JPWO2007105833A1 - 量子暗号伝送システムおよび光回路 - Google Patents

量子暗号伝送システムおよび光回路 Download PDF

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Abstract

本発明の量子暗号伝送システムは、送信装置(10A)と、受信装置(20A)と、それらの間を接続する伝送路(30)とを備える。送信装置は、量子ビットの情報担体となる光子を発生する発光部(11)と、送信側光回路(12A)とを有する。受信装置は、量子ビットの情報担体である光子を検出する受光部(21)と、受信側光回路(22A)とを有する。送信側光回路(12A)および受信側光回路(22A)は、一方の腕に光学遅延回路(123−1;223−1)を内包する非対称マッハツェンダー干渉系(123;223)と、この非対称マッハツェンダー干渉系(123;223)の2つの腕のそれぞれに結合する2つの送信側3dBカップラー(126;226)および(127;227)により構成される光回路である。

Description

本発明は、量子暗号伝送システムに関し、特に、光ファイバー通信により暗号秘密鍵を共有する量子暗号鍵配布を行う量子暗号伝送システムおよびそれに使用される光回路に関する。
近年、インターネットの爆発的普及、電子商取引の実用化を迎え、通信の秘密保持・改竄防止や個人の認証など暗号技術の社会的な必要性が高まっている。
現在、DES(データ暗号化規格:Data Encryption Standard)暗号のような共通鍵方式やRSA(R.Rivest、A.Shamir、L.Adelman)暗号をはじめとする公開鍵方式が広く用いられている。しかし、これらは「計算量的安全性」にその基盤を置いている。
つまり、現行の暗号方式は、計算機ハードウェアと暗号解読アルゴリズムの進歩に常に脅かされている。特に銀行間のトランザクションや軍事・外交にかかわる情報などの極めて高い安全性が要求される分野においては、原理的に安全な暗号方式が実用になればそのインパクトは大きい。
情報理論で無条件安全性が証明されている暗号方式に、ワンタイムパッド法がある。ワンタイムパッド法は通信文と同じ長さの暗号鍵を用い、暗号鍵を1回で使い捨てることが特徴である。
非特許文献1(ベネット(Bennett)、ブラッサード(Brassard)著 IEEEコンピュータ、システム、信号処理国際会議(IEEE Int.Conf.on Computers,Systems,and Signal Processing,Bangalore,India,p.175(1984)))で、現在BB84プロトコルとして広く知られている、ワンタイムパッド法に使用する暗号秘密鍵を安全に配送する具体的なプロトコルがベネット(Bennett)らによりはじめて提案された。これを契機に量子暗号の研究が盛んになっている。
量子暗号は物理法則が暗号の安全性を保証するため、計算機の能力の限界に依存しない究極の安全性保証が可能になる。現在多く検討されている量子暗号装置では一ビットの情報を単一光子の状態にエンコードして伝送する。これは、光子が他の量子系に比べると環境による擾乱に強いと同時に、既存の光ファイバー通信技術の活用により長距離の暗号鍵配布が期待できるためである。
理論的にその安全性が証明されている量子暗号装置では、非特許文献1に記載されているように、量子力学的2自由度系の2つの区別可能な状態とそれに共役な状態(その重ね合わせ状態)を利用して秘密鍵が安全に伝送される。盗聴行為は量子力学的状態に擾乱を与え、正規送受信者のデータ中のエラーから漏洩情報量が推定できるようにプロトコルが設計されている。
上記のような情報通信に用いられる量子状態はしばしば量子情報と呼ばれる。量子情報を担う量子力学的2自由度系は量子ビットと呼ばれ、それは数学的にはスピン1/2系と等価である。以下、担体となる物理系が光子の場合について、従来技術を記述する。
本発明に関わる、光子を量子ビット担体とし長距離伝送のため光ファイバーを伝送路として用いる暗号鍵配布装置について、以下に従来技術を説明する。光子を用いた量子暗号装置については、非特許文献2(ツビンデン(Zbinden)ほか著「Experimental Quantum Cryptography」、「INTRODUCTION TO QUANTUM COMPUTATION AND INORMAION(ロー(Lo)ら編著)」(World Scientific、1998年出版)、120ページ)、非特許文献3(エカート(Ekert)ほか著「Quantum Cryptography」、「The Physics of Quantum Information(ボウメスター(Bouwmeester)ら編著)」(Springer、2000年出版)、15ページ)、非特許文献4(ジサン(Gisin)ほか著「Quantum Cryptography」レビュー・オブ・モダン・フィジックス(Rev.Mod.Phys.)、74号(2002年出版)、145−195ページ)に詳細な説明がある。
非特許文献1では、光子の持ちうる2つの偏波状態に情報をエンコードする、偏波コーディングと呼ばれる量子暗号装置の実装が提案された。しかしながら、偏波コーディングには伝送路中の偏波回転の実時間制御および補償が必要となるため、光ファイバーを伝送路として用いる長距離暗号鍵配布システムの実装方法としてはあまり使われない。
長距離暗号鍵配布システムとしては、2連微弱光パルス間の相対位相に情報をエンコードする、位相コーディングと呼ばれる量子暗号装置の実装がやはりベネットらにより提案され、実現されている。
このようなコーディング方式とは別に、量子ビット担体となる光子の生成方式にもいくつかの提案がある。その中で有望視されている方式としては、コヒーレント微弱光パルスを用いたものと、量子相関光子対を用いたものとがある。以下では各々の方式を用いた量子暗号装置について、従来技術を詳しく説明する。
コヒーレント微弱光パルスを用いた量子暗号装置
図7は非特許文献2〜4に記載がある、コヒーレント微弱光パルスを用いた位相コーディングによる量子暗号装置を示している。この量子暗号装置では、2つの非対称マッハツェンダー干渉系を光ファイバー伝送路で直列に連結した構造の光学干渉系が用いられる。
送信部10Bに装備された微弱レーザ光源71で発生した微弱な短光パルスを、送信部10Bの非対称マッハツェンダー干渉系72に入射することにより、光ファイバー伝送路30上にその長短尺光路差だけ空間的に分離したコヒーレント2連微弱光パルス7LPtを生成(準備)する。
ここで、コヒーレントという言葉は、長短尺光路差の明確に定義された非対称マッハツェンダー干渉系72により2連微弱光パルスLPtの2つのパルスの間に相対位相が明確に定義できることを意味する。
2連微弱光パルスLPtは光ファイバー伝送路30上を伝送中に擾乱を受けるが、それらの相対的位相関係や偏波面の関係は保存される。受信部20Bの非対称マッハツェンダー干渉系74により、2連微弱光パルスLPtは3連パルス的光子出力LP3Cに変換され、下流側の2つのポート74out1、74out2に出力される。
受信部20Bの光子検出器75により、非対称マッハツェンダー干渉系74の2つの下流ポート74out1、74out2に出力される3連パルス的光子出力LP3Cの中央の光パルス中に含まれる光子の有無が識別され、記録装置(図示せず)で記録される。
3連パルス的光子出力LP3Cのうち、中央の光パルスには、送信部10Bで非対称マッハツェンダー干渉系72の長尺を通り受信部20Bで非対称マッハツェンダー干渉系74の短尺を通ってきた光パルスと、送信部10Bで非対称マッハツェンダー干渉系72の短尺を通り受信部20Bで非対称マッハツェンダー干渉系74の長尺を通ってきた光パルスが寄与する。それ故、これら2つの寄与の干渉により2つの出力ポート74out1、74out2への中央の光パルスの強度比は2連微弱光パルスLPtの光学遅延(相対的な位相)に正弦波関数的に依存する。
上記の光学干渉システムにおいて2連微弱光パルスLPtに光学遅延(相対的な位相)に変調を与えることにより、量子暗号の原理に基づく暗号鍵配布を行うことができる。この目的のため、光パルスが送信部10Bの非対称マッハツェンダー干渉系72を通過中に内包された位相変調器76で{0、π/2、π、3π/2}の4値の位相変調を行い、光ファイバー伝送路30の伝送後の2連パルスが受信部20Bの非対称マッハツェンダー干渉系74を通過中に内包された位相変調器77で{0、π/2}の2値の位相変調を行う。
非対称マッハツェンダー干渉系72および74における光学遅延を適正に調整することにより、非特許文献1に提案された非直交4状態を用いる量子暗号鍵配布プロトコルを実行し、安全な鍵配布を行うことが可能である。
位相コーディングに基づく量子暗号装置は、光ファイバー伝送路30との相性も良く、長距離鍵配布が可能であるというメリットがある。しかしながら、送信部10Bおよび受信部20Bがそれぞれ持つ非対称マッハツェンダー干渉系72、74の相対光学遅延を、光波長なみの精度で維持しなければならないという問題がある。
これら送信部10Bおよび受信部20Bに分散して配置された干渉系72、74の光学遅延は、温度変化その他の原因により独立にゆらいだりドリフトしたりするため、光干渉効果は容易に消失する。この問題を解決するためには、両干渉系72、74の相対光学遅延変化を測定し、測定結果をフィードバックして相対光学遅延を一定に維持するアクティブな制御装置が必要となる。このような測定装置はそれ自体がシステムを複雑化するだけではなく、測定に用いる参照光がシステムノイズを増加させ、量子暗号装置の性能劣化の原因となる。
近年、上記のような問題を解決するため、平面光回路(PLC:Photonic Lightwave Circuit)技術を応用した量子暗号装置が考案され開発されている。平面光回路技術を応用した量子暗号装置は、例えば、非特許文献5(南部ほか著「BB84 Quantum Key Distribution System Based on Silica−Based Planar Lightwave Circuits」ジャパン・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn J.Appl.Phys.)、43号(2004年出版)、L1109ページ)、非特許文献6(木村ほか著「Single−photon Interference over 150 km Transmission Using Silica−based Integrated−optic Interferometers for Quantum Cryptography」ジャパン・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn J.Appl.Phys.)、43号(2004年出版)、L1217ページ)、非特許文献7(南部ほか著「One−way Quantum Key Distribution System based on Planar Lightwave Circuit」ジャパン・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn J.Appl.Phys.)45号、6A巻(2006年出版)、5344−5348ページ)および特許文献1(特開2003−249928号公報)に開示されている。
平面光回路技術では、非対称マッハツェンダー干渉系をシリコン基板上にパターニングで形成した光導波路で作製する。これにより、外乱により影響を受けることのない安定な光学干渉系を、温度制御というパッシブな制御のみによって実現することができ、低雑音のシステムを構築できるというメリットがある。
PLCを用いた実装の場合、先に示したような位相変調器を内包した低損失な非対称マッハツェンダー干渉系を製作することは現在の技術では容易ではない。コスト増は問題としないとしても、受信側デバイスの光学損失の増加は、微弱光を情報担体として用いる量子暗号装置の性能劣化に直結するため、容認できない問題である。この問題を解決するため、変調器を非対称マッハツェンダー干渉系の外部に配置した、図8や図9に示したような量子暗号装置が考案され、開発されている。
非特許文献7で公知となっている図8に示す量子暗号装置では、送信部10Cに装備された微弱レーザ光源81で発生した微弱な短光パルスを送信部10CのPLCにより構成された非対称マッハツェンダー干渉系82に入射することより、光ファイバー伝送路30上にその長短尺光路差だけ空間的に分離したコヒーレント2連微弱光パルスLP2Cを生成(準備)する。
2連微弱光パルスLP2Cは光ファイバー伝送路30上を伝送する。受信部20Cの非対称マッハツェンダー干渉系84により、2連微弱光パルスLP2Cは3連光パルスLP3Cに変換され、下流側の2つのポート84out1、84out2に出力される。受信部20Cの光子検出器85により、非対称マッハツェンダー干渉系84の2つの下流ポート84out1、84out2に出力される3連パルス的光子出力LP3Cの中央の光パルス中に含まれる光子の有無が識別され、記録装置(図示せず)で記録される。
送信部10Cの非対称マッハツェンダー干渉系82の下流に直列に挿入した位相変調器86、87に、それぞれの変調器の2連微弱光パルスLP2Cの通過時に同期してパルス的な変調信号を印加することにより、2連微弱光パルスLP2Cの一方のパルスに選択的に{0、π/2、π、3π/2}の4値の位相変調を与え、もって2連微弱光パルスLP2Cの光学遅延(相対位相)に4値変調を与える。
受信部20Cの非対称マッハツェンダー干渉系84の上流に直列に挿入した位相変調器88に、2連微弱光パルスLP2Cの通過時に同期してパルス的な変調信号を印加することにより、2連微弱光パルスLP2Cの一方のパルスに選択的に{0、π/2}の2値の位相変調を与える。もって2連微弱光パルスLP2Cの光学遅延(相対位相)に2値変調を与える。
非対称マッハツェンダー干渉系82および84における光学遅延を調整することにより、図7の量子暗号装置と同様に非特許文献1に提案された非直交4状態を用いる量子暗号鍵配布プロトコルを実行し、安全な鍵配布を行うことが可能である。
一方、非特許文献5および特許文献1で公知となっている図9に示す量子暗号装置では、送信装置10Dに装備された微弱レーザ光源91で発生した微弱な短光パルスを、送信側のPLCにより構成され、対称マッハツェンダー干渉系92とそれにカスケードに接続された非対称マッハツェンダー干渉系93とに入射することより、光ファイバー伝送路30上に非対称マッハツェンダー干渉系93の長短尺光路差だけ空間的に分離したコヒーレント2連微弱光パルスまたはそれらの構成要素である先進・遅延いずれかの微弱光パルスLPtを生成(準備)する。
これらの微弱光パルスLPtは光ファイバー伝送路30上を伝送され、受信装置20Dの非対称マッハツェンダー干渉系95を通過後、その下流側の2つのポート95out1、95out2への光子到着時間が、送信装置10Dに同期して動作する光子検出器96により観測され、識別・記録装置(図示せず)によって長短尺光路差相当の時間分、分離された3つのタイムスロットのいずれであったかが識別・記録される。
送信装置10Dの対称マッハツェンダー干渉系92の一方の光路には位相変調器97が挿入されており、微弱レーザ光源91から入射された微弱光パルスは{0、π/2、π、3π/2}の4値から選択された位相変調を受ける。
付与される位相変調が{0、π}の場合には光パルスは非対称マッハツェンダー干渉系93の長尺又は短尺のみを伝搬し、位相変調値に依存して前後いずれかの光パルスLPtが光ファイバー伝送路30上に生成(準備)される。
付与される位相変調が{π/2、3π/2}の場合には微弱光パルスは非対称マッハツェンダー干渉系93の長短尺の両方を伝搬し、位相変調値に依存して相対位相がπ変化するコヒーレント2連光パルスLPtが光ファイバー伝送路30上に生成(準備)される。
位相変調器97における位相変調値が{0、π}の場合には、中央のタイムスロットに出現する光子の出力ポートと位相変調値が相関し、位相変調器97における位相変調値が{π/2、3π/2}の場合には、第1と第3のタイムスロットに出現する光子の出力ポートと位相変調値が相関するように、非対称マッハツェンダー干渉系93および95における光学遅延を適切に調整することにより、非特許文献1に提案された非直交4状態を用いる量子暗号鍵配布プロトコルを実行し、安全な鍵配布を行うことが可能である。
量子相関光子対を用いた量子暗号装置
次に、量子ビット担体としてコヒーレント微弱光パルスの代わりに量子相関光子対を用いた量子暗号装置について説明する。この方式では装置構成がより複雑になるものの、高い安全性が保証されているため実用化に向けて精力的に研究が行われている。量子相関光子対を用いた方式としては、光源にパルスレーザを用いたものと連続発振レーザを用いたものとがあり、以下では各々について詳しく説明する。
パルスレーザによる量子相関光子対を用いた量子暗号装置
図10は非特許文献8(ベネット(Bennet)ほか著「Quantum cryptography without Bell’s theorem」フィジカル・レビュー・レターズ(Phys.Rev.Lett.)、68号(1992年出版)、557−559ページ)に記載のある量子相関光子対を用いた量子暗号装置を示す。
図10に示す量子暗号装置では、中央に配置された光子対発生源40によって生成された量子相関光子対を光ファイバー伝送路30によって2つの受信装置20Eに分配し、受信装置20Eが持つPLC非対称マッハツェンダー干渉系109でそれぞれを分析する構成となっている。
光子対発生源40に装備されたパルスレーザ光源41からの短光パルスLPを非対称マッハツェンダー干渉系42に入射することにより、その長短尺光路差だけ空間的に分離したコヒーレント2連光パルスLP2Cを生成(準備)する。
この2連光パルスLP2Cは非線形光学結晶43に入射され、パラメトリック下方変換過程によってそれぞれが2つの光パルスPP2Cに分裂する。この分裂後の光子対PP2Cはエネルギー保存則により約2倍の波長となり、お互いの波長および分裂のタイミングには量子力学的な相関がある。こうして生成された2連量子相関光子対PP2Cはビームスプリッター44で分岐され、光ファイバー伝送路30によって2つの受信装置20Eに分配される。
両受信装置20Eが持つ非対称マッハツェンダー干渉系109により、2連量子相関光子対PP2Cは3連パルス的光子出力LP3Cに変換され、下流側の2つのポート109out1、109out2に出力される。光子検出器111により、非対称マッハツェンダー干渉系109の2つの下流ポート109out1、109out2に出力される3連パルス的光子出力LP3Cの中央の光パルス中に含まれる光子の有無が識別され、記録装置(図示せず)で記録される。
3連パルス的光子出力LP3Cのうち、中央の光パルスには、光子対発生源40で非対称マッハツェンダー干渉系42の長尺を通り、受信装置20Eで非対称マッハツェンダー干渉系109の短尺を通ってきた光パルスと、光子対発生源40で非対称マッハツェンダー干渉系42の短尺を通り、受信装置20Eで非対称マッハツェンダー干渉系109の長尺を通ってきた光パルスが寄与する。その結果、これら2つの寄与の干渉により両受信装置20Eによる2つの出力ポートの同時光子検出確率は、2連量子相関光子対PP2Cの光学遅延(相対的な位相)に正弦波関数的に依存する。
この光学干渉システムにおいて2連量子相関光子対PP2Cの光学遅延(相対的な位相)に変調を与えることにより、量子暗号の原理に基づく暗号鍵配布を行うことができる。この目的のため、両受信装置20Eの非対称マッハツェンダー干渉系109の上流に直列に挿入した位相変調器112に、2連量子相関光子対PP2Cの通過時に同期してパルス的な変調信号を印加することにより、2連量子相関光子対PP2Cの一方のパルスに選択的に{0、π/2}の2値の位相変調を与え、もって2連量子相関光子対PP2Cの光学遅延(相対位相)に2値変調を与える。
両受信装置20Eの非対称マッハツェンダー干渉系109における光学遅延を適正に調整することにより、非特許文献8に提案された非直交4状態を用いる量子暗号鍵配布プロトコルを実行し、安全な鍵配布を行うことが可能である。
連続発振レーザによる量子相関光子対を用いた量子暗号装置
図11は非特許文献8に記載のある量子相関光子対を用いた量子暗号装置を示す図である。
図示の量子暗号装置の大まかな構成は、前記の図10に示すものと同じであるが、光源としてパルスではなく連続発振レーザを用いる点、及び、非線形光学結晶直前の非対称マッハツェンダー干渉系が不要である点が、図10に図示した量子暗号装置と異なる。光子対発生源50に装備された連続発振レーザ光源51からの連続的なレーザ光LLは、そのコヒーレンス時間内であればどの点においてもお互いにコヒーレントであり、明確な位相関係がある。
したがって、この連続的なレーザ光LLは、図10に示した前記パルスレーザによる量子暗号装置におけるコヒーレント2連光パルスLP2Cに相当し、この場合は2連ではなく無限連とも言える状態となっている。このレーザ光LLは非線形光学結晶53に入射され、パラメトリック下方変換過程によって2つの光子PPに分裂する。
前述したように、この分裂後の光子対PPは量子力学的な相関を持つ。こうして生成された量子相関光子対PPはビームスプリッター54で分岐され、光ファイバー伝送路30によって両受信装置20Eに分配される。
量子相関光子対PPは光ファイバー伝送路30上を伝送中に擾乱を受けるが、コヒーレンス時間内の相対的位相関係や偏波面の関係は保存される。量子相関光子対PPは2つの受信装置20Eそれぞれが持つ非対称マッハツェンダー干渉系109により、一度分岐された後、その長短尺光路差に相当する遅延を受けて再び合波され、下流側の2つのポート109out1、109out2に出力される。
光子検出器111により、非対称マッハツェンダー干渉系109の2つの下流ポート109out1、109out2に出力される光子の有無が識別され、記録装置(図示せず)で記録される。
図10に示した前記パルスレーザによる量子暗号装置では、3連パルス的光子出力LP3Cのうち中央の光パルスのみを検出していたが、図11に示す連続発振レーザによる量子暗号装置の場合には、レーザ光のどの点においても重ね合わせによる干渉が実現されているため、任意のタイミングで検出を行うことができる。
この干渉により両受信装置20Eによる2つの出力ポートの同時光子検出確率は、非対称マッハツェンダー干渉系109における量子相関光子対PPの光学遅延(相対的な位相)に正弦波関数的に依存する。この量子力学的干渉を利用して、図10に示した前記パルスレーザによる相関光子対PP2Cを用いた量子暗号装置の場合と同様に、両受信装置20Eの非対称マッハツェンダー干渉系109の上流に直列に挿入した位相変調器112を用いることで、非特許文献8に提案された非直交4状態を用いる量子暗号鍵配布プロトコルを実行し、安全な鍵配布を行うことが可能である。
上記のPLCを用いた量子暗号装置が機能することは確認されているが、量子暗号鍵配布プロトコルの実行のために位相変調器による能動的変調が必要であり、位相変調器の安定制御のためのバイアス制御の必要もあり、装置が煩雑になっていた。
また盗聴者が外部からプローブ光を導入することによって変調器の位相変調値を盗聴する、いわゆるトロイの木馬型攻撃が原理的には可能であり、この種の攻撃に対する安全性の保証を得られないという問題があった。
上述の非特許文献1〜4、非特許文献5〜7、非特許文献8および特許文献1に開示された量子暗号装置には前述したように問題がある。
要約すると、非特許文献1〜4に示された従来の位相コーディングによる量子暗号装置には、2つの非対称マッハツェンダー干渉系の光路長の相対差を長時間にわたって維持する必要があり、そのためにアクティブな制御装置が必要となり装置が複雑化する。
この問題は、非特許文献5〜7および特許文献1に示されたように、2つの非対称マッハツェンダー干渉系をPLCで構成することにより回避できるが、能動的信号変調装置とその制御系が必要になり装置が複雑化する。
すなわち、非特許文献8に開示された量子暗号装置を含めて、いずれの実装方法を選んでも、装置の複雑化を避けることが困難であった。また、いずれの方法も能動的信号変調を行うため、盗聴者によるトロイの木馬型攻撃の危険性があった。
本発明は上述した従来技術の抱える問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は正規利用者の持つべき装置が従来技術より簡単な装置構成で済み、かつ盗聴者によるトロイの木馬型攻撃の危険がない量子暗号伝送システムおよびそれに使用される光回路を提供することにある。本発明による光回路は、一方の腕に光学遅延回路を内包する非対称マッハツェンダー干渉系、および前記光学遅延回路の伝搬長に相当する伝搬遅延を異なるポートを伝搬する光子間に与える手段を内包することを特徴とする。
本発明の第1の態様によれば、前記光回路は、一方の腕に光学遅延回路を内包する非対称マッハツェンダー干渉系、および前記光学遅延回路の伝搬長と等しい伝搬長を有する光学遅延回路を内包する光路とこれを内包しない光路を3dBカップラーで結合した非対称光学遅延回路、およびこれらを共通の伝送路に結合する3dBカップラーにより構成される。本発明の第2の態様によれば、前記光回路は、一方の腕に光学遅延回路を内包する非対称マッハツェンダー干渉系、および前記非対称マッハツェンダー干渉系の2つの腕のそれぞれに結合する2つの3dBカップラーにより構成される。
本発明によると正規利用者が持つべき装置の構造を簡単化でき、その取扱いが容易になる。従って、非特許文献1〜8および特許文献1に開示された量子暗号装置に比べて、正規利用者の装置および装置運用のための経済的および技術的負担を大幅に軽減することができる。同時にトロイの木馬型攻撃に対する安全性を有する量子暗号装置を提供できる。
図1は本発明の第1の実施例による量子暗号伝送システムを示す構成図である。
図2は本発明の第2の実施例による量子暗号伝送システムを示す構成図である。
図3は本発明の第3の実施例による量子暗号伝送システムを示す構成図である。
図4は本発明の第4の実施例による量子暗号伝送システムを示す構成図である。
図5は本発明の第5の実施例による量子暗号伝送システムを示す構成図である。
図6は本発明の第6の実施例による量子暗号伝送システムを示す構成図である。
図7はコヒーレント微弱光パルスを用いた第1の従来の量子暗号装置を示す構成図である。
図8はコヒーレント微弱光パルスを用いた第2の従来の量子暗号装置を示す構成図である。
図9はコヒーレント微弱光パルスを用いた第3の従来の量子暗号装置を示す構成図である。
図10は量子相関光子対を用いた第4の従来の量子暗号装置を示す構成図である。
図11は量子相関光子対を用いた第5の従来の量子暗号装置を示す構成図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の第1及び第2の実施例では、コヒーレント微弱光パルスを用いて本発明を実施した場合について説明する。また、本発明の第3乃至第6の実施例においては、量子相関光子対を用いて本発明を実施した場合について説明する。
図1は本発明の第1の実施例による量子暗号伝送システムの構成図である。図示の量子暗号伝送システムは、量子暗号送信装置10と、量子暗号受信装置20と、それらの間を接続する光ファイバー伝送路30とから構成されている。
量子暗号送信装置10は、第1乃至第4の微弱レーザ光源LD00、LD01、LD10、LD11から成る発光部11と、送信側光回路12とにより構成されている。第1乃至第4の光源LD00〜LD11は、それぞれ、量子ビットの情報担体となる第1乃至第4の光子を発生する。図示の例では、発光部11は第1乃至第4の光源LD00〜LD11から構成されているが、これに限定されないのは勿論である。とにかく、発光部11は、量子ビットの情報担体となる第1乃至第4の光子を選択的に発生する構成であればよい。
送信側光回路12は、第1乃至第4の光子をそれぞれ入力する第1乃至第4の送信側入力ポート12in1、12in2、12in3、および12in4と伝送路30に接続された1つの送信側出力ポート12outとを持つ。送信側光回路12は、送信側非対称マッハツェンダー干渉系121と送信側非対称光学遅延回路122と送信側3dBカップラー125とにより構成される。送信側非対称マッハツェンダー干渉系121は、一方の腕に第1の送信側光学遅延回路121−1を内包する。送信側非対称光学遅延回路122は、第1の送信側光学遅延回路121−1の伝搬長と等しい伝搬長を有する第2の送信側光学遅延回路122−1を内包する光路とこれを内包しない光路を3dBカップラー122−2で結合した回路である。送信側3dBカップラー125は、送信側非対称マッハツェンダー干渉系121と送信側非対称光学遅延回路122とを共通の伝送路30に結合するものである。ここで送信側非対称光学遅延回路122は、第1の送信側光学遅延回路121−1の伝搬長に相当する伝搬遅延を異なるポートを伝搬する光子間に与える手段として機能する。
詳述すると、送信側光回路12は、第1及び第2の送信側入力ポート12in1、12in2に接続されると共に、第1の出力ポート12out1を持つ送信側非対称マッハツェンダー干渉系121と、第3及び第4の送信側入力ポート12in3、12in4に接続されると共に、第2の出力ポート12out2を持つ送信側非対称光学遅延回路122と、第1の出力ポート12out1と第2の出力ポート12out2とを送信側出力ポート12outに結合するための送信側3dBカップラー125とから構成されている。すなわち、送信側光回路12は、送信側非対称マッハツェンダー干渉系121と送信側非対称光学遅延回路122とが並列に結合された構成を有する。送信側非対称光学遅延回路122は、1組の長尺および短尺光路を有する光導波路から構成される。送信側非対称光学遅延回路122の長尺光路に第2の送信側光学遅延回路122−1が形成されている。送信側非対称マッハツェンダー干渉系121の一方の腕(長尺光路)に第1の送信側光学遅延回路121−1が形成されている。
量子暗号受信装置20は、第1乃至第4の光子検出器D00、D01、D10、D11から成る受光部21と、伝送路30と受光部21との間に設けられた受信側光回路22とにより構成されている。図示の例では、受光部21は第1乃至第4の光子検出器D00〜D11から構成されているが、これに限定されないのは勿論である。受光部21は、量子ビットの情報担体である光子到着の有無を検出するものである。
図示の受信側光回路22は、上記送信側光回路12と対称系となるように設けられている。すなわち、受信側光回路22は、伝送路30に接続された1つの受信側入力ポート22inと、第1乃至第4の受信側出力ポート22out1、22out2、22out3、および22out4とを持つ。第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4に受光部21が接続されている。受信側光回路22は、受信側非対称マッハツェンダー干渉系221と受信側非対称光学遅延回路222と受信側3dBカップラー225とより構成されている。受信側非対称マッハツェンダー干渉系221は、一方の腕に第1の受信側光学遅延回路221−1を内包する。受信側非対称光学遅延回路222は、第1の受信側光学遅延回路221−1の伝搬長と等しい伝搬長を有する第2の受信側光学遅延回路222−1を内包する光路とこれを内包しない光路を3dBカップラー222−2で結合した回路である。受信側3dBカップラー225は、受信側非対称マッハツェンダー干渉系221と受信側非対称光学遅延回路222とを共通の伝送路30に結合するものである。ここで受信側非対称光学遅延回路222は、第1の受信側光学遅延回路221−1の伝搬長に相当する伝搬遅延を異なるポートを伝搬する光子間に与える手段として機能する。
詳述すると、受信側光回路22は、第1及び第2の受信側出力ポート22out1、22out2に接続されると共に、第1の入力ポート22in1を持つ受信側非対称マッハツェンダー干渉系221と、第3及び第4の受信側出力ポート22out3、22out4に接続されると共に、第2の入力ポート22in2を持つ受信側非対称光学遅延回路222と、第1の入力ポート22in1と第2の入力ポート22in2とを受信側入力ポート22inに結合するための受信側3dBカップラー225とから構成されている。すなわち、受信側光回路22は、受信側非対称マッハツェンダー干渉系221と受信側非対称光学遅延回路222とが並列に結合された構成を有する。受信側非対称光学遅延回路222は、1組の長尺および短尺光路を有する光導波路から構成されている。受信側非対称光学遅延回路222の長尺光路に第2の受信側光学遅延回路222−1が形成されている。受信側非対称マッハツェンダー干渉系221の一方の腕(長尺光路)に第1の受信側光学遅延回路221−1が形成されている。
量子暗号送信装置10と量子暗号受信装置20との間を接続する光ファイバー伝送路30は、量子情報のキャリアとなる微弱光を伝送する。
図2は本発明の第2の実施例による量子暗号伝送システムの構成図である。図示の量子暗号伝送システムは、量子暗号送信装置10Aと、量子暗号受信装置20Aと、それらの間を接続する光ファイバー伝送路30とから構成されている。
量子暗号送信装置10Aは、送信側光回路の構成が図1に示されたものと相違している点を除いて、図1に示した量子暗号送信装置10と同様の構成を有する。従って、送信側光回路に12Aの参照符号を付してある。
送信側光回路12Aは送信側非対称マッハツェンダー干渉系123と、この送信側非対称マッハツェンダー干渉系123の2つの腕のそれぞれに結合する2つの送信側3dBカップラー126および127とにより構成されている。送信側非対称マッハツェンダー干渉系123は、一方の腕に送信側光学遅延回路123−1を内包する。2つの送信側3dBカップラー126および127は、送信側光学遅延回路123−1の伝搬長に相当する伝搬遅延を異なるポートを伝搬する光子間に与える手段として機能する。
詳述すると、送信側光回路12Aは、第1及び第2の送信側入力ポート12in1、12in2と送信側出力ポート12outとの間に接続された送信側非対称マッハツェンダー干渉系123と、第3の送信側入力ポート12in3と送信側非対称マッハツェンダー干渉系123の一方の腕(長尺光路)とに接続された第1の送信側3dBカップラー(第1の光導波路)126と、第4の送信側入力ポート12in4と送信側非対称マッハツェンダー干渉系123の他方の腕(短尺光路)とに接続された第2の送信側3dBカップラー(第2の光導波路)127とから構成されている。送信側光学遅延回路123−1は送信側非対称マッハツェンダー干渉系123の一方の腕(長尺光路)に形成されている。
量子暗号受信装置20Aは、受信側光回路の構成が図1に示されたものと相違している点を除いて、図1に示した量子暗号受信装置20と同様の構成を有する。従って、受信側光回路に22Aの参照符号を付してある。図示の受信側光回路22Aは、上記送信側光回路12Aと対称系となるように設けられている。
すなわち、受信側光回路22Aは、送信側光回路12Aと同様に、受信側非対称マッハツェンダー干渉系223と、この受信側非対称マッハツェンダー干渉系223の2つの腕のそれぞれに結合する2つの受信側3dBカップラー226および227とより構成されている。受信側非対称マッハツェンダー干渉系223は、一方の腕に受信側光学遅延回路223−1を内包する。2つの受信側3dBカップラー226および227は、受信側光学遅延回路223−1の伝搬長と等しい伝搬遅延を異なるポートを伝搬する光子間に与える手段として機能する。
詳述すると、受信側光回路22Aは、第1及び第2の受信側出力ポート22out1、22out2と受信側入力ポート22inとの間に接続された受信側非対称マッハツェンダー干渉系223と、第3の受信側出力ポート22out3と受信側非対称マッハツェンダー干渉系223の一方の腕(長尺光路)とに接続された第1の受信側3dBカップラー(第1の光導波路)226と、第4の受信側出力ポート22out4と受信側非対称マッハツェンダー干渉系223の他方の腕(短尺光路)とに接続された第2の受信側3dBカップラー(第2の光導波路)227とから構成されている。受信側光学遅延回路223−1は受信側非対称マッハツェンダー干渉系223の一方の腕(長尺光路)に形成されている。
図1および図2に示す量子暗号伝送システムにおいて、光回路12、22、12A、22Aを平面光回路で構成することにより、アクティブな制御装置を用いることなく簡便な量子暗号伝送システムを構成することが可能である。しかしながら、本実施例の作用はこれらのデバイスの実装法には依存しない。例えば、光ファイバーや、平面光回路と光ファイバーのハイブリッド構成により同様なデバイスを構成することは可能である。このようなデバイスを用いた場合でも、本発明の第1および第2の実施例による量子暗号伝送システムの機能が失われることはない。また、図1〜図2には示されていないが、量子暗号送信装置および量子暗号受信装置の記録装置はパーソナルコンピュータで、古典通信路は通常のインターネット通信で十分である。
以下、図を参照しながら、本発明の第1および第2の実施例による量子暗号伝送システムの動作について順次説明する。
最初に図1を参照して、本発明の第1の実施例による量子暗号伝送システムの動作について説明する。
図1において、正規送信者は同一波長λのコヒーレント光を発生する第1乃至第4の微弱レーザ光源LD00、LD01、LD10、LD11からランダムにひとつの光源を選び、選ばれた光源から微弱な短光パルスを出射する。発光部11において第1の微弱レーザ光源LD00または第2の微弱レーザ光源LD01が選択されたとする。この場合、送信側光回路12の第1及び第2の送信側入力ポート12in1、12in2に入射された短光パルスは、第1及び第2の送信側入力ポート12in1、12in2の選択に依存してπだけ相対位相の異なるコヒーレントな2連微弱光パルス(相対位相が明確に定義された2つの光パルス)となって第1の出力ポート12out1上に出力される。
一方、発光部11において第3の微弱レーザ光源LD10または第4の微弱レーザ光源LD11が選択されたとする。この場合、それぞれが接続された送信側非対称光学遅延回路122の長尺および短尺光路の導波路長を適切に調整することにより、該コヒーレント2連微弱光パルスの先進、または、遅延の一方の微弱光パルスを第3及び第4の送信側入力ポート12in3、12in4の選択に従って第2の出力ポート12out2上に準備(生成)することができる。
これらの2つの光回路(送信側非対称マッハツェンダー干渉系121と送信側非対称光学遅延回路122)の第1及び第2の出力ポート12out1、12out2を、送信側3dBカップラー125で共通の光ファイバー伝送路30の送信側出力ポート12outに結合することにより、第1乃至第4の微弱レーザ光源LD00、LD01、LD10、LD11のランダムな選択に従って、量子暗号鍵配布プロトコル実行に必要となる互いに共役な基底系に属するコヒーレント2連微弱光パルス、または、それらを構成する先進あるいは遅延微弱光パルスLPtをランダムに選択して光ファイバー伝送路30上に準備(生成)することが出来る。
一方、量子暗号受信装置20は、量子暗号送信装置10の送信側光回路12と同様の構成の受信側光回路22を持つ。受信側回路22の第1及び第2の入力ポート22in1、22in2は、光カップラー225で微弱光を伝送する光ファイバー伝送路30の受信側入力ポート22inに結合される。受信側光回路22の第1乃至第4の受信側出力ポート22out1、22out2、22out3、22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器D00、D01、D10、D11に接続されている。
受光部21の第1乃至第4の光子検出器D00〜D11は、量子暗号送信装置10に同期して動作する。これら受光部21の第1乃至第4の光子検出器D00〜D11のうち、第1及び第2の光子検出器D00、D01は、受信側光回路22の受信側非対称マッハツェンダー干渉系221からの3連パルス的光子出力PLrの中央のパルスに含まれる光子の有無を検出し、第3の光子検出器D10は、受信側回路22の受信側非対称光学遅延回路222の長尺光導波路からの2連パルス的光子出力PLrの先進パルスに含まれる光子の有無を検出し、第4の光子検出器D11は、受信側回路22の受信側非対称光学遅延回路222の短尺光導波路からの2連パルス的光子出力PLrの遅延パルスに含まれる光子の有無を検出する。
量子暗号送信装置10と量子暗号受信装置20との間の同期は古典通信路(図示せず)を介して行われる。このとき、発光部11での光源の選択が{LD00またはLD01}であり、かつ、受光部21での光子検出が{D00またはD01}である場合(全事象の1/4)、および、発光部11での光源の選択が{LD10またはLD11}であり、かつ、受光部21での光子検出が{D10またはD11}である場合(全事象の1/4)に、選択された光源と光子検出された検出器が完全相関するように、温度制御などの方法により送信側光回路12および受信側光回路22を制御することができる。
これ以外の光源選択と光子検出された検出器の組合せに関しては、両者の間には完全に相関がなく、秘密鍵生成には用いない。以上の動作は、非直交4状態を用いる量子暗号装置の必要十分条件を満たしており、非特許文献1に提案されたプロトコルに従えば無条件安全な秘密鍵を送受信者間で共有することが可能である。
以下においてこのプロトコルについて具体的に手順を説明する。光パルスの送受信が完了した後に、送信者は、量子暗号送信装置10の発光部11での光源の選択が{LD00またはLD01}か{LD10またはLD11}のどちらであったか(これを送信した基底と呼ぶ)を古典通信路で公開し、受信者に知らせる。このとき送信者が送信したいビット値を、{LD00またはLD10}では“0”、{LD01またはLD11}では“1”としておくことにより、第3者は公開された送信基底の情報だけではビット値を知ることができない。
また、受信者は、量子暗号受信装置20の受光部21での光子検出が{D00またはD01}か{D10またはD11}のどちらであったか(これを受信した基底と呼ぶ)を同様に公開し、送信者に知らせる。受信基底がどちらになるかは、量子暗号受信装置20の受信側光回路22内部の受信側3dBカップラー225において光子がどちらの光路に進むかによって受動的に決まり、全くのランダムである。
ここでもやはり、受信したビット値は光子検出が{D00またはD10}ならば“0”、{D01またはD11}ならば“1”としておくことにより、第3者は公開された受信基底の情報だけではビット値を知ることができない。このように送受信の基底のみを公開し、両者の基底が対応していない場合(全事象の1/2)のビットは破棄する。
そして送受信の基底が対応している場合(全事象の1/2)には送信者の選択したビット値と受信者が受信したビット値とが一致するように送信側光回路12および受信側光回路22を調整することができるため、基底が対応した場合のビット値のみを記録することで、送受信者の間で秘密鍵を安全に共有することができる。
次に、図2を参照して、本発明の第2の実施例による量子暗号伝送システムの動作について説明する。図2において、正規送信者は、同一波長λのコヒーレント光を発生する発光部11の第1乃至第4の微弱レーザ光源LD00、LD01、LD10、LD11からランダムにひとつの光源を選び、選ばれた光源から微弱な短光パルスを出射する。
発光部11において第1の微弱レーザ光源LD00または第2の微弱レーザ光源LD01が選択されたとする。この場合、送信側光回路12Aの第1及び第2の送信側入力ポート12in1、12in2に入射された短光パルスは、第1及び第2の送信側入力ポート12in1、12in2の選択に依存してπだけ相対位相の異なるコヒーレントな2連微弱光パルス(相対位相が明確に定義された2つの光パルス)となって、送信側光回路12Aの送信側出力ポート12out上に出力される。
一方、発光部11において第3の微弱レーザ光源LD10または第4の微弱レーザ光源LD11が選択されたとする。この場合、該コヒーレント2連微弱光パルスの先進または遅延の一方の微弱光パルスを、送信側光回路12Aの第3及び第4の送信側入力ポート12in3、12in4の選択に従って、送信側光回路12Aの送信側出力ポート12out上に生成(準備)することができる。
発光部11における第1乃至第4の微弱レーザ光源LD10〜LD11のランダムな選択に従って、量子暗号鍵配布プロトコル実行に必要となる互いに共役な基底系に属するコヒーレント2連微弱光パルスまたはそれらを構成する先進あるいは遅延微弱光パルスLPtをランダム選択して、光ファイバー伝送路30上に生成(準備)することが出来る。
一方、量子暗号受信装置20Aは、量子暗号送信装置10Aの送信側光回路12Aと同様の構成の受信側光回路22Aを持つ。受信側光回路22Aの受信側入力ポート22inは微弱光を伝送する光ファイバー伝送路30に結合される。受信側光回路22Aの第1乃至第4の受信側出力ポート22out1、22out2、22out3、22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器D00、D01、D10、D11に接続されている。
受光部21の第1乃至第4の光子検出器D00〜D11は、量子暗号送信装置10Aに同期して動作する。これら受光部21の第1乃至第4の光子検出器D00〜D11のうち、第1及び第2の光子検出器D00、D01は、受信側光回路22Aの受信側非対称マッハツェンダー干渉系223からの3連パルス的光子出力LPrの中央のパルスに含まれる光子の有無を検出し、第3の光子検出器D10は、受信側光回路22Aの受信側非対称マッハツェンダー干渉系223の長尺光導波路からの2連パルス的光子出力LPrの先進パルスに含まれる光子の有無を検出し、第4の光子検出器D11は、受信側光回路22Aの受信側非対称マッハツェンダー干渉系223の短尺光導波路からの2連パルス的光子出力LPrの遅延パルスに含まれる光子の有無を検出する。
量子暗号送信装置10Aと量子暗号受信装置20Aとの間の同期は古典通信路(図示せず)を介して行われる。このとき、発光部11での光源の選択が{LD00またはLD01}であり、かつ、受光部21での光子検出が{D00またはD01}である場合(全事象の1/4)、および発光部11での光源の選択が{LD10またはLD11}であり、かつ、受光部21での光子検出が{D10またはD11}である場合(全事象の1/4)に、選択された光源と光子検出された検出器が完全相関するように、温度制御などの方法により、送信側光回路12Aおよび受信側光回路22Aを制御することができる。
これ以外の光源選択と光子検出された検出器の組合せに関しては、両者の間には完全に相関がなく、秘密鍵生成には用いない。以上の動作は、非直交4状態を用いる量子暗号装置の必要十分条件を満たしており、非特許文献1に提案されたプロトコルに従えば無条件安全な秘密鍵を送受信者間で共有することが可能である。このプロトコルの具体的な手順は、上述した本発明の第1の実施例で説明したものとほぼ同様であるので、それらの説明については省略する。
以上の本発明の第1および第2の実施例に係る量子暗号伝送システムの構成によると、従来技術のように量子暗号送信装置および量子暗号受信装置において信号変調装置の必要がない、極めて簡便な量子暗号伝送システムを提供できる。また、能動的信号変調がないため、盗聴者が外部からプローブ光を導入したとしても一切の情報を得ることは不可能であり、トロイの木馬型攻撃の危険性を排除できる。
本構成では光回路12、22、12A、22Aの精密制御が必要になるが、これはPLC技術を利用することにより容易にクリアできる。光子検出器の個数が2倍に増えるため、暗計数による雑音は2倍に増えるが、変調器が不要であるため、その光学損失の排除によりほぼキャンセルできる。従って、非特許文献1〜7および特許文献1に開示された量子暗号伝送システムに比べて、正規利用者の装置および装置運用のための経済的および技術的負担を大幅に軽減することができる。
尚、図1に図示した本発明の第1の実施例による量子暗号伝送システムでは、互いに対称系となる量子暗号送信装置10と量子暗号受信装置20とを備え、図2に図示した本発明の第2の実施例による量子暗号伝送システムでも、互いに対称系となる量子暗号送信装置10Aと量子暗号受信装置20Aとを備えている。しかしながら、本発明に係る量子暗号伝送システムにおいては、伝送路を介して互いに接続される量子暗号送信装置と量子暗号受信装置とは、必ずしも互いに対称系である必要はない。例えば、量子暗号伝送システムは量子暗号送信装置10と量子暗号受信装置20Aとを伝送路30で接続した構成であってもよく、或いは量子暗号伝送システムは量子暗号送信装置10Aと量子暗号受信装置20とを伝送路30で接続した量子暗号伝送システムであってもよい。
図3は本発明の第3の実施例による量子暗号伝送システムの構成図である。図示の量子暗号伝送システムは、中央に配置された光子対発生源40と、その両側に配置された一対の量子暗号受信装置20とにより構成される。光子対発生源40と各量子暗号受信装置20とは微弱光を伝送する光ファイバー伝送路30により接続される。
量子暗号受信装置20の各々は、図1に図示した量子暗号受信装置20と同様の構成を有する。すなわち、右側の量子暗号受信装置20は、受信側光回路22と、第1乃至第4の光子検出器A00、A01、A10、A11を有する受光部21とにより構成される。左側の量子暗号受信装置20は、受信側光回路22と、第1乃至第4の光子検出器B00、B01、B10、B11を有する受光部21とにより構成される。
図4は本発明の第4の実施例による量子暗号伝送システムの構成図である。図示の量子暗号伝送システムは、中央に配置された光子対発生源40と、その両側に配置された一対の量子暗号受信装置20Aとにより構成される。光子対発生源40と各量子暗号受信装置20Aとは微弱光を伝送する光ファイバー伝送路44により接続される。
量子暗号受信装置20Aの各々は、図2に図示した量子暗号受信装置20Aと同様の構成を有する。すなわち、右側の量子暗号受信装置20Aは、受信側光回路22Aと、第1乃至第4の光子検出器A00、A01、A10、A11を有する受光部21とにより構成される。左側の量子暗号受信装置20Aは、受信側光回路22Aと、第1乃至第4の光子検出器B00、B01、B10、B11を有する受光部21とにより構成される。
図3および図4の量子暗号受信装置20、20Aの構成要素である受信側光回路22、22Aを平面光回路で構成することにより、アクティブな制御装置を用いることなく、簡便な量子暗号伝送システムを構成することが可能である。
しかしながら、本発明の第3及び第4の実施例の作用はこれらのデバイスの実装法には依存しない。例えば、光ファイバーや、平面光回路と光ファイバーのハイブリッド構成により同様なデバイスを構成することは可能である。このようなデバイスを用いた場合でも、本実施例の量子暗号伝送システムの機能が失われることはない。
また、図3および図4には示されていないが、各量子暗号受信装置20、20Aの記録装置はパーソナルコンピュータで、古典通信路は通常のインターネット通信で十分である。
また、図3〜図4において、光子対発生源40は両受信者の持つ量子暗号受信装置20、20Aとは別の場所に配置されているように描かれているが、この光子対発生源40はどちらか一方の量子暗号受信装置に内蔵されていても良い。
そのような構成の場合、光子対発生源40から両量子暗号受信装置の持つ受光部21までの距離が非対称になり光子の到達タイミングは異なってくるが、その時間差分の遅延をかけた同期をとることにより動作可能である。
図3および図4において、光子対発生源40は、図10に図示された光子対発生源40と同様の構成を有する。すなわち、光子対発生源40は、短光パルスLPを出射するパルスレーザ光源41と、非対称マッハツェンダー干渉系42と、非線形光学結晶43と、ビームスプリッター44とから構成される。
以下、図を参照しながら、本発明の第3および第4の実施例による量子暗号伝送システムの動作について順次説明する。
先ず、図3を参照して、本発明の第3の実施例に係る量子暗号伝送システムの動作について説明する。
図3において、光子対発生源40に装備されたパルスレーザ光源41からの短光パルスLPを非対称マッハツェンダー干渉系42に入射することにより、その長短尺光路差だけ空間的に分離したコヒーレント2連光パルスLP2Cを生成(準備)する。
この2連光パルスLP2Cは非線形光学結晶43に入射され、パラメトリック下方変換過程によってそれぞれが2つの光パルスPP2Cに分裂する。この分裂後の光子対PP2Cは量子力学的な相関を持つ。
こうして生成された2連量子相関光子対PP2Cはビームスプリッター44で分岐され、光ファイバー伝送路30によって両量子暗号受信装置20に分配される。
各量子暗号受信装置20は、受信側光回路22を持つ。受信側光回路22の第1及び第2の入力ポート22in1、22in2は光カップラー225で微弱光を伝送する光ファイバー伝送路30の受信側入力ポート22inに結合される。左側の量子暗号受信装置20の受信側光回路22の第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器A00、A01、A10、A11に接続されている。右側の量子暗号受信側光回路22の第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器B00、B01、B10、B11に接続されている。
受光部21の第1乃至第4の光子検出器A00〜A11又はB00〜B11は、光子対発生源31に同期して動作する。これら第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4に接続された受光部21の第1乃至第4の光子検出器A00〜A11又はB00〜B11のうち、第1及び第2の光子検出器A00、A01又はB00、B01は、受信側光回路22の受信側非対称マッハツェンダー干渉系221からの3連パルス的光子出力の中央のパルスに含まれる光子の有無を検出し、第3の光子検出器A10又はB10は、受信側光回路22の受信側非対称光学遅延回路222の長尺光導波路からの2連パルス的光子出力の先進パルスの有無を検出し、第4の光子検出器A11又はB11は、受信側光回路22の受信側非対称光学遅延回路222の短尺光導波路からの2連パルス的光子出力の遅延パルスに含まれる光子の有無を検出する。
光子対発生源40及び両量子暗号受信装置20との間の同期は古典通信路(図示せず)を介して行われる。このとき、両量子暗号受信装置20の持つ受光部21での光子検出が{A00またはA01}であり、かつ、{B00またはB01}である場合(全事象の1/4)、および両量子暗号受信装置20の持つ受光部21での光子検出が{A10またはA11}であり、かつ、{B10またはB11}である場合(全事象の1/4)に、両量子暗号受信装置20の光子検出された検出器が完全相関するように、温度制御などの方法により、受信側光回路22を制御することができる。
これ以外の光子検出された検出器の組合せに関しては、両量子暗号受信装置20の間には完全に相関がなく、秘密鍵生成には用いない。以上の動作は、非直交4状態を用いる量子暗号装置の必要十分条件を満たしており、非特許文献8に提案されたプロトコルに従えば無条件安全な秘密鍵を2者間で共有することが可能である。
このプロトコルは、基本的には、前述した本発明の第1の実施例で説明したものとほぼ同じであるが、図1に示した先の本発明の第1の実施例による量子暗号伝送システムでは量子暗号送信装置10は人為的に基底・ビット値を選択していたのに対し、この本発明の第3の実施例による量子暗号伝送システムでは両量子暗号受信装置20ともに基底・ビット値が光カップラー225によって受動的に決定される点が異なる。このようにして決定された基底を古典通信路で公開し、基底が対応していないビットは破棄し、対応しているビットの値のみを記録することで秘密鍵を安全に共有することができる。
次に、図4を参照して、本発明の第4の実施例に係る量子暗号伝送システムの動作について説明する。
光子対発生源40により生成された2連量子相関光子対PP2Cが光ファイバー伝送路30によって両量子暗号受信装置20A間に分配されるまでの動作は、上述した本発明の第3の実施例による量子暗号伝送システムと同様である。
各量子暗号受信装置20Aは、受信側光回路22Aを持つ。受信側光回路22Aの受信側入力ポート22inは、微弱光を伝送する光ファイバー伝送路30に結合されている。左側の量子暗号受信装置20Aの受信側光回路22Aの第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器A00、A01、A10、A11に接続されている。右側の量子暗号受信装置20Aの受信側光回路22Aの第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器B00、B01、B10、B11に接続されている。
受光部21の第1乃至第4の光子検出器A00〜A11又はB00〜B11は、光子対発生源40に同期して動作する。これら第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4に接続された受光部21の第1乃至第4の光子検出器A00〜A11又はB00〜B11のうち、第1及び第2の光子検出器A00、A01又はB00、B01は、受信側光回路22Aの受信側非対称マッハツェンダー干渉系223からの3連パルス的光子出力の中央のパルスに含まれる光子の有無を検出し、第3の光子検出器A10又はB10は、受信側光回路22Aの受信側非対称マッハツェンダー干渉系223の長尺光導波路からの2連パルス的光子出力の先進パルスに含まれる光子の有無を検出し、第4の光子検出器A11又はB11は、受信側光回路22Aの受信側非対称マッハツェンダー干渉系223の短尺光導波路からの2連パルス的光子出力の遅延パルスに含まれる光子の有無を検出する。
光子対発生源40と両量子暗号受信装置20Aとの間の同期は古典通信路(図示せず)を介して行われる。このとき、両量子暗号受信装置20Aの持つ受光部21での光子検出が{A00またはA01}であり、かつ、{B00またはB01}である場合(全事象の1/4)、および、受光部21での光子検出が{A10またはA11}であり、かつ、{B10またはB11}である場合(全事象の1/4)に、両量子暗号受信装置20Aの光子検出された検出器が完全相関するように、温度制御などの方法により受信側光回路22Aを制御することができる。
これ以外の光子検出された検出器の組合せに関しては、両量子暗号受信装置20Aの間には完全に相関がなく、秘密鍵生成には用いない。以上の動作は、非直交4状態を用いる量子暗号装置の必要十分条件を満たしており、非特許文献8に提案されたプロトコルに従えば無条件安全な秘密鍵を2者間で共有することが可能である。
このプロトコルの具体的な手順は、上述した本発明の第3の実施例で説明したものとほぼ同様であるので、説明を省略する。
以上の本発明の第3および第4の実施例の装置構成によると、従来技術のように受信装置において信号変調装置の必要がない極めて簡便な量子暗号伝送システムを提供できる。また、能動的信号変調がないため盗聴者が外部からプローブ光を導入したとしても一切の情報を得ることは不可能であり、トロイの木馬型攻撃の危険性を排除できる。
本構成では受信側光回路22および22Aの精密制御が必要になるが、これはPLC技術を利用することにより容易にクリアできる。光子検出器の数が2倍に増えるため、暗計数による雑音は2倍に増えるが、変調器が不要であるためその光学損失の排除によりほぼキャンセルできる。
従って、非特許文献1〜8および特許文献1に開示された量子暗号装置に比べて、正規利用者の装置および装置運用のための経済的および技術的負担を大幅に軽減することができる。
図5は本発明の第5の実施例による量子暗号伝送システムの構成図である。図示の量子暗号伝送システムは、中央に配置された光子対発生源50と、その両側に配置された一対の量子暗号受信装置20とから構成されている。光子対発生源50と各量子暗号受信装置20とは微弱光を伝送する光ファイバー伝送路30により接続される。即ち、図示の量子暗号伝送システムは、光子対発生源40の代わりに光子対発生源50を備えている点を除いて、図3に示した本発明の第3の実施例に係る量子暗号伝送システムと同様の構成を有する。光子対発生源50は、図11に示された光子対発生源50と同じ構成を有する。
左側の量子暗号受信装置20は、受信側光回路22と、第1乃至第4の光子検出器A00、A01、A10、A11から成る受光部21とにより構成される。右側の量子暗号受信装置20は、受信側光回路22と、第1乃至第4の光子検出器B00、B01、B10、B11から成る受光部21とにより構成される。
図6は本発明の第6の実施例による量子暗号伝送システムの構成図である。図示の量子暗号伝送システムは、中央に配置された光子対発生源50と、その両側に配置された一対の量子暗号受信装置20Aとから構成されている。光子対光源50と各量子暗号受信装置20Aは微弱光を伝送する光ファイバー伝送路30により接続される。即ち、図示の量子暗号伝送システムは、光子対発生源40の代わりに光子対発生源50を備えている点を除いて、図4に示した本発明の第4の実施例に係る量子暗号伝送システムと同様の構成を有する。光子対発生源50は、図11に示された光子対発生源50と同じ構成を有する。
左側の量子暗号受信装置20Aは、受信側光回路22Aと、第1乃至第4の光子検出器A00、A01、A10、A11から成る受光部21とにより構成される。右側の量子暗号受信装置20Aは、受信側光回路22Aと、第1乃至第4の光子検出器B00、B01、B10、B11から成る受光部21とにより構成される。
図5および図6の量子暗号受信装置20、20Aの構成要素である受信側光回路22、22Aを平面光回路で構成することにより、アクティブな制御装置を用いることなく簡便な量子暗号伝送システムを構成することが可能である。
しかしながら、本発明の第5および第6の実施例の作用はこれらのデバイスの実装法には依存しない。例えば、光ファイバーや、平面光回路と光ファイバーのハイブリッド構成により同様なデバイスを構成することは可能である。このようなデバイスを用いた場合でも、本発明の第5および第6の実施例の量子暗号伝送システムの機能が失われることはない。
また、図5および図6には示されていないが、各量子暗号受信装置20、20Aの記録装置はパーソナルコンピュータで、古典通信路は通常のインターネット通信で十分である。
また本発明の第3の実施例および第4の実施例と同様に、光子対発生源50はどちらか一方の受信装置に内蔵されていても良い。
光子対発生源50は、連続的なレーザ光LLを出射する連続発振レーザ光源51と、連続的なレーザ光LLから量子相関光子対PPを生成する非線形光学結晶53と、量子相関光子対PPを分岐するビームスプリッター54とから構成されている。
以下、図を参照しながら、本発明の第5および第6の実施例による量子暗号伝送システムの動作について順次説明する。
最初に図5を参照して、本発明の第3の実施例に係る量子暗号伝送システムの動作について説明する。
図5において、光子対発生源50に装備された連続発振レーザ光源51からの連続的なレーザ光LLは、そのコヒーレンス時間内であればどの点においてもお互いにコヒーレントである。したがって、この連続的なレーザ光LLは、前記本発明の第3および第4の実施例におけるコヒーレント2連光パルスLP2Cに相当し、この場合は2連ではなく無限連とも言える状態となっている。
このレーザ光LLは非線形光学結晶53に入射され、パラメトリック下方変換過程によって2つの光子PPに分裂する。この分裂後の光子対PPは量子力学的な相関を持つ。
こうして生成された量子相関光子対PPはビームスプリッター54で分岐され、光ファイバー伝送路30によって両量子暗号受信装置20間に分配される。
各量子暗号受信装置20は受信側光回路22を持つ。各量子暗号受信装置20の受信側光回路22の第1及び第2の入力ポート22in1、22in2は、光カップラー225で微弱光を伝送する光ファイバー伝送路30の受信側入力ポート22inに結合される。右側の量子暗号受信装置の受信側光回路22の第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器A00、A01、A10、A11に接続されている。左側の量子暗号受信装置の受信側光回路22の第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器B00、B01、B0、B11に接続されている。
これらの受光部21に接続された記録装置(パーソナルコンピュータ)によって、光子検出の起こった検出器およびその到着タイミングを記録する。このとき、両量子暗号受信装置20の持つ受光部21において{A00またはA01}と{B00またはB01}とが同時に検出された場合(全事象の1/4)、および、{A10またはA11}と{B10またはB11}とが同時に検出された場合(全事象の1/4)に、両量子暗号受信装置20の光子検出された検出器が完全相関するように、温度制御などの方法により受信側光回路22を制御することができる。
これ以外の光子検出された検出器の組合せに関しては、両量子暗号受信装置20の間には完全に相関がなく、秘密鍵生成には用いない。
以上の動作は、非直交4状態を用いる量子暗号装置の必要十分条件を満たしており、非特許文献8に提案されたプロトコルに従えば無条件安全な秘密鍵を2者間で共有することが可能である。このプロトコルの具体的な手順は、前述した本発明の第3の実施例で説明したものとほぼ同様であるので、説明を省略する。
次に、図6を参照して、本発明の第6の実施例に係る量子暗号伝送システムの動作について説明する。
光子対発生源50により生成された2連量子相関光子対PPが光ファイバー伝送路30によって両受信装置20Aに分配されるまでの動作は、上述した本発明の第5の実施例と同様である。
各量子暗号受信装置20Aは、受信側光回路22Aを持つ。各量子暗号受信装置20Aの受信側光回路22Aの受信側入力ポート22inは、微弱光を伝送する光ファイバー伝送路30に結合される。左側の量子暗号受信装置20Aの受信側光回路22Aの第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器A00、A01、A10、A11に接続されている。右側の量子暗号受信装置20Aの受信側光回路22Aの第1乃至第4の受信側出力ポート22out1〜22out4は、それぞれ、受光部21の第1乃至第4の光子検出器B00、B01、B10、B11に接続されている。これらの受光部21に接続された記録装置(パーソナルコンピュータ)によって、光子検出の起こった検出器およびその到着タイミングを記録する。
このとき、両量子暗号受信装置20Aの持つ受光部21において{A00またはA01}と{B00またはB01}とが同時に検出された場合(全事象の1/4)、および、{A10またはA11}と{B10またはB11}とが同時に検出された場合(全事象の1/4)に、両量子暗号受信装置20Aの光子検出された検出器が完全相関するように、温度制御などの方法により受信側光回路22Aを制御することができる。
これ以外の光子検出された検出器の組合せに関しては、両量子暗号受信装置20Aの間には完全に相関がなく、秘密鍵生成には用いない。
以上の動作は、非直交4状態を用いる量子暗号装置の必要十分条件を満たしており、非特許文献8に提案されたプロトコルに従えば無条件安全な秘密鍵を2者間で共有することが可能である。このプロトコルの具体的な手順は、上述した本発明の第3の実施例で説明したものとほぼ同様であるので、説明を省略する。
以上の本発明の第5および第6の実施例の装置構成によると、従来技術のように量子暗号受信装置において信号変調装置の必要がない極めて簡便な量子暗号伝送システムを提供できる。また、能動的信号変調がないため盗聴者が外部からプローブ光を導入したとしても一切の情報を得ることは不可能であり、トロイの木馬型攻撃の危険性を排除できる。
本構成では受信側光回路22および22Aの精密制御が必要になるが、これはPLC技術を利用することにより容易にクリアできる。光子検出器の数が2倍に増えるため、暗計数による雑音は2倍に増えるが、変調器が不要であるためその光学損失の排除によりほぼキャンセルできる。
従って、非特許文献1〜8および特許文献1に開示された量子暗号装置に比べて、正規利用者の装置および装置運用のための経済的および技術的負担を大幅に軽減することができる。
図3に図示した本発明の第3の実施例による量子暗号伝送システムでは、中央に配置された光子対発生源40の両側に同一構成の一対の量子暗号受信装置20が配置され、図4に図示した本発明の第4の実施例による量子暗号伝送システムでは、中央に配置された光子対発生源40の両側に同一構成の一対の量子暗号受信装置20Aが配置され、図5に図示した本発明の第5の実施例による量子暗号伝送システムでは、中央に配置された光子対発生源50の両側に同一構成の一対の量子暗号受信装置20が配置され、図6に図示した本発明の第6の実施例による量子暗号伝送システムでは、中央に配置された光子対発生源50の両側に同一構成の一対の量子暗号受信装置20Aが配置されている。すなわち、本発明の第3乃至第6の実施例による量子暗号伝送システムでは、中央に配置された光子対発生源の両側に同一構成の一対の量子暗号受信装置が配置された構成をしている。
しかしながら、本発明に係る量子暗号伝送システムでは、中央に配置された光子対発生源の両側に配置される一対の量子暗号受信装置は、必ずしも同一構成である必要はなく、異なっていてもよい。例えば、量子暗号伝送システムは、中央に配置された光子対発生源40の一方の側に量子暗号受信装置20を配置し、他方の側に量子暗号受信装置20Aを配置した構成であってもよく、或いは量子暗号伝送システムは、中央に配置された光子対発生源50の一方の側に量子暗号受信装置20を配置し、他方の側に量子暗号受信装置20Aを配置した構成であってもよい。
本発明は上述した実施例に限定されず、本発明の趣旨(主題)を逸脱しない範囲内で種々の変更・変形が可能なのは勿論である。

Claims (15)

  1. 一方の腕に光学遅延回路(121−1;123−1;221−1;223−1)を内包する非対称マッハツェンダー干渉系(121;123;221;223)、
    および
    前記光学遅延回路の伝搬長に相当する伝搬遅延を異なるポートを伝搬する光子間に与える手段
    を内包することを特徴とする光回路(12;12A;22;22A)。
  2. 前記光回路(12;22)は、
    一方の腕に第1の光学遅延回路(121−1;221−1)を内包する非対称マッハツェンダー干渉系(121;221)、
    および
    前記第1の光学遅延回路の伝搬長と等しい伝搬長を有する第2の光学遅延回路(122−1;222−1)を内包する光路とこれを内包しない光路を3dBカップラー(122−2;222−2)で結合した非対称光学遅延回路(122;222)、
    および
    これらを共通の伝送路に結合する3dBカップラー(125;225)
    により構成されることを特徴とする、請求項1の光回路。
  3. 前記光回路(12A;22A)は、
    一方の腕に光学遅延回路(123−1;223−1)を内包する非対称マッハツェンダー干渉系(123;223)、
    および
    前記非対称マッハツェンダー干渉系の2つの腕のそれぞれに結合する2つの3dBカップラー(126,127;226,227)
    により構成されることを特徴とする、請求項1の光回路。
  4. 平面光回路により構成されていることを特徴とする、請求項2の光回路。
  5. 平面光回路により構成されていることを特徴とする、請求項3の光回路。
  6. 量子ビットの情報担体となる光子を発生する発光部(11)、および前記発光部と伝送路(30)に接続された請求項2の光回路(12)を有することを特徴とする量子暗号送信装置(10)。
  7. 量子ビットの情報担体となる光子を発生する発光部(11)、および前記発光部と伝送路(30)に接続された請求項3の光回路(12A)を有することを特徴とする量子暗号送信装置(10A)。
  8. 量子ビットの情報担体である光子を検出する受光部(21)、および前記受光部と伝送路(30)に接続された請求項2の光回路(22)を有することを特徴とする量子暗号受信装置(20)。
  9. 量子ビットの情報担体である光子を検出する受光部(21)、および前記受光部と伝送路(30)に接続された請求項3の光回路(22A)を有することを特徴とする量子暗号受信装置(20A)。
  10. 伝送路(30)と、該伝送路を介して接続されて量子暗号鍵の送受信を行う量子暗号送信装置と量子暗号受信装置とを有する量子暗号伝送システムであって、
    請求項6に示した量子暗号送信装置(10)、
    および
    請求項8に示した量子暗号受信装置(20)
    を有することを特徴とする、量子暗号伝送システム。
  11. 伝送路(30)と、該伝送路を介して接続されて量子暗号鍵の送受信を行う量子暗号送信装置と量子暗号受信装置とを有する量子暗号伝送システムであって、
    請求項6に示した量子暗号送信装置(10)、
    および
    請求項9に示した量子暗号受信装置(20A)
    を有することを特徴とする、量子暗号伝送システム。
  12. 伝送路(30)と、該伝送路を介して接続されて量子暗号鍵の送受信を行う量子暗号送信装置と量子暗号受信装置とを有する量子暗号伝送システムであって、
    請求項7に示した量子暗号送信装置(10A)、
    および
    請求項8に示した量子暗号受信装置(20)
    を有することを特徴とする、量子暗号伝送システム。
  13. 伝送路(30)と、該伝送路を介して接続されて量子暗号鍵の送受信を行う量子暗号送信装置と量子暗号受信装置とを有する量子暗号伝送システムであって、
    請求項7に示した量子暗号送信装置(10A)、
    および
    請求項9に示した量子暗号受信装置(20A)
    を有することを特徴とする、量子暗号伝送システム。
  14. 光子対発生源(40;50)と、一対の量子暗号受信装置と、前記光子対発生源と各量子暗号受信装置とを接続する伝送路(30)とを有する量子暗号伝送システムであって、
    請求項8に示した一対の量子暗号受信装置(20)
    を有することを特徴とする、量子暗号伝送システム。
  15. 光子対発生源(40;50)と、一対の量子暗号受信装置と、前記光子対発生源と各量子暗号受信装置とを接続する伝送路(30)とを有する量子暗号伝送システムであって、
    請求項9に示した一対の量子暗号受信装置(20A)
    を有することを特徴とする、量子暗号伝送システム。
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