを「PS」と表記する。
図4に示すように、反射MTFは、表面凹凸面340のRaS/PSの値が低いときには、反射MTFは値「1」に近い値を採り、RaS/PSの値が増加するに従って減少していく。すなわち、RaS/PSの値が大きければ大きいほど、映り込みが少なくなる。例えば、RaS/PSが0.0009以上で、反射MTFが0.3以下となる。
図5は、界面凹凸面350のRaI/PIと表面凹凸面340のRaS/PSとを比例的に変化させたときの、反射MTFの変化を示す図である。
図5に示すように、RaI/PIおよびRaS/PSの値の増加に従って、反射MTFも減少していく。
図6は、表面凹凸面340のRaS/PSは変化させず、界面凹凸面350のRaI/PIを変化させたときの、反射MTFの変化を示す図である。
図6に示すように、RaI/PI=0.016付近までは、RaI/PIの値の増加に伴って、反射MTFも減少していく。
図7は、外光の映り込みの許容最大値を定めたときの、表面凹凸面340のRaS/PSと界面凹凸面350のRaI/PIとの関係を示す図である。
図7において、図4〜図6で採用した拡散条件を、それぞれライン610〜630として示している。図中、菱形で表わされるポイント群640は、空間周波数0.06lp/mmで反射MTF=0.3となるRaS/PSとRaI/PIとの組み合わせをプロットしたものである。反射MTFは、値「1」に近ければ近いほど拡散の度合いが低く、コントラストを高く維持できることを示す。
反射MTFの値は、表面凹凸面340での反射と空気界面360での反射の重ね合わせの結果として得られる。したがって、RaS/PSの値が小さい場合、RaI/PIの値をいくら大きくしても一定値よりも小さくすることはできない。また、表面凹凸面340での反射はRaI/PIに無関係であるが、空気界面360での反射はRaS/PSとRaI/PIとの両方に関係する。すなわち、表面凹凸面340での反射拡散の度合いが低ければ、空気界面360での反射光がいくら拡散されても反射MTFの値を一定値よりも低くすることはできず、反射MTF=0.3において、RaS/PSの値がゼロのとき、RaI/PIの値は無限大となる。これらのことから、RaS/PSをRaI/PIの多項式で表わすことができると仮定し、ポイント群640の回帰曲線を、相関係数の二乗が0.7を超える最も次数の低い多項式近似で求めると、次の式(4)となる。
式(4)を示したものが、曲線650である。すなわち、曲線650は、空間周波数0.06lp/mmでの反射MTF=0.3の等高線を表わしている。
曲線650から、反射MTF=0.3付近では、反射MTFの値、つまり映り込みの強さは、界面凹凸面350のRaI/PIの値の変化よりも、表面凹凸面340のRaS/PSの変化により強い影響を受けることが分かる。図中において、曲線650よりも右側または上側は、反射MTFが0.3よりも低く、映り込みが許容範囲内であるとみなすことができる領域である。また、曲線650よりも左側または下側は、反射MTFが0.3よりも高く、映り込みが許容範囲外であるとみなすことができる領域である。
したがって、映り込みが許容範囲内となるのは、界面凹凸面350のRaI/PIに対して、表面凹凸面340のRaS/PSが次の式(5)を満足する場合である。
式(5)を満たすように前面フィルタ300を構成することで、映り込みを許容範囲内とすることができる。すなわち、式(5)は、映り込みの改善の観点から、表面拡散の許容範囲を内部拡散の程度との関係を規定するものである。表面凹凸面340のRaS/PSが式(5)で規定される下限を下回ると、映り込みの改善効果が少なくなる。
一方で、表面凹凸面340のRaS/PSの値が高くなると、映像のコントラストの低下を招く。これは、RaS/PSが、いわば表面の凹凸の山の高さを山の底辺の長さで割ったものであって山の傾きに関係する値であり、山の傾きが大きければ大きいほど、大きな入射角で入射した外光が山の傾斜面で反射して正面の観察者に到達し易くなるためである。映像のコントラストとして許容されるRaS/PSの上限値は、0.003である。したがって、RaS/PSの値は、次の式(6)をも満足することが望ましい。
式(6)を満たすように前面フィルタ300を構成することで、外光が入射したときのコントラスト低下を低減することができる。RaS/PSの値が式(6)の上限を超えると、外光に対するコントラストの低下が大きくなる。すなわち、式(6)は、コントラスト向上の観点から、表面凹凸面340のRaS/PSの範囲を規定するものである。
上記の式(3)、式(5)、および式(6)を満たすように、プラズマディスプレイパネル10の拡散条件を決定し、決定した拡散条件に従ってプラズマディスプレイパネル10を構成することにより、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することができる。
以上説明したように、本実施の形態に係るプラズマディスプレイパネル10によれば、前面フィルタ300は、観察者側に屈折率の異なる第1の樹脂層320および第2の樹脂層330を有し、観察者側の表面にだけでなく、第1の樹脂層320と第2の樹脂層330との界面に微細な凹凸を有する。これにより、パネル内部に進入した外光を、表面でのみならず、樹脂層の界面で内部拡散させることができ、前面フィルタ300の表面の粗さを抑えて、映り込みを抑制することができる。しかも、映像光は界面を1回のみ透過するのに対し、進入光は界面を往復で2回透過するので、界面における拡散の作用を、映像光よりもパネル内部に進入した外光に対してより強く与えることができる。すなわち、映像光の鮮鋭度およびコントラストの低下を抑えた状態で映り込みを抑制することができ、明るい場所にプラズマディスプレイパネル10を設置する場合でも、映り込みを気にすることなく鮮鋭度の高い映像を提供することができる。
また、映り込みの程度、映像光の鮮鋭度、および映像光のコントラストの許容範囲に基づいて決定される拡散条件に従ってプラズマディスプレイパネル10を構成するので、映り込みの程度、映像光の鮮鋭度、および映像光のコントラストを許容範囲に収めることができる。また、拡散条件は、各特性値を用いた数式で特定されているので、プラズマディスプレイパネル10を特定した条件を満たすように容易に設計することができる。
なお、映り込みの程度、映像光の鮮鋭度、および映像光のコントラストの許容範囲として本実施の形態で記述した値は一例であり、上記許容範囲をなんら制限するものではない。プラズマディスプレイパネルのサイズ、解像度、使用場所、使用環境などに応じて、透過および反射のそれぞれにおける空間周波数およびMTFに、様々な値を採用することができる。この場合には、図2〜図7で説明した手法により、プラズマディスプレイパネルの拡散条件をコントロールすればよい。
2007年11月27日出願の特願2007−306145の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
本発明に係るプラズマディスプレイパネルは、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することができるプラズマディスプレイパネルとして有用である。
本発明は、プラズマディスプレイパネルに係り、特に、前面フィルタを配置したプラズマディスプレイパネルに関する。
プラズマディスプレイ(plasma display)やCRTディスプレイ(cathode-ray tube display)などの自発光型ディスプレイは、視野角の依存性が無く自然な映像が得られることから、広く使用されている。特にプラズマディスプレイは、薄型であり、かつ大画面を構成するのに最適であることから、急速に普及が進んでいる。
ところが、プラズマディスプレイを含む各種ディスプレイ装置では、表示映像の視認性を低下させる映り込みが問題とされることが多い。ディスプレイ装置の映り込みは、室内の蛍光灯の光や観察者などの像が、表示部よりも映像を観察する者が位置する側(以下「観察者側」という)にある複数のフラットな平面に外光として入射し、その平面で正反射することに起因する。
そこで、映り込みの防止作用(防眩作用)を有するフィルタが、従来提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載のフィルタは、微粒子の凝集部を点在させて最表面に凹凸形状を形成している。このフィルタをディスプレイ装置の観察者側に配置することにより、外光をフィルタの最表面において拡散反射させることができ、映り込みを改善することができる。以下、防眩作用を有し、ディスプレイ装置の観察者側に配置されるフィルタを、「前面フィルタ」という。
特開2005−316450号公報
しかしながら、特許文献1記載の前面フィルタをプラズマディスプレイパネルに用いた場合、液晶ディスプレイに比べて、本来の映像光が不鮮明になる度合いが強いという問題がある。なぜなら、プラズマディスプレイパネルは、液晶ディスプレイと比較して、映像光を出力する背面板から前面フィルタ最表面までの距離が長く、映像光が前面フィルタの最表面を透過するときの拡散による鮮鋭度の低下の度合いがより大きくなるためである。
また、プラズマディスプレイパネルの内部に進入した外光が前面板表面などで正反射することにより発生する映り込みについては、抑制が難しいという問題がある。なぜなら、前面フィルタの最表面の粗さの度合いに対する屈折光の感度は反射光のそれに比べて弱いためである。すなわち、内部反射による映り込みを改善するために最表面を粗くしようとすると、表面拡散が増大して映像光のコントラストが低下するためである。
したがって、特許文献1記載の前面フィルタを用いたプラズマディスプレイパネルでは、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することが難しい。
本発明の目的は、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することができるプラズマディスプレイパネルを提供することである。
本発明のプラズマディスプレイパネルは、互いに離隔して配置される前面板および背面板と、前記前面板と前記背面板との間に形成される放電空間を区画する隔壁と、前記隔壁により区画された放電セル内に形成される蛍光体層と、前記前面板および前記背面板にそれぞれ配列され、前記放電セル内で放電を発生させる電極と、前記前面板の観察者側に配置される前面フィルタと、を備えるプラズマディスプレイパネルにおいて、前記前面フィルタは、観察者側に屈折率の異なる少なくとも2層の樹脂層を備え、観察者側の表面および前記2層の樹脂層の界面に微細な凹凸をそれぞれ有
し、前記前面フィルタのヘイズ値をHZとし、前記蛍光体層から前記前面フィルタの観察者側の表面までの区間を構成する物質について各物質が占める長さをそれぞれの物質の屈折率で割った値の積算値である空気換算距離をLとするとき、次の式を満足する。
本発明によれば、パネル内部に進入した外光を樹脂層の界面で内部拡散させることができるため、前面フィルタの表面の粗さを抑えて、映り込みの改善を図ることができる。しかも、界面における拡散の作用を、映像光よりもパネル内部に進入した外光に対してより強く与えることができる。これにより、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することができる。
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るプラズマディスプレイパネルの概略部分断面図である。図1では、本実施の形態に係るプラズマディスプレイパネルの特徴的な構成を示しており、その他の部分については図示および説明を一部省略する。
図1に示すように、プラズマディスプレイパネル10は、互いに離隔して配置された背面板100、前面板200、および前面フィルタ300を、この順に平行に重ねて構成される。背面板100と前面板200との間の空間には、プラズマ放電を発生させる放電空間が形成されている。放電空間には、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)、アルゴン(Ar)などを混合した所定の放電ガスが封入されている。
背面板100には、絶縁体層で覆われたデータ電極(図示せず)と、データ電極と平行に配置されたストライプ状の複数の隔壁110とが形成されている。上記した放電空間は、隔壁110により複数の区画に仕切られており、単位発光領域となる複数の放電セル120を形成している。隣接する3つの放電セル120の内壁には、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各蛍光体が放電セル毎に色分け塗布され、蛍光体層130が形成されている。
前面板200には、電極、誘電体層、および保護膜などの、プラズマディスプレイパネルとしての機能を実現するための各種構成要素(図示せず)が、それぞれ適切な位置に形成されている。例えば、前面板200には、図示しないが、走査電極と維持電極とで対をなすストライプ状の表示電極が複数形成されている。また、前面板200には、表示電極を覆うように、誘電体層が形成されている。更に、前面板200には、誘電体層上に、保護層が形成されている。誘電体層は、例えば、低融点ガラスから成る。保護層は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)から成る。
前面フィルタ300は、例えば、ガラスから成る透明板310を基材とし、透明板310に、電磁波遮断フィルタ、赤外線カットフィルタ、および色調整フィルタ(いずれも図示せず)を積層して構成される。前面フィルタ300は、更に、透明板310の観察者側に、防眩層として、それぞれ樹脂で構成された第1の樹脂層320および第2の樹脂層330を積層して構成される。第1の樹脂層320は、最も観察者側に配置されている。第2の樹脂層330は、第1の樹脂層320に密着して配置されている。
前面フィルタ300は、観察者側の表面、つまり第1の樹脂層320の空気界面として、微細な凹凸を構成している表面凹凸面340を有する。また、前面フィルタ300は、第1の樹脂層320と第2の樹脂層330との界面として、微細な凹凸を構成している界面凹凸面350を有する。また、第1の樹脂層320の素材および第2の樹脂層330の素材として、その屈折率差が0.01〜0.03となる物質がそれぞれ用いられている。
このように構成されたプラズマディスプレイパネル10において、電極間に電圧が印加されると、放電セル120に放電が発生し、例えば、混合ガス中のヘリウム原子が励起されて紫外線を発生する。そして、この紫外線によって蛍光体層130が励起され、可視光が発生する。
映り込みの原因となる外光(以下単に「外光」という)の一部は、表面凹凸面340で反射する。
表面凹凸面340での反射は、微細な凹凸構造によって乱反射となり、その結果、映り込みは低減する。すなわち、表面凹凸面340での反射による映り込みの程度は、表面凹凸面340が反射光に対して作用する拡散の程度によって決まる。
一方、表面凹凸面340で反射せずにパネル内部に進入した外光(以下「進入光」という)の大部分は、透明板310の前面板200側の空気界面360で反射する。進入光は界面凹凸面350にも入射するが、界面凹凸面350ではほとんど反射しない。なぜなら、第1の樹脂層320と第2の樹脂層330との屈折率差は小さいためである。すなわち、界面凹凸面350の反射率は少なく、界面凹凸面350では屈折作用が主体的になるためである。
進入光は、空気界面360で反射する前に、表面凹凸面340と界面凹凸面350とで屈折する。進入光は、更に、空気界面360で反射した後にも、界面凹凸面350と表面凹凸面340とで屈折する。したがって、空気界面360で反射する進入光は、個々の屈折作用は小さいものの、その作用が累積することにより、十分に散乱して、観察者方向に戻ることになる。すなわち、空気界面360での反射による映り込みの程度は、表面凹凸面340が進入光に対して作用する拡散の程度と、界面凹凸面350が進入光に対して作用する拡散の程度とによって決まる。
空気界面360での反射による映り込みを低減するためには、表面凹凸面340が進入光に対して作用する屈折による拡散(以下「屈折拡散」という)の程度と、界面凹凸面350が進入光に対して作用する屈折拡散の程度とを大きくしなければならない。ところが、表面凹凸面340が作用する屈折拡散の程度を大きくすると、表面拡散が増大し、映像光のコントラスト低下も大きくなる。したがって、表面凹凸面340が作用する屈折拡散の程度をあまり大きくすることは好ましくない。
本発明者は、従来のプラズマディスプレイパネルの前面フィルタの表面において、表面拡散は主に映り込みの程度に影響しており、界面拡散は主に映像光の鮮鋭度に影響していることに気が付いた。このことから、本発明者は、前面フィルタの表面における正反射を減らす手段として主に表面拡散を利用し、前面フィルタの裏面における正反射を減らす手段として主に界面拡散を利用することで、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの維持とを両立できることを見出した。
そこで、本実施の形態に係るプラズマディスプレイパネル10では、表面凹凸面340における屈折拡散の程度を制限し、その代わりに、界面凹凸面350における屈折拡散を利用する。これにより、前面フィルタ300表面の粗さを抑えて、映り込みの改善を図ることができる。
ただし、映像光の鮮鋭度は、表示部と拡散面との距離、つまり背面板100と表面凹凸面340との距離に影響される。したがって、この距離に応じて、表面凹凸面340が反射光に対して作用する拡散(以下「反射拡散」という)の程度と、表面凹凸面340の屈折拡散の程度と、界面凹凸面350の屈折拡散の程度とを適切にコントロールする必要がある。ここでは、表面凹凸面340の反射拡散の程度および屈折拡散の程度ならびに界面凹凸面350の屈折拡散の程度を、「拡散条件」と総称する。
以下、プラズマディスプレイパネル10における拡散条件のコントロールについて説明する。
まず、拡散条件のコントロールの基準となる距離について説明する。
図2は、拡散条件のコントロールの基準となる距離を説明するための図であり、図1に対応するものである。
ここでは、図2に示すように、拡散条件のコントロールの基準となる距離Lを、プラズマディスプレイパネル10の表示部である蛍光体層130から、前面フィルタ300の表面凹凸面340までの距離と定義する。ただし、距離Lは、蛍光体層130から表面凹凸面340までの区間を構成する物質について、各物質が占める長さをそれぞれの物質の屈折率で割った値の積算値である(以下「空気換算距離」という)。例えば、屈折率1.5のガラスの1mmと、屈折率1.0の空気の1mmとを合わせたときの空気換算距離は、1/1.5+1/1=1.67と算出することができる。
蛍光体からの映像光は、拡散しながら観察者側へ進み、観察者によって観察される。映像光は、界面凹凸面350および表面凹凸面340を透過するときに拡散作用を受けるため、観察者によって観察される映像の鮮鋭度は、本来の映像に比べて劣化する。鮮鋭度の劣化は、空気換算距離Lが長いほど大きくなる。これは、次のように説明することができる。光源と観察者の間に存在する拡散面のうち、光源からの光の透過領域は、二次光源として取り扱うことができる。通常、光源の光は四方八方に出射されるため、二次光源の大きさは拡散面と光源との距離が長いほど大きくなる。また、通常、二次光源の大きさが大きいほど、光源の像の鮮鋭度は低下する。
次に、観測者側で観測される映像光の鮮鋭度を維持するための拡散条件について説明する。
ここで、観測者側で観測される映像光の鮮鋭度を表わす指標として、MTF(modulation transfer function)を採用する。MTFは、元の映像の鮮鋭度をどの程度再現できるかを示す評価関数である。ここで、特に、映像光が前面フィルタ300を透過する際のMTFを、「透過MTF」と表記する。
ディスプレイ装置の映像で再現すべき最も高い空間周波数は、表示素子のピッチに依存し、40インチ前後のプラズマディスプレイパネルでは、約0.6lp/mm(ラインペア パー ミリメートル)である。また、映像光の鮮鋭度として許容される透過MTFの下限値は、0.7である。したがって、許容される映像光の鮮鋭度の最小値として、空間周波数0.6lp/mmにおいて、透過MTF=0.7を採用する。透過MTFが0.7以上の場合に、映像光の鮮鋭度が維持されているとみなすことができる。
なお、例えば、42インチのプラズマディスプレイパネルの前面に、通常と同じ距離を離して0.6lp/mmにおいて透過MTF=0.7の前面フィルタを配置した場合、正面方向から観察したときには問題は無いが、斜め方向から観察したときには映像の鮮鋭度の低下が認識される。これは、観察する光路に沿って測ったときの前面フィルタから蛍光体層までの距離が、正面方向から観察する場合よりも、斜め方向から観察する場合のほうが大きくなり、その結果、斜め方向における見かけ上の透過MTFが0.7よりも小さくなるためである。したがって、本実施の形態では、前面フィルタ300の透過MTFを0.7としているが、観察者が映像を観察し得る斜め方向からの角度においても、透過MTF0.7以上を確保できることが望ましい。
また、反射拡散の程度および屈折拡散の程度は凹凸の微細部分の傾斜角に比例することから、前面フィルタ300の拡散条件を示す特性値として、可視光を照射したときの全透過光に対する拡散透過光の割合を示すヘイズ値(haze factor)を採用する。前面フィルタ300全体のヘイズ値は、表面凹凸面340および界面凹凸面350のそれぞれの屈折拡散の程度で決まる。
図3は、観測者側で観測される映像光の鮮鋭度の許容最小値を定めたときの、空気換算距離Lと前面フィルタ300の拡散条件との関係を示す図である。
図3において、横軸は図2で説明した空気換算距離Lをミリメートル(mm)単位で示し、縦軸は前面フィルタ300のヘイズ値をパーセント(%)単位で示している。また、四角で表されるポイント群410は、実験により得られた、空間周波数0.6lp/mmで透過MTF=0.7となる、空気換算距離Lと前面フィルタのヘイズ値HZとの組み合わせをプロットしたものである。そして、三角で表されるポイント群420は、実験により得られた、空間周波数0.6lp/mmで透過MTF=0.95となる、空気換算距離Lと前面フィルタのヘイズ値HZとの組み合わせをプロットしたものである。透過MTFは、値「1」に近ければ近いほど拡散の度合いが低く、映像光の先鋭度を高く維持できることを示す。
前面フィルタ300のヘイズ値HZは、空気換算距離Lがゼロのときは無限大になる。また、前面フィルタ300の透過MTFは、ヘイズ値HZがゼロのときには空気換算距離Lが無限大でも低下しない。また、回帰曲線は、相関係数の二乗が0.7を超える場合に、十分に高い精度とみなすことができる。これらのことから、ヘイズ値HZを1/Lの多項式で表わすことができると仮定し、ポイント群410の回帰曲線を、相関係数の二乗が0.7を超える最も次数の低い多項式近似で求めると、次の式(1)となる。
式(1)を表したものが、曲線430である。すなわち、曲線430は、空間周波数0.6lp/mmで透過MTF=0.7となる拡散条件の等高線を表している。曲線430は、空気換算距離Lが短いほど高いヘイズ値を採り、空気換算距離Lの増加に伴って二次曲線的に減少する。したがって、空気換算距離Lが大きくなるような構造をとった場合に、透過MTFを0.7に維持して映像光の鮮鋭度を維持するためには、前面フィルタ300のヘイズ値を小さくする必要がある。
また、同様に、ポイント群420の回帰曲線を求めると、次の式(2)で示される。
式(2)を表したものが、曲線440である。すなわち、曲線440は、空間周波数0.6lp/mmで透過MTF=0.95となる拡散条件の等高線を表している。
曲線440は、曲線430と交差することなく、曲線430の左下側に位置している。また、例えば、ヘイズ値HZまたは空気換算距離Lの一方の値を固定して他方の値を減少させたときには、当然に、透過MTFは増加する。すなわち、図中において、曲線430よりも左側または下側は、透過MTFが0.7よりも高く、映像光の鮮鋭度が維持されているとみなすことができる領域である。また、曲線430より右側または上側は、透過MTFが0.7よりも低く、映像光の鮮鋭度が維持されていないとみなすことができる領域である。
したがって、映像光の鮮鋭度が維持されるのは、前面フィルタ300のヘイズ値HZが次の式(3)を満足する場合である。
式(3)を満たすように前面フィルタ300を構成することで、映像光の鮮鋭度の低下を防ぐことができる。すなわち、式(3)は、映像光の鮮鋭度向上の観点から、表示部から表面凹凸面340までの空気換算距離Lに応じて前面フィルタ300のヘイズ値HZの最大値を規定するものである。前面フィルタ300のヘイズ値HZが式(1)により規定される最大値を超えると、映像光の鮮鋭度が低下し、ディスプレイとして好ましくない。
次に、映り込みを低減し、かつ観測者側で観測される映像光のコントラストを維持するための拡散条件について説明する。
ここで、映り込みの程度および観測者側で観測される映像光のコントラストの指標として、MTFを採用する。ここで、特に、外光が前面フィルタ300で反射する際のMTFを、「反射MTF」と表記する。
ディスプレイ装置の映り込みにおいて映像の視認性に最も影響を及ぼす空間周波数は、周囲環境に依存し、一般的には約0.06lp/mmである。また、映り込みの程度として許容される反射MTFの上限値は、0.3である。したがって、許容される映り込みの程度の最大値として、空間周波数0.06lp/mmにおいて、反射MTF=0.3を採用する。反射MTFが0.3以下の場合に、映り込みは許容範囲内であるとみなすことができる。
また、各面の拡散条件を示す特性値として、その面の三次元形状により算出される表面粗さRa(中心点平均粗さ)を凹凸の平均ピッチで除した値を採用する。
図4は、界面凹凸面350の表面粗さ/平均ピッチは変化させず、表面凹凸面340の表面粗さ/平均ピッチを変化させたときの、反射MTFの変化を示す図である。以下、界面凹凸面350の表面粗さを「RaI」と表記し、平均ピッチを「PI」と表記し、表面凹凸面340の表面粗さを「RaS」と表記し、平均ピッチを「PS」と表記する。
図4に示すように、反射MTFは、表面凹凸面340のRaS/PSの値が低いときには、反射MTFは値「1」に近い値を採り、RaS/PSの値が増加するに従って減少していく。すなわち、RaS/PSの値が大きければ大きいほど、映り込みが少なくなる。例えば、RaS/PSが0.0009以上で、反射MTFが0.3以下となる。
図5は、界面凹凸面350のRaI/PIと表面凹凸面340のRaS/PSとを比例的に変化させたときの、反射MTFの変化を示す図である。
図5に示すように、RaI/PIおよびRaS/PSの値の増加に従って、反射MTFも減少していく。
図6は、表面凹凸面340のRaS/PSは変化させず、界面凹凸面350のRaI/PIを変化させたときの、反射MTFの変化を示す図である。
図6に示すように、RaI/PI=0.016付近までは、RaI/PIの値の増加に伴って、反射MTFも減少していく。
図7は、外光の映り込みの許容最大値を定めたときの、表面凹凸面340のRaS/PSと界面凹凸面350のRaI/PIとの関係を示す図である。
図7において、図4〜図6で採用した拡散条件を、それぞれライン610〜630として示している。図中、菱形で表わされるポイント群640は、空間周波数0.06lp/mmで反射MTF=0.3となるRaS/PSとRaI/PIとの組み合わせをプロットしたものである。反射MTFは、値「1」に近ければ近いほど拡散の度合いが低く、コントラストを高く維持できることを示す。
反射MTFの値は、表面凹凸面340での反射と空気界面360での反射の重ね合わせの結果として得られる。したがって、RaS/PSの値が小さい場合、RaI/PIの値をいくら大きくしても一定値よりも小さくすることはできない。また、表面凹凸面340での反射はRaI/PIに無関係であるが、空気界面360での反射はRaS/PSとRaI/PIとの両方に関係する。すなわち、表面凹凸面340での反射拡散の度合いが低ければ、空気界面360での反射光がいくら拡散されても反射MTFの値を一定値よりも低くすることはできず、反射MTF=0.3において、RaS/PSの値がゼロのとき、RaI/PIの値は無限大となる。これらのことから、RaS/PSをRaI/PIの多項式で表わすことができると仮定し、ポイント群640の回帰曲線を、相関係数の二乗が0.7を超える最も次数の低い多項式近似で求めると、次の式(4)となる。
式(4)を示したものが、曲線650である。すなわち、曲線650は、空間周波数0.06lp/mmでの反射MTF=0.3の等高線を表わしている。
曲線650から、反射MTF=0.3付近では、反射MTFの値、つまり映り込みの強さは、界面凹凸面350のRaI/PIの値の変化よりも、表面凹凸面340のRaS/PSの変化により強い影響を受けることが分かる。図中において、曲線650よりも右側または上側は、反射MTFが0.3よりも低く、映り込みが許容範囲内であるとみなすことができる領域である。また、曲線650よりも左側または下側は、反射MTFが0.3よりも高く、映り込みが許容範囲外であるとみなすことができる領域である。
したがって、映り込みが許容範囲内となるのは、界面凹凸面350のRaI/PIに対して、表面凹凸面340のRaS/PSが次の式(5)を満足する場合である。
式(5)を満たすように前面フィルタ300を構成することで、映り込みを許容範囲内とすることができる。すなわち、式(5)は、映り込みの改善の観点から、表面拡散の許容範囲を内部拡散の程度との関係を規定するものである。表面凹凸面340のRaS/PSが式(5)で規定される下限を下回ると、映り込みの改善効果が少なくなる。
一方で、表面凹凸面340のRaS/PSの値が高くなると、映像のコントラストの低下を招く。これは、RaS/PSが、いわば表面の凹凸の山の高さを山の底辺の長さで割ったものであって山の傾きに関係する値であり、山の傾きが大きければ大きいほど、大きな入射角で入射した外光が山の傾斜面で反射して正面の観察者に到達し易くなるためである。映像のコントラストとして許容されるRaS/PSの上限値は、0.003である。したがって、RaS/PSの値は、次の式(6)をも満足することが望ましい。
式(6)を満たすように前面フィルタ300を構成することで、外光が入射したときのコントラスト低下を低減することができる。RaS/PSの値が式(6)の上限を超えると、外光に対するコントラストの低下が大きくなる。すなわち、式(6)は、コントラスト向上の観点から、表面凹凸面340のRaS/PSの範囲を規定するものである。
上記の式(3)、式(5)、および式(6)を満たすように、プラズマディスプレイパネル10の拡散条件を決定し、決定した拡散条件に従ってプラズマディスプレイパネル10を構成することにより、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することができる。
以上説明したように、本実施の形態に係るプラズマディスプレイパネル10によれば、前面フィルタ300は、観察者側に屈折率の異なる第1の樹脂層320および第2の樹脂層330を有し、観察者側の表面にだけでなく、第1の樹脂層320と第2の樹脂層330との界面に微細な凹凸を有する。これにより、パネル内部に進入した外光を、表面でのみならず、樹脂層の界面で内部拡散させることができ、前面フィルタ300の表面の粗さを抑えて、映り込みを抑制することができる。しかも、映像光は界面を1回のみ透過するのに対し、進入光は界面を往復で2回透過するので、界面における拡散の作用を、映像光よりもパネル内部に進入した外光に対してより強く与えることができる。すなわち、映像光の鮮鋭度およびコントラストの低下を抑えた状態で映り込みを抑制することができ、明るい場所にプラズマディスプレイパネル10を設置する場合でも、映り込みを気にすることなく鮮鋭度の高い映像を提供することができる。
また、映り込みの程度、映像光の鮮鋭度、および映像光のコントラストの許容範囲に基づいて決定される拡散条件に従ってプラズマディスプレイパネル10を構成するので、映り込みの程度、映像光の鮮鋭度、および映像光のコントラストを許容範囲に収めることができる。また、拡散条件は、各特性値を用いた数式で特定されているので、プラズマディスプレイパネル10を特定した条件を満たすように容易に設計することができる。
なお、映り込みの程度、映像光の鮮鋭度、および映像光のコントラストの許容範囲として本実施の形態で記述した値は一例であり、上記許容範囲をなんら制限するものではない。プラズマディスプレイパネルのサイズ、解像度、使用場所、使用環境などに応じて、透過および反射のそれぞれにおける空間周波数およびMTFに、様々な値を採用することができる。この場合には、図2〜図7で説明した手法により、プラズマディスプレイパネルの拡散条件をコントロールすればよい。
2007年11月27日出願の特願2007−306145の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
本発明に係るプラズマディスプレイパネルは、映り込みの改善と、映像光の鮮鋭度およびコントラストの向上とを両立することができるプラズマディスプレイパネルとして有用である。
本発明の一実施の形態に係るプラズマディスプレイパネルの概略部分断面図
本実施の形態における拡散条件のコントロールの基準となる距離を説明するための図
本実施の形態における映像光の鮮鋭度の許容最小値を定めたときの空気換算距離と前面フィルタの拡散条件との関係を示す図
本実施の形態における拡散条件を変化させたときの反射MTFの変化を示す第1の図
本実施の形態における拡散条件を変化させたときの反射MTFの変化を示す第2の図
本実施の形態における拡散条件を変化させたときの反射MTFの変化を示す第3の図
本実施の形態における外光の映り込みの許容最大値を定めたときのRaS/PSとRaI/PIとの関係を示す図