JPWO2008081721A1 - 締結部材、及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】より高いゆるみ止め効果を奏する締結部材を提供すること。【解決手段】雄ねじ構造を有し、そのねじ山の山頂部から谷部に向かって順に、上部、空間部、及び下部を備える締結部材であって、前記上側部は基準面よりも外側に膨出する膨出部を備え、前記空間部は前記膨出部の下縁から前記ねじ山の山頂部方向に形成され、前記下部の側面は前記基準面に沿うか、又は前記基準面よりも内側に位置し、雌ねじ構造を有する相手側締結部材に締結したとき、前記上部の形成材料が弾性変形して前記空間部が変形し、前記上部がスプリングバックして前記相手側締結部材のねじ山との間に生じる摩擦力が増加することを特徴とする締結部材とする。

Description

本発明はおねじ構造を有する締結部材の改良に関する。
従来、ボルトやナットなどのねじ構造を有する締結部材が広く使用されている。実際にボルトをナットに締めこむことを可能にするためには、ボルトの外径及び有効径、ナットの内径及び有効径について、寸法上の公差を設ける必要がある。その一方で、公差によりゆるみが生じる可能性がある。従来、このゆるみの発生を防止するために種々の工夫がなされている。特許文献1には、雄ねじのねじ山先端に、ねじの軸に垂直な方向にスリットが設けられた締結部材であって、雄ねじのねじ山先端には雌ねじに圧接する先端圧接部が設けられ、雄ねじの側面には雌ねじの側面に圧接する根元圧接部が設けられた締結部材が開示されている。この締結部材では、雄ねじを雌ねじに締め付けると、根元圧接部が雌ねじに圧接することにより、雄ねじ先端においてスリットが開く方向に力が働く。これにより、雄ねじ先端の先端圧接部は雌ねじへ積極的に圧接されることとなる。このように雄ねじのねじ山において先端圧接部と根元圧接部の2点で雌ねじに圧接されることによりゆるみ止め効果を奏している。また、別の方法としてボルト又はナットのねじ山の一部に樹脂被膜層を設け、かかる樹脂被膜層とともに締め付けることでゆるみ止めを行う方法等が知られている。
特許公報第2724099号
特許文献1に開示された締結部材では、雄ねじは先端圧接部と根元圧接部の2点で雌ねじに接する。そのため雄ねじのねじ山において雌ねじと接する面積は実質的に小さく、そこに生じる摩擦力も大きいものではない。従って、十分なゆるみ止め効果を発揮するには改良の余地がある。また、樹脂被膜層によりゆるみ止めを行う方法では、再使用時に樹脂被膜層を再度形成しなければならず、手間がかかる。
ところで、ねじ構造を有する締結部材は例えば図1に示すように、ボルト101とナット102からなり、ボルトの座面103とナットの座面104により部材107と部材108を強固に押圧することにより締結するものである。かかる押圧荷重は、ボルト101のねじ山105とナット102のねじ山106にかかる。一般的に図1に示すようにボルト101とナット102を締結したとき、ボルト101のねじ山105にかかる全荷重のおよそ60%の荷重が第1ねじ山109にかかり、残りのおよそ40%は他のねじ山にかかる。このように、第1ねじ山109は他のねじ山に比べて多くの荷重がかかるため、第1ねじ山109に変形や破損が生じ易く、ねじの耐久性を低下させる原因の一つとなっていた。
そこで、本発明はより高いゆるみ止め効果を奏する締結部材を提供することを目的の一つとする。また、容易に再使用することができる締結部材を提供することも目的とする。さらに、第1ねじ山への荷重の集中が防止される締結部材を提供することも目的とする。
本発明は以上の課題を達成するために、以下に示す締結部材を提供する。即ち、
雄ねじ構造を有し、そのねじ山の山頂部から谷部に向かって順に、上部、空間部、及び下部を備える締結部材であって、
前記上部は基準面よりも外側に膨出する膨出部を備え、
前記空間部は前記膨出部の下縁から前記ねじ山の山頂部方向に形成され、
前記下部の側面は前記基準面に沿うか、又は前記基準面よりも内側に位置し、
雌ねじ構造を有する相手側締結部材に締結したとき、前記上部の形成材料が弾性変形して前記空間部が変形し、前記上部がスプリングバックして前記相手側締結部材との間に生じる摩擦力が増加することを特徴とする締結部材とする。
本発明の締結部材は、膨出部を備えるねじ山上部の弾性変形を許容する空間部を備える。かかる締結部材を雌ねじ構造を有する相手側締結部材に締結すると、膨出部は雌ねじのねじ山により押圧される。これにより、雄ねじのねじ山の形成材料が弾性変形して空間部の容積が縮小し、相手側締結部材のねじ山に対してスプリングバックする。その結果、相手側締結部材との間の摩擦力が増加し、高いゆるみ止め効果を奏する。さらに、膨出部は締結状態において、相手側締結部材のねじ山にスプリングバックするため、相手側締結部材との締結部において、本締結部材の第1ねじ山にかかる荷重が他のねじ山へ分散されることとなる。その結果、第1ねじ山への荷重の集中が緩和され、耐久性の低下が防止される。また、このようなスプリングバックにより、本締結部材と相手側締結部材との間に十分な摩擦力が確保される。その結果、ゆるみが防止される。
図1は従来の締結部材101の模式図である。 図2Aは本発明の一態様における、非締結状態のねじ山10における山頂部側の縦断面の一部拡大図である。 図2Bは本発明の一態様における、非締結状態のねじ山10における谷部側の縦断面の一部拡大図である。 図3Aは本発明の締結部材1の非締結状態における正面図であり、図3Bは締結状態における正面図(一部透過図)である。 図4は非締結状態のねじ山10の縦断面図である。 図5Aは図3Aの縦断面一部拡大図であり、図5Bは図3Bの縦断面一部拡大図である。 図6は本発明の締結部材1のねじ山10の形成工程における断面模式図である。 図7は本発明の他の実施例である締結部材(ボルト)700のねじ山710の非締結状態における縦断面図である。 図8Aは非締結状態のねじ山710の縦断面であり、図8Bは締結状態のねじ山710の縦断面である。 図9は本発明の締結部材700のねじ山710の形成工程における断面模式図である。
符号の説明
1 700 締結部材(ボルト)
10 710 ねじ山
10a 基準面
11 710 上部
12 712 膨出部
13 713 山頂部
14 714 下縁
15 715 側面
716 下縁近傍領域
16 717 上側部形成用凸条部
718 壁面
20 720 空間部
21 721 上面
22 下面
23 最深部
30 下部
40 連結部
6 相手側締結部材(ナット)
以下、本発明の締結部材における構成要素について詳細に説明する。
本発明の第1の局面における締結部材は雄ねじ構造を有し、そのねじ山の山頂部からねじ谷部に向かって順に、上部、空間部、及び下部を備える。本明細書でいう「雄ねじ構造」とは、円柱状の本体部において、その側面に先端部へ向かって螺旋状に形成されたねじ山とねじ谷を有する構造を指す。雄ねじ構造としては、例えばメートルねじ、ユニファイねじ又はウィットねじを採用することができる。なお、本明細書において「上側」とは、ねじ山に対して山頂部側を示し、「下側」とはねじ山に対して谷部側を示す。
ねじ山の上部は基準面よりも外側に膨出する膨出部を備える。本明細書における「基準面」とは、規格されたねじのねじ山の側面を指す。本発明の締結部材の雄ねじ構造としてメートルねじを採用する場合は、基準面をメートルねじのねじ山の側面とし、本発明の締結部材の雄ねじ構造としてウィットねじを採用する場合は、基準面をウィットねじのねじ山の側面とする。なお、メートルねじのねじ山の角度は60°であり、ウィットねじのねじ山の角度は55°である。膨出部は上部の一部に設けても良いし、全体に設けても良い。即ち、膨出部の外側面が上部の側面の一部又は全部となる。かかる膨出部によれば、雌ねじ構造を有する相手側締結部材に締結したとき、後述するようにねじ山の上部の形成材料が弾性変形して、膨出部がスプリングバックすることにより相手側締結部材との間に生じる摩擦力が増加する。その結果、高いゆるみ止め効果を奏する。膨出部は、ねじ山の山頂部側から上部の下縁側へ連続的又は段階的に膨出するように設けることが好ましい。中でもねじ山の山頂部から上部の下縁まで漸次膨出するように設けることがより好ましい。このようにすれば、膨出部と雌ねじのねじ山とが接する面積が大きくなるため、より大きな摩擦力を得ることができ、高いゆるみ止め効果を奏するからである。雄ねじ構造としてメートルねじを採用する場合は、膨出部によって形成されるねじ山の角度は非締結状態において、好ましくは60°より大きく90°以下、さらに好ましくは60°より大きく80°以下、さらにさらに好ましくは60°より大きく70°以下である。また、雄ねじ構造としてウィットねじを採用する場合は、膨出部によって形成されるねじ山の角度は非締結状態において、好ましくは55°より大きく85°以下、さらに好ましくは55°より大きく75°以下、さらにさらに好ましくは55°より大きく65°以下である。このようにすれば、後述するように、雌ねじへの締結時にねじ山の形成材料が弾性変形した状態において、膨出部によって形成される上部側面の略全面が雌ねじへ接することとなり、より大きな摩擦力を得ることができる。その結果、より高いゆるみ止め効果が得られる。
空間部は膨出部の下縁から前記ねじ山の山頂部方向に形成される。本発明の一態様における、非締結状態のねじ山10における山頂部側の縦断面の模式図を図2Aに示す。図2Aに示すように、ねじ山10は上部11、空間部20を備える。上部11は基準面10aよりも外側に膨出する膨出部12を備える。膨出部12はねじ山10の山頂部13から上部11の下縁14まで漸次膨出している。即ち、上部11の側面15は縦断面において山頂部13と下縁14を結ぶ直線となっている。なお、山頂部13におけるねじ山の角度θは70°である。空間部20は上面21と下面22により規定される空間であって、下縁14から山頂部13方向に形成されている。詳細には以下の通りである。下縁14を通りねじの軸に平行な仮想直線Aと山頂部13との距離をdとし、空間部20の最深部23を通りねじの軸に平行な仮想直線Bと山頂部13との距離をdとするとき、d>dとなるように空間部20が形成されている。空間部20の下側には後述する下部30が形成されている。このように、空間部をねじ山の山頂部方向に形成すれば上部の形成材料が当該空間部へ移動するので、締結時におけるねじ山の形成材料の弾性変形によって、高いスプリングバック効果が生じることとなる。これにより、大きな摩擦力を得ることができ、高いゆるみ止め効果を奏する。空間部の配置は特に限定されない。例えば、空間部の最深部と山頂部との距離がねじ山の高さの1/2となるように空間部を形成することができる。即ち空間部をねじ山の略中央に形成することができる。
本発明の締結部材を、雌ねじ構造を有する相手側締結部材に締結したとき、ねじ山の形成材料が弾性変形して空間部が変形する。即ち、図2Aに示すねじ山10では上部11の形成材料が変形して面21が面22に近接する。従って、空間部は、ねじ山の形成材料が弾性変形するときの、形成材料が移動するための空間となる。この空間により、ねじ山の形成材料が弾性変形することが許容されることとなる。空間部の容積は、膨出部の容積以上であることが好ましい。締結時にねじ山の形成材料が弾性変形するための空間が十分確保されるからである。ここで、空間部の容積とは、基準面からねじ山内側へ窪んだ領域の容積を指す。図2Aに示すねじ山10では、空間部20の容積は符号24で示す領域の容積である。
下部は空間部の下側に形成され、締結部材の軸部(雄ねじの軸部)へ繋がっている。下部の側面は、基準面に沿うか、または下部の側面は基準面よりも内側に位置する。例えば、隣接するねじ山との谷部の角度θが60°より大きく180°より小さく、好ましくは75°以上160°以下、より好ましくは120°以上145°以下となるように、下部の側面を規定することができる。このような形状とすることにより、マイクロねじのような極小サイズのねじに対してもねじ山を容易に形成することができる。下部の側面は、基準面より内側に位置しかつ基準面の内側に向けて湾曲することが好ましい。中でも、ねじの軸部に垂直な縦断面において、下部の側面が円弧の一部に沿う形状、即ちR形状であることが好ましい。ねじ山の形成が容易となるとともに、既述の空間部が十分確保されることとなり、高いゆるみ止め効果を奏する。さらに転造ダイスの寿命が延びるため生産コストを低減することができる。なお、下部の側面が基準面の内側に向けて湾曲するR形状の面である場合は、ねじ山の谷の角度は、軸部に垂直な縦断面において下部の側面の最下部における接線のなす角度とする。また、ねじ山の谷の底部は、ねじ山の下部のR形状の側面に連続するR形状とすることができる。
本発明の一態様における、非締結状態の隣接するねじ山10bの谷部の縦断面の模式図を図2Bに示す。図2Bに示すように、下部30aの側面31aは基準面10aよりも内側に位置しており、R形状を有し、空間部20を規定する壁面になだらかに続く曲面となっている。図2Bにおいて、側面31aの最下部31b(即ち、軸部との連結部)における接線31cの角度(即ち、谷部の角度)θは約145°であり、基準面10aの谷部の角度(θ=60°)よりも大きい。
本発明における締結部のねじ山のピッチは特に限定されないが、メートルねじ、ユニファイねじ又はウィットねじなどで規定されるピッチを採用することが好ましい。既存の非締結部材に対して本発明の締結部材を使用することができるからである。
本発明の他の局面は、以下の通りである。即ち、雄ねじ構造を有し、そのねじ山の山頂部から谷部に向かって順に、上部、空間部、及び下部を備える締結部材の製造方法であって、以下のステップからなる締結部材の製造方法;(a)前記下部の側面を付形し、上部形成用凸条部を形成するステップと、(b)前記上部形成用凸条部を変形して、基準面よりも外側に膨出する膨出部を備えるように前記上部の側面を付形し、前記上部と前記下部の間に、前記上部の下縁から前記ねじ山の山頂部方向に向かう空間部を形成するステップ、である。
かかる製造方法ではステップaにおいて、まず、ねじ山の下部及び上部形成用凸条部を形成する。形成方法としては、平ダイス式、丸ダイス式、プラネタリダイス式、ロータリーダイス式等の転造、切削、鋳造、鍛造など公知のねじ山形成方法を採用することができる。ステップaにおいて下部の側面は基準面に沿うように形成される。さらに下部の上に上部形成用凸条部が形成される。上部形成用凸条部の形状は特に限定されないが、例えば、ねじ軸に平行な面における縦断面の形状が矩形となるように形成することができる。ステップbにおいて、ステップaで形成した上部形成用凸条部を変形する方法は特に限定されず、例えば、所定形状の金型を押し付ける転造加工や旋盤などによる切削加工により上部形成用凸条部を変形する。上部形成用凸条部を変形することにより、基準面よりも外側に膨出する膨出部を形成して上部のねじ山側面を付形する。さらに上部と下部の間に空間部を形成する。空間部は上部の下縁からねじ山の山頂部方向に向かうように形成される。
以下に本発明の実施例について説明する。
本発明の締結部材1の非締結状態における正面図を図3Aに示し、締結状態における正面図(一部透過図)を図3Bに示す。締結部材1はメートルねじに準ずる雄ねじ構造を有する(以下「ボルト1」という)。図3Aに示すようにボルト1は頭部2、円筒部3、ねじ部4を備える。ねじ部4にはねじ山10がメートルねじで規定されるピッチで形成されている。図3Bに示すように、ボルト1は、被締結部材51、52に設けられた貫通孔を経て、雌ねじ構造を有する相手側締結部材6(以下「ナット6」という)へ締め付けられる。これにより、ボルト1の座面7とナット6の上面により、被締結部材51、52が固定される。図4にねじ山10の縦断面図を示す。図4に示すように、ねじ山10は上部11、空間部20及び下部30からなる。上部11は基準面10aよりも外側に膨出する膨出部12を備える。膨出部12はねじ山10の山頂部13から上部11の下縁14まで漸次膨出している。これにより、図4に示すように、上部11におけるねじ山10の側面15は縦断面において山頂部13と下縁14を結ぶ直線となっている。なお、ねじ山10の角度θは70°である。また、基準面10aのなす角度θは60°である。空間部20は上面21と下面22により規定される空間であって、下縁14から山頂部13方向に形成されている。空間部20の下側には下部30が形成されている。なお、空間部20の容積(符号24で示す領域の容積)は膨出部12の容積と同じか若しくはそれ以上とする。下部30の側面31は基準面10aに沿う。非締結状態では、ボルト1のねじ山10は、膨出部12が基準面10aから外側に膨出した状態である。
非締結状態のねじ山10の縦断面を図5Aに示し、締結状態のねじ山10の縦断面図5Bに示す。図5Aに示すように非締結状態であったねじ山10は、ボルト1をナット6へ締結すると、図5Bに示すようにその形成材料が弾性変形して空間部20が変形する。これにより、膨出部12はナット6のねじ山に対してスプリングバックしてボルト1とナット6との間の摩擦力が増加し、高いゆるみ止め効果を奏する。さらに、膨出部12は、山頂部13から上部11の下縁14まで漸次膨出するように形成されているため、膨出部12のナット6側の面において略全面でナット6のねじ山と接することとなる。これにより、ナット6と接する面積が大きくなるため、より大きい摩擦力が生じ、高いゆるみ止め効果を奏する。また、膨出部12はナット6のねじ山側面に対してスプリングバックするため、ボルト1のねじ山10にかかる荷重は、ナット6のねじ山側面に接する複数のねじ山10に分散される。これにより、第1ねじ山への荷重の集中が緩和され、耐久性の低下が防止される。また、このようなスプリングバックにより、ボルト1とナット6との間において、十分な摩擦力が確保されるため、ゆるみが防止される。さらに、本発明のボルト1は締結状態において、ねじ山10の形成材料が弾性変形するが、非締結状態に戻せばねじ山10は元の状態、即ち、上部11に基準面10aよりも外側に膨出する膨出部12を備える状態に戻るため、容易に再使用することができる。
次に本発明のボルト1の製造方法を説明する。ボルト1のねじ山10の形成工程の断面模式図を図6に示す。図6に示すように、まず、ボルト粗材100の円筒部(図6(a)参照)に対して、転造によりねじ山10の下部30の側面31を付形し、上部形成用凸条部16を第1の転造ダイスを用いて形成する(図6(b)を参照)。下部30の側面31のなす角度は60°である。上部形成用凸条部16の形状は縦断面において、ボルト1の軸方向(図6では紙面左右方向)に垂直な軸41を対称軸とする左右対称の矩形である。さらに、縦断面において上部形成用凸条部16の幅aと下部30上端の幅bの長さの比は、a:b=1:3である。なお、上部形成用凸条部16の幅aと下部30上端の幅bの長さの比はこれに限定されるものではなく、例えばa:b=1:2〜5とすることができる。上部形成用凸条部16は、縦断面において軸41がねじ山10の下部30の中心軸に一致するように、連結部40を介してねじ山10の下部30の上に形成される。連結部40の面22は後に形成される空間部20を規定する面となる。面22とボルト1の軸とのなす角αは約20°である。なお、面22とボルト1の軸とのなす角αはこれに限定されものではなく、例えば1°〜30°、好ましくは10°〜30°とすることができる。
次いで、上部形成用凸条部16に対してねじ山10の山頂部に70°の角度を付形する金型を押し付けて、上部11を第2の転造ダイスを用いて形成する(図6(c))。これにより、上部11に膨出部12を形成すると同時に、上部11と下部30との間に空間部20を形成する。空間部20は、膨出部12の裏面側の面21と連結部40の面22により規定される。ここで、上部形成用凸条部16の幅aは下部30の上端の幅bよりも小さいため、空間部20が確実に形成されることとなる。さらに、面20はボルト1の軸とのなす角が約20°で山頂に向かって傾斜している。これにより空間部20が山頂方向に向かうように形成される。
このように二段階の工程を経てボルト1のねじ山10を形成する。このようにすれば、上部11のねじ山側面を形成するとともに、山頂部13側に向かう空間部20を形成することができる。このように二工程で加工するものであるが、第1の転造ダイスと第2の転造ダイスを連ねることにより一工程で加工することも可能である。
本発明の他の実施例である締結部材(ボルト)700のねじ山710の非締結状態における縦断面図を図7に示す。図7に示すように、ねじ山710は上部711、空間部720及び下部730からなる。上部711は基準面10aよりも外側に膨出する膨出部712を備える。膨出部712はねじ山710の山頂部713から上部711の下縁714まで漸次膨出している。さらに上部711の下縁近傍領域716は、基準面10aに近づくように緩やかに湾曲して、R形状となっている。空間部720は下縁714から山頂部713方向に形成されている空間である。空間部720の下側には下部730が形成されている。下部730の側面731は、基準面10aよりも内側に位置しており、基準面10aの内側に向けて湾曲するR形状を有し、空間部720の壁面に連続するように緩やかに湾曲している。隣接するねじ山710との間のねじ谷部の角度θは約145°である。ねじ山710の山頂部713の角度θは約70°であり、一方、基準面10aのなす角度θは60°である。非締結状態では、ねじ山710の膨出部712は基準面10aから外側に膨出した状態である。
非締結状態のねじ山710の縦断面を図8Aに示し、締結状態のねじ山710の縦断面を図8Bに示す。図8Aに示すようにボルト700において、非締結状態であったねじ山710は、ナット6へ締結すると、その形成材料が弾性変形して空間部720が変形する。このとき、ボルト1と同様に、膨出部712はナット6のねじ山に対してスプリングバックしてナット6との間の摩擦力が増加し、高いゆるみ止め効果を奏する。さらに、上部711の下縁近傍領域716が基準面10aに近づくようにR形状となっているため、下縁近傍領域716において、締結によってその形成材料が弾性変形する量が少なくなる。これにより、ボルトを締め付けるときの摩擦が緩和され、締め付けを無理なく行うことができる。さらに、ナット6との締結時にナット6のねじ山が傷つくことを防ぐ。一方、ねじ山710の下部730の側面731は基準面10aよりも内側に位置しており、空間部720の壁面に連続するように緩やかに湾曲しているため、空間部720の容積が十分確保されることとなり、膨出部712がスプリングバックしやすくなる。これにより、高いゆるみ止め効果を奏する。さらに、締結状態において、ねじ山710の形成材料が弾性変形するが、非締結状態に戻せばねじ山710は元の状態、即ち、上部711に基準面10aよりも外側に膨出する膨出部712を備える状態に戻るため、繰り返しの使用が可能になる。
次に本発明のボルト700の製造方法を説明する。ボルト700のねじ山710の形成工程の断面模式図を図9に示す。図9に示すように、まず、ボルト粗材701の円筒部(図9(a)参照)に対して、転造によりねじ山710の下部730の側面731を付形し、上部形成用凸条部717を第1の転造ダイスを用いて形成する(図9(b)を参照)。下部730の側面731によって形成されるねじ山710の谷部の角度θは約145°である。上部形成用凸条部717の形状は縦断面において、ボルト700の軸方向(図6では紙面左右方向)に垂直な軸741を対称軸とする左右対称の矩形である。さらに、縦断面において上部形成用凸条部717の幅cとねじ山710の幅dの長さの比は、c:d=1:4である。なお、上部形成用凸条部717の幅cとねじ山710の幅dの長さの比はこれに限定されるものではなく、例えばc:d=1:2〜6とすることができる。上部形成用凸条部717は、縦断面において軸741がねじ山710の下部730の中心軸に一致し、その壁面718が下部730の側面731に連続するように下部730の上に形成される。
次いで、上部形成用凸条部717に対してねじ山710の山頂部に70°の角度を付形するとともに上部形成用凸条部717の下縁近傍領域716を基準面10aに近づくR形状とする金型を押し付け、上部711を第2の転造ダイスを用いて形成する(図9(c))。これにより、上部711にR形状の下縁近傍領域716を備える膨出部712を形成すると同時に、上部711と下部730との間に空間部720を形成する。空間部720は、膨出部712の裏面側の面と上部形成用凸条部717の壁面718により規定される。ここで、上部形成用凸条部717の幅cはねじ山710の上端の幅dよりも小さく、下部730の側面731は内側に湾曲するR形状であるため、空間部720が確実に形成されることとなる。
このように二段階の工程を経てボルト1のねじ山710を形成する。このようにすれば、上部711のねじ山側面を形成するとともに、山頂部713側に向かう空間部720を形成することができる。また、ボルト1と同様に第1の転造ダイスと第2の転造ダイスを連ねることにより一工程で加工することも可能である。
本発明の締結部材は、車輌や様々な装置、建築物等における締結部材として広く利用することができる。

Claims (8)

  1. 雄ねじ構造を有し、そのねじ山の山頂部から谷部に向かって順に、上部、空間部、及び下部を備える締結部材であって、
    前記上部は基準面よりも外側に膨出する膨出部を備え、
    前記空間部は前記膨出部の下縁から前記ねじ山の山頂部方向に形成され、
    前記下部の側面は前記基準面に沿うか、又は前記基準面よりも内側に位置し、
    雌ねじ構造を有する相手側締結部材に締結したとき、前記上部の形成材料が弾性変形して前記空間部が変形し、前記上部がスプリングバックして前記相手側締結部材との間に生じる摩擦力が増加することを特徴とする締結部材。
  2. 前記膨出部は、前記ねじ山の山頂部から前記上部の下縁に形成され、前記ねじ山の山頂部から前記上部の下縁に近づくにつれて漸次膨出することを特徴とする、請求項1に記載の締結部材。
  3. 前記膨出部によって形成されるねじ山の角度が非締結時に60°より大きく90°以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の締結部材。
  4. 雄ねじ構造を有し、そのねじ山の山頂部から谷部に向かって順に、上部、空間部、及び下部を備える締結部材の製造方法であって、以下のステップからなる締結部材の製造方法;
    (a)前記下部の側面を付形し、上部形成用凸条部を形成するステップと、
    (b)前記上部形成用凸条部を変形して、基準面よりも外側に膨出する膨出部を備えるように前記上部の側面を付形し、前記上部と前記下部の間に、前記上部の下縁から前記ねじ山の山頂部方向に向かう空間部を形成するステップ。
  5. 前記ステップbにおいて、前記膨出部により形成される前記上部のねじ山の角度を60°より大きく90°以下に形成することを特徴とする、請求項4に記載の締結部材の製造方法。
  6. 隣接する前記ねじ山の前記下部によって形成されるねじ谷の角度が60°より大きく180°より小さいことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の締結部材。
  7. 前記膨出部の側面は、前記基準面の内側に向けて湾曲していることを特徴とする、請求項1〜3、または6のいずれか一項に記載の締結部材。
  8. 前記膨出部の下縁近傍領域は前記基準面に近づくように湾曲していることを特徴とする、請求項1〜3、6または7のいずれか一項に記載の締結部材。
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