JPWO2007037486A1 - 毛包真皮毛根鞘細胞の培養法 - Google Patents

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Abstract

細胞移植による毛髪再生等のための有力な細胞材料である毛包真皮毛根鞘細胞およびその前駆細胞の培養方法を提供する。すなわち、血小板由来増殖因子AA(PDGF-AA)および線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を添加した動物細胞用培地で培養することによって、毛包真皮毛根鞘細胞をその機能を維持した状態で増殖させ、また、毛包真皮毛根鞘前駆細胞を真皮毛根鞘細胞へと分化、増殖させる。

Description

本発明は、毛包真皮毛根鞘細胞の培養方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、毛包真皮毛根鞘細胞を、その機能を維持させた状態で増殖させることのできる培養方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、毛包真皮毛根鞘前駆細胞を、真皮毛根鞘細胞へと分化、増殖させることのできる培養方法に関するものである。
毛髪を作り出す組織である毛包は、真皮集塊と呼ばれる特殊な間充織と表皮との相互作用によって胎児期の一時期に形成される。真皮集塊を構成する細胞は毛包形成が完了すると毛乳頭となる。毛乳頭は毛髪の伸長・休止の周期である毛周期の進行にも深く関与している。細胞移植により毛包を形成誘導するには、この表皮-毛乳頭(間充織)相互作用を生体内で行わなければならない。本発明者らは、無毛皮膚に発毛させる手段として、皮膚内に表皮・毛乳頭混合細胞を移植することにより、ヒト毛乳頭細胞が表皮細胞を毛包に分化さ、この毛包から発毛させる方法を発明し、既に特許出願している(特許文献1)。
また、ラット頬髭より分離培養された毛乳頭細胞が、その培地にラット足裏表皮細胞初代培養上清を添加することで長期継代培養することができ、かつ長期間継代培養した毛乳頭細胞が毛包形成誘導能を保持していることを報告している(非特許文献1、特許文献2)。ただし本発明者らは、特許文献2に記載された方法で長期継代培養(およそ40継代以上)により増殖させたラット頬髭由来毛乳頭細胞は毛包形成誘導能を保持しているが、形成誘導した毛包から発毛能が減弱し失われることを示している(特許文献1)。この問題点を解決する方法として、本発明者らは、長期継代培養により発毛能が減弱した毛乳頭細胞に毛包真皮毛根鞘細胞細胞を一定量添加することで、減弱した発毛誘導能を回復させ、毛包から発生した毛の成長が顕著に促進されることを可能とし、既に特許出願している(特許文献1)。
真皮毛根鞘は、毛包の最外層を包む一層ないし数層の真皮性細胞層(ビメンチン陽性)よりなる組織であり、毛包の下部1/3以下に分布し、かつ平滑筋型αアクチン(α-SMA)陽性細胞よりなると定義されている。この真皮毛根鞘は、組織学的に毛球部最下端において毛乳頭と連続している。さらにラット頬髭毛包を上下に切断し、毛包上部に毛球部の毛包真皮毛根鞘細胞を埋め込み移植すると、毛包真皮毛根鞘細胞由来の毛乳頭を含む毛球部が再構築され、毛幹の伸長が観察される。これらの事実より、毛包真皮毛根鞘に毛乳頭細胞の前駆細胞が分布しており、毛乳頭への細胞供給源であると考えられている(非特許文献3)。
これらの知見より、男性の毛包真皮毛根鞘を女性の前腕部皮膚に他家移植したところ、移植した真皮毛根鞘由来の毛乳頭を含む毛包が形成誘導され、発毛することが報告された(非特許文献4)。さらに、初代培養ラット毛包真皮毛根鞘細胞をラット耳介の無毛皮膚表皮直下に同種移植すると、耳介表皮より毛包が形成誘導され発毛に至ることが報告されている(非特許文献5)。これらの事から、毛包真皮毛根鞘細胞は、毛乳頭細胞の前駆細胞を含み、その供給源として利用可能である。
さらに毛包真皮毛根鞘細胞は毛乳頭細胞の供給源としてだけでなく、創傷治癒材料として有望であることが報告されている(非特許文献6、7、特許文献3)。ラットを用いた実験で、頬髭由来の培養毛包真皮毛根鞘細胞を毛包外毛根鞘より調製した細胞と組み合わせてヌードマウス背部へ移植したところ、正常な皮膚が形成された。また、ヒト細胞とコラーゲンゲルからなるベル型人工皮膚の表皮形成を、ヒト包皮由来線維芽細胞と頭髪由来毛包真皮毛根鞘細胞とで比較した結果、明らかに毛包真皮毛根鞘細胞の方が厚い表皮層を形成した。このことより、真皮毛根鞘細胞は、毛乳頭のみならず良好な真皮を形成する線維芽細胞への分化能を有しているといえる。
以上のように毛包真皮毛根鞘細胞は、毛包再生における質的向上・毛乳頭細胞供給源・人工皮膚の繊維芽細胞として利用できる。また、毛幹の伸長を促進する機能を有することから毛包真皮毛根鞘細胞をターゲットとした育毛剤や脱毛症治療薬などへの医薬品開発においても極めて高い利用価値を有するといえる。しかし、ヒトの毛包真皮毛根鞘は、毛包をほぼ一層の細胞で取り囲む微小な組織であり、得られる細胞数は極めて少ない。さらに、既存の培養方法では、初代培養における毛包真皮毛根鞘細胞増殖速度は極めて遅い。一般的に初代培養時における増殖速度が遅い場合、カビや細菌の混入リスクが非常に高くなり、治療や医薬品開発に利用できるほどの細胞数を確保するのが難しくなる。従って、微量な毛包真皮毛根鞘組織より、できるかぎり早い増殖速度の初代培養を行い、その後、一定の機能を維持した細胞を数量的に十分確保できる培養方法が望まれる。しかしながら、現在までに初代培養を行ったラット毛包真皮毛根鞘細胞には毛包誘導発毛能が認められるが、既存の培養技術による継代培養で増殖させた細胞では有意な毛包誘導発毛能および毛包真皮毛根鞘形成能は認められていない(非特許文献5)。
これまで論じた様に、特定の機能を有する細胞を一定の機能を維持しながら培養し増殖させることで、利用価値の高い細胞を大量に得ることができる。だが分化多能性を持つ幹細胞または前駆細胞より、特定の細胞種へ分化可能かつ高い増殖能をもった細胞へと培養により分化制御することができれば、同様の結果を得られるばかりか、より少量の組織および細胞から効率的に目的とする細胞を調達することができる。しかし、真皮毛根鞘細胞は毛周期の休止期において消失することから、その前駆細胞の存在が考えられるが、その存在および培養法についてこれまで報告されていない。
一般的に、細胞培養法においては、培養液に様々な増殖因子を添加して、細胞の増殖や分化を制御する。真皮毛根鞘細胞は毛乳頭細胞の前駆細胞であると報告されており、種々の増殖因子添加による培養法について報告されている。その中で線維芽細胞増殖因子2(FGF2)や表皮細胞培養上清の添加が細胞増殖に有効であるという報告がある(非特許文献1, 9)。また、培養毛乳頭細胞において、血小板由来増殖因子(PDGF)のサブタイプであるPDGF-AAは増殖を促進しないが、PDGF-BBは濃度依存的に促進する。しかしPDGFの両サブタイプは、培養線維芽細胞の増殖を促進することから、PDGF-BBは毛乳頭細胞特異的に増殖活性を促進するとはいえない。また、これらの増殖した培養毛乳頭細胞の機能についても明確に示されていない。本発明者らは、特許文献2に記載の方法を用いて毛包形成誘導能を維持した毛乳頭細胞の増殖を可能にしている。しかしながら、同じ方法では毛包真皮毛根鞘細胞は培養増殖が困難である。特許文献1の方法において、ラット頬髭由来毛包真皮毛根鞘細胞はFGF2添加培地により十分に増殖し、この培養ラット毛包真皮毛根鞘細胞は単独では発毛誘導能を持たないが、毛乳頭細胞への添加により有意な発毛能を示した。しかしながら、ヒト頭髪由来毛包真皮毛根鞘細胞はFGF2添加培地を用いても十分な細胞増殖が得られていない。
以上のとおり、毛包真皮毛根鞘細胞は、細胞移植による毛髪再生等のための有力な細胞材料であるが、従来は、この毛包真皮毛根鞘細胞を、その機能を維持した状態で良好に増殖させる手段は存在しなかった。さらに、真皮毛根鞘細胞の前駆細胞の存在はこれまで報告されていない。しかし、真皮毛根鞘の前駆細胞を新たに見いだして、これを高い増殖活性と真皮毛根鞘および毛乳頭細胞への分化能を保持して増殖可能な培養法は非常に高い応用性と利用価値を有することは自明である。
PCT/JP2004/018421の国際公報パンフレット 特開平7−274950号公報 特表2002-507132号公報 Inamatsu, M et al, Establishment of rat dermal papilla cell lines that sustain the potency to induce hair follicles from afollicular skin. J. Invest. Dermatol. 111, 767-775, 1998 Weinberg WC et al. Reconstitution of hair follicle development in vivo: determination of follicle formation, hair growth, and hair quality by dermal cells. J. invest. Dermatol., 100, 229-236, 1993 Horne KA and Jahoda CAB, Restoraction of hair growth by surgical implantation of follicular dermal sheath. Development 116, 563-571, 1992 Reynolds AJ et al, Trans-gender induction of hair follicles. Nature, 402, 33-34, 1999 McElwee KJ et al, Cultured peribulbar dermal sheath cells can induce hair follicle development and contribute to the dermal sheath and dermal papilla. J. invest. Dermatol, 121, 1267-1275, 2003 Jahoda CAB and Reynolds AJ, Hair follicle dermal sheath cells: unsung participants in wound healing. Lancet, 358, 1445-1448, 2001 Gharzi A et al, Plasticity of hair follicle dermal cells in wound healing and induction. Exp Dermatol, 12, 126-136, 2003 Goodman LV and Ledbetter SR, Secretion of stromelysin by cultured dermal papilla cells: differential regulation by growth factors and functional role in mitogen-induced cell proliferation. J. Cellular Physiol, 151, 41-49, 1992 Dawen Yu et al, Expression profiles of tyrosine kinases in cultured follicular papilla cells versus dermal fibroblasts. J. Invest. Dermatol, 123, 283-290, 2004 Jahoda CAB et al, Smooth muscle α-actin is a marker for hair follicle dermis in vivo and in vitro. J. Cell Science, 99, 627-636, 1991 A quantitative study of the differential expression of alpha-smooth muscle actin in cell populations of follicular and non-follicular origin. J. invest. Dermatol. 101, 577-583, 1993 Oliver RF, Histological studies of whisker regeneration in the hooded rat. J. Embryol. exp. Morph., vol. 16, 2, 231-244, October 1966 Oliver RF, Ectopic regeneration of whiskers in the hooded rat from implanted lengths of vibrissa follicle wall. J. Embryol. exp. Morph., vol. 17, 1, 27-34, February 1967
細胞移植により組織を再生するには、移植細胞が本来持つ機能を維持させたまま増殖させる必要がある。これは患者から摘出する組織の量を減少させることになり、患者の負担が軽減されるためである。またそれと同様に、分化多能性を持つ幹細胞または前駆細胞より、特定の細胞種へ分化可能であり、かつ高い増殖能をもった一過性増殖細胞(TA細胞)へと培養により分化制御することができれば、より少量の組織および細胞から効率的に目的とする細胞を調達することができる。
毛包真皮毛根鞘細胞は、前記のとおり、細胞移植による毛髪再生等のための有力な細胞材料であるが、従来は、この毛包真皮毛根鞘細胞を、その機能を維持した状態で良好に増殖させる手段は存在しなかった。さらに、真皮毛根鞘細胞の前駆細胞の存在はこれまで報告されていない。しかし、真皮毛根鞘の前駆細胞を新たに見いだして、これを高い増殖活性と真皮毛根鞘および毛乳頭細胞への分化能を保持して増殖可能な培養法は非常に高い応用性と利用価値を有する。
本発明の課題は、毛包真皮毛根鞘およびその前駆細胞を、増殖させるのみならず、特定の機能を維持または分化することでその機能を発揮できる細胞の培養方法を提供することである。
本発明は、毛包真皮毛根鞘細胞を、機能を維持した状態で増殖させる培養方法であって、血小板由来増殖因子AA(PDGF-AA)および線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を添加した動物細胞用培地で毛包真皮毛根鞘細胞を培養することを特徴とする培養方法である。
前記発明の一つの好ましい態様は、毛包真皮毛根鞘細胞として毛包下部真皮毛根鞘由来の細胞を使用する方法である。
前記発明の別の態様は、動物細胞用培地として、1%〜30%血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM10)を使用する方法である。
前記発明のさらに別の態様は、毛包真皮毛根鞘細胞を、他の毛包形成細胞とともに培養する方法である。
本発明はまた、毛包真皮毛根鞘前駆細胞を、真皮毛根鞘細胞へと分化、増殖させる方法であって、血小板由来増殖因子AA(PDGF-AA)および線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を添加した動物細胞用培地で毛包真皮毛根鞘前駆細胞を培養することを特徴とする培養方法である。
前記発明の一つの態様は、毛包真皮毛根鞘前駆細胞として毛包下部真皮毛根鞘由来の細胞を使用する方法である。
前記発明の別の態様は、動物細胞用培地として1%〜30%血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM10)を使用する方法である。
さらに本発明は、血小板由来増殖因子AA(PDGF-AA)および線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を添加した動物細胞用培地で培養することによって真皮毛根鞘細胞へと分化することができる毛包真皮毛根鞘前駆細胞である。
用語の定義
毛包真皮毛根鞘細胞を培養した際に維持させるその「機能」とは、毛乳頭細胞供給源としての機能、発毛能を有する毛包の形成を誘導する機能、あるいは皮膚移植した際に表皮を形成する機能等を意味する。
毛包真皮毛根鞘細胞の「増殖」とは、最初に培養に供した細胞数が2倍以上、好ましくは10倍以上、さらに好ましくは100倍以上に増加することを意味する。さらに、本発明における「培養」とは、皮膚から単離した毛包真皮毛根鞘細胞を培養する「初代培養」と、この初代培養で増殖した細胞を培地から分離し、新たな培地で培養を継続する「継代培養」を含む。
「真皮毛根鞘(DS)」は、毛包の最外層を包む一層ないし数層の真皮性細胞(ビメンチン陽性)よりなる組織であり、毛包の下部1/2以下に分布し、かつ抗平滑筋型αアクチン(α-SMA)抗体陽性細胞よりなると定義されている。この真皮毛根鞘は、組織学的に毛球部最下端において毛乳頭と連続している(非特許文献10、11)。また、毛包下部1/3以下の真皮毛根鞘に毛乳頭へと分化し、毛球部を再生誘導する能力があることから、真皮毛根鞘細胞は毛乳頭細胞の前駆細胞であると考えられている。しかし、毛周期の休止期では、この定義に当てはまる細胞は存在しない。
「上部真皮毛根鞘(上部DS)」は、本発明によって新たに定義された部位である。毛包の最外層を包む一層ないし数層の真皮性細胞(ビメンチン陽性)よりなる組織であり、ORSのバルジ領域およびその上部までを裏打ちして分布し、かつ抗α-SMA抗体陰性の細胞からなる。組織学的な観察では、真皮毛根鞘として定義される細胞層と連続性を持つように見える。上部DSは、毛乳頭再生および毛球部再生誘導能を持たないことが報告されている(非特許文献12、13)。ラットの場合立毛筋付着部位より上側で、血洞より下側で切断することで得られる。ヒトの場合は毛包全長の1/2のところで切断する。
「下部真皮毛根鞘(下部DS)」は、新たに定義された「上部DS」に対して、既知の定義によるDSを下部DSと定義する。マーカーおよび分布などの定義は上記真皮毛根鞘と同一である。
「毛球部」は、毛包下端のふくらんだ部分。毛乳頭、真皮毛根鞘、毛母細胞が含まれる。毛球部の最下端部で真皮毛根鞘と毛乳頭は接続している。毛球部の領域に分布する下部DSはDermal Sheath Cup (DSC)と呼ばれる。
「毛包形成誘導」とは、毛乳頭細胞が表皮性細胞を誘導して毛包構造を形成する現象をいう。
「発毛誘導」とは、毛包の毛母細胞が分化増殖して毛幹を形成し、体表面より毛幹を伸長させるために、真皮毛根鞘細胞が毛母またはORSに働きかけている現象である。
本発明の方法によって、毛髪再生等のための移植細胞として有用な毛包真皮毛根鞘細胞を、機能を維持させた状態で大量に増殖させることが可能となる。
また、本発明方法は、他の毛包形成細胞(例えば毛乳頭細胞)を、その機能を維持させた状態で増殖させることにも有効であり(例えば、特許文献2の方法と同等の効果)、共に毛髪再生等のための移植細胞として有用な毛包真皮毛根鞘細胞と毛乳頭細胞を、それぞれの機能を維持させた状態で良好に増殖させることが可能である。このことは、極めて微細な組織領域に含まれている毛包真皮毛根鞘細胞と毛乳頭細胞をそれぞれに分離することなく、共に増殖させた両細胞の混合物を毛髪再生のための移植に使用することを可能とする。
さらに本発明によって、毛包真皮毛根鞘細胞への分化能を有する新規は毛包真皮毛根鞘前駆細胞と、この前駆細胞を毛包真皮毛根鞘細胞への分化、増殖させることのできる培養方法が提供される。これによって、例えば、毛髪再生等のための移植細胞を調製する際に、患者から分離した毛包組織をより有効利用することが可能となる。
ヒト頭髪模式図である。毛包の下端の若干膨らんだ部分を毛球部という。毛球部には表皮性細胞よりなる毛母(HM)と、それに取り囲まれた真皮性細胞よりなる毛乳頭(DP)がある。この毛乳頭は毛球部の最下端部の毛乳頭柄(PS)で、毛包最外層を取り囲む真皮性細胞の真皮毛根鞘(DS)と連結している。DSとDP細胞は真皮性細胞のマーカーであるビメンチンを発現している。またこれまで、DSは毛包下部1/2 (A 1/2)でバルジ領域より下方に分布し、抗平滑筋型αActin(α-SMA)抗体陽性であると定義されてきた。本発明では毛包上部1/2でバルジ領域(BG)を取り囲むように分布し、抗α-SMA抗体陰性かつビメンチン陽性細胞を上部DS細胞と定義し、便宜的に下部1/2に分布する抗α-SMA抗体陽性かつビメンチン陽性細胞を下部DS細胞定義した。本特許においてDPと下部DSは、毛包より毛球部を分離し、毛母(HM)と外毛根鞘(ORS)を除去し、さらに眼科用メスを用いて毛乳頭柄(PS)の位置でDPと毛包下部DSを分離して調製した。また、毛包を矢印Aの位置で上下に切断し、毛包上部より酵素処理および顕微鏡下マイクロ鑷子を用いて上部DSとバルジ(BG)を含むORSおよび毛幹(HS)を分離して得た。 ラット頬髭由来下部DS細胞の初代および継代培養の結果である。ラット頬髭毛包毛球部より下部DSを分離し、表1に記載の培養液を用いて初代培養を行った。プラスチック培養皿状に接着し、コロニー形成し遊走増殖した細胞数を、画像解析により計数した。(A)PDGF-AA/FGF2で14日間初代培養増殖したラットDS細胞は、DMEM10と比較して約8.5倍高い値であった。同様に、CM5、FGF2、PDGF-AA単独添加培地と比較してもPDGF-AA/FGF2が最も高い値であった。初代培養においてPDGF-AA/FGF2による増殖細胞数は、PDGF-AAまたはFGF2増殖因子単独添加培地によるそれより有意に高いことが確認された(* p<0.05 vs. DMEM10、CM5: ** p<0.01 vs. FGF2)。(B)14日間、PDGF-AA/FGF2により初代培養した下部DS細胞を継代培養した。7日おきに継代し、その間の平均細胞倍加時間(PDT)を算出し、DMEM10と比較した。 ヒト頭髪由来下部DS細胞の初代および継代培養の結果である。ヒト頭髪毛包より下部DSを分離し、表1に記載の培地条件で初代培養した。異なる2名のボランティア頭髪より独立して2回の初代培養を行った。その結果、ヒト下部DSはDMEM10およびCM5で50%以上90%以下の接着およびコロニー形成成功率であった。それに対して、PDGF-AA/FGF2では90%以上であった。またPDGF-AA/FGFでは、接着後の細胞遊走と増殖が最も早く観察された。(A)各培養条件によりコロニー形成し遊走・増殖した細胞数を、画像解析により計数した。その結果、PDGF-AA/FGF2によるヒト下部DSの増殖細胞数は、DMEM10の約14倍であった(* p<0.05)。また、CM5(DMEM10比で3.1倍)、FGF2(同1.8倍)またはPDGF-AA(同1.9倍)単独添加培地条件による増殖細胞数と比較した場合、PDGF-AA/FGF2はいずれよりも高い値を示した。これらの結果から、PDGF-AA/FGF2は、PDGF-AAまたはFGF2単独添加の増殖活性より有意に高かった(** p<0.01 vs.CM5:* p<0.05 vs. FGF2、PDGF-AA)。(B)PDGF-AA/FGF2により初代培養したヒト下部DS細胞を同一培地条件で継代培養し、各継代における平均細胞倍加時間(PDT)を計測した。PDGF-AA/FGF2による継代培養では第3継代までは40時間程度のPDTを維持したが、その後継代数依存的にPDTが増大した。 ヒト頭髪由来下部DS細胞の初代および継代培養の顕微鏡像である。その結果、PDGF-AA/FGF2の第1継代から第3継代までは小型で紡錘形の細胞形態を維持しているが、その後徐々に細胞老化を示すストレスファイバーを伴う扁平な形態に変化した(PDGF-AA/FGF2)。それに対して、DMEM10では、第第1継代においてすでにストレスファイバーを持つ扁平な形態となった(DMEM10)。細胞形態的にもPDGF-AA/FGF2の有効性が示された。Bar, 200 μm. ヒト頭髪由来下部DS細胞の機能解析の結果である。PDGF-AA/FGF2含有培地で培養した毛包毛球部DS細胞の機能を確認する細胞移植実験を行った。長期継代培養によりDS形成能を失った高継代数ラット頬髭DP細胞にヒト頭髪毛包毛球部DS細胞を組み合わせ(表2)ヌードマウスの背部に移植した。移植4週間後に細胞移植部位(点線円内)における発毛状況の写真撮影および生検を行った。生検組織はホルマリン固定およびパラフィン包埋し、厚さ5 μmの連続切片を作成し、HE染色および抗α-SMA抗体による免疫染色した。(A)高継代ラットDP細胞(p=40)単独移植群では,移植細胞による皮膚(点線円内)は形成されていたが発毛は観察されなかった。(B)高継代ラットDP細胞単独移植群を組織観察した結果、毛幹を形成していない不完全な毛包(点線部)が観察された(H&E染色)。(C)これらの毛包では、抗α-SMA抗体陽性のDSは確認されなかった。血管内皮細胞は抗α-SMA抗体陽性であるが、管腔状の構造および血球を内包していることからDSと明確に判別できる(矢印)。 図5と同一条件でのヒト頭髪由来下部DS細胞の機能解析の結果である。(D)高継代ラットDP細胞(p=40)にヒトDS細胞(p=1)を添加して移植した実験群では明らかに発毛(点線円内)が観察された。(E)マクロ写真(C)の点線内組織を生検し、H&E染色による観察を行った。その結果、ヒト頭髪由来下部DS細胞添加群では多数の毛幹形成を伴う毛包が観察された。(F)さらに、毛包の最外層に抗α-SMA抗体陽性の細胞層が観察された(矢頭)。矢印は血管内皮細胞。HM,毛母; ORS,外毛根鞘; HS,毛幹; P,毛乳頭。Bars in A and D, 1 mm; in B and E, 100 μm. ラット頬髭由来DP細胞の初代培養の結果である。ラット頬髭毛包毛球部よりDPを分離し、表1に記載の培養液で2週間の初代培養を行った。各培養条件によりコロニー形成し遊走・増殖した細胞数を、画像解析により計数した。その結果、PDGF-AA/FGF2は先行特許(特許文献2)のDP細胞増殖培地(CM5)と同等の増殖活性を示し、FGF2およびPDGF-AA単独よりも高かった。 ヒト頭髪由来DP細胞の初代および継代培養の結果である。男性ボランティアより提供された正常頭皮毛包より下部DPを分離し、表1に記載された培地条件において14日間初代培養を行った。接着しコロニー形成した増殖細胞数を画像処理により計数し、一個のDP当たりの増殖細胞数を比較した。(A)PDGF-AA/FGF2はCM5と同等の高い増殖活性を示した。また、DMEM10, FGF2, PDGF-AAと比較しても有意に高いことが示された(*** p<0.05 vs. DMEM10, FGF2, PDGF-AA)。(B)初代培養したヒトDP細胞を、7日ごとに継代培養し、各継代の平均細胞倍加時間(PDT)を、培地条件ごとに比較した。その結果、PDGF-AA/FGF2は第4継代まで全てDMEM10よりも高い増殖活性を示した。しかし、PDGF-AA/FGF2による継代培養では継代数依存的に徐々にPDT値が増大する傾向であり、それに対してCM5は徐々に減少する傾向が見られた。 ラット頬髭由来上部DS細胞の継代培養の結果である。ラット頬髭毛包から上部DSを分離し、DMEM10およびPDGF-AA/FGF2培地で培養した。毛球部DS細胞に比べ増殖が遅く、初代培養に21日要したが、基礎培地DMEM10に比べ2倍に細胞が増殖した。さらに継代培養を行ったところ、4継代数まで40時間前後の早い増殖速度を維持していたが、それ以降はPDT値が増大した。 ラット頬髭由来上部DS細胞の機能解析の結果である。長期継代培養によりDS形成能を失った高継代数ラット頬髭DP細胞にラット上部DS細胞を組み合わせてヌードマウスの背部に混合移植した。移植3週間後に細胞移植部位(点線円内)における発毛状況の写真撮影および生検を行った。生検組織はホルマリン固定およびパラフィン包埋し、厚さ5 μmの連続切片を作成し、H&E染色、抗α-SMA抗体および抗EGFP抗体による免疫染色を行った。(A)発毛能が回復した移植部位(点線円内)のマクロ写真。上部DS細胞添加により発毛能が回復したことが示された。(B)発毛能が回復した移植部位を生検し、組織学的観察を行った。多数の毛幹形成を伴う毛包が確認された(H&E)。(C)それらの毛包最外層に抗α-SMA抗体陽性細胞よりなるDS層が確認された(矢頭)。矢印は血管内皮細胞。(D)さらに抗EGFP抗体を用いた免疫染色により添加したラット上部DS細胞を追跡したところ、DSおよびDPにラット上部DS細胞由来の細胞が分布していることが示された(矢頭)。(E-G)さらにこれらの毛包を蛍顕微鏡により詳細に観察したところ、DPの一部にEGFPを発現している細胞が認められた。Hoechst核染色(E)により毛乳頭の範囲(点線; P,毛乳頭)を確定した。このDP領域にはDiI蛍光を施した高継代DP細胞(F)に混じってEGFP蛍光を持つ上部DS由来細胞(G)が認められた。矢印はGおよびB励起により蛍光を発する赤血球。Bars in A , 1 mm, in B, 100 μm and in E, 50 μm.
本発明の方法において培地に添加するFGF2およびPDGF-AAは、培養対象となる細胞が由来する動物種と同一由来のものが好ましく、ヒト由来の細胞を対象とする場合には、FGF2およびPDGF-AAはヒト由来のものが好ましい。また、公知の方法で得られた組替え体や血液から生成したものが好ましい。ヒト由来のFGF2およびPDGF-AAは、それぞれ市販品を使用することができる(例えばヒトFGF2はUPSTATE社製、ヒト由来PDGF-AAはR&D Systems社製など)。
培地は、公知の動物細胞用培地、例えば、Alpha-MEM(大日本製薬株式会社等)、ATCC-CRCM 30(ATCC)、Coon's modified F12(SIGMA等)、DM-160およびDM-201(日本製薬株式会社)、Doulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM) with High Glucose (4500mg/L)(大日本製薬株式会社等)、Doulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM) with Low Glucose (1000mg/L)(和光純薬工業株式会社等)、DMEM:Ham's F12 混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、DMEM:RPMI1640混合培地(1:1)、Eagles basal medium(BME)(大日本製薬株式会社等)、Eagle's Minimum Essential Medium(EMEM)(大日本製薬株式会社等)、EMEM:RPMI1640混合培地(1:1)、ES medium(日水製薬株式会社)、Fischer's Medium(和光純薬工業株式会社等)、Ham's F10(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12:RPMI1640混合培地(1:1)、Kaighns modification of Ham's F12(F12K)(大日本製薬株式会社等)、Leibovitz's L-15 medium(大日本製薬株式会社等)、McCoy's 5A(大日本製薬株式会社等)、RITC80-7培地(機能性ペプチド研究所)、HF-C1培地(機能性ペプチド研究所)、MCDB107培地(機能性ペプチド研究所)、MCDB201培地(SIGMA)、HSMC-C1培地(機能性ペプチド研究所)、HEC-C1培地(機能性ペプチド研究所)、MCDB131培地(機能性ペプチド研究所)、HSMC-C2培地(機能性ペプチド研究所)、MCDB153培地(機能性ペプチド研究所)、MCDB153HAA培地(機能性ペプチド研究所)、Medium 199(大日本製薬株式会社等)、NCTC135(大日本製薬株式会社等)、RPMI1640(大日本製薬株式会社等)、Waymouth's MB752/1 medium(大日本製薬株式会社等)、Williams' medium E(大日本製薬株式会社等)などである。これらの培地が、無血清培地ある場合には、1%〜30%程度の血清を添加する。また、培養対象がヒト由来の細胞である場合は、ヒト由来の血清を使用することが好ましい。
これらの動物細胞用培地へのFGF2の添加量は、0.5〜20 ng/ml、好ましくは2〜20 ng/ml、およびPDGF-AAの添加量は、0.5〜20 ng/ml、好ましくは2〜20 ng/ml程度で組み合わせることができる。
培養する毛包真皮毛根鞘は、毛球部を含む方が望ましい。またこれは、抗α-SMA抗体陽性である。頭髪、髭毛、体毛由来が好ましい。毛包真皮毛根鞘細胞と他の毛包形成細胞を同時に培養することが可能であるが、この場合の毛包形成細胞は毛乳頭であることが好ましい。この毛乳頭細胞もまた頭髪、髭毛、体毛由来が好ましい。
また、毛包真皮毛根鞘前駆細胞は、例えば、毛包上部1/2から調整することができる。これは、バルジに接した領域を含む方が好ましい。またこれは抗α-SMA抗体陰性である。さらには頭髪、髭毛、体毛由来が好ましい。
本発明の毛包真皮毛根鞘細胞の培養方法における培養時間には特に制限はなく、例えば、単離した毛包真皮毛根鞘細胞が2倍以上、好ましくは10倍以上、さらに好ましくは100倍以上に増殖するまで継続的に、また継代的に培養する。
また、本発明の毛包真皮毛根鞘前駆細胞の培養方法では、前駆細胞は毛包真皮毛根鞘細胞に分化するまで、例えば500時間以上、好ましくは600時間以上培養する。なお、前駆細胞が毛包真皮毛根鞘細胞へ分化したことは、長期継代培養によりDS形成能を失った高継代数ラット頬髭DP細胞と培養した前駆細胞を組み合わせてヌードマウスの背部に混合移植し、下部DSおよびDPを形成すること等によって確認することができる。
以下、実施例を示してこの発明についてさらに詳細かつ具体的に説明するが、この発明は以下の例によって限定されるものではない。
1. 方法
1-1. 毛包真皮毛根鞘(DS)および毛乳頭(DP)の分離
1-1-1. 成体ラット頬髭
6週齢の雄Wistarラットは、ジエチルエーテル深麻酔により犠牲死せしめ、毛球部を完全に含むよう70部皮膚採取を行った。採取したラット頬部皮膚はイソジン(明治製薬)と70%エタノールで消毒および冷ダルベッコ改変リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))で洗浄した。洗浄後の皮膚より毛包を採取した。採取した毛包の立毛筋結合部より上方1/2で上下に切断し(図1、矢印A部位を切断)、それぞれを4.76 g/lのHEPES、0.84g NaHCO3添加しpH 7.4とした10%牛胎児血清含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM10HEPES)中で次工程まで4℃にて保存した。この後、(1)下部1/2毛包より下部DSおよびDPを分離、(2) 上部1/2より上部DSを分離した。
(1)下部DSおよびDPは下部1/2毛包より毛球部を切断分離した。眼科用マイクロメスおよびマイクロ鑷子を用いて、毛球部の真皮毛根鞘(dermal sheath;DS)および毛乳頭(dermal papilla;DP)を一塊として、コラーゲン鞘および毛母等の表皮成分と分離した。DS とDPは、毛球部最下端に位置する連結部にてマイクロメスにより分離した(図1、矢印B線部位を切断)。
(2)毛包の上部1/2を1000 units/mlディスパーゼ(三協純薬工業製)を含む(DMEM10HEPES)で37℃、10分間処理しディスパーゼ処理後DMEM10HEPESにてよく洗浄した。毛包上部DSをマイクロ鑷子により分離した。
1-1-2. ヒト頭髪
健康な34歳と46歳の男性ボランティアの後頭部有毛部より皮膚の提供を受け採取した。採取したボランティア頭皮皮膚を毛包の流れに従って分割し、さらに外科用メスを用いて毛包単位(Follicular Unit)ごとに皮膚および皮下組織を含むブロックとして分離した。このFUブロックを1000 units/mlディスパーゼを含む(DMEM10HEPES)で37℃、10分間処理した。ディスパーゼ処理後DMEM10HEPESにてよく洗浄し、FUと皮膚および皮下を分離し、用時まで4℃DMEM10HEPES中で保存した。この後、1-1-1.ラット頬髭と同様に、下部1/2毛包より下部DSおよびDPを分離 、上部1/2より上部DSを分離した。

1-2. ラット頬髭およびヒト頭髪由来DS細胞とDP細胞の培養
1-2-1. 初代培養および継代培養
分離したヒトボランティア頭皮由来の毛球部DS、上部DSおよびDPはプライマリア24穴細胞培養 プレート(ペクトンディッキンソン)に1組織ずつ播種した。ヒト毛球部DS細胞とDP細胞は、DMEM10を基礎培地とする5種類の培地(表1)を用いて2週間初代培養を行い、4日に1度の培地交換を行った。FGF2(UPSTATE社)およびPDGF-AA(R&D SYSTEMS社)はhuman recombinantを用いた。初代培養後、7日ごとに継代培養を行った。
ヒト毛包上部DSはDMEM10およびPDGF-AA/FGF2添加DMEM10でそれぞれ3週間初代培養を行い、4日に1度の培地交換を行った。初代培養21日目に、酵素処理により細胞を剥離し、細胞数を計測した。初代培養後、7日ごとに継代培養を行った。
また同様にラット頬髭由来の毛球部DS、上部DSおよびDPはプライマリア24穴細胞培養 プレートに1組織ずつ播種した。毛球部DS細胞とDP細胞は、DMEM10を基礎培地とする5種類の培地(表1)を用いて2週間初代培養を行い、4日に1度の培地交換を行った。初代培養後、7日ごとに継代培養を行った。毛包上部DSはPDGF-AA/FGF2添加DMEM10で2週間初代培養を行い、4日に1度の培地交換を行った。初代培養14日目に、酵素処理により細胞を剥離し、細胞数を計測した。初代培養後、7日ごとに継代培養を行った。
1-2-2. 細胞増殖速度の測定
初代培養開始後7日目と14日目に、各培養液で培養した細胞をPBSで洗浄後、10%ホルマリン固定した。固定後生理食塩水で洗浄し、Hoechstによる蛍光核染色を行った。核染色を行った後、細胞コロニー全体をデジタルカメラ(LEICA DC 500)で撮影し、デジタル画像情報を取得した。この蛍光画像を二階調化した後、Image J画像解析ソフトで細胞核数をカウントした。各培地での細胞増殖を比較した。初代培養後、7日ごとに継代培養を行った。細胞は4日に1度の培地交換を行った。継代時の細胞数から細胞倍加時間(PDT)を算出し、各培地で比較した。各条件の増殖細胞数はStudent T検定により統計解析を行った。
1-2-3. 培養により増殖可能な細胞総数の算出
初代培養終了時の1組織あたりの増殖細胞数(A)とする。各継代数における、継代時の回収細胞数(Harvest)と培養開始時の播種細胞数(Initial)から、何倍に増えたかを表す細胞増殖倍数(Harvest /Initial)を求める。この値を(B)とする。1継代数の時は(B1)と表記した。初代培養で得られた細胞をすべて継代培養し、増殖させたとき、継代1、3代までに得られる細胞総数の算出方法は以下の式になる。
継代1代までに得られる細胞総数 =(A)x(B1
継代3代までに得られる細胞総数 =(A)x(B1)x(B2)x(B3

1-3. ヒト頭髪およびラット頬髭由来DS細胞の機能アッセイ
1-3-1. 成体ラット足裏真皮由来線維芽細胞の調整
10週齢の雄Wistarラットは、ジエチルエーテル麻酔により犠牲死させ、足裏皮膚を切除した。切除足裏皮膚はイソジンと70%エタノールで滅菌した後に、PBSで洗浄した。実体顕微鏡を用いて、無菌環境下において足裏皮膚に付着している皮下組織をマイクロ剪刀により除去した。除去後、4等分し、1000 units/mlになるようにDMEM10に溶かしたディスパーゼ溶液で4℃、一晩処理した。ディスパーゼ処理した皮膚組織は生理食塩水でよく洗浄し、表皮と真皮を分離した。この真皮を1-2mm角に細切し、60 mm 培養ディッシュにエクスプラントして線維芽細胞の初代培養を行った。
初代培養後、成体ラット足裏真皮由来線維芽細胞は継代培養を行い、継代2-4代までの細胞を移植に用いた。
1-3-2. ラット新生仔表皮細胞の調製
発毛分化能を持つ表皮細胞は、生後2日齢のWistarラット新生児の皮膚より調製した。Wistarラット新生児をジエチルエーテル麻酔により犠牲死させ、前後肢および尾部を切除し、躯幹部分のみとした。躯幹部の皮膚を剥離し、イソジンと70%エタノールで滅菌した後に、PBSで洗浄し、使用時まで4℃にて保存した。無菌環境下において実体顕微鏡を用いて、新生児皮膚に付着している皮下組織をマイクロ剪刀により除去した。なお、これ以下の全ての行程はクリーンベンチ内あるいは、無菌器具内において無菌的に行った。
皮膚組織は幅約3 mm、長さ約10 mm程度の短冊状に切り、1000 units/mlになるようにDMEM10に溶かしたディスパーゼ溶液で4℃、一晩処理した。ディスパーゼ処理した皮膚組織は冷PBS(-)でよく洗浄し、表皮と真皮を分離した。
分離した表皮は外科用メスを用いて細切し、0.25%トリプシンEDTA溶液で37℃、10分間処理して浮遊細胞懸濁液とした。細胞懸濁液は100 μmおよび40 μmのメッシュサイズのフィルターを通し、複数の細胞同士接着した集塊を除去した。
1-3-3. DS細胞機能アッセイにおける移植用細胞の調整法
培養DS細胞の毛幹伸長促進能を検出するために、長期継代培養により真皮毛根鞘形成能を喪失したラット頬髭由来DP細胞(継代数39, p=39)との混合移植を行い、毛幹伸長促進を指標としたアッセイを行った。細胞の機能アッセイは、成体ラット頬髭DP細胞(継代数39)、ヒト頭髪毛包毛球部DS細胞、ラット頬髭毛包上部DS細胞、ラット新生仔表皮細胞、ラット足裏真皮由来線維芽細胞を表2の組み合わせで混合し、ヌードマウス背部に移植するチャンバーアッセイ法(非特許文献2)を用いた。移植する細胞を各組み合わせで混合し、670 g、5分間遠心し、細胞をスラリー状とした。この移植細胞ペレットより培地を除去し、スラリー状として移植まで4℃で保存した。
1-3-4. DS細胞機能アッセイにおける細胞移植法
4週齢雄ヌードマウス(日本チャールズリバー社製)を10%ソムノペンチル(共立製薬)と8%エタノールを含むPBS(-)を腹腔内投与により麻酔し、滅菌ドレープ上にて自然側方横臥位とした。外科用イソジン液(明治製薬)および70%エタノールでマウスの実幹部全体を消毒した後、側腹部の皮膚を直径7 mmの円形に全層切除去した。この部位にドーム部直径11 mmのグラフト・チャンバーを挿入し、皮下組織内にハット部を挿入し、5-0ナイロン縫合糸によってハット部と皮膚を縫合し固定した。この移植創に、細胞ペレットをマイクロピペットにて注入した。移植までの全工程は、クリーンベンチ内にて無菌的に行った。
細胞移植1週間目にグラフト・チャンバーを除去し、さらに2週間感染症およびマウスによる移植術創への接触行動に注意しながら単独飼育を行った。
1-3-5. DS細胞機能アッセイの経過観察(マクロにおける発毛)と組織学的観察方法
細胞移植後3週間目に、移植部位を実体顕微鏡(ライカ社)にて観察し、発毛の様子を写真撮影した。撮影後、移植部位を摘出し、マイルドホルム10N(和光純薬)で室温一昼夜固定した。その後通法に従いパラフィン包埋し、5 μm厚の連続組織切片を作成した。組織切片はヘマトキシリン・エオジン(HE)染色および毛包真皮毛根鞘のマーカーである抗ヒト平滑筋型αアクチン抗体(SIGMA社製)を用いた免疫染色を行った。

2. 結果と考察
2-1. 毛球部より分離した下部DS細胞の初代および継代培養
2-1-1. ラット頬髭由来下部DS細胞
ラット頬髭毛包毛球部よりDSおよびDPを分離し(図1)、方法1-2の培養条件で初代培養した。初代培養開始後3-5日で組織が培養皿上に接着し、細胞コロニー形成および細胞増殖と遊走が観察された。2週間の初代培養において、各培養条件で増殖した細胞数を、画像解析により計数した。その結果、PDGF-AA/FGF2におけるラット下部DS細胞の増殖細胞数は、既存の培地であるDMEM10の約8.5倍であった(* p<0.05、図2A)。同様に、DMEM10と比較して、CM5(DMEM10比で約6.1倍)およびFGF2単独添加培地(同約4.3倍)による増殖細胞数は高い値であった。また、PDGF-AA /FGF2は、比較した培地条件のうち最高であった(* p<0.05 vs.CM5:** p<0.01 vs. FGF2)。
さらに初代培養後、高い増殖活性を示したPDGF-AA/FGF2含有培地について7日ごとに継代培養を行った。継代時の細胞数から細胞倍加時間(PDT)を算出し、各培地で比較した(図2B)。その結果継代培養においても、PDGF-AA/FGF2添加培地において基礎培地DMEM10よりも有意に高い増殖活性を示すことが確認された。
2-1-2. ヒト頭髪毛包下部DS細胞
PDGF-AA/FGF2含有培地により、ラット下部DS細胞を効果的に増殖させることが確認されたことから、次により利用価値の高いヒト細胞へ応用可能性について検証した。ヒト細胞は医療応用や薬剤開発において非常に利用価値が高い。しかし、由来する個体ごとに十分な細胞数まで増殖できなければ、その利用価値は減少する。さらに、由来組織の提供頻度と量も最小限であることから、カビやバクテリア等のコンタミネーションのリスクを最小限とすることが重要である。初代培養では細胞が同じ培養皿内で数週間に渡り馴化することから、コンタミネーションのリスクが非常に高い工程である。従って、初代培養において細胞増殖速度が高い培地条件であることが望まれる。そこで、ヒト毛包毛球部より下部DSおよびDPを分離し(図1)、方法1-2の培養条件で初代培養し、各培地条件による初代培養における細胞増殖速度および継代培養において得られる細胞数を比較した。
初代培養開始後3〜7日までに下部DSおよびDP組織はプラスチック培養皿上に接着し、その後接着した細胞のコロニー形成と細胞増殖・遊走が観察された。2人のボランティア頭髪より独立して二度行った初代培養において、DMEM10およびCM5による組織接着成功率は50%以上90%以下であった。それに対して、PDGF-AA/FGF2は90%以上であった。また接着細胞コロニーの増殖と遊走はPDGF-AA/FGF2が最も早く見られた。コントロールとして用いたヒトDPでは、どの培地においても80%以上の組織が接着し、コロニー形成が観察された。
各培養条件で2週間の初代培養を行い、コロニー形成し増殖した細胞数を画像解析により計数した(図3A)。その結果、PDGF-AA/FGF2によるヒトDS細胞の増殖細胞数はDMEM10に対して約14倍であった(図3A, * p<0.05)。基礎培地DMEM10に対して、CM5(DMEM10に対して約3.1倍)、FGF2(同約1.8倍)、PDGF-AA単独添加培地(同約1.9倍)のいずれも高い細胞増殖が見られたが、PDGF-AA /FGF2に比して著しく低かった(図3A)。さらに統計学的分析によりPDGF-AA/FGF2は、FGF2およびPDGF-AA単独添加条件よりも有意に高い細胞増殖活性を示すことが確認された(図3A, ** p<0.01 vs.CM5:* p<0.05 vs. FGF2、PDGF-AA)。
次に、PDGF-AA/FGF2およびDMEM10培地条件により初代培養した下部DS細胞を、同培地条件で継代培養(7 days/passage)し、培地条件ごとに各継代における平均細胞倍加時間(PDT)を比較した。その結果、PDGF-AA/FGF2は、計測した全ての継代においてDMEM10より高い増殖速度を示した。しかし、PDGF-AA/FGF2においても3継代以降増殖速度は徐々に低下した(図3B)。また、PDGF-AA/FGF2における第1継代から第3継代までは小型で紡錘形の細胞形態を維持しているが、その後徐々に細胞老化を示す兆候である、ストレスファイバーを伴う扁平な形態を見せるようになった(図4, p=6, PDGF-AA/FGF2)。それに対して、DMEM10では、第1継代(p=1)からストレスファイバーを持つ扁平な形態となり(図4, DMEM10)、細胞形態的にもPDGF-AA/FGF2の有効性が示された。
再生医療や医薬品開発においては、短期間で安定的に大量の正常細胞を得られることが重要である。そこで、安定的な増殖速度と細胞形態を維持できた第3継代までに得られる最大細胞数を、方法1-2の計算方法で算出した。その結果、PDGF-AA/FGFはDMEM10の450倍であった(表3)。これらの結果より、PDGF-AA/FGF2培地は、ヒト頭髪毛球部由来の下部DS細胞を、既存の方法(DMEM10)より短期間で培養増殖させることができ、治療や医薬品開発に十分利用可能な細胞数を確保できることが示された。
なお、表3において継代1代以降の継代培養は、6.6x104 cells/φ6 cm dishとなるように播種した。4日目に培地の全量交換を行い、7日目に継代を行った。各継代時に回収した細胞数から、1-2の方法を用いて継代3代までに得られる細胞総数を求めた。DMEM10を1とし比較すると、継代3代までに得られる細胞総数は450倍であり、PDGF-AA/FGF2の優位性が示されている。
2-2. 下部DS細胞の機能解析
特許文献2に記載された方法で長期継代培養により増殖させたラット頬髭由来DP細胞は毛包形成誘導能を保持しているが、形成誘導した毛包から発毛能が減弱し失われる(特許文献1)。この問題点を解決する方法として、本発明者らは、長期継代培養により発毛能が減弱したDP細胞にDS細胞を一定量添加することで、減弱した発毛誘導能を回復させ、毛包から発生した毛の成長が顕著に促進されることを見いだしている(特許文献1)。本発明のPDGF-AA/FGF2によって培養した下部DS細胞が、この機能を保持していることを確認するために以下の実験を行った。
長期継代培養によりDS形成能を失った高継代ラット頬髭DP細胞(p=39)にヒト頭髪由来下部DS細胞(p=1)を組み合わせて混合移植し、発毛能の回復と形成誘導された毛包におけるDS形成の有無を調べた(表2、移植例2)。その結果、高継代ラットDP細胞移植群では明確な発毛が観察されないのに対し(図5-A)、PDGF-AA/FGF2により培養したヒトDS細胞添加群では明らかに発毛能が回復した(図6-D)。細胞移植部位の組織学的観察(H&E)ではヒト頭髪由来下部DS細胞添加群では数多くの毛幹を形成した毛包が観察されたのに対し(図6-E)、ラット頬髭DP細胞単独移植群では毛幹を形成していない不完全な毛包が観察された(図5-B)。さらに同じ連続組織切片を抗α-SMA抗体により免疫染色したところ、ヒト頭髪由来下部DS細胞添加群では毛包の最外層にα-SMA陽性の細胞層が観察された(図6-F)。それに対して、非添加群では毛包最外層にα-SMA陽性細胞層は観察されなかった(図5-C)。
以上の結果より、本発明のPDGF-AA/FGF2により下部DS細胞を機能維持した状態で培養増殖できることが証明された。

2-3. PDGF-AA/FGF2によるDP細胞の初代および継代培養
DS細胞はDP細胞の前駆細胞を含み、DS細胞から分化増殖したDP細胞は、毛球部最下端より毛乳頭柄を経て毛乳頭に供給される。組織学的にも毛球部最下端において毛乳頭柄で連結しており、DSとDPを組織より分離する際には一繋がりとして分離される。本発明者らは、長期継代培養により発毛能が減弱した毛乳頭細胞に毛包真皮毛根鞘細胞細胞を一定量添加することで、減弱した発毛誘導能を回復させ、毛包から発生した毛の成長が顕著に促進されることを可能とし、既に特許出願している(特許文献1)。従って、細胞分化的観点および構造的に近いDS細胞とDP細胞が同一条件で培養可能であれば、その方法は非常に高い利用価値を有するといえる。
そこで、ラット頬髭由来DP細胞の培養にPDGF-AA/FGF2培地が利用できることを検証した。その結果、PDGF-AA/FGF2培地はDMEM10よりも有意に高い増殖活性を示した(図5, * p<0.001 vs. DMEM10)。先行して特許出願されているDP細胞増殖培地(CM5)(非特許文献1、特許文献2)と同等の増殖活性を示した。
次に、より利用価値の高いヒト頭髪由来DP細胞におけるPDGF-AA/FGF2の効果を検証した。その結果、初代培養においてCM5とPDGF-AA/FGF2における増殖細胞数は同等であることが示された。また、PDGF-AA単独ではDMEM10と同等であり、PDGF-AA/FGF2の組成がCM5と同様に有効であることが示された(図8-A)。
次に、PDGF-AA/FGF2、CM5、およびDMEM10の各培地条件により初代培養したラットDP細胞を、同培地条件で継代培養(7 days/passage)し、培地条件ごとに各継代における平均細胞倍加時間(PDT)を比較した(図8-B)。その結果、PDGF-AA/FGF2は、第2継代までは他の条件より早い増殖速度であったが、継代3代以降は PDT値が増大しCM5より遅くなった(図8-B)。しかし、安定的な増殖速度と細胞形態を維持できた第3継代までに得られるDP細胞の最大細胞数を比較するとPDGF-AA/FGF2はCM5より1.4倍(DMEM10比で約70倍)であった(表4)。ヒトおよびラットDP細胞に対しても、PDGF-AA/FGF2含有培地はCM5と同等の高い増殖活性が認められることから、PDGF-AA/FGF2はDP培養にも有効であることが示された。このことから、DS細胞とDP細胞を同条件で同時に培養することが可能であることが示された。なお。表4において継代1代以降の継代培養は、6.6x104 cells/φ6 cm dish となるように播種した。4日目に培地の全量交換を行い、7日目に継代を行った。各継代時に回収した細胞数から、1-2の方法を用いて継代3代までDMEM10を1とし比較すると、継代3代までに得られる細胞総数はCM5より1.4倍多く、70倍であった。これらの結果はヒトDSとは異なるものであったが、ヒトDS/DP細胞の両方に対してPDGF-AA/FGF2含有培地で最も高い増殖活性が認められた
2-4. 上部DS細胞のPDGF-AA/FGF2培地による初代および継代培養
一般的にDSは毛包の外側を包み、かつ抗α-SMA抗体陽性の真皮性細胞よりなる組織と定義されている。しかし、抗α-SMA抗体抗体陽性のDS細胞は毛周期の休止期において消失することから、DS細胞の前駆細胞が存在することが仮定されている。本発明者らは成長期毛包のバルジ領域を取り囲む抗α-SMA抗体陰性かつ抗ビメンチン抗体陽性であり、バルジ領域より下方に分布する抗α-SMA抗体陽性のDS(便宜的に下部DSと呼称)と構造的に連続している真皮性細胞よりなる構造(上部DSと呼称)に注目した(図1)。この上部DS細胞が下部DSおよびDP細胞の前駆細胞であると仮定すると、下部DS細胞の機能アッセイと同様に細胞移植を行うと上部DS細胞由来の下部DSとDPが形成されると考えられる。そこで、この仮説に基づいて、上部DSに下部DS細胞およびDP細胞の前駆細胞が含まれることを検証することとした。しかし、この検証実験には多量の上部DS細胞が必要であることから、まず下部DS細胞と同様にラット頬髭およびヒト頭髪由来上部DS細胞が培養可能であることを確認した。
2-4-1. ラット頬髭由来上部DS細胞
ラット頬髭毛包から1-1に記載の方法で上部DSを分離し、DS細胞の培養に有効であったPDGF-AA/FGF2培地で培養した。毛球部DS細胞に比べ増殖が遅く、初代培養に21日要したが、増殖細胞数はDMEM10と比較して2倍であった。さらに継代培養を行ったところ、4継代数まで40時間前後の早い増殖速度を維持していたが、それ以降はPDT値が増大した(図9)。
2-4-2. ヒト頭髪由来上部DS細胞
ヒト頭髪毛包から、1-1に記載の方法で上部DSを分離し、PDGF-AA/FGF2により初代培養および継代培養を行った。初代培養においてPDGF-AA/FGF2は、ラットの結果と同様にDMEM10に比べ2.2倍の増殖活性を示した。また、初代培養から第3継代までに得られる細胞総数を方法1-4の計算方法で算出したところ、PDGF-AA/FGF2はDMEM10の約2.2倍であった(表5)。なお、表5において継代1代以降の継代培養は、6.6x104 cells/φ6 cm dish となるように播種した。4日目に培地の全量交換を行い、7日目に継代を行った。各継代時に回収した細胞数から、1-2の方法を用いて継代1代までに得られる細胞総数を求めた。DMEM10を1とし比較すると、継代1代までに得られる細胞総数は2.2倍になった。
以上のことより、上部DS細胞も、PDGF-AA/FGF2によって、効果的に増殖できることが示された。

2-5. PDGF-AA/FGF2培地により培養した上部DS細胞の機能解析
上部DS細胞が下部DSおよびDP細胞の前駆細胞であると仮定すると、方法1-3により細胞移植すると上部DS細胞は下部DSとDP細胞に分化できるはずである。そこで、上部DSに下部DS細胞およびDP細胞の前駆細胞が含まれることを検証することとした。PDGF-AA/FGF2で培養したEGFPトランスジェニック(EGFP-Tg.)ラット頬髭由来上部DS細胞を、高継代ラットDP細胞と混合移植し(表2、移植例3)、発毛能の回復と組織学的分析を行った。その結果、高継代DP細胞(p=39)移植群では発毛が観察されないのに対し(図5-A)、ラット頬髭由来上部DS細胞(p=1)添加群では明らかに発毛の回復が認められた(図10-A)。組織学的観察においてもラット頬髭毛包上部DS細胞添加群では数多くの毛幹を形成した毛包が観察された。また、連続組織切片をDSのマーカーである抗α-SMA抗体を用いて免疫染色を行ったところ、ラット頬髭毛包上部DS細胞添加群では毛包の最外層に抗α-SMA抗体陽性の細胞層が観察された(図10-C)。それに対して、高継代DP細胞のみでは、毛包最外層に抗α-SMA抗体陽性細胞は認められなかった(図5-B)。また、移植したDS細胞はEGFP-Tg.ラット由来であることから、抗α-SMA抗体陽性毛包の連続切片をGFP蛍光幹津および抗EGFP抗体免疫染色し、移植上部DS細胞由来であることを検証した。その結果、上部DS細胞添加により発毛能を回復した毛包の下部DSはEGFPを発現していることが明らかとなった(図10-D)。さらに同一実験群のDPの一部にEGFP発現細胞が観察された(図10-E, F, G)。
上述した実験に用いた上部DS細胞の由来組織は、in vivoにおいて抗α-SMA抗体陰性の組織である。これまで、特定部位を除去した毛包の移植実験や(非特許文献12、13)、DMEM10のみで培養した上部DS細胞の移植実験(非特許文献7)結果より、上部DS細胞は下部DS細胞とは異なり、DP細胞に分化しないことが報告されてきた。そのために、これまでは上部DSは、下部DSおよびDP細胞の前駆細胞を含まないではないと考えられてきた。しかし、今回初めて本発明により培養したラット頬髭上部DS細胞が、下部DSおよびDPに分化し発毛能回復機能を有することを確認した。この結果より、上部DS細胞は下部DSおよびDP細胞に分化能を持つ前駆細胞であることが示された。
以上のように、本発明は下部DS細胞を機能維持した状態で増殖させるのみならず、上部DSに含まれる前駆細胞より下部DS細胞と同等の機能を持つ細胞を培養増殖させることを可能とした。また、本発明による培養方法は、分化マーカーを発現しない低分化なDS前駆細胞の分化傾向制御し、増殖させる方法ということもできる。

Claims (8)

  1. 毛包真皮毛根鞘細胞を、機能を維持した状態で増殖させる培養方法であって、血小板由来増殖因子AA(PDGF-AA)および線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を添加した動物細胞用培地で毛包真皮毛根鞘細胞を培養することを特徴とする培養方法。
  2. 毛包真皮毛根鞘細胞が毛包下部真皮毛根鞘由来の細胞である請求項1の培養方法。
  3. 動物細胞用培地が、1%〜30%血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM10)である請求項1の培養方法。
  4. 毛包真皮毛根鞘細胞を、他の毛包形成細胞とともに培養する請求項1の培養方法。
  5. 毛包真皮毛根鞘前駆細胞を、真皮毛根鞘細胞へと分化、増殖させる方法であって、血小板由来増殖因子AA(PDGF-AA)および線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を添加した動物細胞用培地で毛包真皮毛根鞘前駆細胞を培養することを特徴とする培養方法。
  6. 毛包真皮毛根鞘前駆細胞が毛包下部真皮毛根鞘由来の細胞である請求項5の培養方法。
  7. 動物細胞用培地が、1%〜30%血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM10)である請求項5の培養方法。
  8. 血小板由来増殖因子AA(PDGF-AA)および線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を添加した動物細胞用培地で培養することによって真皮毛根鞘細胞へと分化することができる毛包真皮毛根鞘前駆細胞。

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