明細書
G-CSFを用いた心筋細胞への分化誘導方法
技術分野
本発明は、 ES細胞を心筋細胞に分化誘導する方法、 及び当該方法により得られる心 筋細胞、 及び心筋細胞への分化誘導剤等を提供する。
背景技術
心筋細胞は、 出生前は自律拍動しながら活発に細胞分裂を行っているが、 出生直後 よりその分裂能を喪失し、 また未分化な前駆細胞を持つこともないため、 心筋梗塞や 心筋炎等の各種ストレスに曝されることにより心筋細胞が死滅すると、喪失した心筋 細胞は補充されることがないとされている。その結果、 残存心筋細胞は代償性肥大に より心機能を保とうとするが、 各種ストレスが持続し、 その許容範囲を超えてしまう と、 さらなる心筋細胞の疲弊、 死滅を誘起して心筋機能の低下 (即ち心不全) を呈す るようになる。
そのため、 衰弱又は失われた心筋細胞を補充的に移植する方法は、 心不全の治療に 極めて有用であると考えられる。 事実、 動物を用いた実験では、 胎児から未成熟な心 筋細胞を取得し、 それを成体心組織に移植すると、 移植細胞は心筋細胞として有効に 機能することが知られている (非特許文献 1参照) 。 しかしながら、 この方法で大量 の心筋細胞を取得することは困難であり、倫理的観点からも臨床医療への応用は難し い。
そこで、 心筋細胞を未分化な幹細胞から分化誘導し、 これを移植用細胞として利用 する方法が近年、 特に注目されている。 現在のところ、 成体心組織中に心筋細胞を産 生し得る前駆細胞もしくは幹細胞として明らかに同定できる細胞集団は見出されて いないため、 上記の方法を実施するためには、 より未分化で多彩な分化能を有してい る多能性幹細胞の使用が考えられる。
多能性幹細胞 (plur ipotent s tem ce l l s) とは、 試験管内培養により未分化状態を 保ったまま、 ほぼ永続的又は長期間の細胞増殖が可能であり、 正常な核 (染色体) 型 を呈し、 適当な条件下において三胚葉 (外胚葉、 中胚葉、 および内胚葉) すべての系 譜の細胞に分化する能力をもった細胞と定義される。 現在、 多能性幹細胞としては、
初期胚より単離される胚性幹細胞 (embryonic s tem cel ls : ES細胞) 、 胎児期の始原 生殖細胞.から単離される胚性生瑱細胞 (embryonic germ cel l s: EG細胞) 、 そ Lて成 体骨髄から単離される成人型多能性幹細胞 (mul t ipotent adul t progeni tor cel ls: MAPC) の 3種が最もよく知られている。
特に ES細胞は、 試験管内培養により、 心筋細胞に分化誘導できることが以前から知 られている。初期の研究はその殆どがマウス由来の ES細胞を用いて行われている。 ES 細胞を単一細胞状態(酵素処理等を施すことで細胞同士の接着がない偭々の細胞が分 散した状態) 下で、 白血病阻害因子 (leukemi a inhibi tory factor: LIF) 等の分ィ匕 抑制因子を存在させずに浮遊培養を行うと、 ES細胞同士が接着、 凝集し、 胚様体 ( embryoid body: EB) とよばれる初期胚類似の構造体を形成する。 その後、 EBを浮遊 状態もしくは接着状態で培養することにより、 自立拍動性を有した心筋細胞が出現す ることが知られている。
上記の様に作製された ES細胞由来心筋細胞は、胎児心臓由来の未成熟な心筋細胞と きわめてよく似た形質を呈している (非特許文献 2、 3参照) 。 また、 実際に ES細胞 由来心筋細胞を成体心組織に移植した動物実験例では、胎児心筋を移植した例とほぼ 変わらない、 極めて高い有効性を示すことも確認されている (特許文献 1、 非特許文 献 4参照) 。
1995年、 Thomsonらが初めて霊長類から ES細胞を樹立したことにより、 多能性幹細 胞に由来する心筋細胞を用いた心筋再生治療法の実用化が現実味を帯びてきた(特許 文献 2、 非特許文献 5参照) 。 引き続き彼らは、 ヒト初期胚からヒト ES細胞株の単離 •樹立にも成功した (非特許文献 6参照) 。 また、 Gearhartらは、 ヒト始原生殖細胞 から hEG細胞株を樹立した (非特許文献 7、 特許文献 3参照) 。
マウス ES細胞と同様、 ヒト ES細胞からも心筋細胞が分化誘導できることは、 Kehat ら (非特許文献 8参照) および Chunhuiら (特許文献 4、 非特許文献 9参照) により 報告されている。 これらの報告によると、 ヒト ES細胞から分化誘導した心筋細胞は、 自立拍動能を有することはもちろん、 ミオシン重鎖 Z軽鎖や α-ァクチニン、 トロポ ニン I、 心房性利尿ペプチド (art ial natriuret ic pept ide; ANP) 等の心筋特異的蛋 白質や、 GATA-4や Nkx2. 5、 MEF- 2c等の心筋特異的転写因子を発現 ·産生しているとと
もに、 微細解剖学的観察および電気生理学的解析からも、 胎生期の未成熟な心筋細胞 の形質 ¾保持しており、 再生!^療への利用が期待される。 , 一方、 多能性幹細胞に由来する心筋細胞を、 細胞移植治療やその他の目的のために 使用する際の重要な問題として、従来の方法により ES細胞又は EG細胞より形成された EBからは、 心筋細胞以外にも血球系細胞や、 血管系細胞、 神経系細胞、 腸管系細胞、 骨 ·軟骨細胞等の別種細胞が混在して発生してくることが挙げられる。 更に、 これら の分化した細胞の中で心筋細胞が占める割合はあまり高くなく、 全体の 5〜20 %程度 に過ぎない。
別種の細胞が混在している中から、心筋細胞のみを選択的に選別する方法としては 、 ES細胞の遺伝子に人為的な修飾を加え、 薬剤耐性もしくは異所性発現能を付与する ことにより、心筋細胞又はその前駆細胞としての形質を有する細胞を回収する方法が 挙げられる。 例えば、 Fi e l dおよび共同研究者らは、 α型ミオシン重鎖プロモーター の制御下でネオマイシン (G418) 耐性遺伝子を発現し得る遺伝子カセットを、 マウス ES細胞に導入することにより、 その ES細胞が心筋細胞に分化し、 それに伴い α型ミオ シン重鎖遺伝子を発現した時のみ、 G418を添加した培地中で生存し得る系を構築した (特許文献 1、 非特許文献 4参照) 。 この方法により G418耐性細胞として選別された 細胞は、 99%以上の確率で心筋細胞であることが確認されている。 しかし、 この方法 では、 心筋細胞の純度はきわめて高くなるものの、 最終的に得られる心筋細胞数は、 全細胞数の数パーセント程度に過ぎず、移植治療に必要な心筋細胞を得るのは容易な ことではない。
最近、 Chunhuiらは、 ヒト ES細胞を 5-ァザシチジンで処理することにより、 EB中の トロポニン I陽性 (心筋) 細胞が 15 %から 44%に増加することを報告した (非特許文献 9参照) が、 本法においても、 心筋細胞の占める割合が EB中の 50%を越えることはな レ^ また、 脱メチル化剤である 5-ァザシチジンは、 DNMこ結合したメチル基を離脱さ せることにより遺伝子の発現状態を変化させる薬剤であり、薬剤が直接染色体に作用 するため、 移植用細胞を作製する薬剤としては適当ではない。
その他、 ES細胞から心筋細胞をより高率に発生させる方法としては、 例えば、 マウ ス ES細胞では、 レチノイン酸 (非特許文献 1 0参照) ゃァスコルビン酸 (非特許文献
1 1参照) 、 TGF 3、 BMP- 2 (非特許文献 1 2参照) 、 (非特許文献 1 3参照) 、 Dynorphin B (非特許文献 1 4 照)の添加、又は細胞内の活性酸素種(react ive oxigen spec i es: R0S) (非特許文献 1 5参照) や Ca2+ (非特許文献 1 6参照) を増加させる 処理が心筋細胞の分化誘導に促進的に働くことが知られている。 しかし、 これらのい かなる方法においても、 心筋細胞特異的又は選択的な分化誘導は成功していない。 . 本発明者らは、培養時のある期間、培地中に骨形成因子 (Bone Morphogenic Pro tein ; BMP) のシグナル伝達を抑制する物質、 特にノギンを添加することにより、 拍動能 を有し心筋細胞と認められる細胞が、従来法よりも極めて選択的且つ高率に産生され ることを見出している (特許文献 5参照) 。
顆粒球コロニー刺激因子(以下において G- CSFという) は顆粒球系造血幹細胞の分 化誘導因子として発見された造血因子であり、生体内では好中球造血を促進すること から、 骨髄移植や癌化学療法後の好中球減少症治療剤として臨床応用されている。 ま た、上記作用のほかにもヒト G- CSFは幹細胞に作用してその分化増殖を刺激する作用 や骨髄中の幹細胞を末梢血中に動員する作用があることが報告されている。 In vivo の実験で G-CSFにより動員された骨髄幹細胞が、動員された組織で心筋細胞に分化す ることは報告されている (特許文献 6、 非特許文献 1 7 )。 しかし、 G-CSFが直接、 骨 髄幹細胞を心筋細胞に分化するという報告はなく、 さらに、 G-CSFが胎仔期の心筋細 胞に発現していることや心筋細胞の分ィ匕誘導に直接的に用いられるとの報告はない。 さらには、 G-CSFが ES細胞に直接作用し、心筋細胞への分化誘導に用いられるとの報 告は全くない。
上述したように、 従来の方法単独では、 心筋誘導効率にばらつきが生じており、 よ り効率的且つ選択的に心筋細胞に分化誘導する方法が求められている。
特許文献 1 :米国特許第 6, 015, 671号明細書
特許文献 2 :米国特許第 5, 843, 780号明細書
特許文献 3 :米国特許第 6, 090, 622号明細書
特許文献 4 :国際特許公開第 03/06950号パンフレツト
特許文献 5 :国際特許公開第 05/033298号パンフレツト
特許文献 6 :国際特許公報第 04/054604号パンフレツト
非特許文献 1 : Soonpaaら、 Science、 264:98、 1994
非特許文献 2 : Maltsevら、 Mech. Dev.、 44:41、 1993
非特許文献 3 : Maltsevら、 Circ. Res., 75:233, 1994
非特許文献 4 : Klugら、 J. Clin. Invest., 98:216、 1996
非特許文献 5 : Thomsonら、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844, 1995 非特許文献 6 : Thomsonら、 Science, 282 : 114、 1998
非特許文献 7 : Shamblottら、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95:13726、 1998 非特許文献 8 : Kehatら、 J. Clin. Invest.ゝ 108:407、 2001
非特許文献 9 : Clmnhuiら、 Circ. Res., 91:508、 2002
非特許文献 10 : Wobusら、 J. Mol. Cell. Cardiol.、 29:1525、 1997
非特許文献 1 1 : Takahashiら、 Circulation, 107:1912、 2003
非特許文献 12 : Behfarら、 FASEB J.、 16:1558、 2002
非特許文献 13 : Sachinidisら、 Cardiovasc. Res.ゝ 58:278, 2003
非特許文献 14 : Venturaら、 Circ. Res., 92:623、 2003
非特許文献 15 : Sauerら、 FEBS Lett., 476:218、 2000
非特許文献 16 : Liら、 J. Cell Biol., 158:103、 2002
非特許文献 17 : Minatoguchiら、 Circulation, 109:2572、 2004
発明の開示 '
発明力解決しょうとする課題
本発明は、 未分化な ES細胞を高率且つ選択的に心筋細胞に分化誘導する方法、 当該 方法により得られる心筋細胞、及び心筋細胞への分化誘導剤等を提供することを課題 とする。
課題を解決するための手段
本発明者らは G-CSF受容体がマウス胎仔期の心筋細胞に強く発現していること、 お よび G-CSFが胎仔期の心筋細胞の増殖に関与していることを発見した。 さらに本発明 者らは、 ES細胞を用い、 心筋細胞への分化誘導条件について種々検討を重ねた結果、 培養時のある期間、培地中に G-CSF受容体に対するァゴニス卜を添加することにより、 拍動能を有し心筋細胞と認められる細胞が産生され、 また G-CSFが ES細胞から心筋細
胞に分化する際に、 心筋細胞に強い増殖活性を有することを見出した。 本発明者らは かかる知見に基づき本発明を完成した。 . すなわち、 本発明は以下のものを提供する。
(1) ES細胞と G-CSF受容体に対するァゴニストを接触させることを含む、 ES細胞を 心筋細胞に分化誘導する方法。
(2) ES細胞を G-CSF受容体に対するァゴニスト存在下で培養することを含む前記 ( 1) に記載の方法。
(3) G- CSF受容体に対するァゴニストが G- CSFである前記 (1) または (2) 記載の 方法。
(4) 以下の工程を含む前記 (1) 〜 (3) のいずれかに記載の方法:
(a) 細胞培養液に G- CSFを添加する工程および
(b) (a)の培養液を用いて ES細胞を培養する工程。
(5) ES細胞と G-CSFの接触が in vitroで行なわれる前記 (1) 〜 (4) のいずれかに 記載の方法。
(6) ES細胞と G-CSF受容体に対するァゴニストを接触させる前に、 BMPシグナル伝 達を抑制する物質の存在下で ES細胞を培養する工程をさらに含む前記 (1) 〜 (5) のいずれかに記載の方法。
(7) BMPシグナル伝達を抑制する物質がノギンである前記 (6) 記載の方法。
(8) 前記 (1) 〜 (7) のいずれかに記載の方法により得られる心筋細胞。
(9) G-CSF受容体に対するァゴニストを含有する、 ES細胞から心筋細胞への分ィ匕誘 導剤。
(10) G-CSF受容体に対するァゴニストが G-CSFである前記 (9) 記載の分化誘導剤
(1 1) in vitroで用いられる前記 (9) または (10) に記載の分化誘導剤。
(12)ES細胞を心筋細胞に分化させる為の G- CSF受容体に対するァゴニストの使用。
(13) G- CSF受容体に対するァゴニストが G- CSFである前記 (12) 記載の使用。
(14) in vitroで用いられる前記 (12) または (13) に記載の使用。
なお、 本発明の実施において、 ES細胞を用いた細胞培養及び発生、 細胞生物学実験
の一般的方法については、 当該分野の標準的な参考書籍を参照し得る。 これらには、
Guide to Techniques in Mouse Development (Wassermanら編、 Academic Press, 1993 ) ; Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro (M. V. Wiles, Meth. Enzymol. 225:900, 1993) ; Manipulating the Mouse Embryo: A laboratory manual (Hogan 6> 編、 Cold Spring Harbor Laborayory Press, 1994) ; Embryonic Stem Cells (Turksen 編、 Humana Press, 2002) が含まれる。 本明細書において参照される細胞培養、 発生 •細胞生物学実験のための試薬及びキット類は Invitrogen/GIBCO社や Sigma社等の市 販業者から入手可能である。
図面の簡単な説明
図 1は、 マウス胎仔の心臓におけるマウス G-CSF受容体 (csf3r) および心筋特異的 転写因子 Nkx2.5の発現を示す in situハイブリダィゼーシヨンの写真である。
図 2は、 マウス胎仔の心臓切片における G-CSF受容体 (G- CSFR) または心筋特異的 タンパク質であるひ -ァクチニンの発現を示す免疫染色の写真である。核酸は DAPI (4 ' , 6-diamidine-2-phenyl indole dihydrochloride: Sigma Aldrich) で染色した。 図 3は、 E9.5, E10.5 および E13.5のマウス胎仔心臓、 新生仔マウス心臓、 成体マ ウス心臓およびマウス肝臓における G-CSFR、 G- CSFの発現を RT- P CRで試験した写真で ある。 コントロールとして、 GAPDH (glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase) を用いた。
図 4は、 妊娠マウスに G-CSFまたはコントロールとして PBS (リン酸緩衝生理食塩水 ) を投与し、 次いで母体に BrdU (bromodeoxyuridine) を腹腔内投与したときの、 胎 仔心臓切片の免疫染色の写真である。
図 5は、 妊娠マウスに G-CSFを投与したときの効果を示すものであり、 図 5 aは、 図 4と同じ心臓切片をへマトキシン ·ェォジン染色して顕微鏡観察した写真である。 図 5 bは、 G- CSFRノックァゥトマウスと野生型マウスの心臓切片をへマトキシン ·ェ ォジン染色して顕微鏡観察した写真である。 図中、 LVは左心室、 RVは右心室、 LAは左 心房、 RAは右心房を示す。
図 6は、 BrdUラベリング 'インデックスを算出し、 これを図示したグラフである。 図 7は、 妊娠マウス母体に G- CSFを投与した後、 胎仔を取り出して心臓の切片を作
製し、 Phospho-His ton H3による免疫染色を行った写真である。
図 8は、 Phospho- His ton H3ラベリング 'インデックスを算出し、 これを図示した グラフである。
図 9は、 胎生 10. 5日目の心臓を Timel染色した写真である。
図 1 0は、 ノギン処理を行った (ノギン (+) 群) ES細胞に由来する EBと、 ノギン 処理をしなかった (ノギン (一) 群) ES細胞に由来する EBを作製し、 EBでの G- CSFRの 発現を RT-PCRにより試験した結果を示す写真である。心筋細胞に特異的な遺伝子であ る GAPDHをコントロールとして用いた。
図 1 1は、 ノギン処理を行った (ノギン (+) 群) ES細胞に由来する EBと、 ノギン 処理をしなかった (ノギン (一) 群) ES細胞に由来する EBを作製し、 EBでの G- CSFRの 発現を免疫染色により試験した結果を示す写真である。
図 1 2は、 EB形成後 6日目、 7日目および 8日目の EBにおける、 G-CSFRまたは心筋特 異的タンパク質である -ァクチニンの発現を示す免疫染色の写真である。
図 1 3は、 G-CSFを用いた心筋細胞の分化誘導試験の方法を示す図である。
図 1 4は、心筋細胞の分化誘導における G-CSF投与の最適時期を示すグラフである。 図 1 5は、 EB形成後 9日目の EBを用いて、各種心筋に特異的な遺伝子の発現を RT- PCR 法および免疫染色法により試験した結果を示す写真である。
図 1 6は、 G- CSFの至適濃度を検討するために、 種々の濃度の G-CSFを EB6日目に添 加して、 各心筋マーカーの発現を RT PCR法で調べた結果を示す写真である。
図 1 7は、 心筋細胞の分化誘導における G-CSFの至適濃度を示すグラフである。 図 1 8は、 G- CSF処理による ES細胞の心筋分化誘導促進効果に及ぼす抗 G- CSF抗体の 影響を検討するために、 各種濃度の抗 G-CSF抗体を共存させ、 各種心筋マーカーの発 現を RT- PCR法で調べた結果を示す写真である。
図 1 9は、 G-CSFの ES細胞由来の心筋細胞に及ぼす増殖促進作用を試験するために、 EB6日目に G- CSFの添加群と無添加群および G- CSF+ノコダゾール (nocodazo le) 添加 群において、 各種心筋マーカーの発現を RT-PCR法で調べた結果を示す写真である。 図 2 0は、 G- CSFの添加群と無添加群において、 抗 BrdU抗体及び抗 nief2c抗体で二重 免疫染色を行った結果を示す写真 (左側) 及び、 BrdUラベリング ·インデックスを算
出し、 これを図示したグラフ (右側) である。
図 2 1は、 コモン ·マ一モセット ES (CMES) 細胞に及ぼす G- CSFの効果を示すもの であり、 図 2 l aは、 コモン ·マ一モセッ卜 ES (CMES) 細胞の自立拍動性を観察した 結果を示す。 図 2 l bは、 マウス G-CSF又はヒト G- CSFを添加し、 CMES細胞中における 各種心筋マーカーの発現を RT-PCRにより調べた結果を示す写真である。 図 2 1 cは、 G - CSF添加群と無添加群において、 CMES由来 EBの心臓トロボニン I及び Nkx2. 5の発現を 免疫染色で調べた結果を示す写真である。
発明を実施するための形態
本発明に用いられる ES細胞としては、既に培養細胞として広く使用されているマウ ス、 サル、 ヒト等の哺乳動物由来 ES細胞を挙げることができる。 マウス由来 ES細胞の 具体例としては、 EB3細胞、 E14細胞、 D3細胞、 CCE細胞、 R1細胞、 129SV細胞、 J 1細胞 等が挙げられる。 サル由来 ES細胞の具体例としては、 コモン ·マ一モセット ES細胞が 挙げられる。 また、 ES細胞の作製、 継代、 保存法については、 すでに標準的なプロト コールが確立されており、 実施者は、 前項で挙げた参考書籍に加えて、 複数の参考文 献(Matsuiら、 Ce l l 70 : 841 , 1992; Shamb lot tら、 Pro Nat l . Acad. Sc i . USA 95 : 13726, 1998;米国特許第 6, 090, 622号; J i angら、 Nature 418 : 41 , 2002;国際特許公開 01/11011 ) を参照することにより、 これらの ES細胞を容易に使用し得る。
本発明において、 「心筋細胞」 とは、 将来、 機能的な心筋細胞となり得る能力を有 した心筋前駆細胞や、 胎児型心筋細胞、 成体型心筋細胞のすべての分化段階の細胞を 含み、 以下に記載する少なくとも 1つ、 好ましくは複数の方法により、 少なくとも 1 つ、 好ましくは複数のマーカ一や基準が確認できる細胞を意味する。
心筋細胞に特異的な種々のマ一力一の発現は、従来の生化学的又は免疫化学的手法 により検出される。 その方法は特に限定されないが、 好ましくは、 免疫組織化学的染 色法や免疫電気泳動法の様な、 免疫化学的手法が使用される。 これらの方法では、 心 筋前駆細胞又は心筋細胞に結合する、マ一力一特異的ポリクロ一ナル抗体又はモノク 口一ナル抗体を使用することができる。個々の特異的マーカ一を標的とする抗体は巿 販されており、 容易に使用することができる。 心筋前駆細胞又は心筋細胞に特異的な マーカーは、例えば、ミオシン重鎖 軽鎖や -ァクチニン、 トロポニン I、 ANP、 GATA - 4
、 Nkx2. 5, MEF- 2c等が挙げられる。
あるいは、 心筋前駆細胞又は心筋鉀胞特異的マーカーの発現は、 特にその手法は わないが、 逆転写酵素介在性ポリメラーゼ連鎖反応 (RT- PCR) やハイブリダィゼーシ ヨン分析といった、 任意のマ一カー蛋白質をコードする mRNAを増幅、 検出、 解析する ための従来から頻用される分子生物学的方法により確認できる。心筋前駆細胞又は心 筋細胞に特異的なマーカー (例えば、 ミオシン重鎖 軽鎖や α -ァクチニン、 トロポ ニン I、 ANP、 GATA- 4、 Nkx2. 5, MEF- 2c) 蛋白質をコードする核酸配列は既知であり、 GenBankの様な公共デ一夕ベースにおいて利用可能であり、 プライマー又はプローブ として使用するために必要とされるマ一カー特異的配列を容易に決定することがで さる。
更に、 ES細胞の心筋細胞への分化を確認するために、 生理学的基準も追加的に使用 される。 即ち、 ES細胞由来の細胞が、 自立的拍動性を有することや、 各種イオンチヤ ンネルを発現しており電気生理的刺激に反応し得ること等も、その有用な指標となる 本発明における 「G-CSF受容体に対するァゴニスト」 は、 G-CSF受容体に結合し、 G-CSF受容体のシグナル伝達を誘起することができるものであれば特に限定されなレ^ G-CSF受容体に対するァゴニストは、ぺプチド、ァゴニスト抗体、低分子化合物など、 如何なる物質でもよい。 G-CSF受容体のアミノ酸配列は公知である (国際公開番号 W 〇9 1 1 4 7 7 6 )。
G-CSF受容体に対するァゴニストの好ましい例として G- CSFを挙げることができる。 本発明に用いる G-CSFは、 どのような G-CSFでも用いることができるが、 好ましくは 高度に精製された G- CSFであり、 より具体的には、 哺乳動物 G-CSF、 特にヒト G-CSF と実質的に同じ生物学的活性を有するものである。 G- CSFの由来は特に限定されず、 天然由来の G-CSF、 遺伝子組換え法により得られた G - CSFなどを用いることができる が、 好ましくは遺伝子組換え法により得られた G-CSFである。遺伝子組換え法により 得られる G- CSFには、 天然由来の G-CSFとアミノ酸配列が同じであるもの、 あるいは 該アミノ酸配列中の 1または複数のアミノ酸を欠失、 置換、 付加等したもので、 天然 由来の G-CSF と同様の生物学的活性を有するもの等であってもよい。 天然由来の
G-CSFのアミノ酸配列は公知である (配列番号: 1)。 アミノ酸の欠失、 置換、 付加な どは当業者に公知の方法により行うことが可能である。 例えば、 当業者であれば、 部 位特異的変異誘発法 (Got oh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275; Zoller, M.J. and Smith, M. (1983) Methods Enzymol. 100, 468-500; Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456; Kramer, W. and Fritz, H.J. (1987) Methods Enzymol. 154, 350-367 ; Kunkel, T.A. (1985) Pro Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-492; Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766) などを用いて、 G - CSFのアミノ酸 に適宜変異を導入することにより、 G-CSFと機能的に同等なポリペプチドを調製する ことができる。 また、 アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。 置換、 欠失、 付 加等されるアミノ酸数は特に限定されないが、 好ましくは 30アミノ酸以内であり、 より好ましくは 20アミノ酸以内であり、 さらに好ましくは 10アミノ酸以内 (例えば 5アミノ酸以内) である。 又、 一般的に、 G- CSF と機能的に同等なポリペプチドは配 列番号: 1のアミノ酸配列と高い相同性を有する。 本発明において高い相同性とは、 配列番号: 1のアミノ酸配列と 70%以上の相同性、好ましくは 80%以上の相同性、 よ り好ましくは 90%以上の相同性、 さらに好ましくは 95%以上の相同性を有すること を意味する。 アミノ酸の相同性は、 例えば、 文献 (Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 726-730) に記載のアルゴリズムにしたが つて決定することが可能である。 一般的に、 置換されるアミノ酸残基においては、 ァ ミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換されることが好ましい。例え ばアミノ酸側鎖の性質としては、 疎水性アミノ酸(A、 I、 L、 M、 F、 P、 W、 Y、 V)、 親水性アミノ酸 (R、 D、 N、 E、 Q、 G、 H、 K、 S、 T)、 脂肪族側鎖 を有するアミノ酸(G、 A、 V、 L、 I、 P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、 T、 Υ)、 硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸 (C、 M)、 カルボン酸及びアミド含有 側鎖を有するアミノ酸 (D、 N、 E、 Q)、 塩基含有側鎖を有するアミノ離 (R、 K:、 H)、 芳香族含有側鎖を有するアミノ酸 (H、 F、 Y、 W) を挙げることができる (括 弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。 あるアミノ酸配列に対する 1又は複 数個のァミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾され たアミノ酸配列を有するポリぺプチドがその生物学的活性を維持することはすでに
知られている (Mark, D.F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666; Zoller, M.J. & Smith, . Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500; Wang, A. et al. , Science 224, 1431-1433; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
又、 G- CSFと他のタンパク質との融合タンパク質を用いることも可能である。 融合 ポリペプチドを作製するには、 例えば、 G- CSFをコードする DNAと他のタンパク質 をコードする DN Aをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導 入し、 宿主で発現させればよい。 本発明の G- CSFとの融合に付される他のタンパク質 としては、 特に限定されない。
又、 化学修飾した G-CSFを用いることも可能である。 化学修飾した G- CSFの例とし ては、 例えば、 糖鎖の構造変換 ·付加 ·欠失操作を行った G-CSFや、 ポリエチレング リコール 'ビタミン B 12等、無機あるいは有機化合物等の化合物を結合させた G-CSF などを挙げることができる。
又、 G- CSFの部分ペプチドを用いることも可能である。 G- CSFの部分ペプチドは特 に限定されないが、 通常、 G-CSF受容体への結合活性を有している。
本発明で用いる G- CSFは、 いかなる方法で製造されたものでもよく、 例えば、 ヒト 腫瘍細胞ゃヒト G- CSF産生ハイプリドーマの細胞株を培養し、 これから種々の方法で 抽出し分離精製した G- CSF、 あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌、 イースト菌、 チャイニーズハムスター卵巣細胞 (CHO細胞)、 C 127細胞、 COS細胞、 ミエ ローマ細胞、 BHK細胞、 昆虫細胞、 などに産生せしめ、 種々の方法で抽出し分離精 製した G-CSFなどを用いることができる。本発明において用いられる G- CSFは、 遺伝 子工学的手法により製造された G-CSFが好ましく、 哺乳動物細胞 (特に CHO細胞) を用いて製造された G- CSFが好ましい (例えば、 特公平 1一 44200号公報、 特公 平 2— 5395号公報、 特開昭 62— 129298号公報、 特開昭 62— 13289 9号公報、 特開昭 62— 236488号公報、 特開昭 64— 85098号公報)。 本発明者らは後述する実施例に記載するように、 G- CSF受容体がマウス胎仔期の心 筋細胞に強く発現していること、および G-CSFが胎仔期の心筋細胞の増殖に関与して いることを発見した。 また、 G- CSFが in vivoで胎仔期に心筋細胞の増殖を顕著に促
進することを初めて確認した。 さらに、 本発明では、 G- CSFが霊長類の心筋細胞増殖 に 、須であることも示さ 、 ヒトを含む全ての哺¾動物における G- CSFの役割が示唆 された。
本発明において、 ES細胞から心筋細胞を作製する培養法としては、 心筋細胞の分化 誘導に適した方法であれば、 いずれも用いることができ、 例えば、 浮遊凝集培養法、 懸滴 (hanging drop) 培養法、 支持細胞との共培養法、 旋回培養法、 軟寒天培養法、 マイクロキャリア培養法等を挙げることができる。 具体的な方法の例としては、 例え ば浮遊凝集培養法の場合、 単一細胞状態 (酵素消化等を施すことで細胞同士の接着が ない個々の細胞が液相中で分散した状態) とした ES細胞を、 好ましくは、 培地に 10細 胞 ZmL〜l X 107細胞 ZmL、 より好ましくは 100細胞/ mL〜l X 106細胞/ mLの細胞密度 になるように懸濁し、 培養プレートに播種後、 4〜30日間、 好ましくは 6〜15日間、 37 °Cで 5 %の二酸化炭素を通気した C02条件下にて培養する方法を挙げることができる。 また、 別の実施態様として、 支持細胞との共培養法を用いる場合、 支持細胞として は、 特にこれを限定しないが、 好ましくは間葉系細胞の性質を有した細胞、 さらに好 ましくは ST2細胞、 0P9細胞、 PA6細胞等の骨髄ストローマ細胞様の形質を有する細胞 が挙げられる。 これらの支持細胞を高密度培養、 マイトマイシン C処理、 又は放射線 照射等の方法によりフィーダ一化し、 その上に、 培地に 1細胞 ZmL〜l X 106細胞/ mL、 好ましくは 100細胞 ZmL〜l X 105細胞 ZmL、 より好ましくは 1 X 103細胞 ZmL〜l X 104細 胞 mLの細胞密度になるように懸濁した単一細胞状態の ES細胞を播種後、 4〜30日間、 好ましくは 6〜15日間、 37°Cで 5 %の二酸化炭素を通気した C02条件下にて培養すること ができる。
本発明では、 ES細胞と G-CSF受容体に対するァゴニスト、 好ましくは G- CSFを接触さ せることによって、 ES細胞を心筋細胞に分化誘導することが促進される。好ましくは 精製組換え G-CSFを培地中に添加する方法が挙げられる。 その他にも、 精製組換え G-CSFを培地中に添加する方法と同様の効果を示す方法であれば、 いずれも用いるこ とができる。例えば、 G-CSFの遺伝子発現ベクターを ES細胞自身に導入する方法、 G-CSF の遺伝子発現ベクターを支持細胞に導入し、その導入細胞を共培養細胞として用いる 方法、 又はその導入細胞の培養上清等の細胞産生物を用いる方法、 等が挙げられ、 本
発明に係る方法においては何れも G-CSF受容体に対するァゴニストを培地中に添加す る実施形態として含 ¾れる。
具体的には、 例えば、 本発明は以下の工程を含む:
(a) 細胞培養液に G-CSFを添加する工程および
(b) (a)の培養液を用いて ES細胞を培養する工程。
本発明の実施において、 使用する G-CSF受容体に対するァゴニストは、 ES細胞が由 来する種と同種の動物由来のものが好ましいが、異種動物由来のものも使用すること ができる。
また、 本発明では、 ES細胞と G-CSFの接触を in v i t roで行うことが好ましい。 本発明の実施においては、 ES細胞を未分化状態に維持するため、 当該 ES細胞の動物 種に応じて、 通常用いられる条件下で培養することが好ましい。 即ち、 マウス ES細胞 の場合は、 培地中に 100〜10000 U/mL, 好ましくは 500〜2000 U/mL濃度の白血病抑制 因子 (Leukemi a inhi b i t ory f ac t or: L IF) を添加しておくことが好ましい。
その後、 LIFを除去した分化用培地で ES細胞を心筋細胞へと分化誘導する。分化誘 導の開始においては、 ES細胞と G- CSF受容体に対するァゴニストを接触させる前に、 ES細胞と BMPシグナル伝達を抑制する物質の存在下で ES細胞を培養することが好ま しい。 BMPシグナルを抑制する物質として BMPアンタゴニスト (例えば、 ノギン蛋白 質、 コ一ディン蛋白質等) を用いる場合、 古い培地を無菌的に除去した上で、 1 ng/mL 〜 2 g/ml、好ましくは 5 ng/mL〜 1000 ng/raL、より好ましくは 10 ng/mL〜 500 ng/mL の濃度のノギン蛋白質、 又はコーディン蛋白質を含有する培地で置換し、 好ましくは 数日間、 より好ましくは 3日間培養を継続する。
次いで、 G- CSF受容体に対するァゴニストとして G- CSFを用いる場合には、 古い培地 を無菌的に除去した上で、 培地中の最終濃度が 0. 01 ng/mL〜 500 n g/mK 好ましく は 0. 05 ng/mL〜 300 ng/mL、 より好ましくは 0. 75 ng/mL〜 25 ng/mLあるいは 2. 5 ng/mL 〜 25 ng/mLになるように G-CSFを添加し、 培養を継続する。 G-CSFを添加する時期は 分化開始後 3〜10日目、 より好ましくは 5〜8日目であるが、 至適濃度や適用日数は適 宜変更しうる。
上記の方法により、 ES細胞から分化誘導した心筋細胞は、 引き続き、 公知の方法に
よる細胞回収、 分離、 精製法を用いることにより、 高純度の心筋細胞を効率的かつ多 量に得ることができる。
心筋細胞の精製方法は、公知となっている細胞分離精製の方法であればいずれも用 いることができるが、 その具体的例として、 フロ一サイトメ一夕一や磁気ピーズ、 パ ンニング法等の抗原一抗体反応に準じた方法 (Monoc lonal Ant ibodi es : pr inc ipl es and prac t i ce, Thi rd Ed i t i on (Acad. Press, 1993) ; Ant ibody Engineer ing: A Prac t i cal Approach (IRL Press at Oxford Univers i ty Press, 1996) や、 ショ糖、 パーコール等の担体を用いた密度勾配遠心による細胞分画法を挙げることができる。 また、 別の心筋細胞選別法としては、 元となる ES細胞等の多能性幹細胞の遺伝子に前 もって人為的な修飾を加え、薬剤耐性もしくは異所性蛋白質の発現能を付与すること により、 心筋細胞としての形質を有する細胞を回収する方法が挙げられる。 例えば、 F i e 1 dおよび共同研究者らは、 ひ型ミオシン重鎖プロモータ一の制御下でネオマイシ ン (G418) 耐性遺伝子を発現し得る遺伝子カセットを、 マウス ES細胞に導入すること により、 その ES細胞が心筋細胞に分化し、 それに伴い α型ミオシン重鎖遺伝子を発現 した時のみ、 G418を添加した培地中で生存し得る系を構築し、 この方法により G418耐 性細胞として選別された細胞は、 99%以上の確率で心筋細胞であることが確認されて いる (米国特許第 6, 015, 671号; J. Cl in. Inves t. 98 : 216, 1996) 。
別の実施態様において、 本発明は、 上記の本発明の分化誘導方法を用いて ES細胞 を分化誘導することにより作製された心筋細胞、 すなわち心筋細胞の形態学的、 生理 学的及び/又は免疫学的特徴を示す細胞に関する。生理学的及び Z又は免疫学的特徴 は、 特にこれを限定しないが、 本発明の方法によって作製された細胞が、 心筋細胞と して認識される、心筋細胞に特異的な 1つ又はそれ以上のマーカーを発現していれば よい。
また別の実施態様において、 本発明は、 G-CSF受容体に対するァゴニストを含有す る、 ES細胞から心筋細胞への分化誘導剤に関する。 好ましい G-CSF受容体に対するァ ゴニストは G- CSFであり、 また in vi troで用いることが好ましい。
また別の実施態様において、 本発明は、 ES細胞を心筋細胞に分化させる為の G-CSF 受容体に対するァゴニストの使用に関する。 好ましい G-CSF受容体に対するァゴニス
トは G- CSFであり、 また in vitroで用いることが好ましい。
本発明によ,り調製された心筋細胞ま、心筋再生薬又は心臓疾患治療薬として用いる ことができる。 心臓疾患としては、 心筋梗塞、 虚血性心疾患、 うつ血性心不全、 肥大 型心筋症、 拡張型心筋症、 心筋炎、 '漫性心不全などを挙げることができる。 心筋再生 薬又は心臓疾患治療薬としては、本発明により調製された心筋細胞を高純度で含むも のであれば、 細胞を培地等の水性担体に浮遊させたもの、 細胞を生体分解性基質等の 支持体に包埋したもの、 あるいは単層もしくは多層の心筋細胞シート (Shimizuら、 Circ. Res. 90:e40, 2002) に加工したもの等、 どの様な形状のものでも用いること ができる。
上記の治療薬を障害部位に輸送する方法としては、 開胸し、 注射器を用いて直接心 臓に注入する方法、 心臓の一部を外科的に切開して移植する方法、 さらには力テーテ ルを用いた経血管的方法により移植する方法等 (Murryら、 Cold Spring Harb. Sy即. Quant. Biol. 67:519, 2002; Menasche, Ann. Thorac. Surg. 75:S20, 2003 ; Dowell ら、 Cardiovasc. Res. 58:336, 2003) が挙げられるが、 特にこれを限定しない。 こ の様な方法により、胎児心臓から回収した心筋細胞を心傷害動物の心臓に移植すると 、きわめて良い治療効果を示すことが報告されている(Menasche、 Ann. Thorac. Surg. 75-.S20, 2003 ; Reifelmannら、 Heart Fail. Rev. 8:201, 2003) 。 ES細胞由来の心 筋細胞は、 胎児心臓由来の心筋細胞ときわめてよく似た形質を呈している (Maltsev ら、 Mech. Dev. 44:41, 1993; Circ. Res. 75:233, 1994) 。 また、 実際に ES細胞由 来の心筋細胞を成体心臓に移植した動物実験例では、胎児心筋を移植した例とほぼ変 わらない、極めて高い生着性を示すことも確認されている(Klugら、 J. Clin. Invest. 98:216, 1996) 。 そのため、 心筋細胞の疲弊および脱落に起因する上記の心疾患にお いて、 本発明記載の方法により調製した心筋細胞を、 病的心臓組織に補充的に移植す ることにより、 心機能の改善を促すことが期待できる。
発明の効果
本発明方法を用いることにより、 ES細胞から心筋細胞が効率的かつ選択的に生産で きる。 特に、 本発明の方法は分化直後の心筋に作用するため、 既存の方法と組み合わ せることによって、 より誘導効率を上げることが可能となる。 この様にして作製され
た心筋細胞は、 心疾患治療に有効な薬剤の探索 '開発に利用できるとともに, 重篤な 心疾患に対する心筋移植治療に適 できる可能性がある。
実施例
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の単 なる例示を示すものであり、 本発明の範囲を何ら限定するものではない。
実施例 1 :マウス胎仔心臓由来の心筋における G-CSF受容体の発現
以下の方法を用いてマウス胎仔心臓由来の心筋における G-CSF受容体の発現を検討 した。
(1) in situハイブリダィゼ一シヨンによる検討
妊娠した ICR野生型マウスを日本 CLEAから購入した。 胎生 (日) E7.5, E8.5, E9.5 および E10.5で胎仔を取り出し、 ジゴキシゲニン標識 RNAプローブを用いて、 文献記 載の方法 (Sasaki H. et al., Development 118, 47- 59 (1993))によって心臓の whole-mount in situ hybridization (WISH)を行った。 マウス G- CSF受容体 (csf3r) および心筋特異的転写因子 Nkx2.5 (accession number はそれぞれ雇— 008711 NM_008700) の全長 c DNAを逆転写 PCR (RT-PCR) により得て、 これを pBluescriptプ ラスミドにサブクロ一ニングした。 csf3rの sense primerとして 5'_CCC CTC AAA CCT ATC CTG CCT C-3' (配列番号: 2)、 antisense primerとして 5' -TCC AGG CAG AGA TCA GCG AAT G-3' (配列番号 3 )、 Nk 2.5の sense pr imerとして 5' -CAG TGG AGC TGG ACA AAG CC-3' (配列番号: 4)、 antisense primerとして 5' -TAG CGA CGG TTC TGG AAC CA - 3' (配列番号: 5 )を使用した。プローブは T3または T7 RNAポリメラ一ゼで転写した。 得られた結果を図 1に示す。 G- CSF受容体(csf3r) は E7.5および E8.5で強く発現し ているが、 それ以後のステージでは検出されなかった。 一方 Nkx2.5は後半のステー ジで発現していた。
(2) 免疫染色による検討
E8.5, E9.5 および E10.5のマウス心臓を 4%パラホルムアルデヒドで 45分固定し、 Tissue-Tek OCT (Sakura Finetek)を用いて包埋して、 切片を作製した。 各サンプル を G- CSF受容体 (G-CSFR) (H176: santa cruz社) または心筋特異的タンパク質であ るひ-ァクチニンに対する 1次抗体と結合させた。 さらに Mexa488標識 2次抗体
(Molecular Probes ¾) と順次反応後、蛍光顕微鏡下にて観察を行った。核酸は DAPI (4' , 6-di ami dine-2-phenyl indole dihydrochloride: Sigma Aldrich) で染色した。 結果を図 2に示す。 心臓および体節に胎生 8.5日目から G-CSF受容体が発現し、 その 後 9.5日目でピークに達することが確認された。
(3) 逆転写 PCR (RT-PCR) 反応による検討
E9.5, E10.5 および E13.5のマウス胎仔心臓、 新生仔マウス心臓、 成体マウス心臓 およびマウス肝臓における G-CSFR、 G-CSFの発現を検討した。 心筋細胞に特異的な遺 伝子である GAPDH (glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase) をコントロールと して用いた。各組織から全 RNAを Trizol試薬(GIBC0)で抽出し、文献記載の方法(Niwa, H. et al., Nat. Genet. 24, 372-376 (2000)) を用いて RT- PCRを行った。 得られた 結果を図 3に示す。 G-CSFRは E9.5, E10.5の胎仔心臓で強く発現していることが認め られた。
実施例 2 :心臓発生における in vivoでの G- CSFの作用 (1)
妊娠 9.0日目にマウスを開腹し、 子宮内に直接 G-CSF (100ng/kg) またはコントロー ルとして PBS (リン酸緩衝生理食塩水) を投与した。 次いで妊娠 9.5日目に母体に BrdU (bromodeoxyuridine) を腹腔内投与した。 BrdUは DNA合成の際に取り込まれ、 免疫染 色により増殖を評価することができる。妊娠 12.5日目に胎仔を取り出して心臓の切片 を作製した。 実施例 1 (2) に記載した免疫染色と同様の方法で試験した結果を図 4 に示す。 G- CSFは胎仔の心筋増殖を促進することが確認できた。
また、 心臓切片をへマトキシン ·ェォジン染色して顕微鏡観察した結果を図 5 aに 示す。 G- CSF投与した胎仔の心臓では、 trabecular layerが延長していることが観察 された。
さらに、 同様の試験を G- CSF受容体を欠損させた G- CSFRノックアウトマウス (以 下において、 G- CSF— マウスと記載する) (Washington University, School of Medison の Dr. Daniel C. Linkから恵与された) (Richards et al., Blood, 102, 3562-3568, (2003))で実施して、野生型マウスと比較した。心臓切片をへマトキシン' ェォジン染色して顕微鏡観察した結果を図 5 bに示す。 G- CSF— /_マウスでは、胎仔心 臓の心房壁及び心室壁が野生型マウスと比較して有意に薄くなっており、 いくつかの
マウスでは心房中隔欠損が見られた。これらのマウスの約 50%が後期胚ステージで死 亡しこ。 .
さらに、 心筋増殖促進効果を定量するために、 以下の式により BrdUラベリング · インデックスを算出した。 なお、 本試験では、 野生型マウスを用い、 妊娠 10. 5日目 に BrdUを投与し、 12. 5日目に解析した。
BrdU label ing index = BrdU pos i t ive nuclei / total nuc lei x 100 (¾)
得られた結果を図 6に示す。 G-CSF投与によって心筋の増殖が亢進することが観察 された。
実施例 3 :心臓発生における in vivoでの G- CSFの作用 (2 )
妊娠マウス母体に妊娠 9. 0日目に子宮内に G- CSFを 2ng直接投与した。 妊娠 13. 5日目 に胎仔を取り出して心臓の切片を作製し、 Phospho- His ton H3による免疫染色を行つ た。 Phospho-Hi s ton H3は細胞増殖過程で特異的に染色される色素である。 得られた 結果を図 7に示す。 G-CS投与によって胎仔の心筋増殖が亢進することが観察された。 次に、 以下の式によりラベリング ·インデックスを算出した。
Label ing index = Phospho - His ton H3 pos i t ive nuc lei / total nuclei 100 (%) 得られた結果を図 8に示す。 G- CSFは胎生 8. 5日目から 10. 5日目にかけて心筋増殖 を強く亢進することが観察された。
また、胎生期心臓のアポトーシスに及ぼす G-CSFの影響を調べるために、胎生 10. 5 日目の心臓を Tunel染色した。 Tune l染色はアポト一シスの間に生じる DNA断片を識 別できる染色法である。 得られた結果を図 9に示す。 胎生 10. 5日目の心臓でアポト 一シスはほとんど観察されなかった。
実施例 4: ES細胞由来心筋細胞における G-CSF受容体の発現
以下の実験には、 ES細胞として、 EB3細胞 (丹羽仁史博士 〔理科学研究所〕 より恵 与) および R1細胞 (Andrew Nagy博士 〔Mount Sinai病院;カナダ〕 より恵与) を用い た。 これらの ES細胞は、 10%仔牛胎児血清、 2 niM L -グルタミン、 0. 1 mM非必須アミ ノ酸液、 1 mMピルビン酸ナトリウム、 0. 1 mM 2-メルカプトエタノールおよびを 2000 U/mL白血病抑制因子 (Leukemia inhibi tory factor: LIF) (ESGR0; Chemicon社) を 含む Gl asgow Minimum Essent ial Medium (GMEM ; Sigma社) 培地中で、 ゼラチンコー
トしたプレート中に維持した。
ES細胞から EBを形成させるための浮遊培養は以下の様にして行った。 ES細胞を 10% 仔牛胎児血清、 2 mM L -グルタミン、 0. 1 mM非必須アミノ酸液、 1 mMピルビン酸ナト リウム、 0. 1 mM 2 -メルカプトエタノール、 2000 U/mL白血病抑制因子および 0. 15 g/ml ノギン (Noggin- Fc、 R&D社) を含む α_ΜΕΜ培地中、 ゼラチンコートしたプレー トで 3日間培養した。 次に ES細胞をトリプシン溶液で処理をすることにより単一細胞 状態にし、 引き続き、 コートしていないペトリ皿上で、 三次元培養システムを用いて 上記と同じ分化培地 (ただし LIFを含まない) 中で培養してスフエロイド (球状体) を形成させ、 ΕΒ (肺様体) を誘導する。 本実験条件では、 浮遊培養直後から ES細胞が 凝集して ΕΒの形成が認められ、浮遊培養後?〜 8日目ごろから一部の ΕΒで自立拍動性が 観察されるようになる。
上記の方法により、 ノギン処理を行った (ノギン (+ ) 群) ES細胞に由来する ΕΒと 、 ノギン処理をしなかった (ノギン (―) 群) ES細胞に由来する ΕΒを作製し、 ΕΒでの G - CSFRの発現を RT- PCRにより試験した。 心筋細胞に特異的な遺伝子である GAPDHをコ ントロールとして用いた。 得られた結果を図 1 0に示す。 ノギン処理を行った (ノギ ン (+) 群) ES細胞に由来する ΕΒでは G-CSFRが ΕΒ形成後 5日目以降に発現することが 観察された。
また、 ΕΒ形成後 6日目の ΕΒを用いて、 免疫染色を行った結果を示すのが図 1 1であ る。 ノギン処理を行った (ノギン (+) 群) ES細胞に由来する ΕΒでは G - CSFRの発現が 増加しており、 これはノギンによる心筋誘導によって G- CSFRの発現が増加することを 示している。
次に、 EB形成後 6日目、 7日目および 8日目の EBを用いて、 実施例 1 ( 2 ) と同様な 方法を用いて免疫染色した結果を図 1 2に示す。 EBを OCTで包埋することで切片を作 成し、 1次抗体として上記 G-CSF受容体抗体を 1 : 50、抗 aァクチ二ン抗体 (EA-53 , Sigma) を 1 : 800の比率で反応させ、 2次抗体として Alexa488及び Alexa546と反応させた後、 核 染した。 EB形成後 6日目、 7日目および 8日目の EBでは、 心筋マ一カーの α-ァクチニン と G-CSFは共発現しており、 これは ES細胞を心筋細胞に分化誘導する際に、 G- CSFは心 筋マーカーと共発現することを示している。
実施例 5 : G-CSFの ES細胞由来の心筋細胞に及ぼす分化誘導作用
G- CSFを用いた心琦細胞の分化誘導試験を 01 3に示す方法で行った。 すなわち、 ゼラチンコーティングしたディッシュ上で ES細胞を LIFの存在下に未分化な状態に維 持しておき、 0日目に LIF非存在下で浮遊培養して、 ES細胞の分化を開始すると 9日目 で心筋細胞に分化した EBが得られる。 5日目、 6日目、 7日目および 8日目に G- CSF ( 2.5ng/ml) を添加して EBの形成に及ぼす作用を検討した結果を図 14に示す。 本作用 については、 自律拍動している EB数を全 EB数で除すことにより算出した。 6日目で G-CSFを投与したときが最も EB形成に効果があり、 G- CSF投与の最適時期は 6日目であ ることが示された。
次に、 9日目の EBを用いて、 各種心筋に特異的な遺伝子の発現を RT-PCR法および免 疫染色法により試験した。 RT-PCR法で用いた心筋マーカーは Tbx-5、 MEF-2c (muscle enhancement factor- 2c) 、 Nkx2.5、 GATA- 4、 jSMHC (β 聊 sin heavy chain) 、 MLC-2v (myosin light chain-2v)、 aMHC (a -myosin heavy chain) 、 BNP (brain natriuretic peptide) 、 ANP (atrial natriuretic peptide) および GAPDH (glyceraldehyde-3- phosphate dehydrogenase) であった。 免疫染色法で用いた心筋マーカーは、 a -マり チニン、 ァクチン、 トロポニン卜 MF20および ANPであった。 得られた結果を図 1 5 に示す。 G-CSF投与群ではいずれの心筋マ一カーの発現も増加していた。
さらに、 G- CSFの至適濃度を検討するために、 種々の濃度 (0.25、 0.75、 2.5、 7.5、 25、 75ng/ml) の G-CSFを EB6日目に添加して、 各心筋マ一カーの発現を RT- PCR法で調 ベた。 なお、 試験には H (2 X 103 cell/ml) と L (5 104 cell/ml) の 2つの細胞密 度の EBを用いた。 得られた結果を図 1 6に示す。 細胞密度に依らず、 収縮蛋白、 転写 因子、分泌蛋白ともに 0.25〜25ng/mlの G-CSF添加によって対象群に比して発現が上昇 しており、 この濃度が至適濃度と考えられる。
上記結果から G-CSFの至適濃度を求めた結果を図 1 7に示す。 至適濃度の検討は、 自律拍動している EB数を全 EB数で除すことにより求めた数値を比較することにより 実施した。 この結果、 G-CSFの至適濃度は 0.75 ng/mlであることが観察された。
実施例 6 : G-CSFの心筋分化誘導作用に対する G-CSF抗体の阻害効果
G-CSF処理による ES細胞の心筋分化誘導促進効果が、 内因性 G-CSFシグナリング経路
を介している可能性を確認するため、 G-CSF処理と同時に抗 G- CSF抗体 (R&Dsystems 社) を培地中に添加し、 その効果を検寸した。 EB6日目に G-CSF (7.5 ng/mL) の添加 と同時に各種濃度 (0、 1、 3、 9 ng/ml) の抗 G-CSF抗体を共存させ、 その影響を各種 心筋マーカーを用いて調べた結果を図 18に示す。 抗 G- CSF抗体は濃度依存的に、 心 筋マーカーの発現を低下させることが観察された。
実施例 7 : G- CSFの ES細胞由来の心筋細胞に及ぼす増殖促進作用
G-CSFの ES細胞由来の心筋細胞に及ぼす増殖促進作用を試験するために、 EB6日目に G-CSF (7.5 ng/mL) の添加群と無添加群および G-CSF+ノコダゾール (nocodazole) (0.2 g/mL) 添加群を作製した。 ノコダゾ一ルは紡錘糸形成阻害作用によって細胞 分裂を特異的に阻害する薬剤である。 これらの 3群につき、 各種心筋マーカーを用い て RT-PCRにより調べた結果を図 19に示す。 EBに G- CSFを作用させると同時にノコダ ゾールを添加して細胞分裂を阻害することによって心筋マーカーの発現上昇がキヤ ンセルされる結果となった。 このことは G-CSFの作用が心筋の前駆細胞の増殖を促進 するものであることを示す。
また、 EB6日目に G- CSF (2.5 ng/mL) の添加群と無添加群を作製し、 次いで BrdUと 一緒に 18時間インキュベートした。 これらにつき抗 BrdU抗体 (Roche社製) 及び抗 mef2c抗体 (SantaCruz社製) で二重免疫染色を行った結果を図 20 (左) に示す。 また、 BrdUラベリング ·インデックスを算出した結果を図 20 (右) に示す。 G- CSF が心筋細胞の細胞増殖を促進することが確認された。
実施例 8 :霊長類の心臓発生における G-CSFの作用
コモン ·マ一モセット ES (Common Marmoset ES:CMES) 細胞の作製
霊長類の心臓発生における G- CSFの作用を試験するために、 コモン ·マ一モセット ES (Common Marmoset ES: CMES) 細胞 (#20) (Sasaki et al., Stem Cells 23, 1304-1313 (2005))を用いた。 CMES細胞を Knockout DMEM (GIBCO)培地 (20¾ Knockout Serum Replacement (KSR; GIBCO), 1 mM L-glutamine (GIBCO), 0.1 mM MEM非必須 アミノ酸 (GIBCO), 0.1 mM i3-メルカプトエタノール (2-ME; Sigma), 10 ng/ml 線 維芽細胞増殖因子 (bFGF; Invitrogen) 及び 10 ng/ml ヒト白血病抑制因子 (hLIF; Alonione labs) を補充) 中で、 有糸分裂不活性化マウス胚線維芽細胞 (MEF) の層上
で維持した。 CMES細胞を 5日ごとに継代して未分化状態を維持した。
EBの作製
未分化の CMES細胞を MEFフィーダ一層から剥離し、 ヒト及びサル ES細胞用剥離液 ( ReproCELL, JAPAN) を用いて小さなコロニ一に分離し、 次いでこれを bFGF及び hUFを 含まない培地中で、 HydroCel l (登録商標) 培養プレート (Cel lSeed, JAPAN) を用い て懸濁培養して EBを得た。
G- CSFの作用の検討
EB形成後、 4日目、 6日目および 9日目に G- CSF (2. 5 ng/mL) を添加して、 自立拍動 性を観察した。 得られた結果を図 2 1 aに示す。 最も良好であつたのは EB形成後 6日 目に添加した場合であり、 G - CSF添加群と無添加群との違いは U日目で明らかとなつ た。 G-CSF添加の心臓形成に及ぼす作用は EB形成後 6日目が最も大きく、 それよりも前 であつても後であつても小さくなることが観察された。
マウス G-CSF又はヒト G- CSFを添加し、 CMES細胞中における各種心筋マーカ一の発現 を RT- PCRにより調べた結果を図 2 1 bに示す。マウス G- CSF及びヒト G- CSFのいずれも 心筋マーカーの発現を強く増強することが観察された。 また、 免疫染色で調べた結果 を図 2 1 cに示す。 G- CSFは CMES由来 EBの心臓トロポニン I及び Nkx2. 5陽性領域を増 強した。
これらの結果から、 G-CSFが霊長類の心筋細胞増殖に必須であることが示され、 ヒ トを含む全ての哺乳動物における G-CSFの役割が示唆された。