JPWO2008150030A1 - G−csfを用いた心筋細胞への分化誘導方法 - Google Patents
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Abstract
Description
そのため、衰弱又は失われた心筋細胞を補充的に移植する方法は、心不全の治療に極めて有用であると考えられる。事実、動物を用いた実験では、胎児から未成熟な心筋細胞を取得し、それを成体心組織に移植すると、移植細胞は心筋細胞として有効に機能することが知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、この方法で大量の心筋細胞を取得することは困難であり、倫理的観点からも臨床医療への応用は難しい。
そこで、心筋細胞を未分化な幹細胞から分化誘導し、これを移植用細胞として利用する方法が近年、特に注目されている。現在のところ、成体心組織中に心筋細胞を産生し得る前駆細胞もしくは幹細胞として明らかに同定できる細胞集団は見出されていないため、上記の方法を実施するためには、より未分化で多彩な分化能を有している多能性幹細胞の使用が考えられる。
多能性幹細胞(pluripotent stem cells)とは、試験管内培養により未分化状態を保ったまま、ほぼ永続的又は長期間の細胞増殖が可能であり、正常な核(染色体)型を呈し、適当な条件下において三胚葉(外胚葉、中胚葉、および内胚葉)すべての系譜の細胞に分化する能力をもった細胞と定義される。現在、多能性幹細胞としては、初期胚より単離される胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)、胎児期の始原生殖細胞から単離される胚性生殖細胞(embryonic germ cells:EG細胞)、そして成体骨髄から単離される成人型多能性幹細胞(multipotent adult progenitor cells:MAPC)の3種が最もよく知られている。
特にES細胞は、試験管内培養により、心筋細胞に分化誘導できることが以前から知られている。初期の研究はその殆どがマウス由来のES細胞を用いて行われている。ES細胞を単一細胞状態(酵素処理等を施すことで細胞同士の接着がない個々の細胞が分散した状態)下で、白血病阻害因子(leukemia inhibitory factor:LIF)等の分化抑制因子を存在させずに浮遊培養を行うと、ES細胞同士が接着、凝集し、胚様体(embryoid body:EB)とよばれる初期胚類似の構造体を形成する。その後、EBを浮遊状態もしくは接着状態で培養することにより、自立拍動性を有した心筋細胞が出現することが知られている。
上記の様に作製されたES細胞由来心筋細胞は、胎児心臓由来の未成熟な心筋細胞ときわめてよく似た形質を呈している(非特許文献2、3参照)。また、実際にES細胞由来心筋細胞を成体心組織に移植した動物実験例では、胎児心筋を移植した例とほぼ変わらない、極めて高い有効性を示すことも確認されている(特許文献1、非特許文献4参照)。
1995年、Thomsonらが初めて霊長類からES細胞を樹立したことにより、多能性幹細胞に由来する心筋細胞を用いた心筋再生治療法の実用化が現実味を帯びてきた(特許文献2、非特許文献5参照)。引き続き彼らは、ヒト初期胚からヒトES細胞株の単離・樹立にも成功した(非特許文献6参照)。また、Gearhartらは、ヒト始原生殖細胞からhEG細胞株を樹立した(非特許文献7、特許文献3参照)。
マウスES細胞と同様、ヒトES細胞からも心筋細胞が分化誘導できることは、Kehatら(非特許文献8参照)およびChunhuiら(特許文献4、非特許文献9参照)により報告されている。これらの報告によると、ヒトES細胞から分化誘導した心筋細胞は、自立拍動能を有することはもちろん、ミオシン重鎖/軽鎖やα−アクチニン、トロポニンI、心房性利尿ペプチド(artial natriuretic peptide;ANP)等の心筋特異的蛋白質や、GATA−4やNkx2.5、MEF−2c等の心筋特異的転写因子を発現・産生しているとともに、微細解剖学的観察および電気生理学的解析からも、胎生期の未成熟な心筋細胞の形質を保持しており、再生医療への利用が期待される。
一方、多能性幹細胞に由来する心筋細胞を、細胞移植治療やその他の目的のために使用する際の重要な問題として、従来の方法によりES細胞又はEG細胞より形成されたEBからは、心筋細胞以外にも血球系細胞や、血管系細胞、神経系細胞、腸管系細胞、骨・軟骨細胞等の別種細胞が混在して発生してくることが挙げられる。更に、これらの分化した細胞の中で心筋細胞が占める割合はあまり高くなく、全体の5〜20%程度に過ぎない。
別種の細胞が混在している中から、心筋細胞のみを選択的に選別する方法としては、ES細胞の遺伝子に人為的な修飾を加え、薬剤耐性もしくは異所性発現能を付与することにより、心筋細胞又はその前駆細胞としての形質を有する細胞を回収する方法が挙げられる。例えば、Fieldおよび共同研究者らは、α型ミオシン重鎖プロモーターの制御下でネオマイシン(G418)耐性遺伝子を発現し得る遺伝子カセットを、マウスES細胞に導入することにより、そのES細胞が心筋細胞に分化し、それに伴いα型ミオシン重鎖遺伝子を発現した時のみ、G418を添加した培地中で生存し得る系を構築した(特許文献1、非特許文献4参照)。この方法によりG418耐性細胞として選別された細胞は、99%以上の確率で心筋細胞であることが確認されている。しかし、この方法では、心筋細胞の純度はきわめて高くなるものの、最終的に得られる心筋細胞数は、全細胞数の数パーセント程度に過ぎず、移植治療に必要な心筋細胞を得るのは容易なことではない。
最近、Chunhuiらは、ヒトES細胞を5−アザシチジンで処理することにより、EB中のトロポニンI陽性(心筋)細胞が15%から44%に増加することを報告した(非特許文献9参照)が、本法においても、心筋細胞の占める割合がEB中の50%を越えることはない。また、脱メチル化剤である5−アザシチジンは、DNAに結合したメチル基を離脱させることにより遺伝子の発現状態を変化させる薬剤であり、薬剤が直接染色体に作用するため、移植用細胞を作製する薬剤としては適当ではない。
その他、ES細胞から心筋細胞をより高率に発生させる方法としては、例えば、マウスES細胞では、レチノイン酸(非特許文献10参照)やアスコルビン酸(非特許文献11参照)、TGFβ、BMP−2(非特許文献12参照)、PDGF(非特許文献13参照)、Dynorphin B(非特許文献14参照)の添加、又は細胞内の活性酸素種(reactive oxigen species:ROS)(非特許文献15参照)やCa2+(非特許文献16参照)を増加させる処理が心筋細胞の分化誘導に促進的に働くことが知られている。しかし、これらのいかなる方法においても、心筋細胞特異的又は選択的な分化誘導は成功していない。
本発明者らは、培養時のある期間、培地中に骨形成因子(Bone Morphogenic Protein;BMP)のシグナル伝達を抑制する物質、特にノギンを添加することにより、拍動能を有し心筋細胞と認められる細胞が、従来法よりも極めて選択的且つ高率に産生されることを見出している(特許文献5参照)。
顆粒球コロニー刺激因子(以下においてG−CSFという)は顆粒球系造血幹細胞の分化誘導因子として発見された造血因子であり、生体内では好中球造血を促進することから、骨髄移植や癌化学療法後の好中球減少症治療剤として臨床応用されている。また、上記作用のほかにもヒトG−CSFは幹細胞に作用してその分化増殖を刺激する作用や骨髄中の幹細胞を末梢血中に動員する作用があることが報告されている。In vivoの実験でG−CSFにより動員された骨髄幹細胞が、動員された組織で心筋細胞に分化することは報告されている(特許文献6、非特許文献17)。しかし、G−CSFが直接、骨髄幹細胞を心筋細胞に分化するという報告はなく、さらに、G−CSFが胎仔期の心筋細胞に発現していることや心筋細胞の分化誘導に直接的に用いられるとの報告はない。さらには、G−CSFがES細胞に直接作用し、心筋細胞への分化誘導に用いられるとの報告は全くない。
上述したように、従来の方法単独では、心筋誘導効率にばらつきが生じており、より効率的且つ選択的に心筋細胞に分化誘導する方法が求められている。
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
(1)ES細胞とG−CSF受容体に対するアゴニストを接触させることを含む、ES細胞を心筋細胞に分化誘導する方法。
(2)ES細胞をG−CSF受容体に対するアゴニスト存在下で培養することを含む前記(1)に記載の方法。
(3)G−CSF受容体に対するアゴニストがG−CSFである前記(1)または(2)記載の方法。
(4)以下の工程を含む前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法:
(a)細胞培養液にG−CSFを添加する工程および
(b)(a)の培養液を用いてES細胞を培養する工程。
(5)ES細胞とG−CSFの接触がin vitroで行なわれる前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)ES細胞とG−CSF受容体に対するアゴニストを接触させる前に、BMPシグナル伝達を抑制する物質の存在下でES細胞を培養する工程をさらに含む前記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)BMPシグナル伝達を抑制する物質がノギンである前記(6)記載の方法。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法により得られる心筋細胞。
(9)G−CSF受容体に対するアゴニストを含有する、ES細胞から心筋細胞への分化誘導剤。
(10)G−CSF受容体に対するアゴニストがG−CSFである前記(9)記載の分化誘導剤。
(11)in vitroで用いられる前記(9)または(10)に記載の分化誘導剤。
(12)ES細胞を心筋細胞に分化させる為のG−CSF受容体に対するアゴニストの使用。
(13)G−CSF受容体に対するアゴニストがG−CSFである前記(12)記載の使用。
(14)in vitroで用いられる前記(12)または(13)に記載の使用。
なお、本発明の実施において、ES細胞を用いた細胞培養及び発生、細胞生物学実験の一般的方法については、当該分野の標準的な参考書籍を参照し得る。これらには、Guide to Techniques in Mouse Development(Wassermanら編、Academic Press,1993);Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro(M.V.Wiles、Meth.Enzymol.225:900,1993);Manipulating the Mouse Embryo:A laboratory manual(Hoganら編、Cold Spring Harbor Laborayory Press,1994);Embryonic Stem Cells(Turksen編、Humana Press,2002)が含まれる。本明細書において参照される細胞培養、発生・細胞生物学実験のための試薬及びキット類はInvitrogen/GIBCO社やSigma社等の市販業者から入手可能である。
図2は、マウス胎仔の心臓切片におけるG−CSF受容体(G−CSFR)または心筋特異的タンパク質であるα−アクチニンの発現を示す免疫染色の写真である。核酸はDAPI(4’,6−diamidine−2−phenylindole dihydrochloride:Sigma Aldrich)で染色した。
図3は、E9.5,E10.5およびE13.5のマウス胎仔心臓、新生仔マウス心臓、成体マウス心臓およびマウス肝臓におけるG−CSFR、G−CSFの発現をRT−PCRで試験した写真である。コントロールとして、GAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)を用いた。
図4は、妊娠マウスにG−CSFまたはコントロールとしてPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を投与し、次いで母体にBrdU(bromodeoxyuridine)を腹腔内投与したときの、胎仔心臓切片の免疫染色の写真である。
図5は、妊娠マウスにG−CSFを投与したときの効果を示すものであり、図5aは、図4と同じ心臓切片をヘマトキシン・エオジン染色して顕微鏡観察した写真である。図5bは、G−CSFRノックアウトマウスと野生型マウスの心臓切片をヘマトキシン・エオジン染色して顕微鏡観察した写真である。図中、LVは左心室、RVは右心室、LAは左心房、RAは右心房を示す。
図6は、BrdUラベリング・インデックスを算出し、これを図示したグラフである。
図7は、妊娠マウス母体にG−CSFを投与した後、胎仔を取り出して心臓の切片を作製し、Phospho−Histon H3による免疫染色を行った写真である。
図8は、Phospho−Histon H3ラベリング・インデックスを算出し、これを図示したグラフである。
図9は、胎生10.5日目の心臓をTunel染色した写真である。
図10は、ノギン処理を行った(ノギン(+)群)ES細胞に由来するEBと、ノギン処理をしなかった(ノギン(−)群)ES細胞に由来するEBを作製し、EBでのG−CSFRの発現をRT−PCRにより試験した結果を示す写真である。心筋細胞に特異的な遺伝子であるGAPDHをコントロールとして用いた。
図11は、ノギン処理を行った(ノギン(+)群)ES細胞に由来するEBと、ノギン処理をしなかった(ノギン(−)群)ES細胞に由来するEBを作製し、EBでのG−CSFRの発現を免疫染色により試験した結果を示す写真である。
図12は、EB形成後6日目、7日目および8日目のEBにおける、G−CSFRまたは心筋特異的タンパク質であるα−アクチニンの発現を示す免疫染色の写真である。
図13は、G−CSFを用いた心筋細胞の分化誘導試験の方法を示す図である。
図14は、心筋細胞の分化誘導におけるG−CSF投与の最適時期を示すグラフである。
図15は、EB形成後9日目のEBを用いて、各種心筋に特異的な遺伝子の発現をRT−PCR法および免疫染色法により試験した結果を示す写真である。
図16は、G−CSFの至適濃度を検討するために、種々の濃度のG−CSFをEB6日目に添加して、各心筋マーカーの発現をRT−PCR法で調べた結果を示す写真である。
図17は、心筋細胞の分化誘導におけるG−CSFの至適濃度を示すグラフである。
図18は、G−CSF処理によるES細胞の心筋分化誘導促進効果に及ぼす抗G−CSF抗体の影響を検討するために、各種濃度の抗G−CSF抗体を共存させ、各種心筋マーカーの発現をRT−PCR法で調べた結果を示す写真である。
図19は、G−CSFのES細胞由来の心筋細胞に及ぼす増殖促進作用を試験するために、EB6日目にG−CSFの添加群と無添加群およびG−CSF+ノコダゾール(nocodazole)添加群において、各種心筋マーカーの発現をRT−PCR法で調べた結果を示す写真である。
図20は、G−CSFの添加群と無添加群において、抗BrdU抗体及び抗mef2c抗体で二重免疫染色を行った結果を示す写真(左側)及び、BrdUラベリング・インデックスを算出し、これを図示したグラフ(右側)である。
図21は、コモン・マーモセットES(CMES)細胞に及ぼすG−CSFの効果を示すものであり、図21aは、コモン・マーモセットES(CMES)細胞の自立拍動性を観察した結果を示す。図21bは、マウスG−CSF又はヒトG−CSFを添加し、CMES細胞中における各種心筋マーカーの発現をRT−PCRにより調べた結果を示す写真である。図21cは、G−CSF添加群と無添加群において、CMES由来EBの心臓トロポニンI及びNkx2.5の発現を免疫染色で調べた結果を示す写真である。
本発明において、「心筋細胞」とは、将来、機能的な心筋細胞となり得る能力を有した心筋前駆細胞や、胎児型心筋細胞、成体型心筋細胞のすべての分化段階の細胞を含み、以下に記載する少なくとも1つ、好ましくは複数の方法により、少なくとも1つ、好ましくは複数のマーカーや基準が確認できる細胞を意味する。
心筋細胞に特異的な種々のマーカーの発現は、従来の生化学的又は免疫化学的手法により検出される。その方法は特に限定されないが、好ましくは、免疫組織化学的染色法や免疫電気泳動法の様な、免疫化学的手法が使用される。これらの方法では、心筋前駆細胞又は心筋細胞に結合する、マーカー特異的ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を使用することができる。個々の特異的マーカーを標的とする抗体は市販されており、容易に使用することができる。心筋前駆細胞又は心筋細胞に特異的なマーカーは、例えば、ミオシン重鎖/軽鎖やα−アクチニン、トロポニンI、ANP、GATA−4、Nkx2.5、MEF−2c等が挙げられる。
あるいは、心筋前駆細胞又は心筋細胞特異的マーカーの発現は、特にその手法は問わないが、逆転写酵素介在性ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)やハイブリダイゼーション分析といった、任意のマーカー蛋白質をコードするmRNAを増幅、検出、解析するための従来から頻用される分子生物学的方法により確認できる。心筋前駆細胞又は心筋細胞に特異的なマーカー(例えば、ミオシン重鎖/軽鎖やα−アクチニン、トロポニンI、ANP、GATA−4、Nkx2.5、MEF−2c)蛋白質をコードする核酸配列は既知であり、GenBankの様な公共データベースにおいて利用可能であり、プライマー又はプローブとして使用するために必要とされるマーカー特異的配列を容易に決定することができる。
更に、ES細胞の心筋細胞への分化を確認するために、生理学的基準も追加的に使用される。即ち、ES細胞由来の細胞が、自立的拍動性を有することや、各種イオンチャンネルを発現しており電気生理的刺激に反応し得ること等も、その有用な指標となる。
本発明における「G−CSF受容体に対するアゴニスト」は、G−CSF受容体に結合し、G−CSF受容体のシグナル伝達を誘起することができるものであれば特に限定されない。G−CSF受容体に対するアゴニストは、ペプチド、アゴニスト抗体、低分子化合物など、如何なる物質でもよい。G−CSF受容体のアミノ酸配列は公知である(国際公開番号WO91/14776)。
G−CSF受容体に対するアゴニストの好ましい例としてG−CSFを挙げることができる。本発明に用いるG−CSFは、どのようなG−CSFでも用いることができるが、好ましくは高度に精製されたG−CSFであり、より具体的には、哺乳動物G−CSF、特にヒトG−CSFと実質的に同じ生物学的活性を有するものである。G−CSFの由来は特に限定されず、天然由来のG−CSF、遺伝子組換え法により得られたG−CSFなどを用いることができるが、好ましくは遺伝子組換え法により得られたG−CSFである。遺伝子組換え法により得られるG−CSFには、天然由来のG−CSFとアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列中の1または複数のアミノ酸を欠失、置換、付加等したもので、天然由来のG−CSFと同様の生物学的活性を有するもの等であってもよい。天然由来のG−CSFのアミノ酸配列は公知である(配列番号:1)。アミノ酸の欠失、置換、付加などは当業者に公知の方法により行うことが可能である。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Gotoh,T.et al.(1995)Gene 152,271−275;Zoller,M.J.and Smith,M.(1983)Methods Enzymol.100,468−500;Kramer,W.et al.(1984)Nucleic Acids Res.12,9441−9456;Kramer,W.and Fritz,H.J.(1987)Methods Enzymol.154,350−367;Kunkel,T.A.(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.82,488−492;Kunkel(1988)Methods Enzymol.85,2763−2766)などを用いて、G−CSFのアミノ酸に適宜変異を導入することにより、G−CSFと機能的に同等なポリペプチドを調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。置換、欠失、付加等されるアミノ酸数は特に限定されないが、好ましくは30アミノ酸以内であり、より好ましくは20アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば5アミノ酸以内)である。又、一般的に、G−CSFと機能的に同等なポリペプチドは配列番号:1のアミノ酸配列と高い相同性を有する。本発明において高い相同性とは、配列番号:1のアミノ酸配列と70%以上の相同性、好ましくは80%以上の相同性、より好ましくは90%以上の相同性、さらに好ましくは95%以上の相同性を有することを意味する。アミノ酸の相同性は、例えば、文献(Wilbur,W.J.and Lipman,D.J.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1983)80,726−730)に記載のアルゴリズムにしたがって決定することが可能である。一般的に、置換されるアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換されることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666;Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500;Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433;Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413)。
又、G−CSFと他のタンパク質との融合タンパク質を用いることも可能である。融合ポリペプチドを作製するには、例えば、G−CSFをコードするDNAと他のタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。本発明のG−CSFとの融合に付される他のタンパク質としては、特に限定されない。
又、化学修飾したG−CSFを用いることも可能である。化学修飾したG−CSFの例としては、例えば、糖鎖の構造変換・付加・欠失操作を行ったG−CSFや、ポリエチレングリコール・ビタミンB12等、無機あるいは有機化合物等の化合物を結合させたG−CSFなどを挙げることができる。
又、G−CSFの部分ペプチドを用いることも可能である。G−CSFの部分ペプチドは特に限定されないが、通常、G−CSF受容体への結合活性を有している。
本発明で用いるG−CSFは、いかなる方法で製造されたものでもよく、例えば、ヒト腫瘍細胞やヒトG−CSF産生ハイブリドーマの細胞株を培養し、これから種々の方法で抽出し分離精製したG−CSF、あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌、イースト菌、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、C127細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、BHK細胞、昆虫細胞、などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したG−CSFなどを用いることができる。本発明において用いられるG−CSFは、遺伝子工学的手法により製造されたG−CSFが好ましく、哺乳動物細胞(特にCHO細胞)を用いて製造されたG−CSFが好ましい(例えば、特公平1−44200号公報、特公平2−5395号公報、特開昭62−129298号公報、特開昭62−132899号公報、特開昭62−236488号公報、特開昭64−85098号公報)。
本発明者らは後述する実施例に記載するように、G−CSF受容体がマウス胎仔期の心筋細胞に強く発現していること、およびG−CSFが胎仔期の心筋細胞の増殖に関与していることを発見した。また、G−CSFがin vivoで胎仔期に心筋細胞の増殖を顕著に促進することを初めて確認した。さらに、本発明では、G−CSFが霊長類の心筋細胞増殖に必須であることも示され、ヒトを含む全ての哺乳動物におけるG−CSFの役割が示唆された。
本発明において、ES細胞から心筋細胞を作製する培養法としては、心筋細胞の分化誘導に適した方法であれば、いずれも用いることができ、例えば、浮遊凝集培養法、懸滴(hanging drop)培養法、支持細胞との共培養法、旋回培養法、軟寒天培養法、マイクロキャリア培養法等を挙げることができる。具体的な方法の例としては、例えば浮遊凝集培養法の場合、単一細胞状態(酵素消化等を施すことで細胞同士の接着がない個々の細胞が液相中で分散した状態)としたES細胞を、好ましくは、培地に10細胞/mL〜1×107細胞/mL、より好ましくは100細胞/mL〜1×106細胞/mLの細胞密度になるように懸濁し、培養プレートに播種後、4〜30日間、好ましくは6〜15日間、37℃で5%の二酸化炭素を通気したCO2条件下にて培養する方法を挙げることができる。
また、別の実施態様として、支持細胞との共培養法を用いる場合、支持細胞としては、特にこれを限定しないが、好ましくは間葉系細胞の性質を有した細胞、さらに好ましくはST2細胞、OP9細胞、PA6細胞等の骨髄ストローマ細胞様の形質を有する細胞が挙げられる。これらの支持細胞を高密度培養、マイトマイシンC処理、又は放射線照射等の方法によりフィーダー化し、その上に、培地に1細胞/mL〜1×106細胞/mL、好ましくは100細胞/mL〜1×105細胞/mL、より好ましくは1×103細胞/mL〜1×104細胞/mLの細胞密度になるように懸濁した単一細胞状態のES細胞を播種後、4〜30日間、好ましくは6〜15日間、37℃で5%の二酸化炭素を通気したCO2条件下にて培養することができる。
本発明では、ES細胞とG−CSF受容体に対するアゴニスト、好ましくはG−CSFを接触させることによって、ES細胞を心筋細胞に分化誘導することが促進される。好ましくは精製組換えG−CSFを培地中に添加する方法が挙げられる。その他にも、精製組換えG−CSFを培地中に添加する方法と同様の効果を示す方法であれば、いずれも用いることができる。例えば、G−CSFの遺伝子発現ベクターをES細胞自身に導入する方法、G−CSFの遺伝子発現ベクターを支持細胞に導入し、その導入細胞を共培養細胞として用いる方法、又はその導入細胞の培養上清等の細胞産生物を用いる方法、等が挙げられ、本発明に係る方法においては何れもG−CSF受容体に対するアゴニストを培地中に添加する実施形態として含まれる。
具体的には、例えば、本発明は以下の工程を含む:
(a)細胞培養液にG−CSFを添加する工程および
(b)(a)の培養液を用いてES細胞を培養する工程。
本発明の実施において、使用するG−CSF受容体に対するアゴニストは、ES細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましいが、異種動物由来のものも使用することができる。
また、本発明では、ES細胞とG−CSFの接触をin vitroで行うことが好ましい。
本発明の実施においては、ES細胞を未分化状態に維持するため、当該ES細胞の動物種に応じて、通常用いられる条件下で培養することが好ましい。即ち、マウスES細胞の場合は、培地中に100〜10000U/mL、好ましくは500〜2000U/mL濃度の白血病抑制因子(Leukemia inhibitory factor:LIF)を添加しておくことが好ましい。
その後、LIFを除去した分化用培地でES細胞を心筋細胞へと分化誘導する。分化誘導の開始においては、ES細胞とG−CSF受容体に対するアゴニストを接触させる前に、ES細胞とBMPシグナル伝達を抑制する物質の存在下でES細胞を培養することが好ましい。BMPシグナルを抑制する物質としてBMPアンタゴニスト(例えば、ノギン蛋白質、コーディン蛋白質等)を用いる場合、古い培地を無菌的に除去した上で、1ng/mL〜2μg/ml、好ましくは5ng/mL〜1000ng/mL、より好ましくは10ng/mL〜500ng/mLの濃度のノギン蛋白質、又はコーディン蛋白質を含有する培地で置換し、好ましくは数日間、より好ましくは3日間培養を継続する。
次いで、G−CSF受容体に対するアゴニストとしてG−CSFを用いる場合には、古い培地を無菌的に除去した上で、培地中の最終濃度が0.01ng/mL〜500ng/ml、好ましくは0.05ng/mL〜300ng/mL、より好ましくは0.75ng/mL〜25ng/mLあるいは2.5ng/mL〜25ng/mLになるようにG−CSFを添加し、培養を継続する。G−CSFを添加する時期は分化開始後3〜10日目、より好ましくは5〜8日目であるが、至適濃度や適用日数は適宜変更しうる。
上記の方法により、ES細胞から分化誘導した心筋細胞は、引き続き、公知の方法による細胞回収、分離、精製法を用いることにより、高純度の心筋細胞を効率的かつ多量に得ることができる。
心筋細胞の精製方法は、公知となっている細胞分離精製の方法であればいずれも用いることができるが、その具体的例として、フローサイトメーターや磁気ビーズ、パンニング法等の抗原−抗体反応に準じた方法(Monoclonal Antibodies:principles and practice,Third Edition(Acad.Press,1993);Antibody Engineering:A Practical Approach(IRL Press at Oxford University Press,1996)や、ショ糖、パーコール等の担体を用いた密度勾配遠心による細胞分画法を挙げることができる。また、別の心筋細胞選別法としては、元となるES細胞等の多能性幹細胞の遺伝子に前もって人為的な修飾を加え、薬剤耐性もしくは異所性蛋白質の発現能を付与することにより、心筋細胞としての形質を有する細胞を回収する方法が挙げられる。例えば、Fieldおよび共同研究者らは、α型ミオシン重鎖プロモーターの制御下でネオマイシン(G418)耐性遺伝子を発現し得る遺伝子カセットを、マウスES細胞に導入することにより、そのES細胞が心筋細胞に分化し、それに伴いα型ミオシン重鎖遺伝子を発現した時のみ、G418を添加した培地中で生存し得る系を構築し、この方法によりG418耐性細胞として選別された細胞は、99%以上の確率で心筋細胞であることが確認されている(米国特許第6,015,671号;J.Clin.Invest.98:216,1996)。
別の実施態様において、本発明は、上記の本発明の分化誘導方法を用いてES細胞を分化誘導することにより作製された心筋細胞、すなわち心筋細胞の形態学的、生理学的及び/又は免疫学的特徴を示す細胞に関する。生理学的及び/又は免疫学的特徴は、特にこれを限定しないが、本発明の方法によって作製された細胞が、心筋細胞として認識される、心筋細胞に特異的な1つ又はそれ以上のマーカーを発現していればよい。
また別の実施態様において、本発明は、G−CSF受容体に対するアゴニストを含有する、ES細胞から心筋細胞への分化誘導剤に関する。好ましいG−CSF受容体に対するアゴニストはG−CSFであり、またin vitroで用いることが好ましい。
また別の実施態様において、本発明は、ES細胞を心筋細胞に分化させる為のG−CSF受容体に対するアゴニストの使用に関する。好ましいG−CSF受容体に対するアゴニストはG−CSFであり、またin vitroで用いることが好ましい。
本発明により調製された心筋細胞は、心筋再生薬又は心臓疾患治療薬として用いることができる。心臓疾患としては、心筋梗塞、虚血性心疾患、うっ血性心不全、肥大型心筋症、拡張型心筋症、心筋炎、慢性心不全などを挙げることができる。心筋再生薬又は心臓疾患治療薬としては、本発明により調製された心筋細胞を高純度で含むものであれば、細胞を培地等の水性担体に浮遊させたもの、細胞を生体分解性基質等の支持体に包埋したもの、あるいは単層もしくは多層の心筋細胞シート(Shimizuら、Circ.Res.90:e40,2002)に加工したもの等、どの様な形状のものでも用いることができる。
上記の治療薬を障害部位に輸送する方法としては、開胸し、注射器を用いて直接心臓に注入する方法、心臓の一部を外科的に切開して移植する方法、さらにはカテーテルを用いた経血管的方法により移植する方法等(Murryら、Cold Spring Harb.Symp.Quant.Biol.67:519,2002;Menasche、Ann.Thorac.Surg.75:S20,2003;Dowellら、Cardiovasc.Res.58:336,2003)が挙げられるが、特にこれを限定しない。この様な方法により、胎児心臓から回収した心筋細胞を心傷害動物の心臓に移植すると、きわめて良い治療効果を示すことが報告されている(Menasche、Ann.Thorac.Surg.75:S20,2003;Reffelmannら、Heart Fail.Rev.8:201,2003)。ES細胞由来の心筋細胞は、胎児心臓由来の心筋細胞ときわめてよく似た形質を呈している(Maltsevら、Mech.Dev.44:41,1993:Circ.Res.75:233,1994)。また、実際にES細胞由来の心筋細胞を成体心臓に移植した動物実験例では、胎児心筋を移植した例とほぼ変わらない、極めて高い生着性を示すことも確認されている(Klugら、J.Clin.Invest.98:216,1996)。そのため、心筋細胞の疲弊および脱落に起因する上記の心疾患において、本発明記載の方法により調製した心筋細胞を、病的心臓組織に補充的に移植することにより、心機能の改善を促すことが期待できる。
発明の効果
本発明方法を用いることにより、ES細胞から心筋細胞が効率的かつ選択的に生産できる。特に、本発明の方法は分化直後の心筋に作用するため、既存の方法と組み合わせることによって、より誘導効率を上げることが可能となる。この様にして作製された心筋細胞は、心疾患治療に有効な薬剤の探索・開発に利用できるとともに,重篤な心疾患に対する心筋移植治療に適用できる可能性がある。
実施例1:マウス胎仔心臓由来の心筋におけるG−CSF受容体の発現
以下の方法を用いてマウス胎仔心臓由来の心筋におけるG−CSF受容体の発現を検討した。
(1)in situハイブリダイゼーションによる検討
妊娠したICR野生型マウスを日本CLEAから購入した。胎生(日)E7.5,E8.5,E9.5およびE10.5で胎仔を取り出し、ジゴキシゲニン標識RNAプローブを用いて、文献記載の方法(Sasaki H.et al.,Development 118,47−59(1993))によって心臓のwhole−mount in situ hybridization(WISH)を行った。マウスG−CSF受容体(csf3r)および心筋特異的転写因子Nkx2.5(accession numberはそれぞれNM_008711 NM_008700)の全長cDNAを逆転写PCR(RT−PCR)により得て、これをpBluescriptプラスミドにサブクローニングした。csf3rのsense primerとして5’−CCC CTC AAA CCT ATC CTG CCT C−3’(配列番号:2)、antisense primerとして5’−TCC AGG CAG AGA TCA GCG AAT G−3’(配列番号3)、Nkx2.5のsense primerとして5’−CAG TGG AGC TGG ACA AAG CC−3’(配列番号:4)、antisense primerとして5’−TAG CGA CGG TTC TGG AAC CA−3’(配列番号:5)を使用した。プローブはT3またはT7RNAポリメラーゼで転写した。得られた結果を図1に示す。G−CSF受容体(csf3r)はE7.5およびE8.5で強く発現しているが、それ以後のステージでは検出されなかった。一方Nkx2.5は後半のステージで発現していた。
(2)免疫染色による検討
E8.5,E9.5およびE10.5のマウス心臓を4%パラホルムアルデヒドで45分固定し、Tissue−Tek OCT(Sakura Finetek)を用いて包埋して、切片を作製した。各サンプルをG−CSF受容体(G−CSFR)(H176:santa cruz社)または心筋特異的タンパク質であるα−アクチニンに対する1次抗体と結合させた。さらにAlexa488標識2次抗体(Molecular Probes社)と順次反応後、蛍光顕微鏡下にて観察を行った。核酸はDAPI(4’,6−diamidine−2−phenylindole dihydrochloride:Sigma Aldrich)で染色した。結果を図2に示す。心臓および体節に胎生8.5日目からG−CSF受容体が発現し、その後9.5日目でピークに達することが確認された。
(3)逆転写PCR(RT−PCR)反応による検討
E9.5,E10.5およびE13.5のマウス胎仔心臓、新生仔マウス心臓、成体マウス心臓およびマウス肝臓におけるG−CSFR、G−CSFの発現を検討した。心筋細胞に特異的な遺伝子であるGAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)をコントロールとして用いた。各組織から全RNAをTrizol試薬(GIBCO)で抽出し、文献記載の方法(Niwa,H.et al.,Nat.Genet.24,372−376(2000))を用いてRT−PCRを行った。得られた結果を図3に示す。G−CSFRはE9.5,E10.5の胎仔心臓で強く発現していることが認められた。
実施例2:心臓発生におけるin vivoでのG−CSFの作用(1)
妊娠9.0日目にマウスを開腹し、子宮内に直接G−CSF(100ng/kg)またはコントロールとしてPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を投与した。次いで妊娠9.5日目に母体にBrdU(bromodeoxyuridine)を腹腔内投与した。BrdUはDNA合成の際に取り込まれ、免疫染色により増殖を評価することができる。妊娠12.5日目に胎仔を取り出して心臓の切片を作製した。実施例1(2)に記載した免疫染色と同様の方法で試験した結果を図4に示す。G−CSFは胎仔の心筋増殖を促進することが確認できた。
また、心臓切片をヘマトキシン・エオジン染色して顕微鏡観察した結果を図5aに示す。G−CSF投与した胎仔の心臓では、trabecular layerが延長していることが観察された。
さらに、同様の試験をG−CSF受容体を欠損させたG−CSFRノックアウトマウス(以下において、G−CSF−/−マウスと記載する)(Washington University,School of MedisonのDr.Daniel C.Linkから恵与された)(Richards et al.,Blood,102,3562−3568,(2003))で実施して、野生型マウスと比較した。心臓切片をヘマトキシン・エオジン染色して顕微鏡観察した結果を図5bに示す。G−CSF−/−マウスでは、胎仔心臓の心房壁及び心室壁が野生型マウスと比較して有意に薄くなっており、いくつかのマウスでは心房中隔欠損が見られた。これらのマウスの約50%が後期胚ステージで死亡した。
さらに、心筋増殖促進効果を定量するために、以下の式によりBrdUラベリング・インデックスを算出した。なお、本試験では、野生型マウスを用い、妊娠10.5日目にBrdUを投与し、12.5日目に解析した。
BrdU labeling index = BrdU positive nuclei/total nuclei x 100(%)
得られた結果を図6に示す。G−CSF投与によって心筋の増殖が亢進することが観察された。
実施例3:心臓発生におけるin vivoでのG−CSFの作用(2)
妊娠マウス母体に妊娠9.0日目に子宮内にG−CSFを2ng直接投与した。妊娠13.5日目に胎仔を取り出して心臓の切片を作製し、Phospho−Histon H3による免疫染色を行った。Phospho−Histon H3は細胞増殖過程で特異的に染色される色素である。得られた結果を図7に示す。G−CS投与によって胎仔の心筋増殖が亢進することが観察された。
次に、以下の式によりラベリング・インデックスを算出した。
Labeling index = Phospho−Histon H3 positive nuclei/total nuclei x 100(%)
得られた結果を図8に示す。G−CSFは胎生8.5日目から10.5日目にかけて心筋増殖を強く亢進することが観察された。
また、胎生期心臓のアポトーシスに及ぼすG−CSFの影響を調べるために、胎生10.5日目の心臓をTunel染色した。Tunel染色はアポトーシスの間に生じるDNA断片を識別できる染色法である。得られた結果を図9に示す。胎生10.5日目の心臓でアポトーシスはほとんど観察されなかった。
実施例4:ES細胞由来心筋細胞におけるG−CSF受容体の発現
以下の実験には、ES細胞として、EB3細胞(丹羽仁史博士〔理科学研究所〕より恵与)およびR1細胞(Andrew Nagy博士〔Mount Sinai病院;カナダ〕より恵与)を用いた。これらのES細胞は、10%仔牛胎児血清、2mM L−グルタミン、0.1mM 非必須アミノ酸液、1mMピルビン酸ナトリウム、0.1mM 2−メルカプトエタノールおよびを2000U/mL白血病抑制因子(Leukemia inhibitory factor:LIF)(ESGRO;Chemicon社)を含むGlasgow Minimum Essential Medium(GMEM;Sigma社)培地中で、ゼラチンコートしたプレート中に維持した。
ES細胞からEBを形成させるための浮遊培養は以下の様にして行った。ES細胞を10%仔牛胎児血清、2mM L−グルタミン、0.1mM非必須アミノ酸液、1mMピルビン酸ナトリウム、0.1mM 2−メルカプトエタノール、2000U/mL白血病抑制因子および0.15μg/mlノギン(Noggin−Fc、R&D社)を含むα−MEM培地中、ゼラチンコートしたプレートで3日間培養した。次にES細胞をトリプシン溶液で処理をすることにより単一細胞状態にし、引き続き、コートしていないペトリ皿上で、三次元培養システムを用いて上記と同じ分化培地(ただしLIFを含まない)中で培養してスフェロイド(球状体)を形成させ、EB(肺様体)を誘導する。本実験条件では、浮遊培養直後からES細胞が凝集してEBの形成が認められ、浮遊培養後7〜8日目ごろから一部のEBで自立拍動性が観察されるようになる。
上記の方法により、ノギン処理を行った(ノギン(+)群)ES細胞に由来するEBと、ノギン処理をしなかった(ノギン(−)群)ES細胞に由来するEBを作製し、EBでのG−CSFRの発現をRT−PCRにより試験した。心筋細胞に特異的な遺伝子であるGAPDHをコントロールとして用いた。得られた結果を図10に示す。ノギン処理を行った(ノギン(+)群)ES細胞に由来するEBではG−CSFRがEB形成後5日目以降に発現することが観察された。
また、EB形成後6日目のEBを用いて、免疫染色を行った結果を示すのが図11である。ノギン処理を行った(ノギン(+)群)ES細胞に由来するEBではG−CSFRの発現が増加しており、これはノギンによる心筋誘導によってG−CSFRの発現が増加することを示している。
次に、EB形成後6日目、7日目および8日目のEBを用いて、実施例1(2)と同様な方法を用いて免疫染色した結果を図12に示す。EBをOCTで包埋することで切片を作成し、1次抗体として上記G−CSF受容体抗体を1:50、抗αアクチニン抗体(EA−53,Sigma)を1:800の比率で反応させ、2次抗体としてAlexa488及びAlexa546と反応させた後、核染した。EB形成後6日目、7日目および8日目のEBでは、心筋マーカーのα−アクチニンとG−CSFは共発現しており、これはES細胞を心筋細胞に分化誘導する際に、G−CSFは心筋マーカーと共発現することを示している。
実施例5:G−CSFのES細胞由来の心筋細胞に及ぼす分化誘導作用
G−CSFを用いた心筋細胞の分化誘導試験を図13に示す方法で行った。すなわち、ゼラチンコーティングしたディッシュ上でES細胞をLIFの存在下に未分化な状態に維持しておき、0日目にLIF非存在下で浮遊培養して、ES細胞の分化を開始すると9日目で心筋細胞に分化したEBが得られる。5日目、6日目、7日目および8日目にG−CSF(2.5ng/ml)を添加してEBの形成に及ぼす作用を検討した結果を図14に示す。本作用については、自律拍動しているEB数を全EB数で除すことにより算出した。6日目でG−CSFを投与したときが最もEB形成に効果があり、G−CSF投与の最適時期は6日目であることが示された。
次に、9日目のEBを用いて、各種心筋に特異的な遺伝子の発現をRT−PCR法および免疫染色法により試験した。RT−PCR法で用いた心筋マーカーはTbx−5、MEF−2c(muscle enhancement factor−2c)、Nkx2.5、GATA−4、βMHC(β myosin heavy chain)、MLC−2v(myosin light chain−2v)、αMHC(α−myosin heavy chain)、BNP(brain natriuretic peptide)、ANP(atrial natriuretic peptide)およびGAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)であった。免疫染色法で用いた心筋マーカーは、α−アクチニン、アクチン、トロポニン1−C、MF20およびANPであった。得られた結果を図15に示す。G−CSF投与群ではいずれの心筋マーカーの発現も増加していた。
さらに、G−CSFの至適濃度を検討するために、種々の濃度(0.25、0.75、2.5、7.5、25、75ng/ml)のG−CSFをEB6日目に添加して、各心筋マーカーの発現をRT−PCR法で調べた。なお、試験にはH(2x103cell/ml)とL(5x104cell/ml)の2つの細胞密度のEBを用いた。得られた結果を図16に示す。細胞密度に依らず、収縮蛋白、転写因子、分泌蛋白ともに0.25〜25ng/mlのG−CSF添加によって対象群に比して発現が上昇しており、この濃度が至適濃度と考えられる。
上記結果からG−CSFの至適濃度を求めた結果を図17に示す。至適濃度の検討は、自律拍動しているEB数を全EB数で除すことにより求めた数値を比較することにより実施した。この結果、G−CSFの至適濃度は0.75ng/mlであることが観察された。
実施例6:G−CSFの心筋分化誘導作用に対するG−CSF抗体の阻害効果
G−CSF処理によるES細胞の心筋分化誘導促進効果が、内因性G−CSFシグナリング経路を介している可能性を確認するため、G−CSF処理と同時に抗G−CSF抗体(R&Dsystems社)を培地中に添加し、その効果を検討した。EB6日目にG−CSF(7.5ng/mL)の添加と同時に各種濃度(0、1、3、9ng/ml)の抗G−CSF抗体を共存させ、その影響を各種心筋マーカーを用いて調べた結果を図18に示す。抗G−CSF抗体は濃度依存的に、心筋マーカーの発現を低下させることが観察された。
実施例7:G−CSFのES細胞由来の心筋細胞に及ぼす増殖促進作用
G−CSFのES細胞由来の心筋細胞に及ぼす増殖促進作用を試験するために、EB6日目にG−CSF(7.5ng/mL)の添加群と無添加群およびG−CSF+ノコダゾール(nocodazole)(0.2μg/mL)添加群を作製した。ノコダゾールは紡錘糸形成阻害作用によって細胞分裂を特異的に阻害する薬剤である。これらの3群につき、各種心筋マーカーを用いてRT−PCRにより調べた結果を図19に示す。EBにG−CSFを作用させると同時にノコダゾールを添加して細胞分裂を阻害することによって心筋マーカーの発現上昇がキャンセルされる結果となった。このことはG−CSFの作用が心筋の前駆細胞の増殖を促進するものであることを示す。
また、EB6日目にG−CSF(2.5ng/mL)の添加群と無添加群を作製し、次いでBrdUと一緒に18時間インキュベートした。これらにつき抗BrdU抗体(Roche社製)及び抗mef2c抗体(Santa Cruz社製)で二重免疫染色を行った結果を図20(左)に示す。また、BrdUラベリング・インデックスを算出した結果を図20(右)に示す。G−CSFが心筋細胞の細胞増殖を促進することが確認された。
実施例8:霊長類の心臓発生におけるG−CSFの作用
コモン・マーモセットES(Common Marmoset ES:CMES)細胞の作製
霊長類の心臓発生におけるG−CSFの作用を試験するために、コモン・マーモセットES(Common Marmoset ES:CMES)細胞(#20)(Sasaki et al.,Stem Cells 23,1304−1313(2005))を用いた。CMES細胞をKnockout DMEM(GIBCO)培地(20% Knockout Serum Replacement(KSR;GIBCO),1mM L−glutamine(GIBCO),0.1mM MEM非必須アミノ酸(GIBCO),0.1mM β−メルカプトエタノール(2−ME;Sigma),10ng/ml線維芽細胞増殖因子(bFGF;Invitrogen)及び10ng/mlヒト白血病抑制因子(hLIF;Alomone labs)を補充)中で、有糸分裂不活性化マウス胚線維芽細胞(MEF)の層上で維持した。CMES細胞を5日ごとに継代して未分化状態を維持した。
EBの作製
未分化のCMES細胞をMEFフィーダー層から剥離し、ヒト及びサルES細胞用剥離液(ReproCELL,JAPAN)を用いて小さなコロニーに分離し、次いでこれをbFGF及びhLIFを含まない培地中で、HydroCell(登録商標)培養プレート(CellSeed,JAPAN)を用いて懸濁培養してEBを得た。
G−CSFの作用の検討
EB形成後、4日目、6日目および9日目にG−CSF(2.5ng/mL)を添加して、自立拍動性を観察した。得られた結果を図21aに示す。最も良好であったのはEB形成後6日目に添加した場合であり、G−CSF添加群と無添加群との違いは14日目で明らかとなった。G−CSF添加の心臓形成に及ぼす作用はEB形成後6日目が最も大きく、それよりも前であっても後であっても小さくなることが観察された。
マウスG−CSF又はヒトG−CSFを添加し、CMES細胞中における各種心筋マーカーの発現をRT−PCRにより調べた結果を図21bに示す。マウスG−CSF及びヒトG−CSFのいずれも心筋マーカーの発現を強く増強することが観察された。また、免疫染色で調べた結果を図21cに示す。G−CSFはCMES由来EBの心臓トロポニンI及びNkx2.5陽性領域を増強した。
これらの結果から、G−CSFが霊長類の心筋細胞増殖に必須であることが示され、ヒトを含む全ての哺乳動物におけるG−CSFの役割が示唆された。
[配列表]
Claims (14)
- ES細胞とG−CSF受容体に対するアゴニストを接触させることを含む、ES細胞を心筋細胞に分化誘導する方法。
- ES細胞をG−CSF受容体に対するアゴニスト存在下で培養することを含む請求項1に記載の方法。
- G−CSF受容体に対するアゴニストがG−CSFである請求項1または2に記載の方法。
- 以下の工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載の方法:
(a)細胞培養液にG−CSFを添加する工程および
(b)(a)の培養液を用いてES細胞を培養する工程。 - ES細胞とG−CSFの接触がin vitroで行なわれる請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- ES細胞とG−CSF受容体に対するアゴニストを接触させる前に、BMPシグナル伝達を抑制する物質の存在下でES細胞を培養する工程をさらに含む請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
- BMPシグナル伝達を抑制する物質がノギンである請求項6記載の方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の方法により得られる心筋細胞。
- G−CSF受容体に対するアゴニストを含有する、ES細胞から心筋細胞への分化誘導剤。
- G−CSF受容体に対するアゴニストがG−CSFである請求項9記載の分化誘導剤。
- in vitroで用いられる請求項9または10に記載の分化誘導剤。
- ES細胞を心筋細胞に分化させる為のG−CSF受容体に対するアゴニストの使用。
- G−CSF受容体に対するアゴニストがG−CSFである請求項12記載の使用。
- in vitroで用いられる請求項12または13に記載の使用。
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